説明

抗原抗体複合体候補構造の評価装置および評価方法

【課題】抗原抗体複合体の候補構造について構造適正を高精度に評価する方法を提供すること。
【解決手段】抗原と抗体の結合速度定数あるいは解離速度定数の少なくともどちらか一方を取得する反応速度情報取得部211と、抗原抗体複合体候補構造における抗原抗体間の静電的相互作用の強さを表す静電作用スコアを取得する構造的作用スコア取得部212と、解離速度定数または結合速度定数と静電作用スコアとを用いて、抗原抗体複合体候補構造の適正を総合評価する複合体評価スコアを算出する総合スコア算出部221を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのタンパク質が相互作用しているときの立体構造状態である複合体立体構造を予測する装置に関するものであり、その中でも特に、予測した複合体立体構造である複数の候補構造それぞれについて適正を評価する複合体候補構造の評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タンパク質間複合体候補構造の評価方法として、様々な方法が提案されている。
【0003】
例えば、評価する複合体のアミノ酸配列情報や立体構造情報に基づき、アミノ酸残基単位やアミノ酸残基ペア単位での指標、タンパク質単位での構造的指標を生成し、さらには既知のタンパク質間の結合情報に基づく指標を生成して総合的に評価する方法がある。(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。図3は、前記特許文献1に記載された従来の複合体候補構造の評価装置を示すものである。
【0004】
図3において、環境適合性評価部118は、複合体候補構造の構造情報からアミノ酸残基単位の周辺極性度や溶媒露出度を評価して環境適合性指標を生成する。距離依存型ポテンシャルエネルギー評価部122は、複合体候補構造の構造情報からアミノ酸残基ペアごとの距離依存型ポテンシャルエネルギーを評価して複合体構造全体の距離依存型ポテンシャルエネルギーを生成する。構造相補性評価部106は、複合体候補構造の構造情報からタンパク質同士の形状相補性と脱溶媒和と静電相互作用を評価して構造相補性指標を生成する。 結合関与指標生成部126は、既知のタンパク質間の結合情報に基づき、評価する複合体の各タンパク質において結合に関与するアミノ酸残基を特定して指標を生成する。このように、評価する複合体の立体構造情報に基づく指標や既知のタンパク質間の結合情報に基づく指標を生成して複合体候補構造の評価を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−58273号公報
【特許文献2】特開2009−151406号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Eiji Kanamori, Yoichi Murakami, Yuko Tsuchiya, Daron M. Standley, Haruki Nakamura, Kengo Kinoshita. Docking of protein molecular surfaces with evolutionary trace analysis. Proteins 2007; 69:832-838.
【非特許文献2】Yuko Tsuchiya, Eiji Kanamori, Haruki Nakamura, Kengo Kinoshita. Classification of heterodimer interfaces using docking models and construction of scoring functions for the complex structure prediction. Advances and Applications in Bioinformatics and Chemistry 2009:2 79-100.
【非特許文献3】Zimmerman J.M., Eliezer N., Simha R. The characterization of amino acid sequences in proteins by statistical methods. Journal of Theoretical Biology 1968 21:170-201.
【非特許文献4】Raul Mendez, Raphael Leplae1, Marc F. Lensink, Shoshana J. Wodak. Assessment of CAPRI predictions in rounds 3-5 shows progress in docking procedures. Proteins: Structure, Function, and Bioinformatics 2005 60:150-169.
【非特許文献5】T.B. Lavoiea, S. Mohanb, C.A. Lipschultzb, J.-C. Grivelb, Y. Lib, C.R. Mainhartb, L.N.W. Kam-Morganc, W.N. Drohand, S.J. Smith-Gill. Structural differences among monoclonal antibodies with distinct fine specificities and kinetic properties. Molecular Immunology 1999 36:1189-1205.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アミノ酸残基やアミノ酸残基ペア単位での指標を生成する際にはアミノ酸残基単位へのまるめこみによる評価値誤差が生じ、立体構造情報の原子配置に基づく指標においては各タンパク質の構造精度や構造的な相補性評価方法による誤差などが生じ、既知のタンパク質間の結合情報に基づく指標においては統計データの偏りやばらつきによる誤差が生じる。前記従来の構成では、各指標で生じている誤差を補うためにこれらの指標を組み合わせることで精度向上を図っているものの、評価精度はまだ十分であるとはいえない。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、評価する複合体の構造情報や既知のタンパク質の結合情報である統計情報だけではなく、結合反応状態を正しく示している実験値を用いることで、評価精度の高い複合体候補構造の適正評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明の抗原抗体複合体候補構造の評価方法は、前記抗原抗体複合体を構成する抗原と抗体の反応速度定数である結合速度定数あるいは解離速度定数の少なくともどちらか一方を取得する反応速度情報取得部と、前記抗原抗体複合体候補構造における抗原抗体間の静電的相互作用の強さを表す静電作用スコアを取得する構造的作用スコア取得部と、前記反応速度情報取得部で得られた前記解離速度定数または前記結合速度定数と、前記構造的作用スコア取得部から得られた前記静電作用スコアとを用いて、前記抗原抗体複合体候補構造の適正を総合評価する複合体評価スコアを算出する総合スコア算出部を備える。
【0010】
本構成によって、結合反応状態を正しく示している実験値を用いて、構造的に評価を行った評価スコアの補正や再評価を行うことで、評価精度の高い複合体候補構造の適正評価方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗原抗体複合体候補構造の評価方法によれば、評価する複合体候補構造や統計情報だけでなく、結合反応状態を誤りなく示している実験値を用いることで、精度の高い複合体候補構造の適正評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態における抗原抗体複合体候補構造の評価装置の全体構成を示す図
【図2】総合スコア算出部の処理フローを示す図
【図3】従来の複合体候補構造の評価装置の機能的な構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における抗原抗体複合体候補構造の評価装置の全体構成を示す図である。
【0015】
図1において、抗原抗体複合体候補構造情報502は、複合体を構成する抗原と抗体の各立体構造を入力情報として、2つのタンパク質が相互作用したときの複合体立体構造を予測するドッキング予測プログラムの出力結果として得られる複合体候補構造情報である。例えば、ドッキング予測プログラムとして、非特許文献1の複合体立体構造予測の手法と、非特許文献2の複合体候補構造スコア評価手法に基づくsurFitがある。(ドッキング予測プログラムsurFitのURLを示す。http://sysimm.ifrec.osaka-u.ac.jp/surFit/)
抗原抗体反応速度情報501は、SPR(表面プラズモン共鳴装置)などを用いて得られた抗原と抗体の反応速度定数である結合速度定数と解離速度定数の実験値である。抗原抗体複合体候補構造情報502は、ドッキング予測プログラムなどにより予測された抗原と抗体の複合体の予測構造である。
【0016】
複合体候補構造評価装置201は、反応速度情報取得部211と構造的作用スコア取得部212と単体構造情報取得部213と統合スコア算出部221とを備える。
【0017】
反応速度情報取得部211は、抗原抗体反応速度情報501から抗原と抗体の結合反応実験により得られた結合速度定数や解離速度定数を取得する。
【0018】
構造的作用スコア取得部212は、抗原抗体複合体候補構造情報502から、抗原と抗体間の結合部位における静電的な相互作用状態を表す静電作用スコアと、抗原と抗体間の結合部位の形状的な相補性の高さを表す形状相補作用スコアを取得する。具体的には、まず、抗原抗体複合体候補構造情報502から、非特許文献2において“the complementarity score for the electrostatic potential"として示されている、抗原と抗体間の静電的な相互作用の強さを表す静電ポテンシャルスコアと、非特許文献2において“the complementarity score for the shape"として示されている、抗原と抗体間の形状相補的な相互作用の強さを表す形状相補ポテンシャルスコアと、非特許文献2においては“vertex−pairs existing in the interfaces”で示される頂点で囲まれた面の面積となる、結合部位面積とを取得する。次に、取得した静電ポテンシャルスコアと結合部位面積とを積算して静電作用スコアを算出し、形状相補ポテンシャルスコアと結合部位面積とを積算して形状相補作用スコアを算出する。
【0019】
単体構造情報取得部213は、抗原抗体複合体候補構造情報502から得られる抗原のアミノ酸配列情報から抗原アミノ酸残基数を取得する。さらに、抗体アミノ酸配列情報から抗原結合領域であるCDR領域(超可変領域)のアミノ酸配列情報を取り出し、アミノ酸残基タイプ毎の極性を示す値として、例えば非特許文献3に示される極性スコアを用いて、CDR領域を構成する各アミノ酸残基の極性スコアの平均値を求め、抗体CDRの極性状態を示す抗体CDR極性スコアを算出する。
【0020】
次に、統合スコア算出部221が、反応速度情報取得部211から得られた結合速度定数と解離速度定数、構造的作用スコア取得部212から得られた静電作用スコアと形状相補作用スコア、個別構造情報取得部213から得られた抗原アミノ酸残基数と抗体CDR極性スコアを用いて複合体評価スコア503を算出する方法について、図2を用いて説明する。
【0021】
図2は総合スコア算出部が実行する処理フローを示す図である。
総合スコア算出部221は結合速度定数508と抗原アミノ酸残基数513と抗体CDR極性スコア514から、静電ポテンシャルスコアの予測値である静電予測スコアを、以下の(式1)に基づいて算出する(S20)。
【0022】
【数1】

【0023】
11、C12、C13、C14は、静電的相互作用の強さに対しての結合速度定数508と抗原アミノ酸残基数513と抗体CDR極性スコア514のそれぞれの貢献度に応じた係数と定数である。これらの係数と定数は以下のように算出できる。PDB(Protein Data Bank)に抗原抗体複合体構造が登録され、かつ結合速度定数の実験値が求められているデータを複数抽出する。抽出した抗原抗体複合体構造について非特許文献2に示される手法を用いて静電ポテンシャルスコアを算出し、抗体CDRのアミノ酸配列情報から抗体CDR極性スコアを算出する。算出した静電ポテンシャルスコアを目的変数、結合速度定数実験値と抗原アミノ酸残基数、算出した抗体CDR極性スコアを説明変数として回帰分析を行い、回帰分析の結果はC11=9.9、C12=0.24、C13=1.8、C14=−27.4、であった。結合が早い場合は静電ポテンシャルが大きく引きあう力が強くなっていると考えられ、抗原アミノ酸残基数が大きいほど抗原全体の電荷が強くなって静電的に引き合う力が強くなり、抗体CDR極性スコアが大きいほど静電的作用の強さが大きいと考えられる。なお、各係数は異なる値でもよい。
【0024】
次に、解離速度定数509と抗原アミノ酸残基数513から、結合部位面積の予測値である面積予測スコアを、以下の(式2)に基づいて算出する(S21)。
【0025】
【数2】

【0026】
21、C22、C23は、結合部位面積に対しての解離速度定数509と抗原アミノ酸残基数513のそれぞれの貢献度に応じた係数と定数である。これらの係数と定数は以下のように算出できる。PDBに抗原抗体複合体構造が登録され、かつ解離速度定数の実験値が求められているデータを複数抽出する。抽出した抗原抗体複合体構造について非特許文献2に示される手法を用いて結合部位面積を算出する。算出した結合部位面積を目的変数、解離速度定数実験値と抗原アミノ酸残基数を説明変数として回帰分析を行い、回帰分析の結果はC21=−90.2、C22=1.3、C23=366、であった。解離が遅い場合は結合部位の面積が大きくなることで静電的あるいは疎水的な相互作用が大きくなっている状態と考えられ、抗原アミノ酸残基数が大きいほど結合部位面積が大きい傾向となる。なお、各係数は異なる値でもよい。
【0027】
次に、これらの算出した静電予測スコアと面積予測スコアを積分して、実験値を用いて求めた抗原抗体の静電的な相互作用状態を表す実験スコアの算出を行う(S22)。
【0028】
次に、静電作用スコア511を、算出した実験スコアを用いて補正して補正後静電作用スコアを算出する(S23)。補正は、静電作用スコア511が実験スコアより大きい場合は実験スコアの値に置換え、それ以外の場合はそのままの値とした。(式3)
【0029】
【数3】

【0030】
なお、静電作用スコアの補正では、補正前の静電作用スコアと実験スコアとの差分に応じて静電作用スコアの値を変更してもよく、複数の抗原抗体複合体構造から求められた実験スコアの分布を反映した値で補正してもよい。
【0031】
次に、補正後静電作用スコアと形状相補作用スコア512から、以下の(式4)に基づいて複合体評価スコアの算出を行う(S24)。
【0032】
【数4】

【0033】
41、C42は、複合体構造の適正の高さに対しての静電作用スコア511と形状相補作用スコア512のそれぞれの貢献度に応じた係数である。これらの係数は以下のように算出できる。PDBから抗原抗体複合体構造を複数抽出し、それらの複合体を構成する抗原と抗体を入力情報としてドッキング予測プログラムsurFitにより複合体候補構造の予測を行い、複合体候補構造とその構造に対応する静電ポテンシャルスコア、形状相補ポテンシャルスコア、結合部位面積を得て、静電ポテンシャルスコアと結合部位面積とを積算して静電作用スコアを算出し、形状相補ポテンシャルスコアと結合部位面積とを積算して形状相補作用スコアを算出する。また、この複合体候補構造の適正の高さとして非特許文献4のfnatに示される値である結合残基ペア予測度を算出し、算出した予測精度を目的変数、静電作用スコアと形状相補作用スコアの抗原抗体毎の標準化値を説明変数として回帰分析を行う。なお、抗原抗体毎に複数の複合体候補構造が得られるが、抗原抗体毎に静電作用スコア、形状相補作用スコアの値の範囲にばらつきがあるため、静電作用スコアと形状相補作用スコア、の値は標準化して回帰分析を行い、その結果はC41=9、C42=14、であった。静電作用スコア511、形状相補作用スコア512共に、高いほうが複合体候補構造の適正が高くなる傾向にある。なお、各係数は異なる値でもよい。
【0034】
次に、本実施の形態に示した複合体候補構造評価装置201による抗原抗体複合体候補構造の適正評価の正当性について考察する。
【0035】
非特許文献5に結合速度定数(kassoc)と解離速度定数(kdissoc)の実験値データが示され、かつPDBに複合体結晶構造が登録されている、PDB−ID(PDB登録番号)が1C08、1MLC、1NDG、1NDMの抗原抗体複合体について、取得した抗原抗体複合体の抗原と抗体の立体構造情報を入力情報としてsurFitを実行し、抗原抗体複合体候補構造予測と各候補構造の静電ポテンシャルスコア、形状相補ポテンシャルスコアと結合部位面積を取得した。
【0036】
取得した各候補構造について、本実施の形態による抗原抗体複合体候補構造評価方法を用いた複合体評価スコアの取得を行い、さらに非特許文献4のfnatに示される値である結合残基ペア予測度を算出して適正が最も高い複合体候補構造を抽出し、この適正が最も高い複合体候補構造が複合体評価スコアの高い順における順位を算出する。また、本実施の形態ではS23において静電作用スコアの補正を行ったが、この補正を行わずに結合速度定数と解離速度定数を用いることなく、静電作用スコア511と形状相補作用スコア512から(式4)を用いて複合体評価スコアの算出を行い、適正が最も高い複合体候補構造が複合体評価スコアの高い順における順位を算出する。
【0037】
本実施の形態による結合速度定数と解離速度定数を用いた補正を行った「補正あり」の場合と、結合速度定数と解離速度定数による補正を行わなかった「補正なし」の場合の、PDB−ID毎の複合体評価スコアの順位を(表1)に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
結合速度定数、解離速度定数による補正を行った場合は、補正なしの場合に比べると、特に補正なしで順位の低かった1MLC、1NDMの抗原抗体複合体構造において順位が高くなっており、補正を行うことにより、より精度よく複合体構造の適正が評価可能となっていることが示されている。
【0040】
かかる構成によれば、抗原と抗体の反応速度定数である抗原抗体反応速度情報501を用いて、抗原抗体複合体候補構造情報502から得られるスコアを補正または再評価することにより、抗原抗体の結合反応状態を正しく示している実験値を用いることで、精度の高い抗原抗体複合体の複合体候補構造の適正評価方法を提供することができる。
【0041】
以上、本発明の実施の形態に係る抗原抗体複合体候補構造評価装置201について説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0042】
なお、本実施の形態において、反応速度情報取得部211において結合速度定数と解離速度定数を取得し、統合スコア算出部221において結合速度定数と解離速度定数の両方を用いて複合体評価スコアの算出を行ったが、結合速度定数と解離速度定数のどちらか一方のみを用いて複合体評価スコアの算出を行ってもよい。
【0043】
また、本実施の形態において、構造的相互作用スコア取得部212は、抗原抗体複合体候補構造情報502から静電ポテンシャルスコアや形状相補ポテンシャルスコア、結合部位面積を取得したが、複合体の立体構造情報から静電ポテンシャルスコアや形状相補ポテンシャルスコア、結合部位面積を算出する複合体候補構造スコア評価部を備えてもよい。また、構造的相互作用スコア取得部212は、静電ポテンシャルスコアと形状相補ポテンシャルスコアと結合部位面積から静電作用スコアと形状相補作用スコアを算出したが、抗原抗体複合体候補構造情報502からこれらの情報を直接取得してもよい。
【0044】
また、本実施の形態において、構造的相互作用スコア取得部212は静電作用スコアと形状相補作用スコアを取得し、総合スコア算出部221は静電作用スコアと形状相補作用スコアを用いて複合体評価スコアを算出したが、構造的相互作用スコア取得部212が取得する値は、静電相互作用スコア、形状相補作用スコア以外にも、疎水的な相互作用状態を表す疎水作用スコアや結合部位面積などの複合体立体構造情報から算出される抗原と抗体間の相互作用状態を示す値を含むことができる。また、静電相互作用スコア、形状相補作用スコア、疎水作用スコア、結合部位面積などの複合体立体構造情報から算出される抗原と抗体間の相互作用状態を示すいずれかの値を含めばよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、生体または人工の抗体と抗原との複合体立体構造の予測や予測構造の評価を行う抗原抗体複合体予測装置等に適用でき、特に、特に、生化学、医療または製薬などの抗体やタンパク質関する研究を行う分野全般において有用である。
【符号の説明】
【0046】
106 構造相補性評価部
118 環境適合性評価部
122 距離依存型ポテンシャルエネルギー評価部
126 結合関与指標生成部
201 複合体候補構造評価装置
211 反応速度情報取得部
212 構造的作用スコア取得部
213 単体構造情報取得部
221 総合スコア算出部
501 抗原抗体反応速度情報
502 抗原抗体複合体候補構造情報
503 複合体評価スコア
508 結合速度定数
509 解離速度定数
511 静電作用スコア
512 形状相補作用スコア
513 抗原アミノ酸残基数
514 抗体CDR極性スコア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原と抗体の複合体立体構造の予測構造である抗原抗体複合体候補構造の適正を評価する抗原抗体複合体候補構造評価装置であって、
前記抗原と前記抗体の反応速度定数である結合速度定数あるいは解離速度定数の少なくともどちらか一方を取得する反応速度情報取得部と、
前記抗原抗体複合体候補構造における抗原抗体間の静電的相互作用の強さを表す静電作用スコアを取得する構造的作用スコア取得部と、
前記解離速度定数または前記結合速度定数と、前記静電作用スコアとを用いて、前記抗原抗体複合体候補構造の適正を総合評価する複合体評価スコアを算出する総合スコア算出部と
を備える抗原抗体複合体複合体候補構造評価装置。
【請求項2】
前記反応速度情報取得部が前記結合速度定数と前記結合速度定数を取得し、
前記総合スコア算出部が前記結合速度定数と前記結合速度定数と、前記構造的作用スコア取得部から得られた前記静電作用スコアとを用いて、前記抗原抗体複合体候補構造の適正を総合評価する複合体評価スコアを算出する
請求項1記載の抗原抗体複合体候補構造評価装置。
【請求項3】
前記抗原を構成するアミノ酸残基の数である抗原アミノ酸残基数を取得する単体構造情報取得部を備え、
前記総合スコア算出部が、前記解離速度定数と前記抗原アミノ酸残基数から前記抗原と前記抗体が結合した複合体立体構造の結合部位面積の予測値である面積予測スコアを算出する
請求項1または請求項2記載の抗原抗体複合体候補構造評価装置。
【請求項4】
前記抗原を構成するアミノ酸残基の数である抗原アミノ酸残基数と、前記抗体のCDR領域(超可変領域)の極性状態を示す抗体CDR極性スコアを取得する単体構造情報取得部を備え、
前記総合スコア算出部が、前記結合速度定数と前記抗原アミノ酸残基数と前記抗体CDR極性スコアから、前記抗原と前記抗体の間の静電的な相互作用の強さを予測した値である静電予測スコアを算出する
請求項1または請求項2記載の抗原抗体複合体候補構造評価装置。
【請求項5】
前記総合スコア算出部が、前記面積予測スコアと前記静電予測スコアを積分して、前記抗原と前記抗体の静電的な相互作用状態を表す実験スコアを算出し、前記静電作用スコアが前記実験スコアより大きい場合に前記静電作用スコアを前記実験スコアに置換えた補正後静電作用スコアを算出する
請求項3および請求項4記載の抗原抗体複合体候補構造評価装置。
【請求項6】
前記構造的作用スコア取得部が、抗原抗体複合体候補構造における抗原抗体間の形状相補性による相互作用の強さを表す形状相補作用スコアを取得し、
前記総合スコア算出部が、前記補正後静電作用スコアと形状相補作用スコアを用いて前記複合体評価スコアを算出する
請求項5記載の抗原抗体複合体候補構造評価装置。
【請求項7】
コンピュータにより、抗原と抗体の複合体立体構造の予測構造である抗原抗体複合体候補構造の適正を評価する抗原抗体複合体候補構造評価方法であって、
前記抗原と前記抗体の反応速度定数である結合速度定数と解離速度定数を取得し、
前記抗原抗体複合体候補構造における抗原抗体間の静電的相互作用の強さを表す静電作用スコアを取得し、
前記抗原抗体複合体候補構造における抗原抗体間の形状相補性による相互作用の強さを表す形状相補作用スコアを取得し、
前記抗原を構成するアミノ酸残基の数である抗原アミノ酸残基数と、前記抗体のCDR領域(超可変領域)の極性状態を示す抗体CDR極性スコアを取得し、
前記解離速度定数と前記抗原アミノ酸残基数から前記抗原と前記抗体が結合した複合体立体構造の結合部位面積の予測値である面積予測スコアを算出し、
前記結合速度定数と前記抗原アミノ酸残基数と前記抗体CDR極性スコアから、前記抗原と前記抗体の間の静電的な相互作用の強さを予測した値である静電予測スコアを算出し、
前記面積予測スコアと前記静電予測スコアを積分して、前記抗原と前記抗体の静電的な相互作用状態を表す実験スコアを算出し、
前記静電作用スコアが前記実験スコアより大きい場合に前記静電作用スコアを前記実験スコアに置換えた補正後静電作用スコアを算出し、
前記補正後静電作用スコアと形状相補作用スコアを用いて前記複合体評価スコアを算出する
抗原抗体複合体候補構造評価方法。
【請求項8】
請求項7に記載の相互作用力変化予測方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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