情報処理システム、情報処理装置、情報処理方法、および情報処理プログラム
【課題】 従来のプレゼンス検知システムにおいては、センサ情報を検知できない場合にプレゼンス情報を得る手段がなく、また、センサ情報が得られる場合でも、より正確なプレゼンス情報を得る手段がなかった。
【解決手段】 非可観測変数推定部23は、可観測変数取得部21が収集したセンサ情報や予定、時間帯、および過去に導出したプレゼンス情報といった可観測変数を用い、各時刻における利用者のプレゼンス情報を有限状態機械に類似した構造を持つ確率モデルである隠れマルコフモデルの内部状態として定式化することによって、より正確なプレゼンス情報を導出する。更に、確率モデルとして定式化する際に、各可観測変数における状態遷移確率を統合して定量的にプレゼンス情報の信頼度を導出する。非可観測変数推定部23は、サービス提供サーバ3においてサービス提供可否の判断指標に利用可能なようプレゼンス情報に信頼度を付加して提供する。
【解決手段】 非可観測変数推定部23は、可観測変数取得部21が収集したセンサ情報や予定、時間帯、および過去に導出したプレゼンス情報といった可観測変数を用い、各時刻における利用者のプレゼンス情報を有限状態機械に類似した構造を持つ確率モデルである隠れマルコフモデルの内部状態として定式化することによって、より正確なプレゼンス情報を導出する。更に、確率モデルとして定式化する際に、各可観測変数における状態遷移確率を統合して定量的にプレゼンス情報の信頼度を導出する。非可観測変数推定部23は、サービス提供サーバ3においてサービス提供可否の判断指標に利用可能なようプレゼンス情報に信頼度を付加して提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者のプレゼンスを確率に基づいて推定する情報処理システム、情報処理装置、情報処理方法、および情報処理プログラムに関し、特に、多数のサービス提供者およびサービス利用者が混在するユビキタス環境において、サービス利用者のプレゼンスに基づいたサービス制御を実現する情報処理システム、情報処理装置、情報処理方法、および情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、あるサービスを提供する側と利用する側との間に何らかの手段で信用が確立されなければ、サービスを提供することができない。信用とは、サービス提供者にとってはサービスの実行を許諾するか否かを判断するための指標であり、サービス利用者にとってはサービスを受けられるか否かを左右する指標であるといえる。信用を確立する方法としては、サービス利用者である個人や団体が、住所や氏名などの個人情報や、民間組織や国が発行した各種証明書(例えば、会員制サービスの会員証や運転免許証)などを提示し、サービス提供者が、提示された各種情報や証明書と自身の判断基準に従って、信用可否を判断することによって確立する場合が多い。
【0003】
このような「サービス利用者が持つ証明書やサービス利用者自身に関する情報に基づき、サービス提供者との間の信用を確立する」という従来モデルを用いてサービス制御を実現する方法の1つとして、信用管理(Trust Management)方法が知られている。非特許文献1には、公開鍵暗号基盤(Public-Key Infrastructure, PKI)に基づく信用管理方法が記載されている。非特許文献1に記載された信用管理方法では、まず、サービスを受けようとする利用者がPKIに基づくデジタル証明書、具体的には利用者に付随する属性のデジタル証明書である属性証明書をシステムに提示する。システムは、システム外の証明書発行局(Certification Authority, CA)に問い合わせ、提示を受けたデジタル証明書の検証を行い、予めシステムで保持する信用付与のためのポリシに従って、利用者に対して一定の役割(信用)を割り当てる。利用者は、割り当てられた役割に応じて、特定のアクセス権を得て、サービスを受けることが可能となる。
【0004】
また、膨大なサービス提供者が存在し、頻繁に信用確立が起きうるユビキタス環境では、屋内外を問わずあらゆる場面で様々なサービス提供者と出会う可能性が飛躍的に高くなる。このようなユビキタス環境において、非特許文献1に記載されているような所定の機関に発行してもらうデジタル証明書だけでなく、利用者のコンテキストを示す情報自体をサービス提供可否の判断材料、つまり利用者の信用の判断材料として用いることができれば、サービス提供をより柔軟に、利便性よく実現することが可能となる。ここで、コンテキストとは、対象となる人や事物の状態や動きを示す状況データを指す。コンテキストの一般的な例としては、利用者が現在どこにいるのか、または利用者がどのような状態にあるか(例えば、「電話中である」)を示す情報がある。
【0005】
特に、人の位置や動作状態を示すコンテキストをプレゼンスと表現する場合もある。プレゼンスを示す情報(以下、プレゼンス情報という。)を用いたサービス提供システムとして、特許文献1には、利用者の現在位置を示す位置情報をプレゼンス情報として扱った通信サービス方法および通信サービスシステムが記載されている。特許文献1に記載の通信サービス方法および通信サービスシステムにおいて、プレゼンス情報である位置情報は、低感度基地局、無線LAN、RFID技術、またはGPSやPHS等の位置検知センサを用いて知ることができると記載されている。
【0006】
【非特許文献1】A.Herzberg, Y.Mass, J.Mihaeli, D.Naor and Y.Ravid, "Access Control Meets Public Key Infrastructure, Or:Assigning Roles to Strangers", IEEE Security and Privacy, 2000, pp.2-14
【特許文献1】特開2004−328309号公報(段落0026−0031)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているような、サービス提供可否の判断材料にするために、位置検知センサ等の出力(以下、センサ情報という。)を用いて利用者のプレゼンス情報を得る方法では、以下の点で不十分である。つまり、利用者が位置情報を発信する利用者端末(例えば、位置情報を発信する携帯端末やRFIDタグなどのID送信機)を見に付けていなかったり、位置検知センサが検知できない場所に利用者端末が移動したりすると、センサ情報を受信できないためサービスが提供できない、または正確でないセンサ情報に基づいて誤った判断をしてしまう。このため、センサ情報以外の情報や前時刻のプレゼンス情報などで補ってプレゼンスを推定できることが望ましい。
【0008】
さらに、センサ情報だけでなく、「昼休みには食堂にいる可能性が高い」などプレゼンスをある程度推定できる情報(例えば、予定表に書かれた予定や現在時刻)を複数用い、それらを統合してなるべく正確に推定できることが望ましい。さらに、サービス提供の可否を判断する際に利用できるよう、推定したプレゼンスの確からしさを表す信頼度を出力することが望ましい。例えば、「会議室にいる」を示すプレゼンス情報の信頼度が90%以上ならサービスを提供するが、それ未満なら提供しない、といったサービス提供可否の判定のためのポリシを実現できることがより望ましい。さらに、センサや他の情報源を使うと各々の信頼度が異なるため、信頼度を定量的に測る方法を実現できることが望ましい。
【0009】
そこで、本発明は、センサ等によって検知される必ずしも正確でないプレゼンス情報を補間または修正できるようにすることを目的とする。さらに、多数のサービス提供者およびサービス利用者が混在するユビキタス環境において、利用者のプレゼンスに基づいたサービス制御をより柔軟に実現できるプレゼンス情報を提供できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による情報処理システムは、人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定するプレゼンス推定手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、プレゼンス推定手段は、所定の確率モデルに基づいて、人の位置又は動作状態を示す情報であるプレゼンス情報を確率変数として導出することによって、人のプレゼンスを推定してもよい。
【0012】
また、プレゼンス推定手段は、プレゼンスと相関を持つ情報である可観測変数を取得する可観測変数取得手段と、前記可観測変数とプレゼンスとの相関関係を示す情報である推定パラメータを記憶する推定パラメータ記憶手段と、利用者のプレゼンス情報を、プレゼンス情報がとりうる内容の集合上の確率変数として、外部からは観測できない情報である非可観測変数として、前記可観測変数取得手段が取得した可観測変数と前記推定パラメータ記憶手段に記憶される推定パラメータとに基づいて導出する非可観測変数導出手段とを有していてもよい。なお、可観測変数とは、例えば、実際のプレゼンスを検知したセンサ情報、ある時刻におけるプレゼンス情報のとりうる内容を予め登録した予定、時間帯である。取得とは、例えば、取得したい情報を提供するサーバ装置に要求してその応答として受信することである。プレゼンス情報がとりうる内容の集合とは、プレゼンスとしてオフィス環境における利用者の位置を推定する場合、例えば、ある時刻において利用者が存在する位置{会議室、居室、食堂、帰宅}である。
【0013】
また、非可観測変数導出手段は、可観測変数とともに、過去に導出したプレゼンス情報に基づいて、現在のプレゼンス情報を導出してもよい。例えば、プレゼンスが時間とともに変化する性質を持つ場合には、現在のプレゼンスはそれ以前の時刻のプレゼンスとも相関を持つとして、現時のプレゼンスの推定に過去に推定したプレゼンスを用いることが可能である。
【0014】
また、可観測変数収集手段は、利用者のプレゼンスを検知するセンサシステムに要求し、定期的に前記センサシステムが検知した利用者のプレゼンスを示す情報であるセンサ情報を取得してもよい。
【0015】
また、可観測変数収集手段は、利用者のある時刻におけるプレゼンス情報のとりうる内容を予定として管理する予定管理手段に要求し、現時刻におけるプレゼンス情報の予定を取得してもよい。なお、管理とは、例えば、管理対象の情報を変更又は削除可能に記憶し、要求に応じて提供することである。
【0016】
また、可観測変数収集手段は、所定の時刻が属する時間帯を管理する時間帯管理手段に要求し、現時刻が含まれる時間帯を取得してもよい。
【0017】
また、本発明による情報処理システムは、可観測変数収集手段が取得したセンサ情報を、時系列に従って記憶するセンサ情報記憶手段を備えていてもよい。
【0018】
また、非可観測導出手段は、時間とともに変化する非可観測変数を可観測変数に基づいて推定する確率モデルとして隠れマルコフモデルを用い、各時間におけるプレゼンス情報を隠れマルコフモデルの内部状態として定式化し、少なくとも可観測変数取得手段が取得した可観測変数のうち少なくともいずれか1つ以上、又は過去に導出したプレゼンス情報に基づいて、現在のプレゼンス情報を導出してもよい。
【0019】
また、推定パラメータ記憶手段は、推定パラメータとして、少なくとも最初に内部状態siにいる確率(iは内部状態数をjとする場合の内部状態に対応する自然数1<i≦j)を示す初期存在確率と、状態遷移確率として、内部状態st−1から内部状態stに遷移する確率(tは観測した時刻に対応する自然数1<t)および時刻tの各可観測変数の内容において内部状態stにいる確率と、内部状態stに遷移する際にセンサ情報xtが出力される確率を示す出力確率とを記憶し、非可観測推定手段は、前記推定パラメータ記憶手段に記憶される初期存在確率、状態遷移確率、および出力確率に基づいて、現時刻において各内部状態にいる確率を求めることによって、現在のプレゼンス情報を導出してもよい。
【0020】
また、非可観測推定手段は、状態遷移確率として、前時刻における内部状態st−1、現時刻における時間帯zt、及び現時刻における予定ytに対する条件付き確率P(st|st−1,yt,zt)を用いてもよい。
【0021】
また、推定パラメータ記憶手段は、状態遷移確率として、内部状態st−1から内部状態stに移動する確率を示す状態間移動確率P(st|st−1)と、予定ytにおいて内部状態stにいる確率を示す予定別存在確率P(st|yt)と、時間帯ztにおいて内部状態stにいる確率を示す時間帯別存在確率P(st|zt)と、少なくとも前記状態間移動確率と前記予定別存在確率と前記時間帯別存在確率のうちのいずれか2つの重みα,βとを記憶し、非可観測推定手段は、前記推定パラメータ記憶手段に記憶されていない1つの重みを1−α−βとして算出し、前時刻の内部状態st−1と現時刻の予定ytと現時刻の時間帯ztの3つの要因による現時刻の状態stへの影響をそれぞれ独立に与える重み付き線形和を計算することによって状態遷移確率である条件付き確率P(st|st−1,yt,zt)を求めてもよい。
【0022】
また、推定パラメータ記憶手段は、少なくとも前記状態間移動確率と前記予定別存在確率と前記時間帯別存在確率のうちのいずれか2つの重みα,βとして、少なくともセンサ情報の受信有無、時間帯、予定の登録有無のうちのいずれかの状態に応じて2種類以上の値を記憶し、非可観測推定手段は、少なくともセンサ情報の受信有無、時間帯、予定の登録有無のうちのいずれかの状態に応じて前記推定パラメータ記憶手段に記憶される重みα,βを使い分けてもよい。
【0023】
また、非可観測推定手段は、各内部状態に留まる時間を示す持続長の分布を、自己ループを持つ状態の列からなるマクロ状態を用いて隠れマルコフモデルの内部状態を定式化してもよい。
【0024】
また、推定パラメータ記憶手段は、各内部状態における持続長の平均μiと標準偏差σi(iは内部状態数をjとする場合の内部状態に対応する自然数1<i≦j)を記憶し、
非可観測推定手段は、マクロ状態の形態として、同じ自己ループ状態pを持つミクロ状態を左から右に一列に並べ、他のマクロ状態から遷移できる入り口のミクロ状態と、他のマクロ状態へ遷移できる出口のマクロ状態がそれぞれ1つに決まっている形態を採り、ミクロ状態の数をrとする場合に、1つのマクロ状態に留まる持続長の分布は、自己ループがk回起きるまでに何回ミクロ状態を遷移したかを示す負の二項分布に従うとして、各内部状態siの自己ループ確率piを、推定パラメータ記憶手段に記憶される平均μiと標準偏差σiを用いて以下の式によって求め、
【0025】
pi=(σi)2/((μi)2+σi)
【0026】
ミクロ状態の数rをr=(1−pi)μiを超えない最大の自然数とし、現時刻のミクロ状態をρtとする場合、状態間遷移確率P(st|st−1)を、前時刻の内部状態st−1がマクロ状態における出口のミクロ状態にあって、現時刻の内部状態stが別のマクロ状態における入り口のミクロ状態にある場合はそのままとし、前時刻の内部状態st−1と現時刻の内部状態stが同じマクロ状態に属するミクロ状態にある場合には1−piとし、それ以外の場合は、0とするミクロ状態間遷移確率P(ρt|ρt−1)に拡張してもよい。
【0027】
また、非可観測推定手段は、状態遷移確率として、ミクロ状態間遷移確率に拡張した条件付き確率P(ρt|ρt−1,yt,zt)を用い、[ρ]をミクロ状態ρが属するマクロ状態、[ρ]entをミクロ状態ρが属するマクロ状態の入り口のミクロ状態、[ρ]exitをミクロ状態ρが属するマクロ状態の出口のミクロ状態とする場合、状態遷移確率である条件付き確率P(ρt|ρt−1,yt,zt)を以下の式を用いて求めてもよい。
【0028】
【数3】
【0029】
また、非可観測推定手段は、予定別存在確率P(st|yt)と、時間帯別存在確率P(st|zt)とを、マクロ状態において定義される条件付き確率として捉え、予定および時間帯は、出口でないミクロ状態からも異なるマクロ状態の入り口へ遷移させる要因、または同じマクロ状態に留まる要因としてミクロ状態間遷移確率に用いてもよい。
【0030】
また、非可観測推定手段は、センサ情報を出力記号とし、現時刻tにおいて、センサ情報xtの列{x1,x2,...,xt}が観測された時に各内部状態siにいる確率を示す事後確率を、条件付き確率P(si|x1,x2,...,xt)として、HMMに対する前向きアルゴリズムを用いて求めてもよい。
【0031】
また、プレゼンス推定手段は、第1のプレゼンス情報として、利用者端末を用いて検出可能な利用者の位置を示す位置情報を導出し、非可観測推定手段は、現時刻における利用者端末の置き忘れ有無を示す真偽値変数utを第2のプレゼンス情報として導出し、導出した第2のプレゼンス情報に基づいて、前記第1のプレゼンス情報を導出してもよい。
【0032】
また、推定パラメータ記憶手段は、所持確率として、前時刻の位置πt−1から現時刻の位置πtに移動する際に置き忘れが発生または解除する確率を示す位置間所持確率P(ut|ut,πt−1,πt−1)と、現時刻の予定ytにおいて置き忘れが発生または解除する確率を示す予定別所持確率P(ut|ut−1,yt)と、現時刻の時間帯ztにおいて置き忘れが発生または解除する確率を示す時間帯別所持確率P(ut|ut−1,zt)と、少なくとも前記位置間所持確率と前記予定別所持確率と前記時間帯別所持確率のうちのいずれか2つの重みα,βとを記憶し、非可観測推定手段は、所持ut=0、非所持ut=1とする場合、前記推定パラメータ記憶手段に記憶されていない1つの重みを1−α−βとして算出し、位置の移動と現時刻の予定と現時刻の時間帯の3つの要因による置き忘れ有無utへの影響をそれぞれ独立に与える重み付き線形和を以下の式を用いて計算することによって所持確率である条件付き確率P(ut|ut−1,πt−1,πt,yt,zt)を求めてもよい。
【0033】
【数4】
【0034】
また、非可観測推定手段は、所持確率P(ut|ut−1,πt−1,πt,yt,zt)は、置き忘れが発生する確率(ut=1,ut−1=0の場合における所持確率)は移動元の位置πt−1に依存し、置き忘れが解消する確率(ut=0,ut−1=1の場合における所持確率)は移動先の位置πtに依存するとして、所持確率を求めてもよい。
【0035】
また、推定パラメータ記憶手段は、出力確率として、利用者端末を置き忘れていない場合の出力確率を示す条件付き確率P(xt|πt,ut=0)と、利用者端末を置き忘れていない場合の出力確率を示す条件付き確率P(xt|πt,ut=1)とを記憶し、非可観測推定手段は、時刻0においては、置き忘れ無し、かつ推定パラメータ記憶手段に記憶される初期存在確率で与えられた確率で各マクロ状態の入り口のミクロ状態にあると導出し、時刻tにおいては、状態遷移確率と出力確率、現時刻のセンサ情報と時間帯と予定、および前時刻における前向き確率の計算結果とから、時刻tにおいて内部状態iにいて置き忘れがvである前向き確率fiv(t)を以下の式によって求め、
【0036】
【数5】
【0037】
さらに事後確率Pi(t)を以下の式を用いて求めてもよい。
【0038】
【数6】
【0039】
また、本発明による情報処理システムは、非可観測推定手段により導出されたプレゼンス情報の信頼度の大小を信用の大小として、信用に基づく強制アクセス制御によるサービス利用制御を実施するサービス提供判定部を備えてもよい。
【0040】
また、本発明による情報処理装置は、人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定するプレゼンス推定手段を備えたことを特徴とする。
【0041】
また、本発明による情報処理方法は、情報処理装置が、人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定することを特徴とする。
【0042】
また、本発明による情報処理プログラムは、コンピュータに、人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定する処理を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、プレゼンス情報を、例えば、センサ情報のほか、利用者特性や時間特性に基づく確率モデルとして表現することで、センサ等によって検知されるプレゼンス情報が必ずしも正確でない、または検知できない場合であっても、より信頼度の高いプレゼンス情報に補間または修正することができる。
【0044】
また、プレゼンス情報を確率変数という形で導出することによって、プレゼンスを推定できるだけでなく、プレゼンスの候補それぞれに確からしさ(信頼度)を与えて出力することができる。このため、補間・修正したプレゼンス情報だけでなく、その信頼度も判断材料に用いることができ、信頼度によってサービス内容を判断する等のサービス制御に適用すれば、より柔軟なサービス制御が可能となる。
【0045】
また、プレゼンスと相関関係にある情報である可観測変数(例えば、センサ情報、予定、時間帯)又は過去に導出したプレゼンス情報、及び推定パラメータに基づいてプレゼンス情報を導出することによって、センサ情報が必ずしも正確でない場合であっても、センサ情報以外の情報や前時刻のプレゼンス情報などで補って推定することができる。また、相関関係にある情報を複数取得し、それらの情報を統合することにより、より信頼度の高いプレゼンス情報を導出することも可能である。
【0046】
また、確率モデルとして用いる隠れマルコフモデルは、時々刻々変化する隠れ変数(非可観測変数)の値を可観測変数の値から推定するという点で、プレゼンス情報の自然なモデル化が可能であり、推定や学習のアルゴリズムが確立している点でもより信頼のおける推定が可能となる。
【0047】
また、複数の情報源による確率を統合して状態遷移確率を求めることにより、複数の情報源から取得することによって異なる信頼度を定量化して導出することができる。このため、情報源を意識することなく利用することができる。また、統合する際に重み付き線形和の手法を用いることで、各可観測変数の全ての組み合わせごとに状態遷移確率を与えるのに比べて推定パラメータが少なくてすみ、また各可観測変数の影響を独立して与えることができるため、様々な状況ごとに適切な状態遷移確率を与えることができる。
【0048】
また、自己ループ確率を持つミクロ状態の列からなるマクロ状態を使って隠れマルコフモデルの各内部状態を表現することによって、隠れマルコフモデルの数学的定義を変えずに、幾何分布以外の持続長分布を表現することができる。このため、自然な長さを持つ持続長分布を持つ隠れマルコフモデルを実現することができる。
【0049】
また、推定対象のプレゼンスは1つだけでなく、利用者端末の置き忘れ有無を新たな非可観測変数として導入することも可能である。また、非可観測変数である置き忘れ有無を、最終的な推定対象である位置情報と相関のある確率変数として用いることも可能である。そのような場合には、置き忘れ有無が考慮された、より正確な推定が可能となる。また、置き忘れの発生確率を移動元の位置、予定および時間帯に基づいて算出し、置き忘れの解消確率を移動先の位置、予定および時間帯に基づいて算出することによって、置き忘れの発生した位置を記憶する必要なく、置き忘れ有無を推定することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
まず、本発明の特徴であるプレゼンスの推定方法について説明する。本発明において、プレゼンスは、人の位置又は動作状態を示す。また、プレゼンス情報とは、人の位置又は動作状態を示す情報である。本発明は、センサ情報だけでは必ずしも正確でないプレゼンス情報を所定の確率モデルとして表現することによって推定することを特徴とする。本発明は、利用者のプレゼンスを確率モデルとして定式化することによって、推定対象であるプレゼンス情報を確率変数として導出する。推定対象のプレゼンス情報は、プレゼンス情報のとりうる内容の集合(例えば、プレゼンスが利用者の位置である場合、{会議室、居室、食堂、帰宅})上の確率変数であると考える。この外部からは観測できない情報(以下、非可観測変数という。)である確率変数を、非可観測変数と相関を持つ可観測変数(外部から観測できる変数)に基づいて導出する。導出した非可観測変数は、例えばセンサ情報が取得できない場合の補間対象として、例えばセンサが検知できず間違ったセンサ情報を取得した場合の修正対象として用いることができる。
【0051】
なお、可観測変数には、実際のプレゼンスを検知した情報であるセンサ情報が含まれていてもよい。また、例えばプレゼンスが時間の経過とともに変化する性質を持つような場合には、現在の時刻におけるプレゼンスがそれ以前の時刻におけるプレゼンスと相関を持つとして、可観測変数とともに過去に導出したプレゼンス情報を用いて、現在のプレゼンス情報を導出してもよい。
【0052】
図1は、プレゼンス情報を推定するための確率モデルを説明する説明図である。図1では、プレゼンスと相関のある可観測変数および推定対象である非可観測変数(図中では「隠れ変数」と表示)を確率変数として楕円で示している。また、確率変数間に相関があることを矢印で示し、相関の大小を条件付き確率で示している。例えば、図1に示す例では、推定対象である非可観測変数(プレゼンス情報)は利用者の位置πtである(tは時刻に対応する自然数1<t)。また、位置πと相関を持つ可観測変数として、時間帯yと予定zと位置のセンサ情報xとを示している。また最初の利用者の位置π1は、時間帯y1および予定z1と相関があり、その相関の大小を条件付き確率P(π1|y1,z1)で示している。また、時刻tにおける位置πtは直前の位置πt−1とも相関を持つとして、各相関関係を統合して、条件付き確率P(πt|πt−1,yt,zt)で示している。またセンサ情報xは、位置πと条件付き確率P(xt|πt)で示す相関を持つ。本発明は、図1に示すような複数の可観測変数(前回の導出結果である直前の位置πt−1を含む)に対する確率を統合した条件付き確率を解くことによって、非可観測変数を導出してもよい。なお、本発明において、非可観測変数を導出するために用いるパラメータ(以下、推定パラメータという。)は、予め記憶しておくものとする。推定パラメータは、非可観測変数と相関関係を持つ確率変数(例えば、可観測変数、過去のプレゼンス情報)が非可観測変数とどのような相対関係にあるかを示す情報である。
【0053】
次に、具体的な推定方法について、確率モデルとして隠れマルコフモデル(Hidden Markov Models, HMM)を用いた場合を例にとって説明する。HMMとは、有限状態機械に類似した構造をもつ確率モデルであって、外部から観測不可能な(隠れた)マルコフ過程(ある記号の出現確率が直前のみに依存すると仮定する確率過程)と、その状態に依存する出力記号の組み合わせによって、出力記号の系列を表現するモデルである。なお、上記に示したHMMは、例えば文献「L.R. Rabiner, and B.H. Juang, "An Introduction to Hidden Markov Models", IEEE ASSP Magazine, 1986, Vol.3, No.1, pp.4-16 」(文献1)に記載されている。
【0054】
HMMを用いる際には、推定対象である非可観測変数(プレゼンス情報)をHMMの内部状態(以下、単に「状態」という。)として考える。つまり、推定対象のプレゼンス情報が利用者の位置を示す位置情報である場合を例にとると、利用者の位置情報は、状態数をjとした状態の集合体{s1,s2,...,sj}のうちのいずれか1つの状態siと対応する(iは各状態に対応する自然数1<i≦j)。
【0055】
図2は、HMMにおける推定パラメータの一例を示す説明図である。図2では、図1で示すような相関関係を持つ場合の推定パラメータの一例を示している。HMMにおける推定パラメータは、少なくとも初期存在確率と状態遷移確率と出力確率とを含む。また、利用者端末の置き忘れによるセンサ情報の正当性を考慮するために、利用者端末の置き忘れの発生・解除確率を含んでいてもよい。
【0056】
初期存在確率は、利用者が始めに状態siにいる確率であって、確率I(si)で示される。状態遷移確率は、状態st−1から状態stに遷移する確率であって、可観測変数に応じて、各可観測変数の現在の内容において状態stにいる確率を含んでいてもよい。例えば、図2で示すように、位置間移動確率の他に、時間帯別存在確率、予定別存在確率とを含んでいてもよい。出力確率は、センサ情報を出力記号とした際に、状態stに遷移した時にセンサ情報xtが出力される確率である。
【0057】
位置間移動確率は、利用者が時刻tにおいて直前の位置πt−1から現在の位置πtへ移動する確率を指し、条件付き確率P(πt|πt−1)で示される。また、時間帯別存在確率は、時刻tにおける時間帯ytに利用者が位置πtにいる確率を指し、条件付き確率P(πt|yt)で示される。また、予定別存在確率は、時刻tの予定ztにおいて利用者が位置πtにいる確率を指し、条件付き確率P(πt|zt)で示される。また、図2に示すように、状態遷移確率が複数の可観測変数に応じた確率を含む場合には、それぞれを重ね合わせる際の重みを含んでいてもよい。重みは、状態間移動確率と予定別存在確率と時間帯別存在確率のうちのいずれか2つの重みα,βを含み、残された1つの重みを1−α−βとして計算してもよい。例えば、位置間移動確率の重みαと時間帯別存在確率の重みβを含んでいた場合は、予定別存在確率の重みを、1−α−βとして計算する。
【0058】
状態遷移確率は、各可観測変数に対する確率を統合して用いてもよい。例えば、状態間移動確率と予定別存在確率と時間帯別存在確率とを統合して、前時刻における位置、現時刻が属する時間帯、および現時刻における予定に対する条件付き確率P(πt|πt−1,yt,zt)を用いてもよい。さらに、この状態遷移確率P(πt|πt−1,yt,zt)を、各可観測変数に対する確率および各可観測変数に対する確率の重みα,β,1−α−βを用いて、以下の式に示すような重み付き線形和を計算することによって求めてもよい。
【0059】
【数1】
【0060】
重み付き線形和を用いて計算することで、それぞれの要因による現在位置への影響を独立して与えることができ、また、各可観測変数の全ての組み合わせごとに状態遷移確率を与える方法に比べて推定パラメータが少なくてすむ。また、各可観測変数に対する確率の重みα,β,1−α−βは、状況に応じて複数のバリエーションを持たせてもよい。例えば、センサ情報が入力されない時とされていない時、予定が登録されている時とされていない時とで重みを切り替えることによって、状態遷移確率を求める際に各可観測変数に対する確率の寄与率を変えることができる。
【0061】
さらに、各状態に留まる時間(持続長)の分布を、図3に示すような、自己ループを持つミクロ状態の列からなるマクロ状態を用いて表現してもよい。図3は、自己ループを持つミクロ状態の列からなるマクロ状態を用いた持続長の分布の一例を示す説明図である。通常のHMMを用いる場合には、同一状態に留まる長さを幾何分布によって求めるため、同一状態に留まる確率が留まる時間に対して指数的に減少してしまい、自然な長さを表現することができない。自己ループを持つ状態の列からなるマクロ状態を用いて持続長分布を表現すると、幾何分布以外の持続長分布を持つHMMを実現することができ、状態が変化しない状況をより自然な長さで表現することができる。ここでは、自己ループを持つマクロ状態を用いた持続長分布を持つHMMを実現する方法として、図3に示すような同じ自己ループ確率pを持つミクロ状態を左から右に一列に並べた構造のマクロ状態を用いる場合を例にとって説明する。
【0062】
図3に示すマクロ状態では、同じ自己ループ確率pを持つミクロ状態を4つ備え、他のマクロ状態から遷移できる入り口のミクロ状態(図中のミクロ状態1にあたる。)と、他のマクロ状態へ遷移できる出口のミクロ状態(図中のミクロ状態4にあたる。)とがそれぞれ1つに決まっているとする。HMMにおける状態siをこのようなマクロ状態として考えると、このマクロ状態に留まる持続長dの分布は、以下に示すような負の二項分布として表現することができる。
【0063】
【数2】
【0064】
ここで、rはミクロ状態の数を表し、Cは二項係数を表す。また、持続長dの期待値E[d]および分散V[d]は、それぞれ以下の通りである。
【0065】
期待値E[d]=r/(1−p)
分散V[d]=rp/(1−p)2
【0066】
状態遷移確率を用いる際には、上記のような持続長dの分布を持つHMMを実現するために、図2に示すように、状態遷移確率の推定パラメータとして、各状態における持続長分布の平均μiと標準偏差σiとを含み、位置間遷移確率を次に示すようなミクロ状態間遷移確率に拡張してもよい。例えば、状態siにおけるミクロ状態の自己ループ確率pi、ミクロ状態の個数rをそれぞれ以下のように定める。
【0067】
自己ループ確率pi=(σi)2/((μi)2+σi)
ミクロ状態の個数r=(1−pi)μi を超えない最大の自然数
【0068】
位置間遷移確率の拡張は、ある時刻tにおけるミクロ状態をρtで表す(どのマクロ状態におけるミクロ状態なのかも含めて表す。)と、まず、ρt−1が出口のミクロ状態であってρtが別のマクロ状態の入り口のミクロ状態である場合には、そのまま位置間遷移確率を用い、ρt−1とρtが同じマクロ状態に属する場合には、ミクロ状態間遷移確率を用いる。ミクロ状態間遷移確率は、条件付き確率P(ρt|ρt−1)で示し、具体的には、ρtがρt−1の次のミクロ状態である場合には、1−piをとり、ρtとρt−1が同じミクロ状態である場合には、piをとり、それ以外の場合は、0をとる確率である。
【0069】
位置間状態遷移確率をミクロ状態間遷移確率を用いて拡張すると、状態遷移確率を示す条件付き確率P(πt|πt−1,yt,zt)は、P(ρt|ρt−1,yt,zt)に変換できる。P(ρt|ρt−1,yt,zt)は、以下の式を用いて計算することができる。ここで、ミクロ状態ρが属するマクロ状態を[ρ]、ミクロ状態ρが属するマクロ状態[ρ]の入り口のミクロ状態を[ρ]ent、ミクロ状態ρが属するマクロ状態[ρ]の出口のミクロ状態を[ρ]exitと表す。
【0070】
【数3】
【0071】
さらに、時間帯別存在確率を示す条件付き確率P(πt|yt)および予定別存在確率を示す条件付き確率P(πt|zt)は、マクロ状態に対して定義されたと考え、これら条件付き確率は、異なるマクロ状態の入り口へ遷移させる要因として用いる。つまり、[ρt]と[ρt−1]が同じでない場合、またはρtが[ρ]entの場合には、出口のミクロ状態以外のミクロ状態からも入り口のミクロ状態へ遷移できるとして扱ってもよい。このような手法を用いることによって、自然な長さを表現できる状態遷移確率を持つHMMモデルを確立することができる。
【0072】
また、出力確率は、図2に示すように、利用者端末(図中では、RFIDタグ)の置き忘れを考慮した、置き忘れ確率利用者端末を置き忘れていないときのセンサ情報xtの出力確率と、利用者端末を置き忘れているときのセンサ情報xtの出力確率を含んでいてもよい。出力確率は、置き忘れの有無を示す真偽値変数ut(以下、所持状態という。)と相関があるとして、置き忘れていないときは条件付き確率P(xt|πt,ut=0)で、置き忘れているときは条件付き確率P(xt|πt,ut=1)で示すことができる。
【0073】
所持状態utのように、本発明は、最終的な指定対象であるプレゼンス情報(位置情報)を推定するためのプレゼンス情報を、新たな推定対象である非可観測変数として導入することも可能である。図4は、利用者の位置と所持状態(図中では「置き忘れ」)を推定するための確率モデルを示す説明図である。所持状態utは、利用者の位置が変化した時にある確率に基づいて反転する真偽値変数であるとし、例えば図4に示すように、位置間移動(πt,πt−1)、時間帯(yt)、予定(zt)、および前回の所持状態(ut−1)に対して相関を持つ。所持状態utを求めるために、推定パラメータとして、図2に示すような利用者端末の置き忘れの発生・解消に関する確率(以下、所持確率という。)を含んでいてもよい。
【0074】
また、所持確率は、所持状態と相関をもつ可観測変数に応じて、位置間所持確率、時間帯別所持確率、予定別所持確率とを含んでいてもよい。位置間所持確率は、位置が移動した際に置き忘れが発生または解消する確率であって、条件付き確率P(ut|ut−1,πt−1,πt)で示される。時間帯別所持確率は、時間帯によって置き忘れが発生または解消する確率であって、条件付き確率P(ut|ut−1,yt)で示される。予定別所持確率は、予定によって置き忘れが発生または解消する確率であって、条件付き確率P(ut|ut−1,zt)で示される。また、状態遷移確率と同様に、所持確率の重ね合わせ時の重みとして、位置間所持確率の重みα’と、時間帯別所持確率の重みβ’を含み、予定別所持確率の重みを、1−α’−β’として計算してもよい。
【0075】
所持状態utを求めるには、上記各可観測変数に対する確率(位置間所持確率、時間帯別所持確率、予定別所持確率)を合成して、所持確率P(ut|ut−1,πt−1,πt,yt,zt)を用いる。この所持確率P(ut|ut−1,πt−1,πt,yt,zt)は、以下の式に示すような重み付き線形和を計算することによって求めてもよい。
【0076】
【数4】
【0077】
また、位置間所持確率において、P(ut=1|ut−1=0,πt−1,πt)はπt−1にのみ依存し、P(ut=0|ut−1=1,πt−1,πt)はπtにのみ依存すると定めてもよい。つまり、置き忘れが発生する確率は移動元の位置に依存し、置き忘れが解消する確率は移動先の位置に依存すると定めることで、置き忘れた位置を記憶せずに推定することができる。本来、置き忘れが解消するのは、以前の位置に戻ったときであるが、置き忘れた位置を記憶しないモデルを用いることによって、どの位置で置き忘れが発生したかにかかわらず、移動先に依存して置き忘れ解消確率を求めることも可能である。
【0078】
以上をふまえて、センサ情報を出力記号としてみた際に、センサ情報の列{x1,x2,...,xt}が観測されたときに、各状態siにいる確率Pi(t)を求めると、確率変数という形でプレゼンス情報とともにプレゼンス情報の確からしさを示す信頼度を導出することができる。この確率Pi(t)は、事後確率ともいい、条件付き確率P(si|x1,x2,...,xt)で示され、HMMに対する前向きアルゴリズムを用いて再帰的にPi(t−1)を計算しながら求めることによって導出可能である。
【0079】
具体的には、まず時刻0において、どの状態にいるかを初期存在確率に基づいて決定する。この際、ミクロ状態はそのマクロ状態の入り口のミクロ状態とし、所持状態は置き忘れなしとする。その上で、HMMの状態遷移確率と出力確率、現時刻のセンサ情報と時間帯と予定、および過去の事後確率から、時刻tにおいて状態iにいて置き忘れがvである前向き確率fiv(t)を以下の式によって求める。ここで、iは時刻tにおいてどの状態にいるかを表し、vは時刻tにおける置き忘れの有無を表す(v=1は置き忘れ有り、v=0は置き忘れ無しを表す。)。また、kおよびwは、時刻tにおけるiおよびvと区別するために便宜的につけた記号で、時刻t−1における状態および置き忘れ有無を表す。
【0080】
【数5】
【0081】
次に、求めた前向き確率fiv(t)を用いて、時刻tにおいてセンサ情報の列が観測された時に各状態siにいる確率を示す事後確率Pi(t)を以下の式を用いて計算する。
【0082】
【数6】
【0083】
このような方法を用いることによって、プレゼンス情報を確率変数という形で導出することができ、確率変数が示す各状態にいる確率に基づいてプレゼンスを推定することができる。さらに、確率変数が示す各状態にいる確率の高さは、そのままプレゼンス情報の信頼度とすることができ、この信頼度の大小をサービス提供補可否を決める際の判断材料に用いることも可能である。
【0084】
また、確率モデルの説明の際に、推定パラメータを予め記憶しておくと説明したが、推定パラメータは、実データを使った学習によって求めることも可能である。つまり、実際のセンサ情報や滞在位置の記録を用い、それに合致するようなパラメータを求めてもよい。具体的には、学習のためのデータとして、出力記号(センサ情報)とそのときの状態(真の滞在位置)が得られる場合には、最尤推論(maximum likelihood estimation )が行える。また、学習のためのデータとして出力記号のみ得られる場合には、Baulm−Welchアルゴリズムを用いて求めてもよい。Baulm−Welchアルゴリズムは、HMMに用いるパラメータの取得方法として知られているEMアルゴリズムと呼ばれる学習法の一種であって、反復的にパラメータの改良を行い、反復ごとにパラメータの尤度が単調増加することが保証されるアルゴリズムである。なお、上記に示したBaulm−Welchアルゴリズムは、例えば文献1に記載されている。
【0085】
次に、本発明による情報処理システムの構成について説明する。図5は、本発明による情報処理システムの構成例を示すブロック図である。図5に示す情報処理システムは、利用者の位置をプレゼンスとして用い、プレゼンス情報に基づいてサービスを提供するサービス提供システム3に、プレゼンス情報を信頼度付きで提供するプレゼンス情報推定サーバ2を備えていることを特徴とする。また、本実施の形態において、推定対象であるプレゼンスが、利用者の位置を示す位置情報である場合を例にとって説明する。
【0086】
本発明による情報処理システムは、図5に示すように、利用者1が携帯する利用者端末11と、プレゼンス情報推定サーバ2と、サービス提供サーバと、センサシステム211と、時刻サーバ212と、予定表システム213とを備える。図5には、利用者端末11が1つしか図示されていないが、複数備えていてもよい。また、サービス提供システム3にサービスを要求する利用者端末11と位置情報のセンシング対象となる利用者端末11とは、別の端末装置であってもよい。なお、図5に示す情報処理システムは、プレゼンス情報に基づいてサービス制御を行うサービス提供サーバ3を例示したが、プレゼンス情報を用いる装置であれば、サービス提供サーバである必要はない。サービス提供サーバ3とプレゼンス情報推定サーバ2、またはプレゼンス情報推定サーバ2とセンサシステム211、時刻サーバ211、および予定表システム213は、インターネットなどの通信ネットワークを介して接続されるか、もしくは同一装置として構成されていてもよい。
【0087】
利用者端末11は、例えば、RFIDタグなどのID送信機や、特定の基地局と無線でリンクを張る携帯型端末、またはGPS等を用いて自ら位置情報を発信する携帯端末機であって、センサシステム211に利用者端末11の位置情報を検出させることが可能な携帯型端末装置である。
【0088】
サービス提供サーバ3は、例えば、プレゼンス情報に基づいてサービスを提供するか否かを判断するサービス提供判定部31を備え、利用者からのサービス要求に応じてサービスを提供するサーバ装置であって、具体的にはプログラムに従って動作するパーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。サービス提供サーバ3は、信用に基づくMAC(Mandatory Access Control)のようなサービス利用制御を実行してもよい。MACは、インターネット上でのセキュリティ技術に関する制御方法であるアクセスコントロールの一種である。なお、上記に示した制御方法は、例えば文献「R. Shirey, "Internet Security Glossary", RFC 2828, 2000, pp.104 」に記載されている。
【0089】
センサシステム211は、利用者端末11の位置を検出して、検出した位置を示すセンサ情報をプレゼンス情報推定サーバ2に出力するシステムである。センサシステム211は、セッション開始プロトコル(session initiation protocol, SIP)のプレゼンスイベントパッケージに従って情報提供を行うプレゼンスサービスシステムであってもよい。プレゼンスサービスシステムとは、プレゼンス情報を受け入れてウォッチャーに配信するプレゼンスサービスを行うシステムである。プレゼンスサービスに用いるプロトコルであるプレゼンスプロトコルにSIPを使用する方法は、例えば、文献「J. Rosenberg, "A Presence Event Package for the Session Initiation Protocol (SIP)", RFC 3856, 2004」に記載されている。
【0090】
また、SIPを用いたセンサ情報取得方法については、文献「千村保文、村田利文著,「改訂版SIP教科書」,インプレス,2004年,p.205−218」などにおいて広く知られている方法を利用できる。上記文献には、SIPを用いたプレゼンスサーバの実現方法として、プレゼンスサービスの仕組み(構成)や、プレゼンスサービスを実現するための購読/通知メソッドの用法(シーケンス例)、およびその手順について記載されている。このようなプレゼンスサービスを用いてセンサシステムを実現すれば、例えば、RFIDタグなどのID送信機や、特定の基地局と無線でリンクを張る携帯型端末、またはGPSを用いて自ら位置情報を発信する携帯型端末などの利用者端末11を利用者に持たせることによって、利用者端末に紐つけられた位置を示す情報(センサ情報)を検出することができる。ここで、センサシステムとして検出するセンサ情報は、オフィス環境を例にとると、{会議質1、会議室2、食堂、圏外}などが想定できる。圏外とは、センサシステムが利用者端末からセンサ情報を検出できなかった場合のセンサシステムの出力を意味する。また、センサシステム211は、定期的にセンサ情報を収集し、時系列に沿って記憶しておいてもよい。
【0091】
時刻サーバ212は、現在時刻を検出する時計装置を備え、プレゼンス情報推定サーバ2に検出した現在時刻を出力するサーバ装置であって、具体的にはプログラムに従って動作するパーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。また、時刻サーバ212は、現在時刻を入力して時間帯を出力するような簡易データベースを備え、プレゼンス情報推定サーバ2からの要求に応じて、現在時刻が属する時間帯を出力してもよい。ここで、時間帯は、オフィス環境を例にとると、{午前中、昼休み、午後、残業時間中}などが想定できる。
【0092】
予定表システム213は、利用者単位にスケジュール情報を管理し、プレゼンス情報推定サーバ2に、少なくともある利用者の現時刻における予定を出力するシステムである。スケジュール情報とは、利用者のプレゼンスに関連する予定を示す情報である。例えば、図6に示すように、予定の日付と、開始時刻と、終了時刻と、予定の内容を表す用件と、予定の場所とを含んでいてもよい。図6は、予定表システムが管理するスケジュール情報の一例を示す説明図である。予定表システム213は、ある利用者の現時刻における予定を問い合わせると、該当する利用者のスケジュール情報を参照し、少なくとも予定の内容を示す用件(以下、単に「予定」という。)を問い合わせ元に返してもよい。ここで、予定は、オフィス環境を例にとると、{会議室1で会議、会議室2で会議、食事中}などが想定できる。また、センサシステム211、時計サーバ212および予定表システム213は、プレゼンス情報推定サーバ2の内部に備えていてもよい。
【0093】
次に、プレゼンス情報推定サーバ2の構成について説明する。プレゼンス情報推定サーバ2は、要求に応じて推定したプレゼンス情報を提供するサーバ装置であって、具体的にはプログラムに従って動作するパーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。プレゼンス情報推定サーバ2は、図5に示すように、可観測変数取得部21と、推定パラメータ記憶部22と、非可観測変数推定部23と、出力記号記憶部24とを有する。可観測変数取得部21は、推定対象である非可観測変数と相関のある可観測変数(本例では、センサ情報、時間帯、予定)を収集し、非可観測変数推定部23に受け渡す。可観測変数取得部21は、例えば、センサシステム211に問い合わせて、利用者の位置を示すセンサ情報を定期的に収集し、収集したセンサ情報を時間軸に従って出力記号記憶部24に記憶してもよい。また例えば、時刻サーバ212や予定表システム213に問い合わせて、現在の時間帯や利用者の現時刻における予定を収集し、収集した情報を非可観測変数推定部23に出力する。
【0094】
推定パラメータ記憶部22は、推定対象である非可観測変数と相関関係にある可観測変数に基づいて非可観測変数(プレゼンス情報)を導出するために用いる推定パラメータを記憶する。なお、推定パラメータは、予め推定パラメータ記憶部22に記憶しておいてもよいし、実データを入力して学習によって求めたものを随時記憶してもよい。
【0095】
出力記号記憶部24は、HMMにおける出力記号であるセンサ情報を時系列に沿って記憶する。また、出力記号記憶部24は、プレゼンスの推定に用いる過去の推定結果(過去のプレゼンス情報)や、推定パラメータの学習に用いる実データを記憶してもよい。
【0096】
非可観測変数推定部23は、可観測変数取得部21によって収集された可観測変数と、推定パラメータ記憶部22に記憶されている推定パラメータと、前回導出したプレゼンス情報とに基づいて、センサ情報の列が観測されたときに各位置にいる確率(事後確率)を、HMMに対する前向き確率を用いて求める。ここで求める確率は、確率変数として導出されたプレゼンス情報である。非可観測変数推定部23は、サービス提供サーバ3からの要求に応じて、求めた確率変数が示す信頼度付きプレゼンス情報を出力する。この際、全位置に対する信頼度をまとめて出力してもよいし、最も高い確率を示した位置とその信頼度を出力してもよい。
【0097】
なお、本実施の形態において、可観測変数取得部21および非可観測変数推定部23は、プログラムに従って動作するCPUによって実現される。また、推定パラメータ記憶部22および出力記号記憶部24は、記憶装置によって実現される。なお、プログラムは、プレゼンス情報推定サーバ2が備える記憶装置に記憶される。
【0098】
次に、本実施の形態の動作について図7を参照して説明する。図7は、情報処理システムによるプレゼンス推定処理の一例を示すフローチャートである。まず、プレゼンス情報推定サーバ2の可観測変数取得部21は、センサシステム211へ問い合わせ、定期的にセンサ情報を受信し、受信したセンサ情報を出力記号記憶部24に記憶する(ステップS21)。ここで、サービス提供サーバ3が信頼度付きプレゼンスを要求すると(ステップS31)、可観測変数取得部21は、時刻サーバ212および予定表システム213からそれぞれ時間帯、予定を取得する(ステップS22,S23)。
【0099】
具体的には、サービス提供サーバ3は、例えば、利用者1についての信頼度付きプレゼンスを要求する旨のプレゼンス要求メッセージをプレゼンス情報推定サーバ2へ送信する。サービス提供サーバ3からプレゼンス要求メッセージを受信すると、可観測変数取得部21は、時刻サーバ212へ現在時刻が属する時間帯を要求する旨の時間帯要求メッセージを送信する。時刻サーバ212は、時間帯要求メッセージを受信すると、現在時刻を検出し、現在時刻が属する時間帯を導出して、導出した時間帯を含む応答メッセージを送信する。可観測変数取得部21は、時刻サーバ212から時間帯を含む応答メッセージを受信する。ここで、時刻サーバ212は、時間帯を導出せずに、検出した現在時刻を含むメッセージを返信し、可観測変数取得部21が、所定の間隔に基づいて現在時刻が属する時間帯を導出してもよい。
【0100】
また、サービス提供サーバ3からプレゼンス要求メッセージを受信すると、可観測変数取得部21は、予定表システム213へ利用者1の現在時刻の予定を要求する旨の予定要求メッセージを送信する。予定表システム213は、予定要求メッセージを受信すると、記憶しているスケジュール情報を参照して、利用者1の現在時刻の予定を読み出し、読み出した予定を含む応答メッセージを送信する。予定が登録されていない場合にはその旨を示す情報を返信する。可観測変数取得部21は、予定表システム213から予定を含む応答メッセージを受信する。
【0101】
次に、プレゼンス情報推定サーバ2の非可観測変数推定部23は、推定パラメータ記憶部22から推定パラメータを読み込む(ステップS24)。非可観測変数推定部23は、まず、各状態siについて、自己ループを持つマクロ状態を用いて持続長の分布を表現した持続長モデルを生成する(ステップS25)。次に、非可観測変数推定部23は、持続長モデルに従って、時刻tにおいて各状態siにいる確率(事後確率)Pi(t)を、HMMに対する前向きアルゴリズムを用いて再帰的にPi(t−1)を計算しながら求める(ステップS26)。非可観測変数推定部23は、求めた事後確率を、信頼度付きプレゼンス情報としてサービス提供サーバ3に送信する。サービス提供サーバ3は、受信した信頼度付きプレゼンス情報で示されるプレゼンスおよびその信頼度を利用して、サービスの実施の判定等を行う(ステップS32)。
【0102】
以上のように、本実施の形態によれば、必ずしも正確でないセンサ情報を補間・修正して、より信頼度の高いプレゼンス情報を提供することができる。つまり、プレゼンスをセンシングしたセンサ情報の他、利用者特性(予定に対応する位置存在確率、利用者端末の置き忘れ確率)や、時間特性(過去の位置存在確率、時間帯に対応する位置存在確率、角位置に存在する持続長)を系統的に利用し、プレゼンスの候補それぞれに確からしさを与えて出力することができる。このため、例えば利用者の現在位置を推定する場合において、利用者端末を身につけていない場合、利用者端末から安定したセンシングができていない場合、センサシステムの無い場所に移動した場合であっても、利用者の予定表や行動モデルに基づいて信頼度を導出し、より確かな位置を提供することができる。
【0103】
また、本発明を用いることによって、センサシステムそのものに高信頼性を要求しなくてすみ、低コスト化を図ることができる。例えば、性能や品質で劣る安いセンサが使用できる可能性や、センサの設置が困難な場所を追跡対象とすることができる可能性が高くなる。
【0104】
また、プレゼンスの信頼度を用いて、信用に基づくサービス制御等を、利便性よく実現することができる。例えば、「会議室に居る」というプレゼンスの信頼度が90%以上ならサービスを提供するが,それ未満なら提供しないといったサービス提供可否判定のためのポリシを実現できる。また例えば、プレゼンスをMAC(Mandatory Access Control)に従うアクセスコントロールに利用できる。
【0105】
また、センサ情報や他の情報源を個々に参照すると、それぞれ信頼性が異なるが、本実施の形態においては、センサ情報や他の情報源を系統的にまとめた上でプレゼンスの信頼度を導出することにより、定量的な信頼度を出力することができる。
【0106】
なお、本実施の形態において、プレゼンス導出手段は非可観測変数推定部23によって実現される。推定パラメータ記憶手段は、推定パラメータ記憶部22によって実現される。予定管理手段は、予定表システム213によって実現される。時間帯管理手段は、時刻サーバ212または可観測変数取得部21によって実現される。センサ情報記憶手段は、出力記号記憶部24によって実現される。
【実施例1】
【0107】
次に、具体的な本発明の実施例について説明する。本発明による情報処理システムにおいて、あるサービスやリソースへのアクセス制御といったサービス提供可否判定を行う場合について説明する。本実施例では、特定の人物による特定の機器(PC等)や機能(LANへのアクセス等)の利用可否を行う場合について説明する。
【0108】
サービス提供サーバ3への典型的な問い合わせは、「あるサービスをある利用者に提供することができるか」といったサービス要求である。例えば、「非常勤社員に、パスワードなしでオフィス環境の無線LAN接続の許可を許すか」といった問い合わせを行ってもよい。このような問い合わせに対して、例えば、一階述語論理を用いた推定(確定Horn節論理におけるSLDレゾリューション)で次のような可否の判定を行うことができる。このとき、図8に示すような述語を導入することができる。図8は、一階述語論理を用いた推定に導入される基本述語やポリシ定義述語の例を示す説明図である。
【0109】
図8に示すように、基本述語として、例えば、プレゼンス情報推定サーバ2が出力した信頼度付きプレゼンス情報を表す述語に「利用者Aは○%以上の信頼度で○○にいる」などを導入してもよい。また例えば、利用者のデジタル証明書をPKI(公開鍵基盤)サーバが検証した結果を示す述語に「利用者Aが提示した本社発行の社員証はPKIサーバにより有効であると検証済みである」などを導入してもよい。また例えば、利用者の予定を表す述語に「利用者Aは予定表によると現在会議中である」などを導入してもよい。また、ポリシ定義述語として、例えば、利用者へのアクセス権やロール(役割)の割り当てを表す述語に「利用者Aに会議室Bに入場する権限を与える」や「利用者Aに無線LANにパスワード入力なしで接続する権限を与える」などを導入してもよい。
【0110】
ポリシ定義述語は、基本述語に基づき、一般に再帰的な推論規則(確定Horn節)により定義する。これらの推論規則の集合を、サービス提供可否判定ポリシと呼ぶ。ここで、図8に示すように、サービス提供可否判定ポリシにプレゼンス情報が含まれているため、信頼度付きプレゼンス情報に基づいて、例えば「非常勤社員Bが少なくとも一人の常勤社員と一定以上の信頼度で会議室にいれば、無条件で無線LANへの接続を許可するが、そうでなければパスワード入力が必要である」といったサービス制御が可能となる。また、接続を許可した利用者のプレゼンスが、一定の信頼度を下回れば接続を切断するといった制御も可能である。
【実施例2】
【0111】
次に、オフィス環境での位置情報提供サービスへの応用例を説明する。本実施例において、プレゼンスはオフィス環境における位置とし、プレゼンスの集合として{居室、お茶のみ場、会議室}が与えられるとする。ここでは、居室と会議室はセンサシステムで検知可能だが、お茶のみ場は検知できないとする。
【0112】
図9および図10は、プレゼンスの決定結果を示す説明図である。図9はプレゼンスをセンサ情報が指し示す場所のみを参照して決定した結果を示し、図10は本発明において出力する信頼度付きプレゼンス情報によって決定されるプレゼンスを示している。図9に示すプレゼンスの決定結果からは、利用者Aが、15時30分に居室にいることがわかる。図10に示すプレゼンスの決定結果から、利用者Aが、15時30分に60%の確率で居室にいること、また30%の確率で会議室に、10%の確率でお茶のみ場にいることがわかる。この結果は、例えば、会議の予定が登録されている影響によるものである。
【0113】
センサ情報によるプレゼンスの決定結果から、例えば、利用者Aと対面でのコミュニケーション(打ち合わせ等)を求めて、居室に向かうことができるが、もし居室にいなかった場合に、次にどの場所に行けば利用者Aに出会えるかまではわからない。信頼度付きプレゼンス情報からは、次に会議室にいけば出会える可能性が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、利用者の位置や動作を示すプレゼンス情報を用いてサービス制御を行うサービス制御システムに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】プレゼンス情報を推定するための確率モデルを説明する説明図である。
【図2】HMMにおける推定パラメータの一例を示す説明図である。
【図3】自己ループを持つマクロ状態を用いた持続長の分布の一例を示す説明図である。
【図4】利用者の位置と置き忘れの有無を推定するための確率モデルを示す説明図である。
【図5】本発明による情報処理システムの構成例を示すブロック図である。
【図6】予定表システムが管理するスケジュール情報の一例を示す説明図である。
【図7】情報処理システムによるプレゼンス推定処理の一例を示すフローチャートである。
【図8】一階述語論理を用いた推論に導入される基本述語やポリシ定義述語の一例を示す説明図である。
【図9】プレゼンスの決定結果を示す説明図である。
【図10】プレゼンスの決定結果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0116】
1 利用者
11 利用者端末
2 プレゼンス情報推論サーバ
21 可観測変数取得部
22 推定パラメータ記憶部
23 非可観測変数推定部
24 出力記号記憶部
211 センサシステム
212 時刻サーバ
213 予定表システム
3 サービス提供サーバ
31 サービス提供判定部
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者のプレゼンスを確率に基づいて推定する情報処理システム、情報処理装置、情報処理方法、および情報処理プログラムに関し、特に、多数のサービス提供者およびサービス利用者が混在するユビキタス環境において、サービス利用者のプレゼンスに基づいたサービス制御を実現する情報処理システム、情報処理装置、情報処理方法、および情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、あるサービスを提供する側と利用する側との間に何らかの手段で信用が確立されなければ、サービスを提供することができない。信用とは、サービス提供者にとってはサービスの実行を許諾するか否かを判断するための指標であり、サービス利用者にとってはサービスを受けられるか否かを左右する指標であるといえる。信用を確立する方法としては、サービス利用者である個人や団体が、住所や氏名などの個人情報や、民間組織や国が発行した各種証明書(例えば、会員制サービスの会員証や運転免許証)などを提示し、サービス提供者が、提示された各種情報や証明書と自身の判断基準に従って、信用可否を判断することによって確立する場合が多い。
【0003】
このような「サービス利用者が持つ証明書やサービス利用者自身に関する情報に基づき、サービス提供者との間の信用を確立する」という従来モデルを用いてサービス制御を実現する方法の1つとして、信用管理(Trust Management)方法が知られている。非特許文献1には、公開鍵暗号基盤(Public-Key Infrastructure, PKI)に基づく信用管理方法が記載されている。非特許文献1に記載された信用管理方法では、まず、サービスを受けようとする利用者がPKIに基づくデジタル証明書、具体的には利用者に付随する属性のデジタル証明書である属性証明書をシステムに提示する。システムは、システム外の証明書発行局(Certification Authority, CA)に問い合わせ、提示を受けたデジタル証明書の検証を行い、予めシステムで保持する信用付与のためのポリシに従って、利用者に対して一定の役割(信用)を割り当てる。利用者は、割り当てられた役割に応じて、特定のアクセス権を得て、サービスを受けることが可能となる。
【0004】
また、膨大なサービス提供者が存在し、頻繁に信用確立が起きうるユビキタス環境では、屋内外を問わずあらゆる場面で様々なサービス提供者と出会う可能性が飛躍的に高くなる。このようなユビキタス環境において、非特許文献1に記載されているような所定の機関に発行してもらうデジタル証明書だけでなく、利用者のコンテキストを示す情報自体をサービス提供可否の判断材料、つまり利用者の信用の判断材料として用いることができれば、サービス提供をより柔軟に、利便性よく実現することが可能となる。ここで、コンテキストとは、対象となる人や事物の状態や動きを示す状況データを指す。コンテキストの一般的な例としては、利用者が現在どこにいるのか、または利用者がどのような状態にあるか(例えば、「電話中である」)を示す情報がある。
【0005】
特に、人の位置や動作状態を示すコンテキストをプレゼンスと表現する場合もある。プレゼンスを示す情報(以下、プレゼンス情報という。)を用いたサービス提供システムとして、特許文献1には、利用者の現在位置を示す位置情報をプレゼンス情報として扱った通信サービス方法および通信サービスシステムが記載されている。特許文献1に記載の通信サービス方法および通信サービスシステムにおいて、プレゼンス情報である位置情報は、低感度基地局、無線LAN、RFID技術、またはGPSやPHS等の位置検知センサを用いて知ることができると記載されている。
【0006】
【非特許文献1】A.Herzberg, Y.Mass, J.Mihaeli, D.Naor and Y.Ravid, "Access Control Meets Public Key Infrastructure, Or:Assigning Roles to Strangers", IEEE Security and Privacy, 2000, pp.2-14
【特許文献1】特開2004−328309号公報(段落0026−0031)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているような、サービス提供可否の判断材料にするために、位置検知センサ等の出力(以下、センサ情報という。)を用いて利用者のプレゼンス情報を得る方法では、以下の点で不十分である。つまり、利用者が位置情報を発信する利用者端末(例えば、位置情報を発信する携帯端末やRFIDタグなどのID送信機)を見に付けていなかったり、位置検知センサが検知できない場所に利用者端末が移動したりすると、センサ情報を受信できないためサービスが提供できない、または正確でないセンサ情報に基づいて誤った判断をしてしまう。このため、センサ情報以外の情報や前時刻のプレゼンス情報などで補ってプレゼンスを推定できることが望ましい。
【0008】
さらに、センサ情報だけでなく、「昼休みには食堂にいる可能性が高い」などプレゼンスをある程度推定できる情報(例えば、予定表に書かれた予定や現在時刻)を複数用い、それらを統合してなるべく正確に推定できることが望ましい。さらに、サービス提供の可否を判断する際に利用できるよう、推定したプレゼンスの確からしさを表す信頼度を出力することが望ましい。例えば、「会議室にいる」を示すプレゼンス情報の信頼度が90%以上ならサービスを提供するが、それ未満なら提供しない、といったサービス提供可否の判定のためのポリシを実現できることがより望ましい。さらに、センサや他の情報源を使うと各々の信頼度が異なるため、信頼度を定量的に測る方法を実現できることが望ましい。
【0009】
そこで、本発明は、センサ等によって検知される必ずしも正確でないプレゼンス情報を補間または修正できるようにすることを目的とする。さらに、多数のサービス提供者およびサービス利用者が混在するユビキタス環境において、利用者のプレゼンスに基づいたサービス制御をより柔軟に実現できるプレゼンス情報を提供できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による情報処理システムは、人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定するプレゼンス推定手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、プレゼンス推定手段は、所定の確率モデルに基づいて、人の位置又は動作状態を示す情報であるプレゼンス情報を確率変数として導出することによって、人のプレゼンスを推定してもよい。
【0012】
また、プレゼンス推定手段は、プレゼンスと相関を持つ情報である可観測変数を取得する可観測変数取得手段と、前記可観測変数とプレゼンスとの相関関係を示す情報である推定パラメータを記憶する推定パラメータ記憶手段と、利用者のプレゼンス情報を、プレゼンス情報がとりうる内容の集合上の確率変数として、外部からは観測できない情報である非可観測変数として、前記可観測変数取得手段が取得した可観測変数と前記推定パラメータ記憶手段に記憶される推定パラメータとに基づいて導出する非可観測変数導出手段とを有していてもよい。なお、可観測変数とは、例えば、実際のプレゼンスを検知したセンサ情報、ある時刻におけるプレゼンス情報のとりうる内容を予め登録した予定、時間帯である。取得とは、例えば、取得したい情報を提供するサーバ装置に要求してその応答として受信することである。プレゼンス情報がとりうる内容の集合とは、プレゼンスとしてオフィス環境における利用者の位置を推定する場合、例えば、ある時刻において利用者が存在する位置{会議室、居室、食堂、帰宅}である。
【0013】
また、非可観測変数導出手段は、可観測変数とともに、過去に導出したプレゼンス情報に基づいて、現在のプレゼンス情報を導出してもよい。例えば、プレゼンスが時間とともに変化する性質を持つ場合には、現在のプレゼンスはそれ以前の時刻のプレゼンスとも相関を持つとして、現時のプレゼンスの推定に過去に推定したプレゼンスを用いることが可能である。
【0014】
また、可観測変数収集手段は、利用者のプレゼンスを検知するセンサシステムに要求し、定期的に前記センサシステムが検知した利用者のプレゼンスを示す情報であるセンサ情報を取得してもよい。
【0015】
また、可観測変数収集手段は、利用者のある時刻におけるプレゼンス情報のとりうる内容を予定として管理する予定管理手段に要求し、現時刻におけるプレゼンス情報の予定を取得してもよい。なお、管理とは、例えば、管理対象の情報を変更又は削除可能に記憶し、要求に応じて提供することである。
【0016】
また、可観測変数収集手段は、所定の時刻が属する時間帯を管理する時間帯管理手段に要求し、現時刻が含まれる時間帯を取得してもよい。
【0017】
また、本発明による情報処理システムは、可観測変数収集手段が取得したセンサ情報を、時系列に従って記憶するセンサ情報記憶手段を備えていてもよい。
【0018】
また、非可観測導出手段は、時間とともに変化する非可観測変数を可観測変数に基づいて推定する確率モデルとして隠れマルコフモデルを用い、各時間におけるプレゼンス情報を隠れマルコフモデルの内部状態として定式化し、少なくとも可観測変数取得手段が取得した可観測変数のうち少なくともいずれか1つ以上、又は過去に導出したプレゼンス情報に基づいて、現在のプレゼンス情報を導出してもよい。
【0019】
また、推定パラメータ記憶手段は、推定パラメータとして、少なくとも最初に内部状態siにいる確率(iは内部状態数をjとする場合の内部状態に対応する自然数1<i≦j)を示す初期存在確率と、状態遷移確率として、内部状態st−1から内部状態stに遷移する確率(tは観測した時刻に対応する自然数1<t)および時刻tの各可観測変数の内容において内部状態stにいる確率と、内部状態stに遷移する際にセンサ情報xtが出力される確率を示す出力確率とを記憶し、非可観測推定手段は、前記推定パラメータ記憶手段に記憶される初期存在確率、状態遷移確率、および出力確率に基づいて、現時刻において各内部状態にいる確率を求めることによって、現在のプレゼンス情報を導出してもよい。
【0020】
また、非可観測推定手段は、状態遷移確率として、前時刻における内部状態st−1、現時刻における時間帯zt、及び現時刻における予定ytに対する条件付き確率P(st|st−1,yt,zt)を用いてもよい。
【0021】
また、推定パラメータ記憶手段は、状態遷移確率として、内部状態st−1から内部状態stに移動する確率を示す状態間移動確率P(st|st−1)と、予定ytにおいて内部状態stにいる確率を示す予定別存在確率P(st|yt)と、時間帯ztにおいて内部状態stにいる確率を示す時間帯別存在確率P(st|zt)と、少なくとも前記状態間移動確率と前記予定別存在確率と前記時間帯別存在確率のうちのいずれか2つの重みα,βとを記憶し、非可観測推定手段は、前記推定パラメータ記憶手段に記憶されていない1つの重みを1−α−βとして算出し、前時刻の内部状態st−1と現時刻の予定ytと現時刻の時間帯ztの3つの要因による現時刻の状態stへの影響をそれぞれ独立に与える重み付き線形和を計算することによって状態遷移確率である条件付き確率P(st|st−1,yt,zt)を求めてもよい。
【0022】
また、推定パラメータ記憶手段は、少なくとも前記状態間移動確率と前記予定別存在確率と前記時間帯別存在確率のうちのいずれか2つの重みα,βとして、少なくともセンサ情報の受信有無、時間帯、予定の登録有無のうちのいずれかの状態に応じて2種類以上の値を記憶し、非可観測推定手段は、少なくともセンサ情報の受信有無、時間帯、予定の登録有無のうちのいずれかの状態に応じて前記推定パラメータ記憶手段に記憶される重みα,βを使い分けてもよい。
【0023】
また、非可観測推定手段は、各内部状態に留まる時間を示す持続長の分布を、自己ループを持つ状態の列からなるマクロ状態を用いて隠れマルコフモデルの内部状態を定式化してもよい。
【0024】
また、推定パラメータ記憶手段は、各内部状態における持続長の平均μiと標準偏差σi(iは内部状態数をjとする場合の内部状態に対応する自然数1<i≦j)を記憶し、
非可観測推定手段は、マクロ状態の形態として、同じ自己ループ状態pを持つミクロ状態を左から右に一列に並べ、他のマクロ状態から遷移できる入り口のミクロ状態と、他のマクロ状態へ遷移できる出口のマクロ状態がそれぞれ1つに決まっている形態を採り、ミクロ状態の数をrとする場合に、1つのマクロ状態に留まる持続長の分布は、自己ループがk回起きるまでに何回ミクロ状態を遷移したかを示す負の二項分布に従うとして、各内部状態siの自己ループ確率piを、推定パラメータ記憶手段に記憶される平均μiと標準偏差σiを用いて以下の式によって求め、
【0025】
pi=(σi)2/((μi)2+σi)
【0026】
ミクロ状態の数rをr=(1−pi)μiを超えない最大の自然数とし、現時刻のミクロ状態をρtとする場合、状態間遷移確率P(st|st−1)を、前時刻の内部状態st−1がマクロ状態における出口のミクロ状態にあって、現時刻の内部状態stが別のマクロ状態における入り口のミクロ状態にある場合はそのままとし、前時刻の内部状態st−1と現時刻の内部状態stが同じマクロ状態に属するミクロ状態にある場合には1−piとし、それ以外の場合は、0とするミクロ状態間遷移確率P(ρt|ρt−1)に拡張してもよい。
【0027】
また、非可観測推定手段は、状態遷移確率として、ミクロ状態間遷移確率に拡張した条件付き確率P(ρt|ρt−1,yt,zt)を用い、[ρ]をミクロ状態ρが属するマクロ状態、[ρ]entをミクロ状態ρが属するマクロ状態の入り口のミクロ状態、[ρ]exitをミクロ状態ρが属するマクロ状態の出口のミクロ状態とする場合、状態遷移確率である条件付き確率P(ρt|ρt−1,yt,zt)を以下の式を用いて求めてもよい。
【0028】
【数3】
【0029】
また、非可観測推定手段は、予定別存在確率P(st|yt)と、時間帯別存在確率P(st|zt)とを、マクロ状態において定義される条件付き確率として捉え、予定および時間帯は、出口でないミクロ状態からも異なるマクロ状態の入り口へ遷移させる要因、または同じマクロ状態に留まる要因としてミクロ状態間遷移確率に用いてもよい。
【0030】
また、非可観測推定手段は、センサ情報を出力記号とし、現時刻tにおいて、センサ情報xtの列{x1,x2,...,xt}が観測された時に各内部状態siにいる確率を示す事後確率を、条件付き確率P(si|x1,x2,...,xt)として、HMMに対する前向きアルゴリズムを用いて求めてもよい。
【0031】
また、プレゼンス推定手段は、第1のプレゼンス情報として、利用者端末を用いて検出可能な利用者の位置を示す位置情報を導出し、非可観測推定手段は、現時刻における利用者端末の置き忘れ有無を示す真偽値変数utを第2のプレゼンス情報として導出し、導出した第2のプレゼンス情報に基づいて、前記第1のプレゼンス情報を導出してもよい。
【0032】
また、推定パラメータ記憶手段は、所持確率として、前時刻の位置πt−1から現時刻の位置πtに移動する際に置き忘れが発生または解除する確率を示す位置間所持確率P(ut|ut,πt−1,πt−1)と、現時刻の予定ytにおいて置き忘れが発生または解除する確率を示す予定別所持確率P(ut|ut−1,yt)と、現時刻の時間帯ztにおいて置き忘れが発生または解除する確率を示す時間帯別所持確率P(ut|ut−1,zt)と、少なくとも前記位置間所持確率と前記予定別所持確率と前記時間帯別所持確率のうちのいずれか2つの重みα,βとを記憶し、非可観測推定手段は、所持ut=0、非所持ut=1とする場合、前記推定パラメータ記憶手段に記憶されていない1つの重みを1−α−βとして算出し、位置の移動と現時刻の予定と現時刻の時間帯の3つの要因による置き忘れ有無utへの影響をそれぞれ独立に与える重み付き線形和を以下の式を用いて計算することによって所持確率である条件付き確率P(ut|ut−1,πt−1,πt,yt,zt)を求めてもよい。
【0033】
【数4】
【0034】
また、非可観測推定手段は、所持確率P(ut|ut−1,πt−1,πt,yt,zt)は、置き忘れが発生する確率(ut=1,ut−1=0の場合における所持確率)は移動元の位置πt−1に依存し、置き忘れが解消する確率(ut=0,ut−1=1の場合における所持確率)は移動先の位置πtに依存するとして、所持確率を求めてもよい。
【0035】
また、推定パラメータ記憶手段は、出力確率として、利用者端末を置き忘れていない場合の出力確率を示す条件付き確率P(xt|πt,ut=0)と、利用者端末を置き忘れていない場合の出力確率を示す条件付き確率P(xt|πt,ut=1)とを記憶し、非可観測推定手段は、時刻0においては、置き忘れ無し、かつ推定パラメータ記憶手段に記憶される初期存在確率で与えられた確率で各マクロ状態の入り口のミクロ状態にあると導出し、時刻tにおいては、状態遷移確率と出力確率、現時刻のセンサ情報と時間帯と予定、および前時刻における前向き確率の計算結果とから、時刻tにおいて内部状態iにいて置き忘れがvである前向き確率fiv(t)を以下の式によって求め、
【0036】
【数5】
【0037】
さらに事後確率Pi(t)を以下の式を用いて求めてもよい。
【0038】
【数6】
【0039】
また、本発明による情報処理システムは、非可観測推定手段により導出されたプレゼンス情報の信頼度の大小を信用の大小として、信用に基づく強制アクセス制御によるサービス利用制御を実施するサービス提供判定部を備えてもよい。
【0040】
また、本発明による情報処理装置は、人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定するプレゼンス推定手段を備えたことを特徴とする。
【0041】
また、本発明による情報処理方法は、情報処理装置が、人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定することを特徴とする。
【0042】
また、本発明による情報処理プログラムは、コンピュータに、人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定する処理を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、プレゼンス情報を、例えば、センサ情報のほか、利用者特性や時間特性に基づく確率モデルとして表現することで、センサ等によって検知されるプレゼンス情報が必ずしも正確でない、または検知できない場合であっても、より信頼度の高いプレゼンス情報に補間または修正することができる。
【0044】
また、プレゼンス情報を確率変数という形で導出することによって、プレゼンスを推定できるだけでなく、プレゼンスの候補それぞれに確からしさ(信頼度)を与えて出力することができる。このため、補間・修正したプレゼンス情報だけでなく、その信頼度も判断材料に用いることができ、信頼度によってサービス内容を判断する等のサービス制御に適用すれば、より柔軟なサービス制御が可能となる。
【0045】
また、プレゼンスと相関関係にある情報である可観測変数(例えば、センサ情報、予定、時間帯)又は過去に導出したプレゼンス情報、及び推定パラメータに基づいてプレゼンス情報を導出することによって、センサ情報が必ずしも正確でない場合であっても、センサ情報以外の情報や前時刻のプレゼンス情報などで補って推定することができる。また、相関関係にある情報を複数取得し、それらの情報を統合することにより、より信頼度の高いプレゼンス情報を導出することも可能である。
【0046】
また、確率モデルとして用いる隠れマルコフモデルは、時々刻々変化する隠れ変数(非可観測変数)の値を可観測変数の値から推定するという点で、プレゼンス情報の自然なモデル化が可能であり、推定や学習のアルゴリズムが確立している点でもより信頼のおける推定が可能となる。
【0047】
また、複数の情報源による確率を統合して状態遷移確率を求めることにより、複数の情報源から取得することによって異なる信頼度を定量化して導出することができる。このため、情報源を意識することなく利用することができる。また、統合する際に重み付き線形和の手法を用いることで、各可観測変数の全ての組み合わせごとに状態遷移確率を与えるのに比べて推定パラメータが少なくてすみ、また各可観測変数の影響を独立して与えることができるため、様々な状況ごとに適切な状態遷移確率を与えることができる。
【0048】
また、自己ループ確率を持つミクロ状態の列からなるマクロ状態を使って隠れマルコフモデルの各内部状態を表現することによって、隠れマルコフモデルの数学的定義を変えずに、幾何分布以外の持続長分布を表現することができる。このため、自然な長さを持つ持続長分布を持つ隠れマルコフモデルを実現することができる。
【0049】
また、推定対象のプレゼンスは1つだけでなく、利用者端末の置き忘れ有無を新たな非可観測変数として導入することも可能である。また、非可観測変数である置き忘れ有無を、最終的な推定対象である位置情報と相関のある確率変数として用いることも可能である。そのような場合には、置き忘れ有無が考慮された、より正確な推定が可能となる。また、置き忘れの発生確率を移動元の位置、予定および時間帯に基づいて算出し、置き忘れの解消確率を移動先の位置、予定および時間帯に基づいて算出することによって、置き忘れの発生した位置を記憶する必要なく、置き忘れ有無を推定することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
まず、本発明の特徴であるプレゼンスの推定方法について説明する。本発明において、プレゼンスは、人の位置又は動作状態を示す。また、プレゼンス情報とは、人の位置又は動作状態を示す情報である。本発明は、センサ情報だけでは必ずしも正確でないプレゼンス情報を所定の確率モデルとして表現することによって推定することを特徴とする。本発明は、利用者のプレゼンスを確率モデルとして定式化することによって、推定対象であるプレゼンス情報を確率変数として導出する。推定対象のプレゼンス情報は、プレゼンス情報のとりうる内容の集合(例えば、プレゼンスが利用者の位置である場合、{会議室、居室、食堂、帰宅})上の確率変数であると考える。この外部からは観測できない情報(以下、非可観測変数という。)である確率変数を、非可観測変数と相関を持つ可観測変数(外部から観測できる変数)に基づいて導出する。導出した非可観測変数は、例えばセンサ情報が取得できない場合の補間対象として、例えばセンサが検知できず間違ったセンサ情報を取得した場合の修正対象として用いることができる。
【0051】
なお、可観測変数には、実際のプレゼンスを検知した情報であるセンサ情報が含まれていてもよい。また、例えばプレゼンスが時間の経過とともに変化する性質を持つような場合には、現在の時刻におけるプレゼンスがそれ以前の時刻におけるプレゼンスと相関を持つとして、可観測変数とともに過去に導出したプレゼンス情報を用いて、現在のプレゼンス情報を導出してもよい。
【0052】
図1は、プレゼンス情報を推定するための確率モデルを説明する説明図である。図1では、プレゼンスと相関のある可観測変数および推定対象である非可観測変数(図中では「隠れ変数」と表示)を確率変数として楕円で示している。また、確率変数間に相関があることを矢印で示し、相関の大小を条件付き確率で示している。例えば、図1に示す例では、推定対象である非可観測変数(プレゼンス情報)は利用者の位置πtである(tは時刻に対応する自然数1<t)。また、位置πと相関を持つ可観測変数として、時間帯yと予定zと位置のセンサ情報xとを示している。また最初の利用者の位置π1は、時間帯y1および予定z1と相関があり、その相関の大小を条件付き確率P(π1|y1,z1)で示している。また、時刻tにおける位置πtは直前の位置πt−1とも相関を持つとして、各相関関係を統合して、条件付き確率P(πt|πt−1,yt,zt)で示している。またセンサ情報xは、位置πと条件付き確率P(xt|πt)で示す相関を持つ。本発明は、図1に示すような複数の可観測変数(前回の導出結果である直前の位置πt−1を含む)に対する確率を統合した条件付き確率を解くことによって、非可観測変数を導出してもよい。なお、本発明において、非可観測変数を導出するために用いるパラメータ(以下、推定パラメータという。)は、予め記憶しておくものとする。推定パラメータは、非可観測変数と相関関係を持つ確率変数(例えば、可観測変数、過去のプレゼンス情報)が非可観測変数とどのような相対関係にあるかを示す情報である。
【0053】
次に、具体的な推定方法について、確率モデルとして隠れマルコフモデル(Hidden Markov Models, HMM)を用いた場合を例にとって説明する。HMMとは、有限状態機械に類似した構造をもつ確率モデルであって、外部から観測不可能な(隠れた)マルコフ過程(ある記号の出現確率が直前のみに依存すると仮定する確率過程)と、その状態に依存する出力記号の組み合わせによって、出力記号の系列を表現するモデルである。なお、上記に示したHMMは、例えば文献「L.R. Rabiner, and B.H. Juang, "An Introduction to Hidden Markov Models", IEEE ASSP Magazine, 1986, Vol.3, No.1, pp.4-16 」(文献1)に記載されている。
【0054】
HMMを用いる際には、推定対象である非可観測変数(プレゼンス情報)をHMMの内部状態(以下、単に「状態」という。)として考える。つまり、推定対象のプレゼンス情報が利用者の位置を示す位置情報である場合を例にとると、利用者の位置情報は、状態数をjとした状態の集合体{s1,s2,...,sj}のうちのいずれか1つの状態siと対応する(iは各状態に対応する自然数1<i≦j)。
【0055】
図2は、HMMにおける推定パラメータの一例を示す説明図である。図2では、図1で示すような相関関係を持つ場合の推定パラメータの一例を示している。HMMにおける推定パラメータは、少なくとも初期存在確率と状態遷移確率と出力確率とを含む。また、利用者端末の置き忘れによるセンサ情報の正当性を考慮するために、利用者端末の置き忘れの発生・解除確率を含んでいてもよい。
【0056】
初期存在確率は、利用者が始めに状態siにいる確率であって、確率I(si)で示される。状態遷移確率は、状態st−1から状態stに遷移する確率であって、可観測変数に応じて、各可観測変数の現在の内容において状態stにいる確率を含んでいてもよい。例えば、図2で示すように、位置間移動確率の他に、時間帯別存在確率、予定別存在確率とを含んでいてもよい。出力確率は、センサ情報を出力記号とした際に、状態stに遷移した時にセンサ情報xtが出力される確率である。
【0057】
位置間移動確率は、利用者が時刻tにおいて直前の位置πt−1から現在の位置πtへ移動する確率を指し、条件付き確率P(πt|πt−1)で示される。また、時間帯別存在確率は、時刻tにおける時間帯ytに利用者が位置πtにいる確率を指し、条件付き確率P(πt|yt)で示される。また、予定別存在確率は、時刻tの予定ztにおいて利用者が位置πtにいる確率を指し、条件付き確率P(πt|zt)で示される。また、図2に示すように、状態遷移確率が複数の可観測変数に応じた確率を含む場合には、それぞれを重ね合わせる際の重みを含んでいてもよい。重みは、状態間移動確率と予定別存在確率と時間帯別存在確率のうちのいずれか2つの重みα,βを含み、残された1つの重みを1−α−βとして計算してもよい。例えば、位置間移動確率の重みαと時間帯別存在確率の重みβを含んでいた場合は、予定別存在確率の重みを、1−α−βとして計算する。
【0058】
状態遷移確率は、各可観測変数に対する確率を統合して用いてもよい。例えば、状態間移動確率と予定別存在確率と時間帯別存在確率とを統合して、前時刻における位置、現時刻が属する時間帯、および現時刻における予定に対する条件付き確率P(πt|πt−1,yt,zt)を用いてもよい。さらに、この状態遷移確率P(πt|πt−1,yt,zt)を、各可観測変数に対する確率および各可観測変数に対する確率の重みα,β,1−α−βを用いて、以下の式に示すような重み付き線形和を計算することによって求めてもよい。
【0059】
【数1】
【0060】
重み付き線形和を用いて計算することで、それぞれの要因による現在位置への影響を独立して与えることができ、また、各可観測変数の全ての組み合わせごとに状態遷移確率を与える方法に比べて推定パラメータが少なくてすむ。また、各可観測変数に対する確率の重みα,β,1−α−βは、状況に応じて複数のバリエーションを持たせてもよい。例えば、センサ情報が入力されない時とされていない時、予定が登録されている時とされていない時とで重みを切り替えることによって、状態遷移確率を求める際に各可観測変数に対する確率の寄与率を変えることができる。
【0061】
さらに、各状態に留まる時間(持続長)の分布を、図3に示すような、自己ループを持つミクロ状態の列からなるマクロ状態を用いて表現してもよい。図3は、自己ループを持つミクロ状態の列からなるマクロ状態を用いた持続長の分布の一例を示す説明図である。通常のHMMを用いる場合には、同一状態に留まる長さを幾何分布によって求めるため、同一状態に留まる確率が留まる時間に対して指数的に減少してしまい、自然な長さを表現することができない。自己ループを持つ状態の列からなるマクロ状態を用いて持続長分布を表現すると、幾何分布以外の持続長分布を持つHMMを実現することができ、状態が変化しない状況をより自然な長さで表現することができる。ここでは、自己ループを持つマクロ状態を用いた持続長分布を持つHMMを実現する方法として、図3に示すような同じ自己ループ確率pを持つミクロ状態を左から右に一列に並べた構造のマクロ状態を用いる場合を例にとって説明する。
【0062】
図3に示すマクロ状態では、同じ自己ループ確率pを持つミクロ状態を4つ備え、他のマクロ状態から遷移できる入り口のミクロ状態(図中のミクロ状態1にあたる。)と、他のマクロ状態へ遷移できる出口のミクロ状態(図中のミクロ状態4にあたる。)とがそれぞれ1つに決まっているとする。HMMにおける状態siをこのようなマクロ状態として考えると、このマクロ状態に留まる持続長dの分布は、以下に示すような負の二項分布として表現することができる。
【0063】
【数2】
【0064】
ここで、rはミクロ状態の数を表し、Cは二項係数を表す。また、持続長dの期待値E[d]および分散V[d]は、それぞれ以下の通りである。
【0065】
期待値E[d]=r/(1−p)
分散V[d]=rp/(1−p)2
【0066】
状態遷移確率を用いる際には、上記のような持続長dの分布を持つHMMを実現するために、図2に示すように、状態遷移確率の推定パラメータとして、各状態における持続長分布の平均μiと標準偏差σiとを含み、位置間遷移確率を次に示すようなミクロ状態間遷移確率に拡張してもよい。例えば、状態siにおけるミクロ状態の自己ループ確率pi、ミクロ状態の個数rをそれぞれ以下のように定める。
【0067】
自己ループ確率pi=(σi)2/((μi)2+σi)
ミクロ状態の個数r=(1−pi)μi を超えない最大の自然数
【0068】
位置間遷移確率の拡張は、ある時刻tにおけるミクロ状態をρtで表す(どのマクロ状態におけるミクロ状態なのかも含めて表す。)と、まず、ρt−1が出口のミクロ状態であってρtが別のマクロ状態の入り口のミクロ状態である場合には、そのまま位置間遷移確率を用い、ρt−1とρtが同じマクロ状態に属する場合には、ミクロ状態間遷移確率を用いる。ミクロ状態間遷移確率は、条件付き確率P(ρt|ρt−1)で示し、具体的には、ρtがρt−1の次のミクロ状態である場合には、1−piをとり、ρtとρt−1が同じミクロ状態である場合には、piをとり、それ以外の場合は、0をとる確率である。
【0069】
位置間状態遷移確率をミクロ状態間遷移確率を用いて拡張すると、状態遷移確率を示す条件付き確率P(πt|πt−1,yt,zt)は、P(ρt|ρt−1,yt,zt)に変換できる。P(ρt|ρt−1,yt,zt)は、以下の式を用いて計算することができる。ここで、ミクロ状態ρが属するマクロ状態を[ρ]、ミクロ状態ρが属するマクロ状態[ρ]の入り口のミクロ状態を[ρ]ent、ミクロ状態ρが属するマクロ状態[ρ]の出口のミクロ状態を[ρ]exitと表す。
【0070】
【数3】
【0071】
さらに、時間帯別存在確率を示す条件付き確率P(πt|yt)および予定別存在確率を示す条件付き確率P(πt|zt)は、マクロ状態に対して定義されたと考え、これら条件付き確率は、異なるマクロ状態の入り口へ遷移させる要因として用いる。つまり、[ρt]と[ρt−1]が同じでない場合、またはρtが[ρ]entの場合には、出口のミクロ状態以外のミクロ状態からも入り口のミクロ状態へ遷移できるとして扱ってもよい。このような手法を用いることによって、自然な長さを表現できる状態遷移確率を持つHMMモデルを確立することができる。
【0072】
また、出力確率は、図2に示すように、利用者端末(図中では、RFIDタグ)の置き忘れを考慮した、置き忘れ確率利用者端末を置き忘れていないときのセンサ情報xtの出力確率と、利用者端末を置き忘れているときのセンサ情報xtの出力確率を含んでいてもよい。出力確率は、置き忘れの有無を示す真偽値変数ut(以下、所持状態という。)と相関があるとして、置き忘れていないときは条件付き確率P(xt|πt,ut=0)で、置き忘れているときは条件付き確率P(xt|πt,ut=1)で示すことができる。
【0073】
所持状態utのように、本発明は、最終的な指定対象であるプレゼンス情報(位置情報)を推定するためのプレゼンス情報を、新たな推定対象である非可観測変数として導入することも可能である。図4は、利用者の位置と所持状態(図中では「置き忘れ」)を推定するための確率モデルを示す説明図である。所持状態utは、利用者の位置が変化した時にある確率に基づいて反転する真偽値変数であるとし、例えば図4に示すように、位置間移動(πt,πt−1)、時間帯(yt)、予定(zt)、および前回の所持状態(ut−1)に対して相関を持つ。所持状態utを求めるために、推定パラメータとして、図2に示すような利用者端末の置き忘れの発生・解消に関する確率(以下、所持確率という。)を含んでいてもよい。
【0074】
また、所持確率は、所持状態と相関をもつ可観測変数に応じて、位置間所持確率、時間帯別所持確率、予定別所持確率とを含んでいてもよい。位置間所持確率は、位置が移動した際に置き忘れが発生または解消する確率であって、条件付き確率P(ut|ut−1,πt−1,πt)で示される。時間帯別所持確率は、時間帯によって置き忘れが発生または解消する確率であって、条件付き確率P(ut|ut−1,yt)で示される。予定別所持確率は、予定によって置き忘れが発生または解消する確率であって、条件付き確率P(ut|ut−1,zt)で示される。また、状態遷移確率と同様に、所持確率の重ね合わせ時の重みとして、位置間所持確率の重みα’と、時間帯別所持確率の重みβ’を含み、予定別所持確率の重みを、1−α’−β’として計算してもよい。
【0075】
所持状態utを求めるには、上記各可観測変数に対する確率(位置間所持確率、時間帯別所持確率、予定別所持確率)を合成して、所持確率P(ut|ut−1,πt−1,πt,yt,zt)を用いる。この所持確率P(ut|ut−1,πt−1,πt,yt,zt)は、以下の式に示すような重み付き線形和を計算することによって求めてもよい。
【0076】
【数4】
【0077】
また、位置間所持確率において、P(ut=1|ut−1=0,πt−1,πt)はπt−1にのみ依存し、P(ut=0|ut−1=1,πt−1,πt)はπtにのみ依存すると定めてもよい。つまり、置き忘れが発生する確率は移動元の位置に依存し、置き忘れが解消する確率は移動先の位置に依存すると定めることで、置き忘れた位置を記憶せずに推定することができる。本来、置き忘れが解消するのは、以前の位置に戻ったときであるが、置き忘れた位置を記憶しないモデルを用いることによって、どの位置で置き忘れが発生したかにかかわらず、移動先に依存して置き忘れ解消確率を求めることも可能である。
【0078】
以上をふまえて、センサ情報を出力記号としてみた際に、センサ情報の列{x1,x2,...,xt}が観測されたときに、各状態siにいる確率Pi(t)を求めると、確率変数という形でプレゼンス情報とともにプレゼンス情報の確からしさを示す信頼度を導出することができる。この確率Pi(t)は、事後確率ともいい、条件付き確率P(si|x1,x2,...,xt)で示され、HMMに対する前向きアルゴリズムを用いて再帰的にPi(t−1)を計算しながら求めることによって導出可能である。
【0079】
具体的には、まず時刻0において、どの状態にいるかを初期存在確率に基づいて決定する。この際、ミクロ状態はそのマクロ状態の入り口のミクロ状態とし、所持状態は置き忘れなしとする。その上で、HMMの状態遷移確率と出力確率、現時刻のセンサ情報と時間帯と予定、および過去の事後確率から、時刻tにおいて状態iにいて置き忘れがvである前向き確率fiv(t)を以下の式によって求める。ここで、iは時刻tにおいてどの状態にいるかを表し、vは時刻tにおける置き忘れの有無を表す(v=1は置き忘れ有り、v=0は置き忘れ無しを表す。)。また、kおよびwは、時刻tにおけるiおよびvと区別するために便宜的につけた記号で、時刻t−1における状態および置き忘れ有無を表す。
【0080】
【数5】
【0081】
次に、求めた前向き確率fiv(t)を用いて、時刻tにおいてセンサ情報の列が観測された時に各状態siにいる確率を示す事後確率Pi(t)を以下の式を用いて計算する。
【0082】
【数6】
【0083】
このような方法を用いることによって、プレゼンス情報を確率変数という形で導出することができ、確率変数が示す各状態にいる確率に基づいてプレゼンスを推定することができる。さらに、確率変数が示す各状態にいる確率の高さは、そのままプレゼンス情報の信頼度とすることができ、この信頼度の大小をサービス提供補可否を決める際の判断材料に用いることも可能である。
【0084】
また、確率モデルの説明の際に、推定パラメータを予め記憶しておくと説明したが、推定パラメータは、実データを使った学習によって求めることも可能である。つまり、実際のセンサ情報や滞在位置の記録を用い、それに合致するようなパラメータを求めてもよい。具体的には、学習のためのデータとして、出力記号(センサ情報)とそのときの状態(真の滞在位置)が得られる場合には、最尤推論(maximum likelihood estimation )が行える。また、学習のためのデータとして出力記号のみ得られる場合には、Baulm−Welchアルゴリズムを用いて求めてもよい。Baulm−Welchアルゴリズムは、HMMに用いるパラメータの取得方法として知られているEMアルゴリズムと呼ばれる学習法の一種であって、反復的にパラメータの改良を行い、反復ごとにパラメータの尤度が単調増加することが保証されるアルゴリズムである。なお、上記に示したBaulm−Welchアルゴリズムは、例えば文献1に記載されている。
【0085】
次に、本発明による情報処理システムの構成について説明する。図5は、本発明による情報処理システムの構成例を示すブロック図である。図5に示す情報処理システムは、利用者の位置をプレゼンスとして用い、プレゼンス情報に基づいてサービスを提供するサービス提供システム3に、プレゼンス情報を信頼度付きで提供するプレゼンス情報推定サーバ2を備えていることを特徴とする。また、本実施の形態において、推定対象であるプレゼンスが、利用者の位置を示す位置情報である場合を例にとって説明する。
【0086】
本発明による情報処理システムは、図5に示すように、利用者1が携帯する利用者端末11と、プレゼンス情報推定サーバ2と、サービス提供サーバと、センサシステム211と、時刻サーバ212と、予定表システム213とを備える。図5には、利用者端末11が1つしか図示されていないが、複数備えていてもよい。また、サービス提供システム3にサービスを要求する利用者端末11と位置情報のセンシング対象となる利用者端末11とは、別の端末装置であってもよい。なお、図5に示す情報処理システムは、プレゼンス情報に基づいてサービス制御を行うサービス提供サーバ3を例示したが、プレゼンス情報を用いる装置であれば、サービス提供サーバである必要はない。サービス提供サーバ3とプレゼンス情報推定サーバ2、またはプレゼンス情報推定サーバ2とセンサシステム211、時刻サーバ211、および予定表システム213は、インターネットなどの通信ネットワークを介して接続されるか、もしくは同一装置として構成されていてもよい。
【0087】
利用者端末11は、例えば、RFIDタグなどのID送信機や、特定の基地局と無線でリンクを張る携帯型端末、またはGPS等を用いて自ら位置情報を発信する携帯端末機であって、センサシステム211に利用者端末11の位置情報を検出させることが可能な携帯型端末装置である。
【0088】
サービス提供サーバ3は、例えば、プレゼンス情報に基づいてサービスを提供するか否かを判断するサービス提供判定部31を備え、利用者からのサービス要求に応じてサービスを提供するサーバ装置であって、具体的にはプログラムに従って動作するパーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。サービス提供サーバ3は、信用に基づくMAC(Mandatory Access Control)のようなサービス利用制御を実行してもよい。MACは、インターネット上でのセキュリティ技術に関する制御方法であるアクセスコントロールの一種である。なお、上記に示した制御方法は、例えば文献「R. Shirey, "Internet Security Glossary", RFC 2828, 2000, pp.104 」に記載されている。
【0089】
センサシステム211は、利用者端末11の位置を検出して、検出した位置を示すセンサ情報をプレゼンス情報推定サーバ2に出力するシステムである。センサシステム211は、セッション開始プロトコル(session initiation protocol, SIP)のプレゼンスイベントパッケージに従って情報提供を行うプレゼンスサービスシステムであってもよい。プレゼンスサービスシステムとは、プレゼンス情報を受け入れてウォッチャーに配信するプレゼンスサービスを行うシステムである。プレゼンスサービスに用いるプロトコルであるプレゼンスプロトコルにSIPを使用する方法は、例えば、文献「J. Rosenberg, "A Presence Event Package for the Session Initiation Protocol (SIP)", RFC 3856, 2004」に記載されている。
【0090】
また、SIPを用いたセンサ情報取得方法については、文献「千村保文、村田利文著,「改訂版SIP教科書」,インプレス,2004年,p.205−218」などにおいて広く知られている方法を利用できる。上記文献には、SIPを用いたプレゼンスサーバの実現方法として、プレゼンスサービスの仕組み(構成)や、プレゼンスサービスを実現するための購読/通知メソッドの用法(シーケンス例)、およびその手順について記載されている。このようなプレゼンスサービスを用いてセンサシステムを実現すれば、例えば、RFIDタグなどのID送信機や、特定の基地局と無線でリンクを張る携帯型端末、またはGPSを用いて自ら位置情報を発信する携帯型端末などの利用者端末11を利用者に持たせることによって、利用者端末に紐つけられた位置を示す情報(センサ情報)を検出することができる。ここで、センサシステムとして検出するセンサ情報は、オフィス環境を例にとると、{会議質1、会議室2、食堂、圏外}などが想定できる。圏外とは、センサシステムが利用者端末からセンサ情報を検出できなかった場合のセンサシステムの出力を意味する。また、センサシステム211は、定期的にセンサ情報を収集し、時系列に沿って記憶しておいてもよい。
【0091】
時刻サーバ212は、現在時刻を検出する時計装置を備え、プレゼンス情報推定サーバ2に検出した現在時刻を出力するサーバ装置であって、具体的にはプログラムに従って動作するパーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。また、時刻サーバ212は、現在時刻を入力して時間帯を出力するような簡易データベースを備え、プレゼンス情報推定サーバ2からの要求に応じて、現在時刻が属する時間帯を出力してもよい。ここで、時間帯は、オフィス環境を例にとると、{午前中、昼休み、午後、残業時間中}などが想定できる。
【0092】
予定表システム213は、利用者単位にスケジュール情報を管理し、プレゼンス情報推定サーバ2に、少なくともある利用者の現時刻における予定を出力するシステムである。スケジュール情報とは、利用者のプレゼンスに関連する予定を示す情報である。例えば、図6に示すように、予定の日付と、開始時刻と、終了時刻と、予定の内容を表す用件と、予定の場所とを含んでいてもよい。図6は、予定表システムが管理するスケジュール情報の一例を示す説明図である。予定表システム213は、ある利用者の現時刻における予定を問い合わせると、該当する利用者のスケジュール情報を参照し、少なくとも予定の内容を示す用件(以下、単に「予定」という。)を問い合わせ元に返してもよい。ここで、予定は、オフィス環境を例にとると、{会議室1で会議、会議室2で会議、食事中}などが想定できる。また、センサシステム211、時計サーバ212および予定表システム213は、プレゼンス情報推定サーバ2の内部に備えていてもよい。
【0093】
次に、プレゼンス情報推定サーバ2の構成について説明する。プレゼンス情報推定サーバ2は、要求に応じて推定したプレゼンス情報を提供するサーバ装置であって、具体的にはプログラムに従って動作するパーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。プレゼンス情報推定サーバ2は、図5に示すように、可観測変数取得部21と、推定パラメータ記憶部22と、非可観測変数推定部23と、出力記号記憶部24とを有する。可観測変数取得部21は、推定対象である非可観測変数と相関のある可観測変数(本例では、センサ情報、時間帯、予定)を収集し、非可観測変数推定部23に受け渡す。可観測変数取得部21は、例えば、センサシステム211に問い合わせて、利用者の位置を示すセンサ情報を定期的に収集し、収集したセンサ情報を時間軸に従って出力記号記憶部24に記憶してもよい。また例えば、時刻サーバ212や予定表システム213に問い合わせて、現在の時間帯や利用者の現時刻における予定を収集し、収集した情報を非可観測変数推定部23に出力する。
【0094】
推定パラメータ記憶部22は、推定対象である非可観測変数と相関関係にある可観測変数に基づいて非可観測変数(プレゼンス情報)を導出するために用いる推定パラメータを記憶する。なお、推定パラメータは、予め推定パラメータ記憶部22に記憶しておいてもよいし、実データを入力して学習によって求めたものを随時記憶してもよい。
【0095】
出力記号記憶部24は、HMMにおける出力記号であるセンサ情報を時系列に沿って記憶する。また、出力記号記憶部24は、プレゼンスの推定に用いる過去の推定結果(過去のプレゼンス情報)や、推定パラメータの学習に用いる実データを記憶してもよい。
【0096】
非可観測変数推定部23は、可観測変数取得部21によって収集された可観測変数と、推定パラメータ記憶部22に記憶されている推定パラメータと、前回導出したプレゼンス情報とに基づいて、センサ情報の列が観測されたときに各位置にいる確率(事後確率)を、HMMに対する前向き確率を用いて求める。ここで求める確率は、確率変数として導出されたプレゼンス情報である。非可観測変数推定部23は、サービス提供サーバ3からの要求に応じて、求めた確率変数が示す信頼度付きプレゼンス情報を出力する。この際、全位置に対する信頼度をまとめて出力してもよいし、最も高い確率を示した位置とその信頼度を出力してもよい。
【0097】
なお、本実施の形態において、可観測変数取得部21および非可観測変数推定部23は、プログラムに従って動作するCPUによって実現される。また、推定パラメータ記憶部22および出力記号記憶部24は、記憶装置によって実現される。なお、プログラムは、プレゼンス情報推定サーバ2が備える記憶装置に記憶される。
【0098】
次に、本実施の形態の動作について図7を参照して説明する。図7は、情報処理システムによるプレゼンス推定処理の一例を示すフローチャートである。まず、プレゼンス情報推定サーバ2の可観測変数取得部21は、センサシステム211へ問い合わせ、定期的にセンサ情報を受信し、受信したセンサ情報を出力記号記憶部24に記憶する(ステップS21)。ここで、サービス提供サーバ3が信頼度付きプレゼンスを要求すると(ステップS31)、可観測変数取得部21は、時刻サーバ212および予定表システム213からそれぞれ時間帯、予定を取得する(ステップS22,S23)。
【0099】
具体的には、サービス提供サーバ3は、例えば、利用者1についての信頼度付きプレゼンスを要求する旨のプレゼンス要求メッセージをプレゼンス情報推定サーバ2へ送信する。サービス提供サーバ3からプレゼンス要求メッセージを受信すると、可観測変数取得部21は、時刻サーバ212へ現在時刻が属する時間帯を要求する旨の時間帯要求メッセージを送信する。時刻サーバ212は、時間帯要求メッセージを受信すると、現在時刻を検出し、現在時刻が属する時間帯を導出して、導出した時間帯を含む応答メッセージを送信する。可観測変数取得部21は、時刻サーバ212から時間帯を含む応答メッセージを受信する。ここで、時刻サーバ212は、時間帯を導出せずに、検出した現在時刻を含むメッセージを返信し、可観測変数取得部21が、所定の間隔に基づいて現在時刻が属する時間帯を導出してもよい。
【0100】
また、サービス提供サーバ3からプレゼンス要求メッセージを受信すると、可観測変数取得部21は、予定表システム213へ利用者1の現在時刻の予定を要求する旨の予定要求メッセージを送信する。予定表システム213は、予定要求メッセージを受信すると、記憶しているスケジュール情報を参照して、利用者1の現在時刻の予定を読み出し、読み出した予定を含む応答メッセージを送信する。予定が登録されていない場合にはその旨を示す情報を返信する。可観測変数取得部21は、予定表システム213から予定を含む応答メッセージを受信する。
【0101】
次に、プレゼンス情報推定サーバ2の非可観測変数推定部23は、推定パラメータ記憶部22から推定パラメータを読み込む(ステップS24)。非可観測変数推定部23は、まず、各状態siについて、自己ループを持つマクロ状態を用いて持続長の分布を表現した持続長モデルを生成する(ステップS25)。次に、非可観測変数推定部23は、持続長モデルに従って、時刻tにおいて各状態siにいる確率(事後確率)Pi(t)を、HMMに対する前向きアルゴリズムを用いて再帰的にPi(t−1)を計算しながら求める(ステップS26)。非可観測変数推定部23は、求めた事後確率を、信頼度付きプレゼンス情報としてサービス提供サーバ3に送信する。サービス提供サーバ3は、受信した信頼度付きプレゼンス情報で示されるプレゼンスおよびその信頼度を利用して、サービスの実施の判定等を行う(ステップS32)。
【0102】
以上のように、本実施の形態によれば、必ずしも正確でないセンサ情報を補間・修正して、より信頼度の高いプレゼンス情報を提供することができる。つまり、プレゼンスをセンシングしたセンサ情報の他、利用者特性(予定に対応する位置存在確率、利用者端末の置き忘れ確率)や、時間特性(過去の位置存在確率、時間帯に対応する位置存在確率、角位置に存在する持続長)を系統的に利用し、プレゼンスの候補それぞれに確からしさを与えて出力することができる。このため、例えば利用者の現在位置を推定する場合において、利用者端末を身につけていない場合、利用者端末から安定したセンシングができていない場合、センサシステムの無い場所に移動した場合であっても、利用者の予定表や行動モデルに基づいて信頼度を導出し、より確かな位置を提供することができる。
【0103】
また、本発明を用いることによって、センサシステムそのものに高信頼性を要求しなくてすみ、低コスト化を図ることができる。例えば、性能や品質で劣る安いセンサが使用できる可能性や、センサの設置が困難な場所を追跡対象とすることができる可能性が高くなる。
【0104】
また、プレゼンスの信頼度を用いて、信用に基づくサービス制御等を、利便性よく実現することができる。例えば、「会議室に居る」というプレゼンスの信頼度が90%以上ならサービスを提供するが,それ未満なら提供しないといったサービス提供可否判定のためのポリシを実現できる。また例えば、プレゼンスをMAC(Mandatory Access Control)に従うアクセスコントロールに利用できる。
【0105】
また、センサ情報や他の情報源を個々に参照すると、それぞれ信頼性が異なるが、本実施の形態においては、センサ情報や他の情報源を系統的にまとめた上でプレゼンスの信頼度を導出することにより、定量的な信頼度を出力することができる。
【0106】
なお、本実施の形態において、プレゼンス導出手段は非可観測変数推定部23によって実現される。推定パラメータ記憶手段は、推定パラメータ記憶部22によって実現される。予定管理手段は、予定表システム213によって実現される。時間帯管理手段は、時刻サーバ212または可観測変数取得部21によって実現される。センサ情報記憶手段は、出力記号記憶部24によって実現される。
【実施例1】
【0107】
次に、具体的な本発明の実施例について説明する。本発明による情報処理システムにおいて、あるサービスやリソースへのアクセス制御といったサービス提供可否判定を行う場合について説明する。本実施例では、特定の人物による特定の機器(PC等)や機能(LANへのアクセス等)の利用可否を行う場合について説明する。
【0108】
サービス提供サーバ3への典型的な問い合わせは、「あるサービスをある利用者に提供することができるか」といったサービス要求である。例えば、「非常勤社員に、パスワードなしでオフィス環境の無線LAN接続の許可を許すか」といった問い合わせを行ってもよい。このような問い合わせに対して、例えば、一階述語論理を用いた推定(確定Horn節論理におけるSLDレゾリューション)で次のような可否の判定を行うことができる。このとき、図8に示すような述語を導入することができる。図8は、一階述語論理を用いた推定に導入される基本述語やポリシ定義述語の例を示す説明図である。
【0109】
図8に示すように、基本述語として、例えば、プレゼンス情報推定サーバ2が出力した信頼度付きプレゼンス情報を表す述語に「利用者Aは○%以上の信頼度で○○にいる」などを導入してもよい。また例えば、利用者のデジタル証明書をPKI(公開鍵基盤)サーバが検証した結果を示す述語に「利用者Aが提示した本社発行の社員証はPKIサーバにより有効であると検証済みである」などを導入してもよい。また例えば、利用者の予定を表す述語に「利用者Aは予定表によると現在会議中である」などを導入してもよい。また、ポリシ定義述語として、例えば、利用者へのアクセス権やロール(役割)の割り当てを表す述語に「利用者Aに会議室Bに入場する権限を与える」や「利用者Aに無線LANにパスワード入力なしで接続する権限を与える」などを導入してもよい。
【0110】
ポリシ定義述語は、基本述語に基づき、一般に再帰的な推論規則(確定Horn節)により定義する。これらの推論規則の集合を、サービス提供可否判定ポリシと呼ぶ。ここで、図8に示すように、サービス提供可否判定ポリシにプレゼンス情報が含まれているため、信頼度付きプレゼンス情報に基づいて、例えば「非常勤社員Bが少なくとも一人の常勤社員と一定以上の信頼度で会議室にいれば、無条件で無線LANへの接続を許可するが、そうでなければパスワード入力が必要である」といったサービス制御が可能となる。また、接続を許可した利用者のプレゼンスが、一定の信頼度を下回れば接続を切断するといった制御も可能である。
【実施例2】
【0111】
次に、オフィス環境での位置情報提供サービスへの応用例を説明する。本実施例において、プレゼンスはオフィス環境における位置とし、プレゼンスの集合として{居室、お茶のみ場、会議室}が与えられるとする。ここでは、居室と会議室はセンサシステムで検知可能だが、お茶のみ場は検知できないとする。
【0112】
図9および図10は、プレゼンスの決定結果を示す説明図である。図9はプレゼンスをセンサ情報が指し示す場所のみを参照して決定した結果を示し、図10は本発明において出力する信頼度付きプレゼンス情報によって決定されるプレゼンスを示している。図9に示すプレゼンスの決定結果からは、利用者Aが、15時30分に居室にいることがわかる。図10に示すプレゼンスの決定結果から、利用者Aが、15時30分に60%の確率で居室にいること、また30%の確率で会議室に、10%の確率でお茶のみ場にいることがわかる。この結果は、例えば、会議の予定が登録されている影響によるものである。
【0113】
センサ情報によるプレゼンスの決定結果から、例えば、利用者Aと対面でのコミュニケーション(打ち合わせ等)を求めて、居室に向かうことができるが、もし居室にいなかった場合に、次にどの場所に行けば利用者Aに出会えるかまではわからない。信頼度付きプレゼンス情報からは、次に会議室にいけば出会える可能性が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、利用者の位置や動作を示すプレゼンス情報を用いてサービス制御を行うサービス制御システムに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】プレゼンス情報を推定するための確率モデルを説明する説明図である。
【図2】HMMにおける推定パラメータの一例を示す説明図である。
【図3】自己ループを持つマクロ状態を用いた持続長の分布の一例を示す説明図である。
【図4】利用者の位置と置き忘れの有無を推定するための確率モデルを示す説明図である。
【図5】本発明による情報処理システムの構成例を示すブロック図である。
【図6】予定表システムが管理するスケジュール情報の一例を示す説明図である。
【図7】情報処理システムによるプレゼンス推定処理の一例を示すフローチャートである。
【図8】一階述語論理を用いた推論に導入される基本述語やポリシ定義述語の一例を示す説明図である。
【図9】プレゼンスの決定結果を示す説明図である。
【図10】プレゼンスの決定結果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0116】
1 利用者
11 利用者端末
2 プレゼンス情報推論サーバ
21 可観測変数取得部
22 推定パラメータ記憶部
23 非可観測変数推定部
24 出力記号記憶部
211 センサシステム
212 時刻サーバ
213 予定表システム
3 サービス提供サーバ
31 サービス提供判定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定するプレゼンス推定手段を備えた
ことを特徴とする情報処理システム。
【請求項2】
プレゼンス推定手段は、所定の確率モデルに基づいて、人の位置又は動作状態を示す情報であるプレゼンス情報を確率変数として導出することによって、人のプレゼンスを推定する請求項1記載の情報処理システム。
【請求項3】
プレゼンス推定手段は、
プレゼンスと相関を持つ情報である可観測変数を取得する可観測変数取得手段と、
前記可観測変数とプレゼンスとの相関関係を示す情報である推定パラメータを記憶する推定パラメータ記憶手段と、
利用者のプレゼンス情報を、プレゼンス情報がとりうる内容の集合上の確率変数として、外部からは観測できない情報である非可観測変数として、前記可観測変数取得手段が取得した可観測変数と前記推定パラメータ記憶手段に記憶される推定パラメータとに基づいて導出する非可観測変数導出手段とを有する
請求項2記載の情報処理システム。
【請求項4】
非可観測変数導出手段は、可観測変数とともに、過去に導出したプレゼンス情報に基づいて、現在のプレゼンス情報を導出する
請求項3記載の情報処理システム。
【請求項5】
可観測変数収集手段は、利用者のプレゼンスを検知するセンサシステムに要求し、定期的に前記センサシステムが検知した利用者のプレゼンスを示す情報であるセンサ情報を取得する
請求項4記載の情報処理システム。
【請求項6】
可観測変数収集手段は、利用者の所定の時刻におけるプレゼンス情報のとりうる内容を予定として管理する予定管理手段に要求し、現時刻におけるプレゼンス情報の予定を取得する
請求項4または請求項5に記載の情報処理システム。
【請求項7】
可観測変数収集手段は、所定の時刻が属する時間帯を管理する時間帯管理手段に要求し、現時刻が含まれる時間帯を取得する
請求項4から請求項6のうちのいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項8】
可観測変数収集手段が取得したセンサ情報を、時系列に従って記憶するセンサ情報記憶手段を備えた
請求項5記載の情報処理システム。
【請求項9】
非可観測導出手段は、時間とともに変化する非可観測変数を可観測変数に基づいて推定する確率モデルとして隠れマルコフモデルを用い、各時間におけるプレゼンス情報を隠れマルコフモデルの内部状態として定式化し、少なくとも可観測変数取得手段が取得した可観測変数のうち少なくともいずれか1つ以上、又は過去に導出したプレゼンス情報に基づいて、現在のプレゼンス情報を導出する
請求項4から請求項8のうちのいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項10】
推定パラメータ記憶手段は、推定パラメータとして、少なくとも最初に内部状態siにいる確率(iは内部状態数をjとする場合の内部状態に対応する自然数,0<i≦j)を示す初期存在確率と、状態遷移確率として、内部状態st−1から内部状態stに遷移する確率(tは観測した時刻に対応する自然数、0<t)および時刻tの各可観測変数の内容において内部状態stにいる確率と、内部状態stに遷移する際にセンサ情報xtが出力される確率を示す出力確率とを記憶し、
非可観測推定手段は、前記推定パラメータ記憶手段に記憶される初期存在確率、状態遷移確率、および出力確率に基づいて、現時刻において各内部状態にいる確率を求めることによって、現在のプレゼンス情報を導出する
請求項9記載の情報処理システム。
【請求項11】
非可観測推定手段は、状態遷移確率として、前時刻における内部状態st−1、現時刻における時間帯zt、及び現時刻における予定ytに対する条件付き確率P(st|st−1,yt,zt)を用いる
請求項10記載の情報処理システム。
【請求項12】
推定パラメータ記憶手段は、状態遷移確率として、内部状態st−1から内部状態stに移動する確率を示す状態間移動確率P(st|st−1)と、予定ytにおいて内部状態stにいる確率を示す予定別存在確率P(st|yt)と、時間帯ztにおいて内部状態stにいる確率を示す時間帯別存在確率P(st|zt)と、少なくとも前記状態間移動確率と前記予定別存在確率と前記時間帯別存在確率のうちのいずれか2つの重みα,βとを記憶し、
非可観測推定手段は、前記推定パラメータ記憶手段に記憶されていない1つの重みを1−α−βとして算出し、前時刻の内部状態st−1と現時刻の予定ytと現時刻の時間帯ztの3つの要因による現時刻の状態stへの影響をそれぞれ独立に与える重み付き線形和を計算することによって状態遷移確率である条件付き確率P(st|st−1,yt,zt)を求める
請求項11記載の情報処理システム。
【請求項13】
推定パラメータ記憶手段は、少なくとも前記状態間移動確率と前記予定別存在確率と前記時間帯別存在確率のうちのいずれか2つの重みα,βとして、少なくともセンサ情報の受信有無、時間帯、予定の登録有無のうちのいずれかの状態に応じて2種類以上の値を記憶し、
非可観測推定手段は、少なくともセンサ情報の受信有無、時間帯、予定の登録有無のうちのいずれかの状態に応じて前記推定パラメータ記憶手段に記憶される重みα,βを使い分ける
請求項12記載の情報処理システム。
【請求項14】
非可観測推定手段は、各内部状態に留まる時間を示す持続長の分布を、自己ループを持つ状態の列からなるマクロ状態を用いて隠れマルコフモデルの内部状態を定式化する
請求項9から請求項13のうちのいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項15】
推定パラメータ記憶手段は、各内部状態における持続長の平均μiと標準偏差σi(iは内部状態数をjとする場合の内部状態に対応する自然数,0<i≦j)を記憶し、
非可観測推定手段は、マクロ状態の形態として、同じ自己ループ状態pを持つミクロ状態を左から右に一列に並べ、他のマクロ状態から遷移できる入り口のミクロ状態と、他のマクロ状態へ遷移できる出口のマクロ状態がそれぞれ1つに決まっている形態を採り、ミクロ状態の数をrとする場合に−1つのマクロ状態に留まる持続長の分布は、自己ループがk回起きるまでに何回ミクロ状態を遷移したかを示す負の二項分布に従うとして、各内部状態siの自己ループ確率piを、推定パラメータ記憶手段に記憶される平均μiと標準偏差σiを用いて以下の式によって求め、
pi=(σi)2/((μi)2+σi)
ミクロ状態の数rをr=(1−pi)μiを超えない最大の自然数とし、現時刻のミクロ状態をρtとする場合、状態間遷移確率P(st|st−1)を、前時刻の内部状態st−1がマクロ状態における出口のミクロ状態にあって、現時刻の内部状態stが別のマクロ状態における入り口のミクロ状態にある場合はそのままとし、前時刻の内部状態st−1と現時刻の内部状態stが同じマクロ状態に属するミクロ状態にある場合には1−piとし、それ以外の場合は、0とするミクロ状態間遷移確率P(ρt|ρt−1)に拡張する
請求項14記載の情報処理システム。
【請求項16】
非可観測推定手段は、状態遷移確率として、ミクロ状態間遷移確率に拡張した条件付き確率P(ρt|ρt−1,yt,zt)を用い、[ρ]をミクロ状態ρが属するマクロ状態、[ρ]entをミクロ状態ρが属するマクロ状態の入り口のミクロ状態、[ρ]exitをミクロ状態ρが属するマクロ状態の出口のミクロ状態とする場合、状態遷移確率である条件付き確率P(ρt|ρt−1,yt,zt)を以下の式を用いて求める
【数3】
請求項15記載の情報処理システム。
【請求項17】
非可観測推定手段は、予定別存在確率P(st|yt)と、時間帯別存在確率P(st|zt)とを、マクロ状態において定義される条件付き確率として捉え、予定および時間帯は、出口でないミクロ状態からも異なるマクロ状態の入り口へ遷移させる要因、または同じマクロ状態に留まる要因としてミクロ状態間遷移確率に用いる
請求項16記載の情報処理システム。
【請求項18】
非可観測推定手段は、センサ情報を出力記号とし、現時刻tにおいて、センサ情報xtの列{x1,x2,...,xt}が観測された時に各内部状態siにいる確率を示す事後確率を、条件付き確率P(si|x1,x2,...,xt)として、HMMに対する前向きアルゴリズムを用いて求める
請求項9から請求項17のうちのいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項19】
プレゼンス推定手段は、第1のプレゼンス情報として、利用者端末を用いて検出可能な利用者の位置を示す位置情報を導出し、
非可観測推定手段は、現時刻における利用者端末の置き忘れ有無を示す真偽値変数utを第2のプレゼンス情報として導出し、導出した第2のプレゼンス情報に基づいて、前記第1のプレゼンス情報を導出する
請求項9から請求項18のうちのいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項20】
推定パラメータ記憶手段は、所持確率として、前時刻の位置πt−1から現時刻の位置πtに移動する際に置き忘れが発生または解除する確率を示す位置間所持確率P(ut|ut,πt−1,πt−1)と、現時刻の予定ytにおいて置き忘れが発生または解除する確率を示す予定別所持確率P(ut|ut−1,yt)と、現時刻の時間帯ztにおいて置き忘れが発生または解除する確率を示す時間帯別所持確率P(ut|ut−1,zt)と、少なくとも前記位置間所持確率と前記予定別所持確率と前記時間帯別所持確率のうちのいずれか2つの重みα,βとを記憶し、
非可観測推定手段は、所持ut=0、非所持ut=1とする場合、前記推定パラメータ記憶手段に記憶されていない1つの重みを1−α−βとして算出し、位置の移動と現時刻の予定と現時刻の時間帯の3つの要因による置き忘れ有無utへの影響をそれぞれ独立に与える重み付き線形和を以下の式を用いて計算することによって所持確率である条件付き確率P(ut|ut−1,πt−1,πt,yt,zt)を求める
【数4】
請求項19記載の情報処理システム。
【請求項21】
非可観測推定手段は、所持確率P(ut|ut−1,πt−1,πt,yt,zt)は、置き忘れが発生する確率(ut=1,ut−1=0の場合における所持確率)は移動元の位置πt−1に依存し、置き忘れが解消する確率(ut=0,ut−1=1の場合における所持確率)は移動先の位置πtに依存するとして、所持確率を求める
請求項20記載の情報処理システム。
【請求項22】
推定パラメータ記憶手段は、出力確率として、利用者端末を置き忘れていない場合の出力確率を示す条件付き確率P(xt|πt,ut=0)と、利用者端末を置き忘れていない場合の出力確率を示す条件付き確率P(xt|πt,ut=1)とを記憶し、
非可観測推定手段は、時刻0においては、置き忘れ無し、かつ推定パラメータ記憶手段に記憶される初期存在確率で与えられた確率で各マクロ状態の入り口のミクロ状態にあると導出し、時刻tにおいては、状態遷移確率と出力確率、現時刻のセンサ情報と時間帯と予定、および前時刻における前向き確率の計算結果とから、時刻tにおいて内部状態iにいて置き忘れがvである前向き確率fiv(t)を以下の式によって求め、
【数5】
さらに、事後確率Pi(t)を以下の式を用いて求める
【数6】
請求項21記載の情報処理システム。
【請求項23】
非可観測推定手段により導出されたプレゼンス情報の信頼度の大小を信用の大小として、信用に基づく強制アクセス制御によるサービス利用制御を実施するサービス提供判定部を備える
請求項18記載の情報処理システム。
【請求項24】
人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定するプレゼンス推定手段を備えた
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項25】
情報処理装置が、人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定する
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項26】
コンピュータに、
人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定する処理
を実行させるための情報処理プログラム。
【請求項1】
人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定するプレゼンス推定手段を備えた
ことを特徴とする情報処理システム。
【請求項2】
プレゼンス推定手段は、所定の確率モデルに基づいて、人の位置又は動作状態を示す情報であるプレゼンス情報を確率変数として導出することによって、人のプレゼンスを推定する請求項1記載の情報処理システム。
【請求項3】
プレゼンス推定手段は、
プレゼンスと相関を持つ情報である可観測変数を取得する可観測変数取得手段と、
前記可観測変数とプレゼンスとの相関関係を示す情報である推定パラメータを記憶する推定パラメータ記憶手段と、
利用者のプレゼンス情報を、プレゼンス情報がとりうる内容の集合上の確率変数として、外部からは観測できない情報である非可観測変数として、前記可観測変数取得手段が取得した可観測変数と前記推定パラメータ記憶手段に記憶される推定パラメータとに基づいて導出する非可観測変数導出手段とを有する
請求項2記載の情報処理システム。
【請求項4】
非可観測変数導出手段は、可観測変数とともに、過去に導出したプレゼンス情報に基づいて、現在のプレゼンス情報を導出する
請求項3記載の情報処理システム。
【請求項5】
可観測変数収集手段は、利用者のプレゼンスを検知するセンサシステムに要求し、定期的に前記センサシステムが検知した利用者のプレゼンスを示す情報であるセンサ情報を取得する
請求項4記載の情報処理システム。
【請求項6】
可観測変数収集手段は、利用者の所定の時刻におけるプレゼンス情報のとりうる内容を予定として管理する予定管理手段に要求し、現時刻におけるプレゼンス情報の予定を取得する
請求項4または請求項5に記載の情報処理システム。
【請求項7】
可観測変数収集手段は、所定の時刻が属する時間帯を管理する時間帯管理手段に要求し、現時刻が含まれる時間帯を取得する
請求項4から請求項6のうちのいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項8】
可観測変数収集手段が取得したセンサ情報を、時系列に従って記憶するセンサ情報記憶手段を備えた
請求項5記載の情報処理システム。
【請求項9】
非可観測導出手段は、時間とともに変化する非可観測変数を可観測変数に基づいて推定する確率モデルとして隠れマルコフモデルを用い、各時間におけるプレゼンス情報を隠れマルコフモデルの内部状態として定式化し、少なくとも可観測変数取得手段が取得した可観測変数のうち少なくともいずれか1つ以上、又は過去に導出したプレゼンス情報に基づいて、現在のプレゼンス情報を導出する
請求項4から請求項8のうちのいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項10】
推定パラメータ記憶手段は、推定パラメータとして、少なくとも最初に内部状態siにいる確率(iは内部状態数をjとする場合の内部状態に対応する自然数,0<i≦j)を示す初期存在確率と、状態遷移確率として、内部状態st−1から内部状態stに遷移する確率(tは観測した時刻に対応する自然数、0<t)および時刻tの各可観測変数の内容において内部状態stにいる確率と、内部状態stに遷移する際にセンサ情報xtが出力される確率を示す出力確率とを記憶し、
非可観測推定手段は、前記推定パラメータ記憶手段に記憶される初期存在確率、状態遷移確率、および出力確率に基づいて、現時刻において各内部状態にいる確率を求めることによって、現在のプレゼンス情報を導出する
請求項9記載の情報処理システム。
【請求項11】
非可観測推定手段は、状態遷移確率として、前時刻における内部状態st−1、現時刻における時間帯zt、及び現時刻における予定ytに対する条件付き確率P(st|st−1,yt,zt)を用いる
請求項10記載の情報処理システム。
【請求項12】
推定パラメータ記憶手段は、状態遷移確率として、内部状態st−1から内部状態stに移動する確率を示す状態間移動確率P(st|st−1)と、予定ytにおいて内部状態stにいる確率を示す予定別存在確率P(st|yt)と、時間帯ztにおいて内部状態stにいる確率を示す時間帯別存在確率P(st|zt)と、少なくとも前記状態間移動確率と前記予定別存在確率と前記時間帯別存在確率のうちのいずれか2つの重みα,βとを記憶し、
非可観測推定手段は、前記推定パラメータ記憶手段に記憶されていない1つの重みを1−α−βとして算出し、前時刻の内部状態st−1と現時刻の予定ytと現時刻の時間帯ztの3つの要因による現時刻の状態stへの影響をそれぞれ独立に与える重み付き線形和を計算することによって状態遷移確率である条件付き確率P(st|st−1,yt,zt)を求める
請求項11記載の情報処理システム。
【請求項13】
推定パラメータ記憶手段は、少なくとも前記状態間移動確率と前記予定別存在確率と前記時間帯別存在確率のうちのいずれか2つの重みα,βとして、少なくともセンサ情報の受信有無、時間帯、予定の登録有無のうちのいずれかの状態に応じて2種類以上の値を記憶し、
非可観測推定手段は、少なくともセンサ情報の受信有無、時間帯、予定の登録有無のうちのいずれかの状態に応じて前記推定パラメータ記憶手段に記憶される重みα,βを使い分ける
請求項12記載の情報処理システム。
【請求項14】
非可観測推定手段は、各内部状態に留まる時間を示す持続長の分布を、自己ループを持つ状態の列からなるマクロ状態を用いて隠れマルコフモデルの内部状態を定式化する
請求項9から請求項13のうちのいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項15】
推定パラメータ記憶手段は、各内部状態における持続長の平均μiと標準偏差σi(iは内部状態数をjとする場合の内部状態に対応する自然数,0<i≦j)を記憶し、
非可観測推定手段は、マクロ状態の形態として、同じ自己ループ状態pを持つミクロ状態を左から右に一列に並べ、他のマクロ状態から遷移できる入り口のミクロ状態と、他のマクロ状態へ遷移できる出口のマクロ状態がそれぞれ1つに決まっている形態を採り、ミクロ状態の数をrとする場合に−1つのマクロ状態に留まる持続長の分布は、自己ループがk回起きるまでに何回ミクロ状態を遷移したかを示す負の二項分布に従うとして、各内部状態siの自己ループ確率piを、推定パラメータ記憶手段に記憶される平均μiと標準偏差σiを用いて以下の式によって求め、
pi=(σi)2/((μi)2+σi)
ミクロ状態の数rをr=(1−pi)μiを超えない最大の自然数とし、現時刻のミクロ状態をρtとする場合、状態間遷移確率P(st|st−1)を、前時刻の内部状態st−1がマクロ状態における出口のミクロ状態にあって、現時刻の内部状態stが別のマクロ状態における入り口のミクロ状態にある場合はそのままとし、前時刻の内部状態st−1と現時刻の内部状態stが同じマクロ状態に属するミクロ状態にある場合には1−piとし、それ以外の場合は、0とするミクロ状態間遷移確率P(ρt|ρt−1)に拡張する
請求項14記載の情報処理システム。
【請求項16】
非可観測推定手段は、状態遷移確率として、ミクロ状態間遷移確率に拡張した条件付き確率P(ρt|ρt−1,yt,zt)を用い、[ρ]をミクロ状態ρが属するマクロ状態、[ρ]entをミクロ状態ρが属するマクロ状態の入り口のミクロ状態、[ρ]exitをミクロ状態ρが属するマクロ状態の出口のミクロ状態とする場合、状態遷移確率である条件付き確率P(ρt|ρt−1,yt,zt)を以下の式を用いて求める
【数3】
請求項15記載の情報処理システム。
【請求項17】
非可観測推定手段は、予定別存在確率P(st|yt)と、時間帯別存在確率P(st|zt)とを、マクロ状態において定義される条件付き確率として捉え、予定および時間帯は、出口でないミクロ状態からも異なるマクロ状態の入り口へ遷移させる要因、または同じマクロ状態に留まる要因としてミクロ状態間遷移確率に用いる
請求項16記載の情報処理システム。
【請求項18】
非可観測推定手段は、センサ情報を出力記号とし、現時刻tにおいて、センサ情報xtの列{x1,x2,...,xt}が観測された時に各内部状態siにいる確率を示す事後確率を、条件付き確率P(si|x1,x2,...,xt)として、HMMに対する前向きアルゴリズムを用いて求める
請求項9から請求項17のうちのいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項19】
プレゼンス推定手段は、第1のプレゼンス情報として、利用者端末を用いて検出可能な利用者の位置を示す位置情報を導出し、
非可観測推定手段は、現時刻における利用者端末の置き忘れ有無を示す真偽値変数utを第2のプレゼンス情報として導出し、導出した第2のプレゼンス情報に基づいて、前記第1のプレゼンス情報を導出する
請求項9から請求項18のうちのいずれか1項に記載の情報処理システム。
【請求項20】
推定パラメータ記憶手段は、所持確率として、前時刻の位置πt−1から現時刻の位置πtに移動する際に置き忘れが発生または解除する確率を示す位置間所持確率P(ut|ut,πt−1,πt−1)と、現時刻の予定ytにおいて置き忘れが発生または解除する確率を示す予定別所持確率P(ut|ut−1,yt)と、現時刻の時間帯ztにおいて置き忘れが発生または解除する確率を示す時間帯別所持確率P(ut|ut−1,zt)と、少なくとも前記位置間所持確率と前記予定別所持確率と前記時間帯別所持確率のうちのいずれか2つの重みα,βとを記憶し、
非可観測推定手段は、所持ut=0、非所持ut=1とする場合、前記推定パラメータ記憶手段に記憶されていない1つの重みを1−α−βとして算出し、位置の移動と現時刻の予定と現時刻の時間帯の3つの要因による置き忘れ有無utへの影響をそれぞれ独立に与える重み付き線形和を以下の式を用いて計算することによって所持確率である条件付き確率P(ut|ut−1,πt−1,πt,yt,zt)を求める
【数4】
請求項19記載の情報処理システム。
【請求項21】
非可観測推定手段は、所持確率P(ut|ut−1,πt−1,πt,yt,zt)は、置き忘れが発生する確率(ut=1,ut−1=0の場合における所持確率)は移動元の位置πt−1に依存し、置き忘れが解消する確率(ut=0,ut−1=1の場合における所持確率)は移動先の位置πtに依存するとして、所持確率を求める
請求項20記載の情報処理システム。
【請求項22】
推定パラメータ記憶手段は、出力確率として、利用者端末を置き忘れていない場合の出力確率を示す条件付き確率P(xt|πt,ut=0)と、利用者端末を置き忘れていない場合の出力確率を示す条件付き確率P(xt|πt,ut=1)とを記憶し、
非可観測推定手段は、時刻0においては、置き忘れ無し、かつ推定パラメータ記憶手段に記憶される初期存在確率で与えられた確率で各マクロ状態の入り口のミクロ状態にあると導出し、時刻tにおいては、状態遷移確率と出力確率、現時刻のセンサ情報と時間帯と予定、および前時刻における前向き確率の計算結果とから、時刻tにおいて内部状態iにいて置き忘れがvである前向き確率fiv(t)を以下の式によって求め、
【数5】
さらに、事後確率Pi(t)を以下の式を用いて求める
【数6】
請求項21記載の情報処理システム。
【請求項23】
非可観測推定手段により導出されたプレゼンス情報の信頼度の大小を信用の大小として、信用に基づく強制アクセス制御によるサービス利用制御を実施するサービス提供判定部を備える
請求項18記載の情報処理システム。
【請求項24】
人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定するプレゼンス推定手段を備えた
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項25】
情報処理装置が、人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定する
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項26】
コンピュータに、
人の位置又は動作状態を示すプレゼンスを所定の確率モデルとして定式化し、前記所定の確率モデルに基づいて人のプレゼンスを推定する処理
を実行させるための情報処理プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2007−72592(P2007−72592A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256644(P2005−256644)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
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