説明

抄紙用炭素繊維

【課題】
本発明は、抄紙の際に優れた分散性を有する炭素繊維を提供せんとするものである。
【解決手段】
本発明の抄紙用炭素繊維は、炭素繊維フィラメントからなる繊維束の水浸透度が、水洗濯前で1mg/g以上、水洗濯後で0.5mg/g以下であり、かつ、本文で規定する水洗濯後の繊維束の繊維−繊維間静摩擦係数が0.01〜0.3であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙の際に優れた分散性を有する炭素繊維に関する。すなわち、短時間で均一に分散させることが必要な抄紙用途に適した炭素繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、高強度であり、耐熱性、耐食性に優れ、電気伝導性や電磁波遮蔽性があることから、航空機などに用いられる複合材料の強化材、二次電池の電極材、あるいは電子計算機筐体の電磁波遮蔽材として使用されている。
【0003】
通常、プリプレグはストランドと呼ばれる連続繊維束を、一方向や複数方向に配置し、樹脂を含浸させたシート状の材料である。従来このプリプレグを積層し、成型、硬化させることにより複合材料を製造している。
【0004】
また、チョップドストランドと呼ばれる短繊維は射出成形などで用いられており、複雑な形の複合材料を比較的容易に得ることが可能である。
【0005】
このような炭素短繊維を用いた材料として炭素繊維紙がある。この炭素繊維紙は、電極材、面状発熱体、あるいは電磁波遮蔽材料として用いられており、一般には強度に対する要求は小さく、むしろ電流密度が均一に保たれ、局所電流が発生しないように炭素繊維の分散状態の均一性が求められる。
【0006】
炭素繊維の分散状態の均一性が高い炭素繊維紙を得るには、開繊させた繊維等の原料炭素短繊維をスプレーして堆積させる方法や、湿式抄紙機を用いる方法が知られている。
【0007】
ところが、通常、原料炭素短繊維は集束剤を付与した連続繊維束を機械的に切断することにより製造されるため、開繊しにくい繊維の塊として供給されることが多く、乾式法では完全な開繊状態と均一な分散状態を得ることは難しい。また、湿式法においては、親水性のパルプ繊維等と比較して炭素繊維は疎水性が強いため、開繊状態が得られた場合でも均一な地合の炭素繊維紙を得ることが難しい。
【0008】
抄紙用短繊維の分散性を向上させるために、炭素繊維の表面処理や集束剤付与を省略する方法(特許文献1参照)や、水溶性化合物を含む集束剤を付与する方法(特許文献2参照)などが従来から提案されている。しかしながら、いずれも炭素繊維表面の化学的特性を変更しただけであるため、抄紙工程における初期の分散性が十分でなかったり、抄紙工程の中〜後期では分散した繊維同士の絡みによる再凝集により分散性が悪くなってしまい均一な地合の炭素繊維紙が効率よく得ることができない。すなわち、前者の場合は親水性が悪いので繊維の水中への染み込みが悪く分散性が不十分であったり、後者の場合は繊維の水中への染み込みは良いものの繊維表面に固着・残存した水溶性化合物により機械的撹拌で一度分散した繊維が絡んで再凝集してしまうなどの問題があった。
【特許文献1】特開平10−162838号公報
【特許文献2】特開2003−293264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、抄紙の際に優れた分散性を有する炭素繊維を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の抄紙用炭素繊維は、炭素繊維フィラメントからなる繊維束の水浸透度が、水洗濯前で1mg/g以上、水洗濯後で0.5mg/g以下であり、かつ、本文で規定する水洗濯後の繊維束の繊維−繊維間静摩擦係数が0.01〜0.3であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、抄紙する際に短時間で均一に分散させることができる上に、平滑で強い抄紙が得られる炭素繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、前記課題、つまり抄紙の際に優れた分散性を有する炭素繊維について、鋭意検討し、特定なパラメータを満足する炭素繊維、すなわち、水浸透度が、水洗濯前では1mg/g以上であるか゛、水洗濯後では0.5mg/g以下であること、さらに水洗濯後の繊維束の繊維−繊維間静摩擦係数が0.01〜0.3であることの二つの要件を同時に満足させてみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0013】
すなわち、本発明の炭素繊維フィラメントからなる繊維束は、かかる繊維束中に水が染込んで繊維同士を化学的に分離するとともに機械的な応力により繊維同士を滑らして物理的に分離させるだけでなく、水中での繊維同士の絡みによる再凝集を抑えたりすることにより、抄紙する際の分散性を向上させることを特徴とする。
【0014】
本発明における水浸透度とは、以下に定義する通りである。
【0015】
すなわち、側地25cm×25cm(40番/40番:T120本/L120本(インチ))のダウンプルーフに炭素繊維束(3300〜26400dtex)25gを詰め込み、JIS−L1096−1999「一般織物試験方法」の8.23.1に記載されたA法(かくはん形洗濯機を用いる方法)に準じて1回水洗濯し、水洗濯後の炭素繊維束試料とする。また、水洗濯しないものを水洗濯前の炭素繊維束試料とする。
接触角計(好ましくはデータフィジック社製接触角計DCAT11)を用いて、25mmにカットした炭素繊維束試料(3300〜26400dtex)の0.1mmを水中に浸積して10分間放置し、10分間の浸漬により該試料が吸収した試料1g当たりの水分を水浸透度[mg/g]として求めたものである。
水浸透度 = ( W2 − W1 ) / ( W1 × 1000 )
W1 : 水中浸積前の試料重量[mg]
W2 : 10分間水中浸積後の試料重量[mg]
かくして得られる水浸透度が、水洗濯前で1mg/g以上、水洗濯後で0.5mg/g以下であることが重要であり、好ましくは水洗濯前で1.5mg/g以上、水洗濯後で0.3mg/g以下であり、特に好ましくは水洗濯前で2mg/g以上、水洗濯後で0.1mg/g以下であることがよい。すなわち、前記水浸透度が、水洗濯前で1mg/g未満であると繊維束中への水の染込みが悪くなり、抄紙の際における分散性が悪くなる。
【0016】
本発明における繊維−繊維間静摩擦係数とは、以下に定義するとおりである。
【0017】
すなわち、側地25cm×25cm(40番/40番:T120本/L120本(インチ))のダウンプルーフに炭素繊維フィラメントからなる繊維束(3300〜26400dtex)25gを詰め込み、JIS−L1096−1999「一般織物試験方法」の8.23.1に記載されたA法(かくはん形洗濯機を用いる方法)に準じて1回水洗濯する。水洗濯後の該繊維束をJIS−L1015−1999「化学繊維ステープル試験方法」の8.13に記載された静摩擦係数測定方法に準じて測定した。その測定方法は次の通りである。水洗濯後の該繊維束25gのうち、20gを紙管に巻き付け、該紙管を水平にし、回転しないように固定する。残り5gを用いて次に示す手順を20回繰り返して繊維−繊維間静摩擦係数μを算出する。固定した該紙管に該繊維束同士が接触するように水洗濯後の該繊維束0.2gを1回転半(3πrad)巻き付け、該試料の一端に150gの荷重T2をつけ、他端に張力計をつける。張力計を下方に引っ張り、荷重が動き出した時の張力T1を計測し、次式より繊維−繊維間静摩擦係数μを算出する。試験回数は繊維束25gについて20回とし、その平均値で表したものである。
【0018】
μ = Ln(T1/T2)/θ
μ : 繊維−繊維間静摩擦係数[−]
T1 : 出側張力 [g]
T2 : 入側張力(荷重) [g]
θ : 接触角 [rad]
かかる繊維−繊維間静摩擦係数μは、抄紙工程の中〜後期(集束剤が溶出して繊維表面からなくなった状態)における繊維同士の絡みの評価尺度となるものであり、0.01〜0.3であることが重要であり、好ましくは0.01〜0.2であることがよい。すなわち、かかる静摩擦係数μが、0.3を超えると抄紙する際に一時的に一旦分散しても繊維同士の引っ掛かりにより再凝集してしまうため分散性が悪くなる。逆に該静摩擦係数μが、0.01未満になると均一な抄紙が得られるものの、抄紙自体の強度が弱くなる。該静摩擦係数μを0.01〜0.3の範囲内とすることで、平滑で強い抄紙を提供することができるものである。
【0019】
また、抄紙工程での初期分散性を向上させるため、本発明においては炭素繊維フィラメントからなる繊維束の形態も特定なものであることが好ましく、該繊維束の扁平度と交絡度が特定されることがさらに好ましい。
【0020】
本発明における扁平度とは、以下に定義するものである。
【0021】
すなわち、炭素繊維フィラメントからなる繊維束(3300〜26400dtex)の厚みT[mm]と幅W[mm]をノギス等にて計測し、次式により求めたものである。ただし、計測箇所は長手方向に1mずつ間隔をあけた10箇所とし、各箇所の扁平度をそれぞれ算出し、その平均値で表す。
【0022】
扁平度 = W / T
W : 該繊維束の幅 [mm]
T : 該繊維束の厚み[mm]
かかる扁平度としては、1〜50であるものが好ましく、1〜20がさらに好ましい。この扁平度が50を超えると、炭素繊維フィラメントからなる繊維束の集束性が悪くなり、該繊維束を巻き取ったボビンからの解舒性が悪くなる。
【0023】
本発明における交絡度とは、以下に定義されるものである。
【0024】
すなわち、JIS−L1013「化学繊維フィラメント糸試験方法」の交絡度測定方法に準じて測定したものである。その測定方法は次の通りである。炭素繊維フィラメントからなる繊維束試料(3300〜26400dtex)の一端を適当な性能を有する垂下装置の上部つかみ部に取り付け、つかみ部より1m下方の位置に荷重(100g)を吊り下げ、該試料を垂直に垂らす。該試料の上部つかみ部より1cm下部の点に該繊維束を2分割するようにフック(直径1mmの針金状)を挿入する。フックの他端には所定の荷重(10g)を取り付け、約2cm/秒の速度でフックを降下させる。フックが糸の絡みにより停止した点までのフックの降下距離L[mm]を求め、次式により求めたものである。上述の操作を50回(1回/m×50)繰り返し、その平均値で表す。
【0025】
交絡度 = 1000 / L
L : フックの降下距離[mm]
かかる交絡度としては、1〜10の範囲内であるのが好ましく、1〜5の範囲内であるのがさらに好ましい。かかる交絡度が10を超えると、該繊維束の集束性が強くなりすぎてしまい、該繊維束中への水の染込みが悪くなるため抄紙の際における分散性が悪くなる。
【0026】
本発明の炭素繊維フィラメントからなる繊維束は、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系、ピッチ系などの公知の炭素繊維フィラメントが数百から数万本の束で構成されたもので、特に高強度の炭素繊維フィラメントからなる繊維束が得られやすいPAN系炭素繊維が補強効果を得る上で好ましい。また、後工程の抄紙製造工程での、解舒性、耐擦過性、分散性などの観点から、最終製品としては、かかる炭素繊維フィラメントの単糸繊度は0.1〜3.0dtexであるのが好ましく、総単糸数は100〜100000本が好ましく、1000〜24000本がより好ましく、1000〜9000本が特に好ましい。
【0027】
また、炭素繊維フィラメントの強度や弾性率としては特に限定されるものではないが、炭素繊維抄紙としての紙特性の観点から、該フィラメントの強度は100〜1000kgf/mmが好ましく、200〜700kgf/mmがさらに好ましい。また、該フィラメントの弾性率は10〜100t/mmが好ましく、15〜60t/mmがさらに好ましい。なお、炭素繊維フィラメントには、炭化繊維と黒鉛化繊維が含まれる。
【0028】
本発明の炭素繊維をカットして抄紙する場合、そのカット長は特に限定されるものではないが、本発明の効果、つまり、抄紙する際に短時間で均一に分散させることができる炭素繊維である上に、平滑で強い抄紙を得るという効果を十分に引き出すには、3〜30mmが好ましく、3〜12mmがより好ましく、3〜9mmが特に好ましい。
【0029】
以下に、PAN系炭素繊維の場合を例にして詳細を説明する。紡糸方法として、湿式、乾式、乾湿式などを採用できるが、適度な集束性のある繊維が得られ、かつ、前記本発明の効果が得られやすい湿式法が好ましく採用される。紡糸原液には、ポリアクリロニトリルのホモポリマあるいは共重合成分の溶液あるいは懸濁液などを用いることができる。該紡糸原液を凝固、水洗、延伸した後、油剤を付与して炭素繊維前駆体とする。該前駆体を耐炎化処理、炭化処理まで行って炭化繊維とするか、必要に応じてさらに黒鉛化処理をして黒鉛化繊維とする。得られた炭化繊維、黒鉛化繊維は抄紙工程通過性や抄紙品質安定性を向上させるために電解表面処理やサイジング剤付与がなされて、本発明の炭素繊維フィラメントとなる。
【0030】
本発明の炭素繊維を得るための具体的手段としては特に限定されるものではないが、
例えば以下のような手段がある。つまり、炭素繊維フィラメントの繊維表面の物理的または化学的な構造を変えることで、その繊維−繊維間静摩擦係数を0.01〜0.3の炭素繊維フィラメントとし、さらに水洗濯耐久性のない親水性サイジング剤を付与したり、炭素繊維フィラメントからなる繊維束としての毛細管現象を利用できるように束形態を特定することなどで水浸透度を水洗濯前で1mg/g以上、水洗濯後で0.5mg/g以下の炭素繊維フィラメントを得ることができる。
【0031】
かかる炭素繊維フィラメントの繊維−繊維間静摩擦係数を0.01〜0.3にするには、例えばX線光電子分光分析法による表面酸素の原子と炭素原子との原子数比(酸素原子数/炭素原子数)が、好ましくは0.35以下、より好ましくは0.20以下、特に好ましくは0.10以下となるように、電解液による陽極酸化を炭素繊維フィラメント表面に施したり、炭素繊維表面をシリコーンなどの平滑剤の強固な皮膜でコーティングしたりして、該炭素繊維フィラメント表面の化学的構造を変えることができる。また、かかる炭素繊維フィラメント表面をシリコーンなどの平滑剤の強固な皮膜でコーティングして、該炭素繊維フィラメント表面の物理的構造を変えることができる。
【0032】
かかる炭素繊維フィラメント表面上に強固な皮膜を形成させるシリコーンとしては、反応型の変性シリコーンが好ましく使用されるが、かかる変性シリコーンとしては、変性量が0.1〜10重量%であるアミノ変性シリコーン、変性量が0.1〜10重量%であるエポキシ変性シリコーンなどがより好ましく使用される。反応型の変性シリコーンはそれぞれを単独または混合して使用することができ、その付着量としては、炭素繊維フィラメントに対して好ましくは0.01〜5重量%であり、0.01〜3重量%がより好ましく、0.01〜0.1%がさらに好ましい。5重量%を越えると変性シリコーンを介在してフィラメント単糸間の疑似接着により抄紙時の分散性が低下する。逆に0.01%未満であるとシリコーンによる平滑効果が期待できなくなる。
【0033】
炭素繊維の水浸透度を1mg/g以上にするには、例えば、一般式(1)で示される水洗濯耐久性のない親水性化合物を含むサイジング剤にてサイズ処理したり、後述するように炭素繊維束としての毛細管現象を利用できるように束形態を特定したりすることができる。
【0034】
R1O−POA−R2 ・・・・・・・・・・・・・・(1)
(ここで、POA:炭素数2〜4の少なくとも1種類以上のアルキレンオキサイドからなるポリオキシアルキレン、R1、R2:炭素数1〜50の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜50の芳香族炭化水素基、炭素数1〜50の脂環族炭化水素基および水素から選ばれるいずれか、O:酸素。)
一般式(1)で示した化合物の基本構造はポリオキシアルキレン構造であり、炭素繊維の集束性、分散性を向上させる。一般式(1)においてPOAは、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドが単独で繰り返してなるポリオキシアルキレンでも良く、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドが少なくとも2種類以上共重合されてなるポリオキシアルキレンでも良い。集束性と親水性を考慮すると炭素数2のエチレンオキサイド単独で4〜100、好ましくは4〜50の範囲で繰り返してなるポリオキシエチレンが好ましい。一般式(1)においてR1およびR2は、炭素数1〜50の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜50の芳香族炭化水素基、炭素数1〜50の脂環族炭化水素基、水素のいずれでもよい。平滑性と親水性を考慮すると炭素数としてはいずれも5〜30が好ましい。
【0035】
一般式(1)の化合物は単独でも良いが他の化合物を混合させても良い。親水性を考慮すると混合させる場合は一般式(1)の化合物が、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは50〜100重量%の範囲がよい。 一般式(1)の化合物を含むサイジング剤の付着量としては、炭素繊維に対して好ましくは0.1〜5.0重量%であり、より好ましくは0.5〜3.0重量%であるのがよい。
【0036】
また、炭素繊維束の毛細管現象等による効果を利用できるようにするために、湿式紡糸により表面フィブリルを大きくした炭素繊維前駆体にて焼成して炭素繊維の表面フィブリルを大きくしたり、炭素繊維束に好ましくは1〜100ターン/m、より好ましくは5〜30ターン/mの撚りを掛けて撚糸とする手段も有効である。
炭素繊維フィラメントについて表面フィブリルの大きさを表す尺度として、本発明では炭素繊維フィラメントの実表面積Srと投影面積Spとの比であるSr/Spを用いる。実表面積Srと投影面積Spとの比Sr/Spは、次のようにして測定することができる。すなわち、まず炭素繊維束を数mmの長さに切断し、単繊維を抜き出す。次に、銀ペーストを用いて単繊維をシリコンウエハ上に固定し、原子間力顕微鏡、たとえばDigital Instruments社製Nanoscope IIIa原子間力顕微鏡のDimension 3000ステージシステムを用い、3次元表面形状の像を得る。なお、走査モードはタッピングモードとし、探針には、たとえばオリンパス光学工業株式会社製Siカンチレバー一体型探針OMCL−AC120TSを用いる。また、走査速度は0.4Hz、ピクセル数は512×512、測定雰囲気は25±2℃の大気中とする。次に、得られた像について、上記原子間力顕微鏡に付属のソフトウエアNanoscope IIIバージョン4.22r2を用いてデータ処理し、1次フィルタ、Lowpassフィルタ、3次Plane Fitフィルタを用いてフィルタリングし、得られた像全体を対象にして実表面積Srと投影面積Spとを算出し、それらの比、すなわち、Sr/Spを求める。なお、投影面積は、単繊維が曲面を有していることを考慮し、曲面の曲率に近似した3次曲面への投影面積とする。そして、1個の単繊維について任意に選んだ5か所について上記測定を行い、最大値と最小値とを除いた3か所の相加平均値をもって比Sr/Spとする。Sr/Sp測定のn数は3とし、単純平均値として求める。
かかるSr/Spとして、炭素繊維束の毛細管現象等による効果を利用するには、1≦Sr/Sp<1.1の範囲内とすることが好ましく、1.03<Sr/Sp<1.07とすることがより好ましい。
また、例えば炭素繊維束を構成する総単糸数を好ましくは1000〜24000本、より好ましくは1000〜9000本として、炭素繊維束に好ましくは1〜100ターン/m、より好ましくは5〜30ターン/mの撚りを掛けて撚糸としたり、サイジング処理(サイジング剤の炭素繊維表面上でのキュアリング)時において炭素繊維束に好ましくは1〜10kg/束、よりこのましくは4〜8kg/束の圧接力を掛けたりすることにより、炭素繊維束の扁平度や交絡度を前記した範囲とすることができ、それにより炭素繊維束の毛細管現象等による効果をより利用することができるようになる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本例中の扁平度、交絡度、
水浸透度および繊維−繊維間静摩擦係数はそれぞれ次の方法により求めた。
(1)水浸透度
側地25cm×25cm(40番/40番:T120本/L120本(インチ))のダウンプルーフに炭素繊維束(3300〜26400dtex)25gを詰め込み、JIS−L1096−1999「一般織物試験方法」の8.23.1に記載されたA法(かくはん形洗濯機を用いる方法)に準じて1回水洗濯し、水洗濯後の炭素繊維束試料とする。また、水洗濯しないものを水洗濯前の炭素繊維束試料とする。
データフィジック社製接触角計DCAT11を用いて、25mmにカットした炭素繊維束試料(3300〜26400dtex)の0.1mmを水中に浸積して10分間放置し、10分間の浸漬により該試料が吸収した試料1g当たりの水分を水浸透度[mg/g]として求める。
水浸透度 = ( W2 − W1 ) / ( W1 × 1000 )
W1 : 水中浸積前の試料重量[mg]
W2 : 10分間水中浸積後の試料重量[mg]
(2)繊維−繊維間静摩擦係数
側地25cm×25cm(40番/40番:T120本/L120本(インチ))のダウンプルーフに炭素繊維束(3300〜26400dtex)25gを詰め込み、JIS−L1096−1999「一般織物試験方法」の8.23.1に記載されたA法(かくはん形洗濯機を用いる方法)に準じて1回水洗濯する。水洗濯後の炭素繊維束をJIS−L1015−1999「化学繊維ステープル試験方法」の8.13に記載された静摩擦係数測定方法に準じて測定した。その測定方法は次の通りである。水洗濯後の炭素繊維束25gのうち、20gを紙管に巻き付け、該紙管を水平にし、回転しないように固定する。残り5gを用いて次に示す手順を20回繰り返して繊維−繊維間静摩擦係数μを算出する。固定した該紙管に繊維束同士が接触するように水洗濯後の炭素繊維束0.2gを1回転半(3πrad)巻き付け、該試料の一端に150gの荷重T2をつけ、他端に張力計をつける。張力計を下方に引っ張り、荷重が動き出した時の張力T1を計測し、次式より繊維−繊維間静摩擦係数μを算出する。試験回数は繊維束25gについて20回とし、その平均値で表す。
【0038】
μ = Ln(T1/T2)/θ
μ : 繊維−繊維間静摩擦係数[−]
T1 : 出側張力 [g]
T2 : 入側張力(荷重) [g]
θ : 接触角 [rad]
(3)扁平度
炭素繊維束(3300〜26400dtex)の厚みT[mm]と幅W[mm]を校正されたノギスにて計測し、次式により求める。計測箇所は長手方向に1mの間隔をあけた10箇所とし、各箇所の扁平度をそれぞれ算出し、その平均値で表す。
【0039】
扁平度 = W / T
W : 繊維束の幅 [mm]
T : 繊維束の厚み[mm]
(4)交絡度
JIS−L1013「化学繊維フィラメント糸試験方法」の交絡度測定方法に準じて測定した。その測定方法は次の通りである。炭素繊維束試料(3300〜26400dtex)の一端を適当な性能を有する垂下装置の上部つかみ部に取り付け、つかみ部より1m下方の位置に荷重(100g)を吊り下げ、該試料を垂直に垂らす。該試料の上部つかみ部より1cm下部の点に繊維束を2分割するようにフック(直径1mmの針金状)を挿入する。フックの他端には所定の荷重(10g)を取り付け、約2cm/秒の速度でフックを降下させる。フックが糸の絡みにより停止した点までのフックの降下距離L[mm]を求め、次式により求める。上述の操作を50回(1回/m×50)繰り返し、その平均値で表す。
【0040】
交絡度 = 1000 / L
L : フックの降下距離[mm]
(5)分散度
長さ6mmにカットした炭素繊維束試料(3300〜26400dtex)を500rpmの速度で撹拌している100mlの水中へ投入してから、繊維束の塊が分散して見えなくなるまでに要した時間[秒]を計測する。上述の操作を10回(10試料×1回)繰り返し、その平均値で表す。20秒以内であることが望ましい。
【0041】
実施例1
アクリロニトリル99.9mol%、アリルスルホン酸ソーダ0.5mol%、2−ヒドロキシエチルアクリロニトリル0.5mol%をジメチルスルホキシドを溶媒とする溶液重合法により重合を行い、原液濃度22重量%の紡糸原液としたあと、ジメチルスルホキシド水溶液中に湿式紡糸法にて延伸倍率13.0で延伸・水洗して、単糸繊度1.1dtex、単糸本数3000本の炭素繊維前駆体となるアクリル原糸を得た。この原糸を15T/mの撚り数となるように撚りを掛けてから、250℃の空気中で加熱し、延伸倍率1.05で延伸しながら水分率4.0重量%の酸化繊維を得た。この酸化繊維を1400℃の窒素雰囲気中で炭素化し、繊維表面の酸素原子数/炭素原子数=0.10の炭化繊維を得た。この炭化繊維の電解表面処理をせずにポリオキシエチレンオレイルエーテルをディップ方式で付着量が1重量%となるように付着させ、次いで150℃の熱風にて6kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させることにより、表1に示すSr/Sp=1.05の炭素繊維を得た。
【0042】
実施例2
実施例1で得た炭化繊維を重炭酸アンモニウム水溶液中で陽極酸化を施し、繊維表面の酸素原子数/炭素原子数=0.23とした。次にポリオキシエチレンオレイルエーテルをディップ方式で付着量が1重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて6kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させることにより、表1に示すSr/Sp=1.05の炭素繊維を得た。
【0043】
実施例3
実施例1で用いた紡糸原液をジメチルスルホキシド水溶液中に乾湿式紡糸法にて延伸倍率13.0で延伸し水洗して、単糸繊度1.1dtex、単糸本数24000本の炭素繊維前駆体となるアクリル原糸を得た。この原糸を250℃の空気中で加熱し、延伸倍率1.05で延伸しながら水分率4.0重量%の酸化繊維を得た。この酸化繊維を1400℃の窒素雰囲気中で炭素化し炭化繊維を得た。この炭化繊維を重炭酸アンモニウム水溶液中で陽極酸化を施し、繊維表面の酸素原子数/炭素原子数=0.25とした。次にアミノ等量が2000、粘度が2000センチポイズのアミノ変性シリコーンをノニオン界面活性剤で8:2(重量比)の割合にて乳化したものをディップ方式で付着量が1重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて7kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させた。さらにポリオキシエチレンオレイルエーテルをディップ方式で付着量が1重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて7kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させることにより、表1に示すSr/Sp=1.02の炭素繊維を得た。
【0044】
実施例4
実施例1で用いた紡糸原液をジメチルスルホキシド水溶液中に湿式紡糸法にて延伸倍率13.0で延伸し水洗して、単糸繊度1.1dtex、単糸本数3000本の炭素繊維前駆体となるアクリル原糸を得た。この原糸を250℃の空気中で加熱し、延伸倍率1.05で延伸しながら水分率4.0重量%の酸化繊維を得た。この酸化繊維を1400℃の窒素雰囲気中で炭素化し炭化繊維を得た。この炭化繊維を重炭酸アンモニウム水溶液中で陽極酸化を施し、繊維表面の酸素原子数/炭素原子数=0.15とした。次にアミノ等量が2000、粘度が2000センチポイズのアミノ変性シリコーンをノニオン界面活性剤で8:2(重量比)の割合にて乳化したものをディップ方式で付着量が0.05重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて6kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させた。さらにポリオキシエチレンオレイルエーテルをディップ方式で付着量が1重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて6kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させることにより、表1に示すSr/Sp=1.05の炭素繊維を得た。
【0045】
実施例5
実施例1で得た炭化繊維を重炭酸アンモニウム水溶液中で陽極酸化を施し、繊維表面の酸素原子数/炭素原子数=0.25とした。次にポリオキシエチレンオレイルエーテルをディップ方式で付着量が5重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて6kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させることにより、表1に示すSr/Sp=1.05の炭素繊維を得た。
【0046】
実施例6
実施例1で得た炭化繊維を重炭酸アンモニウム水溶液中で陽極酸化を施し、繊維表面の酸素原子数/炭素原子数=0.23とした。次にポリオキシエチレンオレイルエーテルをディップ方式で付着量が0.1重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて6kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させることにより、表1に示すSr/Sp=1.05の炭素繊維を得た。
【0047】
実施例7
実施例1で用いた紡糸原液をジメチルスルホキシド水溶液中に湿式紡糸法にて延伸倍率13.0で延伸し水洗して、単糸繊度1.1dtex、単糸本数6000本の炭素繊維前駆体となるアクリル原糸を得た。この原糸を100T/mの撚り数となるように撚りを掛けてから、250℃の空気中で加熱し、延伸倍率1.05で延伸しながら水分率4.0重量%の酸化繊維を得た。この酸化繊維を1400℃の窒素雰囲気中で炭素化し炭化繊維を得た。この炭化繊維を重炭酸アンモニウム水溶液中で陽極酸化を施し、繊維表面の酸素原子数/炭素原子数=0.30とした。次にポリオキシエチレンオクチルエーテルをディップ方式で付着量が3重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて6kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させることにより、表1に示すSr/Sp=1.05の炭素繊維を得た。
【0048】
実施例8
実施例7で得たアクリル原糸を3T/mの撚り数となるように撚りを掛けてから、250℃の空気中で加熱し、延伸倍率1.05で延伸しながら水分率4.0重量%の酸化繊維を得た。この酸化繊維を1400℃の窒素雰囲気中で炭素化し炭化繊維を得た。この炭化繊維を重炭酸アンモニウム水溶液中で陽極酸化を施し、繊維表面の酸素原子数/炭素原子数=0.35とした。次にポリオキシエチレンオクチルエーテルをディップ方式で付着量が3重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて6kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させることにより、表1に示すSr/Sp=1.05の炭素繊維を得た。
【0049】
実施例9
実施例1で用いた紡糸原液をジメチルスルホキシド水溶液中に乾湿式紡糸法にて延伸倍率13.0で延伸し水洗して、単糸繊度1.1dtex、単糸本数48000本の炭素繊維前駆体となるアクリル原糸を得た。この原糸を250℃の空気中で加熱し、延伸倍率1.05で延伸しながら水分率4.0重量%の酸化繊維を得た。この酸化繊維を1400℃の窒素雰囲気中で炭素化し炭化繊維を得た。この炭化繊維を重炭酸アンモニウム水溶液中で陽極酸化を施し、繊維表面の酸素原子数/炭素原子数=0.40とした。次にアミノ等量が2000、粘度が2000センチポイズのアミノ変性シリコーンをノニオン界面活性剤で8:2(重量比)の割合にて乳化したものをディップ方式で付着量が4重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて11kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させた。さらにポリオキシエチレンラウリルエーテルをディップ方式で付着量が0.5重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて11kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させることにより、表1に示すSr/Sp=1.02の炭素繊維を得た。
【0050】
実施例10
実施例1で用いた紡糸原液をジメチルスルホキシド水溶液中に乾湿式紡糸法にて延伸倍率13.0で延伸し水洗して、単糸繊度1.1dtex、単糸本数12000本の炭素繊維前駆体となるアクリル原糸を得た。この原糸を200T/mの撚り数となるように撚りを掛けてから、250℃の空気中で加熱し、延伸倍率1.05で延伸しながら水分率4.0重量%の酸化繊維を得た。この酸化繊維を1400℃の窒素雰囲気中で炭素化し炭化繊維を得た。この炭化繊維を重炭酸アンモニウム水溶液中で陽極酸化を施し、繊維表面の酸素原子数/炭素原子数=0.18とした。次にポリオキシエチレンラウリルエーテルをディップ方式で付着量が0.5重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて11kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させることにより、表1に示すSr/Sp=1.02の炭素繊維を得た。
【0051】
実施例11
実施例1で用いた紡糸原液をジメチルスルホキシド水溶液中に乾湿式紡糸法にて延伸倍率13.0で延伸し水洗して、単糸繊度1.1dtex、単糸本数12000本の炭素繊維前駆体となるアクリル原糸を得た。この原糸を250℃の空気中で加熱し、延伸倍率1.05で延伸しながら水分率4.0重量%の酸化繊維を得た。この酸化繊維を1400℃の窒素雰囲気中で炭素化し炭化繊維を得た。この炭化繊維を重炭酸アンモニウム水溶液中で陽極酸化を施し、繊維表面の酸素原子数/炭素原子数=0.25とした。次にポリオキシエチレンラウリルエーテルをディップ方式で付着量が0.5重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて0.5kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させることにより、表1に示すSr/Sp=1.02の炭素繊維を得た。
【0052】
比較例1
実施例1で用いた紡糸原液をジメチルスルホキシド水溶液中に乾湿式紡糸法にて水洗し延伸倍率13.0で延伸し、単糸繊度1.1dtex、単糸本数24000本の炭素繊維前駆体となるアクリル原糸を得た。この原糸を250℃の空気中で加熱し、延伸倍率1.05で延伸しながら水分率4.0%の酸化繊維を得た。この酸化繊維を1400℃の窒素雰囲気中で炭素化し炭化繊維を得た。この炭化繊維を重炭酸アンモニウム水溶液中で陽極酸化を施し、繊維表面の酸素原子数/炭素原子数=0.18とした。次に、グリセリンをディップ方式で付着量が1重量%となるように付着させ、次いで150℃の熱風にて7kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させることにより、表1に示すSr/Sp=1.02の炭素繊維を得た。
【0053】
比較例2
実施例1で用いた紡糸原液をジメチルスルホキシド水溶液中に乾湿式紡糸法にて延伸倍率13.0で延伸し水洗して、単糸繊度1.1dtex、単糸本数12000本の炭素繊維前駆体となるアクリル原糸を得た。この原糸を250℃の空気中で加熱し、延伸倍率1.05で延伸しながら水分率4.0重量%の酸化繊維を得た。この酸化繊維を1400℃の窒素雰囲気中で炭素化し炭化繊維を得た。この炭化繊維を重炭酸アンモニウム水溶液中で陽極酸化を施し、繊維表面の酸素原子数/炭素原子数=0.30とした。次にアミノ等量が2000、粘度が2000センチポイズのアミノ変性シリコーンをノニオン界面活性剤で8:2(重量比)の割合にて乳化したものをディップ方式で付着量が6重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて11kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させた。さらにポリオキシエチレンオレイルエーテルをディップ方式で付着量が0.3重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて11kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させることにより、表1に示すSr/Sp=1.02の炭素繊維を得た。
【0054】
比較例3
実施例1で用いた紡糸原液をジメチルスルホキシド水溶液中に湿式紡糸法にて延伸倍率13.0で延伸し水洗して、単糸繊度1.1dtex、単糸本数3000本の炭素繊維前駆体となるアクリル原糸を得た。この原糸を200T/mの撚り数となるように撚りを掛けてから、250℃の空気中で加熱し、延伸倍率1.05で延伸しながら水分率4.0重量%の酸化繊維を得た。この酸化繊維を1400℃の窒素雰囲気中で炭素化し炭化繊維を得た。この炭化繊維を重炭酸アンモニウム水溶液中で陽極酸化を施し、繊維表面の酸素原子数/炭素原子数=0.40とした。次にポリオキシエチレンオレイルエーテルをディップ方式で付着量が1.0重量%となるように付着させ、150℃の熱風にて0.5kg/束の圧接力を掛けながら乾燥(キュアリング)させることにより、表1に示すSr/Sp=1.05の炭素繊維を得た。
【0055】
これらの実施例および比較例の各試料について、上述した(1)水浸透度、(2)繊維−繊維間静摩擦係数、(3)扁平度、(4)交絡度、(5)分散度の評価をそれぞれ行い、その結果を表2に示した。
【0056】
評価は、◎を優秀、○を良、△をやや不良、×を不可として、4段階の判定を行い、その判定結果を表2に併せて示した。本発明の実施例では◎(優秀)、○(良)を合格としている。
【0057】
その結果、表1および表2から分かるように、本発明の実施例1〜11の炭素繊維はいずれも良好な分散性を有しており、抄紙用原料として好ましいものであったのに対して、比較例1〜3の炭素繊維は分散性が悪く、抄紙用原料として好ましいものではなかった。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維フィラメントからなる繊維束の水浸透度が、水洗濯前で1mg/g以上、水洗濯後で0.5mg/g以下であり、かつ、本文で規定する水洗濯後の繊維束の繊維−繊維間静摩擦係数が0.01〜0.3であることを特徴とする抄紙用炭素繊維。
【請求項2】
該繊維束の扁平度および交絡度がそれぞれ1〜50および1〜10であることを特徴とする請求項1に記載の抄紙用炭素繊維。
【請求項3】
該炭素繊維フィラメントが、一般式(1)にて示される水洗濯耐久性のない親水性化合物を含むサイジング剤にてサイズ処理されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の抄紙用炭素繊維。
R1O−POA−R2 ・・・・・・・・・・・・・・(1)
(ここで、POA:炭素数2〜4の少なくとも1種類以上のアルキレンオキサイドからなるポリオキシアルキレン、R1、R2:炭素数1〜50の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜50の芳香族炭化水素基、炭素数1〜50の脂環族炭化水素基および水素から選ばれるいずれか、O:酸素。)
【請求項4】
X線光電子分光法による該炭素繊維フィラメント表面の酸素原子と炭素原子との原子数比が0.35以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抄紙用炭素繊維。
【請求項5】
該炭素繊維フィラメントからなる繊維束が、1〜100T/mの撚りを掛けられた撚糸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抄紙用炭素繊維。
【請求項6】
該炭素繊維フィラメントが、シリコーン皮膜でコーティングされていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の抄紙用炭素繊維。

【公開番号】特開2006−219808(P2006−219808A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−371655(P2005−371655)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】