説明

悪臭抑制剤

【課題】微生物由来の悪臭を、簡便にかつ効率的に抑制できる悪臭抑制剤の提供。
【解決手段】 下記式(1):
R−(OA)m−O−(G1n−G2 (1)
〔式中、Rは置換基で置換されていても良い直鎖または分岐鎖の炭素数6〜18の脂肪族炭化水素基を示し、Aは直鎖または分岐鎖の炭素数2〜3のアルキレン基を示し、G1は炭素数5〜6の還元糖残基を示し、G2はガラクトース由来の残基を示し、mは0〜200の数を示し、nは0〜30の数を示す。〕
で表される化合物を有効成分とする微生物由来の悪臭抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物が発生する悪臭を抑制する悪臭抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に家庭の台所、浴室、その他下水等の排水口から発生する悪臭は、腐敗菌として知られるシュードモナス属などの菌が、排水口等に付着、増殖後、たんぱく質やアミノ酸等を、分解・代謝することにより生成する揮発性チオール類やアミン類などが原因であることが知られている(非特許文献1)。
この微生物由来の悪臭の発生抑制のために、一般的な洗浄剤による物理的な微生物除去や殺菌剤による殺菌等が行なわれているが、これら微生物はぬめりの原因であるバイオフィルムを形成することで洗浄除去や薬剤、熱などのストレスに対し抵抗性を有するため、通常の洗浄や殺菌方法では悪臭抑制効果が十分に発揮できない事が多い。
アルキルグリコシドに、これらのバイオフィルムの形成抑制、除去効果があることは知られている(特許文献1)。
しかしながら、どのような成分が微生物由来の悪臭の抑制効果があるかについては、知られていない。
【特許文献1】特開2006−347941号公報
【非特許文献1】「バイオフィルム」森崎久雄著、サイエンスフォーラム社発行、1998年、119ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明は、安全性が高く居住空間などに広く使用可能な、微生物由来の悪臭抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、悪臭抑制効果が高く、かつ安全性が高く居住空間などに広く使用可能な化合物について検討したところ、下記式(1)で表されるアルキルガラクトシド類が化学構造が類似しているアルキルグリコシドに比べ顕著に優れた微生物由来の悪臭抑制効果を有することを見出し本発明を完成した。
すなわち本発明は、下記式(1):
【0005】
R−(OA)m−O−(G1n−G2 (1)
【0006】
〔式中、Rは置換基で置換されていても良い直鎖または分岐鎖の炭素数6〜18の脂肪族炭化水素基を示し、Aは直鎖または分岐鎖の炭素数2〜3のアルキレン基を示し、G1は炭素数5〜6の還元糖残基を示し、G2はガラクトース由来の残基を示し、mは0〜200の数を示し、nは0〜30の数を示す。〕
で表される化合物を有効成分とする微生物由来の悪臭抑制剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、住居内及び産業上の様々な環境において、微生物由来の悪臭を、安全、簡便、かつ効率的に抑制できる。また、本発明の悪臭抑制剤の効果は、化学構造が類似しているアルキルグリコシドに比べて顕著に優れていることから、単なるバイオフィルム抑制効果に基くものではないと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いられる式(1)で表される化合物において、Rで示される直鎖または分岐鎖の炭素数6〜18の脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基などを挙げることができるが、アルキル基が好ましい。アルキル鎖としては、例えばn−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基,n−デシル基,n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基、イソステアリル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。この内、配合上及び効果の面から、炭素数8〜16のアルキル基が好ましく、炭素数8〜12のアルキル基がより好ましい。
脂肪族炭化水素基の水素原子は、置換基で置換されていても良く、この置換基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基、水酸基等が挙げられる。
【0009】
式(1)中、Aのアルキレン基としては例えば直鎖のエチレン基,プロピレン基(トリメチレン基)またはメチル分岐を有するエチレン基(グリセリン基)が挙げられるが、原料入手の都合からエチレン基及びメチル分岐を有するエチレン基が好ましい。
mは0〜200の数を示すが、効果の面から0〜12が好ましく、更に0がより好ましい。
【0010】
式(1)中、G1は炭素数5〜6の還元糖残基を示すが、還元糖としてはグルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、マンノース、アラビノース等が挙げられる。これらの還元糖は、ビラノース型、フラノース型のどちらでも良く、また上記糖の混合物であっても良い。糖間のグリコシド結合は、α,βのどちらでも良く、またそれらの混合物であっても良い。
式(1)中、G2はガラクトース残基を示し、ピラノース型、フラノース型のどちらでも良く、またそれらの混合物であっても良いが、効果の点からピラノース型が好ましい。糖間のグリコシド結合は、α、βのどちらでも良く、またそれらの混合物であっても良い。
nは0〜30の数であるが、効果ならびに製造の面から0〜6が好ましく、0〜3がより好ましい。nが0でない場合、糖鎖の結合様式は、1−2,1−3,1−4,1−6結合、及びこれらが混合された結合様式であってもよい。
【0011】
式(1)で表される化合物は、例えば堀らの方法(薬学雑誌,vol.79,No.1,p80-83)や特開2007−291083に開示された方法によって製造することができる。
【0012】
本発明の悪臭抑制剤における式(1)に示した化合物の含有量としては、効果の面から0.01質量%以上が好ましく、特に0.1質量%以上、更に0.5質量%以上が好ましい。また、経済的な面から、50質量%以下が好ましい。
【0013】
本発明の悪臭抑制剤は、必要に応じて一般に使用されている界面活性剤、乳化剤、分散剤、湿潤剤、安定剤、噴射剤などを適宜添加することにより、各種の組成物、例えば油剤、乳剤、水和剤、噴霧剤、エアゾール剤、燻煙剤、塗布剤、洗浄剤、粉剤、粒剤の形態として製剤化することができる。ここで、一般的な界面活性剤の含有量は、特に限定されるものでないが、例えば、悪臭抑制剤中5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。これらを微生物由来の悪臭が発生する種々の環境、例えば住居における台所、浴室の排水口、下水の配管、排水溝、工場等の配管などに散布、噴霧または塗布することにより、その効果を発現することができる。
【0014】
本発明の悪臭抑制剤には、必要に応じて殺菌剤、抗菌抗カビ剤、防腐防黴剤、抗生物質、浸透促進剤、消臭剤、芳香剤などを配合することができる。
このうち殺菌剤または抗菌抗カビ剤としては、一般に使用されているものであれば特に限定されないが、例えばチアベンダゾール、トリクロサン、クロルヘキシジン、ジンクピリチオン、クロルキシレノールなどや、キトサン、カテキン、チモール、ヒノキチオール、孟宗竹エキス、カラシ精油、ワサビ精油などの天然由来の抗菌成分などが挙げられる。
防腐防黴剤としては、例えばパラベン類、2−フェノキシエタノールや安息香酸、サリチル酸、ソルビン酸、デヒドロ酢酸、p−トルエンスルホン酸及びそれら酸の塩類、エタノールやイソプロパノールなどのアルコール類、塩化ベンザルコニウムなどの4級アンモニウム塩、アルキルグリセリルエーテル等の防腐力を有する多価アルコール、中鎖脂肪酸やそのエステル類、EDTAなどのキレート剤などが挙げられる。
【実施例】
【0015】
参考例1 α,β−デシルガラクトシドの製造
D−ガラクトースとデカノール異性体混合物(デカノール,協和発酵ケミカル(株))を触媒量のパラトルエンスルホン酸1水和物存在下、加熱、減圧条件で脱水しながら反応させた。反応後、水酸化ナトリウム水溶液を加えて触媒を中和し、得られた混合物からろ過により未反応のD−ガラクトースを除去した。ろ液から未反応のアルコールを減圧下で留去することでデシルガラクトシドを得た。ゲル浸透クロマトグラフィー並びに1H−NMRによる分析の結果、得られたガラクドシドの平均縮合度は1.15であり、組成中のモノガラクトシドの組成はピラノシド/フラノシド=46/54、ピラノシドのα/β比は67/33であった。これをα,β−デシルガラクトシドとして実施例2、3の試験物質として用いた。
【0016】
参考例2 α,β−オクチルガラクトシドの製造
原料アルコールをオクチルアルコールに変更した以外は参考例1に従い、オクチルガラクトシドを得た。ゲル浸透クロマトグラフィー並びに1H−NMRによる分析の結果、得られたガラクドシドの平均縮合度は1.18であり、組成中のモノガラクトシドの組成はピラノシド/フラノシド=43/57、ピラノシドのα/β比は67/33であった。これをα,β−オクチルガラクトシドとして実施例1の試験物質として用いた。
【0017】
実施例1〜3及び比較例1〜5 微生物由来の悪臭抑制効果
(1)使用菌株
流しの腐敗菌であるシュードモナス属の菌として
シュードモナス・アエルギノーザ[Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)]NBRC12689、
シュードモナス・アエルギノーザ[Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)]NBRC13275、
を使用した。
【0018】
(2)悪臭抑制効果の評価
悪臭抑制効果の評価は、上下をガス透過膜で仕切った容器の下槽に、菌を懸濁させた培地、評価サンプルを加えて培養し、発生するチオール基を有する揮発性化合物を、上槽に加えた5,5'-ジチオビス−[2−ニトロベンゼン酸](DTNB)溶液で捕捉し、更に上槽溶液の吸光度測定を行なうことで発生量を測定した(Anal.Chem.1987,59,1509-1512)。抑制効果については、サンプルを加えない場合を悪臭の発生量100%として、相対的な評価を行なった。具体的な操作を以下に示す。
【0019】
標準寒天培地に0℃で保存した緑膿菌1コロニーを1μLの白金耳で掻きとり、5mLのLB液体培地に植菌後、37℃の好気性条件下で20時間培養した。菌を培養した液体培地2μLをミューラーヒントン液体培地10mLに添加し、これを菌懸濁培地とした。
上下をガス透過膜で仕切った15mLの遠心分離用バイアルの下槽に、表1または表2に示した組成の混合液0.5mLを加え、上槽に0.25Mリン酸緩衝液(pH7.2)に溶解したDTNB溶液(2mM)0.4mLを加えて密栓し、18時間培養した。培養終了後、上槽のDTNB溶液0.1mLを分取して、0.25Mリン酸緩衝液(pH7.2)0.1mLを加え、412nm又は405nmでの吸光度を測定して、チオール基を有する揮発性化合物の発生量の測定を行なった。また比較として、ポリオキシエチレン(12)ラウリルエーテル(エマルゲン120;花王(株)製),ラウリルグルコシド(マイドール 12;花王(株)製)の添加効果も確認した。評価結果をまとめて表1、2に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
表1、2の結果から、本発明の悪臭抑制剤は、チオール基を有する揮発性化合物の発生を有効に抑制し、その効果は化学構造が類似するアルキルグルコシドに比べて顕著に優れていることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式:
R−(OA)m−O−(G1n−G2 (1)
〔式中、Rは置換基で置換されていても良い直鎖または分岐鎖の炭素数6〜18の脂肪族炭化水素基を示し、Aは直鎖または分岐鎖の炭素数2〜3のアルキレン基を示し、G1は炭素数5〜6の還元糖残基を示し、G2はガラクトース由来の残基を示し、mは0〜200の数を示し、nは0〜30の数を示す。〕
で表される化合物を有効成分とする微生物由来の悪臭抑制剤。
【請求項2】
式(1)中、mが0である請求項1記載の微生物由来の悪臭抑制剤。