説明

押しホックの雌ホック

【課題】全体重厚感のある外観を備え、意匠的にも優れた押しホックにおける雌ホックの提供を目的とする。
【解決手段】雄ホック25は全体凸条をなし、先頭部に対する後方周部に窪み26を備える。雌ホック24は全体扁平で略円筒形状の外観を備え、円形をなす一端表面の中心に、雄ホック25の先頭部を係入するための開口27と、開口27の内部において開口27より係入された雄ホック25を収容するための空間からなる雌孔28と、を備える雌ホック本体29を有する。雌ホック24は、雌ホック本体29の雌孔28の内部において、雌孔28の内部中心側に向けて矢印C方向に付勢され、開口27より雌孔24の内部に係入される雄ホック25の窪み26に対して係合可能とされる係合スプリング30が備えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば財布、セカンドバックなどにおける止着する係合部と被係合部間の係合を行うための押しホックの雌ホックに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に押しホックと呼ばれる係合具には、様々な形状、様々な材質のものが存在するが、多くのものはブラス、アルミ合金、スチールなどの金属材で形成することとしている。
【0003】
押しホックのうち、一般にダボと呼ばれる雄ホックに関しては、全体凸条をなし、先頭部に対する後方周部に窪みを備えるものとされ、多くのものは、金属材をプレス加工あるいは絞り加工することにより形成していた。また一部高級品に係るダボについては、円柱の金属材を切削加工し、全体凸条をなす雄ホックとして加工形成していた。
【0004】
これに対し、雄ホックの凸条部分を係入し、雄ホックと係合して被着される雌ホックについては、全体扁平で略円筒形状の外観を備えるものとされ、円形をなす一端表面の中心に上記雄ホックを係入するための開口を備え、さらに該開口内部においては開口より係入された雄ホックの凸条部分を収容するための雌孔を備えるようにしている。そして、この雌ホックにおける雌孔の内部においては、上記雌孔の内部中心側に向けて付勢され、開口より雌孔内に係入される雄ホックの窪みに対して係合可能とされる係合スプリングが備えられる。
【0005】
例えば図21に示される従来の押しホックにおける雌ホック1は、全体扁平で略円筒形状の外観を備えるものとされ、全体を金属材で形成してなる雌ホック本体2を備えるようにしている。雌ホック本体2の円形をなす一端表面の中心には、開口3が備えられ、開口3の内部には雌孔4が備えられる。
【0006】
この雌ホック本体2の雌孔4内の内部空間には、平面略Wの形状をなす係合スプリング5が備えられ、該係合スプリング5はその一部を雌孔4の内部において、矢印A方向に雌孔4の内部中心側に向けて付勢させるようにしている。このようにして形成される雌ホック1は、図22に示すように円形をなす他端裏面の中心を留め金具6A、6Bを用いて被係合部としての被着面材7(布地、革材等)に被着させている。
【0007】
一方、この雌ホック1に対して係合される雄ホック8は、係合部としての係合面材9(布地、革材等)にその基部を被着させてなり、図22において下方に向けて先頭部を突出させる全体凸条を備えるものとされる。先頭部に対する後方周部には窪み10が備えられ、この雄フック8は、先頭部を矢印Bに示すように雌ホック1の開口3に係入させ、開口3内部の雌孔4内において、雄ホック8の先頭部と係合可能とされる。
【0008】
雄ホック8の雌ホック1に対する係合は、雄ホック8の先頭部を開口3より、雌孔4に対して押すようにして係入し、矢印A方向に付勢される係合スプリング5に対し雄ホック8の窪み10を係合するようにして行う。これにより、被係合部としての被着面材7と、係合部としての係合面材9とが相互に係合されることとなる。
【0009】
一方、雄ホック8を雌ホック1から係合解除するには、雄ホック8を雌孔4から引き出すようにし、係合スプリング5の矢印A方向の付勢力に抗して該スプリング5と窪み10との係合を解くことで、雌ホック本体2から雄ホック8を離脱し、行うようにしている。
【0010】
こうした構成からなる雌ホック1に関しては、全体扁平な円筒形状をなす雌ホック本体2の内部に、付勢力を有する係合スプリング5をそのまま内蔵させなければならないため、多くの雌ホック本体2は、図22に示すように薄肉の金属材からなる2つの組立材2A、2Bを結合して形成するものとされていた。
【0011】
すなわち、このようにして2つの組立材2A、2Bからなる金属材は、加工上の要請、あるいは部品としての微小性からプレス加工や絞り加工でしか形成することができないものとされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−119064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、出願人は上記図21に示す従来の押しホックにおける雌ホック1や上記特許文献1に示す雌ホックとは異なり、雌ホックの雌ホック本体自体を切削加工により形成できないか試みたところである。というのは、従来ダボについては切削加工品が存在し、そうした製品については、意匠的に観て重厚感が存在し、高級品としての需要が存在していた。
【0014】
これに対し、雌ホックについては、薄肉のプレス加工品、絞り加工品しか存在しなかったため、今一つ製品としての高級感を意匠的に創出できず、それをカバーするためにプレス加工品、絞り加工品としての雌ホックにメッキ処理を施し、重厚感を創出するなどの工夫が試みられていた。
【0015】
しかし、こうしてメッキ処理を施した雌ホックにおいては、内部に収容される係合スプリングを含めてメッキ処理を行うようにしていたため、メッキによってダボに対する係合のための寸法公差に微妙な変化が生じ、係合スプリングに対して余分な荷重がかかり、その分雌ホックの寿命が低下するなどの不具合も生じていた。
【0016】
出願人は、こうした従来の不具合を解消し、高級感があり、意匠的にも優れた押しホックにおける雌ホックの開発を試行錯誤を繰り返して進める中、本発明を完成するに至ったところである。すなわち本発明は、全体重厚感のある外観を備え、意匠的にも優れた押しホックにおける雌ホックの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1は、全体扁平で略円筒形状の外観を備え、円形をなす一端表面の中心に、全体凸条をなし、先頭部に対する後方周部に窪みを備えた押しホックの雄ホックを係入するための開口と、開口内部において開口より係入された雄ホックを収容するための空間からなる雌孔と、を備える雌ホック本体と、上記雌ホック本体の雌孔の内部において、上記雌孔の内部中心側に向けて付勢され、開口より雌孔内に係入される雄ホックの窪みに対して係合可能とされる係合スプリングと、を備え、雄ホックを上記雌孔に対して押すように係入され、雄ホックの窪みに係合スプリングを係合させることにより雄ホックとの係合を行い、雄ホックを雌孔から引き出すように係合スプリングの付勢力に抗して該スプリングと窪みとの係合を解くことで雌ホック本体からの雄ホックの係合を解除することとした押しホックの雌ホックにおいて、上記雌ホック本体は、全体扁平な円柱形状の金属材を切削して全体略円筒形状の外観を備えるように形成するものとされ、円形をなす一端表面の中心において雄ホックを係入するための開口、開口内部において雄ホックを収容するための空間からなる雌孔は、円柱形状の金属材の円形をなす一端表面の中心に凹部を画成するようにして切削形成し、該凹部を画成した円柱形状の金属材の円形をなす他端裏面には、表面側の中心に画成された凹部の外周位置において、該他端裏面を切削する状態で周設する係合スプリングを収容するための環状溝を形成し、さらに該裏面側に形成する環状溝と表面側に形成する凹部との間には、凹部と環状溝との間を貫通し、凹部の中心を基準として相互に異なる対向する放射方向へと延説される少なくとも2つスリットを切削形成し、上記係合スプリングは、環状溝内に収容されてそれぞれのスリットから凹部に向けて突出させるように付勢される係合体を備えるものとされ、雄ホックを上記雌孔に対して押すように係入させ、雄ホックの窪みに各スリットから突出される係合スプリングの係合体を係合させることにより、雄ホックとの係合を行い、雄ホックを雌孔から引き出すように係合スプリングの付勢力に抗して該スプリングの係合体と窪みとの係合を解くことで雌ホック本体からの雄ホックの係合を解除することを可能とした押しホックの雌ホックとしている。
【0018】
また請求項2は、上記環状溝には、収容される係合スプリングが環状溝から脱落するのを防止するべく、環状溝内の雌ホック本体の中心を基準とする外周側に、係合スプリングの位置決め用の周状凹部を周設してなる請求項1に記載の押しホックの雌ホックとしている。
【0019】
また請求項3は、環状溝内に収容される係合スプリングは、凹部と環状溝の間に備えられるスリットの数に対応し、少なくとも2つ備えられるものとし、各係合スプリングは、巻回部を中心に2つのアームを異なる方向に延出してなり、各アームが巻回部を中心に離隔方向に付勢されるねじりコイルバネとされ、各ねじりコイルバネは、一方のアームを環状溝内の雌ホック本体の中心を基準とする外周側に当接して位置決めされ、他方のアームをスリットから凹部に向けて突出させるように付勢させ、該他方のアームの突出部分を上記雄ホックの窪みに対する係合体としてなる請求項1または請求項2のいずれかに記載の押しホックの雌ホックとしている。
【0020】
また請求項4は、上記環状溝内の雌ホック本体の中心を基準とする内周側、あるいは外周側の所定の角度位置には、収容される各ねじりコイルバネの巻回部を位置決め可能とする湾曲凹部を形成するようにした請求項3に記載の押しホックの雌ホックとしている。
【0021】
また請求項5は、上記環状溝内に収容され、少なくとも2つ備えられる各係合スプリングとしてのねじりコイルバネは、各スリットから突出される係合体としての他方のアームが、相互に平行状態となるように設定されるものである請求項3に記載の押しホックの雌ホックとしている。
【0022】
また請求項6は、上記環状溝内に収容され、少なくとも2つ備えられる各係合スプリングとしてのねじりコイルバネは、環状溝内の雌ホック本体の中心を基準とする外周側に当接して位置決めされる一方のアームの形状を、当接する外周部の曲率に相応するように湾曲させて形成するようにした請求項3に記載の押しホックの雌ホックとしている。
【0023】
さらに請求項7は、上記雌ホック本体の環状溝が形成される円形をなす他端裏面の中心位置には、円形をなす一端表面の凹部中心に向けて貫通され、他端裏面側から嵌入される留め具を挿通し、雌ホック本体を被着面材に止着するための留め孔を穿設することとした請求項1に記載の押しホックの雌ホックとしている。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、微小部品としての押しホックの雌ホックを全体扁平な円柱形状の金属材を切削して全体略円筒形状の外観を備えるように形成するものとされ、微小な空間において雌ホックの窪みに対して係合可能な係合スプリングを配設させることを可能とし、これにより全体重厚感のある外観を備え、意匠的にも優れた押しホックの雌ホックを提供できることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る押しホックを示し、雄ホックを雌ホックに対して係合する状態に係る斜視図である。
【図2】押しホックを備えた財布を示す斜視図である。
【図3】雌ホックに対する雄ホックの係合状態を示す図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】雌ホックより雄ホックを係合解除した状態を示す断面図である。
【図5】図4のV−V線に沿う平面図である。
【図6】図4のVI−VI線に沿う断面図である。
【図7】雌ホック本体の係合面材に対する取付状態を示す斜視図である。
【図8】雌ホック本体の環状溝に対する係合スプリングの収容状態を示す斜視図である。
【図9】雌ホック本体の環状溝に対する係合スプリングの収容状態に係り、収容前の状態を示す平面図である。
【図10】係合スプリングの収容過程を示す平面図である。
【図11】係合スプリングの収容過程を示す断面図である。
【図12】係合スプリングを環状溝内に収容させた状態を示す平面図である。
【図13】切削により雌ホック本体を形成するプロセスに係り、円柱形状の金属材を切削する断面図である。
【図14】雌ホック本体において凹部を形成する状態を示す断面図である。
【図15】雌ホック本体においてスリットを形成する状態を示す断面図である。
【図16】雌ホック本体において環状溝を形成する状態を示す断面図である。
【図17】雌ホック本体において周状凹部を周設する状態を示す断面図である。
【図18】雌ホック本体においてねじりコイルバネの巻回部を位置決めする湾曲凹部を形成する状態を示す平面図である。
【図19】変形例の係合スプリングを環状溝に係合させた状態を示す図6と同様の断面図である。
【図20】変形例の係合スプリングを環状溝に係合させた状態を示す図6と同様の断面図である。
【図21】従来の雌ホックを示す斜視図である。
【図22】従来の押しホックにおける雄ホックを雌ホックに対し係合する状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。図1ないし図18は、本発明の一実施形態に係る押しホックの雌ホックを示すものである。実施形態に係る押しホックは、例えば図2に示す財布20の被着面材21としてのポケット外皮材に対し、係合面材22としての舌片を係合させることを可能とし、この係合により財布20のポケット部23を開閉させるために使用される。
【0027】
被着面材21の表面には、図1に示すように実施形態に係る押しホックの雌ホック24が取付けられる。また舌片としての係合面材22の裏面側には図1に示すように押しホックの雄ホック25が取付けられる。雄ホック25は全体凸条をなし、先頭部に対する後方周部に窪み26を備えるようにしている。一方、雌ホック24は全体扁平で略円筒形状の外観を備え、円形をなす一端表面の中心に、雄ホック25の先頭部を係入するための開口27と、開口27の内部において開口27より係入された雄ホック25を収容するための空間からなる雌孔28と、を備える雌ホック本体29を有する。
【0028】
さらに雌ホック24は、雌ホック本体29の雌孔28の内部において、雌孔28の内部中心側に向けて図1の矢印C方向に付勢され、開口27より雌孔24の内部に係入される雄ホック25の窪み26に対して係合可能とされる係合スプリング30が備えられる。
【0029】
すなわち雄ホック25の雌ホック24に対する係合は、雄ホック25を係合面材22とともに雌孔28に対して押すように係入され、雄ホック25の窪み26に係合スプリング30を係合させることにより可能となる。これに対し、雄ホック25の雌ホック24に対する係合を解除する場合は、係合面材22を図2の実線に示す状態から2点鎖線に示す状態に被着面材21から引き離すようにする。すると、雄ホック25を雌孔28から引き出すようにして、係合スプリング30の矢印C方向の付勢力に抗して該スプリング30と窪み26との係合を解くことが可能となる。こうして雌ホック本体29からの雄ホック25の係合を解除することが可能となる。
【0030】
実施形態に係る雌ホック24の雌ホック本体29は、ブラス、スチール、アルミ合金などからなる全体扁平な円柱形状の金属材を切削し、全体略円筒形状の外観を備えるように形成される。一方雄ホック24もブラス、スチール、アルミ合金などからなる金属材を全体凸条をなすように切削して形成される。雄ホック25は、図3あるいは図4に示すように皮材や布材等で形成される係合面材22において取付孔31を穿設し、該取付孔31に挿通される留め具32を用いて係合面材22の裏面側に取付けられる。
【0031】
これに対し雌ホック24は、皮材や布材等で形成される被着面材21において図3、図4あるいは図7に示すように取付孔33を穿設し、該取付孔33に被着面材21の裏面から挿通される留め具34を用いて被着面材21の表面側に取付けられる。雌ホック本体29においては、図7に示す円形をなす一端表面の中心において開口27および雌孔28を構成するための凹部Dが円柱形状の金属材を切削するようにして画成し、形成される。一方、この雌ホック本体29の円形をなす他端裏面の中心位置には、上記一端表面に画成される凹部Dの中心に向けて貫通され、図7の矢印Zに示すように他端裏面側から嵌入される留め具34を挿通し、雌ホック本体29を被着面材21に止着するための留め孔35が穿設される。すなわち、雌ホック本体29は、図3に示すように被着面材21の取付孔33並びに留め孔35に留め具34を挿通させ、留め具34の先端を留め孔35の上部でカシメることで、全体扁平で略円筒形状の円形の他端裏面側を被着面材21に取付けるようにしている。
【0032】
雌ホック本体29の形成過程において、円柱形状の金属材を切削して形成する凹部Dに対する他端裏面側には、表面側の中心に画成された凹部Dの外周位置において環状溝36を形成するようにしている。すなわち、この環状溝36は、円柱形状の金属材の他端裏面を切削する状態で周設され、この環状溝36は後述するように係合スプリング30を収容するための空間とされる(図3、図4、図8参照)。さらに環状溝36の内部には、図8に示す雌ホック本体29の中心Oを基準とする外周側に、係合スプリング30の位置決め用の周状凹部37を切削により周設し、形成するようにしている。すなわち、環状溝36は、図3あるいは図4に示すように他端裏面側においてアリ溝状に形成されるものとされ、周状凹部37の存在により、環状溝36に収容される係合スプリング30が該部分から脱落するのを防止するようにしている。
【0033】
さらに雌ホック本体29の形成過程において、他端裏面側に形成される環状溝36と一端裏面側に形成される凹部Dとの間には、凹部Dと環状溝36との間を貫通し、凹部Dの中心O(図8参照)を基準として相互に異なる対向する放射方向へと延設される一対のスリット38A、38Bが切削形成される。すなわち、スリット38Aと38Bは、円形をなす雌ホック本体29の中心Oを基準として角度180度対向する離隔位置に穿設されるようにしている。
【0034】
このようにして円柱形状の金属材を切削して形成される雌ホック本体29には、他端裏面側の環状溝36に対して一対をなす係合スプリング30がそれぞれ収容されることとなる(図5、図6、図8ないし図12参照)。一対の係合スプリング30は、図8および図9に示すように巻回部39を中心に2つのアーム40、41を異なる方向に延出するねじりコイルバネとされ、各アーム40、41が巻回部39を中心に離隔方向(図8の矢印方向)に付勢されるものである。
【0035】
ここで各係合スプリング30は、一方のアーム40を環状溝36内の雌ホック本体29の中心を基準とする外周側に当接して位置決めされるものであり、環状溝36内の周状凹部37の形状に相応する曲率で湾曲形成される。
【0036】
これに対して係合スプリング30の他方のアーム41は、直線状態で延出されるものであり、環状溝36内に収容される状態で図5、図6に示すようにスリット38A、38Bの凹部Dに対する開口端に当接させるようにしている。ここで係合スプリング30の他方のアーム41が当接されるスリット38A、38Bの開口部分は、円形をなす雌ホック本体29の中心Oを基準として相互に平行状態とされ、これにより環状溝36内に各スプリング30を収容する状態において、係合スプリング30を収容する状態において、係合スプリング30の他方のアーム41同士はスリット38A、38Bの開口端に当接する状態で相互に平行状態となるように設定される。こうして相互に平行状態に設定される各係合スプリング30の他方のアーム41は、雌ホック本体29の他端裏面を、環状溝36側から一端表面の凹部Dに向けて切削するようにして形成されるため、その中心部分が凹部Dに、矢印C方向に向けて突出されることとなる(図3ないし図6参照)。
【0037】
すなわち、環状溝36に収容される各係合スプリング30の他方のアーム41は、凹部Dに向けて突出させる部分を、開口27より雌孔28内に係入される雄ホック25の窪み26に対して係合可能な係合体の部分として設定することが可能となる。各スプリング30は、環状溝36内に収容されることで、係合体としての部分であるアーム41が、スリット38A、38Bから凹部Dに向けて矢印C方向に付勢されることとなり、よって雌孔28内に係入される雄ホック25の窪み26に対し、平行状態に設定される各アーム41の部分を係合させることが可能となる。
【0038】
ここで環状溝36に対する各係合スプリング30の収容は、図8ないし図12に示す順で行われる。先ず雌ホック本体29の中心Oを基準に点対称状態で配置される一対の係合スプリング30のそれぞれについて、他方のアーム41をスリット38A、38Bの開口端と当接するべく、環状溝36内に挿入させる(図8、図9、図11参照)。ここで環状溝36内の雌ホック本体29の中心Oを基準とする内周側においては、中心Oを基準に角度180度離隔される各位置に湾曲凹部42が形成される。各湾曲凹部42に対しては、ねじりコイルバネからなる各係合スプリング30の巻回部39を当接させるべく他方のアーム41を環状溝36内に挿入させるようにし、この際、巻回部39が周状凹部37内に収容されるべく、巻回部39を周状凹部37内に対して挿入させるように嵌め込む。
【0039】
こうして、巻回部39が湾曲凹部42に対して位置決めされたら、次に図10に示すように、各係合スプリング30の他方のアーム40を、その付勢力に抗して巻回部39を中心に矢印方向に曲げるようにし、図12に示すように周状凹部37に対してアーム40を嵌め込むようにする。こうすることで雌ホック本体29の円形をなす他端裏面側において、環状溝36に一対の係合スプリング30が嵌め込まれて収容されることとなる。
【0040】
このようにして形成される雌ホック24は、前記のようにして留め具34によって被着面材21に対して取付けられることとなり、雄ホック25と係合し、あるいは雄ホック25との係合解除が可能となる。すなわち、上記のように凹部Dを形成することで雌ホック24の円形の一端表面側に備えられる雌孔28に対し、雄ホック25を押すように係入させることで、雄ホック25の窪み26に各スリット38A、38から雌孔28に突出される係合スプリング30の他方のアーム41(係合体)が係合されることとなる。また雄ホック25を雌孔28から引き出すようにし、アーム41の矢印C方向(図3参照)の付勢力に抗して該スプリング30の他方のアーム41から雄ホック25の窪み26の係合を解くことで雌ホック本体29からの雄ホック25の係合を解除することが可能となる。
【0041】
前記のようにして構成される押しホックの雌ホック24においては、全体扁平な円柱形状の金属材を切削して全体略円筒形状の外観を備えるように形成するものであるため、次に図13ないし図18に基づいてその形成プロセスを説明する。
【0042】
まず図13に示すように円柱形状の金属材EをチャックFにチャックさせる状態で中心Oを基準として矢印方向に回転させ、先ず中心Oの部分に中心孔Gを切削により穿設させる。ここで図13において金属材Eの下面部分が形成する雌ホック本体29の一端表面とされる。中心孔Gが切削形成された状態において、下面の周部の面取りがバイト43あるいは研磨具の当接により行われる。
【0043】
続いて図14に示すように回転される金属材Eの下面中心Oの領域Dが切削され、下面中心側に凹部Dを切削形成する。凹部Dが切削形成された状態において、凹部Dの開口角部の面取りがバイト44あるいは研磨具の当接により行われる。
【0044】
続いて凹部Dの内周部の所定の深さ位置に対し、矢印方向に回転する切削具45を挿入し、金属材Eの中心を基準とする放射方向での対向位置の一領域H1、H2をそれぞれ切削し、除去することとする。この領域H1、H2の部分は、完成される雌ホック本体24においてスリット38A、38Bの構成部分となる。
【0045】
次に、図16に示すようにして中心Oを基準に回転される金属材Eの上面の端部領域Iが切削により除去され、さらに凹部Dに対する外周位置で上面に対する一定深さJを、バイト46の金属材Eの上面への当接により切削により除去する。この部分は完成される雌ホック本体24において環状溝36の構成部分となる。ここで領域Jの部分と凹部Dの部分が貫通され、スリット38A、38Bが形成されることとなる。こうして領域I並びにJが切削除去された状態において、上面の各周部の面取りがバイト43、44あるいは研磨具の当接により行われる。
【0046】
次に、図17に示すようにして中心Oを基準に回転される金属材Eの上面から領域Jの部分に中ぐりバイト47が挿入され、領域Kの部分が切削により除去される。この部分は完成される雌ホック本体24において周状凹部37の構成部分となる。このようにして、上面側が切削形成されたら、さらに該上面に形成された環状溝36の内周側の4ヶ所を、矢印L方向にスライドし、矢印方向に回転する切削具45を環状溝36内に挿入して切削除去する。こうして金属材Eの上面における中心Oを基準とする180度対向する離隔位置に、係合スプリング30の巻回部39を位置決めする湾曲凹部42が切削により形成されることとなる。さらに金属材Eの上面における中心Oを基準とする180度対向する離隔位置で、各スリット38A、38Bの端部位置に湾曲凹部48が切削形成される。湾曲凹部48は、各スリット38A、38Bに対して係合スプリング30の他方のアーム41を挿入する際の案内部分とするものであり、直線状態のアーム41をスリット38A、38Bに対して挿入し易くするために画成されるものである。
【0047】
このようにして円柱形状の金属材を切削し、さらに研磨することで全体重厚感を備えた雌ホック本体29が形成可能となり、上記のように環状溝36内に一対の係合スプリング30を収容させることで雌ホック24を完成させることができる。こうして形成される雌ホック24は、従来のように薄肉のプレス加工品、絞り加工品ではなく、金属材を切削して形成されるため、全体重厚感のある外観を備えることとなり、意匠的にも優れたものとされる。すなわち本発明に係る雌ホックによれば、切削品で形成される全体扁平な厚さしかない雌ホック本体29において、雄ホック25を係合するための雌孔28、係合スプリング30を収容するための空間を効果的にレイアウトすることができる。これは、環状溝36、スリット38A、38B、雌孔28のそれぞれを効率的に配置したことによるものである。また図7に示す開口27の周部が平らとなり、この部分にブランド名等を刻印することで、より高級感を向上することができる。
【0048】
上記のようにして形成される押しホックの雌ホック24において、環状溝36内に収容される係合スプリング30は、スリット38A、38Bの数に対応させて2つ備えるようにしているが必ずしも2つとする必要はない。例えば図19に示す形状の屈曲可能な一本の可撓性を有する係合スプリング49や図20に示す引っ張りバネ50を備えた同じく可撓性を有する板バネ51をスリット38A、38Bの部分に配設し、対応させるようにしてもよい。また上記実施形態においては、スリット38A、38Bを凹部Dの中心Oを基準として、相互に異なる対向離隔位置に備えることとして2つ切削形成しているが、例えば凹部Dの中心Oを基準として45度ずつ離隔する位置にそれぞれ4つのスリットを形成し、各スリットから凹部に突出するように係合スプリングを環状溝内に配設することとしてもよい。
【0049】
さらに上記実施形態においては、各係合スプリング30の巻回部39を環状溝36内で位置決めするための湾曲凹部42を、環状溝36内の内周側に形成しているが、必ずしも内周側に形成する必要はなく外周側の所定の角度位置に形成することとしてもよい。
【0050】
さらに上記実施形態においては、環状溝36内に収容する係合スプリング30をねじりコイルバネにより形成しているが、図19に示すタイプのスプリング49や図20に示すタイプの板バネ51を採用してもよく、さらに環状溝36の内周部に当接するように巻回される引っ張りバネとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明に係る押しホックの雌ホック24によれば、全体重厚感のある外観を備え、意匠的にも優れた押しホックにおける雌ホックを提供できることとなり、こうした構成からなる雌ホックを高級ブランドバックや財布に採用することでその商品価値を高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0052】
1,24 雌ホック
2,29 雌ホック本体
2A,2B 組立材
3,27 開口
4,28 雌孔
5,30,49 係合スプリング
6A,6B 留め金具
7,21 被着面材
8,25 雄ホック
9,22 係合面材
10,26 窪み
20 財布
23 ポケット部
31,33 取付孔
32,34 留め具
35 留め孔
36 環状溝
37 周状凹部
38A,38B スリット
39 巻回部
40,41 アーム
42,48 湾曲凹部
43,44,46 バイト
45 回転切削具
47 中ぐりバイト
50 引っ張りバネ
51 板バネ
D 凹部
E 金属材
F チャック
G 中心孔
H1,H2,I,J,K 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体扁平で略円筒形状の外観を備え、円形をなす一端表面の中心に、全体凸条をなし、先頭部に対する後方周部に窪みを備えた押しホックの雄ホックを係入するための開口と、開口内部において開口より係入された雄ホックを収容するための空間からなる雌孔と、を備える雌ホック本体と、
上記雌ホック本体の雌孔の内部において、上記雌孔の内部中心側に向けて付勢され、開口より雌孔内に係入される雄ホックの窪みに対して係合可能とされる係合スプリングと、
を備え、雄ホックを上記雌孔に対して押すように係入され、雄ホックの窪みに係合スプリングを係合させることにより雄ホックとの係合を行い、雄ホックを雌孔から引き出すように係合スプリングの付勢力に抗して該スプリングと窪みとの係合を解くことで雌ホック本体からの雄ホックの係合を解除することとした押しホックの雌ホックにおいて、
上記雌ホック本体は、全体扁平な円柱形状の金属材を切削して全体略円筒形状の外観を備えるように形成するものとされ、円形をなす一端表面の中心において雄ホックを係入するための開口、開口内部において雄ホックを収容するための空間からなる雌孔は、円柱形状の金属材の円形をなす一端表面の中心に凹部を画成するようにして切削形成し、該凹部を画成した円柱形状の金属材の円形をなす他端裏面には、表面側の中心に画成された凹部の外周位置において、該他端裏面を切削する状態で周設する係合スプリングを収容するための環状溝を形成し、さらに該裏面側に形成する環状溝と表面側に形成する凹部との間には、凹部と環状溝との間を貫通し、凹部の中心を基準として相互に異なる対向する放射方向へと延説される少なくとも2つスリットを切削形成し、
上記係合スプリングは、環状溝内に収容されてそれぞれのスリットから凹部に向けて突出させるように付勢される係合体を備えるものとされ、
雄ホックを上記雌孔に対して押すように係入させ、雄ホックの窪みに各スリットから突出される係合スプリングの係合体を係合させることにより、雄ホックとの係合を行い、雄ホックを雌孔から引き出すように係合スプリングの付勢力に抗して該スプリングの係合体と窪みとの係合を解くことで雌ホック本体からの雄ホックの係合を解除することを可能とした押しホックの雌ホック。
【請求項2】
上記環状溝には、収容される係合スプリングが環状溝から脱落するのを防止するべく、環状溝内の雌ホック本体の中心を基準とする外周側に、係合スプリングの位置決め用の周状凹部を周設してなる請求項1に記載の押しホックの雌ホック。
【請求項3】
環状溝内に収容される係合スプリングは、凹部と環状溝の間に備えられるスリットの数に対応し、少なくとも2つ備えられるものとし、各係合スプリングは、巻回部を中心に2つのアームを異なる方向に延出してなり、各アームが巻回部を中心に離隔方向に付勢されるねじりコイルバネとされ、各ねじりコイルバネは、一方のアームを環状溝内の雌ホック本体の中心を基準とする外周側に当接して位置決めされ、他方のアームをスリットから凹部に向けて突出させるように付勢させ、該他方のアームの突出部分を上記雄ホックの窪みに対する係合体としてなる請求項1または請求項2のいずれかに記載の押しホックの雌ホック。
【請求項4】
上記環状溝内の雌ホック本体の中心を基準とする内周側、あるいは外周側の所定の角度位置には、収容される各ねじりコイルバネの巻回部を位置決め可能とする湾曲凹部を形成するようにした請求項3に記載の押しホックの雌ホック。
【請求項5】
上記環状溝内に収容され、少なくとも2つ備えられる各係合スプリングとしてのねじりコイルバネは、各スリットから突出される係合体としての他方のアームが、相互に平行状態となるように設定されるものである請求項3に記載の押しホックの雌ホック。
【請求項6】
上記環状溝内に収容され、少なくとも2つ備えられる各係合スプリングとしてのねじりコイルバネは、環状溝内の雌ホック本体の中心を基準とする外周側に当接して位置決めされる一方のアームの形状を、当接する外周部の曲率に相応するように湾曲させて形成するようにした請求項3に記載の押しホックの雌ホック。
【請求項7】
上記雌ホック本体の環状溝が形成される円形をなす他端裏面の中心位置には、円形をなす一端表面の凹部中心に向けて貫通され、他端裏面側から嵌入される留め具を挿通し、雌ホック本体を被着面材に止着するための留め孔を穿設することとした請求項1に記載の押しホックの雌ホック。

【図2】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−92403(P2011−92403A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249026(P2009−249026)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(390022482)株式会社エムアンドケイ・ヨコヤ (8)
【Fターム(参考)】