説明

手巻き式携帯時計及びこの時計が備える竜頭の操作方法

【課題】 竜頭をロック状態とするとき、及び竜頭のロック状態を解除してぜんまいを巻き上げるときの竜頭の操作性を向上できる手巻き式の携帯時計を提供する。
【解決手段】 ぜんまいを巻き上げる回転をぜんまいに伝達するとともにぜんまいを巻戻す回転がぜんまいに伝達されないようにする一方向クラッチを有したムーブメント13と巻真45を、時計外装組立11の胴14に内蔵し、胴にその外部に配置される雄ねじ部32を有した巻真パイプ31を固定し、巻真に接続された竜頭35を雄ねじ部32に着脱可能に噛合わせ、竜頭の係合端面37aを胴の係止面14cに接触させて竜頭をロック状態に保つ腕時計10を前提とする。竜頭35をロック状態にするときに竜頭35がぜんまいの巻き上げ方向と逆方向に回転操作され、ロック状態を解除しかつぜんまいを巻き上げるときにぜんまいの巻き上げ方向と同方向に竜頭35が回転操作されることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯中に不用意に回転されないようにロックされる竜頭を備えた手巻き式ダイバーズウォッチ等の携帯時計、及びこの時計が備えた前記竜頭の操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯時計の中には、ねじ部の噛み合いを利用して竜頭が不用意に回転されないようにしたロック構造を備えたものが、従来知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この従来のロック構造において、竜頭は、巻真を連動する竜頭軸と、この軸を回転させる竜頭ヘッドを具備している。竜頭軸の軸端部は、ムーブメントが内蔵された胴に固定された巻真パイプの外に配置されている。これとともに、前記軸端部の周部に異形形状の回転力受け部を形成し、竜頭ヘッドに雌ねじ部及び異形形状の回転力伝達部を設けている。回転力伝達部は、雌ねじ部より大径で、かつ、雌ねじ部に連続して形成されている。回転力伝達部は回転力受け部に着脱可能であるとともに、この回転力伝達部と回転力受け部は、竜頭ヘッドと竜頭軸との間での動力の伝達又はその解除を担う一種の噛み合いクラッチを形成している。
【0004】
この携帯時計では、巻真パイプの雄ねじ部が胴の外側に位置されていて、この雄ねじ部に竜頭の雌ねじ部が着脱可能に噛合わされている。これらの噛み合いにより竜頭の係合端面が胴の外周部に形成された係止面に接するロック状態とすることで、竜頭を不用意に回転されないように保つことができる。このように竜頭がロックされた状態では、回転力伝達部は回転力受け部から離れていて、前記噛み合いクラッチは回転力の伝達を切った状態にある。
【0005】
雌ねじ部と雄ねじ部との噛合わせが外された状態、つまり、竜頭のロック状態が解除された状態では、竜頭ヘッドが弾性体の付勢力で胴から離れる方向に移動されるようになっている。この移動に伴い、回転力伝達部が回転力受け部に嵌合されて、前記噛み合いクラッチは連結されて回転力の伝達を可能とする状態になる。そのため、ロックが外された状態で竜頭ヘッドが回転されると、嵌合している回転力伝達部及び回転力受け部を介して竜頭軸に回転が伝えられて、巻真を回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−127816号公報(段落0011−0055、図1−図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の携帯時計では、竜頭をロック状態とするために、竜頭ヘッドの雌ねじ部をパイプの雄ねじ部に噛合わせる回転操作の際に、巻真が連動して回されることがない。そのため、ムーブメントがその動力源としてぜんまいを有している手巻き式の携帯時計の場合、ぜんまいに影響されずに竜頭をロックする操作を軽くできる利点がある。
【0008】
しかし、竜頭のロック状態を解除する際、雌ねじ部と雄ねじ部の噛み合いが外れてから回転力伝達部が回転力受け部に係合されるまでの間、竜頭ヘッドは、支持されず、ぐらつく可能性がある。そのため、竜頭の操作が不安定になり、回転力受け部に対して回転力伝達部が円滑に係合できないことがある。すなわち、回転力伝達部と回転力受け部とからなる噛み合いクラッチを「入り(連結)」状態にするための操作性がよくないことがある、という課題がある。
【0009】
又、特許文献1には、ぜんまいを巻上げる際の竜頭の回転方向、及びロック状態を解除する際の竜頭の回転方向については記載がない。しかし、一般的に、ぜんまいの巻き上げは、竜頭を右回り(時計回り)に回転させることでなされている。これとともに、雄ねじ部と雌ねじ部との噛み合いを解除するには、竜頭を左回り(反時計回り)に回転させることでなされている。
【0010】
このため、竜頭のロック状態を解除し、引き続いてぜんまいを巻き上げるには、まず、竜頭を左回りに回転して竜頭のロック状態を解除し、この後、竜頭を右回りに回転してぜんまいを巻き上げなければならない。こうした手順では、竜頭のロックが外されたかどうかを確認する必要があるとともに、この確認に基づいて竜頭をそれまでとは逆回りに回転させるので、竜頭のロック状態の解除からぜんまいの巻き上げを一挙動と同様な操作で行うことができず、使い勝手がよくない、という課題がある。
【0011】
本発明の目的は、竜頭をロック状態とするとき、及び竜頭のロック状態を解除してぜんまいを巻き上げるときの竜頭の操作性を向上できる手巻き式の携帯時計及びこの時計が備える竜頭の操作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明の携帯時計は、ぜんまい、及びこのぜんまいを巻き上げる回転を前記ぜんまいに伝達するとともに前記ぜんまいを巻戻す回転が前記ぜんまいに伝達されないように動作する一方向クラッチを有したムーブメントと、このムーブメントに回転を伝達する巻真と、外周部に係止面が形成された胴を有し前記ムーブメント及び巻真が内蔵された時計外装組立と、前記胴の外部に配置される雄ねじ部を有して前記胴に固定された巻真パイプと、前記胴の外部に配置される竜頭ヘッドを有し、前記雄ねじ部に着脱可能に螺合される雌ねじ部及び前記係止面に接離される係合端面が前記竜頭ヘッドに形成されていて、前記係合端面を前記係止面に接触させてロック状態に保たれる際に前記ぜんまいの巻き上げ方向と逆方向に回転操作され、前記ロック状態を解除しかつ前記ぜんまいを巻き上げるときに前記ぜんまいの巻き上げ方向と同方向に回転操作される竜頭と、を具備したことを特徴としている。
【0013】
本発明では、竜頭内に噛み合いクラッチを設けていないにも拘らず、竜頭をロック状態とする場合は、ぜんまいの巻き上げ時の竜頭の回転方向とは逆方向に竜頭が回転操作されるに伴い、ムーブメントが有した一方向クラッチが動力伝達を断つ状態となる。このため、ぜんまいの巻き上げ負荷を受けないで竜頭をロック状態にできるとともに、この際、ぜんまいが巻き上がっていても、このぜんまいが更に巻き上げられることがないので、竜頭をロック状態にする時の竜頭の回転が重くなることがない。しかも、竜頭のロック状態を解除してぜんまいを巻き上げるときは、竜頭のロック状態を解除する際の竜頭の回転方向と、これに引き続くぜんまいの巻き上げのための竜頭の回転方向が同じである。このため、竜頭の回転方向を気にすることなく回転操作の連続性が図れるので、竜頭の操作性を向上できる。
【0014】
本発明の携帯時計の好ましい形態では、前記ぜんまいの巻き上げ方向と逆方向に前記竜頭が回転されたときに、前記係合端面が前記係止面に接する方向に前記竜頭が移動されるように前記雄ねじ部及び前記雌ねじ部が形成されていることを特徴としている。
【0015】
この好ましい形態では、巻真パイプの雄ねじ部と竜頭の雌ねじ部とを噛み合わせて、竜頭をぜんまいの巻き上げ方向と逆方向に回転操作することによって、竜頭を胴側に移動させるとともにその係合端面を胴の係止面に接触させて、竜頭をロック状態に保つことができる。これとともに、前記ロック状態を解除してぜんまいを巻き上げるときに、竜頭がぜんまいの巻き上げ方向と同方向に回転されるため、ムーブメントのぜんまいの巻き上げ方向に合わせて雄ねじ部と雌ねじ部を形成することで、その他の部位の構成が従来と同じでありながら、本発明の課題を解決できる。
【0016】
本発明の携帯時計の好ましい形態では、前記竜頭が右回りに回転操作された際に前記ぜんまいが巻き上げられるとともに、前記竜頭が左回りに回転操作された際に前記竜頭が前記ロック状態に配置されることを特徴としている。
【0017】
この好ましい形態では、ぜんまいを巻上げるために竜頭が、従来一般的な竜頭の回転方向と同じく右回りに回転操作されるので、ぜんまいを巻上げる操作において違和感がない。これとともに、竜頭をロック状態とするにはこの竜頭を左回りに回転操作することで実現できるので、こうした右回り及び左回りの回転操作を可能とする雄ねじ部と雌ねじ部を形成することで、その他の部位の構成が従来と同じでありながら、本発明の課題を解決できる。
【0018】
本発明の携帯時計の好ましい形態では、前記竜頭をロック状態とする場合の前記竜頭の回転方向を示す表示を前記竜頭ヘッドの正面に設けたことを特徴としている。
【0019】
この好ましい形態では、竜頭ヘッドの表示にしたがって竜頭を回転操作することにより、竜頭をロック状態とする上で、竜頭の回転方向を間違えることを抑制できる、という利点がある。
【0020】
又、本発明の携帯時計が備える竜頭の操作方法は、ぜんまい、及びこのぜんまいを巻き上げる回転を前記ぜんまいに伝達するとともに、前記ぜんまいを巻戻す回転が前記ぜんまいに伝達されないように動作する一方向クラッチを有したムーブメントと、このムーブメントに回転を伝達する巻真と、外周部に係止面が形成された胴を有し前記ムーブメント及び巻真が内蔵された時計外装組立と、前記胴の外部に位置される雄ねじ部を有して前記胴に固定された巻真パイプと、前記胴の外部に位置される竜頭ヘッドを有し、前記雄ねじ部に着脱可能に螺合される雌ねじ部及び前記係止面に接離される係合端面が前記竜頭ヘッドに形成されていて、前記係合端面を前記係止面に接触させてロック状態に保たれる竜頭と、を具備する携帯時計を前提とする。
【0021】
そして、前記課題を解決するために、本発明の竜頭の操作方法は、前記竜頭を前記ロック状態にするとき、前記竜頭を前記ぜんまいの巻き上げ方向と逆方向に回転操作し、前記ロック状態から前記ぜんまいを巻き上げるとき、前記竜頭を前記ぜんまいの巻き上げ方向と同方向に回転操作して、前記ロック状態を解除するとともにこの解除に連続して前記同方向への前記竜頭の回転操作を継続することを特徴としている。
【0022】
この竜頭の操作方法では、竜頭をロック状態とする場合の竜頭の回転操作では、ぜんまいの巻き上げ時の竜頭の回転方向とは逆方向に竜頭が回転されるに伴い、一方向クラッチが動力伝達を断つ状態となるので、ぜんまいの巻き上げ負荷を受けないで竜頭をロックできるとともに、この際、ぜんまいが巻き上がっていても、このぜんまいが更に巻き上げられることがないので、竜頭をロックする際の竜頭の回転操作が重くなることがなく、竜頭の操作性を向上できる。しかも、竜頭のロック状態を解除してぜんまいを巻き上げるときは、竜頭のロック状態を解除する際の竜頭の回転方向と、これに引き続くぜんまいの巻き上げのための竜頭の回転方向が同じであり、竜頭の回転方向を気にすることなく回転操作の連続性が図れるので、竜頭の操作性を向上できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、竜頭をロック状態とするとき、及び竜頭のロック状態を解除してぜんまいを巻き上げるときの竜頭の操作性を向上できる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態に係る手巻き式の腕時計をその竜頭がロックされた状態で示す正面図である。
【図2】図1中F2−F2線に沿って示す断面図である。
【図3】一実施の形態に係る腕時計をその竜頭のロックが解除された状態で示す正面図である。
【図4】図3中F4−F4線に沿って示す断面図である。
【図5】一実施の形態に係る腕時計の竜頭まわりを示す側面図である。
【図6】一実施の形態に係る腕時計が備えるムーブメントの一部を巻真とともに示す斜視図である。
【図7】一実施の形態に係る腕時計が備えるムーブメントの一方向クラッチまわりを示す斜視図である。
【図8】一実施の形態に係る腕時計が備えるムーブメントが有した香箱車とこれに収容されたぜんまいとの関係をぜんまいが巻かれる前の状態で示す図である。
【図9】一実施の形態に係る腕時計が備えるムーブメントが有した香箱車とこれに収容されたぜんまいとの関係をぜんまいが巻かれた状態で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図1から図9を参照して本発明の一実施の形態について、詳細に説明する。
【0026】
図1〜図4中符号10は手巻き式の携帯時計例えば手巻き式の腕時計を示している。図2及び図4に示すように腕時計10の時計外装組立11には、時刻表示板12及びムーブメント13が内蔵されているとともに、図1〜図4に示すように時計外装組立11の周部に竜頭35が取付けられている。
【0027】
図2及び図4に示すように時計外装組立11は、胴14と、カバーガラス16と、裏蓋18を備えている。胴14は、金属製であり、かつ、環状に形成されている。この胴14は、その正面側に装着されたガラス支持部材14aを有している。ガラス支持部材14aは金属等により環状に形成されている。なお、ガラス支持部材14aと、それ以外の胴14の部位、つまり、胴主部とは、以上のように別体ではなく一体に形成することもできる。
【0028】
胴14の外周部、具体的には前記胴主部の外周部に、溝14bが形成されている。溝14bは時刻表示板12の3時を示した時刻表記に対応して設けられていて、時計外装組立11の正面側及び裏面側並びに側方に開放されている。胴14はその厚み方向と平行な係止面14cを有しており、この係止面14cは溝14bの底面で形成されている。
【0029】
カバーガラス16は、その周部をガラス支持部材14aに液密に接続して、胴14の厚み方向の一面からなる正面を塞いで装着されている。裏蓋18は、金属等からなり、胴14の厚み方向の他面からなる裏面を液密に塞いで胴14に螺着されている。
【0030】
胴14のガラス支持部材14a以外の部位、つまり、胴主部には、胴14を径方向に貫通するパイプ取付け孔15が開けられている。パイプ取付け孔15の一端は、胴14で囲まれた胴内空間14dに開口されている。パイプ取付け孔15の他端は、係止面14cに開口されている。
【0031】
胴内空間14dに配設されたムーブメント13は、竜頭35の手動操作で巻き上げられるぜんまい28(図8及び図9参照)を動力源とした機械式のものである。このムーブメント13は、例えば従来一般的なものであり、ぜんまい28を巻き上げるために、図6に示すようにつづみ車20、きち車21、一方向クラッチ22、丸穴車23、丸穴伝え車24、揺動車25、角孔車26、及び香箱車27等を備えている。
【0032】
つづみ車20は後述の巻真45に接続されている。つづみ車20は図示しない角軸部を有しており、この角軸部を巻真45が有した図示しない角穴に挿入して接続されている。このため、つづみ車20は巻真45の回転に連動して回転され、かつ、つづみ車20の角軸部に沿って巻真45は軸方向に移動可能であり、この移動により巻真45及び竜頭35が「0段」、「1段」、「2段」の各位置に移動される。なお、つづみ車20は「1段」の位置で、きち車21との動力伝達が解除されるとともに、図示しないカレンダー修正の歯車列に接続され、「2段」の位置で図示しない時刻修正の歯車列に接続されるようになっている。
【0033】
巻真45のつづみ車側端部の外周は円形に形成されていて、この外周にきち車21が回転自由でかつ巻真45の軸方向には移動不能に嵌合されている。一方向クラッチ22は、つづみ車20ときち車21の動力の伝達とその解除を担うものであって、例えば図7に示すように斜面が形成された複数の爪部を有した一対のクラッチ片22a,22bを備える噛合いクラッチが用いられている。クラッチ片22aはつづみ車20に一体に形成され、クラッチ片22bは巻真45とともに移動されるきち車21に一体に形成されている。この一方向クラッチ22は、巻真45が右回り(時計回り)に回された際にクラッチ片22a,22bの噛み合いを維持して、つづみ車20からきち車21への動力を伝達する。この逆に、一方向クラッチ22は、巻真45が左回り(反時計回り)に回された際にクラッチ片22a,22bの噛み合いを解除して、つづみ車20からきち車21への動力の伝達を解除する。
【0034】
図6に示すように丸穴車23は、きち車21に対して直角となるように配設されて、きち車21に噛み合わされている。丸穴伝え車24は丸穴車23に噛み合わされ、揺動車25は丸穴伝え車24に噛み合わされている。更に、角孔車26は揺動車25に噛み合わされている。角孔車26は香箱車27の側面に設けられている。したがって、巻真45の回転がきち車21に伝えられると、丸穴車23、丸穴伝え車24、揺動車25、及び角孔車26がなす歯車列を経由して、香箱車27が回転されるようになっている。
【0035】
図8及び図9に示すように香箱車27にぜんまい28が収容されている。ぜんまい28の巻終わり端部28aは、A部でぜんまい外掛け部材29に溶接されている。ぜんまい外賭け部材29は、香箱車27の周壁内面に開放する溝27aに引っ掛かっている。ぜんまい28の巻始め端部28bは香箱車27の中央部に固定されている。このぜんまい28は、後述の竜頭35が例えば右回り(時計回り)に回転操作された場合に、香箱車27が右回りに回転されて巻き上げられるようになっている。ぜんまい28が巻き上げられた状態を図9に示し、ぜんまい28が巻き戻された状態を図8に示す。このぜんまい28が巻き戻る力でムーブメント13が駆動されるようになっている。
【0036】
図2及び図4に示すように胴14に金属製の巻真パイプ31が取付けられている。巻真パイプ31は、胴14の外側からパイプ取付け孔15に挿入されて、胴14にろう付けされている。巻真パイプ31は、その軸方向両端が夫々開放された円筒状に形成されているとともに、胴14の外部に配置されるパイプ端部31aを備えている。パイプ端部31aは係止面14cに対して直角で側方に突出されている。
【0037】
パイプ端部31aはその外周部に雄ねじ部32を有している。雄ねじ部32は、後述する竜頭35をロック状態とする際の竜頭35の回転に伴い一方向クラッチ22が切れる(動力伝達を断つ)ように、ぜんまい28の巻き上げ方向とは逆方向に巻かれたねじ山を有するねじ部で形成されている。更に、この雄ねじ部32は、後述の竜頭35がぜんまい28の巻き上げ方向とは逆方向に回転されたときに、後述の係合端面37aが係止面14cに接する方向に竜頭35が移動されるように形成されている。そのために本実施形態では例えば左ねじで雄ねじ部32が形成されている。
【0038】
金属製の竜頭35は、竜頭軸36、及びこの竜頭軸36が中央部から一体に突出して形成された竜頭ヘッド37を有している。竜頭軸36はその先端が開放された円形パイプ状である。この竜頭軸36の先端部外周に、ゴムやエラストマ等の弾性材料からなる円環形の防水パッキン38が装着されている。更に、竜頭軸36の先端部内側に接続リング39が固定されている。この接続リング39の中心孔は角孔である。
【0039】
竜頭ヘッド37は竜頭軸36より短いとともに大径であり、これらの間に竜頭軸36の根元部外周を囲む円形の逃げ溝41が形成されている。逃げ溝41には、巻真パイプ31に対する竜頭35の着脱に伴ってパイプ端部31aが挿脱可能である。竜頭ヘッド37は、逃げ溝41の開放端に連続する円形の係合端面37aを有している。この係合端面37aは竜頭軸36の軸方向と直交する面と平行である。竜頭ヘッド37の外周面37bは、竜頭35を回転操作する使用者の指が滑り難くするために、凹凸面をなしたローレット加工面で形成されている。
【0040】
更に、竜頭ヘッド37はその内周部に巻真パイプ31の雄ねじ部32に着脱可能に螺合される雌ねじ部42を有している。この雌ねじ部42は、雄ねじ部32と同様に竜頭35をロック状態とする際の竜頭35の回転に伴い一方向クラッチ22が切れるように、ぜんまい28の巻き上げ方向とは逆方向に巻かれたねじ山を有するねじ部で形成されている。更に、この雌ねじ部42は、後述の竜頭35がぜんまい28の巻き上げ方向とは逆方向に回転されたときに、後述の係合端面37aが係止面14cに接する方向に竜頭35が移動されるように形成されている。そのために、本実施形態では例えば雄ねじ部32と同様に左ねじで雌ねじ部42が形成されている。
【0041】
竜頭ヘッド37の正面に図5に示すように表示40が刻印されている。この表示40は、竜頭35をロック状態とする場合の竜頭35の回転方向を示すもので、矢印とともに例えば「LOCK」なる文字列で形成されている。
【0042】
竜頭35の竜頭軸36は胴14の外側から巻真パイプ31に挿入されている。この巻真パイプ31の内周面に胴内空間14dに対する防水を図る防水パッキン38が摺動可能に接触されている。これとともに、竜頭35の雌ねじ部42が巻真パイプ31の雄ねじ部32に螺合されて、竜頭35が巻真パイプ31に着脱可能に取付けられている。
【0043】
竜頭35の回転等をムーブメント13に伝える金属製の巻真45が竜頭35に接続されている。即ち、胴内空間14dに配設された巻真45の一端部が、ムーブメント13に接続されており、竜頭35側に配設された巻真45の他端部は、竜頭軸36内にその先端開口を通って挿入されている。この巻真45の他端部は接続リング39の中心孔に応じた角軸形状(図示しない)をなしており、この角軸形状部は前記中心孔を摺動可能に挿通している。この中心孔と巻真45の他端部(角軸形状部)との嵌合により竜頭35の回転が巻真45に伝えられるようになっている。
【0044】
更に、巻真45の他端部に竜頭軸36内に配置される止め輪46が取付けられている。止め輪46は巻真45の軸方向には移動できないように保持されている。竜頭軸36には、止め輪46をばね受けとして用いるコイルばね47が収容されていて、このコイルばね47のばね力で、竜頭35が胴14の係止面14cから離れる方向に付勢されている。
【0045】
以上の構成を備えた腕時計10において、竜頭35が不用意に回転されないようにロックされた状態は、図2に示されている。このロック状態では、竜頭35の雌ねじ部42が巻真パイプ31の雄ねじ部32に噛み合わされている(螺合されている)とともに、竜頭35の係合端面37aが胴14の係止面14cに接している。そのため、係止面14cをストッパとして、竜頭35は表示40が示した方向にそれ以上回すことができないように位置決めされている。
【0046】
このロック状態では、巻真パイプ31に対する竜頭軸36の挿入深さが最大であるに伴い、コイルばね47が強く圧縮された状態にあって、竜頭35が胴14から離れる方向に強く付勢されている。それにも拘らず、前記噛み合いによって竜頭35が胴14から離れる方向に動かされることはない。
【0047】
竜頭35のロック状態を解除する場合には、竜頭35を右回り(時計回り)に回転すればよい。それにより、雄ねじ部32と雌ねじ部42との噛み合いの状態が変わって、係合端面37aが胴14の係止面14cから離れる方向に竜頭35が移動されるので、ロック状態が解除され、やがて、雄ねじ部32に対する雌ねじ部42の噛み合いが外される。これと同時に、竜頭35が、コイルばね47のばね力により、接続リング39が止め輪46に当たるまで押し出される。こうしたロック解除状態を図3及び図4に示す。
【0048】
以上のようにロックが解除されて竜頭35が押し出された状態、つまり「0段」の状態で、竜頭35を引き続いて右回り(時計回り)に回転することにより、ムーブメント13のぜんまい28を巻き上げることができる。この場合、竜頭35の回転方向は、ムーブメント13が有した一方向クラッチ22が「入り」状態、言い換えれば、連結状態となる方向であるので、竜頭35の回転が巻真45を介してムーブメント13に伝達されて、ぜんまい28が巻き上げられる。
【0049】
既述のように竜頭35のロック状態を解除するときの竜頭35の回転方向と、それに引き続くぜんまい28を巻き上げるための竜頭35の回転方向は同じである。そのため、竜頭35のロック状態を解除してぜんまい28を巻き上げる際、竜頭35のロック状態が解除されたかどうかを確認する必要がないとともに、この確認に基づいて竜頭35をそれまでとは逆回りに回転させる手間を要しない。
【0050】
即ち、竜頭35のロック状態を解除するための回転をロック状態が解除された後も単に継続する、という簡単な操作で、竜頭35の回転方向等を気にすることなく、竜頭35のロック状態の解除とぜんまい28の巻き上げを連続して行える。このように竜頭35のロック状態の解除とぜんまい28を巻き上げる場合において、竜頭35の回転方向が同一で連続的に竜頭35を回転操作すればよいので、竜頭35の操作性を向上できる。なお、ぜんまい28の巻き上げの完了は、ぜんまい28が巻き上がることで急激に増えるぜんまい28の負荷により、竜頭35の回転が重くなることで知覚できる。
【0051】
更に、ぜんまい28を巻き上げ可能な図3及び図4の状態から日付け合わせをする場合には、係止面14cに対して竜頭35が更に離れるように竜頭35を引き動かして日付け合わせ位置、つまり「1段」の位置に竜頭35を配置した上で、この竜頭35を回転して行うことができる。更に、時刻合わせをする場合、竜頭35を「1段」の位置から更に時刻合わせ位置、つまり、「2段」の位置に引き動かした上で、この竜頭35を回転することにより、時刻合わせ行うことができる。なお、これら両配置のいずれかに竜頭35が配置された場合、それに伴い一方向クラッチ22の噛み合いが外される(言い換えれば一方向クラッチ22が切れた状態になる)ので、日付け合わせ又は時刻合わせのために竜頭35を回転する上で、ぜんまい28が負荷となることはない。
【0052】
前記各操作後に竜頭35を再びロック状態に戻すには、竜頭35をコイルばね47に抗して胴14側に押し戻した上で、竜頭35を回転操作して、その雌ねじ部42を巻真パイプ31の雄ねじ部32に螺合させればよい。この場合、竜頭ヘッド37の表示40にしたがって竜頭35を回転すればよい。それにより、竜頭35をロック状態とする上で、竜頭35の回転方向を間違えることを抑制できる。
【0053】
以上の手順で竜頭35をロック状態に戻すとき、竜頭35はぜんまい28の巻き上げ方向とは逆方向に回転操作される。具体的には竜頭35を左回りに回転操作する。それによる雌ねじ部42と雄ねじ部32の噛み合いの変化で、竜頭35が胴14の係止面14cに近づくように移動され、やがて、竜頭35の係合端面37aが係止面14cに当たる。したがって、この接触により腕時計10の携帯時等に竜頭35が不要に回転されないように竜頭35をロック状態に保つことができる。
【0054】
こうして竜頭35をロック状態にする際、既述のようにぜんまい28の巻き上げ方向と逆方向に竜頭35が回転されると同時に、巻真45が竜頭35と同方向に回転される。このときの巻真45の回転方向は、一方向クラッチ22を「切」状態とする回転であるので、この一方向クラッチ22の駆動側のクラッチ片22aが受動側のクラッチ片22bを滑るように空転する。このため、ぜんまい28を巻き戻すように左回りに回転された竜頭35の回転は、一方向クラッチ22を介してきち車21には伝達されない。
【0055】
このように竜頭35をロック状態にする場合には、竜頭35とぜんまい28が巻真45及び一方向クラッチ22を介して接続されていないから、竜頭35の回転操作に対してぜんまい28が負荷にならない。そのため、ぜんまい28が充分に巻き上がっている状態にあっても、このぜんまい28を原因として、竜頭35をロック状態にする場合の竜頭35の回転操作が重くなることがない。このようにぜんまい28の巻き上げ負荷を受けないで竜頭35を回転してロック状態とできるので、竜頭35の操作性を向上できる。
【0056】
又、前記構成の携帯時計10は、既述のようにムーブメント13が有した一方向クラッチ22を利用して、竜頭35をロック状態とする場合の竜頭35の回転操作を、ぜんまい28の巻き上げ負荷を受けないで行える。このため、竜頭35を回転してロック状態に保つ場合にぜんまい28の巻き上げ負荷を受けないようにするための専用のクラッチを必要としない。即ち、従来技術のように竜頭を竜頭ヘッドと竜頭軸に分けるとともにこれらの間に噛み合いクラッチを竜頭ヘッド37の内側に設ける工夫が不要であり、竜頭軸36と竜頭ヘッド37を一体にして竜頭35を形成できるので、竜頭35の構成が簡単でかつ竜頭35の竜頭ヘッド37が厚くならないようにできる。
【0057】
しかも、本実施形態では、竜頭35が右回りに回転された際にぜんまい28が巻き上げられるとともに、竜頭35が左回りに回転された際に竜頭35がロック状態に配置されるようになっている。そのため、ぜんまい28を巻上げるために竜頭35が、一般的な手巻き式式携帯時計の竜頭の回転方向と同じく右回りに回転されるので、ぜんまい28を巻上げる操作において違和感がない。これとともに、竜頭35をロック状態とするには、この竜頭35を左回りに回転することで実現できる。そのため、こうした回転操作を可能とする雄ねじ部32と雌ねじ部42を形成することで、ムーブメント13等その他の部位の構成が従来と同じで済むので、実施が容易である。
【0058】
なお、前記一実施形態では、竜頭35が右回りに回転されたときに、竜頭35のロック状態が解除されるとともにぜんまい28が巻き上げられ、この逆に竜頭35が左回りに回転されたときに、竜頭35がロック状態に螺合されるとともに、竜頭35の回転がぜんまい28に伝達されないように一方向クラッチ22が切れるように構成したが、この逆にして実施することもできる。つまり、本発明は、竜頭35が左回りに回転されたときに、竜頭35のロック状態が解除されるとともにぜんまい28が巻き上げられ、この逆に竜頭35が右回りに回転されたときに、竜頭35がロック状態に螺合されるとともに、竜頭35の回転がぜんまい28に伝達されないように一方向クラッチ22が切れるように構成して実施できる。
【0059】
又、本発明は、腕時計以外の携帯時計、例えば懐中時計にも適用できる。
【符号の説明】
【0060】
10…腕時計(携帯時計)
11…時計外装組立
13…ムーブメント
14…胴
14c…係止面
22…一方向クラッチ
28…ぜんまい
31…巻真パイプ
32…雄ねじ部
35…竜頭
36…竜頭軸
37…竜頭ヘッド
37a…係合端面
40…表示
42…雌ねじ部
45…巻真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ぜんまい、及びこのぜんまいを巻き上げる回転を前記ぜんまいに伝達するとともに前記ぜんまいを巻戻す回転が前記ぜんまいに伝達されないように動作する一方向クラッチを有したムーブメントと、
このムーブメントに回転を伝達する巻真と、
外周部に係止面が形成された胴を有し前記ムーブメント及び巻真が内蔵された時計外装組立と、
前記胴の外部に配置される雄ねじ部を有して前記胴に固定された巻真パイプと、
前記胴の外部に配置される竜頭ヘッドを有し、前記雄ねじ部に着脱可能に螺合される雌ねじ部及び前記係止面に接離される係合端面が前記竜頭ヘッドに形成されていて、前記係合端面を前記係止面に接触させてロック状態に保たれる際に前記ぜんまいの巻き上げ方向と逆方向に回転操作され、前記ロック状態を解除しかつ前記ぜんまいを巻き上げるときに前記ぜんまいの巻き上げ方向と同方向に回転操作される竜頭と、
を具備したことを特徴とする携帯時計。
【請求項2】
前記ぜんまいの巻き上げ方向と逆方向に前記竜頭が回転されたときに、前記係合端面が前記係止面に接する方向に前記竜頭が移動されるように前記雄ねじ部及び前記雌ねじ部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の携帯時計。
【請求項3】
前記竜頭が右回りに回転操作された際に前記ぜんまいが巻き上げられるとともに、前記竜頭が左回りに回転操作された際に前記竜頭が前記ロック状態に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の携帯時計。
【請求項4】
前記竜頭をロック状態とする場合の前記竜頭の回転方向を示す表示を前記竜頭ヘッドの正面に設けたことを特徴とする請求項1から3の内のいずれか一項に記載の携帯時計。
【請求項5】
ぜんまい、及びこのぜんまいを巻き上げる回転を前記ぜんまいに伝達するとともに、前記ぜんまいを巻戻す回転が前記ぜんまいに伝達されないように動作する一方向クラッチを有したムーブメントと、
このムーブメントに回転を伝達する巻真と、
外周部に係止面が形成された胴を有し前記ムーブメント及び巻真が内蔵された時計外装組立と、
前記胴の外部に位置される雄ねじ部を有して前記胴に固定された巻真パイプと、
前記胴の外部に位置される竜頭ヘッドを有し、前記雄ねじ部に着脱可能に螺合される雌ねじ部及び前記係止面に接離される係合端面が前記竜頭ヘッドに形成されていて、前記係合端面を前記係止面に接触させてロック状態に保たれる竜頭と、
を具備する携帯時計において、
前記竜頭を前記ロック状態にするとき、前記竜頭を前記ぜんまいの巻き上げ方向と逆方向に回転操作し、前記ロック状態から前記ぜんまいを巻き上げるとき、前記竜頭を前記ぜんまいの巻き上げ方向と同方向に回転操作して、前記ロック状態を解除するとともにこの解除に連続して前記同方向への前記竜頭の回転操作を継続することを特徴とする竜頭の操作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−47895(P2011−47895A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198711(P2009−198711)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)