説明

情報推薦処理装置、方法及びプログラム

【課題】利用者に対し時間帯を考慮してより適切な情報を推薦する。
【解決手段】概念構造を利用した嗜好モデルのテーブルを、1日を1時間ずつに分割した24の時間帯別に作成して強度データベース31に記憶する。この状態で、利用者の情報選択操作に応じてクライアント端末から選択情報が送られた場合に、この選択情報に含まれる時刻情報が含まれる時間帯に対応する時間帯別嗜好モデルテーブルと、当該時間帯に対し直接隣接する一次隣接時間帯の嗜好モデルテーブルと、さらに間接的に隣接する二次隣接時間帯の嗜好モデルテーブルを上記強度データベース31からそれぞれ読み出す。この読み出された各時間帯別嗜好モデルテーブルの上記利用者に該当する概念に関連付けられた嗜好の強度を、上記選択操作時刻より離れるに従い小さくなるように調整された更新幅だけ増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、情報利用者に対しその嗜好モデルに応じた推薦情報を提供する情報推薦処理装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータネットワーク上において、情報提供者が情報利用者に対して情報を提供する場合に、情報利用者ごとに適する情報を選択するか、或いは情報利用者ごとに適する順番に情報を並び替えて表示する、情報推薦サービスが提案されている。推薦する情報としては、例えば広告情報やニュース情報、飲食店情報が有望である。
【0003】
この種のサービスを実現する手法として、本発明者等は有向非巡回グラフ、つまりリンクが方向を持ちリンクを辿って元のノードに戻ることはないという特徴を持つグラフからなる概念構造を利用する手法を提案している。この手法は、概念構造において各概念(ノード又はクラスとも呼ぶ)或いは概念間の関係を示す各リンクに対し、情報利用者ごとにその嗜好の強度を表す強度情報を設定することにより、当該情報利用者の嗜好モデルを構築する。そして、情報利用者の操作履歴等をもとに、予め定めた強度更新ルールに従い嗜好モデルの強度情報を更新し、この強度情報が更新された嗜好モデルをもとに情報利用者に適する情報(インスタンスとも呼ぶ)を選択するか、或いは順番を並び替えて提示するものとなっている(例えば、特許文献1又は非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−149340号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】信学技報、伊藤浩二ほか、「行動支援サービスのための情報利用者理解モデルの検討」、vol. 109, no. 272, LOIS2009-58, pp. 121-128, 2009年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献1又は非特許文献1に記載された手法には、以下のような改善すべき課題があった。すなわち、人の嗜好は時間帯に応じて変化する場合がある。例えば、飲食店の推薦サービスの場合、酒が好きな人であっても夜の時間帯では飲みたくても朝や昼の時間帯には飲みたくない場合がある。また、ハンバーガが好きな人であっても、昼間の時間帯に食べたくても夜には食べたくないという場合もある。ところが、前述の特許文献1又は非特許文献1に記載された従来の技術は、時間帯を考慮せずに情報推薦処理を行うものとなっているため、時間帯によっては利用者に対し有益な情報を推薦することができない。
【0007】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、利用者に対し時間帯を考慮してより適切な情報を推薦できるようにした情報推薦処理装置、方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためにこの発明の1つの観点は、階層化された複数の概念間をリンクにより関連付けると共に前記概念に推薦候補情報を関連付けた有向非巡回グラフからなる概念構造を利用し、前記各概念又は当該概念に至るリンクに利用者の嗜好に応じた強度情報を設定することにより利用者の嗜好を反映した嗜好モデル情報を、時間帯別に作成し記憶する記憶手段と、前記利用者による推薦候補情報の選択操作に応じて、前記記憶手段に記憶された嗜好モデル情報に含まれる強度情報を更新する更新手段とを具備する。そして、前記更新手段により、前記記憶された時間帯別の嗜好モデル情報の中から前記推薦候補情報の選択操作が行われた時刻を含む時間帯に対応する嗜好モデル情報を特定した後、この特定された嗜好モデル情報から前記選択操作により選択された推薦候補情報が関連付けられた概念を着目概念として特定し、この特定された着目概念又は当該概念に至るリンクに設定された強度情報を予め設定された第1の更新幅で増加させるようにしたものである。
【0009】
したがって、利用者の嗜好モデル情報が時間帯別に用意され、利用者による情報選択操作が行われた場合に、その操作時刻を含む時間帯に対応する時間帯別嗜好モデル情報が選択されて更新されることになる。このため、時間帯による利用者の嗜好の変化を考慮した情報推薦処理を行うことが可能となる。
【0010】
また、この発明の第1の観点は以下のような態様を備えることも特徴とする。
第1の態様は、前記更新手段により、前記記憶された時間帯別の嗜好モデル情報の中から、前記推薦候補情報の選択操作が行われた時刻を含む時間帯に対し近傍の時間帯に対応する嗜好モデル情報を特定した後、この特定された近傍の時間帯に対応する嗜好モデル情報から前記選択操作により選択された推薦候補情報が関連付けられた概念を着目概念として特定し、この特定された着目概念又は当該概念に至るリンクに設定された強度情報を、前記第1の更新幅を予め設定された係数をもとに減じた第2の更新幅で増加させる処理を、さらに行うようにしたものである。
【0011】
このようにすると、前記推薦候補情報の選択操作が行われた時刻を含む時間帯に対応する嗜好モデル情報に加え、その近傍の時間帯に対応する嗜好モデル情報が選択される。そして、この選択された近傍の時間帯に対応する嗜好モデル情報が、上記選択操作が行われた時刻を含む時間帯に対応する嗜好モデル情報よりも影響を減じた更新幅で更新される。このため、時間帯が異なる嗜好モデル情報間で嗜好の強度の変化を緩やかにすることが可能となり、これにより時間帯が切り替わったときに利用者に推薦される情報が大幅に変化しないようになる。したがって、利用者に対し違和感が少なく自然な情報推薦を行うことが可能となる。
【0012】
第2の態様は、正規分布の確率密度関数により決定される係数を用意して、この係数をもとに前記第1及び第2の更新幅を算出し、この算出された第1又は第2の更新幅をもとに上記特定された嗜好モデル情報の強度情報を更新するようにしたものである。
このようにすると、選択操作が行われた時刻を含む時間帯の嗜好モデル情報、及びその近傍の時間帯に対応する嗜好モデル情報の強度情報の更新処理を、正規分布の確率密度関数により表される特性に従いより適切に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
すなわちこの発明の1つの観点によれば、利用者に対し時間帯を考慮してより適切な情報を推薦できるようにした情報推薦処理装置、方法及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の一実施形態に係わる情報推薦サービスを実施するシステムの概略構成図。
【図2】図1に示したシステムで使用されるクライアント端末の機能構成を示すブロック図。
【図3】図1に示したシステムで使用される情報推薦処理装置及び情報蓄積装置の機能構成を示すブロック図。
【図4】図2及び図3に示したクライアント端末、情報推薦処理装置及び情報蓄積装置による嗜好モデル更新処理の手順と内容を示すフローチャート。
【図5】図2及び図3に示したクライアント端末、情報推薦処理装置及び情報蓄積装置による情報推薦処理の手順と内容を示すフローチャート。
【図6】図3に示した情報蓄積装置の強度データベースの構造を示す図。
【図7】図3に示した情報蓄積装置の強度データベースに記憶されるテーブル情報の一例を示す図。
【図8】図3に示した情報蓄積装置の情報データベースに記憶される情報の一例を示す図。
【図9】図3に示した情報推薦処理装置が嗜好モデル更新処理に用いる隣接係数設定ファイルの一例を示す図。
【図10】嗜好モデルの概念構造の一例を示す図。
【図11】リンクに強度情報を持たせた場合の、嗜好モデルを用いた情報推薦処理の一例を示す図。
【図12】ノードに強度情報を持たせた場合の、嗜好モデルを用いた情報推薦処理の一例を示す図。
【図13】時間帯を考慮した嗜好モデルの更新処理の第1の実施例を示す図。
【図14】時間帯を考慮した嗜好モデルの更新処理の第2の実施例を示す図。
【図15】時間帯を考慮した嗜好モデルの他の構成例を示す図。
【図16】時間帯を考慮した嗜好モデルの別の構成例を示す図。
【図17】正規分布を用いて隣接係数を設定する例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
[構成]
図1は、この発明の一実施形態に係わる情報推薦サービスを実施するシステムの概略構成図である。
このシステムは、情報推薦処理装置SVaaと、情報蓄積装置SDと、利用者が使用するクライアント端末MS1〜MSnとを備えている。そして、上記情報推薦処理装置SVaaとクライアント端末MS1〜MSnとの間で、通信ネットワークNWを介して情報推薦サービスを受けるための通信を可能としている。
【0016】
通信ネットワークNWは、例えばIP(Internet Protocol)網と、このIP網にアクセスするためのアクセス網とから構成される。アクセス網としては、公衆有線電話網、携帯電話網、LAN(Local Area Network)、無線LAN、CATV(Cable Television)網等が用いられる。
【0017】
(1)クライアント端末
クライアント端末MS1〜MSnは、利用者が使用するもので、パーソナル・コンピュータ、携帯電話機、スマートフォン、PDA(Personal Digital Assistant)、電子書籍端末等からなる。そして、例えば図2に示すように制御ユニット11と、入出力インタフェース部12と、通信インタフェース部13を備えている。
【0018】
入出力インタフェース部12は、液晶又は有機ELを用いた表示デバイスと、キーボード又はタブレット型の入力デバイスを有する。通信インタフェース部13は、制御ユニット11の制御の下で、通信ネットワークNWで規定される通信プロトコルに従い情報推薦処理装置SVaaとの間で情報の送受信を行う。
【0019】
制御ユニット11は中央処理ユニット(CPU)を有し、この発明に係る制御機能として、情報選択部111と、情報要求部112と、推薦情報受付部113と、推薦情報表示制御部114を備えている。これらの制御機能はいずれも図示しないプログラム・メモリに格納されたアプリケーション・プログラムを上記CPUに実行させることにより実現される。
【0020】
情報選択部111は、利用者が入出力インタフェース部12において、例えば店舗の一覧データの中から自身が利用した、或いは利用しようとする店舗を選択する操作を行った場合に、この選択された情報を識別するための情報IDと、利用者を識別するための利用者IDと、現在時刻を表す時刻情報とを含む選択情報を生成し、この生成された選択情報を通信インタフェース部13から情報推薦処理装置SVaaへ向け送信する処理を行う。
【0021】
情報要求部112は、利用者が入出力インタフェース部12において、例えば店舗の推薦情報を要求する操作を行った場合に、利用者IDと、現在時刻を表す時刻情報とを含む要求情報を生成し、この生成された要求情報を通信インタフェース部13から情報推薦処理装置SVaaへ向け送信する処理を行う。
【0022】
推薦情報受付部113は、上記要求情報の送信に対し、情報推薦処理装置SVaaから推薦情報の一覧データが返送された場合に、当該データを通信インタフェース部13により受信する処理を行う。
推薦情報表示制御部114は、上記受信された推薦情報の一覧データを入出力インタフェース部12の表示デバイスに表示させる処理を行う。
【0023】
(2)情報蓄積装置
情報蓄積装置SDは、例えばパーソナル・コンピュータ又はワークステーションを用いたデータベースサーバからなり、図3に示すように強度データベース31と、情報データベース32と、通信インタフェース部33を備えている。通信インタフェース部33は、情報推薦処理装置SVaとの間で通信ネットワークNWを介して情報の送受信を行う。
【0024】
強度データベース31には、時間帯別に用意された複数の嗜好モデル用テーブルが記憶されている。図6はその一例を示すもので、1日を1時間ずつ24個の時間帯に分けた場合の時間帯別嗜好モデル用テーブル300〜323を備える。そして、個々のモデル用テーブル300〜323には、例えば図7に示すように、利用者IDに関連付けて、概念(ノード)を表す識別情報(概念ID)と、当該概念に対し設定された利用者の嗜好の強度を表す情報が記憶されている。概念は、後述する情報推薦処理装置SVaの概念構造情報記憶部22に記憶されている共通の概念構造において定義されたものである。
【0025】
情報データベース32には、例えば図8に示すように、インスタンスとしての例えば店舗名を識別する情報(情報ID)に関連付けて、当該店舗名とリンクにより関連付けられている概念のIDと、当該リンクに対し設定されているコンテンツリンク強度を表す情報がそれぞれ記憶されている。
【0026】
(3)情報推薦処理装置
情報推薦処理装置SVaは、例えばパーソナル・コンピュータ又はワークステーションを用いたWebサーバからなり、以下のように構成される。図3はその機能構成を示すブロック図である。
すなわち、情報推薦処理装置SVaは、制御ユニット21aと、概念構造情報記憶部22と、通信インタフェース部23,24を備える。通信インタフェース部23,24は、制御ユニット21aの制御の下で、通信ネットワークNWで規定される通信プロトコルに従い、それぞれクライアント端末MS1〜MSn及び情報蓄積装置SDとの間で情報の送受信を行う。
【0027】
概念構造情報記憶部22には、予め各情報利用者に対し共通に作成された概念構造を表す情報が予め記憶されている。なお、この概念構造はサービスの種類ごとにそれぞれ作成される。
【0028】
制御ユニット21aは、中央処理ユニット(CPU)及びメモリを備えたもので、この発明を実現するために必要な制御機能として、選択情報受付部211と、更新対象テーブル選択部212と、嗜好モデル更新部213と、情報要求受付部214と、推薦候補テーブル選択部215と、推薦情報作成部216と、推薦情報送信部217と、概念構造情報読込部218を備えている。なお、これらの制御機能はいずれも、図示しないプログラム・メモリに格納されたアプリケーション・プログラムを上記CPUに実行させることにより実現される。
【0029】
概念構造情報読込部218は、システム起動時に概念構造情報記憶部22から概念構造を表すデータを読み込む処理を行う。
選択情報受付部211は、前記クライアント端末MS1〜MSnから送信された選択情報を通信インタフェース部23を介して受信し、制御ユニット21a内の作業用メモリに一時保存する処理を行う。
【0030】
更新対象テーブル選択部212は、以下の処理機能を有している。
(1) 通信インタフェース部24から通信ネットワークNWを介して情報蓄積装置SDの強度データベース31に対しアクセスし、上記選択情報受付部211により受信された選択情報に含まれる時刻情報をキーとして、当該時刻情報により示される時刻を含む時間帯に対応する時間帯別嗜好モデル用テーブルを更新対象テーブルとして特定し、その記憶情報を強度データベース31から選択的に読込む処理。
(2) 上記更新対象テーブルとして特定されたテーブルの時間帯と隣接する時間帯(一次隣接時間帯)に対応する時間帯別嗜好モデル用テーブルを一次隣接更新対象テーブルとして特定し、その記憶情報を強度データベース31から選択的に読込む処理。
(3) 上記一次隣接時間帯と隣接する時間帯(二次隣接時間帯)に対応する時間帯別嗜好モデル用テーブルを二次隣接更新対象テーブルとしてさらに特定し、その記憶情報を強度データベース31から選択的に読込む処理。
(4) 上記(2) 及び(3) により特定された一次及び二次の隣接更新対象テーブルの記憶情報をそれぞれ、予め制御ユニット21a内のメモリに保存しておいた一次隣接係数及び二次隣接係数と関連付ける。そして、(1) により読み込んだ更新対象テーブルの記憶情報と、上記関連付けられた隣接更新対象テーブルの記憶情報とその隣接係数を、上記選択情報に含まれる利用者ID及び情報IDと共に嗜好モデル更新部213に渡す処理。
【0031】
嗜好モデル更新部213は、以下の処理機能を有する。
(1) 通信インタフェース部24から通信ネットワークNWを介して情報蓄積装置SDの情報データベース32に対しアクセスし、上記更新対象テーブル選択部212から渡された情報IDをキーとして、当該情報IDに関連付けられている概念のIDを情報データベース32から検索する処理。
(2) 上記読込まれた概念ID及び利用者IDをキーにして、上記更新対象テーブル選択部212から渡された更新対象テーブルの記憶情報から更新対象の強度情報を特定し、この特定した強度情報を更新する処理。
この強度情報の更新処理は以下のように行われる。
(2-1) 前記時刻情報により示される時刻を含む時間帯に対応するテーブルについては、更新対象の強度値に予め定められた基本更新幅を加算する。
(2-2) 前記一次隣接時間帯に対応するテーブルについては、更新対象の強度値に、上記基本更新幅に上記一次隣接係数を乗じた値を加算する。
(2-3) 前記二次隣接時間帯に対応するテーブルについては、更新対象の強度値に、上記基本更新幅に上記二次隣接係数を乗じた値を加算する。
(3) 上記(2-1) 〜(2-3) により計算された強度値をもとに、強度データベース31に記憶された該当する更新対象テーブルの記憶情報を更新する処理。
【0032】
情報要求受付部214は、上記クライアント端末MS1〜MSnから送信された要求情報を通信インタフェース部23により受信して制御ユニット21a内のメモリに一次保存する処理を行う。
【0033】
推薦候補テーブル選択部215は、通信インタフェース部24から通信ネットワークNWを介して情報蓄積装置SDの強度データベース31に対しアクセスし、上記受信された要求情報に含まれる時刻情報をキーとして、当該時刻情報により示される時刻を含む時間帯に対応する時間帯別嗜好モデル用テーブルの記憶情報を強度データベース31から選択的に読込む処理を行う。
【0034】
推薦情報作成部216は、以下の処理機能を有する。
(1) 上記選択された時間帯別嗜好モデル用テーブルの記憶情報から、上記要求情報に含まれる利用者IDに該当する概念IDと強度情報を選択する処理。
(2) 通信インタフェース部24から通信ネットワークNWを介して情報蓄積装置SDの情報データベース32に対しアクセスし、上記選択された概念IDをキーにして該当するコンテンツリンク強度を表す情報を情報データベース32から読込む処理。
(3) 上記(1) により選択された強度情報と、上記(2) により読込んだコンテンツリンク強度を表す情報とをもとに、各店舗のインスタンス重要度を計算する処理。
(4) 上記インスタンス重要度の計算結果に基づいて、重要度が閾値以上の店舗を選択し、この選択した店舗が複数ある場合にはこれらの店舗をインスタンス重要度の高い順に並べ替えることにより、推薦情報の一覧データを作成する処理。
【0035】
推薦情報送信部217は、上記作成された推薦情報の一覧データを、通信インタフェース部23から要求元のクライアント端末MS1〜MSnへ送信する処理を行う。
【0036】
[概念構造とこの概念構造を利用した嗜好モデルの更新処理及び情報推薦処理の基本動作]
先ず、本実施形態の動作の理解を助けるため、嗜好モデル情報を表す概念構造と、この概念構造を使用した嗜好モデルの更新処理及び情報推薦処理の基本動作について説明する。
【0037】
利用者の嗜好モデル情報は概念構造をベースとする。概念構造は、多重継承を許容する有向非巡回グラフからなり、例えば図10に示すように階層化された複数の概念(ノード又はクラス)をリンクにより関連付けると共に、概念を具象化したインスタンスを推薦候補として概念に関連付けたものからなる。そして、上記概念間のリンク又は各概念には、利用者ごとにその嗜好の強度を表す情報が設定され、これが当該利用者の嗜好モデルを表す情報となる。
【0038】
図11は、概念構造に含まれる任意のリンクに対し利用者ごとに強度情報を設定した場合の嗜好モデルの一例を示すものである。同図において、概念構造に含まれるリンクには、利用者の操作履歴等を用いて強度情報を更新することを定めたルールが関連付けられる。そして、これらのルールに従い、嗜好モデルは利用者の嗜好に適合するように更新され、この更新された嗜好モデルを用いて利用者に適する情報が選択されて利用者に提示される。
【0039】
例えば、概念構造に含まれる任意のリンクに対し、「リンク先の概念がある情報に対するリンクを持ちかつ情報利用者が当該情報を利用した場合に、当該リンク及び当該リンクの下位リンクに設定された強度情報を1増加させる」というルールが関連付けられていたとする。この場合には、情報利用者が当該情報を利用するごとに、このルールに従い当該リンク及び当該リンクの下位リンクに設定された強度情報が1増加され、情報利用者の嗜好モデルが利用者の嗜好に適合するように更新される。
【0040】
より具体的には、図11において、「麺類」と「スパゲティミートソース」との間のリンク、「肉料理」と「スパゲティミートソース」との間のリンク、及び「肉料理」と「ステーキ」との間のリンクに対して上記ルールが設定されている場合には、情報利用者が「店4」を利用すると、「麺類」と「スパゲティミートソース」との間のリンク、「肉料理」と「スパゲティミートソース」との間のリンク、及び「肉料理」と「ステーキ」との間のリンクにそれぞれ設定された強度情報が1ずつ増加され、情報利用者の嗜好モデルが更新される。
【0041】
そして、嗜好モデルを用いて情報利用者ごとに適する情報のみを表示する場合、或いは情報を利用者ごとに適する順番に並び替えて表示する場合には、全ての概念について当該概念に至る全てのリンクの強度情報と着目率を用いて当該概念をどの程度重視するかを表す値(クラス重要度)が計算される。また、概念とコンテンツがどの程度関連しているかを表す値(コンテンツリンク強度情報)も考慮し、情報が情報利用者にどの程度適しているかを表す値(インスタンス重要度)が計算される。そして、このインスタンス重要度の計算値が閾値を超えた情報のみが選択されて表示されるか、或いはインスタンス重要度の高い情報から順に並べられて表示される。以上述べた、リンクに強度情報を設定する方法は、特許文献1又は非特許文献2に詳しく述べられている。
【0042】
一方、図12は概念構造に含まれる各ノード(クラス)に強度情報を保持する場合の嗜好モデルの一例を示すものである。この場合も、基本的に前述したリンクに強度情報を設定した場合と同様に、利用者の嗜好モデルの更新処理と、利用者に適する情報の表示処理が行われる。このノード(クラス)に強度情報を保持させる方法は、以下の文献に詳しく述べられている。
信学技報、伊藤浩二ほか、「ユーザ理解モデルを用いた嗜好把握方法の提案と飲食店推薦サービスへの適用」、Vol.110, No.207,208, LOIS2010-25, pp. 43-48, 2010年9月
【0043】
[実施形態の動作]
(1)嗜好モデル更新処理
ここでは、例えば利用者Aがクライアント端末MS1において飲食店の選択操作を行い、それに伴い情報推薦処理装置SVaが当該利用者に関する嗜好モデルの情報を更新する場合を例にとって説明する。図4はその処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
【0044】
情報推薦処理装置SVaでは、システム起動時に、概念構造情報読込部218により概念構造情報記憶部22から概念構造情報が読込まれ、制御ユニット21a内のメモリに保存される。またそれと共に、隣接係数やインスタンス重要度の閾値等も、図示しないシステム設定ファイルやデータベースから制御ユニット21a内に読込まれて保存される
いま例えば、利用者がクライアント端末MS1において、店舗の一覧データの中から自身が利用した、或いは利用しようとする店舗を選択する操作を行ったとする。そうすると、クライアント端末MS1は、情報選択部111がステップS9により上記操作を検出し、ステップS10により選択情報を生成してこの選択情報を情報推薦処理装置SVaに向け送信する。この選択情報には、上記選択された店舗を識別するための情報IDと、利用者を識別するための利用者IDと、現在時刻を表す時刻情報が挿入される。
【0045】
これに対し情報推薦処理装置SVaでは、上記クライアント端末MS1から選択情報が送られると、選択情報受付部211がステップS11により上記選択情報を通信インタフェース部23を介して受信し、制御ユニット21a内の作業用メモリに一時保存する。この選択情報が受信されると情報推薦処理装置SVaでは、更新対象テーブル選択部212が起動し、この更新対象テーブル選択部212の制御の下で以下の処理が実行される。
【0046】
すなわち、先ずステップS12において、通信インタフェース部24から通信ネットワークNWを介して情報蓄積装置SDの強度データベース31に対しアクセスされる。そして、上記受信された選択情報に含まれる時刻情報をキーとして、当該時刻情報により示される時刻を含む時間帯に対応する時間帯別嗜好モデル用テーブルが更新対象テーブルとして特定され、その記憶情報が強度データベース31から選択的に読み込まれて制御ユニット21a内のメモリに保存される。
【0047】
続いてステップS13において、上記更新対象テーブルとして特定されたテーブルの時間帯と隣接する時間帯(一次隣接時間帯)に対応する時間帯別嗜好モデル用テーブルが特定され、その記憶情報が強度データベース31から読み込まれて制御ユニット21a内のメモリに保存される。
さらにステップS14において、上記一次隣接時間帯に隣接する時間帯(二次隣接時間帯)に対応する時間帯別嗜好モデル用テーブルが特定され、その記憶情報が強度データベース31から読み込まれて制御ユニット21a内のメモリに保存される。
【0048】
例えば、いま図6及び図13に示すように1日を1時間ずつに分割した24個の時間帯別嗜好モデル用テーブル300〜323が強度データベース31に記憶されており、上記受信された選択情報に含まれる時刻T1が12:30だったとする。この場合、当該時刻T1=12:30を含む時間帯(12:00≦時刻<13:00)に対応する時間帯別嗜好モデル用テーブル312が更新対象テーブルとして先ず特定され、その記憶情報が情報蓄積装置SDの強度データベース31から読み込まれる。
【0049】
続いて、上記更新対象テーブルとして特定された時間帯別嗜好モデル用テーブル312の時間帯(12:00≦時刻<13:00)の両隣の時間帯(11:00≦時刻<12:00),(13:00≦時刻<14:00)に対応する嗜好モデル用テーブル311,313が一次隣接更新対象テーブルとしてそれぞれ特定され、その記憶情報が情報蓄積装置SDの強度データベース31から読み込まれる。
【0050】
さらに、上記一次隣接更新対象テーブルとして特定された各テーブル311,313の時間帯(11:00≦時刻<12:00),(13:00≦時刻<14:00)にさらに隣接する時間帯(10:00≦時刻<11:00),(14:00≦時刻<15:00)に対応する嗜好モデル用テーブル310,314が二次隣接更新対象テーブルとしてそれぞれ特定され、その記憶情報が情報蓄積装置SDの強度データベース31から読み込まれる。
【0051】
以上の更新対象テーブル、一次隣接更新対象テーブル及び二次隣接更新対象テーブルの特定が終了すると、情報推薦処理装置SVaでは続いて嗜好モデル更新部213が起動し、この嗜好モデル更新部213の制御の下で以下のように嗜好モデルの更新処理が実行される。
【0052】
すなわち、先ずステップS15において上記特定された更新対象の各テーブルの中から一つが選択される。続いてステップS16により、先に受信した選択情報に含まれる情報IDをキーとして、当該情報IDに関連付けられている概念のIDが情報蓄積装置SDの情報データベース32から検索される。次にステップS17において、上記選択された更新対象テーブルの記憶情報から、上記検索された概念IDに関連付けられている嗜好の強度情報が特定される。そしてステップS18において、この特定された強度情報を、予め設定された基本更新幅と隣接係数とにより決まる更新幅に従い更新する処理が行われる。最後にステップS19において、上記更新された強度情報を用いて、情報蓄積装置SDの強度データベース31の該当するテーブルの記憶情報が更新される。
【0053】
一つの嗜好モデルテーブルに対する更新処理が終了すると、ステップS20において全ての更新対象テーブルに対する更新処理が終了したか否かが判定される。そして、まだ更新処理が終了していない嗜好モデルテーブルが残っていればステップS15に戻り、未更新のテーブルが一つ選択されて上記したステップS16〜S19による強度情報の更新処理が繰り返される。
【0054】
例えば、先ず時間帯別嗜好モデルテーブル312が選択され、利用者が選択した店舗IDに関連付けられている概念が「スパゲッティミートソース」であれば、当該「スパゲッティミートソース」に関連付けられている嗜好の強度が更新される。このとき、更新対象テーブル312は利用者の選択操作時刻を含む時間帯に対応する嗜好モデルテーブルであるため、上記概念「スパゲッティミートソース」に関連付けられている嗜好の強度に、予め設定された基本更新幅=1が加算される。そして、情報蓄積装置SDの強度データベース31に記憶された嗜好モデルテーブル312の記憶内容が、上記加算後の強度に更新される。図13にその更新の様子を示す。
【0055】
一方、一次隣接時間帯の嗜好モデルテーブル311,313に対しては、上記基本更新幅=1に上記一次隣接係数=1/2を乗じた値を、上記概念「スパゲッティミートソース」に関連付けられている嗜好の強度に加算する。さらに、二次隣接時間帯の嗜好モデルテーブル310,314に対しては、上記基本更新幅=1に上記二次隣接係数=1/4を乗じた値を、上記概念「スパゲッティミートソース」に関連付けられている嗜好の強度に加算する。図14はその更新の様子を示す図である。
【0056】
(2)情報推薦処理
ここでは、利用者Aがクライアント端末MS1において情報の推薦サービスを利用する場合を例にとって説明する。図5はその処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
いま例えば、利用者Aがクライアント端末MS1において、推薦情報を要求するための操作を行ったとする。そうすると、クライアント端末MS1では、情報要求部112がステップS21により上記操作を検出し、ステップS22により要求情報を生成してこの要求情報を情報推薦処理装置SVaに向け送信する。このとき要求情報には、利用者IDと、現在時刻を表す時刻情報が挿入される。
【0057】
これに対し情報推薦処理装置SVaでは、上記クライアント端末MS1から要求情報が送られると、情報要求受付部214がステップS23により上記要求情報を通信インタフェース部23を介して受信し、制御ユニット21a内のメモリに一次保存する。
【0058】
上記要求情報が受信されると情報推薦処理装置SVaでは、次に推薦候補テーブル選択部215が起動され、この推薦候補テーブル選択部215の制御の下で以下のように推薦対象テーブルの選択処理が行われる。すなわち、先ずステップS24において、上記要求情報に含まれる時刻情報をキーにして、当該時刻情報により示される時刻が含まれる時間帯に対応する時間帯別嗜好モデルテーブルが、強度デーダース31に格納された24個の時間帯別嗜好モデルテーブルの中から特定される。そして、この特定された時間帯別嗜好モデルテーブルの記憶情報が、情報蓄積装置SDの強度データベース31から読み込まれる。
例えば、利用者が要求操作を行った時刻T2がT2=13:30だったとすると、この時刻T2(=13:30)が含まれる時間帯に対応するテーブルとして、時間帯別嗜好モデルテーブル313が特定され、その記憶情報が読み込まれる。
【0059】
次に推薦情報作成部216の制御の下で、以下のように推薦情報作成処理が行われる。すなわち、先ずステップS25において、上記選択情報に含まれる利用者IDをキーにして、当該利用者Aに関する概念IDとその強度情報が上記特定された時間帯別嗜好モデルテーブルの記憶情報から選択される。続いてステップS26において、上記選択された概念IDをキーにして該当するコンテンツリンク強度を表す情報を情報データベース32から読み込まれる。そして、ステップS27において、上記ステップS25により選択された強度情報と、上記ステップS26により読み込まれたコンテンツリンク強度を表す情報とをもとに、上記嗜好モデルに含まれる各店舗のインスタンス重要度が計算される。
【0060】
このインスタンス重要度の計算は次のように行われる。すなわち、先ず更新対象の全ての概念について、当該概念に設定された強度情報又は当該概念に至る全てのリンクの強度情報と着目率を用いて、当該概念をどの程度重視するかを表すクラス重要度を計算する。次に、この計算されたクラス重要度に、上記コンテンツリンク強度情報を乗算することによりインスタンス重要度を算出する。その具体例は図11及び図12に示してある。
【0061】
例えば、図12では、クライアント端末MS1の利用者Aに関する「そば」及び「うどん」の強度はそれぞれ“3.0”、“4.0”であるため、着目率“1.0”とこの強度情報を用いてクラス強度を算出すると、
「そば」のクラス強度=1.0×3.0=3.0
「うどん」のクラス強度=1.0×4.0=4.0
となる。
【0062】
また、「店1」(「そば」とのコンテンツリンク強度=0.5)、「店3」(「うどん」とのコンテンツリンク強度=1.0)が情報データベース32から読込まれる。そして、上記クラス強度とコンテンツリンク強度とをもとに、「店1」及び「店3」のインスタンス重要度はそれぞれ
「店1」のインスタンス重要度=4.0×0.5+3.0×0.5=3.5
「店3」のインスタンス重要度=4.0×1.0=4.0
となる。
【0063】
上記インスタンス重要度が算出されると推薦情報作成部216は、続いてステップS28において、上記算出されたインスタンス重要度をもとに、上記着目クラスの中からインスタンス重要度が予め設定された閾値に満たないクラスを削除する。そして、この削除後に残ったクラスを上記インスタンス重要度が高い順に並べ替え、この並べ替えたクラスの一覧を示す情報を推薦情報一覧データとして推薦情報送信部217に渡す。
【0064】
例えば図12では、「店2」に対してリンクを持つ概念「そば」、「うどん」からのリンクがある「店1」、「店3」が先ず選択され、そのインスタンス重要度が例えば閾値=1.0以上であるか否かが判定される。この判定の結果、いま「店1」、「店3」のインスタンス重要度はいずれも閾値=1.0以上であるので、これらの「店1」、「店3」が類似店として選定される。そして、これらの「店1」、「店3」はインスタンス重要度が高い順に「店3」、「店1」の順に並べ替えられ、この並び替え後の情報が推薦一覧データとなる。
上記推薦情報の一覧データが生成されると、最後に推薦情報返却部217がステップS29により、上記推薦情報の一覧データを通信インタフェース部23から要求元のクライアント端末MS1に向けて送信する。
【0065】
これに対しクライアント端末MS1では、推薦情報受付部113がステップS30により上記推薦情報の一覧データを受信する。そして、推薦情報表示制御部114がステップS31により、上記受信された推薦情報の一覧データを入出力インタフェース部12へ出力する。したがって、入出力インタフェース部12の表示器には推薦情報の一覧が表示され、利用者Aはこの表示された推薦情報の一覧から、推薦された「店3」及び「店1」をその重要度が高い順に知ることができる。
【0066】
以上詳述したようにこの実施形態では、概念構造を利用した嗜好モデル情報のテーブル300〜323を、1日を1時間ずつに分割した24の時間帯別に作成して強度データベース31に記憶している。この状態で、利用者の情報選択操作に応じてクライアント端末MS1〜MSnから選択情報が送られた場合に、この選択情報に含まれる時刻情報が含まれる時間帯に対応する時間帯別嗜好モデルテーブルと、当該時間帯に対し直接隣接する一次隣接時間帯の嗜好モデルテーブルと、さらに間接的に隣接する二次隣接時間帯の嗜好モデルテーブルを上記強度データベース31からそれぞれ読み出す。そして、この読み出された各時間帯別嗜好モデルテーブルの上記利用者に該当する概念に関連付けられた嗜好の強度を、上記選択操作時刻より離れるに従い小さくなるように調整された更新幅だけ増加させるようにしている。
【0067】
したがって、利用者の嗜好モデルテーブル300〜323が時間帯別に用意され、利用者による情報選択操作が行われた場合に、その操作時刻を含む時間帯に対応する時間帯別嗜好モデルテーブルが選択されて更新されることになる。このため、時間帯による利用者の嗜好の変化を考慮した情報推薦処理を行うことが可能となる。
【0068】
しかも、選択操作が行われた時刻を含む時間帯の嗜好モデルテーブルに加え、当該時間帯に対し直接隣接する一次隣接時間帯の嗜好モデルテーブルと、間接的に隣接する二次隣接時間帯の嗜好モデルテーブルが選択的に読み出され、この選択された一次隣接時間帯及び二次隣接時間帯の嗜好モデルテーブルの強度情報が、上記選択操作が行われた時刻から遠ざかるに従い増加幅が小さくなるように調整された更新幅で更新される。このため、時間帯が異なる嗜好モデルテーブル300〜323間で嗜好の強度の変化を緩やかにすることが可能となり、これにより時間帯が切り替わったときに利用者に推薦される情報が大幅に変化しないようになる。したがって、利用者に対し違和感が少なく自然な情報推薦を行うことが可能となる。
【0069】
また、この実施形態によれば次のような効果も奏せられる。すなわち、時間帯に応じた嗜好モデルテーブルを構築するにあたり、時間帯の分割数が少ないと時刻に応じて変化する嗜好への追従精度が低くなる。例えば、1日を2つの時間帯に分割してこれらの時間帯ごとに嗜好モデルテーブルを構築する場合には、2つの時間帯別の情報推薦に留まるため、1つの時間帯の中で利用者の嗜好が変化する場合にはこの嗜好の変化を情報推薦に反映させることができない。一方、時間帯別の嗜好モデルテーブルを構築するにあたり、時間帯の分割数を増やすと時刻に応じて変化する嗜好への追従性能は向上するが、各時間帯の時間長が短くなるため、各嗜好モデルテーブルを構築するために用いる利用者の情報選択履歴が減少し、推薦精度が低下する。例えば、図6及び図13に例示したように1日を24の時間帯に分割してこれらの時間帯ごとに嗜好モデルテーブル300〜323を構築する場合には、1つの時間帯の嗜好モデルテーブルを構築する際に利用できる情報選択履歴は当該1時間に得られる履歴のみとなり、推薦精度の低下を招く。
【0070】
しかしながら、本実施形態のように、選択操作が行われた時刻を含む時間帯の嗜好モデルテーブルに加え、当該時間帯に対し直接隣接する一次隣接時間帯の嗜好モデルテーブルと、間接的に隣接する二次隣接時間帯の嗜好モデルテーブルについても強度情報を更新するようにすると、ある時刻に発生した情報選択操作の履歴が当該操作時刻を含む時間帯ばかりでなく、それに直接隣接する一次隣接時間帯の嗜好モデルテーブルにも反映され、さらには間接的に隣接する二次隣接時間帯の嗜好モデルテーブルにも反映される。
【0071】
例えば図14では12:30に発生した情報選択操作履歴により、12:30が含まれる時間帯の嗜好モデルテーブル312の更新に加え、その前後の時間帯の嗜好モデルテーブル311,313についても影響の大きさが1/2に減じられた上で更新され、さらにその前後の時間帯の嗜好モデルテーブル310,314についても影響の大きさが1/4に減じられた上で更新される。つまり、図14の例では1回分の操作履歴に対して5つの時間帯の嗜好モデルテーブルが更新される。
【0072】
したがって、任意の時刻に行われた情報選択操作の履歴は、当該履歴が含まれる時間帯の嗜好モデルテーブルだけでなく、直接及び間接的に隣接する近傍の時間帯の嗜好モデルテーブルに同時に影響を与えることになるため、隣り合う嗜好モデルテーブルは互いに相関し、嗜好モデルテーブルが切り替わる際に推薦結果が大幅に変化しないようになる。
【0073】
また、嗜好モデルを十分多くの時間帯に対応して分割する事が可能となり、時刻に応じて変化する嗜好への追従性能は向上する。さらに、嗜好モデルの分割数を多くした場合であっても、複数の嗜好モデルに対して同時に更新を行うため、嗜好モデル作成に用いる履歴が減少せず、推薦精度の低下を抑えることができる。
【0074】
またこの実施形態では、管理すべき嗜好モデルテーブルの数は増加するが、情報推薦時にはこれまでと同じく、当該情報推薦要求の操作時刻が含まれる時間帯の嗜好モデルテーブルのみを特定し、この特定された嗜好モデルテーブルをもとに情報を推薦すればよいので、情報推薦処理に新たな計算が追加されることはなく、応答性能の低下は起らない。
【0075】
(他の実施形態)
前記実施形態では、一次隣接係数及び二次隣接係数として任意に設定した1/2,1/4を用いて更新幅を調整するようにしたが、適切な分散を持つ正規分布の確率密度関数を用いて、上記更新幅を調整するための係数を設定するようにしてもよい。例えば、分散δ=1の標準正規分布の場合には下式を用いて係数を計算し、この計算により得られた係数を操作時刻を含む時間帯、一次隣接時間帯及び二次隣接時間帯の各嗜好モデルテーブルと関連付ける。図17にその設定結果の一例を示す。
【数1】

【0076】
また、前記実施形態では1日を24の時間帯に分割する場合を例にとって説明したが、さらに多くの時間帯に分割してもよい。このようにすると、管理すべき嗜好モデルテーブルの数は増加するが、嗜好モデルテーブルの時刻変化に対する追従性のさらなる向上が期待できる。反対に、1日に設定する時間帯の数を24より少ない数に設定してもよい。図15及び図16はその一例を示すもので、図15は時間帯として「MORNING」、「DAY1」、「DAY2」、「EVENIG」、「NIGHT」の5つの時間帯を設定した場合を、また図16は時間帯として「DAY」及び「NIGHT」の2つの時間帯を設定した場合をそれぞれ例示している。
【0077】
さらに、必ずしも各時間帯の長さを一定長に設定する必要はなく、1日における時間帯の位置に応じてその時間長を可変するようにしてもよい。例えば、嗜好が変化しやすい時間領域においては1つの時間帯の長さを短く設定し、嗜好が変化しにくい時間領域においては1つの時間帯の長さを長く設定する。また、各時間帯の長さは利用者ごとにその嗜好の変化の傾向性に応じて異ならせるようにしてもよい。
【0078】
さらに、前記実施形態では、図14に例示したように、1つの情報選択操作の履歴に応じて更新対象とする嗜好モデルテーブルを、当該操作時刻が含まれる時間帯と、その前後の4つの時間帯とからなる合計5つの時間帯の嗜好モデルテーブルとした。しかしながら、それに限定されるものではなく、さらに再帰的に近傍の時間帯の嗜好モデルテーブルを更新対象に含めるようにしてもよく、逆に操作時刻が含まれる時間帯のみ、或いは当該操作時刻が含まれる時間帯とこの時間帯に直接隣接する一次隣接時間帯のみを更新対象とするようにしてもよい。
【0079】
さらに、前記各実施形態では、情報推薦処理装置SVaと情報蓄積装置SDとを別々のサーバとして構成し、両装置間を通信ネットワークNWを介して接続した場合を例にとって説明したが、情報蓄積装置SD内の各データベース31,32を情報推薦処理装置SVa内に設けるようにしてもよい。
【0080】
また、前記実施形態では飲食店の嗜好モデルを例にとって説明したが、ほかにニュースや広告、ファッション等の嗜好モデル等にも同様に適用可能である。その他、情報推薦処理装置の構成や、嗜好モデル更新処理及び情報推薦処理の処理手順と処理内容、更新時の増加幅等についても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【0081】
要するにこの発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0082】
SVa…情報推薦処理装置、SD…情報蓄積装置、MS1〜MSn…クライアント端末、NW…通信ネットワーク、11…クライアント端末の制御ユニット、12…入出力インタフェース部、13…クライアント端末の通信インタフェース部、111…情報選択、112…情報要求、113…推薦情報受付部、114…推薦情報表示制御部、21…情報推薦処理装置の制御ユニット、22…概念構造情報記憶部、23,24…情報推薦処理装置の通信インタフェース部、211…選択情報受付部、212…更新対象テーブル選択部、213…嗜好モデル更新部、214…情報要求受付部、215…推薦候補テーブル選択部、216…推薦情報作成部、217…推薦情報送信部、31…強度データベース、32…情報データベース、33…情報蓄積装置の通信インタフェース部、300〜323…時間帯別のモデル用テーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
階層化された複数の概念間をリンクにより関連付けると共に前記概念に推薦候補情報を関連付けた有向非巡回グラフからなる概念構造を利用し、前記各概念又は当該概念に至るリンクに利用者の嗜好に応じた強度情報を設定することにより利用者の嗜好を反映した嗜好モデル情報を、時間帯別に作成し記憶する記憶手段と、
前記利用者による推薦候補情報の選択操作に応じて、前記記憶手段に記憶された嗜好モデル情報に含まれる強度情報を更新する更新手段と
を具備し、
前記更新手段は、
前記記憶された時間帯別の嗜好モデル情報の中から、前記推薦候補情報の選択操作が行われた時刻を含む時間帯に対応する嗜好モデル情報を特定する手段と、
前記特定された嗜好モデル情報から、前記選択操作により選択された推薦候補情報が関連付けられた概念を着目概念として特定する手段と、
前記特定された着目概念又は当該概念に至るリンクに設定された強度情報を予め設定された第1の更新幅で増加させる第1の増加手段と
を備えることを特徴とする情報推薦処理装置。
【請求項2】
前記更新手段は、
前記記憶された時間帯別の嗜好モデル情報の中から、前記推薦候補情報の選択操作が行われた時刻を含む時間帯に対し近傍の時間帯に対応する嗜好モデル情報を特定する手段と、
前記特定された近傍の時間帯に対応する嗜好モデル情報から、前記選択操作により選択された推薦候補情報が関連付けられた概念を着目概念として特定する手段と、
前記特定された着目概念又は当該概念に至るリンクに設定された強度情報を、前記第1の更新幅を予め設定された係数をもとに減じた第2の更新幅で増加させる第2の増加手段と
を、さらに備えることを特徴とする請求項1記載の情報推薦処理装置。
【請求項3】
前記第1及び第2の増加手段は、
正規分布の確率密度関数により決定される係数を記憶する手段と、
前記第1及び第2の更新幅を前記記憶された係数をもとに算出する手段と、
前記特定された着目概念又は当該概念に至るリンクに設定された強度情報を、前記算出された第1又は第2の更新幅で増加させる手段と
を有することを特徴とする請求項1又は2記載の情報推薦処理装置。
【請求項4】
階層化された複数の概念間をリンクにより関連付けると共に前記概念に推薦候補情報を関連付けた有向非巡回グラフからなる概念構造を利用し、前記各概念又は当該概念に至るリンクに利用者の嗜好に応じた強度情報を設定することにより利用者の嗜好を反映した嗜好モデル情報を、時間帯別に作成して記憶手段に記憶させる過程と、
前記利用者による推薦候補情報の選択操作に応じて、前記記憶手段に記憶された嗜好モデル情報に含まれる強度情報を更新する更新過程と
を具備し、
前記更新過程は、
前記記憶手段に記憶された時間帯別の嗜好モデル情報の中から、前記推薦候補情報の選択操作が行われた時刻を含む時間帯に対応する嗜好モデル情報を特定する過程と、
前記特定された嗜好モデル情報から、前記選択操作により選択された推薦候補情報が関連付けられた概念を着目概念として特定する過程と、
前記特定された着目概念又は当該概念に至るリンクに設定された強度情報を予め設定された第1の更新幅で増加させる過程と
を備えることを特徴とする情報推薦処理方法。
【請求項5】
前記更新過程は、
前記記憶された時間帯別の嗜好モデル情報の中から、前記推薦候補情報の選択操作が行われた時刻を含む時間帯に対し近傍の時間帯に対応する嗜好モデル情報を特定する過程と、
前記特定された近傍の時間帯に対応する嗜好モデル情報から、前記選択操作により選択された推薦候補情報が関連付けられた概念を着目概念として特定する過程と、
前記特定された着目概念又は当該概念に至るリンクに設定された強度情報を、前記第1の更新幅を予め設定された係数をもとに減じた第2の更新幅で増加させる過程と
を、さらに備えることを特徴とする請求項4記載の情報推薦処理方法。
【請求項6】
前記第1及び第2の更新幅で増加させる過程は、
正規分布の確率密度関数により前記係数を決定しメモリに記憶する過程と、
前記第1及び第2の更新幅を前記メモリに記憶された係数をもとに算出する過程と、
前記特定された着目概念又は当該概念に至るリンクに設定された強度情報を、前記算出された第1又は第2の更新幅で増加させる過程と
を有することを特徴とする請求項4又は5記載の情報推薦処理方法。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかに記載の情報推薦処理装置が備える各手段を実現するための処理を、当該情報推薦処理装置が備えるコンピュータに実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−194609(P2012−194609A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55980(P2011−55980)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2010年9月14日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報Vol.110 No.207」に発表
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】