説明

抵抗溶接制御装置

【課題】作業効率を向上させて、被溶接物17において発生する分流回路に流れる無効電流を補正することができる抵抗溶接制御装置1を提供する。
【解決手段】本発明の抵抗溶接制御装置1は、溶接離間距離設定器29が各溶接離間距離を設定し、電流増加度算出回路28が溶接離間距離設定器29の出力信号を入力として二次電流設定値の増加度を算出する。二次電流設定値加算回路30が、二次電流設定器22の出力信号と電流増加度算出回路28の出力信号を入力として、二次電流設定器22の設定値に増加度Gを加算させた信号を電流誤差増幅回路23へ出力する。電流誤差増幅回路23が二次電流検出器21の検出信号と二次電流設定値加算回路30の出力信号とを入力として誤差を算出し、インバータ駆動回路5が電流誤差増幅回路23の出力信号を入力としてインバータ回路4を制御する抵抗溶接制御装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被溶接物において発生する分流回路に流れる電流(以下、無効電流という。)を補正することができる抵抗溶接制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接において、スポット溶接を行う点の隣に既に溶接した点があり、スポット溶接を行う点と既に溶接した点との距離が近い場合、既に溶接した点に分流回路が発生して無効電流が流れる。分流回路が発生すると、これから溶接する点に供給される溶接電流が不足して、ナゲット径が小さくなり、その結果、溶接強度が低下する溶接欠陥となる。そこで、ナゲット径を一定に保つには、分流回路に流れる無効電流を考慮して、二次電流の設定値を増加させる必要がある。
【0003】
従来、二次電流を通電する前に、溶接点毎にパイロット電流を流して全体の抵抗値を算出し、その算出した抵抗値と溶接点の抵抗値とから溶接点以外の抵抗値を求め、これによって二次電流の分流比を求め、無効電流だけ増加させた電流を二次電流の設定値として設定することが提案されている。(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−99379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来技術の抵抗溶接制御装置は、二次電流の設定値を無効電流の分だけ増加させた電流を二次電流として流すことができるので、溶接点に供給される溶接電流が不足して、溶接強度が低下する溶接欠陥となることがない。しかし、溶接点毎にパイロット電流を流して全体の抵抗値を算出する必要があるために、溶接作業の工数が掛かり、作業効率が低下していた。また、パイロット電流を流すことによって、被加工物が不完全に溶接された状態になることがある。その場合、無効電流の分だけ増加させた電流を二次電流として流す前にパイロット電流を流した場合と、パイロット電流を流さない場合とでは、溶接結果が異なるときがある。
【0006】
また、溶接点の抵抗値を算出するために溶接電流を検出する手段が必要であり、また、被加工物の油汚れ等で抵抗値が変化するが、そのような場合、分流回路が発生して抵抗値が変化しているか、油汚れ等で抵抗値が変化しているのかを区別することができないことがあるので、分流回路に流される無効電流の割合の算出が不正確になるという不具合があった。
【0007】
本発明は、作業効率を向上させて、被溶接物において発生する分流回路に流れる無効電流を補正することができる抵抗溶接制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
インバータ回路と、
このインバータ回路の出力を降圧する溶接トランスと、
この溶接トランスの二次電流を検出する二次電流検出器と、
各溶接点間の距離である各溶接離間距離が設定される溶接離間距離設定器と、
この溶接離間距離設定器の出力信号を入力として二次電流の増加度を算出する電流増加度算出回路と、
二次電流設定器と、
この二次電流設定器の出力信号と前記電流増加度算出回路の出力信号とを入力として、二次電流設定器の設定値に前記増加度を加算させた信号を出力する二次電流設定値加算回路と、
前記二次電流検出器の検出信号と前記二次電流設定値加算回路の出力信号とを入力として、これらの誤差を算出する電流誤差増幅回路と、
この電流誤差増幅回路の出力信号を入力として前記インバータ回路を制御するインバータ駆動回路と、
を備えたことを特徴とする抵抗溶接制御装置である。
【0009】
請求項2の発明は、
請求項1記載の溶接離間距離設定器は、ティーチングにおいて教示されたデータから各溶接離間距離を算出することを特徴とする抵抗溶接制御装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抵抗溶接制御装置は、従来技術のように溶接点毎にパイロット電流を流すことなく、二次電流の設定値を無効電流の分だけ増加させた電流を二次電流として流すことができるので、従来技術と比較して作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の抵抗溶接制御装置のブロック図である。
【図2】溶接離間距離D[mm](横軸)と、二次電流設定値の増加度G[%](縦軸)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。図1は、本発明の抵抗溶接制御装置のブロック図であり、インバータ制御方式の場合であって、溶接電流は直流と成る。同図において、抵抗溶接制御装置1は、交流電源2によって発生される商用周波数の交流電力が整流回路3によって整流される。この整流回路3から出力された直流電力がインバータ回路4に入力される。このインバータ回路4は、図示を省略した複数のスイッチング素子から成るブリッジ回路から構成されていて、入力された直流電力が高周波のスイッチング動作によってパルス状の高周波交流電力に変換される。このインバータ回路4のスイッチング動作は、後述するインバータ駆動回路5からの制御信号によって制御される。
【0013】
溶接トランス6は、一次コイル7と二次コイル8とコア9とから成り、一次コイル7がインバータ回路4の出力側に接続され、二次コイル8の出力端子が第1整流素子10及び第2整流素子11をそれぞれ介して上部アーム12に接続されるとともに、二次コイル8のセンタータップ14が下部アーム13に接続されている。上部アーム12及び下部アーム13の先端部に第1溶接チップ15及び第2溶接チップ16がそれぞれ取り付けられている。
【0014】
インバータ回路4から出力された高周波交流電力は、溶接トランス6の一次コイル7に印加され、溶接トランス6の二次コイル8には電圧が降圧された大電流の高周波交流電力が発生する。この二次コイル8に発生した高周波交流電力が第1整流素子10及び第2整流素子11によって半周期毎に交互に整流され、上部アーム12及び下部アーム13との間に直流電力が供給される。複数枚の被溶接物17が上部アーム12及び下部アーム13によって加圧されて直流電流が流れ、溶接部がジュール熱によって冶金的に接合される。
【0015】
二次電流設定器22は二次電流が設定され、溶接離間距離設定器29は、スポット溶接を行う点と、この溶接点から一番近い既に溶接した点との距離である溶接離間距離が設定される。電流増加度算出回路28には、溶接離間距離D[mm]と二次電流設定値の増加度G[%]との関係を示す関数が保存されている。この関数は、種々の被加工物の材質及び板厚において、溶接離間距離を変化させてナゲット径を実測して、所望のナゲット径が得られるときの二次電流の増加度が求められ決定される。二次電流設定値加算回路30は、二次電流設定器22の出力信号と電流増加度算出回路28の出力信号とを入力として、二次電流設定器22の設定値に、電流増加度算出回路28によって算出された増加度を加算させた設定値を電流誤差増幅回路23へ出力する。
【0016】
二次電流検出器21は溶接トランス6の二次側の電流である溶接電流を検出する。電流誤差増幅回路23は、二次電流検出器21の検出信号と二次電流設定値加算回路30の出力信号とを入力として、これらの誤差を増幅して誤差信号をインバータ駆動回路5へ出力する。溶接時間設定器24は1回当たりの溶接時間を設定する。溶接開始回路25は、溶接を開始するときにHighレベルに成る信号を出力する。起動回路26は溶接時間設定器24の出力信号と溶接開始回路25の出力信号とを入力として、溶接開始回路25の出力信号がHighレベルに成ってから溶接時間設定器24によって設定された時間だけHighレベルに成る信号を出力する。
【0017】
以下、動作を説明する。例えば板厚が1[mm]の軟鋼を2枚重ね合わせて二次電流の設定値が10、000[A]で、溶接ロボットの先端部に取り付けられた溶接トーチが、各溶接点を一方向に向かって連続して移動しながらスポット溶接する場合を説明する。この場合、電流増加度算出回路28に保存された関数として、例えば図2に示す関数を利用する。図2は、溶接離間距離D[mm](横軸)と、二次電流設定値の増加度G[%](縦軸)との関数を示す図である。同図において、溶接離間距離Dが20[mm]のときの二次電流設定値の増加度Gが15[%]、溶接離間距離Dが40[mm]のときの二次電流設定値の増加度Gが10[%]、溶接離間距離Dが60[mm]のときの二次電流設定値の増加度Gが5[%]である。
【0018】
溶接ロボットによってスポット溶接を行う場合、ティーチングによって教示された各溶接点の位置から各溶接点間の溶接離間距離が算出されて、この算出された溶接離間距離が溶接離間距離設定器29に設定される。また、各溶接点において教示された二次電流の設定値が二次電流設定器22に設定される。例えば、ティーチングにおいて、1打点目と2打点目との溶接点の位置から溶接離間距離が20[mm]と算出され、1打点目と2打点目の二次電流の設定値が10、000[A]と教示される。このとき、溶接離間距離設定器29に1打点目と2打点目の溶接離間距離が20[mm]と設定され、二次電流設定器22に1打点目と2打点目の二次電流の設定値が10、000[A]と設定される。
【0019】
図示を省略したロボット制御装置からの動作制御信号が溶接ロボットに入力されて、溶接ロボットに取り付けられた溶接トーチの先端部が被加工物の1打点目に達する。そのとき、ロボット制御装置からの溶接制御信号が抵抗溶接制御装置1に入力され、二次電流の設定値が10、000[A]でスポット溶接が行われる。その後、溶接トーチの先端部が被加工物の2打点目に移動される。
【0020】
溶接トーチの先端部が被加工物の2打点目に到達したとき、電流増加度算出回路28は、図2に示した関数から溶接離間距離設定器29の設定値が20[mm]に対応した二次電流設定値の増加度Gとして15[%]を算出する。二次電流設定値加算回路30は、二次電流設定器22の出力信号を入力として、二次電流設定器22の設定値に、電流増加度算出回路28によって算出された増加度を加算させた設定値を電流誤差増幅回路23へ出力する。
【0021】
即ち、二次電流設定器22の設定値が15[%]増加されて、11、500[A]の設定信号が電流誤差増幅回路23に出力される。インバータ駆動回路5は、電流誤差増幅回路23の出力信号を入力として、二次電流検出器21の検出値が二次電流設定値加算回路30の出力値である11、500[A]に成るようにインバータ回路4を制御する。以後、同様にして最終打点目のスポット溶接が終了すると、溶接ロボット及び抵抗溶接制御装置1は停止する。
【0022】
この結果、本発明の抵抗溶接制御装置1は、従来技術のように溶接点毎にパイロット電流を流すことなく、二次電流の設定値を無効電流の分だけ増加させた電流を二次電流として流すことができるので、従来技術と比較して作業効率を向上させることができる。
【0023】
上述した本発明の抵抗溶接制御装置1のスポット溶接においては、スポット溶接を行う点から最も近い既に溶接した点に分流回路が発生して無効電流が流れるが、その前の既に溶接した点、つまりスポット溶接を行う点から遠い側の溶接点へは無効電流が流れることは少ない。
【0024】
上述した本発明の抵抗溶接制御装置1は、溶接トランス6の二次電流を検出してフィードバック制御を行う場合について説明したが、溶接トランス6の一次電流を検出してフィードバック制御を行う場合も動作及び効果は同様であるので説明を省略する。
【0025】
また上述した本発明の抵抗溶接制御装置1は、ティーチングによって教示された各溶接点の位置から各溶接点間の溶接離間距離が算出されて、この算出された溶接離間距離が溶接離間距離設定器29に設定される場合を説明した。この代わりに、溶接作業者が個々の溶接離間距離を溶接離間距離設定器29で設定するようにしても良い。
【符号の説明】
【0026】
1 抵抗溶接制御装置
2 交流電源
3 整流回路
4 インバータ回路
5 インバータ駆動回路
6 溶接トランス
7 一次コイル
8 二次コイル
9 コア
10 第1整流素子
11 第2整流素子
12 上部アーム
13 下部アーム
14 センタータップ
15 第1溶接チップ
16 第2溶接チップ
17 被溶接物
21 二次電流検出器
22 二次電流設定器
23 電流誤差増幅回路
24 溶接時間設定器
25 溶接開始回路
26 起動回路
28 電流増加度算出回路
29 溶接離間距離設定器
30 二次電流設定値加算回路
D 溶接離間距離
G 二次電流設定値の増加度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ回路と、
このインバータ回路の出力を降圧する溶接トランスと、
この溶接トランスの二次電流を検出する二次電流検出器と、
各溶接点間の距離である各溶接離間距離が設定される溶接離間距離設定器と、
この溶接離間距離設定器の出力信号を入力として二次電流設定値の増加度を算出する電流増加度算出回路と、
二次電流設定器と、
この二次電流設定器の出力信号と前記電流増加度算出回路の出力信号とを入力として、二次電流設定器の設定値に前記増加度を加算させた信号を出力する二次電流設定値加算回路と、
前記二次電流検出器の検出信号と前記二次電流設定値加算回路の出力信号とを入力として、これらの誤差を算出する電流誤差増幅回路と、
この電流誤差増幅回路の出力信号を入力として前記インバータ回路を制御するインバータ駆動回路と、
を備えたことを特徴とする抵抗溶接制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の溶接離間距離設定器は、ティーチングにおいて教示されたデータから各溶接離間距離を算出することを特徴とする抵抗溶接制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−187621(P2012−187621A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55087(P2011−55087)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)