説明

抗菌性ポリマー組成物及びその用途

アニオン性ポリエステルと抗菌性金属とのイオン性錯体を含み、アニオン性ポリエステルが約0.19meq/g〜約1.0meq/gのイオン交換容量を有する、抗菌性組成物。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
本願は、参照によってその内容全体が本明細書に組み込まれる、2005年5月19日に出願された同時係属中の米国特許出願第11/132,992号の一部継続出願であり、米国特許法第120条に基づき、その利益を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は、広くはポリマー組成物、及び医療機器などの被覆物品を作製するための本組成物の用途に関連する。より具体的には、本発明は抗菌性金属とアニオン性ポリマーとの錯体である抗菌性組成物に関連する。更に、本発明は、単独で又は医療機器と組み合わせて使用し得る、アニオン性ポリエステルと銀との錯体に関連する。本発明はまた、このような抗菌性組成物を活用した医療機器に関連する。
【背景技術】
【0003】
外科設備で医療機器を用いる場合はいつでも、感染のリスクが生じる。感染のリスクは、体組織及び体液と密接に接触した状態で病原体の侵入口を形成する、静脈内カテーテル、動脈グラフト、髄腔内又は大脳内シャント、及び補装具などの侵襲性又は移植式の医療機器において飛躍的に高まる。手術部位感染の発生は、医療機器上でコロニー形成する細菌に関連することが多い。例えば、外科手術中に周辺大気から手術部位に細菌が侵入し、医療機器に付着する場合がある。移植された医療機器は、細菌により周辺組織への経路として利用され得る。このような医療機器上での細菌のコロニー形成は、患者の感染、並びに罹病及び死につながりかねない。
【0004】
医療機器に抗菌性金属又は金属塩を組み込む、侵襲性又は移植式の医療機器に関連した感染のリスクを低減する方法がいくつか開発されてきた。こうした機器は、機器が使用されている間、有効な水準の抗菌性金属を与えるものであることが望ましい。
【0005】
長年、銀と銀塩は抗菌剤として医療に応用されてきた。このような医療上の応用には、新生児の目の感染を予防する硝酸銀水溶液の使用などが含まれる。銀塩はまた、結膜炎、尿道炎、及び膣炎の感染の予防と管理に使用されてきた。
【0006】
更に、銀及び銀塩は、カテーテル、カニューレ、及びステントなどの医療機器と共に抗菌剤として使用されてきた。通常、銀又は銀塩は、蒸着法、スパッタ法、又はイオンビーム法などの従来の被膜技術により医療機器の表面に直接付着させる。
【0007】
例えば、WO 2004054503A2号及びRobyに対する米国特許第6,878,757号では、縫合糸に使用できる抗菌性被膜について述べており、その被膜は、それぞれ、(i)カプロラクトン共重合体及びステアリン酸銀の混合物、並びに(ii)ε−カプロラクトン、生体吸収性単量体及びステアロイル乳酸ナトリウムの共重合体又はステアロイルラクチレートの銀塩、から構成される。この両参照文献における銀塩は、共重合体マトリックスで塩の形態を留め、標的環境での銀塩の可溶化により銀イオンが被覆から標的環境に放出される。一方で、銀塩の溶解度は、それが供給される環境並びに標的環境の対イオン濃度及びイオン強度などの要素と相関関係にある。
【0008】
Hainに対する米国特許第6,881,766号は、水溶性ガラスを含む組成物で作製された、かつ/又は被覆された縫合糸について述べている。水溶性ガラスには、必要に応じて、創傷治癒促進のために銀などの治療薬が含まれる。この場合の銀は、酸化銀、硝酸銀又はオルト燐酸銀などの無機銀塩の形態で組み込むことが可能である。前述の参照文献と同様に、標的環境に対する銀イオンの放出は、標的環境での銀塩の溶解度に依存する可能性がある。
【0009】
他の金属、例えば亜鉛、銅、マグネシウム、及びセリウムなども、単独及び銀との組み合わせの両方で抗菌性を有することが分かっており、このうちいくつかでは組み合わせにより相乗効果がみられた。これら並びに他の金属は、少量でも抗菌性を提供することが示されている。
【0010】
抗菌性金属又は金属塩を基体に被覆する他の方法としては、溶液からの金属又は金属塩の付着又は電着が挙げられる。医療機器に金属を組み込むその他の方法としては、医療機器に処理を施す前における、例えばペレット状のポリマーに対する金属又は金属塩の溶液の浸漬、噴霧又ははけ塗りなどが挙げられる。別の方法としては、固形の金属又は金属塩を超微粒子状又は液状のポリマー樹脂と混ぜ合わせ、これを物品に成形するということも可能である。また、金属又は金属塩を重合の前に材料の単量体と混ぜ合わせることも可能である。
【0011】
しかし、従来の組み込み方法で付着させた金属又は金属塩を有する医療機器には、医療機器に対する金属又は金属塩の不十分な接着、並びに金属又は金属塩の被覆全体にわたる濃度のばらつきなどの問題がある。また、医療機器に抗菌性金属を付着又は電着させて作製した被覆は、容易に金属を放出せず、そのため、抗菌効果を発揮するには組織内の病原菌に直接接触させる必要があるとみられている。
【0012】
Roberts他に対する米国特許第6,153,210号は、歯周病管理のための、金属イオン、好ましくは銀イオン、を含む高分子微小粒子について述べている。微小粒子は、分子量(MW)約1.99×10−20g(約12,000ダルトン)のポリ(ラクチド−コグコリド)(PLGA)から調製可能で、これと金属イオンを混合又は錯化させる。しかし、Robertsその他は、そのポリマーのイオン交換容量について、また約1.66×10−20g(約10,000ダルトン)未満のMWを有するPLGAについては述べていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、標的環境に対する金属イオンの放出メカニズムが、標的環境での可溶化に依存しない抗菌性組成物を提供する必要がある。特に、人体内で体液との接触後直ちに活性化する抗菌性組成物が必要である。更に、医療機器に十分に接着する抗菌性組成物、及び金属又は金属塩の分布が全体にわたり一様である抗菌性医療機器が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0014】
1つの実施形態では、本願は抗菌性金属とアニオン性ポリエステルとのイオン性錯体を含む抗菌性組成物を目的とし、そのアニオン性ポリエステルのイオン交換容量は約0.19meq/g〜約1.0meq/gである。
【0015】
別の実施形態では、抗菌性組成物は重量平均分子量(Mw)約3.32×10−21〜約1.20×10−20g(約2000〜約7200ダルトン)のアニオン性ポリエステルを有する。
【0016】
別の実施形態では、組成物中の抗菌性金属は約20,000〜96,000重量ppmである。
【0017】
アニオン性ポリエステルは、有機金属触媒及びアニオン開始剤の存在下で重合させた脂肪族ラクトン単量体の開環重合から調製することが好都合である。
【0018】
脂肪族ラクトン単量体は、グリコリド、炭酸トリメチレン、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、メソラクチド、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン、1,3−ジオキサン−2−オン、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルフォリン、ピバロラクトン、α,α−ジエチルプロピオラクトン、炭酸エチレン、シュウ酸エチレン、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、6,6−ジメチル−ジオキセパン−2−オン、6,8−ジオキサビシクロクタン−7−オン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されることが好ましい。
【0019】
アニオン開始剤は、α−ヒドロキシ酸、グリコール酸、D−乳酸、DL−乳酸、L−乳酸、β−ヒドロキシ酸、γ−ヒドロキシ酸、δ−ヒドロキシ酸、ε−ヒドロキシ酸、ε−ヒドロキシカプロン酸、ポリヒドロキシ酸、酒石酸、クエン酸、及びグルクロン酸からなる群から選択され、かつ、ラクトン単量体対開始剤のモル比が約10〜30であることが有利である。
【0020】
ラクトン単量体対開始剤のモル比は約10〜25で、かつ抗菌性金属はAg、Au、Pt、Pd、Ir、Sn、Cu、Sb、Bi、Zn、Ni、Mg、及びMnからなる群から選択されることが好ましい。抗菌性金属は銀であることが更に好ましい。
【0021】
別の実施形態では、本願はイオン交換容量が約0.19meq/g〜約1.0meq/gのアニオン性ポリエステルと抗菌性金属とのイオン性錯体を含む抗菌性組成物を有する医療機器を目的とする。
【0022】
医療機器は、繊維、メッシュ、粉末、微小球、フレーク、スポンジ、発泡体、布地、不織布、織布マット、被膜、縫合糸アンカー装置、縫合糸、カテーテル、ステープル、手術用タック、クリップ、プレート及びスクリュー、薬物送達装置、癒着予防バリア、並びに組織接着剤の形態をとることが有利である。
【0023】
アニオン性ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は約3.32×10−21〜約1.20×10−20g(約2000〜約7200ダルトン)であることが好ましい。
【0024】
組成物中の抗菌性金属は、約20,000〜96,000重量ppmであることが好都合である。
【0025】
別の実施形態では、本願は、1つ又は2つ以上の脂肪族ラクトン単量体の開環重合を、有機金属の触媒及びアニオン開始剤の存在下で、ラクトン単量体対開始剤のモル比が約10〜30の状態で実施することと、イオン交換容量が約0.19meq/g〜約1.0meq/gのアニオン性ポリエステルを回収することと、前記アニオン性ポリエステルのカルボン酸基と前記抗菌性金属との間でイオン交換を実施することと、前記アニオン性ポリエステル及び前記抗菌性金属の前記イオン性錯体を回収することと、を含む、アニオン性ポリエステルと抗菌性金属とのイオン性錯体の作製法を目的とする。
【0026】
脂肪族ラクトン単量体は、グリコリド、炭酸トリメチレン、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、メソラクチド、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン、1,3−ジオキサン−2−オン、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルフォリン、ピバロラクトン、α,α−ジエチルプロピオラクトン、炭酸エチレン、シュウ酸エチレン、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、6,6−ジメチル−ジオキセパン−2−オン、6,8−ジオキサビシクロクタン−7−オン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されることが好ましい。
【0027】
アニオン開始剤は、α−ヒドロキシ酸、グリコール酸、D−乳酸、DL−乳酸、L−乳酸、β−ヒドロキシ酸、γ−ヒドロキシ酸、δ−ヒドロキシ酸、ε−ヒドロキシ酸、ε−ヒドロキシカプロン酸、ポリヒドロキシ酸、酒石酸、クエン酸、及びグルクロン酸からなる群から選択されることが有利である。
【0028】
抗菌性金属は、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Sn、Cu、Sb、Bi、Zn、Ni、Mg、及びMnからなる群から選択されることが好ましく、銀が更に好ましい。
【0029】
別の実施形態では、イオン交換はエタノール、n−プロピルアルコール、及びイソプロピルアルコールからなる群から選択される水溶性アルコールに前記抗菌性金属を含む溶液中で実施される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、アニオン性ポリマーと抗菌性金属とのイオン性錯体を含む抗菌性組成物を提供する。1つの実施形態では、抗菌性組成物はアニオン性ポリエステルと抗菌性金属との錯体を含み、アニオン性ポリエステル分子は、直鎖又は分枝鎖であり得る少なくとも1つのカルボン酸基を含む。
【0031】
本明細書で使用される「錯体」という用語は、抗菌性金属イオンとアニオン性ポリマーのカルボン酸基との間にイオン結合又は静電結合を有する、分子規模での密接混合物を指す。錯体は、アニオン性ポリマーと金属イオンとの間で生成された塩を含むことが好ましい。
【0032】
アニオン性ポリエステルは、吸収性又は非吸収性の場合があり、脂肪族ラクトン単量体の開環重合により合成できる。具体的には、脂肪族ラクトン単量体を有機金属の触媒及び開始剤の存在下で重合させる。開環重合プロセスは、当該技術分野においてよく知られており、Kubo他に対する米国特許第4,289,873号に更に詳しく述べられており、その内容は参照により、その全体が記載されている場合と同じように、本明細書に組み込まれる。
【0033】
本明細書に述べるアニオン性ポリエステルを合成するために活用でき、かつアニオン性ポリエステル繰り返し単位が誘導される代表的な脂肪族ラクトン単量体は、グリコリド、炭酸トリメチレン、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、メソラクチド、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン、1,3−ジオキサン−2−オン、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルフォリン、ピバロラクトン、α,α−ジエチルプロピオラクトン、炭酸エチレン、シュウ酸エチレン、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、6,6−ジメチル−ジオキセパン−2−オン、6,8−ジオキサビシクロクタン−7−オン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0034】
有機金属の触媒は、チタン酸塩及びジルコン酸塩を含み、かつ、好ましくは塩化第一錫及びオクタン酸第一錫などのオルガノチン化合物を含む。
【0035】
開始剤は、少なくとも1つのカルボン酸基、及び少なくとも1つの反応性基、例えばヒドロキシル基又はアミンなどを含む化合物である。カルボン酸基を有するアニオン性ポリエステルの合成に適した代表的な開始剤は、グリコール酸などのα−ヒドロキシ酸、D−乳酸、DL−乳酸、L−乳酸、β−ヒドロキシ酸、γ−ヒドロキシ酸、δ−ヒドロキシ酸、及びε−ヒドロキシカプロン酸などのε−ヒドロキシ酸である。好ましい開始剤は、少なくとも1つのカルボン酸基及びグリコール酸などの一級ヒドロキシル基を含む。アルコール基は、成長鎖に開始剤を組み込む反応に直ちに参加する。少なくとも1つのカルボン酸基を有する分枝ポリエステルの合成に適した代表的な開始剤は、グルクロン酸などのポリヒドロキシ酸である。
【0036】
ある種の実施形態では、アニオン性ポリエステルは1分子当たりカルボン酸基を1基しか持たない場合がある。このようなアニオン性ポリエステルは、米国特許第4,201,216号及び第4,994,074号に述べられており、その全ての内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0037】
アニオン性ポリエステルは、単独重合体並びにポリラクチド、ポリグリコール酸などのラクチド及びグリコリドの共重合体、並びにラクチド及びグリコリド同士あるいはラクチド及びグリコリドと他の反応性単量体との共重合体;ポリ(p−ジオキサノン);ポリアルキレンオキサレート;クロトン酸、アクリル酸、及びメタクリル酸などの不飽和カルボン酸と酢酸ビニルとの共重合体;及びこれらのポリマーの混合物を含む。特に好ましいポリマーは、ラクチド及びグリコリドの共重合体で、ラクチドの含有量が約15〜85%であり、かつ0.1%のヘキサフルオロイソプロパノール溶液としての固有粘度が25℃で約0.5〜4.0である。これらのポリマーは非水溶性、素早い吸収性、並びにアセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン、及び1,1,2−トリクロロエタンなどの多くの一般的な有機溶媒における可溶性を有する。
【0038】
また、同様の方法で、ターポリマー、四量体、及び同様のものを利用して他のアニオン性ポリエステルを製造することが可能であり、その構成単位としてはグリコリド、ラクチド、ε−カプロラクトン、炭酸トリメチレン、及びp−ジオキサノンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
本発明によれば、抗菌性組成物を形成するのに特に適したアニオン性ポリエステルが、開環重合プロセスで開始剤比(IR)を管理することで形成できる。本明細書でいう「開始剤比」は、単量体の総モル数を開始剤の総モル数で割ったものである。一般的に、IRが低いほど、(つまり、単量体に対して開始剤が多いほど)、形成されるポリマーの分子量は低くなる。
【0040】
本発明によれば、IRは約10〜30、又は約10〜25、更には約10〜15であることが好ましく、この結果、アニオン性ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は約1.66×10−20g(約10,000ダルトン)未満、好ましくは約8.30×10−21g(約5,000ダルトン)未満にとなる。
【0041】
アニオン性ポリエステルは、ε−カプロラクトン及びグリコリドの共重合体であり、グリコール酸を開始剤、オクタン酸第一錫を触媒として使用して形成できる。重合は、ランダム共重合体の形成を可能にするバッチプロセスで実施することができる。しかし、セミブロック共重合体の形成を可能にするような方法で重合を実施することも可能である。最終的な共重合体が利用可能な形態になるような分子量が得られるように、開始剤比を変化させることが可能である。例えば、数平均分子量(Mn)約575〜約43,000にそれぞれ対応して、開始剤比は約5〜約600の範囲をとる場合がある。アニオン性ポリエステルを医療機器のような基体の被覆を調製するために使用する場合、約1,150〜約3,450のMnにそれぞれ対応して、開始剤比は約10〜30の範囲をとる場合がある。共重合体の分子量は、その最終的な用途により大きく変わる可能性がある。
【0042】
グリコール酸を開始剤として重合したポリ(ε−カプロラクトン)で、結果的にカルボン酸基を末端基とするアニオン性ポリエステルを形成することができる。例えば、約575〜約34,000の数平均分子量(Mn)にそれぞれ対応して、開始剤比は約5〜約600の範囲をとる場合がある。アニオン性ポリエステルを医療機器のような基体の被覆を調製するために使用する場合、約1,150〜約3,450のMnにそれぞれ対応して、開始剤比は約10〜約30の範囲となる。
【0043】
グリコール酸を開始剤としてラクチド及びグリコリドから形成する共重合体であるアニオン性ポリエステルが形成できる。開始剤比は、約1,170〜約22.000のMnにそれぞれ対応して、約10〜約200の範囲をとる。
【0044】
2つ又は3つ以上のカルボン酸基が望まれる場合、アニオン性ポリエステルに例えば分枝構造を形成させるような開始剤を提供することが可能である。このような開始剤には、酒石酸、クエン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。分枝構造は、重合体主鎖又は側鎖上の1つ又は2つ以上の分枝に1つ又は2つ以上のカルボン酸基を有することが可能である。これは、デンドリマー又は星形の形態をとることも可能である。
【0045】
本発明のアニオン性ポリエステルは、著しく高いイオン交換容量(IEC)、例えば約0.19meq/g〜約1.0meq/g、好ましくは約0.24〜約0.8meq/g、又は約0.3〜約0.8meq/gのIECを有することが有利であり、IECが高いほど、ポリマー鎖の遊離カルボン酸基の水素原子と交換できる抗菌性金属の量が増す。
【0046】
例えば、ここで開示されたアニオン性ポリエステルは、組成物全体に対して約20,000重量ppm〜約96.000重量ppmの抗菌性組成物、好ましくは約25,000重量ppm〜約85,000重量ppm、又は約30,000ppm〜約85,000ppmの抗菌性金属を形成することができる。
【0047】
ここで開示されたポリマーが高いIECを有する原因は、部分的には、それぞれ少なくとも1つの遊離カルボン酸基を末端基として持つポリマー鎖の分子量が比較的低いことによる。したがって、単位重量当たりでは、本発明のアニオン性ポリエステルは、分子量の高い同様のポリマーに比べ、イオン交換のための遊離カルボン酸部位が多い。
【0048】
ここで開示されたプロセスにより形成されたアニオン性ポリエステルは、重量平均分子量(Mw)が約1.66×10−20g(約10,000ダルトン)を下回り、好ましくは約8.30×10−21g(約5,000ダルトン)を下回り、又は約1.66×10−21〜約1.33×10−20g(約1,000〜約8,000ダルトン)、又は約3.32×10−21〜約1.20×10−20g(約2,000〜約7,200ダルトン)のMwを有する。通常の分子量分布を前提とした場合、Mwはこれらのアニオン性ポリエステルの数平均分子量(Mn)の約2倍である。
【0049】
ここで開示されたアニオン性ポリエステルのIECは、前記に開示されたアニオン性開始剤の選択により更に向上する。これらのアニオン性開始剤は、1つの末端部にカルボン酸基を有し、アミン又はヒドロキシルなど少なくとも1つの他の反応性基がアニオン性ポリエステル主鎖に組み込まれ、開始剤のカルボン酸基がイオン交換に利用できる状態にある。
【0050】
比較のために、米国特許第6,153,210号の実施例1に開示されたPLGAポリエステルを調査した。PLGAは、乳酸/グリコール酸比50:50の分子量(MW)12,000のコポリエステルで、Boehringer Ingelheim Chemicalsが「RG502H」として提供している。RG502Hの仕様は、www.resomer.comで入手可能で、ポリエステルの酸価が6mgKOH/gであることを示している。この酸価から逆算して、RG520Hについて下記のデータが明らかとなる。
IR=72
Mn=9354
Mw約18,700
IEC=0.107meq/g
最大ppmAg=11,403。
【0051】
本明細書に開示されたアニオン性ポリエステルは、大幅に増加したIECを有することが明らかであり、これにより、RG502Hに比べてずっと高い抗菌性金属含有及び抗菌活性が得られる。
【0052】
本明細書で言及する抗菌性金属イオン(M)は、抗菌効果を有する金属イオンで、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Sn、Cu、Sb、Bi、Zn、Ni、Mg、及びMnが挙げられるが、これらに限定されない。アニオン性ポリマーを有する錯体の抗菌性金属イオンの供給源には、元素金属、金属化合物、合金、又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
銀は、広範囲にわたる微生物に対して、特に効力がある抗菌性金属である。アニオン性ポリマーを有する錯体の抗菌性金属の供給源には、元素銀、銀合金、銀化合物、又はこれらの混合物が好ましい。本明細書で言及する銀化合物は、共有結合又は非共有結合により他の分子に結合した銀イオンから構成される。銀化合物の例としては、銀イオンと有機酸(例えば酢酸及び脂肪酸)又は無機酸とで形成される銀塩、例えばスルファジアジン銀(AgSD)、酸化銀(AgO)、炭酸銀(AgCO)、デオキシコール酸銀、サリチル酸銀、ヨウ化銀、硝酸銀(AgNO)、パラアミノ安息香酸銀、パラアミノサリチル酸銀、アセチルサリチル酸銀、エチレンジアミン四酢酸銀(Ag EDTA)、ピクリン酸銀、プロテイン銀、クエン酸銀、乳酸銀、酢酸銀及びラウリン酸銀などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
アニオン性ポリエステル及び抗菌性金属との錯体は、アニオン性ポリエステルを抗菌性金属の供給源溶液で処理することで調製できる。例えば、アニオン性ポリエステルは、固体繊維、薄板、スポンジ又は布地の形態をとり得る。ある実施形態では、アニオン性ポリエステルはイオン交換体である。別の実施形態では、アニオン性ポリエステルは遊離酸の形態を取ることが可能で、この場合、例えば、抗菌性金属の供給源は弱酸塩でもよく、この場合アニオン性ポリエステルは少なくとも部分的に金属塩により錯化される。例えば弱酸の銀塩を使用する場合、銀イオンはアニオン性ポリエステルのプロトンと交換され、塩の一部が弱酸に変換される。銀塩がアニオン交換体に必要な化学量論的量を超える場合、溶液中の弱酸と塩との混合物は緩衝液となり、比較的安定したpHを維持して交換反応の度合を制御する。銀イオンがポリエステルの酸の部分及び塩分子に結合することで、平衡反応が成立する。余分な銀塩及び弱酸は溶液中に残り、銀イオンは固体アニオン性ポリエステルに結合したままである。固体アニオン性ポリエステルは次に、液体/銀溶液から手軽に分離される。同様のプロセスは、EP−A−0437095に述べられており、その内容全体が、参照により明示的に本明細書に組み込まれる。
【0055】
交換反応は、水又はアルコールそれぞれの中で行えるが、水及びアルコールの混合液の中で行うことが好ましい。水及びアルコールの混合液を利用することで、弱酸塩の可溶性が良好となり、かつアルコールが交換反応の際のアニオン性ポリエステルの膨潤性を向上させる。したがって、アニオン性ポリエステルの物理的特性(例えば内在する機械的な強度)が保持される。アルコールは、イソプロピルアルコールが好ましい。なぜなら、前述の銀塩の多くは、イソプロピルアルコールと水との混合液中で可溶性が良好となるからである。アルコールと水とのモル比は、約9:1〜1:9の範囲内であることが好ましい。仮に、溶液中のアルコールが多すぎた場合、一部の塩は、特にアルコールがメタノール以外の場合、可溶性を失う可能性がある。線状及び分枝状C〜C12モノ−又はポリアルコールが適したアルコールであり、これはn−プロピルアルコール及びエタノールを含むが、これに限定されない。
【0056】
使用される金属塩は、一般的にポリエステル中のカルボン酸の化学量論的量とほぼ等しいか又は最大2倍である。別の方法としては、化学量論的量の金属塩の2回目のチャージを使用してもよいが、この場合、1回目のチャージが一定のpHに達した後に、新鮮な溶媒と塩とで反応を補充する。pHが上昇した材料は洗浄し、余分な金属塩及びイオンを除去する。
【0057】
本発明の抗菌性組成物は、抗菌性金属イオンの放出動力学を変動させる利点がある。放出動力学の変動により、水性環境に挿入直後に抗菌活性を提供する抗菌性金属の初期放出に続き、抗菌性金属を組成物から継続的に長期にわたり放出することが可能となり、その結果少なくとも12日間抗菌活性が保持される。
【0058】
更なる態様では、抗菌性組成物は、組成物の抗菌性効果を高めるか又は他の効果を与える活性成分として機能する他の成分を場合により含んでもよい。これらの成分には、これらに限定されるものではないが、更なる抗菌性剤、更なる塩、及び、組成物に有益な性質を与えるか又は組成物の抗菌性活性を高める他の任意の賦形剤又は有効成分が含まれる。こうした成分には、抗菌剤、抗生物質、及び他の有効成分が含まれるが、これに限定されない。
【0059】
本明細書において述べられる抗菌性組成物は、基体材料を被覆するために使用することができる。更に、抗菌性組成物は、本明細書において述べられる抗菌性組成物を含有する被覆の一部であってもよい。これらの被覆は、単一層又は多層からなるものでよい。別の実施形態では、抗菌性組成物は、事前に形成された製造物品又は製造物品の一部に被覆として付着させてもよい。被覆された物品は、例えば、物品の組成物中への浸漬、物品の共押出し、物品のワイア被覆、又は物品に組成物を噴霧した後、被覆された物品を乾燥することによって製造することができる。
【0060】
抗菌性組成物は別に作製した後で医療機器などの基体に被覆として付着できる。あるいは、抗菌性組成物をその場で作製することもできる。例えば、最初に医療機器などの基体をアニオン性ポリエステルで被覆した後で、抗菌性金属の可溶化塩によってその場で処理することにより、基体に抗菌特性を付与する。更に、有機溶媒などの有機液体を活用し、抗菌性金属とアニオン性ポリエステルとの錯化を促進することも可能である。
【0061】
本明細書に述べる抗菌性組成物は、基体表面に有利な特性を提供するために、単独又は他のポリマー被覆と組み合わせて使用することができる。これらの組成物は、例えば、抗感染薬、血液凝固阻止薬、治癒改善薬であるか、抗ウイルス性、抗カビ性、抗血栓性であるか、又は他の特性を被覆した基体に付与する、追加薬剤の供給にも使用できる。
【0062】
抗菌性組成物は、藻類、カビ、軟体動物、又は微生物が表面で成長することを阻害するためにも使用できる。本明細書に述べられる抗菌性組成物は、除草剤、殺虫剤、カブリ防止剤、診断剤、遮断剤、及び防汚剤としても使用できる。
【0063】
別の態様では、本発明は、本明細書に述べられた抗菌性組成物を含む医療機器である製品を含む。1つの実施形態では、抗菌性組成物を用いて、例えば、紡績、成型、鋳造又は押出成形により、物品又は物品の一部を形成することができる。
【0064】
抗菌性組成物は、繊維、メッシュ、粉末、微小球、フレーク、スポンジ、発泡体、布地、不織布、織布マット、被膜、縫合糸アンカー装置、縫合糸、ステープル、手術用タック、クリップ、プレート及びスクリュー、薬物送達装置、癒着予防バリア、並びに組織接着剤などの医療機器の製造に活用できるが、これらに限定されない。
【0065】
医療機器は、1種又は2種以上の本発明の抗菌性組成物から単独又は他のポリマー成分との組合せで構成してよい。
【0066】
上述のように、抗菌性金属は水性アルコール環境で、アニオン性ポリエステルと錯化することができる。1つの実施形態では、抗菌性金属を、医療機器などの基体を形成する前にアニオン性ポリエステルに組み込むことが可能である。別の実施形態では、医療機器などの基体の形成後に、抗菌性金属をアニオン性ポリエステルに組み込むことが可能である。例えば、アニオン性ポリエステルは、実施例1〜3に示したように、水性アルコール環境に分散した抗菌性金属で医療機器を浸漬、浸透、噴霧又は被覆することで抗菌性金属との錯化が可能である。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
アニオン性ポリエステルをε−カプロラクトン及びグリコリドの重合により、グリコール酸を開始剤とし、かつ下記の量の触媒を使用して、調製した。
【表1】

【0068】
アニオン性ポリエステルは、7%固体溶液を作製するために酢酸エチルに溶解した。その後、2/0のポリグラクチン910縫合糸を浸漬コーティング及び風乾した。縫合糸の被覆は、2.716重量%であった。
【0069】
アルミホイルで覆われた瓶の中で、脱イオン水201グラム及びイソプロパノール8グラムを混合した。その後、水性アルコール溶液に酢酸銀1.462グラムを加え、電磁攪拌器で1時間半混合した。さらにイソプロピルアルコール20グラムを加えて混合し、銀塩溶液を製造した。被覆した2/0ポリグラクチン910縫合糸を、銀塩溶液アリコート50グラムに室温で5時間、浸漬した。縫合糸は、脱イオン水で浸漬洗浄し、室温で真空乾燥させ、抗菌性組成物を被覆として有する縫合糸を製造した。アニオン性ポリエステルと銀との錯体における銀含有量は、30,480重量ppmと算出された。
【0070】
銀の大腸菌に対する最少阻害濃度(MIC)は、Bhargava,H.他がAmerican Journal of Infection Control、June 1996,pages 209〜218に述べているように、適した成長培地で測定した場合、10ppmである。特定の抗菌剤及び特定の病原菌についてのMICの定義は、その抗菌剤がなければその病原菌にとって適した成長培地を、その病原菌にとって不適切な成長培地にするために存在すべき抗菌剤の最低濃度、つまり、その病原菌の成長を阻害するための最低濃度である。
【0071】
このMICの実証例が、感受性のディスク拡散法に見出される。特定の抗菌性金属を前もって決められた量だけ浸透させた濾紙ディスク、又はその他の物体を、試験生物を接種した寒天培地に付着させる。抗菌性金属は培地内で拡散し、抗菌性金属の濃度が最少阻害濃度(MIC)を超えている間は、ディスク上又はディスクの回りの少し離れたところに感受性病原菌が成長することはない。この距離を阻止帯という。抗菌性金属が培地で拡散することを前提とした場合、抗菌剤を浸透させたディスクの回りに阻止帯が存在するということは、生物がその抗菌剤さえなければ満足のいく成長培地で抗菌性金属の存在により阻害されていることを示す。この阻止帯の直径はMICに反比例する。
【0072】
抗菌効果の評価は阻止帯分析により行い、ここで縫合糸を5センチに切断した。栄養寒天を収容するペトリ皿に約10cfu/mlで接種を行った。47℃で調整したTSA20mLの一部をペトリ皿に加えた。接種材料は成長培地と十分に混合し、縫合糸を皿の真ん中に置いた。接種された皿は、37℃で48時間インキュベートし、阻止帯をデジタルキャリパーで測定した。
【0073】
阻止帯分析は、2日間にわたり大腸菌に対して行われた。その結果、錯体を被覆として有する縫合糸は、大腸菌に対して、4.5mmの阻止帯を示し、これを12日間にわたり保持した。
【0074】
(実施例2)
カルボン酸基を含むポリカプロラクトンポリマーを、グリコール酸を開始剤比30で、かつ下記の量の触媒を活用して調製した。
【表2】

【0075】
アニオン性ポリエステルの分子量はMw=6600、かつHFIP中の固有粘度は0.4dl/gであった。
【0076】
アニオン性ポリエステルは酢酸エチルで溶解し、7%固体溶液を作製した。その後、0ポリエステル編組縫合糸をアニオン性ポリエステル/酢酸エチル溶液に浸漬し、その後で酢酸エチルを蒸発させた。縫合糸の被覆含有量は、2.65重量%であった。
【0077】
アニオン性ポリエステルで被覆した縫合糸をイソプロパノールに10分間浸漬した。その後、この縫合糸を酢酸銀0.943%及びイソプロパノール4.716%を含む酢酸銀水溶液に6時間浸漬した。縫合糸はその後、脱イオン水で洗浄して真空乾燥し、抗菌性組成物を被覆した縫合糸を製造した。アニオン性ポリエステルと銀との錯体に含まれる銀は、35,200重量ppmと算出された。
【0078】
抗菌効果の評価は、実施例1に述べられている阻止帯分析で行った。阻止帯分析は大腸菌に対して2日間にわたり行われた。その結果、錯体を被覆した縫合糸は、24時間後に大腸菌に対して6.8mmの阻止帯を示した。
【0079】
(実施例3)
ラクチド/グリコリド比65/35のアニオン性ポリエステルを、グリコール酸開始剤を使用して、単量体対開始剤モル比30で調製した。触媒はオクタン酸第一錫0.33モル含有トルエン溶液であった。モノマー/触媒モル比25,000を使用した。
【0080】
反応体の量は、
【表3】

【0081】
酢酸エチルにアニオン性ポリエステル及びステアリン酸カルシウムを含む被覆分散剤(共重合体4.5重量%及びステアリン酸カルシウム4.5重量%)を高剪断混合で調製した。2/0非被覆ポリグラクチン910縫合糸を懸濁液に浸漬被覆し、酢酸エチルは蒸発させた。縫合糸の被覆含有量は4.07重量%であった。
【0082】
アニオン性ポリエステルで被覆した縫合糸は、酢酸銀0.634%及びイソプロピルアルコール12.18%を含む酢酸銀水溶液に5時間浸漬した。これを脱イオン水で洗浄して真空乾燥し、抗菌性組成物を被覆として有する縫合糸を製造した。アニオン性ポリエステル及び銀との錯体に含まれる銀は27,700重量ppmであった。
【0083】
抗菌効果の評価は、実施例1に述べられている阻止帯分析で行った。阻止帯分析は、大腸菌に対して2日間にわたり行われた。その結果、錯体を被覆として有する縫合糸は、24時間後に大腸菌に対して1.7mmの阻止帯を示した。
【0084】
(実施例4)
この実施例では、アニオン性ポリエステルからアニオン性ポリマーと抗菌性金属との錯体への直接変換が、医療機器などの基体に定置する前に行われた。
【0085】
2つの試料、すなわち、本発明のアニオン性ポリエステル技術を使用した発明品試料と、同じ共重合体の非イオン性ポリエステルを使用した2つ目の例とを調製した。
【0086】
発明品試料
カプロラクトン/グリコリド比90/10で組成されたアニオン性ポリエステルをグリコール酸開始剤を使用して、単量体対開始剤のモル比43で合成した。下記の通り被膜を調製した。
【0087】
アニオン性ポリエステル2グラムを粉砕し、イソプロパノール0.3グラムで湿らせた。固体は次に、水10グラムに酢酸銀0.0619グラムを含む酢酸銀水溶液と混合した。2時間後、アニオン性ポリマーと銀との錯体を濾過により回収し、室温で真空乾燥した。錯体約1.5グラムを、テフロンで被覆した0.25mm(0.010インチ)の成形型に置いた。成形型は、フィルム形成を促進するために40℃の炉に約10分間入れた。
【0088】
比較試料
カプロラクトン/グリコリド比90/10で構成される非イオン性ポリエステルを、米国特許出願第2004/0153125号に述べられているように、マンニトールを開始剤として合成した。銀を、溶解した非イオン性ポリエステル被覆に分散する塩として付加し、被膜に変換した。混合物約1.5グラムをテフロンで被覆した0.25mm(0.010インチ)の成形型に置いた。成形型は、フィルム形成を促進するために40℃の炉に約10分間入れた。
【0089】
抗菌効果の評価は、実施例1に述べた阻止帯分析によるが、被膜は1平方センチの区分に切断した。阻止帯分析は、黄色ブドウ球菌、大腸菌及び緑膿菌に対し、2日間にわたり行った。結果を以下に示す。
【表4】

++ 中程度の阻害(試験物品の回りに小さいが透明帯を有する)
+ 低程度の阻害(試験物品の回りに不明確な透明帯を有する)
− 阻害なし(阻止帯なし)
(a)グリコール酸を開始剤とするCap/Gly(発明品試料)
(b)マンニトールを開始剤とするCap/Gly(比較試料)
【0090】
Log減少率
この試験では、被膜の片側が、約2000CFU/0.5平方センチの黄色ブドウ球菌を含む10uL生理食塩水と20%血清に60分間さらされた。log減少とは、黄色ブドウ球菌への曝露の有無による試験物品の細菌数の違いである。この試験は、非成長条件で、短時間での細菌個体群の減少を測定する。
【表5】

(a)グリコール酸を開始剤とするCap/Gly(発明品試料)
(b)マンニトールを開始剤とするCap/Gly(比較試料)
【0091】
したがって、データは、ポリマーマトリックスに混合物として分散した抗菌性塩に比べ、本発明の抗菌性アニオン性ポリエステル錯体の有効性が改善されていることを示す。
【0092】
〔実施の態様〕
(1) アニオン性ポリエステルと抗菌性金属とのイオン性錯体を含む抗菌性組成物であって、前記アニオン性ポリエステルが約0.19meq/g〜約1.0meq/gのイオン交換容量を有する、抗菌性組成物。
(2) 前記アニオン性ポリエステルが約3.32×10−21〜約1.20×10−20g(約2000〜約7200ダルトン)の重量平均分子量(Mw)を有する、実施態様1に記載の抗菌性組成物。
(3) 前記組成物が約20,000重量ppm〜約96,000重量ppmの前記抗菌性金属を含む、実施態様1に記載の抗菌性組成物。
(4) 前記アニオン性ポリエステルが有機金属の触媒及びアニオン開始剤の存在下で重合させた脂肪族ラクトン単量体の開環重合から調製される、実施態様1に記載の抗菌性組成物。
(5) 前記脂肪族ラクトン単量体が、グリコリド、炭酸トリメチレン、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、メソラクチド、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン、1,3−ジオキサン−2−オン、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルフォリン、ピバロラクトン、α,α−ジエチルプロピオラクトン、炭酸エチレン、シュウ酸エチレン、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、6,6−ジメチル−ジオキセパン−2−オン、6,8−ジオキサビシクロクタン−7−オン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、実施態様4に記載の抗菌性組成物。
(6) 前記アニオン開始剤が、α−ヒドロキシ酸、グリコール酸、D−乳酸、DL−乳酸、L−乳酸、β−ヒドロキシ酸、γ−ヒドロキシ酸、δ−ヒドロキシ酸、ε−ヒドロキシ酸、ε−ヒドロキシカプロン酸、ポリヒドロキシ酸、酒石酸、クエン酸、及びグルクロン酸(glucoronic acid)からなる群から選択される、実施態様4に記載の抗菌性組成物。
(7) 前記ラクトン単量体対開始剤のモル比が約10〜30である、実施態様4に記載の抗菌性組成物。
(8) 前記抗菌性金属が、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Sn、Cu、Sb、Bi、Zn、Ni、Mg、及びMnからなる群から選択される、実施態様1に記載の抗菌性組成物。
(9) 前記抗菌性金属が銀である、実施態様8に記載の抗菌性組成物。
(10) 前記抗菌性金属が銀である、実施態様3に記載の抗菌性組成物。
【0093】
(11) 抗菌性組成物を有する医療機器であり、前記抗菌性組成物がアニオン性ポリエステルと抗菌性金属とのイオン性錯体を含み、前記アニオン性ポリエステルが約0.19meq/g〜約1.0meq/gのイオン交換容量を有する、医療機器。
(12) 繊維、メッシュ、粉末、微小球、フレーク、スポンジ、発泡体、布地、不織布、織布マット、被膜、縫合糸アンカー装置、縫合糸、カテーテル、ステープル、手術用タック、クリップ、プレート及びスクリュー、薬物送達装置、癒着予防バリア、並びに組織接着剤の形態をとる、実施態様11に記載の医療機器。
(13) 前記アニオン性ポリエステルが約3.32×10−21〜約1.20×10−20g(約2000〜約7200ダルトン)の重量平均分子量(Mw)を有する、実施態様11に記載の医療機器。
(14) 前記組成物が約20,000重量ppm〜約96,000重量ppmの前記抗菌性金属を含む、実施態様11に記載の医療機器。
(15) アニオン性ポリエステルと抗菌性金属とのイオン性錯体を作製する方法であり、
1つ又は2つ以上の脂肪族ラクトン単量体の開環重合を、有機金属の触媒及びアニオン開始剤の存在下で、ラクトン単量体対開始剤のモル比が約10〜30の状態で実施することと、
イオン交換容量が約0.19meq/g〜約1.0meq/gの前記アニオン性ポリエステルを回収することと、
前記アニオン性ポリエステルのカルボン酸基と前記抗菌性金属との間でイオン交換を実施することと、
前記アニオン性ポリエステル及び前記抗菌性金属の前記イオン性錯体を回収することと、を含む、方法。
(16) 前記脂肪族ラクトン単量体が、グリコリド、炭酸トリメチレン、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、メソラクチド、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン、1,3−ジオキサン−2−オン、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルフォリン、ピバロラクトン、α,α−ジエチルプロピオラクトン、炭酸エチレン、シュウ酸エチレン、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、6,6−ジメチル−ジオキセパン−2−オン、6,8−ジオキサビシクロクタン−7−オン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、実施態様15に記載の方法。
(17) 前記アニオン開始剤が、α−ヒドロキシ酸、グリコール酸、D−乳酸、DL−乳酸、L−乳酸、β−ヒドロキシ酸、γ−ヒドロキシ酸、δ−ヒドロキシ酸、ε−ヒドロキシ酸、ε−ヒドロキシカプロン酸、ポリヒドロキシ酸、酒石酸、クエン酸、及びグルクロン酸からなる群から選択される、実施態様15に記載の方法。
(18) 前記抗菌性金属が、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Sn、Cu、Sb、Bi、Zn、Ni、Mg、及びMnからなる群から選択される、実施態様15に記載の方法。
(19) 前記抗菌性金属が銀である、実施態様15に記載の方法。
(20) 前記イオン交換が、前記抗菌性金属の、エタノール、n−プロピルアルコール、及びイソプロピルアルコールからなる群から選択される水溶性アルコール溶液中で実施される、実施態様15に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性ポリエステルと抗菌性金属とのイオン性錯体を含む抗菌性組成物であって、前記アニオン性ポリエステルが約0.19meq/g〜約1.0meq/gのイオン交換容量を有する、抗菌性組成物。
【請求項2】
前記アニオン性ポリエステルが約3.32×10−21〜約1.20×10−20g(約2000〜約7200ダルトン)の重量平均分子量(Mw)を有する、請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項3】
前記組成物が約20,000重量ppm〜約96,000重量ppmの前記抗菌性金属を含む、請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項4】
前記アニオン性ポリエステルが有機金属の触媒及びアニオン開始剤の存在下で重合させた脂肪族ラクトン単量体の開環重合から調製される、請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項5】
前記脂肪族ラクトン単量体が、グリコリド、炭酸トリメチレン、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、メソラクチド、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン、1,3−ジオキサン−2−オン、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルフォリン、ピバロラクトン、α,α−ジエチルプロピオラクトン、炭酸エチレン、シュウ酸エチレン、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、6,6−ジメチル−ジオキセパン−2−オン、6,8−ジオキサビシクロクタン−7−オン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項4に記載の抗菌性組成物。
【請求項6】
前記アニオン開始剤が、α−ヒドロキシ酸、グリコール酸、D−乳酸、DL−乳酸、L−乳酸、β−ヒドロキシ酸、γ−ヒドロキシ酸、δ−ヒドロキシ酸、ε−ヒドロキシ酸、ε−ヒドロキシカプロン酸、ポリヒドロキシ酸、酒石酸、クエン酸、及びグルクロン酸からなる群から選択される、請求項4に記載の抗菌性組成物。
【請求項7】
前記ラクトン単量体対開始剤のモル比が約10〜30である、請求項4に記載の抗菌性組成物。
【請求項8】
前記抗菌性金属が、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Sn、Cu、Sb、Bi、Zn、Ni、Mg、及びMnからなる群から選択される、請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項9】
前記抗菌性金属が銀である、請求項8に記載の抗菌性組成物。
【請求項10】
前記抗菌性金属が銀である、請求項3に記載の抗菌性組成物。
【請求項11】
抗菌性組成物を有する医療機器であり、前記抗菌性組成物がアニオン性ポリエステルと抗菌性金属とのイオン性錯体を含み、前記アニオン性ポリエステルが約0.19meq/g〜約1.0meq/gのイオン交換容量を有する、医療機器。
【請求項12】
繊維、メッシュ、粉末、微小球、フレーク、スポンジ、発泡体、布地、不織布、織布マット、被膜、縫合糸アンカー装置、縫合糸、カテーテル、ステープル、手術用タック、クリップ、プレート及びスクリュー、薬物送達装置、癒着予防バリア、並びに組織接着剤の形態をとる、請求項11に記載の医療機器。
【請求項13】
前記アニオン性ポリエステルが約3.32×10−21〜約1.20×10−20g(約2000〜約7200ダルトン)の重量平均分子量(Mw)を有する、請求項11に記載の医療機器。
【請求項14】
前記組成物が約20,000重量ppm〜約96,000重量ppmの前記抗菌性金属を含む、請求項11に記載の医療機器。
【請求項15】
アニオン性ポリエステルと抗菌性金属とのイオン性錯体を作製する方法であり、
1つ又は2つ以上の脂肪族ラクトン単量体の開環重合を、有機金属の触媒及びアニオン開始剤の存在下で、ラクトン単量体対開始剤のモル比が約10〜30の状態で実施することと、
イオン交換容量が約0.19meq/g〜約1.0meq/gの前記アニオン性ポリエステルを回収することと、
前記アニオン性ポリエステルのカルボン酸基と前記抗菌性金属との間でイオン交換を実施することと、
前記アニオン性ポリエステル及び前記抗菌性金属の前記イオン性錯体を回収することと、を含む、方法。
【請求項16】
前記脂肪族ラクトン単量体が、グリコリド、炭酸トリメチレン、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、メソラクチド、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン、1,3−ジオキサン−2−オン、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルフォリン、ピバロラクトン、α,α−ジエチルプロピオラクトン、炭酸エチレン、シュウ酸エチレン、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、6,6−ジメチル−ジオキセパン−2−オン、6,8−ジオキサビシクロクタン−7−オン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アニオン開始剤が、α−ヒドロキシ酸、グリコール酸、D−乳酸、DL−乳酸、L−乳酸、β−ヒドロキシ酸、γ−ヒドロキシ酸、δ−ヒドロキシ酸、ε−ヒドロキシ酸、ε−ヒドロキシカプロン酸、ポリヒドロキシ酸、酒石酸、クエン酸、及びグルクロン酸からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記抗菌性金属が、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Sn、Cu、Sb、Bi、Zn、Ni、Mg、及びMnからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記抗菌性金属が銀である、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記イオン交換が、前記抗菌性金属の、エタノール、n−プロピルアルコール、及びイソプロピルアルコールからなる群から選択される水溶性アルコール溶液中で実施される、請求項15に記載の方法。

【公表番号】特表2013−517060(P2013−517060A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549076(P2012−549076)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2011/021119
【国際公開番号】WO2011/088205
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(591286579)エシコン・インコーポレイテッド (170)
【氏名又は名称原語表記】ETHICON, INCORPORATED
【Fターム(参考)】