説明

成形用金型の洗浄方法、被洗浄部材の洗浄方法及びガラス光学素子の製造方法

【課題】簡便かつ効率的で、金型に対するダメージが少ない、成形用金型の洗浄方法等を提供する。
【解決手段】ガラスを主成分とする素材をプレス成形してレンズを製造するレンズ成形装置に使用される成形用金型21の洗浄方法は、洗浄すべき成形用金型21をレンズ成形装置から取り外す工程と、取り外された成形用金型21を洗浄する洗浄装置20に設置する工程と、洗浄装置20にて、設置された成形用金型21の周囲環境に所定のガスを導入する工程と、導入された所定のガスに高周波電圧を印加してプラズマ化し、成形用金型21の表面をプラズマ化されたガスに晒す工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用金型の洗浄方法、被洗浄部材の洗浄方法、及び、ガラス光学素子をプレス成形する成形用金型を洗浄する工程を含むガラス光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信等に用いられるレンズや、DVD(Digital Versatile Disk)のピックアップヘッドに搭載されるレンズ(光ピックアップ)及びデジタルカメラに用いられるレンズなどの光学素子は、その耐熱性と耐候性の高さ、並びに屈折率の高さからガラス素材が用いられる場合が多い。そして、ガラスレンズの表面を非球面とすれば単一レンズで収差をなくすことができ、レンズを含むデバイスの軽量化が可能となる。
非球面ガラスレンズの製造には、金型を用いたプレス成形が採用される。所望の精度に仕上げられた非球面成形面を有する金型の上で加熱され軟化されたガラスをプレスすることにより光学素子を得る。
【0003】
しかし、プレス成形を繰り返すと金型の成形面にガラスが島状に付着し堆積することが一般に知られている。特に、レンズに接触する成形面にガラス付着物が堆積すると、レンズに曇り等が発生して光学素子としての機能が著しく低下する。このガラス付着物は、ガラス素材を加熱した際に生じるガラスからの揮発物が関係し、ガラスを素材として採用する限り避けることはできない。
かかる問題に対して、従来は、定期的かつ機械的に金型からガラス付着物を除去していた。ここで、機械的除去とは、アルミナ等の硬質材料の細粉を金型に吹き付けて削り落としたり、或いは、ダイヤモンドペースト等で金型の成形面を研磨して除去することを意味する。
【0004】
しかしながら、このような機械的除去は、高精度に仕上げられた成形面(特に光学面)の形状精度を狂わす原因となるので、作業は熟練した技能者に限定される。また、機械的除去作業により形状精度が狂った場合、金型を再加工しなくてはならず、結果的に成形品のコストを吊り上げる。公報記載の従来技術として、フッ化水素水溶液を用いて洗浄することで、機械的除去を行わず化学的にガラス付着物を除去する技術が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−224611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、化学的にガラス付着物を除去する洗浄方法では、ガラス付着物を溶解処理した後に、金型を水及び溶剤で洗浄した後に乾燥する工程等が必要になる。また、ガラス付着物を溶解するときに発生するガスが、ガラス付着物と溶解液の間に介在して処理効率を劣化させるので、長時間の処理が必要となる。更に、低融点ガラスの成形金型の母材として一般に用いられる超硬合金や、超低融点ガラスの成形金型に含まれるニッケル系合金は、溶解液中のフッ化水素に侵され易く、金型を溶解液に長時間浸漬することはできなかった。
本発明は、簡便かつ効率的で、金型に対するダメージが少ない、成形用金型の洗浄方法
等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる成形用金型の洗浄方法は、ガラスを主成分とする素材をプレス成形してガラス光学素子を製造するガラス光学素子製造装置に使用される成形用金型の洗浄方法であって、洗浄すべき成形用金型をガラス光学素子製造装置から取り外す工程と、取り外された成形用金型を、成形用金型を洗浄する洗浄装置に設置する工程と、洗浄装置にて、設置された成形用金型の周囲環境に所定のガスを導入する工程と、導入された所定のガスに高周波電圧を印加してプラズマ化し、成形用金型の表面をプラズマ化されたガスに晒す工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
ここで、所定のガスは、ハロゲン元素を含むガス(但し、フッ化水素(HF)及び塩化水素(HCl)を除く)であることを特徴とすれば、成形用金型の表面に堆積したガラス成分の付着物はプラズマ化されたガスに化学反応して除去されるので、成形用金型を簡便に洗浄できて好ましい。
また、所定のガスは、フッ化炭素(CF4)、4フッ化硫黄(SF4)、6フッ化硫黄(SF6)、及び6フッ化2炭素(C2F6)のうち少なくともいずれか1種類のガスを含むことを特徴とする。
更に、取り外された成形用金型を成形用金型を洗浄する洗浄装置に設置する工程は、成形用金型の成形面を露出させ、成形面以外の箇所を覆い隠すためのマスクを使用して設置することを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる被洗浄部材の洗浄方法の洗浄方法は、ガラス光学素子製造装置に使用される被洗浄部材の洗浄方法であって、洗浄すべき被洗浄部材をガラス光学素子製造装置から取り外す工程と、取り外された被洗浄部材を、被洗浄部材の所定部分を露出させ所定部分以外の箇所を覆い隠すためのマスクを使用して洗浄装置に設置する工程と、洗浄装置にて、設置された被洗浄部材の周囲環境に所定のガスを導入する工程と、導入された所定のガスに高周波電圧を印加してプラズマ化し、被洗浄部材の表面をプラズマ化されたガスに晒す工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
ここで、マスクは、被洗浄部材が配される部分と隣接する部分に金属膜が形成されていることが好ましく、金属膜は、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)から選ばれる少なくとも1種類を含むことが更に好ましい。
また、導入された所定のガスに高周波電圧を印加してプラズマ化し被洗浄部材の表面をプラズマ化されたガスに晒す工程は、炭素(C)、珪素(Si)、リン(P)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)から選ばれる少なくとも1種類の単体、酸化物、窒化物またはフッ化物を除去するためのものであることを特徴とする。
更に、所定のガスは、ハロゲン元素を含むガス(但し、フッ化水素(HF)及び塩化水素(HCl)を除く)であることが好ましく、所定のガスは、CF4、C2F6、SF4、SF6のうち少なくともいずれか1種類のガスを含むことが好ましく、所定のガスは、酸素または水素を主成分とするガスであることが好ましい。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明にかかるガラス光学素子の製造方法は、ガラスを主成分とする素材をプレス成形してガラス光学素子を製造するガラス光学素子製造装置から、洗浄すべき成形用金型を取り外す工程と、取り外された成形用金型を、成形用金型を洗浄する洗浄装置に設置する工程と、洗浄装置にて、設置された成形用金型の周囲環境に所定のガスを導入する工程と、導入された所定のガスに高周波電圧を印加してプラズマ化し、成形用金型の表面をプラズマ化されたガスに晒す工程と、プラズマ化されたガスに晒された後に成形用金型をガラス光学素子製造装置に再度取り付ける工程と、成形用金型が取り付けられたガラス光学素子製造装置を使ってガラス光学素子をプレス成形により製造する工程とを含む。
【0012】
ここで、成形用金型は、タングステンカーバイト(WC)、炭化珪素、グラッシーカーボン、インコネル、スタバックス、及びダイス鋼のうちいずれかひとつを主成分とする母材を含んで構成されることを特徴とすれば、成形用金型母材のプラズマ化されたガスに対する化学反応性はガラス付着物の反応性に対して著しく小さいので、洗浄による成形用金型へのダメージを少なくできて好ましい。
また、洗浄装置は、成形用金型が設置される金型設置台と、金型設置台に対向配置された対向電極とを含み、金型設置台と対向電極との間には高周波電圧が印加されることを特徴とすれば、成形用金型の成形面だけを露出した状態で洗浄したり、スペーサを使用して高さが異なる成形用金型の成形面をほぼ同じ高さにして洗浄することにより、成形用金型へのダメージの蓄積を回避し、処理の均一性と安定性を確保できて好ましい。
更に、洗浄装置は、洗浄装置の対向電極に高周波電圧が印加されることを特徴とする。
更にまた、洗浄装置は、洗浄装置の金型設置台に高周波電圧が印加されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡便かつ効率的で、金型に対するダメージが少ない、ガラス光学素子成形用金型の洗浄方法等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態(実施の形態)について詳細に説明する。
図1は、本実施の形態にかかる成形用金型を使用したガラス光学素子製造装置の一例としてのレンズ成形装置10の構成図である。
図1(A)に示されているように、レンズ成形装置10は、ガラスをプレス成形して光学素子の一例としてのレンズを製作する下金型11及び上金型12と、下金型11及び上金型12の動作を規制する胴型13とを有して構成される。
【0015】
下金型11及び上金型12は、例えば、タングステンカーバイト(WC)を主成分とする超硬合金を含んで構成される。下金型11及び上金型12は、好適な離型を実現するため、成形面15,16に被膜層が形成されている。被膜層は、例えば、白金(Pt)−イリジウム(Ir)合金により形成される。尚、下金型11及び上金型12は、炭化珪素やグラッシーカーボン等耐フッ素性が高い素材で母材が構成されても良い。更に、インコネル、スタバックス、ダイス鋼等で構成されても良い。また、被膜層は、白金−イリジウム合金以外の貴金属合金、貴金属と遷移金属との合金、貴金属と汎用金属との合金、カーボン、又はDLC(ダイヤモンドライクカーボン)等フッ素や塩素との反応性が低い材料がいずれも好適に使用される。
胴型13は、例えば、タングステンカーバイトを主成分とする超硬合金を含んで構成され、図示しない駆動系を使って上下動する上金型12の動作を規制して、下金型11と上金型12との中心軸がずれないようにしている。
【0016】
以上の構成を有するレンズ成形装置10がレンズをプレス成形する製造工程を以下に説明する。
下金型11と上金型12との間にガラスプリフォーム14を設置する。
ここで、ガラスプリフォーム14は、シリカを主成分とし、例えば、アルミナ、ナトリウム、フッ化ランタン等が添加された低融点ガラスにより構成される。尚、ガラスプリフォーム14は、例えば、設置されたガラスプリフォーム14の伸びが停止し、収縮が始まる屈伏温度(屈伏点)が約600℃以下の低融点ガラスであっても、屈伏温度が約400℃以下の超低融点ガラスであってもよい。
【0017】
下金型11及び上金型12を加熱して屈伏温度付近になったとき、下金型11−上金型12間に圧力を加えてガラスプリフォーム14をプレス成形し、レンズ(ガラス成形体)17を製造する(図1(B)参照)。
下金型11及び上金型12が十分に冷却した後に、上金型12を胴型13から抜いてガラス成形体17を取り出す。
【0018】
以上に説明したレンズ製造工程を繰り返すと、下金型11及び上金型12の成形面15,16にガラス付着物が堆積する。このレンズ製造工程を数百回繰り返すとレンズの表面光沢に悪影響を及ぼすことが経験により判っている。そのため、概ね100〜500回繰り返した後にレンズ成形装置10を解体し、下金型11及び上金型12の成形面15,16を洗浄する必要がある。
【0019】
図2は、本実施の形態にかかるガラス光学素子をプレス成形する成形用金型21の洗浄装置20の構成図である。
成形用金型21の洗浄装置20は、ガラスをプレス成形して光学素子の一例としてのレンズを製作する成形用金型21と、その成形用金型21が設置される金型設置台22と、金型設置台22に対向して配置される対向電極23とを有する。また、洗浄装置20は、成形用金型21の周囲環境に所定の処理ガスを導入する処理ガス導入バルブ24と、金型設置台22と対向電極23との間に高周波電圧を印加する高周波電源25と、周囲環境から空気又は処理ガスを排気する排気バルブ26及び排気ポンプ27とを有して構成される。
【0020】
成形用金型21は、例えば、レンズ製造工程を概ね100〜500回繰り返した下金型
11又は上金型12(図1参照)が該当する。
金型設置台22は、成形用金型21を搭載できる強度を有した、例えば、ステンレス等の導電体で構成される。そして、金型設置台22は、対向電極23と共に、高周波電源25に接続される。
【0021】
対向電極23は、例えば、ステンレス等の導電体で構成される。対向電極23は、成形用金型21が搭載された金型設置台22に対してほぼ平行になるように、対向電極23は金型設置台22に対して対向配置され、後述する高周波電源25に接続される。
処理ガス導入バルブ24は、後述する排気バルブ26及び排気ポンプ27とが、金型設置台22と対向電極23との間に形成される成形用金型21の周囲環境から空気を排出して所定の真空度に達した後に、処理ガスを導入する。ここで、処理ガスは、常温において気体のガスが好ましく、例えば、フッ素或いは塩素等ハロゲン元素を含むガスが好適に使用される。フッ素或いは塩素等ハロゲン元素を含むガスとしては、CF4、C2F6、SF4、SF6等が挙げられる。また、プラズマの安定放電や、処理効果促進のために、アルゴン(Ar)、酸素、水素、炭酸ガスを添加することも有効であり、これらの副添加ガスを1種、もしくは複数種用いて使用することも好ましい。更に、酸素または水素を主成分とするガスでもよい。なおここで酸素または水素を主成分とするガスとは、酸素または水素が体積含有比率で50%以上含むガスであることを意味する。
【0022】
高周波電源25は、金型設置台22と対向電極23との間に高周波電圧を印加する。印加される高周波は、処理ガス導入バルブ24によって導入される処理ガスが励起されてプラズマを生起させる程度の周波数及び電圧を有する。
ここで、高周波電圧の印加方法として、RFプラズマ、マイクロ波プラズマ、DCプラズマ等がいずれも使用可能である。多量のガラス付着物が堆積する金型等絶縁物質を含む金型の場合は、放電のし易さからRFプラズマ又はマイクロ波プラズマが好適である。更に、洗浄装置20の構成の簡便さから、RFプラズマが好適である。
【0023】
高周波放電に使用されるいわゆるRFプラズマの場合、金型設置台22を接地して対向電極23に高周波電圧を印加する図2に示すグラウンドモード、金型設置台22に高周波電圧を印加して対向電極23を接地するRFモード(後述する図3参照)、および金型設置台22にDC電源28(図4参照)を印加し金型設置台22と対向電極23に高周波電圧を印加するDCバイアスモード(後述する図4参照)、更に金型設置台と対向電極共にラジオ波を印加するRFバイアスモード(図示省略)がある。
排気バルブ26及び排気ポンプ27は、金型設置台22と対向電極23との間に形成される成形用金型21の周囲環境から、所定の真空度に達するまで空気を排出する。また、排気バルブ26及び排気ポンプ27は、処理が終了した後に、処理ガスを排気する際に使用される。
【0024】
以上の構成を有する洗浄装置20における金型の洗浄方法を以下に説明する。
成形用金型21が金型設置台22上の所定位置に搭載された後、排気バルブ26及び排気ポンプ27が協働して、所定の真空度に達するまで成形用金型21の周囲環境から空気を排出する。所定の真空度に達した後、処理ガス導入バルブ24から、処理ガスが導入される。
そして、金型設置台22と対向電極23との間に、高周波電源25によって高周波電圧が印加される。印加された高周波電圧により処理用ガスが分解されて、ラジカルやイオンが生成される。生成されたラジカルやイオンは、金型に堆積したガラス付着物に衝突して化学反応し、気化により付着ガラスが除去される。
除去することが可能な成分としては、炭素(C)、珪素(Si)、リン(P)、ホウ素B)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)から選ばれる少なくとも1種の単体、酸化物、窒化物またはフッ化物等が挙げられる。
【0025】
尚、上記洗浄方法は、上述したグラウンドモード、RFモード、DCバイアスモード、及びRFバイアスモードのいずれにも使用可能である。ただし、RFモード、DCバイアスモード、RFバイアスモードの場合は電場で加速されたイオンが成形用金型21に入射するため、物理的なエッチングが併用されることにより、成形用金型21に若干のダメージを与える可能性がある。
グラウンドモードの場合は、イオン入射が少なく成形用金型21へのダメージは少ないが、処理時間がやや長めになる。
従って、高周波電圧の印加方法は、付着ガラスのつき方、量、処理のタイミング等を考慮して使い分けることが望ましい。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
タングステンカーバイトを主成分とする超硬合金にPt−Ir被膜層が形成された成形用金型21を用い、ホウケイ酸塩クラウンガラスの一種で、光学ガラスの中で最も一般的なガラスのBK7を窒素雰囲気下で500ショット成形した。その後、使用した成形用金型21を前述の洗浄装置20(図2参照)に設置し、次にSFと酸素との混合比4:1の混合ガスを50SCCM(SCCMとは、当該ガスが25℃1気圧のときのcm/min)導入し、続いて13.56MHzの高周波電圧を200W印加し、60分間処理を行った。ガラス付着物の除去状態は平均表面粗さRaで評価した。金型のダメージは光学顕微鏡により目視で行った。
(実施例2)
図3は、実施例2にかかる洗浄装置30の構成図である。
金型設置台22に高周波電圧を印加して対向電極23を接地し(RFモード)、処理時間を30分とした点が、実施例1と相違する。他は実施例1と同様に洗浄処理を行った。
【0027】
(実施例3)
図4は、実施例3にかかる洗浄装置40の構成図である。
金型設置台22にDC電源28を印加し金型設置台22と対向電極23に高周波電圧を印加し(DCバイアスモード)、処理時間を30分とした点が、実施例1と相違する。他は実施例1と同様に洗浄処理を行った。
【0028】
図2に示す洗浄装置20を用い、処理ガスとしてCHClと酸素との混合比2:1の混合ガスを用いた。他は実施例1と同様に洗浄処理した。
【0029】
(比較例1)
上記実施例1と同じ成形用金型21を用い、BK7を窒素雰囲気下で200ショット成形した。その後、HF50%水溶液に2時間浸漬して洗浄処理を行った。
(比較例2)
上記実施例1と同じ成形用金型21を用い、BK7を窒素雰囲気下で200ショット成形した。その後、フッ化アンモニウム30%水溶液に5時間浸漬して洗浄処理を行った。
処理前及び処理後の平均表面粗さRaと金型ダメージとを表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から判るように、本実施の形態によれば、成形用金型21にダメージを与えることなく、且つ、短時間で付着ガラスを除去できることが判った。
【0032】
本実施の形態によれば、成形用金型21に与えるダメージを少なくできる。また、短時間で付着ガラスを除去できるので、成形用金型21を簡便かつ効率的に洗浄できる。
本実施の形態によれば、溶解液に浸漬して成形用金型21に堆積したガラス付着物を化学的に除去する洗浄方法に比して、水及び溶剤の洗浄と金型乾燥等の工程が不要となる。よって、溶解液を取り扱わないので安全であり、熟練作業者を必要としない。
【0033】
(他の実施の形態)
成形用金型21に材料として用いられる超硬合金、炭化珪素、グラッシーカーボン等は、フッ素系プラズマに対する耐久性が高いので、洗浄処理では金型設置台22上に成形用金型21を直接設置し、成形用金型21全体を洗浄処理しても大きな問題はないと考えられる。しかし、洗浄処理の繰り返しによるダメージの蓄積を抑制するためには、成形面15,16(図1参照)だけを露出し他の箇所を覆い隠して洗浄処理することが好適である。マスク50の一例を図5及び図6に示す。
【0034】
図5は、成形用金型21洗浄時に使用されるマスク50の斜視図であり、図6はその断面図である。
マスク50は、耐フッ素性が高い材料が好適であるが、軽量でかつ加工性が高い点で、アルミニウム(Al)が特に好適である。
【0035】
図5及び図6に示されているように、成形用金型21の成形面15,16のみが露出され、他の部分は覆い隠される。このような状態で、図2に示す洗浄装置20の金型設置台22上に配されて洗浄されることで、成形用金型21へのダメージの蓄積を回避できる。
更に、成形面15,16をほぼ平面にすることによりプラズマ放電時の電場を安定させることができ、処理の均一性と安定性を確保することが可能となる。高さが異なる成形用金型21に対しては、例えば、成形用金型21と同じ材料で構成されたスペーサ51を使用することにより同時に洗浄処理することが可能である。
【0036】
本実施の形態によれば、マスク50を用いることで洗浄処理に必要な成形面15,16だけが露出され他の箇所が覆い隠されるので、成形用金型21に与えるダメージを少なくできる。
【0037】
なお、成形用金型21の形状や、洗浄条件によって成形用金型21の洗浄・除去分布が一様でなくなる場合がある。この現象が生じる1つの要因として、成形用金型21の外周端に起こる電位集中により、成形用金型21の外周端にラジカルやイオンが集中的に衝突し、エッチングが加速されることが挙げられる。これが生じると、成形用金型21の外周端は、選択的にエッチングされやすい。そのため、成形用金型21の中心部と周辺部との洗浄分布が不均一となりやすく、加えて、成形用金型21の外周端が荒れやすくなる。
【0038】
このような洗浄状態の不均一を抑制するため、マスクには、成形用金型21が配される部分と隣接する部分に金属膜が形成されていることが好ましい。即ち、この金属膜は導電性であるため、成形用金型21に衝突するラジカルやイオンの分布が均一になりやすくなる。よって、上述した外周端に対するイオンの集中的な衝突を抑制しやすくなる。その結果、洗浄分布の不均一が生じにくくなると共に、成形用金型21の外周端を荒れにくくすることができる。
【0039】
図7は、成形用金型21が配される部分と隣接する部分に金属膜が形成されているマスク50の例を示した図である。また、図8は、図7に示すマスク50のX−X’断面図である。なお図7および図8において、成形用金型21は、図示していない。
図7に示したマスク50は、成形用金型21が配される円形状の孔部52の周囲に金属膜53が円環形状に形成されている。この金属膜53は、導電性であって、上述した洗浄装置による洗浄処理により除去されにくいものであれば、特に限定されるものではない。例えば、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)により形成することができる。また、これらの金属から選ばれる少なくとも1種を含む合金等であってもよい。
【0040】
この金属膜53の大きさは例えば孔部52の直径が15mmである場合、円環形状の内周部の直径を、15mm、外周部の直径を、30mmとすることができる。また、金属膜53の厚さは、5μmとすることができる。このような金属膜53は、蒸着、スパッタリング等の方法で作成することができる。
なお、図7に示したマスク50に形成されている金属膜53は、円環形状としたが、これに限られるものではなく、他の形状でもよい。例えば、金属膜53をマスク50の上面全体に形成してもよい。
【0041】
(実施例5)
図9は、実施例5において洗浄を行う成形用金型21を説明した図である。
図9で示した成形用金型21は、タングステンカーバイトを主成分とする超硬合金からなる。そして、成形面15,16の直径Lが15mmであり、高さHが10mmである。また、成形面15,16にカーボンよりなる被膜層が形成されている。
このような成形用金型21を使用し、BK7を窒素雰囲気下で500ショット成形した。その後、使用した成形用金型21を前述のRFモードを採用した洗浄装置30(図3参照)に設置した。このとき、マスク50を使用し、成形用金型21の成形面15,16は露出させ、他の部分は覆い隠すようにした。なお、マスク50としては、図7で説明を行った金属膜53が形成されたものを使用した。次に酸素ガスを100SCCM導入し、続いて13.56MHzの高周波電圧を500W印加し、10分間処理を行った。
【0042】
(実施例6)
マスク50として図5で説明した金属膜53が形成されていないものを使用したこと以外は、実施例5と同様にして成形用金型21の洗浄を行った。
【0043】
(実施例7)
洗浄装置として図4で説明を行ったDCバイアスモードを採用した洗浄装置40を使用したこと以外は、実施例5と同様にして成形用金型21の洗浄を行った。
【0044】
(実施例8)
マスク50として図5で説明した金属膜53が形成されていないものを使用し、洗浄装置として図4で説明を行ったDCバイアスモードを採用した洗浄装置40を使用したこと以外は、実施例5と同様にして成形用金型21の洗浄を行った。
【0045】
(実施例9)
成形用金型21の成形面15,16に形成する被膜層をシリコンカーバイト(SiC)にしたこと以外は、実施例5と同様に成形用金型21の洗浄を行った。
【0046】
(実施例10)
成形用金型21の成形面15,16に形成する被膜層をシリコンカーバイト(SiC)にしたこと以外は、実施例6と同様に成形用金型21の洗浄を行った。
【0047】
(実施例11)
成形用金型21の成形面15,16に形成する被膜層をシリコンカーバイト(SiC)にしたこと以外は、実施例7と同様に成形用金型21の洗浄を行った。
【0048】
(実施例12)
成形用金型21の成形面15,16に形成する被膜層をシリコンカーバイト(SiC)にしたこと以外は、実施例8と同様に成形用金型21の洗浄を行った。
【0049】
実施例5〜12について、次のような評価を行った。
洗浄を行った成形用金型21の成形面15,16を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて観察を行い、その画像により洗浄状態を目視にて判定した。
なお、本実施の形態においては、ガラス付着物のみならず被膜層も除去される。そしてこのとき、ガラス付着物および被膜層が除去されており、成形面15,16に荒れがなければ「◎」とした。また、ガラス付着物および被膜層が除去されているが、成形面15,16に荒れが発生している場合で、その荒れの程度が軽微なときは、「○」とした。
【0050】
また、判定は、成形用金型21の成形面15,16の3箇所において行った。
図10は、成形面15,16において観察を行った箇所について説明を行った図であり、成形用金型21を成形面15,16の方向から見た図である。観察を行った箇所は、成形面15,16の中央部であるA点、成形面15,16の外周端の任意の1点であるB点、および成形面15,16の外周端の1点でありB点に対し時計回りに90度回転させた箇所に位置するC点とした。
【0051】
以下の表2に判定結果を示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2から判るように、成形用金型21の洗浄を行う際に金属膜53を形成したマスク50を使用した場合は、被膜層の材質や洗浄装置の種類にかかわらず、ガラス付着物および被膜層が除去されており、荒れも生じていなかった。また、成形用金型21の洗浄を行う際に金属膜53を形成しないマスク50を使用した場合は、ガラス付着物および被膜層は除去されているが、成形用金型21の外周端において軽微な荒れが発生した。但し、成形用金型21の使用には問題がない程度であった。
【0054】
なお、以上の説明で成形用金型21の洗浄方法について説明を行ったが、以上の方法で洗浄を行えるのは、成形用金型21に限られるものではない。この洗浄が行われる被洗浄部材としては、成形用金型21の他に、光学素子製造装置における光学材料成分が付着した部材であればよい。例えば、機能膜の蒸着やスパッタの際に用いられるマスクの光学材料成分を除去したい場合や、機能膜の成膜に失敗した光学素子について再度成膜を行うため成膜に失敗した機能膜を除去したい場合などが挙げられる。
また、この場合も前述のマスク50を用いて、被洗浄部材の所定部分を露出させ、所定部分以外の箇所を覆い隠すことができる。これにより被洗浄部材の洗浄すべき所定部分において洗浄分布の不均一が生じにくくなると共に、被洗浄部材の端部を荒れにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施の形態にかかる成形用金型を使用したレンズ成形装置の構成図である。
【図2】本実施の形態にかかる成形用金型の洗浄装置の構成図である。
【図3】実施例2にかかる洗浄装置の構成図である。
【図4】実施例3にかかる洗浄装置の構成図である。
【図5】成形用金型洗浄時に使用されるマスクの斜視図である。
【図6】図5に示すマスクの断面図である。
【図7】成形用金型が配される部分と隣接する部分に金属膜が形成されているマスクの例を示した図である。
【図8】図7に示すマスクのX−X’断面図である。
【図9】実施例5において洗浄を行う成形用金型を説明した図である。
【図10】成形面において観察を行った箇所について説明を行った図であり、成形用金型を成形面の方向から見た図である。
【符号の説明】
【0056】
10…レンズ成形装置(ガラス光学素子製造装置)、17…レンズ(ガラス成形体、光学素子)、20,30,40…洗浄装置、21…成形用金型、22…金型設置台、23…対向電極、25…高周波電源、50…マスク、53…金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスを主成分とする素材をプレス成形してガラス光学素子を製造するガラス光学素子製造装置に使用される成形用金型の洗浄方法であって、
洗浄すべき前記成形用金型を前記ガラス光学素子製造装置から取り外す工程と、
取り外された前記成形用金型を、当該成形用金型を洗浄する洗浄装置に設置する工程と、
前記洗浄装置にて、設置された前記成形用金型の周囲環境に所定のガスを導入する工程と、
導入された所定のガスに高周波電圧を印加してプラズマ化し、前記成形用金型の表面をプラズマ化されたガスに晒す工程と
を含むことを特徴とする成形用金型の洗浄方法。
【請求項2】
前記所定のガスは、ハロゲン元素を含むガス(但し、フッ化水素(HF)及び塩化水素(HCl)を除く)であることを特徴とする請求項1に記載の成形用金型の洗浄方法。
【請求項3】
前記所定のガスは、フッ化炭素(CF4)、4フッ化硫黄(SF4)、6フッ化硫黄(SF6)、及び6フッ化2炭素(C2F6)のうち少なくともいずれか1種類のガスを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の成形用金型の洗浄方法。
【請求項4】
取り外された前記成形用金型を当該成形用金型を洗浄する洗浄装置に設置する前記工程は、当該成形用金型の成形面を露出させ、当該成形面以外の箇所を覆い隠すためのマスクを使用して設置することを特徴とする請求項1に記載の成形用金型の洗浄方法。
【請求項5】
ガラス光学素子製造装置に使用される被洗浄部材の洗浄方法であって、
洗浄すべき前記被洗浄部材を前記ガラス光学素子製造装置から取り外す工程と、
取り外された前記被洗浄部材を、当該被洗浄部材の所定部分を露出させ当該所定部分以外の箇所を覆い隠すためのマスクを使用して洗浄装置に設置する工程と、
前記洗浄装置にて、設置された前記被洗浄部材の周囲環境に所定のガスを導入する工程と、
導入された所定のガスに高周波電圧を印加してプラズマ化し、前記被洗浄部材の表面をプラズマ化されたガスに晒す工程と
を含むことを特徴とする被洗浄部材の洗浄方法。
【請求項6】
前記マスクは、前記被洗浄部材が配される部分と隣接する部分に金属膜が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の被洗浄部材の洗浄方法。
【請求項7】
前記金属膜は、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)から選ばれる少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項6に記載の被洗浄部材の洗浄方法。
【請求項8】
導入された所定のガスに高周波電圧を印加してプラズマ化し前記被洗浄部材の表面をプラズマ化されたガスに晒す前記工程は、炭素(C)、珪素(Si)、リン(P)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)から選ばれる少なくとも1種類の単体、酸化物、窒化物またはフッ化物を除去するためのものであることを特徴とする請求項5に記載の被洗浄部材の洗浄方法。
【請求項9】
前記所定のガスは、ハロゲン元素を含むガス(但し、フッ化水素(HF)及び塩化水素(HCl)を除く)であることを特徴とする請求項5に記載の被洗浄部材の洗浄方法。
【請求項10】
前記所定のガスは、CF4、C2F6、SF4、SF6のうち少なくともいずれか1種類のガスを含むことを特徴とする請求項5に記載の被洗浄部材の洗浄方法。
【請求項11】
前記所定のガスは、酸素または水素を主成分とするガスであることを特徴とする請求項5に記載の被洗浄部材の洗浄方法。
【請求項12】
ガラスを主成分とする素材をプレス成形してガラス光学素子を製造するガラス光学素子製造装置から、洗浄すべき成形用金型を取り外す工程と、
取り外された前記成形用金型を、当該成形用金型を洗浄する洗浄装置に設置する工程と、
前記洗浄装置にて、設置された前記成形用金型の周囲環境に所定のガスを導入する工程と、
導入された所定のガスに高周波電圧を印加してプラズマ化し、前記成形用金型の表面をプラズマ化されたガスに晒す工程と、
プラズマ化されたガスに晒された後に前記成形用金型を前記ガラス光学素子製造装置に再度取り付ける工程と、
前記成形用金型が取り付けられた前記ガラス光学素子製造装置を使ってガラス光学素子をプレス成形により製造する工程と
を含むことを特徴とするガラス光学素子の製造方法。
【請求項13】
前記成形用金型は、タングステンカーバイト(WC)、炭化珪素、グラッシーカーボン、インコネル、スタバックス、及びダイス鋼のうちいずれかひとつを主成分とする母材を含んで構成されることを特徴とする請求項12に記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項14】
前記洗浄装置は、前記成形用金型を搭載する設置する金型設置台と、当該金型設置台に対向配置された対向電極とを含み、
前記金型設置台と前記対向電極との間には高周波電圧が印加されることを特徴とする請求項12に記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項15】
前記洗浄装置は、当該洗浄装置の対向電極に高周波電圧が印加されることを特徴とする請求項14に記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項16】
前記洗浄装置は、当該洗浄装置の金型設置台に高周波電圧が印加されることを特徴とする請求項14に記載のガラス光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−73723(P2009−73723A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168895(P2008−168895)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)