説明

手袋

【課題】防止具を着脱したり、肘保護物と一緒に装着したりすることなしに、袖部が手袋本体の方にずれ落ちたり、手袋の全体が手からずれたり外れたりするのを確実に防止でき、結果的に水等が侵入し難い手袋を提供する。
【解決手段】略筒状の袖部2と、その一端7に連なる手袋本体3とをゴムまたは樹脂の膜によって一体に形成し、かつ前記袖部2の他端を袖口4として開口した手袋1であって、前記袖部2の全周に、前記一端7から袖口4に向けて深さが徐々に深くなって、前記袖口4に達する複数のプリーツ11を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体がゴムまたは樹脂の膜によって一体に形成された手袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般家庭用から各種産業における作業用、さらには医療用の手袋として、略筒状の袖部と、前記袖部の一端に連なり手首から指先までを保護する手袋本体とを天然ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等の合成ゴム、あるいは塩化ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂等の樹脂等によって一体に形成し、かつ前記袖部の他端を袖口として開口した手袋が広く普及している。
【0003】
また前記手袋としては様々な厚みを有するものがあるが、特に近年は、手に対するフィット性や手袋を装着した状態での作業性等を向上するために、前記ゴムや樹脂の薄い膜のみによって形成された、軟らかく柔軟性のある手袋に対する需要が増加する傾向にある。
しかし前記膜は柔軟であるほど、また薄いほど剛性が低下する傾向にある。そのため、例えば前記薄手の手袋を装着して実際に使用した際に、手首から前腕にかけてを覆うべき袖部が手袋本体の方にずれ落ちたり、手袋の全体が手からずれたり外れたりしやすくなって、例えば水仕事に使用した際に、跳ねた水が中に入って手袋をしている意味がなくなってしまうといった問題がある。
【0004】
前記問題を解決するため、例えば特許文献1、2等においては、手袋の袖口をクリップしてずれ落ちを防止するための防止具が提案されているが、手袋の使用に先立ってかかる防止具を装着したり、使用後に取り外したりするのは面倒である。
また特許文献3には、前記手袋の袖口に締め紐を設けた手袋が記載されているが、手袋の使用に先立ってかかる締めひもを締めたり、使用後に緩めたりするのはやはり面倒である。
【0005】
特許文献4には、短い手袋と併用する筒状で、かつその一端側から他端側に達する複数のプリーツが設けられた肘保護物が記載されている。前記肘保護物は、前記プリーツを設けたことによる周方向の伸縮性によって肘からずれ落ちたりしにくいものであるが、かかる肘保護物を、手袋とともに、両者の間に隙間が生じないように装着したり、あるいは手袋とともに外したりするのはやはり面倒である。また使用中に、例えば肘の伸縮等によって肘保護物がずれて手袋との間に隙間を生じて、そこから水が侵入してしまう場合があり、万全ではない。
【0006】
特許文献5、6には、手袋の手の甲側の、指先から袖口にかけての全体に、前記指先から袖口に達する複数のプリーツを設けることが記載されている。しかしこれらのプリーツは、いずれも手の甲側で手袋が手に密着するのを防止し、通気性を確保するためのものであって、ずれ防止用としての考慮はされていない。
すなわち特許文献5、6の手袋は、前記のように手袋の手の甲側にのみプリーツが形成されるため、先の肘保護物のように伸縮性を付与して袖部がずれ落ちるのを防止する機能は備えていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−119982号公報
【特許文献2】特開2008−2044号公報
【特許文献3】特開平11−286809号公報
【特許文献4】実開平4−97805号公報
【特許文献5】実開昭49−82913号公報
【特許文献6】実開平3−24114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、防止具を着脱したり、肘保護物と一緒に装着したりすることなしに、袖部が手袋本体の方にずれ落ちたり、手袋の全体が手からずれたり外れたりするのを確実に防止でき、結果的に水等が侵入し難い手袋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、発明者は、手袋の袖部の全周に亘ってプリーツを形成することで、袖部に良好な伸縮性を付与して、前記袖部が手袋本体の方にずれ落ちたり、手袋の全体が手からずれたり外れたりするのを防止することを検討した。しかし、前記特許文献4に記載された肘保護物のプリーツのような、深さが一定のプリーツを袖部に設けた場合には、
・ 特に前腕部の中で最も細い手首に対する締りが悪くなって、手袋を装着した状態での作業性が低下したり、
・ 作業途中に袖部が途中で折り返されたり垂れ下がったりして、水仕事の際に跳ねた水が袖口から侵入するのを確実に防止できなかったり、
することが判った。
【0010】
折り返しや垂れ下がりを防止するには、ゴムまたは樹脂の膜を厚くして剛性を高めればよいが、その場合には手袋を形成するゴムや樹脂の量が増加して手袋が重くなったり、コストが高くついたりするという問題がある。
そこでプリーツの深さについてさらに検討した結果、袖部の全周に亘って形成するプリーツの深さを、手袋本体に連なる一端から袖口に向けて徐々に深くすればよいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、略筒状の袖部と、前記袖部の一端に連なる手袋本体とがゴムまたは樹脂の膜によって一体に形成され、かつ前記袖部の他端が袖口として開口された手袋であって、前記袖部には、前記手袋本体に連なる一端から袖口に達する複数のプリーツが全周に亘って設けられているとともに、前記各プリーツは、前記一端から袖口に向けて深さが徐々に深くなっていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、前記のように袖部の全周に亘って、手袋本体に連なる一端から袖口に達するプリーツを設けるとともに、各プリーツの深さを、前記一端近傍において浅くすることで、式(1):
伸縮比E=R/R (1)
〔式中、Rは手袋を形成する各部に応力を加えないフリーの状態での周長、Rは、同じ場所でプリーツがなくなるまで引き伸ばした時の周長を示す。〕
によって求められる伸縮比Eを、前記一端近傍において小さくしている。
【0013】
そのため前記袖部のうち、前腕部の中でも最も細い手首に対応する前記一端近傍を、前記手首に対してしっかりフィットさせることができ、手袋を装着した状態での作業性を向上することができる。
しかも前記一端近傍には、その全周に設けたプリーツによって適度な伸縮性を付与できるため、手袋の装着のしやすさが妨げられるおそれもない。
【0014】
その上、前記各プリーツの深さを、前記一端から袖口へ向けて徐々に深くしているため、前記袖部を形成するゴムや樹脂の膜の厚みを大きくすることなしに、前記袖部に適度な剛性を付与して折り返しや垂れ下がりが発生するのを防止することもできる。また、そのために袖部の厚みを大きくする必要がなくなり、手袋を形成するゴムや樹脂の量が増加して手袋が重くなったり、コストが高くついたりするのを防止することもできる。
【0015】
前記プリーツの深さを、袖部の一端と袖口との間でどの程度まで違えるかは特に限定されないが、前記式(1)によって求められる伸縮比Eで表して、袖部の一端において1、袖口において1/0.9以上、1/0.6以下の範囲内とするとともに、前記一端から袖口にかけて前記伸縮比Eが徐々に増加するように設定するのが好ましい。
前記伸縮比Eを、袖部の一端において1として前記一端にはプリーツを形成せず、そこから袖口に向けてプリーツを徐々に深くしてゆくことにより、前記一端側で袖部を手首の付近にしっかりフィットさせる効果をさらに向上できる。
【0016】
また、袖口において伸縮比Eを1/0.9以上に設定することにより、袖部に適度な剛性を付与して折り返しや垂れ下がりを防止する効果をさらに向上できる。なお袖口の伸縮比Eが1/0.6以下であるのが好ましいのは、例えば通常の浸漬法による手袋の製造時に、前記袖口において、プリーツが深すぎることに伴う偏肉や割れが生じるのを防止するためである。かかる偏肉や割れが生じた場合には、却って折り返しや垂れ下がりが発生しやすくなってしまう。
【0017】
前記袖部の、前記一端から袖口までの長さは10cm以上であるのが好ましい。袖部が短いほど折り返しや垂れ下がりは生じにくいものの、前記範囲より短い場合には、水仕事の際に跳ねた水が中に入るのを確実に防止できないおそれがある。
前記手袋を形成するゴムまたは樹脂の厚みは、先に説明したように手袋を形成するゴムや樹脂の量が増加して手袋が重くなったり、コストが高くついたりするのを防止することを考慮すると2.0mm以下であるのが好ましい。ただし膜の厚みが小さすぎる場合には、たとえプリーツをつけても、袖部に適度な剛性を付与して折り返しや垂れ下がりが発生するのを防止できないおそれがある。そのため膜の厚みは0.1mm以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、防止具を着脱したり、肘保護物と一緒に装着したりすることなしに、袖部が手袋本体の方にずれ落ちたり、手袋の全体が手からずれたり外れたりするのを確実に防止でき、結果的に水等が侵入し難い手袋を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の手袋の、実施の形態の一例を示す正面図である。
【図2】図1の例の手袋の、プリーツの概略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の手袋の、実施の形態の一例を示す正面図である。図2は、図1の例の手袋の、プリーツの概略を説明する図である。
両図を参照して、この例の手袋1は、略筒状の袖部2と、前記袖部2の一端に連なる手袋本体3とをゴムまたは樹脂の膜によって一体に形成し、かつ前記袖部2の他端を袖口4として開口したものである。
【0021】
手袋本体3は、従来同様に手の形に対応させて、袖部2に繋がる掌部5と、前記掌部5に連なる複数の指部6とを備えている。
袖部2は、前記手袋本体3側に繋がる一端7側の第一袖部8と、袖口4を構成する第二袖部9とで形成されている。両袖部8、9は、境界部10で一体に繋がれている。
第一袖部8は、一端7側から境界部10へかけて周長が徐々に大きくなる略円錐台状に形成されている。また第二袖部9は、前記境界部10から袖口4へかけて周長が徐々に大きくなる略円錐台状に形成されている。両袖部8、9の、境界部10での周長は同一とされ、それによって両袖部8、9は全周に亘って一体に繋がれている。
【0022】
第二袖部9の円錐面を構成する母線の傾斜は、第一袖部8の円錐面を構成する母線の傾斜より大きくされており、それによって第二袖部9は、袖口4において大きく開口されている。
両袖部8、9からなる袖部2には、手袋本体3の掌部5に連なる一端7から袖口4に達する複数のプリーツ11が、全周に亘って設けられている。
【0023】
各プリーツ11は、図2に示すように断面形状が略サインカーブ状に形成されている。前記各プリーツ11は、図2中に示す深さDが、一端7から袖口4にかけて徐々に深くされている。
袖部2の一端7と袖口4との間でプリーツ11の深さをどの程度違えるかは特に限定されないが、前記深さを、手袋1を形成する各部に応力を加えないフリーの状態での周長Rと、プリーツを伸ばした時の周長Rとから、式(1):
伸縮比E=R/R (1)
で求められる伸縮比Eで表したとき、前記一端7において1、袖口4において1/0.9以上、1/0.6以下の範囲内とするのが好ましい。
【0024】
前記伸縮比Eを一端7において1として前記一端7にはプリーツを形成せず、そこから袖口4に向けてプリーツを徐々に深くしてゆくことにより、前記一端7側で第一袖部8を手首の付近にしっかりフィットさせることができる。
しかも前記一端7の近傍には、その全周に設けたプリーツ11によって適度な伸縮性を付与できるため、手袋1の装着のしやすさが妨げられるおそれもない。
【0025】
また伸縮比Eを袖口4において1/0.9以上に設定することにより、袖部2、すなわち第一および第二の両袖部8、9に適度な剛性を付与して折り返しや垂れ下がりを防止することができる。なお袖口4の伸縮比Eが1/0.6以下であるのが好ましいのは、例えば通常の浸漬法による手袋1の製造時に、前記袖口4において、プリーツ11が深すぎることに伴う偏肉や割れが生じるのを防止するためである。かかる偏肉や割れが生じた場合には、却って折り返しや垂れ下がりが発生しやすくなってしまう。
【0026】
なおプリーツ11の具体的な深さDは、手袋1のサイズ等に応じて、前記伸縮比Eを満足するべく任意に設定できるが、袖口4において3mm以上、特に4mm以上であるのが好ましく、7mm以下、特に6mm以下であるのが好ましい。
袖口4におけるプリーツ11の深さDを前記範囲内とすることで、手袋1の製造時に偏肉や割れが生じるのを防止しながら、前記袖口4に適度な剛性を付与して折り返しや垂れ下がりを防止することができる。
【0027】
前記袖部2の、前記一端7から袖口4までの長さLは10cm以上、特に20cm以上であるのが好ましい。袖部2が短いほど折り返しや垂れ下がりは生じにくいものの、前記範囲より短い場合には、水仕事の際に跳ねた水が中に入るのを確実に防止できないおそれがある。
なお長さLは、例えば肘の付近までを覆うことを考慮すると40cm以下、特に30cm以下であるのが好ましい。
【0028】
前記手袋1を形成するゴムまたは樹脂の厚みは、先に説明したように手袋1を形成するゴムや樹脂の量が増加して手袋が重くなったり、コストが高くついたりするのを防止することを考慮すると2.0mm以下、特に1.5mm以下であるのが好ましい。ただし膜の厚みが小さすぎる場合には、たとえプリーツ11をつけても、袖部2に適度な剛性を付与して折り返しや垂れ下がりが発生するのを防止できないおそれがある。そのため膜の厚みは0.1mm以上、特に0.2mm以上であるのが好ましい。
【0029】
なお手袋1の全体が前記厚みの範囲内である必要はなく、例えば袖口4を他の部分より厚肉として適度な剛性を持たせることでさらに折り返しや垂れ下がりを防止したり、指部6の先端を他の部分より厚肉として指先を保護したりしてもよい。
前記手袋1は、袖部2にプリーツ11を有すること以外は従来同様に構成できる。
例えば手袋1は、従来同様に浸漬法によってゴムのラテックスを図1に示す手袋1の形状に成膜するとともにゴムを加硫させるか、あるいは浸漬法によって樹脂のエマルションを前記手袋1の形状に成膜するとともに樹脂を乾燥固化させることで製造できる。
【0030】
例えばゴムからなる手袋1を製造する場合には、図1に示す手袋1の形状に対応した型を用意するとともに、前記型の表面を硝酸カルシウム等の凝固剤で処理する。
またゴムラテックスに加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤(活性化剤)、老化防止剤、充填剤、分散剤等の各種添加剤を加えて、未加硫もしくは前加硫状態の浸漬液を調製する。
【0031】
次に、前記浸漬液に型を一定時間に亘って浸漬したのち引き上げることで、前記型の表面に浸漬液を付着させる。
そして引き上げた型ごと加熱して浸漬液を乾燥させるとともにゴムを加硫させるか、あるいは一旦乾燥させた後に型ごと加熱してゴムを加硫させたのち脱型することにより、図1に示す手袋1が製造される。
【0032】
前記ゴムとしては天然ゴム、および合成ゴムの中からラテックス化が可能な種々のゴムがいずれも使用可能であり、かかるゴムとしては、例えば天然ゴム、脱蛋白天然ゴム、NBR、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)等の1種または2種以上が挙げられる。
加硫剤としては硫黄や有機含硫黄化合物等が挙げられる。前記加硫剤の添加量は、ゴムラテックス中の固形分(ゴム分)100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下程度であるのが好ましい。
【0033】
加硫促進剤としては、例えばPX(N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛)、PZ(ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛)、EZ(ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛)、BZ(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)、MZ(2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩)、TT(テトラメチルチウラムジスルフィド)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0034】
前記加硫促進剤の添加量は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下程度であるのが好ましい。
加硫促進助剤としては、例えば亜鉛華(酸化亜鉛)やステアリン酸等の1種または2種が挙げられる。前記加硫促進助剤の添加量は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下程度であるのが好ましい。
【0035】
老化防止剤としては、一般に非汚染性のフェノール類が好適に用いられるが、アミン類を使用してもよい。前記老化防止剤の添加量は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下程度であるのが好ましい。
充填剤としては、例えばカオリンクレー、ハードクレー、炭酸カルシウム等の1種または2種以上が挙げられる。前記充填剤の添加量は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり10質量部以下程度であるのが好ましい。
【0036】
分散剤は、前記各種添加剤をゴムラテックス中に良好に分散させるために添加されるものであり、前記分散剤としては、例えば陰イオン系界面活性剤等の1種または2種以上が挙げられる。前記分散剤の添加量は、分散対象である成分の総量の0.3質量部以上、1質量部以下程度であるのが好ましい。
一方、樹脂からなる手袋を製造する場合は、図1に示す手袋1の形状に対応した型を用意するとともに、前記型の表面を、必要に応じて硝酸カルシウム等の凝固剤で処理する。
【0037】
また樹脂エマルションに、必要に応じて老化防止剤、充填剤、分散剤等の各種添加剤を加えて浸漬液を調製する。
次に、前記浸漬液に型を一定時間に亘って浸漬したのち引き上げることで、前記型の表面に浸漬液を付着させる。
そして一旦乾燥させた後に必要に応じて型ごと加熱して樹脂を固化させるか、あるいは引き上げた型ごと加熱して浸漬液を乾燥させるとともに樹脂を固化させたのち脱型することにより、図1に示す手袋1が製造される。
【0038】
樹脂としては、塩化ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等の、エマルション化が可能な樹脂の1種または2種以上が挙げられる。
老化防止剤としては、先に例示した非汚染性のフェノール類やアミン類等の1種または2種以上が挙げられる。前記老化防止剤の添加量は、樹脂エマルション中の固形分(樹脂分)100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下程度であるのが好ましい。
【0039】
充填剤としては、前記例示の充填剤の1種または2種以上が挙げられる。前記充填剤の添加量は、樹脂エマルション中の樹脂分100質量部あたり10質量部以下程度であるのが好ましい。
分散剤としては、前記例示の陰イオン系界面活性剤等の1種または2種以上が挙げられる。前記分散剤の添加量は、分散対象である成分の総量の0.3質量部以上、1質量部以下程度であるのが好ましい。
【0040】
本発明の手袋1は、基本的に前記ゴムまたは樹脂の薄い膜のみによって単層構造に形成するのが好ましいが、必要に応じて繊維等で補強してもよい。すなわち繊維製の編手袋と、ゴムまたは樹脂の膜とを一体化させた、いわゆるサポートタイプの手袋を構成してもよい。
前記サポートタイプの手袋を製造するには、前記型の表面にあらかじめ編手袋を装着した状態で、先に説明した浸漬法によりゴムまたは樹脂の膜を形成するとともに編手袋と一体化させればよい。
【0041】
前記編手袋としては、例えば綿、ナイロン、ポリエステル等の繊維を編み上げたシームレス編手袋やメリヤス編手袋等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
〈実施例1〉
(浸漬液の調製)
天然ゴムラテックスに、前記天然ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり、硫黄(加硫剤)1質量部、加硫促進剤BZ(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)1質量部、亜鉛華(加硫促進助剤)1質量部、および老化防止剤(p−クレゾールとジクロロペンタジエンのブチル化生成物)適量を添加したのち30℃で24〜48時間前加硫させて浸漬液を調製した。
【0043】
(手袋の製造)
型としては、陶器製で、図1に示す手袋1の形状に対応し、かつ製造する手袋1の各部の寸法が下記のとおりであるものを用意した。
袖部2の長さL=25cm
一端7における伸縮比E=1
袖口4における伸縮比E=1/0.85
袖口4におけるプリーツ11の深さD=5mm
プリーツ11は、前記一端7から袖口4に向けて徐々に深くなるようにした。
【0044】
前記型を硝酸カルシウム水溶液に浸漬し、引き上げたのち乾燥させることで、前記型の表面を凝固剤としての硝酸カルシウムによって処理した。
次いで前記型を、液温を25℃に保持した先の浸漬液に一定の速度で浸漬し、30秒間保持したのち一定の速度で引き上げることで、前記型の表面に浸漬液を付着させた。
そして引き上げた型ごと100℃に加熱したオーブン中に入れて60分間加熱して浸漬液を乾燥させるとともにゴムを加硫させたのち脱型して、図1に示す立体形状を有する、天然ゴムの膜のみからなる単層構造の手袋1を製造した。
【0045】
前記手袋1のうち袖部2の厚みを、マイクロメータを用いて測定したところ平均厚みは0.45mmであった。
〈実施例2〜4〉
型の形状を調整して、袖口4における伸縮比Eを1/0.9(実施例2)、1/0.8(実施例3)、および1/0.6(実施例4)としたこと以外は実施例1と同様にして、天然ゴムの膜のみからなる単層構造の手袋1を製造した。いずれも袖口4におけるプリーツ11の深さDは5mmとした。
【0046】
〈実施例5〉
型の形状を調整して、袖部2の長さLを9cmとしたこと以外は実施例1と同様にして、天然ゴムの膜のみからなる単層構造の手袋1を製造した。
〈比較例1〉
型の形状を調整して、一端7から袖口4までプリーツ11の深さを一定にしたこと以外は実施例1と同様にして、天然ゴムの膜のみからなる単層構造の手袋を製造した。前記一定の深さDは5mm、伸縮比Eは1/0.85とした。
【0047】
〈比較例2〉
型の形状を調整して、プリーツ11の開始位置を一端7の直下から袖口4側へ5cm下とし、そこから袖口4へ向けて徐々に深くなるプリーツ11を設けたこと以外は実施例1と同様にして、天然ゴムの膜のみからなる単層構造の手袋を製造した。開始位置での伸縮比Eは1、袖口4における伸縮比Eは1/0.85、深さDは5mmとした。
【0048】
〈比較例3〉
型の形状を調整して、袖部2にプリーツ11を設けなかったこと以外は実施例1と同様にして、天然ゴムの膜のみからなる単層構造の手袋を製造した。
〈着脱性評価〉
実施例、比較例で製造した手袋を被験者に10回着脱を繰り返してもらい、その間に要した時間を計測して、下記の基準で着脱性を評価した。
【0049】
◎:20秒以下。
○:20秒超、25秒以下。
△:25秒超、30秒以下。
×:30秒超。
〈折り返し、垂れ下がり防止効果の評価〉
実施例、比較例で製造した手袋を被験者に装着してもらい、腕を10回上げ下ろしした後、装着直後と比べて袖口が手袋本体の方にずれた距離を計測して、下記の基準で折り返し、垂れ下がり防止効果を評価した。
【0050】
◎:1cm以下。
○:1cm超、3cm以下。
△:3cm超、5cm以下。
×:5cm超。
〈水跳ね防止効果の評価〉
実施例、比較例で製造した手袋を被験者に装着してもらい、20分間、食器洗いをしてもらった後、腕に付着した水跳ねの個数を数えた。そして全体の個数のうち、前腕部に付着した水跳ねの個数の占める割合を求めで、下記の基準で水跳ね防止効果を評価した。
【0051】
◎:0%。
○:0%超、10%以下。
△:10%超、30%以下。
×:30%超。
以上の結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1の比較例3の結果より、袖部にプリーツを設けない場合には折り返しや垂れ下がりを防止する効果は得られず、また水跳ね防止の効果も得られないことが判った。
また比較例1の結果より、袖部に深さが一定のプリーツを設けても、折り返しや垂れ下がりを防止する効果、あるいは水跳ね防止の効果は改善されないことが判った。
さらに比較例2の結果より、袖口へ向けて徐々に深くなるプリーツを設けても、その開始位置が袖口の一端よりかなり下にある場合には、着脱性が低下することが判った。
【0054】
これに対し、実施例1〜5の結果より、袖部2に、一端7から袖口4に達するとともに、前記一端7から袖口4に向けて深さDが徐々に深くなっているプリーツ11を設けることにより、良好な着脱性を維持しながら、折り返しや垂れ下がりを防止する効果、および水跳ね防止の効果を向上できることが判った。
また実施例1〜4の結果より、袖部2の伸縮比Eは、一端7で1、袖口4で1/0.9以上、1/0.6以下の範囲内であるのが好ましいことが判った。さらに実施例1〜4と実施例5の結果より、袖部2の長さLは10cm以上であるのが好ましいことが判った。
【符号の説明】
【0055】
1 手袋
2 袖部
3 手袋本体
4 袖口
5 掌部
6 指部
7 一端
8 第一袖部
9 第二袖部
10 境界部
11 プリーツ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略筒状の袖部と、前記袖部の一端に連なる手袋本体とがゴムまたは樹脂の膜によって一体に形成され、かつ前記袖部の他端が袖口として開口された手袋であって、前記袖部には、前記手袋本体に連なる一端から袖口に達する複数のプリーツが全周に亘って設けられているとともに、前記各プリーツは、前記一端から袖口に向けて深さが徐々に深くなっていることを特徴とする手袋。
【請求項2】
前記手袋を形成する各部に応力を加えないフリーの状態での周長Rと、プリーツを伸ばした時の周長Rとから、式(1):
伸縮比E=R/R (1)
で求められる伸縮比Eが、前記袖部の一端において1、袖口において1/0.9以上、1/0.6以下の範囲内で、かつ前記一端から前記袖口にかけて伸縮比Eが前記1から徐々に増加している請求項1に記載の手袋。
【請求項3】
前記袖部の、前記一端から袖口までの長さが10cm以上である請求項1または2に記載の手袋。
【請求項4】
前記膜の厚みが0.1mm以上、2mm以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の手袋。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−162825(P2012−162825A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24210(P2011−24210)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】