説明

抽出処理用のカートリッジ

【課題】試料溶液の付着による汚染を防止できるとともに、抽出処理の方式に関わらず共通して使用することができる、抽出処理用のカートリッジを提供する。
【解決手段】本発明は、試料溶液L1に含まれる所定の物質を抽出する抽出処理用のカートリッジ10であって、試料溶液L1を内部に収容するように筒状に形成されたカートリッジ胴部11と、カートリッジ胴部11の一方の端部に形成された上部開口11aと、カートリッジ胴部11の他方の端部に形成され、試料溶液L1の抽出処理による廃液L2を排出するための排出側開口13aが形成され、下方に突出する筒状の排出部13と、カートリッジ胴部11に収容され、所定の物質を吸着する吸着媒体Mと、を備え、排出部13の中間部には、必要に応じて破断して先端側を除去することで長さを短く調整するため少なくとも一つの破断部14が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧方式,遠心分離方式,及び、吸引方式などの抽出処理に使用されるカートリッジに関し、特に、核酸抽出に好適なカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ポストゲノム(post-genome)の研究等では、DNAやRNAの核酸抽出処理が行われている。核酸抽出処理においては、全血や組織を含む試料溶液を、核酸吸着媒体を備えた専用のカートリッジに注入し、ろ過工程によって、核酸を核酸吸着媒体に吸着させている。
【0003】
ろ過工程としては、カートリッジをエアで加圧し、試料溶液を核酸吸着媒体に透過する加圧方式と、遠心分離装置によって透過させる遠心分離方式と、吸引装置によって、試料溶液を吸引することで透過させる吸引方式とがある(例えば、下記非特許文献1など)。
【0004】
図6は、加圧方式のろ過システムを説明する図である。
図6に示すように、加圧装置60は、例えば、試料溶液L1を収容保持した円筒形状のカートリッジ61を、その上方端部に形成された鍔部62を保持機構H1に係止させて固定し、下端部64に突設された排出部63を廃液容器66に挿入させた状態で、該廃液容器66を保持機構H2に保持させる。ろ過処理時には、カートリッジ61の上方端部から図示しないエアポンプから加圧エアを供給し、試料溶液L1を圧力によって核酸吸着媒体Mを透過させる。そして、排出部63に形成された下部開口63aから廃液L2を排出させて、廃液L2を廃液容器66によって回収する。
【0005】
図7は、遠心分離方式のろ過システムを説明する図である。
図7に示すように遠心分離装置70は、カートリッジホルダ71を備えている。カートリッジホルダ71には、廃液容器74が傾斜された状態で保持され、該廃液容器74に、試料溶液L1を収容するとともに、上部開口が蓋部73によって密閉されたカートリッジ72が装填される。カートリッジホルダ71は、回転軸Cを中心に回転するように駆動制御される。遠心分離装置70は、カートリッジホルダ71を回転させることで、カートリッジ72に収容された試料溶液L1が核酸吸着媒体Mを透過して下部開口75から排出させ、廃液L2を廃液容器74に貯留させる構成である。
【0006】
【非特許文献1】QIAGEN社、製品QIAamp DNA Blood Mini Kit、[online]、[平成18年1月31日検索]、インターネット<http://www1.qiagen.com/Products/GenomicDnaStabilizationPurification/QIAampSystem/QIAampDNABloodMiniKit>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、加圧方式の抽出処理の場合には、図6に示すように、カートリッジ61の上部開口側から加圧エアを送るため、カートリッジ61の下端部64と廃液容器の開口部66aとの間には、供給されたエアを逃がすために隙間Sが形成されている。ここで、加圧エアの勢いによって排出部63の下部開口63aから排出された廃液L2が隙間Sから吹き出てしまうことを防止するため、排出部63の下方向に突出する長さを十分に確保する必要がある。
一方、遠心分離方式の抽出処理の場合には、カートリッジホルダ71に保持された廃液容器74に装填されたカートリッジ72が傾斜した状態で保持される。すると、廃液容器74に貯留した廃液L2に、カートリッジ72の排出部75の一部が浸漬し、排出部75に廃液L2が付着して汚染の原因となってしまう問題がある。このため、排出部75が廃液L2に付着しないように、下方に突出する長さを短くする必要がある。
このように、カートリッジは、加圧方式においては、排出部の長さを長くする必要がある一方で、遠心分離方式においては短くする必要があることから、いずれの方式にも対応した構成を備えたカートリッジに対応する要望があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、試料溶液の付着による汚染を防止できるとともに、抽出処理の方式に関わらず共通して使用することができる、抽出処理用のカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、試料溶液に含まれる所定の物質を抽出する抽出処理用のカートリッジであって、前記試料溶液を内部に収容するように筒状に形成されたカートリッジ胴部と、前記カートリッジ胴部の一方の端部に形成された上部開口と、前記カートリッジ胴部の他方の端部に形成され、前記試料溶液の抽出処理による廃液を排出するための排出側開口が形成され、下方に突出する筒状の排出部と、前記カートリッジ胴部に収容され、前記所定の物質を吸着する吸着媒体と、を備え、前記排出部の中間部には、必要に応じて破断して先端側を除去することで長さを短く調整するため少なくとも一つの破断部が設けられていることを特徴とする抽出処理用のカートリッジによって達成される。
【0010】
本発明の抽出処理用のカートリッジは、加圧方式によって抽出処理を行う際には、排出部の長さを短くすることなく廃液容器に装填することができ、排出部の長さを必要十分に設定することで、供給された加圧エアの勢いによって廃液容器とカートリッジとの隙間から廃液が吹き出てしまうことが防止できる。また、遠心分離方式によって抽出処理を行う際には、カートリッジを廃液容器に装填した状態で、排出部の一部が廃液容器に貯留する廃液に浸漬することがないように、排出部の先端側を破断部で破断させることで、排出部の長さを短く調整することができる。さらに、吸引方式による抽出処理を行う場合には、カートリッジの排出部の先端部を吸引装置側の吸引アダプタに接続すればよく、排出部の長さを考慮する必要がない。このように本発明にかかるカートリッジによれば、抽出処理を行う際に、加圧方式や遠心分離方式や吸引方式といった方式にかかわらず、同一の構成のカートリッジを採用することができ、方式ごとに排出部の長さが異なるカートリッジを使い分ける必要がなく、使用者にとって簡便に取り扱うことができる。
【0011】
上記カートリッジは、破断部が排出部の一部を薄肉によって形成された部位であることが好ましい。こうすれば、使用者が、遠心分離方式の抽出処理を行う場合には、排出部における薄肉の部位を手指で押し曲げて先端側を破断させることで、排出部の長さを容易に調整することができる。また、排出部の一部を薄肉にする構成であるため、カートリッジを樹脂等で一体成形することができ、製造コストの増減を抑えることができる。
【0012】
上記カートリッジは、特に、試料溶液に含まれる核酸を抽出する抽出処理に用いることに好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試料溶液の付着による汚染を防止できるとともに、抽出処理の方式に関わらず共通して使用することができる、抽出処理用のカートリッジを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、本発明にかかる抽出処理用のカートリッジの第1実施形態の構成を示す斜視図である。図2は、カートリッジの要部断面図である。なお、本実施形態では、全血,組織からDNAを抽出する工程や、培養細胞,組織からRNAを抽出する工程において、試料溶液を含まれる核酸を抽出する核酸抽出処理を例に説明する。しかし、本発明にかかる抽出処理用のカートリッジは、核酸抽出処理に限定されず、その他の抽出処理に用いることができる。
【0015】
図1に示すように、カートリッジ10は、円筒形状を有するカートリッジ胴部11を有している。カートリッジ胴部11の内部には試料溶液を収容する空間がある構成である。カートリッジ胴部11の一方の端部(本実施形態において上側の端部)には、試料溶液を注入するための上方開口11aが設けられ、他方の端部(本実施形態において下側の端部)には、抽出処理時に、廃液を排出する排出側開口13aが設けられている。上方開口11aの外周側縁部には、庇状に突設された鍔部15が形成されている。
【0016】
カートリッジ胴部11の下部には、漏斗状の底部12が形成され、該底部12の中央には、下方に突出し、且つ、カートリッジ胴部11より小径であって、円筒形状を有する排出部13が設けられている。排出部13に、カートリッジ胴部11の内部に連通するように、排出側開口13aが形成されている。
【0017】
カートリッジ胴部11の底部12の上部には、試料溶液に含まれる所定の物質(本実施形態では核酸)を吸着して保持するため、多孔性物質で構成された吸着部材Mが備えられている。
【0018】
カートリッジ10は、上部開口11aに図示しない蓋部を取り付けてもよい。蓋部は着脱自在に構成されていることが好ましい。また、蓋部と一部がカートリッジ胴部とが一体に連結された構成としてもよい。
【0019】
カートリッジ10において、排出部13の長手方向(上下方向)の中間部には、破断部14が形成されている。本実施形態において、破断部14は、排出部13の一部を薄肉によって形成された部位である。破断部が排出部の一部を薄肉によって形成された部位である構成とすれば、使用者が、遠心分離方式の抽出処理を行う場合には、排出部13における薄肉の部位を手指で押し曲げて先端側の部位13Aを破断させることで、排出部13の長さを容易に調整することができる。また、排出部13の一部を薄肉にする構成であるため、カートリッジ10を樹脂等で一体成形することができ、製造コストの増減を抑えることができる。
【0020】
図2(a)及び(b)に示すように、必要に応じて排出部13を破断部14において破断させ、排出部13の先端側の部位13Bを取り除くことができる。すると、排出部13の長さが、カートリッジ胴部11側に残留した部位13Aの長さとなり、排出部13の長さを短く調整することができる。
【0021】
排出部13において、破断部14を形成する位置は適宜設定することができる。ここで、排出部13の長さは、破断させる前において、加圧方式の抽出処理の際に、排出部13の先端部が廃液容器の内部まで十分に挿入される長さとすることが好ましい。また、排出部13の長さは、先端側を破断部において破断させた後で、遠心分離方式の抽出処理の際に、排出部13の先端部が廃液容器に貯留される廃液に浸漬しないように、破断部の位置が設定されていることが好ましい。
【0022】
図3は、本実施形態のカートリッジの変形例を示す要部断面図である。図3に示すように、排出部23に、複数(図3においては2つ)の破断部が形成されていてもよい。こうすれば、抽出処理において、複数の工程で排出部を調整することができる。例えば、最初の工程で第1の破断部24aにおいて排出部23の先端部23Aを破断させて取り除くことで、排出部23の長さを一段階短くすることができ、また、次の工程で、第2の破談部24bにおいて排出部23の中間部分23Bを破断させて取り除き、基端部23Cのみを残すことで排出部23の長さを更に一段階短くすることができる。
【0023】
しかし、本実施形態のカートリッジのように、排出部には少なくとも一つの破断部を設けることで、後述するように、加圧方式と遠心分離方式との両方の方式において、同じ構成のカートリッジを使用することができる。
【0024】
図4は、本実施形態のカートリッジを使用した加圧方式の抽出処理の手順を説明する図である。なお、以下に説明する手順において、すでに説明した部材などと同等な構成・作用を有する部材等については、図中に同一符号又は相当符号を付すことにより、説明を簡略化或いは省略する。
【0025】
最初に、図4(a)に示すように、試料溶液L1を収納したカートリッジ10を廃液容器41に装填する。このとき、カートリッジ10の排出部13は、破断させない状態で、廃液容器41に貯留する廃液に接触することなく、且つ、排出部13の先端部が、廃液容器の開口から内部下方へ十分に進入された状態とする。
【0026】
次に、図4(b)に示すように、加圧装置のエアノズル42を、カートリッジ胴部11の上部開口11aに接続し、加圧エアを供給し、カートリッジ胴部11の内部の圧力を上昇させることで、試料溶液L1を吸着媒体Mに透過させて、透過した廃液L2を廃液容器41に貯留させる。
【0027】
抽出後に、排出部13の下部開口13aの先端側には、微量の廃液が残渣Rとして残存してしまいやすい傾向がある。このような場合には、排出部13を破断部14において破断して、先端側の部位13Bを取り除くことで残渣Rが排出部13の下部開口13aに残ったままの状態となることを回避することができ、カートリッジの汚染を防止することができる。
【0028】
排出部13の先端側の部位13Bを取り除いた後、カートリッジ10を回収容器43に装填し、回収液を注入した後、エアノズル42から加圧エアを供給し、回収液を吸着媒体Mに透過させることで、吸着媒体Mに吸着した核酸などの所定の物質を回収することができる。
【0029】
図5は、本実施形態のカートリッジを使用した遠心分離方式の抽出処理の手順を説明する図である。
最初に、図5(a)に示すように、カートリッジ10を遠心分離装置用の廃液容器51に装填する前に、排出部13を破断部14において破断させて先端側の部位13Bを取り除き、排出部13の長さを所定の長さに調整する。その後、カートリッジ10を廃液容器51に装填する。なお、遠心分離方式の場合には、図5(b)に示すように、廃液容器51に装填させた状態でカートリッジ10をホルダ54に保持させるとともに回転させるため、試料溶液L1がカートリッジ10の上部開口からこぼれ出てしまうことを防止するため、上部開口が蓋部52によって密閉されている。
【0030】
排出部13の先端側の部位13Bを予め破断させることにより、排出部13の長さを調整しておくことで、排出部13の一部が廃液容器51貯留される廃液L2に接触してしまうことを防止することができる。
【0031】
遠心分離機を駆動させてホルダ54を回動させることで、カートリッジ10及び試料溶液L1に遠心力を付与せしめることによって、試料溶液L1を吸着媒体に透過させ、下部開口13aから排出される廃液L2を廃液容器51に貯留させる。
【0032】
遠心分離後、カートリッジ10を廃液容器51から取り出し、回収容器53に装填する。そして、カートリッジ10に回収液L3を注入し、吸着媒体Mに吸着した核酸等の所定の物質を回収容器53において回収する。
【0033】
このように、本実施形態のカートリッジ10は、加圧方式によって抽出処理を行う際には、排出部13の長さを短くすることなく廃液容器41に装填することができ、排出部13の長さを必要十分に設定することで、供給された加圧エアの勢いによって廃液容器41とカートリッジ10との隙間から廃液が吹き出てしまうことが防止できる。また、遠心分離方式によって抽出処理を行う際には、カートリッジ10を廃液容器51に装填した状態で、排出部13の一部が廃液容器51に貯留する廃液L2に浸漬することがないように、排出部13の先端側の部位13Bを破断部14で破断させることで、排出部13の長さを短く調整することができる。なお、吸引方式による抽出処理を行う場合には、カートリッジの排出部の先端部を吸引装置側の吸引アダプタに接続すればよく、排出部の長さを考慮する必要がない。
【0034】
このように本発明にかかるカートリッジ10によれば、抽出処理を行う際に、加圧方式や遠心分離方式や吸引方式といった方式にかかわらず、同一の構成のカートリッジを採用することができ、方式ごとに排出部の長さが異なるカートリッジを使い分ける必要がなく、使用者にとって簡便に取り扱うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明にかかる抽出処理用のカートリッジの第1実施形態の構成を示す斜視図である。
【図2】カートリッジの要部断面図である。
【図3】カートリッジの変形例を示す要部断面図である。
【図4】カートリッジを使用した加圧方式の抽出処理の手順を説明する図である。
【図5】カートリッジを使用した遠心分離方式の抽出処理の手順を説明する図である。
【図6】加圧方式のろ過システムを説明する図である。
【図7】遠心分離方式のろ過システムを説明する図である。
【符号の説明】
【0036】
10,20 カートリッジ
11 カートリッジ胴部
13 排出部
14 破断部
M 吸着媒体
L1 試料溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液に含まれる所定の物質を抽出する抽出処理用のカートリッジであって、
前記試料溶液を内部に収容するように筒状に形成されたカートリッジ胴部と、
前記カートリッジ胴部の一方の端部に形成された上部開口と、
前記カートリッジ胴部の他方の端部に形成され、前記試料溶液の抽出処理による廃液を排出するための排出側開口が形成され、下方に突出する筒状の排出部と、
前記カートリッジ胴部に収容され、前記所定の物質を吸着する吸着媒体と、を備え、
前記排出部の中間部には、必要に応じて破断して先端側を除去することで長さを短く調整するため少なくとも一つの破断部が設けられていることを特徴とする抽出処理用のカートリッジ。
【請求項2】
前記破断部が前記排出部の一部を薄肉によって形成された部位であることを特徴とする請求項1に記載の抽出処理用のカートリッジ。
【請求項3】
前記試料溶液に含まれる核酸を抽出する抽出処理に用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の抽出処理用のカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−209212(P2007−209212A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29834(P2006−29834)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】