説明

掃海磁場検知装置および掃海艇

【課題】曳航する磁気掃海具から発せられた掃海用磁気信号によって、海中に実際に形成される掃海信号磁場の強さを定量的かつリアルタイムに検知する掃海磁場検知装置を提供する。
【解決手段】掃海磁場検知装置20は、掃海用磁気信号を発生する磁気掃海具1と、磁場の強さを検知する磁気センサ2と、掃海信号磁場の強さを演算する演算手段と、を有している。磁気センサ2は、地磁気ベクトルの強さFeと、掃海用磁気信号を発生している間の合成磁場ベクトルの強さFsを検知し、演算手段4は、国際標準地球磁場モデル5を利用して求められた掃海地点の地磁気ベクトルの偏角Deおよび俯角Ieから特定される地磁気ベクトル[Fe]と、掃海具磁場データ(掃海条件)7から求められた掃海信号磁場ベクトルの偏角Dhsおよび俯角Ihsと、から掃海信号磁場の大きさHs(スカラー)を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は掃海磁場検知装置および掃海艇、特に、掃海用磁気信号によって形成される掃海用磁界をリアルタイムにモニターする掃海磁場検知装置、および当該掃海磁場検知装置を装備した掃海艇に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、掃海に際し、海中に発せられた掃海用磁気信号(正確には、磁気掃海具に流れる電流値)によって、海中に実際に掃海用の磁場が形成されるか否かをリアルタイムにモニターする発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−201385号公報(3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された発明は、3軸のフラックスゲート型磁気センサ及びハイドロフォンからなる磁気掃海具を艇尾に曳航するものであって、当該3軸合成型磁気センサは、地球磁界や磁気掃海具の動揺による影響を受けない雑音排除型の磁気センサである。
すなわち、直交座標系X、Y、Zの3軸にそれぞれ配設され合成されるフラックスゲート型等の磁気センサを使用するため、磁気掃海具から掃海用磁気信号が発せられた際に「磁界の変化の有無」を定性的に検出するようになっている(磁気掃海具から掃海用磁気信号が発せられない間は、「地磁気」を検出している)。
なお、磁気掃海具から掃海用磁気信号が発せられた際に「磁界の変化量(掃海用磁気信号によって形成される磁場)」を定量的に検出しようとすると、地球磁場や磁気掃海具の動揺によってもその影響を受けない雑音排除型の磁気センサを用い、3軸個々のセンサに対し、ピッチ、ロール、ヨ一等の影響分の誤差を回避するため、磁気センサ近傍に動揺補正装置が必要になってくる。
【0005】
よって、特許文献1に記載された発明では、磁気掃海具から発生する掃海用磁気信号によって形成される掃海信号磁場の強さ(磁気掃海具から掃海用磁気信号を発した際に検知される磁場の、磁気掃海具から掃海用磁気信号を発しない間の地磁気に対する変化量)を知ることができないため、各種環境条件の影響により、想定外の掃海磁場が形成された(形成されない)場合など、これを検知することができない。
そのため、形成された掃海信号磁場の強さおよび広がりが過大である場合には、曳航具を曳航する掃海艇の近くで機雷が起爆したり、一方、形成された掃海信号磁場の強さおよび広がりが過小である場合には、機雷が起爆することなく海中に残ったりするという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題を解決するものであって、曳航する磁気掃海具から発せられた掃海用磁気信号によって、海中に実際に形成される掃海信号磁場の強さを定量的に、しかもリアルタイムに検知することが可能な掃海磁場検知装置、および該掃海磁場検知装置を有する掃海艇を提供することを目的とする。
なお、本発明において、掃海信号磁場とは、掃海用磁気信号が発せられた際に検知される磁場(以下、「合成磁場」と称する場合がある)から、掃海用磁気信号が発せられない間に検知される磁場(地球磁場、地磁気に同じ)を、差し引いた磁場(ベクトル)である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る掃海磁場検知装置は、掃海艇によって曳航され、掃海用磁気信号を発生する磁気掃海具と、
掃海艇によって曳航され、磁場の強さを検知する磁気センサと、
前記磁気センサが検知した地磁気の強さと、前記磁気センサが検知した地磁気と前記掃海用磁気信号によって形成された掃海信号磁場とを合成した合成磁場ベクトルの強さと、から前記掃海信号磁場の強さを演算する演算手段と、を有する。
【0008】
(2)前記(1)において、前記磁気センサは、前記磁気掃海具が掃海用磁気信号を発生しない間に、地磁気ベクトル[Fe]の強さ(スカラー)を検知すると共に、前記磁気掃海具が掃海用磁気信号を発生している間に、地磁気ベクトル[Fe]と前記掃海用磁気信号によって形成された掃海信号磁場ベクトル[Hs]とを合成した合成磁場ベクトルの強さ(スカラー)を検知し、
前記演算手段は、国際標準地球磁場モデルを利用して掃海地点の地磁気ベクトル[Fe]の偏角および俯角を求めるステップと、
前記地磁気の偏角および俯角から、前記検知した地磁気ベクトル[Fe]の強さ(スカラー)を地磁気ベクトル[Fe]に変換するステップと、
前記磁気掃海具の掃海条件から前記掃海信号磁場ベクトル[Hs]の偏角および俯角を求めるステップと、
前記地磁気ベクトル[Fe]と、合成磁場ベクトルの強さ(スカラー)と、前記掃海信号磁場ベクトル[Hs]の偏角および俯角と、から前記掃海信号磁場ベクトル[Hs]の強さ(スカラー)を演算するステップと、
を有することを特徴とする。
【0009】
(3)前記(1)または(2)において、前記磁気センサによって検知された地磁気ベクトル[Fe]の強さ(スカラー)および前記合成磁場ベクトルの強さ(スカラー)に含まれるノイズを除去するハイパスフィルターを有することを特徴とする。
【0010】
(4)前記(1)乃至(3)の何れかにおいて、前記磁気センサが、セシウム式全磁力計であることを特徴とする。
【0011】
(5)また、本発明に係る掃海艇は、前記(1)乃至(4)の何れかに記載の掃海磁場検知装置を有する。
【発明の効果】
【0012】
(i)本発明に係る掃海磁場検知装置は、掃海信号磁場の強さ(スカラー)を演算する演算手段を有するから、曳航する磁気掃海具から発せられた掃海用磁気信号によって、海中に実際に形成される掃海信号磁場の強さを定量的に、しかもリアルタイムに検知することが可能になる。このため、掃海作業が確実になり、掃海艇自身および当該海域の安全を図ることができる。
【0013】
(ii)国際標準地球磁場モデルを利用して求められる掃海地点の地磁気ベクトル[Fe]の偏角および俯角と、磁気掃海具の掃海条件から求められる掃海信号磁場ベクトル[Hs]の偏角および俯角と、を用いて、磁気センサが検知するスカラー量から、掃海信号磁場ベクトル[Hs]の強さ(スカラー)を演算するから、最少数の磁気センサによって、あるいは、磁気センサに動揺補正装置を設置することなく、掃海信号磁場ベクトル[Hs]の強さ(スカラー)を知ることが可能になる。
【0014】
(iii)磁気センサによって検知されたスカラーに含まれるノイズを除去するハイパスフィルターを有するから、地磁気の日変動等による誤差が除去され、演算の精度が向上する。
【0015】
(iv)磁気センサが、セシウム式全磁力計であるから、磁気の方向等は検知できないものの、磁気の強さを精度高く検知することができる。
【0016】
(v)本発明に係る掃海艇は、前記掃海磁場検知装置を有するから、海中に実際に形成される掃海信号磁場の強さを定量的に、しかもリアルタイムに検知することが可能になるため、掃海作業が確実になり、掃海艇自身および当該海域の安全を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[実施形態1:掃海艇]
図1は、本発明の実施形態1に係る掃海艇を説明する模式図である。図1において、掃海艇10は、掃海艇10によって曳航され、掃海用磁気信号を発生する磁気掃海具1と、掃海艇10によって曳航され、磁場の強さを検知する磁気センサ2と、掃海信号磁場の強さを演算する図示しない演算手段と、を有している。
当該演算手段は、掃海用磁気信号が発せられた際に検知される合成磁場(ベクトル)から、掃海用磁気信号が発せられない間に検知され地球磁場(ベクトル)を、差し引いた掃海用磁気信号によって形成される掃海信号磁場(ベクトル)の強さ(スカラー、以下、「掃海信号磁場の強さ」と称す)を求める手段である(これについては別途詳細に説明する)。
なお、磁気掃海具1と、磁気センサ2と、前記演算手段と、を具備する装置を掃海磁場検知装置20(実施の形態2参照)と称す。また、磁場の空間的な広がりとの混乱を避けるため、磁場の電磁気的な大小については「強さ」と表現する。
【0018】
[実施形態2:掃海磁場検知装置]
図2〜図6は、本発明の実施形態2に係る掃海磁場検知装置を説明するものであって、図2は構成を示すブロック図、図3は動作を示すフローチャート、図4〜図6は演算要領についての説明を補足するためのベクトル図である。
図2において、掃海磁場検知装置20は下記動作を実行するために、磁気検知情報を入力するための磁気サンサ2(たとえば、3軸合成型磁気検出器)およびハイパスフィルタ3と、地磁気ベクトル[Fe]の偏角俯角を求めるための国際標準地球磁場(IGRF)モデル5および偏角俯角演算部6と、掃海信号磁場ベクトル[Hs]の偏角俯角を求めるための磁気掃海具磁場データ7と、これらからの入力に基づいて掃海信号磁場の強さを演算する掃海信号演算部4とを有している。なお、掃海信号演算部4には、掃海艇10の航行方向についての情報が入力され、演算結果(掃海信号磁場の強さ)が、図示しない表示手段に出力される。
【0019】
(掃海磁場検知装置の動作)
図3において、掃海磁場検知装置20の動作は、
掃海艇10の航行方向θを、搭載するジャイロコンパスによって検知する航行方向検知ステップ(S1)と、
磁気掃海具1から掃海用磁気信号の発信を停止する信号停止ステップ(S2)と、
地磁気ベクトル[Fe]の強さFe(スカラー)を検知する地磁気検知ステップ(S3)と、
磁気掃海具1から掃海用磁気信号の発信する信号発信ステップ(S4)と、
合成磁気ベクトル[Fs]の強さFs(スカラー)を検知する合成磁気検知ステップ(S5)と、
掃海信号磁場ベクトル[Hs]の強さHs(スカラー)を演算する演算ステップ(S6)と、
演算結果を表示する表示ステップ(S7)と、
を有している。
【0020】
そして、演算ステップ(S6)においては、
地磁気ベクトル[Fe]の強さFeからノイズを除去するステップ(S6の1)と、
国際標準地球磁場(IGRF)モデルを利用して掃海地点の緯度経度から、地磁気ベクトル[Fe]の偏角Deおよび俯角Ieを求めるステップ(S6の2)と、
合成磁気ベクトル[Fs]の強さFsからノイズを除去するステップ(S6の3)と、
磁気掃海具1の掃海条件から、掃海信号磁場ベクトル[Hs]の偏角Dhsおよび俯角Ihsを決定するステップ(S6の4)と、
掃海信号磁場の強さHsを計算するステップ(S6の5)と、を有している。
なお、掃海条件とは、航行方向θ、磁気掃海具1の展開方法(I型、J型、これについては別途説明する)、磁気掃海具1に印加する通電量、曳航されている磁気掃海具1の水深、掃海地点の海水の伝導率等である。
【0021】
(算出方法1)
次に、掃海信号磁場の強さHsの演算要領について詳細に説明する。
図4(ベクトル図)において、磁気掃海具1が掃海用磁気信号を発生しない間に、掃海地点に存在している地磁気ベクトル[Fe]と、磁気掃海具1が掃海用磁気信号を発生したことによって形成される掃海信号磁場ベクトル[Hs]と、磁気掃海具1が掃海用磁気信号を発生した際、磁気センサ2が検知する合成磁気ベクトル[Fs]と、の関係を示している。
すなわち、合成磁気ベクトル[Fs]は、地磁気ベクトル[Fe]と掃海信号磁場ベクトル[Hs]との和である。
【0022】
(各磁気ベクトルの関係)
したがって、掃海信号磁場ベクトル[Hs]は式1にて示される。
[Hs]=[Fs]−[Fe] ・・・・・(式1)
なお、ベクトル量は[]で括り、スカラー量については[]を付けないで表示する。また、各ベクトル量を直角座標(X−Y−Z系)の各方向の成分に分離して表示する際は、符号に「x、y、z」を付記する。
したがって、式1スカラー量で書き直と、式2〜式4となる。
Hsx=Fsx−Fex ・・・・・(式2)
Hsy=Fsy−Fey ・・・・・(式3)
Hsz=Fsz−Fez ・・・・・(式4)
【0023】
(地磁気ベクトル)
地磁気ベクトル[Fe]の強さFe(スカラー)は、磁気センサ2によって検知され、地磁気ベクトル[Fe]の掃海地点における偏角Deおよび俯角Ieは、国際標準地球磁場(IGRF)モデルを利用して得られるから、地磁気ベクトル[Fe]の各方向成分は、既知量として式5〜式7に示される。
Fex=Fe・cos(Ie)・cos(De) ・・・・・(式5)
Fey=Fe・cos(Ie)・sin(De) ・・・・・(式6)
Fez=Fe・sin(Ie) ・・・・・(式7)
ここで、Fe=√( Fex2+Fey2+Fez2) である。
【0024】
(合成磁気ベクトル)
合成磁気ベクトル[Fs]の強さFs(スカラー)は、磁気センサ2によって検知される既知量であるが、その偏角Dfsおよび俯角Ifsは未知数である。そして、合成磁気ベクトル[Fs]の各方向成分は、未知量として式8〜式10に示される。
Fsx=Fs・cos(Ifs)・cos(Dfs) ・・・・・(式8)
Fsy=Fs・cos(Ifs)・sin(Dfs) ・・・・・(式9)
Fsz=Fs・sin(Ifs) ・・・・・(式10)
【0025】
【数1】

【0026】
(掃海信号磁場ベクトル)
掃海信号磁場ベクトル[Hs]の強さである掃海信号磁場の強さHs(スカラー)は未知量であるが、その偏角Dhsおよび俯角Ihsは、航行方向θ、磁気掃海具1の展開方法(I型、J型、これについては別途説明する)、磁気掃海具1に印加する通電量、曳航されている磁気掃海具1の水深、掃海地点の海水の伝導率等(まとめて、「掃海条件」と称している)から、決定される。したがって、掃海信号磁場ベクトル[Hs]の各方向成分は、未知量として式12〜式14に示される。
Hsx=Hs・cos(Ihs)・cos(Dhs) ・・・・・(式5)
Hsy=Hs・cos(Ihs)・sin(Dhs) ・・・・・(式6)
Hsz=Hs・sin(Ihs) ・・・・・(式7)
ここで、Hs=√( Hsx2+Hsy2+Hsz2) である。
【0027】
(掃海信号磁場の強さHsの演算)
以上より、地磁気ベクトル[Fe]の始点を中心として、半径が合成磁気ベクトル[Fs]の強さに同じ球を描いたとき、強さが未知量でありながら偏角Deおよび俯角Ieが知られた地磁気ベクトル[Fe]の終点に、同じく強さが未知量でありながら偏角Dhsおよび俯角Ihsが知られた掃海信号磁場ベクトル[Hs]を加えたベクトルの先端は、前記球面に位置することになる。
そこで、式5〜式13を式2〜式4に代入すると、式15〜式17が得られる。すなわち、3つの未知量、掃海信号磁場の強さHs、合成磁気ベクトル[Fs]の偏角Dfsおよび俯角Ifsに対して、3つの式が得られる。また、式15〜式17の右辺は三角関数となっているので、式11を利用して、以下の手順で掃海信号磁場の強さHsを求める。
【0028】
【数2】

【0029】
【数3】

【0030】
よって、式42より、X0、すなわち、掃海信号磁場の強さHsが得られる。
【0031】
(算出方法2)
次に、地磁気ベクトル[Fe]と合成磁気ベクトル[Fs]とのなす角度(θs)が十分小さい場合において、掃海信号磁場の強さHs(スカラー)を一次式で算出する方法について説明する。
図5および図6(ベクトル図)において、合成磁気ベクトル[Fs]と掃海信号磁場ベクトル[Hs]のなす角度をθhとすると、
Fs・cos(θs)=Fe+Hs・cos(θh) ・・・・・(式43)
ここで、 cos(θs)=1−θs2/2!+θs4/4! ・・・・・(式44)
そして、θs<<1であるから、
θs2/2!=0 ・・・・・(式45)
cos(θs)=1 ・・・・・(式46)
よって、式1は、
Fs=Fe+Hs・cos(θh) ・・・・・(式47)
Hs=(Fe−Fe)/cos(θh) ・・・・・(式48)
とおくことができる。
【0032】
ここで、
De:地磁気ベクトル[Fe]の偏角(既知量)
Ie:地磁気ベクトル[Fe]の俯角(既知量)
θ :磁気掃海具1の曳航方向と北とのなす角度(既知量)
Hx:掃海信号磁場ベクトル[Hs]の掃海方向成分(未知量)
Hy:掃海信号磁場ベクトル[Hs]の右舷方向成分(未知量)
Hz:掃海信号磁場ベクトル[Hs]の深度方向成分(未知量)
とすると、磁気掃海具1の曳航方向と北とのなす角度(θ)は、掃海艇10の船首方向に同じであるから、掃海艇10に装備のジャイロコンパスによって知ることができ、掃海信号磁場ベクトル[Hs]の方向余弦「l、m、n」は、計画/実施する磁気掃海具1の展開方法(I型、J型、これについては別途説明する)により規定される電線の曳航時の形状、通電量、水深、軽水の導電率等から決定される。よって、
l=Hsx/Hs ・・・・・(式49)
m=Hsy/Hs ・・・・・(式50)
n=Hsz/Hs ・・・・・(式51)
と表すことができる。よって、式53を式48に代入して、掃海信号磁場の強さHsを算出することができる。また、同様に、地磁気ベクトルの強さFsを算出される。
【0033】
【数4】

【0034】
(算出方法3)
なお、前記算出方法1および2において、航走方位によってはFe≒Fsとなり、算出できない場合がある。例えば、算出方法2の式48において、
θh=90deg.およびθh=270deg.のとき、
cos(θh)=0 となるため、Hsが算出できない。
よって、掃海の運用計画時に、地磁気ベクトル[Fe]と掃海信号磁場ベクトル[Hs]とのなす角度θhが、90deg.または270deg.の近傍になる場合は、これと相違する方位に磁気センサ2を曳航することによって、Hsの算出を可能にする。
【0035】
(ハイパスフィルターについて)
掃海信号磁場の強さHsを算出する際の、誤差要因として、地磁気の時間変動等が考えられる。
その変動の一つに、地磁気の日変化がある。すなわち、地磁気の変化を見ていると、日周期の変化が認められる。これは地球磁気圏と大気圏の間の電離層への太陽放射の影響を示すものであって、地球の自転に応じて1日周期の変化として観測される。1日の変化量は、約50nTであって、数十分間における変化量は、約10nTであるから、掃海時の掃海信号磁場の強さHsの時間変動に比べて緩やかである。
よって、検知する地磁気ベクトル[Fe]の強さFeや、合成磁気ベクトル[Fs]の強さFeにフィルター(ハイパスフィルター)を適用することで、地磁気の日変化の変動による掃海信号磁場の強さHsの算出誤差を低減することが可能になる。
【0036】
(偏角および俯角の簡易計算)
次に、前記算出方法1における偏角Dhsおよび俯角Ihsの計算方法の一例を簡単に説明する。前記算出方法1における掃海信号磁場ベクトル[Hs]の座標系は、北をHsx、東をHsy、下方をHszとしている。
I型掃海の場合の、海水中の磁気センサ位置点P(X、Y、Z)における磁場(Hsx’、Hsy’、Hsz’)は、補足式1〜3に示される。
【0037】
【数5】

【0038】
ここで、i : 掃海電流 (A)
R12 : (L−x)2+y2
R22 : (L+x)2+y2
2L : 掃海電極間の距離 (m)
であって、原点は、電極間の中点とする。
なお、補足式1〜3は、海水が深度方向に無限に広がっている場合であり、海底を考慮する場合は、水深、海水及び海底質の導電率等から算出される、海水中の磁場についての鏡像を考慮すればよい。
【0039】
次に、補足式1〜3の磁場を、北をHsx、東をHsy、下方をHszに座標変換し、掃海信号の磁場ベクトル[Hs]の偏角Dhs、伏角Hisを算出する。このとき、航走方位と磁北とのなす角度をθとすると、
Hsx=Hsx’・cos(θ)+Hsy’・sin(θ) ・・・・(補足式4)
Hsy=Hsy’・cos(θ)−Hsx’・sin(θ) ・・・・(補足式5)
Hsz=Hsz’ ・・・・・(補足式6)
Hs =√(Hsx2+Hsx2+Hsx2) ・・・・・(補足式7)
を得る。
【0040】
そうすると、式7および式5より、偏角Dhsおよび俯角Ihsを求めることができる。
sin(Ihs)=Hsz/Hs ・・・・・(補足式8)
Ihs=arcsin(Hsz/Hs) ・・・・・(補足式9)
cos(Dhs)=Hsx/(Hs・cos(Ihs)) ・・・(補足式10)
Dhs=arccos(Hsx/(Hs・cos(Ihs))・・・(補足式11)
【0041】
(偏角および俯角の簡易計算)
次に、前記算出方法2における、方向余弦(l、m、n)の計算方法の一例を簡単に説明する。
図7は、かかる計算方法における掃海信号磁場ベクトル[Hs]を模式的に示す側面図である、すなわち、掃海信号磁場ベクトル[Hs]の座標系は、航走方位をHsx、航走方位に垂直な水平方向をHsy、下方をHszとしている。
そうすると、補足式1〜3から算出した(Hsx’、 Hsy’、 Hsz’)を、式49〜式51に代入することによって次式にて求められる。
l=Hsx’/Hs ・・・・・(補足式12)
m=Hsy’/Hs ・・・・・(補足式13)
n=Hsz’/Hs ・・・・・(
補足式14)
【0042】
(磁気掃海具1の展開方法)
図8は本発明の実施形態2に係る掃海磁場検知装置における磁気掃海具の展開方法を説明するための模式図である。図8の(a)は「I型掃海」を示すものであって、掃海艇10の船尾に短電線11と、短いKケーブル12と、長電線13と、長いKケーブル14とが、それぞれ接続され、掃海艇10の航路内を、航行方向と平行する方向に略一直線状になって曳航されている。
【0043】
図8の(b)は「J型掃海」を示すものであって、掃海艇10の船尾に短電線11と、短いKケーブル12と、長電線13と、長いKケーブル14と、長いKケーブル14より短い展開用ワイヤ15とが、接続されている。そして、長いKケーブル14の末端と展開用ワイヤ15の末端とは接続され、当該接続部に展開器16が接続されている。
したがって、展開器16によって、長いKケーブル14の末端は、掃海艇10の航路から離されるため、短電線11と長電線13の掃海艇10に近い範囲は、掃海艇10の航路内で、航行方向と平行する方向に略一直線状になって曳航されるものの、長電線13の掃海艇10から遠い範囲は、掃海艇10の航路から、離れるように、航行方向に対して略垂直になるように略J字状に曲がっている。
【0044】
[その他の実施の形態]
以上は、本発明の掃海磁場検知装置を、海面を曳航されるものについて説明しているが、本発明はこれに限定するものではなく、海底に沿ってあるいは水中や空中を移動しながら地球磁場(地磁気)を検知したり、移動式あるいは固定式の磁気信号発生体に対して、それが実際に形成する磁場を検知したりする磁気検知手段であってもよい。
さらに、本発明の掃海磁場検知装置の収集したデータを、国際標準地球磁場(IGRF)データの補正に活用してもよい。すなわち、IGRF地磁気モデルは、局所的な磁気歪みに対応したものではない。このため、予め磁気掃海具を運用する海域にて、方位計を組み合わせた地磁気計測用3軸直交型磁気センサ等で、地磁気の偏角、俯角を検出しておく。この地磁気偏角俯角データを、緯度、経度情報 及びIGRFモデルの偏角俯角データとともに蓄積、データベース(DB)化することにより、このDBを、IGRF地磁気データの補正に活用し、掃海信号算出精度の向上を図ることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は以上の構成であるから、磁気信号発生体が実際に形成する磁場の強さを定量的に、しかもリアルタイムに検知することができるから、人工的に実際に形成される磁場の強さ検知手段と共に、自然に存在する磁場(地磁気)の強さを検知する手段としても、広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】発明の実施形態1に係る掃海艇を説明する模式図。
【図2】本発明の実施形態2に係る掃海磁場検知装置の構成を示すブロック図。
【図3】本発明の実施形態2に係る掃海磁場検知装置の動作を示すフローチャート。
【図4】本発明の実施形態2に係る掃海磁場検知装置の演算要領についての説明を補足するためのベクトル図。
【図5】本発明の実施形態2に係る掃海磁場検知装置の演算要領についての説明を補足するためのベクトル図。
【図6】本発明の実施形態2に係る掃海磁場検知装置の演算要領についての説明を補足するためのベクトル図。
【図7】本発明の実施形態2に係る掃海磁場検知装置の演算要領における方向余弦の計算方法における掃海信号磁場ベクトル[Hs]を模式的に示す側面図。
【図8】本発明の実施形態2に係る掃海磁場検知装置における磁気掃海具の展開方法を説明するための模式図。
【符号の説明】
【0047】
1 磁気掃海具
2 磁気センサ
3 ハイパスフィルタ
4 掃海信号演算部
5 国際標準地球磁場(IGRF)モデル
6 偏角俯角演算部
7 磁気掃海具磁場データ
10 掃海艇
20 掃海磁場検知装置
θ 航行方向
θh 合成磁気ベクトルと掃海信号磁場ベクトルとのなす角度
Fe 地磁気ベクトルの強さ
De 地磁気ベクトルの偏角
Ie 地磁気ベクトルの俯角
Fs 合成磁気ベクトルの強さ
Hs 掃海信号磁場ベクトルの強さ
Dhs 掃海信号磁場ベクトルの偏角
Ihs 掃海信号磁場ベクトルの俯角


【特許請求の範囲】
【請求項1】
掃海艇によって曳航され、掃海用磁気信号を発生する磁気掃海具と、
掃海艇によって曳航され、磁場の強さを検知する磁気センサと、
前記磁気センサが検知した地磁気の強さと、前記磁気センサが検知した地磁気と前記掃海用磁気信号によって形成された掃海信号磁場とを合成した合成磁場ベクトルの強さと、から前記掃海信号磁場の強さを演算する演算手段と、
を有する掃海磁場検知装置。
【請求項2】
前記磁気センサは、前記磁気掃海具が掃海用磁気信号を発生しない間に、地磁気ベクトルの強さ(スカラー)を検知すると共に、前記磁気掃海具が掃海用磁気信号を発生している間に、地磁気ベクトルと前記掃海用磁気信号によって形成された掃海信号磁場ベクトルとを合成した合成磁場ベクトルの強さ(スカラー)を検知し、
前記演算手段は、国際標準地球磁場モデルを利用して掃海地点の地磁気ベクトルの偏角および俯角を求めるステップと、
前記地磁気の偏角および俯角から、前記検知した地磁気ベクトルの強さ(スカラー)を地磁気ベクトルに変換するステップと、
前記磁気掃海具の掃海条件から前記掃海信号磁場ベクトルの偏角および俯角を求めるステップと、
前記地磁気ベクトルと、合成磁場ベクトルの強さ(スカラー)と、前記掃海信号磁場ベクトルの偏角および俯角と、から前記掃海信号磁場ベクトルの強さ(スカラー)を演算するステップと、
を有することを特徴とする請求項1記載の掃海磁場検知装置。
【請求項3】
前記磁気センサによって検知された地磁気ベクトルの強さ(スカラー)および前記合成磁場ベクトルの強さ(スカラー)に含まれるノイズを除去するハイパスフィルターを有することを特徴とする請求項1または2記載の掃海磁場検知装置。
【請求項4】
前記磁気センサが、セシウム式全磁力計であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の掃海磁場検知装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の掃海磁場検知装置を有する掃海艇。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−137346(P2009−137346A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313443(P2007−313443)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)
【出願人】(000121844)応用地質株式会社 (36)