説明

抗菌性医療用具およびその製造方法

【課題】 溶媒として水を用いて、抗菌剤だけを含ませることにより、抗菌効果を継続的に発揮できるとともに、より安全な抗菌性医療用具およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 塩酸ミノサイクリン12を水に溶解して70℃以上に加熱した塩酸ミノサイクリン水溶液に、ポリウレタンからなる基材11を浸漬して基材11に塩酸ミノサイクリン12を包含させたのちに乾燥して水分を除去することにより抗菌性を備えたカテーテル10を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗生物質や合成抗菌薬からなる抗菌剤が付与された抗菌性医療用具およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、手術の前後や体力の消耗がいちじるしい患者、または口からの栄養摂取ができない低栄養状態にある患者を対象として行われる中心静脈栄養や、腎不全に陥った患者が尿毒症になることを防止するために行われる人工透析等を行う際には、血管内留置カテーテルが用いられる。このような体内に留置されるカテーテルにバクテリアやかび等の菌が発生すると感染症の原因になる。このため、カテーテルのように体内に留置される医療用具の中には、表面に抗生物質や合成抗菌薬などの抗菌作用を備えた抗菌剤が付与され、体内に留置されているときに抗菌作用を発揮する医療用具もある。しかしながら、表面に抗菌剤が付与された医療用具では、時間の経過とともにその抗菌効果が低下していく。このため、表面だけでなく内部にも抗菌剤を浸透させて長期間にわたって継続的に抗菌剤を徐放する医療用具も開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この医療用具(医学移植物)では、有機溶剤中に抗菌剤を溶解して、その溶液に浸透剤を加えることにより抗菌組成物を形成し、さらにその抗菌組成物にアルカリ化剤を加え、約30℃から約70℃の温度に加熱したのちに医療用具に塗布している。このように、抗菌組成物に浸透剤を含ませることによって、抗菌組成物を医療用具に効果的に浸透させることができ、アルカリ化剤を加えることにより医療用具の抗菌組成物に対する反応性を高めることができる。さらに、抗菌組成物を医療用具に塗布する前に、約30℃から約70℃の温度に加熱することにより医療用具への抗菌組成物の吸収効果を高めることができる。
【0004】
しかしながら、前述した抗菌組成物に含まれる有機溶剤は、一般に、特有の臭いや引火性があり、揮発し易く、さらに、毒性も備えているものもある。このため、有機溶剤の取り扱いに際しては、種々の注意が必要となる他、法令による取扱規制もある。例えば、有機溶剤の貯蔵、空き容器の処理、換気装置等に関する種々の設備や、マスク、保護衣類等の保護具に関しては細心の注意や法令順守が必要となる。これによって、医療用具の製造コストが高くつくという問題も生じる。
【0005】
また、有機溶剤は、例えば、カテーテルを構成するポリウレタンやポリ塩化ビニル等の材料を膨潤させる作用を備えているため、材料中に抗菌組成物を効果的に浸透させることができ、抗菌組成物を加熱することによりその効果はさらに大きくなる。しかしながら、抗菌組成物を加熱することにより有機溶剤がより揮発しやすくなり、作業環境が悪化するという問題や、膨潤した材料からなる複数のカテーテルを互いに接触させた状態で処理すると、カテーテルどうしが付着してしまうという問題も生じる。さらに、製造後の医療用具中に有機溶剤が残留する虞もある。このため、体内に留置中に長期間にわたって継続的に抗菌剤を徐放する機能を備えるとともに、取り扱いが容易で、作業環境や医療用具自体にも悪影響のない医療用具やその製造方法が望まれていた。
【発明の概要】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものでその目的は、溶媒として水を用いて、抗菌剤だけを含ませることにより、抗菌効果を継続的に発揮できるとともに、より安全な抗菌性医療用具およびその製造方法を提供することである。
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明に係る抗菌性医療用具の構成上の特徴は、β−ラクタム系の抗生物質、蛋白質合成阻害薬からなる抗生物質、ピリドンカルボン酸系の合成抗菌薬およびオキサゾリジノン系の合成抗菌薬の中から選択される水溶性抗菌剤を水に溶解して70℃以上の温度に加熱した抗菌剤水溶液に、ポリウレタンからなる基材を浸漬して基材に水溶性抗菌剤を包含させたのちに基材を乾燥して水分を除去することにより得られることにある。
【0008】
この場合、β−ラクタム系の抗生物質としては、ペニシリン系(例えば、ペニシリン)、βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系(例えば、アンピシリン)、セフェム系(例えば、セファゾリン)、βラクタマーゼ阻害剤配合セフェム系(例えば、セフォペラゾン)、カルバぺネム系(例えば、イミペネム)、モノバクタム系(例えば、アズトレオナム)の水溶性抗菌剤を用いることができる。また、蛋白質合成阻害薬からなる抗生物質としては、アミノグリコシド系(例えば、アミカシン)、テトラサイクリン系(例えば、ミノサイクリン)、クロラムフェニコール系(例えば、クロラムフェニコール)、マクロライド系(例えば、エリスロマイシン)、ケトライド系(例えば、テリスロマイシン)、グリコペプチド系(例えば、バンコマイシン)、核酸系(例えば、ホスミドシン)、葉酸代謝阻害剤(例えば、ST合剤)の水溶性抗菌剤を用いることができる。
【0009】
さらに、合成抗菌薬(核酸合成阻害)としては、ピリドンカルボン酸系のキノロン系(例えば、ナリジクス酸)およびニューキノロン系(例えば、ノルフロキサシン)の水溶性抗菌剤や、オキサゾリジノン系(例えば、リネゾリド)の水溶性抗菌剤を用いることができる。これらの中でも、セフェム系(例えば、セファゾリン)、カルバぺネム系(例えば、イミペネム)、アミノグリコシド系(例えば、アミカシン)、テトラサイクリン系(例えば、ミノサイクリン)、グリコペプチド系(例えば、バンコマイシン)、ニューキノロン系(例えば、ノルフロキサシン)、オキサゾリジノン系(例えば、リネゾリド)の水溶性抗菌剤を用いることがより好ましい。
【0010】
前述のように構成した抗菌性医療用具では、ポリウレタンからなる基材の内部に水溶性抗菌剤の分子が分散された状態で含まれている。したがって、抗菌性医療用具を体内に留置したときに抗菌性医療用具の表面に水溶性抗菌剤が存在することで、水溶性抗菌剤による抗菌作用が生じて菌の発生または増殖を抑制し、感染症を軽減することができる。また、前述した各種の水溶性抗菌剤は水に溶ける性質を有している。このため、水溶性抗菌剤を溶解した抗菌剤水溶液に、ポリウレタンからなる基材を浸漬することにより、基材に水溶性抗菌剤を浸透させて包含させることができる。この場合、水を70℃以上の温度に加熱しておくことにより、基材に水溶性抗菌剤を浸透させて包含させることができる。
【0011】
これは、基材が加熱されることによって、ミクロブラウン運動が活発化しポリウレタンの分子が流動性を持つことによるもので、これによって、基材内に抗菌剤水溶液が浸入していくものと考えられる。よって通常、水には溶解したり膨潤したりしないポリウレタンからなる基材に対して、抗菌剤水溶液を浸透させることができる。本願発明者等の実験によると、抗菌剤水溶液の温度が70℃よりも低い場合は、基材に良好な抗菌性を持たせることができなかったが、抗菌剤水溶液の温度を70℃以上にした場合は、基材に良好な抗菌性を持たせることができた。このため、基材を構成する材料として、ポリウレタンを用いた場合には、抗菌剤水溶液の温度が約70℃のときが、基材に抗菌性を持たせることができる範囲と、基材に抗菌性を持たせることができない範囲との境界であると考えられる。
【0012】
なお、基材に水溶性抗菌剤を包含させることだけに限れば、ミクロブラウン運動をより活発にするため抗菌剤水溶液の温度を70℃以上の範囲の中でもより高い方の温度にすることが好ましいが、水が沸騰する100℃近くになると基材を構成するポリウレタンが変質して硬化することがある。このため、基材への抗菌剤水溶液の浸透および基材の変質防止の双方から鑑みて、抗菌剤水溶液の温度は75℃〜90℃程度に設定することが好ましく、さらに好ましいのは、作業者に影響する環境の諸条件や水の蒸発等の作業性を考慮して75℃〜80℃程度に設定することである。さらに、前述した各種の水溶性抗菌剤は、いずれも人体に与える副作用が比較的少ないという特性を備えている。
【0013】
また、本発明に係る抗菌性医療用具の他の構成上の特徴は、水溶性抗菌剤が、塩酸ミノサイクリンであることにある。塩酸ミノサイクリンは、テトラサイクリン系抗生物質であり、人体に与える副作用が少ないという特性を備えており、抗菌剤として用いるのに好適である。
【0014】
また、本発明に係る抗菌性医療用具のさらに他の構成上の特徴は、基材を浸漬する抗菌剤水溶液に抗血栓性物質を含ませたことにある。この場合の抗血栓性物質としては、クエン酸ナトリウムやEDTAを用いることができる。これによると、抗菌性に加えて、抗血栓性も備えた抗菌性医療用具を得ることができる。抗菌性医療用具が、血管内に留置されるカテーテル等である場合にはより効果的なものとなる。
【0015】
また、本発明に係る抗菌性医療用具においては、抗菌性医療用具が、カテーテルまたはチューブであることが好ましい。これによると、良好な抗菌性を備えたカテーテルまたはチューブを得ることができる。また、抗菌剤水溶液に抗血栓性物質を含ませることにより、カテーテルまたはチューブは、抗血栓性も備えたものとなる。
【0016】
本発明に係る抗菌性医療用具の製造方法の構成上の特徴は、β−ラクタム系の抗生物質、蛋白質合成阻害薬からなる抗生物質、ピリドンカルボン酸系の合成抗菌薬およびオキサゾリジノン系の合成抗菌薬の中から選択される水溶性抗菌剤を水に溶解して抗菌剤水溶液を調製する溶液調製工程と、抗菌剤水溶液を70℃以上の温度に加熱する加熱工程と、70℃以上の温度に加熱された抗菌剤水溶液にポリウレタンからなる基材を浸漬して基材に水溶性抗菌剤を包含させる抗菌剤包含工程と、水溶性抗菌剤が包含された基材を乾燥して水分を除去する乾燥工程とを備えたことにある。
【0017】
本発明によると、まず、水溶性抗菌剤を水に溶解することにより抗菌剤水溶液を得ることができる。ついで、その抗菌剤水溶液を70℃以上の温度に加熱したのちに、加熱された抗菌剤水溶液中にポリウレタンからなる基材を浸漬することにより、基材の各部分に水溶性抗菌剤が入り込む。ポリウレタンは、抗菌剤水溶液中に浸漬されて加熱されることでミクロブラウン運動が活発化する性質を備えている。このため、水溶性抗菌剤は基材の高分子間の隙間に入り込んでいく。つぎに、水溶性抗菌剤が入りこんだ基材から乾燥により水分を除去することにより、高分子間に入り込んだ水溶性抗菌剤が高分子間に閉じ込められた状態に維持される。
【0018】
そして、この高分子間に閉じ込められた水溶性抗菌剤の分子は、微細な状態で分散し、基材に構造的、物理的に包含され、抗菌性医療用具の使用の際に、抗菌性医療用具の表面に存在することで抗菌作用を発揮する。なお、乾燥工程において行われる水分の除去としては、自然乾燥でもよいし、加熱による乾燥処理でもよい。このように、本発明に係る製造方法においては、溶媒として、水を用いているため、溶媒として有機溶媒を用いたときに必要となる有機溶剤の貯蔵、空き容器の処理、換気装置等のための各種の設備や、マスク、保護衣類等の保護具は不要になる。このため、各工程における作業が容易になるとともに、低コスト化が図れる。また、溶媒として水を用いているため、複数の基材を接触させた状態で処理を行っても、基材どうしが付着してしまうこともない。
【0019】
また、本発明に係る抗菌性医療用具の製造方法においても、水溶性抗菌剤が、塩酸ミノサイクリンであることが好ましく、溶液調製工程においては、抗菌剤水溶液に抗血栓性物質を含ませることができる。また、抗菌性医療用具は、カテーテルまたはチューブであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】基材に塩酸ミノサイクリンを含ませる状態を示しており、(a)は基材の正面図、(b)は基材に塩酸ミノサイクリンを包含させた状態を示した正面図である。
【図2】実施例に係る検体の実験結果を示した説明図である。
【図3】比較例1に係る検体の実験結果を示した説明図である。
【図4】比較例2に係る検体の実験結果を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る抗菌性医療用具およびその製造方法を、図1を用いて説明する。図1(b)は本発明の一実施形態に係る抗菌性医療用具としてのカテーテル10の正面(端面で断面も同じ形状になる。)を示している。このカテーテル10は、ポリウレタンからなる長尺円筒状の基材11の内部全体に微細な塩酸ミノサイクリン12を分散させた状態で含ませて構成されている。このカテーテル10は、経皮的に体内に導入されて所定期間体内に留置されるもので、このカテーテル10を介して体外から体内に栄養剤、血液、薬液等が供給される。したがって、このカテーテル10は、体外と体内とをつないでおり細菌感染防止の観点から少なくとも表面に抗菌性が付与される必要性が大きい。
【0022】
このカテーテル10を製造する際には、まず、ポリウレタンを材料として成形することにより、正面形状(端面形状で断面形状も同じ形状になる。)が図1(a)のようになった長尺円筒状の基材11を形成した後に、溶液調製工程を行う。この溶液調製工程では、塩酸ミノサイクリン12を水に溶解することにより本発明に係る抗菌剤水溶液としての塩酸ミノサイクリン水溶液を調製する。この塩酸ミノサイクリン水溶液中の塩酸ミノサイクリン12の含有量は、例えば、3.7重量%とする。ついで、加熱工程において、塩酸ミノサイクリン水溶液を70℃以上、例えば75℃に加熱する。
【0023】
ついで、抗菌剤包含工程を行う。抗菌剤包含工程では、塩酸ミノサイクリン水溶液中に基材11を所定時間浸漬することにより、ミクロブラウン運動が活発になった基材11の隙間の部分に塩酸ミノサイクリン12を浸透させて包含させる処理が行われる。基材11を構成するポリウレタンが、加熱された塩酸ミノサイクリン水溶液中に浸漬されることによりポリウレタン分子に流動運動が生じ、塩酸ミノサイクリン12はこのポリウレタン高分子間の隙間に入り込むことができるようになる。
【0024】
つぎに、カテーテル10を塩酸ミノサイクリン水溶液から引き上げた後に、乾燥工程において乾燥処理を行う。乾燥工程では室温による自然乾燥が行われ、これによって、基材11から水分が除去される。これによって、図1(b)に示したカテーテル10が得られる。この水分の除去によって、高分子間に入り込んだ塩酸ミノサイクリン12が高分子間に閉じ込められた状態に維持される。そして、この高分子間に閉じ込められた塩酸ミノサイクリン12は、基材11に構造的、物理的に包含される。このようにして得られるカテーテル10の抗菌効果について、以下に実施例および比較例1,2を用いて説明する。
【0025】
[実施例]
実施例では、カテーテル10の製造を前述した実施形態とは若干異なる方法で行った。ここでは、まず、直径が12G(外径約2.5mm、内径約1.7mm)で、全長が20cmの脂肪族のポリウレタン(商品名:Tecoflex、Noveon社製)からなるチューブ状の基材11を用意した。ついで、水中に、塩酸ミノサイクリン(Archimica社製)を3.7重量%含む塩酸ミノサイクリン水溶液を用意した。
【0026】
つぎに、塩酸ミノサイクリン水溶液を75℃の温度に加熱し、加熱された塩酸ミノサイクリン水溶液中に基材11を30分間浸漬し、基材11の隙間の部分に塩酸ミノサイクリン12を包含させた。そして、塩酸ミノサイクリン12が包含されたカテーテル10を塩酸ミノサイクリン水溶液から引き上げた後に、室温で一晩(16時間)乾燥させることにより、塩酸ミノサイクリン12を含むカテーテル10を得た。このカテーテル10を製造する際に、室内の雰囲気等の環境の変化や作業者への影響の変化は認められず、特別な保護具を使用することもないため、作業性の低下はなかった。
【0027】
[比較例1]
比較例1では、直径が12G(外径約2.5mm、内径約1.7mm)で、全長が20cmの脂肪族のポリウレタン(商品名:Tecoflex、Noveon社製)からなるチューブ状の基材を用意した。ついで、メタノール中に、塩酸ミノサイクリン(Archimica社製)を3.7重量%含む塩酸ミノサイクリン溶液を用意した。つぎに、室温のミノサイクリン溶液中に基材を1時間浸漬し、基材を膨潤させるとともに、基材の膨潤した部分に塩酸ミノサイクリンを包含させた。
【0028】
そして、膨潤するとともに塩酸ミノサイクリンが包含された膨張カテーテルを塩酸ミノサイクリン溶液から引き上げた後に、60℃の雰囲気中で3時間加熱してメタノールを揮発させて膨潤カテーテルを乾燥することにより、膨張基材の膨潤を解消させて塩酸ミノサイクリンを含むカテーテルを得た。この比較例1によるカテーテル10を製造する際に、作業者はメタノールの臭気や目などの刺激から保護するための保護具を身につけなければならず、そのため作業性の低下が見られた。
【0029】
[比較例2]
比較例2では、水中に、塩酸ミノサイクリン(Archimica社製)を3.7重量%含む塩酸ミノサイクリン水溶液を60℃の温度に加熱し、加熱された塩酸ミノサイクリン水溶液中に基材を30分間浸漬した。それ以外は、実施例と同一の処理によってカテーテルを得た。この比較例2によるカテーテルを製造する際に、室内の雰囲気等の環境の変化や作業者への影響の変化は認められなかった。
【0030】
そして、得られた実施例、比較例1および比較例2のカテーテル10等に対してそれぞれ下記のような抗菌性試験を行った。この抗菌性試験においては、まず、実施例のカテーテル10から検体A(図2参照)、比較例1のカテーテルから検体B(図3参照)、比較例2のカテーテルから検体C(図4参照)をそれぞれ作成した。この検体A,B,Cとしては、前述した処理によって得られた各カテーテル10等からそれぞれ切り出した長さが1cmのものを3個ずつ用いた。
【0031】
つぎに、被験菌である黄色ブドウ球菌をSCD(ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト)寒天培地上で、37℃の温度で24時間培養した。そして、培養した被験菌を、滅菌した生理食塩水で約107CFU/ml相当に懸濁して菌体の懸濁液とした。ついで、阻止円形成用の培地としてのSCD寒天培地を三角フラスコ中で高圧蒸気滅菌したのちに、湯浴中で50℃まで冷却した。冷却後、1/10容の菌体懸濁液をSCD寒天培地に入れて、被験菌の菌株を含有した寒天培地を作成した。つぎに、直径が8cmの複数の滅菌済みシャーレ14(図2ないし図4参照)にそれぞれ被験菌株含有寒天培地を入れ、各シャーレ14内でこの被験菌株含有寒天培地を固化した。
【0032】
被験菌株含有寒天培地を固化した後に、被験菌株含有寒天培地の中央に、検体A,B,Cの外径と同程度の穴をそれぞれ形成し、各穴に検体A,B,Cを立てた状態で挿入した。そして、さらに、その上に、被験菌株含有寒天培地を入れて固化した。このようにして、種類が異なるそれぞれの検体A,B,Cをそれぞれはめ込んだ被験菌株含有寒天培地を作製し、温度37℃で24時間培養した。培養後、各シャーレ14の写真を記録用に撮るとともに、検体A,B,Cにより形成される阻止円15(図2参照),16(図3参照)の実物の大きさを比較した。
【0033】
図2および図3の中央に表れている被験菌が増殖せず、また死滅した部分を示す円形部分が阻止円15,16であり、図2,3は抗菌効果がある場合の結果を示している。また、図4には、阻止円は表れてなく、図4は抗菌効果が殆どない場合の結果を示している。なお、図2は検体Aの一例を示し、図3は検体Bの一例を示し、図4は検体Cの一例を示している。また、阻止円の実測値による直径は、検体Aにおいては、それぞれ23.5mm、23.0mm、23.5mmであり、検体Bにおいては、それぞれ31.0mm、31.0mm、30.0mmであった。そして、検体Cにおいては、阻止円は形成されなかった。
【0034】
以上の結果から、実施例によるカテーテル10は、比較例2のカテーテルよりも抗菌性に優れ、比較例1のカテーテルと比較すると抗菌効果は僅かに小さいといえる。すなわち、実施例によるカテーテル10と比較例1によるカテーテルとは、優れた抗菌効果を備えており、長期間にわたって適切な抗菌効果を発揮できるものである。しかしながら、前述した製造工程においては、実施例が無害で作業性の低下が見られないのに対し比較例1では多少作業性の低下が見られる。
【0035】
なお、本発明は、前述した実施形態に限らず変更実施が可能である。例えば、前述した実施形態では、水溶性抗菌剤として塩酸ミノサイクリンを用いているが、これに代えて、ペニシリン、アンピシリン、セファゾリン、セフォペラゾン、イミペネム、アズトレオナム、アミカシン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、テリスロマイシン、バンコマイシン、ホスミドシン、ST合剤、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、リネゾリド等を用いることができる。また、その中でも、特に、セファゾリン、イミペネム、アミカシン、バンコマイシン、ノルフロキサシン、リネゾリドを用いることがより好ましい。
【0036】
また、塩酸ミノサイクリン水溶液の温度も75℃に限らず、70℃以上の範囲で適宜変更して設定することができる。さらに、カテーテル10における水溶性抗菌剤を包含させる部分は、カテーテル10の一部であっても全部であってもよい。また、抗菌性医療用具としては、カテーテルに限らず、体内に留置したり付着したりして使用されるものであればその他の医療用具であってもよい。さらに、基材11を浸漬する塩酸ミノサイクリン水溶液に、クエン酸ナトリウムやEDTA等の抗血栓性物質を含ませることもできる。この場合の抗血栓性物質の塩酸ミノサイクリン水溶液中の含有量は、塩酸ミノサイクリンと同程度の3.7重量%程度にする。これによると、カテーテル10中に、クエン酸ナトリウムやEDTAが長期に渡って存在し、抗血栓性を効果的に発現するようになる。
【0037】
また、製造工程の最終工程として、滅菌工程を行うこともできる。その場合、カテーテル10を包装しその状態のカテーテル10を所定の装置内に配置してその装置内にエチレンオキサイドガスを送り込むことにより行う。これによって、カテーテル10が滅菌される。また、エチレンオキサイドガス滅菌を選択することによって、塩酸ミノサイクリン12が変性し難くなり、カテーテル10の抗菌性の劣化が起こり難くなるという効果も生じる。
【符号の説明】
【0038】
10…カテーテル、11…基材、12…塩酸ミノサイクリン。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0039】
【特許文献1】特表平11−504241号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−ラクタム系の抗生物質、蛋白質合成阻害薬からなる抗生物質、ピリドンカルボン酸系の合成抗菌薬およびオキサゾリジノン系の合成抗菌薬の中から選択される水溶性抗菌剤を水に溶解して70℃以上の温度に加熱した抗菌剤水溶液に、ポリウレタンからなる基材を浸漬して前記基材に前記水溶性抗菌剤を包含させたのちに前記基材を乾燥して水分を除去することにより得られる抗菌性医療用具。
【請求項2】
前記水溶性抗菌剤が、塩酸ミノサイクリンである請求項1に記載の抗菌性医療用具。
【請求項3】
前記基材を浸漬する抗菌剤水溶液に抗血栓性物質を含ませた請求項1または2に記載の抗菌性医療用具。
【請求項4】
β−ラクタム系の抗生物質、蛋白質合成阻害薬からなる抗生物質、ピリドンカルボン酸系の合成抗菌薬およびオキサゾリジノン系の合成抗菌薬の中から選択される水溶性抗菌剤を水に溶解して抗菌剤水溶液を調製する溶液調製工程と、
前記抗菌剤水溶液を70℃以上の温度に加熱する加熱工程と、
70℃以上の温度に加熱された前記抗菌剤水溶液にポリウレタンからなる基材を浸漬して前記基材に前記水溶性抗菌剤を包含させる抗菌剤包含工程と、
前記水溶性抗菌剤が包含された基材を乾燥して水分を除去する乾燥工程と
を備えたことを特徴とする抗菌性医療用具の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性抗菌剤が、塩酸ミノサイクリンである請求項4に記載の抗菌性医療用具の製造方法。
【請求項6】
前記溶液調製工程において、前記抗菌剤水溶液に抗血栓性物質を含ませる請求項4または5に記載の抗菌性医療用具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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