抄紙用弾性ベルト
【課題】抄紙用弾性ベルト(特に抄紙用シュープレスベルト)において、湿紙搾水性がよく、紙質(湿紙平滑性やマーク性)が安定し、使用中のベルト外周面の損傷(クラックや磨耗)の少ないベルトを提供する。
【解決手段】プレスロールとシューとの間に配置され、湿紙からの搾水を受容するフェルトを載置し、前記プレスロールに向かって高圧で押しつけられる抄紙用弾性ベルト60であって、フェルト側表面に排水溝64が延設されてなる抄紙用弾性ベルトにおいて、フェルト側表面に延設される排水溝の抄紙機械横断方向(CMD方向)断面60において、左右非対称の溝が少なくとも1つ以上延設されている。これにより、湿紙、フェルトから搾水された水が、排水構内で渦を生じ、その結果、水の流速が増し、排水構内が減圧され、より一層湿紙、フェルトから水を排水構内に取り込むことで、排水能力が向上された抄紙用弾性ベルト。
【解決手段】プレスロールとシューとの間に配置され、湿紙からの搾水を受容するフェルトを載置し、前記プレスロールに向かって高圧で押しつけられる抄紙用弾性ベルト60であって、フェルト側表面に排水溝64が延設されてなる抄紙用弾性ベルトにおいて、フェルト側表面に延設される排水溝の抄紙機械横断方向(CMD方向)断面60において、左右非対称の溝が少なくとも1つ以上延設されている。これにより、湿紙、フェルトから搾水された水が、排水構内で渦を生じ、その結果、水の流速が増し、排水構内が減圧され、より一層湿紙、フェルトから水を排水構内に取り込むことで、排水能力が向上された抄紙用弾性ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機のプレスパート、その他の類似機械において、湿紙を加圧脱水処理するために用いられる抄紙用弾性ベルトに関し、特に表面に延設される排水溝を有する抄紙用弾性ベルトの溝形状に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙においては、生産性を向上させるためにプレスパートにおいていかに湿紙からの脱水量を増やすかが大きな問題となる。湿紙水分をできるだけ少なくするという目的を達成するためにプレス脱水量を多くする手段として、プレスロールの加圧を上げる、プレスロールの硬度を上げる、あるいはシュープレスベルトを介在させ加圧時間を長くするなどの方法が取り入れられており、プレスの際のロールとフェルトの間の加圧時間を長くし脱水効果を向上させるため、シュープレスベルトを介在させる方法が近年多くなってきている。
【0003】
さらに最近では、シュープレスベルトにおいては搾水した水を効率よく排水するためにフェルト側表面に多数の溝を延設するものが増えてきている。たとえば、特許文献1記載のものは、広巾ニッププレス(いわゆるシュープレス)に使用するベルトの外周面に複数の排水溝を設けて、湿紙搾水性の向上を図っている。
【0004】
溝形状としては、加工のし易さ、生産性、コスト等の点から、従来は矩形状のものがほとんどであるが、溝底部を湾曲させたり(特許文献2及び3)、隣接する排水溝との間隔(ランド部)に凹曲した頂面を設けたり(特許文献4)、ベルトのフェルト側表面に向かって開口した溝側面を設けたり(特許文献5及び6)したものが提案されている。
特許文献2記載のものは、断面をU字形とすることによって、シュープレスの脱水性(搾水性)と強度持続性のよいベルトを提供するもので、排水溝のランド部の端部は面取りされ、溝幅が0.5〜4mm、深さが0.5〜5mm、ランド部が1〜4mmで構成されている。特許文献3には、溝底部を湾曲させたものの他、溝の側壁が外側に向けて湾曲したものも示されている。
また、特許文献4に記載されたプレスジャケット(プレスベルト)は、その外面に複数のウエッブ(ランド部)を有し、これらのウエッブの間に溝が介在しており、各ウエッブは凹曲した頭頂面を有している。
更にまた、特許文献5及び6に記載されたプレスベルト、プレスジャケットは、溝側面がベルト表面に向かって開口していることにより、加圧時の溝の閉塞を防止している。
【0005】
いずれにしても、上記各文献におけるベルトのフェルト側表面に排水溝を配置することは、湿紙搾水性の向上を図ったものである。
ここで、より搾水性を向上させるためには溝幅や溝深さを大きく設定して、いわゆるベルトのボイドボリューム(排水能力)を高めたベルトが使用することができるが、ボイドボリュームを高めたベルトを使用した場合、溝内部の亀裂やランド部の損傷・磨耗が発生し易くなりがちであった。また、プレスによる紙質(湿紙表面平滑性)が悪化してくる(湿紙に溝形状の転写マークの表れる割合が大きくなる)傾向がある。更にシュープレスベルトの厚みはプレスロールとシューの曲率半径により最適厚みが決定される。従って、無制限に溝幅や溝深さを大きくすることはできない。
逆に、溝幅や溝深さを小さく設定すると搾水性が低下するため、プレス後の湿紙乾燥消費エネルギーが増加してしまう、というような問題があった。
【0006】
【特許文献1】実開昭59−54598号
【特許文献2】実用新案登録第3104830号公報
【特許文献3】特開2001−98484号公報
【特許文献4】特開昭64−61591号公報
【特許文献5】特表平10−510594号公報
【特許文献6】特開平11−335992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、抄紙用弾性ベルト(特に抄紙用シュープレスベルト)において、搾水性がよく、紙質(湿紙平滑性やマーク性)が安定し、使用中のベルト外周面の損傷(クラックや摩耗)の少ないベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ベルト表面に延設されていた溝の断面形状を、従来左右対称であったものから左右非対称の溝形状とすることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は、基本的にはベルト表面に延設される溝の断面形状が左右非対称の排水溝を有する抄紙用弾性ベルトに関する発明であり、以下の各技術を基礎とするものである。
【0010】
(1)表面に溝を有する抄紙用弾性ベルトにおいて、前記溝の断面形状が左右非対称である溝を少なくとも1つ以上有する抄紙用弾性ベルト。
【0011】
(2)前記溝において、ベルト深さ方向に平行な側面を少なくとも1つ以上有する、(1)に記載の抄紙用弾性ベルト。
【0012】
(3)前記溝において、溝底部が平面状である、(1)から(2)の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【0013】
(4)前記溝において、溝底部が円弧状である、(1)から(2)の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【0014】
(5)前記溝において、面と面が接する角部が丸みを帯びている、(1)から(4)の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【0015】
(6)前記溝において、面と面が接する角部が面取りされている、(1)から(4)の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【0016】
(7)前記溝において、隣接しあう2列で構成される溝組が左右対称である、(1)から(6)の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【0017】
(8)前記溝において、隣接しあう3列以上で構成される溝組が左右対称である、(1)から(6)の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【0018】
(9)前記溝において、溝の断面形状が左右対称の溝が少なくとも1つ以上有する、(8)に記載の抄紙用弾性ベルト。
【0019】
(10)前記溝において、溝を形成するランド部の断面形状が左右対称の溝が少なくとも1つ以上有する、(7)から(9)の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、フェルト側表面に延設される排水溝の溝断面形状が左右非対称であることから、加圧時に、湿紙、フェルトから搾水された水が、排水溝内で渦を生じる(図18A、図18B)。その結果、水の流速が増し、排水溝内が減圧され、より一層湿紙、フェルトから水を排水溝内に取り込むことで、排水能力が向上された抄紙用弾性ベルトを提供することができる。
また、排水溝の溝断面形状が左右非対称であるため、加圧時の溝の閉塞の影響を受けにくく、溝形状を保持することができる。
更にまた、複数列の溝から構成される溝組を左右対称とすることで、紙質(湿紙表面平滑性)の向上と使用中のベルト外周面の損傷(クラックや磨耗)の少ない抄紙用弾性ベルトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の抄紙用弾性ベルトの排水溝を形成(切削)する装置1の概略図である。
【0022】
まず、無端状の基体2を2本のロール3、3間に掛けわたし、所定の張力で緊張させる。このロール3は回転自在であり、基体2はロール3の回転方向に進行する。そのような状況下において基体2の上から液状ポリウレタンを塗布し、硬化させることにより基体2の全周に亙りポリウレタン層を形成する。しかる後、ポリウレタン層4が設けられた基体2の外周面5に対して溝切装置6を用いて排水溝7を形成する。
【0023】
本発明の溝形状について、態様例を図面に基づき説明する。
図2は第1の態様例で本発明の抄紙用弾性ベルトのCMD方向断面図である。図示するように弾性ベルト20の溝形状は、ベルトの深さ方向に平行な溝側面21、フェルト側表面に向かって発散する溝側面22、溝底面23で構成される左右非対称の溝が延設されている。
【0024】
図3は第2の態様例で本発明の抄紙用弾性ベルトのCMD方向断面図である。図示するように弾性ベルト30の溝形状は、ベルトの深さ方向に平行な溝側面31、フェルト側表面に向かって発散する溝側面32、溝底面33、溝側面31と溝底面33を結ぶ接続面34で構成される左右非対称の溝が延設されている。
【0025】
図4は第3の態様例で本発明の抄紙用弾性ベルトのCMD方向断面図である。図示するように弾性ベルト40の溝形状は、ベルトの深さ方向に平行な溝側面41、41’、フェルト側表面に向かって発散する溝側面42、溝底面43、溝側面41と溝側面41’とを結ぶ接続面44で構成される左右非対称の溝が延設されている。
【0026】
図5は第4の態様例で本発明の抄紙用弾性ベルトのCMD方向断面図である。図示するように弾性ベルト50の溝形状は、ベルトの深さ方向に平行な溝側面51、フェルト側表面に向かって発散する溝側面52、溝底部が円弧状である溝底面53で構成される左右非対称の溝が延設されている。
【0027】
図6A、図6Bは第5の態様例で本発明の抄紙用弾性ベルトのCMD方向断面図である。図示するように弾性ベルト60の溝形状は、ベルトの深さ方向に平行な溝側面61、フェルト側表面に向かって発散する溝側面62、溝底面63で構成される左右非対称の溝が延設され、かつ隣り合う2列で構成される溝組64(溝64Aと溝64B)が左右対象となるように延設されている。図6Aは図2の溝形状を隣り合う2列で左右対称となるように配置したもので、図6Bは図5の溝形状を隣り合う2列で左右対称となるように配置したものである。その他の図3と図4の溝形状を隣り合う2列で同様に配置してもよい。このように溝を延設することで、態様例1から態様例4に対し、加圧時にベルトに加わる応力を分散させ、使用中のベルトの損傷を防止することができる。
【0028】
図7A、図7Bは第6の態様例で本発明の抄紙用弾性ベルトのCMD方向断面図である。図示するように弾性ベルト70の溝形状は、第5の態様例で示した隣り合う2列で構成される溝組の間に、左右対称の溝(溝74C)を1列配置し、隣り合う3列で構成される溝組74(溝74Aと溝74Bと溝74C)が左右対称となるように延設されている。図7Aは図2の溝形状を隣り合う2列で左右対称となるように配置し、かつこの溝の間に左右対称の溝を配置したものである。図7Bは図5の溝形状を隣り合う2列で左右対称と成るように配置し、かつこの溝の間に左右対称の溝を配置したものである。その他図3と図4の溝形状を隣り合う2列で同様に配置し、かつこの溝の間に左右対称の溝を配置してもよい。このように溝を延設することで、態様例1から態様例4に対し、加圧時にベルトに加わる応力を分散させ、使用中のベルトの損傷を防止でき、またベルトのボイドボリューム、湿紙表面平滑性の調整ができる。
【0029】
溝寸法は、従来のシュープレスベルトにあるように、例えば溝幅が0.5〜2mm、溝深さが0.5〜2mm、CMD方向に隣接する排水溝とのランド部の間隔が0.5mm〜5mmの範囲、MD方向隣接する排水溝とのランド部の間隔が1mm〜20mmの範囲で選択することができる。
【0030】
また、ベルトのフェルト接触面、側面、底面、それらを結ぶ接続面の各面が接する角部に丸みを持たせ、あるいは面取りを施すことで、角部の欠損や耳欠けを防止することができる。
【0031】
<性能評価方法>
本発明の実施例で製造されたシュープレスベルトについては、以下の試験により性能を評価し、機能順を付けて総合評価する。
【0032】
<クラック試験>
図8に示す装置を用いる。この装置は、実験片Sの両端が、クランプハンドCH、CHにより挟持され、クランプハンドCH、CHが、連動して左右方向に往復移動可能に構成されている。なお、この際、実験片Sに掛けられる張力は3kg/cm、往復速度は40cm/秒である。そして、実験片Sは、プレスロールRRと、プレスシューPSとにより加圧される。この際、プレスシューPSがプレスロールRR方向に移動することにより、実験片Sは加圧される。なお、この圧力は36kg/cm2である。この装置により、クラックが生じるまでの往復回数を測定する。なお、実験片における評価面は、プレスロールRR側に向けられているものである。
評価点A:クラック発生までの回数(単位;万回)が26万回以上であったもの。
評価点B:12万回〜26万回の範囲のもの。
評価点C:12万回以下であったもの。
【0033】
<搾水試験>
図9に示す装置を使用して湿紙搾水テストを行う。本テスト装置は、プレスロールPRと対向する位置にベルト本体Bを配置するとともに、該ベルト本体Bをその内周側から前記プレスロールPRに圧迫するようにプレスシューPS(シューの幅:50mm)を配置する。また、前記プレスロールPRとベルト本体Bとの間には、ナイロン6による11dtexの短繊維を、坪量が1500g/m2となるようニードルパンチ法にて基布に植毛してなるトップ側フェルトFtとボトム側フェルトFbを配置してなる。いま、ベルト本体Bを、プレスロールPRとプレスシューPSとのニップ圧が1000kN/mの下で1000m/分の走行速度で走行させる。そして、前記プレスロールPR上にその上方に設置したノズルNから3kg/cm2の圧力で15リットル/分で水流Wを噴射する。このときトップロールは水流Wの膜に覆われるとともに、該水流Wはトップ側フェルトFt及びボトム側フェルトFbに含浸された後、ベルト本体Bにも供給される。このような状態において、前記ボトム側フェルトFb上に、水分が70%含有されている湿紙シートWSを載置し、ニップを通過させ、通過後の湿紙シートWSの水分を測定する。
評価点A:湿紙水分が45%以下であったもの。
評価点B:45%〜53%の範囲のもの。
評価点C:53%以上であったもの。
【0034】
<湿紙マーク性試験>
(1)上記搾水試験で搾水した湿紙を50℃の乾燥器内に24時間保管して乾燥させた後、該乾燥紙の表面を写真撮影する。
(2)スキャナーでコンピュータに画像を読込む。この際、適宜画像を鮮明にする作業を行う。なお、画像読み込みソフトとしては、Adobe社の「Photoshop 5」等を使用する。
(3)画像処理ソフトにて、前記乾燥紙に転写している溝部面積(溝マーク)を計算する。この際、画像処理ソフトとしては、 National Institutes of Health社の「NIH image」を使用する。
(4)このような画像処理ソフトを使って、前記乾燥紙に転写している溝部面積(溝マーク)の割合を、ベルト外表面の溝面積に対する割合で算出する。
評価点A・・50%以下のもの
評価点B・・50〜75%以内のもの
評価点C・・75%以上のもの
【0035】
<機能順位>
試験結果については、上記各試験のそれぞれの評価点を基に総合評価し、以下の機能順位を付与する。
評価点がすべてAのもの → 順位1位
評価点が2つAで他がBのもの → 順位2位
評価点が1つAで他がBのもの → 順位3位
評価点がすべてBのもの → 順位4位
評価点に1つでもCがあるもの → 順位5位
【0036】
上記構成によるシュープレスベルトについて、具体的に以下に示す工程により、実施例1〜4及び比較例1〜4を作成した。
【0037】
工程1:図1に示す装置を用い、無端状の基体を2本ロール間に掛け入れ、所定の張力で緊張させる。
工程2:基体の上から液状ポリウレタンを配置し、硬化させることにより基体の全周に亙りポリウレタン層を形成する。
工程3:切削刃の形状を適宜選択し、シュープレスベルトのフェルト側表面に切削加工を施した。
【0038】
本発明の溝形状は次のように調整する。
(1)溝幅(フェルト側表面):1.0mmに調整。
(2)溝深さ:1.0mmに調整。
(3)CMD方向のランド部の間隔:1.54mmに調整。
(4)溝本数:10溝/インチに調整。
上記のように、フェルト側表面の溝幅を各溝一定とし、紙質(湿紙平滑性やマーク性)がほぼ一定となる条件とした。したがって、各溝の形状が変化することにより、ベルトのボイドボリュームが変化することになる。
【実施例1】
【0039】
図10の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは374cc/m2となった。
【実施例2】
【0040】
図11の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは340cc/m2となった。
【実施例3】
【0041】
図12の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは381cc/m2となった
【実施例4】
【0042】
図13の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは343cc/m2となった。
【比較例1】
【0043】
図14の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは394cc/m2となった。
【比較例2】
【0044】
図15の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは352cc/m2となった。
【比較例3】
【0045】
図16の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは355cc/m2となった。
【比較例4】
【0046】
図17の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは329cc/m2となった。
【0047】
実施例1〜4及び比較例1〜4に係るシュープレスベルトについて、クラック試験、搾水試験及び湿紙マーク性試験を行い、性能を評価した。その結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1の結果によれば、実施例2、実施例4によるものが、3つの評価試験についていずれも良好な評価が得られており、最もバランスよいものであった。
【0050】
以上図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によるシュープレスベルトは、排水能力と紙質向上(湿紙表面平滑性)を同時に満足させることができるので、抄紙機のプレスパート、その他の類似機械において湿紙およびフェルトからの搾水性を向上するために使用するシュープレスベルトとしてきわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のシュープレスベルトの排水溝を形成する溝切装置である。
【図2】本発明の溝形状の第一の態様を示すCMD方向断面図である。
【図3】本発明の溝形状の第二の態様を示すCMD方向断面図である。
【図4】本発明の溝形状の第三の態様を示すCMD方向断面図である。
【図5】本発明の溝形状の第四の態様を示すCMD方向断面図である。
【図6】本発明の溝形状の第五、六の態様を示すCMD方向断面図である。
【図7】本発明の溝形状の第七、八の態様を示すCMD方向断面図である。
【図8】クラック試験に使用する装置を示す図である。
【図9】搾水試験の概要を示す図である。
【図10】本発明の溝形状の第一の実施例を示すCMD方向断面図である。
【図11】本発明の溝形状の第二の実施例を示すCMD方向断面図である。
【図12】本発明の溝形状の第三の実施例を示すCMD方向断面図である。
【図13】本発明の溝形状の第四の実施例を示すCMD方向断面図である。
【図14】本発明の溝形状の第一の比較例を示すCMD方向断面図である。
【図15】本発明の溝形状の第二の比較例を示すCMD方向断面図である。
【図16】本発明の溝形状の第三の比較例を示すCMD方向断面図である。
【図17】本発明の溝形状の第四の比較例を示すCMD方向断面図である。
【図18】排水溝内を流れる水の様子を示した図である。
【符号の説明】
【0053】
1:排水溝形成装置
2:基体
3:ロール
4:ポリウレタン層
5:外周面
6:溝切装置
7:排水溝
20、30、40、50、60、70、180:ベルト
21、31、41、41’、51、61:ベルト深さ方向に平行な溝側面
22、32、42、52、62:フェルト側表面に向かって発散する溝側面
23、33、43、53、63:溝底部
34、44:接続面
64、74:溝組
181:排水溝
182:排水溝内を通る水の流れ
S:実験片
CH:クランプハンド
PR:プレスロール
PS:プレスシュー
B:ベルト本体
N:ノズル
W:水流
Ft:トップ側フェルト
Fb:ボトム側フェルト
WS:湿紙シート
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機のプレスパート、その他の類似機械において、湿紙を加圧脱水処理するために用いられる抄紙用弾性ベルトに関し、特に表面に延設される排水溝を有する抄紙用弾性ベルトの溝形状に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙においては、生産性を向上させるためにプレスパートにおいていかに湿紙からの脱水量を増やすかが大きな問題となる。湿紙水分をできるだけ少なくするという目的を達成するためにプレス脱水量を多くする手段として、プレスロールの加圧を上げる、プレスロールの硬度を上げる、あるいはシュープレスベルトを介在させ加圧時間を長くするなどの方法が取り入れられており、プレスの際のロールとフェルトの間の加圧時間を長くし脱水効果を向上させるため、シュープレスベルトを介在させる方法が近年多くなってきている。
【0003】
さらに最近では、シュープレスベルトにおいては搾水した水を効率よく排水するためにフェルト側表面に多数の溝を延設するものが増えてきている。たとえば、特許文献1記載のものは、広巾ニッププレス(いわゆるシュープレス)に使用するベルトの外周面に複数の排水溝を設けて、湿紙搾水性の向上を図っている。
【0004】
溝形状としては、加工のし易さ、生産性、コスト等の点から、従来は矩形状のものがほとんどであるが、溝底部を湾曲させたり(特許文献2及び3)、隣接する排水溝との間隔(ランド部)に凹曲した頂面を設けたり(特許文献4)、ベルトのフェルト側表面に向かって開口した溝側面を設けたり(特許文献5及び6)したものが提案されている。
特許文献2記載のものは、断面をU字形とすることによって、シュープレスの脱水性(搾水性)と強度持続性のよいベルトを提供するもので、排水溝のランド部の端部は面取りされ、溝幅が0.5〜4mm、深さが0.5〜5mm、ランド部が1〜4mmで構成されている。特許文献3には、溝底部を湾曲させたものの他、溝の側壁が外側に向けて湾曲したものも示されている。
また、特許文献4に記載されたプレスジャケット(プレスベルト)は、その外面に複数のウエッブ(ランド部)を有し、これらのウエッブの間に溝が介在しており、各ウエッブは凹曲した頭頂面を有している。
更にまた、特許文献5及び6に記載されたプレスベルト、プレスジャケットは、溝側面がベルト表面に向かって開口していることにより、加圧時の溝の閉塞を防止している。
【0005】
いずれにしても、上記各文献におけるベルトのフェルト側表面に排水溝を配置することは、湿紙搾水性の向上を図ったものである。
ここで、より搾水性を向上させるためには溝幅や溝深さを大きく設定して、いわゆるベルトのボイドボリューム(排水能力)を高めたベルトが使用することができるが、ボイドボリュームを高めたベルトを使用した場合、溝内部の亀裂やランド部の損傷・磨耗が発生し易くなりがちであった。また、プレスによる紙質(湿紙表面平滑性)が悪化してくる(湿紙に溝形状の転写マークの表れる割合が大きくなる)傾向がある。更にシュープレスベルトの厚みはプレスロールとシューの曲率半径により最適厚みが決定される。従って、無制限に溝幅や溝深さを大きくすることはできない。
逆に、溝幅や溝深さを小さく設定すると搾水性が低下するため、プレス後の湿紙乾燥消費エネルギーが増加してしまう、というような問題があった。
【0006】
【特許文献1】実開昭59−54598号
【特許文献2】実用新案登録第3104830号公報
【特許文献3】特開2001−98484号公報
【特許文献4】特開昭64−61591号公報
【特許文献5】特表平10−510594号公報
【特許文献6】特開平11−335992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、抄紙用弾性ベルト(特に抄紙用シュープレスベルト)において、搾水性がよく、紙質(湿紙平滑性やマーク性)が安定し、使用中のベルト外周面の損傷(クラックや摩耗)の少ないベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ベルト表面に延設されていた溝の断面形状を、従来左右対称であったものから左右非対称の溝形状とすることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は、基本的にはベルト表面に延設される溝の断面形状が左右非対称の排水溝を有する抄紙用弾性ベルトに関する発明であり、以下の各技術を基礎とするものである。
【0010】
(1)表面に溝を有する抄紙用弾性ベルトにおいて、前記溝の断面形状が左右非対称である溝を少なくとも1つ以上有する抄紙用弾性ベルト。
【0011】
(2)前記溝において、ベルト深さ方向に平行な側面を少なくとも1つ以上有する、(1)に記載の抄紙用弾性ベルト。
【0012】
(3)前記溝において、溝底部が平面状である、(1)から(2)の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【0013】
(4)前記溝において、溝底部が円弧状である、(1)から(2)の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【0014】
(5)前記溝において、面と面が接する角部が丸みを帯びている、(1)から(4)の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【0015】
(6)前記溝において、面と面が接する角部が面取りされている、(1)から(4)の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【0016】
(7)前記溝において、隣接しあう2列で構成される溝組が左右対称である、(1)から(6)の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【0017】
(8)前記溝において、隣接しあう3列以上で構成される溝組が左右対称である、(1)から(6)の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【0018】
(9)前記溝において、溝の断面形状が左右対称の溝が少なくとも1つ以上有する、(8)に記載の抄紙用弾性ベルト。
【0019】
(10)前記溝において、溝を形成するランド部の断面形状が左右対称の溝が少なくとも1つ以上有する、(7)から(9)の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、フェルト側表面に延設される排水溝の溝断面形状が左右非対称であることから、加圧時に、湿紙、フェルトから搾水された水が、排水溝内で渦を生じる(図18A、図18B)。その結果、水の流速が増し、排水溝内が減圧され、より一層湿紙、フェルトから水を排水溝内に取り込むことで、排水能力が向上された抄紙用弾性ベルトを提供することができる。
また、排水溝の溝断面形状が左右非対称であるため、加圧時の溝の閉塞の影響を受けにくく、溝形状を保持することができる。
更にまた、複数列の溝から構成される溝組を左右対称とすることで、紙質(湿紙表面平滑性)の向上と使用中のベルト外周面の損傷(クラックや磨耗)の少ない抄紙用弾性ベルトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の抄紙用弾性ベルトの排水溝を形成(切削)する装置1の概略図である。
【0022】
まず、無端状の基体2を2本のロール3、3間に掛けわたし、所定の張力で緊張させる。このロール3は回転自在であり、基体2はロール3の回転方向に進行する。そのような状況下において基体2の上から液状ポリウレタンを塗布し、硬化させることにより基体2の全周に亙りポリウレタン層を形成する。しかる後、ポリウレタン層4が設けられた基体2の外周面5に対して溝切装置6を用いて排水溝7を形成する。
【0023】
本発明の溝形状について、態様例を図面に基づき説明する。
図2は第1の態様例で本発明の抄紙用弾性ベルトのCMD方向断面図である。図示するように弾性ベルト20の溝形状は、ベルトの深さ方向に平行な溝側面21、フェルト側表面に向かって発散する溝側面22、溝底面23で構成される左右非対称の溝が延設されている。
【0024】
図3は第2の態様例で本発明の抄紙用弾性ベルトのCMD方向断面図である。図示するように弾性ベルト30の溝形状は、ベルトの深さ方向に平行な溝側面31、フェルト側表面に向かって発散する溝側面32、溝底面33、溝側面31と溝底面33を結ぶ接続面34で構成される左右非対称の溝が延設されている。
【0025】
図4は第3の態様例で本発明の抄紙用弾性ベルトのCMD方向断面図である。図示するように弾性ベルト40の溝形状は、ベルトの深さ方向に平行な溝側面41、41’、フェルト側表面に向かって発散する溝側面42、溝底面43、溝側面41と溝側面41’とを結ぶ接続面44で構成される左右非対称の溝が延設されている。
【0026】
図5は第4の態様例で本発明の抄紙用弾性ベルトのCMD方向断面図である。図示するように弾性ベルト50の溝形状は、ベルトの深さ方向に平行な溝側面51、フェルト側表面に向かって発散する溝側面52、溝底部が円弧状である溝底面53で構成される左右非対称の溝が延設されている。
【0027】
図6A、図6Bは第5の態様例で本発明の抄紙用弾性ベルトのCMD方向断面図である。図示するように弾性ベルト60の溝形状は、ベルトの深さ方向に平行な溝側面61、フェルト側表面に向かって発散する溝側面62、溝底面63で構成される左右非対称の溝が延設され、かつ隣り合う2列で構成される溝組64(溝64Aと溝64B)が左右対象となるように延設されている。図6Aは図2の溝形状を隣り合う2列で左右対称となるように配置したもので、図6Bは図5の溝形状を隣り合う2列で左右対称となるように配置したものである。その他の図3と図4の溝形状を隣り合う2列で同様に配置してもよい。このように溝を延設することで、態様例1から態様例4に対し、加圧時にベルトに加わる応力を分散させ、使用中のベルトの損傷を防止することができる。
【0028】
図7A、図7Bは第6の態様例で本発明の抄紙用弾性ベルトのCMD方向断面図である。図示するように弾性ベルト70の溝形状は、第5の態様例で示した隣り合う2列で構成される溝組の間に、左右対称の溝(溝74C)を1列配置し、隣り合う3列で構成される溝組74(溝74Aと溝74Bと溝74C)が左右対称となるように延設されている。図7Aは図2の溝形状を隣り合う2列で左右対称となるように配置し、かつこの溝の間に左右対称の溝を配置したものである。図7Bは図5の溝形状を隣り合う2列で左右対称と成るように配置し、かつこの溝の間に左右対称の溝を配置したものである。その他図3と図4の溝形状を隣り合う2列で同様に配置し、かつこの溝の間に左右対称の溝を配置してもよい。このように溝を延設することで、態様例1から態様例4に対し、加圧時にベルトに加わる応力を分散させ、使用中のベルトの損傷を防止でき、またベルトのボイドボリューム、湿紙表面平滑性の調整ができる。
【0029】
溝寸法は、従来のシュープレスベルトにあるように、例えば溝幅が0.5〜2mm、溝深さが0.5〜2mm、CMD方向に隣接する排水溝とのランド部の間隔が0.5mm〜5mmの範囲、MD方向隣接する排水溝とのランド部の間隔が1mm〜20mmの範囲で選択することができる。
【0030】
また、ベルトのフェルト接触面、側面、底面、それらを結ぶ接続面の各面が接する角部に丸みを持たせ、あるいは面取りを施すことで、角部の欠損や耳欠けを防止することができる。
【0031】
<性能評価方法>
本発明の実施例で製造されたシュープレスベルトについては、以下の試験により性能を評価し、機能順を付けて総合評価する。
【0032】
<クラック試験>
図8に示す装置を用いる。この装置は、実験片Sの両端が、クランプハンドCH、CHにより挟持され、クランプハンドCH、CHが、連動して左右方向に往復移動可能に構成されている。なお、この際、実験片Sに掛けられる張力は3kg/cm、往復速度は40cm/秒である。そして、実験片Sは、プレスロールRRと、プレスシューPSとにより加圧される。この際、プレスシューPSがプレスロールRR方向に移動することにより、実験片Sは加圧される。なお、この圧力は36kg/cm2である。この装置により、クラックが生じるまでの往復回数を測定する。なお、実験片における評価面は、プレスロールRR側に向けられているものである。
評価点A:クラック発生までの回数(単位;万回)が26万回以上であったもの。
評価点B:12万回〜26万回の範囲のもの。
評価点C:12万回以下であったもの。
【0033】
<搾水試験>
図9に示す装置を使用して湿紙搾水テストを行う。本テスト装置は、プレスロールPRと対向する位置にベルト本体Bを配置するとともに、該ベルト本体Bをその内周側から前記プレスロールPRに圧迫するようにプレスシューPS(シューの幅:50mm)を配置する。また、前記プレスロールPRとベルト本体Bとの間には、ナイロン6による11dtexの短繊維を、坪量が1500g/m2となるようニードルパンチ法にて基布に植毛してなるトップ側フェルトFtとボトム側フェルトFbを配置してなる。いま、ベルト本体Bを、プレスロールPRとプレスシューPSとのニップ圧が1000kN/mの下で1000m/分の走行速度で走行させる。そして、前記プレスロールPR上にその上方に設置したノズルNから3kg/cm2の圧力で15リットル/分で水流Wを噴射する。このときトップロールは水流Wの膜に覆われるとともに、該水流Wはトップ側フェルトFt及びボトム側フェルトFbに含浸された後、ベルト本体Bにも供給される。このような状態において、前記ボトム側フェルトFb上に、水分が70%含有されている湿紙シートWSを載置し、ニップを通過させ、通過後の湿紙シートWSの水分を測定する。
評価点A:湿紙水分が45%以下であったもの。
評価点B:45%〜53%の範囲のもの。
評価点C:53%以上であったもの。
【0034】
<湿紙マーク性試験>
(1)上記搾水試験で搾水した湿紙を50℃の乾燥器内に24時間保管して乾燥させた後、該乾燥紙の表面を写真撮影する。
(2)スキャナーでコンピュータに画像を読込む。この際、適宜画像を鮮明にする作業を行う。なお、画像読み込みソフトとしては、Adobe社の「Photoshop 5」等を使用する。
(3)画像処理ソフトにて、前記乾燥紙に転写している溝部面積(溝マーク)を計算する。この際、画像処理ソフトとしては、 National Institutes of Health社の「NIH image」を使用する。
(4)このような画像処理ソフトを使って、前記乾燥紙に転写している溝部面積(溝マーク)の割合を、ベルト外表面の溝面積に対する割合で算出する。
評価点A・・50%以下のもの
評価点B・・50〜75%以内のもの
評価点C・・75%以上のもの
【0035】
<機能順位>
試験結果については、上記各試験のそれぞれの評価点を基に総合評価し、以下の機能順位を付与する。
評価点がすべてAのもの → 順位1位
評価点が2つAで他がBのもの → 順位2位
評価点が1つAで他がBのもの → 順位3位
評価点がすべてBのもの → 順位4位
評価点に1つでもCがあるもの → 順位5位
【0036】
上記構成によるシュープレスベルトについて、具体的に以下に示す工程により、実施例1〜4及び比較例1〜4を作成した。
【0037】
工程1:図1に示す装置を用い、無端状の基体を2本ロール間に掛け入れ、所定の張力で緊張させる。
工程2:基体の上から液状ポリウレタンを配置し、硬化させることにより基体の全周に亙りポリウレタン層を形成する。
工程3:切削刃の形状を適宜選択し、シュープレスベルトのフェルト側表面に切削加工を施した。
【0038】
本発明の溝形状は次のように調整する。
(1)溝幅(フェルト側表面):1.0mmに調整。
(2)溝深さ:1.0mmに調整。
(3)CMD方向のランド部の間隔:1.54mmに調整。
(4)溝本数:10溝/インチに調整。
上記のように、フェルト側表面の溝幅を各溝一定とし、紙質(湿紙平滑性やマーク性)がほぼ一定となる条件とした。したがって、各溝の形状が変化することにより、ベルトのボイドボリュームが変化することになる。
【実施例1】
【0039】
図10の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは374cc/m2となった。
【実施例2】
【0040】
図11の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは340cc/m2となった。
【実施例3】
【0041】
図12の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは381cc/m2となった
【実施例4】
【0042】
図13の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは343cc/m2となった。
【比較例1】
【0043】
図14の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは394cc/m2となった。
【比較例2】
【0044】
図15の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは352cc/m2となった。
【比較例3】
【0045】
図16の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは355cc/m2となった。
【比較例4】
【0046】
図17の溝形状になるように、溝切装置と切削刃を用いて切削加工を施した。
図示するベルトのボイドボリュームは329cc/m2となった。
【0047】
実施例1〜4及び比較例1〜4に係るシュープレスベルトについて、クラック試験、搾水試験及び湿紙マーク性試験を行い、性能を評価した。その結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1の結果によれば、実施例2、実施例4によるものが、3つの評価試験についていずれも良好な評価が得られており、最もバランスよいものであった。
【0050】
以上図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によるシュープレスベルトは、排水能力と紙質向上(湿紙表面平滑性)を同時に満足させることができるので、抄紙機のプレスパート、その他の類似機械において湿紙およびフェルトからの搾水性を向上するために使用するシュープレスベルトとしてきわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のシュープレスベルトの排水溝を形成する溝切装置である。
【図2】本発明の溝形状の第一の態様を示すCMD方向断面図である。
【図3】本発明の溝形状の第二の態様を示すCMD方向断面図である。
【図4】本発明の溝形状の第三の態様を示すCMD方向断面図である。
【図5】本発明の溝形状の第四の態様を示すCMD方向断面図である。
【図6】本発明の溝形状の第五、六の態様を示すCMD方向断面図である。
【図7】本発明の溝形状の第七、八の態様を示すCMD方向断面図である。
【図8】クラック試験に使用する装置を示す図である。
【図9】搾水試験の概要を示す図である。
【図10】本発明の溝形状の第一の実施例を示すCMD方向断面図である。
【図11】本発明の溝形状の第二の実施例を示すCMD方向断面図である。
【図12】本発明の溝形状の第三の実施例を示すCMD方向断面図である。
【図13】本発明の溝形状の第四の実施例を示すCMD方向断面図である。
【図14】本発明の溝形状の第一の比較例を示すCMD方向断面図である。
【図15】本発明の溝形状の第二の比較例を示すCMD方向断面図である。
【図16】本発明の溝形状の第三の比較例を示すCMD方向断面図である。
【図17】本発明の溝形状の第四の比較例を示すCMD方向断面図である。
【図18】排水溝内を流れる水の様子を示した図である。
【符号の説明】
【0053】
1:排水溝形成装置
2:基体
3:ロール
4:ポリウレタン層
5:外周面
6:溝切装置
7:排水溝
20、30、40、50、60、70、180:ベルト
21、31、41、41’、51、61:ベルト深さ方向に平行な溝側面
22、32、42、52、62:フェルト側表面に向かって発散する溝側面
23、33、43、53、63:溝底部
34、44:接続面
64、74:溝組
181:排水溝
182:排水溝内を通る水の流れ
S:実験片
CH:クランプハンド
PR:プレスロール
PS:プレスシュー
B:ベルト本体
N:ノズル
W:水流
Ft:トップ側フェルト
Fb:ボトム側フェルト
WS:湿紙シート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に溝を有する抄紙用弾性ベルトにおいて、前記溝の断面形状が左右非対称である溝を少なくとも1つ以上有する抄紙用弾性ベルト。
【請求項2】
前記溝において、ベルト深さ方向に平行な側面を少なくとも1つ以上有する、請求項1に記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項3】
前記溝において、溝底部が平面状である、請求項1から2何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項4】
前記溝において、溝底部が円弧状である、請求項1から2の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項5】
前記溝において、面と面が接する角部が丸みを帯びている、請求項1から4の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項6】
前記溝において、面と面が接する角部が面取りされている、請求項1から4の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項7】
前記溝において、隣接しあう2列で構成される溝組が左右対称である、請求項1から6の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項8】
前記溝において、隣接しあう3列以上で構成される溝組が左右対称である、請求項1から6の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項9】
前記溝において、溝の断面形状が左右対称の溝が少なくとも1つ以上有する、請求項8に記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項10】
前記溝において、溝を形成するランド部の断面形状が左右対称の溝が少なくとも1つ以上有する、請求項7から9の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項1】
表面に溝を有する抄紙用弾性ベルトにおいて、前記溝の断面形状が左右非対称である溝を少なくとも1つ以上有する抄紙用弾性ベルト。
【請求項2】
前記溝において、ベルト深さ方向に平行な側面を少なくとも1つ以上有する、請求項1に記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項3】
前記溝において、溝底部が平面状である、請求項1から2何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項4】
前記溝において、溝底部が円弧状である、請求項1から2の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項5】
前記溝において、面と面が接する角部が丸みを帯びている、請求項1から4の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項6】
前記溝において、面と面が接する角部が面取りされている、請求項1から4の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項7】
前記溝において、隣接しあう2列で構成される溝組が左右対称である、請求項1から6の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項8】
前記溝において、隣接しあう3列以上で構成される溝組が左右対称である、請求項1から6の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項9】
前記溝において、溝の断面形状が左右対称の溝が少なくとも1つ以上有する、請求項8に記載の抄紙用弾性ベルト。
【請求項10】
前記溝において、溝を形成するランド部の断面形状が左右対称の溝が少なくとも1つ以上有する、請求項7から9の何れかに記載の抄紙用弾性ベルト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−100980(P2010−100980A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275753(P2008−275753)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】
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