説明

抗アレルギー物質、抗アレルギー剤及び食品

【課題】 アレルギーの発症に関わるIgE抗体の生産を抑制することにより、効果的にアレルギー症状を抑制する抗アレルギー物質等を提供することを課題とする。
【解決手段】 イチゴ由来のグリセロアルデヒド3リン酸を含む抗アレルギー物質や医薬品(抗アレルギー剤)・食品(機能性食品)は、ステロイドのような副作用を示さず、日常的に食事などにより摂取可能で、アレルギー症状を緩和可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー物質、抗アレルギー剤及び食品に関し、特に、IgE抗体産生を抑制する生理活性物質として機能する抗アレルギー物質等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市型疾患である花粉症やハウスダストによるアレルギー患者数は急速に増大している。特に花粉症は全国民の15〜20%が患者であるとされている。さらに将来的に、この数字は増えるとも言われており、深刻化している状況である。一方で、花粉症の症状は、鼻水や咳、目の痒みなど生活上に多大な影響を与える疾患であるにも関わらず、致命的ではないため、多くは本人の忍耐に依存し、また、病院でも様々な治療法が試されているものの、決め手となる治療法はなく、症状が激しい場合にステロイド系の抗炎症剤による緩和治療を行っている現状である。
【0003】
この強い炎症抑制作用をもつステロイド系の抗炎症剤は、ステロイドが生体内のホルモンの一部であるため体内では炎症抑制作用だけでなくホルモンとしての生理作用を有しているため、強い副作用も指摘されている。そのため、医師の厳密な管理の下で使用することが重要であり、また、患者はそうした副作用の影響を懸念する意見も多い。一方で、機能性食品は医薬のように疾病治癒を目指すものではないが、日常の食生活に取り入れることで、手軽に疾病予防や疾病の症状緩和をもたらすため、患者の生活の質を改善することが可能になる手段として大きな期待が寄せられている。
【0004】
ところで、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は医学的にはI型アレルギー又は即時型アレルギーと呼ばれており、多くの研究者が発症メカニズムを研究している。今までに解明された知見によれば、以下のことが分かっている。まず、呼吸によって吸入されたアレルゲンである花粉は、体内の免疫反応としてIgE型の抗体と結合する。さらに、花粉とIgE抗体の結合物がマスト細胞(肥満細胞)と結合する。このことにより、このマスト細胞からヒスタミンやロイコトリエンという化学物質が放出され、これらの物質が鼻や目、気道の炎症を発生させる。つまり、花粉の体内侵入に対して、IgE型の抗体がアレルギーの引き金物質となっている。したがって、IgE型抗体の生体内における減少がアレルギー症状の抑制方法のひとつとなる。
【0005】
一方、本願発明者達は、体内でIgE抗体生産に関わる免疫細胞を生体外に取り出して細胞培養することにより、対外でIgE抗体の生産を再現可能な実験系を構築してきた。なお、本願発明者達は、ヒトのアレルギーの体内動態をモデル化したヒト末梢血リンパ球細胞による培養系を独自に構築し、食品成分中から抗アレルギー効果を示す成分の特定を行ってきた。この技術は、従来、マウス等の実験動物を大量に用いて検査する手法と異なり、10日前後の培養日数で数百種の検体を同時に検査できるため、極めて効率が高い。さらに、ヒト細胞を用いることから、探索した因子中の効果のある成分が見いだされた場合、生体でも効果を発揮する可能性が高く、探索に必要な時間的な短縮も可能である。また、探索した因子と細胞の相互作用を検討することで、因子の作用メカニズムを細胞レベルで解明できるため、食品機能の科学的な評価が可能であるなどの多くの優れた利点を有する(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Immunol.Methods 233(2000)pp.33−40 発行所Elsevier社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したようにステロイド系の抗炎症剤を持続的に投与した場合には副作用の点で問題がある一方で、日常的な食生活等でこうした症状を緩和するための既存の食品ではその有効性が十分ではないという問題があった。
【0008】
一方で、本願発明者達は、上記した実験系を構築しており、この実験系を用いてIgE生産を抑制する効果がある物質のスクリーニングを行っていける状況にあった。
【0009】
ゆえに、本発明は、IgE産生抑制によりアレルギー疾患の治療やアレルギー症状の緩和が可能で、かつ、ステロイドのような副作用を生じず、長期間の服用が可能な高い安全性を有する物質を同定し、その物質を含有する抗アレルギー物質を提供し、さらに同定された物質を組成として含む抗アレルギー剤(医薬品)及び抗アレルギー効果を有する機能性食品と言われる食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者達は、前述の課題を解決するために、IgE抗体の産生実験系を用いて様々なイチゴの抽出物を培養系内に添加してIgE生産を抑制する効果がある物質をスクリーニングするという研究を行った。その結果、イチゴの粗抽出物液中にIgE抗体産生抑制効果があることを見いだした。さらに、この粗抽出物液に対してIgE抗体産生抑制効果を指標に精製した結果、精製分画物により、もっとも強い活性を示す成分が代謝酵素の一つであるグリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)であることを突き止めた。さらに、研究を進めるため、このグリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素が様々な生物の保有する酵素であることから、他の生物由来の成分としてウサギ由来グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素も同様に試験したところ、イチゴ由来のグリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素と同様にIgE抗体産生抑制効果を示したことから、グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素にIgE抗体産生抑制作用があることを突き止めた。
【0011】
したがって、本発明の第一の観点は、抗アレルギー物質として、IgE抗体の産生を抑制するための成分としてグリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素が含まれることを特徴とするものである。
【0012】
ここで、当該成分は、日常生活における簡易摂取を可能にするということが期待されることから、食品として提供されることが望ましい。特に本成分の発見の根拠となったイチゴは、嗜好性の高い食品であるが、市場でも人気の高い食品の一つであり、生食、加工食品(飲料や飴、氷菓など)にも利用されているので、食品としての適用に特に有利である。
【0013】
したがって、本発明の第二の観点は、グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素を含む組成が食品の形態であることを特徴とする。
【0014】
一方、本発明の第三の観点は、グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素が抗アレルギー剤の有効成分として含有されることにより、アレルギー予防、治療に用いられることを可能にする。
【0015】
なお、抗アレルギー効果を有するグリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素がイチゴに限らず全ての生物に含まれている。この酵素は、生物の代謝に関わる酵素として知られているが、本願で判明したように抗アレルギー効果という点では捉えられてはいなかったものの、他の幅広い生物に含まれているものであってもIgE抗体の産生を抑制するための成分として抗アレルギー効果を有すると考えられる。そのため、食品の場合においてもグリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素がイチゴ由来のものに限られる必要は必ずしもなく食品の成分として適切なものに由来するものであればよい。また、抗アレルギー剤が経口投与の医薬品であれば食品と同様な観点からの選択になる傾向はあり得るが、抗アレルギー物質として含まれた化粧品の場合も含め、それぞれの商品として用いられる用途に合わせて幅広い生物の中から適切なものに由来するものが選択されればよい。
【発明の効果】
【0016】
本願の発明によれば、グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素をIgE産生抑制という抗アレルギー効果を有する成分の一つとして同定できたので、アレルギー疾患の治療やアレルギー症状の緩和が可能で、かつ、ステロイドのような副作用を生じず、長期間の服用が可能な高い安全性を有する抗アレルギー物質が得られたとともに、抗アレルギー剤(医薬品)及び機能性食品も得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】イチゴ品種「あまおう」「とよのか」のIgE抗体生産抑制作用の効果を確認した結果を示すグラフである。
【図2】イチゴ精製物とウサギ由来グリセロアルデヒド3リン酸とのIgE抗体生産抑制作用の比較を示したグラフである。
【図3】アトピー性皮膚炎モデルマウスを用いたイチゴ組成物の抗アレルギー効果を示したグラフである。
【図4】アトピー性皮膚炎モデルマウスと鼻炎モデルマウスを用いたイチゴ組成物の抗アレルギー効果の検証写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明に関わるグリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素は種々の生物が有する酵素タンパク質であり、そのアミノ酸組成はイチゴ由来のグリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素のアミノ酸組成と必ずしも完全な一致を要求しない。
【0019】
イチゴは、一般に広く生食され、さらに加工食品等でも利用されている。したがって、摂食しても人体に悪影響はなく、安全性の高い食品であることが認められている。このことより、本発明で使用するグリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素を主体とするイチゴ抽出物も安心して摂取可能である。
【0020】
本発明で使用するグリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素は、「あまおう」や「とよのか」などのイチゴ果肉を水系溶剤で抽出して得ることができる。抽出物が食品や化粧剤に利用可能であることを考慮し、安全性の面で、水系溶剤を用いるのが好ましい。
【0021】
また、成分の摂取濃度は、アレルギー患者の年齢や性別、病状などに応じ個別に決定されるべきものであるが、組成物に対して5重量%〜100重量%であることが好ましい。
【0022】
本発明の組成物は、例えば、医薬や食品に用いることができる。医薬品の場合には、経口投与が好ましい。したがって、一般的に医薬の製剤添加物として用いられるソルビトール、ゼラチン、乳糖、ブドウ糖、デンプン、クエン酸などと混合して製剤することが可能である。また、本発明の組成物は、固体、液体、ゲル状等の形状の食品に配合することも可能である。その配合は、公知の任意の製造方法で行うことができるため、例えば、アイスクリームやチョコレート、キャンディ、清涼飲料水などに配合することができる。
【0023】
以下に本発明の実施例を例示するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
[試料]
本実施例で用いたイチゴ試料の品種は、市販の「あまおう」「とよのか」である。
【0025】
[リンパ球の分離]
ヒト末梢リンパ球を取得するために健常者の末梢血を密度勾配遠心法により、血液分離した。まず,健常人から末梢血をヘパリン入り真空管に採集し、あらかじめ15ml遠心管に分注しておいた4mlの血液分離剤(Ficoll; GE Healthcare)の上に液面を乱さないように5mlの末梢血を重層し、400×g、30minの条件で遠心した。そして、最上層の血漿の層を取得し、−24℃で保存した。次に、血漿層とFicoll層の間にあるリンパ球を回収後、基本合成培地ERDF(Kyokuto
Seiyaku)で洗浄し、400×g、5minの条件で遠心、洗浄を3回繰り返した。取得したリンパ球は、−85℃で凍結保存し、解凍後はリンパ球をERDF培地で洗浄して使用した。
【0026】
[生体外アレルギー発症モデル細胞培養系]
5%ウシ胎児血清(FBS; Trace)及び10%ヒト血漿を含むERDF培地中に、生体外に取り出した2.5×106 cells/mlのヒト末梢血リンパ球と免疫賦活剤としてムラミルジペプチド(MDP;
SIGMA)を10 mg/ml、インターロイキン−2、−4、−6(IL−2、−4、−6; R&D)を10 ng/ml、さらにスギ花粉抗原(Cryj1; HAYASHIBARA)を100 ng/mlの終濃度で加え、生体外アレルギー発症モデル培養系とした。添加した免疫賦活剤の主な働きは、MDPによる抗原への免疫応答を高めるアジュバンド活性、IL−2によるT細胞の増殖・分化の促進、IL−4によるIgEクラススイッチ誘導、IL−6によるB細胞の分化誘導である。これらの免疫賦活剤とCryj1を加えたヒト末梢血リンパ球を96穴プレートに各200ml分注し、37℃の5%COインキュベータにて10日間培養してIgE抗体産生を誘導した。なお、この培養系に含まれるヒト血漿とヒト末梢血リンパ球は同一個体のものを使用した。
【0027】
[イチゴ抽出物の調製]
PRO250ホモジナイザー(PRO Scientific)を用いて、イチゴを6,000rpmで30秒間破砕した。なお、この操作はイチゴを氷冷して行なった。次に、イチゴ破砕物に等量のPBSを加え、8,300×gで1時間、4℃で遠心した。遠心後の上澄み液を0.22mmフィルター滅菌したものをイチゴ抽出物として、生体外アレルギー発症モデル培養系に5%(v/v)添加し、抗アレルギー効果を検討した。
【0028】
[酵素抗体法によるIgE抗体産生量の測定]
培養上清中のIgE抗体産生量を酵素抗体法(ELISA; enzyme-linked immunosorbent assay)を用いて測定した。96穴イムノプレートにヤギ抗ヒトIgE抗体(Biosource)を炭酸緩衝液で2,000倍に希釈し、100ml/wellで分注してプレートコートした。37℃で1時間静置した後、非特異的反応を防ぐために、リン酸緩衝食塩水(PBS)にウシ血清アルブミン(BSA; ICN)を1%に希釈した溶液(1%BSA/PBS)を300ml/wellで分注し、ブロッキングを行った。その後、37℃で1時間静置し、定量するIgE抗体を含む培養上清を1%BSA/PBSで1/8希釈し50ml/wellで分注した。また、同様に1mg/mlから1/3ずつ1/38mg/mlまで段階希釈した標準溶液を50ml/wellずつ分注し、37℃で1時間静置した。その後、ビオチン標識ヤギ抗ヒトIgE抗体(Biosource)を1%BSA/PBSで2,000倍に希釈し、100ml/wellで分注した後、37℃で1時間静置した。その後、西洋わさび由来ペルオキシターゼが標識されたストレプトアビジン(Funakoshi)を1%BSA/PBS溶液で1,000倍に希釈し、100ml/wellで分注して37℃で1時間静置した。発色液として0.006%H2O2-0.2
Mクエン酸緩衝液(pH4.0)、6mg/ml ABTS
-(NH4)2(Wako)、超純水をそれぞれ10:1:9の割合で混合した溶液を100ml/wellで分注し、30分後に414nmの波長により吸光度を測定した。各反応の間ではPBSにポリエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween20; Wako)を0.05%濃度に希釈した溶液で3回洗浄した。図1は、イチゴ品種「あまおう」「とよのか」のIgE抗体生産抑制作用の効果を確認した結果を示すグラフである。図1に、このようにして抗アレルギー効果を確認した結果を示す。
【実施例2】
【0029】
[活性画分の同定]
実施例1で調整したイチゴ抽出物を、IgE抗体産生抑制効果を指標にして陰イオン交換樹脂(DEAE-650S)を用いて精製したところ、非吸着画分に活性成分が溶出した。さらに、陽イオン交換樹脂(SP550C)を用いてこの活性成分を含む画分を0.5Mの塩化ナトリウム溶液で精製した。さらに、分画分子量3000Daの限外濾過を行った画分を調べたところIgE産生抑制効果が確認できたため、タンパク質解析を実施した。その結果、タンパク質のN末端側からAKIKIGINGFのアミノ酸配列を有するおよそ36KDaタンパク質であることが判明し、これをタンパク質データベースで検索した結果、グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素と一致した。
【0030】
[グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素の活性確認]
次に、グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素は広く生物が有する代謝酵素であるため、一般試薬として市販されているウサギ由来グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素標品を用いて、イチゴ精製品由来のグリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素と活性比較したところ、同様にIgE産生抑制効果を有することが確認できた。なお、ウサギ由来グリセロアルデヒド3リン酸はイチゴ精製物中のグリセロアルデヒド3リン酸濃度が0.1〜1マイクログラム/mlの範囲にあるため、比較のために、上限値と下限値である0.1マイクログラム/mlと1マイクログラム/mlを添加した場合を検証した。図2はイチゴ精製物とウサギ由来グリセロアルデヒド3リン酸とのIgE抗体生産抑制作用の比較を示したグラフである。このようにして確認した結果を図2に示す。図2中のコントロールは比較対照であり、とよのか精製物は本願発明のイチゴ精製物である。縦軸はIgE抗体の生産量を示している。対照が180ナノグラム/ミリリットルのIgE抗体生産量に対して、イチゴ精製物は140ナノグラム/ミリリットルと約20%強の抗体生産抑制効果を示した。ウサギ由来のグリセロアルデヒド3リン酸も添加濃度の範囲内で、ほぼ同様の140ナノグラム/ミリリットル程度と約20%の抗体生産抑制効果を示したことから、グリセロアルデヒド3リン酸にIgE抗体生産抑制作用が認められた。
【実施例3】
【0031】
[グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素の生理活性]
イチゴ抽出物中の抗アレルギー成分の生理活性を調べるため、アトピー性皮膚炎症状を発症するモデルマウスであるNC/Ngaマウス(日本チャールス・リバー)とアレルギー性鼻炎症状を誘導したBALB/Cマウス(日本チャールス・リバー)を用いて食餌により症状改善の検討を行った。
【0032】
アトピー性皮膚炎モデルマウスはPicryl Chloride塗布による皮膚炎誘導を行った。すなわち、Picryl
Chloride 5g をコニカルフラスコに入れ、100%エタノールを40ml加えて、フラスコをゆっくり暖め静かに混合しながら Picryl Chlorideを融解した。次に、溶液が黄色になったら加熱を止め、氷温の蒸留水を10ml加え、すばやくフラスコを氷中に入れた後、Picryl Chloride の結晶化を行った。上清をガラス濾過器(ポアサイズ:
20−30μm)に通し、上に残った結晶を集めた。集めた結晶を200mlの50%エタノールに懸濁し、数分間静置した後、100%エタノールで洗浄したガラス濾過器に通し、上に残った結晶を集めた。集めた結晶を200mlの50%エタノールに懸濁し、数分間静置した後、100%エタノールで洗浄したガラス濾過器に通し、上に残った結晶を集めた。得られた結晶を濾紙の上に置き、結晶が内側に入るよう濾紙を折り曲げた。濾紙をアルミホイルなどで被って遮光し、室温で翌朝まで乾燥させた。この標品をPicryl Chlorideの精製品としてオリーブオイルに0.8〜1.0%になるよう溶解しマウスの体躯部の一部を剃毛して露出皮膚に塗布し、アトピー性皮膚炎症状の発症誘導を行った。
【0033】
一方、アレルギー性鼻炎マウスは、水酸化アルミニウムを含むリン酸緩衝生理食塩水に精製スギ花粉抗原を50μg/mlの濃度で溶解し、これを抗原液としてマウス腹空内に注射し、その5日後から毎日一回抗原液を経鼻投与して鼻炎を誘導した。
【0034】
症状の改善効果を評価するため、アトピー性皮膚炎モデルマウスは、その皮膚炎の面積を0.5cmで1点、1.0cmで2点、2.0cmで3点、3.0cmで4点として、点数化した。図3はアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いたイチゴ組成物の抗アレルギー効果を示したグラフである。この結果を図3に示す。図3のグラフは横軸にイチゴ抽出物の摂食日数を示し、縦軸は前述の皮膚炎の炎症点数を示したものである。なお点数が高いほど、炎症の程度が高いことを示している。対照実験もイチゴ摂取群も全体的に炎症の程度は同様な傾向を示しているが、摂取後21日を過ぎる頃から、イチゴ摂取群は常に対照実験より炎症点数が低くなっている。したがって、イチゴ摂取による炎症の症状緩和が認められた。
【0035】
免疫開始後から皮膚炎が発生し、その炎症程度は日を追うごとに悪化したのに対して、イチゴ抽出物を投与したマウス群では、炎症が治まる傾向が見られ、実験終了時には評価点で半分程度まで症状改善が進むことが分った。
【0036】
図4は、アトピー性皮膚炎モデルマウスと鼻炎モデルマウスを用いたイチゴ組成物の抗アレルギー効果の検証写真である。図4(A)がアトピー性皮膚炎モデルマウス、図4(B)が鼻炎モデルマウスの写真である。それぞれ左の写真の症状がイチゴ抽出物の摂食により右の写真のように改善した。アトピー性皮膚炎モデルマウスでは、イチゴの摂食により、皮膚炎が軽減されている様子がわかる。また、アレルギー性鼻炎モデルマウスでは、対照群はマウスの鼻周辺は脱毛が観察されるのに対し、イチゴ抽出物摂取群では、鼻炎が発症せず、結果的に鼻周辺の脱毛がないことが分かった。
【0037】
なお、本願において、抗アレルギー効果を有する食品としては、種々の生物(植物・動物)に由来するグリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素を含有してIgE抗体産生を抑制する食品であればよく、イチゴを品種改良する場合のほか、既存の他の果物や野菜を品種改良する場合への適用、さらには今後期待される様々な特徴を持つべく品種改良した新品種などにも適用できる。このことは、機能性食品分野における抗アレルギー効果を有する食品への大きな貢献となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素を有効成分として含有してIgE抗体産生を抑制する、抗アレルギー物質。
【請求項2】
グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素を有効成分として含有してIgE抗体産生を抑制する、抗アレルギー剤。
【請求項3】
グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素を含有してIgE抗体産生を抑制し、抗アレルギー効果を有する食品。
【請求項4】
前記グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素はイチゴ由来のものである、請求項3記載の食品。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−229164(P2012−229164A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96512(P2011−96512)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】