説明

抄紙用ロール

【課題】抄紙機における抄紙用ロールに関し、特に、抄紙用ロールと湿紙との剥離性を向上させるための抄紙用ロールを提供する。
【解決手段】紙料供給部、脱水部、プレス部及び乾燥部を有する抄紙機に設備されており、水分率30〜95%を有する湿紙と接する抄紙用ロールにおいて、前記抄紙用ロールの表面に溝を形成して成り、前記溝は、前記湿紙と前記抄紙用ロールの接触面積率が、所定面積当たり60%〜99%の範囲となるように設けることを特徴とする抄紙用ロール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機における抄紙用ロールに関し、特に、抄紙用ロールと湿紙との剥離性を向上させるための抄紙用ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
抄紙機では、水と繊維を含む原料から湿紙を形成し、形成した湿紙をプレスパートでプレスしながら脱水を行い、乾燥させることで乾紙の製品としている。このとき、プレスパートでは、例えば多層紙の紙層を形成するために、抄紙用プレスロールで紙層の水分を除去しているが、抄紙用プレスロールの材質、表面性及びプレス条件等よって、紙の地合いや風合いに大きな影響を与えている。したがって、プレスパートでの脱水精度は、紙(製品)を製造する中で大変重要な工程となっており、プレスパートで使用する抄紙用プレスロールに関する課題が多いのが現状である。
【0003】
抄紙用プレスロールは、抄紙用トッププレスロールと抄紙用ボトムプレスロールで一対となっている。通常、抄紙機は抄紙用プレスパートを複数箇所有しており、プレスパートを通過するごとに徐々に紙層の水分を脱水していく。また、プレスパートの脱水方法としては、原料から形成され多くの水分を含んだ湿紙を、フェルト上に保持した状態で加圧された一対の抄紙用プレスロール間を通過させ、湿紙の水分をフェルト側に移行させる方法が代表的である。
【0004】
この構成によると、湿紙の片面(下面)はフェルトに保持されているため、フェルトを介して抄紙用ボトムプレスロールと接触していないが、湿紙の別の片面(上面)は抄紙用トッププレスロールと直接接触することとなる。
【0005】
また、プレスロールから、プレスロール又は次工程に湿紙を送り出す際に、湿紙はフェルトから剥離され、次工程のロールに直接湿紙が移送されることから、湿紙を抄紙用トッププレスロールの所定位置で剥離させる必要がある。そこで、湿紙と抄紙用プレスロールの剥離性を向上させるために、抄紙用トッププレスロールには天然の花崗岩製のロールが用いられていた。また、抄紙用ボトムプレスロールには、抄紙用トップロールよりも軟質な樹脂製やゴム製のロールが用いられていた。
【0006】
しかし、抄紙機の高速化、高温化によるロールの破損が懸念されるようになると、天然資源である花崗岩を用いることは資源の枯渇を招くこととなり、数年後には花崗岩の入手自体が困難になると予想される。
【0007】
そこで、湿紙と抄紙用プレスロールの剥離性を維持できるように、天然の花崗岩の代替石として、硬質樹脂や硬質ゴムに花崗岩や硅砂のような粉粒を混入して造った合成ストーンが提案された(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、抄紙機におけるプレスパートにおいては、湿紙と抄紙用プレスロールとの剥離性が十分なものでなく、今なお剥離性不良が課題となっているのが現状である。剥離性不良とは、図17に示すように、プレス部トップロール(1)とプレス部ボトムロール(3)に加圧された湿紙(4)は、加圧点を過ぎるとプレス部トップロール(1)から剥離し(27)フェルト(5)上に保持されて次工程へ進むが、剥離すべき個所を過ぎても剥離せず(26)、プレス部トップロール(1)の表面に付着したまま引きつけられて回転する現象のことである。このような剥離性不良は、プレスパートで用いる抄紙用プレスロール以外でも、抄紙機上において水分を40%以上含む湿紙が通過するロールで課題となっている。
【0009】
また、剥離性不良を改善する手段の一つとして、ロールの表面にセラミック膜を形成したロールが提案されている。これは、抄紙用プレスロール本体を構成する鋳鋼製のロールシェルの表面に、例えば、95%Ni−5%Alの合金によるアンダーコーティング層を形成する。その上にAl2O3(アルミナ)にTiO2(二酸化チタン)を13%以上添加して成るセラミックス粉末又はTiO2を100%として成るセラミックス粉末を溶射して、セラミックス溶射被膜を形成した抄紙用プレスロールである(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
さらに、剥離性不良を改善する別の手段として、抄紙用プレスロールに常に薬液を塗布しながら抄紙する方法が提案されている。これは、回転する抄紙用プレスロールの表面に対して、剥離向上剤としてのワックスを一定量ずつ供給付与し続けることにより、ワックスを抄紙用プレスロールの表面に一様に行き渡らせワックス膜を形成するものである(例えば、特許文献3参照)。
【0011】
【特許文献1】特開昭50−090704号公報
【特許文献2】特開平10−219581号公報
【特許文献3】特開2000−345489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特開昭50−090704号公報で提案されている合成ストーンは、抄紙用プレスロール表面の平滑性や保水性に劣るため、水分を多く含んでいる湿紙においては、湿紙が抄紙用プレスロールから剥離しにくくなり、紙切れなどの不良を生じている。
【0013】
また、特開平10−219581号公報で提案されているセラミックス膜を形成した抄紙用プレスロールは、湿紙と抄紙用プレスロールの剥離性が向上したものの、十分なものではなかった。さらに、表面にセラミックス被膜を溶射法等によって形成するための工程が別途必要であるため、抄紙用プレスロールの製造コストと比較すると価格が高く、特に小ロット生産の製品は、製造コストが高くなることが懸念される。
【0014】
また、特開2000−345489号公報で提案されている薬液塗布手段は、薬液の塗布量が剥離性に大きく影響を及ぼすため、薬液の塗布量に微調整を要し、塗布量が少なすぎると剥離性の効果を減少させてしまい、塗布量が多すぎると湿紙への影響が懸念されることとなる。また、薬液によるフェルトの汚れが発生しやすくなり、脱水力の低下を引き起こす可能性がある。
【0015】
さらに、長網抄紙機で二層紙や三層紙などの紙層構造が異なる種類の紙を製造する場合、湿紙が抄紙用ロールから剥離せず剥離性不良を起こした場合、上層の紙のみが抄紙用ロールの表面に付着したまま引きつけられて回転し、多層紙における紙層間の層間剥離が生じる。
【0016】
また、抄紙機においては、プレスパートで用いる抄紙用プレスロールの他に、湿紙水分率が30〜95%の湿紙が通過する部位でロールが用いられており、それらの部位においても湿紙とロールの剥離性に不良が生じていた。
【0017】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、抄紙用ロールの表面に溝部を形成し、抄紙用ロール表面の保水性が向上すると共に、抄紙用ロールの表面と湿紙との接触面積が減少することによって、それらの相乗効果による湿紙の剥離性が良好な抄紙用ロールを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の抄紙用ロールは、紙料供給部、脱水部、プレス部及び乾燥部を有する抄紙機に設備されており、水分率30〜95%を有する湿紙と接する抄紙用ロールにおいて、抄紙用ロールの表面に溝を形成して成り、溝は、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率が、所定面積当たり60%〜99%の範囲となるように設けることを特徴とする。
【0019】
所定面積当たりが、抄紙用ロールの有効面長における総面積の10%程度であることを特徴とする。
【0020】
本発明における抄紙用ロールの溝は、ピッチが1.0mm〜10.0mmかつ深さが0.03mm〜0.3mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
抄紙用ロールの表面に所定の溝部を形成することで、従来よりもロール表面に高い保水性を得ることが可能となる。さらに、抄紙用ロールの表面と湿紙との接触面積を調整することにより、抄紙用ロールの表面と湿紙の接触面積を減少させることが可能となる。これらの相乗効果によって、湿紙と抄紙用ロールとの高い剥離効果が得られる。また、多層紙においては、紙層間における層間剥離が生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明における抄紙用ロールの正面図を示す。また、2点破線の円囲い内は、溝のピッチ、溝の深さ、溝の幅及び湿紙と抄紙用ロールの接触長さを示す拡大図である。図2は、本発明における抄紙用ロールの溝の形状の一例を示す。図3(a)は、本発明における抄紙用ロールの溝が同一ピッチの場合、(b)は、抄紙用ロールの溝が異なるピッチの場合を示す。図4は、本発明における抄紙用ロールの溝のピッチ間の接触面積、抄紙用ロールの有効面長内の接触本数、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積を示す。図5は、本発明における抄紙用ロールの側面図を示す。図6は、本発明における抄紙用ロールと湿紙の所定面積当たりの接触面積率を示す。図7本発明における抄紙用ロールの表面を上部から見た溝の形状の一例を示す。図8は、本発明における単層紙の製造装置の全体構成を示す。図9は、本発明における多層紙の製造装置の全体構成を示す。図10は、本発明における抄紙用ロールの溝を、加工バイト60度の三角形状で形成した場合の溝の幅及び溝の長さの算出方法を示す。図11は、本発明における抄紙用ロールの溝を、加工バイト60度の三角形状で形成した場合の溝の幅及び溝の長さの算出方法を示す。図12は、本発明における抄紙用ロールの溝を、加工バイト90度の三角形状で形成した場合の溝の幅及び溝の長さの算出方法を示す。図13は、本発明における抄紙用ロールの溝を、加工バイト90度の三角形状で形成し、溝のピッチを異ならせた場合の溝の幅及び溝の長さの算出方法を示す。図14は、本発明における抄紙用ロールの溝を、四角形状で形成した場合の溝の幅及び溝の長さの算出方法を示す。図15は、本発明における抄紙用ロールの溝を、円形状で形成した場合の溝の幅及び溝の長さの算出方法を示す。図16は、本発明における抄紙用ロールと湿紙の抱き角度を示す。
【0023】
図1に示すように、本発明における抄紙用ロールは、所定の溝が形成されている。
【0024】
抄紙用ロールの表面は、天然石、樹脂、ゴムの材質から成り、表面硬度は、A70からA100の範囲である。表面硬度がA70より小さい場合、良好な加工溝を形成することが困難となるため、ロール表面のバリの発生や用紙の地合不良等の問題が発生する。
【0025】
抄紙用ロールに溝を形成する手段として、市販されている加工バイトであれば本発明における抄紙用ロールの溝を設けることが可能であり、その形状及びバイト角度に制限はない。
【0026】
溝の形状については、使用する加工バイトによって異なり、例として図2(a)〜(c)に示すように三角形状(a)、四角形状(b)又は円形状(c)の溝の形状が挙げられる。しかし、他の加工バイトを使用すれば、他の溝の形状も形成可能である。
【0027】
湿紙水分率が50%〜70%の場合に使用する抄紙用ロールに形成する溝の条件を以下に示す。溝のピッチの範囲は、1.0mm〜10.0mmである。本発明における溝のピッチとは、一つの溝の低点となる点から隣り合う溝の低点となる点までの長さのことをいう。図2(a)に示す三角形状の溝の場合、抄紙用ロール表面に対して溝の一番深い部分である凸部(山部)が低点となり、図2(b)に示す四角形状の溝の場合、溝の底辺となる部分の中央が低点となり、図2(c)に示す円形状の溝の場合、抄紙用ロール表面に対して溝の一番深い部分である湾曲部が低点となる。
【0028】
溝のピッチが、1.0mmより小さくし、加工深度を深くした場合、隣り合う溝同士が接近しすぎて、凸部(山部)の形状不良によってロールの表面にバリが生じる問題が発生する。また、10.0mmより大きくした場合、ロール表面の保水性を向上する効果が得られにくく、併せて湿紙と抄紙用ロールの接触面積をあまり低減できないため、抄紙用ロールと湿紙の剥離効果が低下する問題が発生する。
【0029】
抄紙用ロールに形成する溝のピッチは、図3(a)に示すような一定のピッチで形成しても、図3(b)に示すような不規則なピッチで形成しても良く、すべての溝のピッチが1.0mm〜10.0mmの範囲内であれば良い。以下、溝のピッチが一定の場合の実施の形態を説明する。
【0030】
溝の深さの範囲は、0.03mm〜0.3mmである。本発明における溝の深さとは、抄紙用ロールの表面から溝の低点までを直角に結んだ長さのことをいう。溝の深さが0.03mmより小さい場合、ロール表面の保水性を向上する効果が得られにくい問題が発生する。また、溝の深さが0.3mmより大きい場合、保水性が高くなりすぎて紙の地合いが不良となる問題が発生する。
【0031】
抄紙用ロールに形成する溝の深さは、隣り合う溝同士で異なっていても良いが、その場合、1ラインの溝を形成した後、その隣の溝を形成する際に加工バイトの角度を変更する必要があり、実行上好ましくはない。
【0032】
また、溝の幅及び接触長さは、溝の深さによって算出される。本発明における溝の幅とは、バイトで彫刻した溝の開口部分の幅のことをいう。また、本発明における接触長さとは、バイトで彫刻した溝と溝の間の無加工部分が、湿紙または紙と接触する寸法のことをいう。
【0033】
溝の幅は、溝の深さと加工バイトの形状に依存する。例えば、加工バイトの形状が三角形状の場合は、加工バイト角度に伴う溝の断面の三角形状の長さ比と溝の深さによって算出される。また、加工バイトの角度が四角形状の場合は、加工バイトの刃先の長さと溝の深さによって算出される。また、加工バイトの形状が円形状の場合は、レーザ彫刻によって溝を形成するため、使用するレーザに依存する。さらに、接触長さは、(溝のピッチ−溝の幅)にて算出される。
【0034】
また、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積の算出方法を説明する。
【0035】
まず、溝のピッチ間の接触面積を算出する。本発明における溝のピッチ間の接触面積とは、図4に示すように、溝のピッチの間にロールが接触している面積のことを言う。溝のピッチ間の接触面積は、(接触長さ×ニップ幅)にて算出される。ニップ幅とは、図5に示すように、湿紙に抄紙用ロールを加圧した場合の、湿紙と抄紙用ロールが接触する湿紙流れ方向の幅のことである。
【0036】
次に、抄紙用ロールの有効面長内の接触本数を算出する。本発明における抄紙用ロールの有効面長内の接触本数とは、湿紙と抄紙用ロールが接触する用紙幅方向の長さにおける接触部分の本数のことを言う。抄紙用ロールの有効面長内の接触本数は、(抄紙用ロールの有効面長/溝のピッチ)にて算出される。
【0037】
以上の結果をもとに、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積が算出される。本発明における湿紙と抄紙用ロールの総接触面積とは、ロールの有効面積内にある接触長さ(無加工部分)の数に接触面積を乗じた総面積のことをいう。湿紙と抄紙用ロールの総接触面積は、(溝のピッチ間の接触面積×抄紙用ロールの有効面長内の接触本数)にて算出される。
【0038】
ニップ幅については、抄紙用ロールの表面硬度や抄紙用ロールの直径等に依存する。ただし、実行面上は、1.0mm〜10.0mmとする。
【0039】
抄紙用ロール表面の保水性にともなう湿紙と抄紙用ロールの剥離性を考慮すると、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率の範囲は、所定面積当たり60%〜99%である。湿紙と抄紙用ロールの接触面積率が、60%より小さい場合、抄紙用ロール表面の保水性が高くなりすぎて紙の地合いが不良となる問題が発生する。また、逆に、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率が99%より大きい場合、抄紙用ロール表面の保水性が低下して湿紙と抄紙用ロールの剥離効果が低下する問題が発生する。
【0040】
ただし、上述した所定面積当たりにおける所定とは、図6(a)に示すように、抄紙用ロールの有効面長の総面積に対して、連続した領域において10%程度とする。
【0041】
連続した領域において10%程度する理由として、図6(b)に示すように、例えば、連続しない領域であるX領域とY領域とZ領域を合計して10%となるような領域において、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率が80%となるような抄紙用ロールであっても、本発明の課題を解決するには至らず、課題を解決するための抄紙用ロールにするためには、ほぼ均等に溝を設ける必要性があるためである。
【0042】
また、図6(c)に示すように、例えば、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率が80%となるような溝を形成した抄紙用ロールにする場合、抄紙用ロールの有効面長において、一方の側には全く溝を設けることなく、他方の側に集中的に溝を設けることで、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率が80%となるような抄紙用ロールであっても、本発明の課題を解決するには至らず、課題を解決するための抄紙用ロールにするためには、ほぼ均等に溝を設ける必要性があるためである。
【0043】
このことから、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率は、抄紙用ロールの有効面長の総面積に対して、どの箇所においても連続した10%程度の面積当たり60%〜99%である必要がある。
【0044】
抄紙用ロールに形成する溝として、抄紙用ロールの表面を上面から見た場合、図7(a)に示すように連続した溝でも良く、図7(b)に示すように、不連続な溝でも良い。さらに、図面では、溝と隣り合う溝とが重なり合わずに平行の状態となっているが、これに限定されず、格子状の状態となっていても良い。
【0045】
次に、単層の場合の抄紙方法を説明する。図8に単層紙の製造装置の全体構成を示す。
【0046】
単層紙の製造装置は、長網抄紙機(28)と言われ、網帯からなり、循環するエンドレスな抄紙用のワイヤ(9)を有する。このワイヤ(9)は、サクションクーチロール(10)とブレストロール(11)との間に架け渡され、ワイヤ(9)に沿って内側に配置された図示しない複数のロールにより支持され、案内されて循環移動する。
【0047】
ワイヤ(9)の上流部(ワイヤの上面における移動始端部)には、上流側から下流側に向けて、紙料供給槽(12)が配設されている。
【0048】
紙料供給槽(12)には紙料(15)が充填され、適宜、図示しない供給源から補給され、所定の液位を維持するように制御されている。紙料(15)は主にパルプ繊維、水、薬品及びてん料などからなる。
【0049】
紙料供給槽(12)における下流部分には、紙料目止め板(17a、17b、17c)が配置されている。供給された紙料(15)は、紙料用目止め板(17a、17b、17c)とワイヤ(9)との間の隙間に流れ込み、ワイヤ(9)の上に紙料マット(8)を形成し抄紙を可能とする。
【0050】
ワイヤ(9)の下流部(ワイヤの上面の移動終端部)の下側には、サクションボックス(22)が配置されている。このサクションボックス(22)は、抄紙工程におけるワイヤ(9)の下流部において、紙料マット(8)内に含まれている水を強制吸引して脱水するものである。
【0051】
ワイヤ(9)で形成された湿紙状態の単層紙は、図示しないガイドロールで案内され最終製品として巻取ロールで巻き取られるが、ワイヤ(9)と巻取ロールの間には、上流側から、プレス部トップロール(1)、プレス部ボトムロール(3)、ペーパロール(29、30、31)及び乾燥装置(25)が配設されている。
【0052】
プレス部トップロール(1)及びプレス部ボトムロール(3)は、単層紙を挟持し、さらに下流の巻取ロール(25)に送る。乾燥装置(23)は、周知の乾燥装置を利用する。
【0053】
次に、多層の場合の抄紙方法を説明する。図9に、多層紙の製造装置の全体構成を示す。
【0054】
多層紙の製造装置は、長網抄紙機(28)と言われ、網帯から成り、循環するエンドレスな抄紙用のワイヤ(9)を有する。このワイヤ(9)は、サクションクーチロール(10)とブレストロール(11)との間に架け渡され、ワイヤ(9)に沿って内側に配置された図示しない複数のロールにより支持され、案内されて循環移動する。
【0055】
ワイヤ(9)の上流部(ワイヤの上面における移動始端部)には、上流側から下流側に向けて、下層紙料供給槽(12)、中間シート供給装置(13)、上層紙料供給槽(14)が、間隔をおいて順次、配設されている。
【0056】
下層紙料供給槽(12)及び上層紙料供給槽(14)内には、それぞれ下層紙料(15)及び上層紙料(16)が充填され、適宜、図示しない供給源から補給され、所定の液位を維持するように制御されている。下層紙料(15)及び上層紙料(16)は、下層紙料層(8)及び上層紙料層(6)の素材となる材料であり、主にパルプ繊維、水及び添加剤から成る。
【0057】
下層紙料供給槽(12)及び上層紙料供給槽(14)のそれぞれにおける下流部分には、下層紙料用目止め板(17)及び上層紙料用目止め板(18)が、それぞれ配置されている。下層紙料用目止め板(17)及び上層紙料用目止め板(18)のそれぞれとワイヤ(9)との間の隙間を通じて、それぞれワイヤ(9)上に下層紙料(15)及び上層紙料(16)を供給し、抄紙を可能とする。
【0058】
中間シート供給装置(13)による中間シート供給部位は、下層紙料供給槽(12)の下流側であって上層紙料供給槽(14)の上流側に設けられており、ワイヤ(9)上に形成される下層紙料層(湿紙)(8)上に向け、中間シート(7)を供給する。この中間シート供給装置(13)は、シートロール(19)、繰り出しロール(20)及びダンサロール(21)を備えている。
【0059】
中間シート供給装置(13)から供給される帯状の中間シートの横幅は、下層紙料用目止め板(17)からワイヤ(9)の上面(搬送面)に供給されて形成される下層紙料層(下部湿紙)(8)の横幅とほぼ同じであり、さらに上層紙料用目止め板(18)から下層紙料層(8)の上面に供給されて形成される上層紙料層(上部湿紙)(6)の横幅ともほぼ同じである。
【0060】
シートロール(19)は、その軸心の長手方向(紙面に対して垂直の方向)、即ち中間シートの幅方向に、巻き付けてある不織布ごと移動して幅方向に位置を調整できるように、図示しない中間シート供給ドラム幅方向位置調整装置を有する構成となっている。
【0061】
ワイヤ(9)の下流部(ワイヤの上面の移動終端部)の下側には、サクションボックス(22)が配置されている。このサクションボックス(22)は、抄紙工程におけるワイヤ(9)の下流部において、下層紙料層(8)、中間シート及び上層紙料層(6)内に含まれている水を吸引して搾水するものである。
【0062】
ワイヤ(9)で形成された多層すき合わせ紙は、図示しないガイドロールで案内され、最終製品として巻取ロールで巻き取られるが、ワイヤ(9)と巻取ロールの間には、上流側から、プレス部トップロール(1)、プレス部ボトムロール(3)、ペーパロール(29、30、31)及び乾燥装置(23)が配設されている。
【0063】
プレス部トップロール(1)及びプレス部ボトムロール(3)は、多層すき合わせ紙を挟持して、さらに下流の巻取ロール(25)に送る。乾燥装置(23)は、周知の乾燥装置を利用する。
【0064】
作製した抄紙用ロールは、湿紙と直接接触するプレス部トップロール(1)に用いる他、ペーパロール(29、30、31)においても用いることができ、これらの部位に用いることで、紙離れ不良や層間剥離を解消する効果が期待できる。しかし、これに限定されるものではなく、抄紙機(28)における乾燥装置(23)より手前に設置されているロールであれば、すべての部位において用いることが可能である。さらに、長網抄紙機だけではなく、円網抄紙機においても、湿紙が接触するロールであれば、本発明の抄紙用ロールを使用することが可能である。
【実施例1】
【0065】
バイト角度60度の三角形状、溝のピッチ1.0mmの一定、溝の深さ0.3mm、ニップ幅5.0mm、抄紙用ロールの有効面長1000mmの条件において、抄紙用ロールに溝を設けた場合の例を、図10を参照して説明する。
【0066】
抄紙用ロールとしては、表面硬度A70の硬質ゴム製ロールを使用し、抄紙用ロールの表面に対し、NC旋盤機で刃の先端角度が60度の加工バイトを用いて、以下に述べる条件にて溝を形成した。
【0067】
加工バイトの先端角度60度の三角形状のものを使用することで、図10に示すように、溝(2)の断面も三角形状となり、溝の幅を2等分した長さ:溝の幅の始まりから溝の低点までの長さ:溝の低点から抄紙用ロールの表面まで直角に結んだ長さは、1:2:√3の比が成り立つ。溝の幅は、(溝の深さ/√3×2)にて算出され、接触長さは、(溝のピッチ−溝の幅)にて算出される。
【0068】
形成した溝のピッチを1.0mmとし、溝の深さを0.3mmとした場合、溝の幅は、(溝の深さ/√3×2)=(0.3mm/√3×2)=0.3464mmとなる。また、接触長さは、(溝のピッチ−溝の幅)=(1.0mm−0.3464mm)=0.6536mmとなる。
【0069】
次に、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積を算出する。溝のピッチ間の接触面積は、(接触長さ×ニップ幅)=(0.6536mm×5.0mm)=3.2680mmとなる。次に、抄紙用ロールの有効面長内の接触本数は、(抄紙用ロールの有効面長/溝のピッチ)=(1000mm/1.0mm)=1000本となる。湿紙と抄紙用ロールの総接触面積は、(溝のピッチ間の接触面積×抄紙用ロールの有効面長内の接触本数)=(3.2680mm×1000本)=3268mmとなる。
【0070】
このことから、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率は65.3%となる。
【0071】
このようにして作製した抄紙用ロールは、図8に示す単層紙の製造装置の脱水工程において、湿紙と直接接触する側のロールであるプレス部トップロール(1)の箇所に取り設けた。抄造する際の抄速は、30mとした。紙の種類は、上質紙とし、紙層構造は、坪量70g/m〜100g/mの単層紙を抄造した。
【0072】
図16に示すように、入口側の湿紙抱き角度をa、紙離れ良好時の出口側の湿紙抱き角度をb、紙離れ不良時の湿紙抱き角度をcとすると、b≦a<cの関係となる。本発明における抄紙用ロールを使用しない場合は、図17に示すように湿紙がプレス部トップロールに密着して紙離れが悪かったが、本発明における抄紙用ロールを使用することによって、b≦aとなり、湿紙とプレス部トップロールの高い剥離効果が得られ紙離れ不良及び層間剥離の問題が解消された。
【実施例2】
【0073】
バイト角度60度の三角形状、溝のピッチ10.0mmの一定、溝の深さ0.03mm、ニップ幅5.0mm、抄紙用ロールの有効面長1000mmの条件において、抄紙用ロールに溝を設けた場合の例を、図11を参照して説明する。
【0074】
抄紙用ロールとしては、表面硬度A100の硬質ゴム製ロールを使用し、抄紙用ロールの表面に対し、NC旋盤機で刃の先端角度が60度の加工バイトを用いて、以下に述べる条件にて溝を形成した。
【0075】
加工バイトの先端角度60度の三角形状のものを使用することで、図11に示すように、溝(2)の断面も三角形状となり、溝の幅を2等分した長さ:溝の幅の始まりから溝の低点までの長さ:溝の低点から抄紙用ロールの表面まで直角に結んだ長さは、1:2:√3の比が成り立つ。そのことから、溝の幅は、(溝の深さ/√3×2)にて算出され、さらに、接触長さは、(溝のピッチ−溝の幅)にて算出される。
【0076】
形成した溝の条件として、溝のピッチを10.0mmとし、溝の深さを0.03mmとした。その場合、溝の幅は、(溝の深さ/√3×2)=(0.03mm/√3×2)=0.0346mmとなる。また、接触長さは、(溝のピッチ−溝の幅)=(1.0mm−0.0346mm)=9.9654mmとなる。
【0077】
溝のピッチが1.0mm〜10.0mm、溝の深さが0.03mm〜0.3mm、加工バイトの角度が60度である場合、溝の幅の範囲は、0.0346mm〜0.346mmとなる。溝の幅が0.0346mmより小さい場合、ロール表面の保水性を向上する効果が得られにくい問題が発生する。また、逆に、溝の幅が0.346mmより大きい場合、保水性が高くなりすぎて、紙の地合いが不良となる問題が発生する。
【0078】
また、接触長さの範囲は、0.6536mm〜9.9654mmとなる。溝の幅が0.6536mmより小さい場合、ロール表面の保水性を向上する効果が得られにくい問題が発生する。また、溝の幅が9.9654mmより大きい場合、保水性が高くなりすぎて、紙の地合いが不良となる問題が発生する。
【0079】
次に、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積を算出する。まず、溝のピッチ間の接触面積は、(接触長さ×ニップ幅)=(9.9654mm×5.0mm)=49.827mとなる。次に、抄紙用ロールの有効面長内の接触本数は、(抄紙用ロールの有効面長/溝のピッチ)=(1000mm/10.0mm)=100本となる。次に、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積は、(溝のピッチ間の接触面積×抄紙用ロールの有効面長内の接触本数)=(49.827mm×100本)=4983mmとなる。
【0080】
溝のピッチが1.0mm〜10.0mm、溝の深さが0.03mm〜0.3mm、加工バイトの角度が60度、抄紙用ロールの有効面長が1000mm、ニップ幅が5.0mmである場合、湿紙と抄紙用ロールの接触面積の範囲は、3265mm〜4933mmとなる。湿紙と抄紙用ロールの接触面積が3265mmより小さい場合、抄紙用ロール表面の保水性が高くなりすぎて紙の地合いが不良となる問題が発生する。また、逆に、湿紙と抄紙用ロールの接触面積が4933mmより大きい場合、抄紙用ロール表面の保水性が低下して湿紙と抄紙用ロールの剥離効果が低下する問題が発生する。
【0081】
このことから、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率は99.0%となる。溝のピッチが1.0mm〜10.0mm、溝の深さが0.03mm〜0.3mm、加工バイトの角度が60度、抄紙用ロールの有効面長が1000mm、ニップ幅が5.0mmである場合、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率の範囲は、65.3%〜99.0%となる。湿紙と抄紙用ロールの接触面積が65.3%より小さい場合、抄紙用ロール表面の保水性が高くなりすぎて紙の地合いが不良となる問題が発生する。また、湿紙と抄紙用ロールの接触面積が99.0%より大きい場合、抄紙用ロール表面の保水性が低下して湿紙と抄紙用ロールの剥離効果が低下する問題が発生する。
【0082】
このようにして作製した抄紙用ロールは、図9に示す多層紙の製造装置の脱水工程において、湿紙と直接接触する側のロールであるプレス部トップロール(1)の箇所に取り設けた。抄造する際の抄速は、30mとした。紙の種類は、上質紙とし、紙層構造は、30g/m〜70g/mの低坪量の多層紙を抄造した。
【0083】
図16に示すように、入口側の湿紙抱き角度をa、紙離れ良好時の出口側の湿紙抱き角度をb、紙離れ不良時の湿紙抱き角度をcとすると、b≦a<cの関係となる。本発明における抄紙用ロールを使用しない場合は、図17に示すように湿紙がプレス部トップロールに密着して紙離れが悪かったが、本発明における抄紙用ロールを使用することによって、b≦aとなり、湿紙とプレス部トップロールの高い剥離効果が得られ紙離れ不良及び層間剥離の問題が解消された。
【実施例3】
【0084】
バイト角度90度の三角形状、溝のピッチ1.0mmの一定、溝の深さ0.03mm、ニップ幅5.5mm、抄紙用ロールの有効面長1000mmの条件において、抄紙用ロールに溝を設けた場合の例を、図12を参照して説明する。
【0085】
抄紙用ロールとしては、表面硬度A100の硬質ゴム製ロールを使用し、抄紙用ロールの表面に対し、NC旋盤機で刃の先端角度が90度の加工バイトを用いて、以下に述べる条件にて溝を形成した。
【0086】
形成した溝の条件として、溝のピッチを1.0mmとし、溝の深さを0.03mmとした。図12に示すように、溝(2)の断面が三角形状となり、溝の幅を2等分した長さ:溝の幅の始まりから溝の低点までの長さ:溝の低点から抄紙用ロールの表面まで直角に結んだ長さは、1:√2:1の比が成り立つ。その場合、溝の幅は、(溝の深さ×2)=(0.03mm×2)=0.06mmとなる。また、接触長さは、(溝のピッチ−溝の幅)=(1.0mm−0.06mm)=0.94mmとなる。
【0087】
次に、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積を算出する。まず、溝のピッチ間の接触面積は、(接触長さ×ニップ幅)=(0.94mm×5.5mm)=5.17mmとなる。次に、抄紙用ロールの有効面長内の接触本数は、(抄紙用ロールの有効面長/溝のピッチ)=(1000mm/1.0mm)=1000本となる。次に、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積は、(溝のピッチ間の接触面積×抄紙用ロールの有効面長内の接触本数)=(5.17mm×1000本)=5170mmとなる。
【0088】
このことから、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率は94.0%となる。
【0089】
このようにして作製した抄紙用ロールは、図8に示す単層紙の製造装置の脱水工程において、湿紙と直接接触する側のロールであるプレス部トップロール(1)の箇所に取り設けた。抄造する際の抄速は、30mで実施した。紙の種類は、上質紙とし、紙層構造は、坪量70g/m〜100g/mの単層紙を抄造した。
【0090】
図16に示すように、入口側の湿紙抱き角度をa、紙離れ良好時の出口側の湿紙抱き角度をb、紙離れ不良時の湿紙抱き角度をcとすると、b≦a<cの関係となる。本発明における抄紙用ロールを使用しない場合は、図17に示すように湿紙がプレス部トップロールに密着して紙離れが悪かったが、本発明における抄紙用ロールを使用することによって、b≦aとなり、湿紙とプレス部トップロールの高い剥離効果が得られ紙離れ不良及び層間剥離の問題が解消された。
【実施例4】
【0091】
バイト角度90度の三角形状、溝のピッチ1.0mm〜10.0mmの範囲内で不規則、溝の深さ0.3mm、ニップ幅5.0mm、抄紙用ロールの有効面長1000mmの条件において、抄紙用ロールに溝を設けた場合の例を、図13を参照して説明する。
【0092】
抄紙用ロールとしては、表面硬度A100の硬質ゴム製ロールを使用し、抄紙用ロールの表面に対し、NC旋盤機で刃の先端角度が90度の加工バイトを用いて、以下に述べる条件にて溝を形成した。
【0093】
形成した溝の条件として、溝のピッチを2.0mm、3.0mm及び4.0mmの3種類とし、溝の深さを0.3mmとした。この場合、図13に示すように溝の幅(図13中a)は、(溝の深さ×2)=(0.3mm×2)=0.6mmとなる。また、溝のピッチ(図13中c+β)が2.0mmの場合の接触長さ(図13中b+β)は、(溝のピッチ−溝の幅)=(2.0mm−0.6mm)=1.4mmとなり、溝のピッチ(図13中c)が3.0mmの場合の接触長さ(図13中b)は、(溝のピッチ−溝の幅)=(3.0mm−0.6mm)=2.4mmとなり、溝のピッチ(図13中c+α)が4.0mmの場合の接触長さ(図13中b+α)は、(溝のピッチ−溝の幅)=(4.0mm−0.6mm)=3.4mmとなる。
【0094】
次に、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積を算出する。溝のピッチが1.0mmの場合の溝のピッチ間の接触面積は、(接触長さ×ニップ幅)=(1.4mm×5.0mm)=7.0mmとなる。抄紙用ロールの有効面長内の接触本数は、(抄紙用ロールの有効面長/溝のピッチ)=(1000mm/2.0mm)=500本となる。湿紙と抄紙用ロールの総接触面積は、(溝のピッチ間の接触面積×抄紙用ロールの有効面長内の接触本数)=(7.0mm×500本)=3500mmとなる。このことから、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率は70.0%となる。
【0095】
また、溝のピッチが3.0mmの場合の溝のピッチ間の接触面積は、(接触長さ×ニップ幅)=(2.4mm×5.0mm)=12.0mとなる。次に、抄紙用ロールの有効面長内の接触本数は、(抄紙用ロールの有効面長/溝のピッチ)=(1000mm/3.0mm)=333本となる。次に、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積は、(溝のピッチ間の接触面積×抄紙用ロールの有効面長内の接触本数)=(12.0mm×333本)=3996mmとなる。このことから、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率は80.0%となる。
【0096】
また、溝のピッチが4.0mmの場合の溝のピッチ間の接触面積は、(接触長さ×ニップ幅)=(3.4mm×5.0mm)=17.0mとなる。次に、抄紙用ロールの有効面長内の接触本数は、(抄紙用ロールの有効面長/溝のピッチ)=(1000mm/4.0mm)=250本となる。次に、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積は、(溝のピッチ間の接触面積×抄紙用ロールの有効面長内の接触本数)=(17.0mm×250本)=4250mmとなる。このことから、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率は85.0%となる。
【0097】
溝のピッチが2.0mm、3.0mm及び4.0mの場合、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率は、それぞれ70.0%、80.0%、85.0%となる。このことから、湿紙と前記抄紙用ロールの接触面積率が、60%〜99%の範囲となるような組み合わせにより、抄紙用ロールに溝を形成した。
【0098】
このようにして作製した抄紙用ロールは、図8に示す単層紙の製造装置の脱水工程において、湿紙と直接接触する側のロールであるプレス部トップロール(1)の箇所に取り設けた。抄造する際の抄速は、30mとした。紙の種類は、上質紙とし、紙層構造は、坪量30g/m〜70g/mの低坪量の単層紙、及び坪量70g/m〜100g/mの機能性用紙を抄造した。
【0099】
図16に示すように、入口側の湿紙抱き角度をa、紙離れ良好時の出口側の湿紙抱き角度をb、紙離れ不良時の湿紙抱き角度をcとすると、b≦a<cの関係となる。本発明における抄紙用ロールを使用しない場合は、図17に示すように湿紙がプレス部トップロールに密着して紙離れが悪かったが、本発明における抄紙用ロールを使用することによって、b≦aとなり、湿紙とプレス部トップロールの高い剥離効果が得られ紙離れ不良及び層間剥離の問題が解消された。
【実施例5】
【0100】
溝の形状が四角形状、溝のピッチ1.0mm、溝の深さ0.3mm、ニップ幅5.0mm、抄紙用ロールの有効面長1000mmの条件において、抄紙用ロールに溝を設けた場合の例を、図14を参照して説明する。
【0101】
抄紙用ロールとしては、表面硬度A100の硬質ゴム製ロールを使用し、抄紙用ロールの表面に対し、0.03mm照射のレーザ彫刻機を用いて、以下に述べる条件にて四角形状の溝を形成した。
【0102】
形成した溝の条件として、溝のピッチを1.0mmとし、溝の深さを0.3mmとした。図14に示すように、溝(2)の断面が四角形状となり、レーザ彫刻機による照射により、溝の幅は、0.03mmとなる。また、接触長さは、(溝のピッチ−溝の幅)=(1.0mm−0.03mm)=0.97mmとなる。
【0103】
次に、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積を算出する。まず、溝のピッチ間の接触面積は、(接触長さ×ニップ幅)=(0.97mm×5.0mm)=4.85mmとなる。次に、抄紙用ロールの有効面長内の接触本数は、(抄紙用ロールの有効面長/溝のピッチ)=(1000mm/1.0mm)=1000本となる。次に、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積は、(溝のピッチ間の接触面積×抄紙用ロールの有効面長内の接触本数)=(4.85mm×1000本)=4850mmとなる。
【0104】
このことから、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率は97.0%となる。
【0105】
このようにして作製した抄紙用ロールは、図8に示す単層紙の製造装置の脱水工程において、湿紙と直接接触する側のロールであるプレス部トップロール(1)の箇所に取り設けた。抄造する際の抄速は、30mとした。紙の種類は、上質紙とし、紙層構造は、坪量70g/m〜100g/mの単層紙を抄造した。
【0106】
図16に示すように、入口側の湿紙抱き角度をa、紙離れ良好時の出口側の湿紙抱き角度をb、紙離れ不良時の湿紙抱き角度をcとすると、b≦a<cの関係となる。本発明における抄紙用ロールを使用しない場合は、図17に示すように湿紙がプレス部トップロールに密着して紙離れが悪かったが、本発明における抄紙用ロールを使用することによって、b≦aとなり、湿紙とプレス部トップロールの高い剥離効果が得られ紙離れ不良及び層間剥離の問題が解消された。
【実施例6】
【0107】
溝の形状が円形状、溝のピッチ1.0mm、溝の深さ0.3mm、ニップ幅5.0mm、抄紙用ロールの有効面長1000mmの条件において、抄紙用ロールに溝を設けた場合の例を、図15を参照して説明する。
【0108】
抄紙用ロールとしては、表面硬度A100の硬質ゴム製ロールを使用し、抄紙用ロールの表面に対し、0.03mm照射のレーザ彫刻機を用いて、以下に述べる条件にて円形状の溝を形成した。
【0109】
形成した溝の条件として、溝のピッチを1.0mmとし、溝の深さを0.3mmとした。溝の断面が円形状となり、レーザ彫刻機による照射により、溝の幅は、0.03mmとなる。また、接触長さは、(溝のピッチ−溝の幅)=(1.0mm−0.03mm)=0.97mmとなる。
【0110】
次に、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積を算出する。まず、溝のピッチ間の接触面積は、(接触長さ×ニップ幅)=(0.97mm×5.0mm)=4.85mmとなる。次に、抄紙用ロールの有効面長内の接触本数は、(抄紙用ロールの有効面長/溝のピッチ)=(1000mm/1.0mm)=1000本となる。次に、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積は、(溝のピッチ間の接触面積×抄紙用ロールの有効面長内の接触本数)=(4.85mm×1000本)=4850mmとなる。
【0111】
このことから、湿紙と抄紙用ロールの接触面積率は97.0%となる。
【0112】
このようにして作製した抄紙用ロールは、図8に示す単層紙の製造装置の脱水工程において、湿紙と直接接触する側のロールであるプレス部トップロール(1)の箇所に取り設けた。抄造する際の抄速は、30mで実施した。紙の種類は、上質紙とし、紙層構造は、坪量70g/m〜100g/mの単層紙を抄造した。
【0113】
図16に示すように、入口側の湿紙抱き角度をa、紙離れ良好時の出口側の湿紙抱き角度をb、紙離れ不良時の湿紙抱き角度をcとすると、b≦a<cの関係となる。本発明における抄紙用ロールを使用しない場合は、図17に示すように湿紙がプレス部トップロールに密着して紙離れが悪かったが、本発明における抄紙用ロールを使用することによって、b≦aとなり、湿紙とプレス部トップロールの高い剥離効果が得られ紙離れ不良及び層間剥離の問題が解消された。
【0114】
以上の実施例1、2、3、4、5及び6からわかるように、溝を形成した抄紙用ロールを、特にプレス部トップロール(1)に使用することにより、単層紙、多層紙及び機能性用紙に共通して、剥離性の向上の効果が得られることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明における抄紙用ロールの正面図を示す。
【図2】本発明における抄紙用ロールの溝の形状の一例を示す。
【図3】本発明における抄紙用ロールの溝のピッチの一例を示す。
【図4】本発明における抄紙用ロールの溝のピッチ間の接触面積、抄紙用ロールの有効面長内の接触本数、湿紙と抄紙用ロールの総接触面積を示す。
【図5】本発明における抄紙用ロールの側面図を示す。
【図6】本発明における抄紙用ロールと湿紙の所定面積当たり接触面積率を示す。
【図7】本発明における抄紙用ロールの表面を上部から見た溝の形状の一例を示す。
【図8】本発明における単層紙の製造装置の全体構成を示す。
【図9】本発明における多層紙の製造装置の全体構成を示す。
【図10】本発明における抄紙用ロールの溝を、加工バイト60度の三角形状で形成した場合の溝の幅及び溝の長さの算出方法を示す。
【図11】本発明における抄紙用ロールの溝を、加工バイト60度の三角形状で形成した場合の溝の幅及び溝の長さの算出方法を示す。
【図12】本発明における抄紙用ロールの溝を、加工バイト90度の三角形状で形成した場合の溝の幅及び溝の長さの算出方法を示す。
【図13】本発明における抄紙用ロールの溝を、加工バイト90度の三角形状で形成し、溝のピッチを異ならせた場合の溝の幅及び溝の長さの算出方法を示す。
【図14】本発明における抄紙用ロールの溝を、四角形状で形成した場合の溝の幅及び溝の長さの算出方法を示す。
【図15】本発明における抄紙用ロールの溝を、円形状で形成した場合の溝の幅及び溝の長さの差の算出方法を示す。
【図16】本発明における抄紙用ロールと湿紙の抱き角度を示す。
【図17】剥離不良の状態を示す。
【符号の説明】
【0116】
1 プレス部トップロール
2 溝
3 プレス部ボトムロール
4 湿紙
5 フェルト
6 上層紙料層(湿紙)
7 中間シート
8 下層紙料層(湿紙)
9 ワイヤ(抄紙網)
10 サクションクーチロール
11 ブレストロール
12 下層紙料供給槽、
13 中間シート供給装置
14 上層紙料供給槽
15 下層紙料
16 上層紙料
17、17a、17b、17c 下層紙料用目止め板(スライス板)
18 上層紙料用目止め板
19 シートロール
20 繰り出しロール
21 ダンサロール
22 サクションボックス(脱水装置)
23 乾燥装置
24 ダンディロール
25 巻取ロール
26 湿紙の紙離れ不良、または層間剥離
27 層間剥離状態における中層及び下層マット
28 抄紙機
29、30、31 ペーパロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙料供給部、脱水部、プレス部及び乾燥部を有する抄紙機に設備されており、水分率30〜95%を有する湿紙と接する抄紙用ロールにおいて、
前記抄紙用ロールの表面に溝を形成して成り、
前記溝は、前記湿紙と前記抄紙用ロールの接触面積率が、所定面積当たり60%〜99%の範囲となるように設けることを特徴とする抄紙用ロール。
【請求項2】
前記溝は、ピッチが1.0mm〜10.0mmかつ深さが0.03mm〜0.3mmであることを特徴とする請求項1記載の抄紙用ロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−31397(P2010−31397A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191861(P2008−191861)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】