説明

振動型アクチュエータの駆動制御装置

【課題】挙動が不安定な低速駆動領域での不要な振動の発生を抑制して駆動を安定化させ、消費電力の抑制を図ることが可能となる振動型アクチュエータの駆動制御装置を提供する。
【解決手段】電気−機械エネルギ変換素子が設けられた弾性体を有する振動体と、前記振動体に直接的または間接的に接触する移動体と、を備え、
前記電気−機械エネルギ変換素子への印加電圧により、前記振動体に励起される振動波によって発生する摩擦力で前記移動体を振動体に対して相対移動させる振動型アクチュエータの駆動制御装置であって、
前記印加電圧の少なくとも周波数及び振幅を、指令手段からの速度指令に基づいて可変制御する制御手段を備え、
前記制御手段によって、予め定めた駆動領域で前記印加電圧の振幅を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動型アクチュエータの駆動制御装置に関し、特に安定して低速回転させることを可能とする振動型アクチュエータの駆動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
振動型アクチュエータの一種である超音波モータは、複写機やカメラ用交換レンズなどに搭載されている。
近年では、機器の高性能化、低消費電力化に伴い、高回転精度化、高効率化などが要求されている。
このような振動型アクチュエータは、DCブラシレスモータに代表される電磁モータに比して低速高トルク駆動が可能であるという特徴を有するが、上記要求に対応するためには課題も存在する。
例えば、弾性体と圧電素子とから成るステータと、移動体であるロータとの接触状態によっては、極低速回転域で挙動が安定せず不要な振動を発生させる場合があり、異音や速度ムラの原因となっていた。
【0003】
以上のような接触状態に依存する異音や速度ムラに対応するため、特許文献1では、ステータとロータとの接触状態が全面接触と部分接触の境界領域になることを回避する方法が提案されている。
ここでは、その方法として、振動型アクチュエータへ印加する交流電圧の振幅を一時的に異ならせるようにした手法が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−192276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来例の振動型アクチュエータでは、つぎのような課題を有している。
まず、上記従来例では目標速度が境界領域となった場合に電圧を異ならせる構成であるため、起動時における最初の目標速度が境界領域に該当する場合、最初から電圧を通常よりも高く設定する場合があり、このような場合には起動電流が増大する、即ち消費電力を増加させることになる。
逆に、電圧を通常よりも低く設定すると、耐久後や低温時など条件によっては起動に十分な電圧を確保できず起動しない場合が生じる。
更に、極低速回転域で挙動が安定しない要因は、ステータとロータの接触状態が全面接触と部分接触の境界領域になることのみではなく、場所によって接触圧が異なる面圧ムラや、ステータやロータの平面度バラつきなどが引き金となる場合も存在する。
以上のような複数の要因によって、振動体の共振周波数が一時的に駆動電圧の周波数に近づき、その結果変動が激しくなる場合があり得る。
そのため、上記従来例のように接触状態が全面接触と部分接触の境界領域になることを回避するだけでは、挙動を安定させる上では必ずしも充分ではない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、挙動が不安定な低速駆動領域での不要な振動の発生を抑制して駆動を安定化させ、且つ消費電力の抑制を図ることが可能となる振動型アクチュエータの駆動制御装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の振動型アクチュエータの駆動制御装置は、電気−機械エネルギ変換素子が設けられた弾性体を有する振動体と、前記振動体に直接的または間接的に接触する移動体と、を備え、
前記電気−機械エネルギ変換素子への印加電圧により、前記振動体に励起される振動波によって発生する摩擦力で前記移動体を前記振動体に対して相対移動させる振動型アクチュエータの駆動制御装置であって、
前記印加電圧の少なくとも周波数及び振幅を、指令手段からの速度指令に基づいて可変制御する制御手段を備え、
前記制御手段によって、予め定めた駆動領域で前記印加電圧の振幅を増加させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、挙動が不安定な低速駆動領域での不要な振動の発生を抑制して駆動を安定化させ、且つ消費電力の抑制を図ることが可能となる振動型アクチュエータの駆動制御装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの駆動制御装置の構成例を説明するブロック図。
【図2】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの構成例を示す概略図。
【図3】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの振動の様子を示す概略図。
【図4】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの電極を示す概略図。
【図5】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの振動振幅−周波数特性の例を示す概略図。
【図6】本発明の実施例1の振動型アクチュエータの周波数掃引時における、駆動周波数と共振周波数の周波数差の例を示す概略図。
【図7】本発明の実施例1の振動型アクチュエータの周波数掃引時における、駆動電圧による挙動の違いを示す概略図。
【図8】本発明の実施例1における演算器の構成を示すブロック図および入出力特性を示す概略図。
【図9】本発明の実施例2における振動型アクチュエータの駆動制御装置の構成例を説明するブロック図。
【図10】本発明の実施例2における振動型アクチュエータの駆動電圧と振動振幅との位相差−周波数特性の例を示す概略図。
【図11】本発明の実施例2の振動型アクチュエータの周波数掃引時における、駆動電圧と振動振幅の位相差の例を示す概略図。
【図12】本発明の実施例2における演算器の構成を示すブロック図および入出力特性を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の振動型アクチュエータの駆動制御装置は、電気−機械エネルギ変換素子が設けられた弾性体を有する振動体と、前記振動体に直接的または間接的に接触する移動体を備え、前記電気−機械エネルギ変換素子への印加電圧により、前記振動体に励起される振動波によって発生する摩擦力で前記移動体を前記振動体に対して相対移動させる振動型アクチュエータの駆動制御装置であって、前記印加電圧の少なくとも周波数及び振幅を、指令手段からの速度指令に基づいて可変制御する制御手段を備え、前記制御手段によって、予め定めた駆動領域で前記印加電圧の振幅を増加させるものである。
本発明において、「振動体に直接的または間接的に接触する移動体」とは、振動体と直接的に接する(物理的に接する)ように移動体を設けるだけでなく、間に摺動部材や、摩擦部材、或いは振動を伝達する振動伝達部材等を介在させる構成も含むことを意味する。即ち振動体の振動エネルギが移動体に伝達可能な状態で構成されていることを意味する。
また、「予め定めた駆動領域」とは、典型例としては、「振動型アクチュエータの挙動が不安定となり得る駆動領域」を意味しており、例えば振動型アクチュエータの定格速度領域のうち低速度領域等(例えば最高速度の10%以下の速度領域)を意味する。さらに前記駆動領域を周波数の観点から規定する場合には、予め定めた周波数帯域(周波数領域)ということもできる。また「挙動が不安定」とは、設定値(制御値)通りの速度で安定して駆動できない状態を意味する。例えば、当該速度(領域)で定常駆動させた場合に速度の変化が、他の速度領域で定常駆動させた場合よりも大きい場合や、停止してしまう場合が「挙動が不安定」といえる。
本発明を実施するための形態を、以下の実施例により説明するが、本発明はこれら実施例の記載によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0011】
[実施例1]
本発明の実施例1における振動型アクチュエータは、電気−機械エネルギ変換素子による圧電素子が設けられた金属やセラミック製の弾性体を有する振動体と、前記振動体に接触または間接的に接続される移動体を備える。
そして、電気−機械エネルギ変換素子への印加電圧により、前記振動体に励起される固有振動モードの共振現象を利用した振動波によって発生する摩擦力で前記移動体を振動体に対して相対移動させる。
その際、振動型アクチュエータは、加振周波数と同じ周波数の交流電圧を入力することで加振力を発生させることができる。
【0012】
まず、以下に圧電素子を用いた振動型アクチュエータおよびその回転原理について説明する。
図2は振動型アクチュエータの例を示す概略構成図、図3は振動型アクチュエータの振動の様子を示す概略図である。
弾性体2a、2bが圧電素子1を挟持しており、これらは一体となって振動体2を構成している。振動体2には、圧電素子1に給電するためのフレキシブル基板3と、振動体2の上面に形成される楕円振動との間に生ずる摩擦力によって回転するロータ4が組み付けられている。
ロータを回転させるには、振動体2が持っている直交する2方向の曲げ振動の固有振動モードを利用する。時間的位相が90°ずれた状態でこの2つの振動を発生させると、振動体2の上部構造が、くびれ部分を支点として振れ回るように回転振動する。
この様子を図3に示す。この振動の力が、不図示の加圧手段によって振動体2の上部に押し付けられたロータ4に摩擦力を介して伝達され、回転出力となって取り出される。
図4に、圧電素子1上に形成された給電用の電極パターンを示す。
電極は4つの区画に分割されており、各電極にはフレキシブル基板3を介してA相およびB相の交流電圧が供給される。圧電素子1の電極1a(+)、1a(−)、1b(+)、1b(−)の符号が分極方向を示しており、対向する電極はそれぞれ逆方向の極性を持つよう分極されている。
対向する電極に同じ駆動電圧を印加することによって逆方向の加振力を発生し、A相及びB相に対応して夫々一つの固有振動モードの振動が励振される。
【0013】
つぎに、振動型アクチュエータの基本的な制御原理について説明する。
図5は、上記振動型アクチュエータの振動体2に励起された振動の周波数と、振動体2の振動振幅との関係を示す図である。
ここでは、代表的な特性を示した細実線を用いて説明する(太点線については後述)。Frは振動体2の共振周波数を示しており、駆動周波数が共振周波数Frより高い領域から共振周波数Frに近付くと徐々に振動体2の振動振幅は増加し、共振周波数Frで最大振幅、即ち最大速度Vmaxとなる。
そして、共振周波数Frより低い周波数になると、振動振幅が急に減少する非対称な特性となっている。
振動型アクチュエータの回転速度(駆動速度)は振動振幅に比例しており、振動型アクチュエータの速度制御は、制御性を考慮して通常は共振周波数Frよりも高い領域が使用される。
【0014】
以下、上記原理に基づいた振動型アクチュエータの駆動制御について説明する。
図1は、本実施例における振動型アクチュエータの駆動制御装置の構成例を示すブロック図であり、不図示の指令手段からの速度指令に応じてロータ4の回転速度を制御するシステムを示している。
周波数指令と振幅指令に応じて2相の交流電圧を生成する交流電圧発生器11は、圧電素子1a、1bに90°の位相差を有する交流電圧φA、φBを印加する。
不図示のロータ4の回転速度は、ロータリーエンコーダなどの速度検出器12で検出される。
速度検出信号と、不図示の指令手段からの速度指令との差分が減算器13で演算される。
この差分信号に基づいて、制御器14が公知のPID制御などにより交流電圧の周波数(以下、駆動周波数)をフィードバック制御する。
振動型アクチュエータの起動停止に伴う加減速については、不図示の指令手段から所定の加速度を有する速度指令が与えられることで制御器14から周波数挿引指令が発せられ、ロータ4の回転速度が制御される。
【0015】
ここで、ロータ4が回転を開始した後、極低速において挙動が不安定となる領域について、図5および図6を用いて説明する。
上記のような不安定領域は、つぎのような要因によって振動状態が安定しないことが明らかとされている。
すなわち、振動体2とロータ4の接触状態が全面接触と部分接触の境界領域になる場合や、振動体2とロータ4の接触圧が場所によって異なる面圧ムラや、振動体2とロータ4の平面度バラつきなどによって、振動状態が安定しない場合がある。
周波数Fsで振動型アクチュエータを起動させ、目標となる回転速度Vtに対応する目標周波数Ftまで周波数を掃引する過程における、駆動周波数と共振周波数の差の推移をプロットしたグラフが図6である。細実線αで示す曲線が大局的な推移を表す。
Fsから掃引開始後、周波数Fr’近傍では、一時的に共振周波数が駆動周波数に近づいてくることで両者の周波数差が小さくなり、前述した振動状態が安定しない領域となる。
この領域では、前述の要因により共振周波数も振動的となっており、共振周波数と駆動周波数の差も図6中の太実線βで示すように振動的となる。この状態において両者の差が負の値を取ってしまった場合に、ストール(停止)してしまう。
【0016】
このことは、図5において、加速中の回転速度が速度Vmax’近辺を通過する時、振動振幅(速度)−周波数特性が一時的に太点線で示すように移動して振動的になっている状態(図6でのβに相当)で、
駆動周波数<共振周波数Fr’となった場合にストール(停止)することに対応する。
不安定領域を通過して振動状態が安定すると、共振周波数は遠のいてFrまで戻るため、Ftまで周波数掃引を完了することができる。
図6の曲線αにおいて、周波数Fr’付近で極小値をとった後Ftまでの区間がこれに相当する。
なお、本発明者らが検討に用いた図2のタイプの振動型アクチュエータにおいては、この回転速度Vmax’は大凡2[rps]付近が中心的であることが実験的に確認されている。
【0017】
このような現象を抑止するためには、
駆動電圧の振幅をより大きな値とすることが望まれる。
これは、駆動電圧の振幅が大きいほど加振力が強く、振動を安定させられるためである。
図7に、駆動電圧による周波数掃引時の挙動の違いの例を示す。
図7(a)が通常の振幅、図7(b)が通常よりも大きな振幅の駆動電圧とした場合の、振動型アクチュエータの起動時における挙動を示したものである。
図中「R」で示される、約2±1強[rps]の低い速度領域で、通常の振幅では速度変動が大きく振動状態が不安定であるのに対し、通常より高い振幅では、大きな速度変動なく安定して加速していることが見てとれる。
しかしながら、常時或いは加減速中は常に通常より高い振幅の駆動電圧が振動型アクチュエータに印加されるように設定すると、不必要に消費電力が増大してしまう。そのため、安定駆動に必要十分な駆動電圧を印加し、不必要な消費電力の増大を抑止することが望ましい。
【0018】
そこで、本実施例では、振動状態が不安定となる中心的な回転速度を予め測定しておき、不図示の指令手段からの速度指令との差分に応じて駆動電圧の振幅を増加させる制御を行う。
具体的には、図1の減算器15で、前述した予め測定された振動状態が不安定となる中心的な回転速度と、不図示の指令手段からの速度指令との差分を求め、演算器16で所定の演算を行った後、交流電圧発生器11に駆動電圧の振幅指令を出力する振幅制御を行う。
演算器16の構成例を図8(a)に、その入出力特性、即ち差分と振幅指令の関係を表すグラフを図8(b)に示す。
差分は、除算器100において差分限度設定値で除された後、乗算器101で二乗される。
さらに、飽和器(リミッタ)102を通過する、上限値1以下の値のみが、減算器103で値1より減算される。
しかる後、乗算器104でGain倍されたものが、加算器105で、通常時における駆動電圧の振幅値に加算され、振幅指令として出力される。
【0019】
なお、乗算器104におけるGainは最大増加振幅の設定値のことである。このように演算器16を構成すると、振幅指令は図8(b)の通りとなる。
即ち、振動状態が不安定となる中心的な回転速度(差分0)で振幅指令が最大値「通常電圧振幅値+最大増加振幅(Gain)」を取り、差分限度設定値だけ離れた回転速度で通常の電圧振幅となるような二乗特性を持つ。
例えば、上記した図7における速度領域「R」に対応させて、前述の中心的な回転速度を2[rps]、差分限度設定値を1.2[rps]、Gainを0.2、通常電圧振幅を0.5とする。
これにより、起動時から0.8[rps]までの振幅指令は0.5であり、そこから振幅指令が二乗関数的に増加し、2[rps]で最大振幅0.7となる。
回転速度が2[rps]を超えると振幅指令は二乗関数的に減少し、3.2[rps]以上は通常振幅である0.5に戻る。なお、駆動電圧の振幅は規格化しており、1が最大値である。
【0020】
以上のように、演算器16を構成することで、振動状態が不安定となる領域において、必要に応じて駆動電圧の振幅を増加させることができる。
なお、本実施例では二乗関数的な特性を得られる構成としたが、無論本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
演算量を低減するために線形特性としても良いし、不連続な一定値を増加させる0次特性としてもよい。
或いは、より高次の特性を持たせても良いし、速度差分の符号によって特性を変えるなど非対称な特性を持たせてもよい。
また、振動状態が不安定となる中心的な回転速度の決定方法についても、実験的に求めた固定値としても良いし、個々のアクチュエータに最適化するため、工場の生産ラインで測定してもよい。
更には、中心的な回転速度の代わりに、その速度に相当する周波数値を用いて、周波数指令との差分をもとに制御を行っても良い。なお、減速時も上記で説明した加速時と同様の制御を行うことができるのは言うまでもない。
【0021】
以上に説明したように、予め測定した振動状態が不安定となる中心的な回転速度と速度指令との差分に応じて、振動型アクチュエータへの印加電圧の振幅を増加させる可変制御を行うことにより、振動状態が不安定となる現象を抑止することが可能となる。
これらにより、挙動が不安定な低速駆動領域での不要な振動の発生を抑制して駆動を安定化させ、且つ消費電力の抑制を図ることが可能となる。
【0022】
[実施例2]
実施例2として、上記実施例1とは異なる構成例について説明する。
本実施例では、回転速度差でなく位相差の差分をフィードバック制御する以外の基本的な構成は実施例1と同様であることから、重複する説明は省略する。
図9は、本実施例における振動型アクチュエータの駆動制御装置の構成例を示すブロック図である。
実施例1における図1とは、圧電素子を用いた振動検出センサ1cを不図示の振動体2に設け、交流信号φAと振動検出信号φSの位相差と、予め設定される中心位相差との差分を元に交流電圧の振幅を制御する点が異なる。
位相差検出器17で交流電圧φAと振動検出信号φSの位相差を検出し、これと前述の中心位相差との差分を減算器15で求め、演算器16で所定の演算を行って交流電圧の振幅指令を得る。
【0023】
図10は、駆動周波数と上記位相差との関係を示す図である。
ここでは、代表的な特性を示した細実線を用いて説明する(太点線については後述)。
公知の通り、振動型アクチュエータに印加する電圧信号φAと、振動型アクチュエータの振動を検出した信号φSとの位相差は、周波数が共振周波数Frより高い領域から下がるにつれて徐々に増加し、共振周波数Frで−90度の点を通過する。
このような特性は実施例1で説明した図5の振動振幅特性および図6と対応しており、上記位相差をパラメータとすることで共振周波数の変化を検出することができる。
【0024】
ここで、ロータ4が回転を開始した後の極低速において挙動が不安定となる領域について、図10および図11を用いて説明する。
周波数掃引過程における上記位相差の推移をプロットしたグラフが図11である。細実線αで示す曲線が大局的な推移を表す。
Fsから掃引開始後、周波数Fr’近傍では、一時的に共振周波数が駆動周波数に近づいてくることで上記位相差が−90度に近くなり、実施例1で説明した振動状態が安定しない領域となる。
この領域では、前述の要因により共振周波数も振動的となっており、上記位相差も図11中の太実線βで示すように振動的となる。この状態において位相差が−90度を超えてしまった場合に、ストール(停止)してしまう。
このことは、図10において、周波数掃引時、上記位相差−周波数特性が一時的に太点線で示す付近に移動して振動的になっている状態(図11でのβに相当)で位相差が−90度を超えた場合にストール(停止)することに対応する。
不安定領域を通過して振動状態が安定すると、共振周波数が遠のいて位相差特性も細実線で示す状態に戻っていくため、Ftまで周波数掃引を完了することができる。
図11の曲線αにおいて、周波数がFr’からFtまでの区間がこれに相当する。
なお、前述の通り、実施例1の図6で説明した駆動周波数と共振周波数の差を示す曲線と図11の位相差曲線は一対一対応しており、図6におけるFr’付近での極小値は、図11におけるFr’付近での極大値に相当する。
【0025】
以上のような現象を抑止するためには、駆動電圧の振幅をより大きな値とすることが望まれる。
しかしながら、消費電力の増大を必要最小限にするため、安定駆動に必要十分な駆動電圧を適宜印加することが望ましい。
そこで、本実施例では、振動状態が不安定となる中心的な上記位相差即ち上記極大値である中心位相差を予め測定しておき、これと振動型アクチュエータ駆動中の上記位相差との差分に応じて駆動電圧の振幅を増加させる制御を行う。
具体的には、図9の減算器15において、前述した予め測定された振動状態が不安定となる上記中心位相差と、位相差検出器17からの位相差検出信号との差分を求める、そして、演算器16で所定の演算を行った後、交流電圧発生器11に駆動電圧の振幅指令を出力する振幅制御を行う。
演算器16の構成例を図12(a)に、その入出力特性、即ち上記差分と振幅指令の関係を表すグラフを図12(b)に示す。
差分は、まず最初に飽和器(リミッタ)106に入力され、上限値0以下の値のみが通過する。この後の演算器16の構成は実施例1(図8に示す演算器16)と同様であるため、詳細は省略する。
【0026】
このように演算器16を構成すると、振幅指令は図12(b)の通りとなる。即ち、振動状態が不安定となる中心位相差で振幅指令が最大値「通常電圧振幅値+最大増加振幅(Gain)」を取り、負側に差分限度設定値だけ離れた回転速度で通常の電圧振幅となるような二乗特性を持つ。
正側では上記最大値に保たれることで、上記位相差の差分が不安定で振動的な状態で、上記中心位相差から共振に近い側になった場合にも加振力を大きな状態に保つ効果がある。
なお、共振周波数の変化の検出方法について、本実施例では交流電圧と振動体2の振動の位相差を用いたが、無論本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
例えば、周波数指令に乱数信号を重畳し、この周波数変動に対するロータ4の速度変動の周波数応答特性を計測し、ゲイン特性および位相特性から振動体2の共振周波数と駆動周波数の差を直接推定してもよい。
また、本実施例に記載の処理は、上記不安定領域でのみ行い、目標速度Vtを超えるような共振に近い速度領域では行わないようにしてもよい。
【0027】
以上に説明したように、予め測定した振動状態が不安定となる中心的な、交流電圧と振動体2の振動の位相差と、振動型アクチュエータ駆動中の上記位相差との差分に応じて、振動型アクチュエータへの印加電圧の振幅を増加させる可変制御を行う。
これにより、振動状態が不安定となる現象を抑止することが可能となる。
加えて、電圧振幅の増加に伴う消費電力の増大を必要最小限に抑制することが可能となり、低回転速度領域での駆動安定化と消費電力抑制との両立を実現することができる。
【符号の説明】
【0028】
1:圧電素子
2:振動体
2a、2b:弾性体
3:フレキシブル基板
4:ロータ
11:交流電圧発生器
12:速度検出器
13:減算器
14:制御器
15:減算器
16:演算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気−機械エネルギ変換素子が設けられた弾性体を有する振動体と、前記振動体に直接的または間接的に接触する移動体と、を備え、
前記電気−機械エネルギ変換素子への印加電圧により、前記振動体に励起される振動波によって発生する摩擦力で前記移動体を前記振動体に対して相対移動させる振動型アクチュエータの駆動制御装置であって、
前記印加電圧の少なくとも周波数及び振幅を、指令手段からの速度指令に基づいて可変制御する制御手段を備え、
前記制御手段によって、予め定めた駆動領域で前記印加電圧の振幅を増加させることを特徴とする振動型アクチュエータの駆動制御装置。
【請求項2】
前記予め定めた駆動領域が、前記印加電圧の周波数が前記振動体の共振周波数よりも高く、且つ前記印加電圧の周波数掃引時に前記印加電圧の周波数から前記振動体の共振周波数を減じた差が極小値をとる周波数を中心とする領域であり、
前記領域に相当する前記移動体の駆動速度を予め測定し、前記予め測定された移動体の駆動速度と、前記指令手段からの速度指令との差分に応じて前記印加電圧の振幅を増加させることを特徴とする請求項1に記載の振動型アクチュエータの駆動制御装置。
【請求項3】
前記予め測定された前記移動体の駆動速度は、前記印加電圧を一定として前記印加電圧の周波数掃引時に、前記移動体の駆動速度が最も大きく変動する領域における駆動速度であることを特徴とする請求項2に記載の振動型アクチュエータの駆動制御装置。
【請求項4】
前記挙動が不安定な低速駆動領域に相当する前記印加電圧と前記振動体における位相差を予め測定し、
前記予め測定された前記印加電圧と前記振動体における位相差と、
前記振動型アクチュエータの駆動中における前記印加電圧と前記振動体における位相差との差分に応じて前記印加電圧の振幅を増加させることを特徴とする請求項1に記載の振動型アクチュエータの駆動制御装置。
【請求項5】
前記振動体の共振周波数と前記印加電圧の共振周波数との差を演算する演算手段を備え、前記演算手段の出力に応じて前記印加電圧の振幅を増加させることを特徴とする請求項1に記載の振動型アクチュエータの駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−235656(P2012−235656A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104046(P2011−104046)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】