説明

捲縮糸およびそれらを用いてなる繊維構造体

【課題】
本発明は、耐摩耗性に優れ、カーペットとして好適なポリマーアロイの捲縮糸を提供することにある。
【解決手段】
本発明の捲縮糸は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)およびグリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(C)を配合してなるポリマーアロイからなることを特徴とするものである。そして本発明の捲縮糸は、耐摩耗性に優れ、カーペットとして好適に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル樹脂と熱可塑性ポリアミド樹脂とが均一にブレンドされたポリマーアロイ系合成繊維から構成される捲縮糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料資源の枯渇対策や地球温暖化防止のために、植物資源を原料とする脂肪族ポリエステルポリマーによって従来の石油系ポリマーからなる合成繊維を代替しようとして、開発が活発に行われている。その中でも微生物により分解されるプラスチック、即ち生分解性プラスチックを用いた繊維に注目が集まっている。
【0003】
中でもポリ乳酸繊維は、力学的特性、熱的特性が実用製品として利用できる可能性があり、また最近はポリマーコストも現実的な価格になりつつあることから、開発が盛んに行われている。しかしながら、大きな期待にも関わらずポリ乳酸繊維の特性をそのまま活かせる用途は少なく、また、ポリ乳酸の欠点特性を改良する技術開発も行われているものの、その成果は十分ではない。そのため、ポリ乳酸繊維の生産・販売量は未だに少なく、早期拡大が切望されている。
【0004】
特に、自動車用カーペットやインテリア用カーペットに関しては、その市場が大きく、ポリ乳酸等の環境対応型素材への早期転換が期待されているにも関わらず、ポリ乳酸捲縮糸の欠点である捲縮性や耐磨耗性等のカーペット特性をクリアせずに、未だ本格的な製品化に至っていないのが実状である。
【0005】
このような状況の中、ポリ乳酸の特性をそのまま活かす、或いは欠点特性を抜本的に改良する技術開発とは別に、従来の合成繊維に混用することによって合成繊維の一部をポリ乳酸繊維で代替しようという試みがなされている。具体的には、ポリ乳酸とポリアミドによるポリマーブレンドや芯鞘複合に関するものであり、これまでに開示されている技術として、例えば特許文献1、特許文献2が挙げられる。
【0006】
特許文献1にはポリアミド中に脂肪族ポリエステルが均一に微分散したポリマーアロイ繊維が開示されており、種々の無機粒子を添加することでカーペットとしたときの耐摩耗性や耐ヘタリ性等の耐久性を改善する技術が開示されている。しかし、特許文献1に記載の繊維は、ポリアミドと脂肪族ポリエステルが非相溶であるために、これらの相の界面の接着性が劣り、耐摩耗性、耐ヘタリ性が不十分であった。
【0007】
また、一分子中に2個以上の活性水素反応性基を含有する相溶化剤を添加することで、ポリアミドと脂肪族ポリエステルの界面の接着性を強化し、外力による界面の剥離を抑制するアロイ繊維が開示されている(特許文献2および特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−81911号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2006−233375号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2007−197886号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の特許文献1〜3に記載されている方法においても、界面の剥離が十分に抑制されるわけではなく、よりいっそう優れた耐摩耗性の付与が望まれていた。本発明の課題は、上記課題を解決し、耐摩耗性に優れ、カーペットとして好適なポリマーアロイの捲縮糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)およびグリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(C)を配合してなるポリマーアロイからなる捲縮糸によって達成できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、耐摩耗性が格段に向上し、カーペットとして好適なポリマーアロイの捲縮糸及びそれを用いたカーペットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の捲縮糸の製造に用いる3葉断面(Y型)用口金の吐出孔断面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明でいう脂肪族ポリエステル樹脂(A)(以下「成分A」と記す場合もある)とは、脂肪族アルキル鎖がエステル結合で連結されたポリマーのことをいう。本発明で用いる脂肪族ポリエステル樹脂(A)としては結晶性であることが好ましく、融点が150〜230℃であることがより好ましい。
【0015】
また、本発明で用いる脂肪族ポリエステル樹脂(A)の種類としては、例えばポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が挙げられる。このうち、溶融成形が容易であるという点からポリ乳酸が最も好ましい。
【0016】
上記ポリ乳酸は、−(O−CHCH−CO)−を繰り返し単位として有するポリマーであり、乳酸やラクチド等の乳酸のオリゴマーを重合したものをいう。乳酸にはD体とL体の2つの光学異性体が存在するが、L体またはD体のいずれにしても、光学純度は高い方が融点は高く、すなわち耐熱性が向上するため好ましい。具体的にはL体、D体の合計に対して、L体もしくはD体が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。また融点としては繊維の耐熱性を維持するために150℃以上であることが好ましく、150℃〜230℃であることがより好ましい。さらに好ましくは170℃〜230℃である。上記融点とは、示差走査型熱量計DSCを用い、後述する方法で測定して得た融解吸熱曲線の極値を与える温度である。
【0017】
ただし、上記のように2種類の光学異性体のポリマーが単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体のポリマーをブレンドして繊維に成形した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を220〜230℃まで高めることができ、好ましい。この場合、「成分A」は、ポリ(L乳酸)とポリ(D乳酸)の混合物を指し、そのブレンド比は40/60〜60/40であると、ステレオコンプレックス結晶の比率を高めることができ、最良である。
【0018】
また、ポリ乳酸中には低分子量残留物として残存ラクチドが存在するが、これら低分子量残留物は、紡糸や延伸、捲縮加工工程において、口金や加熱ローラ、捲縮ノズルの汚れによる工程通過性不良に繋がるだけでなく、染色加工工程での染め斑等の染色異常を誘発する原因となる。また、繊維や繊維成型品の加水分解を促進し、耐久性を低下させる。そのため、ポリ乳酸中の残存ラクチド量は好ましくは0.3重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0.03重量%以下である。残留ラクチドの測定法としては、試料(ポリ乳酸)1gをジクロロメタン20mlに溶解し、この溶液にアセトン5mlを添加し、さらにシクロヘキサンで定容して析出させ、島津社製GC17Aを用いて液体クロマトグラフにより分析し、絶対検量線にてラクチド量を求める方法が挙げられる。
【0019】
また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していてもよい。共重合する成分としては、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレンエーテルグリコール、ポリブチレンサクシネートやポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル、ポリエチレンイソフタレートなどの芳香族ポリエステル、及びヒドロキシカルボン酸、ラクトン、ジカルボン酸、ジオールなどのエステル結合形成性の単量体が挙げられる。この中でも、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)(以下「成分B」と記す場合もある)との相溶性がよいポリアルキレンエーテルグリコールが好ましい。このような共重合成分の共重合割合は融点降下による耐熱性低下を損なわない範囲であればよいが、ポリ乳酸を構成する乳酸単位に対して0.1〜10モル%であることが好ましい。
【0020】
また、ポリ乳酸重合体の分子量は、耐摩耗性を高めるためには高い方が好ましいが、分子量が高すぎると、製糸工程で糸切れや毛羽が多発するなど延伸性が低下する傾向にある。重量平均分子量は耐摩耗性を保持するために8万以上であることが好ましく、10万以上がより好ましい。さらに好ましくは12万以上である。また、分子量が35万を越えると、前記したように延伸性が低下するため、結果として分子配向性が悪くなり繊維強度が低下する。そのため、重量平均分子量は35万以下が好ましく、30万以下がより好ましい。さらに好ましくは25万以下である。上記重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で求めた値である。
【0021】
本発明で用いる熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の種類としては、ポリカプロアミドまたはカプロラクタムを主成分とする他のポリアミド成分との共重合ポリマーであることが好ましい。好ましい共重合ポリマーの例としては、共重合ポリマーを構成する単量体全体を100重量部として、カプロラクタム:80〜99重量部とヘキサメチレンアジパミド、トリメチレンアジパミド、ヘキサメチレンセバカミド等の一種以上を1〜20重量部共重合したポリアミドである。ポリカプロアミドは従来からカーペット用捲縮糸として好適な素材であり、そのポリカプロアミド成分をベースとした共重合ポリアミドは、ポリカプロアミドよりは若干結晶性が低下するものの、融点がポリ乳酸に近づくため、溶融紡糸工程において、ポリ乳酸の熱劣化が少なくなり、糸切れや毛羽等の発生が抑制され、安定製糸が可能となる。なお、本発明において結晶性の有無は、示差走査熱量計(DSC)測定において融解ピークを観測できれば、そのポリマーが結晶性であると判断できる。
【0022】
また、一般に脂肪族ポリエステルは、融点を有する場合、その融点は通常200℃以下であるなど、耐熱性が高いとはいえず、溶融貯留時の温度が高くなり過ぎると物性が悪化する傾向にあるため、ブレンドする熱可塑性ポリアミド樹脂(B)は、融点が150〜250℃であることが好ましく、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の融点の上限は230℃以下であることが好ましい。一方、繊維の耐熱性を考慮すると、ポリアミドの融点の下限は150℃以上であることが好ましい。
【0023】
また、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の粘度が低すぎると、異形度を高く保つことができず、カーペットの嵩高性や風合いが低下すると共に、耐摩耗性の低下により耐久性不良に繋がることがある。一方、粘度が高過ぎると、ポリマーの流動性が悪くなり、紡出部での曳糸性が悪化するため、相対粘度は1.8〜3.0であることが好ましい。より好ましくは2.5〜2.8である。なお、ここでいう相対粘度は、試料0.25gを98%硫酸25mlに溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定したときの、ポリマー溶液と硫酸の落下秒数の比から求められる値をいう。
【0024】
本発明の成分Aと成分Bとのブレンド比率は特に限定されないが、本発明においては、後述するように成分Aを島成分、成分Bを海成分にすることが好ましいため、これを達成し得る比率とすることが好ましい。成分Aを島成分、成分Bを海成分とする海島構造とするポリマーアロイにするためには、成分A/成分Bのブレンド比率(重量比)を10/90〜50/50の範囲とすることが好ましい。また、成分Aと成分Bのブレンド比率は成分Bの比率を高めるほど容易になることから、より好ましくは20/80〜40/60である。
【0025】
本発明の捲縮糸及びそれを用いたカーペットは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)を含むポリマーアロイで構成される。本発明の捲縮糸及びそれを用いたカーペットは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)が島成分を、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)が海成分を形成した海島構造を形成していることが好ましい。ここで、脂肪族ポリエステルとポリアミドは通常ほとんど反応しない(エステル−アミド交換がほとんど起こらない)ため、前記2者のポリマーの界面接着性はそのままではそれほど高くはない。そこで、本発明の捲縮糸及びそれを用いたカーペットは、さらにグリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系重合体(C)(以下「成分C」と記す場合もある)を添加して界面接着性を飛躍的に向上させることで、耐摩耗性を向上させるものである。
【0026】
本発明で用いられる成分Cは、グリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体である。前記“/”は共重合を意味しており、以下の記載についても同様である。成分Cとして、グリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を用いることにより、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の界面接着性を飛躍的に向上させることができる。
【0027】
グリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(C)は、通常、スチレン、(メタ)アクリル酸エステルおよびグリシジル基を有する共重合可能なビニル系単量体(好ましくは(メタ)アクリル酸グリシジルエステル等)等の共単量体を共重合することにより得られる。
【0028】
ここで、(メタ)アクリル酸エステルは、メタアクリル酸エステルおよび/または、アクリル酸エステルを意味している。
【0029】
上記の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシルおよび(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルおよび(メタ)アクリル酸トリシクロデシニル等の(メタ)アクリル酸脂環式アルキル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸クロロエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチルおよび(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のヘテロ原子含有(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。これら単量体は、1種類または2種類以上用いることが可能である。
【0030】
また、上記のグリシジル基を有する共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸エポキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸エポキシシクロヘキサンメチル、アリルグリシジルエーテルおよびビニルグリシジルエーテル等が例示される。中でも、入手が容易であって接着強度が向上しやすいメタクリル酸グリシジルが好ましく用いられる。
【0031】
その中でも成分Cとして、ポリスチレン・(メタ)アクリル酸ブチル・メタクリル酸グリシジルもしくはポリスチレン・(メタ)アクリル酸ブチル・(メタ)アクリル酸メチル・メタクリル酸グリシジルの共重合体が好ましい。
【0032】
そのような製品としては、東亞合成製“ARUFON”が市販されている。
【0033】
グリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(C)を成分A及び/又は成分Bに添加して溶融ブレンドして紡糸を行うことで、該化合物が成分Aと成分Bのいずれの成分とも反応し架橋構造をとるか、どちらか一方と反応するかして、成分Aと成分Bの両者の界面に存在することで、界面剥離を抑制できると考えられる。
【0034】
グリシジル基は、ポリ乳酸樹脂や熱可塑性ポリアミド樹脂の末端に存在するCOOH末端基やOH末端基、NH末端基との反応性を有し、本発明の捲縮糸の製法である溶融紡糸では250℃以下と比較的低温で成形を行うため、低温反応性に優れた点でグリシジル基が好ましい。
【0035】
グリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体のグリシジル基量は20mgKOH/g以上である場合に相溶化剤としての好ましい役割を満たすことができる。一方、一分子中に200mgKOH/gを越えて反応性基を有すると、紡糸時に過度に増粘して曳糸性が低下する傾向にあるので、一分子中のグリシジル基の量は20mgKOH/g以上、200mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは100mgKOH/g以下、さらに好ましくは40mgKOH/g個以下である。ここで言うグリシジル基量は、使用する重合原料をベースとした理論値である。
【0036】
また、上記したグリシジル基を20mgKOH/g以上有する化合物は、重量平均分子量で250〜30,000の分子量を持つものであると、溶融成形時の耐熱性、分散性に優れるため好ましく、より好ましくは250〜20,000である。
【0037】
また、グリシジル基はOH末端基よりNH末端基との反応性に富むことが知られており、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)との反応性に優れている。さらに、これらの反応性基を有する重合体のスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(C)の主鎖であるアクリル系ポリマーは、脂肪族ポリエステル(A)、特にポリ乳酸との相溶性が良好であり、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)およびポリ乳酸の両者との相溶化剤としての反応性、分散性に優れている。
【0038】
また、本発明で用いるグリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(C)が有効である理由は定かではないが、この成分(C)は重合体の主鎖にグリシジル基含有共単量体を共重合した共重合体であり、主鎖に長い分岐がなく立体障害が無いため反応性に富むと考えられる。また、この成分(C)の重合時に連鎖移動剤などの副原料をほとんど用いる必要がないことから、高温での耐熱性に優れていると考えられ、高温紡糸するポリアミドを用いるポリマーアロイの相溶化剤として好ましく用いられる。
【0039】
また、グリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(C)は一般に分子量および組成分布が小さいため、溶融時の均一反応性に富むと考えられる。
【0040】
また、グリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(C)を添加することで、脂肪族ポリエステル(A)と熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の相溶性が向上し、紡出部でのバラスが抑制されるため、従来はバラスの発生によって使用が非常に困難であった高粘度な熱可塑性ポリアミド(B)が使用可能となった。この高粘度な熱可塑性ポリアミド(B)を使うことで、異形度が高い捲縮糸を得ることができ、カーペットでの耐摩耗性を向上させることができることを見出した。
【0041】
グリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(C)の添加方法としては、脂肪族ポリエステル樹脂(A)および熱可塑性ポリアミド樹脂(B)を重合する際から、これら樹脂を溶融紡糸するまでの過程で添加すればよいが、取扱いの容易性から溶融紡糸段階で添加することが好ましく、その際の添加方法としては、マスターバッチ方式が好ましい。
【0042】
マスターバッチ方式を用いる場合には、溶融したベースポリマに成分Cを練り込んだマスターチップを作成し、これを脂肪族ポリエステル樹脂(A)および熱可塑性ポリアミド樹脂(B)と計量混合して溶融紡糸することができる。
【0043】
成分(C)の添加量は、使用する化合物の反応性基の単位質量当たりの当量、溶融時の分散性や反応性、成分Aと成分Bのブレンド比により適宜決めることができる。界面剥離抑制の点では成分A、成分Bおよび成分Cの合計量(100質量%)に対し、0.005質量%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.02質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。成分Cの添加量が少なすぎると、2成分間の界面への拡散、反応量が少なく、界面接着性の向上効果が限定的となる。一方、成分Cが繊維の基材となる成分Aおよび成分Bの特性や、製糸性を阻害することなく性能を発揮させるためには、成分Cの添加量は5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。さらに好ましくは1.5質量%以下である。
【0044】
さらに、上記相溶化剤の反応を促進する目的で、カルボン酸の金属塩、特に金属をアルカリ金属、アルカリ土類金属とした触媒を添加すると、反応効率を高めることができ好ましい。その中でも、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、乳酸マグネシウムなどの乳酸をベースとした触媒を用いることが好ましい。その他、触媒添加による樹脂の耐熱性低下を防止する目的で、ステアリン酸金属塩などの比較的分子量の大きな触媒を単独または併用することもできる。なお、該触媒の添加量は、分散性、反応性を制御する上で、合成繊維に対して5〜2000ppm添加することが好ましい。より好ましくは10〜1000ppm、さらに好ましくは20〜500ppmである。
【0045】
また、ポリ乳酸繊維を着色する方法として一般に染色工程が適用されるが、染色工程を適用しない原着糸としてもよい。
【0046】
本発明の捲縮糸に用いる着色剤は、ポリ乳酸捲縮糸に適切な特定の無機、有機顔料および染料である。具体的には、鉛、クロムおよびカドミウムを除く酸化物系無機顔料、フェロシアン化物無機顔料、珪酸塩無機顔料、炭酸塩無機顔料、燐酸塩無機顔料、カ−ボンブラック、アルミニウム粉、ブロンズ粉およびチタン粉末被覆雲母等の無機顔料、フタロシアニン系有機顔料、ペリレン系有機顔料、イソイントセリノン系有機顔料等の有機顔料、および複素環系染料、ヘリノン系染料、ペリレン系染料およびチオインジオ系染料等から選ばれた2種以上を組み合わせたものである。例えば、無機顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタン・コバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−鉄系ブラック等の酸化物、紺青のようなフェロシアン化物、群青のような珪酸塩、炭酸カルシウムのような炭酸塩、マンガンバイオレットのような燐酸塩、カーボンブラック、アルミニウム粉やブロンズ粉、およびチタン粉末被覆雲母等が用いられ、鉛、クロムおよびカドミウム等の重金属を含む無機顔料は用いない。有機顔料としては、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーンおよび臭素化銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系、ペリレンスカーレット、ペリレンレァ、ペリレンマルーン等のペリレン系、イソインドリノン系等が用いられる。また、染料としては、アンスラキノン系、複素環系、ヘリノン系、ペリレン系、およびチオインジオ系が用いられる。
【0047】
本発明の捲縮糸及びそれを用いたカーペットに用いられる着色剤は、上記無機顔料、有機顔料および染料から選ばれた2種以上を組み合わせて用いるのが好ましい。上記着色剤を2種以上用いて調整することで、従来の染色タイプのポリ乳酸捲縮糸に対抗できる程の微妙な色調を発現することができ、カーペットとした時の意匠性、審美性を満足させることができる。
【0048】
該着色剤の添加濃度は、染料の種類によって変化するが、ポリマー100質量部当たり、着色剤の全量として、好ましくは0.01〜3.0質量部、より好ましくは0.5〜1.0質量部使用するものである。また、着色剤は通常用いられる分散剤を併用して用いることもできる。
【0049】
着色剤の添加方法としては、成分Cの添加方法と同様に、脂肪族ポリエステル樹脂(A)および熱可塑性ポリアミド樹脂(B)を重合する際から、これら樹脂を溶融紡糸するまでの過程で添加すればよいが、取扱いの容易性から溶融紡糸段階で添加することが好ましい。その際の添加方法としては、マスターバッチ方式やリキッドカラー方式等が挙げられるが、生産性、色調安定性等からマスターバッチ方式が好ましい。
【0050】
また、本発明の捲縮糸及びそれを用いたカーペットは、着色剤以外に、耐光剤、耐候剤、紫外線吸収剤、耐熱剤、熱劣化防止剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、分散剤、安定剤、難燃剤、抗菌剤、防汚剤など、従来公知の添加剤を適宜使用することができる。
【0051】
本発明の捲縮糸の総繊度は、500dtex以上にすることで、そのままでカーペット用パイルとしてタフトした場合、実用の目付とするためにステッチを上げる必要がなく、タフト性が良好となるため好ましく、より好ましくは1000dtex以上である。また、撚糸を施し諸撚り糸のカットパイルとして使用した場合においても、必要以上にゲージやステッチを上げる必要が生じないため好ましい。一方で上限としては、製糸工程において、延伸性を低下させず、安定な製糸を行うために、冷却・固化を均一にしたり、熱の伝達を十分に行えるようにする必要があるため、3000dtex以下が好ましく、より好ましくは2000dtex以下である。
【0052】
本発明の捲縮糸の単糸繊度は好ましくは5〜50dtexである。5dtex未満ではカーペット用としては耐摩耗性、耐ヘタリ性や踏み応え性に欠ける。50dtexを越えると、風合いが粗硬となり、カーペット用としては好まれない。
【0053】
さらに、本発明における捲縮糸は、カーペットの嵩高性や風合いを維持すると共に、耐摩耗性の低下による耐久性不良を抑制させるため、単糸の断面形状が異形度1.5以上の多葉断面であることが好ましく、より好ましくは2.5以上、更に好ましくは4.0以上である。また、異形度が6.0を超える断面形状を通常の製造方法で製造することは技術的に困難であるため、異形度の上限としては6.0以下であることが好ましい。多葉断面としては、2葉(扁平断面、繭型断面)3葉、4葉、5葉、6葉などが例示できるが、3葉が単糸間の空隙をより形成しやすく好ましい。ここで言う変形度とは、単糸横断面の外接円の直径Dと、単糸横断面の内接円の直径dの比(D/d)で表される。
【0054】
また、カーペットに嵩高性を付与するための上記以外の断面形状としては、中空断面が挙げられる。中空断面の場合、中空率が5〜25%であることが好ましい。中空率が5%未満であると、カーペットの嵩高性や風合いが低下すると共に、耐摩耗性の低下により耐久性不良に繋がることがある。また、中空率が25%を超えると単糸の剛直性が低下する傾向にあり、カーペットでの毛倒れが発生し易くなり、カーペットの品位を著しく低下させるため好ましくない。中空部は、1つでも複数(田型断面など)でも良く、複数の場合、それらの中空部の合計の中空率が5〜25%であれば良い。
【0055】
本発明の捲縮糸は、カーペット用途に好適に使用することができる。カーペットとしては、カーマット、タイルカーペット、ロールカーペット、ラグマット、ダスコンマットなど、幅広い分野で使用することができる。特に、本発明の主旨に合ったコストや環境を重視した分野において、好適に使用することができる。カーペットの形態は、カットパイル、ループパイル、それらの組合せなど、所望のカーペット製品となるように適宜選択することができる。
【0056】
また、工程通過性や製品の力学的強度を高く保つために強度は1cN/dtex〜5cN/dtex以上であることが好ましく、2cN/dtex〜5cN/dtex以上がより好ましい。このような強度を有する捲縮糸は後述する溶融紡糸法および延伸法により製造することが可能である。また、伸度は15〜70%であると、繊維製品にする際の工程通過性が良好であり好ましい。このような伸度を有する捲縮糸は後述する溶融紡糸法および延伸法により製造することが可能である。
【0057】
本発明における捲縮糸及びそれを用いたカーペットは、捲縮伸長率が5〜25%であることが好ましく、15〜25%がより好ましい。従来のポリ乳酸捲縮糸に比べて著しく捲縮特性に優れ、高捲縮率でボリュ−ム感があり、また、カ−ペットにした時に耐ヘタリ性や耐摩耗性も良好である。ナイロン捲縮糸ほどではないものの、その捲縮特性は従来のポリ乳酸捲縮糸やポリエチレンテレフタレ−ト捲縮糸より格段に優れ、十分実用できるレベルである。捲縮伸長率が5%未満であると、カーペットの嵩高性や風合いが低下すると共に、耐摩耗性の低下により耐久性不良に繋がることがある。また、捲縮伸長率が25%を超える捲縮糸を通常の製造方法で製造するには延伸工程での熱処理温度を200℃以上に設定する必要があり、融点が200℃以下の脂肪族ポリエステル樹脂が溶融してしまうため、技術的に困難である。
【0058】
本発明における捲縮糸の製造方法は、溶融紡糸、冷却、給油、延伸、および捲縮処理からなる捲縮糸製造工程によって製造される。本発明に用いる溶融紡糸装置はエクストルーダー型紡糸機でもプレッシャーメルター型紡糸機でも使用可能であるが、製品の均一性、製糸収率等の点でエクストルーダー型紡糸機が好ましい。
【0059】
着色剤を添加する場合は、着色剤を高濃度で添加したマスターチップを脂肪族ポリエステル樹脂(A)、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)、グリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(C)とブレンドしたチップを紡糸機に投入しても良いし、それぞれのチップを紡糸機直上で計量しながら投入しても良い。また、着色剤を粉体或いは液体の状態で直接紡糸機に投入しても良い。
【0060】
かかる捲縮糸の特定の総繊度、単糸繊度及び断面形状などを好ましい範囲にさせるには、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の粘度、紡糸温度、口金孔形状、吐出量、冷却等の紡糸条件を適切に設定して溶融紡糸する。
【0061】
溶融紡糸された糸条は、冷風によって冷却固化され、次いで油剤を付与された後、所定の引き取り速度で回転する引き取りローラに捲回して引き取られる。引き取り速度は300〜1000m/分が好ましい。引き取った糸条は、通常、引き続き延伸および捲縮加工を連続して行う。別の方法として、未延伸糸で一旦巻き取った後、別工程で延伸および捲縮加工を行う方法、あるいは延伸糸を一旦巻き取った後、別工程で捲縮加工を行う方法も可能である。
【0062】
本発明にかかる捲縮糸は5〜25%の捲縮伸長率を有することが好ましいが、そのためには延伸工程で十分な分子鎖の配向を高めてから捲縮加工するのが好ましい。延伸倍率は2.0〜4.0倍の範囲で行い、伸度が15〜70%となるよう延伸することが好ましい。次いで、延伸された糸条は捲縮付与装置を通して捲縮加工処理する。捲縮は飽和蒸気、過熱蒸気または加熱空気等の加熱流体加工処理によって行われる。捲縮加工装置は、例えば、特開2004−84080号公報で開示された捲縮加工ノズル装置などを使用することができる。通常は、該捲縮加工ノズルを有するジェットノズル方式で捲縮加工され、ニードル内を通過する糸条に周囲から過熱蒸気や加熱空気等の高圧の高温流体を接触させ、大気中に放出し冷却することで捲縮を付与する。更に、捲縮を固定する目的で、捲縮ノズルを通過した捲縮糸に冷風を吹きつけたり、内部に吸引するロータリーフィルターの表面に捲縮糸を堆積させて冷却する方法等も採用することができる。
【0063】
捲縮加工された捲縮糸は適度なストレッチを与えて、捲縮を一部潜在化させた後、巻取り機で巻き取る。捲縮糸は巻取り前に集束性を付与するため交絡処理を与えることもある。
【0064】
上記得られた捲縮糸は、後工程において、複数のマルチフィラメントを交絡混繊したり、撚糸・セット工程などの糸加工を施しても良い
かくして、本発明における脂肪族ポリエステル樹脂(A)となる耐摩耗性に優れた捲縮糸及びそれを用いたカーペットが得られる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明について実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何等限定されるものではない。なお、実施例中の各測定値の測定方法は以下の通りである。
【0066】
(1)ポリ乳酸の重量平均分子量
試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ウォーターズ社製 GPC−150C)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mn、さらに分散度Mw/Mnを求めた。
【0067】
(2)熱可塑性ポリアミドの相対粘度
試料0.25gを98%硫酸25mlに溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定した。相対粘度はポリマー溶液と硫酸の落下秒数の比から求めた。
【0068】
(3)融点(Tm)
Perkin−Elmer社製DSC−7型の示差走査型熱量計を用いて測定した。サンプル量20mgを用い、1stRUNとして、20℃から昇温速度10℃/分で融解ピーク終了時より約30℃高い温度まで昇温し、この温度で10分間保持した後、降温速度−10℃/分で20℃まで降温し、20℃の温度で1分間保持した後、さらに2ndRUNとして、20℃から昇温速度10℃/分で融解ピーク終了時より約30℃高い温度まで昇温したときに観測される融解吸熱曲線のピーク温度を融点とした。
【0069】
(4)スリット比
Y型断面糸口金において、次式により算出した。
スリット比=スリット長/スリット幅
【0070】
ここで、スリット長とスリット幅は、図1に示す通りである。すなわち、図1は、本発明の捲縮糸の製造に用いる3葉断面(Y型)用口金の吐出孔断面図の一例であり、1が吐出孔のスリット長であり、2が吐出孔のスリット幅である。
【0071】
(5)異形度
レーヨンステープルで包んだ捲縮糸の糸端を、厚さ0.5mmのステンレス製プレパラートに設けた穴(穴径1.0mm)に通し、安全カミソリでプレパラートの両面に沿って平行にカットしたものを断面観察用の試料とした。この試料をKEYENCE社製デジタルマイクロスコープ「VHX−500」を用いて500倍で観察し、単糸横断面の外接円の直径Dと、単糸横断面の内接円の直径dから下記式により求めた。10サンプルの平均値から求めた。
変形度=D/d
【0072】
(6)中空率
レーヨンステープルで包んだ捲縮糸の糸端を、厚さ0.5mmのステンレス製プレパラートに設けた穴(穴径1.0mm)に通し、安全カミソリでプレパラートの両面に沿って平行にカットしたものを断面観察用の試料とした。この試料をKEYENCE社製デジタルマイクロスコープ「VHX−500」を用いて500倍で観察し、面積計測機能により、中空部を含む繊維の断面積Sと中空部の面積sから次式により求めた。10サンプルの平均値から求めた。
中空率=(s/S)×100(%)
【0073】
(7)総繊度
JIS L 1013(2010)8.3.1正量繊度 b)B法に従って、初荷重として0.882mN/dtex、公定水分率をポリ乳酸は0.5%、ポリアミドは4.5%を用いて、JIS L 0105(2006) 3.1(1)絶乾混用率から算出する場合を使用して測定した。
【0074】
(8)単糸繊度
総繊度をフィラメント数で除して求めた。
【0075】
(9)強度、伸度
試料をオリエンテック(株)社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L1013(2010) 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。この時の掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分、試験回数10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0076】
(10)沸騰水収縮率
枠周1.125mの検尺機で巻き取られた糸束の一端を切断して得られる糸を試料とし、沸騰水処理前の試料に0.882mN/dtexの荷重をかけた時の試料長(L1)と、無荷重状態で98℃の沸騰水に30分間浸漬処理した後乾燥して平衡水分率とした試料に0.882mN/dtexの荷重をかけた時の試料長(L2)から次式により算出し、試料10本の平均値を沸収とした。
沸収(%)=[(L1−L2)/L1]×100
【0077】
(11)沸騰水処理後の捲縮伸長率
捲縮糸を巻き取り後、チーズ形状で20℃、相対湿度65%の雰囲気中に、20時間放置した後、かせ取りで24時間放置後、沸騰水中で浸漬処理したときの捲縮伸長率を示し、具体的には以下の方法で測定した値を言う。
【0078】
即ち、測定しようとする捲縮糸を、無荷重状態で98℃の沸騰水に20分間浸漬処理した後乾燥して平衡水分率となし、この試料に0.0176mN/dtexの初荷重をかけて30秒経過の後に測定した試料長50cm(L3)にマーキングを施し、次いで同試料に0.882mN/dtexの定荷重をかけ、30秒経過後の伸び(L4)を測定して、前記(L3)および(L4)の値から、次式により算出し、試料10本の平均値を沸騰水処理後の捲縮伸長率とした。
沸水処理後の捲縮伸長率(%)=[(L4−L3)/L3]×100
【0079】
(12)カーペットの耐摩耗性
目付け1100g/mに加工されたカーペットを直径120mmの円形状に切り出し、中央に6mmの穴を空けて試験片とした。この試験片を、ASTM D 1175(1994)に規定されるテーバー摩耗試験機(Rotary Abaster)にパイル面を上にして取り付け、H#18摩耗輪、圧縮荷重1kgf(9.8N)、試料ホルダ回転速度70rpm、摩耗回数5500回の条件にて摩耗試験を行い、下記の式を用いて摩耗減量率を算出した。
摩耗減量率(%)=(W0−W1)×100/(W2×T)
W0:測定前の円形カーペットの重量(g)
W1:測定後の円形カーペットの重量(g)
W2:カーペットの目付(g/m
T:摩耗輪が接触する部分の全面積(m)。
【0080】
[実施例1]
成分Aとしてポリ乳酸(重量平均分子量:20万、融点:177℃、L体・D体中のL体比率:98%)、成分Bとしてナイロン6(相対粘度:2.63、融点:225℃)、さらに成分Cとしてグリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(東亞合成社製:ARUFON UG−4070、グリシジル基量:39mmgKOH/g、重量平均分子量:9700)を20重量%含有するナイロン6(相対粘度:2.15、融点:225℃)マスターチップを重量比で30:65:5となるように計量器で連続的に計量しながら、エクストルーダー型押出紡糸機に投入し、溶融紡糸した。紡糸温度250℃、3葉断面(Y型)用の孔スペック(スリット長/スリット幅=10.8)を有する口金を用いて、捲縮糸の総繊度が1450dtex、フィラメント数54本、単糸繊度が26.9dtexとなるように製糸した。
【0081】
引取速度は770m/分、延伸倍率2.8倍、延伸温度110℃、セット温度150℃で熱延伸した。次いで延伸糸条は連続して捲縮ノズルで0.9MPaの加熱空気により、捲縮ノズル温度220℃にて捲縮処理した後、冷却ロールで冷却した後、0.12cN/dtexをかけてストレッチし、捲縮を潜在化した後、交絡ノズルを通して、約10個/mの交絡を付与して、1800m/分で巻き取った。
【0082】
得られた捲縮糸は次のタフト規格でタフティングして、カットパイルカーペットとした。基布には目付け120g/mのポリエチレンテレフタレート製スパンボンド不織布を用いた。
目付:1100g/m、ゲージ:1/10ゲージ、パイル高さ:10mm、ステッチ:12個/インチ、パイル:カットパイル
【0083】
一方で、目付300g/mのポリエチレンテレフタレート製スパンボンド不織布の片面に、SBR(スチレン・ブタジエン・ラテックス)を主成分とする水系樹脂エマルジョン塗布し、120℃で3分間加熱処理し、バッキング層を準備した。
【0084】
次に、前記カットパイルカーペットをそのパイル面を下側にして搬送しつつ、この上にポリエチレンパウダーを散布量250g/mで塗布し、次いでこのパウダーを150℃に加熱した後、この上に前記準備したバッキング層を重ね合わせた後、加圧式ニップロール(25℃、線圧10kg/cm)で加圧接着してカーペットを得た。
得られた捲縮糸及びカーペットの特性を表1に示す。
【0085】
[実施例2]
成分A:成分B:成分Cのマスターチップの重量比が20:79.5:0.5となるように計量しながらエクストルーダー型押出紡糸機に投入したこと以外は、実施例1と同様にして、捲縮糸及びカーペットを得た。得られた捲縮糸及びカーペットの特性を表1に示す。
【0086】
[実施例3]
成分A:成分B:成分Cのマスターチップの重量比が40:50:10となるように計量しながらエクストルーダー型押出紡糸機に投入し、得られる捲縮糸の総繊度が2430dtex、単糸繊度が45dtexとなるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、捲縮糸及びカーペットを得た。得られた捲縮糸及びカーペットの特性を表1に示す。
【0087】
[実施例4]
カーボンブラックを20重量%含有するナイロン6(相対粘度:2.15、融点:225℃)マスターチップを成分Dとし、成分A:成分B:成分Cのマスターチップ:成分Dの重量比が35:50:5:10となるように計量しながらエクストルーダー型押出紡糸機に投入したこと以外は、実施例1と同様にして、捲縮糸及びカーペットを得た。得られた捲縮糸及びカーペットの特性を表1に示す。
【0088】
[実施例5]
Y型中空断面用の口金に変更し、得られる捲縮糸の総繊度が810dtex、単糸繊度が15dtexとなるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、捲縮糸及びカーペットを得た。得られた捲縮糸及びカーペットの特性を表1に示す。
【0089】
[実施例6]
成分Bとして相対粘度2.72のナイロン6(融点:225℃)としたこと以外は実施例1と同様にして、捲縮糸及びカーペットを得た。得られた捲縮糸及びカーペットの特性を表1に示す。
【0090】
[実施例7]
成分Bとして相対粘度2.15のナイロン6(融点:225℃)としたこと以外は実施例1と同様にして、捲縮糸及びカーペットを得た。得られた捲縮糸及びカーペットの特性を表1に示す。
【0091】
[比較例1]
成分Cを添加せず、成分A:成分Bの重量比が30:70となるように計量しながらエクストルーダー型押出紡糸機に投入されたこと以外は、実施例1と同様にしたが、紡出部での曳糸性が悪く、製糸不能な状態となり、捲縮糸の採取は不可能であった。
【0092】
[比較例2]
成分Bとして相対粘度2.15のナイロン6(融点:225℃)としたこと以外は比較例1と同様にして、捲縮糸及びカーペットを得た。得られた捲縮糸及びカーペットの特性を表1に示す。
【0093】
[比較例3]
成分Cをモノアリルジグリシジルイソシアヌル酸(四国化成(株)製)としたこと以外は実施例1と同様にして、捲縮糸及びカーペットを得た。得られた捲縮糸及びカーペットの特性を表1に示す。
【0094】
[比較例4]
成分Cをメタアクリル酸メチル/グリシジルメタクリレート共重合体(グラフト重合体、グリシジル基量:34mgKOH/g)としたこと以外は実施例1と同様にして、捲縮糸及びカーペットを得た。得られた捲縮糸及びカーペットの特性を表1に示す。
【0095】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のポリマーアロイ捲縮糸は、ポリマーアロイ糸の欠点であった耐摩耗性が著しく向上し、カーマット、タイルカーペット、ロールカーペット、ラグマット、ダスコンマットといったカーペット用途を中心に好適に使用されるものである。また、耐摩耗性に優れることから、耐摩耗性の要求が高い上級グレートのカーペット用途にも好適に使用されるものである。
【符号の説明】
【0097】
1:吐出孔のスリット長
2:吐出孔のスリット幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)およびグリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(C)を配合してなるポリマーアロイからなる捲縮糸。
【請求項2】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)およびグリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(C)の合計量に対するグリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(C)を0.005〜5質量%配合してなることを特徴とする請求項1記載の捲縮糸。
【請求項3】
総繊度が500〜3000dtex、単糸繊度が5〜50dtexであることを特徴とする請求項1または2記載の捲縮糸。
【請求項4】
単糸の断面形状が異形度4.0以上の多葉断面であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の捲縮糸。
【請求項5】
単糸の断面形状が中空率5〜25%の中空断面であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の捲縮糸。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の捲縮糸を用いたカーペット。

【図1】
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