抗血栓活性物質及びグリコカリシンの検出法
【課題】フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を簡便に検出する方法及びそれに用いる手段が提供される。
【解決手段】反応容器にボトロセチンの存在下で固定化したフォンビルブランド因子に、グリコプロテインIbのフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質のカルボキシル末端にイムノグロブリン分子のFc部分のアミノ末端を融合させてなるキメラ蛋白質を結合させ、前記イムノグロブリン分子のFc部分を検出することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する。
【解決手段】反応容器にボトロセチンの存在下で固定化したフォンビルブランド因子に、グリコプロテインIbのフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質のカルボキシル末端にイムノグロブリン分子のFc部分のアミノ末端を融合させてなるキメラ蛋白質を結合させ、前記イムノグロブリン分子のFc部分を検出することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗血栓活性物質及びグリコカリシンの検出法に関し、詳しくは、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を阻害する物質を検出または測定する方法、及び該方法の実施に直接使用する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞、脳梗塞あるいは末梢動脈閉塞症等の血栓症は、その患者数が世界的にも非常に多く、診断、治療すべき重要な疾患である。これら血栓症の発症には血小板が重要な役割を果たしている。一般に動脈硬化性病変等により血管の内腔に存在する血管内皮細胞が障害されると、障害部位に血小板が粘着して活性化を起こし、血小板による血小板血栓が生じ、最終的に閉塞性の病変へと進展する。
【0003】
血小板の活性化を検出する方法の一つに、血漿中のグリコカリシン濃度を測定する方法がある。グリコカリシンは、血小板表面上に存在する膜糖蛋白質であるグリコプロテインIbα鎖の細胞外部分が酵素的に切断された蛋白質であり、分子量約135KDaの大きさを持つ。血漿中のグリコカリシン濃度は血小板の障害あるいは活性化により上昇することが知られており、現在臨床診断において血栓性疾患の有無を検出するマーカーとして使用されている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
グリコカリシン濃度の測定方法は数々報告されているが、いずれも2種のグリコカリシンに対するモノクローナル抗体を用い、サンドウィッチ法により検出するELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)法である(非特許文献1、非特許文献2)。簡単に説明すると、1番目のモノクローナル抗体を96穴型プレート等に固相化し、ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin;BSA)等の蛋白質でブロッキングした後、測定する患者の血漿(あるいは血清)を添加する。グリコカリシンは固相化したモノクローナル抗体に特異的に結合し、プレートを洗浄後、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ等の酵素あるいはビオチン等で標識した2番目のモノクローナル抗体を加え、1番目のモノクローナル抗体に結合したグリコカリシンに2番目の抗体を特異的に結合させる。洗浄後2番目の抗体に標識した酵素により特定の紫外吸収もしくは可視吸収、蛍光、又は発光を示す物質へと変換される基質を加える酵素反応を行う。患者血漿中のグリコカリシン量は2番目の抗体の結合量と正の相関を示すことから、酵素反応によって生成した反応物の量を定量することにより、患者血漿中のグリコカリシンの濃度を測定することができる。また、1種類の抗グリコカリシン抗体を用いた競合ELISA法によるグリコカリシンの測定法も報告されているが(非特許文献3)、競合阻害を示すグリコカリシン濃度のIC50値が約4μg/mlであり、血漿中のグリコカリシン濃度(健常人で約2μg/ml、非特許文献1)の測定に耐えうるものではない。
【0005】
上記のサンドウィッチ法によるグリコカリシン定量法は現在広く用いられているが、新たに同様の測定系を作製しようとした場合、2種の認識部位の異なる抗グリコカリシンモノクローナル抗体を入手する必要がある。一般に市販のモノクローナル抗体は非常に高価であり、またモノクローナル抗体を作製するためには免疫するためのグリコカリシンの入手、免疫マウス脾臓からのハイブリドーマの取得、モノクローナル抗体産生細胞のスクリーニング等多くの労力を要する。また、上記のサンドウィッチELISA法は酵素反応量からグリコカリシン濃度の絶対量を測定することは不可能であり、多くの場合濃度既知のグリコカリシンを数種の濃度で測定し、その検量線と比較することにより測定したい被験試料中の濃度を算出しなければならない。そこで、煩雑なモノクローナル抗体の作製を
することなく、簡便にグリコカリシンの絶対濃度を測定し得る方法を確立することは、広く臨床診断に用いるという観点から重要である。
【0006】
また、血栓症発症の初期段階では、血管内皮細胞が障害されることにより露出した内皮下組織(コラーゲン等)に血中のフォンビルブランド因子(von Willebrand factor)が結合し、フォンビルブランド因子に血小板上の膜糖蛋白質グリコプロテインIbが結合し、血小板が血管壁に粘着して、活性化する(非特許文献4、非特許文献5)。このため、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害することが、血栓症を治療、予防する抗血栓薬の重要なターゲットである。しかし、両蛋白質の結合を阻害することにより抗血栓性を示すことが証明されている物質は少ない。
【0007】
フォンビルブランド因子の504−728番目のアミノ酸配列を有する組み換え体蛋白質VCLは、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害することにより抗血栓作用を示すことが報告されている(非特許文献6)。また、ヒトフォンビルブランド因子に対するモノクローナル抗体AJvW−2は特異的にフォンビルブランド因子に結合することにより出血傾向を示すことなく抗血栓活性を示すことが報告されている(非特許文献7、特許文献1)。さらに、蛇毒由来の蛋白質AS1051は血小板グリコプロテインIbに特異的に結合し、同様に出血傾向を示すことなく抗血栓性を示す(特許文献2)。
また、色素化合物であるオーリントリカルボン酸(aurin tricarboxylic acid、「ATA」)もフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害活性を示すことが報告されているが(非特許文献8)、その結合特異性が高くないこと(非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11)、阻害活性を示すのは重合した高分子画分にあることなどが知られている(非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14)。
【0008】
上記のように、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害は抗血栓薬の重要なターゲットであるにも関わらず、両者の結合を阻害し、抗血栓活性を報告している低分子化合物はなく、このような物質を見出すことは血栓症の治療、予防を考える上で重要である。
【0009】
蛋白質以外のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害する物質としては、オーリントリカルボン酸(ATA)が挙げられるが、本物質は、すでに述べたように高分子に重合した物質に阻害活性が存在することが知られている。M.Weinsteinら(非特許文献15)は、ゲル濾過で分画したATAのフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb依存的な血小板凝集であるリストセチン凝集に対する阻害活性を調べ、分子量2500の重合物が最も活性が強いと結論しているが、ゲル濾過で低分子画分に溶出される部分に活性がほとんど存在しないことも示している(前記文献中の図1、図3)。また同報告中では、活性を示すATA重合体の具体的な構造、分子量に関しては特定されていない。ATAの単量体の合成に関しては、R.D.Haugwitz(特許文献3)がすでに報告しているが、現在までのところ単量体あるいは構造が特定できる重合体にフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb結合阻害を示すデータは報告されておらず、近年でもATAの重合物のゲル濾過分画を用いた活性評価が報告されている(非特許文献16)現状から考え、構造の特定できるATA誘導体には、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb阻害活性は存在しないと考えられる。
【0010】
前述したM.Weinsteinら(非特許文献15)の報告では多数の陰性荷電(polyanion)、多数の芳香環(polyaromatic)の存在がフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害に必要であることが述べられている。多数の陰性荷電がフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害に働きやすい
ことは、陰性荷電を持つ多糖であるヘパリン(heparin)がフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害することとも一致する(非特許文献17)。本報告では、ヘパリンの分子量が小さいほどフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合阻害活性が低くなることも報告している。
【0011】
ヘパリンは、本来血中凝固因子であるトロンビン(thrombin)、凝固系第10因子(Factor Xa)を阻害する物質である。フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合に対してより選択性を持たせたようなヘパリン誘導体(非特許文献18)も報告されているが、その平均分子量は10,000以上である。
【0012】
また、蛋白質に結合しやすい物質の中には、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合に対してある程度選択的に阻害活性を示す物質も報告されている。色素化合物であるエバンスブルー(Evans blue)はフォンビルブランド因子(同文献中では、Factor VIII)関与の血小板凝集を選択的に阻害することが示されているが、いずれも血漿を含まない条件での血小板凝集に対する実験結果であり、血漿蛋白質が存在する状態での活性については触れていない(非特許文献19)。エバンスブルーは本来血清アルブミンに非常に強く結合する物質であり、その性質から生体の血液体積測定、血管からの血液の漏洩を見る手段などに用いられる(非特許文献20)。
【0013】
すなわち、この様に血漿中の蛋白質に強く結合する物質は、生体、例えば人への治療を考えた場合、全く効果が見られないはずである。このような物質の一つとして、スルフォバシン(非特許文献21)等がある。スルフォバシンは、同報告によれば、ある程度のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合への特異性が見られたものの、その界面活性剤に類似する構造から考えると、血液中、血漿中では血漿蛋白質への結合のためその活性が見られないはずである。事実、前記報告では、血漿中での血小板凝集に対する阻害活性は示されていない。
【0014】
以上述べたきたように、これまでフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を生体内で阻害し得るような、低分子の化合物は知られていない。血栓性疾患に対する、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害する薬剤を考えた場合、注射剤として用いるのであれば、蛋白質あるいは重合物のような高分子の化合物でよい。しかし同作用機序の経口投与可能な薬剤を創出するためには、血液中(血漿中)でのフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb依存的な血小板凝集を完全に、選択的に阻害するような、重合物でない低分子物質を見出すことが重要である。
しかし、これまでその様な化合物は見出されていない。その理由としては、簡便にその様な物質をスクリーニングできるようなアッセイ系が存在しないことが挙げられる。
【0015】
後述するようにこれまで一般的に用いられているフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb結合を検出するアッセイ方法は、125Iラベル化を行ったフォンビルブランド因子を血小板、あるいはフォルマリン固定化した血小板に対して結合させる方法であるが、この方法ではラジオアイソトープを用いる煩雑さ、ヒトあるいは動物から採血を行い、血小板を取得しなければならないという大量入手の困難さが含まれる。
【0016】
以下にこれまで一般的に用いられてきた方法と、それを解決する手段について具体的に述べる。
【0017】
フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合は通常の状態では観察されず、血流内などのズリ応力が生じる条件下でのみ起こると考えられている(非特許文献22)。しかし、両蛋白質の結合を人為的に観察する方法として、抗生物質であるリストセチン(非特許文献23)、あるいは蛇毒由来の蛋白質であるボトロセチン(非特許文献24
)の添加が知られている。すなわち両物質はフォンビルブランド因子の特定の位置に結合することによりフォンビルブランド因子の構造変化を引き起こし、通常の条件では起こらないフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を惹起する物質として知られている。両蛋白質の結合を観察する方法としては、Fujimuraらの報告しているような以下の方法がある(非特許文献25)。
【0018】
ヒトフォンビルブランド因子を常法により125Iラベルし、フォルマリン固定化した血小板に対して一定量のリストセチンあるいはボトロセチン存在下で結合させる。この結合はフォンビルブランド因子が、固定化した血小板表面上のグリコプロテインIbに特異的に結合することによるものであり、未結合のフォンビルブランド因子を洗浄、除去後、125I量を測定することにより両蛋白質の結合量を測定することができる。Miuraらは、フォルマリンによる固定化血小板の代わりに、固定化した抗血小板膜蛋白質抗体を介して血小板を96穴プレートに固定し、同様の方法で両蛋白質の結合を検出している(非特許文献26)。
【0019】
また、Matsuiらは固相化したコラーゲンに結合したフォンビルブランド因子にグリコプロテインIbα鎖の細胞外部位の部分蛋白質であるグリコカリシンをボトロセチン存在下で結合させる方法を報告している(非特許文献27)。
【0020】
さらに、Morikiらは、グリコプロテインIbを膜上に発現する組換え蛋白質の発現細胞を作製し、125Iラベルしたフォンビルブランド因子がボトロセチン存在下で膜上のグリコプロテインIbに結合することを報告している。
【0021】
Morikiらはさらに、結合惹起物質なしにフォンビルブランド因子に結合するような、アミノ酸配列に変異を持つグリコプロテインIb発現細胞作製し、結合実験を行っているが、その結合量はボトロセチンあるいはリストセチン存在下での結合量に比べ非常に低いものであった(非特許文献28)。
【0022】
上記のように、これまで報告されているフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を高感度に検出する方法は、いずれも血小板、あるいはグリコプロテインIb発現細胞を大量に取得し、それに対するフォンビルブランド因子の結合を検出する方法であった。したがって常時血小板あるいは細胞を、大量に調製することは非常に繁雑であり、もっと簡便にフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を検出する方法を見出すことが必要であった。
【0023】
また、これまで用いられてきた方法はいずれも液相中にボトロセチンあるいはリストセチンといった結合惹起物質を添加した方法に限られていた。しかし、ボトロセチンあるいはリストセチン量は、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合量に変化を与える。また、例えば96穴プレートを用いて多数の結合実験を行う場合には、液相に惹起物質を加えるこれらの方法は煩雑である。また、上述した低分子のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害物質を探索する場合、非常に多検体の結合実験を行うことが必要とされ、上記の問題を解決することも重要であった。
【0024】
すでに述べたように、低分子量の真のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb結合阻害物質は未だに発見されていない。ここで言う「真の阻害物質」とは、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を特異的に阻害する物質であって、蛋白質変性物質、界面活性剤をはじめとする一般的に蛋白質の構造を変化させる物質、又は蛋白質に非特異的に結合する物質のように、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害するものであっても、非特異的に阻害するものは真の阻害物質ではない。
【0025】
真のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb結合阻害物質は前述したように抗体、蛇毒由来等の蛋白質、あるいはその活性本体が高分子量であるオーリントリカルボン酸(ATA)等の色素物質では知られているが、これまでに低分子量物質、例えば分子量2000以下の物質、特に経口投与が有効な分子量1000以下の物質では知られておらず、この様な物質を迅速に見出す評価系を構築し、発見することが必要であった。
【特許文献1】WO96/17078
【特許文献2】WO95/08573
【特許文献3】WO91/06589
【非特許文献1】J.H.Beer et al.,Blood,83,691−702,1994
【非特許文献2】S.Kunishima et al.,Clin,Chem.,37,169−172,1991
【非特許文献3】H.Bessos et al.,Thromb.Res.,59,497−507,1990
【非特許文献4】J.P.Cean et al.,J.Lab.Clin.Med.,87,586−596,1976
【非特許文献5】K.J.Clemetson et al.,Thromb.Haemost,,78,266−270,1997
【非特許文献6】K.Azzam et al.,Thromb.Haemost.,73,318−323,1995
【非特許文献7】S.Kageyama et al.,Br.J.Pharmacol.,122,165−171,1997
【非特許文献8】M.D.Phiillips et al.,Blood,72,1989−1903,1988
【非特許文献9】K.Azzam et al.,Thromb.Haemost.,75,203−210,1996
【非特許文献10】D.Mitra et al,,Immunology,87,581−585,1996
【非特許文献11】R.M.Lozano et al.,Eur.J.Biochem.,248,30−36,1997
【非特許文献12】M.Weinstein et al.,Blood,78,2291−2298,1991
【非特許文献13】Z.Gua et al.,Thromb.Res.,71,77−88,1993
【非特許文献14】H.Matsuno et al.,Circulation,96,1299−1304.1997
【非特許文献15】M.Weinstein et al.,Blood,78,2291−2298,1991
【非特許文献16】T.Kawasaki et al,Amer.J.Hematol.,47,6−15,1994
【非特許文献17】M.Solbel et al.,J.Clin.Invest.,87,1787−1793,1991
【非特許文献18】M.Sobel et al.,Circulation,93,992−999,1996
【非特許文献19】E.P.Kirby et al.,Thrombos.Diathes.Haemorrah.,34,770−779,1975
【非特許文献20】M.Gregersen & R.A.Rawson,Physiol.Reviews,39,307,1959
【非特許文献21】Sulfobacin; T.Kamiyama et al.,J.Antibiot.,48,924−928,1995
【非特許文献22】T.T.Vincent et al.,Blood,65,823−831,1985
【非特許文献23】M.A.Howard and B.G.Firkin,Thromb.Haemost.,26,362−369,1971
【非特許文献24】M.S.Read et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,75,4514−4518,1978
【非特許文献25】Y.Fujimura et al.,Blood.,77,113−120,1991
【非特許文献26】S.Miura et al.,Anal.Biochem.,236,215−220,1996
【非特許文献27】T.Matsui et al.,J.Biochem.,121,376−381,1997
【非特許文献28】T.Moriki et al.,Blood,90,698−705,1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
上記の技術背景の問題点を要約すると、以下の3点が挙げられる。
(1)グリコカリシンの定量法は血栓症の診断に重要であるが、従来行われている高感度な方法はサンドウィッチELISA法であり、2種の認識部位の異なるモノクローナル抗体を必要とし、定量には標準物質による検量線が必要である。
(2)低分子のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害物質を見出し、薬剤に適用することが血栓症治療、予防を考えた上で重要であるが、これまでにフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害をターゲットとした低分子で、かつ抗血栓作用を報告している薬剤は存在しない。
(3)前記(2)の薬剤を見出すためにフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害実験を多検体行う必要があるが、これまでに知られている方法は煩雑であり、また精度、感度にも問題がある可能性がある。
【0027】
本発明は上記観点からなされたものであり、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を簡便に検出する方法、グリコカリシンの簡便な測定法及び簡便なフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害を作用点とする抗血栓薬となりうる物質の測定法、並びにこれらの測定法に用いる手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った。すなわち、まず、グリコプロテインIbα鎖の部分蛋白質をイムノグロブリン分子のFc部分と結合させたキメラ分子(以下、「キメラ蛋白質」という)を得るための、動物細胞による蛋白質発現系を作製した。また、フォンビルブランド因子をボトロセチン存在下で固定化することにより、上記のキメラ蛋白質、すなわちグリコプロテインIb分子が、液相の結合惹起物質なしに、固定化したフォンビルブランド因子に対して特異的に結合することを見出し、その結合量を市販で容易かつ安価に入手可能な抗イムノグロブリンFc抗体、あるいは直接キメラ蛋白質を標識することにより、簡便に結合実験を行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0029】
すなわち、本発明による第一の方法は、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質の存在下で、フォンビルブランド因子を反応容器に固定化し、この固定化されたフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとを反応させることを特徴とする方法である。
【0030】
また、本発明による第二の方法は、反応容器に固定化したフォンビルブランド因子に、グリコプロテインIbα鎖のフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質のカルボキシル末端にイムノグロブリン分子のFc部分のアミノ末端を融合させてなるキメラ蛋白質又は標識物質で標識した該キメラ蛋白質を結合させ、前記イムノグロブリン分子のFc部分又は前記標識物質を検出することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法である。
【0031】
また、本発明の第三の方法は、反応容器にグリコプロテインIbα鎖のフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質のカルボキシル末端にイムノグロブリン分子のFc部分のアミノ末端を融合させてなるキメラ蛋白質を固定化し、フォンビルブランド因子あるいは標識物質で標識したフォンビルブランド因子を結合させ、結合したフォンビルブランド因子又は前記標識物質を検出することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法である。
【0032】
第二の方法又は第三の方法の好ましい態様は、フォンビルブランド因子に前記キメラ蛋白質を結合させる際に、又は該結合に先立って、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質を反応容器に加えることを特徴とする方法である。
前記フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質としては、ボトロセチンもしくはリストセチン又はこれらの両者が挙げられる。
また、前記第二の方法の他の態様は、フォンビルブランド因子を、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質の存在下で反応容器に固定化することを特徴とする方法である。
【0033】
第一の方法、第二の方法又は第三の方法において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb又はキメラ蛋白質との反応の際に、又は該反応に先立って、グリコカリシンを含む試料を反応容器に加えて、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb又はキメラ蛋白質との結合の阻害を検出することにより、グリコカリシンを測定することができる。
【0034】
また、第一の方法、第二の方法又は第三の方法において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb又はキメラ蛋白質との反応の際に、又は該反応に先立って、検出対象物質を含む試料を反応容器に加えて、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb又はキメラ蛋白質との結合の阻害を検出することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を阻害する物質を検出することができる。
【0035】
さらに本発明は、グリコプロテインIbα鎖のフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質のカルボキシル末端にイムノグロブリン分子のFc部分のアミノ末端を融合させてなるキメラ蛋白質を提供する。
【0036】
また本発明は、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの反応の阻害によりグリコカリシンを測定するためのキットであって、フォンビルブランド因子と、グリコプロテインIbα鎖のフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質のカルボキシル末端にイムノグロブリン分子のFc部分のアミノ末端を融合させてなるキメラ蛋白質とを含むキットを提供する。
【0037】
さらに本発明は、前記のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法のいずれかによって検出される化合物であって、血漿中でのグリコプロテインIbとフォンビルブランド因子が関与する血小板の凝集を特異的に阻害する活性を有し、かつ、分子量が2000以下であることを特徴とする化合物を提供
する。
【0038】
前記化合物としてより具体的には、式(1)に示す構造を有する化合物が、さらに具体的には式(2)に示す化合物が挙げられる。但し、R1、R2はそれぞれ独立してH又はClを表し、R3はCH3又はHを表す。
【化1】
【化2】
【0039】
なお、本明細書において「キメラ蛋白質」というときは、グリコプロテインIbのフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質のカルボキシル末端にイムノグロブリン分子のFc部分のアミノ末端を融合させてなるキメラ蛋白質を意味する。また、本発明の方法において、グリコプロテインIbというときは、グリコプロテインIb自体もしくはキメラ蛋白質またはその両方を指す場合がある。
【0040】
本明細書において、「検出」というときは、主として物質又は現象を見出すことを意味するが、その結果としてその物質の量又は現象の程度を測定することを含むことがある。また、「測定」というときは、主として物質の量又は現象の程度を測定することを意味するが、その物質又は現象を見出すことを含むことがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0042】
<1>キメラ蛋白質
本発明のキメラ蛋白質は、ヒトあるいはその他の哺乳動物の血小板膜糖蛋白質の1つであるグリコプロテインIbα鎖のフォンビルブランド因子に対する結合部位を含む部分蛋白質と、マウス、ヒトあるいはその他の哺乳動物のイムノグロブリン分子重鎮(H鎖)のFc部分を、遺伝子工学的に結合した蛋白質である。該キメラ蛋白質は、培養細胞を用いて生産することができる。キメラ蛋白質において、グリコプロテインIbα鎖のフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質と、イムノグロブリン分子のFc部分は、該部分蛋白質のカルボキシル末端とFc部分のアミノ末端とで連結される。
【0043】
グリコプロテインIbα鎖の部分蛋白質の一例としては、グリコプロテインIbα鎖分子のアミノ末端のアミノ酸残基から319位のアスパラギン酸残基までの配列(アミノ酸番号1−319)を持つ部分蛋白質があげられるが、フォンビルブランド因子の結合部位がアミノ酸番号1−293(V.Vincente et al.,J.Biol.Chem.,263,18473−18479,1988)さらに251−285(V.Vicente et al.,J.Biol.Chem.,265,274−280,1990)内に含まれる部分であると考えられていることから、少なくともこの部分を含む部分蛋白質ならばよい。
【0044】
また、イムノグロブリン分子のFc部分は由来はいかなる動物でも良く、さらにいかなるサブタイプでも良いが、市販のポリクローナル抗体及び/またはモノクローナル抗体、プロテインA、またはプロテインG等で、精製及び/または検出することができるものであればよい。イムノグロブリン重鎖は、アミノ末端側よりVHドメイン、CH1ドメイン、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン(IgEではさらにCH4ドメイン)と呼ばれる領域が順に配列している。
【0045】
キメラ蛋白質に用いるFc部分の一例としては、これらの配列のうちヒンジ領域からCH3ドメインまでの連続した配列があればよいが、市販のポリクローナル抗体及び/またはモノクローナル抗体、プロテインA、またはプロテインG等で、精製及び/または検出することができるという観点からは、ヒンジ部分は必須ではなく、部分的にアミノ酸残基の欠失、挿入等の変異を有していても良い。
【0046】
また、イムノグロブリンとしては、ヒト、マウスなどいずれに由来するものでも良いが、一例としてマウス由来のものが挙げられる。また、イムノグロブリンのサブタイプとしては、いずれのサブタイプでも良いが、一例としてはIgGが挙げられ、さらにサブクラスとしてはいずれのサブクラスでも良く、一例としてIgG1、IgG2a等が挙げられる。
【0047】
本発明のキメラ蛋白質のアミノ酸配列の一例を、配列番号7及び配列番号14に記載する。尚、配列番号7及び配列番号14において、N末端の16アミノ酸残基は、シグナルペプチドを構成すると推定される。
【0048】
本発明のキメラ蛋白質は、それをコードするキメラ遺伝子(キメラ蛋白質遺伝子)を、適当な細胞で発現させることにより製造することができる。キメラ蛋白質遺伝子は、グリコプロテインIbα鎖遺伝子およびイムノグロブリン重鎖の遺伝子をそれぞれ、遺伝子工学的手法に基づいてcDNAライブラリー、ゲノムライブラリー、DNA断片などから取得し、あるいは化学合成的に作製し、それらを連結することにより作製することができる。
【0049】
グリコプロテインIbα鎖遺伝子は、例えばヒト巨核球系の細胞株であるHEL細胞のmRNAからファージベクターなどを用いて作製したcDNAライブラリーから、公知のグリコプロテインIbα鎖遺伝子のDNA配列をもとに設計した適当なプライマーDNAを用いて逆転写PCR反応により取得できる。また、cDNAライブラリーから公知のDNA配列をもとに設計したプローブDNAを用いてハイブリダイゼーションを行うことにより、グリコプロテインIbα鎖遺伝子を含むクローンを取得することができる。あるいは、ATCC(American Type Culture Collection)に登録されているグリコプロテインIbα鎖遺伝子を含むプラスミド(pGPIb2.4、寄託番号:ATCC65755)から、適当な制限酵素を用いて切り出すことにより取得することができる。
【0050】
イムノグロブリン重鎖の遺伝子は、例えばマウスのイムノグロブリン産生ハイブリドーマのmRNAから作製したcDNA、あるいはファージなどを用いて作製したcDNAライブラリーから、公知のイムノグロブリン重鎖遺伝子のDNA配列をもとに設計した適当なプライマーDNAを用いて逆転写PCR反応により取得できる。また、cDNAライブラリーから、公知のDNA配列をもとに設計したプローブDNAを用いてハイブリダイゼーションを行うことにより、マウスイムノグロブリン遺伝子を含むクローンを取得することができる。
【0051】
キメラ蛋白質遺伝子は、グリコプロテインIbα鎖遺伝子の全長あるいは一部と、マウスイムノグロブリン重鎮γ1遺伝子あるいはγ2a遺伝子の全長あるいは一部を用いて、適当な制限酵素で各DNA鎖を切断後結合させることによって得られる。両遺伝子の切断及び結合は、グリコプロテインIbα鎖のフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質のカルボキシル末端にイムノグロブリン分子のFc部分のアミノ末端を融合させたキメラ蛋白質をコードするように行えばよい。また、キメラ蛋白質を細胞外に分泌させる場合は、グリコプロテインIbα鎖の部分がシグナルペプチドを含むようにすればよい。
【0052】
上記のようにして作製したキメラ蛋白質遺伝子を、適当な宿主−ベクター系を用いて発現させる。宿主としては、動物細胞、昆虫細胞などの細胞が挙げられる。またベクターは、宿主細胞でベクターとして機能するものであれば特に制限されず、宿主細胞に適したプロモーターを有する発現ベクターを用いることが好ましい。キメラ蛋白質遺伝子を発現ベクターに挿入して得られる組換えベクターで宿主細胞を形質転換し、形質転換細胞を培養することにより、キメラ蛋白質を製造することができる。
【0053】
上記のようにして製造されるキメラ蛋白質は、そのまま用いることもできるが、イムノグロブリン分子のFc部分を利用して、プロテインA、プロテインG、抗イムノグロブリン抗体等を固定化したアフィニティークロマトグラフィー等を用いて、容易に精製することができる。
【0054】
<2>フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法
本発明のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する第一の方法は、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質(以下、「結合惹起物質」ともいう)の存在下で、フォンビルブランド因子を反応容器に固定化し、この固定化されたフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとを反応させることを特徴とする。
フォンビルブランド因子を、結合惹起物質の存在下で固定化することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとを液体中で反応させる際に、結合惹起物質を添加する工程を省くことができる。
【0055】
フォンビルブランド因子は、ヒト血液から、H.R.Gralnick et al.,J.Clin.Invest.,62,496(1978)に記載の方法等にしたがって、調製することができる。
【0056】
結合惹起物質としては、ボトロセチン及びリストセチン等、好ましくはボトロセチンが挙げられる。
【0057】
フォンビルブランド因子を固定化する反応容器としては、ポリスチレン、ポリカーボネート等の合成樹脂又はガラス等の素材の容器が挙げられる。より具体的には、ポリスチレン製96穴マルチウェルプレート等が挙げられる。フォンビルブランド因子を含む溶液を上記反応容器に注入することにより、フォンビルブランド因子を容器の壁面に固定化することができる。また、反応容器の壁面にコラーゲンを固定化しておき、このコラーゲンにフォンビルブランド因子を結合させることもできる。フォンビルブランド因子又はコラーゲンを反応容器に固定する条件は、これらを固定することができれば特に制限されないが、例えば、ポリスチレン製容器を用いる場合には、中性、好ましくはpH6.8〜7.8、より好ましくはpH7.4程度の溶液を用いることが望ましい。
【0058】
フォンビルブランド因子の固定化に際しては、フォンビルブランド因子を含む溶液と結合惹起物質を含む溶液を各々反応容器に加えてもよいが、フォンビルブランド因子と惹起物質の両方を含む溶液を調製し、これを反応容器に注入することが、作業効率の点から好ましい。また、フォンビルブランド因子を固定化した反応容器は、ウシ血清アルブミン溶液等を加えることにより、壁面の未結合部位のブロッキングをしておくことが好ましい。
【0059】
反応容器にフォンビルブランド因子を固定化した後、反応容器を洗浄し、次にグリコプロテインIbを加えると、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合反応が起こる。この反応は、液相で行われる。続いて、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を検出する。この検出は、通常フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合の検出に用いられる方法により行うことができる。
【0060】
本発明の第二の方法は、反応容器に固定化したフォンビルブランド因子に、前記のキメラ蛋白質又は標識物質で標識した該キメラ蛋白質を結合させ、前記イムノグロブリン分子のFc部分又は前記標識物質を検出することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法である。
【0061】
より具体的には、反応容器にフォンビルブランド因子を含む溶液を加えて、フォンビルブランド因子を反応容器の壁面に固定化する。続いて、反応容器にキメラ蛋白質を含む溶液を加えて、固定化されたフォンビルブランド因子にキメラ蛋白質を結合させる。この
結合は、フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質との反応系に、結合惹起物質を存在させることによって惹起することができる具体的には、フォンビルブランド因子に前記キメラ蛋白質を結合させる際に、又は該結合に先立って、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質を反応容器に加える。例えば、上記第一の方法と同様にしてフォンビルブランド因子を結合惹起物質の存在下で反応容器に固定化しておくか、反応容器にキメラ蛋白質を含む溶液を加えるのと同時に、または前後して結合惹起物質を添加する。
【0062】
キメラ蛋白質は、その分子中に含まれるグリコプロテインIbのフォンビルブランド因子結合部位で、固定化されたフォンビルブランド因子に結合する。こうしてフォンビルブランド因子に結合したキメラ蛋白質の検出は、例えば、その分子中に含まれるイムノグロブリン分子のFc部分を検出することにより行うことができる。Fc部分の検出は、通常免疫測定に用いられる方法を使用することができる。
【0063】
具体的には、例えば、Fc部分に特異的に結合する物質、例えばプロテインA、プロテインG、抗イムノグロブリン抗体等を標識したものを反応容器に加え、該標識を検出する。標識物質としては、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ等の酵素、ビオチン、アビジン、又はフルオレセイン等の蛍光物質、ユーロピウム、ランタノイド等の蛍光性を有する希土類を含む化合物等が挙げられる。ビオチン又はアビジンは、これにさらにアビジン又はビオチンを結合した他の標識物質を結合させることにより検出する。また、酵素は、適当な基質を加えて酵素反応を行い、可視吸光、紫外吸光、蛍光、発光等を検出することに行うことができる。さらに、蛍光物質又は蛍光性を有する化合物等は、励起光を照射することにより発する蛍光によって検出することができる。
【0064】
また、キメラ蛋白質として、予め標識物質で標識したキメラ蛋白質を用い、この標識物質を検出することによっても、固定化されたフォンビルブランド因子に結合したキメラ蛋白質を検出することができる。標識物質及びその検出法は、上記のFc部分の検出に用いられるものと同様である。
【0065】
標識物質で標識したキメラ蛋白質を用いる場合には、キメラ蛋白質は精製したものを用いることが好ましい。
【0066】
キメラ蛋白質の精製は、前述したようにイムノグロブリン分子のFc部分を利用してアフィニティークロマトグラフィー等によって行うことができる。
【0067】
本発明の第三の方法は、反応容器に固定化した前記のキメラ蛋白質に、フォンビルブランド因子又は標識物質で標識したフォンビルブランド因子を結合させ、フォンビルブランド因子の部分構造又は前記標識物質を検出することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法である。
【0068】
より具体的には、反応容器に、キメラ蛋白質の部分構造と結合する抗体、好ましくはイムノグロブリンFc部分と結合する抗体、プロテインA、又はプロテインG等を含む溶液を加えて反応容器の壁面に固定化する。続いて、反応容器にキメラ蛋白質を含む溶液を加えて、固定化された抗体、プロテインA、又はプロテインG等にキメラ蛋白質を結合させることにより、キメラ蛋白質を固定化した反応容器を作製することができる。あるいは、キメラ蛋白質を直接反応容器に固定化することも可能である。
【0069】
続いて、反応容器にフォンビルブランド因子又は標識物質で標識したフォンビルブランド因子を含む溶液を加えて、固定化されたキメラ蛋白質にフォンビルブランド因子を結合させる。この結合は、フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質との反応系に、結合惹起
物質を存在させることによって惹起することができる。具体的には、フォンビルブランド因子に前記キメラ蛋白質を結合させる際に、又は該結合に先立って、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質を反応容器に加える。例えば、反応容器にフォンビルブランド因子又は標識物質で標識したフォンビルブランド因子を含む溶液を加えるのと同時に、または前後して結合惹起物質を添加する。
【0070】
フォンビルブランド因子は、固定化されたキメラ蛋白質に結合する。こうしてキメラ蛋白質に結合したフォンビルブランド因子の検出は、例えば、フォンビルブランド因子に結合する抗体を用いることによって行える。フォンビルブランド因子に結合した抗体の検出は、通常免疫測定に用いられる方法を使用することができる。
【0071】
具体的には、例えば、フォンビルブランド因子に結合する抗体を、あらかじめアルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ等の酵素、ビオチン、アビジン、又はフルオレセイン等の蛍光物質、ユーロピウム、ランタノイド等の蛍光性を有する希土類を含む化合物等で標識しておく方法等が挙げられる。ビオチン又はアビジンは、これにさらにアビジン又はビオチンを結合した他の標識物質を結合させることにより検出する。また、酵素は、適当な基質を加えて酵素反応を行い、可視吸光、紫外吸光、蛍光、発光等を検出することに行うことができる。さらに、蛍光物質又は蛍光性を有する化合物等は、励起光を照射することにより発する蛍光によって検出することができる。
【0072】
また、フォンビルブランド因子として、予め標識物質で標識したフォンビルブランド因子を用い、この標識物質を検出することによっても、固定化されたキメラ蛋白質に結合したフォンビルブランド因子を検出することができる。標識物質及びその検出法は、上記のフォンビルブランド因子に結合する抗体の検出に用いられるものと同様である。
【0073】
上記の第一、第二又は第三の方法において、グリコプロテインIb(又はキメラ蛋白質)を反応容器に加えるのと実質的に同時に、又はグリコプロテインIbの添加に先立って、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害する物質(以下、「結合阻害物質ともいう」)を反応容器に加え、該阻害物質を加えない場合と、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を比較することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合の阻害を検出することができる。
【0074】
また、上記の第一、第二又は第三の方法において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの反応の際に、又は該反応に先立って、検出対象物質を含む試料を反応容器に加えて、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合の阻害を検出することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を阻害する物質を検出することができる。また、既知量の結合阻害物質を用いて、阻害物質の量と、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合との関係を示す標準曲線を作成しておくと、未知量の阻害物質を定量することができる。
【0075】
フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害し、抗血栓作用を有する低分子量の化合物は、現在まで報告されていない。本発明の方法は、従来の方法に比べて非常に簡便であり、そのような低分子化合物の探索にも有用である。
【0076】
<3>グリコカリシンの測定法及びキット
上記の第一の方法、第二の方法又は第三の方法において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb又はキメラ蛋白質との反応の際に、又は該反応に先立って、グリコカリシンを含む試料を反応容器に加えて、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb又はキメラ蛋白質との結合の阻害を検出することにより、グリコカリシンを測定することができる。既知量のグリコカリシンを用いて、グリコカリシン濃度と、フォンビルブラ
ンド因子とグリコプロテインIb又はキメラ蛋白質の結合との関係を示す標準曲線を作成しておくと、未知量のグリコカリジンの濃度を測定することができる。
【0077】
本発明によるグリコカリシンの測定は、フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質とをキットとして用意しておくと、簡便に行うことができる。そのようなキットとして具体的には、フォンビルブランド因子と、キメラ蛋白質と、結合惹起物質と、既知量のグリコカリシンと、アルカリフォスファターゼ等で標識した抗イムノグロブリン抗体と、該標識を検出するための試薬と、洗浄用緩衝液とを含むキットが例示される。また、他の態様として、フォンビルブランド因子と、標識物質で標識したキメラ蛋白質と、結合惹起物質と、既知量のグリコカリシンと、該標識を検出するための試薬と、洗浄用緩衝液とを含むキットが例示される。
【0078】
<4>低分子量の真のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb結合阻害物質
前記<2>に示した本発明のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合に対する阻害を検出する方法を用いることにより、低分子量の真のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb結合阻害物質を検索(スクリーニング)することができる。ここで、「真の阻害物質」とは、血漿中でのグリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の関与する血小板の凝集を特異的に阻害する物質をいう。蛋白質変性物質、界面活性剤をはじめとする一般的に蛋白質の構造を変化させる物質、又は蛋白質に非特異的に結合する物質のように、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害するものであっても、非特異的に阻害するものは真の阻害物質ではない。
【0079】
真の阻害物質は、血漿中におけるリストセチン、ボトロセチンを用いたフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb依存的な血小板凝集に対する阻害活性と、コラーゲン、アデノシン2リン酸(ADP)等を用いたフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb依存的な血小板凝集に対する阻害活性を測定し、これらを比較することによって識別することができる。すなわち、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb依存的な血小板凝集(例えばリストセチン惹起血小板凝集)を阻害し、それと同じ濃度においてフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb非依存的な血小板凝集(例えばコラーゲン又はADPにより惹起される血小板凝集)を実質的に阻害しない化合物は、真のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb結合阻害物質である。
【0080】
本発明の阻害物質は、例えば1mMの濃度において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb依存的な血小板凝集を、少なくとも80%以上、好ましくは90%以上阻害することが好ましい。また、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb非依存的な血小板凝集の阻害が30%以下、好ましくは25%以下であれば、実質的に阻害しないものとみなすことができる。
【0081】
また、低分子量とは、好ましくは2000以下、より好ましくは1000以下であることをいう。さらに、本発明の阻害物質は、重合体でなくても活性を発現し得るものであることが好ましい。
【0082】
上記のように本発明の方法によって検索される低分子量の抗血栓活性物質として具体的には、前記化2に示す構造を有する化合物が挙げられる。同化合物としてより具体的には、K17427A、K17427B、K17427C及びK17427Dと命名された以下に示す化合物が挙げられる。これらの化合物は、クウチオプラネス属に属する放線菌(Couchioplanes sp.AJ9553(FERM BP−6612))から、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を著しく阻害する活性を有する物質として見出されたものである。以下に、これらの化合物の物理化学的性状及び製造法の一例を説明する。
【0083】
(1)K17427A、K17427B、K17427C及びK17427Dの物理化学的性状
【0084】
1)K17427Aの物理化学的性状
性状:黄色アモルファス状固体
分子式:C44H44O14Cl2
質量分析(高分解能FAB−MS)
実測値:866.2117(M)+
計算値:866.2108
比旋光度:[α]D24−60°(c 0.09,THF)
紫外吸収スペクトル:λmax(ε)235(57000)、276(59500)、427(25000)
1H−NMRスペクトル(400MHz,CD3CO2D)δ:7.64(2H,s)、6.04(2H,s)、5.38(2H,s)、3.45(8H,s)、2.05(2H,m)、1.28(6H,d,J=6.8Hz)、1.04(6H,d,J=6.6Hz)、0.38(6H,d,J=6.3Hz)
13C−NMRスペクトル(100MHz,CD3CO2D)δ:205.9(s)、173.2(s)、171.8(s)、162.1(s)、154.6(s)、135.5(d)、134.8(s)、131.4(s)、120.8(s)、120.2(s)、114.5(d)、113.1(s)、111.3(s)、94.2(d)、77.6(s)、55.4(q)、48.1(d)、44.3(d)、35.0(d)、16.3(q)、6.7(q)
溶解性:ジメチルスルホキシド、ピリジン、酢酸に易溶、水に難溶
構造式:前記式(2)で表される構造。
【0085】
2)K17427Bの物理化学的性状
性状:黄色アモルファス状固体
分子式:C43H42O14Cl2
質量分析(高分解能FAB−MS)
実測値:852.1997(M)+
計算値:852.1952
比旋光度:[α]D25−61°(c 0.13,THF)
紫外吸収スペクトル(メタノール):λmax(ε)235(41000)、273(43000)、434(18500)
1H−NMRスペクトル(400MHz,CD3CO2D)δ:7.81(2H,s)、6.17(1H,s)、6.14(1H,s)、5.54(1H,s)、5.50(1H,s)、3.62(3H,s)、3.58(3H,s)、3.53(1H,q,J=7.0Hz)、3.20(1H,d,J=18Hz)、3.08(1H,d,J=18Hz)、1.20(3H,d,J=7.6Hz)、1.17(3H,d,J=6.7Hz)、1.04(3H,d,J=6.7Hz)、0.97(3H,d,J=6.7Hz)、0.52(3H,d,J=7.0Hz)
溶解性:ジメチルスルホキシド、ピリジン、酢酸に易溶、水に難溶
構造式:前記式(1)において、R1=R2=Cl、R3=Hで表される構造。
【0086】
3)K17427Cの物理化学的性状
性状:黄色アモルファス状固体
分子量(ESI−MS):799(M+H)+
紫外吸収スペクトル:λmax234、281、418
1H−NMRスペクトル(400MHz,CD3OD)δ:7.59(2H,d,J=8
.4Hz)、7.25(2H,d,J=8.4Hz)、7.14(2H,s)、6.05(2H,s)、5.37(2H,brs)、3.59(6H,s)、3.46(2H,br)、2.12(2H,m)、1.38(6H,d,J=5.2Hz)、1.15(6H,d,J=6.8Hz)、0.64(6H,br)
構造式:前記式(1)において、R1=R2=H、R3=CH3で表される構造。
【0087】
4)K17427Dの物理化学的性状
性状:黄色アモルファス状固体
質量分析(ESI−MS):833(M+H)+
紫外吸収スペクトル:λmax234、276、423
1H−NMRスペクトル(400MHz,CD3OD)δ:7.77(2H,s)、7.59(1H,d,J=8.4Hz)、7.26(1H,d,J=8.4Hz)、7.15(1H,s)、6.09(1H,s)、6.08(1H,s)、5.46(1H,s)、5.37(1H,brs)、3.61(3H,s)、3.54(4H,s)、3.42(1H,q,J=7.0Hz)、2.12(2H,m)、1.39(3H,d,J=6.8Hz)、1.20(6H,m)、0.63(3H,br)、0.50(3H,d,J=7.0Hz)
構造式:前記式(1)において、R1=Cl、R2=H、R3=CH3で表される構造。
【0088】
(2)K17427A、K17427B、K17427C及びK17427Dの製造法
【0089】
本発明のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害物質K17427A、B、C、D(以下、単に「阻害物質」という。)は、例えばクウチオプラネス(Couchioplanes)属に属する放線菌、例えばクウチオプラネス エスピー.(Couchioplanes sp.)AJ9553(FERM BP−6612)を、利用可能な炭素源、窒素源を含む液体あるいは固体栄養培地を用いて培養することにより、生産することができる。
【0090】
栄養培地の炭素源として好ましくはグルコース、シュークロース、でんぷん等の炭水化物、グリセロールなどが用いられる。窒素源としては酵母エキス、ペプトン、コーンスティープパウダー、大豆粉、綿実粉(Pharmamedia)等の天然成分、アミノ酸、あるいは硫酸アンモニウム、尿素等の無機窒素含有化合物などが用いられる。
【0091】
阻害物質の生産のための培養は、上記栄養培地を入れた試験管、フラスコ等を用いた振盪培養又は静置培養、ジャーファーメンター、タンクなどを用いた通気撹拌培養等により行うことができる。培養は、通常20℃から40℃の範囲で行うことができるが、好ましくは25℃から37℃の間で行われる。
【0092】
培養終了後の培養ブロスからの阻害物質の抽出は、適切な溶媒による抽出、あるいは吸着樹脂などにより阻害物質を吸着させた後、適切な溶剤にて溶出することにより行うことができる。さらに、阻害物質の精製は、溶媒抽出、吸着樹脂、活性炭、イオン交換樹脂、シリカゲル等を用いたクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等の方法を組み合わせることにより行うことができる。
【0093】
具体的には例えば、クウチオプラネス エスピー.AJ9553(FERM BP−6612)株の菌体をアセトンで抽出し、抽出物からアセトンを留去し、残渣を水に懸濁する。この水懸濁液のpHを2に調製後、酢酸エチルを加えて抽出する。酢酸エチル層を減圧下濃縮し、得られる残渣を陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画する。例えば、前記残渣は、含水メタノールに溶解して、ダイヤイオンHP−20(三菱化学)を充填したカラムに吸着させ、メタノールで溶出させる。次に、溶出液をODSカラムを用いたH
PLCで分画するか、あるいはシリカゲルTLCによって分画することによって、阻害物質が取得される。得られた阻害物質が上記のいずれの化合物であるかは、上記の物理化学的性状を調べることによって知ることができる。
【実施例】
【0094】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0095】
〔実施例1〕
キメラ蛋白質遺伝子の作製
【0096】
<1>グリコプロテインIbα鎖遺伝子のクローニング
ヒトグリコプロテインIbα鎖遺伝子のクローニングは、ヒト赤白血病細胞(Human erythroleukemia cell:HEL)より、モレキュラー・クローニング(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.,Maniatis,T.,Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))記載の方法でcDNAライブラリーを構築することにより行った。
【0097】
すなわちヒト赤白血病細胞を160nMのフォルボール・エステル(phorbol−12−myristate−13−acetate:PMA)を含む培地で48時間培養して刺激した後、培地を取り除き、グアニジン・チオシアネート(guanidinium thiocyanate)緩衝液(4.0Mグアニジン・チオシアネート、0.1Mトリス−塩酸(pH7.5)、1% 2−メルカプトエタノ−ル)を細胞に添加し、細胞を懸濁させた。細胞懸濁液を、ポリトロンホモゲナイザー(Brinkmann社製)にて破砕処理した。
【0098】
細胞破砕液に、終濃度0.5%のラウリルザルコシネート(sodium lauryl sarcosinate)を添加した。この溶液を10分、5000×gで遠心分離し、沈殿を取り除いた。遠心上清を、超遠心分離用チューブに入れた塩化セシウム−EDTA液(5.7M CsCl、0.01M EDTA,pH7.5)に上層し、20時間、100000×gにて超遠心分離処理を行った。沈殿したRNAを回収し、エタノール沈殿法により精製し、全RNAを得た。
【0099】
取得した全RNAをオリゴdTセルロースカラムに共し、mRNAを得た。このmRNA 10μgを用い、ランダムヘキサマーオリゴDNAをプライマーとして、逆転写酵素にて一本鎖DNAを作製後、DNAポリメラーゼを用いて二本鎖cDNAを作製した。このcDNAにT4DNAリガーゼを用いてEcoRIアダプターを接続した。アダプターを接続したcDNAをT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いてリン酸化処理後、ゲル濾過カラムを用いて、精製した。このDNAに、制限酵素EcoRI部位に挿入できる様に調製されたラムダgt10アーム(Stratagene社製)をT4DNAリガーゼを用いて接続した。この組換えDNAをファージにパッケージング処理し、cDNAライブラリーを得た。
【0100】
このファージを大腸菌NM514に感染させた。生じたファージプラークに対し、ライジオアイソトープ(32P)で末端ラベルしたオリゴDNA(配列番号1)をプローブに用い、プラークハイブリダイゼーションを行った。すなわち、生じたファージプラークをニトロセルロースフィルターに転写し、アルカリ変性液(0.5M水酸化ナトリウム、1.5M食塩)でDNAを変性させた。中和液(0.5Mトリス塩酸pH7.0、1.5M食塩)で中和し、80℃で二時間加熱してDNAをフィルターに固定化した。プローブDNAは合成DNA(パーキンエルマー・アプライドバイオシステムズ社製、DNA合成機
380A型にて化学合成)をγ−32P−ATPでT4 DNAキナーゼ(宝酒造製)を作用させDNAの5'末端をラベル化したものを用いた。尚、上記オリゴDNAの塩基配列は、公知のヒトグリコプロテインIbα鎖遺伝子の塩基配列(J.A.Lopez et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,5615−5619(1987))に基づいて設定した。
【0101】
ファージプラークDNAを転写したニトロセルロースフィルター(直径132mm)を1枚につき1×106cpm(count per minuite)のプローブを含む4mlのハイブリダイゼーション緩衝液(0.9M食塩、0.09Mクエン酸ナトリウム(pH7.0)、0.5%ラウリル硫酸ナトリウム、0.1%フィコール、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%ウシ血清アルブミン、100μg/ml熱変性サケ精子DNA)に浸し、42℃で16時間ハイブリダイズさせた。このフィルターを1×SSC(0.875%食塩、0.441%クエン酸ナトリウム,pH7.0)、0.1%ラウリル硫酸ナトリウム溶液で37℃30分間、3回洗浄し、非特異的にフィルターに吸着したプローブを取り除いた。乾燥後、X線フィルムを用いてオートラジオグラフィーを行った。その結果、陽性クローン4株を得た。
【0102】
各々の陽性クローンからファージを分離し大腸菌NM514に感染させ、増殖させた後、それぞれ塩化セシウム密度勾配超遠心法にてファージDNAを精製した。このファージDNAを制限酵素EcoRIで切断し、アガロース電気泳動にてDNAを精製した。この精製したDNAをpBluescriptSK−(Stratagene社製)のEcoRI部位に挿入し、大腸菌XLIIblue(Stratagene社製)を形質転換して形質転換体を得た。形質転換体からアルカリSDS法にてプラスミドを調製し、プラスミドDNAの塩基配列を、ジデオキシ法により、パーキンエルマー・アプライドバイオシステムズ社製377型DNAシーケンサーを用い、機器のプロトコールに従って決定した。
【0103】
得られた陽性クローンのうち1株は2.4kbのcDNAを有し、J.A.Lopezら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、Vol.84、pp.5615−5619(1987))が発表したヒトグリコプロテインIbα遺伝子の全長を有するクローンであることを確認した。このプラスミドをpBluescriptGPIbAlphaとする。
【0104】
<2>イムノグロブリンのFc(γ1由来)部分をコードする遺伝子のクローニング
マウスイムノグロブリンγ1のFc部分の遺伝子は、マウスハイブリドーマ細胞株MB40.3より、全RNAを抽出し、逆転写PCR法により取得した。すなわち、MB40.3細胞の培養液10mlより、遠心分離により細胞を回収し、ISOGEN(1ml)(日本ジーン社製)により細胞を溶解し、18Gの注射針を用いてシリンジングした。5分間放置した後、200μlのクロロホルムを加えて混和し、2分間静置した後、遠心分離(15000rpm、15分)し、水相を回収した。水相に500μlの2−プロパノールを加えて混和し、5分間静置した後、遠心分離(15000rpm、15分)により全RNAを沈殿させ、75%エタノールで洗浄した後、100μlの滅菌水に溶解した。
【0105】
上記のように調製したMB40.3細胞全RNA3μg(20μl)を鋳型とし、ランダムプライマー及び逆転写酵素(superscript II(GIBCO社製))を用いてcDNAを作製した。上記cDNAに対し、配列番号2及び3のプライマーを用いてPCR反応を行い、HindIII、BamHIで切断した後、アガロースゲル電気泳動により精製し、HindIII及びBamHIで切断したpGEM−3Zf(Promega社製)に結合し、得られた組換えDNAで大腸菌XLIIblue(Strat
agene社製)を形質転換した。得られた形質転換体の1つを培養し、アルカリSDS法にてプラスミドを調製し、その塩基配列を、ジデオキシ法により、パーキンエルマー・アプライドバイオシステムズ社製377型DNAシーケンサーを用い機器のプロトコールに従って、決定した。得られたマウスイムノグロブリンγ1のFc部分の遺伝子断片の塩基配列を配列番号4に示した。このプラスミドをpGEMmIgG1Fcとした。
【0106】
<3>キメラ蛋白質(GPIb−mIgG1Fc)を発現するプラスミドの作製
上記のように得られたヒトグリコプロテインIb遺伝子とマウスイムノグロブリンガンマ1のFc部分を融合させたキメラ蛋白質は以下の方法で作製した。
【0107】
まずグリコプロテインIbα鎖遺伝子を含むプラスミドpBluescriptGPIAlphaを制限酵素EcoRIとXbaIで切断し、アガロースゲル電気泳動により分離し、グリコプロテインIbα鎖遺伝子のN末領域である約1000bpのDNAを回収した。これをpBluescriptSK−(Stratagene社製)のEcoRI−XbaI部位に挿入し、プラスミドpBluescriptGPIbEXを作製した。
【0108】
一方、前述のように得られたマウスイムノグロブリンγ1の部分遺伝子を含むプラスミドpGEMmIgG1Fcを制限酵素XbaIで切断し、アガロースゲル電気泳動で分離して、IgG1Fc遺伝子700bpを回収した。このDNAと、制限酵素XbaIで切断後CIAP処理を施したpBluescriptGPIbEXを結合させ、プラスミドpBluescriptGPIbIgG1FcFHを取得した。この遺伝子にコードされる蛋白質をGPIb−mIgG1Fcと名付け、その遺伝子配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号6及び7に示した。尚、配列番号6において、N末端の16アミノ酸残基は、シグナルペプチドを構成すると推定される。
【0109】
さらにpBluescriptGPIbIgG1FcFHを制限酵素XhoIで切断後、アガロースゲル電気泳動でGPIbFcFHをコードするDNAを分離し、このDNAを動物細胞用発現ベクターpSD(X)のXhoI部位に挿入し、プロモーターの下流にGPIb遺伝子が挿入された発現ベクターpSDGPIbIgG1FcFHを取得した。上記の手順の概要を図1に示す。プラスミドpSDGPIbIgG1FcFHを保持するエシェリヒア・コリXLIIblue(Escherichia coli AJ13434)は、1998年4月2日に、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−16749の受託番号で寄託され、1999年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP−6619が付与されている。
【0110】
<4>イムノグロブリンのFc部分(γ2a由来)をコードする遺伝子のクローニング
マウスイムノグロブリンγ2aのFc部分の遺伝子は、マウスハイブリドーマ細胞株W6/32より、全RNAを抽出し、逆転写PCR法により取得した。すなわち、W6/32細胞の培養液10mlより、遠心分離により細胞を回収し、ISOGEN(日本ジーン社製)1mlにより細胞を溶解し、18Gの注射針を用いてシリンジングした。5分間放置した後、200μlのクロロホルムを加えて混和し、2分間静置した後、遠心分離(15000rpm、15分)し、水相を回収した。水相に500μlの2−プロパノールを加えて混和し、5分間静置した後、遠心分離(15000×rpm、15分)により全RNAを沈殿させ、75%エタノールで洗浄後、100μlの滅菌水に溶解した。
【0111】
上記のようにして調製したW6/32細胞の全RNA3μg(20μl)を鋳型とし、ランダムプライマー及び逆転写酵素(superscript II(GIBCO社製))を用いて、cDNAを作製した。上記cDNAに対し、配列番号8及び9に示す塩基配列を有するプライマーを用いてPCR反応を行い、HindIII及びBamHIで切
断した後、アガロースゲル電気泳動により精製し、HindIII及びBamHIで切断したpGEM−3Zf(Promega社製)に結合し、得られた組換えDNAで大腸菌XLIIblue(Stratagene社製)を形質転換した。得られた形質転換体の1つを培養し、アルカリSDS法にてプラスミドを調製し、その塩基配列を、ジデオキシ法により、パーキンエルマー・アプライドバイオシステムズ社製377型DNAシーケンサーを用い機器のプロトコールに従って、決定した。得られたマウスイムノグロブリンγ2aのFc部分の遺伝子断片の塩基配列を配列番号10に示した。このプラスミドをpGEMmIgG2aFcとした。
【0112】
<5>キメラ蛋白質(GPIb−mIgG2aFc)を発現するプラスミドの作製
上記のように得られたヒトグリコプロテインIb遺伝子とマウスイムノグロブリンγ2aのFc部分をコードする遺伝子を融合させたキメラ蛋白質遺伝子は、以下の方法で作製した。
【0113】
まず、グリコプロテインIbα鎖遺伝子を含むプラスミドpBluescriptGPIbAlphaをKpnI及びXbaIで切断し、アガロースゲル電気泳動により精製を行い、グリコプロテインIb遺伝子のアミノ末端から319番目のアスパラギン酸までの配列を含むKpnI−XbaI DNAフラグメントを得た。
【0114】
また、前述のように得られたマウスイムノグロブリンγ2aの部分遺伝子を含むプラスミドpGEMmIgG2aFcを用いて、配列番号9及び12に示した塩基配列を有する2種の合成プライマーを用い、PFU(Stratagene社製)を用いたPCR反応(アニーリング温度55℃、30サイクル)により、5'側にXbaIサイト、3'側にXhoIサイトを持つマウスイムノグロブリンγ2aのFc部分の遺伝子断片を作製した。この遺伝子断片をXbaI及びXhoIによって消化した後、アガロースゲル電気泳動により精製し、XbaI及びXhoIで切断したpBluescriptSK−に結合し、得られた組換えプラスミドで大腸菌XLIIblue(Stratagene社製)を形質転換した。
【0115】
得られた形質転換体から、アルカリSDS法にてプラスミドを調製し、その塩基配列を、ジデオキシ法により、パーキンエルマー・アプライドバイオシステムズ社製377型DNAシーケンサーを用い、機器のプロトコールに従って、決定した。その結果、配列番号10に示す塩基配列の5'末端の6塩基がTCTAGACに置換され、3'末端の6塩基が除去された塩基配列であることが確かめられた。このプラスミドをpBluescriptmIgG2aとした。本プラスミドをXbaI及びXhoIを用いて切断し、アガロースゲル電気泳動により精製を行い、マウスイムノグロブリンγ2aのFc部分遺伝子のXbaI−XhoI断片を取得した。
【0116】
上記の様に取得したヒトグリコプロテインIb遺伝子のKpnI−XbaI断片とマウスイムノグロブリンγ2aのFc部分遺伝子のXbaI−XhoI断片を、KpnI及びXhoIで切断したpBluescriptSK−に結合し、得られた組換えプラスミドで大腸菌XLIIblue(Stratagene社製)を形質転換した。得られた形質転換体の1つを培養し、アルカリSDS法にてプラスミドを調製し、グリコプロテインIbのN末端側部分(アミノ酸番号1−319、シグナルペプチドを含む)とマウスイムノグロブリンγ2aのFc部分が結合した蛋白質(キメラ蛋白質)をコードする遺伝子(配列番号13)を含むプラスミドを得た。このプラスミドをpBluescriptGPIbFc2aと名付け、コードされる遺伝子に対応するキメラ蛋白質を特にGPIb−mIgG2aFcと名付け、そのアミノ酸配列を配列番号14に示した。尚、配列番号14において、N末端の16アミノ酸残基は、シグナルペプチドを構成すると推定される。
【0117】
プラスミドpBluescriptGPIbFc2aを保持するエシェリヒア・コリXLIIblue(Escherichia coli AJ13432)は、1998年3月19日に、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−16719の受託番号で寄託され、1999年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP−6618が付与されている。
【0118】
pBluescriptGPIbFc2aをXhoIにより消化後、アガロース電気泳動を用いて精製し、このキメラ蛋白質の遺伝子を含むXhoI断片を、<3>と同様の動物細胞発現ベクターpSD(x)のXhoI部位に結合したプラスミドpSDGPIbFc2aを得た。さらにpGPIbFcbluescriptをEcoRI、XhoIにより消化後、キメラ蛋白質の遺伝子を含むEcoRI−XhoI断片を、SRαプロモーター(K.Maruyama and Y.Takebe et al.,Medical Immunology 20,27−32 1990)を有する動物細胞発現用ベクターpMikNeo(+)(東京大学医科学研究所、丸山和夫先生より恵与)のEcoRI−XhoI部位に挿入し、プラスミドpMikGPIbFcを得た。pMikGPIbFcを取得した手順の概要を図2に示した。
【0119】
〔実施例2〕
キメラ蛋白質(GPIb−mIgG1Fc)の動物細胞を用いた生産
キメラ蛋白質の生産細胞は以下の方法により作製した。CHOdhfr-細胞を、10%ウシ胎児血清を含むD−MEM培地(GIBCO社製)(10ml)を用いて、5×105個/10cmシャーレになるように、37℃、5%CO2下で培養した。この細胞に、実施例1<3>にく記載の通り調製したpSDGPIbIgG1Fcを形質導入した。形質導入は、以下に示すようにリン酸カルシウムにより行った。
【0120】
すなわち、10cmシャーレあたり約10μgのpSDGPIbIgG1Fcを0.5mlの0.125M塩化カルシウムを含むBESパッファー(pH6.96)0.5mlに添加後、シャーレにまんべんなく滴下し、35℃、3%CO2下で終夜培養した後、シャーレをPBSで2回洗浄後、核酸不含α−MEN培地でさらに約24時間37℃、5%CO2下で培養した。このようにして形質導入した細胞を、さらにメソトレキセート(MTX)0.05uM、10%ウシ胎児血清を含む核酸不含α−MEM培地中で培養することにより、キメラ蛋白質生産細胞を取得した。
【0121】
上記の様にして得たキメラ蛋白質産生細胞は、F175細胞培養用フラスコでメントレキセート(MTX)0.05uM、10%ウシ胎児血清を含む核酸不含α−MEM培地中でほぼ60%コンフルエントになるまで培養した後、培地をメソトレキセート(MTX)0.05uMを含む無血清培地ASF104培地(味の素社製)に交換し、4日後、培養用上清を回収した。
【0122】
〔実施例3〕
キメラ蛋白質(GPIb−mIgG2aFc)の動物細胞を用いた生産
キメラ蛋白質の生産細胞は、以下の方法により作製した。CHOK1細胞を、10%ウシ胎児血清を含むD−MEM培地(GIBCO社製)(10ml)を用いて、5×105個/10cmシャーレになるように、37℃、5%CO2下で培養した。この細胞に、実施例1で調製したpMikGPIbFcを形質導入した。形質導入は、以下に示すようにリン酸カルシウム法により行った。
【0123】
すなわち、10cmシャーレあたり約10μgのpMikGPIbFcを0.5mlの0.125M塩化カルシウムを含むBESバッファー(pH6.96)0.5mlに添加後、シャーレにまんべんなく滴下し、35℃、3%CO2下で終夜培養した後、シャー
レをPBSで2回洗浄後、D−MEM培地でさらに約24時間37℃、5%CO2下で培養した。このようにして形質導入した細胞を、さらにG418(850μg/ml)、10%ウシ胎児血清を含むD−MEM培地中で培養することにより、G418耐性細胞であるキメラ蛋白質生産細胞を取得した。
【0124】
上記の様にして得たキメラ蛋白質産生細胞は、F175細胞培養用フラスコでG418(800μg/ml)、10%ウシ胎児血清を含むD−MEM培地中でほぼ60%コンフルエントになるまで培養した後、培地をG418(800μg/ml)を含む無血清培地ASF104培地(味の素社製)に交換し、4日後培養用上清を回収した。
【0125】
回収した培養上清を遠心分離して固形物を除去した後、上清160mlを、20mMリン酸バッファー(pH7.0)で洗浄したProtein A Hitrap(1ml、ファルマシア社製)カラムに通してキメラ蛋白質をカラムに吸着させた。カラムを20mMリン酸バッファー(pH7.0)で十分洗浄した後、0.1Mクエン酸バッファー(pH4.5)で溶出を行った。キメラ蛋白質の溶出は、UVモニターによって280nmを検出することによって行い、キメラ蛋白質溶出画分は1Mトリス塩酸バッファー(pH8.5)を加えることにより直ちに中和した。上記のようにして得られたキメラ蛋白質は、SDS電気泳動の結果、還元下で約80Kda、非還元下で約2倍の分子量を示す蛋白質であった。
【0126】
〔実施例4〕
固定化したフォンビルブランド因子とボトロセチンの混合物に対するキメラ蛋白質の結合の検出
【0127】
<1>抗マウスIgG−Fc抗体を用いたELISA法によるキメラ蛋白質の結合の検出
ボトロセチンは、ボトロプス・ジャララカ(Botrops jararaca)粗毒凍結乾燥品(シグマ社製)1gより、Read(M.S.Read et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,75,4514−4518,1978)により報告されている方法に準じて精製することにより、取得した。
【0128】
また、96穴マルチタイタープレートへのフォンビルブランド因子、ボトロセチンの混合液の固定化は以下のように行った。まず、常法により調製したフォンビルブランド因子の生理的食塩水溶液(250μg/ml)とボトロセチンの生理的食塩水溶液(500μg/ml)を適当に希釈した後、図2に示したそれぞれの濃度比になるように混合した後、その50μl、96穴マルチタイタープレート(Maxisorp、ヌンク社製)の各ウェルに加えた。4℃で終夜静置した後、生理的トリスバッファー(20mMトリス塩酸(pH7.4)、0.15M塩化ナトリウム;Tris buffered saline、以下、「TBS」という)にて1回(150μl)洗浄し、10%BSA(ウシ血清アルブミン)を含むTBS 100μlを加えて約3時間静置した後、TBSで3回洗浄し、フォンビルブランド因子固定化プレートを得た。
【0129】
上記の様にボトロセチン存在下でフォンビルブランド因子を固定化したプレートに対し、1%BSAを含むTBS 25μlと、キメラ蛋白質(GPIb−mIgG1Fc)産生細胞の無血清培地を用いた培養上清を0.1%BSAを含むTBSで8倍に希釈した溶液25μlを加え、1時間室温にてインキュベートした後、0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で3回洗浄した。抗マウスIgG−Fcヤギポリクローナル抗体(カタログNo.55482、Organon Teknika社製)をBiotin Labeling Kit(カタログNo.1418165、Boehringer
Mannheim社製)を用いてキットに添付されたプロトコール記載の方法で、ビオチン化した。このビオチン化抗マウスIgGFc抗体約2μg/mlを含む0.1%BS
A/TBA溶液50μlを前記プレートに加え、1時間、室温にてインキュベートした。さらに0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で3回洗浄した後、VECTASTAIN ABC kit(ビオチン検出用キット、Alkaline phosphatase standard、カタログNo.AK−5000、Vector laboratories社製)の試薬(ビオチン化アルカリフォスファターゼ及びストレプトアビジンの混合液)をマニュアルに記載の方法の1/5濃度に調製した0.1%BSA/TBS溶液50μlを加えて、1時間室温にてインキュベートした。0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で5回洗浄後パラニトロフェニルフォスフェート(p−nitrophenylphsphate)を1mg/mlになるように溶解した、10mM MgCl2を含む100mM NaHCO3溶液を100μl加え、約1時間発色反応を行い、発色後405nmの吸光度を測定した。図3に示した通り、ボトロセチンおよびフォンビルブランド因子の量依存的に、キメラ蛋白質の結合が観察された。
【0130】
<2>ユーロピウム(Eu)ラベル法を用いたキメラ蛋白質の結合の検出
実施例3で得た、Protein Aカラムで精製したキメラ蛋白質(GPIb−mIgG2aFc)溶液を生理的食塩水に対して透析後、約200μg/1.5mlの溶液をCentricon−10(Amicon社製)を用いた限外濾過により780μl(濃度約250μg/ml)に濃縮した。そのうち500μl(約125μgのGPIb−mIgG2aFcを含む)に50μlの0.5M NaHCO3を加えた後、Eu−Labeling Reagent(化合物としてEuropium DTTA−isothiocyanate、DELFIA 1244−302、Wallac社製)0.2mgを生理的食塩水250μlに溶解したものを50μl添加した後、約40時間室温で撹拌しながらEuropium DTTA−isothiocyanateを反応させた。
【0131】
上記反応液を、HiLoad 16/60 Superdex 75pg(内径16mm、長さ60cm、Pharmacia社製)を用いてゲル濾過し、未反応の試薬とキメラ蛋白質とを分離した。ゲル濾過は、溶出液に生理的食塩水を用い、流速1ml/分で行った。Euでラベル化されたキメラ蛋白質は、溶出体積40−48mlの部分に回収された。蛋白質定量キット(Protein Assay,Bio−Rad社製)を用い、IgGを標準物質として蛋白定量を行った結果、溶出溶液中のラベル化されたキメラ蛋白質の濃度は、6.4μg/mlの濃度であった。以下、この値をキメラ蛋白質濃度として、以下の実験を行った。
【0132】
上記のように調製したユーロピウム(Eu)ラベル化したキメラ蛋白質と、ボトロセチン存在下で固定化したフォンビルブランド因子との結合の検出を、以下の通り行った。実施例4<1>で示した方法にしたがって、フォンビルブランド因子2.5μg/mlとボトロセチン2.5μg/mlの混合溶液(TBS)を96穴マルチタイタープレート(マイクロタイトレーションプレートDELFIA、1244−550、Wallac社製)の各ウェルに加え、終夜固定化した後、洗浄、ブロッキング、洗浄を行い、フォンビルブランド固定化プレートを作製した。
【0133】
上記プレートに、25μlの0.5%BSAを含むアッセイバッファー(Assay
Buffer、Wallac DELFIA 1244−106、Wallac社製、組成:0.5% BSA、0.05% ウシγグロブリン、0.01% Tween−40、20μM DTPA(ジエチレンドリアミン四酢酸)、50mM Tris−HCl bufferd saline(pH7.8)、0.05%アジ化ナトリウム)あるいはさらに結合阻害物質として組み換え体AS1051(Cys81をAlaに置換したもの)(N.Fukuchi et al.,WO95/08573)を終濃度20μg/mlとなるように加え、さらにユーロピウム(Eu)ラベル化したキメラ蛋白質の同アッセイバッファー溶液(100ng/ml)25μlを加えて、1分間振とう撹拌した後、室温で2
時間静置した。プレートを0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で5回洗浄した後、蛍光増強緩衝液(Enhancement buffer、1244−104、Wallac社製、組成:15μM β−NTA(2−ナフトイルトリフロオロアセトン)、50μM TOPO(トリ−n−オクチルフォスフィンオキシド)、1g/L Triton X−100、100mM 酢酸−フタル酸水素カリウム緩衝液)100μlを加えて1分間振とう撹拌した後、DELFIA Research蛍光光度計(1230 ARCUS Fluorometer、Wallac社製)を用いてユーロピウム(Eu)量の測定を行った(測定時間:1秒間)。測定の値(結合阻害物質添加及び非添加)とCV(偏差)(%)値を表1に示した。
【表1】
【0134】
〔実施例5〕
結合阻害物質によるフォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合阻害の検出
【0135】
<1>抗マウスIgG−Fc抗体を用いたELISA法によるキメラ蛋白質の結合阻害の検出
フォンビルブランド因子の固定化を、フォンビルブランド因子2.5μg/mlとボトロセチン2.5μg/mlの混合溶液(TBS)で行ったこと、及び、固定化フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質産生細胞の培養上清との反応の際、阻害活性を測定したい結合阻害物質を加えておくこと以外は、実施例4<1>の方法と同様に行った。
【0136】
結合阻害物質としては、抗ヒトフォンビルブランド因子モノクローナル抗体であるAJvW−2、及び、クロタルス・ホリダス・ホリダスの蛇毒由来のヒトグリコプロテインIb結合ペプチドを用いた。
【0137】
AJvW−2を産生するハイブリドーマは、平成6年8月24日に通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(郵便番号305 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)にそれぞれ順にFERM P−14487の受託番号で寄託され、平成7年9月29日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管されて、FERM BP−5248の受託番号で寄託されている(WO96/17078参照)。該ハイブリドーマを培養すれば、AJvW−2を得ることができる。
【0138】
また、前記ヒトグリコプロテインIb結合ペプチドは、クロタルス・ホリダス・ホリダスの蛇毒由来の多量体ペプチドから得られる一本鎖ペプチド(AS1051)の81位のシステイン残基がアラニン残基に置換されたもの(変異型AS1051)である。AS1051は、これをコードする遺伝子を、81位のシステイン残基がアラニン残基に置換されるように改変し、該遺伝子を大腸菌で発現させることにより得た。pCHA1を保持するE.coli HB101/pCHA1(E.coli AJ13023)は、平成6年8月12日より、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(郵便番号305 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)に、FERM BP−4781の受託番号のもとでブダペスト条約に基づき国際寄託されている(WO95/08573参照)。尚、AS
1051自体もヒトグリコプロテインIb結合ペプチドであり、変異型AS1051の検出と同様にして検出することができる。
【0139】
AJvW−2及び変異型AS1051のキメラ蛋白質(すなわちグリコプロテインIb)に対する結合阻害活性を図4に示した。
【0140】
<2>ユーロピウム(Eu)ラベル法を用いたキメラ蛋白質の結合阻害の検出
フォンビルブランド因子の固定化を、フォンビルブランド因子2.5μg/mlとボトロセチン2.5μg/mlの混合溶液(TBS)で行ったこと、及び、固定化フォンビルブランド因子とユーロピウム(Eu)ラベル化したキメラ蛋白質との反応の際、阻害活性を測定したい結合阻害物質を加えておくこと以外は、実施例4<2>の方法と同様に行った。
【0141】
結合阻害物質としては、抗ヒトフォンビルブランド因子抗体であるAJvW−2、変異型AS1051を用いた。両物質のキメラ蛋白質(すなわちグリコプロテインIb)に対する結合阻害活性を図5に示した。
【0142】
〔実施例6〕
血漿中のグリコカリシンの検出
【0143】
<1>抗マウスIgG−Fc抗体を用いたELISA法にグリコカリシンの検出
ヒト血漿の調製は、18Gの注射針を用いて健康なボランティアから採血した血液に、1/10容の3.8%クエン酸ナトリウム水溶液を加え、3000×rpmで10分間、遠心分離した後、その上清を分離することにより行った。
【0144】
実施例5<1>の方法と同様にして作製したフォンビルブランド因子固定化プレートに対し、3人の独立に採取したヒト血漿をTBSで順次2倍に希釈し(合計8段希釈)、その25μlを上記プレートに加え、さらに、キメラ蛋白質産生細胞を無血清培地で培養した培養上清を0.1%BSAを含むTBSで8倍に希釈した溶液25μlを加え、1時間室温にてインキュベートした。その後の反応、発色操作は実施例5<1>に示した方法と同様に行い、その結果の平均値を図6に示した。
【0145】
健常人のグリコカリシンの血中濃度は約2μg/mlと報告されており、このことより、本検出系では50%の結合阻害を示すグリコカリシン濃度は約400ng/mlであり、グラフの直線性から60ng/ml以上のグリコカリシン量は十分測定可能であると考えられた。
【0146】
<2>ユーロピウム(Eu)ラベル化したキメラ蛋白質を用いたグリコカリシンの検出
上記<1>の方法で独立に調製したヒト血漿をTBSで順次2倍に希釈し(合計8段希釈)、実施例5<1>の方法と同様に作製したフォンビルブランド因子固定化プレート(プレートは、マイクロタイトレーションプレートDELFIA、1244−550、Pharmacia Biotech社製を使用)に25μlを加え、さらに実施例4<1>と同様にして調製したユーロピウム(Eu)ラベル化したキメラ蛋白質のアッセイバッファー溶液(100ng/ml、Assay Buffer;1244−106、Pharmacia Biotech社製))25μlを加えて反応させた。その後の洗浄操作、測定操作は実施例5<2>と同様に行い、その結果の平均値を図7に示した。
【0147】
健常人のグリコカリシンの血中濃度は約2μg/mlと報告されており、このことより、本検出系では50%の結合阻害を示すグリコカリシン濃度は約60ng/mlであり、30ng/ml以上のグリコカリシン量は十分測定可能であると考えられた。
【0148】
〔実施例7〕
固定化したフォンビルブランド因子に対するボトロセチン存在下におけるキメラ蛋白質の結合の検出と阻害物質による結合阻害の検出
【0149】
<1>キメラ蛋白質の結合の検出
ヒトフォンビルブランド因子(2.5μg/ml)を含むTBS溶液(50μl)を96穴プレートの各ウェルに加え、4℃で終夜固相化した後、TBS(150μl)で1回洗浄した後、5%BSAを含むTBSで約3時間ブロッキングを行った。プレートをTBS(150μl)で2回洗浄した後、25μlのアッセイバッファー(Assay Buffer、1244−106、Wallac社製、組成は実施例4<2>に記載)あるいはさらに阻害物質として組み換え体AS1051(Cys81をAlaに置換したもの)を終濃度20μg/mlとなるように加え、実施例4<2>で調製したユーロピウム(Eu)ラベル化したキメラ蛋白質(100ng/ml)およびボトロセチン(500ng/ml)を含むアッセイバッファー(25μl)を順次加え、室温で約3時間放置した。プレートを0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で5回洗浄した後、蛍光増強緩衝液(Enhancement Solution、1244−104、Wallac社製、組成は実施例4<2>に記載)100μlを加えて1分間振とうした後、142OARVOマルチラベルカウンター(Wallac社製)を用いてユーロピウム(Eu)量の測定を行った(測定時間:1秒間)。測定の値(サンプル非添加、阻害サンプル添加)とCV(%)値を表2に示した。
【表2】
【0150】
<2>阻害物質によるキメラ蛋白質の結合阻害の測定
阻害活性を測定したい結合阻害物質を加えておくこと以外は、実施例7<1>の方法と同様に行った。
結合阻害物質としては実施例5<1>に示した抗ヒトフォンビルブランド因子モノクローナル抗体であるAJvW−2、同様に実施例5<1>に示したヒトグリコプロテインIb結合蛋白質である変異型AS1051を用いた。
AJvW−2、変異型AS1051のキメラ蛋白質(すなわちグリコプロテインIb)に対する結合阻害活性を図8に示した。
【0151】
〔実施例8〕
固定化したキメラ蛋白質に対する結合惹起物質存在下におけるフォンビルブランド因子の結合の検出と結合阻害物質による結合阻害の検出
【0152】
<1>ボトロセチンを用いた結合の検出
まず、ヒトフォンビルブランド因子の生理的食塩水溶液(300μg/ml)500μlに50μlの0.5M NaHCO3を加えた後、Eu−labeling Reagent(化合物としてEuropium DTTA−isothiocyanate、DELFIA 1244−302、Wallac社製)0.2mgを生理的食塩水250μ
lに溶解したものを50μl添加した後、約40時間室温で撹拌しながら反応させた。
【0153】
上記反応液を、HiLoad 16/60 Superdex 75pg(内径16mm、長さ60cm、Pharmacia社製)を用いてゲル濾過し、未反応の試薬とフォンビルブランド因子とを分離した。ゲル濾過は、溶出液に生理的食塩水を用い、流速1ml/分で行った。Euでラベル化されたヒトフォンビルブランド因子は、溶出体積40−48mlの部分に回収された。
【0154】
上記のように調製したユーロピウム(Eu)ラベル化したフォンビルブランド因子と、固定化したキメラ蛋白質とのボトロセチン存在下で結合の検出を、以下の通り行った。まず抗マウスイムノグロップリンポリクローナル抗体(カタログNo.55482、Organon Teknika社製、1μg/ml)の0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)溶液50μlを、96穴マルチタイタープレート(マイクロタイトレーションプレートDELFIA、1244−550、Wallac社製)の各ウェルに加え終夜固定化した後、洗浄、5%BSAを含むTBS(100μl)によりブロッキングした後、TBS(150μg/ml)で3回洗浄を行った。さらにキメラ蛋白質のTBS溶液(0.5μg/ml)50μlを加え、室温で3時間静置することにより固定化した抗マウスイムノグロブリン抗体に、キメラ蛋白質を結合させ、キメラ蛋白質固定化プレートを作製した。
【0155】
キメラ蛋白質固定化プレートを、0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で3回洗浄した後、実施例4<1>で示した方法と同様に、25μlのアッセイバッファー(Assay Buffer、1244−106、Wallac社製、組成は実施例4<2>に記載)あるいはさらに阻害物質として組み換え体AS1051(Cys81をAlaに置換したもの)を終濃度20μg/mlとなるように加え、さらにユーロピウム(Eu)ラベル化したフォンビルブランド因子(500ng/ml)とボトロセチン(500ng/ml)を含むアッセイバッファー(25μl)を順次加え、室温で約3時間放置した。0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で5回洗浄した後、蛍光増強緩衝液(Enhancement solution、1244−104、Wallac社製、組成は実施例4<2>に記載)100μlを加えて1分間振とうした後、1420ARVOマルチラベルカウンター(Wallac社製)を用いてユーロピウム(Eu)量の測定を行った(測定時間:1秒間)。測定の値(サンプル非添加、阻害サンプル添加)を表3に示した。
【表3】
【0156】
<2>阻害物質によるキメラ蛋白質の結合阻害の測定
阻害活性を測定したい結合阻害物質を加えておくこと以外は、実施例8<1>の方法と同様に行った。
【0157】
結合阻害物質としては実施例5<1>に示した抗ヒトフォンビルブランド因子モノクローナル抗体であるAJvW−2、同様に実施例5<1>に示したヒトグリコプロテインIb結合蛋白質である変異型AS1051を用いた。
【0158】
AJvW−2、変異型AS1051のキメラ蛋白質(すなわちグリコプロテインIb)に対する結合阻害活性を図9に示した。
【0159】
<3>リストセチンを用いた結合の検出
<1>と同様の方法を用いて作製したユーロピウム(Eu)ラベル化したフォンビルブランド因子、およびキメラ蛋白質固定化プレートを用いた。
【0160】
キメラ蛋白質固定化プレートを、0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で3回洗浄した後、25μlのアッセイバッファー(Assay Buffer、1244−106、Wallac社製、組成は実施例4<2>に記載)あるいはさらに阻害物質として組み換え体AS1051(Cys81をAlaに置換したもの)を終濃度20μg/mlとなるように加え、さらにユーロピウム(Eu)ラベル化したフォンビルブランド因子(500ng/ml)と種々の濃度(2、1、0.5、0.25および0mg/ml)の硫酸リストセチン(シグマ社製)を含むアッセイバッファー(25μl)を順次加え、室温で約2時間放置した。0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で5回洗浄した後、蛍光増強緩衝液(Enhancement solution、1244−104、Wallac社製、組成は実施例4<2>に記載)100μlを加えて1分間振とうした後、1420ARVOマルチラベルカウンター(Wallac社製)を用いてユーロピウム(Eu)量の測定を行った(測定時間:1秒間)。
【0161】
リストセチン濃度と結合したフォンビルブランド因子のカウント、および結合阻害物質である組み換え体AS1051(終濃度20μg/ml)存在下での結合したフォンビルブランド因子のカウントを表4に示した。
【表4】
【0162】
〔実施例9〕
実施例7の方法を用いたグリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の結合を阻害する物質のスクリーニング
実施例7の方法を用いて、グリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の結合を阻害する物質のスクリーニングを行った。具体的には、阻害活性を測定したいサンプルを加えておくこと以外は、実施例7<1>の方法と同様に行った。種々の化合物、放線菌、糸状菌等の培養液、あるいはそれらの有機溶剤抽出物をサンプルとして用いた。
【0163】
その結果、日本国神奈川県横浜市の四季の森公園の土壌から採取された放線菌AJ9553株の培養液、あるいはその有機溶剤(ブタノール、酢酸エチル)抽出画分に、グリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の結合を著しく阻害する物質を見出した。
【0164】
〔実施例10〕
放線菌AJ9553株を用いた阻害物質の生産と単離、構造解析
【0165】
<1>AJ9553株からのK17427AおよびBの製造法
AJ9553株を試験管に5ml張り込んだシード用培地(Beef Extract(DIFCO社製)0.1%、グルコース1%、Starch Soluble(ナカライテスク社製)1%、Corn steep powder(和光純薬社製)0.5%、ポリペプトン(大日本製薬社製)1%、Yeast Extract(DIFCO社製)0.5%、炭酸カルシウム0.2%を含む、pH7.2)に植菌し、28℃、120rpmで6日間振とう培養した。この培養液を500ml容三角フラスコに70ml張り込んだ培養用培地(グリセロール2%、Pharmamedia(Trader s Protein社製)1%、Corn Steep Powder(ナカライテスク社製)1%、炭酸カルシウム0.4%、硫酸ナトリウム0.3%、硫酸亜鉛7水和物0.003%を含む、pH7.0)に、2%になるように接種し、さらに28℃、180rpmで8日間振とう培養を行った。
【0166】
このようにして得られた培養液(1.6L)から遠心により菌体を得、これにアセトン(1L×2)を加えて、室温で1日抽出した。濾過により菌体残渣を分離後、減圧下アセトンを留去し、得られた残渣を水に懸濁させ。この水懸濁液を5%塩酸によりpH2.0に調製後、酢酸エチル(400ml×2)を加え抽出した。酢酸エチル層を減圧下で濃縮し、得られた残渣(1.3g)を50%メタノールに溶解させた。この溶液をダイヤイオンHP−20(三菱化学)を充填したカラムを用いてメタノールで溶出した。得られた画分をODSカラム(YMC−Pack AM−322)を用いたHPLCによりK17427A(400mg)およびK17427B(40mg)を得た。
【0167】
<2>AJ9553株からのK17427CおよびDの製造法
AJ9553株を試験管に5ml張り込んだシード用培地(Beef Extract(DIFCO社製)0.1%、グルコース1%、Starch Soluble(ナカライテスク社製)1%、Corn steep Powder(和光純薬社製)0.5%、ポリペプトン(大日本製薬社製)1%、Yeast Extract(DIFCO社製)0.5%、炭酸カルシウム0.2%を含む、pH7.2)に植菌し、28℃、120rpmで6日間振とう培養した。
【0168】
このようにして得られた培養液(40ml)から遠心により菌体を得、これにアセトン(50ml)を加えて、室温で1日抽出した。濾過により菌体残渣を分離後、減圧下アセトンを留去した。得られた水懸濁液を5%塩酸によりpH2.0に調製後、酢酸エチル(20ml×2)を加え抽出した。酢酸エチル層を減圧下で濃縮し、得られた残渣を50%メタノールに溶解させた。この溶液をダイヤイオンHP−20(三菱化学)を充填したカラムを用いてメタノールで溶出した。得られた両分をシリカゲル分取TLC(メルク社)により分画し(n−ヘキサン/酢酸エチル/メタノール/水、60:40:5:0.5)、K17427C(3.2mg)およびK17427D(2.2mg)を得た。
【0169】
〔実施例11〕
グリコプロテインIbとフォンビルブランド因子との結合を阻害する低分子量物質K17427A、B、C、Dを生産する放線菌AJ9553の同定、生理的試験
K17427A、B、C、Dを生産する放線菌AJ9553株の分類学的検討を行った結果を以下に示す。
【0170】
1.形態学的特徴
ISP[インターナショナル・ストレプトマイセス・プロジェクト(International Streptomyces Project)]規定の寒天培地上、28℃、14日間培養後、顕微鏡下観察では基底菌糸は良好に伸長、分岐し、オレンジ色である。ノカルディア(Nocardia)属菌株様のジグザグ伸長は観察されない。気菌糸は基底菌糸上から形成し、成熟すると気菌糸由来の胞子連鎖を形成する。胞子嚢は形成されない。胞子は卵状から単桿状の分節胞子であって、通常その大きさは、0.4〜1×1〜1.5μmである。熟成した胞子を水中に投じると、その胞子は鞭毛を有し遊走性を示す。
【0171】
2.各種寒天培地上での生育及び培養性状
各種寒天培地上での生育及び培養性状(28℃、14日間培養)を表5に示す。
【表5】
【0172】
3.生育温度
オートミール寒天培地で14日間培養したときの生育状況を以下に示す。
8℃:生育せず
30℃:生育良好
18℃:僅かに生育
37℃:生育良好
20℃:生育普通
42℃:生育普通
28℃:生育良好
45℃:生育せず
【0173】
4.炭素源の利用性
プリッドハム・ゴトリーブ寒天を基礎培地とし、下記各種糖を添加して28℃、14日間培養したときの生育状況を以下に示す。−:生育せず。+:生育普通
D−グルコース +
ラフィノース −
D−キシロース +
D−マンニトール +
L−アラビノース +
イノシトール −
L−ラムノース +
シュークロース +
D−フルクトース +
D−ガラクトース +
【0174】
5.菌体成分
細胞壁からは、meso−ジアミノピメリン酸、3−OH−ジアミノピメリン酸、グリシン及びリジンが検出され、細胞液タイプはVI型であると考えられる。また分類上の特徴である全菌体糖成分はアラビノース及びキシロースであり、糖パターンはD型であった。主要メナキノンはMK−9(H4)であった。また細胞壁ペプチドグリカンのアシルタイプは、グリコリル型であった。
【0175】
6.168リボソームRNA塩基配列解析本菌株の168リボソームRNA塩基配列を調べた結果、本菌株はミクロモノスポラシア(Micromonosporacea)科に所属するクウチオプラネス カエルレウス(Couchioplanes caeruleus)と最も近縁であった。
【0176】
以上のことから、本菌株は放線菌の中でもクウチオプラネス属(Couchioplanes)に属することは明らかであり、従ってAJ9553株をクウチオプラネス エスピー AJ9553(Couchioplanes sp.AJ9553)と称することとした。
【0177】
なお、本菌株は、1999年1月6日に通商産業省工業技術院生命工学技術研究所(郵便番号305−8566 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)にブタペスト条約に基づいて寄託されており、受託番号はFERM BP−6612である。
【0178】
本発明において、クウチオプラネス エスピー AJ9553(Couchioplanes sp.AJ9553)の変異株等の誘導体も、阻害物質を産生する性質を有する限り、生理的な性質が本菌株と異なっていても、阻害物質の製造に使用することができる。変異株は、例えばX線若しくは紫外線などの照射処理、例えばナイトロジェンマスタード、アザセリン、亜硝酸、2−アミノプリン若しくはN−メチル−N'−ニトロソグアニジン(NTG)等の変異誘起剤による処理、ファージ接触、形質転換、形質導入又は接合などの通常用いられている菌種変異処理方法によりクウチオプラネス エスピー AJ9553(Couchioplanes sp.AJ9553)を変異させることにより得ることができる。
【0179】
〔実施例12〕
K17427A、C、DのグリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の結合に対する阻害活性
【0180】
<1>実施例4のグリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の結合阻害を検出する方法を用いたK17427A、C、Dの阻害活性の測定
単離したK17427A、C、DのグリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の結合に対する阻害活性を、測定に1420ARVOマルチラベルカウンター(Wallac社製)(測定時間:1秒間)を用いたこと以外は実施例4に示した方法と同様の方法を用いて測定した。図10にそれぞれの化合物の、グリコプロテインIbとフォンビルブ
ランド因子の結合阻害活性を示した。
【0181】
<2>ヨード125ラベルフォンビルブランド因子とホルマリン固定化血小板の結合に対するK17427A、C、Dの阻害活性の測定
【0182】
(1)固定化血小板の調製
固定化血小板の調製法は、以下の方法にしたがって行った。18Gの注射針を用いて採血した健常人ボランティアの血液50mlに、1/10容になるように3.8%クエン酸ナトリウムを加え、50mlディスポーザブルチューブ(Falcon 2096)に二分した後、冷却遠心機(KUBOTA 8800)を用いて、900rpm、15分、室温で遠心分離を行って、上清を多血小板血漿(platelet rich plasma; PRP)として回収した。PRPに等容の2%パラホルムアルデヒド/PBSを加え、穏やかに混和した後4℃で一晩静置した。本溶液を上記と同様の冷却遠心機を用いて、3000rpm、10分、遠心分離を行い、上清をデカンテーションにより取り除いた後、約20ml/tubeのPBSを加えて、ピペットで穏やかに沈殿を懸濁させた。さらに3000rpm、10minの遠心分離、PBSによる懸濁を2回繰り返した後、最終的に最初のPRP量と同様のPBS溶液とし、これを固定化血小板懸濁液とした。
【0183】
(2)ヒト血清からのフォンビルブランド因子の精製
ヒト血清からのフォンビルブランド因子の精製は、H.R.Gralnickら(J.Clin.Invest,62,496(1978))の方法にしたがって行った。
【0184】
(3)フォンビルブランド因子の125Iラベル化
125Iラベル化を行うチューブは、予めIodogen(Piearce社製、0.5mg/ml)のジクロロメタン溶液1.5mlを加えた後、窒素気流下で溶媒を除去し、Iodgenの固相化を行った。ゲル濾過により得た高分子量フォンビルブランド因子(0.19mg/1.5ml)を反応チューブに入れ、Na125I、18.5Mbqを加えて室温で2分間反応させた後、あらかじめBSAでブロッキングし洗浄したPD10(Pharmacia Biotech社製)カラムにアプライし、TBSで溶出を行った。溶出液は0.5mlずつフラクション分取し、各フラクションの125I比活性をガンマカウンターPackard Multi Prias 4を用いて測定した。125I−フォンビルブランド因子を多く含むフラクションを集め、数本に分割した後、使用まで−80℃で保存した。
【0185】
(4)固定化血小板に対する125I−フォンビルブランド因子の結合に対するK17427A、C、Dの阻害活性の測定
アッセイを行う96wellフィルタープレート、Millipore Multiscreen HV(Millipore社製、0.45μM)は、予め1%BSA/TBS(100μl)を各ウェルに加え数時間静置することによりフィルターのブロッキングを行った。前述の固定化血小板懸濁液をTBSで10倍に希釈した懸濁液20μl、被験サンプルを5μl加え、さらに0.8μg/mlのボトロセチン、あるいは2.4mg/mlのリストセチンを含む125I−フォンビルブランド因子溶液(約800,000cpm)25μlを加えて、30分静置した。吸引によりウェル中の溶液を濾過した後、0.05%Tween−20を含むTBS(100μl)を加え、さらに吸引することにより洗浄を行った。
【0186】
ガンマカウンターを用いた測定は以下のように行った。
【0187】
上記洗浄後の96ウェルフィルタープレートからパンチ(Millipore社製、型番MAPK 896 OB)を用いてフィルターを離脱し、6ml容ポリスチレンチュー
ブに分注して、Packard Multi Prias4を用いて125Iの放射線量を測定した。K17427A、C、Dの阻害活性を図11に示した。
【0188】
上記に示した<1>、<2>の結果より、K17427A、C、DによるグリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の結合阻害活性は、通常広く用いられている<2>の方法より、本発明である<1>の方法(実施例4の方法)でより感度良く検出することが可能であった。
【0189】
〔実施例13〕
K17427Aの血小板凝集に対する阻害活性
18Gの注射針を用いて採血した健常人ボランティアの血液50mlに、1/10容になるように3.8%クエン酸ナトリウムを加え、50mlディスポーザブルチューブ(Falcon 2096)に二分した後、冷却遠心機(TOMY社製)を用いて、900rpm、15分、室温で遠心分離を行い、上清を多血小板血漿(platelet rich plasma; PRP)として回収した。さらに、下層は1500rpm、10分、室温にて遠心分離し、その上清を貧血小板血漿(platelet poor plasma; PPP)として回収した。上記のように調製したPRPを用い、測定機としてHematracer 801(二光バイオサイエンス社製)を用いて被験サンプルの血小板凝集阻害活性を測定した。予め被験サンプル(2.5−5μl)を入れた測定用の専用キュベットに100μlのPRPを加えて測定器にセットし、2分間の撹拌の後(37℃)、10倍濃度の凝集物質溶液を添加し、透過光の変化を測定した。凝集物質添加前のPRPの透過光を0%、PPPの透過光を凝集100%とし、阻害物質による凝集阻害率を、下記式によって数値化した。
凝集阻害率=
100−(阻害物質添加した際の凝集率−凝集物質添加直後の凝集率)/(コントロールの凝集率−凝集物質添加直後の凝集率)×100
【0190】
凝集惹起物質としては硫酸リストセチン(Sigma社製、終濃度1.2mg/ml)、アデノシン2リン酸(ADP)(エムシーメディカル社製、終濃度10μM)、コラーゲン(エムシーメディカル社製、終濃度10μg/ml)を用いた。
【0191】
K17427Aのそれぞれの凝集惹起物質による凝集に対する阻害活性を図12に示した。また、上記の通り計算した各濃度における、各凝集惹起物質による血小板凝集に対する凝集阻害率を表6に示した。
【表6】
【0192】
K17427Aは、500μM以上の濃度においてリストセチンによる凝集を完全に阻害したが、1mMにおいてもADP、コラーゲンによる凝集を実質的に阻害しなかった。また、K17427B、C、Dの血小板凝集に対する阻害活性は測定していないが、非常に類似の構造であること、実施例12に示したとおりグリコプロテインIbとフォンビ
ルブランド因子の結合を阻害することから、同様にリストセチン凝集のみを特異的に阻害することが容易に推定される。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明により、グリコプロテインIbとフォンビルブランド因子との結合又はその阻害を簡便に検出することができる。本発明の方法により、グリコカリシンの簡便かつ定量性に優れた定量法、およびフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害物質の簡便かつ操作性に優れた測定法が提供される。
【0194】
フォンビルブランド因子をボトロセチン等の結合惹起物質の存在下で固定化することにより、液相にボトロセチンあるいはリストセチンなどの結合惹起物質を添加することなく、簡便に再現性よくフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を観察することができる。
【0195】
また、本発明のキメラ蛋白質の利用により、グリコカリシン等の結合阻害物質を検出または定量する際、モノクローナル抗体の作製や入手を必要としない。
【0196】
また本発明はグリコプロテインIbの部分蛋白質をイムノグロブリン分子のFc部分と結合させたキメラ分子(キメラ蛋白質)の動物細胞を用いた製造法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】GPIb−mIgG1Fc発現系の構築の概要を示す図である。
【図2】GPIb−mIgG2aFc発現系の構築の概要を示す図である。
【図3】ボトロセチンの量に対する固定化したフォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合量(ELISA法)を示す図である。
【図4】フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合に対する阻害物質の活性(ELISA法)を示す図である。
【図5】フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合に対する阻害物質の活性(Euラベル法)を示す図である。
【図6】ヒト血漿中のグリコカリシンの定量(ELISA法)の一例を示す図である。
【図7】ヒト血漿中のグリコカリシンの定量(Euラベル法)の一例を示す図である。
【図8】フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合に対する阻害物質の活性(液層にボトロセチンを存在させる方法)を示す図である。
【図9】フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合に対する阻害物質の活性(キメラ蛋白質を固定化する方法)を示す図である。
【図10】フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合に対する阻害物質K17427A、B、C、Dの活性(Euラベル法)を示す図である。
【図11】フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合に対する阻害物質K17427A、B、C、Dの活性(125ヨードラベル法)を示す図である。
【図12】K17427A物質の血小板リストセチン惹起凝集、およびADP、コラーゲン惹起凝集に対する阻害活性を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗血栓活性物質及びグリコカリシンの検出法に関し、詳しくは、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を阻害する物質を検出または測定する方法、及び該方法の実施に直接使用する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞、脳梗塞あるいは末梢動脈閉塞症等の血栓症は、その患者数が世界的にも非常に多く、診断、治療すべき重要な疾患である。これら血栓症の発症には血小板が重要な役割を果たしている。一般に動脈硬化性病変等により血管の内腔に存在する血管内皮細胞が障害されると、障害部位に血小板が粘着して活性化を起こし、血小板による血小板血栓が生じ、最終的に閉塞性の病変へと進展する。
【0003】
血小板の活性化を検出する方法の一つに、血漿中のグリコカリシン濃度を測定する方法がある。グリコカリシンは、血小板表面上に存在する膜糖蛋白質であるグリコプロテインIbα鎖の細胞外部分が酵素的に切断された蛋白質であり、分子量約135KDaの大きさを持つ。血漿中のグリコカリシン濃度は血小板の障害あるいは活性化により上昇することが知られており、現在臨床診断において血栓性疾患の有無を検出するマーカーとして使用されている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
グリコカリシン濃度の測定方法は数々報告されているが、いずれも2種のグリコカリシンに対するモノクローナル抗体を用い、サンドウィッチ法により検出するELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)法である(非特許文献1、非特許文献2)。簡単に説明すると、1番目のモノクローナル抗体を96穴型プレート等に固相化し、ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin;BSA)等の蛋白質でブロッキングした後、測定する患者の血漿(あるいは血清)を添加する。グリコカリシンは固相化したモノクローナル抗体に特異的に結合し、プレートを洗浄後、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ等の酵素あるいはビオチン等で標識した2番目のモノクローナル抗体を加え、1番目のモノクローナル抗体に結合したグリコカリシンに2番目の抗体を特異的に結合させる。洗浄後2番目の抗体に標識した酵素により特定の紫外吸収もしくは可視吸収、蛍光、又は発光を示す物質へと変換される基質を加える酵素反応を行う。患者血漿中のグリコカリシン量は2番目の抗体の結合量と正の相関を示すことから、酵素反応によって生成した反応物の量を定量することにより、患者血漿中のグリコカリシンの濃度を測定することができる。また、1種類の抗グリコカリシン抗体を用いた競合ELISA法によるグリコカリシンの測定法も報告されているが(非特許文献3)、競合阻害を示すグリコカリシン濃度のIC50値が約4μg/mlであり、血漿中のグリコカリシン濃度(健常人で約2μg/ml、非特許文献1)の測定に耐えうるものではない。
【0005】
上記のサンドウィッチ法によるグリコカリシン定量法は現在広く用いられているが、新たに同様の測定系を作製しようとした場合、2種の認識部位の異なる抗グリコカリシンモノクローナル抗体を入手する必要がある。一般に市販のモノクローナル抗体は非常に高価であり、またモノクローナル抗体を作製するためには免疫するためのグリコカリシンの入手、免疫マウス脾臓からのハイブリドーマの取得、モノクローナル抗体産生細胞のスクリーニング等多くの労力を要する。また、上記のサンドウィッチELISA法は酵素反応量からグリコカリシン濃度の絶対量を測定することは不可能であり、多くの場合濃度既知のグリコカリシンを数種の濃度で測定し、その検量線と比較することにより測定したい被験試料中の濃度を算出しなければならない。そこで、煩雑なモノクローナル抗体の作製を
することなく、簡便にグリコカリシンの絶対濃度を測定し得る方法を確立することは、広く臨床診断に用いるという観点から重要である。
【0006】
また、血栓症発症の初期段階では、血管内皮細胞が障害されることにより露出した内皮下組織(コラーゲン等)に血中のフォンビルブランド因子(von Willebrand factor)が結合し、フォンビルブランド因子に血小板上の膜糖蛋白質グリコプロテインIbが結合し、血小板が血管壁に粘着して、活性化する(非特許文献4、非特許文献5)。このため、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害することが、血栓症を治療、予防する抗血栓薬の重要なターゲットである。しかし、両蛋白質の結合を阻害することにより抗血栓性を示すことが証明されている物質は少ない。
【0007】
フォンビルブランド因子の504−728番目のアミノ酸配列を有する組み換え体蛋白質VCLは、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害することにより抗血栓作用を示すことが報告されている(非特許文献6)。また、ヒトフォンビルブランド因子に対するモノクローナル抗体AJvW−2は特異的にフォンビルブランド因子に結合することにより出血傾向を示すことなく抗血栓活性を示すことが報告されている(非特許文献7、特許文献1)。さらに、蛇毒由来の蛋白質AS1051は血小板グリコプロテインIbに特異的に結合し、同様に出血傾向を示すことなく抗血栓性を示す(特許文献2)。
また、色素化合物であるオーリントリカルボン酸(aurin tricarboxylic acid、「ATA」)もフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害活性を示すことが報告されているが(非特許文献8)、その結合特異性が高くないこと(非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11)、阻害活性を示すのは重合した高分子画分にあることなどが知られている(非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14)。
【0008】
上記のように、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害は抗血栓薬の重要なターゲットであるにも関わらず、両者の結合を阻害し、抗血栓活性を報告している低分子化合物はなく、このような物質を見出すことは血栓症の治療、予防を考える上で重要である。
【0009】
蛋白質以外のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害する物質としては、オーリントリカルボン酸(ATA)が挙げられるが、本物質は、すでに述べたように高分子に重合した物質に阻害活性が存在することが知られている。M.Weinsteinら(非特許文献15)は、ゲル濾過で分画したATAのフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb依存的な血小板凝集であるリストセチン凝集に対する阻害活性を調べ、分子量2500の重合物が最も活性が強いと結論しているが、ゲル濾過で低分子画分に溶出される部分に活性がほとんど存在しないことも示している(前記文献中の図1、図3)。また同報告中では、活性を示すATA重合体の具体的な構造、分子量に関しては特定されていない。ATAの単量体の合成に関しては、R.D.Haugwitz(特許文献3)がすでに報告しているが、現在までのところ単量体あるいは構造が特定できる重合体にフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb結合阻害を示すデータは報告されておらず、近年でもATAの重合物のゲル濾過分画を用いた活性評価が報告されている(非特許文献16)現状から考え、構造の特定できるATA誘導体には、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb阻害活性は存在しないと考えられる。
【0010】
前述したM.Weinsteinら(非特許文献15)の報告では多数の陰性荷電(polyanion)、多数の芳香環(polyaromatic)の存在がフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害に必要であることが述べられている。多数の陰性荷電がフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害に働きやすい
ことは、陰性荷電を持つ多糖であるヘパリン(heparin)がフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害することとも一致する(非特許文献17)。本報告では、ヘパリンの分子量が小さいほどフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合阻害活性が低くなることも報告している。
【0011】
ヘパリンは、本来血中凝固因子であるトロンビン(thrombin)、凝固系第10因子(Factor Xa)を阻害する物質である。フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合に対してより選択性を持たせたようなヘパリン誘導体(非特許文献18)も報告されているが、その平均分子量は10,000以上である。
【0012】
また、蛋白質に結合しやすい物質の中には、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合に対してある程度選択的に阻害活性を示す物質も報告されている。色素化合物であるエバンスブルー(Evans blue)はフォンビルブランド因子(同文献中では、Factor VIII)関与の血小板凝集を選択的に阻害することが示されているが、いずれも血漿を含まない条件での血小板凝集に対する実験結果であり、血漿蛋白質が存在する状態での活性については触れていない(非特許文献19)。エバンスブルーは本来血清アルブミンに非常に強く結合する物質であり、その性質から生体の血液体積測定、血管からの血液の漏洩を見る手段などに用いられる(非特許文献20)。
【0013】
すなわち、この様に血漿中の蛋白質に強く結合する物質は、生体、例えば人への治療を考えた場合、全く効果が見られないはずである。このような物質の一つとして、スルフォバシン(非特許文献21)等がある。スルフォバシンは、同報告によれば、ある程度のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合への特異性が見られたものの、その界面活性剤に類似する構造から考えると、血液中、血漿中では血漿蛋白質への結合のためその活性が見られないはずである。事実、前記報告では、血漿中での血小板凝集に対する阻害活性は示されていない。
【0014】
以上述べたきたように、これまでフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を生体内で阻害し得るような、低分子の化合物は知られていない。血栓性疾患に対する、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害する薬剤を考えた場合、注射剤として用いるのであれば、蛋白質あるいは重合物のような高分子の化合物でよい。しかし同作用機序の経口投与可能な薬剤を創出するためには、血液中(血漿中)でのフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb依存的な血小板凝集を完全に、選択的に阻害するような、重合物でない低分子物質を見出すことが重要である。
しかし、これまでその様な化合物は見出されていない。その理由としては、簡便にその様な物質をスクリーニングできるようなアッセイ系が存在しないことが挙げられる。
【0015】
後述するようにこれまで一般的に用いられているフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb結合を検出するアッセイ方法は、125Iラベル化を行ったフォンビルブランド因子を血小板、あるいはフォルマリン固定化した血小板に対して結合させる方法であるが、この方法ではラジオアイソトープを用いる煩雑さ、ヒトあるいは動物から採血を行い、血小板を取得しなければならないという大量入手の困難さが含まれる。
【0016】
以下にこれまで一般的に用いられてきた方法と、それを解決する手段について具体的に述べる。
【0017】
フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合は通常の状態では観察されず、血流内などのズリ応力が生じる条件下でのみ起こると考えられている(非特許文献22)。しかし、両蛋白質の結合を人為的に観察する方法として、抗生物質であるリストセチン(非特許文献23)、あるいは蛇毒由来の蛋白質であるボトロセチン(非特許文献24
)の添加が知られている。すなわち両物質はフォンビルブランド因子の特定の位置に結合することによりフォンビルブランド因子の構造変化を引き起こし、通常の条件では起こらないフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を惹起する物質として知られている。両蛋白質の結合を観察する方法としては、Fujimuraらの報告しているような以下の方法がある(非特許文献25)。
【0018】
ヒトフォンビルブランド因子を常法により125Iラベルし、フォルマリン固定化した血小板に対して一定量のリストセチンあるいはボトロセチン存在下で結合させる。この結合はフォンビルブランド因子が、固定化した血小板表面上のグリコプロテインIbに特異的に結合することによるものであり、未結合のフォンビルブランド因子を洗浄、除去後、125I量を測定することにより両蛋白質の結合量を測定することができる。Miuraらは、フォルマリンによる固定化血小板の代わりに、固定化した抗血小板膜蛋白質抗体を介して血小板を96穴プレートに固定し、同様の方法で両蛋白質の結合を検出している(非特許文献26)。
【0019】
また、Matsuiらは固相化したコラーゲンに結合したフォンビルブランド因子にグリコプロテインIbα鎖の細胞外部位の部分蛋白質であるグリコカリシンをボトロセチン存在下で結合させる方法を報告している(非特許文献27)。
【0020】
さらに、Morikiらは、グリコプロテインIbを膜上に発現する組換え蛋白質の発現細胞を作製し、125Iラベルしたフォンビルブランド因子がボトロセチン存在下で膜上のグリコプロテインIbに結合することを報告している。
【0021】
Morikiらはさらに、結合惹起物質なしにフォンビルブランド因子に結合するような、アミノ酸配列に変異を持つグリコプロテインIb発現細胞作製し、結合実験を行っているが、その結合量はボトロセチンあるいはリストセチン存在下での結合量に比べ非常に低いものであった(非特許文献28)。
【0022】
上記のように、これまで報告されているフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を高感度に検出する方法は、いずれも血小板、あるいはグリコプロテインIb発現細胞を大量に取得し、それに対するフォンビルブランド因子の結合を検出する方法であった。したがって常時血小板あるいは細胞を、大量に調製することは非常に繁雑であり、もっと簡便にフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を検出する方法を見出すことが必要であった。
【0023】
また、これまで用いられてきた方法はいずれも液相中にボトロセチンあるいはリストセチンといった結合惹起物質を添加した方法に限られていた。しかし、ボトロセチンあるいはリストセチン量は、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合量に変化を与える。また、例えば96穴プレートを用いて多数の結合実験を行う場合には、液相に惹起物質を加えるこれらの方法は煩雑である。また、上述した低分子のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害物質を探索する場合、非常に多検体の結合実験を行うことが必要とされ、上記の問題を解決することも重要であった。
【0024】
すでに述べたように、低分子量の真のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb結合阻害物質は未だに発見されていない。ここで言う「真の阻害物質」とは、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を特異的に阻害する物質であって、蛋白質変性物質、界面活性剤をはじめとする一般的に蛋白質の構造を変化させる物質、又は蛋白質に非特異的に結合する物質のように、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害するものであっても、非特異的に阻害するものは真の阻害物質ではない。
【0025】
真のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb結合阻害物質は前述したように抗体、蛇毒由来等の蛋白質、あるいはその活性本体が高分子量であるオーリントリカルボン酸(ATA)等の色素物質では知られているが、これまでに低分子量物質、例えば分子量2000以下の物質、特に経口投与が有効な分子量1000以下の物質では知られておらず、この様な物質を迅速に見出す評価系を構築し、発見することが必要であった。
【特許文献1】WO96/17078
【特許文献2】WO95/08573
【特許文献3】WO91/06589
【非特許文献1】J.H.Beer et al.,Blood,83,691−702,1994
【非特許文献2】S.Kunishima et al.,Clin,Chem.,37,169−172,1991
【非特許文献3】H.Bessos et al.,Thromb.Res.,59,497−507,1990
【非特許文献4】J.P.Cean et al.,J.Lab.Clin.Med.,87,586−596,1976
【非特許文献5】K.J.Clemetson et al.,Thromb.Haemost,,78,266−270,1997
【非特許文献6】K.Azzam et al.,Thromb.Haemost.,73,318−323,1995
【非特許文献7】S.Kageyama et al.,Br.J.Pharmacol.,122,165−171,1997
【非特許文献8】M.D.Phiillips et al.,Blood,72,1989−1903,1988
【非特許文献9】K.Azzam et al.,Thromb.Haemost.,75,203−210,1996
【非特許文献10】D.Mitra et al,,Immunology,87,581−585,1996
【非特許文献11】R.M.Lozano et al.,Eur.J.Biochem.,248,30−36,1997
【非特許文献12】M.Weinstein et al.,Blood,78,2291−2298,1991
【非特許文献13】Z.Gua et al.,Thromb.Res.,71,77−88,1993
【非特許文献14】H.Matsuno et al.,Circulation,96,1299−1304.1997
【非特許文献15】M.Weinstein et al.,Blood,78,2291−2298,1991
【非特許文献16】T.Kawasaki et al,Amer.J.Hematol.,47,6−15,1994
【非特許文献17】M.Solbel et al.,J.Clin.Invest.,87,1787−1793,1991
【非特許文献18】M.Sobel et al.,Circulation,93,992−999,1996
【非特許文献19】E.P.Kirby et al.,Thrombos.Diathes.Haemorrah.,34,770−779,1975
【非特許文献20】M.Gregersen & R.A.Rawson,Physiol.Reviews,39,307,1959
【非特許文献21】Sulfobacin; T.Kamiyama et al.,J.Antibiot.,48,924−928,1995
【非特許文献22】T.T.Vincent et al.,Blood,65,823−831,1985
【非特許文献23】M.A.Howard and B.G.Firkin,Thromb.Haemost.,26,362−369,1971
【非特許文献24】M.S.Read et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,75,4514−4518,1978
【非特許文献25】Y.Fujimura et al.,Blood.,77,113−120,1991
【非特許文献26】S.Miura et al.,Anal.Biochem.,236,215−220,1996
【非特許文献27】T.Matsui et al.,J.Biochem.,121,376−381,1997
【非特許文献28】T.Moriki et al.,Blood,90,698−705,1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
上記の技術背景の問題点を要約すると、以下の3点が挙げられる。
(1)グリコカリシンの定量法は血栓症の診断に重要であるが、従来行われている高感度な方法はサンドウィッチELISA法であり、2種の認識部位の異なるモノクローナル抗体を必要とし、定量には標準物質による検量線が必要である。
(2)低分子のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害物質を見出し、薬剤に適用することが血栓症治療、予防を考えた上で重要であるが、これまでにフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害をターゲットとした低分子で、かつ抗血栓作用を報告している薬剤は存在しない。
(3)前記(2)の薬剤を見出すためにフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害実験を多検体行う必要があるが、これまでに知られている方法は煩雑であり、また精度、感度にも問題がある可能性がある。
【0027】
本発明は上記観点からなされたものであり、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を簡便に検出する方法、グリコカリシンの簡便な測定法及び簡便なフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害を作用点とする抗血栓薬となりうる物質の測定法、並びにこれらの測定法に用いる手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った。すなわち、まず、グリコプロテインIbα鎖の部分蛋白質をイムノグロブリン分子のFc部分と結合させたキメラ分子(以下、「キメラ蛋白質」という)を得るための、動物細胞による蛋白質発現系を作製した。また、フォンビルブランド因子をボトロセチン存在下で固定化することにより、上記のキメラ蛋白質、すなわちグリコプロテインIb分子が、液相の結合惹起物質なしに、固定化したフォンビルブランド因子に対して特異的に結合することを見出し、その結合量を市販で容易かつ安価に入手可能な抗イムノグロブリンFc抗体、あるいは直接キメラ蛋白質を標識することにより、簡便に結合実験を行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0029】
すなわち、本発明による第一の方法は、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質の存在下で、フォンビルブランド因子を反応容器に固定化し、この固定化されたフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとを反応させることを特徴とする方法である。
【0030】
また、本発明による第二の方法は、反応容器に固定化したフォンビルブランド因子に、グリコプロテインIbα鎖のフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質のカルボキシル末端にイムノグロブリン分子のFc部分のアミノ末端を融合させてなるキメラ蛋白質又は標識物質で標識した該キメラ蛋白質を結合させ、前記イムノグロブリン分子のFc部分又は前記標識物質を検出することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法である。
【0031】
また、本発明の第三の方法は、反応容器にグリコプロテインIbα鎖のフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質のカルボキシル末端にイムノグロブリン分子のFc部分のアミノ末端を融合させてなるキメラ蛋白質を固定化し、フォンビルブランド因子あるいは標識物質で標識したフォンビルブランド因子を結合させ、結合したフォンビルブランド因子又は前記標識物質を検出することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法である。
【0032】
第二の方法又は第三の方法の好ましい態様は、フォンビルブランド因子に前記キメラ蛋白質を結合させる際に、又は該結合に先立って、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質を反応容器に加えることを特徴とする方法である。
前記フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質としては、ボトロセチンもしくはリストセチン又はこれらの両者が挙げられる。
また、前記第二の方法の他の態様は、フォンビルブランド因子を、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質の存在下で反応容器に固定化することを特徴とする方法である。
【0033】
第一の方法、第二の方法又は第三の方法において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb又はキメラ蛋白質との反応の際に、又は該反応に先立って、グリコカリシンを含む試料を反応容器に加えて、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb又はキメラ蛋白質との結合の阻害を検出することにより、グリコカリシンを測定することができる。
【0034】
また、第一の方法、第二の方法又は第三の方法において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb又はキメラ蛋白質との反応の際に、又は該反応に先立って、検出対象物質を含む試料を反応容器に加えて、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb又はキメラ蛋白質との結合の阻害を検出することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を阻害する物質を検出することができる。
【0035】
さらに本発明は、グリコプロテインIbα鎖のフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質のカルボキシル末端にイムノグロブリン分子のFc部分のアミノ末端を融合させてなるキメラ蛋白質を提供する。
【0036】
また本発明は、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの反応の阻害によりグリコカリシンを測定するためのキットであって、フォンビルブランド因子と、グリコプロテインIbα鎖のフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質のカルボキシル末端にイムノグロブリン分子のFc部分のアミノ末端を融合させてなるキメラ蛋白質とを含むキットを提供する。
【0037】
さらに本発明は、前記のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法のいずれかによって検出される化合物であって、血漿中でのグリコプロテインIbとフォンビルブランド因子が関与する血小板の凝集を特異的に阻害する活性を有し、かつ、分子量が2000以下であることを特徴とする化合物を提供
する。
【0038】
前記化合物としてより具体的には、式(1)に示す構造を有する化合物が、さらに具体的には式(2)に示す化合物が挙げられる。但し、R1、R2はそれぞれ独立してH又はClを表し、R3はCH3又はHを表す。
【化1】
【化2】
【0039】
なお、本明細書において「キメラ蛋白質」というときは、グリコプロテインIbのフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質のカルボキシル末端にイムノグロブリン分子のFc部分のアミノ末端を融合させてなるキメラ蛋白質を意味する。また、本発明の方法において、グリコプロテインIbというときは、グリコプロテインIb自体もしくはキメラ蛋白質またはその両方を指す場合がある。
【0040】
本明細書において、「検出」というときは、主として物質又は現象を見出すことを意味するが、その結果としてその物質の量又は現象の程度を測定することを含むことがある。また、「測定」というときは、主として物質の量又は現象の程度を測定することを意味するが、その物質又は現象を見出すことを含むことがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0042】
<1>キメラ蛋白質
本発明のキメラ蛋白質は、ヒトあるいはその他の哺乳動物の血小板膜糖蛋白質の1つであるグリコプロテインIbα鎖のフォンビルブランド因子に対する結合部位を含む部分蛋白質と、マウス、ヒトあるいはその他の哺乳動物のイムノグロブリン分子重鎮(H鎖)のFc部分を、遺伝子工学的に結合した蛋白質である。該キメラ蛋白質は、培養細胞を用いて生産することができる。キメラ蛋白質において、グリコプロテインIbα鎖のフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質と、イムノグロブリン分子のFc部分は、該部分蛋白質のカルボキシル末端とFc部分のアミノ末端とで連結される。
【0043】
グリコプロテインIbα鎖の部分蛋白質の一例としては、グリコプロテインIbα鎖分子のアミノ末端のアミノ酸残基から319位のアスパラギン酸残基までの配列(アミノ酸番号1−319)を持つ部分蛋白質があげられるが、フォンビルブランド因子の結合部位がアミノ酸番号1−293(V.Vincente et al.,J.Biol.Chem.,263,18473−18479,1988)さらに251−285(V.Vicente et al.,J.Biol.Chem.,265,274−280,1990)内に含まれる部分であると考えられていることから、少なくともこの部分を含む部分蛋白質ならばよい。
【0044】
また、イムノグロブリン分子のFc部分は由来はいかなる動物でも良く、さらにいかなるサブタイプでも良いが、市販のポリクローナル抗体及び/またはモノクローナル抗体、プロテインA、またはプロテインG等で、精製及び/または検出することができるものであればよい。イムノグロブリン重鎖は、アミノ末端側よりVHドメイン、CH1ドメイン、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン(IgEではさらにCH4ドメイン)と呼ばれる領域が順に配列している。
【0045】
キメラ蛋白質に用いるFc部分の一例としては、これらの配列のうちヒンジ領域からCH3ドメインまでの連続した配列があればよいが、市販のポリクローナル抗体及び/またはモノクローナル抗体、プロテインA、またはプロテインG等で、精製及び/または検出することができるという観点からは、ヒンジ部分は必須ではなく、部分的にアミノ酸残基の欠失、挿入等の変異を有していても良い。
【0046】
また、イムノグロブリンとしては、ヒト、マウスなどいずれに由来するものでも良いが、一例としてマウス由来のものが挙げられる。また、イムノグロブリンのサブタイプとしては、いずれのサブタイプでも良いが、一例としてはIgGが挙げられ、さらにサブクラスとしてはいずれのサブクラスでも良く、一例としてIgG1、IgG2a等が挙げられる。
【0047】
本発明のキメラ蛋白質のアミノ酸配列の一例を、配列番号7及び配列番号14に記載する。尚、配列番号7及び配列番号14において、N末端の16アミノ酸残基は、シグナルペプチドを構成すると推定される。
【0048】
本発明のキメラ蛋白質は、それをコードするキメラ遺伝子(キメラ蛋白質遺伝子)を、適当な細胞で発現させることにより製造することができる。キメラ蛋白質遺伝子は、グリコプロテインIbα鎖遺伝子およびイムノグロブリン重鎖の遺伝子をそれぞれ、遺伝子工学的手法に基づいてcDNAライブラリー、ゲノムライブラリー、DNA断片などから取得し、あるいは化学合成的に作製し、それらを連結することにより作製することができる。
【0049】
グリコプロテインIbα鎖遺伝子は、例えばヒト巨核球系の細胞株であるHEL細胞のmRNAからファージベクターなどを用いて作製したcDNAライブラリーから、公知のグリコプロテインIbα鎖遺伝子のDNA配列をもとに設計した適当なプライマーDNAを用いて逆転写PCR反応により取得できる。また、cDNAライブラリーから公知のDNA配列をもとに設計したプローブDNAを用いてハイブリダイゼーションを行うことにより、グリコプロテインIbα鎖遺伝子を含むクローンを取得することができる。あるいは、ATCC(American Type Culture Collection)に登録されているグリコプロテインIbα鎖遺伝子を含むプラスミド(pGPIb2.4、寄託番号:ATCC65755)から、適当な制限酵素を用いて切り出すことにより取得することができる。
【0050】
イムノグロブリン重鎖の遺伝子は、例えばマウスのイムノグロブリン産生ハイブリドーマのmRNAから作製したcDNA、あるいはファージなどを用いて作製したcDNAライブラリーから、公知のイムノグロブリン重鎖遺伝子のDNA配列をもとに設計した適当なプライマーDNAを用いて逆転写PCR反応により取得できる。また、cDNAライブラリーから、公知のDNA配列をもとに設計したプローブDNAを用いてハイブリダイゼーションを行うことにより、マウスイムノグロブリン遺伝子を含むクローンを取得することができる。
【0051】
キメラ蛋白質遺伝子は、グリコプロテインIbα鎖遺伝子の全長あるいは一部と、マウスイムノグロブリン重鎮γ1遺伝子あるいはγ2a遺伝子の全長あるいは一部を用いて、適当な制限酵素で各DNA鎖を切断後結合させることによって得られる。両遺伝子の切断及び結合は、グリコプロテインIbα鎖のフォンビルブランド因子結合部位を含む部分蛋白質のカルボキシル末端にイムノグロブリン分子のFc部分のアミノ末端を融合させたキメラ蛋白質をコードするように行えばよい。また、キメラ蛋白質を細胞外に分泌させる場合は、グリコプロテインIbα鎖の部分がシグナルペプチドを含むようにすればよい。
【0052】
上記のようにして作製したキメラ蛋白質遺伝子を、適当な宿主−ベクター系を用いて発現させる。宿主としては、動物細胞、昆虫細胞などの細胞が挙げられる。またベクターは、宿主細胞でベクターとして機能するものであれば特に制限されず、宿主細胞に適したプロモーターを有する発現ベクターを用いることが好ましい。キメラ蛋白質遺伝子を発現ベクターに挿入して得られる組換えベクターで宿主細胞を形質転換し、形質転換細胞を培養することにより、キメラ蛋白質を製造することができる。
【0053】
上記のようにして製造されるキメラ蛋白質は、そのまま用いることもできるが、イムノグロブリン分子のFc部分を利用して、プロテインA、プロテインG、抗イムノグロブリン抗体等を固定化したアフィニティークロマトグラフィー等を用いて、容易に精製することができる。
【0054】
<2>フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法
本発明のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する第一の方法は、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質(以下、「結合惹起物質」ともいう)の存在下で、フォンビルブランド因子を反応容器に固定化し、この固定化されたフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとを反応させることを特徴とする。
フォンビルブランド因子を、結合惹起物質の存在下で固定化することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとを液体中で反応させる際に、結合惹起物質を添加する工程を省くことができる。
【0055】
フォンビルブランド因子は、ヒト血液から、H.R.Gralnick et al.,J.Clin.Invest.,62,496(1978)に記載の方法等にしたがって、調製することができる。
【0056】
結合惹起物質としては、ボトロセチン及びリストセチン等、好ましくはボトロセチンが挙げられる。
【0057】
フォンビルブランド因子を固定化する反応容器としては、ポリスチレン、ポリカーボネート等の合成樹脂又はガラス等の素材の容器が挙げられる。より具体的には、ポリスチレン製96穴マルチウェルプレート等が挙げられる。フォンビルブランド因子を含む溶液を上記反応容器に注入することにより、フォンビルブランド因子を容器の壁面に固定化することができる。また、反応容器の壁面にコラーゲンを固定化しておき、このコラーゲンにフォンビルブランド因子を結合させることもできる。フォンビルブランド因子又はコラーゲンを反応容器に固定する条件は、これらを固定することができれば特に制限されないが、例えば、ポリスチレン製容器を用いる場合には、中性、好ましくはpH6.8〜7.8、より好ましくはpH7.4程度の溶液を用いることが望ましい。
【0058】
フォンビルブランド因子の固定化に際しては、フォンビルブランド因子を含む溶液と結合惹起物質を含む溶液を各々反応容器に加えてもよいが、フォンビルブランド因子と惹起物質の両方を含む溶液を調製し、これを反応容器に注入することが、作業効率の点から好ましい。また、フォンビルブランド因子を固定化した反応容器は、ウシ血清アルブミン溶液等を加えることにより、壁面の未結合部位のブロッキングをしておくことが好ましい。
【0059】
反応容器にフォンビルブランド因子を固定化した後、反応容器を洗浄し、次にグリコプロテインIbを加えると、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合反応が起こる。この反応は、液相で行われる。続いて、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を検出する。この検出は、通常フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合の検出に用いられる方法により行うことができる。
【0060】
本発明の第二の方法は、反応容器に固定化したフォンビルブランド因子に、前記のキメラ蛋白質又は標識物質で標識した該キメラ蛋白質を結合させ、前記イムノグロブリン分子のFc部分又は前記標識物質を検出することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法である。
【0061】
より具体的には、反応容器にフォンビルブランド因子を含む溶液を加えて、フォンビルブランド因子を反応容器の壁面に固定化する。続いて、反応容器にキメラ蛋白質を含む溶液を加えて、固定化されたフォンビルブランド因子にキメラ蛋白質を結合させる。この
結合は、フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質との反応系に、結合惹起物質を存在させることによって惹起することができる具体的には、フォンビルブランド因子に前記キメラ蛋白質を結合させる際に、又は該結合に先立って、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質を反応容器に加える。例えば、上記第一の方法と同様にしてフォンビルブランド因子を結合惹起物質の存在下で反応容器に固定化しておくか、反応容器にキメラ蛋白質を含む溶液を加えるのと同時に、または前後して結合惹起物質を添加する。
【0062】
キメラ蛋白質は、その分子中に含まれるグリコプロテインIbのフォンビルブランド因子結合部位で、固定化されたフォンビルブランド因子に結合する。こうしてフォンビルブランド因子に結合したキメラ蛋白質の検出は、例えば、その分子中に含まれるイムノグロブリン分子のFc部分を検出することにより行うことができる。Fc部分の検出は、通常免疫測定に用いられる方法を使用することができる。
【0063】
具体的には、例えば、Fc部分に特異的に結合する物質、例えばプロテインA、プロテインG、抗イムノグロブリン抗体等を標識したものを反応容器に加え、該標識を検出する。標識物質としては、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ等の酵素、ビオチン、アビジン、又はフルオレセイン等の蛍光物質、ユーロピウム、ランタノイド等の蛍光性を有する希土類を含む化合物等が挙げられる。ビオチン又はアビジンは、これにさらにアビジン又はビオチンを結合した他の標識物質を結合させることにより検出する。また、酵素は、適当な基質を加えて酵素反応を行い、可視吸光、紫外吸光、蛍光、発光等を検出することに行うことができる。さらに、蛍光物質又は蛍光性を有する化合物等は、励起光を照射することにより発する蛍光によって検出することができる。
【0064】
また、キメラ蛋白質として、予め標識物質で標識したキメラ蛋白質を用い、この標識物質を検出することによっても、固定化されたフォンビルブランド因子に結合したキメラ蛋白質を検出することができる。標識物質及びその検出法は、上記のFc部分の検出に用いられるものと同様である。
【0065】
標識物質で標識したキメラ蛋白質を用いる場合には、キメラ蛋白質は精製したものを用いることが好ましい。
【0066】
キメラ蛋白質の精製は、前述したようにイムノグロブリン分子のFc部分を利用してアフィニティークロマトグラフィー等によって行うことができる。
【0067】
本発明の第三の方法は、反応容器に固定化した前記のキメラ蛋白質に、フォンビルブランド因子又は標識物質で標識したフォンビルブランド因子を結合させ、フォンビルブランド因子の部分構造又は前記標識物質を検出することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法である。
【0068】
より具体的には、反応容器に、キメラ蛋白質の部分構造と結合する抗体、好ましくはイムノグロブリンFc部分と結合する抗体、プロテインA、又はプロテインG等を含む溶液を加えて反応容器の壁面に固定化する。続いて、反応容器にキメラ蛋白質を含む溶液を加えて、固定化された抗体、プロテインA、又はプロテインG等にキメラ蛋白質を結合させることにより、キメラ蛋白質を固定化した反応容器を作製することができる。あるいは、キメラ蛋白質を直接反応容器に固定化することも可能である。
【0069】
続いて、反応容器にフォンビルブランド因子又は標識物質で標識したフォンビルブランド因子を含む溶液を加えて、固定化されたキメラ蛋白質にフォンビルブランド因子を結合させる。この結合は、フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質との反応系に、結合惹起
物質を存在させることによって惹起することができる。具体的には、フォンビルブランド因子に前記キメラ蛋白質を結合させる際に、又は該結合に先立って、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質を反応容器に加える。例えば、反応容器にフォンビルブランド因子又は標識物質で標識したフォンビルブランド因子を含む溶液を加えるのと同時に、または前後して結合惹起物質を添加する。
【0070】
フォンビルブランド因子は、固定化されたキメラ蛋白質に結合する。こうしてキメラ蛋白質に結合したフォンビルブランド因子の検出は、例えば、フォンビルブランド因子に結合する抗体を用いることによって行える。フォンビルブランド因子に結合した抗体の検出は、通常免疫測定に用いられる方法を使用することができる。
【0071】
具体的には、例えば、フォンビルブランド因子に結合する抗体を、あらかじめアルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ等の酵素、ビオチン、アビジン、又はフルオレセイン等の蛍光物質、ユーロピウム、ランタノイド等の蛍光性を有する希土類を含む化合物等で標識しておく方法等が挙げられる。ビオチン又はアビジンは、これにさらにアビジン又はビオチンを結合した他の標識物質を結合させることにより検出する。また、酵素は、適当な基質を加えて酵素反応を行い、可視吸光、紫外吸光、蛍光、発光等を検出することに行うことができる。さらに、蛍光物質又は蛍光性を有する化合物等は、励起光を照射することにより発する蛍光によって検出することができる。
【0072】
また、フォンビルブランド因子として、予め標識物質で標識したフォンビルブランド因子を用い、この標識物質を検出することによっても、固定化されたキメラ蛋白質に結合したフォンビルブランド因子を検出することができる。標識物質及びその検出法は、上記のフォンビルブランド因子に結合する抗体の検出に用いられるものと同様である。
【0073】
上記の第一、第二又は第三の方法において、グリコプロテインIb(又はキメラ蛋白質)を反応容器に加えるのと実質的に同時に、又はグリコプロテインIbの添加に先立って、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害する物質(以下、「結合阻害物質ともいう」)を反応容器に加え、該阻害物質を加えない場合と、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を比較することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合の阻害を検出することができる。
【0074】
また、上記の第一、第二又は第三の方法において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの反応の際に、又は該反応に先立って、検出対象物質を含む試料を反応容器に加えて、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合の阻害を検出することにより、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を阻害する物質を検出することができる。また、既知量の結合阻害物質を用いて、阻害物質の量と、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合との関係を示す標準曲線を作成しておくと、未知量の阻害物質を定量することができる。
【0075】
フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害し、抗血栓作用を有する低分子量の化合物は、現在まで報告されていない。本発明の方法は、従来の方法に比べて非常に簡便であり、そのような低分子化合物の探索にも有用である。
【0076】
<3>グリコカリシンの測定法及びキット
上記の第一の方法、第二の方法又は第三の方法において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb又はキメラ蛋白質との反応の際に、又は該反応に先立って、グリコカリシンを含む試料を反応容器に加えて、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb又はキメラ蛋白質との結合の阻害を検出することにより、グリコカリシンを測定することができる。既知量のグリコカリシンを用いて、グリコカリシン濃度と、フォンビルブラ
ンド因子とグリコプロテインIb又はキメラ蛋白質の結合との関係を示す標準曲線を作成しておくと、未知量のグリコカリジンの濃度を測定することができる。
【0077】
本発明によるグリコカリシンの測定は、フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質とをキットとして用意しておくと、簡便に行うことができる。そのようなキットとして具体的には、フォンビルブランド因子と、キメラ蛋白質と、結合惹起物質と、既知量のグリコカリシンと、アルカリフォスファターゼ等で標識した抗イムノグロブリン抗体と、該標識を検出するための試薬と、洗浄用緩衝液とを含むキットが例示される。また、他の態様として、フォンビルブランド因子と、標識物質で標識したキメラ蛋白質と、結合惹起物質と、既知量のグリコカリシンと、該標識を検出するための試薬と、洗浄用緩衝液とを含むキットが例示される。
【0078】
<4>低分子量の真のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb結合阻害物質
前記<2>に示した本発明のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合に対する阻害を検出する方法を用いることにより、低分子量の真のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb結合阻害物質を検索(スクリーニング)することができる。ここで、「真の阻害物質」とは、血漿中でのグリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の関与する血小板の凝集を特異的に阻害する物質をいう。蛋白質変性物質、界面活性剤をはじめとする一般的に蛋白質の構造を変化させる物質、又は蛋白質に非特異的に結合する物質のように、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を阻害するものであっても、非特異的に阻害するものは真の阻害物質ではない。
【0079】
真の阻害物質は、血漿中におけるリストセチン、ボトロセチンを用いたフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb依存的な血小板凝集に対する阻害活性と、コラーゲン、アデノシン2リン酸(ADP)等を用いたフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb依存的な血小板凝集に対する阻害活性を測定し、これらを比較することによって識別することができる。すなわち、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb依存的な血小板凝集(例えばリストセチン惹起血小板凝集)を阻害し、それと同じ濃度においてフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb非依存的な血小板凝集(例えばコラーゲン又はADPにより惹起される血小板凝集)を実質的に阻害しない化合物は、真のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIb結合阻害物質である。
【0080】
本発明の阻害物質は、例えば1mMの濃度において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb依存的な血小板凝集を、少なくとも80%以上、好ましくは90%以上阻害することが好ましい。また、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIb非依存的な血小板凝集の阻害が30%以下、好ましくは25%以下であれば、実質的に阻害しないものとみなすことができる。
【0081】
また、低分子量とは、好ましくは2000以下、より好ましくは1000以下であることをいう。さらに、本発明の阻害物質は、重合体でなくても活性を発現し得るものであることが好ましい。
【0082】
上記のように本発明の方法によって検索される低分子量の抗血栓活性物質として具体的には、前記化2に示す構造を有する化合物が挙げられる。同化合物としてより具体的には、K17427A、K17427B、K17427C及びK17427Dと命名された以下に示す化合物が挙げられる。これらの化合物は、クウチオプラネス属に属する放線菌(Couchioplanes sp.AJ9553(FERM BP−6612))から、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を著しく阻害する活性を有する物質として見出されたものである。以下に、これらの化合物の物理化学的性状及び製造法の一例を説明する。
【0083】
(1)K17427A、K17427B、K17427C及びK17427Dの物理化学的性状
【0084】
1)K17427Aの物理化学的性状
性状:黄色アモルファス状固体
分子式:C44H44O14Cl2
質量分析(高分解能FAB−MS)
実測値:866.2117(M)+
計算値:866.2108
比旋光度:[α]D24−60°(c 0.09,THF)
紫外吸収スペクトル:λmax(ε)235(57000)、276(59500)、427(25000)
1H−NMRスペクトル(400MHz,CD3CO2D)δ:7.64(2H,s)、6.04(2H,s)、5.38(2H,s)、3.45(8H,s)、2.05(2H,m)、1.28(6H,d,J=6.8Hz)、1.04(6H,d,J=6.6Hz)、0.38(6H,d,J=6.3Hz)
13C−NMRスペクトル(100MHz,CD3CO2D)δ:205.9(s)、173.2(s)、171.8(s)、162.1(s)、154.6(s)、135.5(d)、134.8(s)、131.4(s)、120.8(s)、120.2(s)、114.5(d)、113.1(s)、111.3(s)、94.2(d)、77.6(s)、55.4(q)、48.1(d)、44.3(d)、35.0(d)、16.3(q)、6.7(q)
溶解性:ジメチルスルホキシド、ピリジン、酢酸に易溶、水に難溶
構造式:前記式(2)で表される構造。
【0085】
2)K17427Bの物理化学的性状
性状:黄色アモルファス状固体
分子式:C43H42O14Cl2
質量分析(高分解能FAB−MS)
実測値:852.1997(M)+
計算値:852.1952
比旋光度:[α]D25−61°(c 0.13,THF)
紫外吸収スペクトル(メタノール):λmax(ε)235(41000)、273(43000)、434(18500)
1H−NMRスペクトル(400MHz,CD3CO2D)δ:7.81(2H,s)、6.17(1H,s)、6.14(1H,s)、5.54(1H,s)、5.50(1H,s)、3.62(3H,s)、3.58(3H,s)、3.53(1H,q,J=7.0Hz)、3.20(1H,d,J=18Hz)、3.08(1H,d,J=18Hz)、1.20(3H,d,J=7.6Hz)、1.17(3H,d,J=6.7Hz)、1.04(3H,d,J=6.7Hz)、0.97(3H,d,J=6.7Hz)、0.52(3H,d,J=7.0Hz)
溶解性:ジメチルスルホキシド、ピリジン、酢酸に易溶、水に難溶
構造式:前記式(1)において、R1=R2=Cl、R3=Hで表される構造。
【0086】
3)K17427Cの物理化学的性状
性状:黄色アモルファス状固体
分子量(ESI−MS):799(M+H)+
紫外吸収スペクトル:λmax234、281、418
1H−NMRスペクトル(400MHz,CD3OD)δ:7.59(2H,d,J=8
.4Hz)、7.25(2H,d,J=8.4Hz)、7.14(2H,s)、6.05(2H,s)、5.37(2H,brs)、3.59(6H,s)、3.46(2H,br)、2.12(2H,m)、1.38(6H,d,J=5.2Hz)、1.15(6H,d,J=6.8Hz)、0.64(6H,br)
構造式:前記式(1)において、R1=R2=H、R3=CH3で表される構造。
【0087】
4)K17427Dの物理化学的性状
性状:黄色アモルファス状固体
質量分析(ESI−MS):833(M+H)+
紫外吸収スペクトル:λmax234、276、423
1H−NMRスペクトル(400MHz,CD3OD)δ:7.77(2H,s)、7.59(1H,d,J=8.4Hz)、7.26(1H,d,J=8.4Hz)、7.15(1H,s)、6.09(1H,s)、6.08(1H,s)、5.46(1H,s)、5.37(1H,brs)、3.61(3H,s)、3.54(4H,s)、3.42(1H,q,J=7.0Hz)、2.12(2H,m)、1.39(3H,d,J=6.8Hz)、1.20(6H,m)、0.63(3H,br)、0.50(3H,d,J=7.0Hz)
構造式:前記式(1)において、R1=Cl、R2=H、R3=CH3で表される構造。
【0088】
(2)K17427A、K17427B、K17427C及びK17427Dの製造法
【0089】
本発明のフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害物質K17427A、B、C、D(以下、単に「阻害物質」という。)は、例えばクウチオプラネス(Couchioplanes)属に属する放線菌、例えばクウチオプラネス エスピー.(Couchioplanes sp.)AJ9553(FERM BP−6612)を、利用可能な炭素源、窒素源を含む液体あるいは固体栄養培地を用いて培養することにより、生産することができる。
【0090】
栄養培地の炭素源として好ましくはグルコース、シュークロース、でんぷん等の炭水化物、グリセロールなどが用いられる。窒素源としては酵母エキス、ペプトン、コーンスティープパウダー、大豆粉、綿実粉(Pharmamedia)等の天然成分、アミノ酸、あるいは硫酸アンモニウム、尿素等の無機窒素含有化合物などが用いられる。
【0091】
阻害物質の生産のための培養は、上記栄養培地を入れた試験管、フラスコ等を用いた振盪培養又は静置培養、ジャーファーメンター、タンクなどを用いた通気撹拌培養等により行うことができる。培養は、通常20℃から40℃の範囲で行うことができるが、好ましくは25℃から37℃の間で行われる。
【0092】
培養終了後の培養ブロスからの阻害物質の抽出は、適切な溶媒による抽出、あるいは吸着樹脂などにより阻害物質を吸着させた後、適切な溶剤にて溶出することにより行うことができる。さらに、阻害物質の精製は、溶媒抽出、吸着樹脂、活性炭、イオン交換樹脂、シリカゲル等を用いたクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等の方法を組み合わせることにより行うことができる。
【0093】
具体的には例えば、クウチオプラネス エスピー.AJ9553(FERM BP−6612)株の菌体をアセトンで抽出し、抽出物からアセトンを留去し、残渣を水に懸濁する。この水懸濁液のpHを2に調製後、酢酸エチルを加えて抽出する。酢酸エチル層を減圧下濃縮し、得られる残渣を陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画する。例えば、前記残渣は、含水メタノールに溶解して、ダイヤイオンHP−20(三菱化学)を充填したカラムに吸着させ、メタノールで溶出させる。次に、溶出液をODSカラムを用いたH
PLCで分画するか、あるいはシリカゲルTLCによって分画することによって、阻害物質が取得される。得られた阻害物質が上記のいずれの化合物であるかは、上記の物理化学的性状を調べることによって知ることができる。
【実施例】
【0094】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0095】
〔実施例1〕
キメラ蛋白質遺伝子の作製
【0096】
<1>グリコプロテインIbα鎖遺伝子のクローニング
ヒトグリコプロテインIbα鎖遺伝子のクローニングは、ヒト赤白血病細胞(Human erythroleukemia cell:HEL)より、モレキュラー・クローニング(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.,Maniatis,T.,Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))記載の方法でcDNAライブラリーを構築することにより行った。
【0097】
すなわちヒト赤白血病細胞を160nMのフォルボール・エステル(phorbol−12−myristate−13−acetate:PMA)を含む培地で48時間培養して刺激した後、培地を取り除き、グアニジン・チオシアネート(guanidinium thiocyanate)緩衝液(4.0Mグアニジン・チオシアネート、0.1Mトリス−塩酸(pH7.5)、1% 2−メルカプトエタノ−ル)を細胞に添加し、細胞を懸濁させた。細胞懸濁液を、ポリトロンホモゲナイザー(Brinkmann社製)にて破砕処理した。
【0098】
細胞破砕液に、終濃度0.5%のラウリルザルコシネート(sodium lauryl sarcosinate)を添加した。この溶液を10分、5000×gで遠心分離し、沈殿を取り除いた。遠心上清を、超遠心分離用チューブに入れた塩化セシウム−EDTA液(5.7M CsCl、0.01M EDTA,pH7.5)に上層し、20時間、100000×gにて超遠心分離処理を行った。沈殿したRNAを回収し、エタノール沈殿法により精製し、全RNAを得た。
【0099】
取得した全RNAをオリゴdTセルロースカラムに共し、mRNAを得た。このmRNA 10μgを用い、ランダムヘキサマーオリゴDNAをプライマーとして、逆転写酵素にて一本鎖DNAを作製後、DNAポリメラーゼを用いて二本鎖cDNAを作製した。このcDNAにT4DNAリガーゼを用いてEcoRIアダプターを接続した。アダプターを接続したcDNAをT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いてリン酸化処理後、ゲル濾過カラムを用いて、精製した。このDNAに、制限酵素EcoRI部位に挿入できる様に調製されたラムダgt10アーム(Stratagene社製)をT4DNAリガーゼを用いて接続した。この組換えDNAをファージにパッケージング処理し、cDNAライブラリーを得た。
【0100】
このファージを大腸菌NM514に感染させた。生じたファージプラークに対し、ライジオアイソトープ(32P)で末端ラベルしたオリゴDNA(配列番号1)をプローブに用い、プラークハイブリダイゼーションを行った。すなわち、生じたファージプラークをニトロセルロースフィルターに転写し、アルカリ変性液(0.5M水酸化ナトリウム、1.5M食塩)でDNAを変性させた。中和液(0.5Mトリス塩酸pH7.0、1.5M食塩)で中和し、80℃で二時間加熱してDNAをフィルターに固定化した。プローブDNAは合成DNA(パーキンエルマー・アプライドバイオシステムズ社製、DNA合成機
380A型にて化学合成)をγ−32P−ATPでT4 DNAキナーゼ(宝酒造製)を作用させDNAの5'末端をラベル化したものを用いた。尚、上記オリゴDNAの塩基配列は、公知のヒトグリコプロテインIbα鎖遺伝子の塩基配列(J.A.Lopez et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,5615−5619(1987))に基づいて設定した。
【0101】
ファージプラークDNAを転写したニトロセルロースフィルター(直径132mm)を1枚につき1×106cpm(count per minuite)のプローブを含む4mlのハイブリダイゼーション緩衝液(0.9M食塩、0.09Mクエン酸ナトリウム(pH7.0)、0.5%ラウリル硫酸ナトリウム、0.1%フィコール、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%ウシ血清アルブミン、100μg/ml熱変性サケ精子DNA)に浸し、42℃で16時間ハイブリダイズさせた。このフィルターを1×SSC(0.875%食塩、0.441%クエン酸ナトリウム,pH7.0)、0.1%ラウリル硫酸ナトリウム溶液で37℃30分間、3回洗浄し、非特異的にフィルターに吸着したプローブを取り除いた。乾燥後、X線フィルムを用いてオートラジオグラフィーを行った。その結果、陽性クローン4株を得た。
【0102】
各々の陽性クローンからファージを分離し大腸菌NM514に感染させ、増殖させた後、それぞれ塩化セシウム密度勾配超遠心法にてファージDNAを精製した。このファージDNAを制限酵素EcoRIで切断し、アガロース電気泳動にてDNAを精製した。この精製したDNAをpBluescriptSK−(Stratagene社製)のEcoRI部位に挿入し、大腸菌XLIIblue(Stratagene社製)を形質転換して形質転換体を得た。形質転換体からアルカリSDS法にてプラスミドを調製し、プラスミドDNAの塩基配列を、ジデオキシ法により、パーキンエルマー・アプライドバイオシステムズ社製377型DNAシーケンサーを用い、機器のプロトコールに従って決定した。
【0103】
得られた陽性クローンのうち1株は2.4kbのcDNAを有し、J.A.Lopezら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、Vol.84、pp.5615−5619(1987))が発表したヒトグリコプロテインIbα遺伝子の全長を有するクローンであることを確認した。このプラスミドをpBluescriptGPIbAlphaとする。
【0104】
<2>イムノグロブリンのFc(γ1由来)部分をコードする遺伝子のクローニング
マウスイムノグロブリンγ1のFc部分の遺伝子は、マウスハイブリドーマ細胞株MB40.3より、全RNAを抽出し、逆転写PCR法により取得した。すなわち、MB40.3細胞の培養液10mlより、遠心分離により細胞を回収し、ISOGEN(1ml)(日本ジーン社製)により細胞を溶解し、18Gの注射針を用いてシリンジングした。5分間放置した後、200μlのクロロホルムを加えて混和し、2分間静置した後、遠心分離(15000rpm、15分)し、水相を回収した。水相に500μlの2−プロパノールを加えて混和し、5分間静置した後、遠心分離(15000rpm、15分)により全RNAを沈殿させ、75%エタノールで洗浄した後、100μlの滅菌水に溶解した。
【0105】
上記のように調製したMB40.3細胞全RNA3μg(20μl)を鋳型とし、ランダムプライマー及び逆転写酵素(superscript II(GIBCO社製))を用いてcDNAを作製した。上記cDNAに対し、配列番号2及び3のプライマーを用いてPCR反応を行い、HindIII、BamHIで切断した後、アガロースゲル電気泳動により精製し、HindIII及びBamHIで切断したpGEM−3Zf(Promega社製)に結合し、得られた組換えDNAで大腸菌XLIIblue(Strat
agene社製)を形質転換した。得られた形質転換体の1つを培養し、アルカリSDS法にてプラスミドを調製し、その塩基配列を、ジデオキシ法により、パーキンエルマー・アプライドバイオシステムズ社製377型DNAシーケンサーを用い機器のプロトコールに従って、決定した。得られたマウスイムノグロブリンγ1のFc部分の遺伝子断片の塩基配列を配列番号4に示した。このプラスミドをpGEMmIgG1Fcとした。
【0106】
<3>キメラ蛋白質(GPIb−mIgG1Fc)を発現するプラスミドの作製
上記のように得られたヒトグリコプロテインIb遺伝子とマウスイムノグロブリンガンマ1のFc部分を融合させたキメラ蛋白質は以下の方法で作製した。
【0107】
まずグリコプロテインIbα鎖遺伝子を含むプラスミドpBluescriptGPIAlphaを制限酵素EcoRIとXbaIで切断し、アガロースゲル電気泳動により分離し、グリコプロテインIbα鎖遺伝子のN末領域である約1000bpのDNAを回収した。これをpBluescriptSK−(Stratagene社製)のEcoRI−XbaI部位に挿入し、プラスミドpBluescriptGPIbEXを作製した。
【0108】
一方、前述のように得られたマウスイムノグロブリンγ1の部分遺伝子を含むプラスミドpGEMmIgG1Fcを制限酵素XbaIで切断し、アガロースゲル電気泳動で分離して、IgG1Fc遺伝子700bpを回収した。このDNAと、制限酵素XbaIで切断後CIAP処理を施したpBluescriptGPIbEXを結合させ、プラスミドpBluescriptGPIbIgG1FcFHを取得した。この遺伝子にコードされる蛋白質をGPIb−mIgG1Fcと名付け、その遺伝子配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号6及び7に示した。尚、配列番号6において、N末端の16アミノ酸残基は、シグナルペプチドを構成すると推定される。
【0109】
さらにpBluescriptGPIbIgG1FcFHを制限酵素XhoIで切断後、アガロースゲル電気泳動でGPIbFcFHをコードするDNAを分離し、このDNAを動物細胞用発現ベクターpSD(X)のXhoI部位に挿入し、プロモーターの下流にGPIb遺伝子が挿入された発現ベクターpSDGPIbIgG1FcFHを取得した。上記の手順の概要を図1に示す。プラスミドpSDGPIbIgG1FcFHを保持するエシェリヒア・コリXLIIblue(Escherichia coli AJ13434)は、1998年4月2日に、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−16749の受託番号で寄託され、1999年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP−6619が付与されている。
【0110】
<4>イムノグロブリンのFc部分(γ2a由来)をコードする遺伝子のクローニング
マウスイムノグロブリンγ2aのFc部分の遺伝子は、マウスハイブリドーマ細胞株W6/32より、全RNAを抽出し、逆転写PCR法により取得した。すなわち、W6/32細胞の培養液10mlより、遠心分離により細胞を回収し、ISOGEN(日本ジーン社製)1mlにより細胞を溶解し、18Gの注射針を用いてシリンジングした。5分間放置した後、200μlのクロロホルムを加えて混和し、2分間静置した後、遠心分離(15000rpm、15分)し、水相を回収した。水相に500μlの2−プロパノールを加えて混和し、5分間静置した後、遠心分離(15000×rpm、15分)により全RNAを沈殿させ、75%エタノールで洗浄後、100μlの滅菌水に溶解した。
【0111】
上記のようにして調製したW6/32細胞の全RNA3μg(20μl)を鋳型とし、ランダムプライマー及び逆転写酵素(superscript II(GIBCO社製))を用いて、cDNAを作製した。上記cDNAに対し、配列番号8及び9に示す塩基配列を有するプライマーを用いてPCR反応を行い、HindIII及びBamHIで切
断した後、アガロースゲル電気泳動により精製し、HindIII及びBamHIで切断したpGEM−3Zf(Promega社製)に結合し、得られた組換えDNAで大腸菌XLIIblue(Stratagene社製)を形質転換した。得られた形質転換体の1つを培養し、アルカリSDS法にてプラスミドを調製し、その塩基配列を、ジデオキシ法により、パーキンエルマー・アプライドバイオシステムズ社製377型DNAシーケンサーを用い機器のプロトコールに従って、決定した。得られたマウスイムノグロブリンγ2aのFc部分の遺伝子断片の塩基配列を配列番号10に示した。このプラスミドをpGEMmIgG2aFcとした。
【0112】
<5>キメラ蛋白質(GPIb−mIgG2aFc)を発現するプラスミドの作製
上記のように得られたヒトグリコプロテインIb遺伝子とマウスイムノグロブリンγ2aのFc部分をコードする遺伝子を融合させたキメラ蛋白質遺伝子は、以下の方法で作製した。
【0113】
まず、グリコプロテインIbα鎖遺伝子を含むプラスミドpBluescriptGPIbAlphaをKpnI及びXbaIで切断し、アガロースゲル電気泳動により精製を行い、グリコプロテインIb遺伝子のアミノ末端から319番目のアスパラギン酸までの配列を含むKpnI−XbaI DNAフラグメントを得た。
【0114】
また、前述のように得られたマウスイムノグロブリンγ2aの部分遺伝子を含むプラスミドpGEMmIgG2aFcを用いて、配列番号9及び12に示した塩基配列を有する2種の合成プライマーを用い、PFU(Stratagene社製)を用いたPCR反応(アニーリング温度55℃、30サイクル)により、5'側にXbaIサイト、3'側にXhoIサイトを持つマウスイムノグロブリンγ2aのFc部分の遺伝子断片を作製した。この遺伝子断片をXbaI及びXhoIによって消化した後、アガロースゲル電気泳動により精製し、XbaI及びXhoIで切断したpBluescriptSK−に結合し、得られた組換えプラスミドで大腸菌XLIIblue(Stratagene社製)を形質転換した。
【0115】
得られた形質転換体から、アルカリSDS法にてプラスミドを調製し、その塩基配列を、ジデオキシ法により、パーキンエルマー・アプライドバイオシステムズ社製377型DNAシーケンサーを用い、機器のプロトコールに従って、決定した。その結果、配列番号10に示す塩基配列の5'末端の6塩基がTCTAGACに置換され、3'末端の6塩基が除去された塩基配列であることが確かめられた。このプラスミドをpBluescriptmIgG2aとした。本プラスミドをXbaI及びXhoIを用いて切断し、アガロースゲル電気泳動により精製を行い、マウスイムノグロブリンγ2aのFc部分遺伝子のXbaI−XhoI断片を取得した。
【0116】
上記の様に取得したヒトグリコプロテインIb遺伝子のKpnI−XbaI断片とマウスイムノグロブリンγ2aのFc部分遺伝子のXbaI−XhoI断片を、KpnI及びXhoIで切断したpBluescriptSK−に結合し、得られた組換えプラスミドで大腸菌XLIIblue(Stratagene社製)を形質転換した。得られた形質転換体の1つを培養し、アルカリSDS法にてプラスミドを調製し、グリコプロテインIbのN末端側部分(アミノ酸番号1−319、シグナルペプチドを含む)とマウスイムノグロブリンγ2aのFc部分が結合した蛋白質(キメラ蛋白質)をコードする遺伝子(配列番号13)を含むプラスミドを得た。このプラスミドをpBluescriptGPIbFc2aと名付け、コードされる遺伝子に対応するキメラ蛋白質を特にGPIb−mIgG2aFcと名付け、そのアミノ酸配列を配列番号14に示した。尚、配列番号14において、N末端の16アミノ酸残基は、シグナルペプチドを構成すると推定される。
【0117】
プラスミドpBluescriptGPIbFc2aを保持するエシェリヒア・コリXLIIblue(Escherichia coli AJ13432)は、1998年3月19日に、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−16719の受託番号で寄託され、1999年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP−6618が付与されている。
【0118】
pBluescriptGPIbFc2aをXhoIにより消化後、アガロース電気泳動を用いて精製し、このキメラ蛋白質の遺伝子を含むXhoI断片を、<3>と同様の動物細胞発現ベクターpSD(x)のXhoI部位に結合したプラスミドpSDGPIbFc2aを得た。さらにpGPIbFcbluescriptをEcoRI、XhoIにより消化後、キメラ蛋白質の遺伝子を含むEcoRI−XhoI断片を、SRαプロモーター(K.Maruyama and Y.Takebe et al.,Medical Immunology 20,27−32 1990)を有する動物細胞発現用ベクターpMikNeo(+)(東京大学医科学研究所、丸山和夫先生より恵与)のEcoRI−XhoI部位に挿入し、プラスミドpMikGPIbFcを得た。pMikGPIbFcを取得した手順の概要を図2に示した。
【0119】
〔実施例2〕
キメラ蛋白質(GPIb−mIgG1Fc)の動物細胞を用いた生産
キメラ蛋白質の生産細胞は以下の方法により作製した。CHOdhfr-細胞を、10%ウシ胎児血清を含むD−MEM培地(GIBCO社製)(10ml)を用いて、5×105個/10cmシャーレになるように、37℃、5%CO2下で培養した。この細胞に、実施例1<3>にく記載の通り調製したpSDGPIbIgG1Fcを形質導入した。形質導入は、以下に示すようにリン酸カルシウムにより行った。
【0120】
すなわち、10cmシャーレあたり約10μgのpSDGPIbIgG1Fcを0.5mlの0.125M塩化カルシウムを含むBESパッファー(pH6.96)0.5mlに添加後、シャーレにまんべんなく滴下し、35℃、3%CO2下で終夜培養した後、シャーレをPBSで2回洗浄後、核酸不含α−MEN培地でさらに約24時間37℃、5%CO2下で培養した。このようにして形質導入した細胞を、さらにメソトレキセート(MTX)0.05uM、10%ウシ胎児血清を含む核酸不含α−MEM培地中で培養することにより、キメラ蛋白質生産細胞を取得した。
【0121】
上記の様にして得たキメラ蛋白質産生細胞は、F175細胞培養用フラスコでメントレキセート(MTX)0.05uM、10%ウシ胎児血清を含む核酸不含α−MEM培地中でほぼ60%コンフルエントになるまで培養した後、培地をメソトレキセート(MTX)0.05uMを含む無血清培地ASF104培地(味の素社製)に交換し、4日後、培養用上清を回収した。
【0122】
〔実施例3〕
キメラ蛋白質(GPIb−mIgG2aFc)の動物細胞を用いた生産
キメラ蛋白質の生産細胞は、以下の方法により作製した。CHOK1細胞を、10%ウシ胎児血清を含むD−MEM培地(GIBCO社製)(10ml)を用いて、5×105個/10cmシャーレになるように、37℃、5%CO2下で培養した。この細胞に、実施例1で調製したpMikGPIbFcを形質導入した。形質導入は、以下に示すようにリン酸カルシウム法により行った。
【0123】
すなわち、10cmシャーレあたり約10μgのpMikGPIbFcを0.5mlの0.125M塩化カルシウムを含むBESバッファー(pH6.96)0.5mlに添加後、シャーレにまんべんなく滴下し、35℃、3%CO2下で終夜培養した後、シャー
レをPBSで2回洗浄後、D−MEM培地でさらに約24時間37℃、5%CO2下で培養した。このようにして形質導入した細胞を、さらにG418(850μg/ml)、10%ウシ胎児血清を含むD−MEM培地中で培養することにより、G418耐性細胞であるキメラ蛋白質生産細胞を取得した。
【0124】
上記の様にして得たキメラ蛋白質産生細胞は、F175細胞培養用フラスコでG418(800μg/ml)、10%ウシ胎児血清を含むD−MEM培地中でほぼ60%コンフルエントになるまで培養した後、培地をG418(800μg/ml)を含む無血清培地ASF104培地(味の素社製)に交換し、4日後培養用上清を回収した。
【0125】
回収した培養上清を遠心分離して固形物を除去した後、上清160mlを、20mMリン酸バッファー(pH7.0)で洗浄したProtein A Hitrap(1ml、ファルマシア社製)カラムに通してキメラ蛋白質をカラムに吸着させた。カラムを20mMリン酸バッファー(pH7.0)で十分洗浄した後、0.1Mクエン酸バッファー(pH4.5)で溶出を行った。キメラ蛋白質の溶出は、UVモニターによって280nmを検出することによって行い、キメラ蛋白質溶出画分は1Mトリス塩酸バッファー(pH8.5)を加えることにより直ちに中和した。上記のようにして得られたキメラ蛋白質は、SDS電気泳動の結果、還元下で約80Kda、非還元下で約2倍の分子量を示す蛋白質であった。
【0126】
〔実施例4〕
固定化したフォンビルブランド因子とボトロセチンの混合物に対するキメラ蛋白質の結合の検出
【0127】
<1>抗マウスIgG−Fc抗体を用いたELISA法によるキメラ蛋白質の結合の検出
ボトロセチンは、ボトロプス・ジャララカ(Botrops jararaca)粗毒凍結乾燥品(シグマ社製)1gより、Read(M.S.Read et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,75,4514−4518,1978)により報告されている方法に準じて精製することにより、取得した。
【0128】
また、96穴マルチタイタープレートへのフォンビルブランド因子、ボトロセチンの混合液の固定化は以下のように行った。まず、常法により調製したフォンビルブランド因子の生理的食塩水溶液(250μg/ml)とボトロセチンの生理的食塩水溶液(500μg/ml)を適当に希釈した後、図2に示したそれぞれの濃度比になるように混合した後、その50μl、96穴マルチタイタープレート(Maxisorp、ヌンク社製)の各ウェルに加えた。4℃で終夜静置した後、生理的トリスバッファー(20mMトリス塩酸(pH7.4)、0.15M塩化ナトリウム;Tris buffered saline、以下、「TBS」という)にて1回(150μl)洗浄し、10%BSA(ウシ血清アルブミン)を含むTBS 100μlを加えて約3時間静置した後、TBSで3回洗浄し、フォンビルブランド因子固定化プレートを得た。
【0129】
上記の様にボトロセチン存在下でフォンビルブランド因子を固定化したプレートに対し、1%BSAを含むTBS 25μlと、キメラ蛋白質(GPIb−mIgG1Fc)産生細胞の無血清培地を用いた培養上清を0.1%BSAを含むTBSで8倍に希釈した溶液25μlを加え、1時間室温にてインキュベートした後、0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で3回洗浄した。抗マウスIgG−Fcヤギポリクローナル抗体(カタログNo.55482、Organon Teknika社製)をBiotin Labeling Kit(カタログNo.1418165、Boehringer
Mannheim社製)を用いてキットに添付されたプロトコール記載の方法で、ビオチン化した。このビオチン化抗マウスIgGFc抗体約2μg/mlを含む0.1%BS
A/TBA溶液50μlを前記プレートに加え、1時間、室温にてインキュベートした。さらに0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で3回洗浄した後、VECTASTAIN ABC kit(ビオチン検出用キット、Alkaline phosphatase standard、カタログNo.AK−5000、Vector laboratories社製)の試薬(ビオチン化アルカリフォスファターゼ及びストレプトアビジンの混合液)をマニュアルに記載の方法の1/5濃度に調製した0.1%BSA/TBS溶液50μlを加えて、1時間室温にてインキュベートした。0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で5回洗浄後パラニトロフェニルフォスフェート(p−nitrophenylphsphate)を1mg/mlになるように溶解した、10mM MgCl2を含む100mM NaHCO3溶液を100μl加え、約1時間発色反応を行い、発色後405nmの吸光度を測定した。図3に示した通り、ボトロセチンおよびフォンビルブランド因子の量依存的に、キメラ蛋白質の結合が観察された。
【0130】
<2>ユーロピウム(Eu)ラベル法を用いたキメラ蛋白質の結合の検出
実施例3で得た、Protein Aカラムで精製したキメラ蛋白質(GPIb−mIgG2aFc)溶液を生理的食塩水に対して透析後、約200μg/1.5mlの溶液をCentricon−10(Amicon社製)を用いた限外濾過により780μl(濃度約250μg/ml)に濃縮した。そのうち500μl(約125μgのGPIb−mIgG2aFcを含む)に50μlの0.5M NaHCO3を加えた後、Eu−Labeling Reagent(化合物としてEuropium DTTA−isothiocyanate、DELFIA 1244−302、Wallac社製)0.2mgを生理的食塩水250μlに溶解したものを50μl添加した後、約40時間室温で撹拌しながらEuropium DTTA−isothiocyanateを反応させた。
【0131】
上記反応液を、HiLoad 16/60 Superdex 75pg(内径16mm、長さ60cm、Pharmacia社製)を用いてゲル濾過し、未反応の試薬とキメラ蛋白質とを分離した。ゲル濾過は、溶出液に生理的食塩水を用い、流速1ml/分で行った。Euでラベル化されたキメラ蛋白質は、溶出体積40−48mlの部分に回収された。蛋白質定量キット(Protein Assay,Bio−Rad社製)を用い、IgGを標準物質として蛋白定量を行った結果、溶出溶液中のラベル化されたキメラ蛋白質の濃度は、6.4μg/mlの濃度であった。以下、この値をキメラ蛋白質濃度として、以下の実験を行った。
【0132】
上記のように調製したユーロピウム(Eu)ラベル化したキメラ蛋白質と、ボトロセチン存在下で固定化したフォンビルブランド因子との結合の検出を、以下の通り行った。実施例4<1>で示した方法にしたがって、フォンビルブランド因子2.5μg/mlとボトロセチン2.5μg/mlの混合溶液(TBS)を96穴マルチタイタープレート(マイクロタイトレーションプレートDELFIA、1244−550、Wallac社製)の各ウェルに加え、終夜固定化した後、洗浄、ブロッキング、洗浄を行い、フォンビルブランド固定化プレートを作製した。
【0133】
上記プレートに、25μlの0.5%BSAを含むアッセイバッファー(Assay
Buffer、Wallac DELFIA 1244−106、Wallac社製、組成:0.5% BSA、0.05% ウシγグロブリン、0.01% Tween−40、20μM DTPA(ジエチレンドリアミン四酢酸)、50mM Tris−HCl bufferd saline(pH7.8)、0.05%アジ化ナトリウム)あるいはさらに結合阻害物質として組み換え体AS1051(Cys81をAlaに置換したもの)(N.Fukuchi et al.,WO95/08573)を終濃度20μg/mlとなるように加え、さらにユーロピウム(Eu)ラベル化したキメラ蛋白質の同アッセイバッファー溶液(100ng/ml)25μlを加えて、1分間振とう撹拌した後、室温で2
時間静置した。プレートを0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で5回洗浄した後、蛍光増強緩衝液(Enhancement buffer、1244−104、Wallac社製、組成:15μM β−NTA(2−ナフトイルトリフロオロアセトン)、50μM TOPO(トリ−n−オクチルフォスフィンオキシド)、1g/L Triton X−100、100mM 酢酸−フタル酸水素カリウム緩衝液)100μlを加えて1分間振とう撹拌した後、DELFIA Research蛍光光度計(1230 ARCUS Fluorometer、Wallac社製)を用いてユーロピウム(Eu)量の測定を行った(測定時間:1秒間)。測定の値(結合阻害物質添加及び非添加)とCV(偏差)(%)値を表1に示した。
【表1】
【0134】
〔実施例5〕
結合阻害物質によるフォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合阻害の検出
【0135】
<1>抗マウスIgG−Fc抗体を用いたELISA法によるキメラ蛋白質の結合阻害の検出
フォンビルブランド因子の固定化を、フォンビルブランド因子2.5μg/mlとボトロセチン2.5μg/mlの混合溶液(TBS)で行ったこと、及び、固定化フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質産生細胞の培養上清との反応の際、阻害活性を測定したい結合阻害物質を加えておくこと以外は、実施例4<1>の方法と同様に行った。
【0136】
結合阻害物質としては、抗ヒトフォンビルブランド因子モノクローナル抗体であるAJvW−2、及び、クロタルス・ホリダス・ホリダスの蛇毒由来のヒトグリコプロテインIb結合ペプチドを用いた。
【0137】
AJvW−2を産生するハイブリドーマは、平成6年8月24日に通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(郵便番号305 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)にそれぞれ順にFERM P−14487の受託番号で寄託され、平成7年9月29日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管されて、FERM BP−5248の受託番号で寄託されている(WO96/17078参照)。該ハイブリドーマを培養すれば、AJvW−2を得ることができる。
【0138】
また、前記ヒトグリコプロテインIb結合ペプチドは、クロタルス・ホリダス・ホリダスの蛇毒由来の多量体ペプチドから得られる一本鎖ペプチド(AS1051)の81位のシステイン残基がアラニン残基に置換されたもの(変異型AS1051)である。AS1051は、これをコードする遺伝子を、81位のシステイン残基がアラニン残基に置換されるように改変し、該遺伝子を大腸菌で発現させることにより得た。pCHA1を保持するE.coli HB101/pCHA1(E.coli AJ13023)は、平成6年8月12日より、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(郵便番号305 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)に、FERM BP−4781の受託番号のもとでブダペスト条約に基づき国際寄託されている(WO95/08573参照)。尚、AS
1051自体もヒトグリコプロテインIb結合ペプチドであり、変異型AS1051の検出と同様にして検出することができる。
【0139】
AJvW−2及び変異型AS1051のキメラ蛋白質(すなわちグリコプロテインIb)に対する結合阻害活性を図4に示した。
【0140】
<2>ユーロピウム(Eu)ラベル法を用いたキメラ蛋白質の結合阻害の検出
フォンビルブランド因子の固定化を、フォンビルブランド因子2.5μg/mlとボトロセチン2.5μg/mlの混合溶液(TBS)で行ったこと、及び、固定化フォンビルブランド因子とユーロピウム(Eu)ラベル化したキメラ蛋白質との反応の際、阻害活性を測定したい結合阻害物質を加えておくこと以外は、実施例4<2>の方法と同様に行った。
【0141】
結合阻害物質としては、抗ヒトフォンビルブランド因子抗体であるAJvW−2、変異型AS1051を用いた。両物質のキメラ蛋白質(すなわちグリコプロテインIb)に対する結合阻害活性を図5に示した。
【0142】
〔実施例6〕
血漿中のグリコカリシンの検出
【0143】
<1>抗マウスIgG−Fc抗体を用いたELISA法にグリコカリシンの検出
ヒト血漿の調製は、18Gの注射針を用いて健康なボランティアから採血した血液に、1/10容の3.8%クエン酸ナトリウム水溶液を加え、3000×rpmで10分間、遠心分離した後、その上清を分離することにより行った。
【0144】
実施例5<1>の方法と同様にして作製したフォンビルブランド因子固定化プレートに対し、3人の独立に採取したヒト血漿をTBSで順次2倍に希釈し(合計8段希釈)、その25μlを上記プレートに加え、さらに、キメラ蛋白質産生細胞を無血清培地で培養した培養上清を0.1%BSAを含むTBSで8倍に希釈した溶液25μlを加え、1時間室温にてインキュベートした。その後の反応、発色操作は実施例5<1>に示した方法と同様に行い、その結果の平均値を図6に示した。
【0145】
健常人のグリコカリシンの血中濃度は約2μg/mlと報告されており、このことより、本検出系では50%の結合阻害を示すグリコカリシン濃度は約400ng/mlであり、グラフの直線性から60ng/ml以上のグリコカリシン量は十分測定可能であると考えられた。
【0146】
<2>ユーロピウム(Eu)ラベル化したキメラ蛋白質を用いたグリコカリシンの検出
上記<1>の方法で独立に調製したヒト血漿をTBSで順次2倍に希釈し(合計8段希釈)、実施例5<1>の方法と同様に作製したフォンビルブランド因子固定化プレート(プレートは、マイクロタイトレーションプレートDELFIA、1244−550、Pharmacia Biotech社製を使用)に25μlを加え、さらに実施例4<1>と同様にして調製したユーロピウム(Eu)ラベル化したキメラ蛋白質のアッセイバッファー溶液(100ng/ml、Assay Buffer;1244−106、Pharmacia Biotech社製))25μlを加えて反応させた。その後の洗浄操作、測定操作は実施例5<2>と同様に行い、その結果の平均値を図7に示した。
【0147】
健常人のグリコカリシンの血中濃度は約2μg/mlと報告されており、このことより、本検出系では50%の結合阻害を示すグリコカリシン濃度は約60ng/mlであり、30ng/ml以上のグリコカリシン量は十分測定可能であると考えられた。
【0148】
〔実施例7〕
固定化したフォンビルブランド因子に対するボトロセチン存在下におけるキメラ蛋白質の結合の検出と阻害物質による結合阻害の検出
【0149】
<1>キメラ蛋白質の結合の検出
ヒトフォンビルブランド因子(2.5μg/ml)を含むTBS溶液(50μl)を96穴プレートの各ウェルに加え、4℃で終夜固相化した後、TBS(150μl)で1回洗浄した後、5%BSAを含むTBSで約3時間ブロッキングを行った。プレートをTBS(150μl)で2回洗浄した後、25μlのアッセイバッファー(Assay Buffer、1244−106、Wallac社製、組成は実施例4<2>に記載)あるいはさらに阻害物質として組み換え体AS1051(Cys81をAlaに置換したもの)を終濃度20μg/mlとなるように加え、実施例4<2>で調製したユーロピウム(Eu)ラベル化したキメラ蛋白質(100ng/ml)およびボトロセチン(500ng/ml)を含むアッセイバッファー(25μl)を順次加え、室温で約3時間放置した。プレートを0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で5回洗浄した後、蛍光増強緩衝液(Enhancement Solution、1244−104、Wallac社製、組成は実施例4<2>に記載)100μlを加えて1分間振とうした後、142OARVOマルチラベルカウンター(Wallac社製)を用いてユーロピウム(Eu)量の測定を行った(測定時間:1秒間)。測定の値(サンプル非添加、阻害サンプル添加)とCV(%)値を表2に示した。
【表2】
【0150】
<2>阻害物質によるキメラ蛋白質の結合阻害の測定
阻害活性を測定したい結合阻害物質を加えておくこと以外は、実施例7<1>の方法と同様に行った。
結合阻害物質としては実施例5<1>に示した抗ヒトフォンビルブランド因子モノクローナル抗体であるAJvW−2、同様に実施例5<1>に示したヒトグリコプロテインIb結合蛋白質である変異型AS1051を用いた。
AJvW−2、変異型AS1051のキメラ蛋白質(すなわちグリコプロテインIb)に対する結合阻害活性を図8に示した。
【0151】
〔実施例8〕
固定化したキメラ蛋白質に対する結合惹起物質存在下におけるフォンビルブランド因子の結合の検出と結合阻害物質による結合阻害の検出
【0152】
<1>ボトロセチンを用いた結合の検出
まず、ヒトフォンビルブランド因子の生理的食塩水溶液(300μg/ml)500μlに50μlの0.5M NaHCO3を加えた後、Eu−labeling Reagent(化合物としてEuropium DTTA−isothiocyanate、DELFIA 1244−302、Wallac社製)0.2mgを生理的食塩水250μ
lに溶解したものを50μl添加した後、約40時間室温で撹拌しながら反応させた。
【0153】
上記反応液を、HiLoad 16/60 Superdex 75pg(内径16mm、長さ60cm、Pharmacia社製)を用いてゲル濾過し、未反応の試薬とフォンビルブランド因子とを分離した。ゲル濾過は、溶出液に生理的食塩水を用い、流速1ml/分で行った。Euでラベル化されたヒトフォンビルブランド因子は、溶出体積40−48mlの部分に回収された。
【0154】
上記のように調製したユーロピウム(Eu)ラベル化したフォンビルブランド因子と、固定化したキメラ蛋白質とのボトロセチン存在下で結合の検出を、以下の通り行った。まず抗マウスイムノグロップリンポリクローナル抗体(カタログNo.55482、Organon Teknika社製、1μg/ml)の0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)溶液50μlを、96穴マルチタイタープレート(マイクロタイトレーションプレートDELFIA、1244−550、Wallac社製)の各ウェルに加え終夜固定化した後、洗浄、5%BSAを含むTBS(100μl)によりブロッキングした後、TBS(150μg/ml)で3回洗浄を行った。さらにキメラ蛋白質のTBS溶液(0.5μg/ml)50μlを加え、室温で3時間静置することにより固定化した抗マウスイムノグロブリン抗体に、キメラ蛋白質を結合させ、キメラ蛋白質固定化プレートを作製した。
【0155】
キメラ蛋白質固定化プレートを、0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で3回洗浄した後、実施例4<1>で示した方法と同様に、25μlのアッセイバッファー(Assay Buffer、1244−106、Wallac社製、組成は実施例4<2>に記載)あるいはさらに阻害物質として組み換え体AS1051(Cys81をAlaに置換したもの)を終濃度20μg/mlとなるように加え、さらにユーロピウム(Eu)ラベル化したフォンビルブランド因子(500ng/ml)とボトロセチン(500ng/ml)を含むアッセイバッファー(25μl)を順次加え、室温で約3時間放置した。0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で5回洗浄した後、蛍光増強緩衝液(Enhancement solution、1244−104、Wallac社製、組成は実施例4<2>に記載)100μlを加えて1分間振とうした後、1420ARVOマルチラベルカウンター(Wallac社製)を用いてユーロピウム(Eu)量の測定を行った(測定時間:1秒間)。測定の値(サンプル非添加、阻害サンプル添加)を表3に示した。
【表3】
【0156】
<2>阻害物質によるキメラ蛋白質の結合阻害の測定
阻害活性を測定したい結合阻害物質を加えておくこと以外は、実施例8<1>の方法と同様に行った。
【0157】
結合阻害物質としては実施例5<1>に示した抗ヒトフォンビルブランド因子モノクローナル抗体であるAJvW−2、同様に実施例5<1>に示したヒトグリコプロテインIb結合蛋白質である変異型AS1051を用いた。
【0158】
AJvW−2、変異型AS1051のキメラ蛋白質(すなわちグリコプロテインIb)に対する結合阻害活性を図9に示した。
【0159】
<3>リストセチンを用いた結合の検出
<1>と同様の方法を用いて作製したユーロピウム(Eu)ラベル化したフォンビルブランド因子、およびキメラ蛋白質固定化プレートを用いた。
【0160】
キメラ蛋白質固定化プレートを、0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で3回洗浄した後、25μlのアッセイバッファー(Assay Buffer、1244−106、Wallac社製、組成は実施例4<2>に記載)あるいはさらに阻害物質として組み換え体AS1051(Cys81をAlaに置換したもの)を終濃度20μg/mlとなるように加え、さらにユーロピウム(Eu)ラベル化したフォンビルブランド因子(500ng/ml)と種々の濃度(2、1、0.5、0.25および0mg/ml)の硫酸リストセチン(シグマ社製)を含むアッセイバッファー(25μl)を順次加え、室温で約2時間放置した。0.05%Tween−20を含むTBS(150μl)で5回洗浄した後、蛍光増強緩衝液(Enhancement solution、1244−104、Wallac社製、組成は実施例4<2>に記載)100μlを加えて1分間振とうした後、1420ARVOマルチラベルカウンター(Wallac社製)を用いてユーロピウム(Eu)量の測定を行った(測定時間:1秒間)。
【0161】
リストセチン濃度と結合したフォンビルブランド因子のカウント、および結合阻害物質である組み換え体AS1051(終濃度20μg/ml)存在下での結合したフォンビルブランド因子のカウントを表4に示した。
【表4】
【0162】
〔実施例9〕
実施例7の方法を用いたグリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の結合を阻害する物質のスクリーニング
実施例7の方法を用いて、グリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の結合を阻害する物質のスクリーニングを行った。具体的には、阻害活性を測定したいサンプルを加えておくこと以外は、実施例7<1>の方法と同様に行った。種々の化合物、放線菌、糸状菌等の培養液、あるいはそれらの有機溶剤抽出物をサンプルとして用いた。
【0163】
その結果、日本国神奈川県横浜市の四季の森公園の土壌から採取された放線菌AJ9553株の培養液、あるいはその有機溶剤(ブタノール、酢酸エチル)抽出画分に、グリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の結合を著しく阻害する物質を見出した。
【0164】
〔実施例10〕
放線菌AJ9553株を用いた阻害物質の生産と単離、構造解析
【0165】
<1>AJ9553株からのK17427AおよびBの製造法
AJ9553株を試験管に5ml張り込んだシード用培地(Beef Extract(DIFCO社製)0.1%、グルコース1%、Starch Soluble(ナカライテスク社製)1%、Corn steep powder(和光純薬社製)0.5%、ポリペプトン(大日本製薬社製)1%、Yeast Extract(DIFCO社製)0.5%、炭酸カルシウム0.2%を含む、pH7.2)に植菌し、28℃、120rpmで6日間振とう培養した。この培養液を500ml容三角フラスコに70ml張り込んだ培養用培地(グリセロール2%、Pharmamedia(Trader s Protein社製)1%、Corn Steep Powder(ナカライテスク社製)1%、炭酸カルシウム0.4%、硫酸ナトリウム0.3%、硫酸亜鉛7水和物0.003%を含む、pH7.0)に、2%になるように接種し、さらに28℃、180rpmで8日間振とう培養を行った。
【0166】
このようにして得られた培養液(1.6L)から遠心により菌体を得、これにアセトン(1L×2)を加えて、室温で1日抽出した。濾過により菌体残渣を分離後、減圧下アセトンを留去し、得られた残渣を水に懸濁させ。この水懸濁液を5%塩酸によりpH2.0に調製後、酢酸エチル(400ml×2)を加え抽出した。酢酸エチル層を減圧下で濃縮し、得られた残渣(1.3g)を50%メタノールに溶解させた。この溶液をダイヤイオンHP−20(三菱化学)を充填したカラムを用いてメタノールで溶出した。得られた画分をODSカラム(YMC−Pack AM−322)を用いたHPLCによりK17427A(400mg)およびK17427B(40mg)を得た。
【0167】
<2>AJ9553株からのK17427CおよびDの製造法
AJ9553株を試験管に5ml張り込んだシード用培地(Beef Extract(DIFCO社製)0.1%、グルコース1%、Starch Soluble(ナカライテスク社製)1%、Corn steep Powder(和光純薬社製)0.5%、ポリペプトン(大日本製薬社製)1%、Yeast Extract(DIFCO社製)0.5%、炭酸カルシウム0.2%を含む、pH7.2)に植菌し、28℃、120rpmで6日間振とう培養した。
【0168】
このようにして得られた培養液(40ml)から遠心により菌体を得、これにアセトン(50ml)を加えて、室温で1日抽出した。濾過により菌体残渣を分離後、減圧下アセトンを留去した。得られた水懸濁液を5%塩酸によりpH2.0に調製後、酢酸エチル(20ml×2)を加え抽出した。酢酸エチル層を減圧下で濃縮し、得られた残渣を50%メタノールに溶解させた。この溶液をダイヤイオンHP−20(三菱化学)を充填したカラムを用いてメタノールで溶出した。得られた両分をシリカゲル分取TLC(メルク社)により分画し(n−ヘキサン/酢酸エチル/メタノール/水、60:40:5:0.5)、K17427C(3.2mg)およびK17427D(2.2mg)を得た。
【0169】
〔実施例11〕
グリコプロテインIbとフォンビルブランド因子との結合を阻害する低分子量物質K17427A、B、C、Dを生産する放線菌AJ9553の同定、生理的試験
K17427A、B、C、Dを生産する放線菌AJ9553株の分類学的検討を行った結果を以下に示す。
【0170】
1.形態学的特徴
ISP[インターナショナル・ストレプトマイセス・プロジェクト(International Streptomyces Project)]規定の寒天培地上、28℃、14日間培養後、顕微鏡下観察では基底菌糸は良好に伸長、分岐し、オレンジ色である。ノカルディア(Nocardia)属菌株様のジグザグ伸長は観察されない。気菌糸は基底菌糸上から形成し、成熟すると気菌糸由来の胞子連鎖を形成する。胞子嚢は形成されない。胞子は卵状から単桿状の分節胞子であって、通常その大きさは、0.4〜1×1〜1.5μmである。熟成した胞子を水中に投じると、その胞子は鞭毛を有し遊走性を示す。
【0171】
2.各種寒天培地上での生育及び培養性状
各種寒天培地上での生育及び培養性状(28℃、14日間培養)を表5に示す。
【表5】
【0172】
3.生育温度
オートミール寒天培地で14日間培養したときの生育状況を以下に示す。
8℃:生育せず
30℃:生育良好
18℃:僅かに生育
37℃:生育良好
20℃:生育普通
42℃:生育普通
28℃:生育良好
45℃:生育せず
【0173】
4.炭素源の利用性
プリッドハム・ゴトリーブ寒天を基礎培地とし、下記各種糖を添加して28℃、14日間培養したときの生育状況を以下に示す。−:生育せず。+:生育普通
D−グルコース +
ラフィノース −
D−キシロース +
D−マンニトール +
L−アラビノース +
イノシトール −
L−ラムノース +
シュークロース +
D−フルクトース +
D−ガラクトース +
【0174】
5.菌体成分
細胞壁からは、meso−ジアミノピメリン酸、3−OH−ジアミノピメリン酸、グリシン及びリジンが検出され、細胞液タイプはVI型であると考えられる。また分類上の特徴である全菌体糖成分はアラビノース及びキシロースであり、糖パターンはD型であった。主要メナキノンはMK−9(H4)であった。また細胞壁ペプチドグリカンのアシルタイプは、グリコリル型であった。
【0175】
6.168リボソームRNA塩基配列解析本菌株の168リボソームRNA塩基配列を調べた結果、本菌株はミクロモノスポラシア(Micromonosporacea)科に所属するクウチオプラネス カエルレウス(Couchioplanes caeruleus)と最も近縁であった。
【0176】
以上のことから、本菌株は放線菌の中でもクウチオプラネス属(Couchioplanes)に属することは明らかであり、従ってAJ9553株をクウチオプラネス エスピー AJ9553(Couchioplanes sp.AJ9553)と称することとした。
【0177】
なお、本菌株は、1999年1月6日に通商産業省工業技術院生命工学技術研究所(郵便番号305−8566 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)にブタペスト条約に基づいて寄託されており、受託番号はFERM BP−6612である。
【0178】
本発明において、クウチオプラネス エスピー AJ9553(Couchioplanes sp.AJ9553)の変異株等の誘導体も、阻害物質を産生する性質を有する限り、生理的な性質が本菌株と異なっていても、阻害物質の製造に使用することができる。変異株は、例えばX線若しくは紫外線などの照射処理、例えばナイトロジェンマスタード、アザセリン、亜硝酸、2−アミノプリン若しくはN−メチル−N'−ニトロソグアニジン(NTG)等の変異誘起剤による処理、ファージ接触、形質転換、形質導入又は接合などの通常用いられている菌種変異処理方法によりクウチオプラネス エスピー AJ9553(Couchioplanes sp.AJ9553)を変異させることにより得ることができる。
【0179】
〔実施例12〕
K17427A、C、DのグリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の結合に対する阻害活性
【0180】
<1>実施例4のグリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の結合阻害を検出する方法を用いたK17427A、C、Dの阻害活性の測定
単離したK17427A、C、DのグリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の結合に対する阻害活性を、測定に1420ARVOマルチラベルカウンター(Wallac社製)(測定時間:1秒間)を用いたこと以外は実施例4に示した方法と同様の方法を用いて測定した。図10にそれぞれの化合物の、グリコプロテインIbとフォンビルブ
ランド因子の結合阻害活性を示した。
【0181】
<2>ヨード125ラベルフォンビルブランド因子とホルマリン固定化血小板の結合に対するK17427A、C、Dの阻害活性の測定
【0182】
(1)固定化血小板の調製
固定化血小板の調製法は、以下の方法にしたがって行った。18Gの注射針を用いて採血した健常人ボランティアの血液50mlに、1/10容になるように3.8%クエン酸ナトリウムを加え、50mlディスポーザブルチューブ(Falcon 2096)に二分した後、冷却遠心機(KUBOTA 8800)を用いて、900rpm、15分、室温で遠心分離を行って、上清を多血小板血漿(platelet rich plasma; PRP)として回収した。PRPに等容の2%パラホルムアルデヒド/PBSを加え、穏やかに混和した後4℃で一晩静置した。本溶液を上記と同様の冷却遠心機を用いて、3000rpm、10分、遠心分離を行い、上清をデカンテーションにより取り除いた後、約20ml/tubeのPBSを加えて、ピペットで穏やかに沈殿を懸濁させた。さらに3000rpm、10minの遠心分離、PBSによる懸濁を2回繰り返した後、最終的に最初のPRP量と同様のPBS溶液とし、これを固定化血小板懸濁液とした。
【0183】
(2)ヒト血清からのフォンビルブランド因子の精製
ヒト血清からのフォンビルブランド因子の精製は、H.R.Gralnickら(J.Clin.Invest,62,496(1978))の方法にしたがって行った。
【0184】
(3)フォンビルブランド因子の125Iラベル化
125Iラベル化を行うチューブは、予めIodogen(Piearce社製、0.5mg/ml)のジクロロメタン溶液1.5mlを加えた後、窒素気流下で溶媒を除去し、Iodgenの固相化を行った。ゲル濾過により得た高分子量フォンビルブランド因子(0.19mg/1.5ml)を反応チューブに入れ、Na125I、18.5Mbqを加えて室温で2分間反応させた後、あらかじめBSAでブロッキングし洗浄したPD10(Pharmacia Biotech社製)カラムにアプライし、TBSで溶出を行った。溶出液は0.5mlずつフラクション分取し、各フラクションの125I比活性をガンマカウンターPackard Multi Prias 4を用いて測定した。125I−フォンビルブランド因子を多く含むフラクションを集め、数本に分割した後、使用まで−80℃で保存した。
【0185】
(4)固定化血小板に対する125I−フォンビルブランド因子の結合に対するK17427A、C、Dの阻害活性の測定
アッセイを行う96wellフィルタープレート、Millipore Multiscreen HV(Millipore社製、0.45μM)は、予め1%BSA/TBS(100μl)を各ウェルに加え数時間静置することによりフィルターのブロッキングを行った。前述の固定化血小板懸濁液をTBSで10倍に希釈した懸濁液20μl、被験サンプルを5μl加え、さらに0.8μg/mlのボトロセチン、あるいは2.4mg/mlのリストセチンを含む125I−フォンビルブランド因子溶液(約800,000cpm)25μlを加えて、30分静置した。吸引によりウェル中の溶液を濾過した後、0.05%Tween−20を含むTBS(100μl)を加え、さらに吸引することにより洗浄を行った。
【0186】
ガンマカウンターを用いた測定は以下のように行った。
【0187】
上記洗浄後の96ウェルフィルタープレートからパンチ(Millipore社製、型番MAPK 896 OB)を用いてフィルターを離脱し、6ml容ポリスチレンチュー
ブに分注して、Packard Multi Prias4を用いて125Iの放射線量を測定した。K17427A、C、Dの阻害活性を図11に示した。
【0188】
上記に示した<1>、<2>の結果より、K17427A、C、DによるグリコプロテインIbとフォンビルブランド因子の結合阻害活性は、通常広く用いられている<2>の方法より、本発明である<1>の方法(実施例4の方法)でより感度良く検出することが可能であった。
【0189】
〔実施例13〕
K17427Aの血小板凝集に対する阻害活性
18Gの注射針を用いて採血した健常人ボランティアの血液50mlに、1/10容になるように3.8%クエン酸ナトリウムを加え、50mlディスポーザブルチューブ(Falcon 2096)に二分した後、冷却遠心機(TOMY社製)を用いて、900rpm、15分、室温で遠心分離を行い、上清を多血小板血漿(platelet rich plasma; PRP)として回収した。さらに、下層は1500rpm、10分、室温にて遠心分離し、その上清を貧血小板血漿(platelet poor plasma; PPP)として回収した。上記のように調製したPRPを用い、測定機としてHematracer 801(二光バイオサイエンス社製)を用いて被験サンプルの血小板凝集阻害活性を測定した。予め被験サンプル(2.5−5μl)を入れた測定用の専用キュベットに100μlのPRPを加えて測定器にセットし、2分間の撹拌の後(37℃)、10倍濃度の凝集物質溶液を添加し、透過光の変化を測定した。凝集物質添加前のPRPの透過光を0%、PPPの透過光を凝集100%とし、阻害物質による凝集阻害率を、下記式によって数値化した。
凝集阻害率=
100−(阻害物質添加した際の凝集率−凝集物質添加直後の凝集率)/(コントロールの凝集率−凝集物質添加直後の凝集率)×100
【0190】
凝集惹起物質としては硫酸リストセチン(Sigma社製、終濃度1.2mg/ml)、アデノシン2リン酸(ADP)(エムシーメディカル社製、終濃度10μM)、コラーゲン(エムシーメディカル社製、終濃度10μg/ml)を用いた。
【0191】
K17427Aのそれぞれの凝集惹起物質による凝集に対する阻害活性を図12に示した。また、上記の通り計算した各濃度における、各凝集惹起物質による血小板凝集に対する凝集阻害率を表6に示した。
【表6】
【0192】
K17427Aは、500μM以上の濃度においてリストセチンによる凝集を完全に阻害したが、1mMにおいてもADP、コラーゲンによる凝集を実質的に阻害しなかった。また、K17427B、C、Dの血小板凝集に対する阻害活性は測定していないが、非常に類似の構造であること、実施例12に示したとおりグリコプロテインIbとフォンビ
ルブランド因子の結合を阻害することから、同様にリストセチン凝集のみを特異的に阻害することが容易に推定される。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明により、グリコプロテインIbとフォンビルブランド因子との結合又はその阻害を簡便に検出することができる。本発明の方法により、グリコカリシンの簡便かつ定量性に優れた定量法、およびフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合阻害物質の簡便かつ操作性に優れた測定法が提供される。
【0194】
フォンビルブランド因子をボトロセチン等の結合惹起物質の存在下で固定化することにより、液相にボトロセチンあるいはリストセチンなどの結合惹起物質を添加することなく、簡便に再現性よくフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbの結合を観察することができる。
【0195】
また、本発明のキメラ蛋白質の利用により、グリコカリシン等の結合阻害物質を検出または定量する際、モノクローナル抗体の作製や入手を必要としない。
【0196】
また本発明はグリコプロテインIbの部分蛋白質をイムノグロブリン分子のFc部分と結合させたキメラ分子(キメラ蛋白質)の動物細胞を用いた製造法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】GPIb−mIgG1Fc発現系の構築の概要を示す図である。
【図2】GPIb−mIgG2aFc発現系の構築の概要を示す図である。
【図3】ボトロセチンの量に対する固定化したフォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合量(ELISA法)を示す図である。
【図4】フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合に対する阻害物質の活性(ELISA法)を示す図である。
【図5】フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合に対する阻害物質の活性(Euラベル法)を示す図である。
【図6】ヒト血漿中のグリコカリシンの定量(ELISA法)の一例を示す図である。
【図7】ヒト血漿中のグリコカリシンの定量(Euラベル法)の一例を示す図である。
【図8】フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合に対する阻害物質の活性(液層にボトロセチンを存在させる方法)を示す図である。
【図9】フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合に対する阻害物質の活性(キメラ蛋白質を固定化する方法)を示す図である。
【図10】フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合に対する阻害物質K17427A、B、C、Dの活性(Euラベル法)を示す図である。
【図11】フォンビルブランド因子とキメラ蛋白質の結合に対する阻害物質K17427A、B、C、Dの活性(125ヨードラベル法)を示す図である。
【図12】K17427A物質の血小板リストセチン惹起凝集、およびADP、コラーゲン惹起凝集に対する阻害活性を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法において、 フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質の存在下で、フォンビルブランド因子を反応容器に固定化し、この固定化されたフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとを反応させることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質がボトロセチンもしくはリストセチン又はこれらの両者である請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの反応の際に、又は該反応に先立って、グリコカリシンを含む試料を反応容器に加えて、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合の阻害を検出し、それによってグリコカリシンを測定することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの反応の際に、又は該反応に先立って、検出対象物質を含む試料を反応容器に加えて、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合の阻害を検出し、それによってフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を阻害する物質を検出することを特徴とする方法。
【請求項1】
フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合又はこの結合の阻害を検出する方法において、 フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質の存在下で、フォンビルブランド因子を反応容器に固定化し、この固定化されたフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとを反応させることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を惹起する物質がボトロセチンもしくはリストセチン又はこれらの両者である請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの反応の際に、又は該反応に先立って、グリコカリシンを含む試料を反応容器に加えて、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合の阻害を検出し、それによってグリコカリシンを測定することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの反応の際に、又は該反応に先立って、検出対象物質を含む試料を反応容器に加えて、フォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合の阻害を検出し、それによってフォンビルブランド因子とグリコプロテインIbとの結合を阻害する物質を検出することを特徴とする方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−224684(P2008−224684A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128186(P2008−128186)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【分割の表示】特願2000−544698(P2000−544698)の分割
【原出願日】平成11年1月13日(1999.1.13)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【分割の表示】特願2000−544698(P2000−544698)の分割
【原出願日】平成11年1月13日(1999.1.13)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】
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