説明

抽出装置

【課題】容易な構成で、有機溶媒を利用せずとも、短時間で効率よく藻類から産生物を抽出する。
【解決手段】抽出装置100は、親油性を有し、産生物を吸着可能な吸着フィルタ110、112と、吸着フィルタ110、112と藻類Aとを圧接することで、藻類Aに含まれる産生物を吸着フィルタ110、112に吸着させる圧接部140と、吸着フィルタ110、112から藻類Aを分離する分離部150と、藻類Aが分離された吸着フィルタ110、112を圧搾して産生物を回収する圧搾部160と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類から産生物を抽出する抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオ燃料(炭化水素やバイオディーゼル)や、アスタキサンチン等の生理活性物質を産生することができる藻類(特に、微細藻類)が注目されており、このような藻類を大量に培養し、石油に換わるエネルギーとして利用したり、薬や化粧品、食品等に利用したりすることが検討されている。このような藻類の中でも、特に、ボツリオコッカス(Botryococcus)属の藻類は、炭化水素を産生する能力に優れており、藻体全量に対する炭化水素の含有量が乾燥重量で20〜40%程度と高い。
【0003】
従来、ボツリオコッカス属の藻類のように、疎水性の産生物を産生する藻類から産生物を抽出する技術として、藻類を含む培養液を濾過することで湿藻体を分離し、その湿藻体を凍結乾燥させた後、または加温して乾燥させた後、かかる藻体乾燥物をn−ヘキサンや、メタノール−クロロホルム(1:1)等の有機溶媒に浸漬することで、当該有機溶媒中に産生物を溶解させて抽出する技術が挙げられる。
【0004】
しかし、このような技術では、湿藻体を乾燥させる必要があるため、抽出のために長時間を要し、また乾燥のために電力等、エネルギーを多大に要していた。
【0005】
そこで、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコールのいずれかの有機溶媒を用いて、乾燥工程を経ず湿藻体から産生物を直接抽出する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の技術を利用する場合であっても、従来の湿藻体を乾燥させて抽出する技術と同様に、培養液と湿藻体を分離する必要がある。培養液と湿藻体を分離する方法として、例えば、遠心分離が用いられるが、培養液中の藻類の濃度は、0.2重量%程度と薄いため、湿藻体を分離するために長時間を要してしまう。
【0008】
また、特許文献1の技術では、湿藻体の数十倍量といった大量の有機溶媒を必要とし、また抽出効率の向上を試みると、抽出時間も24時間程度といった長時間を要してしまう。
【0009】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、容易な構成で、有機溶媒を利用せずとも、短時間で効率よく藻類から産生物を抽出することが可能な抽出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の抽出装置は、藻類から当該藻類が産生した産生物を抽出する抽出装置であって、親油性を有し、産生物を吸着可能な吸着フィルタと、吸着フィルタと藻類とを圧接することで、藻類に含まれる産生物を吸着フィルタに吸着させる圧接部と、吸着フィルタから藻類を分離する分離部と、藻類が分離された吸着フィルタを圧搾して産生物を回収する圧搾部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
藻類は、ボツリオコッカス属に属する藻類であり、産生物は炭化水素であってもよい。
【0012】
上記培養装置の吸着フィルタは、帯状に構成され、圧接部は、互いに対向する1組の第1ローラを含んで構成され、圧搾部は、互いに対向する1組の第2ローラを含んで構成されるとともに、圧接部の下流に設けられ、圧搾部による圧搾の圧力は、圧接部による圧接の圧力よりも大きくてもよい。
【0013】
上記培養装置は、圧接部の上流に位置する吸着フィルタを通過した溶液、または、圧接部による圧接によって藻類から放出された親水性物質の少なくともいずれかを、圧搾部による圧搾後の吸着フィルタに通過させ、圧搾後の吸着フィルタに残留する藻類を排除する排除機構をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、容易な構成で、有機溶媒を利用せずとも、短時間で効率よく藻類から産生物を抽出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】抽出装置を説明するための説明図である。
【図2】圧接部による圧接処理を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
(抽出装置100)
図1は、本実施形態にかかる抽出装置100を説明するための説明図である。図1に示すように抽出装置100は、吸着フィルタ110、112と、回転ローラ120a、120b、122a、122bと、供給部130と、圧接部140と、分離部150と、圧搾部160とを含んで構成される。本実施形態では、説明の便宜上、藻類Aを抽出装置100に対して大きく表現しているが、実際は、粒径が数十〜数百μm程度である。
【0018】
本実施形態において、抽出装置100は、ボツリオコッカス属に属する藻類(例えば、Botryococcus braunii)から産生物として炭化水素を抽出する場合を例に挙げて説明する。また、抽出装置100は、Scenedesmus rubescensから炭化水素を抽出してもよいし、Crypthecodinium cohniiからドコサヘキサエン酸を抽出しても、Nannochloropsis sp.からエイコサペンタエン酸を抽出しても、Chlorella protothecoidesから脂肪酸メチルエステルを抽出しても、Dunaliella tertiolectaからトリグリセリドを抽出しても、Haematococcus pluvialisからアスタキサンチンを抽出してもよい。
【0019】
吸着フィルタ110、112は、帯(ベルト)状に形成されたフィルタであり、親油性(疎水性)を有する部材で構成される。ここで、吸着フィルタ110、112の目の粗さ(孔の径)は、藻類Aを通過させず、溶液(培養液M)を通過させる程度の大きさである。
【0020】
また、吸着フィルタ110、112は、両端が閉じられた無端ベルト形状に形成されており、吸着フィルタ110は、回転ローラ120a、120bによって張架され、吸着フィルタ112は、回転ローラ122a、122bによって張架される。そして、回転ローラ120a、120bによる回転動作によって吸着フィルタ110が移動し、また、回転ローラ122a、122bによる回転動作によって吸着フィルタ112が移動することとなる。
【0021】
ここで吸着フィルタ110、112は、回転ローラ120a、120b、122a、12bによって、後述する圧接部140、分離部150、圧搾部160を通過して、再度圧接部140に戻り、繰り返し移動するように構成されている。
【0022】
供給部130は、吸着フィルタ110、112の移動方向における圧接部140の上流に位置し、藻類Aを含む培養液Mである藻類液Gを鉛直上方から吸着フィルタ110に向かって供給する。ここで供給部130が供給する藻類液Gは、不図示の培養槽で培養された状態のまま(例えば、培養液中の藻類が0.2重量%程度)の藻類液である。
【0023】
そうすると、培養液Mの一部は、吸着フィルタ110を自重により通過(落下)し、吸着フィルタ110から排除され、藻類Aは吸着フィルタ110上に残留することとなる。なお、供給部130は、吸着フィルタ110が目詰まりせず、培養液Mが吸着フィルタ110から十分排除される速度で、藻類液Gを吸着フィルタ110に供給する。供給部130は、藻類液Gを吸着フィルタ110の移動方向に連続して供給してもよいし、藻類液Gを吸着フィルタ110の移動方向に供給しつつ、その供給位置を吸着フィルタ110の幅方向(図中Y軸方向)に往復させ、藻類液Gが幅方向に均一に供給されるようにしてもよい。
【0024】
圧接部140は、互いに対向する1組の第1ローラ142a、142bを含んで構成され、第1ローラ142a、142b同士で吸着フィルタ110、112に圧力を加えた状態で、第1ローラ142a、142bの間に吸着フィルタ110、112を通過させて、吸着フィルタ110、112と藻類Aとを圧接する。本実施形態においては、回転ローラ122aが第1ローラ142bとしても機能する。ここで、第1ローラ142a、142bによる圧接の圧力は、藻類Aを死滅させない圧力以下で、かつ、藻体の内部から炭化水素を押し出すことが可能な圧力以上である。
【0025】
図2は、圧接部140による圧接処理を説明するための説明図である。図2に示すように、吸着フィルタ110と吸着フィルタ112との間に藻類Aが位置した状態で、圧接部140を構成する第1ローラ142a、142b(122a)の間を通過すると、第1ローラ142aと、第1ローラ142bによって、吸着フィルタ110と藻類Aとが圧接され、吸着フィルタ112と藻類Aとが圧接される。
【0026】
そうすると、藻類Aの藻体内から親水性物質P(藻類Aの細胞液や水等)および炭化水素Cが押し出される。上述したように、吸着フィルタ110、112は、親油性を有するため、藻類Aの藻体内から押し出された炭化水素Cは、吸着フィルタ110、112に吸着される。一方、藻類Aの藻体内から押し出された親水性物質Pは、吸着フィルタ110、112に吸着されないため、その自重で鉛直下方に落下するとともに、吸着フィルタ110を通過することとなる。
【0027】
すなわち、圧接部140が、吸着フィルタ110、112と藻類Aとを圧接することで、藻類Aを押し潰して、藻体内から藻体外へ親水性物質Pと炭化水素Cを放出させることができ、また、吸着フィルタ110、112を、親油性を有する部材で構成することで、有機溶媒を利用せずとも、放出された親水性物質Pと炭化水素Cとを分離することができる。
【0028】
図1に戻って説明すると、分離部150は、吸着フィルタ110、112の移動方向における圧接部140の下流に位置し、吸着フィルタ110、112上に圧接された藻類Aを吸着フィルタ110、112から分離する。
【0029】
ボツリオコッカス類に属する藻類は、藻体内に炭化水素を多く含むため、小さい圧力で押し潰しても、藻体内から外部へ多量に炭化水素を放出する。したがって、圧接部140が、死滅しない程度の小さい圧力で藻類Aを圧接しても多くの炭化水素Cを回収することができる。このように死滅しない程度の圧力で圧接した後の藻類Aを再度培養すれば、炭化水素Cを産生することができる。したがって、分離部150が吸着フィルタ110、112から圧接後の藻類Aを分離し、その藻類Aを回収することで、藻類Aを再度利用することが可能となる。
【0030】
また、分離部150が後述する圧搾部160の上流で吸着フィルタ110、112から藻類Aを分離することで、圧搾部160は、分離部150によって藻類Aが分離され、炭化水素Cのみが吸着された吸着フィルタ110、112を圧搾することとなる。したがって、圧搾部160によって回収される炭化水素Cへの、藻類Aを構成する細胞壁や細胞膜、細胞内構成物といった不純物の混入を低減することが可能となる。
【0031】
圧搾部160は、互いに対向する2組の第2ローラ162a、162b、および、第2ローラ164a、164bを含んで構成されるとともに、圧接部140の下流に設けられる。ここで、第2ローラ162a、162bは、藻類Aが分離され、炭化水素Cが吸着された吸着フィルタ110を通過させることで、吸着フィルタ110を圧搾して炭化水素Cを回収する。また、並行して、第2ローラ164a、164bは、藻類Aが分離され、炭化水素Cが吸着された吸着フィルタ112を通過させることで、吸着フィルタ112を圧搾して炭化水素Cを回収する。
【0032】
なお、圧搾部160による圧搾の圧力は、圧接部140による圧接の圧力よりも大きくなっている。これにより、圧接部140によって、吸着フィルタ110、112に吸着された炭化水素Cを確実に圧搾して回収することができる。
【0033】
ところで、上述したように、供給部130から吸着フィルタ110へ供給された藻類液Gのうち、培養液M、および、圧接部140による圧接によって藻類Aから放出された親水性物質Pは、吸着フィルタ110を通過する。本実施形態において、吸着フィルタ110の移動経路は、この吸着フィルタ110を通過した培養液Mおよび親水性物質Pが、圧搾部160を通過した吸着フィルタ110を再度通過するように構成されている(排除機構)。
【0034】
これにより、圧搾部160を通過した吸着フィルタ110に残留する藻類Aを培養液Mおよび親水性物質Pで排除することができ、また吸着フィルタ110の乾燥を防止することが可能となる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態にかかる抽出装置100は、吸着フィルタ110、112を、親油性を有する部材で構成し、圧接部140による藻類Aの圧接によって藻体内から放出された親水性物質Pおよび炭化水素Cを、吸着フィルタ110、112に接触させることで、吸着フィルタ110、112に炭化水素Cのみを吸着させることができる。また、炭化水素Cを吸着した吸着フィルタ110、112を圧搾部160で圧搾することで、炭化水素Cのみを確実かつ容易に回収することが可能となる。
【0036】
このように、抽出装置100によれば、有機溶媒を利用せずとも、短時間で効率よく藻類から産生物(炭化水素)を抽出することが可能となる。
【0037】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0038】
例えば、上述した実施形態では、吸着フィルタを2つ(吸着フィルタ110、112)設置する構成としたため、圧搾部160として、第2ローラ162a、162b、164a、164bを含んで構成される例について説明した。しかし、吸着フィルタを1つ設置する場合、圧搾部160は少なくとも1組の第2ローラがあれば足りる。
【0039】
また、上述した実施形態において、抽出装置100は、吸着フィルタ110、112を帯状で構成し、圧接部140および圧搾部160を、ローラを含む構成とする、いわゆるベルトプレス方式の構成を例に挙げて説明した。しかし、例えば、吸着フィルタを、可撓性を有する容器とし、吸着フィルタの中に藻類液を供給して、藻類のみを吸着フィルタ内に留めておき、圧接部が吸着フィルタの両側から圧接し、その後、吸着フィルタから藻類を除去した後、圧搾部が吸着フィルタを圧搾する構成としてもよい。
【0040】
さらに、仮に、圧搾部160が吸着フィルタ110、112を圧搾して回収した炭化水素Cに少量の親水性物質が含まれている場合、有機溶媒を利用して、炭化水素Cを精製してもよい。この場合であっても、藻体を直接有機溶媒に浸漬する場合と比較して、極めての少量(例えば、1/10000程度)の有機溶媒で、産生物を効率よく抽出することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、藻類から産生物を抽出する抽出装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
A …藻類
C …炭化水素
G …藻類液
M …培養液
P …親水性物質
100 …抽出装置
110、112 …吸着フィルタ
130 …供給部
140 …圧接部
150 …分離部
160 …圧搾部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類から当該藻類が産生した産生物を抽出する抽出装置であって、
親油性を有し、前記産生物を吸着可能な吸着フィルタと、
前記吸着フィルタと前記藻類とを圧接することで、前記藻類に含まれる前記産生物を該吸着フィルタに吸着させる圧接部と、
前記吸着フィルタから前記藻類を分離する分離部と、
前記藻類が分離された前記吸着フィルタを圧搾して前記産生物を回収する圧搾部と、
を備えたことを特徴とする抽出装置。
【請求項2】
前記藻類は、ボツリオコッカス属に属する藻類であり、
前記産生物は炭化水素であることを特徴とする請求項1に記載の抽出装置。
【請求項3】
前記吸着フィルタは、帯状に構成され、
前記圧接部は、互いに対向する1組の第1ローラを含んで構成され、
前記圧搾部は、互いに対向する1組の第2ローラを含んで構成されるとともに、前記圧接部の下流に設けられ、
前記圧搾部による圧搾の圧力は、前記圧接部による圧接の圧力よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の抽出装置。
【請求項4】
前記圧接部の上流に位置する吸着フィルタを通過した溶液、または、該圧接部による圧接によって前記藻類から放出された親水性物質の少なくともいずれかを、前記圧搾部による圧搾後の吸着フィルタに通過させ、該圧搾後の吸着フィルタに残留する藻類を排除する排除機構をさらに備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の抽出装置。

【図1】
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【図2】
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