説明

把持機構

【課題】 弾性減衰要素による把持力によって対象物を把持する把持機構およびその制御装置を提供する。
【解決手段】 実施形態によれば、第1の把持部と第2の把持部により物体を把持する把持機構が提供される。前記第1の把持部と前記第2の把持部のいずれか一方は、固定部材と、前記固定部材に回動可能に接続される基端部材と、前記基端部材に接続され、弾性減衰要素により伸縮する受動直動リンク部材と、前記弾性減衰要素を1軸方向に直線移動させる1軸直動機構と、を具備する。該把持機構は、前記直線移動により前記弾性減衰要素が生ずる力を受けて前記基端部材が回動することにより前記物体を把持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、把持機構に関する。
【背景技術】
【0002】
把持機構は、自動生産ラインでの把持装置、ロボットエンドエフェクタ、工作機械、産業用ロボット、サービスロボット(ハンド)等に設けられ、ワーク等の対象物を例えば持ち上げたり搬送したりする際にこれを把持する機構である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−35329号公報
【特許文献2】特開2009−233790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
弾性減衰要素による把持力によって対象物を把持する把持機構の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、第1の把持部と第2の把持部により物体を把持する把持機構が提供される。前記第1の把持部と前記第2の把持部のいずれか一方は、固定部材と、前記固定部材に回動可能に接続される基端部材と、前記基端部材に接続され、弾性減衰要素により伸縮する受動直動リンク部材と、前記弾性減衰要素を1軸方向に直線移動させる1軸直動機構と、を具備する。該把持機構は、前記直線移動により前記弾性減衰要素が生ずる力を受けて前記基端部材が回動することにより前記物体を把持する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】第1の実施形態に係る把持機構と制御装置を含む全体構成の概略図
【図2】把持機構の正面図
【図3】把持機構の機能的構成要素のブロック図
【図4】各動作モードの指令情報と判定部出力の一覧を示す図
【図5】把持機構の動作シーケンスを模式的に示す図
【図6】把持機構の動作シーケンスを示す図
【図7】把持機構が対象物を把持した状態を示す図
【図8】無負荷状態での弾性減衰要素の伸縮量データを取得する動作手順を示すフローチャート
【図9】接触検知の動作手順を示すフローチャート
【図10】弾性減衰要素の伸縮量に関するセンサ出力値の推移を示すグラフ
【図11】把持力推定の動作手順を示すフローチャート
【図12】把持姿勢推定の動作手順を示すフローチャート
【図13】第2の実施形態に係る把持機構の側面図
【図14】第2の実施形態に係る弾性減衰要素の伸縮量に関するセンサ出力値の推移を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0007】
(第1の実施形態)
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の参照番号を附し、重複する説明は省略する。本実施形態は、対象物を把持する把持機構、および把持機構の制御装置に関する。把持対象物の固定状況および質量は既知であるものとする。
【0008】
図1は第1の実施形態に係る把持機構と制御装置を含む全体構成の概略図、図2は把持機構の正面図、図3は把持機構の機能的構成要素のブロック図である。
【0009】
図1に示すように、第1の把持部112は、固定部材112aと、基端部材112b、中間部材112c、先端部材112dの3つの可動部材とを有する。第1の把持部112は、これら3つの可動部材により形成される1本の指に相当する。第2の把持部114は、第1の把持部112に対向するように設けられる別の指に相当する。第1の把持部112と第2の把持部114とによって対象物を把持する。このために上記可動部材およびこれを駆動する機構については、第1の把持部112と第2の把持部114の両者に設けてもよいし、第1の把持部112のみに設けても良い。図1は、第1の把持部112と第2の把持部114の両者が同一で可動の把持機構を有する構成に相当する。制御装置120からのモータ駆動指示により第1の把持部112と第2の把持部114はモータ駆動される。なお、図1においては第1の把持部112からのセンサ信号のみが制御装置120に供給されるように示されているが、同様の信号が第2の把持部114から制御装置120に供給される。あるいは、第2の把持部114からセンサ信号を出力しない構成としてもよい。この場合、第2の把持部114について、対象物との接触検知、把持力推定は行えない。
【0010】
対向して配置される2つの把持部のうち、一方の把持部のみを可動の把持機構とした場合、他方の把持部は必ずしも図1のような指の形状でなくても良く、可動の把持部とともに対象物を把持できるように例えば壁面のような形状としてもよい。以下の説明では、第1の把持部112と第2の把持部114を総称して「把持部112」と称する。
【0011】
固定部材112aと基端部材112bは、固定ヒンジ部112gを介して回動可能に接続される。基端部材112bと中間部材112cは、第1ヒンジ部112hを介して回動可能に接続される。中間部材112cと先端部材112dは、第2ヒンジ部112iを介して回動可能に接続される。固定部材112aは、固定ヒンジ部112gと同軸以外の位置に第4ヒンジ部112kを有する。基端部材112bは、中間部材112c側の端部において第1ヒンジ部112hと同軸以外の位置に、第5ヒンジ部112lを有する。中間部材112cは、基端部材112b側の端部において第1ヒンジ部112hと同軸以外の位置に、第6ヒンジ部112mを有する。先端部材112dは、中間部材112c側の端部において第2ヒンジ部112iと同軸以外の位置に、第7ヒンジ部112nを有する。
【0012】
また把持部112は、基端部材112b、中間部材112c、先端部材112dの3つの可動部材が連動して回動動作するように、第4ヒンジ部112kと第6ヒンジ部112mとを連結する第1リンク部材112eと、第5ヒンジ部112lと第7ヒンジ部112nとを連結する第2リンク部材112fとを備える。
【0013】
また把持部112は、1軸直動機構113を有する。1軸直動機構113は、モータ(駆動手段)203に連結されたねじ軸113aと、ロット111を有する。なお、図1にはモータ203は図示していない。ロット111は、モータ203によってねじ軸113aが回転することにより直進運動する可動部である。ロット111は、第3ヒンジ部112jを有する。第3ヒンジ部112jは、弾性減衰要素を有する受動直動リンク部材110を介して第1ヒンジ部112hに連結される。
【0014】
受動直動リンク部材110は、無負荷状態で伸びきった状態から負荷を与えて縮めると、元の状態に戻ろうとするような弾性部を有する。このような受動直動リンク部材110として、ガススプリングを用いてもよい。以下の説明では、受動直動リンク部材110のことを「ガススプリング110」と表記する。
【0015】
第1の実施形態では、水平に配置される把持部112と、1軸直動機構113とが平行に配置される(水平配置)。具体的には、把持部112の固定部材112aの長手方向と、1軸直動機構113のねじ軸113aの長手方向とが平行となるような配置関係としている。この場合、ロット111の位置に対するガススプリング110の伸縮量の変化をグラフに示すと、固定ヒンジ部112gに最も接近した地点を頂点とする2次曲線となる。この点については図10を参照して後述する。
【0016】
図2から分かるように、基端部材112bは、対向配置された一対のプレートで構成される。各プレートの下端(固定部材側の端部)は、それぞれ固定ヒンジ部112gを介して固定部材112aに連結される。基端部材112bのプレート間隔w1は、固定部材112aのプレート間隔w2より広い。基端部材112bの各プレート上端(先端部材側の端部)は、それぞれ第1ヒンジ部112hを介して中間部材112cと連結される。基端部材112bのプレート間隔w1は、中間部材112cの幅w3より広い。ガススプリング110の一端は、第1ヒンジ部112hによって軸支される。ガススプリング110は、1軸直動機構113のロット111が直線移動すると、第1ヒンジ部112hを中心に回転する。ガススプリング110との機械的接触を防ぐために、固定部材112aは開口した概略「コ」の字状をなしている。
【0017】
第1リンク部材112eは、その一端が中間部材112cに回動可能に接続され、もう一端が固定部材112aに回動可能に接続されている。第2リンク部材112fは、一端が基端部材112bに回動可能に接続され、もう一端が先端部材112dに回動可能に接続されている。これら第1リンク部材112eおよび第2リンク部材112fによれば、ガススプリング110からの押圧力が中間部材112cと先端部材112dとに伝達される。
【0018】
基端部材112bは、固定部材112aのメカストッパー115に接触すると、その動きが制止される。メカストッパー115は、後に説明する図5、図6に示した。
【0019】
中間部材112cは、その下端が第1ヒンジ部112hを介して基端部材112bに連結される。また中間部材112cは、第1ヒンジ部112hと同軸以外の位置に、第1リンク部材112eと連結される回動可能な連結部を有する(第6ヒンジ部112m)。中間部材112cの上端は、第2ヒンジ部112iを介して先端部材112dに連結される。
【0020】
先端部材112dは、下側に向けて開口した断面が「コ」の字状をなしており、第2ヒンジ部112iを介して中間部材112cと連結され、第2ヒンジ部112iと同軸以外の位置に第2リンク部材112fと連結される回動可能な連結部を有する(第7ヒンジ部112m)。
【0021】
図3に示すように、駆動装置202によって駆動されるアーム201が接続され、アーム201には固定部材112aが接続され、固定部材112aには把持部112が回動可能に接続される。1軸直動機構113は、モータ203によって駆動される。モータ203の回転量はモータエンコーダ204によって読み取られ、モータ駆動サーボ制御部104に送られる。モータ駆動サーボ制御部104は、駆動装置202からの指示に従い、モータドライバ205を通じてモータ203を制御する。1軸直動機構113は、ガススプリング110を介して把持部112に接続される。1軸直動機構113および把持部112との位置関係に応じて変化するガススプリング110の伸縮量が、伸縮量検出センサ207によって検出される。また、1軸直動機構113が駆動された際の可動部分(ロット111)の移動量が、移動量検出センサ206によって検出される。
【0022】
次に、図1に示した制御装置120について説明する。
【0023】
図1に示したように、把持部112には制御装置120が接続される。制御装置120は、把持部112による接触検知、把持力推定、ならびに把持姿勢推定を行う。図3に示したように、1軸直動機構113は移動量検出センサ206を備えており、ガススプリング110は伸縮量検出センサ207を備えている。これらセンサ206,207によって検出されたセンサ信号(例えば電圧値)は、アンプ等の信号処理回路部105を介して制御装置120に取り込まれる。移動量検出センサ206としては、例えば、ポテンショメータ、静電容量型センサ、レーザ変位計測計やエンコーダなどを用いることができる。伸縮量検出センサ207としては、例えば、ポテンショメータ、レーザ変位計測計、パルスコーダなどを用いることができる。
【0024】
以下、作業命令101に応じて制御装置120が把持部112による把持動作を制御する一連の動作を説明する。
【0025】
まず、把持機構の一連の動作に関する作業命令101が動作コマンド生成部102に入力される。作業命令101はプログラムの形態であってもよい。パネル表示された作業命令101を制御装置120に対して人が入力したり、音声で指示しても良い。作業命令101を入力するための入力装置は、把持部112や制御装置120と一体型であってもよく、有線あるいは無線で把持部112や制御装置120と通信可能なものとして良い。
【0026】
動作コマンド生成部102は、入力された作業命令101を各作業プロセスで必要となる動作手順に分解し、該動作手順を、モータ203に対する動作コマンドレベルの命令列に展開する。目標指令値生成部103は、生成された各動作コマンドに応じて、モータ203に対する各目標軌道および目標値を算出し、1軸直動機構113の駆動に関する目標指令値を出力する。モータ駆動サーボ制御部104は、目標指令値生成部103からの目標指令値に従って、モータが作業に応じた動作を実行するように該モータを制御する。
【0027】
判定部106は、移動量検出センサ206および伸縮量検出センサ207からのセンサ信号に基づいて、把持部112の対象物への接触を検知する。また判定部106は、把持部112が対象物を把持している際の把持力を推定したり、対象物を把持している姿勢を推定するなどの各種判定処理を行う。判定部106によるこのような判定処理は、非接触状態でのロット111の各位置Lにおけるガススプリング110の伸縮量データの差分変化量を求めるなどの演算処理によって行う。
【0028】
動作コマンド生成部102は、順次に出力され実行される動作コマンドに応じた動作モード情報を、実行作業の情報と共に動作モード情報部107に送る。動作モード情報部107には、様々な作業命令に対してそれに含まれる動作モード毎に定義されたロット111の位置情報Lおよびガススプリング110の伸縮量データからの出力値に対する基準値Vba、把持力推定関数Fforce、把持姿勢推定関数Fformが設定されている。これら基準値等は、対象物との接触検知や把持力推定、把持姿勢推定に用いられる。
【0029】
したがって、接触検知や把持力推定が判定部106によって行われた場合、定義された動作モードに応じたモータ203への対処制御方法に従い、判定部106からモータ駆動サーボ制御部104にモータ駆動停止やサーボロックのコマンドが送出されたり、場合によっては動作コマンド生成部102に目標値を修正する戻値コマンドが送られる。これにより、接触検知や把持力推定、把持姿勢推定に対する現状の動作に適した対応処理動作を実施し、把持動作の信頼性および確実性を確保するような駆動制御を行うことができる。
【0030】
動作モード情報部107における作業の設定例について、図4を参照して説明する。
【0031】
図4は、各動作モードの指令情報と判定部出力の一覧を示す図である。これは、動作モード情報部107における各動作モードに対する定義・設定内容の一例である。図4に示すように、動作モードの種類として、
(1)接触検知モード
(2)把持力推定モード
(3)把持姿勢推定モード
(4)低消費電力把持モード
の4つの動作モードが定義されている。
【0032】
それぞれの動作モードに対して、指令情報108として、
(1)接触検知モードの場合は伸縮量変化検出のための判断基準値Vbaを任意指定、
(2)把持力推定モードの場合は弾性減衰要素の各伸縮量に対する発生力との関係式Fforceの利用、
(3)把持姿勢推定モードの場合はリンク間の幾何学的な拘束関係式Fformの利用、
(4)低消費電力把持モードの場合はモータの駆動停止
が定められている。
【0033】
また、判定部106には、各動作モードの指令情報108ごとに、モータ駆動サーボ制御部104に対する駆動停止・ロック指令、あるいは動作コマンド生成部102に対する戻り値コマンド等の判定部出力の内容が設定される。図4に示すように、動作モードによっては、モータ203を駆動停止させたりサーボロックを維持して姿勢の保持状態を保つ等、それぞれの動作モードに従って異なる処理が定義される。
【0034】
次に、第1の実施形態に係る把持機構の動作について、図5〜図7に示す動作概要図、および図8〜図12に示す各動作モードのフローチャートを用いて説明する。
【0035】
まず図5〜図7を参照して把持部112の動作を説明する。本実施形態において、1軸直動機構113のロット111は、モータ203により駆動される。図5において、ロット111は、モータ203によってねじ軸113aが回転することにより直進運動する。ロット111の進退量は、ねじ軸113aの回転量によって調節可能である。ロット111がねじ軸113aの一方の端部からもう一方の端部まで移動する間において、ガススプリング110が受動回転支点である固定ヒンジ部112gの位置を通過するとガススプリング110の反力による受動回転支点まわりの回転力方向が切り替わり、それにともない基端部材112b、中間部材112c、先端部材112dの3つの可動部材が連動して回動し、指の開閉動作である屈曲動作が行われる。その際の、基端部材112b、中間部材112c、先端部材112dの3つの可動部材の動きを図6に示す。図7(a)は、対象物を把持せずに把持部112が屈曲している状態を示しており、図7(b)は、把持部112が把持対象物を把持している様子を示している。図7(a)の状態と図7(b)の状態とでガススプリング110の伸縮量は異なる。
【0036】
上記(1)の接触検知モードの動作に関して図8〜図10を用いて説明する。図8に示す動作は、接触検知の際の比較データに用いるために、無接触状態でのロット111の各位置Lにおける弾性減衰要素の伸縮量のデータVth(L)を取得するものである。モータ駆動サーボ制御部104からモータ駆動指示が出力される(ステップS1)。モータ駆動サーボ制御部104からのモータ駆動指示を受け取った把持部112は、1軸直動機構113を駆動して、無接触状態でのロット111の各位置Lにおける弾性減衰要素の伸縮量のデータVth(L)を取得し記憶する(ステップS2)。データ取得後、モータ駆動サーボ制御部104からモータ駆動停止命令が出力される(ステップS3)。
【0037】
次に、図9および図10を参照して接触検知動作を説明する。モータ駆動サーボ制御部104からの把持対象物への移動指示を受け取った駆動装置202はアーム201を駆動し、把持部112を対象物の位置まで移動させる(ステップS11)。ステップS11の終了時点において、把持部112の変位は開始しておらず、把持機構の動作範囲に対象物が配置され、かつ互いに接触していない状態となっている。次いで、図8のフローチャートに従って取得した無接触状態でのロット111の各位置Lにおける弾性減衰要素の伸縮量のデータVth(L)を読み出す(ステップS12)。人やプログラムからの入力情報に基づいて決定される判断基準値情報(閾値)Vbaを指令情報108として、動作モード情報部107から読み込む(ステップS13)。次いで、モータ駆動サーボ制御部104は対象物を把持するためのモータ駆動指示を出力する(ステップS14)。1軸直動機構113の駆動にともない、ロット111の各位置Lにおける弾性減衰要素の伸縮量のデータVexp(L)を取得する(ステップS15)。把持動作時に、把持制御部109の判定部106は、無接触状態でのロット111の各位置Lにおける弾性減衰要素の伸縮量のデータVth(L)と把持動作状態でのロット111の各位置Lにおける弾性減衰要素の伸縮量のデータVexp(L)との差分量と、判断基準値Vbaとを比較する(ステップS16)。接触検知後、モータの駆動を停止またはサーボロック動作を行う(ステップS17)。
図10は、ロット111の各位置Lにおける弾性減衰要素の伸縮量の出力値データVth(L),Vexp(L)を用いて、対象物体との接触を精度良くかつ簡単に検出するための検出方法を説明する図である。
【0038】
判定部106は、伸縮量検出センサ207から数ミリ秒単位のサンプリングで出力値を取り込み、無接触状態でのロット111の各位置Lにおける弾性減衰要素の伸縮量のデータVth(L)との差分変化量Dを求めて、差分変化量Dが所定の条件(例えば判断基準値Vba以上の差分変化量)を満たした場合に、接触を検出したものと判断する。具体的には、物体接触検知は、無接触状態での2次曲線状の変化値からの乖離量の検出に基づいて行う。これは、把持部112は連動して各関節部が屈曲するため、対象物と接触することにより指の各関節角度は固定され、1軸直動機構113の移動にともないガススプリング110の伸縮量は無接触状態とは異なる挙動を示す現象を利用している。
【0039】
上記(2)の把持力推定モードの動作に関して図11を用いて説明する。図11に示すように、モータ駆動サーボ制御部104からモータ駆動指示が出力される(ステップS21)。モータ駆動サーボ制御部104からのモータ駆動指示を受け取った把持部112は、1軸直動機構113を駆動して駆動状態でのロット111の各位置Lにおける弾性減衰要素の伸縮量のデータVexp(L)を随時取得する(ステップS22)。把持部112の各関節部は連動して屈曲することから、1軸直動機構113のロット111の位置に対する把持部112の屈曲姿勢は、ガススプリング110の伸縮量と合わせて幾何的に一意に定まる。この一意に定まる把持姿勢およびガススプリング110の伸縮量の計測値から、把持力を推定する(ステップS23)。最後に、モータの駆動を停止またはサーボロック動作を行う(ステップS24)。
動作モードが(3)把持姿勢推定モードの場合の動作に関して図12を用いて説明する。図12に示すように、モータ駆動サーボ制御部104からモータ駆動指示が出力される(ステップS31)。モータ駆動サーボ制御部104からのモータ駆動指示を受け取った把持部112は、1軸直動機構113を駆動して、駆動状態でのロット111の各位置Lにおける弾性減衰要素の伸縮量のデータVexp(L)を随時取得する(ステップS32)。把持部112の各関節部は連動して屈曲することから、1軸直動機構113のロット111の任意の位置に対する把持部112の屈曲姿勢は、ガススプリング110の伸縮量と合わせて幾何的な拘束関係を利用して推定することができる。(ステップS33)。最後に、モータの駆動を停止またはサーボロック動作を行う(ステップS34)。
【0040】
動作モードが(4)低消費電力把持モードの場合の動作に関して説明する。これは本実施形態の機構では、モータ203への供給電力を絶っても、1軸直動機構113が逆回転しないことから、把持状態が維持される原理を利用したモードである。本モードでは、モータ203の駆動停止を実施する。
【0041】
以上説明した本実施形態の把持機構は、1軸直動機構113の移動とガススプリング110の反力方向の切替を利用して把持部112の開閉(屈曲)動作を実現している。1軸直動機構113を利用することにより、モータ出力容量に比して反発力の大きい(出力容量の大きい)ガススプリング110を選択することができ、これにより高い把持力を実現することが可能である。さらに、ガススプリング110の反発力とコンプライアンス性により、把持対象物の外形形状に応じた把持を実現することができる。把持対象物からの反力が直接的にモータ203に伝わらないため、モータ203に無理な負荷がかかることを防ぐことができる(過負荷防止機能)。また、把持対象物をガススプリング110の反発力で把持することから、モータ203への電力供給を絶っても把持の維持が可能であり、そのような動作では省電力化を実現することができる。把持部112の開閉角度は、部材間のリンク機構をどのように配置するかによって予め規定することができる。また、ロット111の位置とガススプリング110の伸縮量から指形状が一意に定まることから、本実施形態の把持部112を複数利用することにより、把持対象物のおおよその外形形状を推定することが可能となり、視覚情報が制限される環境下でも物体形状を予測できるという利点がある。
【0042】
また本実施形態では、把持対象物の形状が変化すると(空箱の潰れる現象など)、把持部112の屈曲角が変化する。それに伴い、そのロット111の位置に対するガススプリング110の伸縮量が変化するため、対象物の変形に対応することができる。把持力は把持位置に応じて直接測定する構成であることから、把持位置によって弾性の異なる不均質な場合でも適切な把持力で対象物を把持することができる。また、ガススプリング110による弾性減衰要素を備えることで、把持対象物の外形形状の変形などに起因する外乱によって発生する把持部112の振動的な動きが抑制され、物体の変形に追従した把持が可能であり、把持制御の制御性が向上する。
【0043】
ガススプリング110の減衰要素としては、オイルダンパ、粘性ダンパ、減衰ゴム等を用いることができる。ガススプリング110の弾性要素としては、コイルバネ、板バネ、ゴム、ウレタン、シリコン等の各種の弾性体を用いることができる。
【0044】
なお本実施形態は、把持対象物が非常に柔らかい物体(例えば、柔らかいタオルや紙風船等)や不可逆的に変形するような物体(液体や粉末が入った袋等)、きわめて脆い物体(薄いガラス製品等)を除き、広範囲の物体に対して適用可能である。
【0045】
上の説明では、多指により、手中に収まる程度の比較的小型の対象物を把持する場合を想定して説明したが、片手では把持することが困難な大型の対象物を複数の腕により挟み込んで把持する場合にも本発明は好適に適用することができる。
【0046】
以上、第1の実施形態について説明したが、実施形態は上述したものに限定されることなく、その技術的思想を逸脱しない範囲で適時変更可能である。
【0047】
(第2の実施形態)
図13は、第2の実施形態に係る把持機構の側面図である。第2の実施形態である把持機構は、1軸直動機構113のロット111が直線移動するのに伴い、弾性減衰要素を有するガススプリング110の伸縮量が線形に変化するように、固定部材112aに平行な面pから任意の角θほど1軸直動機構113を傾斜して配置した点で第1の実施形態とは異なる(傾斜配置)。
【0048】
このような第2の実施形態では、ロット111の各位置Lにおける弾性減衰要素の伸縮量のデータVth(L)は、図10に示したような2次曲線状の出力変化とはならず、図14に示すような線形の出力変化を得ることができる。したがって、任意の伸縮量センサ出力値の値からロット111位置を一意に定めることができ、移動量検出センサ206が1軸直動上に不要となるという利点がある。
【0049】
なお、上述した実施形態においては、駆動手段として電動のモータ203を用いる構成を例に挙げて説明したが、駆動手段はこれに限定されることはなく、エアシリンダや油圧シリンダ等を利用することも可能である。ただし、把持部112の屈曲姿勢を任意に変更したい場合には、1軸直動機構113のロット111の進退量を調整し得るアクチュエータとする必要がある。
【0050】
また、図3には、移動量検出センサ206とモータエンコーダ204を備える構成を示したが、1軸直動機構113の進退量情報を得るにはどちらか一方だけでも可能である。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
101…作業命令
102…動作コマンド生成部
103…目標指令値生成部
104…モータ駆動サーボ制御部
105…信号処理回路部
106…判定部
107…動作モード情報部
108…指令情報
109…把持制御部
110…ガススプリング(弾性減衰要素を有する受動直動リンク部材)
111…ロット(1軸直動機構の可動部)
112…第1の把持部
112a…固定部材
112b…基端部材
112c…中間部材
112d…先端部材
112e…第1リンク部材
112f…第2リンク部材
112g…固定ヒンジ部
112h…第1ヒンジ部
112i…第2ヒンジ部
112j…第3ヒンジ部
112k…第4ヒンジ部
112l…第5ヒンジ部
112m…第6ヒンジ部
112n…第7ヒンジ部
113…1軸直動機構
114…第2の把持部
115…メカストッパー
120…制御装置
201…アーム
202…駆動装置
203…モータ
204…モータエンコーダ
205…モータドライバ
206…移動量検出センサ
207…伸縮量検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の把持部と第2の把持部により物体を把持する把持機構であって、
前記第1の把持部と前記第2の把持部のいずれか一方は、
固定部材と、
前記固定部材に回動可能に接続される基端部材と、
前記基端部材に接続され、弾性減衰要素により伸縮する受動直動リンク部材と、
前記弾性減衰要素を1軸方向に直線移動させる1軸直動機構と、を具備し、
前記直線移動により前記弾性減衰要素が生ずる力を受けて前記基端部材が回動することにより前記物体を把持する把持機構。
【請求項2】
前記弾性減衰要素の伸縮量を検出してセンサ信号を出力する伸縮量検出センサと、
前記センサ信号の変化に基づいて前記物体との接触を検知し、前記物体を把持している把持力を推定する制御部と、
をさらに具備する請求項1記載の把持機構。
【請求項3】
前記基端部材に回動可能に接続される中間部材と、
前記中間部材に回動可能に接続される先端部材と、
前記固定部材と前記中間部材とを連結し、前記受動直動リンク部材の伸縮により前記中間部材を回動させる第1のリンク部材と、
前記基端部材と前記先端部材とを連結し、前記中間部材の回動により前記先端部材を回動させる第2のリンク部材と、
をさらに具備する請求項1又は2記載の把持機構。
【請求項4】
前記固定部材に対し前記1軸直動機構を傾斜して取り付けたことにより、前記伸縮量検出センサが線形のセンサ信号を出力する請求項2記載の把持機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−71224(P2013−71224A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213297(P2011−213297)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト、作業知能(社会・生活分野)の開発、作業知能(社会・生活分野)の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】