説明

感熱転写記録媒体

【課題】本発明は、染料層に使用する染料を低減でき、また、高温・高湿下に保存後においても、印画における異常転写を防止でき、さらに、印画物表面が部分的にマット化する、いわゆる「テカリ」の現象を少なくすることができる感熱転写記録媒体を提供することにある。
【解決手段】基材1の一方の面に耐熱滑性層2を設け、該基材1の他方の面に下引き層3、染料層4を順次形成した感熱転写記録媒体において、前記下引き層3は、一般式Si(ORで表されるケイ素化合物または/およびその加水分解物と、一般式(RSi(ORで表されるケイ素化合物または/およびその加水分解物(但し、R,RはCH,C,またはCOCH、Rは有機官能基を表す)とビニルピロリドン−ビニルイミダゾール共重合体と水分散性ポリエステルと水溶性高分子を、主成分として含む塗布液を塗布、乾燥して形成されていることを特徴とする感熱転写記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱転写方式のプリンタに使用される感熱転写記録媒体に係り、特に基材の一方の面に耐熱滑性層を設け、該基材の他方の面に下引き層、染料層を順次形成した感熱転写記録媒体に関する。さらに詳しくは、高速印画時における転写感度が高く、すなわち、染料層に使用する染料を低減でき、また、高温・高湿下に保存後においても、印画における異常転写を防止でき、しかも、高濃度部で発生する画質不良、すなわち、被転写体の受像層が感熱転写記録媒体に融着することで色相変動が起こり、その結果、印画物表面が部分的にマット化する、いわゆる「テカリ」の現象を少なくすることができる感熱転写記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、感熱転写記録媒体は、サーマルリボンと呼ばれ、感熱転写方式のプリンタに使用されるインクリボンのことであり、基材の一方の面に感熱転写層、その基材の他方の面に耐熱滑性層(バックコート層)を設けたものである。ここで感熱転写層は、インクの層であって、プリンタのサーマルヘッドに発生する熱によって、そのインクを昇華(昇華転写方式)あるいは溶融(溶融転写方式)させ、被転写体側に転写するものである。
【0003】
現在、感熱転写方式の中でも昇華転写方式は、プリンタの高機能化と併せて各種画像を簡便にフルカラー形成できるため、デジタルカメラのセルフプリント、身分証明書などのカード類、アミューズメント用出力物等、広く利用されている。そういった用途の多様化と共に、小型化、高速化、低コスト化、また得られる印画物への耐久性を求める声も大きくなり、近年では、基材シートの同じ側に印画物への耐久性を付与する保護層等を重ならないように設けられた複数の感熱転写層をもつ感熱転写記録媒体がかなり普及してきている。
【0004】
そのような中、用途の多様化と普及拡大に伴い、よりプリンタの印画速度の高速化が進むに従って、従来の感熱転写記録媒体では充分な印画濃度が得られないという問題が生じてきた。そこで、転写感度を上げるべく、感熱転写記録媒体の薄膜化により印画における転写感度の向上を試みることが行われてきたが、感熱転写記録媒体の製造時や印画の際に熱や圧力等によりシワが発生したり、場合によっては破断が発生するという問題を抱えている。
【0005】
また、感熱転写記録媒体の染料層における染料/樹脂(Dye/Binder)の比率を大きくして、印画濃度や印画における転写感度の向上を試みることが行われているが、染料を増やすことでコストアップとなるばかりではなく、製造工程における巻き取り状態時に感熱転写記録媒体の耐熱滑性層へ染料の一部が移行し(裏移り)、その後の巻き返し時に、その移行した染料が他の色の染料層、あるいは保護層に再転移し(裏裏移り)、この汚染された層を被転写体へ熱転写すると、指定された色と異なる色相になったり、いわゆる地汚れが生じたりする。
【0006】
また、感熱転写記録媒体側ではなく、プリンタ側で画像形成時のエネルギーをアップする試みも行われているが、消費電力が増えるばかりではなく、プリンタのサーマルヘッドの寿命を短くする他、染料層と被転写体とが融着し、いわゆる異常転写が生じやすくなる。それに対して異常転写を防止するために、染料層あるいは被転写体に多量の離型剤を添加すると、画像のにじみや地汚れが生じたりする。
【0007】
このような問題を解決するために、いくつかの方法が提案されている。例えば、特許文献1には、基材と染料層との間にポリビニルピロリドン樹脂と変性ポリビニルピロリドン樹脂を含有する接着層を有する熱転写シートが提案されている。
【0008】
また、特許文献2には、基材と染料層の間にポリビニルピロリドン樹脂またはポリビニルアルコール樹脂の熱可塑性樹脂とコロイド状無機顔料超微粒子からなる接着層を有する熱転写シートが提案されている。
【0009】
また、特許文献3には、基材と染料層の間にビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体とコロイド状無機顔料超微粒子からなる下地層を有する熱転写シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−231354号公報
【特許文献2】特開2006−150956号公報
【特許文献3】特開2008−155612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に提案されている感熱転写記録媒体では、昇華転写方式の高速プリンタにて印画を行った場合、高温・高湿下に保存したものを含めて、異常転写は確認されないものの、印画における転写感度が低く、充分なレベルまで至らず、また、「テカリ」も充分に抑えることができなかった。また、特許文献2に提案されている感熱転写記録媒体では、同じく印画を行った場合、印画における転写感度は高く、充分なレベルに至っているものの、高温・高湿下に保存したもので異常転写が確認され、しかも「テカリ」も充分に抑えることができなかった。また、特許文献3に提案されている感熱転写記録媒体では、同じく印画を行った場合、印画における転写感度は高く、充分なレベルに至っており、高温・高湿下に保存したものも含めて、異常転写は問題ないものの、印画ムラが確認され、しかも「テカリ」も充分に抑えることができなかった。このように、従来技術では、いずれも印画における転写感度が高く、高温・高湿下に保存した場合においても異常転写を発生せず、テカリの現象を充分改善した高速プリンタに対応できる感熱転写記録媒体が見出されていないのが状況である。
【0012】
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑みなされたもので、高速印画時における転写感度が高く、すなわち、染料層に使用する染料を低減でき、また、高温・高湿下に保存後においても、印画における異常転写を防止でき、しかも、高濃度部で発生する画質不良、すなわち、被転写体の受像層が感熱転写記録媒体に融着することで色相変動が起こり、その結果、印画物表面が部分的にマット化する、いわゆる「テカリ」の現象を少なくすることができる感熱転写記録媒体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明は、基材の一方の面に耐熱滑性層を設け、該基材の他方の面に下引き層、染料層を順次形成した感熱転写記録媒体において、該下引き層は、一般式Si(ORで表されるケイ素化合物または/およびその加水分解物と、一般式(RSi(ORで表されるケイ素化合物または、およびその加水分解物(但し、R,RはCH,C,またはCOCH、Rは有機官能基を表す)とビニルピロリドン−ビニルイミダゾール共重合体と水分散性ポリエステルと水溶性高分子を、主成分として含む塗布液を塗布、乾燥して形成されていることを特徴とする感熱転写記録媒体である。
【0014】
また、請求項2記載の発明は、前記一般式(RSi(OR中の有機官能基(R)がイソシアネート基が重合したイソシアヌレートであることを特徴とする請求項1記載の感熱転写記録媒体である。
【0015】
また、請求項3記載の発明は、前記一般式(RSi(ORが、式(NCO−RSi(OR(但し、Rは(CH、nは1以上)で表される三量体1,3,5−トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートであることを特徴とする請求項2記載の感熱転写記録媒体である。
【0016】
また、請求項4記載の発明は、前記水分散性ポリエステルが、少なくともジカルボン酸成分としてエステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物が共重合され、ジグリコール成分としてジエチレングリコールが共重合されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の感熱転写記録媒体である。
【0017】
また、請求項5記載の発明は、前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の感熱転写記録媒体である。
【0018】
また、請求項6記載の発明は、前記一般式Si(ORで表されるケイ素化合物が、テトラエトキシシランであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の感熱転写記録媒体である。
【0019】
また、請求項7記載の発明は、前記下引き層の乾燥後の塗布量が、0.10〜0.30g/mの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の感熱転写記録媒体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の感熱転写記録媒体によれば、高速印画時における転写感度が高く、すなわち染料層に使用する染料を増やすことなく高濃度の印画が得られ、かつ高温・高湿下に保存後においても印画における異常転写がなく、いわゆる「テカリ」の現象の少ない、充分に満足できる印画物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態に係る感熱転写記録媒体を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係る感熱転写記録媒体について、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施の形態に係る感熱転写記録媒体を示すもので、基材1の一方の面にサーマルヘッドとの滑り性を付与する耐熱滑性層2、が設けられる。そして、この基材1の他方の面には、下引き層3、染料層4が順次形成される。
【0024】
前記基材1としては、熱転写における熱圧で軟化変形しない耐熱性と強度が要求されるので、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、セロファン、アセテート、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、芳香族ポリアミド、アラミド、ポリスチレン等の合成樹脂のフィルム、およびコンデンサー紙、パラフィン紙などの紙類等を単独で又は組み合わされた複合体として使用可能であるが、中でも、物性面、加工性、コスト面などを考慮するとポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。また、その厚さは、操作性、加工性を考慮し、2〜50μmの範囲のものが使用可能であるが、転写適性や加工性等のハンドリング性を考慮すると、2〜9μm程度のものが好ましい。
【0025】
また、前記基材1においては、耐熱滑性層2または/および下引き層3を形成する面に、接着処理を施すことも可能である。接着処理としては、コロナ処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、プラズマ処理、プライマー処理等の公知の技術を適用することができ、それらの処理を二種以上併用することもできる。本発明では、基材と下引き層との接着性を高めることが有効であり、コスト面からもプライマー処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0026】
前記耐熱滑性層2は、従来公知のもので対応でき、例えば、バインダーとなる樹脂、離型性や滑り性を付与する機能性添加剤、充填剤、硬化剤、溶剤などを配合して調製し、塗布、乾燥して形成することができる。この耐熱滑性層の乾燥後の塗布量は、0.1〜2.0g/m程度が適当である。
【0027】
この耐熱滑性層2の一例を挙げると、バインダー樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリルポリオール、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ニトロセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。機能性添加剤としては、動物系ワックス、植物系ワックス等の天然ワックス、合成炭化水素系ワックス、脂肪族アルコールと酸系ワックス、脂肪酸エステルとグリセライト系ワックス、合成ケトン系ワックス、アミン及びアマイド系ワックス、塩素化炭化水素系ワックス、アルファーオレフィン系ワックス等の合成ワックス、ステアリン酸ブチル、オレイン酸エチル等の高級脂肪酸エステル、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸マグネシウム等の高級脂肪酸金属塩、長鎖アルキルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルリン酸エステル又は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステル等の界面活性剤等を挙げることができる。充填剤としては、タルク、シリカ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、シリコーン粒子、ポリエチレン樹脂粒子、ポリプロピレン樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリメチルメタクリレート樹脂粒子、ポリウレタン樹脂粒子等を挙げることができる。硬化剤としては、トリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等のイソシアネート類、およびその誘導体を挙げることができるが、前記は全て特に限定されるわけではない。
【0028】
また、前記下引き層3は、本発明の必須成分として、一般式Si(ORで表されるケイ素化合物及びその加水分解物と、一般式(RSi(ORで表されるケイ素化合物、及びその加水分解物(但し、R,RはCH,C,またはCOCH、Rは有機官能基を表す)とビニルピロリドン−ビニルイミダゾール共重合体と水分散性ポリエステルと水溶性高分子を主成分として含む塗布液を塗布、乾燥して形成することができる。
【0029】
水溶性高分子の一例を挙げると、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、ゼラチン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等を挙げることができる。その中でもポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンが好ましく、より好ましくはポリビニルアルコールである。なおここでいうポリビニルアルコールは、一般にポリ酢酸ビニルをけん化して得られるもので、酢酸基が数十%残存しているいわゆる部分けん化ポリビニルアルコールから、酢酸基が数%しか残存していないいわゆる完全けん化ポリビニルアルコールまでを含み、特に限定されるものではない。
【0030】
ビニルピロリドン−ビニルイミダゾール共重合体は、N−ビニルピロリドン系モノマーとビニル重合性モノマーであるビニルイミダゾールとの共重合体である。なお、共重合形態は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合いずれに限定されるものではない。ここで、N−ビニルピロリドン系モノマーとは、N−ビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−4−ピロリドン等)およびその誘導体をいうものであって、誘導体としては、N−ビニル−3−メチルピロリドン、N−ビニル−5−メチルピロリドン、N−ビニル−3−ベンジルピロリドン、N−ビニル−3,3,5−トリメチルピロリドン等のピロリドン環に置換基を有するものを挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0031】
ここで、前記一般式Si(ORで表される金属アルコキシドは、加水分解後に縮合し、鎖状あるいは三次元構造のポリマーを形成する。しかし、金属酸化物は硬く、さらに縮合時の体積縮小による歪みによりクラックが入りやすいため、フィルム上に薄く透明で均一な縮合体被膜を形成することは非常に困難である。そこで、高分子を添加することによって構造体に柔軟性を付与し、クラックを防止して造膜することができる。金属アルコキシドは水溶性高分子と分子レベルの複合体を形成し、そこで前記下引き層のアルコキシドまたは/およびその加水分解物は水溶性高分子だけでは不足する高速印画時における転写感度の向上に寄与すると考えられる。しかし、金属アルコキシドあるいはその加水分解物と水酸基を有する水溶性高分子の混合からなる下引き層は、水素結合からなるため、高温高湿下における長期保存時に下引き層が水により膨潤し、性能の劣化は密着性の低下が起こりやすい。
【0032】
これに対し、本発明では、上記一般式(RSi(ORで表される化合物を添加することにより、この膨潤を防ぐことができる。一般式(RSi(ORは、その有機官能基(R)が、ビニル、エポキシ、メタクリロキシ、ウレイド、及びイソシアネート等の非水性官能基であることが好ましい。非水官能基は、官能基が疎水性であるため、耐水性はさらに向上する。 一般式(RSi(ORで表される化合物が多量体である場合は、三量体が好ましく、より好ましくは、一般式(NCO−RSi(OR(式中、Rは(CH、nは1以上)で表される1,3,5−トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートである。これは、3−イソシアネートアルキルアルコキシシランの縮合体である。 この1,3,5−トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートは、イソシアヌレート部には化学的反応性はなくなるが、ヌレート部の極性により反応と同様の性能を示すことが知られている。
【0033】
一般的には、3−イソシアネートアルキルアルコキシシランと同様に接着剤などに添加され、接着性向上剤として知られている。よって、1,3,5−トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートをSi(ORと、水酸基を有する水溶性高分子に添加することにより、水による膨潤することを防ぎ、耐湿性を向上させることができる。
【0034】
1,3,5−トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートは、3−イソシアネートプロピルアルコキシシランの熱縮合により製造されるものもあり、原料の3−イソシアネートプロピルアルコキシシランが含まれる場合もあるが、特に問題はない。
【0035】
前記一般式Si(ORは、RがCH,C,またはCOCH等で表せるものが良いが、特にテトラエトキシシランSi(OCが加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるため好ましい。
【0036】
前記水分散性ポリエステルの一例を挙げると、共重合成分であるジカルボン酸成分はエステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物を必須成分とし、フタル酸、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル、2,5−ジメチルテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、オルソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸及び、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0037】
エステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物以外のジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸が好ましく、芳香族ジカルボン酸の芳香核が、疎水性のプラスチックと親和性が大きいために密着性の向上、耐加水分解性に優れている利点がある。特にテレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。
【0038】
エステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物は全酸成分中に6〜20モル%含有することが好ましい。更に好ましくは10〜18モル%である。エステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物が6モル%未満では水に対する樹脂の分散時間が長くなり、耐溶剤性も充分とはいえない。逆に20モル%を超えると耐水性が低下する傾向がある。
【0039】
エステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物としては、スルホテレフタル酸、5−
スルホイソフタル酸、4−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン酸−2,7−ジカ
ルボン酸などのアルカリ金属塩(スルホン酸のアルカリ金属塩)及び、これらのエステル
形成性誘導体が挙げられ、5−スルホイソフタル酸のナトリウム塩及び、そのエステル形
成性誘導体がより好ましく用いられる。
【0040】
ジグリコ−ル成分としては、ジエチレングリコールと炭素数2〜8の脂肪族または炭素数6〜12の脂環族グリコ−ル等が挙げられる。炭素数2〜8の脂肪族または炭素数6〜12の脂環族グリコ−ルの具体例としては、エチレングリコ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,2−プロピレングリコ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、1,3−シクロヘキサンジメタノ−ル、1,2−シクロヘキサンジメタノ−ル、1,6−ヘキサンジオール、p−キシリレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ルなどが挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を併用してもよい。ジエチレングリコールを全グリコール成分中に20〜80モル%含有することが好ましい。ジエチレングリコールが、この範囲外でもアルコールに対して耐溶剤性は得られるが、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤に対して耐溶剤性が不充分である。
【0041】
水分散性ポリエステルは公知の製造技術により、ジカルボン酸とジグリコールとをエステル化或いはエステル交換反応後、重縮合反応させることによって製造されるが、その製造方法についてはなんら限定されるものではない。
【0042】
前記下引き層3の乾燥後の塗布量は、一概に限定されるものではないが、0.10〜0.30g/mの範囲内であることが好ましい。0.10g/m未満では、染料層積層時の劣化により、高速印画時における転写感度が不足したり、基材あるいは染料層との密着性に問題を抱える不安がある。一方、0.30g/m超では、感熱転写記録媒体自体の感度低下に影響し、高速印画時における転写感度が不足する不安がある。
【0043】
また、前記染料層4は、従来公知のもので対応でき、例えば、熱移行性染料、バインダー、溶剤などを配合して染料層形成用塗布液を調製し、塗布、乾燥することで形成され、1.0g/m程度が適当である。なお、染料層4は、1色の単一層で構成したり、色相の異なる染料を含む複数の染料層を、同一基材の同一面に面順次に、繰り返し形成することもできる。
【0044】
前記染料層4の熱移行性染料は、熱により、溶融、拡散もしくは昇華移行する染料であれば、特に限定されるわけではなく、例えば、イエロー成分としては、ソルベントイエロー56,16,30,93,33、ディスパースイエロー201,231,33等を挙げることができる。マゼンタ成分としては、C.I.ディスパースレッド60、C.I.ディスパースバイオレット26、C.I.ソルベントレッド27、あるいはC.I.ソルベントレッド19等を挙げることができる。シアン成分としては、C.I.ディスパースブルー354、C.I.ソルベントブルー63、C.I.ソルベントブルー36、あるいはC.I.ディスパースブルー24等を挙げることができる。墨の染料としては、前記の各染料を組み合わせて調色するのが一般的である。
【0045】
前記染料層4のバインダーは、従来公知の樹脂バインダーがいずれも使用でき、特に限定されるものではないが、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂やポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂やポリエステル樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、フェノキシ樹脂等を挙げることができる。
【0046】
ここで、前記染料層4の染料とバインダーとの割合は、染料/バインダー=10/100から300/100が好ましい。これは、染料/バインダーの割合が、10/100を下回ると、染料が少な過ぎて発色感度が不充分となり良好な熱転写画像が得られず、また、この割合が300/100を越えると、バインダーに対する染料の溶解性が極端に低下するために、感熱転写記録媒体となった際に保存安定性が悪くなって染料が析出し易くなってしまうためである。また染料層あるいは染料層形成塗布液には、性能を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、分散剤、粘度調整剤、安定化剤等の公知の添加剤を使用することができる。
【0047】
次に、本発明で使用される被転写体となる受像紙について説明する。
【0048】
受像紙基材としては、セルロースパルプを主成分とする紙類が使用できる。紙類としては、コート紙、アート紙、上質紙(酸性紙、中性紙)、中質紙、グラシン紙などが挙げられる。
【0049】
更に、前記受像紙基材上に、中空粒子と接着成分を含有する断熱層を形成することが好ましい。熱転写方式の印画は、サーマルヘッドからの加熱により行われ、サーマルヘッドと受像紙基材の密着性が良好なことが要求される。断熱層を有する受像紙基材は、クッション性があるために、サーマルヘッドとの密着性が向上し、印画の際により均一な画像を得ることが可能である。断熱層で使用される中空粒子の壁を形成する材料としてアクリロニトリル、塩化ビニリデン、スチレンアクリル酸エステルの重合体等が好ましく使用される。中空粒子の製造方法としては、樹脂粒子中にブタンガス等の発泡剤を封入し、加熱発泡させる方式や、エマルジョン重合方式などが挙げられる。加熱発泡させる方式としては、中空粒子を予め過熱処理によって発泡させた既発泡中空粒子を用いる場合と、未発泡の粒子を含有した断熱層を塗工などにより形成した後、乾燥工程などの加熱処理によって断熱層中に中空構造を形成する場合がある。中空粒子の中空率や粒子径を一定に制御することが容易な点から、一般的には既発泡粒子を用いることが好ましい。
【0050】
前記受像紙基材上、または前記断熱層上に形成される受像層に使用される染着性樹脂としては、染料に対する親和性が高く、染料染着性の良好な熱可塑性樹脂を使用する。 上記樹脂としては、例えば、塩化ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル化合物モノマーとベンゾトリアゾール骨格及び/又はベンゾフェノン骨格を有するモノマーとの共重合樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられ、これらの熱可塑性樹脂は単独で使用してもよいし、また二種以上を併用して使用してもよい。また、上記染着性樹脂は、環境負荷の面から水溶性もしくは水分散系のいわゆる水系からなることがより好ましい。
【0051】
熱転写方式の印画においては、受像紙基材上の受像層とインクリボンの染料層を重ね合わせてサーマルヘッドで加熱した後、受像層からインクリボンを剥がす工程があり、受像層には、インクリボンとの離型性も要求される。このため、受像層には、インクリボンとの融着を防止し、印画走行性を向上する目的で離型剤を添加することが好ましい。添加する離型剤としては、シリコーンオイル、ポリシロキサングラフトアクリル樹脂、ワックス類、フッ素化合物などが挙げられる。
受像層は、架橋剤を添加して耐熱性を向上させることが好ましい。架橋剤としては、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、有機チタンキレート化合物が好ましい。これら架橋剤の中でも、耐熱性向上の効果が高く、印画時のリボン融着などの走行性の問題が発生しにくい点や、水性塗料中での安定性の点で、カルボジイミド系架橋剤が好ましい。カルボジイミド系架橋剤の添加量は、受像層に含有される樹脂100部に対しカルボジイミド系架橋剤が1〜30部となるようにすることが好ましく、3〜25部がより好ましい。1部未満では、充分な架橋の効果が得られず、印画走行不良が発生する場合がある。30部を超えると、樹脂の染着性を硬化剤が阻害して印画画像の濃度が低下する場合がある。
受像層の塗布量は、0.5〜5g/mが好ましく、より好ましくは0.5〜4g/mである。0.5g/m未満では、画像の耐光性が劣る場合がある。5g/mを超えると、受像層中で染料が拡散してしまう場合があり、画像の滲みが発生する場合がある。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明による具体的な実施例1〜6および比較例1〜6を作製して比較検討する。なお、文中で「部」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0053】
<耐熱滑性層付き基材の作製>
基材1として、4.5μmの片面易接着処理付きポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、その非易接着処理面に下記組成の耐熱滑性層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が1.0g/mになるように塗布、乾燥した後に、40℃環境下で1週間エージングすることで、耐熱滑性層付き基材を得た。
【0054】
<耐熱滑性層塗布液>
アクリルポリオール樹脂 12.5部
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・リン酸エステル 2.5部
タルク 6.0部
2,6−トリレンジイソシアネートプレポリマー 4.0部
トルエン 50.0部
メチルエチルケトン 20.0部
酢酸エチル 5.0部
<下引き層塗布液の作製>
A:テトラエトキシシラン(Si(OC、)17.3部と、メタノール10.0部に塩酸(0.1N)72.7部を加え、30分間撹拌し、加水分解させた溶液
B:水90.0部とメタノール5.0部の混合液にポリビニルアルコール1.5部とビニルピロリドン−ビニルイミダゾール共重合体2.5部と水分散性ポリエステル1.0部を溶解させた溶解液
C:水90.0部とメタノール5.0部の混合液にポリビニルアルコール2.5部とビニルピロリドン−ビニルイミダゾール共重合体1.5部と水分散性ポリエステル1.0部を溶解させた溶解液
D:水90.0部とメタノール5.0部の混合液にポリビニルアルコール1.5部とビニルピロリドン−ビニルイミダゾール共重合体1.5部と水分散性ポリエステル2.0部を溶解させた溶解液
E:水90.0部とメタノール5.0部の混合液にポリビニルピロリドン1.5部とビニルピロリドン−ビニルイミダゾール共重合体2.5部と水分散性ポリエステル1.0部を溶解させた溶解液
F:水90.0部とメタノール5.0部の混合液にポリビニルアルコール2.5部と水分散性ポリエステル2.5部を溶解させた溶解液
G:水90.0部とメタノール5.0部の混合液にポリビニルアルコール2.5部とビニルピロリドン−ビニルイミダゾール共重合体2.5部を溶解させた溶解液
H:水90.0部とメタノール5.0部の混合液にビニルピロリドン−ビニルイミダゾール共重合体2.5部と水分散性ポリエステル2.5部を溶解させた溶解液
I:水45.0部とIPA45.0部と1,3,5−トリス(3−メトキシシリルプロピル)イソシアヌレート10.0部を混合させて5分撹拌した混合液
<被転写体となる受像紙の作製>
<受像紙基材の用意>
受像紙基材として、厚さ180g/mのアート紙を用いた。
【0055】
<断熱層の形成>
前記受像紙基材上に、下記組成断熱層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が10g/mになるように塗布、乾燥した後に、40℃環境下で1週間エージングすることで、断熱層付き受像紙を得た。
【0056】
<断熱層塗布液>
アクリロニトリル及びメタクリロニトリルを主成分
とする共重合体からなる既発泡中空粒子 45部
(平均粒子径3.2μm、体積中空率85%)
ポリビニルアルコール 10部
塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂分散物 45部
(塩化ビニル/酢酸ビニル=70/30、T64℃)
水 200部
<受像層の形成>
前記断熱層上に、下記組成受像層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が4g/mになるように塗布、乾燥した後に、40℃環境下で1週間エージングすることで、受像層を得た。
【0057】
<受像層塗布液>
ウレタン樹脂 97部
(ガラス転移温度:−20℃)
会合型ウレタン系増粘剤 1部
スルホン酸系界面活性剤 2部
水 200部
(実施例1)
耐熱滑性層付き基材1の易接着処理面に、上記で作成した下引き層塗布液をA/B/I=70/20/10で混合し30分撹拌した塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.2g/mになるように塗布、乾燥することで、下引き層3を形成した。引き続き、その下引き層3の上に、下記組成の染料層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.7g/mになるように塗布、乾燥することで、染料層4を形成し、実施例1の感熱転写記録媒体を得た。
【0058】
<染料層塗布液>
C.I.ソルベントブルー63 6.0部
ポリビニルアセタール樹脂 4.0部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
(実施例2)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層3を上記で作成した下引き層塗布液をA/C/I=70/20/10で混合した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の感熱記録転写媒体を得た。
【0059】
(実施例3)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層3を上記で作成した下引き層塗布液をA/D/I=70/20/10で混合した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の感熱記録転写媒体を得た。
【0060】
(実施例4)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層3を上記で作成した下引き層塗布液をA/E/I=70/20/10で混合した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の感熱記録転写媒体を得た。
【0061】
(実施例5)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層3を乾燥後の塗布量が0.05g/mになるように塗布、乾燥すること以外は、実施例1と同様にして、実施例5の感熱記録転写媒体を得た。
【0062】
(実施例6)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層3を乾燥後の塗布量が0.35g/mになるように塗布、乾燥すること以外は、実施例1と同様にして、実施例6の感熱記録転写媒体を得た。
【0063】
(比較例1)
耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下引き層3を形成することなく、易接着処理面の上に、実施例1と同様の染料層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.7g/mになるように塗布、乾燥することで、染料層を形成し、比較例1の感熱転写記録媒体を得た。
【0064】
(比較例2)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層3を上記で作成した下引き層塗布液をA/F/I=70/20/10で混合した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の感熱記録転写媒体を得た。
【0065】
(比較例3)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層3を上記で作成した下引き層塗布液をA/G/I=70/20/10で混合した以外は、実施例1と同様にして、比較例3の感熱記録転写媒体を得た。
【0066】
(比較例4)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層3を上記で作成した下引き層塗布液をA/H/I=70/20/10で混合した以外は、実施例1と同様にして、比較例4の感熱記録転写媒体を得た。
【0067】
(比較例5)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層3を上記で作成した下引き層塗布液をA/B=70/30で混合した以外は、実施例1と同様にして、比較例5の感熱記録転写媒体を得た。
【0068】
(比較例6)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層3を上記で作成した下引き層塗布液をBのみにした以外は、実施例1と同様にして、比較例6の感熱記録転写媒体を得た。
【0069】
<常温における染料層の密着性評価>
実施例1〜6、比較例1〜6の感熱転写記録媒体に関して、常温にて保存された感熱転写記録媒体の染料層4の上に、幅24mm、長さ150mmのセロハンテープを貼り、その後すぐに剥がしたときの、セロハンテープ側への染料層4の付着の有無を調べることにより評価した結果を、表1に示す。
【0070】
なお、評価は、以下の基準にて行った。
【0071】
○:染料層の付着が、認められない
△:染料層の付着が、ごく僅かに認められる
×:染料層の付着が、全面で認められる
<高温・高湿保存後における染料層の密着性評価>
実施例1〜6、比較例1〜6の感熱転写記録媒体に関して、50℃80%RH環境下にそれぞれ72時間、84時間、96時間保存された後、常温にてさらに24時間保存された感熱転写記録媒体の染料層の上に、幅24mm、長さ150mmのセロハンテープを貼り、その後すぐに剥がしたときの、セロハンテープ側への染料層の付着の有無を調べることにより評価した結果を、表1に示す。なお、評価は、上記の常温における評価と同基準にて行った。
【0072】
<印画評価>
実施例1〜6、比較例1〜6の感熱転写記録媒体に関して、常温にて保存された感熱転写記録媒体、および50℃80%RH環境下にそれぞれ72時間、84時間、96時間保存された後、常温にてさらに24時間保存された感熱転写記録媒体と被転写体を使用し、サーマルシミュレーターにて以下の条件でベタ印画を行い、最高反射濃度、異常転写の有無、およびテカリを評価した結果を、表2に示す。なお、最高反射濃度は、テカリの確認されない印画部をX−Rite528にて測定した値である。
【0073】
<印画条件>
印画環境:23℃50%RH
印加電圧:29V
ライン周期:0.7msec
印画密度:主走査300dpi 副走査300dpi
また、異常転写の評価は、以下の基準にて行った。
【0074】
○:被転写体への異常転写が、認められない
△:被転写体への異常転写が、ごく僅かに認められる
×:被転写体への異常転写が、全面で認められる
また、テカリの評価は、以下の基準にて行った。
【0075】
○:テカリが、認められない
△:テカリが、部分的に認められる
×:テカリが、はっきりと認められる
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
即ち、実施例1〜6の感熱転写記録媒体は、表1、表2に示す結果より下引き層3を設けていない比較例1の感熱転写記録媒体と比較して、明らかに高速印画時における転写感度が高いことがわかった。また、常温保存および高温・高湿保存における染料層の密着性および印画における異常転写、さらに高濃度部で発生する「テカリ」も実用上問題ないことがわかった。また、実施例5の感熱転写記録媒体は、下引き層3の塗布量が0.10g/m未満であるせいか、幾分高温・高湿保存後の密着性が低下していることがわかる。また、実施例6の感熱転写記録媒体は、下引き層3の塗布量が0.30g/m超であるせいか、転写感度の効果が低下していることがわかる。
【0078】
これに対して、比較例2の感熱転写記録媒体は、実施例1の感熱転写記録媒体と比較して、下引き層3からビニルピロリドン−ビニルイミダゾール共重合体を除いた結果、転写感度や異常転写には充分な性能が得られているものの、テカリに問題を抱えていることがわかる。また、比較例3の感熱転写記録媒体は、下引き層3として水分散性ポリエステルを欠く結果、高温高湿時の染料層4と下引き層3の密着性が不足し、異常転写が発生していることがわかる。このような高温高湿時の密着性不足は、1,3,5−トリス(3−メトキシシリルプロピル)イソシアヌレートを欠く比較例5やテトラエトキシシラン並びに1,3,5−トリス(3−メトキシシリルプロピル)イソシアヌレートを欠く比較例6についても同様のことが言える。一方、比較例4の感熱転写記録媒体は、実施例1の感熱転写記録媒体と比較して、下引き層3から水溶性高分子であるポリビニルアルコールを欠く結果、高温・高湿保存においても実用できる密着性とテカリは確保できるものの、転写感度の効果はほぼ確認できないことがわかる。
【0079】
本発明は、上記実施の形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記実施形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより、種々の発明が抽出され得る。
【0080】
例えば実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明により得られる感熱転写記録媒体は、昇華転写方式のプリンタに使用されるインクリボンのことであり、プリンタの高速・高機能化と併せて、各種画像を簡便にフルカラー形成できるため、デジタルカメラのセルフプリント、身分証明書などのカード類、アミューズメント用出力物等、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1…基材
2…耐熱滑性層
3…下引き層
4…染料層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に耐熱滑性層を設け、該基材の他方の面に下引き層、染料層を順次形成した感熱転写記録媒体において、
前記下引き層は、一般式Si(ORで表されるケイ素化合物または/およびその加水分解物と、一般式(RSi(ORで表されるケイ素化合物または/および及びその加水分解物(但し、R,RはCH,C,またはCOCH、Rは有機官能基を表す)とビニルピロリドン−ビニルイミダゾール共重合体と水分散性ポリエステルと水溶性高分子を、主成分として含む塗布液を塗布、乾燥して形成されていることを特徴とする感熱転写記録媒体。
【請求項2】
前記一般式(RSi(OR中の有機官能基(R)が、イソシアネート基が重合したイソシアヌレートであることを特徴とする請求項1記載の感熱転写記録媒体。
【請求項3】
前記一般式(RSi(ORが、式(NCO−RSi(OR(但し、式中Rは(CH、nは1以上)で表される三量体1,3,5−トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートであることを特徴とする請求項2記載の感熱転写記録媒体。
【請求項4】
前記水分散性ポリエステルが、少なくともジカルボン酸成分としてエステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物が共重合され、ジグリコール成分としてジエチレングリコールが共重合されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の感熱転写記録媒体。
【請求項5】
前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の感熱転写記録媒体。
【請求項6】
前記一般式Si(ORで表されるケイ素化合物が、テトラエトキシシランであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の感熱転写記録媒体。
【請求項7】
前記下引き層の乾燥後の塗布量が、0.10〜0.30g/mの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の感熱転写記録媒体。

【図1】
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