説明

抗癌剤障害予防剤

【課題】抗癌剤に起因する副作用として発現する健康障害を予防する有効な薬剤を提供する。
【解決手段】抗酸化金属を含有する酵母を有効成分とする抗癌剤障害の予防剤、具体的には、Mn、Zn、Fe、CuおよびSeの少なくとも1種を含有するサッカロマイセスセレビジエ酵母を有効成分とする抗癌剤障害の予防剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤の投与に起因する副作用として発現する健康障害の予防(抑制、緩和)に有効な薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の抗癌剤治療を受けている患者は副作用による嘔吐や下痢などの健康障害に苦しんでいるのが実状である。抗癌剤治療においては、副作用を抑制するために投与量を制限している。それでも抗癌剤の副作用である健康障害を効果的に予防する薬剤の開発は緊急の研究課題である。また、現在の抗癌剤治療における抗癌剤の最大投与量は副作用によって生じる健康障害によって制限されている。したがって、抗癌剤治療における副作用を抑制することが可能になれば、抗癌剤の投与量を増やすことができることになり、抗癌剤による癌の治癒率は向上すると考えられる。
【0003】
現在、抗癌剤の副作用を効果的に抑制する予防薬剤は開発されておらず、止瀉(吐き止め)剤などを投与する対症療法だけでは患者の苦痛を除くことができていないのが現状である。
【0004】
本発明者らは、以前より、抗癌剤による癌治療の副作用である健康障害を効果的に抑制する薬剤を研究してクロマノール配糖体を開発し、これらの抑制剤の効果について発表している(2003年の第9回日本癌治療増感研究会、京都)。
【0005】
また、酵母、さらには金属含有酵母やその抽出物が、癌の治療や健康維持に有効であるとの特許出願もある(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。しかしながら、これらの特許文献は抗癌剤による健康障害を予防するものではない。
【0006】
【特許文献1】特開平9−77674号公報
【特許文献2】特開平9−124438号公報
【特許文献3】特開2003−198号公報
【特許文献4】特開2003−61618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、抗癌剤に起因する副作用として発現する健康障害を予防する有効な薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、抗酸化金属として知られるセレン(Se)を含有するサッカロマイセスセレビジエ酵母について研究を進めた結果、抗酸化金属含有酵母が癌の抗癌剤治療における健康障害を効果的に予防できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、抗酸化金属を含有する酵母を有効成分とする抗癌剤障害の予防剤、具体的には、Mn、Zn、Fe、CuおよびSeの少なくとも1種を含有するサッカロマイセスセレビジエ酵母を有効成分とする抗癌剤障害の予防剤に関する。
【0010】
本発明で用いる特定の酵母による抗癌剤に起因する健康障害予防の機序については明らかでない部分もあるが、特定の抗酸化金属含有酵母が抗癌剤による肝臓の解毒機能の損傷の防護、あるいは抗癌剤によって発生するフリーラジカルに起因する細胞の損傷を効果的に防護しているものと考えられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗癌剤障害予防剤を用いるときは、癌治療のための抗癌剤投与に起因する副作用として発現する健康障害(副作用)を効果的に予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いるサッカロマイセスセレビジエ酵母は、パン酵母やビール酵母などとして、その発酵活性を利用して広くパン、ビール、ワイン、酒、味噌、醤油、納豆などの発酵に用いられており、日本人にはなじみ深い発酵食品にも含まれている。さらに抗酸化金属を含有するサッカロマイセスセレビジエ酵母は、健康食品添加物や化粧料の成分として広く市販されている安全な物質である。
【0013】
本発明では、発酵させる目的で酵母を配合するものではないため、発酵活性を有するか否かは問わない。酵母の発酵活性を不活性化する方法としては、長時間、酸素中で放置して自然酸化する方法、100℃程度の温度で数分間加熱する方法、放射線を照射する方法などが知られている。
【0014】
抗酸化金属としては、Mn、Zn、Fe、CuおよびSeの少なくとも1種があげられ、特に抗酸化活性が高いことからSeが好ましい。
【0015】
抗酸化金属含有サッカロマイセスセレビジエ酵母は、抗酸化金属化合物を添加した培地でサッカロマイセスセレビジエ酵母を増殖して製造される。
【0016】
製剤としては、粉剤、液剤、錠剤などがあり、薬理学的に許容し得る賦形剤を適宜使用して製剤化するが、紅茶に入れたレモンテイなどの清涼飲料として投与することもできる。
【0017】
投与方法は、水溶液の経口投与で充分に有効であるが、静脈内投与などでもよい。
【0018】
その投与量は、経口投与の場合は300〜900mg/kg体重、静脈内投与の場合は100〜300mg/kg体重である。
【0019】
本発明は予防剤としての使用であるから、投与のタイミングとしては、抗癌剤の投与の30分前までに投与することが望ましい。
【0020】
本発明が対象とする抗癌剤は、シクロホスファミドやメルファランなどのアルキル剤、メトトレキサートやフルオロウラシルなどの代謝拮抗剤、マイトマイシンやアドリアマイシンなどの抗癌性抗生物質、ビンクリスチンやエトポシドなどの抗癌性植物由来物質、シスプラチンなどのDNA合成阻害剤のほか、ジェムザールやタキサン系の抗癌剤などであって、投与すると副作用を発現する細胞障害性の抗癌剤である。
【実施例】
【0021】
つぎに実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0022】
実施例1
8〜9週齢の雌性BDF マウス(体重20〜22g:1群10匹)に、酵母懸濁液(0.3ml、750mg/kg体重)をマウスの腹腔に注入し、注入30分後にシクロホスファミド(CPA)(600mg/kg体重)を腹腔に投与し、平均生存日数を調べた(対照群は0.5%のメチルセルローズを0.3ml/匹、腹腔に投与した)。また、CPAの投与量を変更(360mg/kg体重)した場合についても調べた。結果を表1に示す。
【0023】
上記セレン酵母懸濁液は、0.2%のセレンを含有するサッカロマイセスセレビジエ酵母(以下、「セレン酵母」という)を生理食塩水に加えて50mg/ml濃度とした懸濁液である。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例2
8〜9週齢の雌性BDF マウス(体重20〜22g:1群10匹)に、セレン酵母懸濁液(0.3ml、750mg/kg体重)をマウスの腹腔に注入し、注入30分後にシスプラチン(CDDP)(12mg/kg体重)を腹腔に投与し、平均生存日数を調べた(対照群は0.5%のメチルセルローズを0.3ml/匹、腹腔に投与した)。結果を表2に示す。
【0026】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗酸化金属を含有する酵母を有効成分とする抗癌剤障害の予防剤。
【請求項2】
抗酸化金属を含有する酵母が、Mn、Zn、Fe、CuおよびSeの少なくとも1種を含有するサッカロマイセスセレビジエ酵母である請求項1記載の抗癌剤障害の予防剤。

【公開番号】特開2006−298878(P2006−298878A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126500(P2005−126500)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(503266079)株式会社京都ライフサイエンス研究所 (7)
【Fターム(参考)】