説明

抵抗溶接装置

【課題】溶接不良を低減することができる抵抗溶接装置を提供すること。
【解決手段】抵抗溶接装置は、一対の電極14,18を備え、その一対の電極14,18によって被溶接材41,42を加圧する。被溶接材41には突起部41aが形成され、その突起部41aが被溶接材42に対して当接される。被溶接材41,42に流れる溶接電流と平行に延びるように形成された給電用導体20と、電極14,18との間には、磁気誘導部材21が配設されている。磁気誘導部材21は、比誘電率の高い材質により形成され、溶接電流が流れる給電用導体20にて発生する磁力線を通過させ、その磁力線が電極14,18間の被溶接材41,42に与える影響を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抵抗溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抵抗溶接では、複数枚の被溶接材を1対の電極によって加圧・通電して溶接を行う。このときの溶接条件としては、溶接電流値、溶接時間、加圧力等がある。これらの溶接条件は、被溶接材の材質、板厚、重ね枚数等に応じて適正値に設定されて、溶接が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−167716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、溶接時に、溶融した被溶接材が溶接したい箇所から移動する場合がある。このような場合、溶融した被溶接材が溶接しようとする箇所と異なる場所で凝固するため、被溶接材間の溶接強度が低くなるといった溶接不良が発生する。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、溶接不良を低減することができる抵抗溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、複数の被溶接材を一対の電極によって加圧し、前記複数の被溶接材に対して前記一対の電極を介して直流の溶接電流を通電して溶接する抵抗溶接装置であって、前記一対の電極を介して前記複数の被溶接材に流れる溶接電流と平行に延びるように形成された給電用導体と前記一対の電極間との間に配置され、比誘電率の高い材質により形成され、前記給電用導体に流れる溶接電流によって生じる磁力線を通過させる磁気部材を備えた。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の抵抗溶接装置において、前記複数の被溶接材のうちの少なくとも1つの溶接箇所には突起部が形成され、突起部に集中して通電させて前記被溶接材を溶融させるプロジェクション溶接を行うものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶融した被溶接材の移動による溶接不良の低減が可能な抵抗溶接装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)は抵抗溶接装置の概略構成図、(b)は被溶接材の説明図である。
【図2】(a)は溶接時の抵抗溶接装置の説明図、(b)は溶接電流の経路を示す説明図である。
【図3】抵抗溶接装置の一部平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1(a)に示す抵抗溶接装置は、溶接箇所に突起部(プロジェクション部)が形成された複数の被溶接材を互いに溶接する、所謂プロジェクション溶接装置である。この抵抗溶接装置の支持部11は、抵抗溶接装置が設置される床に立設されている。この支持部11の前面(図において左側)には、電極支持部12が前方に向って突出形成され、この電極支持部12の上面に下部支持部材13が固定されている。下部支持部材13の上面には下部電極14が固定されている。また、下部支持部材13には、給電用導体15の一端が接続され、給電用導体15の他端は溶接制御装置30に接続されている。
【0011】
支持部11の前面であって電極支持部12の上方には加圧シリンダ16が固定されている。この加圧シリンダ16から下方に向って突出するロッド16aの下端には、上部支持部材17が固定されている。この上部支持部材17の下面には上部電極18が固定されている。また、上部支持部材17には、導電部材19の一端が接続され、導電部材19の他端は給電用導体20の一端に接続され、給電用導体20の他端は溶接制御装置30に接続されている。導電部材19は、例えば、所定厚さの銅板を複数枚積層して形成され、可撓可能である。両電極14,18及び支持部材13,17は例えば銅合金からなる。
【0012】
溶接制御装置30は、交流電源によって発生される商用周波数の交流電力から、抵抗溶接に必要な直流電流を生成する。溶接制御装置の整流回路31は、交流電力を直流電力に変換する。インバータ回路32は、図示を省略した複数のスイッチング素子から成るブリッジ回路から構成されていて、直流電力を高周波のスイッチング動作によってパルス状の高周波交流電力に変換する。このインバータ回路32のスイッチング動作は、後述する制御回路39からの制御信号によって制御される。
【0013】
溶接トランス33は、一次コイル34と二次コイル35とコア36を備える。一次コイル34はインバータ回路32の出力側に接続されている。二次コイル35の両端は第1整流素子37及び第2整流素子38をそれぞれ介して給電用導体20に接続され、二次コイル35のセンタータップは給電用導体15に接続されている。
【0014】
インバータ回路32から出力された高周波交流電力は、溶接トランス33の一次コイル34に印加され、溶接トランス33の二次コイル35には電圧が降圧された大電流の高周波交流電力が発生する。この二次コイル35に発生した高周波交流電力は第1整流素子37及び第2整流素子38によって半周期毎に交互に整流され、給電用導体15,20等を介して電極14,18間に直流電力が供給される。2つの被溶接材41,42は上部電極18と下部電極14との間に介在され、加圧シリンダ16によって加圧される。この加圧シリンダ16による加圧力は、制御回路39により制御される。制御回路39は、被溶接材41,42に応じて設定された溶接条件(加圧力、溶接時間)に基づいて加圧シリンダ16を制御する。
【0015】
給電用導体15に取着された電流検出器40は、給電用導体15に流れる直流電流(溶接電流)に応じた検出信号を出力する。電流検出器40は制御回路39に接続されている。制御回路39は、電流検出器40により検出した溶接電流と、被溶接材41,42に応じて設定された溶接条件(溶接電流値、溶接時間)に基づいてインバータ回路32を制御する。
【0016】
溶接条件は、被溶接材41,42の材質や大きさ(板厚)等に応じて設定されている。例えば、被溶接材が鉄材の場合、溶接電流の設定値は10,000[A]、加圧力は200[kg]、溶接時間(溶接サイクル)は10[サイクル]である。一方、被溶接材がアルミニウムの場合、溶接電流の設定値は24,000[A]、加圧力は100[kg]、溶接時間(溶接サイクル)は17[サイクル]である。なお、これらの設定値は一例である。
【0017】
図1(b)に示すように、被溶接材41,42は、例えばアルミニウムよりなる。一方の被溶接材41には突起部(プロジェクション部)41aが形成され、他方の被溶接材42には突起部が形成されていない。
【0018】
溶接制御装置30は、図2(b)に示すように、上部電極18と下部電極14との間に介在された被溶接材41,42を、被溶接材41,42の材質等に応じて設定された溶接条件(加圧力)にて加圧し、突起部41aに溶接電流を集中して通電する。突起部41a及びその突起部41aが当接された被溶接材42の部分は、通電される溶接電流にと両被溶接材41,42間の抵抗によって発生するジュール熱によって溶融する。そして、被溶接材41,42の溶融による沈みに対して加圧力が働く。これにより、被溶接材41,42は、冶金的に互いに溶接される。
【0019】
図1(a)に示すように、両電極14,18と給電用導体20との間には、磁気誘導部材21が配設されている。図3に示すように、磁気誘導部材21は、電極14(18)と給電用導体20との間であって、給電用導体20に近い位置に配置されている。磁気誘導部材21は、電極14(18)と対向する給電用導体20の面を覆うように、略コ字状に形成されている。
【0020】
磁気誘導部材21は、例えば鉄(鋼材:SS400,等)のように、比透磁率が高い材質(鉄の比透磁率は5,000)により形成されている。この磁気誘導部材21は、溶接電流が流れる給電用導体20にて発生する磁力線を通過させ、その磁力線が電極14,18間の被溶接材41,42に与える影響を低減する。
【0021】
図2(b)に示すように、溶接時における溶接電流は、概略的にループ状の経路に従って流れる。上部電極18、被溶接材41,42及び下部電極14は、溶接電流I1を流す電流経路を構成し、給電用導体20は、溶接電流I2を流す電流経路を構成する。そして、上部電極18から被溶接材41,42を介して下部電極14に流れる溶接電流I1に対し、給電用導体20には逆方向の溶接電流I2が流れる。
【0022】
一般的に、平行に配置された2つの導体に対して電流が逆方向に流れるとき、2つの導体には互いに反発力が働く。この反発力により、溶融した被溶接材41,42(突起部41a)が移動する。2つの導体に作用する反発力は、2つの導体に流れる電流の積に比例し、2つの導体の間の距離に反比例する。従って、この移動量は、溶接電流が大きいほど大きくなる。また、移動量は、被溶接材の比重が小さいほど大きくなる。なお、鉄の比重は7.87[g/cc]であり、アルミニウムの比重は2.699[g/cc]である。また、移動量は、加圧力が小さいほど大きくなる。
【0023】
2つの導体に作用する反発力は、それぞれの導体に流れる電流により発生する磁場の影響により発生する。この影響は、電極14,18間に流れる溶接電流I1と、給電用導体20に流れる溶接電流I2との間の距離Lに応じて、距離Lが短いほど強くなる。従って、一方の磁場の影響を低減することにより、他方の導体に影響する反発力を小さくすることができる。つまり、給電用導体20の近傍に配置された磁気誘導部材21は、溶接電流I2が流れる給電用導体20の周りに形成する磁場、磁力線が通り易い。このため、給電用導体20に流れる溶接電流I2により生じる磁力線は、被溶接材41,42(突起部41a)に流れる溶接電流I1により生じる磁力線に対して影響し難くなる。その結果、溶融した被溶接材41,42に対して作用する反発力が小さくなり、溶融した被溶接材41,42の移動が低減される。これにより、溶接不良が低減される。
【0024】
上記したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)抵抗溶接装置は、一対の電極14,18を備え、その一対の電極14,18によって被溶接材41,42を加圧する。被溶接材41には突起部41aが形成され、その突起部41aが被溶接材42に対して当接される。抵抗溶接装置は、加圧した被溶接材41,42に溶接電流を流す。この溶接電流は、突起部41aに集中して通電され、突起部41a及び突起部41aが当接された被溶接材42の部分は、溶接電流と接触抵抗により発生するジュール熱によって溶融する。
【0025】
被溶接材41,42に流れる溶接電流と平行に延びるように形成された給電用導体20と、電極14,18との間には、磁気誘導部材21が配設されている。磁気誘導部材21は、比誘電率の高い材質により形成され、溶接電流が流れる給電用導体20にて発生する磁力線を通過させ、その磁力線が電極14,18間の被溶接材41,42に与える影響を低減する。従って、給電用導体20に流れる溶接電流I2により生じる磁力線は、被溶接材41,42(突起部41a)に流れる溶接電流I1により生じる磁力線に対して影響し難くなる。その結果、溶融した被溶接材41,42に対して作用する反発力が小さくなり、溶融した被溶接材41,42の移動が低減される。これにより、溶接不良を低減することができる。
【0026】
(2)プロジェクション溶接は、少なくとも一方の被溶接材に形成した突起部に溶接電流を集中するため、被溶接材41,42と電極14,18との間は、抵抗が少なくなるように面接触とされる。このため、電極14,18の消耗が少ない。プロジェクション溶接に用いられる被溶接材41,42において、一方の被溶接材41には突起部41aが形成されている。従って、被溶接材41,42間には、突起部41aによる隙間が形成されているため、溶融した被溶接材が反発力によって移動しやすい。このため、磁気誘導部材21を設けて反発力を低減することにより、プロジェクション溶接において、溶融した被溶接材の移動による溶接不良を低減することができる。
【0027】
尚、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記形態では、磁気誘導部材21を給電用導体20に近い位置に配置した。これに対し、溶接電流によって生じる反発力を低減する、つまり、溶接電流によって被溶接材41,42(突起部41a)の周囲に生じる磁力線の粗密を緩和することが可能であれば、磁気誘導部材21の配置位置は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0028】
・上記実施形態では、磁気誘導部材21の材質を鉄としたが、他の材質により磁気誘導部材21を形成してもよい。例えば、珪素鋼(比透磁率:7,000)、純鉄(比透磁率:200,000)、鉄−ニッケル合金、等を用いても良い。
【0029】
・上記実施形態で示す被溶接材41,42は一例であり、形状や材質を変更してもよい。そして、電極14,18の互いに対向する面の形状は、被溶接材に応じて変更されることはいうまでもない。
【0030】
・上記実施形態では、突起部41a(プロジェクション部)を形成して抵抗溶接(プロジェクション溶接)を行ったが、被溶接材の形状に応じて、角等を利用するようにしてもよい。
【0031】
・上記実施形態は、突起部41a(プロジェクション部)を有する被溶接材41と突起部を有していない被溶接材42とを互いに溶接するようにしたが、両被溶接材41,42に突起部を形成して溶接するようにしてもよい。
【0032】
・上記実施形態は、突起部41a(プロジェクション部)を有する被溶接材41と突起部を有していない被溶接材42とを互いに溶接する抵抗溶接(プロジェクション溶接)に具体化したが、その他の抵抗溶接を行う装置に具体化してもよい。
【符号の説明】
【0033】
14 下部電極
18 上部電極
20 給電用導体
21 磁気誘導部材(磁気部材)
41,42 被溶接材
41a 突起部(プロジェクション部)
I1,I2 溶接電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被溶接材を一対の電極によって加圧し、前記複数の被溶接材に対して前記一対の電極を介して直流の溶接電流を通電して溶接する抵抗溶接装置であって、
前記一対の電極を介して前記複数の被溶接材に流れる溶接電流と平行に延びるように形成された給電用導体と前記一対の電極間との間に配置され、比誘電率の高い材質により形成され、前記給電用導体に流れる溶接電流によって生じる磁力線を通過させる磁気部材を備えたことを特徴とする抵抗溶接装置。
【請求項2】
前記複数の被溶接材のうちの少なくとも1つの溶接箇所には突起部が形成され、突起部に集中して通電させて前記被溶接材を溶融させるプロジェクション溶接を行うものである、ことを特徴とする請求項1に記載の抵抗溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−66904(P2013−66904A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206365(P2011−206365)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)