説明

意匠効果の優れたシート状物

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、文字、図柄等の意匠を形成する効果に優れたシート状物に係り、更に詳細には加熱モールドを押圧して意匠を形成するに際し、加熱モールドの使用温度範囲の広い意匠効果に優れたシート状物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、加熱したモールドを押圧して文字や図柄等の意匠を形成するためのシート状物としては、繊維質基材に高分子弾性体を付与してなるシート基材の上にポリウレタンより成る多孔質樹脂層を形成したものが知られている。
【0003】上述の様なシート状物は、例えば160〜210℃に加熱したモールドを押圧することにより、凹凸状をした意匠がその表面に形成されるものであり、ここで使用するモールドの温度は、多孔質樹脂層の軟化温度によって適宜設定する必要がある。即ち、多孔質樹脂層の軟化温度が高い場合は、モールドの温度もそれに応じて高くしなければ凹凸形状が十分に賦与されない。逆に、多孔質樹脂層の軟化温度が低い場合は、モールドはそれに応じあまり高温にしてはならず、必要以上に高温とすれば、シート状物がモールド表面に焼き着くことがある。
【0004】一般に、意匠効果に優れたシート状物に意匠を賦形加工するにおいては、高温のモールドを短時間押圧する方法が加工効率上も有利であり、このため多孔質樹脂層の軟化温度が190℃以上の樹脂よりなるものが主用されている。
【0005】しかしながら、軟化温度の高い多孔質樹脂層を有するシート状物に賦形加工を施す場合には、モールドの温度を高温に且つ一定の範囲内に保持し続ける必要があり、短時間に多数の賦形加工をした場合、モールドの温度が一時的に低下する等、一定の温度に精密に制御するのが困難となる。このため、モールドの温度変化に伴い、シート状物に良好なる凹凸形状を賦与することができず、安定した品質のものが得られなくなる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明者等は、上述の問題点に鑑み鋭意研究した結果本発明を完成したものであって、本発明の目的は、加熱モールドを押圧し良好なる賦形加工するにおいて、該加熱モールドの温度がある程度変動したとしても安定した品質で賦形加工することができる意匠効果に優れたシート状物を提供するにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の目的は、繊維質基材に高分子弾性体を付与してなるシート基材と、ポリウレタンよりなる多孔質樹脂層とからなるシート状物であって、前記多孔質樹脂層が軟化温度が30℃以上異なる少なくとも2種類のポリウレタンの混合物を湿式凝固せしめたものであることを特徴とする意匠効果の優れたシート状物によって達成される。
【0008】本発明で言うシート基材とは、不織布,織布,編布等からなる繊維質基材に高分子弾性体の有機溶剤溶液又はエマルジョンを付与し、凝固させて繊維質基材内に高分子弾性体を充填させたもの、あるいはこの表面に同高分子弾性体の被覆層を形成させたものであり、その製造は公知の適宜な方法によればよい。
【0009】上記高分子弾性体としては、例えばポリウレタン樹脂,塩化ビニル樹脂,アクリル酸エステル・スチレン共重合体,スチレン・ブタジエン共重合体,ウレタン・塩化ビニル共重合体等の重合体およびそれらの混合物を挙げることができ、好ましくはポリウレタン樹脂及びポリウレタン樹脂とウレタン・塩化ビニル共重合体の混合物が挙げられる。
【0010】本発明においては、上記シート基材の表面に多孔質構造の樹脂層が形成されている。該多孔質樹脂層はポリウレタンよりなるものであって、通常所望する色に着色するため顔料又は染料が分散配合されている。この多孔質樹脂層を形成するポリウレタンは、軟化温度の異なる少なくとも2種類のポリウレタンを混合したものを湿式凝固せしめたものである。
【0011】上述の混合されるポリウレタンの組合せとしては、軟化温度が30℃以上、好ましくは40〜70℃異なるポリウレタンを組合せ混合したものである。混合するポリウレタンの軟化温度の差が30℃より小さい場合は、良好なる賦形加工が可能なモールドの温度範囲が狭くなり、その分だけモールドの温度制御を厳密にする必要がでてくる。上記ポリウレタンの組合せとしては、例えば軟化温度180〜220℃のものと、120〜150℃のものの組合せを挙げることができる。
【0012】上記混合される軟化温度の低いポリウレタンと軟化温度の高いポリウレタンとの配合割合は、好ましくは1:9〜9:1、更に好ましくは1.5:8.5〜4:6である。
【0013】本発明において上記多孔質樹脂層は、湿式凝固法によって形成されたものである。乾式発泡法で多孔質樹脂層を形成した場合は、加熱モールドによって意匠を賦形加工した際の色変化に乏しく好ましくない。
【0014】上記多孔質樹脂層を前記シート基材の表面に形成する方法としては、例えば上述の如き組合せによって混合されたポリウレタンを適宜な有機溶剤に溶解し、必要に応じ所望する色の顔料又は染料を適量加え、有機溶剤溶液とした後、これを前記シート基材に塗布し、湿式凝固せしめた後、水洗し乾燥する方法を挙げることができる。
【0015】本発明のシート状物に文字、図柄等の意匠を賦形加工する方法は公知の適宜な方法によればよく、例えば文字や図柄等の意匠を形成したモールドを140〜210℃に加熱し、2〜50kg/cm2 の圧力で押圧すればよい。加熱加圧条件は、所望する賦形加工の程度に応じ適宜設定すればよい。
【0016】
【発明の効果】本発明のシート状物は、文字や図柄等の意匠を賦形加工するためのモールドの適温範囲が従来品に比べて大幅に広くなる。このため、モールドの温度がある程度変動したとしても、安定した品質の賦形加工が可能となり、短時間に大量に賦形加工する場合、あるいはモールドの温度制御があまり精密にできない場合等に極めて有用である。
【0017】
【実施例】以下、本発明をその実施例により具体的に説明する。尚、実施例及び比較例において「部」とあるのは「重量部」を意味するものである。
【0018】実施例1エステル短繊維(繊度1.5デニール、長さ50mm)よりなる不織布(目付240g/m2 、厚さ1.6mm)に、ポリブチレンアジペートグリコールとジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネートとエチレングリコールとから合成されたポリウレタンエラストマー100部,酸化鉄ブラウン1.5部,ジメチルホルムアミド100部よりなる溶液を含浸し、湿式凝固せしめた後、充分水洗し、乾燥して、厚さ1.5mm,見掛け密度0.34g/cm3 の基材を得た。
【0019】次に、得られた基材の片方の面に、上記と同様にして合成された軟化温度190℃のポリウレタンエラストマー80部と、ポリブチレンアジペートグリコールとジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネートと1,6ヘキサンジオールとから合成された軟化温度130℃のポリウレタンエラストマー20部と、着色料としての酸化鉄ブラウン2部と、ジメチルホルムアミド30部と、界面活性剤3部とからなる溶液を800g/m2 塗布したのち、水に浸漬しポリウレタンを凝固せしめた。これを温水で洗浄してジメチルホルムアミドを完全に除去し、続いて乾燥することにより茶色の多孔質樹脂層を形成しシート状物を得た。
【0020】〈賦形加工〉得られたシート状物に、表面に凹凸模様が形成されたモールドを表1に示す如き温度に加熱して1秒間加圧加熱し、賦形加工した。
【0021】結果は表1に示す通りであり、いずれの加熱温度の場合も良好なる立体的な意匠が形成された。
【0022】実施例2実施例1において多孔質樹脂層を形成するために用いた溶液に配合した2種のポリウレタンエラストマーのうち軟化温度130℃のポリウレタンエラストマーに代えて、ポリブチレンアジペートグリコールとジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネートと1,4−ブタンジオールとから合成された軟化温度150℃のポリウレタンエラストマー20部を用いた以外は実施例1と同様にしてシート状物を得た。
【0023】得られたシート状物に、実施例1と同様にして賦形加工を施した。その結果は、表1に示す通りであった。
【0024】実施例3実施例1において使用した軟化温度190℃のポリウレタンエラストマーの配合量を80部に代えて50部とし、軟化温度130℃のポリウレタンエラストマーの配合量を20部に代えて50部とした以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。
【0025】得られたシート状物に、実施例1と同様にして賦形加工を施した、その結果は、表1に示す通りであった。
【0026】比較例1実施例1において使用した軟化温度の異なる2種類のポリウレタンエラストマーの混合物に代えて、軟化温度150℃のポリウレタンエラストマーを100部使用した以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。
【0027】得られたシート状物に、実施例1と同様にして賦形加工を施した。その結果は、表1に示す通りであった。
【0028】比較例2実施例1において使用した軟化温度の異なる2種類のポリウレタンエラストマーの混合物に代えて、軟化温度180℃のポリウレタンエラストマーを100部使用した以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。
【0029】得られたシート状物に、実施例1と同様にして賦形加工を施した。その結果は、表1に示す通りであった。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 繊維質基材に高分子弾性体を付与してなるシート基材と、ポリウレタンよりなる多孔質樹脂層とからなるシート状物であって、前記多孔質樹脂層は軟化温度が30℃以上異なる少なくとも2種類のポリウレタンの混合物を湿式凝固せしめたものであることを特徴とする意匠効果の優れたシート状物。

【特許番号】第2983371号
【登録日】平成11年(1999)9月24日
【発行日】平成11年(1999)11月29日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−26132
【出願日】平成4年(1992)1月16日
【公開番号】特開平5−193035
【公開日】平成5年(1993)8月3日
【審査請求日】平成9年(1997)9月22日
【出願人】(000000952)鐘紡株式会社 (120)
【参考文献】
【文献】特開 平5−25780(JP,A)
【文献】特開 昭58−18484(JP,A)
【文献】特開 昭57−155241(JP,A)
【文献】特開 平2−307988(JP,A)
【文献】特開 昭51−111264(JP,A)
【文献】特開 昭56−65032(JP,A)
【文献】特開 昭52−15751(JP,A)