説明

抗コケ及び/又は抗地衣剤としてのグリセリンの使用

【課題】抗コケ及び/又は抗地衣剤としてのグリセリンの使用の提供。
【解決手段】本発明は、抗コケ及び/又は抗地衣剤としてのグリセリンの使用に関する。
本発明は更に、コケ及び/又は地衣で覆われた表面を、グリセリン、又は、界面活性剤及び/又は有機酸若しくはその塩の1つを含むグリセリン組成物水溶液を使用して処理する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗コケ及び/又は抗地衣剤としてのグリセリンの使用に関する。
【0002】
詳細には、本発明は、コケ及び/又は地衣の除去用組成物を調製するためのグリセリンの使用に関する。
【0003】
最後に、本発明は、コケ及び/又は地衣で覆われた表面をグリセリンを使用して処理する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
地衣は葉緑素を含む植物であり、特に木、石、タイル及びガラス等の様々な基質上で増殖する。地衣は、単細胞藻類と菌類(多くの場合は子嚢菌)との共生によって形成される。
【0005】
コケは葉緑素を含む小さな植物(長さ数センチメートル)で、一般的に湿気のある日陰に生息する。
【0006】
従って、ファサード又は床又は壁の下部にコケ及び/又は地衣がある場合、これは湿気が常に又は度々あるというしるしであることが多い。
【0007】
地衣及びコケは多様な物質にコロニーを作ることができ、例えば非常に長期間植わっている場合には、ファサード又は床を損傷させる可能性がある。
【0008】
コケ及び/又は地衣は多様な表面にとって、危険で滑りやすくなるために望ましくない。
【0009】
コケ及び/又は地衣の増殖を防ぐための、又は、よくても、妥当な環境毒物学的条件において除去するための解決策は、少数しか提案されていない。
【0010】
ファサード及び/又はコンクリートの床を清掃するための技術がいくつかある。
【0011】
最も広く用いられている技術は恐らく、加圧条件下、又は、化学物質を使用して、これらを液体又は研磨剤と共に吹きつけることによって、表面を清掃するものである。これらの技術の多くは、処理した表面の上の被覆物を損傷させる可能性がある。
【0012】
石造部分の清掃に通常使用される化学物質は、腐食性が強く、かつ、有毒である場合が多い。塗布するために特殊な装置を使用し、かつ、塗布中に保護用のつなぎを着用する必要がある可能性がある。更に、これを使用するためには、建物の他の部分及び周囲の木や低木も保護する必要がある。
【0013】
コケ及び地衣による生物有機的な覆いは、抗コケ化学物質又は又は殺地衣剤(lichenicide)を使用することによっても除去できる。
【0014】
しかし、市販品の多くは、次亜塩素酸ナトリウム又は第四級アンモニウム塩に基づくものであり、処理した表面にとって有害であったり(腐食現象の加速)、芝生や植物にとって有毒であったり、また使用者にとっても危険(やけどの危険)がある可能性がある。
【0015】
またファサードも、これを覆う物質を機械的に「はがす」ことによって清掃することができる。従って、ファサードの清掃については非特許文献1にグリセリン/ポリビニルアルコールの使用が教示されており、これが、処理する表面に塗布された後で重合して、重合したフィルムを剥離することによって機械的に清掃できる。
【非特許文献1】“Comparative study of cleaning techniques applied to ancient concrete”(Research laboratory for historic monuments; CAN 134: 241456 AN 2001: 90805
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、問題は、環境に害を与えず、かつ、処理した表面を傷つけずに、壁、屋根及び/又は床の表面に蓄積したコケ及び/又は地衣を除去する方法を見つけることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本出願人は予想外にも、グリセリンは抗コケ及び/又は抗地衣の効果を有していて、この問題を解決できるということを発見した。
【0018】
グリセリンは無臭かつ無色で、室温で粘性のある物質である。さらに、グリセリンは、特に湿度の高い雰囲気下において生分解性がある。
【0019】
グリセリンは多くの医薬品、化粧品及び工業製品において使用されている。またこれ自身は、石鹸やろうそくを製造する際の副産物である。
【0020】
グリセリンは、例えば柔軟仕上げ剤として使用されるが、様々な水性塗料用の乾燥遅延剤として、又は、滑剤としても使用される。
【0021】
従来技術には、抗コケ又は抗地衣剤としての使用可能性を開示又は示唆する文献はない。
【0022】
こうして、グリセリン及びこれを含む組成物は抗コケ及び抗地衣効果を示すことを発見し、これは本発明の基礎を構成する。
【0023】
本特許出願は更に、コケ及び/又は地衣の除去用組成物を調製するためのグリセリンの使用を含むことも目的とする。
【0024】
この組成物は、99重量%〜20重量%のグリセリンを水溶液中に含むことが好ましい。
【0025】
この組成物はテクニカルグレードのグリセリンを65%含むことが好ましい。
【0026】
有利には、この組成物のpHは5〜9である。
【0027】
グリセリンの効力(例えば湿潤性)は、組成物に界面活性剤を添加することによって改善される場合がある。
【0028】
物質の湿潤性は、表面に広がる能力である。
【0029】
界面活性剤は、既知の非イオン性界面活性剤及びイオン性界面活性剤からなる群より選択され得る。
【0030】
本発明の範囲内において最も有効な界面活性剤は、エトキシ化アルコール類、特にポリオキシエチレン 2−エチルヘキシルエーテル、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリルエーテル硫酸塩及びアルキルポリグルコシド類(C鎖)から有利に選択される。
【0031】
本発明の組成物は、界面活性剤を0.1〜5重量%含むことが好ましい。
【0032】
具体的な一実施形態において、本発明の組成物は、特に地衣及びコケが白亜質の基質にはりついている場合に、「すり磨く」効力を増大させるために有機酸も含み、これによって、除去が容易になる。
【0033】
本発明の範囲内において使用できる有機酸は、グルコン酸、プロピオン酸、乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸及びこれらの塩の1つから、その効力の順に選択される。
【0034】
本発明の組成物は、有機酸又はその塩の1つを0.5〜5重量%含むことが好ましい。
【0035】
本発明に従ってこの方法で調製される好ましい組成物は、0.5〜5重量%のグルコン酸又はその塩の1つ、好ましくはグルコン酸ナトリウム、と混合されたグリセリンを含む。
【0036】
本発明の主題を形成するグリセリン及び/又はこれを含む組成物は特に、皮殻質の地衣、繊維状の地衣、ふさふさした地衣、及び/又は、ゼラチン状の地衣を含む群(これに限定されない)に属する地衣を処理するために有用である。
【0037】
例としては、一般的なオレンジ色の地衣(Xanthoria parietina)、Caloplaca marina、acarospore(Acarospora chlorophana)、gray parmelia(Hypogymnia physodes)、cloak parmelia(Parmelia caperata)、Parmelia sulcata、foliose lichens(Physcia)、coppery parmelia(Parmelia acetabulum)、皮殻質の地衣類(Lecanora)、Aspicilia contorta、Xanthoparmelia、Rhizoplaca chrysoleuca及びRhizoplaca melanophtheraを挙げることができる。
【0038】
同様に、グリセリン及び/又は本発明の組成物で処理できるコケは、Leucobryum、Bryum、Mnium、Andreales及びSphagnalesを含む群に属するものであるが、これに限定されない。
【0039】
別の特徴によれば、本発明は更に、コケ及び地衣で覆われた表面をグリセリンを使用して処理する方法にも関する。
【0040】
コケ及び地衣を除去するための本発明による方法は、一般的に、99重量%〜20重量%のグリセリンを含む組成物を表面に、具体的には手で又は機械的に(低圧噴霧器を使用して)、塗布するものである。
【0041】
使用される抗コケ及び/又は抗地衣物質の量は、表面積、並びに、処理する表面に存在するコケ及び/又は地衣の密度に依存する。
【0042】
一般的に、グリセリンに基づく組成物1リットルで、5〜20mの範囲を処理できる。
【0043】
こうして塗布された組成物は、その後、24〜48時間作用することができる。
【0044】
物質を塗布する前に、処理する表面を大まかに(ブラシ又はスパチュラで)清掃する必要はない。
【0045】
本発明によるコケ及び地衣の除去は日当たりのよい気候条件によって促進されるということが分かっている。
【0046】
従って、雨は、地衣及び/又はコケで汚染された表面を処理する本発明による方法にとっては望ましくない。
【0047】
この処理は、基質の暴露によって周期的に繰り返すことができる。
【0048】
本発明による組成物の作用は、24〜48時間以内、好ましくは24時間以内である。
【0049】
これによって、コケ及び地衣は事実上迅速かつ自然に除去され得る。除去率は、大気条件(風及び雨による洗浄)に依存し得、かつ、数日から数週間の間で変化するであろう。
【0050】
これらの植物は、やさしくブラシをかけることによっても除去することができる。
【0051】
本発明による方法は異なる表面上でも実施でき、とりわけ以下のものを挙げることができる:セメント、コンクリート、スレート、石、タイル、及び、テニスコート又は陸上競技用トラックの表面。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
本発明は下記の実施例においてより詳細に例証されるが、これに限定されない。
【実施例1】
【0053】
<コケ及び/又は地衣を除去するためのグリセリンに基づく組成物>
調製物1
− グリセリン: 65%
− 水: 35%
【0054】
調製物2
− グリセリン: 50%
− グルコン酸: 5%
− ポリオキシエチレン 2−エチルヘキシルエーテル: 2%
− 水: 43%
【0055】
調製物3
− グリセリン: 50%
− グルコン酸ナトリウム: 5%
− ポリオキシエチレン 2−エチルヘキシルエーテル: 2%
− 水: 43%
【0056】
調製物4
− グリセリン: 50%
− グルコン酸ナトリウム: 5%
− ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム: 0.2%
− 水: 44.8%
【0057】
調製物5
− グリセリン: 50%
− グルコン酸ナトリウム: 5%
− ラウリルエーテル硫酸ナトリウム: 1%
− 水: 44%
【0058】
調製物6
− グリセリン: 50%
− プロピオン酸: 1%
− ポリオキシエチレン 2−エチルヘキシルエーテル: 2%
− 水: 47%
【0059】
調製物7
− グリセリン: 20%
− プロピオン酸: 2%
− ポリオキシエチレン 2−エチルヘキシルエーテル: 3%
− 水: 75%
【実施例2】
【0060】
本発明の組成物の特性は、以下に記載する実験を実施することによって実証された。
【0061】
<実験1>
<グリセリンに基づく組成物の抗コケ及び抗地衣効果の実証>
最初に、抗コケ及び/又は抗地衣組成物を、適切な容器の中で、必要量のグリセリンを水中に室温で溶解させることによって調製し、グリセリンを99重量%、65重量%又は20重量%含む溶液を得る。
【0062】
抗コケ及び/又は抗地衣組成物をこの温度において、ノズル付きの容器の中に入れたままにし、そのノズルによってこの物質を垂直又は水平面上にスプレーする。
【0063】
グリセリンを含む組成物は、即時使用又は長期貯蔵に好適である。
【0064】
グリセリンを99重量%、65重量%又は20重量%含み、グルコン酸を含む又は含まない抗コケ及び/又は抗地衣組成物の十分量を、本発明の方法によって、皮殻質の地衣、ゼラチン状の地衣及びコケで覆われた3つの異なる表面に塗布する。
【0065】
3つの処理について、上記グリセリン組成物で処理した後、3週間の一定期間をあけて、目視で定期的に観察した。
【0066】
<結果>
ゼラチン状の地衣については、グリセリンに基づく全ての組成物で処理した表面を覆っていた緑色の葉状体は、界面活性剤を使用して又は使用せずに、5日後にはほぼ完全に除去される。
【0067】
皮殻質の地衣については、グリセリンに基づく組成物で17時間、界面活性剤を使用して又は使用せずに、処理した後で、葉状体の色変化(黄色から緑がかった褐色へ)が観察される。
【0068】
コケについては、グリセリンに基づく組成物で、界面活性剤を使用して又は使用せずに、処理した4日後に、褐色の着色が観察される。
【0069】
24時間〜48時間後、処理していないコケ及び地衣と比較して、コケ及び地衣の外観の変化が観察される。コケ及び地衣変化の色は、緑色から薄茶色になり、その後暗褐色になる。この最終段階において、コケ及び地衣はその基質から徐々に離れる。
【0070】
コケ及び地衣は、長時間機械的な作用を与えなくても除去される。しかし、機械的に洗い流したり、又は、水ジェットを使用することによって、上記の除去を加速させることができる。コケ及び地衣の再生は、除去して3か月後には観察されない。
【0071】
<結論>
純粋グリセリンは、コケ及び/又は地衣の除去において有効である。グリセリンは20%まで希釈しても、その抗コケ及び/又は抗地衣効果が損なわれない。
【0072】
グルコン酸を5%及びグリセリンを95%を含む組成物は、純粋グリセリンよりも、皮殻質の地衣に対してわずかに効果が高い。グリセリンを20又65%を含む溶液と純粋グリセリン(99重量%)を含む溶液とでは、ゼラチン状の地衣の除去について改良は実証されなかった。
【0073】
一般的に、コケ及び/又は地衣の除去における改良は、グリセリン及び有機酸又はその塩の1つを含む組成物を使用する場合に観察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗コケ及び/又は抗地衣剤としてのグリセリンの使用。
【請求項2】
グリセリンは純粋又は水溶液である
ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
グリセリンを99重量%〜20重量%含むコケ及び/又は地衣の除去用組成物を調製するための請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記組成物のpHは5〜9である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記組成物は、エトキシ化アルコール類、特にポリオキシエチレン 2−エチルヘキシルエーテル、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリルエーテル硫酸塩及びアルキルポリグルコシド類(C鎖)から選択される界面活性剤と混合されたグリセリンを含む
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記組成物は、グルコン酸、プロピオン酸、乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸及びこれらの塩の1つから選択される有機酸を含む
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記有機酸は、グルコン酸又はその塩の1つである
ことを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記有機酸はグルコン酸ナトリウムである
ことを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記組成物はテクニカルグレードのグリセリンを好ましくは65%含む
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
コケは、Leucobryum、Bryum、Mnium、Andreales及びSphagnalesを含む群から選択される
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
地衣は、皮殻質の地衣、繊維状の地衣、ふさふさした地衣及びゼラチン状の地衣を含む群から選択される
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
0.5〜5重量%の有機酸又はその塩の1つと混合されたグリセリンを含む
ことを特徴とするコケ及び/又は地衣の除去用組成物。
【請求項13】
コケ及び地衣で覆われた表面を処理する方法であって、
99重量%〜20重量%のグリセリンを含む組成物を前記表面に塗布する
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の表面を処理する方法であって、
前記表面は、セメント、コンクリート、スレート、石、タイル、及び、テニスコート又は陸上競技用トラックの表面から選択される
ことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の表面を処理する方法であって、
−十分量のコケ及び/又は地衣の除去用組成物を手で又は機械的に(低圧噴霧器を使用して)塗布し、かつ、
−この組成物を、雨にさらさずに24〜48時間作用させる
ことを特徴とする方法。

【公表番号】特表2008−522587(P2008−522587A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−543895(P2007−543895)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【国際出願番号】PCT/FR2005/051035
【国際公開番号】WO2006/061535
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(507184557)
【Fターム(参考)】