説明

感熱転写記録媒体

【課題】熱転写の印字速度の高速化や、熱転写画像の高濃度、高品質の要求に対応し、異常転写の発生を防止し、印画における転写感度を向上させた感熱転写記録媒体を提供する。
【解決手段】下引き層20を構成する樹脂の100℃における貯蔵弾性率G'を1.0E+08 N/m2以上としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱転写方式のプリンタに使用される感熱転写記録媒体に関するもので、基材の一方の面に耐熱滑性層を設け、該基材の他方の面に下引き層、染料層を順次形成した感熱転写記録媒体に関し、さらに詳しくは、高速印画時における転写感度が高く、すなわち染料層に使用する染料を低減でき、また高温・高湿下に保存後においても、印画における異常転写を防止した感熱転写記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、感熱転写記録媒体は、サーマルリボンと呼ばれ、感熱転写方式のプリンタに使用されるインクリボンのことであり、基材の一方の面に感熱転写層、その基材の他方の面に耐熱滑性層(バックコート層)を設けたものである。ここで、感熱転写層は、インクの層であって、プリンタのサーマルヘッドに発生する熱によって、そのインクを昇華(昇華転写方式)あるいは溶融(溶融転写方式)させ、被転写体側に転写するものである。
【0003】
現在、感熱転写方式の中でも昇華転写方式は、プリンタの高機能化と併せて各種画像を簡便にフルカラー形成できるため、デジタルカメラのセルフプリント、身分証明書などのカード類、アミューズメント用出力物等、広く利用されている。そういった用途の多様化と共に、小型化、高速化、低コスト化、また得られる印画物への耐久性を求める声も大きくなり、近年では、基材シートの同じ側に印画物への耐久性を付与する保護層等を重ならないように設けられた複数の感熱転写層をもつ感熱転写記録媒体がかなり普及してきている。
【0004】
そのような中、用途の多様化と普及拡大に伴い、よりプリンタの印画速度の高速化が進むに従って、従来の感熱転写記録媒体では、十分な印画濃度が得られないという問題が生じてきた。そこで、転写感度を上げるべく、感熱転写記録媒体の薄膜化により印画における転写感度の向上を試みることが行われてきたが、感熱転写記録媒体の製造時や印画の際に熱や圧力等によりシワが発生したり、場合によっては破断が発生するという問題を抱えている。
【0005】
また、感熱転写記録媒体の染料層における染料/樹脂(Dye/Binder)の比率を大きくして、印画濃度や印画における転写感度の向上を試みることが行われているが、染料を増やすことでコストアップとなるばかりではなく、製造工程における巻き取り状態時に感熱転写記録媒体の耐熱滑性層へ染料の一部が移行し(裏移り)、その後の巻き返し時に、その移行した染料が他の色の染料層、あるいは保護層に再転移し(裏裏移り)、この汚染された層を被転写体へ熱転写すると、指定された色と異なる色相になったり、いわゆる地汚れが生じたりする。
【0006】
また、感熱転写記録媒体側ではなく、プリンタ側で画像形成時のエネルギーをアップする試みも行われているが、消費電力が増えるばかりではなく、プリンタのサーマルヘッドの寿命を短くする他、染料層と被転写体が融着する、いわゆる異常転写が生じやすくなる。それに対して、異常転写を防止するために、染料層あるいは被転写体に多量の離型剤を添加すると、画像のにじみや地汚れが生じたりする。
【0007】
このような要望を解決するために、例えば、特許文献1では、基材と染料層との間にポリビニルピロリドン樹脂と変性ポリビニルピロリドン樹脂を含有する接着層を有する熱転写シートが提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に提案されている感熱転写記シートでは、昨今の昇華転写方式の高速プリンタにて印画を行うと、十分な印字濃度が得られなかったり、熱転写の際に異常転写が生じ、十分に満足できる品質の印画物を得ることができないという不都合を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−231354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、熱転写の印字速度の高速化、熱転写画像の高濃度化、高品質化の促進を図ったうえで、異常転写の発生の防止と共に、印画における転写感度の向上を図り得るようにした感熱転写記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係わる感熱転写記録媒体は、基材の一方の面に耐熱滑性層を設け、該基材の他方の面に下引き層、染料層を順次形成して、該下引き層を構成する樹脂の100℃における貯蔵弾性率G’を1.0E+08 N/m2以上に設定したであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項2に係わる感熱転写記録媒体は、前記下引き層を構成する樹脂の、溶解度パラメーター(SP値)を11.5以上に設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の感熱転写記録媒体は、下引き層を構成する樹脂の100℃における貯蔵弾性率G'が 1.0E+08 N/m2以上であり、溶解度パラメーター(SP値)が11.5以上にすることにより、高速印画時における転写感度が高く、また、異常転写が発生しない印画物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る感熱転写記録媒体を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態に係る感熱転写記録媒体を示すもので、基材10の一方の面には、サーマルヘッドとの滑り性を付与する耐熱滑性層40が積層される。そして、この基材10の他方の面に、下引き層20、染料層30が順に積層されて形成される。
【0017】
前記基材10としては、熱転写における熱圧で軟化変形しない耐熱性と強度が要求されるので、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、セロファン、アセテート、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、芳香族ポリアミド、アラミド、ポリスチレン等の合成樹脂のフィルム、およびコンデンサー紙、パラフィン紙などの紙類等を単独で又は組み合わされた複合体として使用可能である。中でも、物性面、加工性、コスト面などを考慮するとポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0018】
また、その厚さは、操作性、加工性を考慮し、2μm以上50μm以下の範囲のものが使用可能であるが、転写適性や加工性等のハンドリング性を考慮すると、2μm以上9μm以下程度のものが好ましい。
【0019】
また、基材10においては、耐熱滑性層40または/および下引き層20を形成する面に、接着処理を施すことも可能である。接着処理としては、コロナ処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、プラズマ処理、プライマー処理等の公知の技術を適用することができ、それらの処理を二種以上併用することもできる。本発明では、基材と下引き層との接着性を高めることが有効であり、コスト面からもプライマー処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることが好ましい。
【0020】
前記耐熱滑性層40は、従来公知のもので対応でき、例えば、バインダーとなる樹脂、離型性や滑り性を付与する機能性添加剤、充填剤、硬化剤、溶剤などを配合して耐熱滑性層形成用の塗布液を調製し、塗布、乾燥して形成することができる。この耐熱滑性層40の乾燥後の塗布量は、0.1g/m以上2.0g/m以下程度が適当である。ここで、耐熱滑性層40の乾燥後の塗布量とは、耐熱滑性層形成用の塗布液を塗布、乾燥した後に残った固形分量のことをいい、後述する下引き層20の乾燥後の塗布量および染料層30の乾燥後の塗布量も、同様に、塗布液を塗布、乾燥した後に残った固形分量のことを指す。
【0021】
耐熱滑性層40の一例を挙げると、バインダー樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリルポリオール、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ニトロセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。
【0022】
機能性添加剤としては、動物系ワックス、植物系ワックス等の天然ワックス、合成炭化水素系ワックス、脂肪族アルコールと酸系ワックス、脂肪酸エステルとグリセライト系ワックス、合成ケトン系ワックス、アミン及びアマイド系ワックス、塩素化炭化水素系ワックス、アルファーオレフィン系ワックス等の合成ワックス、ステアリン酸ブチル、オレイン酸エチル等の高級脂肪酸エステル、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸マグネシウム等の高級脂肪酸金属塩、長鎖アルキルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルリン酸エステル又は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステル等の界面活性剤等を挙げることができる。
【0023】
充填剤としては、タルク、シリカ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、シリコーン粒子、ポリエチレン樹脂粒子、ポリプロピレン樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリメチルメタクリレート樹脂粒子、ポリウレタン樹脂粒子等を挙げることができる。
【0024】
硬化剤としては、トリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等のイソシアネート類、およびその誘導体を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0025】
また、下引き層20は、100℃における貯蔵弾性率G'が 1.0E+08 N/m2以上であり溶解度パラメーター(SP値)が11.5以上である樹脂を主成分として含む塗布液を、塗布、乾燥して形成される。このような下引き層20を形成することによって異常転写が発生せず、かつ、染料層30に使用する染料を増やすことなく高濃度の印画が得られる。
【0026】
異常転写とは、熱転写時に基材10から染料層30が剥離し、染料層30と被転写体とか融着する現象である。著者らの検討で異常転写が発生しやすい温度はおよそ100℃であることがわかっている。そのため、100℃における貯蔵弾性率G'が 1.0E+08 N/m2未満であると染料層30と下引き層20との密着性が低下し異常転写が発生しやすくなる。一方、100℃における貯蔵弾性率G'の上限値は特に限定されず、本発明の100℃における貯蔵弾性率G'の範囲は、用いられる樹脂などによって取り得る範囲であって、染料層30と下引き層20との密着性が低下せず、異常転写が発生しない範囲であればよい。
【0027】
また、本発明では、下引き層20で用いられる樹脂単体が100℃における貯蔵弾性率G'が 1.0E+08 N/m2以上を満たさない場合でも、他の樹脂をブレンドしたり、公知の架橋剤や硬化剤を用いて、100℃における貯蔵弾性率G'が 1.0E+08 N/m2以上になれば下引き層20として用いることができる。
【0028】
ポリビニルアルコールを例にあげると、重合度1700、ケン化度100%のポリビニルアルコールでは100℃における貯蔵弾性率G'が 1.0E+08 N/m2以上となるが、重合度1700、ケン化度80%ポリビニルアルコールでは1.0E+08 N/m2以下となる。しかしこの時、重合度1700、ケン化度80%ポリビニルアルコールに架橋剤を添加すると100℃における貯蔵弾性率G'が 1.0E+08 N/m2以上となり本発明の条件を満たす。
【0029】
公知の架橋剤や硬化剤として、例えば、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、キレート化合物、メラミン、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物などを挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0030】
なお、下引き層20の動的粘弾性特性は、特定周波数、及び特定温度における、動的粘弾性スペクトルの損失正接、又は損失正接及び貯蔵弾性率により規定し、さらに、特定周波数における動的粘弾性スペクトルの損失正接のピークを示す温度、または損失正接のピーク値により規定する。本発明において動的粘弾性の測定は、周波数10Hz、20℃から200℃の温度範囲、昇温速度3℃/min 試験片は約0.1mmで行った。
【0031】
溶解度パラメーターは、親和性のパラメータとして知られている。溶解度パラメーターの差が小さい2つの成分は混ざりやすく、大きいほど混ざりにくく、相溶性を判断する目安とできる。
【0032】
本発明において下引き層20は、異常転写を発生させることなく転写感度を向上させるために設けられている。つまり基材側に染料を拡散させずに、被転写体により拡散させる機能を有している。よって下引き層20と染料とが相溶しない、すなわち、溶解度パラメーターに差があることが必要である。
【0033】
染料の溶解度パラメーターは、約9〜10程度であり、下引き層20の溶解度パラメーターが11.5以上であれば効果的に基材10への染料拡散を防ぐことができる。一方、溶解度パラメーターが約8以下においても同様の効果が考えられるが、染料層を形成する際に用いる主溶剤の溶解度パラメーターが8近辺であるので下引き層20、染料層30を順次積層させ形成させる際に染料層30に用いられる溶剤が下引き層を侵食し、層として形成することが困難であるため好ましくない。
【0034】
本発明における溶解度パラメーターは、溶解度パラメーターをδ、モル蒸発熱潜熱をΔH、モル体積Vとするとき、δ=((ΔH−RT)/V)1/2 により求められる。
【0035】
本発明の溶解度パラメーターは、溶媒−溶質間に作用する力を分子間力のみとモデル化し、液体分子を凝集させる相互作用が分子間力のみであると考え、液体の凝集エネルギーは蒸発エンタルビーと等価であるとし、Hildebrandらによって定義されたものである。溶剤の場合は、この式から溶解度パラメーター(δ)を実験的に求められるが、ポリマー
の場合は揮発しない為に、一般にSmallの式:δ=d/MΣG(d:密度、M:ポリマーの分子量、G:原子団・基に固有の定数) や Fedorsの式:δ=(ΣE/ΣV)1/2 (E:凝集エネルギー、V:モル分子容)で算出することができる。
【0036】
下引き層20に用いる溶解度パラメーターが11.5(cal/cm31/2 以上の樹脂の一例を挙げると、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルチオピロリドン、デンプン、ゼラチン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアミドなどがあるが溶解度パラメーターが11.5以上であれば特に限定されるものではない。転写濃度の観点からみると、ポリビニルピロリドン(溶解度パラメータ_12.8)よりもポリビニルアルコール(溶解度パラメータ_19.1)、の方がより好ましい。
【0037】
ポリビニルアルコールとしては、例えば、クラレポバールPVA−235(クラレ社製)、クラレポバールPVA−117(クラレ社製)クラレポバールPVA−124(クラレ社製)ゴーセノールKH−20(日本合成化学社製)、ゴーセノールN−300(日本合成化学社製)、等のポリビニルアルコール、アセトアセチル基を有し、反応性に富むアセトアセチル化ポリビニルアルコールであるゴーセファイマーZ−200、Z−320(日本合成化学社製)や、ポリビニルアルコールの一部のアルコール基をアセタール変性した水系ポリビニルアセタールエスレックKXシリーズ(積水化学社製)、エスレックKWシリーズ(積水化学社製)等が挙げられる。
【0038】
下引き層20の乾燥後の塗布量は、一概に限定されるものではないが、0.10g/m以上0.30g/m以下の範囲内であることが好ましい。0.10g/m未満では、染料層積層時の劣化により、高速印画時における転写感度が不足し、基材10あるいは染料層30との密着性に問題を抱える不安がある。一方、0.30g/m超では、感熱転写記録媒体自体の感度低下に影響し、高速印画時における転写感度が不足する不安がある。
【0039】
また、下引き層20あるいは下引き層形成塗布液には、前記性能を損なわない範囲で、分散剤、粘度調整剤、安定化剤等の公知の添加剤を使用することができる。
【0040】
次に、染料層30は、従来公知のもので対応でき、例えば、熱移行性染料、バインダー、溶剤などを配合して染料層形成用の塗布液を調製し、塗布、乾燥することで形成される。染料層30の乾燥後の塗布量は、1.0g/m程度が適当である。なお、染料層30は、1色の単一層で構成したり、色相の異なる染料を含む複数の染料層30を、同一基材の同一面に面順次に、繰り返し形成したりすることもできる。
【0041】
前記染料層30の熱移行性染料は、熱により、溶融、拡散もしくは昇華移行する染料であれば、特に限定されるわけではなく、例えば、イエロー成分としては、ソルベントイエロー56,16,30,93,33、ディスパースイエロー201,231,33等を挙げることができる。マゼンタ成分としては、C.I.ディスパースレッド60、C.I.ディスパースバイオレット26、C.I.ソルベントレッド27、あるいはC.I.ソルベントレッド19等を挙げることができる。シアン成分としては、C.I.ディスパースブルー354、C.I.ソルベントブルー63、C.I.ソルベントブルー36、あるいはC.I.ディスパースブルー24等を挙げることができる。墨の染料としては、前記の各染料を組み合わせて調色するのが一般的である。
【0042】
染料層30に含まれるバインダーは、従来公知の樹脂バインダーがいずれも使用でき、特に限定されるものではないが、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂やポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂やポリエステル樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、フェノキシ樹脂等を挙げることができる。
【0043】
ここで、染料層30の染料とバインダーとの配合比率は、質量基準で、(染料)/(バインダー)=10/100〜300/100が好ましい。これは、(染料)/(バインダー)の比率が、10/100を下回ると、染料が少な過ぎて発色感度が不十分となり良好な熱転写画像が得られず、また、この比率が300/100を越えると、バインダーに対する染料の溶解性が極端に低下するために、感熱転写記録媒体となった際に、保存安定性が悪くなって、染料が析出し易くなってしまうためである。また、染料層30には、性能を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、分散剤、粘度調整剤、安定化剤等の公知の添加剤が含まれていてもよい。
【0044】
なお、耐熱滑性層40、下引き層20、染料層30は、いずれも従来公知の塗布方法にて塗布し、乾燥することで形成可能である。塗布方法の一例を挙げると、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法、スプレーコーティング法、リバースロールコート法を挙げることができる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明による実施例1〜5および比較例1,2をそれぞれ作製して比較検討する。なお、文中において「部」とあるのは、特に断りのない限り質量基準であり、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0046】
<耐熱滑性層付き基材の作製>
基材として、4.5μmの片面易接着処理付きポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、その非易接着処理面に、下記組成の耐熱滑性層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が1.0g/mになるように塗布し、100℃1分乾燥した後に、40℃環境下で1週間エージングすることで、耐熱滑性層付き基材を得た。
【0047】
<耐熱滑性層塗布液>
アクリルポリオール樹脂 12.5部
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・リン酸エステル 2.5部
タルク 6.0部
2,6−トリレンジイソシアネートプレポリマー 4.0部
トルエン 50.0部
メチルエチルケトン 20.0部
酢酸エチル 5.0部
(実施例1)
耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下記組成の下引き層塗布液−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.20g/mになるように塗布し、100℃2分乾燥することで、下引き層20を形成した。引き続き、その下引き層20の上に、下記組成の染料層塗布液−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.70g/mになるように塗布し、90℃1分乾燥することで、染料層30を形成し、実施例1の感熱転写記録媒体を得た。
【0048】
<下引き層塗布液−1>
ポリビニルアルコール 2.50部
(ケン化度100%重合度1700 溶解度パラメータ_19.1)
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
<染料層塗布液>
C.I.ソルベントブルー63 6.0部
ポリビニルアセタール樹脂 4.0部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
(実施例2)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層20を下記組成の下引き層塗布液−2にした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の感熱記録転写媒体を得た。
【0049】
<下引き層塗布液−2>
ポリビニルアルコール 2.50部
(ケン化度95%重合度1700 溶解度パラメータ_19)
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(実施例3)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層20を下記組成の下引き層塗布液−3にした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の感熱記録転写媒体を得た。
【0050】
<下引き層塗布液−3>
ポリビニルピロリドン(K値60) 2.50部
溶解度パラメータ_12.8
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(実施例4)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層20を下記組成の下引き層塗布液−4にした以外は、実施例1と同様にして、実施例4の感熱記録転写媒体を得た。
【0051】
<下引き層塗布液−4>
ポリビニルアルコール 2.50部
(ケン化度80%重合度1700 溶解度パラメータ_16.5)
アルミキレート 0.4部
純水 56.6部
イソプロピルアルコール 38.0部
(実施例5)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層20を下記組成の下引き層塗布液−5にした以外は、実施例1と同様にして、実施例4の感熱記録転写媒体を得た。
【0052】
<下引き層塗布液−4>
メトキシメチル化ナイロン 2.50部
(メトキシメチル化率 約30% 溶解度パラメータ_10.7)
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例1)
耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下引き層を形成することなく、易接着処理面の上に、実施例1と同様の染料層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.7g/mになるように塗布、乾燥することで、染料層30を形成し、比較例1の感熱転写記録媒体を得た。
【0053】
なお易接着面は、ポリエステル系であり溶解度パラメータは10.5程度である。
【0054】
(比較例2)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層塗布液−5にした以外は、実施例1と同様にして、比較例2の感熱記録転写媒体を得た。
【0055】
<下引き層塗布液−5>
ポリビニルアルコール 2.50部
(ケン化度80%重合度1700 溶解度パラメータ_16.5)
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
<被転写体の作製>
基材10として、188μmの白色発泡ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、その一方の面に下記組成の受像層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が5.0g/mになるように塗布、乾燥することで、感熱転写用の被転写体を作製した。
【0056】
<受像層塗布液>
塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体 19.5部
アミノ変性シリコーンオイル 0.5部
トルエン 40.0部
メチルエチルケトン 40.0部
<印画評価>
実施例1〜4、比較例1〜2の感熱転写記録媒体を使用し、サーマルシミュレーターにてベタ印画を行い、最高反射濃度を評価した結果を、表1示す。なお最高反射濃度は、テカリの確認されない印画部を、X−Rite528にて測定した値である。
【0057】
なお、印画条件は以下の通りである。
【0058】
印画環境:23℃50%RH
印加電圧:29V
ライン周期:0.7msec
印画密度:主走査300dpi 副走査300dpi
<異常転写評価>
異常転写の評価は、以下の基準にて行った。
【0059】
○:被転写体への異常転写が、認められない
△:被転写体への異常転写が、ごく僅かに認められる
×:被転写体への異常転写が、全面で認められる
<動的粘弾性の測定>
粘弾性スペクトロメータ(EXSTAR DMS6100)を用い、下記条件で評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
周波数:10Hz
温度範囲:20℃から200℃
昇温速度:3℃/min
試験片:約0.1mm
【表1】

【0061】
表1に示す結果から、下引き層20に含まれる樹脂の溶解度パラメータが11.5以上である実施例1〜4、比較例2の感熱転写記録媒体は、溶解度パラメータが10.5である比較例1の感熱転写記録媒体と比較して、明らかに高速印画時における転写感度が高いことがわかった。また、実施例3、5と比べ溶解度パラメータが高い実施例1,2および比較例2の方がより転写感度が高いことがわかり、ポリビニルピロリドンよりもポリビニルアルコールの方が好ましいことがわかる。
【0062】
貯蔵弾性率が1.0E+08 N/m2以上である実施例1〜3、5では、異常転写みられず、1.0E+08 N/m2以下である比較例2では異常転写が発生した。本条件では明確な差は確認できないが貯蔵弾性率の高いナイロン、ポリビニルピロリドンの方がポリビニルアルコールよりも異常転写に関しては好ましいことが考えられる。
【0063】
さらに比較例2のポリビニルアルコールにアルミキレート剤で架橋させ貯蔵弾性率が、1.0E+08 N/m2以上となった実施例4でも異常転写が発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明により得られる感熱転写記録媒体は、昇華転写方式のプリンタに使用することができ、プリンタの高速・高機能化と併せて、各種画像を簡便にフルカラー形成できるため、デジタルカメラのセルフプリント、身分証明書などのカード類、アミューズメント用出力物等に広く利用できる。
【符号の説明】
【0065】
10…基材
20…下引き層
30…染料層
40…耐熱滑性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に耐熱滑性層を設け、該基材の他方の面に下引き層、染料層を順に積層して形成した感熱転写記録媒体において、
前記下引き層を構成する樹脂の100℃における貯蔵弾性率G'が 1.0E+08 N/m2以上であることを特徴とする感熱転写記録媒体。
【請求項2】
前記下引き層を構成する樹脂の、溶解度パラメーター(SP値)が11.5以上であることを特徴とする請求項1に記載の感熱転写記録媒体。

【図1】
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