説明

情報通信用電線

【課題】電気的特性と機械的特性とを同時に高めることができるケーブル構造を有する情報通信用電線を提供することを目的とする。
【解決手段】導体12を絶縁体13により被覆した線心14の複数本を、環状に配置して撚り合わせた撚り合わせ体15を設け、前記撚り合わせ体15の外周囲を低誘電率の熱可塑性樹脂材16により被覆し、該被覆した低誘電率の熱可塑性樹脂材16の外周囲を、ノイズ遮蔽用の遮蔽材17,18を介して外シース19で被覆したLANケーブル11を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばLANケーブルのような情報通信用電線に関し、さらに詳しくは耐久性及び通信性に富む情報通信用電線に関する。
【背景技術】
【0002】
以下、情報通信用電線の一例にLANケーブルを例にとって説明する。
一般に、工場などでLANを構築する場合に配線されるような工業用のLANケーブルは、家庭用のLANケーブルと異なり、配線後の使用環境において、過大な外力を受けて損傷、あるいは断線等を生じるおそれがあるため、高耐久性のケーブル構造を必要としている。このため、ケーブル構造の耐久性を高めるために線心を複数層の外装材や高硬度の部材で被覆したものがある。
【0003】
ところが、単にLANケーブルの外装を強化するだけでは、耐久性が向上する反面、電気的特性が低下して安定した伝送ができなくなる問題が生じていた。この電気的特性が低下する原因はケーブル内部の導体を絶縁体により被覆した線心が、その周囲より包み込むように、さらに被覆層により締め付けて高密度に被覆されることから、通信伝送時の減衰率が大きくなり、この減衰率の増大により伝送効率が妨げられて通信性能が低下する問題を有していた。
【0004】
このため、導体の外周を発泡させたふっ素樹脂よりなる絶縁被覆層で被覆し、さらにその外周を中空状の圧縮撚り線により構成されているシールド導体で被覆し、最後に保護被覆層で被覆したケーブルが知られている(下記特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−71891号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このように被覆されたケーブルは導体を中心とする同心円上に対し、複数層に被覆して構成したものであり、このようなケーブルの内部構造上、特有な耐久構造は有しておらず、捩れ、引張り、屈曲などの過大な外力を受けた際に、十分な耐久性を確保するのが難しく変形するおそれがあった。仮に、電気的特性を確保しても、機械的特性の向上を図るのが難しいという問題を有していた。
【0006】
そこでこの発明は、通信伝送時の減衰率の増大を抑制させる電気的特性と、耐久性を向上させる機械的特性とを両立させることができる情報通信用電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、導体を絶縁体により被覆した線心の複数本を、環状に配置して撚り合わせた撚り合わせ体を設け、前記撚り合わせ体の外周囲を低誘電率の熱可塑性樹脂材により被覆し、該被覆した低誘電率の熱可塑性樹脂材の外周囲を、ノイズ遮蔽用の遮蔽材を介してシースで被覆して構成した情報通信用電線であることを特徴とする。
【0008】
この発明の態様として、前記低誘電率の熱可塑性樹脂材を発泡ポリ塩化ビニルまたは発泡ポリエチレンで構成することができる。
【0009】
この発明の態様として、情報通信用電線をLANケーブルにより構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、複数本の線心を撚り合わせて一括りとした撚り合わせ体を電線内部に構築することで、各々の撚り合わせ形状を有して介在する線心と、その外周囲を被覆する低誘電率の熱可塑性樹脂材との接触面積が多くなり、両者の密着性が高まる。これにより、電線内部では一体感が高められて変形し難くなり、高強度が確保される。このため、捩れ、引張り、屈曲などの外力に対しても強く、線心と低誘電率の熱可塑性樹脂材との間がズレないので形状安定性が高められる。これにより、配線後の情報通信用電線が通行者によって踏み付けられるような荷重を受けても電線内部が一体化しているので大きく変形しなくなり、変形抵抗の大きい高強度及び高耐久性を有して機械的特性が向上する。
【0011】
また、線心の外周囲に低誘電率の熱可塑性樹脂材を備えることで、電線内部では、静電容量や通信伝送時の減衰量を抑制する低誘電率化作用が働き、線心に対する電気的な悪影響を効率よく回避することができ、この結果、電気的特性が安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0013】
図面は情報通信用電線として使用される工業用LANケーブルの一例を示し、図1はLANケーブルの内部構造を示す要部拡大側面図、図2(A)は撚り合わせ体の要部拡大断面図、図2(B)はLANケーブルの拡大断面図である。
LANケーブル11は、まず、図2(A)に示すように、導体12の外周囲を絶縁体13により被覆した4本の線心14を環状配置して撚り合わせた撚り合わせ体15を作成する。この撚り合わせ体15の外周囲を、図2(B)に示すように、低誘電率の熱可塑性樹脂材(以下、内シースと称す)16により被覆し、該被覆した内シース16の外周囲を、内側遮蔽材17で被覆し、さらにその外側を外側遮蔽材18で被覆し、最後に外シース19で断面円形に被覆して構成するものである。
【0014】
前記導体12の素線構成は、ピッチの細かい電気用軟銅線を使用する。また、絶縁体13は、導体12の外周囲を薄く絶縁被覆することができ、しかも外力を受けてもあまり伸びず、割れ難い特性を有している高密度ポリエチレン等の熱可塑性樹脂材を使用する。
【0015】
撚り合わせに際しては、導体12と絶縁体13とからなる線心14を4本撚り合わせて一括りとした撚り合わせ体15を構成する。この場合、撚り合わせ時に不適な撚りが加わらないチューブラー撚りを実行して作成する。なお、撚りピッチ及び撚り外径は、撚り合わせられる線心数に適した条件に設定する。
【0016】
内シース16は、低誘電率の熱可塑性樹脂材により構成する。この低誘電率の熱可塑性樹脂材は、例えば発泡ポリ塩化ビニルを用い、配線間に蓄積される電気容量を低減させる低誘電率化するための機能を有している。これにより、通信伝送時の減衰量を低減させて安定した通信を維持させるという特有な電気的特性を有するものである。
【0017】
前記発泡ポリ塩化ビニルは、ポリ塩化ビニルに無機系の発泡剤を添加して発泡させることで構成する。この場合、発泡度を高めるに従って低誘電率化し、通信伝送時の減衰量抑制効果を高めることができる。その反面、機械的強度が低下してしまう。これに対し、発泡度を低減させるに従って通信伝送時の減衰量抑制効果が低下する。その反面、機械的強度が高められる。よって、これらを満足する割合で発泡させる。
【0018】
前記内シース16の素材の一例に低誘電率の熱可塑性樹脂材として、発泡ポリ塩化ビニルを用いたが、これに限らず、低誘電率の性質を有する他の熱可塑性樹脂材を用いることができる。例えば、発泡化させた発泡ポリエチレンを用いて構成することができる。この発泡ポリエチレンを用いても、発泡ポリ塩化ビニルと同様に低誘電率化しようとする機能が働いて、内シース16としての同様な作用効果が得られる。
【0019】
また、内シース16が撚り合わせ体15の外周囲を直接被覆することで、内シース16が、撚り合わせられた4本の線心14の外周囲へと隅々まで行き渡り、各々の線心14と内シース16との間での接触面積が多くなり、線心14に対する内シース16との密着性が高まる。このため、LANケーブル11の内部では一体感が高められて変形し難くなり、高強度が確保される。このため、ケーブル内部での線心14と内シース16との間がズレ難くなるので形状安定性が高められる。よって、LANケーブル11に捩れ、引張り、屈曲などの外力に対しても強く、このような外力変形抵抗が大きい高強度を有している。この結果、ケーブル内部での安定した配置状態を維持し、過大な外力に耐え得る高耐久性を有している。
【0020】
内側遮蔽材17は、片面アルミPET(ポリエチレンテレフタレート)テープ等の電気絶縁用のテープで構成することができ、前記内シース16の外周面に巻回して被覆する。
外側遮蔽材18は、導電性の錫めっき軟銅線を編組して構成し、電磁波遮蔽作用を有して、外部からのノイズの侵入を阻止する。
【0021】
外シース19は、LANケーブル11の外周に備えられる被覆保護材であり、耐久性を確保するのに適している材質を使用する。例えば、塩化ビニル、高硬度塩化ビニル等の熱可塑性樹脂材を使用するとよい。このようにして製作されたLANケーブル11の外表面に、該LANケーブル11を特定する情報としてのマーキング印刷を施して完成する。
【0022】
次に、このように構成されたLANケーブル11のケーブル特性について説明する。
ここで、LANケーブル11の内部構造は、前記したようにケーブル内部に4本の線心14を集合させて1つに撚り合わせた撚り合わせ体15を有し、その撚り合わせられた外周を内シース16で直接被覆して一体化し、密着性を高める構造を有しているので、ケーブルの捩れ、引張り、屈曲等に対して強く、耐久性に優れており、機械的特性の高いケーブル構造が備えられている。よって、次に電気的特性について説明する。
【0023】
表1は発明例のLANケーブル11の構造の一例を示したものである。
【0024】
【表1】

次に、この表1のLANケーブル11の完成品から試料を採り、これを以下の試験条件で減衰量と静電容量とを測定した試験結果から電気的特性の評価を行った。
電気的特性の試験条件
(1)試料の測定長さ:100m
(2)測定機器型名:通信ケーブル電気特性自動測定装置(CMS−2XLD)
(3)測定規格:TIA/EIA規格 568B カテゴリー5E
(4)測定周波数:1MHz〜100MHz
(5)測定温度:20℃
(6)測定項目:減衰量、静電容量
表2はLANケーブル11の電気的特性の1つである減衰量を測定した試験結果を示したものである。
【0025】
【表2】

この発明例のLANケーブル11によると、表2の減衰量の試験結果から分かるように、測定周波数が1,4,8,10,16…100MHzのときの全ての減衰量の測定値が、LANケーブル11の品質を保証する規格値以下の値が得られた。
【0026】
このことは、線心14の外周面に備えられる絶縁体13と密接する内シース16が発泡されていることによって比誘電率が下がり、結果として、減衰量の数値を下げる効果となって規格値をクリアできたと推測される。
【0027】
次に、従来例のLANケーブルの一例として、図1及び図2で示した同様なケーブル構造を有して機械的特性が略同一となるものを使用し、唯一、内シース16の材質のみを異ならせて構成したものを用いた。つまり、内ケース16の材質が発泡を有しないポリ塩化ビニルを使用して減衰量を測定した試験を行った。この結果、従来例のLANケーブルによると、表2の減衰量の試験結果から分かるように、測定周波数が1,4,8,10MHzのように小さいと、測定値が、LANケーブルの品質を満足する規格値以下の値が得られたのに対し、測定周波数が16〜100MHzのように大きくなると、減衰量の品質を満足しない規格値を超える不適な値となった。
【0028】
表3はLANケーブル11の電気的特性の1つである静電容量を測定した試験結果を示したものである。
【0029】
【表3】

この発明例のLANケーブル11によると、表3の静電容量の試験結果から分かるように、測定周波数が1KHzのときの静電容量の測定値が、LANケーブルの品質を保証する規格値以下の値が得られた。
【0030】
このことは、線心14の外周面に備えられる絶縁体13と密接する内シース16が発泡されていることによって比誘電率が下がり、結果として静電容量の数値を下げる効果となって規格値をクリアできたと推測される。
【0031】
一方、従来例のLANケーブルによると、表3の静電容量の試験結果から分かるように、測定周波数が1KHzのときの静電容量の測定値が、LANケーブルの品質を満足しない規格値を超える不適な値となった。
【0032】
このように、従来例のLANケーブルでは内シース16が発泡されていないため、比誘電率が下がらず、結果として減衰量と静電容量の数値を下げられない結果に至ったものと推測される。
【0033】
よって、この発明例のLANケーブル11と従来例のLANケーブルとを比較すると、測定結果から減衰量及び静電容量に関しては明らかに、その効果が異なることが認められた。また、この発明例のLANケーブル11では電気的特性の対策が十分に備わっていることが明らかになった。
【0034】
このような試験結果から次のようなことが判明した。ケーブルの内部に撚り合わせ体15を持つ構造において、該撚り合わせ体15の外周囲を内シース16が直接被覆する構成によって、該内シース16の特有な材質が持つ電気的特性の機能が効果的に働き、この結果、LANケーブル11の減衰量と静電容量との値を適正な使用条件に設定することができる。
【0035】
上述のように、LANケーブルは機械的特性が高いケーブル構造を有していることに加えて、減衰量と静電容量とを抑制する電気的特性とを併せ持つので、両特性を両立させた信頼性の高い利用が図れる。
【0036】
この発明の構成と、実施例の構成との対応において、
この発明の情報通信用電線は、実施例のLANケーブル11に対応し、
以下同様に、
低誘電率の熱可塑性樹脂材は、内シース16に対応し、
遮蔽材は、内側遮蔽材17と外側遮蔽材18とに対応し、
シースは、外シース19に対応するも、
この発明は上述の実施例の構成のみに限定されるものではなく、請求項に記載される技術思想に基づいて応用することができる。例えば、実施例では情報通信用電線を工業用LANケーブルに適用したものを示したが、これに限らず、他の通信機器の電線として広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】LANケーブルの撚り合わせ状態を示した要部拡大側面図。
【図2】(A)は撚り合わせ体の要部拡大断面図、(B)はLANケーブルの拡大断面図。
【符号の説明】
【0038】
11…LANケーブル
12…導体
13…絶縁体
14…線心
15…撚り合わせ体
16…内シース
17…内側遮蔽材
18…外側遮蔽材
19…外シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を絶縁体により被覆した線心の複数本を、環状に配置して撚り合わせた撚り合わせ体を設け、
前記撚り合わせ体の外周囲を低誘電率の熱可塑性樹脂材により被覆し、該被覆した低誘電率の熱可塑性樹脂材の外周囲を、ノイズ遮蔽用の遮蔽材を介してシースで被覆して構成した
情報通信用電線。
【請求項2】
前記低誘電率の熱可塑性樹脂材を、発泡ポリ塩化ビニルまたは発泡ポリエチレンで構成した
請求項1に記載の情報通信用電線。
【請求項3】
LANケーブルにより構成される
請求項1に記載の情報通信用電線。


【図1】
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【図2】
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