説明

成形材料及びその成形体

【課題】溶融成形時において良好な成形性を示す成形材料、及びこの成形材料を溶融成形してなる成形体であって、その厚肉品を所望の形状に切削加工する際、加工による割れや欠けが少なく、良好な耐衝撃性を示す成形体を提供すること。
【解決手段】(A)芳香族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、エチレングリコール単位を主成分とするジオール単位を有するポリエステル系樹脂成分90〜99質量%と、(B)数平均分子量が700〜4000のポリアルキレングリコール成分10〜1質量%を含有し、固有粘度が0.7dl/g以上であるポリエステル系樹脂組成物を含む成形材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料及びその成形体に関し、詳しくは、溶融成形時において良好な成形性を示すポリエステル系樹脂組成物を含有する成形材料、及びこの成形材料を溶融成形してなる成形体であって、その厚肉品を所望の形状に切削加工する際、加工による割れや欠けが少なく、良好な耐衝撃性を示す成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック製の肉厚成形体を各種所望の形状に切削加工することが、各種分野で行われている。このような切削加工用のプラスチック製成形体として、ポリオキシメチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等を含む樹脂組成物を成形してなる、棒状成形体や板状の厚肉成形体が生産されている。
上記樹脂組成物の中でも、衛生性や酸性溶剤に対する耐性が良好であり、吸湿や熱による寸法変化が少なく、電気絶縁性が高く、常温時に優れた強度を示すなどの特性を有することから、ポリエチレンテレフタレート系樹脂組成物が、医薬、食品、電気、自動車塗装等の分野で幅広く使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリエチレンテレフタレート系樹脂組成物を成形してなる成形体は、他の樹脂組成物を成形してなる成形体と比較して、衝撃強度が低く、柔軟性に劣るため、この成形体を、フライス盤や旋盤等により切削加工する際に、切削加工速度を上げると、割れや欠けが発生し易くなる。このため、切削加工速度を上げることができず、得られた切削加工品がコスト高になるという問題がある。また、この切削加工品は、衝撃力の加わる用途には使用し難いという問題がある。
さらに、ポリエチレンテレフタレート樹脂は、例えばポリブチレンテレフタレート樹脂等の他の樹脂と比較すると結晶化速度が遅いため、ポリエチレンテレフタレート系樹脂組成物を溶融成形、例えば押出成形する場合、溶融状態から冷却固化する際に、容易には結晶化が進行せず、成形体表面にアモルファス(非晶)部位が発生して均一な表面状態が形成され難い。このため、成形用ダイ装置で賦形した後、冷却装置内を通過させる過程において、成形体表面に荒れが発生し易い等の、成形面における問題も有している。射出成形においても上記押出成形と同様の問題がある。
【0004】
このような問題を改良する方法として、ソフトセグメントを共重合させて結晶化速度を上げ、同時に耐衝撃性をも改善する方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。また、ポリアルキレングリコールを共重合させる方法(例えば、特許文献1参照)、低数平均分子量のポリエチレンテレフタレートセグメントにポリアルキレングリコールやビスフェノール型化合物にアルキレンオキシドを付加させた重合体を共重合させる方法(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
しかしながら、非特許文献1及び特許文献1に示された方法により得られた成形体では、吸湿性が増加するという問題があり、また、ポリアルキレングリコールを多量に共重合しているため、機械的強度の低下が著しく、切削加工用押出材料としては問題があった。また、特許文献2に示された方法により得られる成形体においては、十分な機械的強度を持たせるため、成形材料に強化充填剤を配合しているが、この強化充填剤が切削加工性を損なうという問題があった。
【0005】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・サイエンス 第8巻 第1頁(1952)
【特許文献1】特開昭51−38392号公報
【特許文献2】特開昭61−243854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、溶融成形時において良好な成形性を示すポリエステル系樹脂組成物を含有する成形材料、及びこの成形材料を溶融成形してなる成形体であって、その厚肉品を所望の形状に切削加工する際、加工による割れや欠けが少なく、良好な耐衝撃性を示す成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定のポリエステル系樹脂成分と特定のポリアルキレングリコール成分を所定の割合で含有し、固有粘度が特定値以上であるポリエステル系樹脂組成物を含む成形材料及びその成形体により、上述の問題点が解消されることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、以下の成形材料及びその成形体を提供するものである。
1. (A)芳香族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、エチレングリコール単位を主成分とするジオール単位を有するポリエステル系樹脂成分90〜99質量%と、(B)数平均分子量が700〜4000のポリアルキレングリコール成分10〜1質量%を含有し、固有粘度が0.7dl/g以上であるポリエステル系樹脂組成物を含むことを特徴とする成形材料。
2. ポリエステル系樹脂組成物が、示差走査熱量計で測定した、結晶融解状態から走査速度10℃/分で0℃まで降温した際に検出される結晶化ピークの熱量が30J/g以上のものである上記1に記載の成形材料。
3. (B)ポリアルキレングリコール成分がポリテトラメチレングリコールである上記1又は2に記載の成形材料。
【0008】
4. 上記1〜3のいずれかに記載の成形材料を溶融成形してなる成形体。
5. 溶融成形が、押出成形法又は射出成形法により行われる上記4に記載の成形体。
6. 上記1〜3のいずれかに記載の成形材料を溶融押出しして成形用ダイ装置で賦形後、冷却装置内を通過させ、冷却して得られる切削加工用の成形体。
7. アイゾット衝撃強度(JIS K7110に準拠 試験片形状2号B)が60J/m以上である上記4〜6のいずれかに記載の成形体。
8. 切削加工における加工達成率が70%以上である上記6又は7に記載の成形体。
9. 切削加工して、静電塗装ノズル用途に用いられる上記6〜8のいずれかに記載の成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶融成形時において良好な成形性を示すポリエステル系樹脂組成物を含む成形材料を得ることができ、この成形材料を、溶融成形(押出成形、射出成形等)して得られた厚肉成形体は、これを所望の形状に切削加工する際、加工による割れや欠けが少なく、良好な耐衝撃性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳しく説明する。本発明の成形材料は、(A)芳香族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、エチレングリコール単位を主成分とするジオール単位を有するポリエステル系樹脂成分90〜99質量%と、(B)数平均分子量が700〜4000のポリアルキレングリコール成分10〜1質量%を含有し、固有粘度が0.7dl/g以上であるポリエステル系樹脂組成物を含む。
なお、(A)成分における「主成分とする」とは、ポリエステル系樹脂成分を構成する全ジカルボン酸単位中に芳香族ジカルボン酸単位が80モル%以上、全ジオール単位中にエチレングリコール単位が80モル%以上を占めることをいう。
【0011】
本発明で用いる(A)成分のポリエステル系樹脂成分を構成するジカルボン酸単位は、成形性の観点から、芳香族ジカルボン酸単位を主成分とするものである。かかる芳香族ジカルボン酸単位を誘導し得る芳香族ジカルボン酸としては、炭素数8〜15の芳香族ジカルボン酸、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、及びこれらのエステル誘導体などを挙げることができる。本発明においては、これらの中で、テレフタル酸又はそのエステル誘導体が特に好ましい。
当該ポリエステル系樹脂成分においては、これらの芳香族ジカルボン酸から誘導される単位は1種含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
全ジカルボン酸単位のうち、芳香族ジカルボン酸単位の含有率は、80モル%以上であり、85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。芳香族ジカルボン酸単位の含有率が80モル%以上であれば、良好な成形性を維持することができる。
【0012】
上記ジカルボン酸単位成分は、その主成分を構成する上記芳香族ジカルボン酸単位以外のジカルボン酸単位を、20モル%以下の含有率で含んでいてもよい。
芳香族ジカルボン酸単位以外のジカルボン酸単位を誘導し得るジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸及びセバシン酸などの炭素数3〜10の脂肪族ジカルボン酸又はこれらのエステル誘導体、シクロヘキサンジカルボン酸などの炭素数8〜12の脂環式ジカルボン酸又はこれらのエステル誘導体などを挙げることができる。
当該ポリエステル樹脂成分においては、これらの芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸から誘導される単位は1種含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0013】
(A)成分のポリエステル系樹脂成分を構成するジオール単位は、成形性の観点からエチレングリコール単位を主成分とするものである。全ジオール単位のうち、エチレングリコール単位の含有率は80モル%以上であり、85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。エチレングリコール単位の含有率が80モル%以上であれば、良好な成形性を維持することができる。
【0014】
上記ジオール単位は、その主成分を構成するエチレングリコール単位以外に、炭素数3〜10の脂肪族ジオール、炭素数6〜15の脂環族ジオール又は炭素数6〜15の芳香族ジオールなどの単位を、20モル%以下の含有率で含んでいてもよい。
エチレングリコール単位以外のジオール単位を誘導し得るジオールの具体例としては、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等の各ジオールの単位が挙げられる。
当該ポリエステル樹脂成分においては、これらのエチレングリコール以外のジオールから誘導される単位は1種含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0015】
また、(A)成分のポリエステル系樹脂成分は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、以下の成分の少なくとも1種と共重合していてもよい。この成分としては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ハイドロキノンなどの芳香族ジオール、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、ヘキサントリカルボン酸、トリメリト酸、トリメシン酸、ピロメリト酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,6−ヘキサントリオール、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ジペンタエリスリトール、ポリグリセロール等の3官能以上の多官能成分が挙げられる。
本発明で用いるポリエステル系樹脂組成物において、(A)成分のポリエステル系樹脂成分は、その80モル%以上がエチレンテレフタレート構成単位からなることが好ましい。
【0016】
本発明で用いる(B)成分のポリアルキレングリコール成分としては、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合体又はランダム共重合体などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中で、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールが好ましく、ポリテトラメチレングリコールが特に好ましい。
【0017】
(B)成分のポリアルキレングリコール成分は、数平均分子量が700〜4000であることを要し、700〜2000の範囲が好ましい。数平均分子量が700〜4000であると、成形体の衝撃強度が低下せず、切削加工時の割れや欠けを抑制するという本発明の目的が達成される。
(B)成分のポリアルキレングリコール成分は、数平均分子量の異なるものを2種以上併用することもできる。2種以上を併用する場合は、均一に混合した状態での数平均分子量が700〜4000であることを要する。なお、ポリアルキレングリコールの数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー等の一般的な方法により測定することができる。
【0018】
当該ポリアルキレングリコール成分の含有量は、上述した(A)成分のポリエステル系樹脂成分と当該ポリアルキレングリコール成分との合計量中1〜10質量%であることを要し、好ましくは2〜8質量%である。当該ポリアルキレングリコール成分の含有量が1質量%以上であると、本発明の成形材料を溶融成形してなる成形体の切削加工時における割れや欠けが抑制される。また、当該ポリアルキレングリコール成分の含有量が10質量%以下であると、成形体の機械的強度が良好となる。
【0019】
本発明で用いるポリエステル系樹脂組成物を得る方法としては、(1)ポリエステル系樹脂合成反応容器中で、(B)成分を構成するポリアルキレングリコールを共重合成分として、当該ポリエステル系樹脂組成物中に1〜10質量%、好ましくは2〜8質量%の範囲で含むように、原料ポリエステル系樹脂とブロック共重合させる方法、(2)(B)成分を構成するポリアルキレングリコールを共重合成分として多量(10〜30質量%程度、好ましくは15〜25質量%)に含む原料ポリエステル系樹脂と、ポリアルキレングリコール成分を共重合成分として含まない原料ポリエステル系樹脂とを混合することにより、(B)成分を構成するポリアルキレングリコールを共重合成分として1〜10質量%含むポリエステル系樹脂組成物を製造する方法、などが挙げられる。
上記製造方法(1)は、(B)成分のポリアルキレングリコール成分が1〜10質量%含有されるようにブロック共重合させる方法であり、ポリエステル系樹脂の慣用の製造方法、すなわち、直接重合法又はエステル交換法などにより、回分式又は連続式によって製造することができる。
【0020】
上記製造方法(1)において、(B)成分を構成するポリアルキレングリコール及び必要に応じて加える上述した任意の共重合成分は、ジオール単位を形成する成分とジカルボン酸単位を形成する成分又はそのエステル形成性誘導体との重縮合反応過程の任意の段階で添加することができる。また、ジカルボン酸単位を形成する成分とジオール単位を形成する成分から低重合度のオリゴマーを製造しておき、このオリゴマーと(B)成分を構成するポリアルキレングリコール及び必要に応じて加える上述した任意の共重合成分とを重縮合させることもできる。
【0021】
上記製造方法(1)において、(A)成分のポリエステル系樹脂成分を得るための重合反応は、通常、触媒を使用して行われ、触媒としてはリン化合物や金属系化合物等が使用される。リン化合物としては、正リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、これらのエステル、有機酸塩等が挙げられ、金属系化合物としては、例えば三酸化二アンチモン、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等の金属酸化物、アンチモン、ゲルマニウム、亜鉛、チタン及びコバルト等の有機酸塩や有機金属化合物等が挙げられる。
これらの触媒は単独で又は2種以上を混合して使用することができる。特に、重縮合反応の触媒としては、テトラブトキシチタン、三酸化二アンチモン、二酸化ゲルマニウムから選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
また、重合過程での消泡を促進するため、シリコーンオイル等の消泡剤を使用することもできる。
【0022】
一方、製造方法(2)は、上述したように、ポリアルキレングリコールを共重合成分として多量(10〜30質量%程度、好ましくは15〜25質量%)に含む原料ポリエステル系樹脂と、ポリアルキレングリコールを共重合成分として含まない原料ポリエステル系樹脂とを混合することにより、ポリアルキレングリコールの含有量を調整する方法である。これらの原料ポリエステル系樹脂の製造には、上述した触媒と同様の触媒を使用することができる。
上記製造方法(2)で用いられるポリアルキレングリコールを共重合成分として含まない原料ポリエステル系樹脂とは、ポリエステル系樹脂の構成成分であるジカルボン酸単位を形成する成分として、芳香族ジカルボン酸単位を形成する成分又はそのエステル形成能を持つ誘導体を少なくとも90モル%程度用い、ポリエステル系樹脂構成成分であるジオール単位を形成する成分として、エチレングリコール単位を形成する成分又はそのエステル形成能を持つ誘導体を少なくとも90モル%程度用いて得られるものをいう。この場合、芳香族ジカルボン酸単位以外のジカルボン酸単位を形成する成分、及びエチレングリコール単位以外のジオール単位を形成する成分が、それぞれ10モル%程度以下の割合で用いられる。
【0023】
本発明で用いるポリエステル系樹脂組成物は、その固有粘度が0.7dl/g以上である必要があり、好ましくは0.8dl/g以上である。本発明において、この固有粘度の上限は、1.3dl/g程度である。ポリエステル系樹脂組成物の固有粘度が、0.7dl/g以上であると、このポリエステル系樹脂組成物を含む成形材料を溶融成形してなる成形体を切削加工する際に割れや欠けが発生することがない。この固有粘度は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(質量比=1/1)の混合溶媒中において30℃で測定した値である。
【0024】
本発明で用いるポリエステル系樹脂組成物は、示差走査熱量計(DSC)で測定した場合に、結晶融解状態から走査速度10℃/分で0℃まで降温した際の結晶化熱量が30J/g以上にあるものが好ましく、より好ましくは35J/g以上である。この結晶化熱量が30J/g以上であると、ポリエステル系樹脂組成物の結晶性が適度のものとなるため、成形体表面にアモルファス部位が発生したり、成形用ダイ装置で賦型した後、冷却装置内を通過させる過程において、成形体表面に荒れが発生する等の成形面における問題が発生し難い。
【0025】
また、本発明で用いるポリエステル系樹脂組成物は、ASTM D−638に規定された試験方法にて測定した引張伸びが20〜120%の範囲にあるものが好ましく、より好ましくは30〜120%である。引張り伸びが20%以上であると柔軟性が十分であり、成形体を切削加工する際に割れや欠けが発生し難く、120%以下であると成形体の機械的強度が低下し難い。
【0026】
本発明の成形材料は、上述のポリエステル系樹脂組成物を含む材料であるが、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、これらの無水マレイン酸変性物、アイオノマー等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂などの他の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを含有していてもよい。
さらに、本発明の成形材料は、本発明の効果を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、亜燐酸エステル系、チオエーテル系などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系などの光安定剤、無機系及び有機系の結晶核剤、数平均分子量調整剤、耐加水分解剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、難燃剤、難燃助剤、発泡剤、着色剤、分散助剤などの添加剤、ガラス繊維、カーボンファイバー、マイカ、チタン酸カリファイバー等の強化材を含有していてもよい。
本発明の成形材料に上記の各種任意成分を含有させるには、ポリエステル系樹脂の重縮合過程で添加してもよく、成形材料の成形過程で添加してもよい。
【0027】
本発明の成形体は、上述の本発明の成形材料を溶融成形して得られたものであり、この溶融成形は、押出成形法又は射出成形法により行うことが好ましい。
さらにはいわゆる「固化押出し法」による方法が厚肉体の成形性の点から好ましく、具体的な製造方法は、上記の成形材料を溶融押出し、成形用ダイ装置で賦形した後、冷却装置内を通過させ冷却する方法である。
溶融押出しの条件、冷却条件等は成形体の形状や生産速度などにより異なるが、押出温度は、通常260〜300℃程度、冷却温度は、通常30〜150℃程度である。
【0028】
上記成形体の形状は最終用途により異なるが、厚みが3〜200mm程度の板状体及び直径5〜300mm程度の丸棒体が好適である。本発明の成形体ではアイゾット衝撃強度(JIS K7110に準拠 試験片形状2号B)が60J/m以上であることが好ましく、より好ましくは64J/m以上である。アイゾット衝撃強度が60J/m以上であると、衝撃強度が良好であるとともに成形体を切削加工した際に、加工体の薄肉部に欠けや割れが発生しにくい。
また、得られた成形体は切削加工により、最終形状に加工されるが、切削加工法としては通常のマシニングセンタ、NC旋盤、フライス旋盤等を用い、ソリッドエンドミル、バイト、正面フライスにより切削加工する方法等が挙げられる。本発明の成形体を切削加工に用いると、切削加工における加工達成率が70%以上となる。ここで、加工達成率とは、後で説明するように、作製した複数個の成形体に対して同じ切削加工を行った場合、加工体の薄肉部に欠けや割れが発生せずに切削加工ができた割合をいう。
【0029】
上記成形体を切削加工して得られる最終成形品は、静電塗装ノズル用途として好適である。本用途では特にノズルが電極として高電圧で帯電されることから高い電気絶縁性や高電界中での耐トラッキング性が要求される。さらに、本用途では液体塗料を通過させるための複雑な流路を切削加工により加工することから、良好な切削加工性が要求されるが、本発明の成形体はこの要求を満たすものである。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0031】
A.測定方法
各実施例及び比較例で用いるポリエステル系樹脂の固有粘度、各実施例及び比較例のポリエステル系樹脂組成物の、固有粘度及び結晶化熱量の測定を以下の方法で行った。
【0032】
(1)固有粘度
ポリエステル系樹脂又はポリエステル系樹脂組成物のペレット0.5gを、フェノール/テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒に、濃度(c)が1.0g/dlとなるように110℃で30分間の溶解条件で溶解し、溶液を調製した。得られた溶液を30℃でウベローデ型粘度計を用いて、溶媒のみ(c=0)に対する相対粘度(ηrel)を測定し、この相対粘度[(ηrel)−1]を比粘度(ηsp)とし、濃度(c)との比(ηsp/c)を求めた。同様にして濃度(c)を0.5g/dl、0.2g/dl、0.1g/dlとして、それぞれの比(ηsp/c)を求め、これらの値より、濃度(c)を0に外挿したときの比(ηsp/c)を固有粘度[η](dl/g)として求めた。
【0033】
(2)結晶化熱量
TAインスツルメンツ社製 DSC「Q100型」を用い、下記条件で降温時の結晶化熱量を測定した。
温度条件:30℃(1分間保持)→280℃(1分間保持)→30℃(1分間保持)
走査速度:10℃/分
【0034】
B.評価方法
各実施例及び比較例で作製したポリエステル系樹脂又はポリエステル系樹脂組成物の成形性、成形品の各種特性を、以下の方法で評価した。
【0035】
(1)成形性
厚み20mm、幅100mmの厚肉成形体が得られるダイと冷却装置を備えた単軸押出機(バレル直径40mm)へ、水分含有量を50ppm以下に調整したポリエステル系樹脂又はポリエステル系樹脂組成物のペレットを140℃に保持した除湿乾燥ホッパーより供給して、バレル温度280℃、ダイ温度280℃、冷却水温度80℃の条件下で押出成形を行い板状の成形体を得た。得られた成形体の表面状態を目視で観察し、下記の基準で判定した。
○:良好(表面が滑らかで、かつ目視で表面の不均一部分であるアモルファス部位が確認できない)
△:表面荒れ(目視でアモルファス部位は確認できないが、表面が荒れている)
×:不良(目視でアモルファス部位が確認でき、表面も荒れている)
【0036】
(2)引張伸び及び引張強度
上記(1)で得られた成形体の表面から5mmの部位を除いた部分より、成形の押出方向と試験体の長尺方向が同一方向となるよう、ASTM D−638に準拠する引張試験用の試験片(長さ185mm×幅20mm×厚み3mm、ダンベル部分の幅13mm)を切削加工により作製し、この試験片を用いて引張試験を行った。
(3)アイゾット衝撃強度
上記(1)で得られた成形体を用い、JIS K7110に準拠し、試験片形状2号Bを用いて衝撃試験を行った(試験機:(株)東洋精機製作所製「デジタル衝撃試験機」)。
【0037】
(4)加工達成率
図1は切削加工してなる成形体の概略図であり、(A)は平面図、(B)は断面図である。まず、上記(1)で得られた成形体を長さ50mm×幅100mm×厚み20mmに切断し、次いで、マシニングセンタ(ヤマザキマザック(株)製「V414−22」)を用い、ソリッドエンドミル(日立(株)製「AES2100」)により図1(A)及び(B)に示すように、成形体の本体1に対して、高さ5mmの凸部2、幅10mmの溝部3の形状の加工を行った。上記図1(A)において、矢印4は、ソリッドエンドミルの進行方向を示す。加工は、第1表に示す条件で、各実施例及び比較例とも10個の成形体に対して行い、加工体の薄肉部に欠けや割れが発生せずに加工することができた割合を加工達成率とした。
【0038】
【表1】

【0039】
C.原料ポリエステル系樹脂の作製
(1)ポリエステル系樹脂1
以下の製造例1の方法にて、ポリエステル系樹脂1を作製した。ポリエステル系樹脂1は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸(以下「TPA」と略記する。)、ジオール成分としてエチレングリコール(以下「EG」と略記する。)を用い、数平均分子量1000のポリテトラメチレングリコール(以下「PTMG」と略記する。)を20質量%共重合したポリエステル系樹脂である。また上記の方法で固有粘度を測定した結果、0.78dl/gであった。
【0040】
[製造例1]
スラリー調製槽、エステル化反応槽、重縮合槽、及びペレット化装置を備えた回分式重合装置を用い、エステル化反応物50kgを入れたエステル化反応槽に、スラリー槽で予め調製したTPA:34.6kg(208.3モル)、EG:15.5kg{249.7モル(ジカルボン酸:EGのモル比=1:1.2)}からなるスラリーを15.2kg/hrの速度で連続的に添加し、250℃、常圧にて生成する水を連続的に留出させながらエステル化反応を行った。エステル化反応はスラリーフィード終了後、さらに15分間継続して終了させた。エステル化反応終了後、エステル化反応物の50kgをエステル化反応槽に残して重縮合槽に移送した。
引き続いて、数平均分子量1,000のPTMG 10kg(ポリエステル系樹脂に対して20質量%)を添加して、10分間攪拌させた。その後、安定剤としてエチルアシッドフォスフェート(以下「EAP」と略記する。)を添加し、重合触媒として酢酸コバルト・4水和物(以下「酢酸Co」と略記する。)とテトラブトキシチタン(以下「TBT」と略記する。)を添加した(何れもEG溶液として添加)。EAP、酢酸Co、TBTの添加量はそれぞれ、ポリエステル系樹脂の理論収量に対して、25質量ppm、210質量ppm、21.3質量ppmとした。
次いで重縮合槽内を約100分かけて常圧から133Paまで減圧すると共に、内温を約250℃から約270℃まで上昇させ、EGを留出させながら溶融重縮合反応を行った。減圧開始後4時間経過したところで復圧し、重縮合反応を終了した。重縮合槽を復圧後、槽下部よりポリエステル系樹脂をストランド状に取り出し、水冷後、カッターにてペレット化することにより、ポリエステル系樹脂ペレットを得た。
【0041】
(2)ポリエステル系樹脂2
数平均分子量1,800のPTMGを使用した以外は製造例1と同様の方法にて、ポリエステル系樹脂2を作製した。ポリエステル系樹脂2は、ジカルボン酸成分としてTPA、ジオール成分としてEGを用い、数平均分子量1,800のPTMGを20質量%共重合したポリエステル系樹脂である。また上記の方法で固有粘度を測定した結果、0.81dl/gであった。
【0042】
(3)ポリエステル系樹脂3
数平均分子量300のPTMGと、数平均分子量1,000のPTMGを質量比1:1で使用した以外は製造例1と同様の方法にて、ポリエステル系樹脂3を作製した。ポリエステル系樹脂3は、ジカルボン酸成分としてTPA、ジオール成分としてEGを用い、数平均分子量300のPTMGと数平均分子量1,000のPTMGを質量比1:1で20質量%共重合したポリエステル系樹脂である。また上記の方法で固有粘度を測定した結果、0.80dl/gであった。
【0043】
(4)ポリエステル系樹脂4
三菱化学社製「NOVAPEX GS900Z」をポリエステル系樹脂4として使用した。ポリエステル系樹脂4は、ジカルボン酸成分としてTPA、ジオール成分としてEGを用いたポリエステル系樹脂である。このポリエステル系樹脂4の固有粘度を上記方法で測定した結果、1.00dl/gであった。なお、このポリエステル系樹脂4はSb触媒が用いられている。
【0044】
(5)ポリエステル系樹脂5
三菱化学社製「NOVAPEX GG500」をポリエステル系樹脂5として使用した。ポリエステル系樹脂5は、ジカルボン酸成分としてTPA、ジオール成分としてEGを用いたポリエステル系樹脂である。このポリエステル系樹脂5の固有粘度を上記方法で測定した結果、0.85dl/gであった。なお、このポリエステル系樹脂5はGe触媒が用いられている。
【0045】
[実施例1]
上記ポリエステル系樹脂1とポリエステル系樹脂4とを、PTMGの割合が5質量%となる割合にてブレンドし、二軸押出機(池貝鉄工社製PCM30、L/D=25)に供給し、回転数100rpm、温度265℃、1×102Paの減圧下で溶融混練した。混練物はダイから押し出され、水槽中で冷却された後、ペレタイザ―でカットされ、ペレット形状で回収した。得られたペレットを次いで、イナートオーブン(タバイエスペック社製IPHH−201M)に充填し、窒素気流下、140℃にて4時間の結晶化を行った後、引き続き210℃にて30時間の固相重合を行い、ポリエステル系樹脂組成物を得た。得られたポリエステル系樹脂組成物を用い、固有粘度、結晶化熱量、成形性、引張伸び、引張強度、アイゾット衝撃強度及び加工達成率について上記方法で評価試験を行った。その結果を第3表に示す。
【0046】
[実施例2〜3]
ポリエステル系樹脂組成物中のPTMGの割合を第2表に記載した量となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂組成物を得た。得られたポリエステル系樹脂組成物について、上記方法で各種評価試験を行った。その結果を第3表に示す。なお、第2表において、「%」は「質量%」を意味する。
【0047】
[実施例4]
ポリエステル系樹脂1とポリエステル系樹脂5とを使用し、ポリエステル系樹脂組成物中のPTMGの割合を第2表に記載した量となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂組成物を得た。得られたポリエステル系樹脂組成物について、上記方法で各種評価試験を行った。その結果を第3表に示す。
【0048】
[実施例5]
ポリエステル系樹脂2とポリエステル系樹脂4とを使用し、ポリエステル系樹脂組成物中のPTMGの割合を第2表に記載した量となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂組成物を得た。得られたポリエステル系樹脂組成物について、上記方法で各種評価試験を行った。その結果を第3表に示す。
【0049】
[実施例6]
スラリー調製槽、エステル化反応槽、重縮合槽、及びペレット化装置を備えた回分式重合装置を用い、エステル化反応物50kgを入れたエステル化反応槽に、スラリー槽で予め調製したTPA:40.2kg(242.0モル)、EG:18.0kg{290.3モル(ジカルボン酸:EGのモル比=1:1.2)}からなるスラリーを15.2kg/hrの速度で連続的に添加し、250℃、常圧にて生成する水を連続的に留出させながらエステル化反応を行った。エステル化反応はスラリーフィード終了後、さらに15分間継続して終了させた。エステル化反応終了後、エステル化反応物の50kgをエステル化反応槽に残して重縮合槽に移送した。
引き続いて、数平均分子量1,000のPTMG:3.5kg(ポリエステル系樹脂に対して7質量%)を添加して、10分間攪拌させた。その後安定剤としてEAPを添加し、重合触媒として酢酸マグネシウム・4水和物(以下「酢酸Mg」と略記する。)、TBTを添加した(何れもEG溶液として添加)。EAP、酢酸Mg、TBTの添加量はそれぞれ、ポリエステルの理論収量に対して、41質量ppm、80質量ppm、42.6質量ppmとした。
次いで、重縮合槽内を約100分かけて常圧から133Paまで減圧すると共に、内温を約250℃から約270℃まで上昇させ、EGを留出させながら溶融重縮合反応を行った。減圧開始後4時間経過したところで復圧し、重縮合反応を終了した。重縮合槽を復圧後、槽下部よりポリエステル系樹脂をストランド状に取り出し、水冷後、カッターにてペレット化することにより、ポリエステル系樹脂ペレットを得た。
得られたペレットを次いで、イナートオーブン(タバイエスペック社製IPHH−201M)に充填し、窒素気流下、140℃にて4時間の結晶化を行った後、引き続き210℃にて40時間の固相重合を行い、ポリエステル系樹脂組成物を得た。得られたポリエステル系樹脂組成物を用い、固有粘度、結晶化熱量、成形性、引張伸び、引張強度、アイゾット衝撃強度及び加工達成率について上記方法で評価試験を行った。その結果を第3表に示す。
【0050】
[実施例7]
エステル交換反応槽、重縮合槽、及びペレット化装置を備えた回分式重合装置を用い、エステル交換反応槽に、ジメチルテレフタレート(以下「DMT」と略記する。)49.5kg(254.9モル)、EG:31.6kg[509.8モル(DMT:EGのモル比=1:2.0)}を仕込み150℃にて溶解させた。次いでエステル交換反応触媒として酢酸カルシウム・1水和物(以下「酢酸Ca」と略記する。)をポリエステル系樹脂の理論収量に対して、945質量ppmとなる量を添加した。次に温度を徐々に225℃まで上昇させ、常圧にて生成するメタノールが完全に留出されるまでエステル交換反応を行った。エステル交換反応終了後、生成した反応液を全量重縮合槽に移送した。
引き続いて、数平均分子量1,000のPTMG:1.0kg(ポリエステル系樹脂に対して2質量%)を添加して、10分間攪拌させた。その後、安定剤としてEAPを添加し、重合触媒としてTBTを添加した(何れもEG溶液として添加)。EAP、TBTの添加量はそれぞれ、ポリエステル系樹脂の理論収量に対して、24質量ppm、35.5質量ppmとした。
次いで、重縮合槽内を約100分かけて常圧から133Paまで減圧すると共に、内温を約225℃から約275℃まで上昇させ、EGを留出させながら溶融重縮合反応を行った。減圧開始後4時間経過したところで復圧し、重縮合反応を終了した。重縮合槽を復圧後、槽下部よりポリエステル系樹脂をストランド状に取り出し、水冷後、カッターにてペレット化することにより、ポリエステル系樹脂ペレットを得た。
得られたペレットを次いで、イナートオーブン(タバイエスペック社製IPHH−201M)に充填し、窒素気流下、140℃にて4時間の結晶化を行った後、引き続き210℃にて40時間の固相重合を行い、ポリエステル系樹脂組成物を得た。得られたポリエステル系樹脂組成物を用い、固有粘度、結晶化熱量、成形性、引張伸び、引張強度、アイゾット衝撃強度及び加工達成率について上記方法で評価試験を行った。その結果を第3表に示す。
【0051】
[実施例8]
DMT:49.0kg(252.3モル)、EG:31.3kg[504.7モル(DMT:EGのモル比=1:2.0)}、数平均分子量1,000のPTMG:1.5kg(ポリエステル系樹脂に対して3質量%)を使用した以外は、実施例7と同様の方法にてポリエステル系樹脂組成物を得た。得られたポリエステル系樹脂組成物を用い、固有粘度、結晶化熱量、成形性、引張伸び、引張強度、アイゾット衝撃強度及び加工達成率について上記方法で評価試験を行った。その結果を第3表に示す。
【0052】
[比較例1]
ポリエステル系樹脂4を用い、結晶化熱量、成形性、引張伸び、引張強度、アイゾット衝撃強度及び加工達成率について上記方法で評価試験を行った。その結果を第3表に示す。
【0053】
[比較例2]
ポリエステル系樹脂5をイナートオーブン(タバイエスペック社製IPHH−201M)に充填し、窒素気流下、140℃にて4時間の結晶化を行った後、引き続き210℃にて20時間の固相重合を行い、ポリエステル系樹脂組成物を得た。得られたポリエステル系樹脂組成物を用い、固有粘度、結晶化熱量、成形性、引張伸び、引張強度、アイゾット衝撃強度及び加工達成率について上記方法で評価試験を行った。その結果を第3表に示す。
【0054】
[比較例3]
ポリエステル系樹脂3とポリエステル系樹脂4とを使用し、ポリエステル系樹脂組成物中のPTMGの割合を第2表に記載した量となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂組成物を得た。得られたポリエステル系樹脂組成物について、上記方法で各種評価試験を行った。その結果を第3表に示す。
【0055】
【表2】

(注)
TPA:テレフタル酸
EG:エチレングリコール
PTMG:ポリテトラメチレングリコール
重合方法(1):合成反応容器中で各成分を一括投入して溶融重合を行った後、固相重合を行った。
重合方法(2):重合方法(1)と同様の方法で得られたポリエチレンテレフタレートホモポリマーに、共重合成分としてPTMGを20質量%以上含む共重合ポリエチレンテレフタレートをPTMGが所定割合になるよう配合し、固相重合を行った。
【0056】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0057】
溶融成形時において良好な成形性を示すポリエステル系樹脂組成物を含む成形材料を成形してなる本発明の成形体は、特に高い電気絶縁性や高電界中での耐トラッキング性を要求される静電塗装用ノズルの用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】切削加工における加工達成率の測定に関する成形体の概略図である。
【符号の説明】
【0059】
1:成形体の本体
2:凸部
3:溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、エチレングリコール単位を主成分とするジオール単位を有するポリエステル系樹脂成分90〜99質量%と、(B)数平均分子量が700〜4000のポリアルキレングリコール成分10〜1質量%を含有し、固有粘度が0.7dl/g以上であるポリエステル系樹脂組成物を含むことを特徴とする成形材料。
【請求項2】
ポリエステル系樹脂組成物が、示差走査熱量計で測定した、結晶融解状態から走査速度10℃/分で0℃まで降温した際に検出される結晶化ピークの熱量が30J/g以上のものである請求項1に記載の成形材料。
【請求項3】
(B)ポリアルキレングリコール成分がポリテトラメチレングリコールである請求項1又は2に記載の成形材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の成形材料を溶融成形してなる成形体。
【請求項5】
溶融成形が、押出成形法又は射出成形法により行われる請求項4に記載の成形体。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の成形材料を溶融押出しして成形用ダイ装置で賦形後、冷却装置内を通過させ、冷却して得られる切削加工用の成形体。
【請求項7】
アイゾット衝撃強度(JIS K7110に準拠 試験片形状2号B)が60J/m以上である請求項4〜6のいずれかに記載の成形体。
【請求項8】
切削加工における加工達成率が70%以上である請求項6又は7に記載の成形体。
【請求項9】
切削加工して、静電塗装ノズル用途に用いられる請求項6〜8のいずれかに記載の成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2007−16199(P2007−16199A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294737(P2005−294737)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(591182101)日本ポリペンコ株式会社 (10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】