説明

抄紙機の湿紙乾燥装置

【課題】湿紙が平滑面ベルトに貼り付くことを抑制しつつ最短の時間で湿紙を乾燥させることができる抄紙機の湿紙乾燥装置を提供する。
【解決手段】前工程から湿紙を転移させる搬送面が平滑面をなし、複数のローラ31間に掛け渡して配置する平滑面ベルト33と、平滑面ベルト33の搬送方向に沿った複数の設置箇所に配置し、各設置箇所での湿紙124の含水率に応じた温度に平滑面ベルト33を加熱して湿紙124を乾燥させる複数の電磁加熱38を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機の湿紙乾燥装置に関し、古紙を離解させた再生パルプから紙を製造する技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な製紙工場で行なっている製紙方法は、パルプ工程、抄紙工程、仕上工程からなり、古紙を原料として使用する場合には古紙パルプ工程が加わる。
このうち、抄紙工程では、抄紙機のワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパート、カレンダーパート、コーターパートを経て製品の紙とする。ワイヤーパートでは調製(再生)されたパルプを抄紙用の網(ワイヤー)に乗せて脱水して紙を抄き、プレスパートではワイヤーパートから出た水分を多く含んだ湿紙の水分を除去する。ドライヤーパートでは蒸気で加熱されたドライヤーに紙を通して乾燥させ、カレンダーパートではロール間に紙を通して表面の凹凸を平滑化し、コーターパートでは原紙に塗料を塗工する。
【0003】
特許文献1に記載する古紙再生装置では、駆動ローラ、従動ローラ、プレスロール等を介して、平滑面無端ベルトを回転走行可能に懸架支持するとともに、平滑面無端ベルトの走行経路における水平走行部分にヒータプレートを設けており、平滑面無端ベルト上の湿紙は、ヒータプレートにより加熱された平滑面無端ベルトにより間接的加熱乾燥される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−23450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来の構成において、湿紙を最短時間で乾燥させるためには、水の沸点以上に加熱して乾燥させることが望ましい。しかしながら、水の沸点、通常は100℃以上で湿紙を加熱すると、湿紙が平滑面ベルトに貼り付く現象が発生する。これは、ごく短時間のうちに水分が蒸発することにより、湿紙の水分中に含まれた異物が析出し、この異物が平滑面ベルトに焼き付くことが原因と推定される。
【0006】
本発明は上記した課題を解決するものであり、湿紙が平滑面ベルトに貼り付くことを抑制しつつ最短の時間で湿紙を乾燥させることができる抄紙機の湿紙乾燥装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の抄紙機の湿紙乾燥装置は、前工程から湿紙を転移させる搬送面が平滑面をなし、複数のローラ間に掛け渡して配置する平滑面ベルトと、平滑面ベルトの搬送方向に沿った複数の設置箇所に配置し、各設置箇所での湿紙の含水率に応じた温度に平滑面ベルトを加熱して湿紙を乾燥させる複数の加熱手段を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の抄紙機の湿紙乾燥装置において、各加熱手段は、自己の設置箇所での湿紙の含水率が50%以上である場合は、平滑面ベルトの加熱温度を100℃未満に制御し、自己の設置箇所での湿紙の含水率が50%未満である場合は、平滑面ベルトの加熱温度を100℃以上に制御することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の抄紙機の湿紙乾燥装置において、各加熱手段は、平滑面ベルトの搬送方向で下流側に位置する加熱手段の加熱温度を、平滑面ベルトの搬送方向で上流側に位置する加熱手段の加熱温度に比べて高く制御することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の抄紙機の湿紙乾燥装置において、平滑面ベルトは、その搬送経路の一部が前工程の吸水ベルトとの間に湿紙を挟んで脱水するプレス部を形成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の抄紙機の湿紙乾燥装置において、平滑面ベルトが金属製をなし、加熱手段が電磁加熱装置からなることを特徴とする。
また、本発明の抄紙機の湿紙乾燥装置において、平滑面ベルトと電磁加熱装置の間に平滑面ベルトの内側面に摺接する金属製の加熱体を配置し、電磁加熱装置が加熱体を加熱することで平滑面ベルトを加熱することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明によれば、加熱手段がその設置箇所での湿紙の含水率に応じた温度で平滑面ベルトを加熱して湿紙を乾燥させるので、湿紙が平滑面ベルトに貼り付くことを抑制できる。すなわち、湿紙を高温で短時間のうちに急激に加熱すると、水分の蒸発に伴って湿紙の水分中に含まれた異物が析出して平滑面ベルトに焼き付く現象が生じるが、含水率が高い、例えば50%を超える場合には100℃以下で加熱し、含水率が低い、例えば50%未満である場合には100℃以上で加熱することにより、水分の蒸発に伴う異物の析出を抑制し、異物の焼き付きに起因する湿紙の貼り付きを抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態における抄紙機を示す模式図
【図2】同実施の形態における抄紙機の湿紙乾燥装置を示す斜視図
【図3】同実施の形態における抄紙機の湿紙乾燥装置を示す分解斜視図
【図4】同実施の形態における抄紙機の湿紙乾燥装置を示す要部側面図
【図5】本発明の他の実施の形態における抄紙機の湿紙乾燥装置を示す斜視図
【図6】同実施の形態における抄紙機の湿紙乾燥装置を示す分解斜視図
【図7】同実施の形態における抄紙機の湿紙乾燥装置を示す要部側面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1から図4において、抄紙機である古紙処理装置は、抄紙部1と脱水部2と乾燥部3を備えており、図示を省略するが、その他に古紙を離解して再生パルプを調製する再生パルプ部と、インク、トナー等の異物を繊維から分離して脱墨パルプを調製する脱墨パルプ部と、各部を制御する制御部を備えており、古紙から再生紙を調製するものである。
【0015】
抄紙部1は、脱墨パルプを抄紙して再生紙を調製(再生)するものであり、ヘッドボックス11、ワイヤー部12からなる。ワイヤー部12は両側のローラ121および中間のローラ122に掛け渡して展張したメッシュベルト123を有し、メッシュベルト123が無端軌道を形成している。メッシュベルト123にはヘッドボックス11から脱墨パルプを含む脱墨パルプ含有液を均一に噴出させ、メッシュベルト123で水切りして繊維の層をなす湿紙124を形成する。
【0016】
脱水部2は、複数のローラ21の間に掛け渡したフェルトからなる吸水ベルト22を有し、湿紙124をメッシュベルト123から吸水ベルト22に転移させ、吸水ベルト22で吸水して脱水するものであり、吸水ベルト22の搬送軌道上にプレス部23を形成している。プレス部23はローラ21と後述する乾燥部3のローラ31の間で吸水ベルト22と後述する乾燥部3の平滑面ベルト33の間に挟んだ湿紙124を押圧して脱水するものであり、プレス部23を通過した湿紙124が吸水ベルト22から平滑面ベルト33に転移する。
【0017】
乾燥部3は、複数のローラ31と乾燥ローラ32の間に掛け渡したスチール製の平滑面ベルト33有し、プレス部23を形成するローラ31は脱水部2のローラ21との間において加えるプレス圧を調整可能な機構を備えている。
【0018】
さらに、乾燥部3は、複数のローラ311と乾燥ローラ32の間に掛け渡した網状をなす樹脂製の上搬送ベルト331を有しており、平滑面ベルト33と上搬送ベルト331が湿紙124を挟んで乾燥ローラ32の表面上で重なり、乾燥ローラ32に圧接させて湿紙124を乾燥させる。
【0019】
平滑面ベルト33は搬送面が平滑面をなし、搬送面にシリコーン樹脂コーティングもしくはフッ素樹脂コーティングを施している。
乾燥ローラ32は、平滑面ベルト33を支持する両側の転輪34の内側に、転輪34を内側から回転自在に支持する複数の、ここでは3つの支持ローラ35を配置しており、転輪34の外側に転輪34を回転駆動する駆動ローラ36を配置している。
【0020】
両側の転輪34の間には平滑面ベルト33の内側面に摺接する複数の金属製の加熱体37および加熱体37を加熱する加熱手段をなす複数の電磁加熱装置38を配置している。電磁加熱装置38は加熱体37を加熱することで平滑面ベルト33を加熱して湿紙124を乾燥させる。
【0021】
複数の電磁加熱装置38は、平滑面ベルト33の搬送方向に沿った複数の設置箇所のそれぞれに配置し、各設置箇所での湿紙124の含水率に応じた温度に平滑面ベルト33を加熱して湿紙124を乾燥させる。すなわち、各電磁加熱装置38は、自己の設置箇所での湿紙の含水率が50%以上である場合は、平滑面ベルト33の加熱温度を100℃未満に制御し、自己の設置箇所での湿紙の含水率が50%未満である場合は、平滑面ベルト33の加熱温度を100℃以上に制御するものであり、各電磁加熱装置38は、平滑面ベルト33の搬送方向で下流側に位置する電磁加熱装置38の加熱温度を、平滑面ベルト33の搬送方向で上流側に位置する電磁加熱装置38の加熱温度に比べて高く制御する。
【0022】
電磁加熱装置38を使用することで、加熱の応答性が向上し、加熱体37を使用することで電磁加熱による加熱ムラを防止する。
制御部(図示省略)には湿紙124の含水率に関するデータテーブルを記憶させてあり、データテーブルは各電磁加熱装置38のそれぞれに対応するものを個別に用意してある。制御部はデータテーブルを参照して湿紙124の含水率および電磁加熱装置38による加熱温度を決定する。湿紙124の含水率について以下に詳説する。
【0023】
乾燥部3に到達する直前の湿紙124の含水率は、抄紙部1における抄紙時の紙厚さと、プレス部23でのプレス圧により定まる。抄紙時の紙厚さは抄紙部1における抄紙速度や脱墨パルプ含有液の流量によって変化する。このため、湿紙124の含水率に関するデータテーブルは、各紙厚さおよびプレス圧毎に湿紙124の含水率を測定することで作成する。
【0024】
【表1】

【0025】
表1は、最上流にある電磁加熱装置38に対応するデータテーブルを例示するものであり、例えばプレス圧を1.5t(トン)で一定とすると紙厚が大きくなるほどに含水率が高くなり、例えば紙厚を55kで一定とするとプレス圧が大きくなるほどに含水率が低くなる。
【0026】
以下、上記構成の作用を説明する。古紙処理装置の運転に際してユーザは、再生する紙について紙厚を制御部に選択入力し、さらに紙の品質を重視した再生処理を行なうか省エネを重視した再生処理を行なうかを制御部に選択入力する。
【0027】
ユーザが品質を重視する選択を行なった場合に、制御部は再生した紙に吸水ベルト22の素材(フェルト)目や芯体目の跡形が出ないようにプレス部23のプレス圧を低めに設定する。ユーザが省エネを重視する選択を行なった場合に、制御部は乾燥部3における負荷を軽減して電磁加熱装置38の電気消費量を抑えることを目的として強く脱水するためにプレス部23のプレス圧を高め設定する。
【0028】
古紙処理装置の運転時には、図1に示すように、メッシュベルト123にヘッドボックス11から脱墨パルプを含む脱墨パルプ含有液を均一に噴出させ、メッシュベルト123で水切りして繊維の層をなす湿紙124を形成する。
【0029】
そして、湿紙124をメッシュベルト123から吸水ベルト22に転移させ、吸水ベルト22で吸水して脱水し、プレス部23で吸水ベルト22と平滑面ベルト33の間に挟んだ湿紙124を押圧して脱水し、プレス部23を通過した湿紙124を吸水ベルト22から平滑面ベルト33の搬送面に転移させる。
【0030】
次に、平滑面ベルト33と上搬送ベルト331が湿紙124を挟んで乾燥ローラ32の表面上で重なり、その状態で乾燥ローラ32に圧接して湿紙124を乾燥させる。
平滑面ベルト33は電磁加熱装置38により加熱された加熱体37に摺接することで加熱されており、湿紙124は平滑面ベルト33の搬送面である平滑面において加熱される。乾燥ローラ32において、電磁加熱装置38は加熱体37を加熱することで平滑面ベルト33を加熱し、湿紙124をその含水率に応じて加熱して乾燥させる。
【0031】
この際に、制御部はユーザにより設定された紙厚さ、品質もしくは省エネの設定に基づいてデータテーブルを参照し、その設定下での湿紙124の含水率を想定し、その含水率に応じて電磁加熱装置38の加熱温度を決定する。
【0032】
すなわち、各電磁加熱装置38は、自己の設置箇所での湿紙の含水率が50%以上である場合は、平滑面ベルト33の加熱温度を100℃未満に制御し、自己の設置箇所での湿紙の含水率が50%未満である場合は、平滑面ベルト33の加熱温度を100℃以上に制御する。
【0033】
このように、電磁加熱装置38がその設置箇所での湿紙124の含水率に応じた温度で平滑面ベルト33を加熱して湿紙124を乾燥させるので、湿紙124が平滑面ベルト33に貼り付くことを抑制できる。すなわち、湿紙124を高温で短時間のうちに急激に加熱すると、水分の蒸発に伴って湿紙124の水分中に含まれた異物が析出して平滑面ベルトに焼き付く現象が生じるが、含水率が高い、例えば50%を超える場合には100℃以下で加熱し、含水率が低い、例えば50%未満である場合には100℃以上で加熱することにより、水分の蒸発に伴う異物の析出を抑制し、異物の焼き付きに起因する湿紙124の貼り付きを抑制する。
【0034】
本実施の形態では、平滑面ベルト33の内側面に摺接する複数の金属製の加熱体37を配置し、電磁加熱装置38で加熱体37を加熱することで平滑面ベルト33を加熱して湿紙124の乾燥を行なった。
【0035】
しかしながら、図5から図7に示すように、乾燥ローラ32の内部に乾燥ローラ32の周方向に沿って複数の支持体200を配置し、各支持体200に複数の電磁加熱装置38を平滑面ベルト33に摺接、もしくは近接させて設けることも可能である。
【0036】
この場合には、電磁加熱装置38で平滑面ベルト33を直接に加熱し、湿紙124の乾燥を行なう。
【符号の説明】
【0037】
1 抄紙部
2 脱水部
3 乾燥部
4 カレンダ部
11 ヘッドボックス
12 ワイヤー部
21、31、121、122、 ローラ
22 吸水ベルト
23 プレス部
32 乾燥ローラ
33 平滑面ベルト
34 転輪
35 支持ローラ
36 駆動ローラ
37 加熱体
38 電磁加熱装置
123 メッシュベルト
124 湿紙
200 支持体
311 ローラ
331 上搬送ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前工程から湿紙を転移させる搬送面が平滑面をなし、複数のローラ間に掛け渡して配置する平滑面ベルトと、平滑面ベルトの搬送方向に沿った複数の設置箇所に配置し、各設置箇所での湿紙の含水率に応じた温度に平滑面ベルトを加熱して湿紙を乾燥させる複数の加熱手段を備えることを特徴とする抄紙機の湿紙乾燥装置。
【請求項2】
各加熱手段は、自己の設置箇所での湿紙の含水率が50%以上である場合は、平滑面ベルトの加熱温度を100℃未満に制御し、自己の設置箇所での湿紙の含水率が50%未満である場合は、平滑面ベルトの加熱温度を100℃以上に制御することを特徴とする請求項1に記載の抄紙機の湿紙乾燥装置。
【請求項3】
各加熱手段は、平滑面ベルトの搬送方向で下流側に位置する加熱手段の加熱温度を、平滑面ベルトの搬送方向で上流側に位置する加熱手段の加熱温度に比べて高く制御することを特徴とする請求項1または2に記載の抄紙機の湿紙乾燥装置。
【請求項4】
平滑面ベルトは、その搬送経路の一部が前工程の吸水ベルトとの間に湿紙を挟んで脱水するプレス部を形成することを特徴とする請求項1に記載の抄紙機の湿紙乾燥装置。
【請求項5】
平滑面ベルトが金属製をなし、加熱手段が電磁加熱装置からなることを特徴とする請求項1に記載の抄紙機の湿紙乾燥装置。
【請求項6】
平滑面ベルトと電磁加熱装置の間に平滑面ベルトの内側面に摺接する金属製の加熱体を配置し、電磁加熱装置が加熱体を加熱することで平滑面ベルトを加熱することを特徴とする請求項5に記載の抄紙機の湿紙乾燥装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate