説明

愛玩動物ストレス低減建材

【課題】 犬、猫などの愛玩動物と人が共同生活できる部屋が作れるような建材を提供する。
【解決手段】 建材基材の表面に、硬化性軟質ないし半硬質ポリマーとコア/シェル構造を有する有機ポリマー粒子とを含む塗布組成物を塗布して、表面に微細な凹凸を有し、弾力性、自己修復性を有する塗膜を設けたことを特徴とする愛玩動物用建材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間が快適に生活する上で必要な従来どおりの性能を有しながら、室内で人間と共生する犬などの動物も快適に過ごすことのできる建築物の仕上げ材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅の仕上げ材である床材やカウンター、腰壁などは、人間が快適に生活することを目的として性能が追求されてきた。
床材表面の滑り抵抗でいうと、人間の歩行という観点からして確立された指標C.S.R値が一般的に用いられており、適度に滑りかつ転倒しない程度に滑りにくい0.3〜0.5という滑り抵抗の床材が、一般的に流通している。
しかしこの数値は、人間が快適に歩行できると考えられる数値である。そのため、このような仕上げの床材などによる室内では、人と共に生活する必要のある介護犬や、室内でペットとして飼われる犬や猫などの動物にとっては快適な生活環境でないと思われる場合が多々ある。例えば、硬い表面仕上げの床材では、犬などは滑る、転倒する、またはひどい場合には股関節を脱臼するなどの問題を生じている。また、猫が飛び乗ろうとした梁やカウンターから滑り落ちるなどの現象が見られている。これらの現象は、室内で生活する犬、猫などのペットに精神的ストレスを与え、物を噛むとか放尿するなど好ましくない行動を起こさせている。
【0003】
少子・高齢化に伴い介護犬や心を慰めるペットとの共生の要望が多くなってきており、これに対応できる建材が求められている。
上記の要望に応えるために、床材として室内に部分的にまたは全面に敷く特殊なタイルカーペットなど(特許文献1)が提案されているが、従来の床材と同様に施工できる人とペットに対応できる床材は知られていない。
【特許文献1】特開2003−143990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、人が同じ室内で犬、猫等の動物と共に暮らすことは一般的なことではなかったため、特殊なマットやタイルカーペットなどフロアーの一部に敷くための敷物などが用いられていた。このような敷物では、介護犬のように常に人がいる場所、すなわち居間や台所、トイレなどにも随伴する動物に対応することはできないという問題があった。
本発明は、従来建材の基材とされている無垢材、合板等の表面に塗布加工するだけで、人に違和感を与えることなく犬、猫等の動物にストレスを与えない建材であると共に、従来の建材と同様に切断、切削等をして床材、腰壁、梁等に使用できる建材を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、床材、板壁材等の建材や家具等の木質材の塗布剤として適し、形成された塗膜が圧痕や擦り傷などに対して適度の弾力性を有し自己修復性のある塗布組成物であって、愛玩動物に対する居住性の良好な塗布組成物を求めて種々検討した結果、塗布組成物にコア/シェル構造を有する有機ポリマー粒子を配合することによって達成し得ることを見出して本発明を完成した。
【0006】
本発明の愛玩動物用建材は、無垢材、合板等の建材基材の表面に、弾力性と復元性があり、所望により微細な凹凸面を有する塗膜を形成したことを特徴とするものである。
上記塗膜は、硬化性軟質ないし半硬質ポリマーからなる塗料にコア/シェル構造を有する有機ポリマー粒子を配合してなる塗布組成物を塗布することによって得られる。
したがって、本発明の愛玩動物用建材は、従来の建材用基材に上記塗布組成物を所要の厚さに塗布することによって得ることができる。
更に本発明は、硬化性軟質ないし半硬質ポリマーからなる塗料成分とコア/シェル構造を有する有機ポリマー粒子とを含む愛玩動物用塗布組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、圧痕、擦り傷等に対して自己復元性のある塗料に、コア/シェル構造を有する有機ポリマー粒子を添加し、該ポリマー粒子の添加量、コア/シェルの構成材質を調整することによって、人はもとより、犬、猫等の愛玩動物に対する居住性に優れた建材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における塗料成分としての硬化性軟質ないし半硬質ポリマー(以下、硬化性ポリマーという)は、硬化したとき弾力性で復元性のある被膜が形成できるものが使用できる。例えば、合成ゴム、軟質ないし半硬質の合成ポリマーが使用でき、ウレタンゴム、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂等の種々の有機ポリマーが挙げられ、これらは重合度や前記ポリマーを適当に組み合わせて共重合することによって所要の弾力性と復元性(自己修復性)を得ることができる。
【0009】
塗料成分としては、例えば、特開2004−351712号公報に記載の塗料が使用できる。この塗料は、(A)数平均分子量が800以上であるビスフェノールA型ビニルエステル樹脂と、(B)(アルコキシ)アルキル(メタ)アクリレート、アルキルポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートおよびアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(C)ラジカル重合開始剤とからなるものである。
この塗料において、(B)成分としての(メタ)アクリル酸エステルモノマーは(メタ)アクリロイル基以外の炭素原子数が6〜12のものが好ましく、また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーが、ホモポリマーのガラス転移温度が−20℃以下のものと120℃以上のものとの混合物であるものが好ましい。
【0010】
(B)成分の含有量は、塗料100質量部に対して40〜90質量部、好ましくは60〜80質量部である。上記(B)成分の他に一般的に用いられているスチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル等のビニルモノマー、オリゴマーを併用することができる。
ラジカル重合開始剤としては、通常この種の分野で使用されている熱重合開始剤、光重合開始剤等が使用できる。
【0011】
上記の塗料を合板等の木質基材の表面に塗布することによって、木質基材の表面に弾力性と復元力のある塗膜を得ることができるが、犬、猫等の動物による歩行時の爪の当り方や運動時の転倒や高所からの飛び降りなどの際に与える衝撃などの点で満足すべき結果を与えていなかった。特に、廊下などで介護犬が車椅子を引く場合や障害者を支える場合などのように動物に負荷の掛かる場合に好ましくない影響を与えている。
【0012】
本発明では硬化性ポリマーからなる塗料にコア/シェル構造を有する有機ポリマー粒子(以下、コア/シェル・ポリマー粒子又は単にポリマー粒子という)を加えることによって、大きさの異なる犬や運動量の異なる犬や猫など、種々の動物に対応できる塗膜を形成でき、かつ、該塗膜を備えた建材を得ることができる。
コア/シェル・ポリマー粒子は、芯となるコア層とその外周を被覆又は外周に付着するシェル層とからなる。本発明では、コア材がゴム弾性を有する軟質ないし半硬質のゴム状ポリマーで、シェル部が半硬質ないし硬質のガラス状ポリマーからなるものが好ましい。具体的には、特開2000−53841号公報に記載の艶消剤としてのポリマー粒子などが使用できる。
コア/シェル・ポリマー粒子のコア部とシェル部の比は目的に応じて選択されるが、コア部に対してシェル部を大きくすると塗膜の弾力性が低下し、シェル部を小さくすると塗膜の弾力性と復元力、自己修復力が増加する。
【0013】
本発明の場合、コア/シェルの構成ポリマーによって異なるが、コア/シェル(コア:シェル)の質量比は95:5〜30:70の範囲で選択すると良い。好ましくは、80:20〜35:65の範囲である。
コア/シェル・ポリマー粒子の粒子径としては0.5〜100μm(ミクロン)の範囲で選択・使用される。好ましくは、2〜85μm、より好ましくは10〜80μm程度である。
本発明の塗布組成物100質量%に対するコア/シェル・ポリマー粒子の配合量は、10〜70質量%、好ましくは15〜70質量%で、より好ましくは20〜45質量%である。
【0014】
本発明の塗布組成物に加えるコア/シェル・ポリマー粒子の大きさ、配合量によって表面に微細な凹凸を有する塗膜を得ることができ、粒子の大きさを小さくすること、添加量を少なくすることで平滑面に近い塗膜を得ることができる。
本発明の塗布組成物には、コア/シェル・ポリマー粒子のほかに、通常塗布組成物に加えられる着色材、充填材等を加えることができる。
本発明の塗布組成物の塗布量は、塗料成分のポリマーの種類、コア/シェル・ポリマー粒子の特性、添加量とによって異なるが、3〜1000μm(ミクロン)の範囲で選択され、好ましくは5〜500μm、より好ましく5〜100μm、特に10〜30μmの範囲である。
【0015】
本発明は上記塗布組成物を木質基材に塗布することによって達成されるため、被塗物となる木質基材は、合板、ファイバーボード、ストランドあるいはそれらの複合材料、無垢材、集成材など、いずれも使用できる。本発明の塗布組成物の塗布方法は、ローラコート、スプレーコートなどの常法によって行うことができる。
したがって、本発明の塗布組成物の塗布によって得られる建材は、床材、腰壁、幅木、カウンター、階段踏板、笠木、手摺りなどが例示される。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
I.塗布組成物の調製
下記の各構成成分を混合攪拌して、本発明の塗布組成物を得た。
組成:
(A)ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂 41質量部
(リポキシVR−60 昭和高分子(株)製品、数平均分子量1950)
(B)ブトキシエチルアクリレート 32質量部
(B)モルホリンアクリレート 15質量部
(B)フェノキシエチルアクリレート 10質量部
(C)t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート 2質量部
(D)コア/シェル・ポリマー粒子 10〜30質量部
コア/シェル・ポリマー粒子は上記の範囲で添加量を変えた。コア/シェル比率が40:60で粒径約10μmのポリマー粒子を用いた。
【0017】
II.テスト用床材の作成
上記塗布組成物を厚さ15mmの合板(300×600cm)の表面に厚さ30μ(ミクロン)になるように刷け塗りし、高圧水銀灯による光照射によって硬化して表面に本発明の塗膜を有するテスト用の床材を得た。
【0018】
III.テスト用床材のペット対応性
得られた床材について表面硬度、圧痕に対する復元力、C.S.R値及びペット(愛玩動物)対応性について測定した。C.S.R値は、試験規格BS−A−002に従った。
表面硬度は鉛筆硬度(試験規格BS−B−001)で表し、復元性は7Hの鉛筆の先端を押し当てて生じた凹みが元に戻るか否かで判定した。
ペット対応性(1)は得られた床材を4枚敷いて周囲をフェンスで囲んだ広さ600×1200cmの囲みのなかにペットを入れて2週間放飼し、その間の摂食度合と糞の状態を観察した。ペット対応性(2)は床材を15°(度)の角度で傾斜させた状態での登坂性を判定した。
ペットは大型犬としてラブラドール犬と小型犬としてミニチュア・ダックスフント、及び猫を用いた。
なお、比較例1として前記塗布組成物でポリマー粒子を加えないものを塗布した床材、比較例2として市販の塗装床材(ウッドワン製;コンビットストライプオークV)を用いた。結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

表中、実施例Aはポリマー粒子の含量が10質量部、Bは20質量部、Cは30質量部のものである。
復元性はほぼ元の状態に戻ったのを◎とした。対応性(1)は摂食量が減少したり、糞の状態が下痢等となった状態を×、いずれかが生じた状態を△、変化なしを◎とした。
対応性(2)は正常に登れなかった状態を×とした。比較例1では登れたが爪あとが残ったので×とした。猫に対する対応性(2)は床板を60°に傾斜させて登坂させ爪あとの有無で判定した。実施例A〜Cの床板は、猫が登るときに爪痕をつけても容易に元の表面状態に戻るため、猫の爪研ぎ板としても使用できる。
表1に示すとおり、本発明による床材はいずれもC.S.R値は従来の床材と同等で、かつペットに対する対応性も良好であり、人とペットの共生材として使用できる。
【0020】
上記塗料成分に代えて市販の軟質アクリル樹脂塗料、及び、ポリウレタン塗料にそれぞれコア/シェル・ポリマー粒子を配合して同様に試験して同様の結果を得た。
本発明はコア/シェル・ポリマー粒子を添加することによって塗膜をペット対応性にできるため、犬、猫に限らず種々の動物のための床材、腰壁材、梁材,を作ることができ、これら建材を常法に従って加工して幅木、カウンター、窓枠等を作成することができる。
本発明は塗布組成物に加えるコア/シェル・ポリマー粒子を、その構成するポリマーの種類、粒径、配合量を選択することにより、形成される塗膜の表面を微細な凹凸面とすることで滑り特性も任意に変えることもでき、また、表面の硬度等を任意に調整できるので、建材に限らず犬小屋やペット用健康器具の作成にも利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
建材基材の表面に、硬化性軟質ないし半硬質ポリマーとコア/シェル構造を有する有機ポリマー粒子とを含む塗布組成物からなる塗膜を設けたことを特徴とする愛玩動物用建材。
【請求項2】
軟質ポリマーが合成ゴム、軟質ないし半硬質の合成ポリマーであることを特徴とする請求項1記載の建材。
【請求項3】
軟質ポリマーが(A)数平均分子量が800以上であるビスフェノールA型ビニルエステル樹脂と、(B)(アルコキシ)アルキル(メタ)アクリレート、アルキルポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートおよびアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種の(メタ)アクリル酸エステルモノマーとからなることを特徴とする請求項1記載の建材。
【請求項4】
コア/シェル構造を有する有機ポリマー粒子が、コア/シェル(コア:シェル)の体積比は95:5〜30:70で、粒子径が0.5〜100μm(ミクロン)の範囲の粒子であることを特徴とする請求項1記載の建材。
【請求項5】
塗布組成物100質量%に対するコア/シェル・ポリマー粒子の配合量が、10〜70質量%であることを特徴とする請求項1記載の建材。
【請求項6】
硬化性軟質ないし半硬質ポリマーとコア/シェル構造を有する有機ポリマー粒子とを含むことを特徴とする愛玩動物用建材のための塗布組成物。


【公開番号】特開2007−20454(P2007−20454A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206088(P2005−206088)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000145437)株式会社ウッドワン (70)
【Fターム(参考)】