説明

抗体を有効成分として含む血友病の治療剤

【課題】 血友病又は血友病の合併症の治療剤又は予防剤,血友病性滑膜炎又は血友病性関節症に罹患した患者の滑膜細胞に対するアポトーシス誘導剤を提供する。
【解決手段】 上記課題は,IgM型抗Fas抗体を有効成分として含有する血友病又は血友病の合併症の治療剤又は予防剤,及び血友病性滑膜炎又は血友病性関節症に罹患した患者の滑膜細胞に対するアポトーシス誘導剤により解決される。本発明におけるIgM型抗Fas抗体の例は,ARG098,CH11及び7C11である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,血友病の治療剤に関する。特に詳しく説明すると,本発明は,IgM型抗Fas抗体を有効成分として含む血友病の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血友病(hemophilia)は,血液凝固因子のうち第VIII因子又は第IX因子が欠損または活性低下することによる血液凝固異常症である。血液凝固因子の第VIII因子が欠乏する血友病は血友病Aとよばれ,血液凝固因子の第IX因子が欠乏する血友病は血友病Bとよばれる。血友病Aの治療薬として乾燥濃縮人血液凝固第VIII因子(クロスエイトM,コンコエイト(登録商標)−HT,コンファクト(登録商標)F,),遺伝子組換え血液凝固第VIII因子(コージネイト(登録商標)FSバイオセット,アドベイト)があり,血友病Bの治療剤として乾燥濃縮人血液凝固第IX因子(ノバクトM,クリスマシン(登録商標)M静注用),遺伝子組換え血液凝固第IX因子(ベネフィクス(登録商標))がある。
【0003】
血友病の主な合併症は,関節内出血である。関節出血を繰り返すと,血友病性滑膜炎に至る。血友病性滑膜炎により関節軟骨が破壊されると関節変性がおこり,血友病性関節症を惹起する。よって,血友病及びこれに伴う血友病性滑膜炎及び血友病性関節症の治療剤が望まれた。
【0004】
特表2010−520309号公報(下記特許文献1)には,血友病に伴う出血関連性炎症の治療剤が開示されている。
【0005】
一方,特許第4560822号公報には,IgM型抗Fas抗体を有効成分とする変形性関節症の治療剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2010−520309号公報
【特許文献2】特許第4560822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
血友病に関して有効な治療剤が望まれた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は,基本的には,IgM型抗Fas抗体を有効成分として含む薬剤が,血友病の治療に有効であるという実施例による知見に基づく。具体的に説明すると,実施例により実証された通り,IgM型抗Fas抗体は,増殖性滑膜細胞のアポトーシスを促す。増殖性滑膜細胞は,滑膜の肥厚をもたらし,これが滑膜の挟み込みを惹き起して,関節内出血に至る。本発明は,増殖性滑膜細胞を除去することで,血友病及びその合併症を治療又は予防することができる。
【0009】
本発明の第1の側面は,血友病又は血友病の合併症の治療剤又は予防剤に関する。この治療剤は,IgM型抗Fas抗体を有効成分として有効量含む。
【0010】
IgM型抗Fas抗体は,Fas抗原の細胞外ドメインに対するIgM型抗Fas抗体であるものが好ましい。
【0011】
具体的なIgM型抗Fas抗体の例は,ARG098,CH11及び7C11である。
【0012】
本発明の第2の側面は,IgM型抗Fas抗体を有効成分として含有する血友病性滑膜炎又は血友病性関節症患者の滑膜細胞に対するカスーパーゼ−3の活性化剤に関する。実施例により実証された通り,IgM型抗Fas抗体は,血友病性関節症患者の滑膜細胞に対するカスーパーゼ−3を顕著に活性化する。よって,IgM型抗Fas抗体を有効成分として有効量含有する剤は,血友病性滑膜炎又は血友病性関節症患者の滑膜細胞に対するカスーパーゼ−3の活性化剤として有効である。さらに,この剤は,血友病性滑膜炎又は血友病性関節症に罹患した患者の滑膜細胞に対するアポトーシス誘導剤としても有用である。血友病性滑膜炎又は血友病性関節症患者の滑膜細胞とは,血友病性滑膜炎患者の滑膜細胞及び血友病性関節症患者の滑膜細胞を意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,血友病及び血友病の合併症の治療剤及び予防剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は,抗Fas抗体による滑膜細胞に対する細胞死誘導作用を示すグラフである。
【図2】図2は,抗Fas抗体によるcaspase−3の誘導を示すグラフである。
【図3】図3は,ウェスタンブロットによるcaspase−3の分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1の側面は,IgM型抗Fas抗体を有効成分として含有する血友病の治療剤又は予防剤に関する。血友病の主な合併症は,関節内出血である。関節出血を繰り返すと,血友病性滑膜炎に至る。血友病性滑膜炎により関節軟骨が破壊されると関節変性がおこり,血友病性関節症を惹起する。本発明の剤は,このような血友病及び血友病の合併症の治療剤または予防剤として好適に用いることができる。IgM型抗Fas抗体は,CH11,AGR098又は7C11であることが好ましい。
【0016】
本発明の第2の側面は,IgM型抗Fas抗体を有効成分として含有する血友病性滑膜炎又は血友病性関節症患者の滑膜細胞に対するカスーパーゼ−3の活性化剤に関する。実施例により実証された通り,IgM型抗Fas抗体は,血友病性関節症患者の滑膜細胞に対するカスーパーゼ−3を顕著に活性化する。よって,IgM型抗Fas抗体を有効成分として有効量含有する剤は,血友病性滑膜炎又は血友病性関節症患者の滑膜細胞に対するカスーパーゼ−3の活性化剤として有効である。さらに,この剤は,血友病性滑膜炎又は血友病性関節症に罹患した患者の滑膜細胞に対するアポトーシス誘導剤としても有用である。血友病性滑膜炎又は血友病性関節症患者の滑膜細胞とは,血友病性滑膜炎患者の滑膜細胞及び血友病性関節症患者の滑膜細胞を意味する。
【0017】
Fasは三量体として細胞膜上に存在し,同じく三量体のFasリガンド(FasL)や多価の抗Fasアゴニスト抗体が作用すると,さらに凝集することによって構造変化が引き起こされる。その結果,Fasの細胞内領域に存在するDD(death domain)にFADD(Fas−associated death domain)が結合し,FADDのDED(death effector domain)にcaspase−8が結合し,DISC(death−inducing signaling complex)という複合体が形成される。DISCの中でcaspase−8が活性化し,アポトーシスシグナルが細胞内に伝わる。滑膜細胞では,caspase−8が実行カスーパーゼと呼ばれるcaspase−3とcaspase−7を切断して活性化させることにより,アポトーシスを誘導する。
【0018】
本明細書において,抗体とは,生物体内に誘導されるタンパク質である。このような生物の例は,哺乳類,及び鳥類である。本発明の抗体の例は,ヒト,マウス,及びラットなど哺乳動物由来の抗Fas抗体である。本発明の抗体は,ヒト以外にも,イヌやネコなどの動物医薬として用いることもできる。投与後の副作用を避けるため,投与する生物由来の抗体とすることが好ましい。ヒトに投与する抗体のタイプの例は,マウス抗体,キメラ抗体,ヒト化抗体,及び(完全)ヒト抗体である。
【0019】
このような抗体は,公知の方法で製造することができる(例えば,竹縄忠臣編,タンパク質実験ハンドブック,2003,p86−p105,(株)羊土社発行)。抗体が結合する抗原であるタンパク質やペプチドを,抗体を産生する免疫動物に注射する。免疫動物は,マウス,ラット,ハムスタ−,ウサギ,及びヤギなど免疫動物として利用される公知の動物を用いることができる。免疫動物への抗原の注入は,1回又は2回以上で定期的(例えば,2〜4週間ごと)に行う。抗原の注入後,一定期間(例えば1〜2週間)ごとに採血を行い,目的とする抗体が産生されていることを確認する(抗体価を調べる)。抗体価を調べる方法は,公知の方法を用いることができる。たとえば,ウエスタンブロッティング,ELISAなどがあげられる。このような方法を用いることで,免疫動物由来の抗体(マウスであれば,マウス抗体)を得ることができる。
【0020】
キメラ抗体とは,マウス抗体などの可変領域をヒト抗体の定常領域に連結したもので,公知の方法(例えば,特開平7−194384号公報など)によって製造することができる。ヒト化抗体とは,マウス抗体などの相補鎖決定領域(complementarity determining region:CDR)をヒト抗体の可変領域に移植した抗体であり,公知の方法(特許2828340号公報,特開平11−4694号公報など)で製造することができる。ヒト抗体は,免疫動物が本来有している免疫グロブリンを破壊したノックアウト動物に,ヒト免疫グロブリン遺伝子を導入し,産生させた抗体であり,公知の方法(特開平10−146194号公報,特開平10−155492号公報など)で,製造することができる。完全ヒト抗体とは,ヒトの細胞から産生される抗体であり,公知の方法(特開2007−141号公報,特開2005−034154号公報など)で,製造することができる。当業者であれば,このような抗体の公知の製造方法を適宜採用して,本発明の抗体を製造することができる。
【0021】
Fas抗原は,細胞膜貫通型の糖タンパク質であり,APO−1,CD95,ALPS1A,APT1,Fas1,FasLレセプター,TNFレセプタースーパーファミリーメンバ−6(TNF receptor superfamily member6),TNFR6などともよばれる。細胞表面上に発現しているFas抗原は,Fasリガンド(FasL)や抗Fas抗体などで刺激されることで,その細胞にアポトーシスを誘導するレセプターとして機能することが知られている(Fas介在性アポトーシス)。Fas抗原は,生体内の各組織を構成する細胞に広く分布している。また,Fas抗原は,マクローファージ,ナチュラルキラ−(NK)細胞,B細胞,T細胞,顆粒球,単球などの炎症関連細胞にも発現する。FasLは,T細胞,NK細胞,エフェクタ−細胞などに発現することが報告されている。Fas抗原にFasLや抗Fas抗体が結合すると,Fas抗原は3量体(trimer)を形成する。さらにFas抗原の細胞内ドメインも3量体化することで,細胞内にアポトーシスシグナルを伝達していくことが知られている。また,生体内において,FasLは3量体を形成していることが報告されており,3量体化したFasLがFas抗原に結合することで,Fas抗原の細胞内ドメインの3量体化が起こり,アポトーシスシグナルが伝達されると考えられている。
【0022】
抗Fas抗体としては,Fas介在性アポトーシスを誘導する抗体(アゴニスト抗体)や,Fas介在性アポトーシスを阻害する抗体(アンタゴニスト抗体)などがある。本発明において好ましい抗Fas抗体は,Fas介在性アポトーシスを誘導する抗体(アゴニスト抗体)である。このような抗Fas抗体として,例えば,配列番号1に記載のアミノ酸配列と同一,又は1〜10個のアミノ酸残基が置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体があげられる。配列番号1はヒトのFas抗原を示すアミノ酸配列である。配列番号1に記載のアミノ酸配列中,置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸残基の数は,1〜10個があげられるが,好ましくは1〜5個であり,より好ましくは1〜2個であり,さらに好ましくは1個である。本発明の抗Fas抗体を含む剤は,ヒト以外にも,イヌやネコなどの動物を対象とすることも可能である。このような動物医薬として,本発明の抗Fas抗体を含む剤を用いるときは,抗Fas抗体は,ヒト由来のFas抗原を示す配列番号1に記載のアミノ酸配列と同一,又は1〜10個のアミノ酸残基が置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体よりも,投与する動物由来のFas抗原を構成するアミノ酸配列と同一,又は1〜10個のアミノ酸残基が置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体とすることが好ましい。このような動物由来のFas抗原を構成するアミノ酸配列は,たとえばGenBankなど公知のサイトを使用して入手すればよい。
【0023】
本発明の好ましい態様は,抗Fas抗体は,Fas抗原の細胞外ドメインを認識する抗体である。具体的には,配列番号1の26〜173番目に記載のアミノ酸配列と同一,又は1〜5個のアミノ酸残基が置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体である。配列番号1の26〜173番目に記載のアミノ酸配列中,置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸残基の数は,1〜5個があげられるが,好ましくは1〜2個であり,より好ましくは1個である。このような置換等されるアミノ酸残基の例としては,UniProt(the universal protein resource(http://www.pir.uniprot.org/))アセッションNo.P25445に記載のものがあげられる。配列番号1の26〜173番目に記載のアミノ酸配列は,Fas抗原の細胞外ドメインを示す配列である。本発明において好ましい抗Fas抗体は,Fas介在性アポトーシスを誘導する抗体である。すなわち,本発明の抗Fas抗体は,Fas抗原に結合し,Fas抗原の3量体化を引き起こし,アポトーシスシグナルを細胞内に伝達しうる抗体であることが好ましい。本発明の抗Fas抗体をFas抗原の細胞外ドメインに対する抗体とすることで,抗Fas抗体を含む剤を投与した際,好適にFas抗原と結合し,その3量体化を引き起こし,細胞内シグナル伝達を促進することができうる。よって,効果的に治療効果を得ることができうる。
【0024】
本発明の抗Fas抗体は,ポリクローナル抗体であっても,モノクローナル抗体であってもよい。しかしながら,ポリクローナル抗体は抗体価が安定しにくい。よって,抗体価の安定したモノクローナル抗体を用いる方が好ましい。抗体(免疫グロブリン(Ig)分子)のアイソタイプとしては,IgG,IgM,IgA,IgE,IgDがあげられるが,本発明の抗体は,IgG型抗体,IgA型抗体又はIgM型抗体であることが好ましく,IgA型抗体又はIgM型抗体であることがより好ましく,IgM型抗体がさらに好ましい。このような抗体は,後述する方法で製造することができるが,後述する製造方法に限定されるものではなく,公知の製造方法で製造することができる。
【0025】
抗体(免疫グロブリン(Ig)分子)は,各アイソタイプ(IgG,IgM,IgA,IgE,IgD)に共通の基本構造を有し,分子量5〜7万のH鎖(Heavy chain)と分子量2〜2.5万のL鎖(Light chain)から構成されている。そして,H鎖は,アイソタイプごとに特徴的な構造を有し,IgG,IgM,IgA,IgD,及びIgEに対応して,それぞれγ,μ,α,δ,及びε鎖とよばれる。L鎖もL型とK型の2種が知られており,それぞれλ,κ鎖とよばれる。基本構造のペプチド鎖構造は,それぞれ相同な2本のH鎖およびL鎖が,ジスルフィド結合(S−S結合)および非共有結合によって結合している。2種のL鎖はどのH鎖とも対をなすことができる。たとえばIgM型の場合,μ,λ,κ鎖の組み合わせは,μλ,およびμκとなる。鎖内のジスルフィド結合は,H鎖に4つ(μ,ε鎖は5つ),L鎖には2つあり,アミノ酸100〜110残基ごとに1つのル−プを形成し,この単位をドメインとよぶ。H鎖及びL鎖には,N末端側に位置するドメインに,可変領域(V)とよばれるドメイン(VおよびVと表わされる)が存在する。そして,これよりC末端側のアミノ酸配列は,各アイソタイプでほぼ一定のアミノ酸配列を有する定常領域(C)とよばれるドメイン(C1,C2,C3,Cと表わされる)を有する。なお,IgM抗体の場合は,C4ドメインも存在する。抗体の抗原結合部位(エピト−プ)は,VおよびVによって構成され,この部位の配列によって抗原の特異性が変わってくる。そして,このような抗体は,アイソタイプによって異なる重合構造をとる。たとえば,IgM型抗体は,Hμ鎖2本とL鎖2本からなる抗体であるが,さらにJ鎖とよばれるポリペプチドが結合し,5量体または6量体の形で存在している。IgA型抗体は,Hα2本とL鎖2本からなる抗体であるが,単量体,2量体,または3量体で存在する。そして,IgA型抗体の2量体または3量体は,J鎖や分泌片(secretory piece)によって結合している。IgG型抗体は単量体で存在している。本発明の抗Fas抗体としては,このような各タイプの抗体を用いることができる。また,上記したとおり,Fas介在性アポトーシスでは,3量体のFasリガンドがFas抗原に結合することで,Fas抗原の細胞内ドメインの3量体化が促進され,アポトーシスシグナルが伝達する。上記のとおり,IgM型抗体は重合構造(5量体または6量体)をとるため,IgM型抗体は3個以上のFas抗原をつかむように結合する。これにより,Fas抗原の3量体化が効率的に起こり,アポトーシスシグナルが伝達される。よって,このような観点から,本発明における抗Fas抗体として,IgM型抗体を用いることが好ましい。
【0026】
[ポリクローナル抗体]
ポリクローナル抗体の製造方法の例を以下にあげるが,当業者にとって公知の方法を用いて適宜変更することができる。ポリクローナル抗体は,上記した免疫動物に抗原(免疫原)を注入することで作製することができる。免疫動物に注入する抗原(免疫原)としては,抗原発現細胞,(粗)精製タンパク質,組換えタンパク質,又は合成ペプチドなどを用いることができる。このような抗原として上記した配列番号1に記載のアミノ酸配列と同一,又は1〜10個のアミノ酸残基が置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるペプチドがあげられる。上記したように,本発明の抗Fas抗体は,Fas介在アポトーシスを誘導する抗体であるため,抗原は,配列番号1の26〜173番目に記載のアミノ酸配列と同一,又は1〜5個のアミノ酸残基が置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるペプチドであることが好ましく,前記アミノ酸配列に置換,欠失,付加又は挿入されるアミノ酸残基の数は1〜2個がより好ましく,さらに好ましくは1個である。また,本発明の抗Fas抗体は,Fas抗原と結合し,Fas介在性アポトーシスを誘導する抗体であるため,抗体を製造する際に用いるペプチド(抗原)は,配列番号1の26〜173番目に記載のアミノ酸配列からなるペプチドよりも短いペプチドを用いてもよい。ペプチドの長さは,当業者であれば適宜調整することが可能である。
【0027】
ポリクローナル抗体を製造する際,抗原は,アジュバントと混合して免疫動物に注入する。ここで,アジュバントとは,抗原に対する免疫応答を強化する目的で用いられる物質をさし,例えば,アルミニウムアジュバント,完全(不完全)フロイントアジュバント,百日咳菌アジュバントなどである。免疫動物への抗原の注入は,2〜4週間ごとに行う。2回以上注入をした後,注入日後1〜2週間後に採血を行い,抗体価検定(antibody titer check)を行う。免疫動物への注入量,注入回数(免疫回数)は,免疫動物の種類やその個体ごとに異なる。当業者であれば,抗体価検定の結果に応じて,適宜調整することができる。免疫終了後,全血を搾取し,遠心分離など公知の方法を用いて,血清を分離する。血清は,血清中に含まれる内在性の抗体などを取り除くため,精製を行う。精製方法は,たとえばアフィニティークロマトグラフィーなど公知の方法を用いることができる。このようにしてポリクローナル抗体を作製することができる。
【0028】
[抗原発現細胞]
抗原として用いる抗原発現細胞は,培養細胞などの細胞膜上に抗原となるタンパク質が発現した細胞が好ましい。このような抗原発現細胞は,公知の方法で作製することができる。具体的には,抗原となるタンパク質をコードするDNAを培養細胞に導入し発現させればよい。抗原を発現させる培養細胞(以下,「宿主」ともよぶ)は,特に限定されず公知の細胞を用いればよい。たとえば,抗原提示細胞としてしられるB細胞や樹状細胞などがあげられる。このような細胞に抗原となるタンパク質を発現させる方法としては,抗原となるタンパク質をコードするDNAを組み込んだ抗原発現ベクタ−を作製し,抗原を発現させる細胞に導入する。発現ベクタ−に組み込むDNAが細胞膜ドメイン配列を含まない場合には,発現ベクタ−を導入する宿主が有する細胞膜ドメインの配列を含ませておくことが好ましい。このような配列を含むことで,効率的に細胞膜上にタンパク質(抗原)を発現させることができる。このような細胞膜ドメイン配列は,当業者であれば,適宜取得し,発現ベクタ−に組み込むDNA配列に含ませることができる。このような発現ベクタ−としては,プロモーター,エンハンサ−,スプライシングシグナル,ポリA付加シグナル,選択マーカー,SV40複製オリジンなどを含有しているものを用いることができる。宿主が動物細胞である場合,プロモーターとしては,例えば,SRαプロモーター,SV40プロモーター,HIV・LTRプロモーター,CMVプロモーター,HSV−TKプロモーターなどがあげられる。選択マーカーとしては,例えば,ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(メソトレキサ−ト(MTX)耐性),アンピシリン耐性遺伝子,ネオマイシン耐性遺伝子(G418耐性),ハイドロマイシン耐性遺伝子,ブラストサイジン耐性遺伝子等があげられる。このような発現ベクタ−は,公知のものを使用すればよく,当業者であれば,宿主に応じて適宜選択することができる。抗原発現ベクタ−を導入する方法としては,リン酸カルシウム法,リポフェクション法,エレクトロポレ−ション法など公知の方法を用いることができる。細胞に抗原が発現していることを確認する方法は,免疫染色法など公知の方法を適宜用いればよい。このように抗原を発現させた細胞は,公知の方法で回収し,免疫動物に注入する抗原として用いることができる。
【0029】
[(粗)精製タンパク質]
抗原として用いる(粗)精製タンパク質は,培養細胞などが発現するタンパク質を精製したものである。このようなタンパク質は,細胞のシグナル伝達経路に作用したり,転写因子に作用したりする薬剤や因子で培養細胞などを刺激することによって発現させればよい。発現したタンパク質は,公知の方法で精製し,精製タンパク質として用いることができる。たとえば,分泌タンパク質であれば,培養上清を回収し,例えば塩析やカラムクロマトグラフィー,膜処理などで精製することができる。カラムクロマトグラフィーとしては,イオン交換クロマトグラフィー,ゲル濾過クロマトグラフィー,アフィニティークロマトグラフィー,疎水性クロマトグラフィーなどがあげられ,当業者であれば,タンパク質の性質に応じて適宜使用することができる。細胞外に分泌されないタンパク質であれば,培養細胞を回収し,超音波処理などで細胞を破砕し,タンパク質を回収することができる。そして,上記した方法でタンパク質を精製すればよい。このような精製タンパク質を取得する方法は,公知であり,当業者であればタンパク質の特性に合わせて適宜用いることができる。
【0030】
[組換えタンパク質]
抗原として用いる組換えタンパク質は,公知の方法で作製することができる。具体的には,抗原として用いる組換えタンパク質をコードするDNAを公知の方法でベクタ−に挿入し,組換えタンパク質を発現させる宿主に導入する。ベクタ−は公知のものを用いればよく,当業者であれば導入する宿主に応じて選択することができる。このような宿主としては,細菌,昆虫細胞,植物細胞,動物細胞など公知の宿主を用いることができる。そして,宿主にベクタ−を導入する方法は,エレクトロポレ−ション法,リン酸カルシウム法,リポフェクション法など,宿主に応じて,適宜公知の方法を用いることができる。組換えタンパク質は,GST(glutathion S transferase),HA(hemagglutinin),又は(オリゴ)ヒスチジンなどのタグとの融合タンパク質としてもよい。このようなタグは,目的とする抗原をコードするDNAのN末端側又はC末端側に結合させればよい。このようなタグを結合させた融合タンパク質とすることで,発現したタンパク質を簡単に精製することが可能になる。宿主に発現させたタンパク質は,例えば分泌タンパク質であれば培養上清を回収することによって,分泌タンパク質でなければ,超音波処理などで宿主細胞を破砕するなどして回収することができる。タンパク質の精製方法は,上記したように,たとえば,HPLCやアフィニティーカラムなどを用いることができる。また,インビトロでのタンパク発現系や昆虫,動物,植物などの生体を用いて組換えタンパク質を得ることもできる。このような方法は,公知であり,当業者であれば,適宜変更を加えることができる。
【0031】
[合成ペプチド]
ペプチドを合成する方法として,固相法や液相法などがあげられる。ペプチド合成では,目的とするアミノ酸配列をN末端またはC末端から逐次結合させていくステップワイズ延長法,またはアミノ酸配列を適当なフラグメントに分け,それらのフラグメントを縮合させて目的のペプチドを合成するフラグメント縮合法があげられる。また,ペプチド合成法として不溶性の樹脂にアミノ酸を結合し,アミノ酸配列情報に基づいて,その樹脂上でアミノ酸を1個ずつ結合させていき鎖を伸長させていく固相法や,樹脂などの担体を用いない液相法があげられる。さらにそれらの方法を組み合わせて効率的に合成することも可能である。このような方法は公知であり,当業者であれば,目的のアミノ酸配列を合成するために,適宜用いることができる。また,合成したペプチドは,精製を行ってもよい。合成ペプチドの精製は,沈殿法,HPLC,イオン交換クロマトグラフィー,ゲル濾過クロマトグラフィーなど公知の方法を用いることができる。抗原として合成ペプチドを用いる場合は,そのままでは抗原性に乏しいので,BSA(Bovine Serum Albumin)やKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)などのキャリアに架橋剤(例えば,MBS(m−maleimidobenzoic acid)エステル,DMS(dimethyl suberimidate)など)を用いて共有結合させて用いる方がよい。
【0032】
[モノクローナル抗体]
モノクローナル抗体は,公知の方法で製造することができる。具体的には,免疫動物(例えば,マウスなど)に上記した抗原を2〜4週間間隔で1〜6ヶ月間注入(免疫)し,ポリクローナル抗体の製造方法と同様に,抗体価検定を行う。検定により所望する抗体価が得られたら,免疫動物から脾臓を単離する。単離した脾臓は無血清培地(例えば,イスコフ培地(GIBCO社製))で懸濁し,脾臓細胞懸濁液とする。脾臓細胞とミエロ−マ細胞(骨髄腫細胞)を混合し,ポリエチレーングリコ−ル(PEG)を加えて,細胞を融合させる。その後,ヒポキサンチン(hypoxanthine)−アミノプテリン(aminopterine)−チミジン(thymidine)(HAT)選択培地で培養することで,ハイブリド−マ(脾臓細胞とミエロ−マ細胞が融合した細胞)のみを増殖させる。さらに,目的とする抗体を産生するハイブリド−マを選択するために,目的とする抗体の有無の検定と同時に,検定陽性ハイブリド−マのクローニングを行う。この操作を数回繰り返すことによって,目的とする抗体を産生するクローン化ハイブリド−マを得ることができる。その後,クローン化ハイブリド−マを免疫動物の腹腔内に注射し,2〜4週間後に腹水を回収し,精製することでモノクローナル抗体を得ることができる。腹水を精製する方法は,公知の方法を用いればよく,たとえばアフィニティークロマトグラフィーやゲル濾過クロマトグラフィーなどがあげられる。
【0033】
[リコンビナント抗体の製造方法]
また,本発明の抗体は,リコンビナント抗体としてもよい。リコンビナント抗体とは,抗体産生工程でハイブリド−マを用いない組換え型モノクローナル抗体である。例として最小の抗原結合部位のみを有したもの,多価型の抗原結合部位を具有したもの,IgGとIgAを組み合わせ分泌型にしたもの,異種動物間でのキメラやヒューマニゼーション(humanization)を施したものなどがあげられる。このようなリコンビナント抗体は,各アイソタイプの免疫グロブリン遺伝子を宿主で発現させることによって得ることができる。このような宿主を用いる産生系としては,大腸菌を用いる方法,培養細胞を用いる方法,植物に産生させる方法,トランスジェニックマウスに産生させる方法などがあげられる。
【0034】
このようなリコンビナント抗体の製造は公知の方法を用いればよい。具体的な例として,ファージディスプレイ法(例えば,Ricombinant antibody expression system(Amersham Biosciences)など)があげられる。ファージディスプレイ法は,大腸菌ウイルスの一種であるM13などの繊維状ファージのタンパク質にファージの感染能を失わないように外来遺伝子を融合タンパクとして発現させるシステムである。ファージとは,細菌に感染するウイルスであり,そのDNAに外来性遺伝子を組み込めば感染に際して宿主内に侵入し,増殖する能力を有する。
【0035】
[ファージディスプレイ法]
ファージディスプレイ法によるモノクローナル抗体の作製方法の1例を以下にあげるが,本発明は以下の作製方法に限定されるものではなく,当業者は各工程を他の公知の方法を用いて,適宜変更することができる。また,当業者であれば,それぞれの工程において,温度,反応時間,使用溶液濃度,使用溶液量などのパラメ−タを適宜設定して,また変更を加えて実施することができる。ファージディスプレイ法では,まずファージ抗体ライブラリ−の作製を行い,その後抗体産生ファージのスクリ−ニングを行うことで,モノクローナル抗体を作製する。
【0036】
ファージ抗体ライブラリ−の作製
(1)B細胞からmRNAを抽出し,RT−PCRを行って,cDNAライブラリ−を作製する。
B細胞は,マウスやヒトなどから採取した細胞を用いればよい。B細胞のRNAの抽出は,例えば,AGPC法(Acid−Guanidinium−Phenol−Chloroform法)などを用いることができる。AGPC法では,まずB細胞にグア二ジンチオシアネ−ト溶液を加えて,ホモジナイズする。その後,細胞のホモジネ−ト溶液に酢酸ナトリウム,フェノ−ル,クロロホルムを加えて混和し,遠心する。遠心後,溶液の水層を回収する。回収した水層にイソプロパノ−ルを加え,混和後,遠心し,RNAを沈殿させる。沈殿物(RNA)は再度グア二ジンチオシアネ−ト溶液に溶解後,酢酸ナトリウム,フェノ−ル,クロロホルムを加えて振とうする。振とう後,遠心して再度水層を回収する。回収した水層に再度イソプロパノ−ルを加えて遠心し,RNAを沈殿させる。沈殿させたRNAに70%エタノ−ルを加え,懸濁し再度遠心して,RNAを沈殿させることで,ト−タルRNA(totalRNA)を得ることができる。次に,ト−タルRNAからmRNAの抽出は,mRNAのC末端側に存在するポリA配列に結合するプライマ−(オリゴdTプライマ−)を用いて,PCRにてmRNAを増幅させ,オリゴdTカラム(例えば,QIAGEN社製)などで抽出・精製することができる。また,オリゴdTがコ−ティングされた磁性ビ−ズ(例えば,ナカライテスク社製)を用いたアフィニティークロマトグラフィーなどで抽出・精製してもよい。精製したmRNAは,逆転写酵素を含む反応溶液中で,PCRによってcDNAライブラリ−を作製することができる。
【0037】
(2)L鎖(Light chain)とH鎖(Heavy chain)の可変領域に特異的なプライマ−を用いてそれぞれPCRで増幅する。
抗体(免疫グロブリン(Ig)分子)のH鎖およびL鎖の可変領域であるV及びVの配列は,たとえばGenBankなどから入手することができる。たとえばIgA型のヒト抗体を得るには,ヒトのIgAのV及びV配列を入手し,それら配列を増やすためのプライマ−設計を行い,テンプレ−トとして上記cDNAを用いて,PCRにて両配列を増幅させればよい。当業者であれば,どのような抗体を得るかによって,プライマ−設計は適宜行うことができ,またPCR等の条件も適宜決めることができる。増幅させたVとVは,公知の方法で精製すればよい。
【0038】
(3)ライブラリ−の構築
精製したVとVは,それぞれをリンカ−でつなぎ,一本鎖とし,ファージミドベクタ−に挿入して,一本鎖Fv(可変領域断片)遺伝子ライブラリ−を構築する。リンカ−とは,各断片を接続する配列である。このようなリンカ−としては,リンカ−として公知の配列を用いればよい。ファージミドベクタ−とは,M13ファージあるいはf1ファージの一本鎖DNAの生成に必要な複製起点(IG領域)を組み込んだプラスミドベクタ−である。ファージミドベクタ−は,プラスミドとしての特性と一本鎖DNAファージとしての特性を備えており,通常の二本鎖DNAプラスミドとして操作することが可能なだけでなく,プラスミドの一方のDNA鎖を含む線状ファージ粒子を産生させることができる。ファージミドベクタ−としては,公知のものを用いればよい(例えば,pCANTAB5E(Amersham Biosciences社製))。また,別の方法として,抗体H鎖Fd部分(VおよびC1領域)及びL鎖部分に特異的なプライマ−を用いてPCRにより抗体遺伝子断片を増幅し,これらの遺伝子断片をファージミドベクタ−に挿入することにより抗体Fabに対応する遺伝子ライブラリ−を構築してもよい。
【0039】
抗体産生ファージのスクリ−ニング
(4)抗体提示ファージライブラリ−の濃縮
ファージミドベクタ−を用いて構築した抗体遺伝子ライブラリ−を大腸菌に導入し,ヘルパ−ファージ(M13KO7,VCSM13など)を感染させることにより,抗体提示ファージライブラリ−を作製する。この抗体提示ファージライブラリ−の濃縮方法としては,パニング法があげられる。この方法によって,精製した抗原(上記方法などにより精製した抗原)を用いて固相法によりファージライブラリ−から目的とする抗体を提示するファージ集団を濃縮することができる。パニング法では,固相化抗原とファージライブラリ−の反応,洗浄(固相化抗原と結合しないファージライブラリ−の除去),抗原結合ファージの溶出,大腸菌への感染による増幅というステップを数回(例えば4〜5回)繰り返す。これにより抗原特異的ファージ(抗体産生ファージ)を濃縮することができる。
【0040】
(5)抗原特異的ファージクローンの選択及びモノクローナル抗体の取得
抗原特異的ファージクローンの選択法としては,例えばELISA法などを用いることができる。精製抗原を固相化したELISAプレートに,抗体産生ファージを反応させ,精製抗原との反応性(結合性)を調べる。この工程を繰り返し,クローンを選別していくことで,モノクローナル抗体を産生するファージを得ることができる。そして,このようなファージを大腸菌で増殖させ,抗体を回収することでモノクローナル抗体を取得することができる。このような抗体は,たとえばアフィニティークロマトグラフィーなどの公知の精製方法を用いて精製することが可能である。
【0041】
本発明の好ましい態様として,血友病の治療剤又は予防剤の製造のために本発明の抗体を使用することがあげられる。すなわち,本発明は,血友病治療方法,及び血友病の治療剤又は予防剤を製造するためのIgM型抗Fas抗体の使用をも提供する。そして,血友病の治療方法や,IgM型抗Fas抗体の使用において,先に説明したそれぞれのパタ−ンを組み合わせて用いることができる。
【0042】
本発明の剤は,抗Fas抗体のような細胞死を誘導する抗体とともに,炎症性サイトカインを抑制するバイオロジクス(Biologics)あるいは炎症性サイトカインの産生を抑制するバイオロジクス(Biologics)を併用してもよい。
【0043】
炎症性サイトカインを抑制するBiologicsの例はinfliximab,adalimumab,etanercept,anakinra,abatacept,およびtocilizmabである。炎症性サイトカインの産生を抑制するBiologicsの例はIL−10,およびTGF−βである。炎症性サイトカインの例は,TNF−alpha,IL−6,IL−1,IL−8,IL−12,およびIL−18である。Biologicsの併用方法として,例えば,抗Fas抗体と他のBiologicsの併用投与が同時であってもよく,別々に行ってもよい。これらのBiologicsの投与量は,治療有効量で投与されるのであれば特に限定されるものではないが,例えば,関節リウマチ(RA)治療に用いられる他のBiologicsでは1回に10〜480 mgであり,以下の投与量が例示できる。
Infliximab:インフリキィマブとして体重1kg当たり3 mgを1回の投与量とし点滴静注する。初回投与後,2週,6週に投与し,以後8週間の間隔で投与を行う。
Adalimumab:通常,成人にはアダリムマブ(遺伝子組換え)として40 mgを2週に1回,皮下注射する。
Etanercept:成人にはエタネルセプト(遺伝子組換え)として10〜25 mgを1日1回,週に2回,皮下注射する。
Tocilizmab:トシリズマブ(遺伝子組換え)として1回 8 mg/kgを4週間隔で点滴静注する。
【0044】
本発明の剤は,当業者に公知の方法で製造すればよい。本発明の剤は,経口用製剤および非経口用製剤として製造することができるが,好ましくは非経口用製剤である。このような非経口用製剤は,液剤(水性液剤,非水性液剤,懸濁性液剤,乳濁性液剤など)としてもよいし,固形剤(粉末充填製剤,凍結乾燥製剤など)としてもよい。また,本発明の剤は,徐放製剤としてもよい。
【0045】
液剤を製造する方法は,公知の方法で製造することができる。例えば,抗体を薬学的に許容された溶剤に溶解し,滅菌された液剤用の容器に充填することで製造することができる。薬学的に許容された溶剤としては,たとえば,注射用水,蒸留水,生理食塩水,電解質溶液剤などがあげられ,滅菌された溶剤を用いることが好ましい。滅菌された液剤用の容器としては,アンプル,バイアル,バッグ,などがあげられる。これら容器は,ガラス製やプラスチック製など公知の容器を用いることができる。具体的には,プラスチック製容器としては,ポリ塩化ビニル,ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン,酢酸ビニル,コポリマーなどの材質を用いたものがあげられる。これら容器や溶剤の滅菌法は,加熱法(火炎法,乾燥法,高温蒸気法,流通蒸気法,煮沸法など),濾過法,照射法(放射線法,紫外線法,高周波法など),ガス法,薬液法などがあげられる。このような滅菌法は,容器の材質,溶剤の性質に応じて,当業者であれば適宜選択して用いることができる。
【0046】
また,本発明は,本発明のIgM型抗Fas抗体を含む剤と医療用具を組み合わせたキット製品として提供することも可能である。例えば,本発明のIgM型抗Fas抗体を含む剤を注射筒等の医療用具にあらかじめ充填したもの,1つのソフトバックに離壁を介して一方に固形剤を,他方に溶剤を充填し,使用時に離壁を開通して混合できるようにしたものなどがあげられる。このようにすることで,使用時に医療従事者が調製する負担を軽減できるだけでなく,細菌汚染や異物混入などを防止することができ,好適に使用することができる。このような注射筒やソフトバックは公知であるので,医療従事者であれば適宜使用することができる。
【0047】
本発明のIgM型抗Fas抗体を含む剤は,静脈内投与,動脈内投与,筋肉内投与,皮下投与,腹腔内投与,鼻腔内投与などの公知の投与方法を用いて投与することができる。好ましくは,注射による投与であり,点滴によって注入することも可能である。また,本発明の剤は,患部(例えば関節)に直接注射してもよく,また外科手術により患部を開口し投与することも可能である。本発明の剤は,経口用製剤および非経口用製剤として調整することができるが,好ましくは非経口用製剤である。このような非経口用製剤は,液剤(水性液剤,非水性液剤,懸濁性液剤,乳濁性液剤など)としてもよいし,固形剤(粉末充填製剤,凍結乾燥製剤など)としてもよい。固形剤は,投与する際に,薬学的に許容された溶剤で所望濃度に用時溶解または懸濁化して用いる。このような非経口用製剤は,注射や点滴などの投与方法で用いることができる。
【0048】
本発明のIgM型抗Fas抗体を含む剤を製剤化する場合,薬学的に許容される担体又は媒体などと適宜組み合わせて製剤化することもできる。さらに,薬剤を含ませてもよい。また,本発明のIgM型抗Fas抗体を含む剤は,アルブミン,リポタンパク質,グロブリンなどの本発明の抗体の作用を阻害しないタンパク質を含ませてもよい。このようにタンパク質を含ませることで,液剤中に含まれる抗体の安定性を向上させることができる。このようなタンパク質は,液剤として本発明の剤を製剤化する場合は,液剤中に含ませればよい。固形剤として,製剤化する場合は,本発明の抗Fas抗体を固形化するときに上記タンパク質を含ませてもよいし,固形剤を溶解する溶剤に上記タンパク質を含ませてもよい。このようなタンパク質の含量は,投与時の液量を100重量部としたときに,0.01重量部〜5重量部があげられ,当業者であれば,投与する抗体の量やその他に含まれる物質に応じて適宜調整することができる。
【0049】
[薬学的に許容される担体又は媒体]
薬学的に許容される担体又は媒体は,例えば,賦形剤,安定化剤,溶解補助剤,乳化剤,懸濁化剤,緩衝剤,等張化剤,抗酸化剤,又は保存剤など薬学的に許容される物質があげられる。また,ポリエチレングリコール(PEG)などの高分子材料やシクロデキストリン等の抱合化合物を使用することもできる。以下,具体例をあげるが,本発明はそれらに限定されるものではなく,公知のものを使用することができる。賦形剤としては,デンプンや乳糖などそれ自体が薬理作用を有さないものが好ましい。安定化剤としては,アルブミン,ゼラチン,ソルビトール,マンニトール,乳糖,ショ糖,トレハロース,マルトース,グルコースなどがあげられる。これらのうちでは,ショ糖又はトレハロースが好ましい。溶解補助剤としては,エタノール,グリセリン,プロピレングリコール,ポリエチレングリコールなどがあげられる。乳化剤としては,レシチン,ステアリン酸アルミニウム,またはセスキオレイン酸ソルビタンなどがあげられる。懸濁化剤としては,マクロゴール,ポリビニルピロリドン(PVP),またはカルメロ−ス(CMC)などがあげられる。等張化剤としては,塩化ナトリウム,グルコ−スなどがあげられる。緩衝剤としては,クエン酸塩,酢酸塩,ホウ酸,またはリン酸塩などがあげられる。抗酸化剤としては,アスコルビン酸,亜硫酸水素ナトリウム,ピロ亜硫酸ナトリウムなどがあげられる。保存剤としては,フェノール,チメロサール,塩化ベンザルコニウムなどがあげられる。
【0050】
本発明の抗Fas抗体を含む剤を注射などによって投与する際,注射による疼痛が起こりうるので,無痛化剤を含ませてもよい。このような薬剤は1種または2種以上組み合せてもよい。
【0051】
本発明の剤は,抗炎症剤,鎮痛剤,骨吸収抑制剤,抗生物質,成長剤及び無痛化剤のうちいずれか又は2つ以上を含んでいてもよい。
【0052】
抗炎症剤として,ステロイド性抗炎症剤や非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)などがあげられる。ステロイド性抗炎症剤は,たとえば,デキサメタゾン,コルチゾン,ヒドロコルチゾン,プレドニゾロン,メチルプレドニゾロン,ベタメタゾン,トリアムシノロン,トリアムシノロンアセトニド,フルオシノロンアセトニド,フルオシノニド,ベクロメタゾン,エテンザミドなどがあげられる。非ステロイド性抗炎症剤として,たとえば,アスピリン,イブプロフェン,ナプロキセン,ジクロフェナク,インドメタシン,ナブトメン,フェニルブタゾン,ロフェコキシブ,セレコキシブ,オキシカム,ピロキシカム,ピラゾロン,アザプロパゾンなどがあげられる。
【0053】
抗炎症剤の上記とは別の例は,炎症性サイトカインを抑制するものである。このような炎症性サイトカインを抑制するものの例は,インフリキマブ,アダリムマブ,エタネルセプト,アナキンラ,及びトシリズマブである。
【0054】
鎮痛剤として,消炎鎮痛薬でもあるNSAIDsに加えて,オピオイド系鎮痛薬などがあげられる。オピオイド系鎮痛薬としては,たとえば,エンドルフィン,ダイノルフィン,エンケファリン,コデイン,ジヒドロコデイン,デキストロプロポキシフェンなどがあげられる。
【0055】
骨吸収抑制剤として,エストロゲン剤,カルシトニン及びビスホスホネ−トのいずれか1種又は2種以上の混合物があげられる。
【0056】
抗生物質として,ペニシリン系抗生物質,セフェム系抗生物質,アミノグリコシド系抗生物質,マクロライド系抗生物質,テトラサイクリン系抗生物質,ペプチド系抗生物質などの抗生物質があげられる。ペニシリン系抗生物質としては,ベンジルペニシリン,フェノキシメチルペニシリン,メチシリン,フルクロキサシリン,アモキシシリン,アンピシリン,ピペラシリン,アズロシリン,チカルシリンなどがあげられる。セフェム系抗生物質としては,セファゾリン,セフロキシム,セファマンドール,セフォタキシム,セフォペラゾン,セフピラミド,セファレキシン,セファクロル,セフィキシム,セフテラムなどがあげられる。アミノグリコシド系抗生物質としては,ゲンタマイシン,ネチルマイシン,トブラマイシン,ストレプトマイシン,ネオマイシン,カナマイシン,アミカシンなどがあげられる。マクロライド系抗生物質としては,エリスロマイシン,クラリスロマイシン,ロキシスロマイシン,ロキタマイシン,クリンダマイシン,アジスロマイシンなどがあげられる。テトラサイクリン系抗生物質として,テトラサイクリン,ミノサイクリン,ドキシサイクリンなどがあげられる。この他に,β−ラクタム系抗生物質として,ラタモキセフ,フロモキセフ,アズスレオナム,イミペネム,パニペネムがあげられる。また,この他にバンコマイシン,リファンピシン,クロラムフェニコ−ルなどがあげられる。
【0057】
成長剤として,骨形成因子(BMP),骨増殖因子(BGF),血小板由来増殖因子(PDGF),塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF),インスリン,インスリン様増殖因子(IGF),ホルモン,サイトカイン,又はトランスフォ−ミング増殖因子(TGF)などがあげられる。これらの成長剤は,1種または2種以上含ませることができ,また更に他の薬効を有する公知の薬剤と組み合わせてもよい。
【0058】
無痛化剤は,注射による疼痛が,液剤のpH及び浸透圧が体液と著しく異なる場合であるのか,薬剤そのものの作用によって起こるのかによって異なる薬剤を使用する。疼痛がpH,浸透圧によって起こりうる場合は,緩衝剤や等張化剤などを含む液剤とすることが好ましい。一方,薬剤そのものの作用によって疼痛が起こりうる場合は,局所麻酔剤などをもちいるとよい。局所麻酔剤としては,例えば,ベンジルアルコ−ル,クロロブタノ−ル,塩酸プロカイン,塩酸リドカイン,塩酸ジブカイン,塩酸メピバカインなどがあげられ,公知の薬剤を用いればよい。
【0059】
上記のように製造された本発明のIgM型抗Fas抗体を有効成分として含む剤は,血友病の患者に有効量投与する治療方法又は予防方法として利用することができる。すなわち,本発明は,対象に有効量のIgM型抗Fas抗体を投与することによる血友病の治療方法又は予防方法を提供する。対象の例は,ヒト又はヒト以外の哺乳動物である。そして,このIgM型抗Fas抗体の使用において,先に説明したそれぞれのパタ−ンを組み合わせて用いることができる。
【0060】
本発明の剤の治療対象患者は,治療を必要とする血友病患者(たとえば,血友病性滑膜炎を患った患者及び血友病性関節症に罹患した患者)であればよく,性別,年齢,罹患歴などに係わらずに治療することができる。本発明の剤は,経口用,または非経口用製剤として用いられるが,注射剤,点滴剤などの非経口用製剤として用いられるのが好ましい。非経口用製剤の投与方法は,公知の方法を用いればよく,特に限定されない。例えば,静脈注射,動脈注射,皮下注射,筋肉注射,点滴等があげられる。また,本発明の剤は,患部(例えば関節)に直接注射してもよく,また外科手術により患部を開口し投与することも可能である。当業者であれば,適宜,患者に適した投与方法を選択することができる。本発明の剤の主成分であるIgM型抗Fas抗体は,本発明の剤に有効量含まれていればよい。本発明の剤に含まれるIgM型抗Fas抗体の割合は,全重量を100重量部としたときに,1×10−3〜1×10重量部であればよく,1×10−2〜5×10−1重量部が好ましく,5×10−2〜1×10−1重量部がより好ましい。投与量は,投与する対象,年齢,症状などによって変化する。一般的には,1日の投与量は,抗体の有効成分で個体あたり1ng〜1000μgがあげられ,1ng〜100μgでもよく,好ましくは10ng〜10μgであり,より好ましくは100ng〜1μgである。または,体重1kg当たり10pg〜2μgがあげられ,好ましくは100pg〜200ngであり,より好ましくは1ng〜20ngである。好ましくは,1日分の投与量を適度な間隔(例えば,1〜4週間)を置いて2〜5回反復して投与することが好ましい。また,本発明の剤を徐放製剤として,投与回数を減らすことも可能である。このような徐放製剤とするには,公知の方法を利用すればよい。反復投与したり,徐放製剤としたりすることで,生体内の薬剤濃度を一定に保ちやすくなるので,持続した薬効が得やすくなり,さらに副作用が軽減されうるので,患者への負担を減らすことができる。
【0061】
以下,本発明について具体的に実施例に基づいて説明するが,本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0062】
抗Fas抗体による血友病性関節症患者の滑膜細胞に対する細胞死誘導作用
血友病性関節症(HA),関節リウマチ(RA)及び健康人から単離された滑膜細胞を,抗Fas抗体によって処理した。そして,抗Fas抗体の細胞死誘導作用能を,WST−1アッセイによって評価した。抗Fas抗体の細胞死誘導作用能の測定結果を表1及び図1に示す。具体的な試験方法は以下のとおりであった。
【0063】
1.患者の滑膜組織
HA患者の滑膜組織として,関節置換術又は滑膜切除術の際に切除されたHA患者の滑膜組織を用いた。性及び年齢を適合させた健康人の滑膜組織として,外傷による手術の際に得られた滑膜組織を使用した。RA患者の滑膜細胞はセルメイド(Cellmade (Bioclass))から供与されたものを用いた。
【0064】
2.滑膜細胞の培養
関節置換術,滑膜切除術あるいは外傷の手術において切除した新鮮な滑膜組織に対し,緩和な酵素処理(0.05%trypsin,0.5mM EDTAを含むリン酸緩衝液中において,37℃で10分間緩やかに振盪)を施した。トリプシンに牛血清(Celbio, Milan,Italy)を加えることで中和した。酵素処理を施した細胞を培養皿(Falcon,直径3cm)に1〜1.5x10/dishの濃度で播種した。培地は15パーセントFCS,2mMグルタミン(glutamine(Cambrex))及びペニシリン−ストレプトマイシン(penicillin-streptomycin(Cambrex))を含むRPMI1640培地(Cambrex BioScience, Milan,Italy)を用いた。約3週間の培養で一端コンフルエント(confluence)になった単層の細胞を,7日間毎に1:2の割合で分割した。単層滑膜細胞は培養継代数7代以内のものを使用した。
【0065】
3.被験物質による細胞の刺激
被験物質による細胞の刺激処理を施す前に,滑膜細胞を無血清の培地で3回洗浄し,0.2パーセントFCSを含む培地で48時間追加培養した。その後に細胞を,ヒト血清IgM1000ng/mL(control),抗Fas抗体(CH11)100ng/mL,TNF−α 10ng/mL及びFGF10ng/mLを含む0.2パーセントFCS含有RPMI1640培地中で24時間培養した。
【0066】
4.細胞増殖/細胞死の測定
滑膜細胞を96ウェルプレ−トに40x10cells/wellの濃度で播種し,付着するまで15%FCS含有RPMI1640培地中で1晩培養した。細胞を無血清の培地で3回洗浄し,0.2%FCSを含む培地で48時間追加培養した。その後,ヒト血清IgM1000ng/mL(control),抗Fas抗体(CH11)100ng/mL,TNF−α10ng/mL及びFGF10ng/mL(又はそれらの併用)を含む0.2%
FCS含有RPMI1640培地中で24時間培養した。細胞増殖/細胞死をWST−1細胞増殖アッセイキット(Roche Diagnostics)を用いて発色法で測定した。
【0067】
【表1】

【0068】
5.結果
健康人(対照),RA患者及びHA患者由来の滑膜細胞の細胞増殖/細胞死を被験物質による処理の前後で評価した。表1及び図1から,抗Fas抗体は,RA滑膜細胞よりもHA滑膜細胞の増殖を強く抑制することがわかる。
【実施例2】
【0069】
抗Fas抗体による血友病性関節症患者の滑膜細胞に対するカスーパーゼ(caspase)−3の誘導
アポトーシス誘導における実行カスーパーゼであるcaspase−3の抗Fas抗体による誘導を検討した。抗Fas抗体によるcaspase−3の誘導結果を図2に示す。具体的な試験方法は以下のとおりであった。
【0070】
1.細胞の刺激
実施例1と同様の方法で細胞を処理し,細胞を刺激した。
【0071】
2.Caspase−3の測定
滑膜細胞から得られた溶解産物中のcaspase−3を,市販のELISAキットを用いて測定した。
【0072】
3.結果
図2に示されるように,抗Fas抗体,TNF−α及びFGFはHA滑膜細胞のcaspasa−3を増加させた。一方,カスーパーゼ(caspase)−3の増加はHA滑膜細胞において顕著であった。抗Fas抗体によるcaspase−3増加作用は,TNF−α及びFGFに比べてHA滑膜細胞に対して特異性が高かった。
【実施例3】
【0073】
抗Fas抗体による血友病性関節症患者の滑膜細胞に対するcaspase−3の活性化
次に,アポトーシス誘導における実行カスーパーゼであるcaspase−3の抗Fas抗体による活性化について検討した。その結果を図3に示した。具体的な試験方法は以下のとおりである。
【0074】
1.細胞の刺激
実施例1と同様の方法で細胞を処理し,細胞を刺激した。
【0075】
2.蛋白の抽出
細胞を,溶解緩衝液(Lysis buffer)(150mMNaCl,1%TritonX−100,15%glycerol,1mMsodium orthovanadate,1mM NaF,1mM EDTA,1mM phenylmethylsulfonyl fluoride及び10μg/ml aprotininを含む10mMTrisHCl,pH7.4)によって溶解し,蛋白を抽出した。
【0076】
3.ウェスタンブロット(Western Blot)による解析
等量の蛋白を,12.5−13%のSodium Dodecyl Sulphate − PolyAcrylamide Gelの各レーンにローディングし,還元状態でSDS電気泳動を行った。電気泳動後のゲル上の蛋白をニトロセルロ−ス膜(Amersham Biosciences,Piscataway, NJ)に転写し,非特異的吸着をブロックするために5%スキムミルクを含む20mM Tris buffer,pH 7.4中で室温にて1時間インキュベートした後,一次抗体であるanti−caspase−3ウサギポリクローナル抗体(1:1,000; Cell Signaling Technology)と4℃で一晩反応させた。二次抗体として,西洋ワサビパーオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギ抗体(Cell Signaling Technology, Inc., Boston, USA)と反応させた。ローディング量と転写効率の補正は抗α−チュ−ブリン(Tubulin)モノクローナル抗体(Cell Signaling Technology, Inc., Boston, USA)を用いて行った。免疫反応のバンドはオ−トラジオグラフィーのフィルムに記録し,コンピュ−タ支援ビデオデシトメトリーイメージJソフトウェア(computer−assisted video densitometry Image J software)(Bethesda, Maryland, USA)を用いて定量化を行った。
【0077】
4.結果
図4に示されるように,ウェスタンブロットにより,35kDaの内在性のcaspase−3と切断によって生じた17kDaの活性化caspase−3を区別して検出できた。内在性のcaspase−3はHA患者,RA患者及び健康人の滑膜細胞において,被験物質による刺激の前後のいずれにおいても発現していた。内在性のcaspase−3はHA患者において発現量が多かった。次に,図4から,Caspase−3の活性化断片は,抗Fas抗体による刺激後に発現し,発現量はHA滑膜細胞において顕著であることがわかる。これにより,抗Fas抗体がHA滑膜細胞に対するアポトーシス誘導において顕著な効果を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は医薬産業において利用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgM型抗Fas抗体を有効成分として含有する血友病又は血友病の合併症の治療剤又は予防剤。
【請求項2】
前記IgM型抗Fas抗体は,
Fas抗原の細胞外ドメインに対するIgM型抗Fas抗体である,
請求項1に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項3】
前記IgM型抗Fas抗体は,
ARG098,CH11又は7C11である,
請求項1に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項4】
請求項1に記載の治療剤又は予防剤であって,
前記「血友病又は血友病の合併症」は,血友病性滑膜炎及び血友病性関節症のいずれか又は両方である,治療剤又は予防剤。
【請求項5】
IgM型抗Fas抗体を有効成分として含有する血友病性滑膜炎又は血友病性関節症患者の滑膜細胞に対するカスーパーゼ−3の活性化剤。
【請求項6】
IgM型抗Fas抗体を有効成分として含有する血友病性滑膜炎又は血友病性関節症に罹患した患者の滑膜細胞に対するアポトーシス誘導剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−219022(P2012−219022A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83334(P2011−83334)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(503076814)株式会社エム・エス・エス (1)
【Fターム(参考)】