説明

情報処理装置及び情報処理方法

【課題】 人工神経回路網の構造を極力変化させずに、新たな入力信号や出力信号を追加可能な情報処理装置及び情報処理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 複数の人工神経細胞素子2a・・・を備える情報処理装置1であって、複数の人工神経細胞素子2a・・・の各人工神経細胞素子と入力線が接続された人工神経細胞素子2a,2bとの遠近を表す順向性近接指標値を計算する順向性近接指標値計算部と、複数の人工神経細胞素子2a・・・の各人工神経細胞素子と出力線が接続された人工神経細胞素子2cとの遠近を表す逆向性近接指標値を計算する逆向性近接指標値計算部と、各人工神経細胞素子の順向性近接指標値及び各人工神経細胞素子の逆向性近接指標値を参照し、新規に入力線に接続する人工神経細胞素子及び/又は新規に出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する近接主導接続先決定部5とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経回路網を模した演算を行うための情報処理装置及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経回路網を模した演算を行う情報処理装置は、学習によって、神経細胞を模した人工神経細胞素子からなる複雑なネットワーク構造を有する人工神経回路網が構築されている(非特許文献1参照)。人工神経回路網としては、入力が周りの環境を検出する各種センサであり、出力が手足のような各種アクチュエータの場合、センサ信号を受け取る入力層の人工神経細胞素子、アクチュエータに出力信号を出力する出力層の人工神経細胞素子、情報処理を担う中間層の人工神経細胞素子の区別はあるが、それら素子間の結合は、全く任意であり、フィードバック結合や素子自身へのセルフループなどを任意に設定することができる。すなわち、人工神経回路網としては、原理的に、あらゆる神経回路網が含まれるユニバーサルな設定が可能である。このような人工神経回路網を構築する場合、各人工神経細胞素子に番号を付け、仮想生物を進化させることによって、全くランダムな結合状態の初期回路網群から問題に適した人工神経回路網を全自動で生成することができる。非特許文献1には人工神経回路網の構造を適用的に構成する方法が記載されており、この方法により、XORなどの基礎的な回路を始め、フィードフォワードタイプの回路網やフィードバック結合が必要な時系列信号に対する処理回路網などによって良好に自動生成が可能なことを確認している。これら人工神経回路網を構築する場合、遺伝アルゴリズムが利用される。
【非特許文献1】田澤和子、長尾智晴、「任意構造神経回路網FCNによる自律エージェントの行動制御」、情報処理学会論文誌、2004年3月、Vol.45、No.3、p.991−1000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の人工神経回路網では、入力信号を受け取る入力層の人工神経細胞素子と出力信号を出力する出力層の人工神経細胞素子とは予め決められており、構造の適用的な変化としてはそれら予め決められた入出力を相互に接続する多数の人工神経細胞素子のなす構造を決めることしかできない。つまり、入力層と出力層の人工神経細胞素子が予め決められ、その間の中間層の人工神経細胞素子をどのように接続するかを決めていた。そのため、この既に構築された人工神経回路網に対しては、新たな入力信号を受け取ることや新たな出力信号を出力することができない。
【0004】
さらに、人工神経回路網の構築には、遺伝アルゴリズムを利用して様々な構造を部分的に入れ替えながら最適な構造を見出すという学習手法をとっているので、これまで構築した情報表現(ネットワーク構造)を維持したままで、新たな入出力関係を追加学習することはできない。したがって、新たに入力信号や出力信号を追加する場合、人工神経回路網を最初から構築する必要がある。また、遺伝アルゴリズムを動作させ、多数の人工神経細胞素子を取り扱うためには、十分に大きなメモリと高性能なCPUが必要であり、最初から人工神経回路網を構築するには膨大な時間を要する。
【0005】
そこで、本発明は、人工神経回路網の構造を極力変化させずに、新たな入力信号や出力信号を追加可能な情報処理装置及び情報処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る情報処理装置は、複数の人工神経細胞素子を備える情報処理装置であって、複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子と入力線が接続された人工神経細胞素子との遠近を表す順向性近接指標値を計算する順向性近接指標値計算部と、各人工神経細胞素子の順向性近接指標値を参照し、新規に出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する近接主導出力線接続先決定部とを備えることを特徴とする。
【0007】
この情報処理装置では、神経回路網を模した演算を行うために複数の人工神経細胞素子からなるネットワーク構造を有する人工神経回路網が構成されており、その複数の人工神経細胞素子の中には入力線が接続された人工神経細胞素子(つまり、入力信号を受け取る人工神経細胞素子)が存在する。情報処理装置では、順向性近接指標値計算部により各人工神経細胞素子とその入力線が接続された人工神経細胞素子とのネットワーク上での信号の流れる方向に沿った遠近を表す順向性近接指標値を算出する。これによって、入力線が接続された人工神経細胞素子からの各人工神経細胞素子へのネットワーク上での距離が判る。ネットワークの繋がり方によって、入力線が接続された人工神経細胞素子から入力信号が入力されても、信号が流れない人工神経細胞素子(つまり、ネットワークの構成上、絶対に信号が到達しない人工神経細胞素子)が存在する場合がある。そこで、情報処理装置では、近接主導出力線接続先決定部により各人工神経細胞素子の順向性近接指標値を参照し(つまり、入力線が接続された人工神経細胞素子からの距離に基づいて)、出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する。その際、信号が流れない人工神経細胞素子がある場合にはその人工神経細胞素子を出力線に接続する人工神経細胞素子の候補から排除する。このように、情報処理装置では、ネットワーク構造が既に構築されている人工神経回路網を構成している複数の人工神経細胞素子の中から出力線に接続する人工神経細胞素子を決めることができるので、人工神経回路網の構造を極力変化させずに新たな出力信号を出力することができる。
【0008】
本発明に係る情報処理装置は、複数の人工神経細胞素子を備える情報処理装置であって、複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子と出力線が接続された人工神経細胞素子との遠近を表す逆向性近接指標値を計算する逆向性近接指標値計算部と、各人工神経細胞素子の逆向性近接指標値を参照し、新規に入力線に接続する人工神経細胞素子を決定する近接主導入力線接続先決定部とを備えることを特徴とする。
【0009】
この情報処理装置では、神経回路網を模した演算を行うために複数の人工神経細胞素子からなるネットワーク構造を有する人工神経回路網が構成されており、その複数の人工神経細胞素子の中には出力線が接続された人工神経細胞素子(つまり、出力信号を出力する人工神経細胞素子)が存在する。情報処理装置では、逆向性近接指標値計算部により各人工神経細胞素子とその出力線が接続された人工神経細胞素子とのネットワーク上での信号の流れる方向とは逆方向に沿った遠近を表す逆向性近接指標値を算出する。これによって、出力線が接続された人工神経細胞素子からの各人工神経細胞素子へのネットワーク上での距離が判る。ネットワークの繋がり方によって、出力線が接続された人工神経細胞素子から繋がっていない人工神経細胞素子が存在する場合(つまり、ネットワークの構成上、ある人工神経細胞素子に入力信号が入力されても、出力線が接続されている人工神経細胞素子には絶対に信号が到達しない場合)がある。そこで、情報処理装置では、近接主導入力線接続先決定部により各人工神経細胞素子の逆向性近接指標値を参照し(つまり、出力線が接続された人工神経細胞素子からの距離に基づいて)、入力線に接続する人工神経細胞素子を決定する。その際、出力線が接続された人工神経細胞素子から繋がっていない人工神経細胞素子がある場合にはその人工神経細胞素子を入力線に接続する人工神経細胞素子の候補から排除する。このように、情報処理装置では、ネットワーク構造が既に構築されている人工神経回路網を構成している複数の人工神経細胞素子の中から入力線に接続する人工神経細胞素子を決めることができるので、人工神経回路網の構造を極力変化させずに新たな入力信号を受け取ることができる。
【0010】
本発明に係る情報処理装置は、複数の人工神経細胞素子を備える情報処理装置であって、複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子と入力線が接続された人工神経細胞素子との遠近を表す順向性近接指標値を計算する順向性近接指標値計算部と、複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子と出力線が接続された人工神経細胞素子との遠近を表す逆向性近接指標値を計算する逆向性近接指標値計算部と、各人工神経細胞素子の順向性近接指標値及び各人工神経細胞素子の逆向性近接指標値を参照し、新規に入力線に接続する人工神経細胞素子及び/又は新規に出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する近接主導接続先決定部とを備えることを特徴とする。
【0011】
この情報処理装置では、神経回路網を模した演算を行うために複数の人工神経細胞素子からなるネットワーク構造を有する人工神経回路網が構成されており、その複数の人工神経細胞素子の中には入力線が接続された人工神経細胞素子及び出力線が接続された人工神経細胞素子が存在する。情報処理装置では、順向性近接指標値計算部により各人工神経細胞素子とその入力線が接続された人工神経細胞素子との順向性近接指標値を算出するとともに、逆向性近接指標値計算部により各人工神経細胞素子とその出力線が接続された人工神経細胞素子との逆向性近接指標値を算出する。これによって、入力線が接続された人工神経細胞素子からの各人工神経細胞素子へのネットワーク上での距離及び出力線が接続された人工神経細胞素子からの各人工神経細胞素子へのネットワーク上での距離が判る。そこで、情報処理装置では、近接主導接続先決定部により各人工神経細胞素子の順向性近接指標値及び各人工神経細胞素子の逆向性近接指標値を参照し(つまり、入力線が接続された人工神経細胞素子からの距離及び出力線が接続された人工神経細胞素子からの距離に基づいて)、人工神経細胞素子を出力線に接続する人工神経細胞素子を決定したりあるいは入力線に接続する人工神経細胞素子を決定する。その際、入力線が接続された人工神経細胞素子に繋がっていない人工神経細胞素子を出力線に接続する人工神経細胞素子の候補から排除し、出力線が接続された人工神経細胞素子に繋がっていない人工神経細胞素子を入力線に接続する人工神経細胞素子の候補から排除する。また、入力線が接続された人工神経細胞素子に繋がっていない人工神経細胞素子は、その入力線が接続された人工神経細胞素子の影響を受けないので、入力線に接続する人工神経細胞素子の候補とする。また、出力線が接続された人工神経細胞素子に繋がっていない人工神経細胞素子は、その出力線が接続された人工神経細胞素子の影響を受けないので、出力線に接続する人工神経細胞素子の候補とする。このように、情報処理装置では、ネットワーク構造が既に構築されている人工神経回路網を構成している複数の人工神経細胞素子の中から入力線に接続する人工神経細胞素子及び/又は出力線を接続する人工神経細胞素子を決めることができるので、人工神経回路網の構造を極力変化させずに新たな入力信号を受け取ることや新たな出力信号を出力することができる。
【0012】
本発明に係る情報処理装置は、複数の人工神経細胞素子を備える情報処理装置であって、新規に出力線に接続する人工神経細胞素子の好ましい出力信号と複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子の出力信号との出力類似度を計算する出力類似度計算部と、各人工神経細胞素子の出力類似度を参照し、新規に出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する出力主導出力線接続先決定部とを備えることを特徴とする。
【0013】
この情報処理装置では、神経回路網を模した演算を行うために複数の人工神経細胞素子からなるネットワーク構造を有する人工神経回路網が構成されている。情報処理装置では、入力線が接続された人工神経細胞素子から所定の入力信号を入力し、各人工神経細胞素子からその所定の入力信号に対する出力信号に出力させる。そして、情報処理装置では、出力類似度計算部により、出力信号を出力する各人工神経細胞素子毎に、新規に追加する出力線に接続する人工神経細胞素子のその所定の入力信号に対する好ましい出力信号(理想の出力信号)とその各人工神経細胞素子からの出力信号との出力類似度を計算する。これによって、好ましい出力信号に近い出力信号かあるいは一致するような出力信号を出力する人工神経細胞素子が判る。そこで、情報処理装置では、出力主導出力線接続先決定部により各人工神経細胞素子の出力類似度を参照し、新たに追加する出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する。このように、情報処理装置では、ネットワーク構造が既に構築された人工神経回路網を構成している複数の人工神経細胞素子の中から出力線に接続する人工神経細胞素子を決めることができるので、人工神経回路網の構造を極力変化させずに新たな出力信号を出力することができる。
【0014】
本発明に係る情報処理装置は、複数の人工神経細胞素子を備える情報処理装置であって、複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子の入力信号の変動に対する出力信号の変動を示す個別出力変動を計算する個別出力変動計算部と、各人工神経細胞素子の個別出力変動を参照し、個別出力変動が小さい人工神経細胞素子を新規に入力線に接続する人工神経細胞素子と決定する出力変動主導入力線接続先決定部とを備えることを特徴とする。
【0015】
この情報処理装置では、神経回路網を模した演算を行うために複数の人工神経細胞素子からなるネットワーク構造を有する人工神経回路網が構成されている。情報処理装置では、各人工神経細胞素子に対して入力信号を変動させながら入力し、出力線が接続された人工神経細胞素子から出力信号を出力させる。そして、情報処理装置では、個別出力変動計算部により、変動する入力信号が入力された各人工神経細胞素子毎に、出力信号の変動を示す個別出力変動をそれぞれ計算する。つまり、複数の人工神経細胞素子のうちの各人工神経細胞素子に対して同じ入力信号の変動をそれぞれ与えた場合、入力信号が与えられる人工神経細胞素子が変われば出力線が接続された人工神経細胞素子に到達するまでの信号の流れも変わるので、その変動する入力信号が与えられる人工神経細胞素子に応じて出力信号の変動も変わる。そこで、その入力信号が与えられる人工神経細胞素子毎に、出力信号の変動を表す個別出力変動を求めている。この個別出力変動が小さいほど好ましい出力信号が得られているので、情報処理装置では、出力変動主導出力線接続先決定部により各人工神経細胞素子の個別出力変動を参照し、この個別出力変動の小さい人工神経細胞素子を入力線に接続する人工神経細胞素子と決定する。このように、情報処理装置では、ネットワーク構造が既に構築された人工神経回路網を構成している複数の人工神経細胞素子の中から入力線に接続する人工神経細胞素子を決めることができるので、人工神経回路網の構造を極力変化させずに新たな入力信号を受け取ることができる。
【0016】
本発明に係る情報処理方法は、複数の人工神経細胞素子によって神経細胞をそれぞれ模擬する情報処理方法であって、複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子と入力線が接続された人工神経細胞素子との遠近を表す順向性近接指標値を計算する順向性近接指標値計算ステップと、各人工神経細胞素子の順向性近接指標値を参照し、新規に出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する近接主導出力線接続先決定ステップとを含むことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る情報処理方法は、複数の人工神経細胞素子によって神経細胞をそれぞれ模擬する情報処理方法であって、複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子と出力線が接続された人工神経細胞素子との遠近を表す逆向性近接指標値を計算する逆向性近接指標値計算ステップと、各人工神経細胞素子の逆向性近接指標値を参照し、新規に入力線に接続する人工神経細胞素子を決定する近接主導入力線接続先決定ステップとを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る情報処理方法は、複数の人工神経細胞素子によって神経細胞をそれぞれ模擬する情報処理方法であって、新規に出力線に接続する人工神経細胞素子の好ましい出力信号と複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子の出力信号との出力類似度を計算する出力類似度計算ステップと、各人工神経細胞素子の出力類似度を参照し、新規に出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する出力主導出力線接続先決定ステップとを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る情報処理方法は、複数の人工神経細胞素子によって神経細胞をそれぞれ模擬する情報処理方法であって、複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子の入力信号の変動に対する出力信号の変動を示す個別出力変動を計算する個別出力変動計算ステップと、各人工神経細胞素子の個別出力変動を参照し、個別出力変動が小さい人工神経細胞素子を新規に入力線に接続する人工神経細胞素子と決定する出力変動主導入力線接続先決定ステップとを含むことを特徴とする。
【0020】
なお、上記した各情報処理方法では、上記した各情報処理装置と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、人工神経回路網の構造を極力変化させずに、新たな入力信号を受け取ることや新たな出力信号を出力することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明に係る情報処理装置及び情報処理方法の実施の形態を説明する。
【0023】
本実施の形態では、本発明を、神経回路網模擬装置として働く情報処理装置に適用する。本実施の形態に係る情報処理装置は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータによって構成され、コンピュータのメモリに格納された各機能を実現する情報処理プログラムを実行させることによって各機能が動作する。本実施の形態に係る情報処理装置は、周囲の環境が入力され、その環境に基づいてアクチュエータを制御する制御装置として働く。本実施の形態には、3つの形態があり、第1の実施の形態が順向性近接指標値及び逆向性近接指標値により新規に入力線や出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する形態であり、第2の実施の形態が出力類似度により新規に出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する形態であり、第3の実施の形態が個別出力変動により新規に入力線に接続する人工神経細胞素子を決定する形態である。
【0024】
図1〜図3を参照して、第1の実施の形態に係る情報処理装置1について説明する。図1は、第1の実施の形態に係る情報処理装置の構成図である。図2は、図1の情報処理装置において新規に入力線に接続する人工神経細胞素子を決める際の各人工神経細胞素子の近接指標値の一例であり、(a)が初期状態であり、(b)が一方の入力線に接続する人工神経細胞素子に順向性信号を送信した場合の順向性近接指標値であり、(c)が他方の入力線に接続する人工神経細胞素子に順向性信号を送信した場合の順向性近接指標値であり、(d)が出力線に接続する人工神経細胞素子に逆向性信号を送信した場合の逆向性近接指標値である。図3は、図1の情報処理装置において新規に入力線に接続する人工神経細胞素子を決める際の各人工神経細胞素子の近接指標値の他の例であり、(a)が初期状態であり、(b)が一方の入力線に接続する人工神経細胞素子に順向性信号を送信した場合の順向性近接指標値であり、(c)が他方の入力線に接続する人工神経細胞素子に順向性信号を送信した場合の順向性近接指標値であり、(d)が出力線に接続する人工神経細胞素子に逆向性信号を送信した場合の逆向性近接指標値である。
【0025】
情報処理装置1は、多数の神経細胞からなる神経回路網を模した演算を行うことができる装置であり、多数の人工神経細胞素子がなす所定のネットワーク構造を有する人工神経回路網が構築されている。特に、情報処理装置1では、入力線や出力線が接続された人工神経細胞素子と各人工神経細胞素子との近接の度合いを利用し、人工神経回路網の構造を変えることなく、新たな入力信号を受け取ったり、新たな出力信号を出力したりすることができる。そのために、情報処理装置1は、人工神経回路網2、順方向信号発生部3、逆向性信号発生部4、接続先決定部5、接続制御部6、接続要求入力端子7を備えている。
【0026】
人工神経回路網2は、2つの環境センサESa,ESbからの各センサ信号に基づいて1つのアクチュエータACの駆動を制御するために、神経回路網を模した演算を行う。人工神経回路網2は、多数の人工神経細胞素子2a〜2nを有しており、人工神経細胞素子2a〜2nは相互に重みを持って接続されネットワーク構造を形成している。このネットワーク構造は、予めユーザによって設計される場合も、遺伝アルゴリズム等によって自動的に構築される場合もある。人工神経細胞素子間の接続の重みは、誤差逆伝播法、遺伝アルゴリズム、強化学習法、山登り法、自然勾配法、その他適切な学習アルゴリズムを利用した学習により自動的に決定される。以下の説明においては、こうした様々な人工神経回路網2を適応的に修正するアルゴリズムを学習アルゴリズムと表現する。この学習時には、環境センサESa,ESbからの各センサ信号を受け取る人工神経細胞素子2a,2b(つまり、入力線が接続される人工神経細胞素子2a,2b)及びアクチュエータAC(実際には、制御部CU)に対して出力信号を出力する人工神経細胞素子2c(つまり、出力線が接続される人工神経細胞素子2c)が決まっている。ネットワーク構造が構築されると、人工神経回路網2では、人工神経細胞素子2a・・・毎に信号を流す先の人工神経細胞素子がそれぞれ決まる(つまり、信号が流れる方向が決まる)。
【0027】
環境センサESa,ESbは、周囲の各種環境を検出するためのセンサである。環境センサESa,ESbは、人工神経細胞素子2a,2bが接続する各入力線にそれぞれ接続されており、検出した各環境を入力信号としてそれぞれ送信する。環境センサEScは、環境センサESa,ESbとは異なる環境を検出するためのセンサであり、新規に人工神経回路網2の人工神経細胞素子に接続される。したがって、環境センサEScは、学習によって人工神経回路網2が構築されたときには人工神経回路網2に接続されていない。
【0028】
制御部CUは、人工神経細胞素子2cが接続する出力線に接続されており、人工神経細胞素子2cから出力信号を受信する。制御部CUでは、人工神経回路網2からの出力信号に応じてアクチュエータACを駆動するための制御信号を生成し、アクチュエータACに出力する(つまり、出力信号に応じた駆動電流をアクチュエータACに供給する)。アクチュエータACは、制御部CUに接続し、制御部CUからの駆動電流に応じて駆動する。センサASは、アクチュエータACの状態を検出するセンサであり、その検出値をセンサ信号として誤差評価部VUに送信する。目標入力端子TTは、アクチュエータACの目標状態を外部から入力するための端子である。誤差評価部VUでは、センサASによって検出されたアクチュエータACの実際の状態と入力された目標状態とを取り入れ、アクチュエータACの目標状態に対する実際の状態の誤差を計算する。そして、誤差評価部VUでは、出力信号を出力する人工神経細胞素子2cに対してその誤差信号をフィードバックする。
【0029】
順向性信号発生部3は、各人工神経細胞素子2a・・・が信号を流す方向に沿って伝播する順向性信号FCを発生する。接続先決定部5によって順向性近接指標値が初期化されると、順向性信号発生部3では、入力線が接続された人工神経細胞素子2a,2bに対して順向性信号FCをそれぞれ送信する。順向性信号FCは、(IN,0)からなり、第1成分のINが順向性信号FCが送信される入力線が接続された人工神経細胞素子を示し、第2成分の0が順向性近接指標値の初期値を示す。第1成分のINAが人工神経細胞素子2aを示し、INBが人工神経細胞素子2bを示す。
【0030】
順向性信号FC=(IN,0)が送信されると、入力線が接続される人工神経細胞素子では、自身の順向性近接指標情報FFに(IN,0)を代入するとともに、順向性近接指標値を0から1にカウントアップした順向性信号FC=(IN,1)を信号を流す先の全ての人工神経細胞素子に送信する。次に、順向性信号FC=(IN,1)が送信された人工神経細胞素子では、自身の順向性近接指標情報FFに(IN,1)を代入するとともに、順向性近接指標値を1から2にカウントアップした順向性信号FC=(IN,2)を信号を流す先の全ての人工神経細胞素子に送信する。このように、各人工神経細胞素子では、順向性信号FC=(IN,j)が送信されると、自身の順向性近接指標情報FFに(IN,j)を代入するとともに、順向性近接指標値をjからj+1に1づつカウントアップした順向性信号FC=(IN,j+1)を信号を流す先の全ての人工神経細胞素子に送信する。この際、人工神経細胞素子では順向性信号FCが一度送信されると(順向性近接指標情報FFの第2成分にF以外の値が既に設定されている場合)、それ以降に送信される順向性信号FCを全て無視し、順向性近接指標情報FFを更新しない。順向性近接指標情報FFは、第1成分のINが順向性信号発生部3から順向性信号FCが送信された人工神経細胞素子(入力線が接続された人工神経細胞素子)を示し、第2成分のjが自身の順向性近接指標値を示す。順向性近接指標値は、第1成分のINで示される人工神経細胞素子からのネットワーク上における信号の流れる方向に沿った近接の度合い(距離)を示すアレイであり、Fの場合にはINで示される人工神経細胞素子からネットワーク上で繋がっていないことを示す。ちなみに、入力線に接続される人工神経細胞素子が複数存在する場合、各人工神経細胞素子には順向性近接指標情報FF(ひいては、順向性近接指標値)が複数設定される。なお、第1の実施の形態では、人工神経細胞素子2a・・・が特許請求の範囲に記載する順向性近接指標値計算部に相当する。
【0031】
逆向性信号発生部4は、各人工神経細胞素子2a・・・が信号を流す方向とは逆方向に沿って伝播する逆向性信号BCを発生する。接続先決定部5によって逆向性近接指標値が初期化されると、逆向性信号発生部4では、出力線が接続された人工神経細胞素子2cに対して逆向性信号BCを送信する。逆向性信号BCは、(OUT,0)からなり、第1成分のOUTが逆向性信号BCが送信される出力線が接続された人工神経細胞素子を示し、第2成分の0が逆向性近接指標値の初期値を示す。人工神経細胞素子2cがOUTC1である。第1成分のOUTCが人工神経細胞素子2cを示す。
【0032】
逆向性信号BC=(OUT,0)が送信されと、出力線が接続される人工神経細胞素子では、自身の逆向性近接指標情報BFに(OUT,0)を代入するとともに、逆向性近接指標値を0から1にカウントアップした逆向性信号BC=(OUT,1)を信号の流れに逆行する全ての人工神経細胞素子に送信する。次に、逆向性信号BC=(OUT,1)が送信された人工神経細胞素子では、自身の逆向性近接指標情報BFに(OUT,1)を代入するとともに、逆向性近接指標値を1から2にカウントアップした逆向性信号BC=(OUT,2)を信号の流れに逆行する全ての人工神経細胞素子に送信する。このように、各人工神経細胞素子では、逆向性信号BC=(OUT,j)が送信されると、自身の逆向性近接指標情報BFに(OUT,j)を代入するとともに、逆向性近接指標値をjからj+1に1づつカウントアップした逆向性信号BC=(OUT,j+1)を信号の流れに逆行する全ての人工神経細胞素子に送信する。この際、人工神経細胞素子では逆向性信号BCが一度送信されると(逆向性近接指標情報BFの第2成分にF以外の値が既に設定されている場合)、それ以降に送信される逆向性信号BCを全て無視し、逆向性近接指標情報BFを更新しない。逆向性近接指標情報BFは、第1成分のOUTが逆向性信号発生部4から逆向性信号BCが送信された人工神経細胞素子(出力線が接続された人工神経細胞素子)を示し、第2成分のjが自身の逆向性近接指標値を示す。逆向性近接指標値は、OUTで示される人工神経細胞素子からのネットワーク上における信号の流れる方向とは逆方向に沿った近接の度合い(距離)を示すアレイであり、Fの場合にはOUTで示される人工神経細胞素子からネットワーク上で繋がっていないことを示す。ちなみに、出力線に接続される人工神経細胞素子が複数存在する場合、各人工神経細胞素子には逆向性近接指標情報BF(ひいては、逆向性近接指標値)が複数設定される。なお、第1の実施の形態では、人工神経細胞素子2a・・・が特許請求の範囲に記載する逆向性近接指標値計算部に相当する。
【0033】
接続先決定部5は、接続制御部6から接続先要求信号が送信されると、全ての人工神経細胞素子2a・・・の順向性近接指標情報FF及び逆向性近接指標情報BFを(*,F)で初期化する。第1成分の*は、入力線や出力線が接続された人工神経細胞素子を表す部分がブランクであることを示す。第2成分のFは近接指標値が未設定であることを示し、Fのままであると入力線や出力線が接続された人工神経細胞素子から繋がっていない人工神経細胞素子(つまり、入力線や出力線が接続された人工神経細胞素子から到達できない人工神経細胞素子)であることを示す。接続先決定部5では、全ての人工神経細胞素子2a・・・の順向性近接指標情報FF(順向性近接指標値)及び逆向性近接指標情報BF(逆向性近接指標値)が設定されると、全ての人工神経細胞素子2a・・・の順向性近接指標値及び逆向性近接指標に基づいて新規に入力線に接続する人工神経細胞素子あるいは新規に出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する。この際、接続先要求信号において、環境センサの接続先を要求している場合には新規に入力線に接続する人工神経細胞素子を決定し、制御部(ひいては、アクチュエータ)の接続先を要求している場合には新規に出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する。そして、接続先決定部5では、その決定した人工神経細胞素子を示す接続先決定信号を接続制御部6に送信する。なお、第1の実施の形態では、接続先決定部5が特許請求の範囲に記載する近接主導接続先決定部に相当する。
【0034】
新規に入力線に接続する人工神経細胞素子の決定方法の一例を説明する。順向性近接指標値にFが設定されている人工神経細胞素子は、入力線が接続された人工神経細胞素子からネットワーク上で繋がっておらず、他の環境センサからの影響が及ばないので、接続する候補となる。また、順向性近接指標値にFが設定されている人工神経細胞素子がない場合、他の環境センサからの影響が最も及ばない順向性近接指標値ができるだけ大きい値を有する(つまり、入力線が接続された人工神経細胞素子からネットワーク上で離れている)人工神経細胞素子を候補とする。そして、順向性近接指標値に基づいて選ばれた候補の中から、逆向性近接指標値が2以上でできるだけ小さい値を有する人工神経細胞素子を新規に入力線を接続する人工神経細胞素子と決定する。これは、出力線が接続された人工神経細胞素子に直接接続すると複雑な入出力関係に対応できないので2以上とし、その中でも出力線に接続された人工神経細胞素子からネットワーク上でできるだけ近い方が良いからである。なお、入出力関係が単純な場合、逆向性近接指標値が1でも良いので、最も小さい値である人工神経細胞素子を新規に入力線を接続する人工神経細胞素子と決定する。
【0035】
逆向性近接指標値が2以上の小さい値を有する人工神経細胞素子が複数存在するなど、新規に入力線を接続する人工神経細胞素子の候補が複数存在する場合、その候補の人工神経細胞素子毎に式(1)に示す入力側適合値を計算する。そして、入力側適合値が最も大きい人工神経細胞素子を入力線を接続する人工神経細胞素子と決定する。
【0036】
【数1】

式(1)のα、βはパラメータである。逆向性近接指標値の和は、出力線に接続される人工神経細胞素子が複数存在する場合には各人工神経細胞素子において複数個の逆向性近接指標値が計算されるので、その複数個の逆向性近接指標値が積算され、出力線に接続される人工神経細胞素子が1つしか存在しない場合には1個の逆向性近接指標値がそのまま設定される。逆向性近接指標値がFになっている場合、例えば、逆向性近接指標値の最大値で計算する。順向性近接指標値の和は、入力線に接続される人工神経細胞素子が複数存在する場合には各人工神経細胞素子において複数個の順向性近接指標値が計算されるので、複数個の順向性近接指標値が積算され、入力線に接続される人工神経細胞素子が1つしか存在しない場合には1個の順向性近接指標値がそのまま設定される。順向性近接指標値がFになっている場合、例えば、順向性近接指標値の最大値で計算する。なお、候補が複数存在する場合に入力側適合値を利用するのではなく、全ての人工神経細胞素子に対して入力側適合値をそれぞれ計算し、全ての人工神経細胞素子中から入力側適合値が最も大きい人工神経細胞素子を入力線を接続する人工神経細胞素子と決定するようにしてもよい。
【0037】
新規に出力線に接続する人工神経細胞素子の決定方法の一例を説明する。逆向性近接指標値にFが設定されている人工神経細胞素子は、出力線が接続された人工神経細胞素子からネットワーク上で繋がっておらず、他のアクチュエータからの影響が及ばないので、接続する候補となる。また、逆向性近接指標値にFが設定されている人工神経細胞素子がない場合、他のアクチュエータからの影響が最も及ばない逆向性近接指標値ができるだけ大きい値を有する(つまり、出力線が接続された人工神経細胞素子からネットワーク上で離れている)人工神経細胞素子を候補とする。そして、逆向性近接指標値に基づいて選ばれた候補の中から、順向性近接指標値が2以上で最も小さい値である人工神経細胞素子を新規に出力線を接続する人工神経細胞素子と決定する。これは、入力線が接続された人工神経細胞素子に直接接続すると複雑な入出力関係に対応できないので2以上とし、その中でも入力線に接続された人工神経細胞素子にできるだけ近い方が良いからである。なお、入出力関係が単純な場合、順向性近接指標値が1でも良いので、最も小さい値である人工神経細胞素子を新規に出力線を接続する人工神経細胞素子と決定する。
【0038】
順向性近接指標値が2以上の小さい値を有する人工神経細胞素子が複数存在するなど、新規に出力線を接続する人工神経細胞素子の候補が複数存在する場合、その候補の人工神経細胞素子毎に式(2)に示す出力側適合値を計算する。そして、出力側適合値が最も大きい人工神経細胞素子を出力線を接続する人工神経細胞素子と決定する。
【0039】
【数2】

式(2)のγ、δはパラメータである。逆向性近接指標値の和、順向性近接指標値の和は、式(1)と同様に求める。なお、候補が複数存在する場合に出力側適合値を利用するのではなく、全ての人工神経細胞素子に対して出力側適合値をそれぞれ計算し、全ての人工神経細胞素子中から出力側適合値が最も大きい人工神経細胞素子を出力線を接続する人工神経細胞素子と決定するようにしてもよい。
【0040】
接続制御部6は、新たに接続する環境センサや新たに接続する制御部(ひいては、アクチュエータ)の接続を制御する。接続制御部6では、接続要求入力端子7に接続要求が入力された場合、接続先決定部5に接続先要求信号を送信する。接続先要求信号は、新たに環境センサあるいは制御部(アクチュエータ)を接続するので、その接続先の人工神経細胞素子を決定することを要求する信号である。接続制御部6では、接続先決定部5から接続先決定信号を受けると、その接続先決定信号に応じて、その決定した人工神経細胞素子に入力線を接続したり(つまり、環境センサを接続したり)あるいはその決定した人工神経細胞素子に出力線を接続したりする(つまり、制御部を接続したりする)。
【0041】
接続要求入力端子7は、外部から接続要求を入力するための端子である。接続要求は、新たに環境センサあるいは制御部(アクチュエータ)を接続することを要求する指令である。
【0042】
図1〜図3を参照して、新規の環境センサEScを追加する場合(新規の入力線の接続先を求める場合)の情報処理装置1における動作について説明する。
【0043】
環境センサEScを追加するために、接続要求入力端子7に接続要求が入力される。接続要求入力端子7に接続要求が入力されると、接続制御部6では、新規の入力線の接続先を要求する接続先要求信号を接続先決定部5に送信する。すると、接続先決定部5では、全ての人工神経細胞素子2a〜2nの順向性近接指標情報FF及び逆向性近接指標情報BFに(*,F)を代入し、初期化する。図2(a)に示すように、全ての人工神経細胞素子2a〜2nの順向性近接指標値及び逆向性近接指標値がFになる。
【0044】
まず、順向性信号発生部3が、入力線が接続された人工神経細胞素子2aに対して順向性信号FC=(INA,0)を送信する。すると、人工神経細胞素子2aでは、自身の順向性近接指標情報FFに(INA,0)を代入する。さらに、人工神経細胞素子2aでは、順向性近接指標値を0から1にカウントアップし、順向性信号FC=(INA,1)を信号の流れに沿って人工神経細胞素子2b,2d,2eに送信する。すると、人工神経細胞素子2b,2d,2eでは、自身の順向性近接指標情報FFに(INA,1)を代入する。さらに、順向性近接指標値を1から2にカウントアップし、人工神経細胞素子2bでは順向性信号FC=(INA,2)を信号の流れに沿って人工神経細胞素子2fに送信し、人工神経細胞素子2dでは順向性信号FC=(INA,2)を信号の流れに沿って人工神経細胞素子2f,2g,2eに送信し、人工神経細胞素子2eでは順向性信号FC=(INA,2)を信号の流れに沿って人工神経細胞素子2hに送信する。すると、人工神経細胞素子2f,2g,2hでは、自身の順向性近接指標情報FFに(INA,2)を代入する。さらに、順向性近接指標値を2から3にカウントアップし、人工神経細胞素子2fでは順向性信号FC=(INA,3)を信号の流れに沿って人工神経細胞素子2gに送信し、人工神経細胞素子2gでは順向性信号FC=(INA,2)を信号の流れに沿って人工神経細胞素子2h,2iに送信し、人工神経細胞素子2hでは順向性信号FC=(INA,2)を信号の流れに沿って人工神経細胞素子2cに送信する。この際、人工神経細胞素子2eでは、順向性近接指標値としてF以外の1が設定されているので、順向性近接指標情報FFを更新せず、順向性信号FCも送信しない。このような処理が、各人工神経細胞素子で順次行われる。すると、図2(b)に示すように、各人工神経細胞素子2a・・・に、順向性近接指標値がそれぞれ設定される。この場合、人工神経細胞素子2j,2kには、順向性近接指標値が設定されずにFのままであり、ネットワーク上において人工神経細胞素子2aに繋がっておらず、人工神経細胞素子2aに入力された入力信号による影響を受けない。
【0045】
次に、順向性信号発生部3が、入力線が接続された人工神経細胞素子2bに対して順向性信号FC=(INB,0)を送信する。上記と同様の処理が、各人工神経細胞素子で順次行われる。すると、図2(c)に示すように、各人工神経細胞素子2a・・・に、順向性近接指標値がそれぞれ設定される。この場合も、人工神経細胞素子2j,2kには、順向性近接指標値が設定されずにFのままであり、ネットワーク上において人工神経細胞素子2bに繋がっておらず、人工神経細胞素子2bに入力された入力信号による影響を受けない。
【0046】
また、逆向性信号発生部4が、出力線が接続された人工神経細胞素子2cに対して逆向性信号BC=(OUTC,0)を送信する。すると、人工神経細胞素子2cでは、自身の逆向性近接指標情報BFに(OUTC,0)を代入する。さらに、人工神経細胞素子2cでは、逆向性近接指標値を0から1にカウントアップし、逆向性信号BC=(OUTC,1)を信号の流れとは逆方向に沿って人工神経細胞素子2h,2iに送信する。すると、人工神経細胞素子2h,2iでは、自身の逆向性近接指標情報BFに(OUTC,1)を代入する。さらに、逆向性近接指標値を1から2にカウントアップし、人工神経細胞素子2hでは逆向性信号BC=(OUTC,2)を信号の流れとは逆方向に沿って人工神経細胞素子2e,2gに送信し、人工神経細胞素子2iでは逆向性信号BC=(OUTC,2)を信号の流れとは逆方向に沿って人工神経細胞素子2gに送信する。すると、人工神経細胞素子2e,2gでは、自身の逆向性近接指標情報BFに(OUTC,2)を代入する。さらに、逆向性近接指標値を2から3にカウントアップし、人工神経細胞素子2eでは逆向性信号BC=(OUTC,3)を信号の流れとは逆方向に沿って人工神経細胞素子2dに送信し、人工神経細胞素子2gでは逆向性信号BC=(OUTC,2)を信号の流れとは逆方向に沿って人工神経細胞素子2d,2f,2jに送信する。すると、図2(c)に示すように、各人工神経細胞素子2a・・・に、逆向性近接指標値がそれぞれ設定される。この場合、人工神経細胞素子2k,2l,2mには、逆向性近接指標値が設定されずにFのままであり、ネットワーク上において人工神経細胞素子2cに繋がっていない。したがって、人工神経細胞素子2k,2l,2mが入力信号を受け取ったとしても、その入力信号に応じた信号は人工神経細胞素子2cには到達しない。
【0047】
そして、接続先決定部5では、全ての人工神経細胞素子2a〜2nの順向性近接指標値を参照し、順向性近接指標値としてFのままの人工神経細胞素子2j,2kを抽出する。そして、接続先決定部5では、この人工神経細胞素子2j,2kの逆向性近接指標値を参照し、2以上の最も小さい逆向性近接指標値を有する人工神経細胞素子2jを選択する。さらに、接続先決定部5では、この人工神経細胞素子2jを接続先とする接続先決定信号を設定し、接続制御部6に送信する。接続制御部6では、人工神経細胞素子2jを新規の入力線に接続する。これによって、環境センサEScが人工神経細胞素子2jに接続され、環境センサEScからの入力信号を人工神経細胞素子2jで受け取れるようになる。
【0048】
ここで、全ての人工神経細胞素子2a〜2nの順向性近接指標値及び逆向性近接指標値にF以外の所定の値が設定される場合についても説明しておく。F以外の値が全て人工神経細胞素子2a〜2nで設定されるように、人工神経回路網2’においては、人工神経回路網2に対して、人工神経細胞素子2mから人工神経細胞素子2jへも信号が流れるものとする(図3(a)参照)。
【0049】
この場合、入力線が接続された人工神経細胞素子2aに対して順向性信号FC=(INA,0)が送信されると、上記と同様の処理が、各人工神経細胞素子で順次行われる。すると、図3(b)に示すように、各人工神経細胞素子2a・・・に順向性近接指標値がそれぞれ設定され、人工神経細胞素子2j,2kにも順向性近接指標値として6,7がそれぞれ設定される。また、入力線が接続された人工神経細胞素子2bに対して順向性信号FC=(INB,0)が送信されると、上記と同様の処理が、各人工神経細胞素子で順次行われる。すると、図3(c)に示すように、各人工神経細胞素子2a・・・に順向性近接指標値がそれぞれ設定され、人工神経細胞素子2j,2kにも順向性近接指標値として6,7がそれぞれ設定される。また、出力線が接続された人工神経細胞素子2cに対して逆向性信号BC=(OUTC,0)が送信されると、上記と同様の処理が、各人工神経細胞素子で順次行われる。すると、図3(d)に示すように、各人工神経細胞素子2a・・・に逆向性近接指標値がそれぞれ設定され、人工神経細胞素子2k,2l,2mにも逆向性近接指標値として4,5,4がそれぞれ設定される。
【0050】
接続先決定部5では、全ての人工神経細胞素子2a〜2nの順向性近接指標値及び逆向性近接指標値を参照し、順向性近接指標値が大きな値を有し、逆向性近接指標値が2以上で小さい値を有する人工神経細胞素子2j,2kを抽出する。そして、接続先決定部5では、この人工神経細胞素子2j,2kに対してそれぞれ式(1)により入力側適合値を計算する。そして、接続先決定部5では、入力側適合値が大きい人工神経細胞素子を接続先として決定する。例えば、αを1、βを1とした場合、人工神経細胞素子2jの入力側適合値が9となり、人工神経細胞素子2kの入力側適合値が10となり、人工神経細胞素子2kが接続先として決定される。なお、全ての人工神経細胞素子2a〜2nに対して入力側適合値を計算し、その全ての入力側適合値を比較して、接続先を決定してもよい。
【0051】
なお、新規のアクチュエータを追加する場合(新規の出力線の接続先の求める場合)、上記の情報処理装置1における新規の入力線の接続先を求める場合の動作において、基本的には、順向性と逆向性とを入れ替えればよい。
【0052】
この情報処理装置1によれば、人工神経回路網2の構造を変えることなく、新たな入力信号を受け取ることや新たな出力信号を出力することが可能である。そのため、新たな入出力関係を追加する際に、人工神経回路網を再構築するために学習アルゴリズムによる学習を行う必要がないので、十分に大きなメモリや高性能なCPUを必要とせず、学習による膨大な時間を要さない。
【0053】
このような情報処理装置1を用いれば、複雑な応用課題をいくつかの簡単な問題に分割し、部分的な学習の積み上げによって性能を向上させていくことができる。例えば、5つのセンサがある場合、最初に2つのセンサを接続する人工神経回路網を学習によって構築した後に、性能を上げるために1つづつセンサを追加する際に学習を行うが、既に構築した人工神経回路網を残したままセンサを追加でき、学習によって新たに構築した人工神経回路網を部分的に追加できる。このように、人工神経回路網を部分的に変えていくことも可能であり、少ないデータ量で学習でき、学習に要する時間を低減できる。
【0054】
図4を参照して、第2の実施の形態に係る情報処理装置11について説明する。図4は、第2の実施の形態に係る情報処理装置の構成図である。なお、情報処理装置11では、第1の実施の形態に係る情報処理装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0055】
情報処理装置11は、情報処理装置1と同様の装置であり、各人工神経細胞素子の実際の出力信号と好ましい出力信号との出力類似度を利用し、人工神経回路網の構造を変えることなく、新たな出力信号を出力することができる。そのために、情報処理装置11は、人工神経回路網2、入力信号発生部13、接続先決定部15、接続制御部6、接続要求入力端子7を備えている。なお、人工神経回路網2には、1つの環境センサESaが接続されており、1つの制御部CUa(アクチュエータACa)が接続されているものとする。
【0056】
入力信号発生部13は、入力線に接続された人工神経細胞素子に入力するための入力信号XINa(i)(i=1,2・・・,n)を発生する。接続先決定部15によって出力類似度Dが初期化されると、入力信号発生部13では、入力線が接続された人工神経細胞素子2aに対して入力信号XINa(i)を順次送信する。入力信号XINa(i)に対しては、新規に追加する出力線に接続する人工神経細胞素子から出力してほしい好ましい出力信号T(i)(i=1,2・・・,n)がそれぞれ設定されている。例えば、人工神経細胞素子2aに入力信号XINa(1)が入力された場合、出力信号としてT(1)が出力されることが理想である。
【0057】
人工神経細胞素子2aに入力信号XINa(1)が入力されると、各人工神経細胞素子からは出力信号O(1)を出力し、各人工神経細胞素子ではその出力信号O(1)を記憶する。次に、人工神経細胞素子2aに入力信号XINa(2)が入力されると、各人工神経細胞素子からは出力信号O(2)を出力し、各人工神経細胞素子ではその出力信号O(2)を記憶する。このような処理が入力信号XINa(n)が入力されるまで繰り返し続けられる。これによって、各人工神経細胞素子には、出力信号O(i)(i=1,2・・・n)が記憶される。そして、各人工神経細胞素子では、好ましい出力信号T(i)と実際の出力信号O(i)との誤差(T(i)−O(i))の2乗から出力類似度を求める式(3)により、出力類似度Dを計算する。なお、ネットワーク上において入力線が接続される人工神経細胞素子に繋がっていない人工神経細胞素子では、出力信号を出力しないので、出力類似度も計算しない。また、入力線や出力線に既に接続されている人工神経細胞素子では、新たな出力線の接続先とはならないので、出力類似度も計算しない。
【0058】
【数3】

D(j)は、j番目の人工神経細胞素子の出力類似度である。Oj(i)は、j番目の人工神経細胞素子における入力信号XINa(i)に対する出力信号である。nは、出力類似度を計算するためのパラメータ(入力する入力信号XINaの個数)であり、大きいほど高い精度の出力類似度が得られる。なお、第2の実施の形態では、各人工神経細胞素子が特許請求の範囲に記載する出力類似度計算部に相当する。
【0059】
なお、出力類似度の求めた方としては式(3)に限定することなく、様々な計算式によって出力類似度を求めてよい。例えば、誤差(T(i)−Oj(i))が大きいケースが少数でもある人工神経細胞素子に出力線を接続したくない場合には、誤差の2乗ではなく、k乗(kは、2より大きいな値)とし、kが奇数の場合には誤差の絶対値のk乗としてもよい。また、適切な行列Mを用いて式(4)により、出力類似度を求めるようにしてもよい。
【0060】
【数4】

入力信号XINa(i)のiが時間を表す場合、行列Mは対角成分とその近傍で0でない値をとり、対角成分から十分離れたところでは0となるようにすれば時間的に近い領域で誤差を重要視する出力類似度を得ることができる。
【0061】
接続先決定部15は、接続制御部6から接続先要求信号が送信されると、全ての人工神経細胞素子2a・・・の出力類似度D(j)を最大値に初期化する。各人工神経細胞素子の出力類似度D(1),D(2)・・・が計算されると、接続先決定部15では、その出力類似度D(1)、D(2)・・・を比較する。そして、接続先決定部15では、出力類似度が最も小さい人工神経細胞素子を抽出し、その抽出した人工神経細胞素子を新規に出力線に接続する人工神経細胞素子として決定する。さらに、接続先決定部15では、その決定した人工神経細胞素子を示す接続先決定信号を接続制御部6に送信する。なお、第2の実施の形態では、接続先決定部15が特許請求の範囲に記載する出力主導出力線接続先決定部に相当する。
【0062】
図4を参照して、新規のアクチュエータACbを追加する場合(新規の出力線の接続先を求める場合)の情報処理装置11における動作について説明する。
【0063】
アクチュエータACbを追加するために、接続要求入力端子7に接続要求が入力される。接続要求入力端子7に接続要求が入力されると、接続制御部6では、新規の出力線の接続先を要求する接続先要求信号を接続先決定部15に送信する。すると、接続先決定部15では、全ての人工神経細胞素子2a〜2nの出力類似度Dを最大値に初期化する。
【0064】
まず、入力信号発生部13が、入力線が接続された人工神経細胞素子2aに対して入力信号XINa(1)を送信する。すると、人工神経細胞素子2aにネットワーク上接続している各人工神経細胞素子では、出力信号O(1)を出力するとともにその出力信号O(1)を記憶する。続いて、入力信号発生部13が、人工神経細胞素子2aに対して入力信号XINa(2)を送信する。すると、人工神経細胞素子2aにネットワーク上接続している各人工神経細胞素子では、出力信号O(2)を出力するとともにその出力信号O(2)を記憶する。このような処理が入力信号XINa(n)が入力されるまで繰り返し行われる。そして、各人工神経細胞素子では、記憶している出力信号O(1),O(2)・・・O(n)を用いて、式(3)により出力類似度Dをそれぞれ計算する。
【0065】
接続先決定部15では、各人工神経細胞素子での出力類似度D(1),D(2)・・・を参照し、出力類似度の最も小さい人工神経細胞素子を抽出する。そして、接続先決定部15では、この抽出した人工神経細胞素子を接続先とする接続先決定信号を設定し、接続制御部6に送信する。接続制御部6では、この接続先決定信号で示される人工神経細胞素子を新規の出力線に接続する。これによって、制御部CUbがその人工神経細胞素子に接続され、その人工神経細胞素子から制御部CUbに出力信号が出力され、アクチュエータACbも駆動できるようになる。
【0066】
この情報処理装置11によれば、人工神経回路網2の構造を変えることなく、新たな出力信号を出力することが可能である。そのため、新たなアクチュエータを追加する際に、人工神経回路網を再構築するために学習アルゴリズムによる学習を行う必要がないので、十分に大きなメモリや高性能なCPUを必要とせず、学習による膨大な時間を要さない。また、このような情報処理装置11を用いれば、複雑な応用課題をいくつかの簡単な問題に分割し、部分的な学習の積み上げによって性能を向上させていくことができる。
【0067】
図5を参照して、第3の実施の形態に係る情報処理装置21について説明する。図5は、第3の実施の形態に係る情報処理装置の構成図である。なお、情報処理装置21では、第1の実施の形態に係る情報処理装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0068】
情報処理装置21は、情報処理装置1と同様の装置であり、入力信号の変動に応じた出力線に接続される人工神経細胞素子の出力信号の変動を利用し、人工神経回路網の構造を変えることなく、新たな入力信号を受け取ることができる。そのために、情報処理装置21は、人工神経回路網2、入力信号発生部23、接続先決定部25、接続制御部6、接続要求入力端子7を備えている。なお、人工神経回路網2には、1つの環境センサESaが接続されており、1つの制御部CUa(アクチュエータACa)が接続されているものとする。
【0069】
入力信号発生部23では、既に入力線に接続された人工神経細胞素子に入力するための入力信号XINa(i)(i=1,2・・・,n)を発生するとともに、新たに入力線に接続する人工神経細胞素子に入力したい入力信号XINc(i)(i=1,2・・・,n)を発生する。接続先決定部25によって個別出力変動V(j)が初期化されると、入力信号発生部23では、入力線が接続された人工神経細胞素子2aに対して入力信号XINa(i)を順次送信するとともに、任意の人工神経細胞素子に対して入力信号XINc(i)を順次送信する。入力信号(XINa(i),XINc(i))の各組に対しては、出力線に接続する人工神経細胞素子2cから出力してほしい好ましい出力信号T(i)(i=1,2・・・,n)がそれぞれ設定されている。例えば、人工神経細胞素子2aに入力信号XINa(1)が入力されるとともに新たに入力線に接続する人工神経細胞素子に入力信号XINc(1)が入力された場合、人工神経細胞素子2cから出力信号としてT(1)が出力されることが理想である。
【0070】
人工神経細胞素子2aに入力信号XINa(1)が入力されるとともに任意の人工神経細胞素子に入力信号XINc(1)が入力されると、人工神経細胞素子2cからは出力信号Q(1)を出力し、人工神経細胞素子2cではその出力するQ(1)を記憶する。次に、人工神経細胞素子2aに入力信号XINa(2)が入力されるとともに任意の人工神経細胞素子に入力信号XINc(2)が入力されると、人工神経細胞素子2cからは出力信号Q(2)を出力し、人工神経細胞素子2cではその出力するQ(2)を記憶する。このような処理が入力信号(XINa(n),XINc(n))が入力されるまで繰り返し続けられる。これによって、人工神経細胞素子2cには、出力信号Q(i)(i=1,2・・・n)が記憶される。そして、人工神経細胞素子2cでは、好ましい出力信号T(i)と実際の出力信号Q(i)との誤差(T(i)−Q(i))の2乗から個別出力変動を求める式(5)により、個別出力変動Vを計算する。以上の処理を、入力線が接続されている人工神経細胞素子2aと出力線が接続されている人工神経細胞素子2c以外の人工神経細胞素子に入力信号XINc(i)を入力することによって、繰り返し行う。これによって、入力信号XINc(i)が入力される人工神経細胞素子毎に、個別出力変動Vが計算される。なお、個別出力変動の計算を人工神経細胞素子2cで行うのではなく、接続先決定部25で行ってもよい。この場合、人工神経細胞素子2cから出力される出力信号Q(j)を接続先決定部25でも受信するようにする。
【0071】
【数5】

V(j)は、j番目の人工神経細胞素子に入力信号XINc(i)を入力した場合の個別出力変動である。Qj(i)は、j番目の人工神経細胞素子に入力信号XINc(i)を入力した場合の出力信号である。nは、個別出力変動を計算するためのパラメータ(入力する入力信号XINの個数)であり、大きいほど高い精度の個別出力変動が得られる。なお、第3の実施の形態では、人工神経細胞素子2cが特許請求の範囲に記載する個別出力変動計算部に相当するが、個別出力変動の計算を接続先決定部25で行う場合には接続先決定部25が特許請求の範囲に記載する個別出力変動計算部に相当する。
【0072】
なお、個別出力変動の求めた方としては式(5)に限定することなく、様々な計算式によって個別出力変動を求めてよい。例えば、好ましい出力信号T(i)が得られない特殊な場合には、誤差(T(i)−Q(i))の2乗から求めるのではなく、入力信号XINc(i)を入力しないときの人工神経細胞素子2cからの出力信号をO(i)とし、(O(i)−Q(i))の2乗から求める。つまり、式(6)により個別出力変動Vを計算する。
【0073】
【数6】

式(6)で個別出力変動Vを求める場合、入力信号発生部23では、入力信号XINa(i)及び入力信号XINc(i)を入力させる以外に、入力信号XINa(i)のみを人工神経細胞素子2aに入力させる。
【0074】
接続先決定部25は、接続制御部6から接続先要求信号が送信されると、人工神経細胞素子2cにおける個別出力変動V(j)を最大値に初期化する。各人工神経細胞素子についての個別出力変動V(1)、V(2)・・・が計算されると、接続先決定部25では、その個別出力変動V(1)、V(2)・・・を比較する。そして、接続先決定部25では、最も小さい個別出力変動を抽出し、その抽出した個別出力変動のときに入力信号XINc(i)が入力された人工神経細胞素子を新規に入力線に接続する人工神経細胞素子として決定する。さらに、接続先決定部25では、その決定した人工神経細胞素子を示す接続先決定信号を接続制御部6に送信する。なお、第3の実施の形態では、接続先決定部25が特許請求の範囲に記載する出力変動主導入力線接続先決定部に相当する。
【0075】
図5を参照して、新規の環境センサEScを追加する場合(新規の入力線の接続先を求める場合)の情報処理装置21における動作について説明する。
【0076】
環境センサEScを追加するために、接続要求入力端子7に接続要求が入力される。接続要求入力端子7に接続要求が入力されると、接続制御部6では、新規の入力線の接続先を要求する接続先要求信号を接続先決定部25に送信する。すると、接続先決定部25では、人工神経細胞素子2cにおける全ての個別出力変動V(j)を最大値に初期化する。
【0077】
まず、入力信号発生部23が、入力線が接続された人工神経細胞素子2aに対して入力信号XINa(1)を入力するとともに任意の人工神経細胞素子に対して入力信号XINc(1)を入力する。すると、人工神経細胞素子2cでは、出力信号Q(1)を出力するとともにその出力信号Q(1)を記憶する。続いて、入力信号発生部23が、人工神経細胞素子2aに対して入力信号XINa(2)を入力するとともに任意の人工神経細胞素子に対して入力信号XINc(2)を入力する。すると、人工神経細胞素子2cでは、出力信号Q(2)を出力するとともにその出力信号Q(2)を記憶する。このような処理が入力信号XINa(n)が入力されるまで繰り返し行われる。そして、人工神経細胞素子2cでは、記憶している出力信号Q(1),Q(2)・・・Q(n)を用いて、式(5)により個別出力変動Vを計算する。このような処理が、人工神経細胞素子2a,2c以外の人工神経細胞素子に対して行われ、各人工神経細胞素子に対して個別出力変動Vが計算される。
【0078】
接続先決定部25では、個別出力変動V(1),V(2)・・・を参照し、最も小さい個別出力変動を抽出する。そして、接続先決定部25では、この抽出した個別出力変動となったときに入力信号XINc(i)が入力された人工神経細胞素子を接続先とする接続先決定信号を設定し、接続制御部6に送信する。接続制御部6では、この接続先決定信号で示される人工神経細胞素子を新規の入力線に接続する。これによって、環境センサEScがその人工神経細胞素子に接続され、その人工神経細胞素子が環境センサEScからの入力信号が受け取るようになる。
【0079】
この情報処理装置21によれば、人工神経回路網2の構造を変えることなく、新たな入力信号を受け取ることが可能である。そのため、新たな環境センサを追加する際に、人工神経回路網を再構築するために学習アルゴリズムによる学習を行う必要がないので、十分に大きなメモリや高性能なCPUを必要とせず、学習による膨大な時間を要さない。また、このような情報処理装置21を用いれば、複雑な応用課題をいくつかの簡単な問題に分割し、部分的な学習の積み上げによって性能を向上させていくことができる。
【0080】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0081】
例えば、本実施の形態では各機能を実現するためのプログラムを予め格納したコンピュータによって構成したが、各機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して頒布することも可能である。このような記録媒体としては、例えば、ハードディスク及びフレキシブルディスク等の磁気媒体、CD−ROM及びDVD−ROM等の光学媒体、フロプティカルディスク等の磁気光学媒体、あるいは、プログラム命令を実行又は格納するように特別に配置されたRAM、ROM及び半導体不揮発性メモリなどのハードウェアデバイスなどである。また、このような記録媒体からプログラム等を読み取る記録媒体読取用のドライブ(例えば、フレキシブルディスクドライブ)を情報処理装置に接続しておいてもよい。また、各機能を実現するプログラムをネットワークを介してダウンロードすることにより頒布することも可能である。また、ハードウエアによって各部を構成することも可能である。
【0082】
また、本実施の形態では環境センサを入力線を介して直接接続する構成としたが、入力線を通して入力される入力信号が複数のセンサの検出値から求められる特徴量などであってもよい。その際、特徴量は、既に接続されているセンサの一部又は全て用いて求められる特徴量としてもよい。
【0083】
また、第1の実施の形態では順方向近接指標値及び逆方向近接指標値を計算し、両方の指標値に基づいて新たに入力線や出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する構成としたが、順方向近接指標値と逆方向近接指標値のどちらか一方の近接指標値を計算し、順向性近接指標値のみを参照して新たに出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する構成としてもよいし、あるいは、逆向性近接指標値のみを参照して新たに入力線に接続する人工神経細胞素子を決定する構成としてもよい。順向性近接指標値のみを参照して出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する場合、順向性近接指標値が最も大きい値の人工神経細胞素子を出力線に接続する人工神経細胞素子に決定するとよいが、順向性近接指標値がFの人工神経細胞素子や既に出力線が接続されている人工神経細胞素子はその候補から除外する。また、逆向性近接指標値のみを参照して入力線に接続する人工神経細胞素子を決定する場合、逆向性近接指標値が最も大きい値の人工神経細胞素子を入力線に接続する人工神経細胞素子に決定するとよいが、逆向性近接指標値がFの人工神経細胞素子や既に入力線が接続されている人工神経細胞素子はその候補から除外する。
【0084】
また、第1の実施の形態では新たに入力線や出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する際の決定方法の一例を示したが、各人工神経細胞素子の順向性近接指標値や逆向性近接指標値を用いて他の決定方法により人工神経細胞素子を決定してよい。適合値の計算式についても一例を示したが、他の計算式により適合値を求めてもよい。
【0085】
また、第2の実施の形態では既に入力線に接続される人工神経細胞素子を1つとし、既に出力線が接続される人工神経細胞素子を1つとする人工神経回路網に適用したが、入力線に接続される人工神経細胞素子が複数存在する場合(つまり、既に接続されている環境センサが複数ある場合)や出力線に接続される人工神経細胞素子が複数存在する場合(つまり、既に接続されているアクチュエータが複数ある場合)でも、同様の方法により、容易に、各人工神経細胞素子における出力類似度を計算することができ、新たに出力線に接続する人工神経細胞素子を決定できる。
【0086】
また、第3の実施の形態では既に入力線が接続される人工神経細胞素子を1つとし、既に出力線が接続される人工神経細胞素子を1つとする人工神経回路網に適用したが、入力線に接続される人工神経細胞素子が複数存在する場合や出力線に接続される人工神経細胞素子が複数存在する場合でも、同様の方法により、容易に、個別出力変動を計算することができ、新たに入力線に接続する人工神経細胞素子を決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】第1の実施の形態に係る情報処理装置の構成図である。
【図2】図1の情報処理装置において新規に入力線に接続する人工神経細胞素子を決める際の各人工神経細胞素子の近接指標値の一例であり、(a)が初期状態であり、(b)が一方の入力線に接続する人工神経細胞素子に順向性信号を送信した場合の順向性近接指標値であり、(c)が他方の入力線に接続する人工神経細胞素子に順向性信号を送信した場合の順向性近接指標値であり、(d)が出力線に接続する人工神経細胞素子に逆向性信号を送信した場合の逆向性近接指標値である。
【図3】図1の情報処理装置において新規に入力線に接続する人工神経細胞素子を決める際の各人工神経細胞素子の近接指標値の他の例であり、(a)が初期状態であり、(b)が一方の入力線に接続する人工神経細胞素子に順向性信号を送信した場合の順向性近接指標値であり、(c)が他方の入力線に接続する人工神経細胞素子に順向性信号を送信した場合の順向性近接指標値であり、(d)が出力線に接続する人工神経細胞素子に逆向性信号を送信した場合の逆向性近接指標値である。
【図4】第2の実施の形態に係る情報処理装置の構成図である。
【図5】第3の実施の形態に係る情報処理装置の構成図である。
【符号の説明】
【0088】
1,11,21…情報処理装置、2,2’…人工神経回路網、2a〜2n…人工神経細胞素子、3…順方向信号発生部、4…逆向性信号発生部、5,15,25…接続先決定部、6…接続制御部、7…接続要求入力端子、13,23…入力信号発生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の人工神経細胞素子を備える情報処理装置であって、
前記複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子と入力線が接続された人工神経細胞素子との遠近を表す順向性近接指標値を計算する順向性近接指標値計算部と、
前記各人工神経細胞素子の順向性近接指標値を参照し、新規に出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する近接主導出力線接続先決定部と
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
複数の人工神経細胞素子を備える情報処理装置であって、
前記複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子と出力線が接続された人工神経細胞素子との遠近を表す逆向性近接指標値を計算する逆向性近接指標値計算部と、
前記各人工神経細胞素子の逆向性近接指標値を参照し、新規に入力線に接続する人工神経細胞素子を決定する近接主導入力線接続先決定部と
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項3】
複数の人工神経細胞素子を備える情報処理装置であって、
前記複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子と入力線が接続された人工神経細胞素子との遠近を表す順向性近接指標値を計算する順向性近接指標値計算部と、
前記複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子と出力線が接続された人工神経細胞素子との遠近を表す逆向性近接指標値を計算する逆向性近接指標値計算部と、
前記各人工神経細胞素子の順向性近接指標値及び前記各人工神経細胞素子の逆向性近接指標値を参照し、新規に入力線に接続する人工神経細胞素子及び/又は新規に出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する近接主導接続先決定部と
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項4】
複数の人工神経細胞素子を備える情報処理装置であって、
新規に出力線に接続する人工神経細胞素子の好ましい出力信号と前記複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子の出力信号との出力類似度を計算する出力類似度計算部と、
前記各人工神経細胞素子の出力類似度を参照し、新規に出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する出力主導出力線接続先決定部と
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項5】
複数の人工神経細胞素子を備える情報処理装置であって、
前記複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子の入力信号の変動に対する出力信号の変動を示す個別出力変動を計算する個別出力変動計算部と、
前記各人工神経細胞素子の個別出力変動を参照し、個別出力変動が小さい人工神経細胞素子を新規に入力線に接続する人工神経細胞素子と決定する出力変動主導入力線接続先決定部と
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項6】
複数の人工神経細胞素子によって神経細胞をそれぞれ模擬する情報処理方法であって、
前記複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子と入力線が接続された人工神経細胞素子との遠近を表す順向性近接指標値を計算する順向性近接指標値計算ステップと、
前記各人工神経細胞素子の順向性近接指標値を参照し、新規に出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する近接主導出力線接続先決定ステップと
を含むことを特徴とする情報処理方法。
【請求項7】
複数の人工神経細胞素子によって神経細胞をそれぞれ模擬する情報処理方法であって、
前記複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子と出力線が接続された人工神経細胞素子との遠近を表す逆向性近接指標値を計算する逆向性近接指標値計算ステップと、
前記各人工神経細胞素子の逆向性近接指標値を参照し、新規に入力線に接続する人工神経細胞素子を決定する近接主導入力線接続先決定ステップと
を含むことを特徴とする情報処理方法。
【請求項8】
複数の人工神経細胞素子によって神経細胞をそれぞれ模擬する情報処理方法であって、
新規に出力線に接続する人工神経細胞素子の好ましい出力信号と前記複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子の出力信号との出力類似度を計算する出力類似度計算ステップと、
前記各人工神経細胞素子の出力類似度を参照し、新規に出力線に接続する人工神経細胞素子を決定する出力主導出力線接続先決定ステップと
を含むことを特徴とする情報処理方法。
【請求項9】
複数の人工神経細胞素子によって神経細胞をそれぞれ模擬する情報処理方法であって、
前記複数の人工神経細胞素子の各人工神経細胞素子の入力信号の変動に対する出力信号の変動を示す個別出力変動を計算する個別出力変動計算ステップと、
前記各人工神経細胞素子の個別出力変動を参照し、個別出力変動が小さい人工神経細胞素子を新規に入力線に接続する人工神経細胞素子と決定する出力変動主導入力線接続先決定ステップと
を含むことを特徴とする情報処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−172213(P2006−172213A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364888(P2004−364888)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)