説明

患者搬送装置

【課題】簡単な構成により装置本体の左右側に大きなストロークで移載台を張出して患者の移載を行う。
【解決手段】上部巻掛け体5と下部の左右の下部巻掛け体8,9とからなる移載台10を移載機構により装置本体3の左右に張出し可能とし、上部巻掛け体5に巻き掛けた上部ベルト4の長さを調節する第1長さ調整部22と下部巻掛け体8,9に巻き掛けた下部ベルト6,7の長さを調節する第2長さ調整部27と、第1及び第2長さ調整部を駆動する1つの駆動装置と、第1長さ調整部に設けたブレーキ装置39,40,41とを備え、移載台10の張出し時に上部巻掛け体5上面の上部ベルト4が移載台10に対して後退する状態と、移載台10の引込み時に上部巻掛け体5上面の上部ベルト4が移載台10に対して前進する状態と、移載台10の張出し・引込み時に上部巻掛け体5上面の上部ベルト4が移載台10に対して静止する状態とに切換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病院等において、患者をベッドもしくはストレッチャーから手術台へ、又は、手術台からベッドもしくはストレッチャーへ左右いずれの側においても容易に移し代えることができるようにした患者搬送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常では、病棟のベッドを手術準備室まで移動させ、そこでベッドから手術台に患者を乗せ代えることが行われている。しかし、病棟のベッドが容易に動かせない場合には、病棟にてベッドから患者をストレッチャーに乗せ代え、ストレッチャーにて手術準備室まで移動した後、ストレッチャーから手術台に患者を乗せ代えることを行っている。上記患者の乗せ代え作業は、通常は人力(看護師が5〜6人)で患者を持ち上げることによって行っている。又は、このような患者の乗せ代え作業を容易にするための装置として患者移載装置が用いられている。
【0003】
従来の患者移載装置としては、特許文献1に示すものがある。この患者移載装置は、患者を移送するための左右方向に向けて上下に重ねられた無端ベルトと、上下の無端ベルトが夫々巻き掛けられる左右方向に移動可能な左右の被巻き掛け体と、上下の無端ベルトの左右の被巻き掛け体間に所定間隔を置いて二つずつ配置された左右方向に移動可能なローラーと、各ローラー毎に配置され各ローラーと共に上下の無端ベルトに対し係脱する係止装置と、当該患者移載装置の右側で患者を移送する時には上下の無端ベルトの右端が当該患者移載装置とベッド等との間を往復動し、当該患者移載装置の左側で患者を移送する時は上下の無端ベルトの左端が当該患者移載装置とベッド等との間を往復動するように、被巻き掛け体を駆動する駆動装置、ローラーを駆動する駆動装置、係止装置を駆動する駆動装置とを具備する。
【0004】
又、従来の移載介助装置としては、特許文献2に示すものがある。この移載介助装置は、駆動機構によってローラを正逆回転させて駆動ベルトを回転動作させることにより下部移載板を往復移動させ、下部移載板の往復移動に伴って下部移載ベルトを転動させることにより下部移載ベルトと中部移載板との連結固定部分を下部移載板の一端側から他端側まで移動させることで中部移載板を往復移動させ、中部移載板を往復移動させることに伴って上部移載板を往復移動させることで、上部移載板を駆動ベルトの回転による下部移載板の移動距離と下部移載ベルトの転動による中部移載板の移動距離とを合わせた距離を移動させるようにし、これにより上部移載板を患者の体の下に十分に挿入できるようにしている。
【特許文献1】特許第2825516号
【特許文献2】特開2001−37815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし前記特許文献1の患者移載装置においては、上下の無端ベルトの左右の被巻き掛け体間に、所定間隔で左右方向に移動可能なローラーを二つずつ配置し、各ローラー毎に配置して各ローラーと共に上下の無端ベルトに対し係脱する係止装置を備えた構成を有するため、前記被巻き掛け体が患者移載装置から張出せる距離は、左右のローラが衝突しない範囲での距離であるために、張出し距離が短く、このためにベッド上の患者を掬い取れるように張出すためには患者移載装置の左右の幅寸法を大きく取る必要があり、よって狭いスペース間隔を迅速に移動する必要がある病院等の患者移載装置には不向きであり実際に適用することは困難である。
【0006】
又、移載板を駆動するモータと、2つの分離板を別々に駆動する2つのモータと、4個の係止装置を別個に駆動する駆動装置が必要であるために、構造が複雑であると共に制御も複雑になるという問題がある。
【0007】
又、特許文献2の移載介助装置においては、二段階張出しによって上部移載板を患者の体の下に充分に挿入することができる。しかし、この装置は移載介助装置の左右の一側のみに上部移載板を張出すようにしたものであり、病院等においてベッドまたは手術台に寝た患者を搬送する場合には、左右のいずれの側からでも患者を移載できる必要があるが、前記したように左右の一側でしか移載できない移載介助装置では、移載する方向によって方向転換をせざるを得ず、操作が面倒であると共に、狭いベッド間等においては方向転換ができない場合もある。
【0008】
又、前記特許文献2の移載介助装置において、左右両側に上部移載板が張り出せるように上部移載板の張出機構を左右対称に備えることも考えられるが、このようにした場合には、装置構成が非常に複雑になる問題がある上に、左右の張出機構は独立しているために移載介助装置の上部には張出機構の切替わり部があり、よって移載介助装置の左右中心部上に患者を移載することは困難であるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなしたもので、簡単な構成にて、装置本体の左右側に大きなストロークで移載台を張出して患者を移載できるようにした患者搬送装置を提供することを目的としてなしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上部巻掛け体と下部の左右の下部巻掛け体とからなる移載台を移載機構により装置本体の左右に張出し可能に設け、前記上部巻掛け体に巻き掛けて前記左右の下部巻き掛け体間を通して下部に導いた無端状の上部ベルトが装置本体に第1長さ調整部を形成し、且つ前記下部巻掛け体の夫々に巻き掛けて両端を装置本体に固定した下部ベルトが装置本体に第2長さ調整部を形成し、前記第1長さ調整部と第2長さ調整部を1つの調整駆動機構で駆動し、前記第1長さ調整部にブレーキ装置を備えており、移載台の張出し時に上部巻掛け体上面の上部ベルトが移載台に対して張出し速度と同じ速度で後退する状態と、移載台の引込み時に上部巻掛け体上面の上部ベルトが移載台に対して引込み速度と同じ速度で前進する状態と、移載台の張出し・引込み時に上部巻掛け体上面の上部ベルトが移載台に対して静止した状態とに切換え得るようにしたことを特徴とする患者搬送装置、に係るものである。
【0011】
上記において、前記移載機構による移載台の張出し・引込み作動と、第1及び第2長さ調整部による上下部ベルトの長さ調整作動とが、単一の駆動源にて駆動されるようにしてもよい。
【0012】
又、前記移載機構は、装置本体の左右幅端部に設けたホイールと、該ホイールに噛み合わせたチェーンとからなっていてもよい。
【0013】
又、前記移載機構は、ラックギヤとピニオンとからなっていてもよい。
【0014】
又、前記移載台が多段の移載機構に支持されて左右への張出しストロークが増大されるようになっていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の患者搬送装置によれば、装置本体上の移載台を大きなストロークで左右に張出すことができるので、患者搬送装置の左右両側での患者の移載が容易にできるようになり、しかも駆動装置とブレーキ装置の設置数を少なくして構成を簡略化できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0017】
図15は本発明の患者搬送装置の概略形状の一例を示す正面図であり、患者搬送装置1は、キャスター2を備えて走行が可能な装置本体3を有し、該装置本体3上に、上部ベルト4が巻き掛けられた上部巻掛け体5と、別々の下部ベルト6,7が巻き掛けられた左右の下部巻掛け体8,9とからなる移載台10が設けられている。移載台10は左右のいずれの側にも装置本体3の略全幅の大きなストロークで張出しが可能であり、左右いずれの側のベッド11等との間でも患者の移載が可能であり、且つ搬送ができるようになっている。このとき、前記装置本体3はキャスター2は備えていなくてもよく、又、装置本体3は昇降装置を備えて移載台10を上下に移動できるようになっていてもよい。
【0018】
図1、図2は、前記患者搬送装置1における前記移載台10と上部ベルト4及び下部ベルト6,7の構成を示したものであり、前記移載台10は、上部巻掛け体5の下部に、左右に間隔を隔てて下部巻掛け体8,9が配置されており、該下部巻掛け体8,9を前後に設けた固定部材12によって前記上部巻掛け体に一体に固定した構成を有している。
【0019】
前記上部巻掛け体5と装置本体3との間には無端状の上部ベルト4が掛け渡されており、又各下部巻掛け体8,9と装置本体3との間には、両端を装置本体3に固定した下部ベルト6,7が掛け渡されている。
【0020】
前記移載台10は、図3、図4に示す移載機構13により装置本体3の左右に対して張出し・引込が行えるようになっている。上記移載機構13は、装置本体3の左右幅端部に設けたホイール14,14に下側から噛み合わせたチェーン15の両端部を交差させて前記移載台10の左右端部の固定点16,16に固定した構成を有しており、一方のホイール14(図3では右側のホイール)には別のチェーン17を介して移載駆動モータ18が接続されており前記移載機構13の駆動が行われるようになっている。前記移載機構13の移載駆動モータ18を駆動すると、チェーン17、ホイール14及びチェーン15により、移載台10は図3に示す装置本体3の上部から図4の如く左右側方(図4では左側)に、装置本体3の左右幅と略同等の大きなストロークで張出せるようになっている。このとき、前記側方に張出す移載台10の重量はベッド(図15)で受けられるようになっており、従って、移載機構13は移載台10の重量を受ける必要はない。
【0021】
前記した如く移載機構13によって移載台10を側方に張出す際には、図1、図2に示すように上部ベルト4及び下部ベルト6,7の張出し長さが変化することになるので、この長さを調整(吸収)できる構成とする必要がある。
【0022】
ベッド(図15)上の患者を移載台10上に掬い取る際には、移載台10をベッド上に張出し、このとき、上部巻掛け体5上面の上部ベルト4は移載台10に対して張出し方向とは逆の後退方向に移動させて患者の下にもぐり込ませることにより患者を移載台10上に掬い取るようにし、更にこのとき、下部巻掛け体8,9下面の下部ベルト6,7も移載台10に対して張出し方向とは逆の後退方向に移動することにより移載台10がベッド11との間で摩擦を生じることなく患者の下にもぐり込めるようする必要がある。
【0023】
又、上記のようにして移載台10上に掬い取った患者を装置本体3上まで移動させる際には、移載台10を引込め、このとき、上部巻掛け体5上面の上部ベルト4は移載台10に対して静止した状態となって患者を移載台10上に保持したまま装置本体3上に移動できる必要があり、更にこのとき、下部巻掛け体8,9下面の下部ベルト6,7は移載台10に対して引込み方向とは逆の前進方向に移動して移載台10がベッド11との間で摩擦を生じないようにする必要がある。
【0024】
一方、装置本体3上に位置する移載台10上に載置された患者をベッド11上に移動する際には、移載台10を所定位置まで張出させ、このとき、上部巻掛け体5上面の上部ベルト4は移載台10に対して静止した状態となって患者を移載台10上に保持したままベッド11上に移動する必要があり、更にこのとき、下部巻掛け体8,9下面の下部ベルト6,7は移載台10に対して移載台10の張出し方向とは逆の後退方向に移動して移載台10がベッド11との間で摩擦を生じないようにする必要がある。続いて、移載台10上の患者をヘッド11上に送り出して移載する際には、移載台10を引込め、このとき、上部巻掛け体5上面の上部ベルト4は移載台10に対して引込み方向とは逆の前進方向に移動して患者をベッド上に送り出し、更にこのとき、下部巻掛け体8,9下面の下部ベルト6,7も移載台10に対して引込み方向とは逆の前進方向に移動して移載台10がベッド11との間で摩擦を生じないようにする必要がある。
【0025】
上記作用を行うために、図1に示す如く、前記上部巻掛け体5に巻き掛けた無端状の上部ベルト4は、前記左右の下部巻掛け体8,9の間を通して下部に導かれて、装置本体3に設けた固定プーリ19と移動プーリ20との間に掛け回すことにより一組の折返し部21a,21bを対称に備えるようにした第1長さ調整部22を形成している。このとき、前記上部巻掛け体5と下部巻掛け体8,9との間には、常時装置本体3上に位置して上部ベルト4の案内を行うようにしたベルト案内体10aが設けられている。
【0026】
又、前記左右の下部巻掛け体8,9の夫々に巻き掛けた下部ベルト6,7は、夫々の両端が装置本体3に対して固定点23で固定されており、その中間部には装置本体3に設けた固定プーリ24と移動プーリ25との間に掛け回すことにより折返し部26a,26bを対称に備えるようにした第2長さ調整部27を形成している。
【0027】
そして、前記第1長さ調整部22と第2長さ調整部27の各移動プーリ20,25の軸を連結杆28,29に枢支すると共に、該連結杆28,29を例えば図5に示すような1つの調整駆動機構31に接続している。図5の調整駆動機構31は、各連結杆28,29に固定したナット30を、調整駆動モータ31aで回転される逆ネジ32a,32bを備えたネジ軸32の逆ネジ32a,32b部に夫々螺合させている。そして、前記調整駆動モータ31aを駆動すると、連結杆28,29が互いに近接・離反し、第1長さ調整部22と第2長さ調整部27の各移動プーリ20,25が固定プーリ19,24に対して近接・離反することにより上部ベルト4と下部ベルト6,7の長さが同時に調整されるようになっている。
【0028】
このとき、図1に示すように、各折返し部21a,21b、26a,26bは、1個の固定プーリ19,24に対して2個の移動プーリ20,25に上部ベルト4と下部ベルト6,7を掛け回しているので、前記移動プーリ20,25の移動ストロークは、前記移載台10の張出しストロークをSTとしたとき、丁度その半分のストロークST/2で長さが調整できるようになっている。尚、図1では各折返し部21a,21b、26a,26bの折り返しを横方向に行っているが、縦方向に折り返すようにしてもよい。
【0029】
又、前記移載台10の張出しと、上部ベルト4及び下部ベルト6,7の長さ調整とは同期して行う必要があり、従って、図3に示した移載機構13の移載駆動モータ18と、図5の調整駆動機構31の調整駆動モータ31aを各々備えた場合には、移載駆動モータ18と調整駆動モータ31aの駆動を同期させる必要がある。
【0030】
これに対し、図3では移載機構13による移載台10の張出し動作と調整駆動機構31による上下部ベルト4,6,7の長さ調整動作とが同期されるようにした構成を示している。即ち、装置本体3の幅方向一側に備えた移載駆動モータ18で駆動されるチェーン17に中間ホイール33を噛み合わせ、この中間ホイール33に該中間ホイール33の径の1/2の径の駆動ホイール34を設けると共に、装置本体3の他側に支持ホイール35を設け、前記駆動ホイール34と支持ホイール35との間に無端の駆動チェーン36を掛け回し、駆動ホイール34と支持ホイール35との間における駆動チェーン36の一方に前記連結杆28を固定する固定具37を取り付け、前記駆動チェーン36の他方に前記連結杆29を固定する固定具38を取り付けた調整駆動機構31’を構成している。
【0031】
この構成によれば、移載駆動モータ18による単一の駆動源Pを駆動して移載台10の張出しを行うと、前記調整駆動機構31’の駆動チェーン36により連結杆28,29が相互に接近するように作動し、これによって上部ベルト4及び下部ベルト6,7の長さが増加する調整が同期して行われる。
【0032】
更に、前記第1長さ調整部22における折返し部21a,21bの中間部には、上部ベルト4の移動を固定できるようにした第1のブレーキ装置39を設けている。又、第1長さ調整部22の一方の折返し部21aの中間である固定プーリ19部には、上部ベルト4の移動を固定できるようにした第2のブレーキ装置40を設け、更に、第1長さ調整部22の他方の折返し部21bの中間である固定プーリ19部には、上部ベルト4の移動を固定できるようにした第3のブレーキ装置41を設けている。
【0033】
図6は、前記移載台10を左側に張出してベッド11(図15)上の患者を掬い取る際の作用と上部ベルト4及び下部ベルト6,7の動きを示したものであり、上記掬い取り時には、第1のブレーキ装置39を作動してこの位置で上部ベルト4を固定し、このとき他の第2及び第3のブレーキ装置40,41は開放しておく。図6中、Vは移載台10を張出す張出し速度であり、その他の数字(0)は外部に対する速度(外部に対して静止の状態)を示している。
【0034】
図3の移載駆動モータ18(駆動源P)を駆動して図6のように移載台10を速度Vで張出す際は、図3の調整駆動機構31’によって図6のように連結杆28,29はV/2の速度で互いに接近し、各折返し部21a,21b、26a,26bからは2Vの速度で上部ベルト4及び下部ベルト6,7が繰出される。これにより、移載台10がVの速度で張出されているのに対して、上部ベルト4は外部に対しては速度が0、即ち、上部巻掛け体5上面に対しては、移載台10の張出し速度Vと同じ速度Vで張出し方向とは逆の後退方向に移動(2V−V=V)するので、移載台10はベッド上の患者の下に入り込んで患者を移載台10上に掬い取るようになる。このとき、下部巻掛け体8,9下面の下部ベルト6,7も移載台10に対して張出し方向とは逆の後退方向に速度Vで移動(外部に対しては速度0)するので、ベッドとの間で摩擦を生じることはなく、よって移載台10は患者の下に容易にもぐり込める。
【0035】
図7は、装置本体3上に位置している移載台10上の患者をベッド上に移動する際の作用と上部ベルト4及び下部ベルト6,7の動きを示したものであり、移載台10を張出して患者をベッド上に移動する際には、張出し側の第2のブレーキ装置40を作動してこの位置で上部ベルト4を固定し、このとき他の第1及び第3のブレーキ装置39,41は開放しておく。
【0036】
この状態で図3の移載駆動モータ18(駆動源P)を駆動して図7のように移載台10を速度Vで張出すと、第2長さ調整部27の折返し部26a,26bからは下部ベルト6,7が2Vの速度で繰出されるのに対し、上部ベルト4は、第1長さ調整部22の張出し側(左側)の折返し部21aからはVの速度で、又、反張出し側(右側)からは3Vの速度で繰出される。この速度差によって、移載台10がVの速度で張出されているのに対して、上部巻掛け体5上面の上部ベルト4も同じ速度Vで同方向に繰出されることになるので、移載台10上の患者は上部巻掛け体5上面に対して移動することなく移載台10上に載置されたままベッド上に移動されるようになる。このとき、下部巻掛け体8,9下面の下部ベルト6,7は移載台10に対して張出し方向とは逆の後退方向に速度Vで移動(外部に対しては速度0)することにより移載台10がベッド11との間で摩擦を生じることはない。
【0037】
前記図6で説明したように患者を掬い取った移載台10を装置本体3上に移動する際には、図7と同様に張出し側の第2のブレーキ装置40を作動してこの位置で上部ベルト4を固定し、このとき他の第1及び第3のブレーキ装置39,41は開放した状態において、図3の移載駆動モータ18(駆動源P)の駆動を逆転して移載台10を引込むことにより、移載台10上の患者は上部巻掛け体5上面に対して移動することなく移載台10に保持されたまま装置本体3上に移動されるようになる。このとき、下部巻掛け体8,9下面の下部ベルト6,7は移載台10に対して引込み方向とは逆の前進方向に速度Vで移動(外部に対しては速度0)することにより移載台10がベッド11との間で摩擦を生じることはない。
【0038】
又、図7で説明したようにベッド上に張出した移載台10上の患者をベッド上に送り出して移載する際には、図6と同様に張出し側の第1のブレーキ装置39を作動してこの位置で上部ベルト4を固定し、他のブレーキ装置40,41は開放し、図3の移載駆動モータ18(駆動源P)の駆動を逆転して移載台10を引込むことにより、上部巻掛け体5上面に対して上部ベルト4は移載台10の引込み速度Vと同じ速度Vで引込み方向とは逆の前進方向に移動するので、移載台10上の患者をベッド上に送り出しながら移載台10が引込められるようになる。このとき、下部巻掛け体8,9下面の下部ベルト6,7は移載台10に対して引込み方向とは逆の前進方向に速度Vで移動(外部に対しては速度0)することにより移載台10がベッド11との間で摩擦を生じることはない。
【0039】
又、前記移載台10を装置本体3の右側に張出す際には、前記ブレーキ装置40の作動に代えてブレーキ装置41を作動させること以外は左側に張出す場合と対称の操作によって同様に作用させることができる。
【0040】
次に、上記形態の作用を説明する。
【0041】
図6に示したように、前記移載台10を装置本体3の左側に張出してベッド11(図15)上の患者を掬い取る際には、第1のブレーキ装置39を作動してこの位置で上部ベルト4を固定し、他の第2及び第3のブレーキ装置40,41は開放しておく。
【0042】
この状態で、図3の移載駆動モータ18(駆動源P)を駆動して、移載台10を図2、図4、図6のように左側に張出すと、図3の調整駆動機構31’によって連結杆28,29が相互に接近するように作動し、図1の移動プーリ20,25と固定プーリ19,24の相互間隔が狭くなることによって上部ベルト4及び下部ベルト6,7の長さが同期して増加する。
【0043】
従って、図6に示すように、移載台10がVの速度で張出されているのに対して、上部巻掛け体5上面の上部ベルト4は、移載台10の張出し方向とは逆の後退方向に同速度で移動(外部に対しては速度0)して患者の下にもぐり込み、これによって患者を移載台10上に掬い取ることができる。このとき、下部巻掛け体8,9下面の下部ベルト6,7は移載台10に対して張出し方向とは逆の後退方向に速度Vで移動(外部に対しては速度0)することにより移載台10がベッド11との間で摩擦を生じることはない。又、図6では移載台10を左側に張出して左側のベッド上の患者を掬い取る場合を説明したが、移載台10を右側に張出すことにより右側のベッド上の患者を同様に掬い取ることができる。
【0044】
一方、図7に示すように、装置本体3上に位置する移載台10上の患者をベッド上に移動する際には、張出し側の第2のブレーキ装置40を作動して上部ベルト4を固定し、このとき他の第1及び第3のブレーキ装置39,41は開放しておく。
【0045】
この状態で、図3の移載駆動モータ18(駆動源P)を駆動して、移載台10を図2、図4、図6のように左側に張出すと、図3の調整駆動機構31’によって連結杆28,29が相互に接近するように作動されて、図1の移動プーリ20,25と固定プーリ19,24の相互間隔が狭くなることによって上部ベルト4及び下部ベルト6,7の長さが同期して増加する。
【0046】
従って、図7に示すように、移載台10がVの速度で張出されているときに、上部巻掛け体5上面の上部ベルト4も速度Vで同方向に繰出されるので、移載台10上の患者は上部巻掛け体5上面に対して移動することなく同じ位置に載置されたままベッド上に移動するようになる。このとき、下部巻掛け体8,9下面の下部ベルト6,7は移載台10に対して張出し方向とは逆の後退方向に速度Vで移動(外部に対しては速度0)することにより移載台10がベッド11との間で摩擦を生じることはない。
【0047】
又、図6の操作によって移載台10上に掬い取った患者を装置本体3上に移動する際には、図7の如く、引込み側前方の第2のブレーキ装置40を作動して上部ベルト4を固定し、このとき他の第1及び第3のブレーキ装置39,41は開放しておく。
【0048】
そして、前記図3の移載駆動モータ18(駆動源P)を前記張出し時とは逆方向に駆動すると、移載台10がVの速度で引込まれるときに、上部巻掛け体5上面の上部ベルト4も速度Vで移動するので、移載台10上の患者は上部巻掛け体5上面に対して移動することなく同じ位置に載置されたまま装置本体3上に移動することになる。このとき、下部巻掛け体8,9下面の下部ベルト6,7は移載台10に対して引込み方向とは逆の前進方向に速度Vで移動(外部に対しては速度0)することにより移載台10がベッド11との間で摩擦を生じることはない。
【0049】
又、図7の操作によってベッド上に張出した移載台10上の患者をベッド上に移載する際には、図6と同様に引込み側前方の第1のブレーキ装置39を作動して上部ベルト4を固定し、このとき他の第2及び第3のブレーキ装置40,41は開放しておく。
【0050】
この状態で図3の移載駆動モータ18(駆動源P)の駆動を逆転して移載台10を引込めると、上部巻掛け体5上面に対して上部ベルト4は移載台10の引込み速度Vと同じ速度Vで引込み方向とは逆の前進方向に移動するので、移載台10上の患者をベッド上に送り出しながら移載台10は引込むようになる。
【0051】
前記移載台10を装置本体3の右側に張出してベッド上の患者を移動する際には、前記ブレーキ装置40の作動に代えてブレーキ装置41を作動させること以外は左側に張出す場合と対称の操作を行うことにより同様に作用させることができる。
【0052】
図8は、前記移載機構13の他の例を示したもので、この移載機構13は、移載台10の下部に略同一の左右幅でラックギヤ42を一体に設け、前記装置本体3の左右端部に、前記ラックギヤ42に噛合するピニオン43,44を設けた場合を有している。
【0053】
又、図9は、前記移載機構13の更に他の例を示したもので、この移載機構13は、移載台10の下部に略同一の左右幅でラックギヤ42を一体に設けると共に、前記装置本体3にもラックギヤ42と同じ幅の下部ラックギヤ45を設け、上記ラックギヤ42と下部ラックギヤ45との間に1つのピニオン46を設けた場合を示している。
【0054】
上記図8、図9の移載機構13においても、装置本体3の左右幅と略同じ大きなストロークで移載台10を左右に張出させることができる。
【0055】
図10、図11は、前記移載台10の張出しストロークを更に大きくした移載機構13’の構成を示したもので、図3のホイール14とチェーン15による方式と、図9のラックギヤ42と下部ラックギヤ45との間に1つのピニオン46を設けた方式を組み合わせた構成として移載台10を2段階に張出せるようにしている。この構成によれば、移載台10を、装置本体3の側方に対して装置本体3の幅の略2倍分張出すことができる。
【0056】
一方、このように移載台10の張出しストロークを大きくする場合には、上部ベルト4及び下部ベルト6,7の長さの調整量も大きくする必要がある。このため、図12に示すように、第1長さ調整部22の折返し部21a,21b及び第2長さ調整部27の折返し部21a,21bの折り返し回数を夫々多くして調整量を大きくしている。図12では、各折返し部21a,21b、26a,26bは、2個一組の移動プーリ20,25を夫々二組備えているので、長さの調整量は図1の場合の2倍になっており、前記移動プーリ20,25の移動ストロークは、前記移載台10の1段階での張出しストロークをSTとしたとき、ST/4のストロークで長さが調整できるようになっている。尚、前記図11の下部ラックギヤ45上には、2段階に移載台10を張出す際の上部ベルト4及び下部ベルト6,7を受けるための中間巻掛け体8’,9’が設けられている。
【0057】
上記構成によれば、図13のように第1段階の張出しストロークSTでの移載台10の張出しから、更に図14のように第2段階の張出しによってストローク2STの大きなストロークで張出すことができるので、狭い幅寸法の装置本体3によっても移載台10を大きく張出させて患者を移載することができる。
【0058】
上記患者搬送装置1によれば、装置本体3上の移載台10を大きなストロークで左右に張出して移載することができるので、患者搬送装置1の左右両側での患者の移載が容易にできるようになり、しかも駆動装置(駆動源P)とブレーキ装置39,40,41の設置数も少なくて済むので構成を大幅に簡略化することができる。
【0059】
なお、本発明の患者搬送装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、患者以外の種々の荷物等の搬送物の搬送にも適用できること、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る患者搬送装置の移載台と上部ベルト及び下部ベルトの構成を示す正面図である。
【図2】図1の移載台を張出した状態を示す正面図である。
【図3】本発明に係る患者搬送装置の移載台の移載機構を示す正面図である。
【図4】図3の移載台を張出した状態を示す正面図である。
【図5】調整駆動装置の一例を示す正面図である。
【図6】掬い取り時における上部ベルトと下部ベルトの作動を示す正面図である。
【図7】移載時における上部ベルトと下部ベルトの作動を示す正面図である。
【図8】移載機構の他の例を示す正面図である。
【図9】移載機構の更に他の例を示す正面図である。
【図10】移載台の張出しストロークを更に大きくした移載機構の構成例を示す正面図である。
【図11】図10の移載台を張出した状態を示す正面図である。
【図12】図10、図11に対応して上部ベルト及び下部ベルトの長さの調整量を大きくした例を示す正面図である。
【図13】図12の移載台を1段階張出させた状態を示す正面図である。
【図14】図12の移載台を2段階張出させた状態を示す正面図である。
【図15】本発明の患者搬送装置の概略形状の一例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 患者搬送装置
3 装置本体
4 上部ベルト
5 上部巻掛け体
6,7 下部ベルト
8,9 下部巻掛け体
10 移載台
13 移載機構
13’ 移載機構
14 ホイール
15 チェーン
18 移載駆動モータ(駆動源P)
22 第1長さ調整部
23 固定点
27 第2長さ調整部
31 調整駆動機構
31’ 調整駆動機構
31a 調整駆動モータ
39 第1のブレーキ装置
40 第2のブレーキ装置
41 第3のブレーキ装置
42 ラックギヤ
43,44 ピニオン
45 下部ラックギヤ
46 ピニオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部巻掛け体と下部の左右の下部巻掛け体とからなる移載台を移載機構により装置本体の左右に張出し可能に設け、前記上部巻掛け体に巻き掛けて前記左右の下部巻き掛け体間を通して下部に導いた無端状の上部ベルトが装置本体に第1長さ調整部を形成し、且つ前記下部巻掛け体の夫々に巻き掛けて両端を装置本体に固定した下部ベルトが装置本体に第2長さ調整部を形成し、前記第1長さ調整部と第2長さ調整部を1つの調整駆動機構で駆動し、前記第1長さ調整部にブレーキ装置を備えており、移載台の張出し時に上部巻掛け体上面の上部ベルトが移載台に対して張出し速度と同じ速度で後退する状態と、移載台の引込み時に上部巻掛け体上面の上部ベルトが移載台に対して引込み速度と同じ速度で前進する状態と、移載台の張出し・引込み時に上部巻掛け体上面の上部ベルトが移載台に対して静止した状態とに切換え得るようにしたことを特徴とする患者搬送装置。
【請求項2】
前記移載機構による移載台の張出し・引込み作動と、第1及び第2長さ調整部による上下部ベルトの長さ調整作動とが、単一の駆動源にて駆動されるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の患者搬送装置。
【請求項3】
前記移載機構が、装置本体の左右幅端部に設けたホイールと、該ホイールに噛み合わせたチェーンとからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の患者搬送装置。
【請求項4】
前記移載機構が、ラックギヤとピニオンとからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の患者搬送装置。
【請求項5】
前記移載台が多段の移載機構に支持されて左右への張出しストロークが増大されるようにしたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の患者搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−68377(P2006−68377A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257268(P2004−257268)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【出願人】(000198330)石川島芝浦機械株式会社 (74)