説明

排水の残留塩素の低減方法

【課題】従来よりも手間のかからない排水の残留塩素の低減方法を提供しようとするもの。
【解決手段】排水を陽極側で電気分解する陽極側電解工程と、陰極側で電気分解する陰極側電解工程と、陽極側の電解水と陰極側の電解水とを混合する混合工程を具備する。次亜塩素酸に中和エネルギーが作用することにより、次亜塩素酸の分子が分解して残留塩素濃度が低下することとなり、残留塩素の処理に従来よりも手間がかからない。前記陽極側と陰極側の流量を調製することによりpHの調節を行うようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、排水の浄化処理後の余剰の残留塩素の低減方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、排水処理施設用残留塩素除去方法及びその装置に関する提案があった(特許文献1)。
すなわち、近年、大規模リゾート開発に伴い、大型の生活系汚水処理施設を建設する例が目立つようになってきた。この際、地元漁業組合等より水産資源保護の立場から排水の放流水質について非常に厳しい基準を要求されることが多い。
又、生活系汚水の排水処理に当たっては、処理汚水中に病原性細菌が含まれているため、法令により、塩素による消毒処理が義務づけられている。一般的に、排水中のBOD、CODについては、その低減方法が技術的に確立されているが、残留塩素の除去技術は確立されていない。
従来の塩素消毒では消毒剤として、次亜塩素ナトリウム(NaClO)または次亜塩素カルシウム[Ca(OCl)2]を用い、処理排水に対し2〜8mg/L注入を行い15分程度の接触混合の後、最終的に0.5mg/L程度の塩素イオン濃度を確保する方法が取られている。
水中における塩素は、以下に示すように加水分解する。
Cl2 +H2O → HClO+H+ +Cl ・・・(1)式
HClO → H+
+ClO ・・・(2)式
然し、塩素消毒処理後の放流水に含まれる残留塩素分による、周辺の水環境に与える影響が問題となりつつある。
これは、塩素消毒の際、発生する殺菌性の強い遊離残留塩素が未処理のまま放流され、周辺の生態系のバランスを損なうためと考えられている。この問題の解決方法としては、根本的には塩素を使用しない消毒方法の確率が急務であるが、現在のところ実用的な方法は開発されていない。
この提案はこのような従来の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、排水中の塩素をきわめて低い濃度まで低減させ、周辺環境への影響を軽減させることを可能とした排水処理施設用残留塩素除去方法及びその装置を提供することにある。
この提案の排水処理施設用残留塩素除去方法は、排水を消毒槽に入れ、塩素消毒剤を注入した後、曝気槽に貯留し、排水中の塩素を揮散させ、排水中の遊離塩素を減少させた後、更にチオ硫酸ナトリウムを添加して中和処理するものである。
この提案の排水処理施設用残留塩素除去方法においては、先ず、消毒槽において、排水に塩素消毒剤を注入する。次に、塩素消毒剤が注入された排水を、消毒槽から曝気槽に送る。曝気槽においては、散気管から空気を噴出し、上記(1)式のCl2 を揮散させ、化学平衡を左に進ませることにより、排水中の遊離塩素(HClO、ClO )を減少させる。更に、チオ硫酸ナトリウムを添加して中和処理し、塩素イオン濃度を0.05〜0.1ppm以下に低減する、というものである。
しかし、この提案の技術によると処理にかなり手間がかかってしまうという問題があった。
【特許文献1】特開平7−185565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこでこの発明は、従来よりも手間のかからない排水の残留塩素の低減方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するためこの発明では次のような技術的手段を講じている。
(1)この発明の排水の残留塩素の低減方法は、排水を陽極側で電気分解する陽極側電解工程と、陰極側で電気分解する陰極側電解工程と、陽極側の電解水と陰極側の電解水とを混合する混合工程を具備することを特徴とする。
陽極側電解工程では排水を陽極側で電気分解することにより、酸化環境となり、次亜塩素酸が生成して残留塩素濃度が増加し被酸化性物質が分解せしめられる共に、pHが低下する傾向がある。
一方、陰極側電解工程では排水を陰極側で電気分解することにより、還元環境となり、次亜塩素酸が分解して残留塩素濃度が低下し、pHが増加する傾向がある。
【0005】
混合工程では陽極側の電解水(酸性水)と陰極側の電解水(アルカリ性水)とを混合することにより、酸(H+)とアルカリ(OH)の中和反応が起こり、エネルギー(中和熱)が放出される。
H++ OH→H2O+Δ(熱エネルギー)
そして、次亜塩素酸(HOCl)にこの中和エネルギーが作用することにより、次亜塩素酸の分子が分解して残留塩素濃度が低下することとなる。
すなわち排水処理において、電気分解で生成した陽極水と陰極水とを混合することにより、残留塩素濃度を低減することができる。
【0006】
(2)前記陽極側と陰極側の流量を調製して混合することによりpHの調節を行うようにしてもよい。
このように構成すると、排出する際のpHを中性近傍に調節することができ、再利用するにしろ放流するにしろ適正な水質にすることができる。
【発明の効果】
【0007】
この発明は上述のような構成であり、次の効果を有する。
次亜塩素酸(HOCl)に中和エネルギーが作用することにより、次亜塩素酸の分子が分解して残留塩素濃度が低下することとなるので、従来よりも手間のかからない排水の残留塩素の低減方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の実施の形態を説明する。
この実施形態の排水の残留塩素の低減方法は、排水を陽極側で電気分解する陽極側電解工程と、陰極側で電気分解する陰極側電解工程と、陽極側の電解水と陰極側の電解水とを混合する混合工程を具備するようにしている。
前記陽極側電解工程では排水を陽極側で電気分解することにより、酸化環境となり、次亜塩素酸が生成して残留塩素濃度が増加し被酸化性物質が分解せしめられる共に、pHが低下する傾向がある。一方、陰極側電解工程では排水を陰極側で電気分解することにより、還元環境となり、次亜塩素酸が分解して残留塩素濃度が低下し、pHが増加する傾向がある。
【0009】
そして、混合工程では陽極側の電解水(酸性水)と陰極側の電解水(アルカリ性水)とを混合することにより、酸(H+)とアルカリ(OH)の中和反応が起こり、エネルギー(中和熱)が放出される。
H++ OH→H2O+Δ(57.3kJ/モル:18℃)
また、前記陽極側と陰極側の流量を調製して混合することによりpHの調節を行うようにしている。具体的には、陽極側の酸性度が陰極側のアルカリ性度よりも高いときは、陽極側よりも陰極側の流量が多くなるように調整する。一方、陽極側の酸性度が陰極側のアルカリ性度よりも低いときは、陽極側よりも陰極側の流量が少なくなるように調整する。
【0010】
次に、この実施形態の排水の残留塩素の低減方法の使用状態を説明する。
次亜塩素酸(HOCl)に前記中和エネルギー(57.3kJ/モル:18℃)が作用することにより、次亜塩素酸の分子が分解して残留塩素濃度が低下することとなり、残留塩素の処理に従来よりも手間がかからないという利点を有する。
すなわち排水処理において、電気分解で生成した陽極水と陰極水とを混合することにより、残留塩素濃度を低減することができる。
また、前記陽極側と陰極側の流量を調製することによりpHの調節を行うようにしたので、排出する際のpHを中性近傍に調節することができ、再利用するにしろ放流するにしろ適正な水質にすることができるという利点を有する。
【0011】
(実施例)
陽極側を通水後の電解水は、pH2.92(酸性)、残留塩素濃度32ppm、COD31ppmであった。陰極側を通水後の電解水は、pH11.13(アルカリ性)、残留塩素濃度69ppm、COD36ppmであった。
陽極側の電解水と陰極側の電解水を等量混合すると、pH6.54(中性)、残留塩素濃度0.07ppm、COD30ppmになっていた。すなわち、陽極側の残留塩素濃度32ppmと陰極側の残留塩素濃度69ppmを混合すると、その平均の(32+69)÷2の50.5ppmではなく、0.07ppmにまで低減していた。また、陽極側のpH2.92と陰極側のpH11.13を等量で混合すると、中性のpH6.54に変化していた。
【産業上の利用可能性】
【0012】
次亜塩素酸(HOCl)に中和エネルギーが作用することにより、次亜塩素酸の分子が分解して残留塩素濃度が低下することとなるので、従来よりも手間のかからないことによって、種々の排水の処理の用途に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水を陽極側で電気分解する陽極側電解工程と、陰極側で電気分解する陰極側電解工程と、陽極側の電解水と陰極側の電解水とを混合する混合工程を具備することを特徴とする排水の残留塩素の低減方法。
【請求項2】
前記陽極側と陰極側の流量を調製して混合することによりpHの調節を行うようにした請求項1記載の排水の残留塩素の低減方法。