説明

拡散物質の発生源推定装置および発生源推定方法

【課題】より柔軟且つ簡便に発生源を推定し得る拡散物質の発生源推定装置および発生源推定方法を提供する。
【解決手段】観測器5−i(i=1〜n)の位置情報および計測した濃度情報を観測情報入手部21によって入手し、仮想格子設定部22により仮想格子上で仮想放出地点Poj(j=1〜m)を設定し、影響関数算出部24により影響関数Dijを算出し、残差ノルム算出部25により、仮想放出地点Poj毎に、各観測器5−iの濃度情報と、各観測器5−iの該仮想放出地点Pojに対する影響関数Dijと該仮想放出地点Pojの放出強度qとの積と、の差の平方和である残差ノルムR(q)を算出し、推定部26により、算出された全仮想放出地点の残差ノルムの内、残差ノルムが最小となる仮想放出地点を放出地点と推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散物質の発生源を推定する拡散物質の発生源推定装置および発生源推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラント施設(火力発電所、ゴミ焼却施設、化学プラント等)での事故等による汚染物質の放出や、テロ等による毒性ガス等の放出に対して、その発生源を同定して即座に対処する必要性から、事故または事件の現場情報(濃度計測値等)から発生源情報(放出地点の位置および発生量)を推定する拡散物質の発生源推定装置および発生源推定方法について各種技法が提案されている。
【0003】
例えば、非特許文献1の「センシング情報を用いた応答係数法に基づく環境影響物質の発生源同定法」では、仮想の放出点および時刻等の情報に基づき観測位置での影響を評価し、変分原理によって誤差を最小とする放出点を求め、該放出点における時刻および放出量を同定する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】石田義洋,加藤信介,樋山恭助,“センシング情報を用いた応答係数法に基づく環境影響物質の発生源同定法(第2報)”,平成21年度空気調和・衛生工学学術講演会講演論文集,(2009年9月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した非特許文献1に開示された技術においては、観測点の数が仮想の放出点の数より多くなければならないという制約があり、より柔軟に拡散物質の発生源を推定し得る手法が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであって、より柔軟且つ簡便に発生源を推定し得る拡散物質の発生源推定装置および発生源推定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用する。
本発明に係る拡散物質の発生源推定装置は、複数個の観測器からの情報に基づき、ガス発生源情報を推定する拡散物質の発生源推定装置であって、前記観測器の位置情報および計測した濃度情報を入手する観測情報入手手段と、相互の離間距離が一定の仮想格子上で各格子線が交差する位置を仮想放出地点として設定する仮想格子設定手段と、拡散モデルを用いて、前記観測器と前記仮想放出地点との相対位置、並びに相対時刻に応じて定まる影響関数を算出する影響関数算出手段と、前記仮想放出地点毎に、各観測器の濃度情報と、各観測器の該仮想放出地点に対する影響関数と該仮想放出地点の放出強度との積と、の差の平方和である残差ノルムを算出する残差ノルム算出手段と、算出された全仮想放出地点の残差ノルムの内、残差ノルムが最小となる仮想放出地点を放出地点と推定する推定手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、設定した仮想放出地点毎の残差ノルムを評価して、該残差ノルムが最小となる放出強度を求め、該放出強度の仮想放出地点を放出位置とし、また該放出強度を該放出位置からの放出量として推定するので、「観測地点の数≧仮想放出地点の数」という制約を持つことなく放出地点を推定することができ、より柔軟且つ簡便に発生源を推定し得る拡散物質の発生源推定装置を実現することができる。
【0009】
また、本発明は、上記記載の拡散物質の発生源推定装置において、前記影響関数算出手段は、数値拡散計算により前記影響関数を算出することを特徴とする。
【0010】
例えば、平地一様流場では拡散モデルを用いて影響関数を算出し、また複雑気流場では数値拡散(シミュレーション)計算により影響関数を算出することで、様々な地形における拡散に対してより精度良く発生源を推定することができる。
【0011】
また、本発明は、上記記載の拡散物質の発生源推定装置において、仮想格子設定手段は、前記推定手段で推定された放出地点を含み、且つ相互の離間距離がより短い仮想格子上で各格子線が交差する位置を仮想放出地点として再設定することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、格子線の相互の離間距離が相対的に長い仮想格子から相対的に短い仮想格子へと絞り込みながら仮想放出地点を再設定して発生源を推定するようにすれば、離間距離を最短とした1面の仮想格子上で仮想放出地点を設定して発生源を推定する場合と比べて、1面の仮想格子上での仮想放出地点数を格段に小さくすることができ、全体的な処理の計算量を抑制してより速い発生源の推定を行うことができる。
【0013】
また、本発明は、上記記載の拡散物質の発生源推定装置において、仮想放出時刻を設定する仮想放出時刻設定手段、を備え、前記残差ノルム算出手段は、仮想放出時刻別に各仮想放出地点毎の残差ノルムを算出し、前記推定手段は、仮想放出時刻別に算出された全仮想放出地点の残差ノルムの内、残差ノルムが最小となる仮想放出時刻および仮想放出地点をそれぞれ放出時刻および放出地点と推定することを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、放出時刻が不明な場合でも仮想放出時刻設定手段によって仮想放出時刻を設定することで、より柔軟に発生源を推定し得る拡散物質の発生源推定装置を実現することができる。
【0015】
また、本発明は、上記記載の拡散物質の発生源推定装置において、前記影響関数算出手段は、想定される前記観測器と前記仮想放出地点との相対位置およびまたは相対時刻に応じた影響関数を予め算出してデータベースに保存しておくことを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、データベースを参照して予め算出した影響関数を処理に用いることにより、影響関数を算出する処理分の計算量を排除することができ、全体的な処理の計算量を低減して計算時間を短縮し、より速く発生源の推定を行うことができる。
【0017】
また、本発明に係る拡散物質の発生源推定方法は、複数個の観測器からの情報に基づき、ガス発生源情報を推定する拡散物質の発生源推定方法であって、前記観測器の位置情報および計測した濃度情報を入手する観測情報入手ステップと、相互の離間距離が一定の仮想格子上で各格子線が交差する位置を仮想放出地点として設定する仮想格子設定ステップと、拡散モデルを用いて、前記観測器と前記仮想放出地点との相対位置、並びに相対時刻に応じて定まる影響関数を算出する影響関数算出ステップと、前記仮想放出地点毎に、各観測器の濃度情報と、各観測器の該仮想放出地点に対する影響関数と該仮想放出地点の放出強度との積と、の差の平方和である残差ノルムを算出する残差ノルム算出ステップと、算出された全仮想放出地点の残差ノルムの内、残差ノルムが最小となる仮想放出地点を放出地点と推定する推定ステップと、を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、設定した仮想放出地点毎の残差ノルムを評価して、該残差ノルムが最小となる放出強度を求め、該放出強度の仮想放出地点を放出位置とし、また該放出強度を該放出位置からの放出量として推定するので、「観測地点の数≧仮想放出地点の数」という制約を持つことなく放出地点を推定することができ、より柔軟且つ簡便に発生源を推定し得る拡散物質の発生源推定方法を実現することができる。
【0019】
また、本発明は、上記記載の拡散物質の発生源推定方法において、前記影響関数算出ステップは、数値拡散計算により前記影響関数を算出することを特徴とする。
【0020】
例えば、平地一様流場では拡散モデルを用いて影響関数を算出し、また複雑気流場では数値拡散(シミュレーション)計算により影響関数を算出することで、様々な地形における拡散に対してより精度良く発生源を推定することができる。
【0021】
また、本発明は、上記記載の拡散物質の発生源推定方法において、記仮想格子設定ステップは、前記推定ステップで推定された放出地点を含み、且つ相互の離間距離がより短い仮想格子上で各格子線が交差する位置を仮想放出地点として再設定することを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、格子線の相互の離間距離が相対的に長い仮想格子から相対的に短い仮想格子へと絞り込みながら仮想放出地点を再設定して発生源を推定するようにすれば、離間距離を最短とした1面の仮想格子上で仮想放出地点を設定して発生源を推定する場合と比べて、1面の仮想格子上での仮想放出地点数を格段に小さくすることができ、全体的な処理の計算量を抑制してより速い発生源の推定を行うことができる。
【0023】
また、本発明は、上記記載の拡散物質の発生源推定方法において、仮想放出時刻を設定する仮想放出時刻設定ステップ、を備え、前記残差ノルム算出ステップは、仮想放出時刻別に各仮想放出地点毎の残差ノルムを算出し、前記推定ステップは、仮想放出時刻別に算出された全仮想放出地点の残差ノルムの内、残差ノルムが最小となる仮想放出時刻および仮想放出地点をそれぞれ放出時刻および放出地点と推定することを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、放出時刻が不明な場合でも仮想放出時刻設定ステップによって仮想放出時刻を設定することで、より柔軟に発生源を推定し得る拡散物質の発生源推定方法を実現することができる。
【0025】
さらに、本発明は、上記記載の拡散物質の発生源推定方法において、前記影響関数算出ステップは、想定される前記観測器と前記仮想放出地点との相対位置およびまたは相対時刻に応じた影響関数を予め算出してデータベースに保存しておくことを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、データベースを参照して予め算出した影響関数を処理に用いることにより、影響関数を算出する処理分の計算量を排除することができ、全体的な処理の計算量を低減して計算時間を短縮し、より速く発生源の推定を行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、観測地点数に制約を持つことなく放出地点を推定することができ、より柔軟且つ簡便に発生源を推定し得る拡散物質の発生源推定装置および発生源推定方法を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態に係る拡散物質の発生源推定装置の構成図である。
【図2】拡散現象の線形性を説明する説明図である。
【図3】従来法による残差ノルムの算出例を例示する説明図である。
【図4】本発明における残差ノルムの算出例を例示する説明図である。
【図5】第1実施形態の拡散物質の発生源推定方法を説明するフローチャートである。
【図6】第2実施形態の拡散物質の発生源推定方法を説明するフローチャートである。
【図7】N段目の仮想格子を用いて残差ノルムを算出する例を例示する説明図である。
【図8】N+1段目の仮想格子を用いて残差ノルムを算出する例を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の拡散物質の発生源推定装置および発生源推定方法の実施形態について、第1実施形態、第2実施形態の順に図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
〔第1実施形態〕
図1は本発明の第1実施形態に係る拡散物質の発生源推定装置の構成図である。
同図において、本実施形態の拡散物質の発生源推定装置3は、通信インタフェース11,入力部13、発生源推定処理部15、記憶部17および出力部19を備えて構成されている。すなわち、発生源推定装置3はいわゆるコンピュータシステムの構成であり、発生源推定処理部15はMPU(マイクロプロセッサ)やDSP(ディジタルシグナルプロセッサ)等のプロセッサで具現される。また、記憶部17はRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置で、入力部13はキーボード、マウス等の入力装置で、出力部19はディスプレイ、プリンタ等の出力装置でそれぞれ具現される。
【0031】
また、図1において、発生源推定装置3は、n個の観測器5−1〜5−n(nは正整数)からの情報、即ち該観測器の位置情報並びに該観測器が計測した濃度情報および計測時刻情報を、通信インタフェース11を介して入手する構成である。観測器5−1〜5−nは、少なくともその設置場所における大気中の所望ガスの濃度を計測する機能を備え、定期的に該観測器の位置情報並びに該観測器が計測した濃度情報および計測時刻情報を発信する機能も備える。なお、観測器5−1〜5−nからリアルタイムに情報入手が可能な場合には、観測器の位置情報および濃度情報のみを受信して、発生源推定装置3側での受信タイミングで計測時刻を代用するようにしても良い。
【0032】
また、観測器5−1〜5−nは固定設置または可動設置の何れでも良く、可動設置の場合には、GPS機能を備えて、常時、該観測器の位置情報を取得可能な構成とすれば良い。またさらに、固定設置の場合には、観測器の位置情報を固有の識別コード(機器番号等)で代用することも可能である。この場合、発生源推定装置3側で、観測器の識別コードに対応したテーブル等に基づき観測器の位置情報を導出することになる。
【0033】
また、観測地点から情報を入手する方法は、図1に例示した構成に限定されない。例えば、民間または公共機関等によるガス濃度観測システムが存在して、各観測地点における濃度データを逐次蓄積していくデータベース機能を備えたものである場合には、通信インタフェース11を介しインターネット等のネットワーク上に設置されたデータベースにアクセスして、各観測地点の位置データ並びに該観測器が計測した濃度データおよび観測時刻データを入手するようにしても良い。なお、ガス放出に対してその発生源を即座に同定する観点からは、本実施形態の構成(図1)が望ましい。
【0034】
また、発生源推定装置3の発生源推定処理部15には、観測情報入手部21、仮想格子設定部22、仮想放出時刻設定部23、影響関数算出部24、残差ノルム算出部25および推定部26を備えている。これら各構成要素は、MPUやDSP等のプロセッサ上で実行されるプログラムの機能的まとまりとして具現されるものである。
【0035】
ここで、発生源推定処理部15の各構成要素の具体的な機能を説明する前に、本発明における拡散物質の発生源を推定する手法の基本的な考え方について、図2〜図4を参照して説明する。図2は拡散現象の線形性を説明する説明図であり、図3は従来法(非特許文献1)による残差ノルムの算出例を例示する説明図であり、図4は本発明における残差ノルムの算出例を例示する説明図である。
【0036】
まず、拡散現象の基本的な性質である線形性について説明する。単純な例として、図2(a)に示すように、2箇所の放出地点Po1およびPo2からの放出を評価地点(観測地点)Pvで観測する場合について考える。なお、放出地点近傍でx方向に一様な風が吹いていると仮定し、風に直角な方向をy方向(、風に鉛直な方向をz方向)とする。
【0037】
このとき、評価地点Pvにおける濃度は、図2(b)に示すような放出地点Po1からの放出による影響と、図2(c)に示すような放出地点Po2からの放出による影響と、の和で表される。すなわち、放出地点Po1およびPo2の放出強度をそれぞれq,qとし、放出地点Po1およびPo2の放出に対する影響関数をそれぞれD,Dとすると、評価地点Pvにおける濃度Dは「D=q・D+q・D」として表すことができる。
【0038】
このような拡散現象の放出強度に対する線形性により、放出地点が複数(m箇所;mは正整数)あるとき、任意の時刻(t)での評価位置(x,y)における濃度D(x,y,t)は、各放出地点からの放出による影響の和で表され、次式が成立する。
【数1】

ここに、qは放出位置(x,y)の放出強度であり、D(x−x,y−y,t−t)は評価位置と放出位置との相対位置および相対時刻によって決まる影響関数である。
【0039】
また、複数の観測地点(即ち、n箇所(nは正整数)の評価位置)における濃度(D(x,y,t);i=1,2,…,n)が計測されていれば、次式が成り立つ。
【数2】

【0040】
また、放出地点の数mが観測地点の数n以下ならば、連立方程式(2)から各放出位置(x,y)における放出強度qが得られる。具体的には、式(2)の左辺と右辺の差の平方和である残差ノルムが最小となるように放出強度qを決める。この残差ノルムは次式で表される。
【数3】

【0041】
また、残差ノルムを最小にする放出強度qは変分法により次式で表される。
【数4】

このとき、残差ノルムは次式となる。
【数5】

【0042】
ここで、本発明の手法と対比するために、従来(非特許文献1)の手法について、図3を参照して説明する。後で詳述するように仮想格子上での各格子線の交差点を仮想放出地点として、9箇所(m=9)の仮想放出地点Po1〜Po9があり、仮想放出地点数(m=9)よりも大きい10箇所(n=10)の観測地点Pv1〜Pv10があるものとする。また、各仮想放出地点Poj(j=1〜9)の放出強度はそれぞれq(j=1〜9)とする。
【0043】
この場合、従来手法では、式(3)の残差ノルムは同図中に示した式に展開され、該式について残差ノルムRを最小にする放出強度qを変分法等によって求める。また、計算において放出強度qが負値となった場合には、その仮想放出地点を除去して再度計算を行う。こうして得られた放出強度q(j=1〜9)の内、最大となる放出強度qの仮想放出地点Pojを放出位置として推定する。
【0044】
しかしながら、式(4)の示すところは、式(4)を満たす全ての放出強度q(j=1〜m)を適用したときに初めて式(3)の残差ノルムを最小化することができる、というのが本来の意味であり、計算で最大となった放出強度qの仮想放出地点Pojのみを適用した式(3)の残差ノルムが、他の仮想放出地点を適用して評価した残差ノルムよりも小さいという保証はない。これは、従来手法が全仮想放出地点からの影響を想定して残差ノルムを計算するものであり、複数の放出源の可能性を想定した式を用いているにもかかわらず、最終的に1点に絞り込んでいるためと考えられる。
【0045】
これに対して、本発明では、式(4)を解くことはせずに、各放出源(即ち、各仮想放出地点Poj(j=1〜m))に対する残差ノルムを評価して、該残差ノルムが最小となる放出強度qを求め、該放出強度qの仮想放出地点Pojを放出位置とし、また該放出強度qを該放出位置からの放出量として推定する。
【0046】
具体的に、各仮想放出地点Poj(j=1〜m)に対する残差ノルムは次式で表される。
【数6】

また、この残差ノルムを最小にする放出強度q並びにそのときの残差ノルムRは、次式で表される。
【数7】

【0047】
ここで、図4に例示した本発明における残差ノルムの算出例を参照して説明する。図4では、従来の手法と対比するために、仮想放出地点数および観測地点数を図3と同数としている。また、本発明では仮想放出地点Poj(j=1〜9)毎に残差ノルムを計算するが、図4では代表例として仮想放出地点Po1に対する残差ノルムの算出について例示している。この場合、式(6)の残差ノルムは同図中に示した式に展開される。同様に、他の仮想放出地点Poj(j=2〜9)に対する残差ノルムを算出して、該残差ノルムが最小となる放出強度qを求め、該放出強度qの仮想放出地点Pojを放出位置とし、また該放出強度qを該放出位置からの放出量として推定する。
【0048】
次に、以上説明した基本的な理論を踏まえて、発生源推定処理部15の各構成要素(即ち、観測情報入手部21、仮想格子設定部22、仮想放出時刻設定部23、影響関数算出部24、残差ノルム算出部25および推定部26)の具体的な機能について説明する。
【0049】
まず、観測情報入手部21は、観測器5−1〜5−nからの情報、即ち該観測器の位置情報、該観測器が計測した濃度情報および計測時刻情報を、通信インタフェース11を介して入手する。入手した各情報は関連づけて記憶部17の所定領域に保存しておくのが望ましい。
【0050】
また、仮想格子設定部22は、相互の離間距離が一定の仮想格子を想定して、該仮想格子の領域上で各格子線が交差する位置を仮想放出地点Poj(j=1〜m)として設定する。具体的に、図4に示した例では、仮想格子上で9箇所(m=9=3×3)の仮想放出地点Po1〜Po9を設定した。この仮想放出地点数mが多ければ多いほど放出地点の推定精度は向上し、そのためには仮想格子の離間距離をより小さくして交差点数を増やせば良いが、その分だけ計算量は増大することになる。したがって、要求される処理時間(観測地点から情報を入手してから放出地点を推定するまでの時間)に応じて、予め発生源推定処理部15を具現するプロセッサの処理性能等を勘案して仮想放出地点数mを概算しておくのが望ましい。また、経験則等に基づいて注目すべき地域を判断し、その注目地域に仮想格子の領域を設定することが望ましい。
【0051】
また、仮想放出時刻設定部23は、放出時刻が不明であるとき仮想放出時刻を設定する。つまり、放出時刻が不明の場合には、仮想放出時刻を所定時間刻みで複数設定して式(7)を評価することとしている。
【0052】
また、影響関数算出部24は、拡散モデルを用いて影響関数を算出する。上述のように、影響関数Dijは評価地点(観測器5−i(i=1〜n)の位置)と仮想放出地点Poj(j=1〜m)との相対位置、並びに(放出時刻と観測器5−iの計測時刻との)相対時刻に応じて定まる関数であり、n×m個の影響関数Dijを算出することになる。
【0053】
本実施形態では、平地一様流場(拡散域の地形が平地であり、風が一様に流れている状態)を想定する場合には、拡散モデルとしてパフモデルを使用する。パフモデルによれば、風速をU[m/sec]としたとき、拡散係数Dijは次式で与えられる。
【数8】

ここに、σ,σ,σはそれぞれ濃度分布のx,y,z方向の拡散パラメータ[m]であり、パスキル・ギフォード線図や経験式等に基づいて得られる。なお、拡散モデルとしては、パフモデルに限定されることなく、例えばプルームモデル等の他のモデルを使用することも可能である。
【0054】
また、一般の市街地などでは、建屋、地形等の影響で一様流でないケースが多いが、このような複雑気流場の場合には、数値拡散計算により影響関数を算出する。すなわち、各種シミュレーションモデルを用いて、想定する放出地点から単位強度の放出をした場合の評価地点での濃度(即ち、影響係数)を求めるものである。このシミュレーションモデルとしては、例えば、修正プルームモデル、ポテンシャル流モデル、粘性流モデルが挙げられる。なお、これらの詳細については、例えば、三菱重工技報vol.21 No.5抜刷(1984年9月)「排煙拡散数値シミュレーションモデルの開発」pp.1-8 にて、開示されている。また、環境庁大気保全局大気規制課編「窒素酸化物総量規制マニュアル」にも詳述されているプルーム・パフモデルや、同じく周知のモデルであるセル内粒子法、ラグランジュ型粒子モデルを使用しても求めることができる。なお、この数値拡散計算は、仮想放出地点数mが例えば25(=5×5)点程度であれば、計算時間の負荷は小さく全体の計算量に与える影響は少ない。
【0055】
なお、放出時刻が不明で、仮想放出時刻設定部23によって複数(r個)の仮想放出時刻が設定されている場合には、n×m×r個(rは正整数)の影響関数Dijを算出する必要がある。したがって、複雑気流場の場合、仮想放出地点数mおよび仮想放出時刻数rの値によっては、影響関数算出処理の計算量が全体に与える影響が大きくなってくることも考えられる。そのような場合には、観測情報を入手してから逐一算出処理を行うのではなく、想定され得る地域毎の仮想格子(仮想放出地点Poj)について予め相対時刻毎に影響関数Dijを算出し、影響関数データベースに登録しておくようにして良い。ここで、影響関数データベースのデータは記憶部17内に保持される。これにより、影響関数算出処理の全体計算量に与える影響を殆ど無くすことができる。
【0056】
また、残差ノルム算出部25は、仮想放出地点Poj毎に、各観測器5−i(i=1〜n)の濃度情報と、各観測器5−iの該仮想放出地点Pojに対する影響関数Dijと該仮想放出地点の放出強度qとの積と、の差の平方和である残差ノルムRを算出する。すなわち、仮想格子設定部22によって設定された各仮想放出地点Pojについて、式(6)に基づき残差ノルムRを算出する。なお、放出時刻が不明で、仮想放出時刻設定部23によって仮想放出時刻が設定されている場合には、設定されている複数の仮想放出時刻に対してそれぞれ残差ノルムを算出することとなる。
【0057】
また、推定部26は、算出された全仮想放出地点Pojについての残差ノルムの内、残差ノルムが最小となる放出強度qを求め、該放出強度qの仮想放出地点Pojを放出位置とし、また該放出強度qを該放出位置からの放出量として推定する。なお、放出時刻が不明で、仮想放出時刻設定部23によって仮想放出時刻が設定されている場合には、複数の仮想放出時刻に対してそれぞれ最小となる残差ノルムの中でさらに最小の残差ノルムの放出強度qを求め、該放出強度qの仮想放出地点を放出位置とし、また該放出強度qを該放出位置からの放出量として推定すると共に、対応する仮想放出時刻を放出時刻として推定する。
【0058】
次に、以上のような構成要素を備えた発生源推定装置3における拡散物質の発生源推定方法について、図5を参照して説明する。ここで、図5は本実施形態に係る拡散物質の発生源推定方法を説明するフローチャートである。
【0059】
まず、ステップS101では、観測情報入手部21において、観測器5−i(i=1〜n)の位置情報、該観測器5−iが計測した濃度情報および計測時刻情報を、通信インタフェース11を介して入手する。
【0060】
次に、ステップS102では、仮想格子設定部22により、相互の離間距離が一定の仮想格子を想定して、該仮想格子の領域上で各格子線が交差する位置を仮想放出地点Poj(j=1〜m)として設定する。なお、ここで、放出時刻が不明であるときには、仮想放出時刻設定部23により仮想放出時刻を設定する。
【0061】
次に、ステップS103では、影響関数算出部24により、拡散モデル(例えば式(8))を用いて影響関数Dijを算出する。なお、仮想放出時刻設定部23により仮想放出時刻が設定されている場合には、各仮想放出時刻に応じた相対時刻毎に影響関数Dijを算出することとなる。また、上述したように予め影響関数データベースに登録されている場合には、影響関数データベースを参照して影響関数Dijを獲得するようにしても良い。
【0062】
次に、ステップS104では、残差ノルム算出部25により、仮想格子設定部22で設定された各仮想放出地点Pojについて、式(6)に基づき残差ノルムRを算出する。なお、仮想放出時刻設定部23により仮想放出時刻が設定されている場合には、設定されている複数の仮想放出時刻に対してそれぞれ残差ノルムRを算出する。
【0063】
また、ステップS104では、推定部26により、算出された全仮想放出地点Pojについての残差ノルムの内、残差ノルムが最小となる放出強度qを求め、該放出強度qの仮想放出地点Pojを放出位置とし、また該放出強度qを該放出位置からの放出量として推定する。なお、仮想放出時刻設定部23によって仮想放出時刻が設定されている場合には、複数の仮想放出時刻に対してそれぞれ最小となる残差ノルムの中でさらに最小の残差ノルムの放出強度qを求め、該放出強度qの仮想放出地点を放出位置とし、また該放出強度qを該放出位置からの放出量として推定すると共に、対応する仮想放出時刻を放出時刻として推定する。
【0064】
以上説明したように、本実施形態の拡散物質の発生源推定装置および発生源推定方法では、観測器5−i(i=1〜n)の位置情報および計測した濃度情報を観測情報入手部21によって入手し、仮想格子設定部22により相互の離間距離が一定の仮想格子上で各格子線が交差する位置を仮想放出地点Poj(j=1〜m)として設定し、影響関数算出部24により、拡散モデルを用いて観測器5−iと仮想放出地点Pojとの相対位置、並びに相対時刻に応じて定まる影響関数Dijを算出し、残差ノルム算出部25により、仮想放出地点Poj毎に、各観測器5−iの濃度情報と、各観測器5−iの該仮想放出地点Pojに対する影響関数Dijと該仮想放出地点Pojの放出強度qとの積と、の差の平方和である残差ノルムRを算出し、推定部26により、算出された全仮想放出地点の残差ノルムの内、残差ノルムが最小となる仮想放出地点を放出地点と推定する。
【0065】
このように、設定した仮想放出地点Poj毎の残差ノルムR(q)を評価して、該残差ノルムR(q)が最小となる放出強度を求め、該放出強度の仮想放出地点を放出位置とし、また該放出強度を該放出位置からの放出量として推定するので、従来のように「観測地点の数n≧仮想放出地点の数m」という制約を持つことなく放出地点を推定することができ、より柔軟且つ簡便に発生源を推定し得る拡散物質の発生源推定装置および発生源推定方法を実現することができる。
【0066】
また、本実施形態の拡散物質の発生源推定装置および発生源推定方法では、平地一様流場ではパフモデル等の拡散モデルを用いて影響関数を算出し、また複雑気流場では数値拡散(シミュレーション)計算により想定する放出地点から単位強度の放出をした場合の評価地点での濃度として影響関数を算出するので、様々な地形における拡散に対してより精度良く発生源を推定することができる。
【0067】
また、本実施形態の拡散物質の発生源推定装置および発生源推定方法では、放出時刻が不明な場合には、仮想放出時刻設定部23によって仮想放出時刻を設定することとしたので、より柔軟に発生源を推定し得る拡散物質の発生源推定装置および発生源推定方法を実現することができる。
【0068】
さらに、本実施形態の拡散物質の発生源推定装置および発生源推定方法では、影響関数算出部24において影響関数データベースを参照して予め算出した影響関数を獲得し、その後の処理に用いる構成(手順)とすることにより、影響関数を算出する処理分の計算量を排除することができ、全体的な処理の計算量を低減してより速く発生源の推定を行うことができる。
【0069】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る拡散物質の発生源推定装置および発生源推定方法について説明する。本実施形態における拡散物質の発生源推定装置の構成は第1実施形態の構成(図1参照)と同等であり、各構成要素についての詳細な説明は省略する。
【0070】
但し、第1実施形態では1面の仮想格子上で仮想放出地点Poj(j=1〜m)を設定したのに対し、本実施形態では、格子線の相互の離間距離が段階的に異なるs面(sは正整数)の仮想格子(一面の仮想格子における格子線の相互の離間距離は一定)上で、それぞれ仮想放出地点PoNj(N=1〜s,j=1〜p;pはp<mで正整数)を設定する点が異なる。なお、仮想格子の面の適用は、格子線の相互の離間距離が相対的に長い仮想格子から相対的に短い仮想格子へ段階的に使用していくものとし、s段目の仮想格子の面が(離間距離が最短の)最小グリッドであるものとする。
【0071】
また、本実施形態では、想定され得る地域毎の仮想格子(仮想放出地点PoNj)について、予め影響関数算出部24によって相対時刻毎に影響関数Dijが算出され、影響関数データベース18に登録されて、データが記憶部17内に保持されているものとする。
【0072】
次に、本実施形態における拡散物質の発生源推定方法について、図6〜図8を参照して説明する。ここで、図6は本実施形態に係る拡散物質の発生源推定方法を説明するフローチャートであり、図7はN段目の仮想格子を用いて残差ノルムを算出する例を例示する説明図であり、図8はN+1段目の仮想格子を用いて残差ノルムを算出する例を例示する説明図である。
【0073】
まず、ステップS201では、観測情報入手部21において、観測器5−i(i=1〜n)の位置情報、該観測器5−iが計測した濃度情報および計測時刻情報を、通信インタフェース11を介して入手する。
【0074】
次に、ステップS202では、仮想格子設定部22により、N段目の仮想格子を想定して、該仮想格子の領域上で各格子線が交差する位置を仮想放出地点PoNj(N=1〜s,j=1〜p)として設定する。なお、ここで、放出時刻が不明であるときには、仮想放出時刻設定部23により仮想放出時刻を設定する。
【0075】
次に、ステップS203では、影響関数算出部24により、影響関数データベース18を参照して影響関数Dijを獲得する。
【0076】
次に、ステップS204では、残差ノルム算出部25により、仮想格子設定部22で設定された各仮想放出地点PoNjについて、式(6)に基づき残差ノルムRを算出する。なお、仮想放出時刻設定部23により仮想放出時刻が設定されている場合には、設定されている複数の仮想放出時刻に対してそれぞれ残差ノルムRを算出する。
【0077】
また、ステップS204では、推定部26により、算出された全仮想放出地点PoNjについての残差ノルムの内、残差ノルムが最小となる放出強度qを求め、該放出強度qの仮想放出地点PoNjを放出候補地点の位置とし、また該放出強度qを該放出候補地点からの放出量として推定する。なお、仮想放出時刻設定部23によって仮想放出時刻が設定されている場合には、複数の仮想放出時刻に対してそれぞれ最小となる残差ノルムの中でさらに最小の残差ノルムの放出強度qを求め、該放出強度qの仮想放出地点を放出候補地点の位置とし、また該放出強度qを該放出候補地点からの放出量として推定すると共に、対応する仮想放出時刻を放出時刻として推定する。
【0078】
次に、ステップS205では、現在適用している仮想格子の面が最小グリッド(s段目で)であるか否かを判断し、最小グリッドである場合には終了し、また最小グリッドでなければ、ステップS206に進んでNをインクリメントした後、ステップS202に戻る。
【0079】
ここで、図7および図8に示すように、仮想格子の面として3×3の仮想格子を使用し、観測器5−iによる観測地点が10箇所(Pv1〜Pv10)あるとした場合について説明する。まず、N段目(N=1)の仮想格子を用いて残差ノルムを算出する場合には、図7に示す如く、仮想格子設定部22により9個の仮想放出地点Po11〜Po19が設定され(ステップS202)、推定部26により、全仮想放出地点Po11〜Po19についての残差ノルムを評価したところ、放出強度qで残差ノルムが最小となり、該放出強度qの仮想放出地点Po14が放出候補地点となった。
【0080】
次に、Nがインクリメントされて(ステップS206)、N+1段目(N+1=2)の仮想格子を用いて残差ノルムを算出する場合には、図8に示す如く、仮想格子設定部22により、9個の仮想放出地点Po21〜Po29が設定され(ステップS202)、推定部26により、全仮想放出地点Po21〜Po29についての残差ノルムを評価したところ、放出強度qで残差ノルムが最小となり、該放出強度qの仮想放出地点Po22が放出候補地点となった。なお、N+1段目の仮想格子は、前段(N段目)の仮想格子上で放出候補地点とされたPo14を、その仮想格子面内に含むように設定される。図8では、放出候補地点Po14が面の中心となるように、N+1段目の仮想格子上で仮想放出地点Po25が重複して設定されているが、必ずしも重複設定する必要はなく、仮想格子面内に含んでいれば良い。
【0081】
このように、格子線の相互の離間距離が相対的に長い仮想格子から相対的に短い仮想格子へと、段階的に、(離間距離が最短で)最小グリッドとなるs段目の仮想格子の面まで適用していき、s段目の仮想格子の面の適用において、推定部26により、全仮想放出地点PoNjについての残差ノルムの内、残差ノルムが最小となる放出強度qが求められ、該放出強度qの仮想放出地点PoNjが放出候補地点と推定されたとき、該放出候補地点が放出地点として推定されることとなる。
【0082】
以上説明したように、本実施形態の拡散物質の発生源推定装置および発生源推定方法では、仮想格子設定部22において、前段の仮想格子面の適用で推定部26によって推定された放出地点を含み、且つ相互の離間距離がより短い仮想格子上で各格子線が交差する位置を仮想放出地点として再設定することとし、格子線の相互の離間距離が相対的に長い仮想格子から相対的に短い仮想格子へと絞り込みながら仮想放出地点を再設定して発生源を推定するようにしている。これにより、第1実施形態(離間距離を最短とした1面の仮想格子上で仮想放出地点を設定して発生源を推定する場合)と比べて、1面の仮想格子上での仮想放出地点数を格段に小さくすることができ、全体的な処理の計算量を抑制して計算時間を短縮し、より速く発生源の推定を行うことができる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0084】
3 拡散物質の発生源推定装置
5−1〜5−n 観測器
11 通信インタフェース
13 入力部
15 発生源推定処理部
17 記憶部
18 影響関数データベース
19 出力部
21 観測情報入手部
22 仮想格子設定部
23 仮想放出時刻設定部
24 影響関数算出部
25 残差ノルム算出部
26 推定部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の観測器からの情報に基づき、ガス発生源情報を推定する拡散物質の発生源推定装置であって、
前記観測器の位置情報および計測した濃度情報を入手する観測情報入手手段と、
相互の離間距離が一定の仮想格子上で各格子線が交差する位置を仮想放出地点として設定する仮想格子設定手段と、
拡散モデルを用いて、前記観測器と前記仮想放出地点との相対位置、並びに相対時刻に応じて定まる影響関数を算出する影響関数算出手段と、
前記仮想放出地点毎に、各観測器の濃度情報と、各観測器の該仮想放出地点に対する影響関数と該仮想放出地点の放出強度との積と、の差の平方和である残差ノルムを算出する残差ノルム算出手段と、
算出された全仮想放出地点の残差ノルムの内、残差ノルムが最小となる仮想放出地点を放出地点と推定する推定手段と、
を有することを特徴とする拡散物質の発生源推定装置。
【請求項2】
前記影響関数算出手段は、数値拡散計算により前記影響関数を算出することを特徴とする請求項1に記載の拡散物質の発生源推定装置。
【請求項3】
前記仮想格子設定手段は、前記推定手段で推定された放出地点を含み、且つ相互の離間距離がより短い仮想格子上で各格子線が交差する位置を仮想放出地点として再設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の拡散物質の発生源推定装置。
【請求項4】
仮想放出時刻を設定する仮想放出時刻設定手段、を有し、
前記残差ノルム算出手段は、仮想放出時刻別に各仮想放出地点毎の残差ノルムを算出し、
前記推定手段は、仮想放出時刻別に算出された全仮想放出地点の残差ノルムの内、残差ノルムが最小となる仮想放出時刻および仮想放出地点をそれぞれ放出時刻および放出地点と推定することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の拡散物質の発生源推定装置。
【請求項5】
前記影響関数算出手段は、想定される前記観測器と前記仮想放出地点との相対位置およびまたは相対時刻に応じた影響関数を予め算出してデータベースに保存しておくことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の拡散物質の発生源推定装置。
【請求項6】
複数個の観測器からの情報に基づき、ガス発生源情報を推定する拡散物質の発生源推定方法であって、
前記観測器の位置情報および計測した濃度情報を入手する観測情報入手ステップと、
相互の離間距離が一定の仮想格子上で各格子線が交差する位置を仮想放出地点として設定する仮想格子設定ステップと、
拡散モデルを用いて、前記観測器と前記仮想放出地点との相対位置、並びに相対時刻に応じて定まる影響関数を算出する影響関数算出ステップと、
前記仮想放出地点毎に、各観測器の濃度情報と、各観測器の該仮想放出地点に対する影響関数と該仮想放出地点の放出強度との積と、の差の平方和である残差ノルムを算出する残差ノルム算出ステップと、
算出された全仮想放出地点の残差ノルムの内、残差ノルムが最小となる仮想放出地点を放出地点と推定する推定ステップと、
を有することを特徴とする拡散物質の発生源推定方法。
【請求項7】
前記影響関数算出ステップは、数値拡散計算により前記影響関数を算出することを特徴とする請求項6に記載の拡散物質の発生源推定方法。
【請求項8】
前記仮想格子設定ステップは、前記推定ステップで推定された放出地点を含み、且つ相互の離間距離がより短い仮想格子上で各格子線が交差する位置を仮想放出地点として再設定することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の拡散物質の発生源推定方法。
【請求項9】
仮想放出時刻を設定する仮想放出時刻設定ステップ、を有し、
前記残差ノルム算出ステップは、仮想放出時刻別に各仮想放出地点毎の残差ノルムを算出し、
前記推定ステップは、仮想放出時刻別に算出された全仮想放出地点の残差ノルムの内、残差ノルムが最小となる仮想放出時刻および仮想放出地点をそれぞれ放出時刻および放出地点と推定することを特徴とする請求項6〜請求項8の何れか1項に記載の拡散物質の発生源推定方法。
【請求項10】
前記影響関数算出ステップは、想定される前記観測器と前記仮想放出地点との相対位置およびまたは相対時刻に応じた影響関数を予め算出してデータベースに保存しておくことを特徴とする請求項6〜請求項9の何れか1項に記載の拡散物質の発生源推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−132824(P2012−132824A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286135(P2010−286135)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)