説明

感性推測装置、感性推測方法、及び感性推測プログラム

【課題】ユーザの感性を高精度且つ効率的に推測する。
【解決手段】ユーザが使用する感性評価対象物の使用中及び使用後の感性を推測する感性推測装置において、予め設定された階層型ニューラルネットワークのスケルトン学習法を用いて、複数の感性項目に対する所定の総合評価を得る嗜好特性パターン毎に分類を行う嗜好特性パターン抽出手段を有することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感性推測装置、感性推測方法、及び感性推測プログラムに係り、特にユーザの感性を高精度且つ効率的に推測するための感性推測装置、感性推測方法、及び感性推測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚に塗布する化粧品や医薬品(皮膚外用剤)等における使用性等の感性評価では、例えば化粧品等を皮膚等に塗布する前段階での評価については、例えば基剤の粘度や転がり摩擦等による基剤評価を行っていた。また、化粧品等を皮膚等に塗布中及び塗布後の評価については、例えば予め設定された感性ワード(例えば、さっぱり、しっとり、べたつき、浸透感等)を用いて、専門パネラー等による評価やアンケートによって消費者テスト等を行い、その結果から感性評価等を行っていた。
【0003】
なお、上述したようにアンケートにより収集された回答項目から作成された評価データに基づいて学習型のニューラルネットにより評価データに基づいて感性評価分析を行う手法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−108602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、感性に対する嗜好や感度には個人差があり、例えば一般消費者においては、使用感の微差までわかるユーザや使用感の微差を感じないユーザ等が存在する。しかしながら、上述した従来技術における個人差等については、通常、属性(年代等)で分類するのみであるため、感性の個人差に対する関連性が少なく、適切な調整が行われていなかった。そのため、感性評価の精度向上のためには、何らかの対策が必要となる。
【0006】
また、感性にも複数の階層があると考えられ、例えば「浅い感性」又は「深い感性」等の各階層のうち、例えば1つの深い感性に対する感じ方にも個人差があるため、「浅い感性」と「深い感性」の解明が必要である。なお、「浅い感性」とは、例えば皮膚の感覚器で直接感じる感性(例えば、しっとり、つるつる等)等を示し、「深い感性」とは、例えば複合的に判断される感性(例えば、浸透感、はり感等)等を示している。しかしながら、従来では、多数のアンケート項目が横並びで解析されるだけであり、これも解析精度の向上のために何らかの対策が必要である。
【0007】
また、精度よく感性評価を数値化するために必要な検討項目としては、例えば感性評価の個人差を抽出し、感性の階層構造を反映し、基剤物性に変換できる感性項目を抽出すること等があるが、従来のアンケート評価手法では、上述した内容を適切に収集できるアンケート手法が存在していない。なお、上述した感性の階層構造とは、例えば「浅い感性」と「深い感性」等の複数の感性が関連性を持って階層的に構造されている形態を示す。
【0008】
つまり、従来では、多数のアンケート項目が横並びで解析されていたため、「浅い感性」及び「深い感性」等のような階層的な構造に伴う評価が反映できなかった。
【0009】
また、従来では、基剤物性と感性の相関関係を体型的に見出せていないため、処方開発時等は、担当者の経験や勘に頼るしかなく、ユーザの感性を高精度且つ効率的に推測するための手法は存在していなかった。
【0010】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであって、ユーザ(顧客)の感性を高精度且つ効率的に推測するための感性推測装置、感性推測方法、及び感性推測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本件発明は、以下の特徴を有する課題を解決するための手段を採用している。
【0012】
請求項1に記載された発明は、ユーザが使用する感性評価対象物の使用中及び使用後の感性を推測する感性推測装置において、予め設定された階層型ニューラルネットワークのスケルトン学習法を用いて、複数の感性項目に対する所定の総合評価を得る嗜好特性パターン毎に分類を行う嗜好特性パターン抽出手段を有することを特徴とする。
【0013】
請求項1記載の発明によれば、非線形型であるニューラルネットワークを用いることにより、物理モデルがない感性に対する推測を有効に行うことができる。また、総合評価に影響を与える入力の感性評価のユーザ毎の個人差を反映して高精度に感性推測を行うことができる。
【0014】
請求項2に記載された発明は、前記感性評価対象物に対する基剤物性情報を入力する入力手段と、前記複数の感性項目を用いて前記ユーザの前記感性評価対象物に対する感性を階層化する階層構造推定手段と、前記入力手段により得られる基剤物性情報と、前記階層構造推定手段により得られる階層構造とに基づいて、前記嗜好特性パターン抽出手段により得られた分類に対する前記感性評価対象物への感性を推測する感性推測手段とを有することを特徴とする。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、基剤物性情報から一般消費者であるユーザの感性を高精度且つ効率的に推測することができる。
【0016】
請求項3に記載された発明は、前記感性推測手段により得られる感性推測結果を、予め設定された評価指標に対応させて感性を評価する感性評価手段を有することを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、ユーザの感性を数値化や所定の文字等の指標により評価することにより、評価結果を容易に把握することができる。
【0018】
請求項4に記載された発明は、前記嗜好特性パターン抽出手段により抽出された内容、前記階層構造推定手段により得られる推定結果、及び感性推測手段により得られる感性推測結果のうち、少なくとも1つを表示手段に表示するための画面を生成する画面生成手段を有することを特徴とする。
【0019】
請求項4記載の発明によれば、各種実行内容を容易に把握することができる。
【0020】
請求項5に記載された発明は、ユーザが使用する感性評価対象物の使用中及び使用後の感性を推測するための感性推測方法において、予め設定された階層型ニューラルネットワークのスケルトン学習法を用いて、複数の感性項目に対する所定の総合評価を得る嗜好特性パターン毎に分類を行う嗜好特性パターン抽出ステップを有することを特徴とする。
【0021】
請求項5記載の発明によれば、非線形型であるニューラルネットワークを用いることにより、物理モデルがない感性に対する推測を有効に行うことができる。また、総合評価に影響を与える入力の感性評価のユーザ毎の個人差を反映して高精度に感性推測を行うことができる。
【0022】
請求項6に記載された発明は、前記感性評価対象物に対する基剤物性情報を入力する入力ステップと、前記複数の感性項目を用いて前記ユーザの前記感性評価対象物に対する感性を階層化する階層構造推定ステップと、前記入力手段により得られる基剤物性情報と、前記階層構造推定ステップにより得られる階層構造とに基づいて、前記嗜好特性パターン抽出ステップにより得られた分類に対する前記感性評価対象物への感性を推測する感性推測ステップとを有することを特徴とする。
【0023】
請求項6記載の発明によれば、基剤物性情報から一般消費者であるユーザの感性を高精度且つ効率的に推測することができる。
【0024】
請求項7に記載された発明は、前記感性推測ステップにより得られる感性推測結果を、予め設定された評価指標に対応させて感性を評価する感性評価ステップを有することを特徴とする。
【0025】
請求項7記載の発明によれば、ユーザの感性を数値化や所定の文字等の指標により評価することにより、評価結果を容易に把握することができる。
【0026】
請求項8に記載された発明は、前記嗜好特性パターン抽出ステップにより抽出された内容、前記階層構造推定ステップにより得られる推定結果、及び感性推測ステップにより得られる感性推測結果のうち、少なくとも1つを表示手段に表示するための画面を生成する画面生成ステップを有することを特徴とする。
【0027】
請求項8記載の発明によれば、各種実行内容を容易に把握することができる。
【0028】
請求項9に記載された発明は、コンピュータを、請求項1乃至4の何れか1項に記載の感性推測装置として機能させることを特徴とする感性推測プログラムである。
【0029】
請求項9記載の発明によれば、非線形型であるニューラルネットワークを用いることにより、物理モデルがない感性に対する推測を有効に行うことができる。また、総合評価に影響を与える入力の感性評価のユーザ毎の個人差を反映して高精度に感性推測を行うことができる。また、プログラムをインストールすることにより、汎用のパーソナルコンピュータ等で本発明における感性推測処理を容易に実現することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、ユーザ(顧客)の感性を高精度且つ効率的に推測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態における感性推測装置の機能構成の一例を示す図である。
【図2】本実施形態における感性推測処理が実現可能なハードウェア構成の一例を示す図である。
【図3】本実施形態における感性評価対象物塗布後の感性推測処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】本実施形態における感性推測処理の概要を説明するための図である。
【図5】本実施形態における感性評価に必要な観点を説明するための図である。
【図6】本実施形態における階層型ニューラルネットワークを用いた関連付け手法を説明するための図である。
【図7】本実施形態における分類分けについて具体的に説明するための図である。
【図8】分類分けされた結果の一例を示す図である。
【図9】図8に示す分類結果を表にしたものである。
【図10】本実施形態における階層構造推定手法を説明するための図である。
【図11】解析結果の一例を示す図である。
【図12】上位2グループにおける浸透感に影響する感性項目の一例を示している。
【図13】基剤物性と浅い感性との相関関係を説明するための図である。
【図14】基剤物性値と感性評価値との関係の一例を示す図である。
【図15】本実施形態における生成画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<本発明について>
本発明は、皮膚に塗布する化粧品や医薬品(皮膚外用剤)等の感性評価対象物における使用性等の感性評価において、処方や製品の物性やユーザ(一般消費者)に対するアンケート結果を予め解析することにより、ユーザが感性評価対象物を使用した時の感性を推測するシステムを提供する。
【0033】
このとき、本発明では、例えば非線形処理を用いて物性値と感性との関連性を推定するため、ニューラルネットワーク等を用いて処方・感性評価対象製品等に対する物性からユーザが実感する使用性(感性)を予測する。
【0034】
なお、通常、触感を対象とした感性評価には、個人差が大きい。そのため、本発明では、ユーザを、例えばスケルトン学習法を用いたグループ分類法により嗜好特性別に分類し、感性の階層構造と関連付けて感性推測に利用する。
【0035】
なお、上述した嗜好特性とは、例えばユーザにおいては、使用感の微差がわかる人や使用感の微差を感じない人等が存在するため、感性に対する嗜好や感度の個人差(嗜好特性)に応じたグループ分類を行う。これにより、個人差を反映して感性推測精度を向上させることができる。
【0036】
また、本発明では、上述した感性の階層構造を評価に反映させる。具体的には、感性の階層構造として複数の異なる感性項目(例えば、「浅い感性」、「深い感性」等)を階層的に関連付ける。また、1つの「深い感性」に対する感じ方にも個人差があるため、上述したように、嗜好特性別に感性の階層構造を解明し、「浅い感性」と「深い感性」を明確化する。更に、本発明では、基剤物性情報等からユーザが感性評価対象物を使用した時の感性を推測できるようにする。なお、本発明における感性項目は、例えばユーザが使用する感性評価対象物等に応じて予め複数設定しておくことができる。また、感性項目は、「浅い感性」、「深い感性」等の名称に限定されるものではなく、所定の数値やパラメータ等を用いて任意に設定することができる。
【0037】
以下に、本発明における感性推測装置、感性推測方法、及び感性推測プログラムを好適に実施した形態について、図面を用いて説明する。なお、以下に示す実施形態では、感性評価対象物の一例として皮膚に塗布する化粧品を用いるが、本発明においてはこれに限定されるものではない。
【0038】
<感性推測装置:機能構成例>
本実施形態における感性推測装置の機能構成例について図を用いて説明する。図1は、本実施形態における感性推測装置の機能構成の一例を示す図である。図1に示す感性推測装置10は、入力手段11と、出力手段12と、蓄積手段13と、嗜好特性パターン抽出手段14と、階層構造推定手段15と、感性推測手段16と、感性評価手段17と、画面生成手段18と、送受信手段19と、制御手段20とを有するよう構成されている。
【0039】
入力手段11は、予め設定された基剤物性情報を入力したり、化粧品等を使用するユーザ等を所定の条件等に基づいて嗜好特性パターンを抽出する嗜好特性パターン抽出指示や、階層構造を推定する階層構造推定指示、感性を推測する感性推測指示、最終的に感性を評価する感性評価指示、画面生成指示、送受信指示等の各種指示の入力を受け付ける。なお、入力手段11は、例えばキーボードや、マウス等のポインティングデバイス等からなる。
【0040】
なお、本実施形態における基剤物性情報とは、例えば静的特性であれば、粘度や接触角等であり、動的特性であれば、転がり摩擦や表面摩擦等である。
【0041】
更に、転がり摩擦であれば、仕上がり後の平均値や乾き際のピーク値等の所定の条件に対してそれぞれの物性値を入力することができ、摩擦係数についても仕上がり後の平均値や乾き際のピーク値、塗布直後の平均値等の所定の条件に対してそれぞれの物性値を入力することができる。なお、入力手段11により入力される基剤物性情報値は、既存の測定装置等から得られる値を入力してもよく、感性推測処理の実行者等により手入力してもよい。
【0042】
また、入力手段11は、外部装置等により基剤物性値の各種データを入力したり、設定された後述するニューラルネットワークの学習データ等を入力することもできる。
【0043】
出力手段12は、入力手段11により入力された内容や、入力内容に基づいて実行された内容等の表示・出力等を行う。なお、出力手段12は、ディスプレイやスピーカ等からなる。更に、出力手段12は、プリンタ等の機能を有していてもよく、その場合には画面生成手段18により生成される画面の内容等を、紙等の印刷媒体に印刷してユーザ等に提示することもできる。
【0044】
蓄積手段13は、予め設定された各種の基剤物性情報や、本実施形態にて使用されるニューラルネットワークの各種データ、嗜好特性パターン抽出結果、階層構造推定結果、感性推測結果、感性評価結果、生成された画面等の各種データを蓄積する。
【0045】
また、蓄積手段13は、送受信手段19により取得される上述した各種情報等も蓄積する。更に、蓄積手段13は、必要に応じて蓄積されている各種データを読み出すことができる。
【0046】
嗜好特性パターン抽出手段14は、予め設定される感性の個人差(嗜好特性)に応じて、複数ユーザのグループ分類を行う。具体的には、嗜好特性パターン抽出手段14は、ユーザの嗜好特性パターン別に分類し、例えば「浅い感性」と「深い感性」の階層構造別、又は感性評価と総合評価の関連性別等にユーザを分類する。なお、嗜好特性パターン抽出手段14における分類手法の詳細については、後述する。
【0047】
階層構造推定手段15は、例えば化粧品等をユーザに塗布した場合に得られる予め設定された感性項目と総合評価結果との関係を複数の階層により階層化する。具体的には、階層構造推定手段15は、例えば階層型ニューラルネットワーク等を用いて、予め設定された塗布直後における複数の感性項目を入力ノードとし、総合評価点を出力ノードとしたニューラルネットワークを構築する。
【0048】
このように、嗜好特性パターン別に感性の階層構造の解明を実施することで、例えば、「浅い感性」及び「深い感性」のような複数の階層の構造を明確化することができ、1つの「深い感性」に対する感じ方の個人差を明確にし、感性評価精度を向上させることができる。なお、本実施形態では、例えば上述した「浅い感性」及び「深い感性」のような2階層のみの表現にすることにより、人の感性評価の過程をシンプルに表現することができるが、本発明における階層数については、これに限定されるものではない。階層構造推定手段15における階層構造推定手法の詳細については、後述する。
【0049】
感性推測手段16は、物性値から感性を推定する。例えば、通常「浅い感性」は、例えばしっとり、つるつる等、皮膚の感覚器で直接感じるものであるため、基剤物性値に変換しやすい。そこで、感性推測手段16は、階層構造推定手段15により得られる結果等の予め設定される条件に基づいて、「浅い感性」と基剤物性情報である物性値との相関関係を推定する。このように、感性の階層構造を推定することにより、「浅い感性」を決定することができる。
【0050】
これにより、「浅い感性」と「基剤物性値」とを関係付けることが可能となるため、処方開発に活用するし易くなり、例えばアンケートを行う際にもアンケート項目を削減することができ、感度の良いアンケートを提案することができる。なお、感性推測手段16における感性推測手法については、後述する。
【0051】
感性評価手段17は、感性推測手段16により得られる感性推測結果を予め設定された評価指標に対応させて感性を総合的に評価する。なお、感性評価手段17は、評価結果として、例えば「この化粧品が好き/嫌い」、「使用性が良好/不良」等のように、予め設定された複数の総合評価項目の指標の中から何れかを選択させる場合であってもよく、また「好感度95%」、「好感度レベル8(10段階評価)」等のように予め設定された指標に基づき数値化した結果であってもよい。
【0052】
画面生成手段18は、本実施形態における感性推測装置10の各機能構成で実行するために必要なデータの入力や、実行結果の出力、エラー時の通知等の各種画面を生成し、生成した画面をディスプレイ等の出力手段12に出力する。具体的には、画面生成手段18は、嗜好特性パターン抽出手段14により得られる嗜好特性パターンの内容、階層構造推定手段15により得られる推定結果、感性推測手段16により得られる感性推測結果、及び感性評価手段17により得られる感性評価結果等のうち、少なくとも1つを出力手段12に表示するための画面を生成する。
【0053】
送受信手段19は、通信ネットワーク等により接続された外部装置等から本実施形態における完成推測処理に必要な各種データを入力したり、感性推測装置10により実行された各種実行結果を外部装置に出力することができる。
【0054】
制御手段18は、感性推測装置10の各構成部全体の制御を行う。具体的には、制御手段18は、例えばユーザ等による入力手段11からの各種指示情報等に基づいて、嗜好特性パターン抽出処理や階層構造推定処理、感性推測処理、感性評価処理、画面生成処理、送受信処理等の各制御を行う。
【0055】
<感性推測装置10:ハードウェア構成>
ここで、上述した感性推測装置10においては、各機能をコンピュータに実行させることができる実行プログラム(感性推測プログラム)を生成し、例えば汎用のパーソナルコンピュータ、サーバ等にその実行プログラムをインストールすることにより、本発明における感性推測処理等を実現することができる。ここで、本実施形態における感性推測処理が実現可能なコンピュータのハードウェア構成例について図を用いて説明する。
【0056】
図2は、本実施形態における感性推測処理が実現可能なハードウェア構成の一例を示す図である。図2におけるコンピュータ本体には、入力装置31と、出力装置32と、ドライブ装置33と、補助記憶装置34と、メモリ装置35と、各種制御を行うCPU(Central Processing Unit)36と、ネットワーク接続装置37とを有するよう構成されており、これらはシステムバスBで相互に接続されている。
【0057】
入力装置31は、ユーザ等が操作するキーボード及びマウス等のポインティングデバイスを有しており、ユーザ等からのプログラムの実行等、各種操作信号を入力する。また、入力装置31は、ネットワーク接続装置37等に接続された外部装置から通信ネットワークを介して得られる、外部装置等で既に測定された基剤物性情報やニューラルネットワークで使用する学習データ等の各種データを入力することもできる。
【0058】
出力装置32は、本発明における処理を行うためのコンピュータ本体を操作するのに必要な各種ウィンドウやデータ等を表示するディスプレイを有し、CPU36が有する制御プログラムによりプログラムの実行経過や結果等を表示することができる。また、出力装置32は、上述の処理結果等を紙等の印刷媒体に印刷して、ユーザ等に提示することができる。
【0059】
ここで、本発明においてコンピュータ本体にインストールされる実行プログラムは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリやCD−ROM、DVD等の可搬型の記録媒体38等により提供される。プログラムを記録した記録媒体38は、ドライブ装置33にセット可能であり、記録媒体38に含まれる実行プログラムが、記録媒体38からドライブ装置33を介して補助記憶装置34にインストールされる。
【0060】
補助記憶装置34は、ハードディスク等のストレージ手段であり、本発明における実行プログラムや、コンピュータに設けられた制御プログラム等を蓄積し必要に応じて入出力を行うことができる。
【0061】
メモリ装置35は、CPU36により補助記憶装置34から読み出された実行プログラム等を格納する。なお、メモリ装置35は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等からなる。
【0062】
CPU36は、OS(Operating System)等の制御プログラム、及びメモリ装置35に格納されている実行プログラムに基づいて、各種演算や各ハードウェア構成部とのデータの入出力等、コンピュータ全体の処理を制御して各処理を実現することができる。なお、プログラムの実行中に必要な各種情報等は、補助記憶装置34から取得することができ、また実行結果等を格納することもできる。
【0063】
ネットワーク接続装置37は、通信ネットワーク等と接続することにより、実行プログラムを通信ネットワークに接続されている他の端末等から取得したり、プログラムを実行することで得られた実行結果又は本発明における実行プログラム自体を他の端末等に提供することができる。
【0064】
また、ネットワーク接続装置37は、通信ネットワークに接続された外部装置により既に測定された基剤物性値や学習されたニューラルネットワーク等で用いられる各種データを取得することもできる。
【0065】
上述したようなハードウェア構成により、本発明における感性推測処理を実行することができる。また、プログラムをインストールすることにより、汎用のパーソナルコンピュータ等で本発明における感性推測処理を容易に実現することができる。
【0066】
<感性推測処理手順>
次に、本実施形態における感性推測処理手順について説明する。図3は、本実施形態における感性評価対象物塗布後の感性推測処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、以下の説明では、感性評価対象物の一例として化粧品を用いることとするが、本発明においてはこれに限定されるものではない。
【0067】
図3に示す感性推測処理手順は、まず感性を推定する化粧品に対する複数のユーザの感性評価情報を入力し(S01)、入力された感性評価情報から嗜好特性パターンを抽出する(S02)。また、化粧品をユーザに塗布した場合に得られる予め設定された感性項目と、総合的な評価結果との関係を複数の階層により階層化し、感性に対して階層構造を推定する(S03)。
【0068】
また、基剤物性情報を入力する(S04)。なお、基剤物性情報は、蓄積手段13等に既に蓄積されている基剤物性情報から感性推測に必要な情報のみを読み出して用いてもよい。
【0069】
次に、S03の処理において推定された階層構造を用いて、S04の処理により得られる基剤物性情報に対する感性を推測し(S05)、推測された結果に基づいて感性を評価する(S06)。
【0070】
次に、上述までの各処理により得られる結果(推定・評価結果)をディスプレイ等の出力手段12等に表示するための画面を生成し(S07)、生成した画面を出力する(S08)。
【0071】
ここで、感性推測処理を終了するか否かを判断し(S09)、終了しない場合(S09において、NO)、S01に戻り、他の感性評価情報や基剤物性情報等を入力して後続の処理を行う。また、S09の処理において、ユーザ等からの終了指示等に基づき、処理を終了する場合(S09において、YES)、感性推測処理を終了する。なお、上述の処理においては、S01〜S03の処理とS04の処理の順序を入れ替えてもよい。
【0072】
上述した処理手順により、ユーザの感性を高精度且つ効率的に推測することができる。したがって、製品開発時に研究者の経験や勘に頼っていたユーザ等に期待する感性が推測可能となる。また、消費者アンケートを行わずに使用性が推測することが可能となるため効率的に感性推測を行うことができ、その結果を用いることで最終的な商品開発の時間を短縮させることができる。また、嗜好特性別にユーザを分類でき、ターゲット層の嗜好特性がわかる。更に、設計が難しかった「深い感性」を満足する化粧品の使用性が、基剤物性を指標として設計可能となる。
【0073】
<本実施形態を用いた感性推測の具体例>
次に、上述した本実施形態を用いた感性推測の具体例について図を用いて説明する。図4は、本実施形態における感性推測処理の概要を説明するための図である。本実施形態では、例えばユーザを嗜好特性パターン別に分類したグループ毎に図4に示すような基剤物性と感性との関係性を体系化する。
【0074】
例えば、図4では、一例として「基剤物性」、「浅い感性」、「深い感性」、及び「総合評価」の4つの項目における関係性を示している。つまり、本実施形態では、1つの階層からなる基剤物性に対して複数の階層からなる感性項目(図4の例では、「浅い感性」及び「深い感性」)を用いてそれぞれの関係性を推定し、最終的に総合評価を行う。
【0075】
なお、「基剤物性」としては、例えば「粘度」、「接触角」等の静的特性や、「転がり摩擦」、「表面摩擦」等の動的特性等であり、「浅い感性」としては、「さっぱり感」、「しっとり感」、「べたつき感」、「つるつる感」等であり、「深い感性」としては、「浸透感」、「はり感」等であり、「総合評価」としては、「この化粧品が好き!」等である。また、図4における丸印(「〇」)は、各項目間における中間ノードを示している。
【0076】
このように、上述した各項目間を関連付けることで、処方開発者の経験や勘に頼っていたユーザに期待する使用性、効果実感等の感性を高精度且つ効率的に推測することが可能となる。
【0077】
なお、それぞれの各項目における具体的な内容については、上述した内容に限定されるものではない。また、上述したような複数の要素が複雑化した感性に対する関連性を用いた推測手法としては、例えばニューラルネットワーク解析手法等を用いることができる。
【0078】
<本実施形態に用いられるニューラルネットワーク>
ここで、本実施形態に用いられるニューラルネットワークについて説明する。ニューラルネットワークは、複雑な関係性を有する入力と出力の相関関係を解明することができるツールである。また、本実施形態において適用可能なニューラルネットワークの種類としては、例えば各素子の結合として階層型ニューラルネットワーク等があり、学習方法としては、バックプロバケーション等がある。
【0079】
また、ニューラルネットワークは、「学習能力」及び「非線形性」という2つの大きな特徴を有している。「学習能力」としては、入力と出力の相関関係を表すネットワークパターンを自動形成することができる。例えば、相関関係が分かっている入力と出力を予め用意し、入力から出力が算出されるように重みを自動的に修正しネットワークパターンを形成する。また、このネットワークパターンに対して、本実施形態における1又は複数の基剤物性値を入力データとして入力することで、感性評価を推測する。
【0080】
また、ニューラルネットワークは、「非線形性」であるため、データ分布等における前提条件が必要なく(線形の場合では、ガウス分布等のデータ分布が必要)、学習により定式化が困難な関係でも対応可能(線形の場合では、物理式で表現されなければならない)である。したがって、物理モデルがない感性の解析には、ニューラルネットワークの手法が有効である。
【0081】
ここで、図5は、本実施形態における感性評価に必要な観点を説明するための図である。本実施形態では、図5(a)に示すように処方の物性値(粘度・摩擦等)に基づいて、嗜好特性別にユーザ分類を行って嗜好特性パターンを抽出し(図5(a)−(1))、感性の階層構造を推定し(図5(a)−(2))、それらの結果を踏まえて感性の推測(評価)を行う(図5(a)−(3))。
【0082】
具体的には、図5(b)に示すように、所定の基剤物性値を含む化粧品をユーザの肌等の皮膚表面に塗布し、その結果を複数の分類分けされたユーザ毎に(図5(b)−(1))、浅い感性及び深い感性を階層的に推定し(図5(b)−(2))、その結果から感性推測を行う。
【0083】
なお、本実施形態では、上述した図5(a),(b)において、(1)では嗜好特性別のユーザ分類(嗜好特性パターン抽出)手法、(2)では感性の階層構造化手法、(3)では物性値から感性を推測する手法に対してそれぞれ上述したニューラルネットワークを用いて、上述した図4に示すような関連付けを行う。
【0084】
<嗜好特性パターン抽出手段14における嗜好特性パターン抽出手法>
次に、上述した嗜好特性パターン抽出手段14における嗜好特性パターン抽出手法について説明する。本実施形態では、一般消費者であるユーザが使用感の微差がわかる人や使用感の微差が感じない人、使用感に対してしっとりを好む人やさっぱりを好む人、浸透感に対してうるおいが必要である人やさっぱり感が必要である人等、感性に対する嗜好や感度に個人差があり、解析精度の向上のため、感性の個人差(嗜好特性)に応じたグループ分類を実施する。
【0085】
具体的には、嗜好特性パターン抽出手段14により予め設定される嗜好特性パターン別にグループ分類が行われる。例えば、予め設定された感性の階層構造別に分類分けする場合には、「浅い感性」として「しっとり」及び「とろみ」と感じ、「深い感性」として「浸透感」と感じたユーザを1つのグループとして分類分けを行う。また、例えば、総合嗜好に寄与する感性パターン別で分類分けする場合には、「浅い感性」として「しっとり」及び「とろみ」と感じ、総合嗜好として「好きかどうか?」と感じたユーザを1つのグループとして分類分けを行う。
【0086】
このように、本実施形態では、例えば「浅い感性」と「深い感性」の階層構造別にユーザを分類したり、感性評価と総合評価の関連性別にユーザを分類することで、嗜好特性パターンを抽出する。なお、感性は非線形であるため、本実施形態では例えば階層型ニューラルネットワーク等を用いた手法を用いる。
【0087】
<嗜好特性パターン抽出に用いるニューラルネットワークの学習法>
ここで、本実施形態の嗜好特性パターン抽出に用いるニューラルネットワークの学習法について、具体的に説明する。
【0088】
通常、ニューラルネットワークの学習時には(学習誤差の2乗和)が最小となるように重みパラメータを調整する。なお、学習誤差とは、例えばニューラルネットワークによる推定値と教師値(教師データ)との差を意味する。
【0089】
上述した従来法では、本来、出力ノードに対して影響を与えない入力ノードさえも利用して学習誤差の2乗和を最小するように重みパラメータを調整してしまう可能性がある。その結果、例えば、重みパラメータをグラフィカルなネットワーク構造で表現すると、値の大小が線の太さで表現された場合にネットワーク構造が複雑となり、各入力ノードが出力ノードに与える影響の解釈が困難となる。つまり、入力ノードと出力ノード間の相関関係を見出すことを目的とする場合には、従来法は適さない場合がある。
【0090】
一方、本実施形態におけるスケルトン学習法を用いることにより、学習時に、「(学習誤差の2乗和)+(ネットワーク構造の複雑さ)」が最小となるように重みパラメータを調整することで、ネットワーク構造をシンプルにすることができる。
【0091】
スケルトン学習法を用いることで、シンプルなネットワーク構造で表現することができ、各入力ノードが出力ノードに与える影響の方向や出力ノードに与える影響度の大きい入力ノードを理解しやすくなる。これは、シンプルなネットワーク構造の場合でも、その相関関係パターンにマッチする学習データの学習精度は高い結果となる。ここで、学習精度が低いデータは、当該相関関係パターン以外のパターンで表現されるべきデータと捉え、設定した学習閾値を境に、学習データを、パターンにマッチするデータ群(データグループ)、マッチしないデータ群に分けることができる。
【0092】
<スケルトン学習法を用いた複数のデータ群への分類手法>
ここで、スケルトン学習法を用いた複数のデータ群への分類手法の一例について説明する。上記分類手法としては、例えば、ニューラルネットワークにおける偏差総和の評価関数(Σ(Xi−Xi、Xiは教師値、Xiはニューラルネットワークの推測値)に、結合分散度(C・ΣWjk、Cは結合分散度重み係数、Wjkはノードjからノードkへの重みパラメータ値)を加えたスケルトン学習の評価関数E=Σ(Xi−XiΣ+C・ΣWjkを用い、互いに共通の複数の入力ノードとなる因子及び当該因子から導出されて教師値となる結果を有する多数のデータに対して、上記評価関数Eにおける結合分散度重み係数Cに、「0<C<1」の範囲の値を設定して、上記スケルトン学習を行う。
【0093】
次に、上述した学習工程で得られた上記推測値に対して設定誤差範囲内に納まる上記教師値を有するデータ群と、上記設定誤差範囲から外れる上記教師値のデータ群とに仕分けする。次に、この仕分け工程において仕分けされた上記設定誤差範囲から外れる上記教師値のデータ群に対して、再度上記評価関数Eにおける結合分散度重み係数Cに「0<C<1」の範囲の値を設定して、上記スケルトン学習を行う工程を繰り返すことにより、上記因子の結果との間に共通のパターンを有する複数のデータ群に分類する。
【0094】
なお、上述した仕分け工程において分類された上記設定誤差範囲外の上記教師値を有するデータ群に対して、再度上記評価関数Eにおける結合分散度重み係数Cに「0<C<1」の範囲の値を設定して、上記スケルトン学習を行う学習工程を、全ての上記教師値が当該学習工程における設定誤差範囲内に納まるまで繰り返してもよい。
【0095】
つまり、上述した手法では、従来のニューラルネットワークにおける偏差総和の評価関数に対し、更に結合分散度を加えた評価関数E=Σ(Xi−Xi+C・ΣWjkを用い、まず全てのデータに対して、「0<C<1」の範囲の値を設定してスケルトン学習を行っている。これを換言すれば、上記スケルトン学習においては、上記偏差総和よりも結合分散度を小さくすることを重視した最適化処理を行っている。この結果、ニューラルネットにおけるノード間の弱い結合を消失させ、より強い結合のみを残すことができる。
【0096】
他方で、上記スケルトン学習によれば、結合分散度を小さくしてニューラルネット構造をシンプルにすることを重視することから、逆に偏差総和は大きな値となる。このため、教師値との差が大きい(すなわち、精度の悪い)推測値となるデータが多く存在することになる。
【0097】
そこで、各学習において、得られた推測値に対して設定誤差範囲内に納まる教師値を有するデータ群と、上記設定誤差範囲から外れる教師値のデータ群とに仕分けし、更に上記設定誤差範囲から外れる教師値にデータ群に対して、再度上記スケルトン学習を繰り返して、上記データ群を複数に分類することにより、各々の分類されたデータ群において消失したノード間の結合状態に基づいて、各々のデータ群が有する特異な入力ノード(因子)と教師値(結果)との関係パターンを取得することができ、共通のパターンを有する複数のグループに分類して評価を行うことができる。
【0098】
ここで、アンケートに回答したモニターについても全員が同一嗜好パターンを有するとは限らないため、上述した手法をアンケート解析に適用することで、複数の嗜好パターンを抽出し、嗜好パターン毎に消費者の感性分析を行うことが可能となる。これにより、例えば、商品開発過程において、これまで消費者の嗜好は1つとして扱っていた従来方法と比較すると、分析が精密となり、推測精度を向上することができる。
【0099】
ここで、図6は、本実施形態における階層型ニューラルネットワークを用いた関連付け手法を説明するための図である。また、図7は、本実施形態における分類分けについて具体的に説明するための図である。
【0100】
なお、図6(a)は、入力ノードとして塗布直後の18項目(感性項目)を示し、図6(b)は、図6(a)に示す入力ノードを用いたニューラルネットワークにより総合評価が得られるまでを示している。つまり、図6(b)は、塗布時の感性項目と総合評価結果との関係を示すものである。
【0101】
図6(a)に示すように、塗布時の感性項目として、例えば、「(1)化粧水の色が好き:視覚」、「(2)化粧水の香りが好き:嗅覚」、「(3)化粧水の香りが強い:嗅覚」、「(4)化粧水がひんやりしている」、「(5)化粧水にとろみがある」、「(6)化粧水がまろやか」、「(7)化粧水にコクがある」、「(8)化粧水がぬめる」、「(9)化粧水がみずみずしい」、「(9)化粧水がなめらか」、「(10)化粧水がみずみずしい」、「(11)化粧水がやわらかくなる」、「(12)化粧水が肌によく広がる」、「(13)肌によく浸透する」、「(14)肌によくなじむ」、「(15)肌によくしみこむ」、「(16)化粧水がさっぱりしている」、「(17)化粧水がしっとりしている」、「(18)化粧水がべたつく」等である。なお、本発明については、上述した18項目の内容についてはこれに限定されるものではなく、項目数もこれに限定されるものではない。
【0102】
また、図6(b)に示すように、本実施形態におけるニューラルネットワークを用いた学習作業としては、まずニューラルネットワークでテスト結果を学習し(図6(b)−(1))、次に、学習データをトレースする(図6(b)−(2))。ここで、例えば推定誤差が所定の値(例えば、±5%等)を境に、ケースデータを分離する(図6(b)−(3))。次に、分離後のそれぞれのケースデータを用いて、上述した図6(b)−(1)の処理を行うことで学習を行う。
【0103】
また、例えば図7(a)に示すように、上述したような処理により得られる学習データの各データケースのうち、嗜好A〜Cの3つの学習データケースがある場合には、最も大きい嗜好Aのケースを抽出する。また、学習データのうち、予め設定される「パターンにのるケース」であるか、又は「パターンにのらないケース」であるかによりグループ分けを行う。
【0104】
なお、上述したパターンとは、例えばXを計測値として、「Y=a*X+a*X+a*X+・・・a*X」(係数:aが同じ値で表せること)の関係が成立することを示している。具体的に説明すると、上述した関数「Y=a*X+a*X+a*X+・・・a*X(Xが入力値、Yが出力値)」において、関数の形は同じ(ニューラルネットワークの構造は同じ)であっても、係数aの組合せが異なれば、同じXのセットを与えても出力値Yは異なる値となる。つまり、係数aの組合せが同じものを同一パターンとし、組合せが異なるものを異なるパターンとして扱う。
【0105】
上述したような分類分けを、図7(b)に示すように全パネルに対してそれぞれのパターン(例えば、パターンA,パターンB,パターンC等)で行うことにより、分類分けを行う(例えばGroup1,Group2等)。このように、ユーザの分類分けを行うことにより、総合評価に影響を与える入力の感性評価の個人差を抽出することができる。なお、図6等に示されるような本実施形態における内容は、画面生成手段18等により画面が生成され、出力手段12等により表示される。
【0106】
ここで、図8は、分類分けされた結果の一例を示す図である。また、図9は、図8に示す分類結果を表にしたものである。図8に示す例では、複数のユーザを12グループに分類分けされた結果(Group_1〜12)を示している。なお、図8には、先頭及び各経路で分岐された地点(Branch_1〜15)における学習データのケース数(アンケート数)と、最終的にグループ化された地点(Group_1〜12)における各グループに該当するデータのケース数(アンケート数)とを示している(合計1850)。
【0107】
また、図9では、図8に対応させてグループ化されたグループ番号に対するケースデータ数とその割合が示されている。なお、図8,9等に示されるような本実施形態における分類分けされた結果は、画面生成手段18等により画面が生成され、出力手段12等により表示される。
【0108】
本実施形態では、上述した処理を行うことで、例えば図9に示すように、合計1842の学習ケースを嗜好特性別に12グループに分類することができる。なお、図9の「out of Group」の8とは、何れのグループにも属さないケースが8個あったことを意味している。
【0109】
本実施形態では、図9に示すように、グループ番号1,6,9,11,12の5つのグループで全ケースの約8割を占めるグルーピングを行うことができ、その他、予め設定された割合未満(図9の例では、2%未満)のグループを除いて、合計8個のグループ化を行うことができる。
【0110】
<階層構造推定手段15における階層構造推定手法>
次に、上述した階層構造推定手段15における階層構造推定手法について具体的に説明する。図10は、本実施形態における階層構造推定手法を説明するための図である。
【0111】
本実施形態では、1つの「深い感性」に対する感じ方に個人差があり「浅い感性」と「深い感性」との解明が必要であったため、上述したようにユーザの嗜好特性別に感性の階層構造を推定し、「浅い感性」と「深い感性」との関連性を明確化する。
【0112】
具体的には、感性の階層構造を解明するため、一例として上述した「浅い感性」から「浸透感」を予測するモデルの検討を行う。その一例として、本実施形態では「浸透感」に影響の高い感性評価を抽出する。具体的には、例えば階層構造の例では、「浅い感性」の「しっとり」及び「とろみ」から深い感性である「浸透感」を抽出する場合や、「浅い感性」である「さっぱり」及び「ひんやり」の深い感性である「浸透感」を抽出する場合に感性評価を高くする。
【0113】
つまり、図10に示すようにニューラルネットワークにより、浸透感以外の感性評価点を獲ている情報を入力して浸透感に関する感性評価点を抽出する。すなわち、「浸透感」に影響の高い感性評価を抽出する。なお、感性評価における影響度の解析手法としては、例えばウエイトパラメータ解析手法や感度解析手法等を用いることができる。
【0114】
ここで、ウエイトパラメータ解析手法とは、例えば個々の入力ノードを出発点として出力ノードに到達するためのルート(ノード間のアローの組合せ)は、通常、複数存在するが、その各ノード間の経路(アロー)上にウエイトパラメータ値(Pij)を設定し、学習の結果、得られたウエイトパラメータ値を用いて、入力ノードから出力ノードに至る全てのアロー上のウエイトパラメータ値を乗じ、その値の大小により各入力ノードの出力ノードに対する影響度の大小を比較する解析手法である。
【0115】
また、感度解析手法とは、複数ある入力ノードの中の特定の入力ノードの値を最小値から最大値まで変化(他の入力ノードの値は固定)させ、出力ノードの値がどの程度変わるか、及び、どのように変わるかを調べることで、その入力ノード値の出力ノードに対する感度を解析する手法である。
【0116】
ここで、図11は、解析結果の一例を示す図である。なお、図11の例では、上述したGroup1に対して、スケルトン学習法で得られたニューラルネットワークから、出力ノードに対する入力ノードの影響度をウエイトパラメータ解析及び感度解析で解析した結果を示している。
【0117】
図11では、上述した各手法における上位5位の評価結果を示しており、ウエイトパラメータ解析では、1位が「とろみがある」、2位が「ひんやりしている」、3位が「色が好き」、4位が「まろやか」、5位が「しっとりしている」となっており、感度解析では、1位が「香りが好き」、2位が「みずみずしい」、3位が「べたつく」、4位が「しっとりしている」、5位が「ひんやりしている」となっている。
【0118】
また、図11に示す各手法における上位5位の評価結果のうち、太文字で示されている部分は、感性評価点が上がると総合評価が下がる。
【0119】
なお、この場合、例えば、上述の図9に示される分類分けされた12グループのうち、総合評価に対する嗜好特性により分類した人数の多い上位2グループで解析を行う。図12は、上位2グループにおける浸透感に影響する感性項目の一例を示している。なお、図12では、ウエイトパラメータ解析を用いたGroup1とGroup6の2つグループについて、予め設定された各感性評価項目に対する度数が示されている。なお、図12に示す各感性評価項目に対する度数において、プラスは好ましい数値を示し、マイナスは好ましくない数値を示し、0は影響しないことを示している。
【0120】
図12に示すように、グループにより浸透感に影響する感性評価項目が異なっている。具体的に説明すると、例えば、Group1では、「肌によくしみこむ」かどうかや、「化粧水がさっぱりしてない」かどうか等により浸透感を判断している。一方、Group6では、「化粧水にコクがない」かどうかや「化粧水がひんやりしていない」かどうか、「肌によくなじむ」かどうか、等により浸透感を判断していることがわかる。
【0121】
つまり、本実施形態では、上述したウエイトパラメータ解析等により得られた結果から、各グループの特徴差を示すことができる。したがって、図12に示すように、分類された各グループに対して影響度の解析をすることにより、各グループの嗜好特性を把握することができる。また、本実施形態では、この嗜好特性の違いをグループ分類に適用することができる。
【0122】
<感性推測手段16における感性推測手法>
次に、本実施形態における感性推測手段16における感性推測手法について、具体的に説明する。感性推測手段16では、例えば「基剤物性値」と「浅い感性」との関連性(相関関係)を見つけるべく、感性は非線形であるため、本実施形態ではニューラルネットワークを用いて感性推測を行う。
【0123】
図13は、基剤物性と浅い感性との相関関係を説明するための図である。図13に示すように、本実施形態では、分類分けされたグループ毎(例えば、図13ではGroup1)に対して「(仕上がり後の平均値)転がり摩擦」、「(乾き際のピーク値)転がり摩擦」、「(仕上がり後の平均値)摩擦係数」、「(乾き際のピーク値)摩擦係数」、「(塗布直後の平均値)摩擦係数」、・・・、「粘度」等の基剤物性値からニューラルネットワークを用いて浅い感性である「さっぱり」の関係性を抽出する。
【0124】
ここで、図14は、基剤物性値と感性評価値との関係の一例を示す図である。なお、図14の例では、入力ノードを基剤物性値とし、出力ノードを感性評価値として、基剤物性値と感性評価値の関係を学習させた例を示している。また、図14(a)の構造は嗜好特性Group1の例を示し、図14(b)の構造は、嗜好特性Group6の例を示している。
【0125】
また、図14(a),(b)の出力ノードにおいて、Aは粘度(mPa・s)、Bは表面張力(mN/m)、Cは摩擦係数(C1:塗布直後の平均値,C2:乾き際のピーク値,C3:仕上がり後の平均値)、Dは転がり摩擦(D1:乾き際のピーク値,D2:仕上がり後の平均値)を示している。
【0126】
図14(a),(b)において、各ノード間の経路(アロー)の太さが重みパラメータの数値の大小を示している。また、実線が正の重みパラメータ値、点線が負の重みパラメータ値であることを示している。図14に示すようなグラフィック表示により、どの入力ノード項目が出力ノード項目に、どのように(プラス側/マイナス側に作用)影響を与えているかを視覚的に把握することができる。なお、このような画面は、上述した画面生成手段18により生成され、出力手段12により出力される。
【0127】
これにより、基剤物性と浅い感性との関係を推測することができ、これらの推測結果を用いて基剤物性情報からユーザの感性を高精度且つ効率的に推測することができる。
【0128】
<画面例>
ここで、本実施形態における画面生成手段18により生成される画面例について、図を用いて説明する。図15は、本実施形態における生成画面の一例を示す図である。本実施形態における画面生成手段18では、例えば、嗜好特性パターン抽出手段14により抽出された内容、階層構造推定手段15により得られる推定結果、及び感性推測手段16により得られる感性推測結果のうち、少なくとも1つを表示手段に表示するための画面を生成する。
【0129】
図15に示す画面40では、成分A〜Xを入力する第1の入力領域41−1と、物性A〜Xの物性予測値を入力する第2の入力領域41−2とを有しており、各入力領域に感性推測を行う感性評価対象物に対する所定の数値等のデータを入力し、上述した感性推測処理を実行することで、例えば画面40に感性A〜Nの感性推測結果や、総合評価予測結果等を数値や文字等で表示することができる。なお、図15に示す画面40は、一例であり、レイアウトや画面生成される項目については、本発明においてはこれに限定されるものではない。
【0130】
また、画面生成手段18により生成される画面についても、本発明においてはこれに限定されるものではなく、例えば上述した図6,8,9,12,14等の画面も生成して出力手段12等により出力することができる。
【0131】
上述したように、本実施形態によれば、基剤物性情報からユーザの感性を高精度且つ効率的に推測することができる。これにより、製品開発時に研究者の経験や勘に頼っていたユーザ等に期待する感性が推測可能となる。また、消費者アンケートを行う必要がなく感性を推測することが可能となるため、商品開発の時間を短縮させることができる。また、嗜好特性別にユーザを分類できるため、目的とするターゲット層の嗜好特性を高精度に把握することができる。更に、設計が難しかった「深い感性」を満足する化粧品の使用性を、基剤物性を指標として設計することが可能となる。
【0132】
なお、本願発明に適用可能な感性評価対象物とは、上述した化粧品や医薬品に限定されず、例えば飲食物や日用品、衣料品等、人間の5感(触覚、嗅覚、味覚、視覚、聴覚)で取得可能な感性に対して評価可能な製品まで広く含む。なお、その場合には、上述したニューラルネットワークは、各感性評価対象物に応じて学習データを選択して感性推測を行う。
【0133】
上述したように本発明によれば、基剤物性情報からユーザの感性を高精度且つ効率的に推測することができる。これにより、例えば、製品開発時に研究者の経験や勘に頼っていたユーザ等に期待する感性を本発明に基づいて高精度且つ効率的に推測することが可能となる。また、例えば消費者アンケートを行わずに使用性を推測することが可能となるため商品開発の時間を短縮することができる。また、嗜好特性別にユーザを分類することで、目的とするターゲット層の嗜好特性を高精度且つ効率的に把握することができる。更に、設計が難しかった「深い感性」を満足する感性評価対象物の使用性が基剤物性を指標に設計可能となる。
【0134】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0135】
10 感性推測装置
11 入力手段
12 出力手段
13 蓄積手段
14 嗜好特性パターン抽出手段
15 階層構造推定手段
16 感性推測手段
17 感性評価手段
18 画面生成手段
19 送受信手段
20 制御手段
31 入力装置
32 出力装置
33 ドライブ装置
34 補助記憶装置
35 メモリ装置
36 CPU
37 ネットワーク接続装置
38 記録媒体
40 画面
41 入力領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが使用する感性評価対象物の使用中及び使用後の感性を推測する感性推測装置において、
予め設定された階層型ニューラルネットワークのスケルトン学習法を用いて、複数の感性項目に対する所定の総合評価を得る嗜好特性パターン毎に分類を行う嗜好特性パターン抽出手段を有することを特徴とする感性推測装置。
【請求項2】
前記感性評価対象物に対する基剤物性情報を入力する入力手段と、
前記複数の感性項目を用いて前記ユーザの前記感性評価対象物に対する感性を階層化する階層構造推定手段と、
前記入力手段により得られる基剤物性情報と、前記階層構造推定手段により得られる階層構造とに基づいて、前記嗜好特性パターン抽出手段により得られた分類に対する前記感性評価対象物への感性を推測する感性推測手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の感性推測装置。
【請求項3】
前記感性推測手段により得られる感性推測結果を、予め設定された評価指標に対応させて感性を評価する感性評価手段を有することを特徴とする請求項2に記載の感性推測装置。
【請求項4】
前記嗜好特性パターン抽出手段により抽出された内容、前記階層構造推定手段により得られる推定結果、及び感性推測手段により得られる感性推測結果のうち、少なくとも1つを表示手段に表示するための画面を生成する画面生成手段を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の感性推測装置。
【請求項5】
ユーザが使用する感性評価対象物の使用中及び使用後の感性を推測するための感性推測方法において、
予め設定された階層型ニューラルネットワークのスケルトン学習法を用いて、複数の感性項目に対する所定の総合評価を得る嗜好特性パターン毎に分類を行う嗜好特性パターン抽出ステップを有することを特徴とする感性推測方法。
【請求項6】
前記感性評価対象物に対する基剤物性情報を入力する入力ステップと、
前記複数の感性項目を用いて前記ユーザの前記感性評価対象物に対する感性を階層化する階層構造推定ステップと、
前記入力手段により得られる基剤物性情報と、前記階層構造推定ステップにより得られる階層構造とに基づいて、前記嗜好特性パターン抽出ステップにより得られた分類に対する前記感性評価対象物への感性を推測する感性推測ステップとを有することを特徴とする請求項5に記載の感性推測方法。
【請求項7】
前記感性推測ステップにより得られる感性推測結果を、予め設定された評価指標に対応させて感性を評価する感性評価ステップを有することを特徴とする請求項6に記載の感性推測方法。
【請求項8】
前記嗜好特性パターン抽出ステップにより抽出された内容、前記階層構造推定ステップにより得られる推定結果、及び感性推測ステップにより得られる感性推測結果のうち、少なくとも1つを表示手段に表示するための画面を生成する画面生成ステップを有することを特徴とする請求項6又は7に記載の感性推測方法。
【請求項9】
コンピュータを、請求項1乃至4の何れか1項に記載の感性推測装置として機能させることを特徴とする感性推測プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−123749(P2012−123749A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276261(P2010−276261)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)