説明

抗赤血球抗体の検出方法

【課題】 赤血球の凝集反応を利用しないで、高感度に抗赤血球抗体を検出する方法を提供すること。
【解決手段】 抗赤血球抗体の検出方法であって、被検生物に由来する赤血球を含有する被検溶液中において、赤血球から、赤血球に結合している抗赤血球抗体を解離させ、抗体解離液を調製する第一の工程と、被検生物種に対する抗体をバインダー抗体として担体に結合させ、抗赤血球抗体検出用担体を作成する第二の工程と、第一の工程で作成された抗体解離液中の抗赤血球抗体と、第二の工程で作成された担体上のバインダー抗体とを反応させ、担体上にバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体を形成する第三の工程と、第三の工程で形成されたバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体に、被検生物種に対する検出用抗体を更に反応させて、担体上にバインダー抗体・抗赤血球抗体・検出用抗体複合体を形成する第四の工程と、第四の工程で形成された複合体の存在を検出することにより、抗体解離液中の抗赤血球抗体を検出する第五の工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗赤血球抗体の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
輸血検査の一つとして、赤血球に結合している抗体を解離し同定する試験、すなわち抗体解離試験が知られている(非特許文献1、p.67-82)。たとえば、体内の赤血球が自己抗体や不規則抗体に感作されている場合、自己抗体や不規則抗体と反応しない血球を含む血液を輸血する必要があるため、赤血球に結合している抗体を解離し同定することは、輸血検査において重要な意味を有する。抗体解離試験では、一度赤血球に結合した抗体を剥がして(解離)、解離された抗体を含有する液(解離液)と試薬赤血球とを反応させ、解離液中の抗体の有無、或いは種類を確認する。
【0003】
抗体解離試験における抗赤血球抗体の検出方法には、大別して赤血球の凝集反応を利用した凝集法と凝集反応を利用しない非凝集法がある。
【0004】
(1)赤血球の凝集反応を利用した凝集法
輸血検査における抗体検査は、古くから赤血球を試薬とする凝集法によるものが中心である。すなわち、目的の抗体と何も加工していない試薬赤血球あるいは酵素等で処理した赤血球試薬とを混合して凝集させる原理に基づく生食法、酵素法が、その簡便性から広く使われている。また、混合するだけでは凝集しない抗体は、抗グロブリン試験(考案者の名前を取ってクームス試験とも呼ばれる)で検出する手法が使われている。いずれの手法も赤血球同士の凝集の有無によって検査判定を行っている。検査判定の手法として、判定試験管内での凝集塊をアギテーションする古典的な方法から、近年、凝集塊を見やすくするための客観的判定要素を取り入れたカラム凝集法や、段差を設けたマイクロプレートを用いて判定が出来るように工夫された方法が登場してきている(特許文献1〜3)。また、インジケータ粒子やインジケータ赤血球を使用したマイクロプレート法も実施されている。(特許文献4および特許文献5)。更に赤血球の凝集反応を利用した凝集法は、連銭形成による偽陽性反応、カラム凝集法では連銭形成やフィブリンによる偽陽性反応が発生する。このように赤血球の凝集反応を利用した凝集法は、赤血球が非特異的に凝集して、偽陽性反応を呈するという問題を有する。
【0005】
これまで、赤血球の凝集反応を利用した凝集法における感度向上の取り組みは、添加物を選択することにより行われてきた。たとえば、目的の抗体と試薬赤血球との混合課程において、低イオン強度メディウムを使用するLISS法、高分子であるPEGを添加するPEG法が行われている。しかし、赤血球の凝集反応を利用した凝集法は、凝集反応である限り、EIA(Enzyme immunoassay)法のように酵素によって反応を増大させると言った取り組みが出来ない欠点がある。
【0006】
(2)非凝集法
非凝集法として、赤血球を固相してEIAで測定する方法も試みられているが、再現性の悪さが指摘されて実現していない(非特許文献2)。また、赤血球を固定してEIAで測定するELAT法も知られている(非特許文献1、p.116〜)。また、FCM法も抗体検査で使用されているが、方法の原理から数多くの検体を処理する事は出来ず大量スクリーニングに適していないという問題がある。
【0007】
また、非凝集法として、ABO血液型の解離液をELISA法で測定する方法が知られている(非特許文献3)。この文献には、抗体解離液中の抗体を直接プレートに固相して、EIAで抗体の量を測定する方法(直接ELISA法)、およびA, B抗原を固相したプレートに解離液中の抗体を結合させて、EIAで測定する方法(間接ELISA法)が述べられている。
【非特許文献1】Immunohematology Methods and Procedures, First ed., American Rod Cross National Reference Laboratory, 1993, p.67-82
【特許文献1】特公平8−7215号公報
【特許文献2】特公昭61−44268号公報
【特許文献3】特公昭63−60854号公報
【特許文献4】特開平2−151765号公報
【特許文献5】特許第02716227号明細書
【非特許文献2】Six systems for the detection of red cell antibodies, GD Poole, RG Evans et al, London, UK: Medical Device Agency Department of health, 1996
【非特許文献3】野口加寿美、奈良万平、大森毅、ABO式血液型判定用市販モノクローナル抗体を用いた酸解離方法の条件検討、鑑識化学 2004 9(1) 79-88
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、赤血球の凝集反応を利用しないで、高感度に抗赤血球抗体を検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
非特許文献3に記載の直接ELISA法は、解離液中に各種共存タンパク質が含まれる(解離液は一般に濁りを生じるほどである)ため、これらの共存タンパク質が、解離液中の目的物質である抗赤血球抗体のプレートへの固相を妨害し、反応性が極端に低下するという問題点に本発明者は着目した(後述の実施例4参照)。また、非特許文献3に記載の間接ELISA法は、合成抗原としてA、B抗原をプラスチック製マイクロプレートに固相しているが、A、B抗原は糖であるため、その固相はタンパク質の固相に比べて困難であり(蛋白質核酸酵素、別冊No.31(1987)、p.320参照)、このため感度も再現性も、タンパク質を固相した場合に比べて劣るという問題点に本発明者は着目した。
【0010】
そこで、本発明者は、抗赤血球抗体を固相するためのバインダー物質として抗体タンパク質を使用することを試みた。すなわち、本発明者は、被検生物種に対するバインダー抗体を介して、抗赤血球抗体を担体に結合させて、担体上にバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体を形成させることにより、高感度に抗赤血球抗体を検出可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の手段を提供する。
【0012】
[1]抗赤血球抗体の検出方法であって、
被検生物に由来する赤血球を含有する被検溶液中において、赤血球から、赤血球に結合している抗赤血球抗体を解離させ、抗体解離液を調製する第一の工程と、
被検生物種に対する抗体をバインダー抗体として担体に結合させ、抗赤血球抗体検出用担体を作成する第二の工程と、
第一の工程で作成された抗体解離液中の抗赤血球抗体と、第二の工程で作成された担体上のバインダー抗体とを反応させ、担体上にバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体を形成する第三の工程と、
第三の工程で形成されたバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体に、被検生物種に対する検出用抗体を更に反応させて、担体上にバインダー抗体・抗赤血球抗体・検出用抗体複合体を形成する第四の工程と、
第四の工程で形成された複合体の存在を検出することにより、抗体解離液中の抗赤血球抗体を検出する第五の工程
を含む方法。
【0013】
[2]上記[1]に記載の方法であって、
前記担体が、容器であり、
前記検出用抗体が、被検生物種に対する標識抗体であり、
前記第五の工程が、第四の工程で形成された複合体における標識抗体の存在を検出することにより、抗体解離液中の抗赤血球抗体を検出する工程である方法。
【0014】
[3]上記[1]に記載の方法であって、
前記担体が、磁性粒子であり、
前記検出用抗体が、被検生物種に対する標識抗体であり、
前記第五の工程が、第四の工程で形成された複合体における標識抗体の存在を検出することにより、抗体解離液中の抗赤血球抗体を検出する工程である方法。
【0015】
[4]上記[1]に記載の方法であって、
前記担体が、底面の少なくとも一部が斜面を形成している透明容器であり、
前記第二の工程が、被検生物種に対する抗体をバインダー抗体として透明容器の底面に固相化する工程であり、
前記検出用抗体が、凝集物の形成に寄与するインジケータ粒子を結合した抗体であり、
前記第四の工程が、バインダー抗体・抗赤血球抗体・検出用抗体複合体を凝集物として形成する工程であり、
前記第五の工程が、第四の工程で形成された複合体の凝集物の存在を検出することにより、抗体解離液中の抗赤血球抗体を検出する工程である方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法に従って、被検生物種に対するバインダー抗体を介して、抗赤血球抗体を担体に結合させて、担体上にバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体を形成させることにより、高感度に抗赤血球抗体を検出することが可能である。また、被検生物種に対するバインダー抗体を介して、抗赤血球抗体を担体に結合させることにより、担体に結合した抗赤血球抗体と非結合の抗赤血球抗体のB/F(Bind/Free)分離を容易に行うことができる。
【0017】
また、本発明の方法において、凝集反応を利用しない測定(EIA、蛍光抗体法、RIA)を採用した場合、抗体の有無を数値化することができ、自動化に適している。
【0018】
本発明の方法は、輸血検査でおこなわれる抗体解離試験、すなわち赤血球に結合している抗体を解離し、同定する試験に利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について説明するが、以下の記載は、本発明を説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。
【0020】
[第一の実施形態]
第一の実施形態において本発明の抗赤血球抗体の検出方法は、
被検生物に由来する赤血球を含有する被検溶液中において、赤血球から、赤血球に結合している抗赤血球抗体を解離させ、抗体解離液を調製する第一の工程と、
被検生物種に対する抗体(以下、バインダー抗体ともいう)を容器の内壁面に固相化し、抗赤血球抗体検出用容器を作成する第二の工程と、
第一の工程で作成された抗体解離液中の抗赤血球抗体と、第二の工程で作成された容器の内壁面上のバインダー抗体とを反応させ、容器の内壁面上にバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体を形成する第三の工程と、
第三の工程で形成されたバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体に、被検生物種に対する標識抗体を更に反応させて、容器の内壁面上にバインダー抗体・抗赤血球抗体・標識抗体複合体を形成する第四の工程と、
第四の工程で形成された複合体における標識抗体の存在を検出することにより、抗体解離液中の抗赤血球抗体を検出する第五の工程
を含む。
【0021】
本発明の方法で起こる反応の一例を模式的に図1に示す。図1において、(a)は、容器底面1にバインダー抗体2が固相化されていることを示し、(b)は、(a)のバインダー抗体2と抗体解離液中の抗赤血球抗体3とを反応させ、バインダー抗体・抗赤血球抗体複合体4が形成されたことを示し、(c)は、検出用抗体5(すなわち標識物質5bを結合した被検生物種に対する抗体5a)を更に反応させ、バインダー抗体・抗赤血球抗体・検出用抗体複合体6が形成されたことを示す。
【0022】
本発明で検出される「抗赤血球抗体」は、赤血球に結合している抗体を意味する。以下、工程順に説明する。
【0023】
第一の工程において、被検生物に由来する赤血球を含有する溶液中において、赤血球から、赤血球に結合している抗体を解離させ、抗体解離液を調製する。
【0024】
本発明において、「被検生物に由来する赤血球を含有する被検溶液」は、被検生物より採取した血液から調製したもの(赤血球含有溶液)であってもよいし、採取後の赤血球に結合している抗体をすべて剥がし、この赤血球に特定の既知の抗赤血球抗体を結合させたもの(赤血球含有溶液)であってもよい。
【0025】
第一の工程における抗体解離液の調製は、公知の手法に従って、赤血球から抗体を解離し、その後、抗体を解離した赤血球と、解離抗体を含有する抗体解離液とを分離することにより行うことができる。赤血球からの抗体の解離は、低pHでイオン結合を阻害する「酸解離」と呼ばれる手法、50〜56℃に温度を上げる「熱解離」と呼ばれる手法、抗原抗体結合部位の結合力を、表面張力の低い有機溶媒により反発作用に変化させる「DT解離」と呼ばれる手法、またはクロロキンを用いる「クロロキン解離」と呼ばれる手法により行うことができる。その後、抗体を解離した赤血球と解離抗体を含有する抗体解離液との分離は、遠心洗浄により行ってもよいし、後述の[抗体解離液の調製方法の好ましい態様]の欄で述べるとおり、赤血球を担体(磁性粒子、容器)に結合させて、遠心洗浄操作をすることなく行ってもよい。
【0026】
第二の工程において、抗赤血球抗体を容器に結合させるためのバインダーとして、被検生物種に対する抗体(バインダー抗体)を容器の内壁面に固相化する。バインダー抗体は、内壁面全体に結合させてもよいし、第五の工程で、バインダー抗体・抗赤血球抗体・検出用抗体複合体が検出可能であれば、内壁面の一部の領域に結合させてもよい。
【0027】
被検生物がヒトである場合、「バインダー抗体」として、抗ヒト免疫グロブリン、たとえば抗ヒトIgG抗体、抗ヒトIgM抗体、あるいはポリスペシフィックな抗ヒトグロブリン抗体を使用することができ、この抗体は、市販のものを使用してもよいし、ウサギやマウス等のヒト以外の動物にヒト抗原を投与することにより調製してもよい。
【0028】
第一の実施形態では、担体として容器を使用するが、本発明において担体は、磁性粒子であってもよいし(後述の第二の実施形態参照)、ガラスビーズやプラスチックビーズ、ラテックス粒子等であってもよい。ここで「容器」は、抗体を結合させることが可能な任意の容器、たとえばプラスチック、ガラス製の容器、たとえばマイクロタイタープレート、凹のあるプラスチック板カードなどを使用することができる。また「内壁面」は、底面と側面の両方であってもよいし、底面または側面の何れか一方であってもよい。
【0029】
抗体の容器内壁面への結合は、後述の実施例1に記載されるとおり行うことができ、たとえば、バインダー抗体を含有する溶液を容器に入れ、2〜8℃に冷却して60分〜8時間インキュベートし、その後洗浄して、BSA/PBS(0.1%BSA含有PBS pH 7.2)を容器に入れてバインダー抗体をブロッキングすることにより、行うことができる。
【0030】
第三の工程において、第一の工程で作成された抗体解離液中の抗赤血球抗体と、第二の工程で作成された容器の内壁面上のバインダー抗体とを反応させる。この反応により、容器の内壁面上にバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体が形成される。第三の工程は、バインダー抗体を結合させた容器に、抗体解離液を入れ、室温で10〜120分間インキュベートすることにより行うことができる。
【0031】
第四の工程において、第三の工程で形成されたバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体に、被検生物種に対する標識抗体を更に反応させて、容器の内壁面上にバインダー抗体・抗赤血球抗体・標識抗体複合体を形成する。次いで、第五の工程において、形成された複合体における標識抗体の存在を検出することにより、抗体解離液中の抗赤血球抗体を検出する。
【0032】
第一の実施形態では、被検生物種に対する標識抗体を検出用抗体として用いて抗赤血球抗体を検出するが、本発明は、これに限定されず、任意の手法で抗赤血球抗体の検出を行うことができる。たとえば、インジケータ粒子(凝集反応用粒子)に結合させた、被検生物種に対する抗体を検出用抗体として用いて、第四の工程でバインダー抗体・抗赤血球抗体・検出用抗体複合体を凝集物として形成し、この凝集物の存在を検出することにより、抗赤血球抗体の検出を行うことができる(後述の第三の実施形態参照)。
【0033】
第一の実施形態において「標識抗体」は、標識を付された、被検生物種に対する抗体であり、「標識」は、酵素標識、蛍光標識、放射性標識等の任意の検出可能な標識を使用することができる。被検生物がヒトの場合、標識抗体として、たとえばALP標識された抗ヒトIgG、IgM、ポリスペシフィックな抗ヒトグロブリン抗体を使用することができる。
【0034】
第四および第五の工程は、第三の工程を終えた容器に標識抗体を入れ、室温で10〜120分間インキュベートしたのち、未反応の標識抗体を洗浄により除去し、容器内の標識を検出することにより行うことができる。酵素標識の場合、エンザイムイムノアッセイ(EIA)により、蛍光標識の場合、蛍光抗体法により、放射性標識の場合、ラジオイムノアッセイ(RIA)により、標識の検出を行うことができる。
【0035】
検出される抗赤血球抗体には、IgG性のもの、IgM性のものがあるため、標識抗体として抗ヒトIgG抗体を使用すれば、IgG性の抗赤血球抗体のみを特異的に検出することができ、抗ヒトIgM抗体を使用すれば、IgM性の抗赤血球抗体のみを特異的に検出することができる。また、標識抗体としてIgGとIgM抗体を混合して使用すれば、IgG性およびIgM性の抗赤血球抗体の両方を検出することができる。
【0036】
第一の実施形態に従って担体として容器を使用し、容器内壁面に、被検生物種に対するバインダー抗体を介して抗赤血球抗体を結合させることにより、後述の実施例1で実証されるとおり、高感度に抗赤血球抗体を検出することができる。また、被検生物種に対するバインダー抗体を介して抗赤血球抗体を容器内壁面に結合させることにより、容器内壁面に結合した抗赤血球抗体と非結合の抗赤血球抗体のB/F(Bind/Free)分離を容易に行うことができる。
【0037】
また、本実施形態は、凝集反応を利用しない測定(EIA、蛍光抗体法、RIA)を採用しているため、抗体の有無を数値化することができ、自動化に適している。
【0038】
被検溶液として、「被検生物より採取した血液から調製した赤血球の溶液」を使用した場合、本発明の方法に従って抗赤血球抗体を検出することにより、赤血球に結合している抗体の存在を調べることができる(後述の実施例1および2参照)。また、被検溶液として、「採取後の赤血球に結合している抗体をすべて剥がし、この赤血球に特定の抗赤血球抗体を結合させたものを含有する溶液」を使用した場合、本発明の方法に従って抗赤血球抗体を検出することにより、被検溶液中の赤血球が、特定の抗赤血球抗体を結合可能なタイプの赤血球であるか否かを調べることができる(後述の実施例3参照)。
【0039】
[第二の実施形態]
第二の実施形態において本発明の抗赤血球抗体の検出方法は、
被検生物に由来する赤血球を含有する溶液中において、赤血球から、赤血球に結合している抗赤血球抗体を解離させ、抗体解離液を調製する第一の工程と、
被検生物種に対する抗体(以下、バインダー抗体ともいう)を磁性粒子に結合させ、抗赤血球抗体検出用粒子を作成する第二の工程と、
第一の工程で作成された抗体解離液中の抗赤血球抗体と、第二の工程で作成された粒子上のバインダー抗体とを反応させ、粒子上にバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体を形成する第三の工程と、
第三の工程で形成されたバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体に、被検生物種に対する標識抗体を更に反応させて、粒子上にバインダー抗体・抗赤血球抗体・標識抗体複合体を形成する第四の工程と、
第四の工程で形成された複合体における標識抗体の存在を検出することにより、抗体解離液中の抗赤血球抗体を検出する第五の工程
を含む。
【0040】
第一の実施形態では、バインダー抗体を容器の内壁面に結合させたが、第二の実施形態では、バインダー抗体を磁性粒子に結合させる。この点で第一の実施形態と第二の実施形態とは異なる。よって、第一の実施形態と異なる点のみ、以下説明する。
【0041】
「磁性粒子」としては、免疫検査等で使用される任意の磁性体封入粒子を使用することができ、たとえばゼラチンアラビアゴムコアセルベート磁性粒子、ポリスチレン等の合成樹脂で構成される粒子に磁性体を封入したものなどを使用することができ、好ましくは、後述の実施例2に記載されるゼラチンアラビアゴムコアセルベート磁性粒子を使用することができる。
【0042】
「ゼラチンアラビアゴムコアセルベート磁性粒子」は、後述の実施例2に記載のとおり、公知の手法に従って作製することができる。封入される磁性体としては、磁性体封入粒子が磁力により液体中を移動可能であれば、任意の磁性体を使用することができ、たとえば、フェリコロイド、酸化鉄(III)等を使用することができる。磁性体の封入量は、ゼラチンアラビアゴムコアセルベートの総重量に対し、たとえば0.01〜0.123重量%とすることができる。
【0043】
バインダー抗体の磁性粒子への結合は、公知の手法に従って、たとえば後述の実施例2に記載されるEDAC/NHS法や、磁性粒子と抗体を反応させて物理吸着により結合させる物理吸着法等により行うことができる。
【0044】
第三の工程において、第一の工程で作成された抗体解離液中の抗赤血球抗体と、第二の工程で作成された粒子上のバインダー抗体とを反応させる。この反応により、粒子上にバインダー抗体・抗赤血球抗体が形成される。
【0045】
第三の工程は、バインダー抗体を結合した磁性粒子の懸濁液と抗体解離液とを容器内で混合し、室温で10〜120分間インキュベートすることにより行うことができる。その後、容器の外部から磁石で磁性粒子を吸引し、第三の工程で未反応の抗赤血球抗体を、洗浄より除去することができる。
【0046】
第四の工程において、第三の工程で形成されたバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体に、被検生物種に対する標識抗体を更に反応させて、粒子上にバインダー抗体・抗赤血球抗体・標識抗体複合体を形成する。次いで、第五の工程において、形成された複合体における標識抗体の存在を検出することにより、抗体解離液中の抗赤血球抗体を検出する。
【0047】
第四および第五の工程は、第三の工程を終えた容器に標識抗体を入れ、室温で10〜120分間インキュベートしたのち、器の外部から磁石で磁性粒子を吸引し、未反応の標識抗体を洗浄により除去し、容器内の標識を検出することにより行うことができる。酵素標識の場合、エンザイムイムノアッセイ(EIA)により、蛍光標識の場合、蛍光抗体法により、放射性標識の場合、ラジオイムノアッセイ(RIA)により、標識の検出を行うことができる。
【0048】
第二の実施形態に従って担体として磁性粒子を使用し、磁性粒子に、被検生物種に対するバインダー抗体を介して抗赤血球抗体を結合させることにより、後述の実施例2で実証されるとおり、高感度に抗赤血球抗体を検出することができる。また、本実施形態も、磁石で磁性粒子を吸引することにより、磁性粒子に結合した抗赤血球抗体と非結合の抗赤血球抗体のB/F分離を容易に行うことができる。
【0049】
また、本実施形態は、凝集反応を利用しない測定(EIA、蛍光抗体法、RIA)を採用しているため、抗体の有無を数値化することができ、自動化に適している。
【0050】
[第三の実施形態]
第三の実施形態において本発明の抗赤血球抗体の検出方法は、
被検生物に由来する赤血球を含有する溶液中において、赤血球から、赤血球に結合している抗赤血球抗体を解離させ、抗体解離液を調製する第一の工程と、
被検生物種に対する抗体(以下、バインダー抗体ともいう)を、底面の少なくとも一部が斜面を形成している透明容器の底面に固相化し、抗赤血球抗体検出用容器を作成する第二の工程と、
第一の工程で作成された抗体解離液中の抗赤血球抗体と、第二の工程で作成された容器の内壁面上のバインダー抗体とを反応させ、バインダー抗体・抗赤血球抗体複合体を形成する第三の工程と、
第三の工程で形成されたバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体に、インジケータ粒子を結合した、被検生物種に対する抗体を更に反応させて、バインダー抗体・抗赤血球抗体・検出用抗体複合体を凝集物として形成する第四の工程と、
第四の工程で形成された複合体の凝集物の存在を検出することにより、抗体解離液中の抗赤血球抗体を検出する第五の工程
を含む。
【0051】
第一および第二の実施形態では、検出用抗体として、抗赤血球抗体に結合する標識抗体を使用し、標識の検出により抗赤血球抗体を検出したが、第三の実施形態では、検出用抗体として、凝集物の形成に寄与するインジケータ粒子を結合した抗体を使用し、このインジケータ粒子が、バインダー抗体・抗赤血球抗体複合体を凝集させる役目を果たすため、凝集物の存在により抗赤血球抗体の検出を行う。この点で第一および第二の実施形態と第三の実施形態とは異なる。よって、第一および第二の実施形態と異なる点のみ、以下説明する。
【0052】
「底面の少なくとも一部が斜面を形成している透明容器」は、好ましくは、底面がV底またはU底の透明容器である。一般に、凝集物が容器底面に広がった陽性反応の凝集パターンと、非凝集物が容器の最深部(底面の最下部)に沈降した陰性反応の非凝集パターンを識別可能な程度の傾斜角度を斜面は有している必要があり、たとえば水平面から10〜60°の傾斜角度を有していることが好ましい。斜面の傾斜角度は、一定であってもよいし、深部に向かうほど増大していてもよい。この容器は、容器の底面側から凝集パターンを観察可能なように透明である。たとえば、かかる透明容器は、市販のU底またはV底のマイクロプレートを使用することができる。
【0053】
第二の工程において、透明容器の底面にバインダー抗体を固相化する。バインダー抗体は、容器の底面全体に結合させてもよいし、第五の工程で、複合体の凝集物の存在を検出
可能であれば、内壁面の一部の領域に結合させてもよい。バインダー抗体を、容器の底面全体に固相化した場合、容器の底面全体に広がった陽性反応の凝集パターンを得ることができる。
【0054】
第三の工程において、容器の内壁面上のバインダー抗体に、第一の工程で作成された抗体解離液中の抗赤血球抗体を反応させ、第四の工程において、インジケータ粒子を結合した、被検生物種に対する抗体を更に反応させる。
【0055】
「インジケータ粒子」は、当該技術分野において受身凝集反応で凝集物の形成に寄与する粒子として使用されるものを使用することができる。インジケータ粒子は、凝集物の形成のみに寄与し、抗原性を有していない粒子である。インジケータ粒子として、たとえばラテックス粒子、磁性体含有ゼラチンアラビアゴムコアセルベートやポリマー粒子等を使用することができる。インジケータ粒子は、好ましくは有色粒子である。インジケータ粒子に結合させる「被検生物種に対する抗体」は、被検生物がヒトである場合、抗ヒトIgG抗体または抗ヒトIgM抗体を使用することができる。「インジケータ粒子を結合した、被検生物種に対する抗体」は、公知の手法に従って調製することができる。
【0056】
本実施の形態では、第二の工程で、透明容器の斜面にバインダー抗体を固相化し、第三の工程で、このバインダー抗体と抗体解離液中の抗赤血球抗体とを結合させ、第四の工程で、インジケータ粒子を結合した、被検生物種に対する抗体を結合させて、バインダー抗体・抗赤血球抗体・検出用抗体複合体を凝集物として形成する。ここで、抗体解離液中に抗赤血球抗体が存在する場合、凝集パターンは、凝集物が容器底面に広がった陽性パターンを示し、解離液中に抗赤血球抗体が存在しない場合、インジケータ粒子が容器の最深部(底面の最下部)に沈降した陰性パターンを示す。この凝集パターンの違いを、目視で観察することにより、抗体解離液中の抗赤血球抗体の有無を検出することができる。
【0057】
[抗体解離液の調製の好ましい態様]
好ましくは、上述の第一の実施形態から第三の実施形態において、抗体解離液を、遠心分離操作を行うことなく簡便に調製することができる。遠心分離操作を行わないで抗体解離液を調製する方法を以下に「抗体解離液の調製方法の好ましい態様1〜3」として説明する。
【0058】
1.抗体解離液の調製方法の好ましい態様1
好ましい態様1において抗体解離液の調製方法は、
(1-1)赤血球を含有する溶液中において、赤血球から、赤血球に結合している抗体を解離させる工程と、
(1-2)当該溶液中において、抗体を解離した赤血球と、レクチンを結合した磁性粒子とを混合し、赤血球・磁性粒子複合体を得る工程と、
(1-3)当該溶液中の赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として得る工程
を含む。
【0059】
以下、(1-1)〜(1-3)の工程順に説明する。
【0060】
(1-1)の工程において、赤血球に結合している抗体を赤血球から溶液中に解離させる。
【0061】
抗体の解離は、当該技術分野で公知の手法、たとえば酸解離、熱解離、クロロキン解離と呼ばれる手法により行うことができる。これらの手法については、上述の非特許文献1を参照することができる。
【0062】
抗体の解離は、後述の実施例5および6に記載されるとおり、市販の抗体解離用試薬(酸解離試薬 例えばDiaCidel(DiaMed AG製))を用いて簡便に行うことができる。たとえば、抗体解離用試薬DiaCidelと赤血球含有溶液を混合し、10〜60秒間(後述の実施例5では30秒間)撹拌することにより、赤血球に結合している抗体を赤血球から周囲の溶液中に解離させることができる。抗体解離用試薬DiaCidelを用いた手法は、低pHグリシン緩衝液を用いた酸解離法である。
【0063】
次いで(1-2)の工程において、抗体を解離した赤血球と、レクチンを結合した磁性粒子とを混合し、赤血球・磁性粒子複合体を得る。
【0064】
(1-2)の工程において、まず「レクチンを結合した磁性粒子」を調製する。
【0065】
「磁性粒子」は、免疫検査等で使用される任意の磁性体封入粒子であり、たとえばゼラチンアラビアゴムコアセルベート磁性粒子、ポリスチレン等の合成樹脂で構成される粒子に磁性体を封入したものなどが挙げられる。
【0066】
「ゼラチンアラビアゴムコアセルベート磁性粒子」は、後述の実施例5に記載のとおり、公知の手法に従って作製することができる。封入される磁性体としては、磁性体封入粒子が磁力により液体中を移動可能であれば、任意の磁性体を使用することができ、たとえば、フェリコロイド(タイホ工業(株))等を使用することができる。磁性体の封入量は、ゼラチンアラビアゴムコアセルベートの総重量に対し、たとえば0.01〜0.123重量%とすることができる。
【0067】
ゼラチンアラビアゴムコアセルベートの作製(析出)にあたり酸が添加されるが、酸の添加量に応じてコアセルベートの直径を調節することができる。ここでゼラチンアラビアゴムコアセルベート磁性粒子は、赤血球と複合体を形成し、赤血球を磁力により集めるために機能する。このため、その粒径は、0.1〜200μmであることが好ましく、1〜30μmであることがより好ましく、2〜12μmであることが更に好ましい。
【0068】
磁性粒子へのレクチンの結合は、公知の手法、たとえば後述の実施例5に記載のとおり、EDAC/NHS法で磁性粒子にレクチンを結合させることにより行うことができる。磁性粒子に結合させるレクチンとしては、好ましくは、エニシダレクチン(CSA)またはチョウセンアサガオレクチン(DSA)を使用することができる。
【0069】
(1-1)の工程で得られた「抗体を解離した赤血球」と上述の「レクチンを結合した磁性粒子」とを混合し、20〜60秒間(後述の実施例5では30秒間)撹拌して、赤血球・磁性粒子複合体を得ることができる。
【0070】
次いで(1-3)の工程において、赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として得る。
【0071】
磁力による吸引は、たとえば、赤血球・磁性粒子複合体を含有する容器の底面または側面に磁石を近づけることにより行うことができる。容器の底面または側面に磁石を近づけ、赤血球・磁性粒子複合体を、磁石を近づけた面に集めることにより、赤血球・磁性粒子複合体を除く溶液の部分を、抗体解離液として得ることができる。得られた抗体解離液を別の溶液に移し替えることにより、赤血球・磁性粒子複合体と抗体解離液とをそれぞれ別の容器に分離し、それぞれをその後の分析のために使用することができる。
【0072】
このようにレクチンを結合した磁性粒子を使用することにより、遠心分離操作をすることなく簡便に抗体解離液を得ることができる。
【0073】
2.抗体解離液の調製方法の好ましい態様2
好ましい態様2において抗体解離液の調製方法は、
(2-1)溶液中において、赤血球をレクチンを介して磁性粒子に結合させ、赤血球・磁性粒子複合体を得る工程と、
(2-2)赤血球・磁性粒子複合体から、赤血球に結合している抗体を当該溶液中に解離させる工程と、
(2-3)当該溶液中の赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として得る工程
を含む。
【0074】
好ましい態様1が(1-1)の解離工程の後に(1-2)の複合体形成工程を行うのに対し、好ましい態様2は、複合体形成工程の後に解離工程を行う点で両者は異なる。すなわち、好ましい態様2は、先に赤血球・磁性粒子複合体を形成し、その後、赤血球に結合している抗体を溶液中に解離させることにより、抗体解離液を得る。
【0075】
このように好ましい態様2に係る方法は、好ましい態様1に係る方法と工程の順序が異なる点を除けば、好ましい態様1に係る方法と同じであるため、その詳細については、好ましい態様1の説明を参照することができる。
【0076】
3.抗体解離液の調製方法の好ましい態様3
好ましい態様3において抗体解離液の調製方法は、
(3-1)溶液中において、赤血球をレクチンを介して容器の内壁面に固相化する工程と、
(3-2)固相化された赤血球から、赤血球に結合している抗体を当該溶液中に解離させ、当該溶液を抗体解離液として得る工程
を含む。
【0077】
(3-1)の工程において、溶液中において、赤血球をレクチンを介して容器の内壁面に固相化する。
【0078】
「容器」は、プラスチック、ガラス製の容器、たとえばマイクロタイタープレート、試験管型の小容器などを使用することができる。また、容器の内壁面に固相化するレクチンは、好ましくは、小麦胚芽レクチン(WGA)、エニシダレクチン(CSA)、チョウセンアサガオレクチン(DSA)、ピーナツレクチン(PNA)、またはハリエニシダレクチン(H)を使用することができる。
【0079】
レクチンを介した赤血球の固相化は、後述の実施例6に記載されるとおり行うことができ、たとえば、レクチン含有溶液を容器に入れ、2〜8℃に冷却して6〜18時間(オーバーナイト)インキュベートすることにより、容器の内壁面をレクチンでコートし、その後、レクチンコート容器に赤血球を入れて10〜30分間静置して、赤血球を固相化することができる。ここで内壁面は、底面と側面の両方であってもよいし、底面または側面のみであってもよい。
【0080】
ただし、後述の実施例6において、レクチンを介した赤血球の固相化は、血清タンパク質の存在により、阻害されることが示されているため、レクチンを介して容器の内壁面に赤血球を固相化する際には、血清タンパク質の混入を防ぐことが望ましい。具体的には、赤血球の試料をあらかじめ遠心洗浄する(生理食塩液で1〜2回洗浄する)ことにより、赤血球の試料中に血清タンパク質が混入するのを防ぐことが可能である。
【0081】
次いで(3-2)の工程において、固相化された赤血球から、赤血球に結合している抗体を溶液中に解離させる。
【0082】
抗体の解離は、上述のとおり、当該技術分野で公知の手法、たとえば酸解離、熱解離、クロロキン解離等により行うことができる。抗体を赤血球から溶液中に解離させることにより、固相化された赤血球を除く溶液の部分を、抗体解離液として得ることができる。得られた抗体解離液を別の溶液に移し替えることにより、固相化された赤血球と抗体解離液とをそれぞれ別の容器に分離し、それぞれをその後の分析のために使用することができる。
【0083】
このように赤血球を予め固相化することにより、遠心分離操作をすることなく簡便に抗体解離液を得ることができる。
【実施例】
【0084】
実施例1:担体として容器を用いた例
(1)赤血球試薬と抗体の反応
試薬赤血球(3%)OrthoセレクトジェンI、IIを等量混合した沈さ血球(以後Packセルと称する)1容量(50μL)に、陰性血清(社内保有)または抗D陽性血清(ヒト由来ポリクローナル、社内保有)の希釈系列の何れかを検体として100μL混合して、37℃で30分間反応させた。反応後、生理食塩水で遠心洗浄を5回行い、非結合の血清蛋白を除去し、感作血球を得た。
【0085】
(2)抗体の解離
抗体解離用試薬DiaMed DiaCidel(DiaMed AG製)を用いて、その能書に従って、(1)の感作血球から抗体解離液を得た。すなわち、Packセル1容量に対し、1容量の抗体解離用試薬を加え、遠心後、上清を中和液で中和して、抗体解離液を得た。
【0086】
(3)抗体解離液の抗体検出用マイクロプレートの作成
Nalge-Nunc社の平底マイクロプレートに、予め抗ヒトIgG抗体(バインダー抗体)をコートした。すなわち、Nalge-Nunc社の平底マイクロプレートに、0.1 M炭酸バッファーで10μg/mlに希釈した抗ヒトIgG抗体(Jackson社)を50μl/well分注して、冷蔵オーバーナイトでインキュベートし、その後、生理食塩水で洗浄し、BSA/PBS 50μlを分注してブロッキングした。
【0087】
(4)抗体解離液中の抗体の検出
(3)で作成したマイクロプレートに、(2)の抗体解離液50μlを分注した。その後、tween20添加生理食塩水で5回洗浄して、ALP標識抗ヒトIgG抗体(Jackson)(検出用抗体)を1000倍希釈したものを添加して、10分間反応させた。その後、洗浄して、基質液を添加し、10分間発色させ、NaOHで反応停止後、405 nmにおける吸光度(OD405)を測定した。また、抗体をDiaMed社のAHGカードで試験し、希釈感度を求めた。その結果を以下の表に示す。
【表1】

【0088】
容器にバインダー抗体を介して抗赤血球抗体である抗D抗体を結合させて、容器上にバインダー抗体・抗D抗体複合体を形成させることにより、抗体解離液中の抗D抗体を検出することができた。
【0089】
実施例2:担体として磁性粒子を用いた例
(1)磁性粒子の合成
4.2 gのアラビアゴム(仙波糖化工業)を40%EtOH:H2O(2:1)480 mlに溶かし、更に10% Tween20 1.4 ml、フェリコロイドW10(タイホー工業)2.0 mlを添加し、1N NaOHでpHを10以上にしたのち、40℃に加温した4%ゼラチン水溶液(ニッピ工業)70mlを混合する。撹拌しながら、0.2N酢酸をゆっくり添加し、コアセルベートを作製する。予め求めたpHにおいて酢酸添加を中止して、7μm径の磁性体粒子を作製した。コアセルベートが形成されたら、氷水の入ったバットにて撹拌して10℃以下に冷却し、ゲル化した。その後、グルタルアルデヒド(和光純薬製)を14ml加え、そのまま30分間撹拌した後、室温で一晩静置して、コアセルベート(磁性粒子)を架橋した。
【0090】
(2)磁性粒子への抗ヒトIgG抗体の結合(感作)
架橋した各コアセルベートは、純水で洗浄後、20%(V/V)に調整した。その10 mlを分取して、沈さに10 mlのN−ヒドロキシスクシンイミド(ナカライテスク(株))0.01g/mlとEDAC(Sigma Chemical)0.01g/mlを含む水溶液を加え、攪拌しながら室温で2時間反応させた(第一反応)。反応後、コアセルベートを遠心洗浄し、ウサギ抗ヒトIgG(Jackson)(バインダー抗体)を0.01M PBS(pH 7.2)に10μg/mlになるように溶解したものを加えて、室温で一晩反応させた(第二反応)。反応後、BSA/PBS(0.1%BSA含PBS pH 7.2)で3回洗浄して、ウサギ抗ヒトIgG感作粒子とした。
【0091】
(3)抗体解離液中の抗体の検出
実施例1の抗D陽性血清(1倍希釈)を反応させた試薬赤血球から得た抗体解離液と、陰性血清を反応させた試薬赤血球から得た抗体解離液それぞれ50μlに、(2)で得た10(V/V)%濃度のウサギ抗ヒトIgG感作粒子を混合した。30分間反応させた後、磁石で粒子を吸引してB/F分離を行い、洗浄した。その後、AFP標識抗ヒトIgG抗体(Jackson)(検出用抗体)を反応させて、B/F洗浄後、発色させた。その結果を以下の表に示す。
【表2】

【0092】
磁性粒子にバインダー抗体を介して抗赤血球抗体である抗D抗体を結合させて、磁性粒子上にバインダー抗体・抗D抗体複合体を形成させることにより、抗体解離液中の抗D抗体を検出することができた。
【0093】
実施例3:抗赤血球抗体の検出による血液型タイピング
Ortho社アファーマジェンのA、Bの各血球試薬(Packセル)10μlに、マウスIgM型抗Aモノクローナル抗体(ARP社/コスモバイオ)を1滴加え、遠心洗浄した。その後、実施例1の(2)と同様に、抗体解離用試薬を加え、抗体解離液を得た。
【0094】
実施例1の(3)の抗ヒトIgG抗体の代わりに、抗マウスIgM+IgGモノクローナル抗体(バインダー抗体)を用いて、抗マウスモノクローナル抗体結合マイクロプレートを作成した。
【0095】
抗マウスモノクローナル抗体結合マイクロプレートに抗体解離液を加えて、実施例1の(4)と同様に発色させた。検出用抗体として、AFP標識抗マウスIgG抗体(コスモバイオ)を使用した。その結果を以下の表に示す。
【表3】

【0096】
IgM型抗Aモノクローナル抗体と反応させたA型の試薬赤血球を用いたサンプルでは、抗体解離液中に抗A抗体を検出することができた。一方、IgM型抗Aモノクローナル抗体と反応させたB型の試薬赤血球を用いたサンプルでは、抗体解離液中に抗A抗体を検出することはできなかった。したがって、本発明の方法により、抗赤血球抗体としてモノクローナル抗体を使用して血液型タイピングが可能である。すなわち、本発明の方法に従って抗赤血球抗体を検出することにより、被検溶液中の赤血球が、特定の抗赤血球抗体を結合可能なタイプの赤血球であるか否かを調べることが可能である。
【0097】
実施例4:従来技術との対比
本実施例では、背景技術に記載の非特許文献3(野口加寿美、奈良万平、大森毅、ABO式血液型判定用市販モノクローナル抗体を用いた酸解離方法の条件検討、鑑識化学 2004 9(1) 79-88)との比較を行った。
【0098】
(1)抗ヒトIgG固相プレートの作成
平底EIAマイクロプレートウェル(maxii-sorp) に抗ヒトIgG抗体(Jackson)(バインダー抗体)を10μg/mLに炭酸バッファーで希釈して分注して、オーバーナイトインキュベートした。その後、生理食塩水で2回洗浄して、BSA/PSA 100μL分注し、30分間ブロッキングを行った。精製水で洗浄して、抗ヒトIgG固相プレートとした。
【0099】
(2)抗体解離液の調製
IgG抗体感作血球:Coombs IgG血球(DiaMed社)と、IgG抗体非感作血球:O型ヒト血球(DiaMede社)を用意して、DiaCidel(DiaMed)を使用して解離液を添付文書に従い調製した。すなわち、Coombs IgG血球(DiaMed社)とO型ヒト血球(DiaMede社)を用意して、血球300μLに300μLの抗体解離用試薬を添加し、解離溶液をキット添付のBuffer solutionで中和し、遠心して、上清を分取して抗体解離液とした。
【0100】
(3)抗体解離液中の抗体の検出
(1)で作成した抗ヒトIgG固相プレート(本発明の例)と、抗体を固相していない平底EIAマイクロプレートウェル(maxii-sorp)(比較例)の2種類のプレートに、(2)の抗体解離液をそれぞれ分注し、30分間インキュベートした。生理食塩水で5回洗浄後、抗ヒトIgGアルカリフォスファターゼ標識抗体(ROCKLAND製)を分注して30分間インキュベートした。その後、生理食塩水で洗浄し、pNPP基質液を分注し、15分間発色の後、1N NaOHを添加して反応を停止した。マイクロプレートリーダーでOD405nmを測定した。その結果を以下の表に示す。
【表4】

【0101】
表に示したように抗ヒトIgG固相プレートを使用することで、固相しないものに比べて高感度に解離液中の抗体を検出できた。
【0102】
実施例5:抗体解離液の調製例1
(1)赤血球結合用磁性粒子の作成
コアセルベートの主要構成材料のゼラチンS1757はニッピ工業、アラビアゴムは仙波糖化工業より入手した。エタノール、1N NaOH、1N酢酸、グルタルアルデヒド、Tween20は和光純薬製を使用した。コアセルベートは、撹拌機で600rpmで撹拌を行い、合成した。
【0103】
0.6 gのアラビアゴムをEtOH:H2O(2:1)69 mlに溶かし、更に10% Tween20 0.2 ml、フェリコロイドW10(タイホー工業)0.1 mlを添加し、1N NaOHでpHを10〜11に調整したのち、40℃に加温した4%ゼラチン水溶液(ニッピ工業)10 mlを混合した。撹拌しながら、0.2 N酢酸をゆっくり添加し、コアセルベートを作製した。予め求めたpH 5において酢酸添加を中止して、目的径約10μmの磁性体粒子を作製した。コアセルベートが形成されたら、氷水の入ったバットにて撹拌して10℃以下に冷却し、ゲル化した。その後、グルタルアルデヒドを2 ml加え、そのまま30分間撹拌し、室温で一晩静置して、コアセルベート(磁性体粒子)を架橋した。
【0104】
このようにして磁性体封入ゼラチンアラビアゴムコアセルベートを作成した。
【0105】
次いで、磁性体封入ゼラチンアラビアゴムコアセルベートに、バインダー物質としてチョウセンアサガオレクチン(DSA)を結合し、レクチン結合磁性粒子を作成した。
【0106】
架橋したコアセルベートは、純水で洗浄後、20%(V/V)に調整した。その10mLを分取して、沈さに10mLのN−ヒドロキシスクシンイミド(ナカライテスク(株))0.01g/mLとEDAC(Sigma Chemical)0.01g/mL水溶液を加え、攪拌しながら室温で2時間反応させた。反応後、コアセルベートを洗浄し、DSA(Jオイルミルズ製)を0.01M MES pH 5に10μg/mLになるように溶解したものを加えて、室温で一晩反応させた。反応後はBSA/PBS(0.1%BSA含PBS pH7.2)で3回洗浄して、BSAでブロッキングを行い、0.1%BSA含PBS pH7.2に10%(V/V)濃度で浮遊させた。
【0107】
(2)赤血球結合用磁性粒子による赤血球の捕捉確認
(1)で作成した5%(V/V)濃度の赤血球結合用磁性粒子の浮遊液(25μL)に、O、AまたはB型の赤血球3%浮遊液1滴(50μL)(試薬血球Ortho社セレクトジェン、アファーマジェン)を加えて、時計皿上で撹拌した。3分後に血球凝集を目視観察した。
【0108】
赤血球結合用磁性粒子のバインダー物質として、チョウセンアサガオレクチン(DSA)の代わりに種々のバインダー物質を用いて実験を行った。その結果を表5に示す。
【表5】

【0109】
表5において、0、+、++、及び+++とある表示は、図2に示すような凝集状態を表すものとする。図2は、時計皿全体の様子とその一部を拡大した様子を模式的に示す。即ち、(a)“0”は磁性粒子と赤血球が反応しない状態を表す。(b)“+”は、磁性粒子と赤血球が弱く凝集し、細かい凝集を生じた状態を表す。(c)“++”は、磁性粒子と赤血球が強く凝集し、比較的大きな凝集を生じた状態を表す。(d)“+++”は、磁性粒子と赤血球が強く凝集し、大きい凝集塊を生じた状態を表す。
【0110】
表5に示したように、磁性粒子に固定化した状態で赤血球を凝集させる能力を有するバインダー物質として、エニシダレクチン(CSA)及びチョウセンアサガオレクチン(DSA)が有効であることがわかった。特にDSAの凝集力が強く、最も好適に用いられることが示された。そのほかのバインダー物質、WGA、PNA、Hレクチンは、プレートに固相化した状態では結合能を有するにもかかわらず(下記表6参照)、磁性粒子に固定化した状態では結合能を示さなかった。
【0111】
更に、ドナー由来の血漿が混入した状態において、赤血球結合用磁性粒子が赤血球を凝集する能力を測定した。
【0112】
上記と同じ方法を用いて、血清が25%混入した状態における赤血球凝集力を観察した。O型ドナー赤血球を使用した。この結果も併せて表5に示す。O、AまたはB型の赤血球に対して凝集力を有したバインダー物質は、血漿成分の混入があっても同様に赤血球を凝集できることが確認された。
【0113】
以上の結果から、赤血球を結合するための磁性粒子に用いることができるバインダー物質は、エニシダレクチン(CSA)及びチョウセンアサガオレクチン(DSA)であることが明らかになった。従って、赤血球結合用磁性粒子としては、ゼラチンアラビアゴムコアセルベートを担体とする磁性粒子に、エニシダレクチン(CSA)及びチョウセンアサガオレクチン(DSA)から選択されるバインダー物質が固定化されたものが好適に用いられる。
【0114】
(3)抗体解離液の調製
(3−1)好ましい態様1の例
抗体解離用試薬DiaCidel(DiaMed AG製)の酸溶液1滴(50μL)と、抗D感作赤血球(3%)(自家調整;O型 Rh(+)血球に抗Dポリクローナル抗体を感作)1滴(50μL)を混合し、30秒間撹拌した。これにより赤血球に結合している抗体を解離させた。そこに(1)で作成した赤血球結合用磁性粒子5 v/v %(25μL)を加えて、撹拌し、磁石を近づけた。その結果、酸溶液中でも赤血球が凝集し、磁石で捕捉できることが確認された。磁石で赤血球・磁性粒子複合体を捕捉し、残りの液体部分を抗体解離液として得た。
【0115】
(3−2)好ましい態様2の例
(3−1)と同様に、抗D感作赤血球(3%)1滴(50μL)と、(1)で作成した赤血球結合用磁性粒子5 v/v %(25μL)を混合し、30秒間撹拌し、先に赤血球・磁性粒子複合体を形成した。そこに抗体解離用試薬DiaCidel(DiaMed AG製)の酸溶液1滴(50μL)を加えて、撹拌し、磁石を近づけた。酸溶液の添加により赤血球に結合している抗体を解離させ、磁石で赤血球・磁性粒子複合体を捕捉し、これにより、残りの液体部分を抗体解離液として得た。
【0116】
このように先に赤血球・磁性粒子複合体を形成し、その後、赤血球に結合している抗体を解離させる順序でも、赤血球・磁性粒子複合体を磁石で捕捉できることが確認された。
【0117】
(4)抗体解離液のアッセイ
(3−1)で得られた抗体解離液および(3−2)で得られた抗体解離液をそれぞれ、DiaCidel(DiaMed AG製)の中和溶液で中和した。その後、その25μLを検体として、DiaMed社AHGカードとID DiaCell I,IIで抗体の検出を行った。その結果、抗体解離液中に抗D抗体を認めた。
【0118】
以上より、実施例5の方法(抗体解離液の調製方法の好ましい態様1および2に相当する)を用いて、抗体を解離した赤血球と、解離抗体を含有する抗体解離液とを遠心洗浄を行うことなく分離できることが証明された。
【0119】
実施例6:抗体解離液の調製例2
(1)赤血球固相用プレートの作成
Nalge-Nunc社の平底マイクロプレートに予めWGA(小麦胚芽レクチン)をコートしたプレートを作成した。すなわち、Nalge-Nunc社の平底マイクロプレートに、0.1Mの炭酸バッファーで10μg/mLに希釈したWGA(ホーネンコーポレーション)を50μL/well分注して、冷蔵オーバーナイトインキュベート後、生理食塩水で洗浄し、BSA/PBS 50μLを分注してブロッキングした。
【0120】
(2)赤血球固相用プレートによる赤血球の捕捉確認
(1)で作成した赤血球固相用プレートに、試薬赤血球(Ortho社サージスクリーンI)1滴(3%、50μL/well)を分注して、10分間放置後、生理食塩水で3回洗浄して、血球結合を観察した(この結果は、下記表6において「タンパクフリー」の場合の結果として示される)。また、AB型血清5%を添加した3%赤血球(50μL/well)を分注して、血清蛋白存在下での血球結合も試みた(この結果は、下記表6において「タンパク存在下」の場合の結果として示される)。
【0121】
赤血球固相用プレートのバインダー物質として、WGA(小麦胚芽レクチン)の代わりに種々のバインダー物質を用いて実験を行った。血球結合の結果を、以下の表6に示す。
【表6】

【0122】
表6に示されるとおり、プレートに固相化された状態で赤血球を結合する能力を有するバインダー物質として、小麦胚芽レクチン、エニシダレクチン、チョウセンアサガオレクチン、ピーナツレクチン、ハリエニシダレクチンが有効であることがわかった。
【0123】
しかし、上述のバインダー物質を使用した場合であっても、血清蛋白存在下では、血清タンパク質の存在により赤血球の結合が阻害された。
【0124】
以上の結果から、赤血球を固相化するためのプレートに用いることができるバインダー物質は、小麦胚芽レクチン、エニシダレクチン、チョウセンアサガオレクチン、ピーナツレクチン、ハリエニシダレクチンであることが明らかになった。従って、赤血球固相用プレートとしては、プレートに小麦胚芽レクチン、エニシダレクチン、チョウセンアサガオレクチン、ピーナツレクチン、ハリエニシダレクチンから選択されるバインダー物質が固相化されたものが好適に用いられる。
【0125】
ただし、血清蛋白存在下では、上記バインダー物質を介した赤血球の固相化が妨害されるため、上記バインダー物質を介して容器の内壁面に赤血球を固相化する際には、血清タンパク質の混入を防ぐことが望ましい。
【0126】
(3)抗体解離液の調製
D陽性O型赤血球(自家調整;Ortho社サージスクリーンIに抗D血清を感作した)を0.8%に希釈し、(1)で作成したマイクロプレートに分注後、10分放置して生理食塩水で洗浄して、赤血球固相プレートを得た。ここに、抗D血清を50μL添加し、15分間反応させたあと、マイクロプレートウォッシャーを使用し、生理食塩水で5回洗浄した。洗浄後、抗体解離用試薬DiaCidel(DiaMed AG製)を25μL加えて30秒間放置後、固相化された赤血球を除く溶液の部分を、抗体解離液として得た。
【0127】
(4)抗体解離液の反応性の確認
(2)で得た抗体解離液25μlをDiaCidel(DiaMed AG製)の中和溶液で中和した。その後、その25μLを検体としてDiaMed社AHGカードとID DiaCell I,IIで抗体の検出を行った。その結果、抗体解離液中に抗D抗体を認めた。
【0128】
以上より、実施例6の方法(抗体解離液の調製方法の好ましい態様3に相当する)を用いて、抗体を解離した赤血球と、解離抗体を含有する抗体解離液とを遠心洗浄を行うことなく分離できることが証明された。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の方法で起こる反応の一例を示す模式図。
【図2】レクチンを結合した磁性粒子による赤血球の凝集状態を表す図。
【符号の説明】
【0130】
1・・・容器底面、2・・・バインダー抗体、3・・・抗赤血球抗体、4・・・バインダー抗体・抗赤血球抗体複合体、5・・・検出用抗体、5a・・・被検生物種に対する抗体、5b・・・標識物質、6・・・バインダー抗体・抗赤血球抗体・検出用抗体複合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗赤血球抗体の検出方法であって、
被検生物に由来する赤血球を含有する被検溶液中において、赤血球から、赤血球に結合している抗赤血球抗体を解離させ、抗体解離液を調製する第一の工程と、
被検生物種に対する抗体をバインダー抗体として担体に結合させ、抗赤血球抗体検出用担体を作成する第二の工程と、
第一の工程で作成された抗体解離液中の抗赤血球抗体と、第二の工程で作成された担体上のバインダー抗体とを反応させ、担体上にバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体を形成する第三の工程と、
第三の工程で形成されたバインダー抗体・抗赤血球抗体複合体に、被検生物種に対する検出用抗体を更に反応させて、担体上にバインダー抗体・抗赤血球抗体・検出用抗体複合体を形成する第四の工程と、
第四の工程で形成された複合体の存在を検出することにより、抗体解離液中の抗赤血球抗体を検出する第五の工程
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記担体が、容器であり、
前記検出用抗体が、被検生物種に対する標識抗体であり、
前記第五の工程が、第四の工程で形成された複合体における標識抗体の存在を検出することにより、抗体解離液中の抗赤血球抗体を検出する工程である方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
前記担体が、磁性粒子であり、
前記検出用抗体が、被検生物種に対する標識抗体であり、
前記第五の工程が、第四の工程で形成された複合体における標識抗体の存在を検出することにより、抗体解離液中の抗赤血球抗体を検出する工程である方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記担体が、底面の少なくとも一部が斜面を形成している透明容器であり、
前記第二の工程が、被検生物種に対する抗体をバインダー抗体として透明容器の底面に固相化する工程であり、
前記検出用抗体が、凝集物の形成に寄与するインジケータ粒子を結合した抗体であり、
前記第四の工程が、バインダー抗体・抗赤血球抗体・検出用抗体複合体を凝集物として形成する工程であり、
前記第五の工程が、第四の工程で形成された複合体の凝集物の存在を検出することにより、抗体解離液中の抗赤血球抗体を検出する工程である方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の方法であって、前記第一の工程が、以下の(A1)〜(A3)の工程からなる方法:
(A1)被検生物に由来する赤血球を含有する溶液中において、赤血球に結合している抗体を赤血球から解離させる工程と、
(A2)当該溶液中において、抗体を解離された赤血球と、レクチンを結合した磁性粒子とを混合し、赤血球・磁性粒子複合体を得る工程と、
(A3)当該溶液中の赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として得る工程。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか1項に記載の方法であって、前記第一の工程が、以下の(B1)〜(B3)の工程からなる方法:
(B1)被検生物に由来する赤血球を含有する溶液中において、赤血球をレクチンを介して磁性粒子に結合させ、赤血球・磁性粒子複合体を得る工程と、
(B2)赤血球・磁性粒子複合体から、赤血球に結合している抗体を当該溶液中に解離させる工程と、
(B3)当該溶液中の赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として得る工程。
【請求項7】
請求項1〜4の何れか1項に記載の方法であって、前記第一の工程が、以下の(C1)〜(C2)の工程からなる方法:
(C1)被検生物に由来する赤血球を含有する溶液中において、赤血球をレクチンを介して容器の内壁面に固相化する工程と、
(C2)固相化された赤血球から、赤血球に結合している抗体を当該溶液中に解離させ、当該溶液を抗体解離液として得る工程。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−78374(P2010−78374A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244765(P2008−244765)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)