説明

感熱転写記録媒体

【課題】高速印画時における転写感度が高く、すなわち染料層に使用する染料を低減でき、また高温・高湿下に保存後においても、印画における異常転写を防止した感熱転写記録媒体を提供する。
【解決手段】基材10の一方の面に耐熱滑性層40を設け、該基材10の他方の面に下引き層20、染料層30を順次形成した感熱転写記録媒体において、該下引き層20は、水溶性高分子と、アルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫の少なくともいずれか1つとを、主成分として含む塗布液を塗布、乾燥して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱転写方式のプリンタに使用される感熱転写記録媒体に関するもので、基材の一方の面に耐熱滑性層を設け、該基材の他方の面に下引き層、染料層を順次形成した感熱転写記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、感熱転写記録媒体は、サーマルリボンと呼ばれ、感熱転写方式のプリンタに使用されるインクリボンのことであり、基材の一方の面に感熱転写層、その基材の他方の面に耐熱滑性層(バックコート層)を設けた構成となっている。ここで感熱転写層は、インクの層であって、プリンタのサーマルヘッドに発生する熱によって、そのインクを昇華(昇華転写方式)あるいは溶融(溶融転写方式)させ、被転写体側に転写するものである。
【0003】
現在、感熱転写方式の中でも昇華転写方式は、プリンタの高機能化と併せて各種画像を簡便にフルカラー形成できるため、デジタルカメラのセルフプリント、身分証明書などのカード類、アミューズメント用出力物等、広く利用されている。そういった用途の多様化と共に、小型化、高速化、低コスト化、また得られる印画物への耐久性を求める声も大きくなり、近年では基材シートの同じ側に、印画物への耐久性を付与する保護層等を重ならないように設けられた複数の感熱転写層をもつ感熱転写記録媒体がかなり普及してきている。
【0004】
そんな中、用途の多様化と普及拡大に伴い、よりプリンタの印画速度の高速化が進むに従って、従来の感熱転写記録媒体では十分な印画濃度が得られないという問題が生じてきた。そこで転写感度を上げるべく、感熱転写記録媒体の薄膜化により印画における転写感度の向上を試みることが行われてきたが、感熱転写記録媒体の製造時や印画の際に熱や圧力等によりシワが発生したり、場合によっては破断が発生したりするという問題を抱えている。
【0005】
また、感熱転写記録媒体の染料層における染料/樹脂(Dye/Binder)の比率を大きくして、印画濃度や印画における転写感度の向上を試みることが行われているが、染料を増やすことでコストアップとなるばかりではなく、製造工程における巻き取り状態時に感熱転写記録媒体の耐熱滑性層へ染料の一部が移行し(裏移り)、その後の巻き返し時に、その移行した染料が他の色の染料層、あるいは保護層に再転移し(裏裏移り)、この汚染された層を被転写体へ熱転写すると、指定された色と異なる色相になったり、いわゆる地汚れが生じたりする。
【0006】
また、感熱転写記録媒体側ではなく、プリンタ側で画像形成時のエネルギーをアップする試みも行われているが、消費電力が増えるばかりではなく、プリンタのサーマルヘッドの寿命を短くする他、染料層と被転写体とが融着し、いわゆる異常転写が生じやすくなる。それに対して異常転写を防止するために、染料層あるいは被転写体に多量の離型剤を添加すると、画像のにじみや地汚れが生じたりする。
【0007】
このような要望を解決するために、いくつかの方法が提案されている。例えば、特許文献1では、基材と染料層との間にポリビニルピロリドン樹脂と変性ポリビニルピロリドン樹脂を含有する接着層を有する熱転写シートが提案されている。
また、特許文献2には、基材と染料層の間にポリビニルピロリドン樹脂またはポリビニルアルコール樹脂の熱可塑性樹脂とコロイド状無機顔料超微粒子からなる接着層を有する熱転写シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−231354号公報
【特許文献2】特開2006−150956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に提案されている感熱転写記録媒体にて昨今の昇華転写方式の高速プリンタにて印画を行ったところ、高温・高湿下に保存したものを含めて、異常転写は確認されないものの印画における転写感度が低く、充分なレベルまで至っていない状況である。また、特許文献2に提案されている感熱転写記録媒体にて同じく印画を行ったところ、印画における転写感度は高く、充分なレベルに至っているものの、高温・高湿下に保存したもので異常転写が確認される。そして、印画における転写感度が高く、高温・高湿下に保存した場合においても異常転写を発生しない高速プリンタに対応できる感熱転写記録媒体が見出されていない状況である。
本発明は前記の問題点に鑑み、高速印画時における転写感度が高く、すなわち染料層に使用する染料を低減でき、また高温・高湿下に保存後においても、印画における異常転写を防止した感熱転写記録媒体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、基材の一方の面に耐熱滑性層を設け、該基材の他方の面に下引き層及び染料層を順次形成した感熱転写記録媒体において、該下引き層は、アルコキシド、その加水分解物、及び塩化錫の少なくともいずれか1つと、水溶性高分子とを主成分として含む塗布液を、塗布、乾燥して形成されたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係わる感熱転写記録媒体においては、前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコールであることが好ましい。
また、本発明に係わる感熱転写記録媒体においては、前記水溶性高分子が、ポリビニルピロリドンであることが好ましい。
また、本発明に係わる感熱転写記録媒体においては、前記アルコキシドが、テトラエトキシシランまたはトリイソプロポキシアルミニウム、またはそれらの混合物であることが好ましい。
また、本発明に係わる感熱転写記録媒体においては、前記下引き層の乾燥後の塗布量が、0.10g/m2以上0.30g/m2以下の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の感熱転写記録媒体は、前記下引き層が、水溶性高分子と、アルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫の少なくともいずれか1つとを主成分として含む塗布液を塗布、乾燥して形成されていることにより、高速印画時における転写感度が高く、すなわち染料層に使用する染料を増やすことなく高濃度の印画が得られ、かつ高温・高湿下に保存後においても印画における異常転写がなく、充分に満足できる印画物を得ることができる。
【0013】
前記下引き層のアルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫は、反応性に富む無機成分であり、水溶液中から乾燥形成される中で自らが重縮合反応して鎖状あるいは三次元構造のポリマーを形成する他、水溶性高分子とは分子レベルの複合体を形成すると考えられる。そこで前記下引き層のアルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫との重縮合物は、水溶性高分子だけでは不足する高速印画時における転写感度の向上をもたらすと考えられ、前記下引き層のアルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫と水溶性高分子との複合体は、水溶性高分子だけでは劣る高温・高湿下に保存後における異常転写に関して、改善をもたらすものと考えられる。
【0014】
さらに、前記水溶性高分子をポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドンとし、前記アルコキシドをテトラエトキシシランまたはトリイソプロポキシアルミニウム、またはそれらの混合物とし、前記下引き層の乾燥後の塗布量を0.10g/m2以上0.30g/m2以下の範囲内にすることで、高速印画時における転写感度が高く、より高濃度の印画が得られ、かつ高温・高湿下に保存後においても印画における異常転写がなく、より充分に満足できる印画物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る感熱転写記録媒体の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係わる実施形態の感熱転写記録媒体は、基材の一方の面に耐熱滑性層を設け、該基材の他方の面に下引き層、染料層を順次形成した感熱転写記録媒体である。該下引き層は、アルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫の少なくともいずれか1つと、水溶性高分子とを主成分として含む塗布液を、塗布、乾燥して形成される。
ここで、前記主成分とは、本発明の効果を損なわない限り、前記水溶性高分子と、アルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫の少なくともいずれか1つの他に、さらに他の成分が添加されていても良い旨を表す。前記水溶性高分子と、アルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫の少なくともいずれか1つとの合計が、下引き層形成時の全体からみて50質量%超で含まれる意味であるが、好ましくは80質量%以上である。
【0017】
本実施形態の感熱転写記録媒体は、図1に示すように、基材10の一方の面にサーマルヘッドとの滑り性を付与する耐熱滑性層40を設け、基材10の他方の面に水溶性高分子と、アルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫の少なくともいずれか1つとを、主成分として含む塗布液を、塗布、乾燥して形成される下引き層20、染料層30を順次形成した構成である。
【0018】
前記基材10としては、熱転写における熱圧で軟化変形しない耐熱性と強度が要求されるので、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、セロファン、アセテート、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、芳香族ポリアミド、アラミド、ポリスチレン等の合成樹脂のフィルム、およびコンデンサー紙、パラフィン紙などの紙類等を単独で又は組み合わされた複合体として使用可能であるが、中でも、物性面、加工性、コスト面などを考慮するとポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。また、その厚さは、操作性、加工性を考慮し、2〜50μmの範囲のものが使用可能であるが、転写適性や加工性等のハンドリング性を考慮すると、2〜9μm程度のものが好ましい。
【0019】
また、前記基材10においては、耐熱滑性層40または/および下引き層20を形成する面に、接着処理を施すことも可能である。接着処理としては、コロナ処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、プラズマ処理、プライマー処理等の公知の技術を適用することができ、それらの処理を二種以上併用することもできる。本発明では、基材と下引き層との接着性を高めることが有効であり、コスト面からもプライマー処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
次に、前記耐熱滑性層40は、従来公知のもので対応でき、例えば、バインダーとなる樹脂、離型性や滑り性を付与する機能性添加剤、充填剤、硬化剤、溶剤などを配合して調製し、塗布、乾燥して形成することができる。この耐熱滑性層の乾燥後の塗布量は、0.1〜2.0g/m2程度が適当である。
【0020】
耐熱滑性層40の一例を挙げると、バインダー樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリルポリオール、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ニトロセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。機能性添加剤としては、動物系ワックス、植物系ワックス等の天然ワックス、合成炭化水素系ワックス、脂肪族アルコールと酸系ワックス、脂肪酸エステルとグリセライト系ワックス、合成ケトン系ワックス、アミン及びアマイド系ワックス、塩素化炭化水素系ワックス、アルファーオレフィン系ワックス等の合成ワックス、ステアリン酸ブチル、オレイン酸エチル等の高級脂肪酸エステル、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸マグネシウム等の高級脂肪酸金属塩、長鎖アルキルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルリン酸エステル又は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステル等の界面活性剤等を挙げることができる。充填剤としては、タルク、シリカ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、シリコーン粒子、ポリエチレン樹脂粒子、ポリプロピレン樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリメチルメタクリレート樹脂粒子、ポリウレタン樹脂粒子等を挙げることができる。硬化剤としては、トリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等のイソシアネート類、およびその誘導体を挙げることができるが、前記は全て特に限定されるわけではない。
【0021】
次に、前記下引き層20は、本発明の必須成分として、水溶性高分子と、アルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫の少なくともいずれか1つとを主成分として含む塗布液を用意し、その塗布液を塗布、乾燥して形成することができる。
前記水溶性高分子の一例を挙げると、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、ゼラチン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等を挙げることができる。その中でもポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンが好ましく、より好ましくはポリビニルアルコールである。なおここでいうポリビニルアルコールは、一般にポリ酢酸ビニルをけん化して得られるもので、酢酸基が数十%残存しているいわゆる部分けん化ポリビニルアルコールから、酢酸基が数%しか残存していないいわゆる完全けん化ポリビニルアルコールまでを含み、特に限定されるものではない。
【0022】
前記アルコキシドの一例を挙げると、テトラエトキシシラン〔Si(OC254〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O−C373〕(−C37はイソプロピルアルキル基)などの下記一般式(1)で表せるものである。その中でもテトラエトキシシランまたはトリイソプロポキシアルミニウムが水系の溶媒中においても比較的安定であるため好ましい。
M(OR)n ・・・(1)
ここで、
M:Si、Ti、Al、Zr等の金属
R:CH3、C2H5等のアルキル基
n:Mの種類によって異なる1〜4の整数
である。
【0023】
前記塩化錫に関しては、塩化第一錫(SnCl2)、塩化第二錫(SnCl3)、あるいはそれらの混合物であってもよく、無水物でも水和物でも用いることができる。
前記下引き層20は、水溶性高分子と、アルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫の少なくともいずれか1つとを、主成分として含む塗布液を塗布、乾燥して形成するわけであるが、水溶性高分子と、アルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫との配合比率は9/1〜1/9で、高速印画時における転写感度、基材あるいは染料層との密着性を考慮すると、好ましく8/2〜2/8である。また下引き層あるいは下引き層形成塗布液には、前記性能を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、分散剤、粘度調整剤、安定化剤等の公知の添加剤を使用することができる。
【0024】
前記下引き層20の乾燥後の塗布量は、一概に限定されるものではないが、0.10g/m2以上0.30g/m2以下の範囲内であることが好ましい。0.10g/m2未満では、染料層積層時の劣化により、高速印画時における転写感度が不足したり、基材10あるいは染料層30との密着性に問題を抱える不安がある。一方、0.30g/m2超では、感熱転写記録媒体自体の感度低下に影響し、高速印画時における転写感度が不足する不安がある。
【0025】
なお、幾分不明なところも多いが、前記下引き層20のアルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫は、反応性に富む無機成分であり、水溶液中から乾燥形成される中で自らが重縮合反応して鎖状あるいは三次元構造のポリマーを形成する他、水溶性高分子とは分子レベルの複合体を形成すると考えられる。そこで前記下引き層20のアルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫の重縮合物は、水溶性高分子だけでは不足する高速印画時における転写感度の向上に寄与すると考えられ、前記下引き層20のアルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫と水溶性高分子との複合体は、水溶性高分子だけでは劣る高温・高湿下に保存後における基材10あるいは染料層30との密着性に起因する異常転写に関して、寄与するものと考えられる。
【0026】
次に、染料層30は、従来公知のもので対応でき、例えば、熱移行性染料、バインダー、溶剤などを配合して染料層形成用塗布液を調製し、塗布、乾燥することで形成され、1.0g/m2程度が適当である。なお染料層30は、1色の単一層で構成したり、色相の異なる染料を含む複数の染料層を、同一基材の同一面に面順次に、繰り返し形成することもできる。
【0027】
前記染料層30の熱移行性染料は、熱により、溶融、拡散もしくは昇華移行する染料であれば、特に限定されるわけではなく、例えば、イエロー成分としては、ソルベントイエロー56,16,30,93,33、ディスパースイエロー201,231,33等を挙げることができる。マゼンタ成分としては、C.I.ディスパースレッド60、C.I.ディスパースバイオレット26、C.I.ソルベントレッド27、あるいはC.I.ソルベントレッド19等を挙げることができる。シアン成分としては、C.I.ディスパースブルー354、C.I.ソルベントブルー63、C.I.ソルベントブルー36、あるいはC.I.ディスパースブルー24等を挙げることができる。墨の染料としては、前記の各染料を組み合わせて調色するのが一般的である。
【0028】
前記染料層30のバインダーは、従来公知の樹脂バインダーがいずれも使用でき、特に限定されるものではないが、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂やポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂やポリエステル樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、フェノキシ樹脂等を挙げることができる。
【0029】
ここで、前記染料層30の染料とバインダーとの割合は、染料/バインダー=10/100から300/100が好ましい。これは、染料/バインダーの割合が、10/100を下回ると、染料が少な過ぎて発色感度が不十分となり良好な熱転写画像が得られず、また、この割合が300/100を越えると、バインダーに対する染料の溶解性が極端に低下するために、感熱転写記録媒体となった際に保存安定性が悪くなって染料が析出し易くなってしまうためである。また染料層あるいは染料層形成塗布液には、性能を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、分散剤、粘度調整剤、安定化剤等の公知の添加剤を使用することができる。
なお、耐熱滑性層40、下引き層20、染料層30は、いずれも従来公知の塗布方法にて、塗布、乾燥することで形成可能であり、塗布方法の一例を挙げると、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法、スプレーコーティング法、リバースロールコート法を挙げることができる。
【実施例1】
【0030】
以下に、本発明の各実施例および各比較例に用いた材料を示す。なお、文中で「部」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
<耐熱滑性層付き基材の作製>
基材として、4.5μmの片面易接着処理付きポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、その非易接着処理面に下記組成の耐熱滑性層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が1.0g/m2になるように塗布、乾燥した後に、40℃環境下で1週間エージングすることで、耐熱滑性層付き基材を得た。
【0031】
<耐熱滑性層塗布液>
アクリルポリオール樹脂 12.5部
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・リン酸エステル 2.5部
タルク 6.0部
2,6−トリレンジイソシアネートプレポリマー 4.0部
トルエン 50.0部
メチルエチルケトン 20.0部
酢酸エチル 5.0部
【0032】
(実施例1)
耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下記組成の下引き層塗布液−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.2g/m2になるように塗布、乾燥することで、下引き層を形成した。引き続き、その下引き層の上に、下記組成の染料層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.7g/m2になるように塗布、乾燥することで、染料層を形成し、実施例1の感熱転写記録媒体を得た。
【0033】
<下引き層塗布液−1>
テトラエトキシシラン 6.2部
ポリビニルアルコール 2.2部
0.1N塩酸 53.8部
純水 33.9部
イソプロピルアルコール 3.9部
<染料層塗布液>
C.I.ソルベントブルー63 6.0部
ポリビニルアセタール樹脂 4.0部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
【0034】
(実施例2)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層塗布液−2にした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の感熱記録転写媒体を得た。
<下引き層塗布液−2>
テトラエトキシシラン 6.2部
ポリビニルピロリドン 2.2部
0.1N塩酸 53.8部
純水 33.9部
イソプロピルアルコール 3.9部
【0035】
(実施例3)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層塗布液−3にした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の感熱記録転写媒体を得た。
<下引き層塗布液−3>
塩化第一錫 1.8部
ポリビニルアルコール 1.2部
純水 64.0部
エチルアルコール 29.1部
イソプロピルアルコール 3.9部
【0036】
(実施例4)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を乾燥後の塗布量が0.05g/m2になるように塗布、乾燥すること以外は、実施例1と同様にして、実施例4の感熱記録転写媒体を得た。
(実施例5)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を乾燥後の塗布量が0.35g/m2になるように塗布、乾燥すること以外は、実施例1と同様にして、実施例5の感熱記録転写媒体を得た。
(比較例1)
耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下引き層を形成することなく、易接着処理面の上に、実施例1と同様の染料層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.7g/m2になるように塗布、乾燥することで、染料層を形成し、比較例1の感熱転写記録媒体を得た。
【0037】
(比較例2)
耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下記組成の下引き層塗布液−4を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.2g/m2になるように塗布、乾燥することで、下引き層を形成した。引き続き、その下引き層の上に、実施例1と同様の染料層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.7g/m2になるように塗布、乾燥することで、染料層を形成し、比較例2の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層塗布液−4>
ポリビニルアルコール 3.0部
純水 87.3部
イソプロピルアルコール 9.7部
【0038】
(比較例3)
耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下記組成の下引き層塗布液−5を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.2g/m2になるように塗布、乾燥することで、下引き層を形成した。引き続き、その下引き層の上に、実施例1と同様の染料層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.7g/m2になるように塗布、乾燥することで、染料層を形成し、比較例3の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層塗布液−5>
ポリビニルピロリドン 3.0部
純水 87.3部
イソプロピルアルコール 9.7部
【0039】
(比較例4)
耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下記組成の下引き層塗布液−6を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.2g/m2になるように塗布、乾燥することで、下引き層を形成した。引き続き、その下引き層の上に、実施例1と同様の染料層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.7g/m2になるように塗布、乾燥することで、染料層を形成し、比較例4の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層塗布液−6>
テトラエトキシシラン 10.4部
0.1N塩酸 89.6部
【0040】
<被転写体の作製>
基材として、188μmの白色発泡ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、その一方の面に下記組成の受像層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が5.0g/m2になるように塗布、乾燥することで、感熱転写用の被転写体を作製した。
<受像層塗布液>
塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体 19.5部
アミノ変性シリコーンオイル 0.5部
トルエン 40.0部
メチルエチルケトン 40.0部
【0041】
<常温における染料層の密着性評価>
実施例1〜5、比較例1〜4の感熱転写記録媒体に関して、常温にて保存された感熱転写記録媒体の染料層の上に、幅18mm、長さ150mmのセロハンテープを貼り、その後すぐに剥がしたときの、セロハンテープ側への染料層の付着の有無を調べることにより評価した結果を、表1に示す。
なお、評価は、以下の基準にて行った。
○:染料層の付着が、認められない
△:染料層の付着が、ごく僅かに認められる
×:染料層の付着が、全面で認められる
【0042】
<高温・高湿保存後における染料層の密着性評価>
実施例1〜5、比較例1〜4の感熱転写記録媒体に関して、40℃90%RH環境下に72時間保存された後、常温にてさらに24時間保存された感熱転写記録媒体の染料層の上に、幅18mm、長さ150mmのセロハンテープを貼り、その後すぐに剥がしたときの、セロハンテープ側への染料層の付着の有無を調べることにより評価した結果を、表1に示す。なお評価は、前記の常温における評価と同基準にて行った。
【0043】
<印画評価>
実施例1〜5、比較例1〜4の感熱転写記録媒体に関して、常温にて保存された感熱転写記録媒体、および40℃90%RH環境下に72時間保存された後、常温にてさらに24時間保存された感熱転写記録媒体と被転写体を使用し、サーマルシミュレーターにて以下の条件でベタ印画を行い、最高反射濃度、および異常転写の有無を評価した結果を、表1に示す。なお最高反射濃度は、X−Rite528にて測定した値である。
<印画条件>
印画環境:23℃50%RH
印加電圧:29V
ライン周期:0.7msec
印画密度:主走査300dpi 副走査300dpi
また、異常転写の評価は、以下の基準にて行った。
○:被転写体への異常転写が、認められない
△:被転写体への異常転写が、ごく僅かに認められる
×:被転写体への異常転写が、全面で認められる
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示す結果から分かるように、水溶性高分子と、アルコキシドまたは/およびその加水分解物または塩化錫の少なくともいずれか1つとを、主成分として含む塗布液を塗布、乾燥して形成された下引き層を設けられた実施例1〜5の感熱転写記録媒体は、下引き層を設けられていない比較例1の感熱転写記録媒体と比較して、明らかに高速印画時における転写感度が高いことが解る。
【0046】
また、常温保存および高温・高湿保存における染料層の密着性および印画における異常転写も実用上問題ないことが解る。その中で、実施例1および3の常温保存品および高温・高湿保存品の最高反射濃度から、水溶性高分子は、ポリビニルアルコールがより好ましいことが解る。また、実施例1の高温・高湿保存後における染料層の密着性から、テトラエトキシシランがより好ましいことが解る。また、実施例4の感熱転写記録媒体は、下引き層の塗布量が0.10g/m2未満であるせいか、幾分高温・高湿保存後の密着性が低下し、さらに転写感度も幾分効果が低下していることが解る。また、実施例5の感熱転写記録媒体は、下引き層の塗布量が0.30g/m2超であるせいか、転写感度の効果が低下していることが解る。
【0047】
これに対して、比較例2の感熱転写記録媒体は、実施例1の感熱転写記録媒体と比較して、下引き層を水溶性高分子であるポリビニルアルコールのみで設けた結果、常温保存における転写感度は高いものの、高温・高湿保存における染料層の密着性に問題を抱えることが解る。また、同じく比較例3の感熱転写記録媒体は、実施例2の感熱転写記録媒体と比較して、下引き層を水溶性高分子であるポリビニルピロリドンのみで設けた結果、比較例2と同じ問題を抱えることが解る。また、比較例4の感熱転写記録媒体は、実施例1の感熱転写記録媒体と比較して、下引き層をテトラエトキシシランのみで設けた結果、高温・高湿保存においても実用できる密着性は確保できるものの、転写感度の効果がほぼ確認できないことが解る。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明により得られる感熱転写記録媒体は、昇華転写方式のプリンタに使用されるインクリボンのことであり、プリンタの高速・高機能化と併せて、各種画像を簡便にフルカラー形成できるため、デジタルカメラのセルフプリント、身分証明書などのカード類、アミューズメント用出力物等、広く利用されている。
【符号の説明】
【0049】
10:基材
20:下引き層
30:染料層
40:耐熱滑性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に耐熱滑性層を設け、該基材の他方の面に下引き層及び染料層を順次形成した感熱転写記録媒体において、
該下引き層は、アルコキシド、その加水分解物、及び塩化錫の少なくともいずれか1つと、水溶性高分子とを主成分として含む塗布液を、塗布、乾燥して形成されたことを特徴とする感熱転写記録媒体。
【請求項2】
前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の感熱転写記録媒体。
【請求項3】
前記水溶性高分子が、ポリビニルピロリドンであることを特徴とする請求項1に記載の感熱転写記録媒体。
【請求項4】
前記アルコキシドが、テトラエトキシシランまたはトリイソプロポキシアルミニウム、またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の感熱転写記録媒体。
【請求項5】
前記下引き層の乾燥後の塗布量が、0.10g/m2以上0.30g/m2以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の感熱転写記録媒体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−61798(P2012−61798A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209325(P2010−209325)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】