説明

成形材料、成形体、電子機器用筺体、及び成形体の製造方法

【課題】熱変形温度が高く、弾性率等の物性が良好であり、さらに成形時に着色を生じにくい成形材料を提供すること。
【解決手段】(1)熱可塑性セルロース誘導体と、(2)純度が少なくとも90%以上であって化学修飾された結晶性セルロースと、を含む組成物からなる成形材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料、成形体、電子機器用筺体、及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コピー機、プリンター等の電子機器を構成する部材には、その部材に求められる特性、機能等を考慮して、各種の素材が使用されている。例えば、電子機器の駆動機等を収納し、当該駆動機を保護する役割を果たす部材(筺体)にはPC(Polycarbonate)、ABS(Acrylonitrile−butadiene−styrene)樹脂、PC/ABS等が一般的に多量に使用されている(特許文献1)。これらの樹脂は、石油を原料として得られる化合物を反応させて製造されている。
【0003】
ところで、石油、石炭、天然ガス等の化石資源は、長年月の間、地中に固定されてきた炭素を主成分とするものである。このような化石資源、または化石資源を原料とする製品を燃焼させて、二酸化炭素が大気中に放出された場合には、本来、大気中に存在せずに地中深くに固定されていた炭素を二酸化炭素として急激に放出することになり、大気中の二酸化炭素が大きく増加し、地球温暖化の原因のひとつと考えられている。したがって、化石資源である石油を原料とするABS、PC等のポリマーは、電子機器用部材の素材としては、優れた特性を有するものであるものの、化石資源である石油を原料とするものであるため、地球温暖化の防止の観点からは、その使用量の低減が望ましい。
【0004】
一方、植物由来の樹脂は、元々、植物が大気中の二酸化炭素と水とを原料として光合成反応によって生成したものである。そのため、植物由来の樹脂を焼却して二酸化炭素が発生しても、その二酸化炭素は元々、大気中にあった二酸化炭素に相当するものであるから、大気中の二酸化炭素の収支はプラスマイナスゼロとなり、結局、大気中のCO2の総量を増加させない、という考え方がある。このような考えから、植物由来の樹脂は、いわゆる「カーボンニュートラル」な材料と称されている。石油由来の樹脂に代わって、カーボンニュートラルな材料を用いることは、近年の地球温暖化を防止する上で急務となっている。
【0005】
このため、PCポリマーにおいて、石油由来の原料の一部としてデンプン等の植物由来資源を使用することにより石油由来資源を低減する方法が提案されている(特許文献2)。しかし、より完全なカーボンニュートラルな材料を目指す観点から、さらなる改良が求められている。
【0006】
特許文献3および4には、連続相(マトリクス)にセルロース誘導体を用い、天然繊維で強化した成形部品が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭56−55425号公報
【特許文献2】特開2008−24919号公報
【特許文献3】特許3336493号公報
【特許文献4】特表平9−500923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3及び4では強度は向上するものの、成形等の段階で加熱する際にセルロース樹脂に着色(特に濃い茶色)が進行する。その結果、成形品が着色されるという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、熱変形温度が高く、弾性率等の物性が良好であり、さらに成形時に着色を生じにくい成形材料、該成形材料を用いた成形体、電子機器用筺体、及び成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討の結果、以下の手段により上記課題を解決した。
1. (1)熱可塑性セルロース誘導体と、(2)純度が少なくとも90%以上であって化学修飾された結晶性セルロースと、を含む組成物からなる成形材料。
2. 前記結晶性セルロースが、エステル基、カーボネート基、エーテル基およびカルバメート基からなる群から選択される少なくとも1種の有機基によって化学修飾されている、前記1に記載の成形材料。
3. 前記結晶性セルロースが、脂肪族エステル基によって化学修飾されている、前記2に記載の成形材料。
4. 前記結晶性セルロースの平均短軸長が200μm以下である、前記1〜3のいずれかに記載の成形材料。
5. 前記結晶性セルロースの結晶化度が30%〜90%である、前記1〜4のいずれかに記載の成形材料。
6. 前記結晶性セルロースの平均長軸長が0.3mm〜10mmである、前記1〜5のいずれかに記載の成形材料。
7. 前記1〜6のいずれかに記載の成形材料を成形して得られる成形体。
8. 前記7に記載の成形体から構成される電子機器用筺体。
9. セルロースを含有する成形体の製造方法であって、少なくとも、(1)熱可塑性セルロース誘導体と、(2)純度が少なくとも90%以上であって化学修飾された結晶性セルロースと、を混合することにより組成物を得る第一工程、及び該組成物を加熱成形する第二工程、を備えた、成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱変形温度が高く、弾性率等の物性が良好であり、成形時に着色を生じにくい成形材料を提供することができる。また、本発明の成形材料によって形成された成形体は、上記の優れた物性を有するため、例えば、電子機器用筺体として好適に使用することができる。また、植物由来の樹脂であるため、温暖化防止に貢献できる素材として、従来の石油由来の樹脂に代替できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
(熱可塑性セルロース誘導体)
本発明で用いられるセルロース誘導体は、熱可塑性を示すものであればとくに制限されない。例えば、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースフタレート等のセルロースエステル;エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロースエーテル;などを挙げることができる。
【0013】
本発明のセルロース誘導体として、セルロース((C10)に含まれる水酸基の水素原子の少なくとも一部が、炭素数1〜7の炭化水素基及び炭素数2〜11の脂肪族アシル基に置換されているセルロース誘導体、すなわち下記一般式(1)で表される重合単位を有するものも使用することができる。
【0014】
【化1】

【0015】
上記式において、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜7の炭化水素基、又は炭素数2〜11の脂肪族アシル基を表す。但し、R、R、及びRの少なくともいずれかが、炭素数1〜7の炭化水素基又は炭素数2〜11の脂肪族アシル基である。
【0016】
一般式(1)で表される重合単位を有するセルロース誘導体は、β−グルコース環の水酸基の少なくとも一部が特定炭素数の炭化水素基によってエーテル化及びエステル化されていることにより、熱可塑性を発現することができ、成形加工に適したものである。また、上記セルロース誘導体は、成形体としても高い熱変形温度を発現することができる。さらには、セルロースは完全な植物由来成分であるため、カーボンニュートラルであり、環境に対する負荷を大幅に低減することができる。
【0017】
なお、本発明にいう「セルロース」とは、多数のグルコースがβ−1,4−グリコシド結合によって重合した高分子化合物であって、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基が無置換であるものを意味する。
また、「セルロースに含まれる水酸基」とは、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基を指す。
【0018】
一般式(1)で表される重合単位を有するセルロース誘導体はその全体のいずれかの部分に前記特定炭素数の炭化水素基及び脂肪族アシル基を含んでいればよく、同一の重合単位からなるものであってもよいし、複数の種類の重合単位からなるものであってもよい。また、ひとつの重合単位において前記炭化水素基及び脂肪族アルキル基の両方を含有する必要はない。
例えば、(1)R、R及びRの一部が炭化水素基で置換されている単量体と、R、R及びRの一部が脂肪族アシル基で置換されている単量体とから構成される重合体であってよいし、(2)ひとつの重合単位のR、R及びRに炭化水素基及び脂肪族アシル基の両方が置換されている単一の単量体から構成される重合体であってもよい。さらには、(3)一般式(1)で表される重合単位であって異なる種類の重合単位が、ランダムに重合されている重合体であってもよい。
なお、重合体の一部には、無置換の重合単位(すなわち、前記一般式(1)において、R、R及びRすべてが水素原子である重合単位)を含んでいてもよい。
【0019】
炭素数が1〜7の炭化水素基は、脂肪族基及び芳香族基のいずれでもよい。脂肪族基である場合は、直鎖、分岐及び環状のいずれでもよく、不飽和結合を持っていてもよい。好ましくは炭素数1〜4の脂肪族基である。
具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。好ましくはメチル基又はエチル基であり、より好ましくはメチル基である。これらは1種単独のものでもよいし、2種以上が組み合わされたものでもよい。
【0020】
炭素数が2〜11の脂肪族アシル基は、好ましくは炭素数が4〜9、さらに好ましくは炭素数が7〜9である。
具体的には、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、2−メチルブタノイル基、3−メチルブタノイル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、2−メチルペンタノイル基、3−メチルペンタノイル基、4−メチルペンタノイル基、2,2−ジメチルブタノイル基、2,3−ジメチルブタノイル基、3,3−ジメチルブタノイル基、2−エチルブタノイル基、ヘプタノイル基、2−メチルヘキサノイル基、3−メチルヘキサノイル基、4−メチルヘキサノイル基、5−メチルヘキサノイル基、2,2−ジメチルペンタノイル基、2,3−ジメチルペンタノイル基、3,3−ジメチルペンタノイル基、2−エチルペンタノイル基、シクロヘキサノイル基、オクタノイル基、2−メチルヘプタノイル基、3−メチルヘプタノイル基、4−メチルヘプタノイル基、5−メチルヘプタノイル基、6−メチルヘプタノイル基、2,2−ジメチルヘキサノイル基、2,3−ジメチルヘキサノイル基、3,3−ジメチルヘキサノイル基、2−エチルヘキサノイル基、2−プロピルペンタノイル基、ノナノイル基、2−メチルオクタノイル基、3−メチルオクタノイル基、4−メチルオクタノイル基、5−メチルオクタノイル基、6−メチルオクタノイル基、2,2−ジメチルヘプタノイル基、2,3−ジメチルヘプタノイル基、3,3−ジメチルヘプタノイル基、2−エチルヘプタノイル基、2−プロピルヘキサノイル基、2−ブチルペンタノイル基、デカノイル基、2−メチルノナノイル基、3−メチルノナノイル基、4−メチルノナノイル基、5−メチルノナノイル基、6−メチルノナノイル基、7−メチルノナノイル基、2,2−ジメチルオクタノイル基、2,3−ジメチルオクタノイル基、3,3−ジメチルオクタノイル基、2−エチルオクタノイル基、2−プロピルヘプタノイル基、2−ブチルヘキサノイル基等が挙げられる。これらは1種単独のものでもよいし、2種以上が組み合わされたものでもよい。
【0021】
炭素数が2〜11の脂肪族アシル基の脂肪族部位は、直鎖構造、分岐構造及び環状構造のいずれであってもよいが、分岐構造を有することが好ましく、特に、カルボニル基のα位に分岐構造を有する脂肪族部位がより好ましい。これにより、耐衝撃性等の強度を向上させることができる。
分岐の脂肪族部位を有する脂肪族アシル基としては、2−プロピルペンタノイル基、2−エチルヘキサノイル基、2−メチルヘプタノイル基等が特に好ましい。
【0022】
脂肪族アシル基は、さらなる置換基を有していてもよい。さらなる置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基等が挙げられる。
【0023】
セルロース誘導体中の炭化水素基及び脂肪族アシル基の置換位置、並びにβ−グルコース環単位当たりの前記炭化水素基及び脂肪族アシル基の数(置換度)は特に限定されない。
例えば、炭化水素基の置換度DS(重合単位中、β−グルコース環の2位、3位及び6位の水酸基に対する炭化水素基の数)は、通常1.0程度以上、好ましくは1.5〜2.5程度とすればよい。
脂肪族アシル基の置換度DS(重合単位中、β−グルコース環のセルロース構造の2位、3位及び6位の水酸基に対する脂肪族アシル基の数)は通常0.1程度以上、好ましくは0.3〜1.5程度とすればよい。このような範囲の置換基とすることにより、耐熱性、脆性等を向上させることができる。
【0024】
また、本発明のセルロース誘導体中に存在する無置換の水酸基の数も特に限定されない。
水素原子の置換度DS(重合単位中、2位、3位及び6位の水酸基が無置換である割合)は通常0.01〜1.5程度、好ましくは0.2〜1.2程度とすればよい。DSを0.01以上とすることにより、成形材料の流動性を向上させることができる。また、DSを1.5以下とすることにより、成形材料の流動性を向上させたり、熱分解の加速・成形時の成形材料の吸水による発泡等を抑制させたりできる。
なお、各置換度の総和(DS+DS+DS)は3である。
【0025】
本発明のセルロース誘導体の分子量は、数平均分子量(Mn)が5000〜1000000の範囲が好ましく、10000〜500000の範囲がさらに好ましく、100000〜200000の範囲が最も好ましい。また、質量平均分子量(Mw)は、7000〜5000000の範囲が好ましく、15000〜2500000の範囲がさらに好ましく、300000〜1500000の範囲が最も好ましい。分子量分布(MWD)は1.1〜5.0の範囲が好ましく、1.5〜3.5の範囲がさらに好ましい。この範囲の平均分子量とすることにより、成形体の成形性、力学強度等を向上させることができる。また、この範囲異の分子量分布とすることにより、成形性等を向上させることができる。
本発明における、数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)及び分子量分布(MWD)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行うことができる。具体的には、テトラヒドロフランを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めることができる。
【0026】
本発明のセルロース誘導体の製造方法は特に限定されない。例えば一般式(1)で表される重合単位を有するセルロース誘導体は、セルロースを原料とし、セルロースをエーテル化及びエステル化することにより得られる。セルロースの原料としては限定的でなく、例えば、綿、リンター、パルプ等が挙げられる。
具体的な製造条件等は、例えば、「セルロースの事典」131頁〜164頁(朝倉書店、2000年)等に記載の方法を参考にすることができる。
【0027】
(結晶性セルロース)
本発明に用いられる結晶性セルロースは、その純度が少なくとも90%以上であって、かつ化学修飾されていることを特徴とする。本発明は、このような高純度と化学修飾とを組み合わせた結晶性セルロースを、マトリックス樹脂であるセルロース誘導体に含有させることにより、加熱成形等の際の成形体の着色を抑制しつつ、かつ、成形体の熱変形温度を高くし、かつ弾性率等の物性をも向上させることができる。
【0028】
本発明の結晶性セルロースの純度は90%以上であり、好ましくは95〜100%である。なお、本発明において、純度はJIS P8101により、測定するものである。
本発明の結晶性セルロースは、エステル基、カーボネート基、エーテル基およびカルバメート基等からなる群から選択される少なくとも1種の有機基によって化学修飾されていることが好ましい。これらの置換度は特に制限はないが、例えば0.3〜1.0程度とすればよい。
【0029】
エステル基として以下に例示する構造が挙げられる。「*」はセルロースのグルコース環の2位、3位又は6位の炭素原子と結合する部位である。
【0030】

【化2】

【0031】
カーボネート基として以下に例示する構造が挙げられる。
【0032】
【化3】

【0033】
エーテル基として以下に例示する構造が挙げられる。
【0034】
【化4】

【0035】
カルバメート基として以下に例示する構造が挙げられる。
【0036】
【化5】

【0037】
本発明では前記有機基のうち、エステル基(カルボニルオキシ基)によって修飾されていることが好ましく、より好ましくは脂肪族エステル基である。なかでも、炭素数2〜8の脂肪族エステル基、特に炭素数3の脂肪族エステル基(プロピオニルオキシ基)が好ましい。
【0038】
結晶性セルロースは、結晶化度が30%〜90%であることが好ましく、50〜90%であることがより好ましい。この範囲とすることにより、マトリクス樹脂である熱可塑性セルロースの補強効果をより好適に発現できる。本発明における結晶化度は、繊維学会誌 46巻 324頁 1990年に記載の方法により測定された値である。
【0039】
結晶性セルロースの短軸長は特に制限はないが、平均短軸長が200μm以下であることが好ましい。平均短軸長が200μm以下であることにより、成形体の表面の凹凸が小さくなり、外観、感触等が良好であり好ましい。さらに好ましい平均短軸長は10μm〜100μmである。なお本発明において平均短軸長は、光学顕微鏡により測定することができる。
結晶性セルロースの長軸長も特に制限はないが、平均長軸長が0.3mm〜10mmとすることが好ましい。平均長軸長が0.3mm以上であることにより、マトリクス樹脂である熱可塑性セルロースの補強効果がより好適に発現するため好ましい。さらに好ましい平均長軸長は、0.5mm〜8mmであり、特に好ましい平均長軸長は1.0mm〜5mmである。なお平均短軸長および平均長軸長は、光学顕微鏡による観察により、各サンプルの短軸長と長軸長を測定し、50サンプルの平均値を算出することで得ることができる。
各軸長の好ましい分布は、平均値のプラスマイナス15%の範囲の長さをもつものが、全体の50%以上であることが好ましい。
【0040】
本発明の成形材料は、熱可塑性セルロース誘導体と結晶性セルロースとを含む組成物からなる。
結晶性セルロースは、熱可塑性セルロース誘導体100質量部に対し、5〜150質量部配合されるのが好ましく、10〜100質量部配合されるのがより好ましく、10〜50質量部配合されるのがさらに好ましい。
【0041】
本発明の成形材料は、必要に応じて種々の添加剤を含有していてもよい。
【0042】
本発明の成形材料は、フィラー(強化材)を含有してもよい。フィラーを含有することにより、成形材料によって形成される成形体の機械的特性を強化することができる。
【0043】
フィラーとしては、公知のものを使用できる。フィラーの形状は、繊維状、板状、粒状、粉末状等いずれでもよい。
【0044】
成形材料がフィラーを含有する場合、その含有量は特に制限はないが、セルロース誘導体100質量部に対して、通常30質量部程度以下、好ましくは5〜10質量部程度とすればよい。
【0045】
本発明の成形材料は、難燃剤を含有してもよい。これによって、その燃焼速度の低下または抑制といった難燃効果を向上させることができる。
難燃剤は、特に限定されず、常用のものを用いることができる。例えば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤、窒素化合物系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。これらの中でも、樹脂との複合時や成形加工時に熱分解してハロゲン化水素が発生して加工機械や金型を腐食させたり、作業環境を悪化させたりすることがなく、また、焼却廃棄時にハロゲンが気散したり、分解してダイオキシン類等の有害物質の発生等によって環境に悪影響を与える可能性が少ないことから、リン含有難燃剤およびケイ素含有難燃剤が好ましい。
【0046】
リン含有難燃剤としては、特に限定されることはなく、常用のものを用いることができる。例えば、リン酸エステル、リン酸縮合エステル、ポリリン酸塩などの有機リン系化合物が挙げられる。
【0047】
本発明の成形材料が難燃剤を含有する場合、その含有量は限定的でないが、セルロース誘導体100質量部に対して、通常30質量部程度以下、好ましくは2〜10質量部程度とすればよい。この範囲とすることにより、耐衝撃性・脆性等を改良させたり、ペレットブロッキングの発生を抑制できる。
【0048】
本発明の成形材料は、前記の熱可塑性セルロース誘導体、結晶性セルロース、フィラー及び難燃剤以外にも、本発明の目的を阻害しない範囲で、成形性・難燃性等の各種特性をより一層改善する目的で他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、前記セルロース誘導体および結晶性セルロース以外のポリマー、可塑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、離型剤(脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、変成シリコーン)等が挙げられる。さらに、染料や顔料を含む着色剤などを添加することもできる。
【0049】
前記セルロース誘導体および結晶性セルロース以外のポリマーとしては、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマーのいずれも用い得るが、成形性の点から熱可塑性ポリマーが好ましい。セルロース誘導体以外のポリマーの具体例としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリウレタン、芳香族および脂肪族ポリケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、熱可塑性澱粉樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、ACS樹脂、AAS樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタン、MS樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリエーテルイミド、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂などを挙げることができる。また、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、各種アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体およびそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、酸変性エチレン−プロピレン共重合体、ジエンゴム(例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン)、ジエンとビニル単量体との共重合体(例えば、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリブタジエンにスチレンをグラフト共重合させたもの、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体)、ポリイソブチレン、イソブチレンとブタジエンまたはイソプレンとの共重合体、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、ポリウレタンゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴム等が挙げられる。
【0050】
これらのポリマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0051】
本発明の成形材料が熱可塑性セルロース誘導体および結晶性セルロース以外のポリマーを含有する場合、その含有量は、セルロース誘導体100質量部に対して30質量部程度以下が好ましく、2〜10質量部程度がより好ましい。
【0052】
本発明の成形材料は、可塑剤を含有してもよい。これにより、難燃性及び成形性をより一層向上させることができる。可塑剤としては、ポリマーの成形に常用されるものを用いることができる。例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤およびエポキシ系可塑剤等が挙げられる。
【0053】
本発明の成形材料が可塑剤を含有する場合、その含有量は、セルロース誘導体100質量部に対して1〜30質量部程度が好ましく、より好ましくは5〜20質量部程度である。
【0054】
酸化防止剤として、フェノール系ラジカル補足剤、アミン系ラジカル補足剤を用いることができるが、着色の観点からフェノール系が好ましい。
本発明の成形材料が酸化防止剤を含有する場合、その含有量は、セルロース誘導体100質量部に対して0.01〜5質量部程度が好ましく、より好ましくは0.05〜1質量部程度である。
【0055】
(成形体)
本発明の成形体は、本発明の成形材料を成形することにより得られる。より具体的には、本発明の成形材料を加熱等により溶融し、各種の成形方法により成形することによって得られる。
成形方法としては、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、プレス成形等が挙げられる。
加熱温度は、通常160〜270℃程度であり、好ましくは180〜250℃程度である。
【0056】
本発明の成形材料は、弾性率等の物性に優れ、成形時に着色を生じにくいという性質を有する。したがって、本発明の成形体は、例えば、コピー機、プリンター、パソコン、テレビ等の電子機器用の筺体として好適に使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0058】
[調製例1]
(針状セルロース結晶の調製)
微結晶セルロース(旭化成ケミカルズ製、セオラスPH−102、平均粒径80μm、セルロース純度99%)を蒸留水に2質量%で分散させた。これを、高圧ホモジナイザー((株)スギノマシン製、スターバーストラボ、HJP−25005)にて、200MPaで30回対向衝突処理することで、針状セルロース結晶分散液を得た。微細化された粒子は平均短軸長20nm、平均長軸長500nmであった。分散液を凍結乾燥することで、針状セルロース結晶の粉体(C−1)を得た。
【0059】
[調製例2]
5Lの三口フラスコに微結晶セルロース(旭化成ケミカルズ製、セオラスPH−102、平均粒径80μm、セルロース純度99%)50g、脱水N,N−ジメチルアセトアミド2500mLを加え80℃に加熱した。ジメチルアミノピリジン100mgを加え、無水プロピオン酸を148mL加えた。7時間反応後、30℃まで冷却した後、メタノールを200mL添加した。反応液をろ過し、ろ別した結晶をメタノールで洗浄、ろ過、真空乾燥させることで、プロピオニル化した微結晶セルロース(C−2)を得た。
【0060】
[調製例3]
調製例2と同様の方法にて、(C−1)およびラミー繊維(東洋紡製、平均長さ5mm、セルロース純度95%)、ケナフ繊維(ユニパアクス製、平均長さ5mm、セルロース純度82%)をそれぞれプロピオニル化することにより、プロピオニルオキシ基を修飾した。これにより、プロピオニル化した針状セルロース結晶(C−3)、プロピオニル化したラミー繊維(C−4)プロピオニル化したケナフ繊維(C−5)を得た。
なお、(C−1)の結晶化度は70%、未修飾微結晶セルロース(セオラスPH102)の結晶化度は75%、(C−2)の結晶化度は72%、(C−3)の結晶化度は70%、未修飾ラミー繊維の結晶化度は78%、(C−4)の結晶化度は75%、未修飾ケナフ繊維の結晶化度は45%、(C−5)の結晶化度は40%であった。
なお、プロピオニル化による修飾前後でのセルロース純度は変化しない。
【0061】
[調製例4]
アセトン700gに(C−2)20gを分散させ、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル製、CAP482−20、以下、CAPという)80gおよびイルガノックス1010(チバスペシャリティケミカルズ製)0.5gを加え、室温にて攪拌することでCAPを溶解させた。この溶液を水/メタノール1/1(体積比)混合溶液へ投入し、ろ過、真空乾燥することで、CAPと(C−2)の80/20(質量比)混合物(M−1)を得た。
【0062】
[調製例5]
調整例4と同様の方法にて、下記表1に示す配合割合により、(C−3)、(C−4)、未修飾の微結晶セルロース(旭化成ケミカルズ製、セオラスPH−102、平均粒径80μm、セルロース純度99%)、(C−1)、未修飾のラミー繊維(東洋紡製、平均長さ5mm、セルロース純度95%)、未修飾のケナフ繊維(ユニパアクス製、平均長さ5mm、セルロース純度82%)、(C−5)の各々とCAPとの混合物を調製した(M−2〜M−3、H−2〜H−6)。また、CAPとイルガノックス1010のみの混合物(H−1)を調製した。
【0063】
【表1】

【0064】
(試験片の作製)
上記で得られたM−1、M−2、M−3、H−1〜H−6を射出成形機((株)井元製作所製、半自動射出成形機)に供給してシリンダー温度220〜250℃、金型温度30℃、射出圧力1.5kgf/cmにて4×10×80mmの多目的試験片を成形した。
【0065】
(試験片の物性測定)
得られた試験片について、目視にて着色を観察し、下記の方法にしたがって熱変形温度(HDT)及び曲げ弾性率を測定した。
【0066】
[熱変形温度(HDT)]
ISO75に準拠して、試験片の中央に一定の曲げ荷重(1.8MPa)を加え(フラットワイズ方向)、等速度で昇温させ、中央部のひずみが0.34mmに達したときの温度を測定した。
【0067】
[曲げ弾性率]
ISO178に準拠して、島津製作所製オートグラフを用いて、曲げ弾性率を測定した。
結果を表2にまとめた。
【0068】
【表2】

【0069】
本発明の成形材料は、熱可塑性セルロース誘導体と、高純度であり且つ化学修飾されている結晶性セルロースと、を含む組成物からなることを特徴としているので、成形体の茶変色を抑制し、かつ、弾性率および熱変形温度を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)熱可塑性セルロース誘導体と、(2)純度が少なくとも90%以上であって化学修飾された結晶性セルロースと、を含む組成物からなる成形材料。
【請求項2】
前記結晶性セルロースが、エステル基、カーボネート基、エーテル基およびカルバメート基からなる群から選択される少なくとも1種の有機基によって化学修飾されている、請求項1に記載の成形材料。
【請求項3】
前記結晶性セルロースが、脂肪族エステル基によって化学修飾されている、請求項2に記載の成形材料。
【請求項4】
前記結晶性セルロースの平均短軸長が200μm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の成形材料。
【請求項5】
前記結晶性セルロースの結晶化度が30%〜90%である、請求項1〜4のいずれかに記載の成形材料。
【請求項6】
前記結晶性セルロースの平均長軸長が0.3mm〜10mmである、請求項1〜5のいずれかに記載の成形材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の成形材料を成形して得られる成形体。
【請求項8】
請求項7に記載の成形体から構成される電子機器用筺体。
【請求項9】
セルロースを含有する成形体の製造方法であって、少なくとも、(1)熱可塑性セルロース誘導体と、(2)純度が少なくとも90%以上であって化学修飾された結晶性セルロースと、を混合することにより組成物を得る第一工程、及び該組成物を加熱成形する第二工程、を備えた、成形体の製造方法。