説明

抄紙用シュープレスベルト

【要 約】
【課 題】
製紙機械用ベルト(シュープレスベルト)において、湿紙搾水性がよく、紙質(湿紙平滑性やマーク性)が安定し、使用中のベルト外周面の損傷(クラックや磨耗)の少ないベルトを提供する。
【解決手段】
プレスロールとシューとの間に配置され、湿紙からの搾水を受容するするフェルトを載置し、前記プレスロールに向かって高圧で押しつけられる抄紙用シュープレス用ベルトにおいて、フェルト側表面に延設される排水溝の形状を製紙機械横断方向に少なくとも2種類の異なるものとする。
溝の断面形状はU字形又は台形の何れでも、溝底の形状も平底又は丸底の何れでも、また、それらの組み合わせであってもよい。
二種類の溝に機能を分担させることが可能となり、排水能力の向上と紙質や湿紙表面平滑性の向上とを同時に満足させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機のプレスパート、その他の類似機械において湿紙およびフェルトからの搾水性を向上するために使用するシュープレス用ベルトに関し、特にシュープレス用ベルトのフェルト側表面に延設される溝形状に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙においては、生産性を向上させるために湿紙からの水分を脱水するプレスパートにおいていかに湿紙からの水分を増やすかが大きな問題となる。湿紙水分をできるだけ少なくするという目的を達成するためにプレス脱水量を多くする手段として、プレスロールの加圧を上げる、プレスロールの硬度を上げる、あるいはシュープレス用ベルトを介在させ加圧時間を長くするなどの方法が取り入れられており、プレスの際のロールとフェルトの間の加圧時間を長くし脱水効果を向上させるため、シュープレス用ベルトを介在させる方法が近年多くなってきている。
【0003】
さらに最近ではシュープレス用ベルトには搾水した水を効率よく排水するためにフェルト側表面に多数の溝を延設するものが増えてきている。たとえば、特許文献1記載のものは、広巾ニッププレス(いわゆるシュープレス)に使用するベルトの外周面に複数の排水溝を設けて、湿紙搾水性の向上を図っている。
【0004】
溝形状としては、加工のし易さ、生産性、コスト等の点から、従来は矩形状のものがほとんどであるが、溝底部を湾曲させたり(特許文献2及び3)、ランド部に凹曲した頂面を設けたり(特許文献4)したものが提案されている。
特許文献2記載のものは、断面をU字形とすることによって、シュープレスの脱水性(搾水性)と強度持続性のよいベルトを提供するもので、排水溝のランド部の端部は面取りされ、溝幅が0.5〜4mm、深さが0.5〜5mm、隣接する排水溝との間隔が1〜4mmで構成されている。特許文献3には、溝底部を湾曲させたものの他、溝の側壁が外側に向けて湾曲したものも示されている。
また、特許文献4に記載されたプレスジャケット(プレスベルト)は、その外面に複数のウエッブ(ランド部)を有し、これらのウエッブの間に溝が介在しており、各ウエッブは凹曲した頭頂面を有している。
【0005】
上記各文献における溝形状は、生産性の理由から1つの形状(溝幅、溝深さ、ランド部幅、溝数)に固定されたものであった。搾水性を向上させるためには溝幅や溝深さを大きく設定して、いわゆるベルトのボイドボリューム(排水能力)を高めたベルトが使用されてきた。
しかし、単一形状でボイドボリュームを高めたベルトを使用した場合、溝内部の亀裂やランド部の損傷・磨耗が発生し易くなりがちであった。また、プレスによる紙質や湿紙表面平滑性が悪化してくる(湿紙に溝形状の転写マークの表れる割合が大きくなる)傾向があり、逆に、溝幅や溝深さを小さく設定すると搾水性が低下するため、プレス後の湿紙乾燥消費エネルギーが増加してしまう、というような問題があった。
【0006】
【特許文献1】実願昭57−147931号(実開昭59−54598号)のマイクロフィルム
【特許文献2】実用新案登録第3104830号公報
【特許文献3】特開2001−95484号公報
【特許文献4】特開昭64−61591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、製紙機械用ベルト(シュープレスベルト)において、湿紙搾水性がよく、紙質(湿紙平滑性やマーク性)が安定し、使用中のベルト外周面の損傷(クラックや磨耗)の少ないベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来1種類であった溝形状を2種類の形状を併用することによって上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、排水能力を分担する主溝形状と、紙質や湿紙表面平滑性を分担する副溝形状の2種類の形状の排水溝をベルト外周面に設けることを特徴とする抄紙用シュープレスベルトに係るものである。
【0009】
本発明は、基本的には2種類の溝形状の排水溝を有する抄紙用シュープレスベルトに関する発明であり、以下の各技術を基礎とするものである。
【0010】
(1)プレスロールとシューとの間に配置され、湿紙からの搾水を受容するするフェルトを載置し、前記プレスロールに向かって高圧で押しつけられる抄紙用シュープレス用ベルトにおいて、フェルト側表面に延設される排水溝が、製紙機械横断方向に少なくとも2種類の異なる溝形状を有することを特徴とする抄紙用シュープレス用ベルト。
【0011】
(2)前記排水溝の溝形状が、溝深さが深いものと浅いものの2種類からなることを特徴とする(1)記載の抄紙用シュープレスベルト。
【0012】
(3)前記排水溝の溝形状が、溝深さが深いものと浅いものとが略交互に並設されることを特徴とする(2)記載の抄紙用シュープレスベルト。
【0013】
(4)前記排水溝の溝形状が、矩形、台形、U字形の何れか1種類以上を含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の抄紙用シュープレスベルト。
【0014】
(5)前記排水溝の溝形状が、溝深さが深い溝がU字形であり、溝深さが浅い溝が台形であることを特徴とする(2)〜(4)のいずれかに記載の抄紙用シュープレスベルト。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、排水性の良い溝形状と紙マーク性の良い溝形状とが、製紙機械横断方向に並設されているから、それぞれの機能はそれぞれの溝形状に分担させることが可能となり、排水能力の向上と紙質や湿紙表面平滑性の向上とを同時に満足する抄紙用シュープレスベルトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の抄紙用シュープレスベルトの排水溝を形成(切削)する装置1の概略図である。
【0017】
まず、無端状の基体2を2本のロール3、3間に掛けわたし、所定の張力で緊張させる。このロール3は回転自在であり、基体2はロール3の回転方向に進行する。そのような状況下において基体2の上から液状ポリウレタンを適用し、硬化させることにより基体2の全周に亙りポリウレタン層を形成する。しかる後、ポリウレタン層4が設けられた基体2の外周面5に対して溝切装置6を用いて排水溝7を形成する。
【0018】
溝切装置6には、図2に示すように溝切削用の切削刃8a、8bが配列された切削刃を設置する。
【0019】
溝形状は、溝深さが深い(deep)もの(主溝7a)と浅い(shallow)もの(副溝7b)の2種類から構成され(図3及び4)、両者が略交互にあるいは所定のパターンで並設される。
【0020】
溝寸法は、溝幅が0.5〜2mm、溝深さが0.5〜2mm、隣接する排水溝とのランド部の間隔が1〜5mmの範囲で採用され、主溝7aと副溝7bの空隙量が所定の相対比になるようにベルト外周面5と切削刃8a、8bとの距離(クリアランス)を適宜調整する。溝1本当りの空隙量(ボイドボリューム)の相対比は、主溝100に対し、副溝10〜70であり、好ましくは25〜50である。
【0021】
溝の組み合わせパターンは、溝深さが深いものをd、浅いものをsとすると、
パターンI:d−s−d−s(主溝1本の隣に副溝1本を組込むもの)
パターンII:d−ss−d−ss(主溝1本の隣に副溝2本を組込むもの)
パターンIII:dd−s−dd−s(主溝2本の隣に副溝1本を組込むもの)
パターンIV:dd−ss−dd−ss(主溝2本の隣に副溝2本を組込むもの)
などがある。
パターンIの場合が、クラック性、搾水性、湿紙マーク性のバランスが最も良好である。搾水性がやや落ちるが、クラック性と湿紙マーク性を重視する場合はパターンIIを、逆にクラック性と湿紙マーク性がやや落ちても、搾水性を重視する場合はパターンIIIを選択する。
【0022】
また、その断面形状は、矩形又は台形の何れでも、溝底の形状も平底又は丸底の何れでも、また、それらの組み合わせであってもよい。断面U字形とは、溝底の形状が丸底のものである。図4は、主溝7a(溝深さが深い溝)がU字形、すなわち断面形状がU字形で溝底の形状が丸底であり、副溝7b(溝深さが浅い溝)が台形(断面形状が台形で溝底が平底)である例である。
【0023】
主溝と副溝の断面形状の組み合わせでは、矩形同士のものがクラック性、搾水性、湿紙マーク性のバランスが最もよい。搾水性を重視し、主溝が矩形で副溝が台形とした場合は湿紙マーク性がやや落ちる。クラック性と搾水性を重視し、主溝が台形で副溝が矩形とした場合も、湿紙マーク性がやや落ちる。
溝底形状の組み合わせでは、主溝が丸底で副溝が平底の場合は、クラック性を保持したまま加工性が良好であり、丸底同士の組み合わせが最も良好である。
【0024】
溝切削のないランド部の端部には、面取りを施すことで、端部の欠損や耳欠けを防止する。
ベルト外周面と切削刃との距離を適宜調整することによって、溝深さを調整することができる。
【0025】
溝をベルト表面に対して1回の切削工程で形成する場合は、半径の異なるメタルソー(切削刃)を交互または所定の組み合わせパターンに従い配列する(図2)。あるいは、2回の切削工程を経る場合は、まず半径の小さいメタルソー(切削刃)を配列して副溝(浅い溝)を切削し、次いで半径の大きいメタルソー(切削刃)を配列して副溝(浅い溝)の間隙に主溝(深い溝)を切削する。
【0026】
<性能評価方法>
製造されたシュープレスベルトについては、以下の試験により性能を評価し、機能順を付けて総合評価する。
【0027】
<クラック試験>
図5に示す装置を用いる。この装置は、実験片Sの両端が、クランプハンドCH、CHにより挟持され、クランプハンドCH、CHが、連動して左右方向に往復移動可能に構成されている。なお、この際、実験片Sに掛けられる張力は3kg/cm、往復速度は40cm/秒である。そして、実験片Sは、プレスロールRRと、プレスシューPSとにより加圧される。この際、プレスシューPSがプレスロールRR方向に移動することにより、実験片Sは加圧される。なお、この圧力は36kg/cmである。この装置により、クラックが生じるまでの往復回数を測定する。なお、実験片における評価面は、プレスロールRR側に向けられているものである。
評価点A:クラック発生までの回数(単位;万回)が26万回以上であったもの。
評価点B:12万回〜26万回の範囲のもの。
評価点C:12万回以下であったもの。
【0028】
<搾水試験>
図6に示す装置を使用して湿紙搾水テストを行う。本テスト装置は、プレスロールPRと対向する位置にベルト本体Bを配置するとともに、該ベルト本体Bをその内周側から前記プレスロールPRに圧迫するようにプレスシューPSを配置する。また、前記プレスロールPRとベルト本体Bとの間には、ナイロン6による11dtexの短繊維を、坪量が1500g/mとなるようニードルパンチ法にて基布に植毛してなるトップ側フェルトFtとボトム側フェルトFbを配置してなる。いま、ベルト本体Bを、プレスロールPRとプレスシューPSとのニップ圧が1000kN/mの下で1000m/分の走行速度で走行させる。そして、前記プレスロールPR上にその上方に設置したノズルNから3kg/cmの圧力で15リットル/分で水流Wを噴射する。このときトップロールは水流Wの膜に覆われるとともに、該水流Wはトップ側フェルトFt及びボトム側フェルトFbに含浸された後、ベルト本体Bにも供給される。このような状態において、前記ボトム側フェルトFb上に、水分が70%含有されている湿紙シートWSを載置し、ニップを通過させ、通過後の湿紙シートWSの水分を測定する。
評価点A:湿紙水分が45%以下であったもの。
評価点B:45%〜53%の範囲のもの。
評価点C:53%以上であったもの。
【0029】
<湿紙マーク性試験>
(1) 上記搾水試験で搾水した湿紙を50℃の乾燥器内に24時間保管して乾燥させた後、該乾燥紙の表面を写真撮影する。
(2) スキャナーでコンピュータに画像を読込む。この際、適宜画像を鮮明にする作業を行う。なお、画像読み込みソフトとしては、Adobe社の「Photoshop 5」等を使用する。
(3) 画像処理ソフトにて、前記乾燥紙に転写している溝部面積(溝マーク)を計算する。この際、画像処理ソフトとしては、 National Institutesof Health 社の「NIH image」を使用する。
(4)このような画像処理ソフトを使って、前記乾燥紙に転写している溝部面積(溝マーク)の割合を、ベルト外表面の溝面積に対する割合で算出する。
評価点A・・50%以下のもの
評価点B・・50〜75%以内のもの
評価点C・・75%以上のもの
【0030】
<機能順位>
試験結果については、上記各試験のそれぞれの評価点を基に総合評価し、以下の機能順位を付与する。
評価点がすべてAのもの → 順位1位
評価点が2つAで他がBのもの → 順位2位
評価点が1つAで他がBのもの → 順位3位
評価点に1つでもCがあるもの → 順位4位
【実施例】
【0031】
上記構成によるシュープレスベルトについて、具体的に以下に示す工程により、実施例1〜9及び比較例1、2を作成した。
【0032】
工程1:図1に示す装置を用い、無端状の基体を2本ロール間に掛け入れ、所定の張力で緊張させる。
工程2:基体の上から液状ポリウレタンを配置し、硬化させることにより基体の全周に亙りポリウレタン層を形成する。
工程3:溝切装置に主溝切削用の切削刃8a及び副溝切削用の切削刃8bをそれぞれ設置する。この切削刃の形状および切削条件は表1に従った。溝寸法は主溝と副溝の空隙量が表に記載される相対比になるようにベルト外周面と切削刃との距離(クラアランス)を適宜調整する。
【0033】
【表1】

【0034】
なお、主溝と副溝の形状は次の範囲により調整する。
主溝(深い溝 );溝幅・・・0.8〜1.2mm
溝深さ・・0.8〜1.8mm
隣接する排水溝とのランド部の間隔・・2mm
(主溝と副溝が交互に配置している場合は、主溝間隔は4mmとなる。)
副溝(浅い溝 );溝幅・・・0.5〜1.2mm
溝深さ・・0.1〜1.5mm
隣接する排水溝とのランド部の間隔・・2mm
(主溝と副溝が交互に配置している場合は、主溝間隔は4mmとなる。)
ベルト外周面への切削は製紙機械方向に対して、ベルト外周面と切削刃との距離を適宜調整して切削する。
【0035】
実施例1〜9及び比較例1、2に係るシュープレスベルトについて、クラック試験、搾水試験及び湿紙マーク性試験を行い、性能を評価した。その結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2の結果によれば、主溝と副溝の空隙量相対比が100/25、主溝と副溝が1本づつ交互に並列するパターンであって、横断面形状がU字形、溝底が丸底であるものが、3つの評価試験についていずれも良好な評価が得られており、最もバランスよいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によるシュープレスベルトは、排水能力と紙質向上を同時に満足させることができるので、抄紙機のプレスパート、その他の類似機械において湿紙およびフェルトからの搾水性を向上するために使用するシュープレス用ベルトとしてきわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のシュープレスベルトの排水溝を形成する装置である。
【図2】本発明の溝形成に使用する切削刃の配置を説明する図である。
【図3】本発明のシュープレスベルトの溝形状を示す図である。
【図4】本発明のシュープレスベルトの他の溝形状を示す図である。
【図5】クラック試験に使用する装置を示す図である。
【図6】搾水試験の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1:排水溝形成装置
2:基体
3:ロール
4:ポリウレタン層
5:外周面
6:溝切装置
7:排水溝
7a:主溝
7b:副溝
8a:主溝用切削刃
8b:副溝用切削刃
S:試験片
CH:クランプハンド
PR:プレスロール
PS:プレスシュー
B:ベルト本体
N:ノズル
W:水流
Ft:トップ側フェルト
Fb:ボトム側フェルト
WS:湿紙シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレスロールとシューとの間に配置され、湿紙からの搾水を受容するフェルトを載置し、前記プレスロールに向かって高圧で押しつけられる抄紙用シュープレスベルトにおいて、フェルト側表面に延設される排水溝が、製紙機械横断方向に少なくとも2種類の異なる溝形状を有することを特徴とする抄紙用シュープレスベルト。
【請求項2】
前記排水溝の溝形状が、溝深さが深いものと浅いものの2種類からなることを特徴とする請求項1記載の抄紙用シュープレスベルト。
【請求項3】
前記排水溝の溝形状が、溝深さが深いものと浅いものとが略交互に並設されることを特徴とする請求項2記載の抄紙用シュープレスベルト。
【請求項4】
前記排水溝の溝形状が、矩形、台形、U字形の何れか1種類以上を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抄紙用シュープレスベルト。
【請求項5】
前記排水溝の溝形状が、溝深さが深い溝がU字形であり、溝深さが浅い溝が台形であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の抄紙用シュープレスベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−202198(P2008−202198A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43063(P2007−43063)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】