説明

手袋とその製造方法

【課題】使用者の手の保護性に優れる上、指の曲げ伸ばしのし易さが大幅に改善され、しかも使用中にずれ難い手袋と、前記手袋の効率的な製造方法とを提供する。
【解決手段】手袋1は、全体がゴムまたは樹脂の膜3によって一体に形成され、少なくとも手指部6の甲側に、前記手指部6の長さ方向に伸縮可能な伸縮構造9を設けた。製造方法は、手袋の全体形状に対応する立体形状を有するとともに、少なくとも手指部の甲側に、前記伸縮構造のもとになる立体形状部を形成した手型を用意し、前記手型をゴムまたは樹脂を含む液中に浸漬したのち引き上げることで、前記手型の表面に前記液を付着させ、固化させて前記ゴムまたは樹脂の膜を形成したのち前記膜を手型から剥離して手袋を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体がゴムまたは樹脂の膜によって一体に形成された手袋と、前記手袋の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全体がゴムまたは樹脂の膜によって一体に形成された手袋は、一般家庭、工場や医療現場、スポーツといった場面において非常に数多くの用途で使用されている。
前記手袋を使用する目的は用途に応じて様々であるが、熱や寒さから手を保護する、鋭利なものから手を保護する、ウィルス等衛生上不潔なものから手を保護する等、装着者の手を保護することが手袋本来の役割であることが多い。
【0003】
手袋の保護性は材料や厚みに依存するが、使用者がどのような対象から手を保護したいかによってこれらは選択される。
例えば水作業で単に手を濡らしたくない場合には、天然ゴム等のエラストマー材料や塩化ビニル樹脂等の樹脂で作られた、厚み0.1mm以下程度の極薄のいわゆる使い捨て手袋で十分である。
【0004】
しかしガラスの破片や針等の鋭利なもの、あるいは熱湯等から手を保護する場合にはより厚い手袋が必要となる。これは、手袋は本質的に厚みが厚い方がより保護性が高いという自明の理由による。
しかし手袋の厚みが増すと、その分だけ指の曲げ伸ばし、特に指を曲げるのがし難くなる。そのため長時間の作業で頻繁に物をつかむ動作を繰り返したりすると、次第に握力の低下を招くこととなる。このことは、手袋の使用者にとっては作業性や効率が低下するばかりか、腕が疲労してしまう原因ともなる。
【0005】
手袋を薄くすればこうした問題は解消されるが、その反面、手袋本来の機能である保護性が損なわれる。
結果として、使用者は保護性と指の曲げ伸ばしのし易さとを使用目的に応じて使い分けざるを得ず、保護性が必要な場合は指の曲げ伸ばしのし易さを犠牲にするほかない。そのため保護性と指の曲げ伸ばし易さの両方を高いレベルで満足する手袋が長年切望されてきた。
【0006】
また従来の手袋は、指の曲げ伸ばしを繰り返すと手袋が次第に指先方向にずれていき、使用者はその都度手袋を装着し直す必要があるといった問題も含んでいた。
こうした問題を解決する手段として、手袋の指関節部分が内側に屈曲していることで、指の関節をスムーズに動かすことができるようにした手袋(特許文献1)や、あるいは手袋が延伸した際に伸縮する絞り部を手首や指の関節部分に設けた手袋(特許文献2)等が提案されている。
【0007】
これらの手袋によると、確かに従来の手袋に比べて指の曲げ伸ばしはし易くなる。しかしその効果は十分でないばかりか、人間の関節の位置には個人差があるため手袋の関節と手の関節位置が完全に一致しない場合には効果が得られないという問題がある。また使用中に手袋が指先方向にずれていく課題は依然として残ったままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−262642号公報
【特許文献2】特開2005−9035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、使用者の手の保護性に優れる上、指の曲げ伸ばしのし易さが大幅に改善され、しかも使用中にずれ難い手袋と、前記手袋の効率的な製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数の手指部を備えた手袋本体を含む全体が、ゴムまたは樹脂の膜によって一体に形成された手袋であって、前記手袋の甲側の領域のうち少なくとも手指部の甲側に、前記手指部の長さ方向に伸縮可能な伸縮構造が設けられたことを特徴とするものである。
手袋の使用者が指を曲げようとすると、前記手袋を構成するゴムや樹脂の膜のうち手指部の甲側の領域に、前記領域を手指部の長さ方向に引き伸ばそうとする応力が加えられる。
【0011】
そして前記膜を形成するゴムや樹脂それ自体の弾性により、前記領域に、加えられた応力に応じて、前記引き伸ばし方向と反対方向に膜を縮めようとする引張応力が発生する。この引張応力が、指の曲げ伸ばしのし難さや、あるいは手袋が使用中にずれることの原因となる。
例えば手袋が、使用者の手の甲や手首などに密着したような状態で指を曲げようとすると、前記引張応力は、使用者の指の各関節や指先に対して指を曲げようとする方向と反対方向、すなわち指を伸ばそうとする方向に働いて指を曲げる妨げとなるため、指の曲げ伸ばしがし難くなる。
【0012】
また手袋が、前記使用者の手の甲や手首などに密着していないフリーな状態で指を曲げようとすると、前記引張応力は、手袋の、前記手の甲や手首に対応する部分を指先側に引っ張る方向に働くため手袋がずれてしまう。
これに対し本発明の手袋によれば、使用者が指を曲げようとすると、前記ゴムや樹脂からなる膜のうち前記伸縮構造を設けた領域が他の領域より小さい応力で大きく伸長して前記引張応力を緩和する。そのため本発明によれば、適度な厚みを有して使用者の手の保護性に優れる上、指の曲げ伸ばしのし易さが大幅に改善され、しかも使用中にずれ難い手袋を提供することができる。
【0013】
前記伸縮構造は、指の付け根の関節に対応する領域から指先までの全長に亘って形成されているのが好ましい。これにより、使用者の指の関節の位置によらずに指の曲げ伸ばしのし易さを向上できる。
なお伸縮構造は、前記範囲だけでなく、手袋の甲側の領域のうちさらに指の付け根の関節に対応する領域より手首側のほぼ全域をも覆うように、指先から連続して形成してもよい。
【0014】
前記伸縮構造は、できるだけ簡単な形状でしかもできるだけ効率よく引張応力を緩和することを考慮すると、前記手指部の甲側の表面に、前記手指部の長さ方向と交差方向に沿う凹溝を、前記長さ方向に複数本配列して構成されているのが好ましい。
また前記複数の凹溝からなる伸縮構造においては、引張応力をより効率よく緩和することを考慮すると、隣り合う前記凹溝間の形成ピッチは5.5mm以下であるのが好ましい。
【0015】
また凹溝は、前記凹溝の幅方向の略中央で互いに交差するように前記手指部の甲側の表面から裏面へ向けて傾斜させて配設された一対の傾斜面によって断面略V字状に形成されているのが好ましく、前記両傾斜面のなす角度は、引張応力をより効率よく緩和することを考慮すると5°以上、90°以下であるのが好ましい。
さらに前記ゴムまたは樹脂の膜の厚みは、引張応力をより効率よく緩和することを考慮すると、前記凹溝の最深部において、他の部位より0.2mm以上小さく設定されているのが好ましい。
【0016】
前記本発明の手袋を製造するための、本発明の手袋の製造方法は、
前記手袋の全体形状に対応する立体形状を有するとともに、前記手袋の甲側の領域のうち少なくとも手指部の甲側に、前記伸縮構造のもとになる立体形状部を形成した手型を用意し、前記手型をゴムまたは樹脂を含む液中に浸漬したのち引き上げることで、前記手型の表面に前記液を付着させる工程と、
前記付着させた液を固化させて前記ゴムまたは樹脂の膜を形成する工程と、
前記膜を手型から剥離して手袋を得る工程と
を含むことを特徴とするものである。
【0017】
かかる本発明の製造方法によれば、前記立体形状部を形成した手型を使用するだけで、手袋に伸縮構造を形成する特別な工程を経ることなしに、前記本発明の手袋を、高い生産性でもって効率よく製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
前記のように本発明によれば、使用者の手の保護性に優れる上、指の曲げ伸ばしのし易さが大幅に改善され、しかも使用中にずれ難い手袋と、前記手袋の効率的な製造方法とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の手袋の、実施の形態の一例の要部である手袋本体を示す斜視図である。
【図2】図1の例の手袋のうち手指部の側面図、およびその一部を拡大した断面図である。
【図3】図1の例の手袋を本発明の製造方法によって製造する際に使用する手型の、手袋本体の部分を示す斜視図である。
【図4】図3の例の手型のうち手指部の側面図、およびその一部を拡大した側面図である。
【図5】本発明の手袋の、実施の形態の他の例の要部である手袋本体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の手袋の、実施の形態の一例の要部である手袋本体を示す斜視図である。また図2は、前記図1の例の手袋のうち手指部の側面図、およびその一部を拡大した断面図である。
両図を参照して、この例の手袋1は、手袋本体2を含む全体をゴムまたは樹脂の膜3によって一体に形成したものである。前記手袋本体2には、図示していないが任意の長さの袖部が連成され、前記袖部の一端が、使用者が手を入れるための袖口として開口されている。
【0021】
手袋本体2は、従来同様に手の形に対応させて、手首部4を介して前記袖部に連なる掌部5と、前記掌部5に連なる複数の手指部6とを備えている。
各手指部6の甲側の表面には、指の付け根の関節に対応する領域7から指先までの全長に亘って、前記手指部6の長さ方向と交差方向に沿う凹溝8を前記長さ方向に複数本配列することで、前記手指部6の長さ方向に伸縮可能な伸縮構造9が構成されている。
【0022】
また個々の凹溝8は、前記凹溝8の幅方向の略中央で互いに交差するように前記手指部6の甲側の表面10から裏面11へ向けて傾斜させて配設された一対の傾斜面12によって断面略V字状に形成されている。
かかる凹溝8からなる伸縮構造9を各手指部6の甲側の表面に設けると、前記膜3のうち前記伸縮構造9を設けた領域が他の領域より小さい応力で大きく伸長可能となり、手袋1の使用者が指を曲げようとした際に発生する引張応力を緩和する。そのため指の曲げ伸ばしのし易さを大幅に改善することができる。また手袋1を使用中に手からずれ難くすることができる。
【0023】
前記伸縮構造9において、隣り合う凹溝8間の形成ピッチPは、応力が加わった際に、膜3のうち前記伸縮構造9を設けた領域をより伸び易くして、引張応力をより効率よく緩和することを考慮すると5.5mm以下であるのが好ましい。なお形成ピッチPの下限は凹溝8の幅Wまで、つまり隣り合う凹溝8同士が隙間なく接する状態まで可能である。
【0024】
図2を参照して、各凹溝8は、それぞれその幅方向の略中央で互いに交差するように前記手指部6の甲側の表面10から裏面(手袋1の内面)11へ向けて傾斜させて配設された一対の傾斜面12によって断面略V字状に形成されている。
前記凹溝8において両傾斜面12のなす角度は、応力が加わった際に、膜3のうち伸縮構造9を設けた領域をより伸び易くして、引張応力をより効率よく緩和することを考慮すると5°以上、特に45°以上であるのが好ましく、90°以下であるのが好ましい。
【0025】
また前記凹溝8においては、応力が加わった際に、膜3のうち伸縮構造9を設けた領域をより伸び易くして、引張応力をより効率よく緩和することを考慮すると、その最深部における膜3の厚み(最小厚み)Tが、他の部位における膜3の厚み(通常厚み)Tより0.2mm以上小さく設定されているのが好ましい。すなわちT−T≧0.2mmであるのが好ましい。
【0026】
ただし前記最小厚みTが小さすぎると手袋1の強度が低下して、前記凹溝8の部分で膜3が裂けたりし易くなるため、前記最小厚みTは0.08mm以上であるのが好ましい。
また膜3の通常厚みTは、手袋1の用途等に応じて任意に設定できるが、先に説明したように使用者の手の保護性を向上することを考慮すると0.1mm以上、特に0.15mm以上であるのが好ましい。
【0027】
通常厚みTが前記範囲内であっても、本発明によれば、膜3のうち伸縮構造9を設けた領域が他の領域より小さい応力で大きく伸長可能であるため、手袋1の使用者が指を曲げようとした際に発生する引張応力を緩和できる。そのため指の曲げ伸ばしのし易さを大幅に改善することができる。また手袋1を使用中に手からずれ難くすることができる。
なお手袋1の全体が前記通常厚みTの範囲内である必要はなく、例えば指先の保護性を高めるため、手指部6の先端のみ他の部分より厚肉としてもよい。
【0028】
前記図1の手袋1は任意の製造方法によって製造可能であるが、本発明の製造方法によれば、前記伸縮構造9を形成する特別な工程を経ることなしに、前記手袋1を、高い生産性でもって効率よく製造できる。
図3は、図1の例の手袋1を本発明の製造方法によって製造する際に使用する手型13のうち、前記手袋1の手袋本体2に対応する本体部14を示す斜視図である。また図4は、前記図3の例の手型13のうち手指部15の側面図、およびその一部を拡大した側面図である。
【0029】
両図を参照して、この例の手型13は、本体部14および手指部15を含む全体を金属や陶磁器等によって一体に形成したものである。前記本体部14には、図示していないが手袋1の袖部に対応する袖部が連成されている。
本体部14は、手袋1の形に対応させて、前記手袋1の手首部4に対応する手首部16を介して前記袖部に連なる、掌部5に対応する掌部17と、前記掌部17に連なる複数の手指部15とを備えている。
【0030】
各手指部15の甲側の表面には、指の付け根の関節に対応する領域18から指先までの全長に亘って、前記手指部15の長さ方向と交差方向に沿う、凹溝8のもとになる凸条19を前記長さ方向に複数本配列することで、前記伸縮構造9のもとになる立体形状部20が構成されている。
また個々の凸条19は、前記凸条19の幅方向の略中央で互いに交差するように前記手指部15の甲側の表面21から外方へ向けて傾斜させて配設された、前記凹溝8を構成する一対の傾斜面12に対応する一対の傾斜面22を備えている。
【0031】
前記傾斜面22の交差角度や突出量、凸条19の形成ピッチ、幅等は、先に説明した凹溝8の寸法形状等に応じて設定される。
本発明の製造方法によれば、前記手型13をゴムまたは樹脂を含む液中に浸漬したのち引き上げることで、その表面に前記液を付着させる工程と、
前記付着させた液を固化させて前記ゴムまたは樹脂の膜3を形成する工程と、
前記膜3を手型13から剥離する工程と
を経て図1に示す手袋1を製造することができる。
【0032】
例えばゴムからなる手袋1を製造する場合には、まず前記手型13の表面を硝酸カルシウム等の凝固剤で処理する。
またゴムラテックスに加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤(活性化剤)、老化防止剤、充填剤、分散剤等の各種添加剤を加えて、未加硫もしくは前加硫状態の浸漬液を調製する。
【0033】
次に、前記浸漬液に手型13を一定時間に亘って浸漬したのち引き上げることで、前記手型13の表面に浸漬液を付着させる。
そして引き上げた手型13ごと加熱して浸漬液を乾燥させるとともにゴムを加硫させるか、あるいは一旦乾燥させた後に手型13ごと加熱してゴムを加硫させたのち、形成されたゴムの膜3の、手型13に密着していた側の面が外側になるように裏返しながら脱型する。
【0034】
そうすると手型13の凸条19に対応する部分が凹溝8とされた、図1に示す手袋1が製造される。
前記ゴムとしては天然ゴム、および合成ゴムの中からラテックス化が可能な種々のゴムがいずれも使用可能であり、かかるゴムとしては、例えば天然ゴム、脱蛋白天然ゴム、NBR、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0035】
加硫剤としては硫黄や有機含硫黄化合物等が挙げられる。前記加硫剤の添加量は、ゴムラテックス中の固形分(ゴム分)100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下程度であるのが好ましい。
加硫促進剤としては、例えばPX(N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛)、PZ(ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛)、EZ(ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛)、BZ(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)、MZ(2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩)、TT(テトラメチルチウラムジスルフィド)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0036】
前記加硫促進剤の添加量は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下程度であるのが好ましい。
加硫促進助剤としては、例えば亜鉛華(酸化亜鉛)やステアリン酸等の1種または2種が挙げられる。前記加硫促進助剤の添加量は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下程度であるのが好ましい。
【0037】
老化防止剤としては、一般に非汚染性のフェノール類が好適に用いられるが、アミン類を使用してもよい。前記老化防止剤の添加量は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下程度であるのが好ましい。
充填剤としては、例えばカオリンクレー、ハードクレー、炭酸カルシウム等の1種または2種以上が挙げられる。前記充填剤の添加量は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり10質量部以下程度であるのが好ましい。
【0038】
分散剤は、前記各種添加剤をゴムラテックス中に良好に分散させるために添加されるものであり、前記分散剤としては、例えば陰イオン系界面活性剤等の1種または2種以上が挙げられる。前記分散剤の添加量は、分散対象である成分の総量の0.3質量部以上、1質量部以下程度であるのが好ましい。
一方、樹脂からなる手袋1を製造する場合も、まず前記手型13の表面を硝酸カルシウム等の凝固剤で処理する。
【0039】
また樹脂エマルションに老化防止剤、充填剤、分散剤等の各種添加剤を加えて浸漬液を調製する。
次に、前記浸漬液に手型13を一定時間に亘って浸漬したのち引き上げることで、前記手型13の表面に浸漬液を付着させる。
そして一旦乾燥させた後に必要に応じて手型13ごと加熱して樹脂を固化させるか、あるいは引き上げた手型13ごと加熱して浸漬液を乾燥させるとともに樹脂を固化させたのち、形成された樹脂の膜3の、手型13に密着していた側の面が外側になるように裏返しながら脱型する。
【0040】
そうすると手型13の凸条19に対応する部分が凹溝8とされた、図1に示す手袋1が製造される。
樹脂としては、塩化ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等の、エマルション化が可能な樹脂の1種または2種以上が挙げられる。
老化防止剤としては、先に例示した非汚染性のフェノール類やアミン類等の1種または2種以上が挙げられる。前記老化防止剤の添加量は、樹脂エマルション中の固形分(樹脂分)100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下程度であるのが好ましい。
【0041】
充填剤としては、前記例示の充填剤の1種または2種以上が挙げられる。前記充填剤の添加量は、樹脂エマルション中の樹脂分100質量部あたり10質量部以下程度であるのが好ましい。
分散剤としては、前記例示の陰イオン系界面活性剤等の1種または2種以上が挙げられる。前記分散剤の添加量は、分散対象である成分の総量の0.3質量部以上、1質量部以下程度であるのが好ましい。
【0042】
図5は、本発明の手袋の、実施の形態の他の例の要部である手袋本体を示す斜視図である。
図5を参照して、複数の凹溝8からなる伸縮構造9は、前記指の付け根の関節に対応する領域7から指先までの範囲だけでなく、手袋1の甲側の領域のうちさらに前記領域7より手首部4側にかけての、掌部5の甲側のほぼ全域をも覆うように、前記指先から連続して形成してもよい。
【0043】
図5の手袋1を製造するためには、前記図3、図4に示す手型13に代えて、前記掌部5に対応する掌部17にも凸条19を形成した手型を使用して、前記本発明の製造方法を実施すればよい。
【実施例】
【0044】
〈実施例1〉
(手型)
全体が陶器製で、図3、図4に示すように各手指部15の甲側の表面に、指の付け根の関節に対応する領域18から指先までの全長に亘って、前記手指部15の長さ方向と交差方向に沿う凸条19を前記長さ方向に複数本配列して立体形状部20を構成した手型13を用意した。
【0045】
前記凸条19を形成する2つの傾斜面22の交差角度、突出量、凸条19の形成ピッチ、および幅は、製造する手袋1における、隣り合う凹溝8間の形成ピッチPが2.5mm、凹溝8を構成する一対の傾斜面12のなす角度が60°となるように設定した。
(浸漬液の調製)
NBRラテックス〔日本ゼオン(株)製のLX552、ゴム分の濃度45%〕に、前記NBRラテックス中のゴム分100質量部あたり、安定剤(アンモニアカゼイン)0.3質量部、水酸化カリウム0.5質量部、コロイド硫黄(加硫剤)1質量部、加硫促進剤BZ〔ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)BZ〕1質量部、および酸化チタン3質量部を添加して浸漬液を調製した。
【0046】
(手袋の製造)
先に用意した手型13を45%硝酸カルシウム水溶液に浸漬し、引き上げたのち60℃に加熱したオーブン中に入れて1分間乾燥させることで、前記手型13の表面を凝固剤としての硝酸カルシウムによって処理した。
次いで前記手型13を、液温を25℃に保持した先の浸漬液に一定の速度で浸漬し、30秒間保持したのち一定の速度で引き上げることで、前記型の表面に浸漬液を付着させた。
【0047】
そして引き上げた型ごと110℃に加熱したオーブン中に入れて60分間加熱して浸漬液を乾燥させるとともに樹脂を固化させたのち、形成された樹脂の膜3の、手型13に密着していた側の面が外側になるように裏返しながら脱型して、図1、図2に示す立体形状を有する、NBRの膜のみからなる単層構造の手袋1を製造した。
各部の寸法は、先に説明したように隣り合う凹溝8間の形成ピッチPが2.5mm、凹溝8を構成する一対の傾斜面12のなす角度が60°であった。
【0048】
またマイクロスコープによる断面観察で手袋1の各部における膜3の厚みを求めたところ、手指部6の掌側の厚みT11は0.36mm、掌部5の掌側の厚みT12は0.35mm、甲側の厚みT13は0.34mmであった。前記3点の厚みの平均値(T11+T12+T13)/3を通常厚みTとして求めたところ0.35mmであった。
凹溝8のうち最深部における最小厚みTは0.10mmであり、両厚みの差T−T=0.25mmであった。
【0049】
〈実施例2〉
手型13として、図3、図4に示す立体形状を有し、かつ凸条19を形成する2つの傾斜面22の交差角度、突出量、凸条19の形成ピッチ、および幅を、製造する手袋1における、隣り合う凹溝8間の形成ピッチPが5.1mm、凹溝8を構成する一対の傾斜面12のなす角度が60°となるように設定したものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、NBRの膜のみからなる単層構造の手袋1を製造した。
【0050】
各部の寸法は、上記のように隣り合う凹溝8間の形成ピッチPが5.1mm、凹溝8を構成する一対の傾斜面12のなす角度が60°であった。
またマイクロスコープによる断面観察で手袋1の各部における膜3の厚みを求めたところ、手指部6の掌側の厚みT11は0.36mm、掌部5の掌側の厚みT12は0.35mm、甲側の厚みT13は0.35mmであった。前記3点の厚みの平均値(T11+T12+T13)/3を通常厚みTとして求めたところ0.35mmであった。
【0051】
凹溝8のうち最深部における最小厚みTは0.09mmであり、両厚みの差T−T=0.26mmであった。
〈実施例3〉
手型13として、図3、図4に示す立体形状を有し、かつ凸条19を形成する2つの傾斜面22の交差角度、突出量、凸条19の形成ピッチ、および幅を、製造する手袋1における、隣り合う凹溝8間の形成ピッチPが2.5mm、凹溝8を構成する一対の傾斜面12のなす角度が100°となるように設定したものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、NBRの膜のみからなる単層構造の手袋1を製造した。
【0052】
各部の寸法は、上記のように隣り合う凹溝8間の形成ピッチPが2.5mm、凹溝8を構成する一対の傾斜面12のなす角度が100°であった。
またマイクロスコープによる断面観察で手袋1の各部における膜3の厚みを求めたところ、手指部6の掌側の厚みT11は0.36mm、掌部5の掌側の厚みT12は0.35mm、甲側の厚みT13は0.34mmであった。前記3点の厚みの平均値(T11+T12+T13)/3を通常厚みTとして求めたところ0.35mmであった。
【0053】
凹溝8のうち最深部における最小厚みTは0.27mmであり、両厚みの差T−T=0.08mmであった。
〈実施例4〉
手型13として、図3、図4に示す立体形状を有し、かつ凸条19を形成する2つの傾斜面22の交差角度、突出量、凸条19の形成ピッチ、および幅を、製造する手袋1における、隣り合う凹溝8間の形成ピッチPが2.5mm、凹溝8を構成する一対の傾斜面12のなす角度が120°となるように設定したものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、NBRの膜のみからなる単層構造の手袋1を製造した。
【0054】
各部の寸法は、上記のように隣り合う凹溝8間の形成ピッチPが2.5mm、凹溝8を構成する一対の傾斜面12のなす角度が120°であった。
またマイクロスコープによる断面観察で手袋1の各部における膜3の厚みを求めたところ、手指部6の掌側の厚みT11は0.36mm、掌部5の掌側の厚みT12は0.34mm、甲側の厚みT13は0.34mmであった。前記3点の厚みの平均値(T11+T12+T13)/3を通常厚みTとして求めたところ0.35mmであった。
【0055】
凹溝8のうち最深部における最小厚みTは0.33mmであり、両厚みの差T−T=0.02mmであった。
〈比較例1〉
凸条19を有しない通常の手袋用の手型を用いたこと以外は実施例1と同様にして、NBRの膜のみからなる単層構造の手袋を製造した。
【0056】
マイクロスコープによる断面観察で手袋1の各部における膜3の厚みを求めたところ、手指部6の掌側の厚みT11は0.35mm、掌部5の掌側の厚みT12は0.35mm、甲側の厚みT13は0.33mmであった。
〈比較例2〉
手型のラテックスへの浸漬時間を10秒間としたこと以外は比較例1と同様にして、NBRの膜のみからなる単層構造の手袋を製造した。
【0057】
マイクロスコープによる断面観察で手袋1の各部における膜3の厚みを求めたところ、手指部6の掌側の厚みT11は0.12mm、掌部5の掌側の厚みT12は0.11mm、甲側の厚みT13は0.10mmであった。
〈評価試験〉
(指の曲げ伸ばしのし易さ評価)
被験者の前腕部の橈側手根屈筋に筋電測定用電極〔日本光電(株)製〕を貼り付けた状態で、実施例、比較例で製造した手袋を被験者に装着してもらって2秒に1回のサイクルで指の曲げ伸ばしをしてもらい、発生する最大筋電値(mV)を計測した。最大筋電値が小さいほど指の曲げ伸ばしがし易いと判定した。
【0058】
(疲れ難さ評価)
前記指の曲げ伸ばしのし易さ評価後の被験者に、腕の疲労感を下記の基準で判定してもらい、疲れ難さの評価とした。
○:殆ど疲れを感じなかった。
△:やや疲れを感じた。
【0059】
×:かなり疲れを感じた。
(ずれ難さ評価)
実施例、比較例で製造した手袋を被験者に装着してもらって2秒に1回のサイクルで指の曲げ伸ばしを50回繰り返してもらった後、親指、人差し指、中指、薬指、および小指における、指先と手袋の手指部との間の隙間の増加量をずれ量(mm)として計測した。ずれ量が小さいほどずれ難いと判定した。
【0060】
(耐摩擦性評価)
実施例、比較例で製造した手袋の掌部の掌側から2cm×1cmの試験片を採取し、サンドペーパー(#100)の表面に100gの荷重をかけて密着させた状態で、速度8m/sで往復運動をさせた。そして3往復ごとに試験片をチェックして、貫通破れが発生した往復回数を記録した。また往復回数が40回以上を耐摩耗性良好(○)、40回未満を不良(×)と判定した。
【0061】
結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1の比較例1、2の結果より、全体の厚みを小さくすれば指の曲げ伸ばしはし易く、疲れを生じ難いものの、手指の保護が不十分になり、手指を十分に保護するために全体の厚みを大きくすると、指の曲げ伸ばしがし難くなって疲れを生じ易い上、いずれの場合も指を曲げ伸ばしした際に手袋がずれ易いことが判った。
これに対し実施例1〜4の結果より、手指部の甲側に伸縮構造を設けることにより、手指を十分に保護するために全体の厚みを大きくしながら、なおかつ指の曲げ伸ばしをし易くして疲れを生じ難くできる上、指を曲げ伸ばしした際に手袋をずれ難くできることが判った。
【0064】
また各実施例を比較すると、前記伸縮構造を構成する隣り合う前記凹溝間の形成ピッチは5.5mm以下であるのが好ましいこと、前記凹溝を構成する一対の傾斜面のなす角度は90°以下であるのが好ましいことが判った。
【符号の説明】
【0065】
1 手袋
2 手袋本体
3 膜
4 手首部
5 掌部
6 手指部
7 領域
8 凹溝
9 伸縮構造
10 表面
11 裏面
12 傾斜面
13 手型
14 本体部
15 手指部
16 手首部
17 掌部
18 領域
19 凸条
20 立体形状部
21 表面
22 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の手指部を備えた手袋本体を含む全体が、ゴムまたは樹脂の膜によって一体に形成された手袋であって、前記手袋の甲側の領域のうち少なくとも手指部の甲側に、前記手指部の長さ方向に伸縮可能な伸縮構造が設けられたことを特徴とする手袋。
【請求項2】
前記伸縮構造は、指の付け根の関節に対応する領域から指先までの全長に亘って形成されている請求項1に記載の手袋。
【請求項3】
前記伸縮構造は、前記手指部の甲側の表面に、前記手指部の長さ方向と交差方向に沿う凹溝を、前記長さ方向に複数本配列して構成されている請求項1または2に記載の手袋。
【請求項4】
隣り合う前記凹溝間の形成ピッチは5.5mm以下である請求項3に記載の手袋。
【請求項5】
前記凹溝は、前記凹溝の幅方向の略中央で互いに交差するように前記手指部の甲側の表面から裏面へ向けて傾斜させて配設された一対の傾斜面によって断面略V字状に形成されているとともに、前記両傾斜面のなす角度は5°以上、90°以下である請求項3または4に記載の手袋。
【請求項6】
前記ゴムまたは樹脂の膜の厚みは、前記凹溝の最深部において、他の部位より0.2mm以上小さく設定されている請求項3ないし5のいずれか1項に記載の手袋。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の手袋を製造するための製造方法であって、
前記手袋の全体形状に対応する立体形状を有するとともに、前記手袋の甲側の領域のうち少なくとも手指部の甲側に、前記伸縮構造のもとになる立体形状部を形成した手型を用意し、前記手型をゴムまたは樹脂を含む液中に浸漬したのち引き上げることで、前記手型の表面に前記液を付着させる工程と、
前記付着させた液を固化させて前記ゴムまたは樹脂の膜を形成する工程と、
前記膜を手型から剥離して手袋を得る工程と
を含むことを特徴とする手袋の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−256487(P2011−256487A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132177(P2010−132177)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】