説明

投影用スクリーン及びその製造方法

【課題】 ある範囲では高い透明性をもち、スクリーン正面では高い色再現性と、高輝度な投影が可能な投影用スクリーン、および該投影用スクリーンの製造方法を提供する。
【解決手段】 投影用スクリーン11(記録媒体100)は、映像投影装置より投影された映像光を出射光とすることにより映像を再生させるとともに、正面から設定された角度内の光を散乱させるがそれ以外の光を透過させる。投影用スクリーン11は、スクリーン記録における露光をホログラムまたはルーバー構造を有する光学フィルム71の少なくとも一方を介して記録媒体100に照射することで得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、プロジェクターを用いて投影するための投影用スクリーン、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクターでスクリーンに投影した映像と、スクリーン背面の背景を同時に観察できるようにしたホログラム表示装置が既に提案されている。(特許文献1)
このようなホログラムスクリーン装置を利用すると、デパートや地下街等の各種ショールームのショーウインドーに広告映像等を映し出すことができる。この場合、ショールーム内の展示品の観察を阻害することなく、映像を提示することができる。また、このようなホログラムスクリーンは自動車等の各種移動体のヘッドアップディスプレイとしても利用することができる。
【0003】
該表示装置の特長である、背景を透かして見ながら再生される映像を観察することができる、という点をより顕著にすべく、透明性に優れ、曇りが殆どなく、明瞭な背景を観察できるホログラムスクリーンの製造方法が提案されている。(特許文献2)
この製造方法では、光拡散体より得られる拡散光である物体光と非拡散光である参照光との露光強度比を変更することにより、スクリーンのヘイズ率の調整を可能にしている。
【特許文献1】特開平9−114354号公報
【特許文献2】特開2000−75139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、該方法で作製されたホログラムスクリーンで再生された映像は、背景を透かせて見せるため投影した映像がどうしてもコントラストが低くなって見難い画像となってしまう。その対策としてヘイズ率を上げて使用すると背景が見えない状態になるという欠点を有していた。
【0005】
このように、いままでの投影用スクリーンでは、ヘイズ率を出来るだけ高くしてコントラストをできるだけ高く取るように設定したものが用いられていたが、このような投影用スクリーンは不透明性が目立ち、投影用スクリーンを通して明瞭な背景を観察することが難しく、観察者に違和感を与えるという問題点があった。
【0006】
請求項に係る本発明は、投影用スクリーンの透明性を損なうことなく、投影用スクリーン面上ではコントラストの高い映像が観察可能であり、しかも透明性を有する投影用スクリーン、および該投影用スクリーンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するべく、本発明の発明者らは鋭意検討した結果、投影用スクリーンに透明性と拡散性を兼ね備えた機能を持たせ、正面から見た場合には拡散してコントラストの高い映像を観察できるが少し角度を変えると透明で背景部が観察できるようにすることで、前記課題を解決できることに想到し、本発明を完成させたものである。
【0008】
請求項1に記載の投影用スクリーンは、映像投影装置より投影された映像光を出射光とすることにより映像(二次元の像または立体像)を再生させるとともに、正面から設定された角度内の光を散乱させるがそれ以外の光を透過させることを特徴とする。
【0009】
斯かる発明によれば、(スクリーン)映像投影装置より投影させる時には、正面方向からの光を散乱、回折させて投影映像をコントラスト良く確認することが可能である。しかし、投影用スクリーン面を見つめる場合に設定された角度を超える範囲から覗き込んだ場合には透明で背景部の景色の観察が可能となるように設定された投影用スクリーンを用いることによって、スクリーンに映像投影装置からの投影光と外部からの光によって映像の鮮明性と角度を変えた場合での透明感を得ることが可能となる。
【0010】
請求項2に記載の投影用スクリーンは、上記の設定角度が正面の法線方向から±20度以内であり、0度(正面の法線方向)での透過率が30%以下であり、20度を超えたときの透過率が35%以上であることを特徴とする。
本発明の投影用スクリーンは、正面で投影映像を観察するため、正面での透過率が30%以下と低く、特に正面からの設定角度範囲(正面の法線方向から±20度)を超えて覗くと透過率は35%以上で、透明に見える。
このような投影用スクリーンによれば、限られた範囲で映像が確認されるが、通常(その範囲外において)は透明のような状態となり、映像が空間に浮いたような印象を得ることができる。
【0011】
さらに、請求項3の投影用スクリーンのように、上記の設定角度が正面の法線方向から±15度以内であり、0度での透過率が30%以下であり、30度を超えたときの透過率が60%以上であるとなおよい。
このような投影用スクリーンは、特に正面からの設定角度範囲が狭く(正面の法線方向から±15度)、法線から±30度の範囲を超えて覗くと透過率は60%以上でさらに透明に見える。
このような投影用スクリーンによれば、より限られた範囲で映像が確認されるが、通常(その範囲外において)はさらに透明のような状態となり、映像が空間に浮いたような印象をより強く得ることができる。
【0012】
投影用スクリーンは、請求項4に記載のように、屈折率変調型のフォトポリマー組成物を基板に塗布して得られる記録媒体を露光して作製されるものであるのが好ましい。そのような場合、拡散板等を用いて記録すればその部分が白濁する。
投影用スクリーン製造に必要となる感光材料に、フォトポリマー感光材料(フォトポリマー組成物を基板等に塗布したもの)を用いることで更に高透明、高輝度かつ輝度ムラのない投影用スクリーンの提供が可能となる。
斯かる発明によれば、スクリーンを調光する感光材料としてフォトポリマー感光材料を用いるため、粒子状成分が含まれず、透明性及び回折効率に優れたスクリーンを得ることが可能である。また、湿式現像処理を必要とせずに調光条件を記録することが可能である上、フォトポリマー感光材料が含有する重合物の重合収縮に起因した膜の収縮も一定であるため、従来のように銀塩感光材料を用いて記録する場合に比べ、膜厚分布が均一となる結果、スクリーンシステム全体として均一な明るさを有することになる。
【0013】
請求項5に記載の投影用スクリーンは、露光により屈折率分布を生じるフォトポリマー感光材料に、ルーバー構造を有する光学フィルムを介して露光することによって製造する製造方法で作製されたことを特徴とする。ルーバー構造を有する光学フィルムを用いることで、スクリーン面での視界の制限を設けることが可能であり、露光条件を調整することで視野角度での透明度やヘイズ率等を任意に設定することが可能となるなどの利点を有する。ルーバー構造を有する光学フィルムを投影時に直接使用する場合に比べると、透明部と不透明部分との間の境界がなだらかになり、きれいな画像を提示できる。
【0014】
請求項6に記載した投影用スクリーンの製造方法は、露光により屈折率分布を生じるフォトポリマー感光材料に、ホログラムまたはルーバー構造を有する光学フィルムの少なくとも一方を介して露光する過程を含むことを特徴とする。
ルーバー構造を有する光学フィルムとしては、目隠しなどに利用される市販のフィルムを利用してよい。このような光学フィルムやホログラムをフォトポリマー感光材料に重ねた状態で露光することで、スクリーン面での視界の制限を設けることが可能である。すなわち、正面から見た場合には拡散してコントラストの高い映像を観察できるが少し角度を変えると透明で背景部が観察できる投影用スクリーンを製造することができる。露光条件を調整することで視野角度での透明度やヘイズ率等を任意に設定することが可能である。
【0015】
請求項7に記載の投影用スクリーンの製造方法は、光拡散体により得られた拡散光である物体光と、非拡散光である参照光とを感光材料上に干渉露光するとき、とくに、光の強度の場所的分布を均一化する組合せレンズを介して参照光を照射することを特徴とする。
このようにすれば、参照光の露光強度を感光材料面内で均一化することが可能である。その結果、スクリーン面内での輝度ムラのない均質な投影用スクリーンの作製が可能となる。また、組合せレンズは単レンズとは異なり、レンズが持つ収差を無くすように複数枚のレンズが組み合わされているため、スクリーン作製時の参照光にはレンズの持つ収差の情報が含まれない。したがって、スクリーンに映像投影装置からの投影光、すなわち再生照明光を照射すると、輝度ムラや色収差がない投影用スクリーンを得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、任意の透明性を有しながら、輝度ムラのない高輝度な投影用スクリーンを得ることが出来る。
請求項1による投影用スクリーンは、スクリーン面に対して正面で輝度ムラや収差のない均質で鮮明な投影画像が得られ、視野を変えることで透明感も得ることが出来る。
請求項2による投影用スクリーンは、さらに、光源利用率が高く視認性の良好な映像と透明感を両立させることが出来る。
請求項3による投影用スクリーンは、狭い範囲で視認されるため、さらに透明感を得ることが出来る。
請求項4による投影用スクリーンは、さらに、透明性を有しながら映像の視認性、光源利用率に優れている。
請求項5による投影用スクリーンは、スクリーン面での視野の制限を設けることが可能であり、視野角度での透明度やヘイズ率等を任意に設定できる。
請求項6による投影用スクリーンの製造方法は、任意の透明性を有しながら、輝度ムラのない高輝度な投影用スクリーンの作製を可能とする。スクリーン面での視野の制限を設けることや、視野角度での透明度、ヘイズ率等を任意に設定することも可能である。
請求項7の投影用スクリーンの製造方法は、輝度ムラや色収差がない投影用スクリーンの製造を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明に係る投影用スクリーンの一実施形態について説明する。
【0018】
<投影用スクリーン撮影の為の光学系>
図1は、本発明の一実施形態に係るホログラムスクリーン撮影の為の光学系(以下、適宜「投影用スクリーン撮影用光学系」という)の概略を示す図である。投影用スクリーン撮影用光学系1について図1を参照しつつ説明する。まず、感光材料(本例ではフォトポリマー感光材料)が感度を持つ波長を発振し、かつ十分なコヒーレンス性を有するレーザー10からビームが発振される。これをミラー20によってビームスプリッター30へと導く。ビームスプリッターにより光を分割することで、任意の強度比で物体光LOと参照光LRを得ることができる。
【0019】
図1においてミラー21へと直進する光LOを対物レンズ41へと入射させ、ピンホール51を用いてスペイシャルフィルタリングすることで、不要な迷光や散乱光をカットする。なお、対物レンズ41は、倍率の大きなもの(20倍程度)を用いることが感光材料面内になるべく均一な強度の拡散光を入射させる上で好ましいが、レーザーの出力が不足する場合は5倍〜10倍程度のレンズを用いると良い。スペイシャルフィルタリングされた光を光拡散体70へと入射させる。光拡散体70は、すり硝子などの拡散板を用いることが出来る。この時に用いる光拡散体70の面積は、感光材料(図1における記録媒体100とほぼ同面積。図3参照)の1/4倍から2倍程度が好ましく、小さ過ぎると視野角が狭くなり過ぎたり、物体光強度の不均一を招いたりする。また、大き過ぎると不要な拡散光同士の干渉を増やすことに繋がる。対物レンズ41により拡大された光で光拡散体70に入射しない不要な光は、本来の意図した光の経路以外で感光材料(記録媒体100)に入射することを防ぐ為、アパーチャー61を使用してカットする事が好ましい。
【0020】
図1においてビームスプリッター30からミラー22へと直進する光LRを対物レンズ42へと入射させピンホール52を用いて、物体光LO同様にスペイシャルフィルタリングすることで不要な迷光や散乱光をカットする。なお、対物レンズ42は、倍率の大きなもの(20倍程度)を用いることが感光材料面内になるべく均一な強度の光を入射させる上で好ましいが、レーザーの出力が不足する場合は5倍〜10倍程度のレンズを用いると良い。スペイシャルフィルタリングされた光をコリメーターレンズ80へと入射させ平行光を得る。続いて平行光をズームレンズ(組合せレンズ)90へと入射させることで、強度が均一かつ収差のない参照光が得られる。この時、平行光のうちズームレンズ90に入射しない不要な光は、本来の光の経路以外で感光材料(記録媒体100)に入射することを防ぐ為、アパーチャー62を使用してカットする事が好ましい。
【0021】
強度が均一かつ収差のない参照光を得る為に使用されるズームレンズ90について説明する。図2は、ズームレンズ90の構成の一例を示すもので、映像投影機に使われているものと同じ組合せレンズである。図2において、平行光L1が両凹レンズ110に入射する。これにより収差の補正が行われ、次いでアクロマートレンズ210に入射させることで、収差を発生させることなく光を拡大させることが出来る。アクロマートレンズは、屈折率や分散率の異なる凸レンズと凹レンズを貼り合せたレンズである。アクロマートレンズの代わりに、アクロマートレンズに更に凸レンズを組み合わせた2群3枚レンズやアポクロマートレンズ等の収差を抑えた拡大レンズを用いても良い。この一連の収差補正、拡大の工程を、絞り300を挟んでもう一組の両凹レンズ120、アクロマートレンズ220を通して行う。最後に凹レンズ400を通すことでフォーカスを短くした拡大光L2を得ることが出来る。本例では、光源利用率を高くするため、ホログラムスクリーンの作製時に、再生時と同じ組合せのズームレンズを使用しているが、当然のことながら、ズームレンズは上記の組合せに限られるものではなく、収差を発生させることなく光を拡大させることができるものであれば、他のレンズでもよい。
【0022】
図1において、物体光LOと参照光LRを感光材料(記録媒体100)に入射させる際に、それらの光軸がなす角をθとすると、好ましいθの範囲は一般的には20°〜70°である。また、物体光LOと参照光LRの露光強度比は、物体光強度を1とするとき、参照光強度2〜10が好ましい。より好ましくは、物体光強度1に対して、参照光強度4〜8の範囲である。なお、レーザー光の光量は、光強度と照射時間の積で表せば、好ましくは0.1〜1,000mJ/cm、より好ましくは1〜100mJ/cmである。
【0023】
記録媒体100の構成と設置について、図3を用いて説明する。記録媒体100は、基板1A、感光材料からなる記録層1B、保護層1Cの3層からなる。物体光LO、および参照光LRは、光学的な異方性を持たない材質(例:硝子)の基板1Aから入射させることが好ましい。また、記録層1Bの保護層1Cには、保護層1Cと空気の界面での反射光を防止するために、レーザーの発振波長の光を吸収するように着色されたものを用いることがより好ましい。
【0024】
<感光材料>
本実施形態に係る感光材料としては、光刺激に反応して像を形成し得るものであれば特に限定はされないが、屈折率変調型のフォトポリマー組成物を主成分とし、可干渉性の2光束を干渉させて露光することによって干渉縞を記録する記録工程のみにより、露光された部位の屈折率と未露光部位の屈折率との差が少なくとも0.001以上の屈折率変化を生じるものを用いることが好ましい。また、屈折率の差を増幅させるための湿式現像処理が不要であるのが好ましい。光や熱等による乾式現像処理は必要に応じて用いることが出来る。
【0025】
さらに、フォトポリマー組成物としては、コヒーレンス性に優れた光を干渉させることによって得られる干渉縞の明暗の強度分布を大きな屈折率の変化として記録できる、(A)ラジカル重合可能な不飽和二重結合を少なくとも1つ含有するラジカル重合性モノマーと、(B)バインダーポリマーおよび/または(C)カチオン重合性モノマーを含有するものが好適に用いられる。
【0026】
より好適なフォトポリマー組成物としては、可視光の波長領域を有する干渉性の第一の光の干渉によって得られる干渉縞の照射により、ラジカル重合性化合物(A)の重合を開始させる(D)光ラジカル重合開始剤と、光ラジカル重合開始剤(D)を増感させる(E)光増感色素、およびカチオン重合性化合物(C)を含有する場合は、第一の光とは異なる波長領域を有する第二の光の照射によりカチオン重合性化合物(C)の重合を開始させる(F)光カチオン重合開始剤とからなり、ラジカル重合性化合物(A)の屈折率が、バインダーポリマー(B)および/またはカチオン重合性化合物(C)との屈折率との加重平均値よりも大きいように調整したフォトポリマー組成物である。
【0027】
光カチオン重合開始剤(F)は、第二の光の照射によりカチオン重合性モノマー(C)の重合を開始させるものであるが、第一の光の干渉によって得られる干渉縞の照射に対する感光性が低くてカチオン重合性モノマー(C)の重合を実質上開始させないものが好ましい。
【0028】
ラジカル重合性モノマー(A)
本発明で用いられるラジカル重合性モノマー(A)は、本発明で用いられるバインダーポリマー(B)および/または(C)カチオン重合性モノマー等とともに本発明による組成物を調製した場合に、相溶性を有しさえすれば広範囲の化合物を使用することができるが、常圧で100℃以上の沸点を持つ非ガス状、即ち、液状または固体状であるラジカル重合性化合物(A)が好ましい。
特に、エチレン性不飽和二重結合を有する(メタ)アクリルモノマー、ビニルモノマー、(メタ)アリルモノマーが好ましい。また、これらは単独で用いても、2つ以上の組み合わせで用いてもよい。
【0029】
バインダーポリマー(B)
本発明で用いられるバインダーポリマー(B)は、ラジカル重合性化合物(A)およびカチオン重合性化合物(C)と相溶性が良く、有機溶媒中に完全に溶解しうるものであればよい。代表的なものは、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーの単独重合体、または、該モノマーと、これと共重合可能な共重合性モノマーとの共重合体、ジフェノール化合物とジカルボン酸化合物の縮合重合体、分子内に炭酸エステル基を有する重合体、分子内に−SO2−基を有する重合体、セルロース誘導体、およびこれらの2以上の組み合わせからなる群より選ばれるものである。
【0030】
カチオン重合性モノマー(C)
本発明で用いられるカチオン重合性モノマー(C)は、他のいずれの成分とも相溶性がよく、ラジカル重合性モノマー(A)よりも屈折率が極力低く、常温常圧で液体であることが好ましい。このようなカチオン重合性モノマーを用いることによって、ホログラム記録前では全組成物が十分に相溶しているが、ホログラム記録が開始されるとともにラジカル重合性モノマー(A)の拡散移動が起こりやすくなる。屈折率が低いものを選択することによって、ラジカル重合性モノマー(A)の拡散移動によるカチオン重合性モノマー(C)との分離において、両者の間でわずかな分離しか起こらなくても、大きな屈折率差(屈折率変調)を得ることができる。カチオン重合性モノマー(C)は第一の光(好ましくは可視光線)と異なる波長領域を有す第二の光(好ましくは紫外線)を照射し、カチオン重合開始剤(F)の反応により重合させられる。
【0031】
カチオン重合性モノマー(B)の具体例としては、オキシラン構造およびオキセタン構造のいずれかを1分子中に少なくとも1つ以上、あるいは両者を有する化合物を挙げることができる。
【0032】
光重合開始剤(D)
光重合開始剤(D)としては、光重合開始剤(D)単独、あるいは光増感色素(E)と組み合わせて用いることにより、He−Ne(波長633nm)、YAG(波長532nm)、Ar(波長515、488nm)、He−Cd(波長442nm)等のレーザー光源から出射される光を吸収してラジカルを発生するものを好適に用いることができる。このような光重合開始剤としては、例えば、カルボニル化合物、アミン化合物、アリールアミノ酢酸化合物、有機錫化合物、アルキルアリールホウ素塩、オニウム塩類、鉄アレーン錯体、トリハロゲノメチル置換トリアジン化合物、有機過酸化物、ビスイミダゾール誘導体、チタノセン化合物、及びこれらの光重合開始剤と光増感色素との組み合わせが挙げられる。
【0033】
光増感色素(E)
上記光増感色素(E)としては、ミヒラケトン、アクリジンイエロー、メロシアニン、メチレンブルー、カンファーキノン、エオシン、脱カルボキシル化ローズベンガル等を好適に用いることができる。光増感色素としては、可視領域の光に吸収を示すものであればよく、上記以外にも、例えば、シアニン誘導体、メロシアニン誘導体、フタロシアニン誘導体、キサンテン誘導体、チオキサンテン誘導体、アクリジン誘導体、ポルフィリン誘導体、クマリン誘導体、ベーススチリル誘導体、ケトクマリン誘導体、キノロン誘導体、スチルベン誘導体、オキサジン誘導体、チアジン系色素等も使用可能である。これらの光増感色素は単独で用いても2種以上の組み合わせで用いてもよい。
【0034】
有機溶媒
有機溶媒は、フォトポリマー感光材料の粘度調整、相溶性調節の他、成膜性等を向上させるために有効であり、例えば、アセトン、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、塩化メチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、メタノール等を用いることができる。
【0035】
<フォトポリマー組成物の調整>
以上に説明した本実施形態に係るフォトポリマー組成物を調製するには、ラジカル重合性化合物(A)、有機溶媒に可溶なバインダーポリマー(B)および/またはカチオン重合性化合物(C)と、光重合開始剤(Dおよび/またはF)等をガラスビーカー等の耐有機溶剤性容器に入れて全体を撹拌すればよい。この場合、固体成分の溶解を促進するために、組成物の変性が生じない範囲であれば、これを加熱してもよい。
【0036】
<フォトポリマー感光材料の作製方法>
本実施形態に係るフォトポリマー組成物を用いた感光材料(記録前)は、フォトポリマー組成物を基板の片面に塗布し、生じた塗膜(記録層)と基板とからなる2層構造の記録媒体(図示せず)を作製することによって得られる。或いは、好ましい態様として図3に示すように、基板1A上の記録層1Bの上にフィルム状、シート状或いは板状の保護材1Cを被覆して3層構造の記録媒体100を作製しても良い。
【0037】
フォトポリマー組成物の調製工程で有機溶媒を用いる場合、ラジカル重合性化合物(A)、有機溶媒に可溶なバインダーポリマー(B)および/またはカチオン重合性化合物(C)と、光重合開始剤(Dおよび/またはF)を初めとする上記任意添加成分を有機溶媒(溶剤)に溶解させ、これにより得られた溶液を基板上に塗布し、その後、溶剤を揮散させて記録層を形成すれば良い。また、記録層に保護材を被覆する場合(図3参照)には、保護材を被覆する前に有機溶媒を風乾や減圧蒸発等によって除去しておくことが好ましい。
【0038】
フォトポリマー組成物を塗布する基板としては、光学的に透明な素材、例えば、ガラスや石英の他、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィン、脂環式ポリオレフィンなどの透明樹脂を用いることができる。好ましくは、光学異方性を持たないガラスや脂環式ポリオレフィンなどが良い。基板の厚みは好ましくは0.02〜10mmとされる。基板は、必ずしも平面である必要はなく、屈曲や湾曲或いは表面に凹凸構造のあるものでも良い。保護材も基板と同じ材質の光学的に透明な材料から形成することができる。保護材をスクリーン記録後に剥離する場合、用いているレーザーの発振波長の光を吸収するように着色されたものを用いることが好ましい。保護材の厚みは、好ましくは0.02〜10mmとされる。
【0039】
フォトポリマー組成物の塗布方法としては、グラビア塗布、ロールコーティング塗布、バーコート塗布、スピンコート塗布等を用いることができる。そして、溶媒除去後の記録層の厚みが、1〜500μm、好ましくは5〜50μmとなるように塗布する。
【0040】
<記録用の光源>
本実施形態に係る記録用の光源としては、フォトポリマー感光材料に含まれる光重合開始剤又は光重合開始剤と光増感色素の組み合わせからなる光重合開始剤系に光源から発する光を照射した際に、電子移動を伴って重合性化合物の重合を誘発させるものであればよい。
【0041】
本実施形態に係る記録用の光源として、前述のようにレーザー光源10を用いることができる。レーザー光源から出射されるレーザー光は単一波長であり、可干渉性(コヒーレンス性)を有しているため、ホログラム記録(干渉縞記録)用として好適に用いることができる。より好ましい光源としては、コヒーレンス性により一層優れた光源、例えば、上記レーザー光源にエタロン等の光学素子を装着し、前記単一波長の周波数を単一周波数にしたものを例示することができる。
【0042】
代表的なレーザー光源としては、発振波長200〜800nmのレーザー光源、具体的にはKr(波長647nm)、He−Ne(波長633nm)、Ar(波長514.5nm、488nm)、YAG(波長532nm)、He−Cd(波長442nm)等のレーザー光源を例示することができる。これらのレーザー光源は、単独で用いても或いは2個以上組み合わせて用いても良い。また、レーザー光源は連続光を発振するタイプでも、一定の又は任意の間隔でパルス発振するタイプでも良い。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を示すことにより、本発明の特徴とするところをより一層明らかにする。
【0044】
<スクリーン記録媒体の作製>
9,9−ビス[4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシ)プロポキシフェニル]フルオレン(単体の屈折率:1.63)1.08g(全組成物に対する重量百分率:28.1重量%)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(単体の屈折率:1.46)1.05g(27.4重量%)、ポリメチルメチルメタクリレート(単体の屈折率:1.49)1.25g(32.6重量%)、3,3',4,4'−テトラ(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン0.25g(6.5重量%)、シアニン系色素(2,5−ビス[(4−ジエチルアミノ)−2−メチルベンジリデン]シクロペンタノン)0.0082g(0.2重量%)、トリアリールスルホニウム系化合物(旭電化工業社製、「SP−170」、塩がヘキサフルオロアンチモネート)0.2g(5.2重量%)、および溶媒としてアセトン5gを常温で混合し、フォトポリマー組成物を調製した。
【0045】
上記調整後のフォトポリマー組成物を200mm×250mmのガラス基板1A(MATSUNAMI MICRO SLIDE GLASS)の片面に、乾燥後の厚みが20〜25μmとなるようにスピンコートにより塗布した後、加熱処理を施すことによって塗布層から溶媒を除去して、基板1Aと記録層1Bとからなる2層構造の記録媒体を作製した。
【0046】
さらに、上記記録層1B上に、保護材1Cとして厚みが50μmのPETフィルムを被覆することにより、3層構造のフォトポリマー記録媒体(フォトポリマー感光材料)100(図3参照)を作製した。
【0047】
<投影用マスターホログラム101の作製(第1ステップ)>
YAG(波長532nm)レーザー光源10から発振されたレーザー光をビームスプリッター30で分割し、一方の光を対物レンズ41(20倍)とピンホール51(20μm)を用いてスペイシャルフィルタリングし、その光を両面すりガラス(#1000)を3枚重ねた光拡散体70に入射させ、そこからの出射光(拡散光)を物体光LOとした(図1参照)。物体光LOの強度は、20μW/cmとした。ビームスプリッター30により分割されたもう一方の光を対物レンズ42(10倍)とピンホール52(20μm)を用いてスペイシャルフィルタリングし、コリメーターレンズ80を通して平行光とし、ズームレンズ90(図2参照)へと入射させ、そこからの出射光を参照光LRとした。参照光強度は、感光材料の場所によらずほぼ一定(60〜80μW/cm)であった。ところで、参照光LRと物体光LOの光軸の成す角度θは135度に設定し、参照光LRの光軸が感光材料面に対し入射角45度となるようにした(図1、図4(a)参照)。また、露光エネルギーは8J/cm、露光時間は80秒とした。
【0048】
<投影用スクリーン11(実施例1)の作製(第2ステップ)>
上記のようにして作製されたマスターホログラム101を用いて、図4(b)のようにマスターホログラム101を介して物体光(LO)と参照光(LR)を上記のスクリーン記録媒体100(フォトポリマー感光材料)の露光した。
このとき、物体光(LO)はマスターホログラムに入射すると再生照明光LIとして記録媒体(100)に露光される。そのため、記録媒体(100)は参照光とマスターホログラムの再生照明光(LI)との干渉光として記録される。参照光(LI)の光軸がマスターホログラム面およびフォトポリマー感光材料面に垂直となるように露光した。また、物体光(LO)とマスターホログラム(101)とのなす角が45度となるように露光した。
また、露光エネルギーは8J/cm、露光時間は80秒とした。
このように作製された投影用スクリーン11は、図4(c)のように、垂直に(入射角0度で)入る光だけを散乱させるので、見る者はその光(映像)を視認できるが、角度がつくと透明になり、映像ではなく背景を見ることになる。
【0049】
<投影用スクリーン12(実施例2)の作製>
投影用スクリーン11の作製でスクリーン作製時にマスターホログラム101の後ろにルーバー形状の可視角度60度のライトコントロールフィルム(商品名。住友3M社製)を介して記録媒体100に露光した以外は、投影用スクリーン11と同様にして投影用スクリーン12を作製した。
【0050】
<投影用スクリーン13(実施例3)の作製>
投影用スクリーン11の作製でマスターホログラム101の記録時およびスクリーン作製時の記録光の光軸が感光材料面に対し入射角20度となるように設定した以外は投影用スクリーン11と同様にして投影用スクリーン13を作製した。
【0051】
<投影用スクリーン14(実施例4)の作製>
図5のような投影用スクリーン撮影用光学系2を用い、YAG(波長532nm)レーザー光源10から発振されたレーザー光を対物レンズ41(20倍)とピンホール51(20μm)を用いてスペイシャルフィルタリングし、コリメーターレンズ80を通して平行光とし、ズームレンズ90(図2参照)へと入射させ、そこからの出射光を記録光とした。その記録光を上下±15度の範囲が不透明の設定であるルーバー形状の光学フィルム71(住友化学社製「ルミスティ」)を介して上記のスクリーン記録媒体100(フォトポリマー感光材料)に露光した。このとき記録光の光軸が光学フィルム面およびフォトポリマー感光材料面に垂直となるように露光した。また、露光エネルギーは8J/cm、露光時間は80秒とした。
なお、光学フィルム71は、図5では記録媒体100から離れているが、記録媒体100に密着させてもよい。
【0052】
<投影用スクリーン15(実施例5)の作製>
投影用スクリーン14の作製において、上下±15度の範囲が不透明の設定であるルーバー形状の光学フィルム71(ルミスティ)にルーバー形状の可視角度60度のライトコントロールフィルム(図示せず)をルーバーの向きが揃うように重ねて露光した以外は、投影用スクリーン14と同様にして投影用スクリーン15を作製した。
【比較例】
【0053】
<ホログラム記録媒体の作製>
ホログラム記録媒体100の作製方法は実施例とすべて同じとした。
【0054】
<投影用スクリーン16(比較例1)の作製>
図6は、本発明の一比較例に係る投影用スクリーン16撮影の為の投影用スクリーン撮影用光学系1'の概略を示す図である。上記投影用スクリーン撮影用光学系1と同一の要素には、同一の符号を付している。
YAG(波長532nm)レーザー光源10から発振されたレーザー光をビームスプリッター30で分割し、一方の光を対物レンズ41(20倍)とピンホール51(20μm)を用いてスペイシャルフィルタリングし、その光を両面すりガラス(#1000)を3枚重ねた光拡散体70に入射させ、そこからの拡散光(出射光)を物体光LOとした。物体光LOの強度は、20μW/cmとした。ビームスプリッター30により分割されたもう一方の光を対物レンズ42(40倍)とピンホール52(20μm)を用いてスペイシャルフィルタリングし、その出射光を参照光LR'とした。ところで、参照光LR'と物体光LOの光軸の成す角度θは45度に設定し、参照光LR'の光軸が感光材料面に対し入射角45度となるようにした(図6参照)。また、露光エネルギーは8J/cm、露光時間は80秒とした。
【0055】
<投影用スクリーンの評価>
実施例、比較例で上記のようにして作製された投影用スクリーン11〜16を用いて、図7のように再生照明光を照射し、光パワーメーター500(PHOTODYNE社製、OPTICAL POWER/ENERGY METER,MODEL 66XLA)を用いて入射光に対する角度での透過光強度(透過率:T%)をそれぞれ測定した。
【0056】
結果を表1に示す。実施例1〜5は、上記の投影用スクリーン11〜15を、比較例1は投影用スクリーン16を、それぞれさす。
【表1】

【0057】
表1から判るように実施例の投影用スクリーンでは正面近傍の範囲では透過率が低く(0度で30%以下)、少し角度を変えると透過率が高く(20度で35%以上、30度では60%以上)なり透明に見えるため、通常の状態では透明に見えるが正面のポイントだけ映像がきれいに見える。また、正面での透過率が低いため映像のコントラストが非常に高くなる。また、記録時に投影用のレンズを使用しているため色むらや光量ムラも非常に少なく良好な映像が得られる。
【0058】
実施例、比較例で得られた投影用スクリーンに実際に映像を投影すると、実施例で得られた投影用スクリーンでは、映像がくっきりして鮮明で解像度が高くきれいな映像が得られたが、比較例で得られた投影用スクリーンではコントラストが低く、鮮明な映像が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
発明の投影用スクリーンは、2次元像の再生に利用できるほか、レンズと組み合わせることにより3次元像の再生にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る投影用スクリーン11作製の為の投影用スクリーン撮影用光学系1を上方より見た図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る投影用スクリーン11作製において用いるズームレンズ90のレンズ構成の一例を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る投影用スクリーン11作製における感光材料(記録媒体100)の構成、および設置を示す断面図である。
【図4】図4(a)は、本発明の一実施形態に係る投影用スクリーン11作製の為の作製方法の第1ステップを示した図で、同(b)は、作製方法の第2ステップを示した図、同(c)は、投影用スクリーン11の機能の説明図である。
【図5】図5は、本発明の別の実施形態に係る投影用スクリーン14・15作製の為の光学系2を上方より見た図である。
【図6】図6は、比較例としての投影用スクリーン16作製の為の投影用スクリーン撮影用光学系1’を上方より見た図である。
【図7】図7は、投影用スクリーン11〜16の透過光強度を測定する方法を示した図である。
【符号の説明】
【0061】
1・2・1' 投影用スクリーン撮影用光学系
11〜16 投影用スクリーン
70 拡散板
71 ルーバー形状の光学フィルム
90 ズームレンズ(組合せレンズ)
100 記録媒体
101 マスターホログラム
1A 基板
1B 記録層(フォトポリマー感光材料)
1C 保護材
LO 物体光
LR 参照光
LI 再生照明光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像投影装置より投影された映像光を出射光とすることにより映像を再生させるとともに、
正面から設定された角度内の光を散乱させるがそれ以外の光を透過させることを特徴とする投影用スクリーン。
【請求項2】
上記の設定角度が正面の法線方向から±20度以内であり、0度での透過率が30%以下であり、20度を超えたときの透過率が35%以上であることを特徴とする請求項1に記載の投影用スクリーン。
【請求項3】
上記の設定角度が正面の法線方向から±15度以内であり、0度での透過率が30%以下であり、30度を超えたときの透過率が60%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の投影用スクリーン。
【請求項4】
屈折率変調型のフォトポリマー組成物を基板に塗布して得られる記録媒体を露光して作製されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の投影用スクリーン。
【請求項5】
露光により屈折率分布を生じるフォトポリマー感光材料に、ルーバー構造を有する光学フィルムを介して露光することによって製造されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の投影用スクリーン。
【請求項6】
映像投影装置より投影された映像光を出射光とすることにより映像を再生させる投影用スクリーンの製造に関し、
露光により屈折率分布を生じるフォトポリマー感光材料に、ホログラムまたはルーバー構造を有する光学フィルムの少なくとも一方を介して露光する過程を含むことを特徴とする投影用スクリーンの製造方法。
【請求項7】
光拡散体により得られた拡散光である物体光と、非拡散光である参照光とを感光材料上に干渉露光するとき、光の強度の場所的分布を均一化する組合せレンズを介して参照光を照射することを特徴とする請求項6に記載の投影用スクリーンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−47971(P2009−47971A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214551(P2007−214551)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】