説明

抜け止めワッシャ

【課題】締結部材の挿入に際して十分な可撓性を有する抜け止めワッシャを提供する。
【解決手段】 抜け止めワッシャ1は、好ましくは金属の薄い板状部材によって形成され、第1面11と、第1面11の反対側の第2面12とを有し、円形の外周13と、その内側であって第1面11から第2面12へと貫通する円形の軸孔14と、軸孔14から径方向外側、すなわち外周13側へと放射状に延びる複数のスリット15とを含む。スリット15の外周13側に位置する終端15aには、円形の端末孔16が形成されている。端末孔16の直径は、スリット15の周方向の離間寸法よりも大きくされている。軸孔14には、第1面11から第2面12へと傾斜するように傾斜部17が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ネジ等の締結部材が被締結部材のパネル等から脱落するのを防止する抜け止めワッシャに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ネジの脱落を防止する抜け止め部材として、ネジにはめ込まれる抜け止めワッシャが知られている。例えば、特許文献1によれば、抜け止めワッシャは、その中心の貫通孔によって形成されたネジに挿入するための嵌め込み部と、嵌め込み部から放射状に延びるスリット部とを有する。ネジからワッシャが外れないように、嵌め込み部の直径はネジの直径以下とし、嵌め込み部から延びるスリット部を形成することによって、ワッシャに可撓性を付与し、嵌め込み部をネジに挿入することができ、かつ、ネジからワッシャが外れないようにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−50236号公報(JP2001−50236A)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような抜け止めワッシャにおいて、嵌め込み部における可撓性を大きくするには、スリット部を長くすればよいが、ワッシャの大きさによって限界があり、またスリット部は嵌め込み部から放射状に延びるように形成されているから、その終端では、隣接するスリット部との離間距離が大きくなって十分な可撓性が得られないという問題があった。
【0005】
この発明は、締結部材の挿入に際して十分な可撓性を有する抜け止めワッシャを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、第1面および前記第1面とは反対側の第2面と、前記第1面から前記第2面へと貫通する軸孔と、前記軸孔から外周に向かう径方向および前記径方向に交差する周方向と、前記軸孔から前記径方向外側に延びる複数のスリットとを含む抜け止めワッシャの改良にかかわる。
【0007】
この発明は、前記抜け止めワッシャにおいて、前記スリットの前記径方向外側に位置する終端には、前記スリットの前記周方向の離間寸法よりも大きい寸法を有するとともに、前記第1面から前記第2面へと貫通する端末孔が形成されることを特徴とする。
【0008】
この発明の実施態様のひとつとして、前記軸孔は、前記第1面から前記第2面に向かって傾斜する傾斜部に位置される。
【0009】
他の実施態様のひとつとして、前記端末孔は、円形または長円形を有する。
【0010】
他の実施態様のひとつとして、前記軸孔には、締結部材の軸部が挿入され、前記軸孔の直径は、前記軸部の直径よりも小さくされる。
【0011】
他の実施態様のひとつとして、前記軸部には、ネジ山部およびネジ谷部が形成され、前記軸孔の直径は、前記ネジ山部によって形成された外径および前記ネジ谷部によって形成された内径よりも小さい。
【0012】
他の実施態様のひとつとして、抜け止めワッシャは、金属材料から形成されている。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、放射状に延びるスリットの終端に、隣接するスリット間の離間距離を小さくする端末孔を形成することとしたので、これが形成されない場合に比べて、スリットによって囲まれた領域の可撓性を大きくすることができる。したがって、抜け止めワッシャに締結部材を挿入する際には、容易に挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】抜け止めワッシャの使用状態の説明図。
【図2】抜け止めワッシャの斜視図。
【図3】抜け止めワッシャの平面図。
【図4】図3のIV−IV線断面図。
【図5】抜け止めワッシャの使用状態の一部断面図。
【図6】(a)比較例1の抜け止めワッシャの平面図。(b)図6(a)の側面図。
【図7】(a)比較例2の抜け止めワッシャの平面図。(b)図7(a)の側面図。
【図8】挿入力の試験方法の説明図。
【図9】抜去力の試験方法の説明図。
【図10】抜け止めワッシャの他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜5は、この発明の実施形態の一例である抜け止めワッシャ1を示したものである。図1は抜け止めワッシャ1の使用状態の説明図、図2は抜け止めワッシャ1の斜視図、図3は抜け止めワッシャの平面図、図4は図3のIV−IV線断面図、図5は抜け止めワッシャ1の使用状態を示す図の一部断面図である。
【0016】
抜け止めワッシャ1は、好ましくは金属の薄い板状部材によって形成され、第1面11と、第1面11の反対側の第2面12とを有する。抜け止めワッシャ1は、被締結部材であるパネル2を介して締結部材であるネジ3に挿入され、ネジ3によってパネル2が、筐体本体4に固定される。パネル2には、ネジ3の軸部31が挿入可能な開孔21が形成され、筐体本体4には、ネジ溝41が形成され、ネジ3が螺合可能とされている。
【0017】
抜け止めワッシャ1は、円形の外周13と、その内側であって第1面11から第2面12へと貫通する円形の軸孔14と、軸孔14から径方向外側、すなわち外周13側へと放射状に延びる複数のスリット15とを含む。この実施形態においてスリット15は点対称に6本形成されている。スリット15の外周13側に位置する終端15aには、円形の端末孔16が形成されている。端末孔16の直径A1は、スリット15の周方向の離間寸法A2よりも大きくされている。スリット15は、放射状に延びているから、終端15aに向かって隣接するスリット15間の離間寸法が大きくなるが、端末孔16が形成された部分では、その離間寸法が小さくされる。
【0018】
上記のような抜け止めワッシャ1は、スリット15と隣接する端末孔16を結ぶ仮想線18によってほぼ扇状の可撓領域19が区画され、仮想線18を基端として第1面11または第2面12に向かって変形する可撓領域19が可撓性(バネ性)を有する。抜け止めワッシャ1は、端末孔16を形成しない場合に比べて、端末孔16を形成した場合には、変形の基端となる周方向の離間寸法が小さくなるので、その分、可撓領域19の可撓性を大きくすることができる。
【0019】
軸孔14には、第1面11から第2面12へと傾斜するように傾斜部17が形成されている。軸孔14の直径A3は、ネジ3の頭部32の直径D1よりも小さく、軸部31のネジ山部33によって形成される外径D2、および、ネジ谷部34によって形成される内径D3よりも小さくされている(図3〜5参照)。したがって、この軸部31に抜け止めワッシャ1を挿入した際には、抜け止めワッシャ1の可撓領域19が第2面12に向かって撓んで変形する。特に、ネジ山部33を越えるときには、その変形量は大きくなる。また、軸孔14には挿入方向に沿ってその径が小さくなるように傾斜部17が形成されているから、第1面11から第2面12に向かって軸部31が挿入される場合には、抜け止めワッシャ1が撓みやすく、挿入しやすい。軸部31に挿入された抜け止めワッシャ1をはずそうとした場合には、ネジ山部33に軸孔14が引っかかり、抜けにくい。この実施形態では、軸孔14の直径A3は、軸部31の外径D2および内径D3よりも小さくしているが、少なくとも外径D2よりも小さければよい。
【0020】
ネジ3の軸部31には、パネル2を介して抜け止めワッシャ1が取り付けられているから、ネジ3を筐体本体4に取り付ける前後において、ネジ3がパネル2から抜け落ちるのを防止することができる。また、抜け止めワッシャ1によってパネル2にネジ3が固定されている状態で、ネジ3の頭部32を掴んで、パネル2ごと持ち上げたり、引っ張ったりすることがあるが、このように持ち上げたりしても、抜け止めワッシャ1が外れ難いので、不用意にパネル2とネジ3とが外れてしまうことがない。さらに、ネジ3の頭部32にパネル2を接触させて抜け止めワッシャ1を軸部31に取り付けた場合には、ネジ3とパネル2との間のがたつきを防止することができ、この取付状態を安定的に維持することができる。
【0021】
<実施例>
スリットの終端に端末孔を形成しない比較例1〜3と、端末孔が形成されたこの発明の実施例とにおいて、抜け止めワッシャの軸孔に対するネジの挿入力および抜去力を測定した。この発明の実施例では、図3に示したように、端末孔16の直径A1は1.5mm、軸孔14の直径A3が4.7mm、外周13の直径A4が16.0mm、スリット15の長さA5が6.0mmである。スリット15の長さA5は、抜け止めワッシャ1の中心Oから端末孔16の中心oまでの距離である。スリット15の周方向の離間寸法A2は、スリット15を形成するための刃の厚さとほぼ同じ寸法、または線状の切れ込みであり、ほぼゼロに近い。図4に示したように、第1面11から第2面12までの厚さA6が0.4mm、第1面11から傾斜部17を介して軸孔14までの厚さA7が1.4mmである。
【0022】
図6(a)は比較例1における抜け止めワッシャ100の平面図、図6(b)は(a)の側面図である。比較例1では、スリット115の周方向の離間寸法B2が0.8mm、軸孔114の直径B3が4.7mm、外径113の直径B4が15.8mm、スリット115の長さB5が6.4mmである。スリット115の長さB5は、抜け止めワッシャ100の中心Oからスリット115の終端までの距離である。第1面111から第2面112までの厚さB6が0.4mm、第1面111から軸孔114までの厚さB7が1.4mmである。
【0023】
図7(a)は比較例2における抜け止めワッシャ200の平面図、図7(b)は(a)の側面図である。比較例2では、軸孔214の直径C3が4.7mm、外周123の直径C4が16.0mm、スリット215の長さC5が6.0mmである。スリット215の長さC5は、抜け止めワッシャ200の中心Oからその終端までの距離である。スリット215の周方向の離間寸法C2は、スリット215を形成するための刃の厚さとほぼ同じ寸法、または線状の切れ込みであり、ほぼゼロに近い。第1面211から第2面212までの厚さC6が0.4mm、第1面211から軸孔214までの厚さC7が1.4mmである。
【0024】
比較例3における抜け止めワッシャ300は、その構成が比較例2とほぼ同様なので、図7(a)(b)を用いて説明する。比較例3は、軸孔314の直径D3が4.9mm、スリット315の長さD5が6.0mmである。第1面311から第2面312までの厚さD6が0.4mm、第1面311から軸孔314までの厚さD7が1.5mm、その他の寸法は、比較例2と同じである。
【0025】
挿入力および抜去力は、島津精密万能試験機「島津オートグラフAG−X」(株式会社島津製作所)を用いて測定した。挿入力は、図8に示す方法によって測定した。具体的には、固定板50に、抜け止めワッシャ1の外周の直径よりも小さく、軸孔14の直径よりも大きい径の孔51を形成し、この孔51に抜け止めワッシャ1の傾斜部17が一致するように載置する。図の上下に移動可能な押し治具60に、ネジ3の頭部32を当接し、この押し治具60を矢印で示した下方に移動させて、軸部31を軸孔14に挿入する。移動速度は、10mm/分、移動距離は10mmとした。このときの最大点荷重を挿入力(N)とした。ネジ3の軸部31の外径D2は6.0mm、内径D3は4.917mmである。
【0026】
抜去力は、図9に示す方法によって測定した。具体的には、固定板50を介してネジ3と抜け止めワッシャ1を係合し、ネジ3の頭部32を図面上下に移動可能な抜き取り治具70に固定する。固定板50に形成された孔51は、軸部31の外径よりも大きく、ネジ止め部材1の外周よりも小さい径を有する。この抜き取り治具70を矢印で示した上方に移動させて、抜け止めワッシャ1の軸孔14からネジ3を抜去する。このときの最大点荷重を抜去力(N)とした。抜き取り治具70の移動速度は、10mm/分、移動距離は13mmとした。ネジ3の寸法は、挿入力に用いたものと同じである。また、比較例1〜3の抜け止めワッシャについてもこれら試験をおこなった。
【0027】
挿入力および抜去力の測定結果を、表1に示している。挿入力において、実施例は、比較例2および3に比べて約1/2と顕著に小さく、また、比較例1と同等であった。比較例1は、そのスリットの周方向の離間寸法が実施例および比較例2,3よりも大きいが、比較例2および3は実施例と同じである。そうすると、スリットの周方向の離間寸法が大きいほど、軸孔に容易にネジを挿入可能であることが推察される。すなわち、スリットの周方向の離間寸法が大きいほど、可撓領域の基端の長さが短くなるから、可撓領域の可撓性が向上し、軸孔に容易にネジを挿入することができるものと推察される。
【0028】
抜去力において、実施例は、比較例2および3の約68〜75%とやや小さいが、比較例1に比べて約2倍と顕著に大きかった。そうすると、比較例1から、挿入力を小さくして挿入し易くするためにスリットの周方向の離間寸法を大きくすると、抜去力も小さくなって抜け止めワッシャが容易にネジから脱落してしまうことが推察される。これに対して、実施例は、比較例1〜3に比較して、ネジの挿入のしやすさと、抜けにくさとの両方を兼ね備えていることが理解できる。
【0029】
【表1】

【0030】
図10は、この実施形態の他の例を示したものである。図示したように、この実施形態では、抜け止めワッシャ1の端末孔16を長円形または楕円形にしている。具体的には、短径が放射状に延びるスリット15と同方向、すなわち、径方向に延び、長径がこれと直交するように延びている。このように端末孔16を形成することによって、スリット15の終端15aの近傍においても、端末孔16間の仮想線18を短くすることができる。仮想線18は可撓領域19の変形の基端となるから、これが短くなることによって、可撓領域19の可撓性をより一層大きくすることができる。
【0031】
抜け止めワッシャ1およびネジ3の寸法は、この実施形態に例示したものに限定されるものではなく、適宜変更可能である。特に、端末孔16については、スリット15間の寸法を小さくして可撓性を大きくできるものであれば、その形状については種々選択可能である。また、スリット15の本数も、この実施形態の本数に限ったものではなく、適宜変更可能である。
【0032】
この発明の明細書および特許請求の範囲において、用語「第1」および「第2」は、同様の要素、位置等を単に区別するために用いられている。抜け止めワッシャ1を構成する各構成部材には、この明細書に記載されている材料のほかに、この種の分野において通常用いられている、各種の公知の材料を制限なく用いることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 抜け止めワッシャ
11 第1面
12 第2面
13 外周
14 軸孔
15 スリット
15a 終端
16 端末孔
17 傾斜部
3 ネジ(締結部材)
31 軸部
33 ネジ山部
34 ネジ谷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面および前記第1面とは反対側の第2面と、前記第1面から前記第2面へと貫通する軸孔と、前記軸孔から外周に向かう径方向および前記径方向に交差する周方向と、前記軸孔から前記径方向外側に延びる複数のスリットとを含む抜け止めワッシャにおいて、
前記スリットの前記径方向外側に位置する終端には、前記スリットの前記周方向の離間寸法よりも大きい寸法を有するとともに、前記第1面から前記第2面へと貫通する端末孔が形成されることを特徴とする前記抜け止めワッシャ。
【請求項2】
前記軸孔は、前記第1面から前記第2面に向かって傾斜する傾斜部に位置される請求項1記載の抜け止めワッシャ。
【請求項3】
前記端末孔は、円形または長円形を有する請求項1または2記載の抜け止めワッシャ。
【請求項4】
前記軸孔には、締結部材の軸部が挿入され、前記軸孔の直径は、前記軸部の直径よりも小さくされる請求項1〜3のいずれかに記載の抜け止めワッシャ。
【請求項5】
前記軸部には、ネジ山部およびネジ谷部が形成され、前記軸孔の直径は、前記ネジ山部によって形成された外径および前記ネジ谷部によって形成された内径よりも小さい請求項4記載の抜け止めワッシャ。
【請求項6】
金属材料から形成されている請求項1〜5のいずれかに記載の抜け止めワッシャ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−47240(P2012−47240A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188801(P2010−188801)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000152169)株式会社栃木屋 (50)