患者固有の肺モデルおよびコンピューター手法を用いて処置を決定する方法
本発明は、対象の機械的換気、すなわちMV用の最適なパラメーターを決定する方法であって、(a)対象の呼吸器系の3次元画像に関するデータを得るステップと、(b)対象の肺構造の固有の3次元構造モデルをステップ(a)で得た画像データから計算するステップと、(c)対象の気道構造の固有の3次元構造モデルをステップ(a)で得た画像データから計算するステップと、(d)対象の肺葉構造の患者固有の3次元構造モデルをステップ(b)で得た肺構造モデルから計算するステップと、(e)指定のMVパラメーターでステップ(c)および(d)で得た対象の気道および肺葉構造のモデルを用いて、気道を流れる気流をコンピューターでモデル化するステップと、(f)指定のMVパラメーターでステップ(b)および(c)で得た対象の気道および肺葉構造のモデルを用いて、気道の構造挙動および気流との相互作用をコンピューターでモデル化するステップと、(g)気道抵抗の減少をもたらして、ステップ(d)のモデルによる同じ駆動圧での肺葉の質量流量を増加させるMVパラメーターを決定し、これにより最適なMVパラメーターを得るステップと、を含む、方法に関する。本発明はまた、呼吸器状態の処置効果を評価する方法にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的換気装置(MV)、および呼吸型の状態に対する処置の効果の決定の分野に関する。特に、本発明は、MVを運転するための最適なパラメーターの決定の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的人工換気は、対象の自然の呼吸を機械的に補助するか、または置き換える方法である。
【0003】
対象/患者の機械的気道換気(MV)は、主に侵襲性換気(IV)および非侵襲性換気(NIV)の2つに細分することができる。侵襲性換気は、肺胞換気およびガス交換を回復させるために気管内チューブまたは気管切開術を用いる。NIVは、侵襲性の挿管法または気管切開術を用いずに、マスクによる呼吸補助を患者に提供するために使用される(非特許文献1)。換気には、限定されるものではないが、持続的気道陽圧法(CPAP)、非侵襲性陽圧換気(NIPPV)、二相性陽圧換気(BiPAP)、肺内パーカッション換気(IPV)、および機械的排痰補助装置(Mechanical Insufflator−Exsufflator)などの様々な医療用換気補助技術を必要とする。
【0004】
IPVおよび機械的排痰補助装置の技術は、過剰な粘液の除去によって患者の呼吸を改善するために理学療法で主に使用される。
【0005】
IVは、通常は、典型的には集中治療室において自力で呼吸できない患者に適用される。人工呼吸器は、しばしば患者の努力を必要とせずに呼吸流量を供給する。圧力と容量が制御される方式を用いることができ、患者は、ある設定では、換気装置を作動させることができる。他方、NIVは、同じ補助(同様に、バックアップ容量が用いられるか、または用いられずに完全に容量が制御されるか、または加圧制御される)を提供することができるが、大抵は患者が換気装置を作動させる。NIVは、拘束性神経筋疾患、例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋緊張性ジストロフィー(スタイナート病)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、酸性マルターゼ欠損症、およびエメリードライフェスミオパシーなどの患者にしばしば使用される。
【0006】
近年、NIVは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者でますます使用されるようになってきた。近年の研究は、COPDにおけるNIVが有益な効果を有し得るが、データは必ずしも決定的ではないことを示している(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。全体の印象として、一部の患者集団は、NIVから大きな恩恵を受け得るが、他の患者では効果がそれほど顕著ではない。
【0007】
機械的換気では、例えば、圧力、ガスの容量、呼吸速度、立ち上がり時間、吸気呼気時間比、トリガモード、感度などを含む患者の要求にしたがっていくつかのパラメーターを調節しなければならない。正しいパラメーターが、肺胞換気の回復、無気肺の予防、およびガス交換の最適化のために必要である。さらに、MVには、気胸、気道傷害、肺胞損傷、および換気装置に関連した肺炎を含め、多数の合併症の恐れがある。このため、MVの設定は、慎重に決定しなければならない。典型的には、換気装置の設定の調節は、指針として血液ガス分析に反映されるガス交換、酸素飽和度、およびCO2の監視を用いて、今なお経験的に行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kinnear WJM著、「Non−Invasive Ventilation Made Simple」、Nottingham University Press、2007
【非特許文献2】Dreher M、Kenn K、およびWindisch W著、「Non−invasive ventilation and physical exercise in patients with COPD」、Pneumologie、62:162−168、2008
【非特許文献3】McEvoy RD、Pierce RJ、Hillman D、Esterman A、Ellis EE、Catcheside PG、O’Donoghue FJ、Barnes DJ、およびGrunstein RR著、「Nocturnal Non−Invasive Nasal Ventilation in Stable Hypercapnic COPD:A Randomised Controlled Trial」、Thorax、2009
【非特許文献4】Windisch W、Haenel M、Storre JH、およびDreher M著、「High−intensity non−invasive positive pressure ventilation for stable hypercapnic COPD」、Int J Med Sci、6:72−76、2009
【非特許文献5】De Backer JW、Vos WG、Gorle CD、Germonpre P、Partoens B、Wuyts FL、Parizel PM、De Backer W著、「Flow analyses in the lower airways:patient−specific model and boundary conditions」、Med Eng Phys、2008 Sep;30(7):872−9
【非特許文献6】De Backer JW、Vanderveken OM、Vos WG、Devolder A、Verhulst SL、Verbraecken JA、Parizel PM、Braem MJ、Van de Heyning PH、およびDe Backer WA著、「Functional imaging using computational fluid dynamics to predict treatment success of mandibular advancement devices in sleep−disordered breathing」、J Biomech、40:3708−3714、2007
【非特許文献7】De Backer JW、Vos WG、Devolder A、Verhulst SL、Germonpre P、Wuyts FL、Parizel PM、およびDe BW著、「Computational fluid dynamics can detect changes in airway resistance in asthmatics after acute bronchodilation」、J Biomech、41:106−113、2008
【非特許文献8】De Backer JW、Vos WG、Verhulst SL、およびDe BW著、「Novel imaging techniques using computer methods for the evaluation of the upper airway in patients with sleep−disordered breathing:a comprehensive review」、Sleep Med Rev、12:437−447、2008
【非特許文献9】De Backer JW、Vos WG、Gorle CD、Germonpre P、Partoens B、Wuyts FL、Parizel PM、およびDe BW、「Flow analyses in the lower airways:patient−specific model and boundary conditions」、Med Eng Phys.30:872−879、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、より多くの患者集団が恩恵を受けることができるMVのパラメーター設定を最適化すること、および過度に長いか、または不十分な起動時間による処置の失敗を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態は、対象の機械的換気、すなわちMV用の最適なパラメーターを決定する方法であって、
(a)対象の呼吸器系の3次元画像に関するデータを得るステップと、
(b)対象の肺構造の固有の3次元構造モデルをステップ(a)で得た画像データから計算するステップと、
(c)対象の気道構造の固有の3次元構造モデルをステップ(a)で得た画像データから計算するステップと、
(d)対象の肺葉構造の患者固有の3次元構造モデルをステップ(b)で得た肺モデルから計算するステップと、
(e)指定のMVパラメーターでステップ(c)および(d)で得た対象の気道および肺葉構造のモデルを用いて、気道を流れる気流をコンピューターでモデル化するステップと、
(f)指定のMVパラメーターでステップ(b)および(c)で得た対象の気道および肺葉構造のモデルを用いて、気道の構造挙動および気流との相互作用をコンピューターでモデル化するステップと、
(g)気道抵抗の減少をもたらして、ステップ(d)のモデルによる同じ駆動圧での肺葉の質量流量を増加させるMVパラメーターを決定し、これにより最適なMVパラメーターを得るステップと、を含む、方法である。
【0011】
本発明の別の実施形態は、上記の方法であって、ステップ(a)の画像データが、CTスキャンまたはMRIスキャンによって予め得られている、方法である。
【0012】
本発明の別の実施形態は、上記の方法であって、ステップ(c)の構造モデルが、分割原理を用いて計算される、方法である。
【0013】
本発明の別の実施形態は、上記の方法であって、ステップ(d)のモデルが、肺葉分割を用いて計算される、方法である。
【0014】
本発明の別の実施形態は、上記の方法であって、ステップ(e)のモデル化が、ナビエ・ストークス方程式を数値的に解くことを含む計算流体力学を含む、方法である。
【0015】
本発明の別の実施形態は、上記の方法であって、ステップ(d)で決定された肺葉構造を用いて、計算流体力学の境界条件を決定する、方法である。
【0016】
本発明の別の実施形態は、上記の方法であって、
ステップ(a)のデータが、全肺容量、TLCおよび機能的残気量、FRCでの呼吸器系の3次元画像に関し、
ステップ(b)の肺構造のモデルおよびステップ(d)の肺葉構造のモデルが、TLCおよびFRCの両方で計算され、
各肺葉に向かう質量流量を決定し、続いて前記計算流体力学の境界条件を決定する、方法である。
【0017】
本発明の別の実施形態は、上記の方法であって、ステップ(f)のモデル化が、有限要素解析、すなわちFEAを含む、方法である。
【0018】
本発明の別の実施形態は、対象における呼吸器状態の処置効果を評価する方法であって、
(a)対象の呼吸器系の処置前の3次元画像および対象の呼吸器系の処置後の3次元画像に関するデータを得るステップと、
(b)対象の肺構造の固有の3次元構造モデルを、ステップ(a)で得た処置前および処置後の画像データのそれぞれから計算するステップと、
(c)対象の気道構造の固有の3次元構造モデルを、ステップ(a)で得た処置前および処置後の画像データのそれぞれから計算するステップと、
(d)対象の肺葉構造の患者固有の3次元構造モデルを、ステップ(b)で得た処置前および処置後の肺構造モデルのそれぞれから計算するステップと、
(e)ステップ(c)および(d)で得た対象の気道および肺葉構造の処置前および処置後の各モデルを用いて、処置前および処置後の気道を通る気流をコンピューターでモデル化するステップと、
(f)ステップ(c)および(d)で得た対象の気道および肺葉構造の処置前および処置後の各モデルを用いて、処置前および処置後の気道の構造挙動ならびに気流との相互作用をコンピューターでモデル化するステップと、
(g)処置前のモデル化気流および構造挙動と処置後のモデル化気流および構造挙動とを比較して、処置の効果を決定するステップと、を含む、方法である。
【0019】
本発明の別の実施形態は、上記の、呼吸器状態の処置効果を評価する方法であって、上記の最適なパラメーターを決定する方法のいずれかの制限を含む、方法である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】肺葉分割ステップにおける肺葉の分割を決定するために使用される、裂が線で示されている対象の胸部のCTスキャンであり、FIG.1Aは、横断方向の断面を示す図であり、FIG.1Bは、長手方向の断面を示す図である。
【図2】肺を各肺葉部RUL(右肺上葉)、RML(右肺中葉)、RLL(右肺下葉)、LUL(左肺上葉)、LLL(左肺下葉)(右)に細分できる、図1の裂線の切断面(左)への変換を示す図である。
【図3】肺の十分に灌流された部分(左)および十分に灌流されていない部分(右)を示す対象の胸部のCTスキャンを示す図である。
【図4】フローチャートとして本発明の方法の実施形態を例示するフローチャートを示す図である。
【図5】患者1のNIV処置後の質量流量分布および気道抵抗の変化(斜線=基準、点々=NIV後)−コントロール患者を示す図である。
【図6】患者2のNIV処置後の質量流量分布および気道抵抗の変化(斜線=基準、点々=NIV後)−NIV患者を示す図である。
【図7】患者3のNIV処置後の質量流量分布および気道抵抗の変化(斜線=基準、点々=NIV後)−NIV患者を示す図である。
【図8】患者4のNIV処置後の質量流量分布および気道抵抗の変化(斜線=基準、点々=NIV後)−NIV患者を示す図である。
【図9】患者5のNIV処置後の質量流量分布および気道抵抗の変化(斜線=基準、点々=NIV後)−NIV患者を示す図である。
【図10】患者固有の気道モデルにおける静圧分布を示す図である。
【図11】呼気終末陽圧(PEEP)に応じた肺葉質量流量分布を示す図である。
【図12】患者1の気道の形態および抵抗に対するIPV処置の効果を示す図である。
【図13】患者2の気道の形態に対するIPV処置の効果を示す図である。
【図14】患者3の気道の形態に対するIPV処置の効果を示す図である。
【図15】本発明によって作成された肺(左)、気道(中央)、および肺葉(右)の構造モデルを示す図である。
【図16】気道の構造挙動モデルを示す図であって、グレーのモデルがモデルの元の位置を示し、変位した陰影モデルが計算応力を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、呼吸機能不全に罹患する対象の上気道を通る気流のモデル化を含む、特定の対象の機械的気道換気(MV)のパラメーターを決定する方法に関する。
【0022】
本発明は、特定の対象の機械的気道換気(MV)のパラメーターの設定を最適化する方法であって、
(a)対象の呼吸器系の3次元画像に関するデータを得るステップと、
(b)対象の肺構造の固有の3次元構造モデルをステップ(a)で得た画像データから計算するステップと、
(c)対象の気道構造の固有の3次元構造モデルをステップ(a)で得た画像データから計算するステップと、
(d)対象の肺葉構造の患者固有の3次元構造モデルをステップ(b)で得た肺構造モデルから計算するステップと、
(e)指定のMVパラメーターでステップ(c)および(d)で得た対象の気道および肺葉構造のモデルを用いて、気道を流れる気流をコンピューターでモデル化するステップと、
(f)指定のMVパラメーターでステップ(c)および(d)で得た対象の気道および肺葉構造のモデルを用いて、気道の構造挙動および気流との相互作用をコンピューターでモデル化するステップと、
(g)気道抵抗の減少をもたらして、ステップ(d)のモデルによる同じ駆動圧での肺葉の質量流量を増加させる(ステップ(e)および(f)の)MVパラメーターを決定し、これにより最適なMVパラメーターを得るステップと、を含む、方法に関する。
【0023】
対象の呼吸器系の構造モデルで開始し、計算流体力学(CFD)を適用し、本発明が、対象の気道ジオメトリーに固有の一連のパラメーターを作成し、これらのパラメーターが、肺胞換気を改善する、すなわち血中のCO2分圧を下げる効果を有する。最適化されたパラメーターは、好ましくは、肺胞を開かせて十分な圧力をもたらして、早期の呼気気道閉鎖および相応の過膨張を伴うiPEEPの蓄積を防止する。
【0024】
本発明はまた、対象の呼吸型の状態に対する処置の効果を評価する方法であって、
(a)対象の呼吸器系の処置前の3次元画像および対象の呼吸器系の処置後の3次元画像に関するデータを得るステップと、
(b)対象の肺構造の固有の3次元構造モデルを、ステップ(a)で得た処置前および処置後の画像データのそれぞれから計算するステップと、
(c)対象の気道構造の固有の3次元構造モデルを、ステップ(a)で得た処置前および処置後の画像データのそれぞれから計算するステップと、
(d)対象の肺葉構造の患者固有の3次元構造モデルを、ステップ(b)で得た処置前および処置後の肺構造モデルのそれぞれから計算するステップと、
(e)ステップ(c)および(d)で得た対象の気道および肺葉構造の処置前および処置後の各モデルを用いて、処置前および処置後の気道を通る気流をコンピューターでモデル化するステップと、
(f)ステップ(c)および(d)で得た対象の気道および肺葉構造の処置前および処置後の各モデルを用いて、処置前および処置後の気道の構造挙動ならびに気流との相互作用をコンピューターでモデル化するステップと、
(g)処置前のモデル化気流(ステップe)および構造挙動(ステップf)と処置後のモデル化気流(ステップe)および構造挙動(ステップf)とを比較して、処置の効果を決定するステップと、を含む、方法に関する。
【0025】
呼吸器状態の処置は、薬剤(例えば、サルブタモール)の投与または当技術分野のMVもしくは本明細書に記載されたMVとすることができる。好ましくは、効果的な処置は、気道抵抗を減少させて、同じ駆動圧での肺葉の質量流量を増加させる処置である。
【0026】
特定の対象のMVのパラメーター設定を最適化する本発明の方法の一実施形態を、図4にフローチャートとして示す。この実施形態によると、対象の胸部のCTスキャンを撮り2、スキャンデータ12を得る。このスキャンデータ12から、患者固有の肺モデルを作成し4、気道のジオメトリーに関するデータ14を得る。スキャンデータ12を用いて境界固有条件を計算し6、対象の肺葉構造に関するデータ16を得る。気道のジオメトリーに関するデータ14、境界条件、および初めのMVパラメーター(例えば、圧力設定)を用いてCFD分析を行う8。設定は、最適な質量流量分布18が得られるまで反復調整する。最適な設定10をMVに利用する。
【0027】
本発明は、呼吸型の状態の処置または処置の監視に適している。これらの状態は、ガス交換の低下をもたらすあらゆる状態であり、炭酸過剰性慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、および嚢胞性線維症(CF)を含み、かつ他の拘束性障害、例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋緊張性ジストロフィー(スタイナート病)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、酸性マルターゼ欠損症、およびエメリードライフェスミオパシーなどを含み得る神経筋障害の結果として明らかになる疾患を含む。
【0028】
本発明は、MVに対する対象固有の最適なパラメーターを提供する。パラメーターの例として、吸気圧および呼気圧、送達される1回の換気量、呼吸速度、吸気呼気時間比、ガス組成が挙げられる。
【0029】
IVおよびNIVに対して適合しなくても、同じMVを利用できることが当技術分野でよく理解されている。IVモードで使用されるMVの場合は、気管内チューブまたは気管切開によって対象に換気を供給し、NIVモードで使用されるMVの場合は、マスクによって対象に換気を供給する。本発明に使用するのに適したMV装置は、当技術分野のあらゆるMV装置であり、例えば、Drager、Siemens、Respironics、Resmed、Tyco、およびWeinmannによって製造されるMV装置が挙げられる。
【0030】
対象の呼吸器系の3次元画像に関するデータをステップ(a)で得る。この画像は、当技術分野の任意の方法を用いて予め取得していてもよい。このような方法としては、いくつか例をあげると、磁気共鳴影像法、ポジトロン放出断層撮影法、およびコンピューター断層撮影法(CT)が挙げられる。「呼吸器系」は、胸部内気道、胸部外気道、および肺を指す。好ましくは、画像は、全肺容量(TLC)、すなわち深呼吸の後に得られる肺レベルにおける肺容量と、機能的残気量(FRC)、すなわち通常の呼気の後の肺レベルにおける肺容量の2つの肺容量で得る。
【0031】
画像データから、対象の肺の3次元構造モデルを作成する(ステップb)。構造モデルは、特に組織構造を示す内部構造モデルを指す。好ましくは、肺構造モデルは、2つの肺容量(TLCおよびFRC)のそれぞれで作成する。本発明が、処置の効果の決定に適用される場合は、肺の画像データおよび構造モデルは、処置の開始前および開始後に得る(例えば、処置の直前の1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月の間隔で、または1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月ごとに)。
【0032】
ステップ(a)で3次元画像から得たデータを用いて、対象の気道構造の固有の3次元モデルを構築する(ステップc)。気道構造は、胸部内気道および胸部外気道を含む。気道構造は、好ましくは、分割原理を用いて構築する。分割処置手順中に、目的の同じ解剖学的構造のボクセル(体積要素)を別個のマスクに配置する。このマスクを用いて、3次元の気道を再構築する。分割原理は、当分野で周知であり、例えば、非特許文献5に記載されている。必要に応じて、別個の気道モデルを、全肺容量(TLC)および機能的残気量(FRC)で構築する。本発明が、処置の効果の決定に適用される場合は、別個の気道モデルを、処置の開始前および開始後で得た肺モデルから構築する。気道モデルは、TLCで作成するのが好ましいが、必要なときにはいつでも、例えば、より正確であるように見えるときにはFRCで作成した気道モデルも使用することができる。
【0033】
3次元肺モデルから得たデータを用いて、対象の肺葉容量の固有の3次元モデルを構築する、すなわち肺葉容量を前記肺モデルに基づいて分割する(ステップd)。正常なヒトは、5つの肺葉を有し、3つが右側(RUL、RML、RLL)にあり、2つが左側(LUL、LLL)にある。初めに、完全な右肺と左肺を分割してから、裂線を特定する。これらの線は、いくつかの肺葉間の分割を示し、胸部モデル(図1のCTスキャンを参照)から区別することができる。次いで、これらの線を、肺を各肺葉容量に細分できる切断面に変換する(図2)。肺葉分割は、手動または自動で行うことができる。
【0034】
好ましくは、別個の肺葉容量モデルを、全肺容量(TLC)および機能的残気量(FRC)で構築する。FRCおよびTLCレベルで肺葉の分割を行うことにより、各肺葉に向かう患者固有の質量流量を評価することが可能である。このデータは、後の流動シミュレーション、すなわち計算流体力学(CFD)における境界条件として使用することができる。
【0035】
本発明が、処置の効果の決定に適用される場合は、別個の肺葉容量モデルを、処置の開始前および開始後で得た肺モデルから構築する。このデータは、処置の開始前および開始後の気道における後の流動シミュレーション(CFD)における境界条件として使用することができる。
【0036】
気道の患者固有の3次元モデルを使用して、計算流体力学(CFD)を用いて呼吸器の気流を決定し(ステップe)、有限要素解析(FEA)を用いて呼吸器系の構造挙動を決定する(ステップf)。CFDは、数学的流動方程式(ナビエ・ストークス方程式)を数値的に解くことによって固有の3次元気道構造モデルにおける流動挙動をシミュレーションする(非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)。また、後の呼吸器系の構造挙動、気流との相互作用、およびリモデリングも、CFDとFEA技術の組み合わせを用いて決定する。モデルの構造挙動を、医用生体工学ハンドブック(The Biomedical Engineering Handbook by Joseph Bronzino、IEEE press)で説明されているように、応力、ひずみ、変位などの構造式を解くことによって決定する。この分析により、壁部にかかる圧力による気道ジオメトリーにおける変化の評価が可能となる。計算応力および変位の例を図16に見ることができ、グレーのモデルが、モデルの元の位置を表し、応力が、変位したモデルに示されている。
【0037】
CFDの実行中に、3次元気道構造モデルを複数の別個の要素に細分する。これらの要素の収集は、計算メッシュまたは計算格子と呼ばれる。格子の交点のそれぞれで、流動方程式が解かれる。好ましくは、TLCで構築された気道モデルが使用されるが、必要なときにはいつでも、例えば、より正確であるように見えるときにはFRCモデルも使用することができる。
【0038】
肺などの大きい系では、流動方程式の解は、十分な境界条件を決定して連立方程式を解くことによって得られ、この境界条件は、上記されたように対象の肺葉容量の固有の3次元モデルを用いて決定される。境界条件は、FRCからTLCへの肺葉の膨張を評価することによってCT画像から得られる。これは、特定の患者の各肺葉に行く吸入空気の一部を示している。このモデルをできる限り正確にするために、この患者固有の情報を、流動シミュレーションに反映させることができる。実際に、これは、モデルの質量流量がCT画像によって得られる質量流量と同じになる程度まで細気管支出口の圧力を調節することによって達成することができる。
【0039】
基準の呼吸事例、すなわち呼吸器補助を用いずに普通に呼吸する状態を確立するために、境界条件は、口または気管での質量流量および気管支での圧力の定義からなる。圧力を、CTベースの肺葉の膨張に一致する各肺葉に向かう質量流量に達するように繰り返して決定する(非特許文献9)。
【0040】
基準の事例が確立されたら、口または気管の圧力を、対象の気道の3次元構造モデルに適用されるCFDを用いて非侵襲換気圧力のレベルまで上昇させる。内部質量流量が相応に変化し、気道壁の局所圧力を、MV設定に応じたCFDによって決定することができる。次いで、気道の構造応答、リモデリング、および気流との相互作用を、FEAを用いて決定する。
【0041】
COPD患者におけるMVの目的は主に、ガス圧、容量、および他のパラメーターの安全レベルにおける血中のCO2分圧レベルを低下させることにある。これは、肺胞換気が増加し、かつCO2およびO2のガス交換が改善されるようにより良い灌流された部分に向かう換気を増加させることによって行われる(図3)。したがって、MVパラメーターは、圧力が、十分に灌流された部分に向かう気道を「開け」て、これらの部分に向かう質量流量が増加するように設定すべきである。
【0042】
適切なパラメーターは、様々なMVパラメーターでモデルを漸増させて、気流(CFD)および構造挙動(FEA)モデルを用いて適切な効果を観察することによって決定することができる。シミュレーションにおける各MVパラメーターの調節および効果の観察の繰り返しは、MVパラメーターの最適なセットが見つかるまで続ける。言い換えれば、ステップ(e)および(f)を、気道抵抗が減少し、これによりステップ(d)のモデルによる同じ駆動圧での肺葉の質量流量が増加するまで様々なMVパラメーターで繰り返す。患者固有の構造モデルがプロセスの開始時に得られるため、患者の関与が少なくて済み、患者は、処置の始めから最適かつ安全な換気により、すぐに恩恵を受けることができる。
【0043】
肺葉の質量流量分布は、MVパラメーターを評価するために主に用いられるが、FEAを用いた構造シミュレーションを含めることにより、気道構造における変化をシミュレーションして、パラメーターの最適化をさらに改善することも可能である。対象の呼吸器系が、MV処置の最中にリモデリングできることを理解されたい。したがって、処置が始まってから本発明の方法を周期的に繰り返してMV設定をさらに最適にすることができる。
【0044】
本発明が、処置の効果の決定に適用される場合は、処置の開始前および開始後で得たモデルに基づいて別個の流動シミュレーションを行う。このシミュレーションを比較して、状態の進行および処置の効果を決定する。一般に、効果的な処置は、気道抵抗を減少させて、同じ駆動圧での肺葉の質量流量を増加させる処置である。
【0045】
本発明を用いると、最小数の侵襲性ステップで患者を処置することができる。MVを必要とする対象に、処置前にCTスキャンまたはMRIスキャンを行う。続いて、スキャンデータをMV装置に転送し、このMV装置が、CT/MRI画像を読み込み、気道系、肺、および肺葉の患者固有の3次元モデルを作成する。次いで、装置が、様々な圧力設定で流動および/または構造シミュレーションを行う。質量流量分布を監視し、患者に対する最適なパラメーターを選択する。
【0046】
あるいは、本発明を用いて、呼吸型の状態が処置される対象に、処置前にCTスキャンまたはMRIスキャンを行い、かつ処置の開始後で(例えば、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月の間隔で)CTスキャンまたはMRIスキャンを行う。続いて、スキャンデータをMV装置に転送し、このMV装置が、CT/MRI画像を読み込み、気道系、肺、および肺葉の患者固有の3次元モデルを作成する。次いで、装置が、様々な圧力設定で流動および/または構造シミュレーションを行う。質量流量分布を処置の開始前および開始後で決定し、処置の効果を、質量流量分布における観察された変化に基づいて決定する。
【0047】
本発明の一実施形態は、本発明の方法を実施するように構成されたコンピューター可読媒体に保存されたコンピュータープログラムである。
【0048】
本発明の別の実施形態は、本発明の方法を用いて得られる流動モデルである。
【0049】
本発明の別の実施形態は、本発明によって得られる流動モデルを、最適化されたMVパラメーターまたは処置の効果の決定に使用することである。
【実施例】
【0050】
臨床研究:COPD患者における非侵襲性換気
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者におけるMVの効果を実証するために、臨床研究を設計した。この研究には、症状が悪化した20人の患者が含まれていた。コントロール群では、10人の患者を、吸入剤のみで処置した。実験群では、他の10人の患者に、吸入剤に加えて、二相性陽圧換気(BiPAP)−NIV処置の夜間セッションを行った。両方の方法の効果を評価するために6ヵ月後に患者を診断し、全てのMV活動が停止した12ヵ月後に再び患者を診断した。この研究は、最適な換気パラメーターを決定する方法を開発する基本確証としての役割を果たす。
【0051】
予備結果:COPD患者における非侵襲性換気
図5〜図9は、患者1(コントロール)および患者2〜5(NIV処置)の初期の結果を示している。これらのデータは、積極的に処置した患者とコントロール患者の両方に対して、抵抗および流動分布の変化を6ヶ月間に亘って観察できることを示している。しかしながら、コントロール患者における変化の方が均一である。これは、NIV法により、追加の圧力による異なるリモデリングパターンが生じることを示している。図10は、患者固有の気道モデルの静圧の輪郭を示し、共通の陰影部分は、同じ静圧を有する。前のセクションで説明したように、これらの静圧は、CTデータから得られるように肺葉の膨張に比例する、肺葉に向かう基準時の質量流量を生成する。細気管支の圧力が維持されて、口または気管の圧力が、MVのレベルまで増加したら、質量流量における変化を観察して分析することができる。図11は、様々な呼気終末陽圧(PEEP)に応じた肺葉の質量流量分布の変化を評価することによってこれを例示している。PEEPは、MV装置で設定できるパラメーターの1つである。この患者では、肺上葉(RUL、LUL)で主な効果が見られ、PEEPが増加するにつれて、質量流量分布が右上葉(RUL)から左肺葉(LUL)に移動することが分かる。
【0052】
臨床研究:COPD患者におけるIPV
この研究では、粘液除去に対する肺内パーカッション換気(IPV)の効果を5人のCOPD患者で調べた。COPD患者の基準CTスキャンを、全ての古典的肺機能検査(肺活量測定および体のプレチスモグラフィー)と共に最初の来診時に撮った。続いて、患者を、5分の間隔を置いて10分の処置を2回行った。IPV圧を2.5バールに設定し、IPV周波数を350サイクル/分にした。処置後、2回目のスキャンを撮った。前のセクションに記載したように、両方のスキャンを分割して流動シミュレーションを行って抵抗の変化を評価した。
【0053】
予備結果:COPD患者におけるIPV
図12〜図14は、1人の患者の気道ジオメトリーおよび抵抗に対するIPVの効果の評価についての初めの結果を示している。図12では、丸で囲った部分は、患者1における処置前の気道形態(図12のA)と処置後の気道形態(図12のB)の差異を示している。処置前および処置後の本方法に従って計算した流動抵抗における差異が表に示されている(図12のC)。図13のAは、患者2の肺の肺葉部分を正面から示し、図13のBは、気道の一部を部分破断によって示している。丸で囲った部分は、処置前のこの気道の形態(図13のC)と処置後のこの気道の形態(図13のD)の差異を示している。図14は、患者3の処置前のこの気道の形態(図14のA)と処置後のこの気道の形態(図14のB)の差異を示している。これらの画像から、CFDでの機能的イメージングが、IPV法によって誘導される変化を実際に明確にするが、古典的な結果パラメーター(FEV1、FVC、およびTiffeneau)は変わらなかったことが明らかである。加えて、ジオメトリーおよび抵抗の変化を定量して患者の状態に関連付けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
コンピューター手法を用いた機能的イメージングは、患者の状態のより詳細な図を可能にする。NIVおよびIPVを用いた初めの研究は、呼吸器系の変化をこの方法を用いて高精度に分析できることを示した。そして、この有効な手法は、MV設定が異なるより多くの状況をシミュレーションするために拡張可能である。これらの変化に対する患者固有の応答を評価して、最適なパラメーターを選択することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的換気装置(MV)、および呼吸型の状態に対する処置の効果の決定の分野に関する。特に、本発明は、MVを運転するための最適なパラメーターの決定の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的人工換気は、対象の自然の呼吸を機械的に補助するか、または置き換える方法である。
【0003】
対象/患者の機械的気道換気(MV)は、主に侵襲性換気(IV)および非侵襲性換気(NIV)の2つに細分することができる。侵襲性換気は、肺胞換気およびガス交換を回復させるために気管内チューブまたは気管切開術を用いる。NIVは、侵襲性の挿管法または気管切開術を用いずに、マスクによる呼吸補助を患者に提供するために使用される(非特許文献1)。換気には、限定されるものではないが、持続的気道陽圧法(CPAP)、非侵襲性陽圧換気(NIPPV)、二相性陽圧換気(BiPAP)、肺内パーカッション換気(IPV)、および機械的排痰補助装置(Mechanical Insufflator−Exsufflator)などの様々な医療用換気補助技術を必要とする。
【0004】
IPVおよび機械的排痰補助装置の技術は、過剰な粘液の除去によって患者の呼吸を改善するために理学療法で主に使用される。
【0005】
IVは、通常は、典型的には集中治療室において自力で呼吸できない患者に適用される。人工呼吸器は、しばしば患者の努力を必要とせずに呼吸流量を供給する。圧力と容量が制御される方式を用いることができ、患者は、ある設定では、換気装置を作動させることができる。他方、NIVは、同じ補助(同様に、バックアップ容量が用いられるか、または用いられずに完全に容量が制御されるか、または加圧制御される)を提供することができるが、大抵は患者が換気装置を作動させる。NIVは、拘束性神経筋疾患、例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋緊張性ジストロフィー(スタイナート病)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、酸性マルターゼ欠損症、およびエメリードライフェスミオパシーなどの患者にしばしば使用される。
【0006】
近年、NIVは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者でますます使用されるようになってきた。近年の研究は、COPDにおけるNIVが有益な効果を有し得るが、データは必ずしも決定的ではないことを示している(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。全体の印象として、一部の患者集団は、NIVから大きな恩恵を受け得るが、他の患者では効果がそれほど顕著ではない。
【0007】
機械的換気では、例えば、圧力、ガスの容量、呼吸速度、立ち上がり時間、吸気呼気時間比、トリガモード、感度などを含む患者の要求にしたがっていくつかのパラメーターを調節しなければならない。正しいパラメーターが、肺胞換気の回復、無気肺の予防、およびガス交換の最適化のために必要である。さらに、MVには、気胸、気道傷害、肺胞損傷、および換気装置に関連した肺炎を含め、多数の合併症の恐れがある。このため、MVの設定は、慎重に決定しなければならない。典型的には、換気装置の設定の調節は、指針として血液ガス分析に反映されるガス交換、酸素飽和度、およびCO2の監視を用いて、今なお経験的に行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kinnear WJM著、「Non−Invasive Ventilation Made Simple」、Nottingham University Press、2007
【非特許文献2】Dreher M、Kenn K、およびWindisch W著、「Non−invasive ventilation and physical exercise in patients with COPD」、Pneumologie、62:162−168、2008
【非特許文献3】McEvoy RD、Pierce RJ、Hillman D、Esterman A、Ellis EE、Catcheside PG、O’Donoghue FJ、Barnes DJ、およびGrunstein RR著、「Nocturnal Non−Invasive Nasal Ventilation in Stable Hypercapnic COPD:A Randomised Controlled Trial」、Thorax、2009
【非特許文献4】Windisch W、Haenel M、Storre JH、およびDreher M著、「High−intensity non−invasive positive pressure ventilation for stable hypercapnic COPD」、Int J Med Sci、6:72−76、2009
【非特許文献5】De Backer JW、Vos WG、Gorle CD、Germonpre P、Partoens B、Wuyts FL、Parizel PM、De Backer W著、「Flow analyses in the lower airways:patient−specific model and boundary conditions」、Med Eng Phys、2008 Sep;30(7):872−9
【非特許文献6】De Backer JW、Vanderveken OM、Vos WG、Devolder A、Verhulst SL、Verbraecken JA、Parizel PM、Braem MJ、Van de Heyning PH、およびDe Backer WA著、「Functional imaging using computational fluid dynamics to predict treatment success of mandibular advancement devices in sleep−disordered breathing」、J Biomech、40:3708−3714、2007
【非特許文献7】De Backer JW、Vos WG、Devolder A、Verhulst SL、Germonpre P、Wuyts FL、Parizel PM、およびDe BW著、「Computational fluid dynamics can detect changes in airway resistance in asthmatics after acute bronchodilation」、J Biomech、41:106−113、2008
【非特許文献8】De Backer JW、Vos WG、Verhulst SL、およびDe BW著、「Novel imaging techniques using computer methods for the evaluation of the upper airway in patients with sleep−disordered breathing:a comprehensive review」、Sleep Med Rev、12:437−447、2008
【非特許文献9】De Backer JW、Vos WG、Gorle CD、Germonpre P、Partoens B、Wuyts FL、Parizel PM、およびDe BW、「Flow analyses in the lower airways:patient−specific model and boundary conditions」、Med Eng Phys.30:872−879、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、より多くの患者集団が恩恵を受けることができるMVのパラメーター設定を最適化すること、および過度に長いか、または不十分な起動時間による処置の失敗を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態は、対象の機械的換気、すなわちMV用の最適なパラメーターを決定する方法であって、
(a)対象の呼吸器系の3次元画像に関するデータを得るステップと、
(b)対象の肺構造の固有の3次元構造モデルをステップ(a)で得た画像データから計算するステップと、
(c)対象の気道構造の固有の3次元構造モデルをステップ(a)で得た画像データから計算するステップと、
(d)対象の肺葉構造の患者固有の3次元構造モデルをステップ(b)で得た肺モデルから計算するステップと、
(e)指定のMVパラメーターでステップ(c)および(d)で得た対象の気道および肺葉構造のモデルを用いて、気道を流れる気流をコンピューターでモデル化するステップと、
(f)指定のMVパラメーターでステップ(b)および(c)で得た対象の気道および肺葉構造のモデルを用いて、気道の構造挙動および気流との相互作用をコンピューターでモデル化するステップと、
(g)気道抵抗の減少をもたらして、ステップ(d)のモデルによる同じ駆動圧での肺葉の質量流量を増加させるMVパラメーターを決定し、これにより最適なMVパラメーターを得るステップと、を含む、方法である。
【0011】
本発明の別の実施形態は、上記の方法であって、ステップ(a)の画像データが、CTスキャンまたはMRIスキャンによって予め得られている、方法である。
【0012】
本発明の別の実施形態は、上記の方法であって、ステップ(c)の構造モデルが、分割原理を用いて計算される、方法である。
【0013】
本発明の別の実施形態は、上記の方法であって、ステップ(d)のモデルが、肺葉分割を用いて計算される、方法である。
【0014】
本発明の別の実施形態は、上記の方法であって、ステップ(e)のモデル化が、ナビエ・ストークス方程式を数値的に解くことを含む計算流体力学を含む、方法である。
【0015】
本発明の別の実施形態は、上記の方法であって、ステップ(d)で決定された肺葉構造を用いて、計算流体力学の境界条件を決定する、方法である。
【0016】
本発明の別の実施形態は、上記の方法であって、
ステップ(a)のデータが、全肺容量、TLCおよび機能的残気量、FRCでの呼吸器系の3次元画像に関し、
ステップ(b)の肺構造のモデルおよびステップ(d)の肺葉構造のモデルが、TLCおよびFRCの両方で計算され、
各肺葉に向かう質量流量を決定し、続いて前記計算流体力学の境界条件を決定する、方法である。
【0017】
本発明の別の実施形態は、上記の方法であって、ステップ(f)のモデル化が、有限要素解析、すなわちFEAを含む、方法である。
【0018】
本発明の別の実施形態は、対象における呼吸器状態の処置効果を評価する方法であって、
(a)対象の呼吸器系の処置前の3次元画像および対象の呼吸器系の処置後の3次元画像に関するデータを得るステップと、
(b)対象の肺構造の固有の3次元構造モデルを、ステップ(a)で得た処置前および処置後の画像データのそれぞれから計算するステップと、
(c)対象の気道構造の固有の3次元構造モデルを、ステップ(a)で得た処置前および処置後の画像データのそれぞれから計算するステップと、
(d)対象の肺葉構造の患者固有の3次元構造モデルを、ステップ(b)で得た処置前および処置後の肺構造モデルのそれぞれから計算するステップと、
(e)ステップ(c)および(d)で得た対象の気道および肺葉構造の処置前および処置後の各モデルを用いて、処置前および処置後の気道を通る気流をコンピューターでモデル化するステップと、
(f)ステップ(c)および(d)で得た対象の気道および肺葉構造の処置前および処置後の各モデルを用いて、処置前および処置後の気道の構造挙動ならびに気流との相互作用をコンピューターでモデル化するステップと、
(g)処置前のモデル化気流および構造挙動と処置後のモデル化気流および構造挙動とを比較して、処置の効果を決定するステップと、を含む、方法である。
【0019】
本発明の別の実施形態は、上記の、呼吸器状態の処置効果を評価する方法であって、上記の最適なパラメーターを決定する方法のいずれかの制限を含む、方法である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】肺葉分割ステップにおける肺葉の分割を決定するために使用される、裂が線で示されている対象の胸部のCTスキャンであり、FIG.1Aは、横断方向の断面を示す図であり、FIG.1Bは、長手方向の断面を示す図である。
【図2】肺を各肺葉部RUL(右肺上葉)、RML(右肺中葉)、RLL(右肺下葉)、LUL(左肺上葉)、LLL(左肺下葉)(右)に細分できる、図1の裂線の切断面(左)への変換を示す図である。
【図3】肺の十分に灌流された部分(左)および十分に灌流されていない部分(右)を示す対象の胸部のCTスキャンを示す図である。
【図4】フローチャートとして本発明の方法の実施形態を例示するフローチャートを示す図である。
【図5】患者1のNIV処置後の質量流量分布および気道抵抗の変化(斜線=基準、点々=NIV後)−コントロール患者を示す図である。
【図6】患者2のNIV処置後の質量流量分布および気道抵抗の変化(斜線=基準、点々=NIV後)−NIV患者を示す図である。
【図7】患者3のNIV処置後の質量流量分布および気道抵抗の変化(斜線=基準、点々=NIV後)−NIV患者を示す図である。
【図8】患者4のNIV処置後の質量流量分布および気道抵抗の変化(斜線=基準、点々=NIV後)−NIV患者を示す図である。
【図9】患者5のNIV処置後の質量流量分布および気道抵抗の変化(斜線=基準、点々=NIV後)−NIV患者を示す図である。
【図10】患者固有の気道モデルにおける静圧分布を示す図である。
【図11】呼気終末陽圧(PEEP)に応じた肺葉質量流量分布を示す図である。
【図12】患者1の気道の形態および抵抗に対するIPV処置の効果を示す図である。
【図13】患者2の気道の形態に対するIPV処置の効果を示す図である。
【図14】患者3の気道の形態に対するIPV処置の効果を示す図である。
【図15】本発明によって作成された肺(左)、気道(中央)、および肺葉(右)の構造モデルを示す図である。
【図16】気道の構造挙動モデルを示す図であって、グレーのモデルがモデルの元の位置を示し、変位した陰影モデルが計算応力を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、呼吸機能不全に罹患する対象の上気道を通る気流のモデル化を含む、特定の対象の機械的気道換気(MV)のパラメーターを決定する方法に関する。
【0022】
本発明は、特定の対象の機械的気道換気(MV)のパラメーターの設定を最適化する方法であって、
(a)対象の呼吸器系の3次元画像に関するデータを得るステップと、
(b)対象の肺構造の固有の3次元構造モデルをステップ(a)で得た画像データから計算するステップと、
(c)対象の気道構造の固有の3次元構造モデルをステップ(a)で得た画像データから計算するステップと、
(d)対象の肺葉構造の患者固有の3次元構造モデルをステップ(b)で得た肺構造モデルから計算するステップと、
(e)指定のMVパラメーターでステップ(c)および(d)で得た対象の気道および肺葉構造のモデルを用いて、気道を流れる気流をコンピューターでモデル化するステップと、
(f)指定のMVパラメーターでステップ(c)および(d)で得た対象の気道および肺葉構造のモデルを用いて、気道の構造挙動および気流との相互作用をコンピューターでモデル化するステップと、
(g)気道抵抗の減少をもたらして、ステップ(d)のモデルによる同じ駆動圧での肺葉の質量流量を増加させる(ステップ(e)および(f)の)MVパラメーターを決定し、これにより最適なMVパラメーターを得るステップと、を含む、方法に関する。
【0023】
対象の呼吸器系の構造モデルで開始し、計算流体力学(CFD)を適用し、本発明が、対象の気道ジオメトリーに固有の一連のパラメーターを作成し、これらのパラメーターが、肺胞換気を改善する、すなわち血中のCO2分圧を下げる効果を有する。最適化されたパラメーターは、好ましくは、肺胞を開かせて十分な圧力をもたらして、早期の呼気気道閉鎖および相応の過膨張を伴うiPEEPの蓄積を防止する。
【0024】
本発明はまた、対象の呼吸型の状態に対する処置の効果を評価する方法であって、
(a)対象の呼吸器系の処置前の3次元画像および対象の呼吸器系の処置後の3次元画像に関するデータを得るステップと、
(b)対象の肺構造の固有の3次元構造モデルを、ステップ(a)で得た処置前および処置後の画像データのそれぞれから計算するステップと、
(c)対象の気道構造の固有の3次元構造モデルを、ステップ(a)で得た処置前および処置後の画像データのそれぞれから計算するステップと、
(d)対象の肺葉構造の患者固有の3次元構造モデルを、ステップ(b)で得た処置前および処置後の肺構造モデルのそれぞれから計算するステップと、
(e)ステップ(c)および(d)で得た対象の気道および肺葉構造の処置前および処置後の各モデルを用いて、処置前および処置後の気道を通る気流をコンピューターでモデル化するステップと、
(f)ステップ(c)および(d)で得た対象の気道および肺葉構造の処置前および処置後の各モデルを用いて、処置前および処置後の気道の構造挙動ならびに気流との相互作用をコンピューターでモデル化するステップと、
(g)処置前のモデル化気流(ステップe)および構造挙動(ステップf)と処置後のモデル化気流(ステップe)および構造挙動(ステップf)とを比較して、処置の効果を決定するステップと、を含む、方法に関する。
【0025】
呼吸器状態の処置は、薬剤(例えば、サルブタモール)の投与または当技術分野のMVもしくは本明細書に記載されたMVとすることができる。好ましくは、効果的な処置は、気道抵抗を減少させて、同じ駆動圧での肺葉の質量流量を増加させる処置である。
【0026】
特定の対象のMVのパラメーター設定を最適化する本発明の方法の一実施形態を、図4にフローチャートとして示す。この実施形態によると、対象の胸部のCTスキャンを撮り2、スキャンデータ12を得る。このスキャンデータ12から、患者固有の肺モデルを作成し4、気道のジオメトリーに関するデータ14を得る。スキャンデータ12を用いて境界固有条件を計算し6、対象の肺葉構造に関するデータ16を得る。気道のジオメトリーに関するデータ14、境界条件、および初めのMVパラメーター(例えば、圧力設定)を用いてCFD分析を行う8。設定は、最適な質量流量分布18が得られるまで反復調整する。最適な設定10をMVに利用する。
【0027】
本発明は、呼吸型の状態の処置または処置の監視に適している。これらの状態は、ガス交換の低下をもたらすあらゆる状態であり、炭酸過剰性慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、および嚢胞性線維症(CF)を含み、かつ他の拘束性障害、例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋緊張性ジストロフィー(スタイナート病)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、酸性マルターゼ欠損症、およびエメリードライフェスミオパシーなどを含み得る神経筋障害の結果として明らかになる疾患を含む。
【0028】
本発明は、MVに対する対象固有の最適なパラメーターを提供する。パラメーターの例として、吸気圧および呼気圧、送達される1回の換気量、呼吸速度、吸気呼気時間比、ガス組成が挙げられる。
【0029】
IVおよびNIVに対して適合しなくても、同じMVを利用できることが当技術分野でよく理解されている。IVモードで使用されるMVの場合は、気管内チューブまたは気管切開によって対象に換気を供給し、NIVモードで使用されるMVの場合は、マスクによって対象に換気を供給する。本発明に使用するのに適したMV装置は、当技術分野のあらゆるMV装置であり、例えば、Drager、Siemens、Respironics、Resmed、Tyco、およびWeinmannによって製造されるMV装置が挙げられる。
【0030】
対象の呼吸器系の3次元画像に関するデータをステップ(a)で得る。この画像は、当技術分野の任意の方法を用いて予め取得していてもよい。このような方法としては、いくつか例をあげると、磁気共鳴影像法、ポジトロン放出断層撮影法、およびコンピューター断層撮影法(CT)が挙げられる。「呼吸器系」は、胸部内気道、胸部外気道、および肺を指す。好ましくは、画像は、全肺容量(TLC)、すなわち深呼吸の後に得られる肺レベルにおける肺容量と、機能的残気量(FRC)、すなわち通常の呼気の後の肺レベルにおける肺容量の2つの肺容量で得る。
【0031】
画像データから、対象の肺の3次元構造モデルを作成する(ステップb)。構造モデルは、特に組織構造を示す内部構造モデルを指す。好ましくは、肺構造モデルは、2つの肺容量(TLCおよびFRC)のそれぞれで作成する。本発明が、処置の効果の決定に適用される場合は、肺の画像データおよび構造モデルは、処置の開始前および開始後に得る(例えば、処置の直前の1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月の間隔で、または1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月ごとに)。
【0032】
ステップ(a)で3次元画像から得たデータを用いて、対象の気道構造の固有の3次元モデルを構築する(ステップc)。気道構造は、胸部内気道および胸部外気道を含む。気道構造は、好ましくは、分割原理を用いて構築する。分割処置手順中に、目的の同じ解剖学的構造のボクセル(体積要素)を別個のマスクに配置する。このマスクを用いて、3次元の気道を再構築する。分割原理は、当分野で周知であり、例えば、非特許文献5に記載されている。必要に応じて、別個の気道モデルを、全肺容量(TLC)および機能的残気量(FRC)で構築する。本発明が、処置の効果の決定に適用される場合は、別個の気道モデルを、処置の開始前および開始後で得た肺モデルから構築する。気道モデルは、TLCで作成するのが好ましいが、必要なときにはいつでも、例えば、より正確であるように見えるときにはFRCで作成した気道モデルも使用することができる。
【0033】
3次元肺モデルから得たデータを用いて、対象の肺葉容量の固有の3次元モデルを構築する、すなわち肺葉容量を前記肺モデルに基づいて分割する(ステップd)。正常なヒトは、5つの肺葉を有し、3つが右側(RUL、RML、RLL)にあり、2つが左側(LUL、LLL)にある。初めに、完全な右肺と左肺を分割してから、裂線を特定する。これらの線は、いくつかの肺葉間の分割を示し、胸部モデル(図1のCTスキャンを参照)から区別することができる。次いで、これらの線を、肺を各肺葉容量に細分できる切断面に変換する(図2)。肺葉分割は、手動または自動で行うことができる。
【0034】
好ましくは、別個の肺葉容量モデルを、全肺容量(TLC)および機能的残気量(FRC)で構築する。FRCおよびTLCレベルで肺葉の分割を行うことにより、各肺葉に向かう患者固有の質量流量を評価することが可能である。このデータは、後の流動シミュレーション、すなわち計算流体力学(CFD)における境界条件として使用することができる。
【0035】
本発明が、処置の効果の決定に適用される場合は、別個の肺葉容量モデルを、処置の開始前および開始後で得た肺モデルから構築する。このデータは、処置の開始前および開始後の気道における後の流動シミュレーション(CFD)における境界条件として使用することができる。
【0036】
気道の患者固有の3次元モデルを使用して、計算流体力学(CFD)を用いて呼吸器の気流を決定し(ステップe)、有限要素解析(FEA)を用いて呼吸器系の構造挙動を決定する(ステップf)。CFDは、数学的流動方程式(ナビエ・ストークス方程式)を数値的に解くことによって固有の3次元気道構造モデルにおける流動挙動をシミュレーションする(非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)。また、後の呼吸器系の構造挙動、気流との相互作用、およびリモデリングも、CFDとFEA技術の組み合わせを用いて決定する。モデルの構造挙動を、医用生体工学ハンドブック(The Biomedical Engineering Handbook by Joseph Bronzino、IEEE press)で説明されているように、応力、ひずみ、変位などの構造式を解くことによって決定する。この分析により、壁部にかかる圧力による気道ジオメトリーにおける変化の評価が可能となる。計算応力および変位の例を図16に見ることができ、グレーのモデルが、モデルの元の位置を表し、応力が、変位したモデルに示されている。
【0037】
CFDの実行中に、3次元気道構造モデルを複数の別個の要素に細分する。これらの要素の収集は、計算メッシュまたは計算格子と呼ばれる。格子の交点のそれぞれで、流動方程式が解かれる。好ましくは、TLCで構築された気道モデルが使用されるが、必要なときにはいつでも、例えば、より正確であるように見えるときにはFRCモデルも使用することができる。
【0038】
肺などの大きい系では、流動方程式の解は、十分な境界条件を決定して連立方程式を解くことによって得られ、この境界条件は、上記されたように対象の肺葉容量の固有の3次元モデルを用いて決定される。境界条件は、FRCからTLCへの肺葉の膨張を評価することによってCT画像から得られる。これは、特定の患者の各肺葉に行く吸入空気の一部を示している。このモデルをできる限り正確にするために、この患者固有の情報を、流動シミュレーションに反映させることができる。実際に、これは、モデルの質量流量がCT画像によって得られる質量流量と同じになる程度まで細気管支出口の圧力を調節することによって達成することができる。
【0039】
基準の呼吸事例、すなわち呼吸器補助を用いずに普通に呼吸する状態を確立するために、境界条件は、口または気管での質量流量および気管支での圧力の定義からなる。圧力を、CTベースの肺葉の膨張に一致する各肺葉に向かう質量流量に達するように繰り返して決定する(非特許文献9)。
【0040】
基準の事例が確立されたら、口または気管の圧力を、対象の気道の3次元構造モデルに適用されるCFDを用いて非侵襲換気圧力のレベルまで上昇させる。内部質量流量が相応に変化し、気道壁の局所圧力を、MV設定に応じたCFDによって決定することができる。次いで、気道の構造応答、リモデリング、および気流との相互作用を、FEAを用いて決定する。
【0041】
COPD患者におけるMVの目的は主に、ガス圧、容量、および他のパラメーターの安全レベルにおける血中のCO2分圧レベルを低下させることにある。これは、肺胞換気が増加し、かつCO2およびO2のガス交換が改善されるようにより良い灌流された部分に向かう換気を増加させることによって行われる(図3)。したがって、MVパラメーターは、圧力が、十分に灌流された部分に向かう気道を「開け」て、これらの部分に向かう質量流量が増加するように設定すべきである。
【0042】
適切なパラメーターは、様々なMVパラメーターでモデルを漸増させて、気流(CFD)および構造挙動(FEA)モデルを用いて適切な効果を観察することによって決定することができる。シミュレーションにおける各MVパラメーターの調節および効果の観察の繰り返しは、MVパラメーターの最適なセットが見つかるまで続ける。言い換えれば、ステップ(e)および(f)を、気道抵抗が減少し、これによりステップ(d)のモデルによる同じ駆動圧での肺葉の質量流量が増加するまで様々なMVパラメーターで繰り返す。患者固有の構造モデルがプロセスの開始時に得られるため、患者の関与が少なくて済み、患者は、処置の始めから最適かつ安全な換気により、すぐに恩恵を受けることができる。
【0043】
肺葉の質量流量分布は、MVパラメーターを評価するために主に用いられるが、FEAを用いた構造シミュレーションを含めることにより、気道構造における変化をシミュレーションして、パラメーターの最適化をさらに改善することも可能である。対象の呼吸器系が、MV処置の最中にリモデリングできることを理解されたい。したがって、処置が始まってから本発明の方法を周期的に繰り返してMV設定をさらに最適にすることができる。
【0044】
本発明が、処置の効果の決定に適用される場合は、処置の開始前および開始後で得たモデルに基づいて別個の流動シミュレーションを行う。このシミュレーションを比較して、状態の進行および処置の効果を決定する。一般に、効果的な処置は、気道抵抗を減少させて、同じ駆動圧での肺葉の質量流量を増加させる処置である。
【0045】
本発明を用いると、最小数の侵襲性ステップで患者を処置することができる。MVを必要とする対象に、処置前にCTスキャンまたはMRIスキャンを行う。続いて、スキャンデータをMV装置に転送し、このMV装置が、CT/MRI画像を読み込み、気道系、肺、および肺葉の患者固有の3次元モデルを作成する。次いで、装置が、様々な圧力設定で流動および/または構造シミュレーションを行う。質量流量分布を監視し、患者に対する最適なパラメーターを選択する。
【0046】
あるいは、本発明を用いて、呼吸型の状態が処置される対象に、処置前にCTスキャンまたはMRIスキャンを行い、かつ処置の開始後で(例えば、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月の間隔で)CTスキャンまたはMRIスキャンを行う。続いて、スキャンデータをMV装置に転送し、このMV装置が、CT/MRI画像を読み込み、気道系、肺、および肺葉の患者固有の3次元モデルを作成する。次いで、装置が、様々な圧力設定で流動および/または構造シミュレーションを行う。質量流量分布を処置の開始前および開始後で決定し、処置の効果を、質量流量分布における観察された変化に基づいて決定する。
【0047】
本発明の一実施形態は、本発明の方法を実施するように構成されたコンピューター可読媒体に保存されたコンピュータープログラムである。
【0048】
本発明の別の実施形態は、本発明の方法を用いて得られる流動モデルである。
【0049】
本発明の別の実施形態は、本発明によって得られる流動モデルを、最適化されたMVパラメーターまたは処置の効果の決定に使用することである。
【実施例】
【0050】
臨床研究:COPD患者における非侵襲性換気
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者におけるMVの効果を実証するために、臨床研究を設計した。この研究には、症状が悪化した20人の患者が含まれていた。コントロール群では、10人の患者を、吸入剤のみで処置した。実験群では、他の10人の患者に、吸入剤に加えて、二相性陽圧換気(BiPAP)−NIV処置の夜間セッションを行った。両方の方法の効果を評価するために6ヵ月後に患者を診断し、全てのMV活動が停止した12ヵ月後に再び患者を診断した。この研究は、最適な換気パラメーターを決定する方法を開発する基本確証としての役割を果たす。
【0051】
予備結果:COPD患者における非侵襲性換気
図5〜図9は、患者1(コントロール)および患者2〜5(NIV処置)の初期の結果を示している。これらのデータは、積極的に処置した患者とコントロール患者の両方に対して、抵抗および流動分布の変化を6ヶ月間に亘って観察できることを示している。しかしながら、コントロール患者における変化の方が均一である。これは、NIV法により、追加の圧力による異なるリモデリングパターンが生じることを示している。図10は、患者固有の気道モデルの静圧の輪郭を示し、共通の陰影部分は、同じ静圧を有する。前のセクションで説明したように、これらの静圧は、CTデータから得られるように肺葉の膨張に比例する、肺葉に向かう基準時の質量流量を生成する。細気管支の圧力が維持されて、口または気管の圧力が、MVのレベルまで増加したら、質量流量における変化を観察して分析することができる。図11は、様々な呼気終末陽圧(PEEP)に応じた肺葉の質量流量分布の変化を評価することによってこれを例示している。PEEPは、MV装置で設定できるパラメーターの1つである。この患者では、肺上葉(RUL、LUL)で主な効果が見られ、PEEPが増加するにつれて、質量流量分布が右上葉(RUL)から左肺葉(LUL)に移動することが分かる。
【0052】
臨床研究:COPD患者におけるIPV
この研究では、粘液除去に対する肺内パーカッション換気(IPV)の効果を5人のCOPD患者で調べた。COPD患者の基準CTスキャンを、全ての古典的肺機能検査(肺活量測定および体のプレチスモグラフィー)と共に最初の来診時に撮った。続いて、患者を、5分の間隔を置いて10分の処置を2回行った。IPV圧を2.5バールに設定し、IPV周波数を350サイクル/分にした。処置後、2回目のスキャンを撮った。前のセクションに記載したように、両方のスキャンを分割して流動シミュレーションを行って抵抗の変化を評価した。
【0053】
予備結果:COPD患者におけるIPV
図12〜図14は、1人の患者の気道ジオメトリーおよび抵抗に対するIPVの効果の評価についての初めの結果を示している。図12では、丸で囲った部分は、患者1における処置前の気道形態(図12のA)と処置後の気道形態(図12のB)の差異を示している。処置前および処置後の本方法に従って計算した流動抵抗における差異が表に示されている(図12のC)。図13のAは、患者2の肺の肺葉部分を正面から示し、図13のBは、気道の一部を部分破断によって示している。丸で囲った部分は、処置前のこの気道の形態(図13のC)と処置後のこの気道の形態(図13のD)の差異を示している。図14は、患者3の処置前のこの気道の形態(図14のA)と処置後のこの気道の形態(図14のB)の差異を示している。これらの画像から、CFDでの機能的イメージングが、IPV法によって誘導される変化を実際に明確にするが、古典的な結果パラメーター(FEV1、FVC、およびTiffeneau)は変わらなかったことが明らかである。加えて、ジオメトリーおよび抵抗の変化を定量して患者の状態に関連付けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
コンピューター手法を用いた機能的イメージングは、患者の状態のより詳細な図を可能にする。NIVおよびIPVを用いた初めの研究は、呼吸器系の変化をこの方法を用いて高精度に分析できることを示した。そして、この有効な手法は、MV設定が異なるより多くの状況をシミュレーションするために拡張可能である。これらの変化に対する患者固有の応答を評価して、最適なパラメーターを選択することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の機械的換気、すなわちMV用の最適なパラメーターを決定する方法であって、
(a)前記対象の呼吸器系の3次元画像に関するデータを得るステップと、
(b)前記対象の肺構造の固有の3次元構造モデルをステップ(a)で得た前記画像データから計算するステップと、
(c)前記対象の気道構造の固有の3次元構造モデルをステップ(a)で得た前記画像データから計算するステップと、
(d)前記対象の肺葉構造の患者固有の3次元構造モデルをステップ(b)で得た前記肺モデルから計算するステップと、
(e)指定のMVパラメーターでステップ(c)および(d)で得た前記対象の気道および肺葉構造のモデルを用いて、気道を流れる気流をコンピューターでモデル化するステップと、
(f)指定のMVパラメーターでステップ(b)および(c)で得た前記対象の気道および肺葉構造のモデルを用いて、気道の構造挙動および前記気流との相互作用をコンピューターでモデル化するステップと、
(g)気道抵抗の減少をもたらして、ステップ(d)のモデルによる同じ駆動圧での肺葉の質量流量を増加させるMVパラメーターを決定し、これにより最適なMVパラメーターを得るステップと、を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(a)の前記画像データが、CTスキャンまたはMRIスキャンによって予め得られている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(c)の前記構造モデルが、分割原理を用いて計算される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(d)の前記モデルが、肺葉分割を用いて計算される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(e)の前記モデル化が、ナビエ・ストークス方程式を数値的に解くことを含む計算流体力学を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(d)で決定された前記肺葉構造を用いて、計算流体力学の境界条件を決定する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(a)の前記データが、全肺容量、TLCおよび機能的残気量、すなわちFRCでの呼吸器系の3次元画像に関し、
ステップ(b)の前記肺構造のモデルおよびステップ(d)の前記肺葉構造のモデルが、TLCおよびFRCの両方で計算され、
各肺葉に向かう質量流量を決定し、続いて前記計算流体力学の境界条件を決定する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(f)の前記モデル化が、有限要素解析、すなわちFEAを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
対象における呼吸器状態の処置効果を評価する方法であって、
(a)前記対象の呼吸器系の処置前の3次元画像および前記対象の呼吸器系の処置後の3次元画像に関するデータを得るステップと、
(b)前記対象の肺構造の固有の3次元構造モデルを、ステップ(a)で得た前記処置前および前記処置後の画像データのそれぞれから計算するステップと、
(c)前記対象の気道構造の固有の3次元構造モデルを、ステップ(a)で得た前記処置前および前記処置後の画像データのそれぞれから計算するステップと、
(d)前記対象の肺葉構造の患者固有の3次元構造モデルを、ステップ(b)で得た前記処置前および前記処置後の肺構造モデルのそれぞれから計算するステップと、
(e)ステップ(c)および(d)で得た前記対象の気道および肺葉構造の前記処置前および前記処置後の各モデルを用いて、処置前および処置後の気道を通る気流をコンピューターでモデル化するステップと、
(f)ステップ(c)および(d)で得た前記対象の気道および肺葉構造の前記処置前および前記処置後の各モデルを用いて、処置前および処置後の気道の構造挙動ならびに気流との相互作用をコンピューターでモデル化するステップと、
(g)前記処置前のモデル化気流および構造挙動と前記処置後のモデル化気流および構造挙動とを比較して、処置の効果を決定するステップと、を含む、方法。
【請求項10】
請求項2〜8のいずれか1項に記載の制限を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項1】
対象の機械的換気、すなわちMV用の最適なパラメーターを決定する方法であって、
(a)前記対象の呼吸器系の3次元画像に関するデータを得るステップと、
(b)前記対象の肺構造の固有の3次元構造モデルをステップ(a)で得た前記画像データから計算するステップと、
(c)前記対象の気道構造の固有の3次元構造モデルをステップ(a)で得た前記画像データから計算するステップと、
(d)前記対象の肺葉構造の患者固有の3次元構造モデルをステップ(b)で得た前記肺モデルから計算するステップと、
(e)指定のMVパラメーターでステップ(c)および(d)で得た前記対象の気道および肺葉構造のモデルを用いて、気道を流れる気流をコンピューターでモデル化するステップと、
(f)指定のMVパラメーターでステップ(b)および(c)で得た前記対象の気道および肺葉構造のモデルを用いて、気道の構造挙動および前記気流との相互作用をコンピューターでモデル化するステップと、
(g)気道抵抗の減少をもたらして、ステップ(d)のモデルによる同じ駆動圧での肺葉の質量流量を増加させるMVパラメーターを決定し、これにより最適なMVパラメーターを得るステップと、を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(a)の前記画像データが、CTスキャンまたはMRIスキャンによって予め得られている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(c)の前記構造モデルが、分割原理を用いて計算される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(d)の前記モデルが、肺葉分割を用いて計算される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(e)の前記モデル化が、ナビエ・ストークス方程式を数値的に解くことを含む計算流体力学を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(d)で決定された前記肺葉構造を用いて、計算流体力学の境界条件を決定する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(a)の前記データが、全肺容量、TLCおよび機能的残気量、すなわちFRCでの呼吸器系の3次元画像に関し、
ステップ(b)の前記肺構造のモデルおよびステップ(d)の前記肺葉構造のモデルが、TLCおよびFRCの両方で計算され、
各肺葉に向かう質量流量を決定し、続いて前記計算流体力学の境界条件を決定する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(f)の前記モデル化が、有限要素解析、すなわちFEAを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
対象における呼吸器状態の処置効果を評価する方法であって、
(a)前記対象の呼吸器系の処置前の3次元画像および前記対象の呼吸器系の処置後の3次元画像に関するデータを得るステップと、
(b)前記対象の肺構造の固有の3次元構造モデルを、ステップ(a)で得た前記処置前および前記処置後の画像データのそれぞれから計算するステップと、
(c)前記対象の気道構造の固有の3次元構造モデルを、ステップ(a)で得た前記処置前および前記処置後の画像データのそれぞれから計算するステップと、
(d)前記対象の肺葉構造の患者固有の3次元構造モデルを、ステップ(b)で得た前記処置前および前記処置後の肺構造モデルのそれぞれから計算するステップと、
(e)ステップ(c)および(d)で得た前記対象の気道および肺葉構造の前記処置前および前記処置後の各モデルを用いて、処置前および処置後の気道を通る気流をコンピューターでモデル化するステップと、
(f)ステップ(c)および(d)で得た前記対象の気道および肺葉構造の前記処置前および前記処置後の各モデルを用いて、処置前および処置後の気道の構造挙動ならびに気流との相互作用をコンピューターでモデル化するステップと、
(g)前記処置前のモデル化気流および構造挙動と前記処置後のモデル化気流および構造挙動とを比較して、処置の効果を決定するステップと、を含む、方法。
【請求項10】
請求項2〜8のいずれか1項に記載の制限を含む、請求項9に記載の方法。
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2012−527921(P2012−527921A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512377(P2012−512377)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057328
【国際公開番号】WO2010/136528
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(511287868)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057328
【国際公開番号】WO2010/136528
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(511287868)
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