説明

挙動異常検出装置および検出方法

【課題】運動体が同じ動作を繰り返す特性を利用し、3軸の加速度、角速度、速度などにより表わされる挙動の異常診断をする簡易な挙動異常検知装置を提供する。
【解決手段】挙動センサ11は運動体の挙動を測定し、位置検出器16により運動体が移動路上の測定領域に入った時を検知すると挙動測定を開始し、出た時を検知すると挙動データを挙動解析装置14に送信し、挙動解析装置14は記憶装置13に蓄積された運動体の挙動データを用いて判定用データを生成して記憶装置13に格納し、また測定領域における運動体の挙動データを判定用データと比較することにより挙動異常を検知すると警報を発生させる。判定用データは運動体が測定領域を複数回通過する間に収集した挙動測定値のセットを統計的に処理することにより挙動異常を検知する閾値として形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、故障や異常の発生を推定するため運動体の挙動異常を検出する挙動異常検出装置および検出方法、特に遊戯施設や自動機械など周期的な運動を行う運動体について挙動異常を検出することができる挙動異常検出装置および検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
運転中の設備について状態監視することは、重大事故を防止する上で欠かせない。従来から、設備の構成要素それぞれについて、目的に即した測定センサを備えて動作範囲超過状態を検出する方法など、状態監視法が多数提案されている。
しかし、多種多様な構成機器で構成される複雑なシステム機器では、構成機器個々にセンサを備えてその挙動を監視するようにすると、構成機器の複雑な作用の結果として生じるシステム全体の挙動を的確に把握することが難しい上、システムの複雑さを増して逆に信頼性を損ねるおそれがある。
【0003】
また、故障が発生しうる部位や故障によって運転に重大な影響を及ぼす部位を重点的に異常検出の対象とするため、想定外の部位に発生した故障は見落とし勝ちで、これが時として思わぬ重大事故を招来するおそれがある。
さらに、構造部材など運動が小さい部品に生じる異常はセンサによる検出が難しいので、費用対効果の観点からセンサを設けず、定期点検など、装置の休止中に作業員が外観からあるいは分解して目視や打診などにより異常検知を行うことになり、作業員の熟練度などに依存する度合いが大きい。また、点検対象でない部位に異常が生じたときには検知することが困難である。
【0004】
たとえば、特許文献1には、車両の車体、台車、軸箱などに振動センサを設けて走行中の振動データを求め、車両の速度、走行位置、時間などの情報に基づいてその走行位置における走行状況での振動を推定して、実際値と推定値の偏差が予め決めた閾値より大きければ異常と判定する、鉄道車両の異常検知装置が開示されている。開示方法では、複数のセンサによる異常検出状態に基づいて、原因となった異常の部位を特定することもできる。
【0005】
この開示装置は、振動推定値を算定するためのモデルをカルマンフィルタを用いて構築するもので、車両と軌道に関する膨大なデータベースを備え、車両の経歴や、現在の走行位置における軌道の状態や、走行速度など、走行時の状態に基づいて変化する特性を推定しながら、複雑な演算をして、振動推定値を算出する。
また、異常の判定に使う閾値は、予め試験走行により正常状態におけるデータを採取し、次いで異常が発生した状態での走行を行って異常時におけるデータを採取し、正常と異常の違いを区別できる信号レベルをもって閾値と決定し、データベース化する。
【0006】
このように、開示装置により的確な異常検知をするためには、正常と異常の状態を生成して試験走行をし膨大なデータを収集して大きなデータベースを構築し、走行に際してはデータベースを駆使して高度な演算を行う必要がある。したがって、開示装置は膨大なデータを取り扱うことから、大規模、複雑かつ精密で高価な装置になり、簡易な設備に適用することは困難である。
たとえば、遊園地におけるローラーコースターなどでは、車両内に十分なスペースを確保することができず、上記開示装置のように複雑な監視機器を搭載することができない。
【0007】
また、制御や操作の対象となる速度などの測定値に対して上限・下限の警報値を設定して異常を検知したときに報知する異常検出装置があるが、このような装置では正常とされる範囲内で発生する速度などの異変を検知することはできない。なお、条件に合わせて上下限警報設定値を調整することも可能であるが、動作位置など条件を特定するためのセンサや演算器などを別途必要とし、システムが複雑になる。
さらに、定期点検や日常点検による検知方法では、点検で異常が発見されるまでの期間は異常運転が行われることになり、危険である。この方法で検出感度・発見確率を向上させるためには、点検時における使用限界を低く設定して部品を頻繁に交換する方法があるが、維持コストが大きくなり、また点検対象以外の異常は発見しにくい問題が残る。
【0008】
しかし、ローラコースターなど幾つかの装置は、閉ループになった軌道上を繰返し走行する。また、工場内で特定の軌道上を繰返し運転する運搬車両や、特定の動作を繰返し行う自動機械やロボット、あるいは、比較的短い路線を往復する無人運転の鉄道車両などは、決められた動作を周期的に繰返す。
また、運動体に異変があると速度、加速度、角速度などで表わされる挙動に変化が生ずることが多く、運動体の挙動を感知して総体的な異常診断をする挙動把握が有効であることは周知である。
【特許文献1】特開2005−067276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、同じ動作を繰り返す運動体について、同じ動作を繰り返す特性を利用し、挙動の変化に基づいて異常診断をする、より簡易な挙動異常検知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、所定の移動路に沿って同じ動作を繰り返す運動体に適用する本発明の挙動異常検出装置は、挙動センサと記憶装置と挙動解析装置と警報装置と位置検出器を備えるものである。
挙動センサは運動体に取り付けられて速度、加速度、角速度の組み合わせで表わされる運動体の挙動を測定する。位置検出器は運動体の移動路上に設定された測定領域の端部位置における運動体の通過を検出するもので運動体が測定領域に入った時と出た時を検知する。記憶装置は測定領域内で測定された運動体の挙動データを蓄積しかつ挙動解析装置により作成された判定用データを格納する。
【0011】
挙動解析装置は記憶装置に蓄積された挙動データを用いて判定用データを生成しまた測定領域において測定された運動体の挙動データと判定用データとに基づいた演算を施して運動体の挙動異常を検知したときに警報装置に警報信号を送信する。警報装置は警報信号を受信したときに警報を発する。
本発明の挙動異常検出装置において、判定用データは運動体に移動路上の測定領域を複数回通過させた間に収集した挙動測定値のセットを統計的に処理することにより挙動の異常を検知する閾値として形成されることを特徴とする。
【0012】
本発明の挙動異常検出装置によれば、移動路上の同じ測定領域を何度か通過させる間における運動体の挙動状態を測定し、測定結果を統計的に処理して挙動状態の基準を生成し、異常と判定する閾値を形成する。運動体に何らかの異常があれば運動中の運動体の挙動状態が常態から偏倚することに基づいて異常判定するので、挙動測定値を判定基準値である閾値と比較することにより簡単に異常検出をすることができる。
判定に用いる閾値は、普通、正常状態の運動体を同じ測定領域で繰返し動作させて取得した挙動測定値を記憶装置に蓄積したものに基づいて生成する。
【0013】
特許文献1に開示された方法では走行路中の任意の位置で異常判定を行うため、走行位置にしたがって変化する条件それぞれに対応して生じるべき挙動値を求める必要があるので、種々の変数を測定し複雑な関係式を用いた演算により挙動推定値を算出する。
これに対して本発明の方法では、同じ測定領域を運動するため毎度ほぼ同じ挙動パターンを表わすので、正常時に得られる標準のパターンを統計的に把握すれば、測定した現状の挙動パターンが標準パターンから外れることを検出することにより簡単に異常を検知することができる。このように、本発明の方法には開示方法のような煩雑さがない。
【0014】
本発明の方法では、故障部位と故障状態の如何にかかわらず挙動異常として現れるため、運動体に何らかの異常が存在すれば、これを検知するができる。しかし、本発明の方法は、異常箇所あるいは故障位置を特定する能力を有しない。故障の状況を正しく知るためには、異常を検出したときに、異常運動体を停止させて詳しく点検することにより異常箇所を特定すればよい。
なお、異常の程度が軽微であっても運動体の挙動は極めて敏感に異常状態を示すので、極めて高感度な異常検出が可能である。したがって、たとえばローラーコースターなどの遊戯具では休止すべき状態のはるか以前に異常を発見するので、予防保全のツールとして利用することができる。
【0015】
本発明の挙動異常検出装置における挙動センサは、直交3軸それぞれの方向に加速度を測定し直交3軸それぞれの回りの角速度を測定する6軸センサと、測定したデータを蓄積し要求に応じて出力する局所記憶装置を基板上に集積したり1個のユニットに組み上げたりして形成した小型のモーションセンサを利用することが好ましい。このような複合的な挙動センサを利用することにより、安価で高性能のセンサを活用した信頼性の高い異常検出が可能になる。さらに、市販のセンサが利用できる場合は、できるだけこれを活用することが奨められる。
【0016】
なお、挙動センサに局所記憶装置が設けられている場合は、これに測定ごとの測定結果や複数回の測定結果を格納して用いることができる。
また、局所記憶装置によって、測定データを挙動解析装置に送信するタイミングが比較的自由に選択できるようになり、取扱いがより容易になる。
また、たとえば、ローラーコースターなどで、周回路の適宜内地に設けられた測定領域を走行している間に挙動測定し、プラットフォームなど適宜の指定位置に戻ったときに、溜めておいた測定データを送信するようにすれば、主要な機器を地上側に設置したシステムが容易に構築できる。
なお、局所記憶装置が付帯する場合であっても、挙動解析装置で読み出した測定結果を挙動解析装置に付属する記憶装置に一旦格納して利用するようにしても良い。
【0017】
挙動異常検出装置に付属する記憶装置あるいはモーションセンサに付帯するメモリーに、複数回の正常運転により収集された各軸方向の加速度や各軸回りの各速度などの測定結果を記録し、挙動解析装置が通信を介してこれを読み出して、ヒストグラム、時系列波形、瞬時値の平均値、などを統計的演算により算定して、異常判定の基準値として挙動異常検出装置の記憶装置に記憶する。
異常判定に使用する閾値は、多数回取得した測定値の標準偏差値などであってもよい。
【0018】
なお、移動路側に位置検出器を作動させるストライカなどを設置し、残りは全て運動体側に配設するようにすることができるが、運動体がローラーコースターなどの遊技具や小型の運搬装置、あるいは自動機械のアームなど、激しく運動するものや小型な部品、あるいは給電線や通信線を接続することが難しい装置であるときは、複雑な演算を行う挙動解析装置などを運動体側に設置することは望ましくないので、挙動センサと位置検出器の作動を行わせる部材のみを運動体側に搭載し、残りは地上に設置して動かないようにすることが好ましい。この場合は、センサと挙動解析装置の間の通信を無線で行うようにする。このような使用を行う装置に用いるモーションセンサには、局所記憶装置と無線通信を可能にするモジュールを搭載することが好ましい。
【0019】
さらに、異常監視装置を管理設備に設置して、これに警報信号を供給し、遠隔地における監視員に状況を把握できるようにしてもよい。なお、遠隔警報機能を備える場合は、運動体や移動路近辺に警報装置を設けなくても良いことは言うまでもない。
【発明の効果】
【0020】
本発明の挙動異常検出装置を用いることにより、運動体の部品ごとの異常を分析的に検知することは難しいが、運動体における各軸方向の加速度などで表わされる挙動の異常を検知することにより、運動体総体に何らかの異常が発生したことを敏感に感知することができる。また、故障部位と故障の状態にかかわらず運動体総体の挙動異常となって現れるため、想定外の故障も感知して安全を確保することができる。また、運動体が周回するたびに測定するので、点検周期を待たずに運転中においても発生とほぼ同時に故障を発見することができる。
【0021】
故障による挙動異常の検出の基準となるデータは、移動路の一部に設定した測定領域において取得するので、信頼性が比較的容易に確保でき、また異なる対象に適用する場合にも、関係式などを変更したり新たに別の変数を測定する必要がなく、測定領域で繰返し運転してデータを蓄積すればそのまま容易に基準データが形成できる。
なお、異常挙動の検出基準として移動平均など直近の測定データを利用した指標を使用するようにすると、変数の経時変化などを自動的に調整して、突発的な変化のみを検知するようにすることができる。
また、逆に、初期の挙動データを異常挙動の検出基準として使用し、直近の運転について取った移動平均と比較することによって、経年変化分を検出することができるので、消耗部品の交換時期の目安とすることも可能になる。
【0022】
本発明の挙動異常検出装置は、従来装置と比較すると大幅に簡易な構成を有し安価なので、ローラーコースターなど設置スペースの制約によって大規模な装置を搭載することが困難な施設にも容易に導入して予防保全を施すことができる。
本発明の挙動異常検出装置は、ローラーコースターや工場内の運搬装置など軌条上を走行する運動体ばかりでなく、工場の自動機械のように同じ軌跡を描く動作を繰返し行う装置に適用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について実施例に基づき図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係る挙動異常検出装置の例を示すブロック図、図2は挙動異常検出手順を説明するフロー図、図3はセンサ出力例を示す波形図、図4は異常検出原理を説明する波形図、図5は異常検出の別法を説明する波形図、図6は本発明に係る別の挙動異常検出装置を示すブロック図である。
【0024】
図1の実施態様は、本実施例の挙動異常検出装置を遊戯施設におけるローラーコースターの車両に適用したものである。
ローラーコースターは台車に人を乗せて周回路を形成する走行レール上を周回して楽しませる遊戯施設である。走行レールは蛇行アップダウンを適当に織り交ぜて走行台車に垂直方向成分と水平方向成分に強い加速度を与えるように設計されている。利用者は乗車中の加速度で与えられるスリルを楽しむようになっている。
【0025】
台車が激しい動きをするほど利用者に与えるスリル感が大きいが、利用者の安全は完璧に守られなければならない。
したがって、施設の安全設計は勿論であるが、常に台車の状態を監視して異常を早期に発見して適切な処置を行う保全体制が重要である。
【0026】
本発明では、装置の異常はまず振動などで表わされる挙動の異常として発現するという事実を利用し、台車に挙動センサを設置し挙動異常検出装置を導入して、ほぼ自動的に挙動監視を行う。
【0027】
本実施例では、図1に示すように、挙動異常検出装置10は、台車Vの挙動を測定する挙動センサ11と、中央演算装置12と記憶装置13で構成される挙動解析装置14と、警報装置15と、台車Vが測定領域Mにあることを検知する測定位置検出器16を備える。
本実施例は、全ての処理を台車V上で実行する構成を有するもので、挙動センサ11、挙動解析装置14、警報装置15、測定位置検出器16は全て台車V上に搭載されている。
【0028】
なお、挙動センサ11は、直交3軸それぞれの方向に加速度を測定する3軸加速度センサと、直交3軸それぞれの回りの角速度を測定する3軸角速度センサが合体した6軸センサと、測定したデータを蓄積し要求に応じて出力する局所記憶装置19を、1枚の基板上に集積して形成した小型のモーションセンサを使用することができる。また、この6軸モーションセンサは、加速度センサなどの各軸センサと局所記憶装置を1つのユニットとしてまとめて小型化して形成することもできる。
このような複合的な挙動センサを利用することにより、安価で高性能のセンサを活用した信頼性の高い異常検出が可能になる。したがって、市販のセンサが利用できる場合は、できるだけこれを活用することが奨められる。
【0029】
なお、挙動センサ11に局所記憶装置19が設けられている場合は、これに測定後との測定結果や複数回の測定結果を格納して用いることができる。なお、局所記憶装置19が付帯する場合であっても、挙動解析装置14で読み出した測定結果を挙動解析装置14の記憶装置13に一旦格納して利用するようにしても良い。
【0030】
測定位置検出器16は、たとえば非接触物体検出器で、レールR上の特定区間を区切って測定領域Mに指定し、その端点位置に測定位置検出器15を動作させるためのストライカ17,18が設置されている。測定位置検出器16が電磁式のセンサであるときは、ストライカ17,18は金属片であればよい。
なお、測定位置検出器16はたとえばリミットスイッチであってもよく、この場合はストライカ17,18はリミットスイッチのバーを動かす突起になる。
【0031】
台車Vは、閉ループを構成するレールR上を周回するように運行され、周回ごとに測定領域Mを通過する。台車Vが測定領域Mを通過中の挙動状態から台車VやレールRの異常を検出することを目的とするから、測定領域Mは軌道中、台車Vに発生する遠心力が大きくしかも発生する加速度が単調でない部分であることが好ましい。すなわち、測定領域Mは、軌道が3次元的に変化する曲線部分が好ましく、垂直方向に勾配が変化する部分や、水平方向の曲率が変化し加速度が急変する部分を選択することにより、異常の検出感度を向上させることができる。
【0032】
なお、台車Vに車載通信装置21を備え、監視員を配置できる管理室に地上通信装置を備えた異常監視装置20を配備して、警報装置15に伝送する異常警報信号を通信を介して異常監視装置20に送信して警報表示し、遠隔管理を可能とすることもできる。この場合は、現場に警報装置15を設けないようにしても良い。
【0033】
図2は、本実施例の挙動解析装置10が実施する処理手順を説明するフロー図である。
台車Vに配置された挙動解析装置14は、位置検出センサ(S2)16が開始位置ストライカ(D1)17により作動して、台車Vが測定領域Mに進入したことを知ると(ST11)、測定開始要求信号を発する(ST12)。
測定開始要求信号は挙動センサ(S1)11に送信される。
挙動センサ11は、内部に局所記憶装置19を備えた6軸モーションセンサであって、台車Vの適所に固定されている。
【0034】
挙動センサ11は、測定開始要求信号が供給されたことを検知すると(ST21)、台車Vが発生するX軸、Y軸、Z軸の3軸の加速度(G)、X軸、Y軸、Z軸の3軸に関する回転角速度(rad/s)をそれぞれ測定し(ST22)、測定結果を局所記憶装置19に格納する(ST23)。測定終了要求信号が入信するまでは測定と記録を繰り返す(ST24)。
挙動解析装置14は、位置検出センサ(S2)16が終了位置ストライカ(D2)18により作動することにより、台車Vが測定領域Mを脱出したことを知ると(ST13)、測定終了要求信号を発する(ST14)。
【0035】
挙動センサ11は、測定終了要求信号が供給されたことを検知すると(ST24)、挙動状態の測定を終了して、測定データ要求信号を受けるまで待機する(ST25)。
一方、挙動解析装置14は、測定終了要求信号を発生した後、適当なタイミングを取って測定データ要求信号を発する(ST15)。挙動センサ11は、測定データ要求信号を受信すると(ST25)、局所記憶装置19に蓄積された3軸の加速度、3軸回りの回転角速度の測定データを挙動解析装置14に送信する(ST24)。局所記憶装置19には、少なくとも測定領域を1回通過する間の挙動測定データが蓄積されている。
【0036】
挙動解析装置14は、挙動センサ11から測定データを受信して(ST16)、蓄積してある基準データと比較して台車Vの挙動に異常があるか判定し(ST17)、異常が発見されたときには(ST18)、警報装置15を介して警報通知する(ST19)。なお、異常監視装置20を備える場合は、異常監視装置にも警報通知を送信する。
保守要員は、異常の警報を受けたときには、できるだけ迅速に点検して故障状態を確認し、使用の停止や修理など、大事に至る前に何らかの措置をとるようにする。
【0037】
図3は、記憶装置13に蓄積される挙動センサ11の出力波形の例を示すもので、台車Vが測定領域Mを走行する間に発生するX軸、Y軸、Z軸それぞれの加速度(G)、X軸、Y軸、Z軸それぞれに関する回転角速度(rad/s)の6個の時系列波形が時間軸方向に繰返し並べられたものである。
図1に示したような周期的な運転を行うシステムでは、一定の条件において同じ動作を繰り返すため、ほぼ一定の波形パターンが繰返し生じる。
【0038】
ただし、システムが正常であるときにも、台車Vの積載量、気温、湿度などの条件によって、台車Vが測定領域Mを走行する速度がサイクルごとに変動するため、測定結果には揺らぎが生じる。
しかし、台車Vに何らかの不具合が発生したときには、これら6軸の測定結果の一部に無視できない変動が生じ、通常の加速度変化パターンからの偏倚となる。したがって、正常状態における波形パターンを基準とし、基準値からの偏差を検出することにより、不具合の発生を検知することができる。
【0039】
異常検出に使用する基準パターンには種々の作り方がある。
たとえば、正常時における測定値の時系列波形を多数蓄積して平均した波形を基準とする方法がある。異常検出のため実地に測定した結果は、時間方向に平均値を連ねた時系列波形パターンと全く一致することはないので、平均値から適当な許容幅を超えたときに始めて異常と判定することになる。
図4は、異常時の測定データが、標準挙動の上下に設定された許容幅を超えたため、異常の発生を検出するところを模式的に示したものである。
【0040】
このような許容幅として、その位置における平均値の上下10%など相対量で規制したり、上下0.5Gなど絶対量で規制することができる。もちろん、上下が同じ幅である必要はなく、正常状態で取得した時系列波形パターンを十分検討して、測定位置や平均値の上下について適切な許容幅を決定すればよい。
また、台車と軌道の関係、測定位置や不特定ノイズの条件を勘案すると、実際に蓄積された測定結果に基づいて統計的に算定する標準偏差値σに根拠を置く方法は信頼性が高い。たとえば、平均線の上下2σを超えたときに異常発生と判定するなどと決めることができる。
【0041】
なお、基準パターンを生成するための蓄積データとして、正常状態における台車Vを正常な軌道Rで運転して得たものとする代りに、通常の運転状態におけるデータを蓄積しておいて、直近の過去のデータまでを使用して算定する方法を採用しても良い。大過去の測定データは経時に伴い順次削除していって、いつも最近のデータに基づいた基準を利用するようにすれば、いわゆる移動平均を基準化することに当たり、機器の経時的な変化を取り込んで基準値を調整し、突発的な不具合を感度良く検出する装置になる。
また、初期状態における測定データを基準として固定し、最近の測定データを適当回数とって移動平均して得た値など近時の傾向を代表する指標を作成し、これを基準データと比較することにより、消耗品の経時的変化を検知して、予防保全に活用することができる。
【0042】
また、挙動データを発生頻度に基づいて解析することにより、異常発生を検出する方法がある。同じ測定領域を同じ台車が走行することにより得られる挙動データは、毎回ほぼ同一の頻度分布を有するはずである。したがって、取得された挙動データの周波数分布を標準分布と比較することにより、異常の発生を検知することができる。
この方法は、いわゆる周波数解析手法を利用するもので、図5に示すように、正常時について蓄積した加速度測定データに基づいて挙動周波数ごとの発生頻度を算出して標準分布データとし、測定した挙動データについて周波数解析した結果を標準分布データと比較して、頻度に差異が生じたときに異常状態が発生したと判定する。
なお、周波数解析は市販のプログラムを用いて極めて簡単に求めることができるから、本判定法は極めて有効である。
【0043】
なお、上記異常判定において、台車Vが測定領域Mを通過する時間は常時同一ということにはならないため時系列波形にずれを生じることがある。このためには、基準データの作成や異常検出演算など、解析に当たって時間軸スケールが標準の時間軸に一致するよう、適宜修正することができる。
なお、挙動データは局所記憶装置19に数回から数十回、あるいは1日分の測定結果を記録しておくようにしても良い。
また、記憶装置を付属しない挙動センサ11を使用する場合は、測定結果を挙動解析装置14に逐次伝送して、挙動解析装置の記憶装置13に格納するようにしても良い。
【0044】
小型で機器設置スペースが小さい台車Vや、電源を持たない台車Vを対象にするときなどは、挙動解析装置14などを台車Vに搭載せず、地上側に設置することが好ましい。このため、台車Vと地上の計測器の間で無線通信をするように構成することができる。
図6は、台車Vに挙動センサを搭載し、挙動センサ以外の装置を地上に設置して無線通信でデータを交換するようにした挙動異常検出システムの構成例を示すブロック図である。台車Vには最小限の部品を搭載し、無線通信により情報交換すること以外は、図1に関連して説明したところと大きな差異はない。
【0045】
走行レールRを周回走行する台車Vに局所記憶装置19を内蔵する挙動センサ11、車載無線装置(T1)21、並びにストライカ(D3)25を搭載する。一方、地上側には、地上無線装置(T2)22と、中央処理装置12と記憶装置13を備える挙動解析装置14と、警報装置15、および測定領域の進入位置に第1の位置検出装置(S3)23、測定領域の脱出位置に第2の位置検出装置(S4)24が設置される。
地上に設置された挙動解析装置14は、位置検出装置(S3)23で台車Vが測定領域に進入したことを検知し、無線通信により台車V上の挙動センサ11に測定開始指令を与える。挙動センサ11は測定開始指令を受けると測定を開始し測定結果を内蔵する局所記憶装置19に格納する。
【0046】
台車Vが通過するときにストライカ(D3)25が第2の位置検出装置(S4)24を作動させるので、挙動解析装置14がこれを検知して測定データ送信指令を台車Vに無線で送信する。挙動センサ11は測定データ送信指令を受信すると、局所記憶装置19から測定結果を取り出して無線を介して挙動解析装置14に送信する。挙動解析装置14に近いデータ送信位置と挙動測定位置が離れている場合など、測定終了タイミングとデータ送信タイミングが異なっていてもよいことは言うまでもない。
挙動解析装置14は、測定結果を基準パターンと比較して挙動異常の有無を判定し、異常があれば地上に設置された警報装置15を起動して保守要員に報知する。なお、警報信号を遠隔の異常監視装置20に有線もしくは無線で送信して、管理室に待機する保守要員に報知するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の挙動異常検出装置は、ローラーコースター等の遊戯具に限らず、工場内の搬送装置、自動機械、あるいは無人運転の鉄道車両など、周期的な運動動作を行う車両や機械に適用することにより、何らかの不具合が発生したときにそれを感度良く検出することができるので、予防保全のための有効な手段となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る挙動異常検出装置の例を示すブロック図である。
【図2】本実施例の挙動異常検出装置における挙動異常検出手順を説明するフロー図である。
【図3】本実施例の挙動異常検出装置におけるセンサ出力例を示す波形図である。
【図4】本実施例の挙動異常検出装置における異常検出原理を説明する波形図である。
【図5】本実施例の挙動異常検出装置における異常検出の別法を説明する波形図である。
【図6】本発明に係る別の挙動異常検出装置を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0049】
10 挙動異常検出装置
11 挙動センサ
12 中央演算装置
13 記憶装置
14 挙動解析装置
15 警報装置
16 測定位置検出器
17 ストライカ
18 ストライカ
19 局所記憶装置
20 異常監視装置
21 車載無線装置
22 地上無線装置
23 第1の位置検出装置
24 第2の位置検出装置
25 ストライカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
挙動センサと記憶装置と挙動解析装置と警報装置と位置検出器を備える、一定の移動路に沿って繰返し運動する運動体の挙動異常検出装置であって、前記挙動センサは前記運動体に取り付けられて速度、加速度、角速度の組み合わせで表わされる該運動体の挙動を測定し、前記位置検出器は前記移動路の一部に設定された測定領域の端部位置を前記運動体が通過したときに検知信号を発生し、前記記憶装置は該測定領域内で測定された前記運動体の挙動データを蓄積すると共に前記挙動解析装置により作成された判定用データを格納し、前記挙動解析装置は前記記憶装置に蓄積された前記挙動データを用いて前記判定用データを生成すると共に前記測定領域において測定された前記運動体の挙動データと前記判定用データとに基づいた演算を施して前記運動体の挙動異常を検知したときに前記警報装置に警報信号を送信し、前記警報装置が該警報信号を受信したときに警報を発するものであって、前記判定用データは前記運動体を前記軌道上の前記測定領域を複数回通過させた間に収集した挙動測定値のセットを統計的に処理することにより挙動異常を検知する閾値として形成されることを特徴とする運動体の挙動異常検出装置。
【請求項2】
前記挙動センサは、直交3軸それぞれの方向に加速度を測定し直交3軸それぞれの回りの角速度を測定する6軸加速度センサと、測定して得た測定データを蓄積し要求に応じて出力する局所記憶装置を、基板上に集積して形成した、または1つのユニットに組み上げた小型のモーションセンサであることを特徴とする請求項1記載の挙動異常検出装置。
【請求項3】
前記挙動センサは、前記運動体が前記測定領域内に進入した時に挙動測定を開始し、該測定領域から脱出した時に測定済みの挙動データを前記挙動解析装置に送信することを特徴とする請求項1または2記載の挙動異常検出装置。
【請求項4】
前記挙動解析装置が前記記憶装置に蓄積した前記測定データを読み出して、ヒストグラム、時系列波形、瞬時値の平均値、を含む統計量のいずれかを統計的演算により算定して、該統計量を異常判定の基準値として前記挙動異常検出装置の記憶装置に記憶することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の挙動異常検出装置。
【請求項5】
前記挙動センサは前記挙動解析装置の間で無線通信ができる機能を備え、前記位置検出器の作動具と前記挙動センサを前記運動体側に搭載し、前記挙動解析装置は前記挙動センサと無線通信ができる機能を備え、該挙動解析装置と前記位置検出器と前記警報装置を移動路側に設置したことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の挙動異常検出装置。
【請求項6】
前記警報装置に代えてあるいは警報装置に加えて異常監視装置を備えて、該異常監視装置と前記挙動解析装置は相互に無線通信ができる機能を備え、前記挙動解析装置は前記運動体の挙動異常を検知したときに前記異常監視装置に警報信号を発生し前記異常監視装置が警報を発することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の挙動異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−275244(P2007−275244A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104361(P2006−104361)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(500213410)カワサキプラントシステムズ株式会社 (25)