説明

把持具

【課題】電歪材料からなるフィルムを積層した後に巻き回して円筒状の筒体に形成されたアクチュエータ素子を用い、該アクチュエータ素子を長手方向に伸縮させることにより対象物を把持する把持具を提供する。
【解決手段】電歪材料からなり、片面又は両面に内部電極を形成した複数のフィルムを積層して、巻き回して円筒状の筒体に形成されたアクチュエータ素子10を用いる把持具である。アクチュエータ素子10の一端において、複数の把持部材50が、アクチュエータ素子10の中心軸方向から傾斜してアクチュエータ素子10の開口101に接触するよう配置してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電歪材料で形成されたフィルムを積層し、巻き回して円筒状の筒体に形成されたアクチュエータ素子を用いる把持具に関する。
【背景技術】
【0002】
医療機器、産業用ロボット等は、精緻な動きを要求される機会が多い。したがって、小型、軽量であり、しかも柔軟性に富むアクチュエータ素子の開発が急務となっている。例えば電歪材料で形成された二枚のシートを張り合わせて撓み部材として用いるアクチュエータ素子等も多々開発されている。
【0003】
電歪材料で形成された二枚のシートを張り合わせて撓み部材として用いている、いわゆるユニモルフ型アクチュエータでは、アクチュエータ素子自体が歪み、力点と支点との間の距離に比べて支点と作用点との間の距離が大きくなるので、把持力の調整が難しく、あるいは対象物を把持するのに十分な把持力を確保することが困難であった。
【0004】
そこで最近では、対象物を破壊することなく把持する場合等、精緻な動きが要求される場合に、電圧の印加により変形するポリマーアクチュエータ素子が採用されることが多い。例えば特許文献1では、二本(一対)の支持体に、ポリマーアクチュエータ素子により構成された保持部がそれぞれ設けられており、電圧の印加によるポリマーアクチュエータ素子の変形度合いを利用して対象物を挟持する挟持具(いわゆるマイクロピンセット)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−326716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されている挟持具では、ポリマーアクチュエータ素子で構成された保持部の変形度合い、例えば体積膨張率が数%レベルであることから、一対の支持体を対象物を挟む位置まで事前に移動させてから挟持する必要があり、使用者にとって操作が煩雑であるという問題点があった。また、堅固な構造を有する支持体を二本準備する必要があり、挟持具を小型化することが困難であるという問題点もあった。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、電歪材料からなるフィルムを積層した後に巻き回して円筒状の筒体に形成されたアクチュエータ素子を用い、該アクチュエータ素子を長手方向に伸縮させることにより対象物を把持する把持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために第1発明に係る把持具は、電歪材料からなり、片面又は両面に内部電極を形成した複数のフィルムを積層して、巻き回して円筒状の筒体に形成されたアクチュエータ素子を用いる把持具であって、前記アクチュエータ素子の一端において、複数の把持部材が、前記アクチュエータ素子の中心軸方向から傾斜して前記アクチュエータ素子の開口に接触するよう配置してあることを特徴とする。
【0009】
第1発明では、アクチュエータ素子は、電歪材料からなり、片面又は両面に内部電極を形成した複数のフィルムを積層して、巻き回して円筒状の筒体に形成してある。アクチュエータ素子の一端において、複数の把持部材が、アクチュエータ素子の中心軸方向から傾斜してアクチュエータ素子の開口に接触するよう配置してあるので、筒体であるアクチュエータ素子の長さを変動させることにより、複数の把持部材の先端の間隔を変動させることができ、煩雑な操作をすることなく、対象物を把持する力を精緻に制御することが可能となる。
【0010】
また、第2発明に係る把持具は、第1発明において、前記複数の把持部材は、前記アクチュエータ素子が延伸することにより、前記アクチュエータ素子の開口に沿って前記アクチュエータ素子と前記把持部材とが接触する位置が移動し、前記把持部材の先端の間隔が狭まるようにしてあることを特徴とする。
【0011】
第2発明では、複数の把持部材は、アクチュエータ素子が延伸することにより、アクチュエータ素子の開口に沿ってアクチュエータ素子と把持部材とが接触する位置が移動し、把持部材の先端の間隔が狭まるので、筒体であるアクチュエータ素子を延伸させることで複数の把持部材により対象物を把持することが可能となる。
【0012】
また、第3発明に係る把持具は、第1又は第2発明において、前記複数の把持部材は、前記アクチュエータ素子の他端からの距離が一定である部材に連結してあることを特徴とする。
【0013】
第3発明では、複数の把持部材は、アクチュエータ素子の他端からの距離が一定である部材に連結してあるので、筒体であるアクチュエータ素子が延伸することにより、アクチュエータ素子と把持部材とが接触する位置が移動し、アクチュエータ素子の開口に沿って把持部材の先端の間隔が変動する。したがって、アクチュエータ素子の長さを変動させることにより、複数の把持部材の先端の間隔を変動させることができ、煩雑な操作をすることなく、対象物を把持する力を精緻に制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
上記構成により、アクチュエータ素子は、電歪材料からなり、片面又は両面に内部電極を形成した複数のフィルムを積層して、巻き回して円筒状の筒体に形成してある。アクチュエータ素子の一端において、複数の把持部材が、アクチュエータ素子の中心軸方向から傾斜してアクチュエータ素子の開口に接触するよう配置してあるので、筒体であるアクチュエータ素子の長さを変動させることにより、複数の把持部材の先端の間隔を変動させることができ、煩雑な操作をすることなく、対象物を把持する力を精緻に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る把持具に用いるアクチュエータ素子の構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る把持具に用いるアクチュエータ素子の製造工程を模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る把持具に用いるアクチュエータ素子の製造工程を模式的に示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る把持具の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施の形態では、高分子電歪材料からなる二枚(複数)の電歪フィルム(フィルム)を巻き回して円筒状の筒体に形成されたアクチュエータ素子を用いた把持具について説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係る把持具に用いるアクチュエータ素子の構成を模式的に示す斜視図である。本実施の形態に係る把持具に用いるアクチュエータ素子10は、高分子電歪材料からなる二枚の電歪フィルム11を積層した後に巻き回して円筒状の筒体に形成してある。円筒状の筒体の両端部には、複数の切り込み部12を設けてある。切り込み部12は、円筒状の筒体の両端部の端面側から側面に向かって、積層された電歪フィルム11に形成された内部電極に到達する位置まで切り込むように設けてある。
【0018】
切り込み部12には導電性インクを含浸してあり、導電性インクを加熱硬化させることにより、内部電極と電気的に接続される。
【0019】
図2及び図3は、本発明の実施の形態に係る把持具に用いるアクチュエータ素子10の製造工程を模式的に示す斜視図である。まず図2(a)に示すように、高分子電歪材料からなる二枚の電歪フィルム(フィルム)31、32を準備し、二枚の電歪フィルム31、32の表裏両面に、電極パターン(内部電極)41、42を形成する。
【0020】
電歪フィルム31、32を形成する高分子電歪材料は、強誘電性を有し、永久双極子を有する高分子圧電材料であれば、特に限定されるものではない。例えばPVDF(ポリビニリデンフルオロイド)、PVDF(ポリビニリデンフルオロイド)系の共重合体、すなわちコーポリマであるP(VDF−TrFE−HFP)、あるいはPVDF系のターポリマであるP(VDF−TrFE−CFE)、P(VDF−TrFE−CTFE)、P(VDF−TrFE−CDFE)、P(VDF−TrFE−HFA)、P(VDF−TrFE−HFP)、P(VDF−TrFE−VC)、P(VDF−VF)等が好ましい。なお、Pはポリを、VDFはビニリデンフルオロイドを、TrFEはトリフルオロエチレンを、CFEはクロロフルオロエチレンを、CTFEはクロロトリフルオロエチレンを、CDFEはクロロディフルオロエチレンを、HFAはヘキサフルオロアセトンを、HFPはヘキサフルオロプロピレンを、VCはビニルクロライドを、VFはビニルフルオロイドを、それぞれ示している。
【0021】
特に、P(VDF−TrFE−CFE)が好ましい。大きな歪を得ることができるからである。また、電歪フィルム31、32の厚みも適宜設定することが可能であるが、例えば数μm〜100μm程度が好ましい。
【0022】
電歪フィルム31、32を、厚みが数μm〜100μm程度のフィルムとして成形し、図2(b)に示すように、電歪フィルム31、32の表裏両面に、マスク越しに導電性インクを噴霧することにより、電極パターン(内部電極)41、42を形成する。導電性インクの粘度にもよるが、インクジェット方式、はけ塗り、スクリーン印刷方式等、適宜形成方法を変更しても良い。
【0023】
導電性インクとしては、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)、PPy(ポリピロール)、PANI(ポリアニリン)等の有機導電性材料を用い、有機バインダーとともに、溶剤に溶解させて使用する。有機バインダーとしては、例えばゼラチン系バインダー、アクリル系バインダー、ポリビニルアルコール系バインダー等を用いることができる。溶剤としては、メタノール、エタノール等のような、有機バインダーを溶解することが可能な溶剤から選択すればよい。
【0024】
なお、電極パターン41、42は、二枚の電歪フィルム31、32それぞれの表裏両面で、対向する反対側の一辺に片寄るように形成することが好ましい。このようにすることで、電極パターン41、42を表裏両面に形成してある二枚の電歪フィルム31、32を積層する場合、二枚の電歪フィルム31、32が接する面側である内側と、接していない反対側である外側とで、電極パターン41、42が反対側へと露出する。図2(c)の例では、二枚の電歪フィルム31、32が接する面側である内側に形成してある電極パターン42を電歪フィルム31、32の左側の一辺に、接していない反対側である外側に形成してある電極パターン41を電歪フィルム31、32の右側の一辺に、それぞれ露出させることができる。したがって、異なる極性を有する電極パターン41と電極パターン42とを、それぞれ反対側の端部へ露出させることができ、電極同士の短絡を未然に回避することが可能となる。
【0025】
そして、二枚の電歪フィルム31、32を積層した状態で、電極パターン41、42がそれぞれ片寄っている一辺に直交する方向、すなわち電極パターン41、42の一部が重なり合う方向(一の方向)を軸として、電歪フィルム31、32を図2(c)の矢印の方向に巻き回して円筒状の筒体33に形成する。
【0026】
図3(a)は、電歪フィルム31、32を図2(c)の矢印の方向に巻き回して円筒状の筒体33になった状態を示す斜視図である。積層した電歪フィルム31、32を巻き回した円筒状の筒体33は、両端部に電極パターン41又は電極パターン42が露出している。なお、電歪フィルム31、32のサイズは自由であるが、巻き回して円筒状の筒体33になった場合の筒体33の長さは10mm以上、巻き回される電歪フィルム31、32の長さは筒体33の円周の長さの数倍が好ましい。筒体33の直径は1mm以上とする。
【0027】
そして、図3(b)に示すように、円筒状の筒体33の両端部に複数の切り込み部12を設ける。切り込み部12は、筒体33の両端部の端面側から半径方向に側面に向かって切り込み、端面の中心線方向に一定の深さまで切り込む。切り込み部12は、電極パターン41と電極パターン42とが重なり合っている部分にまでは切り込まない。これにより、切り込み部12を介して侵入してくる導電性インクにより、電極パターン41と電極パターン42とが短絡することがない。
【0028】
図4は、本発明の実施の形態に係る把持具の構成を示す模式図である。図4(a)に示すように、本実施の形態に係る把持具は、円筒状の筒体に形成されたアクチュエータ素子10の一端において、二本(複数)の把持部材50が、アクチュエータ素子10の中心軸方向から傾斜して円筒状の筒体に形成されたアクチュエータ素子10の開口101に接触するよう配置してある。二本の把持部材50の、アクチュエータ素子10の中心軸に対する傾斜角度θは、10度〜80度が好ましい。
【0029】
アクチュエータ素子10は、円筒状の筒体に形成してあるので、印加される電界に応じて長手方向に伸縮する。アクチュエータ素子10の開口101に、二本の把持部材50が、アクチュエータ素子10の中心軸方向から傾斜してアクチュエータ素子10の開口101に接触するよう配置してあるので、アクチュエータ素子10を長手方向に伸縮させることにより、二本の把持部材50の先端52の間隔が変動する。
【0030】
すなわち、例えばアクチュエータ素子10が長手方向に延伸した場合、円筒状の筒体に形成されたアクチュエータ素子10の中心軸方向から傾斜して二本の把持部材50とアクチュエータ素子10の開口101とが接触する位置51は、二本の把持部材50の先端52の位置へと近づいていく。したがって、アクチュエータ素子10の開口101と把持部材50の支持点53との距離が長くなるので、開口101に沿って把持部材50と開口101とが接触する位置51が把持部材50の先端52側へ近づくにつれて、二本の把持部材50の傾斜する角度が小さくなり、先端52の間隔が狭まる。
【0031】
図4(b)に示すように、アクチュエータ素子10の長さLを長さ(L+ΔL)に延伸させることにより、二本の把持部材50の、アクチュエータ素子10の中心軸に対する傾斜角度θが、θ=θ1からθ=θ2へと小さくなり(θ1>θ2)、二本の把持部材50の先端52の間隔が狭まる。したがって、対象物を確実に把持することができる。
【0032】
なお、支持点53は、アクチュエータ素子10の中心軸上であれば、位置が特に限定されるものではなく、アクチュエータ素子10の固定端(他端)102からの距離が一定である部材に連結してあれば足りる。したがって、支持点53は、アクチュエータ素子10の中心軸上であって、アクチュエータ素子10に固定してある部材に設ければ足り、例えば固定端102上に設けていても良い。
【0033】
上述したアクチュエータ素子10を用いた把持具は、円筒状の筒体に形成されたアクチュエータ素子10の中心軸方向(長手方向)の長さを大きくすることで二本の把持部材50の先端52の間隔を変動することができる。そして、円筒状の筒体の直径や断面積を大きくすることで、二本の把持部材50による把持力を大きくすることができる。例えば直径2mm、長さ40mmの円筒状の筒体にアクチュエータ素子10を形成した場合、80V/μmの電界を印加することにより、30gf程度の把持力を発生することができる。なお、把持部材50は1mm以上の長さであり、太さは1mm以下とした。
【0034】
以上のように本実施の形態によれば、高分子電歪材料からなる二枚の電歪フィルム31、32の表裏両面に内部電極として電極パターン41、42を形成し、電歪フィルム31、32を積層した状態で巻き回して円筒状の筒体に形成されたアクチュエータ素子10を用い、アクチュエータ素子10の一端において、二本の把持部材50が円筒状の筒体に形成されたアクチュエータ素子10の中心軸方向に傾斜して接触するよう配置してあるので、円筒状の筒体に形成されたアクチュエータ素子10を長手方向に伸縮させることにより、二本の把持部材50の先端52の間隔を変動させることができ、煩雑な操作をすることなく、対象物を把持する力を精緻に制御することが可能となる。
【0035】
その他、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内であれば多種の変形、置換等が可能であることは言うまでもない。例えば、電歪フィルム31、32の両面に導電性インクにより電極パターン41、42を形成しているが、例えば従来と同様、蒸着、スパッタ等により、Ni(ニッケル)、Pt(白金)、Pt−Pd(白金−パラジウム合金)、Al(アルミニウム)、Au(金)、Au−Pd(金パラジウム合金)等の金属膜を形成しても良い。
【0036】
また、上述した実施の形態1及び2では、電極パターン41、42は、二枚の電歪フィルム31、32それぞれの表裏両面に形成しているが、いずれか一方の面、例えば表面だけに電極パターン41、42をそれぞれ形成して、二枚の電歪フィルム31、32を積層しても良い。
【0037】
さらに、把持部材50は二本設けることに限定されるものではなく、把持する対象物に応じて、三本、四本、六本、八本等複数設けてあれば良い。
【符号の説明】
【0038】
10 アクチュエータ素子
11、31、32 電歪フィルム
12 切り込み部
41、42 電極パターン(内部電極)
50 把持部材
52 (把持部材の)先端
102 固定端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電歪材料からなり、片面又は両面に内部電極を形成した複数のフィルムを積層して、巻き回して円筒状の筒体に形成されたアクチュエータ素子を用いる把持具であって、
前記アクチュエータ素子の一端において、複数の把持部材が、前記アクチュエータ素子の中心軸方向から傾斜して前記アクチュエータ素子の開口に接触するよう配置してあることを特徴とする把持具。
【請求項2】
前記複数の把持部材は、前記アクチュエータ素子が延伸することにより、前記アクチュエータ素子の開口に沿って前記アクチュエータ素子と前記把持部材とが接触する位置が移動し、前記把持部材の先端の間隔が狭まるようにしてあることを特徴とする請求項1記載の把持具。
【請求項3】
前記複数の把持部材は、前記アクチュエータ素子の他端からの距離が一定である部材に連結してあることを特徴とする請求項1又は2記載の把持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−78809(P2013−78809A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218616(P2011−218616)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】