説明

排水トラップの補修方法

【課題】補修の対象となる排水トラップの中筒の形状に合致して中筒に被せることが可能な補修部材を作成し、これを使用して補修現場において短時間で、中筒を容易に元の形状、寸法にきわめて近い状態に復元可能な排水トラップの補修方法を提供する。
【解決手段】補修しようとする排水トラップ1の目皿13及び椀15を取り外し、排水とラップ1内を洗浄、研掃し、次に中筒2を含む排水トラップ1の内部を塗装する。一方、予め製作した中筒2の型に基づき、中筒2の外側または内側に被着するのに適した寸法、形状に成形した合成樹脂製のカバー30を製作する。このカバー30を中筒2に被着し、中筒2の損傷が大きい場合は中筒2をパテにより修復する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば集合住宅や戸建ての浴室床面等に配備され、排水設備に取付けて使用される排水トラップの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水トラップは、目的にあわせて、P型トラップ、椀型トラップ、封水筒型トラップなどが知られている。
排水トラップには、底面を貫通する上下開口の中筒を備え、上部が開口した有底の円筒状のトラップ本体と、このトラップ本体の上開口に載せ置かれる目皿の内面に取付けられ、中筒に隙間をもって外嵌する防臭用の下開口椀体を備えているものがある。
【0003】
このような排水トラップは、一般に金属製で長期間使用すると、保護塗装面が剥離し、錆が進行して一部が欠損することがある。このような欠損が進むと、椀体が傾いて封水や排水の機能が低下することがある。しかしながら、排水トラップは防水構造の床材に埋め込まれているので、このような状態になっても新品のものと交換することは困難である。
【0004】
そのため、排水トラップ内部の発錆等による欠損凹部を、接着パテ等の接着剤を塗布して埋めて補修する方法や、立上り部に排水用の継手や管類を所定の長さに切断して接着剤で取り付けて補修する方法が提供されている(例えば、特許文献1参照)。
また、特許文献2には、トラップ本体1内部の発錆、汚欠損、融損等の欠損部分の錆を除去後、トラップ排水部の欠損個所に対し、水中硬化型接着材を埋設・塗着して修複し、樹脂パイプを接合するなどして、トラップ排水立上り部の初期高さを復元し、併せて内壁等の発錆、融損等の欠損凹部を埋め戻すような排水トラップ封水部復元方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特公平7−21205号公報
【特許文献2】特開平6−128994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような方法によってもトラップ排水立上り部の初期高さや形状を精度よく復元することは容易ではなく、時間と手間を要する反面、充分に満足できる状態に修復することはきわめて困難であった。例えば、接着パテで欠損部分を修復しても強度が不足し、椀の取り外しによって修復部分が欠けてしまう場合がある。
【0007】
そこで、上述した方法では、排水口に見合った口径の給水用又は排水用の管や継手を、排水用トラップの欠損部分に相当する長さに切断し、これを欠損部に嵌合させて水中硬化型接着剤を使用して固定する等の方法による。
ところが、排水トラップの円筒状の中筒の多くは、上部開口部がその基部よりも径小になるように、外径が緩やかに変化するテーパー状である。その上、長年使用された排水トラップの状況は様々である。したがって、個々に現物合わせで対応しなければならないのが現状であって、中筒に完全に合致する寸法及び形状の補修材としての樹脂パイプ等を、簡単に既成品から得ることはできない。
さらには、中筒の上端の径が大きくなり過ぎると、椀部の装着が出来なくなる場合があり、また装着しても傾いてしまって機能上の不具合が発生するおそれがある。
【0008】
実際のところ、水道用硬質塩化ビニル管 JIS K6742 及び硬質塩化ビニル管J
IS K6741の「表1 管の寸法およびその許容差」に示された「管の外径、厚さ」
によれば、流通している既成の塩化ビニル管は、広汎に用いられている普及型の排水トラップの中筒の外側もしくは内側に被せることができる寸法、形状のものは見あたらない。したがって、VP管、VM管、VU管については、既製品そのままでは高精度な中筒の復元に利用することが困難である。
【0009】
本発明は、上述した問題点に鑑みてされたものであり、補修の対象となる排水トラップの中筒の形状に合致して中筒に被せることが可能な補修部材を作成し、これを使用して補修現場において短時間で、中筒を容易に元の形状、寸法にきわめて近い状態に復元可能な排水トラップの補修方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するため、本発明の排水トラップの補修方法は、次のような構成としている。すなわち、底面を貫通する上下開口の中筒を備え、上部が開口した有底の円筒状のトラップ本体と、このトラップ本体の上開口に載せ置かれる目皿の内面に取付けられ、中筒に隙間をもって外嵌する防臭用の下開口椀体を備えてなる排水トラップの補修方法であって、
補修しようとする排水トラップの目皿及び椀を取り外して、排水トラップ内の洗浄及び研掃を実施し、次に中筒を含む排水トラップの内部を塗料で塗装して、予め製作した前記中筒の型に基づいて、前記中筒の外側または内側に被着するのに適した寸法及び形状に成形した合成樹脂製のカバーを製作し、このカバーを前記中筒に被着することを特徴とする。
【0011】
排水トラップの内部を洗浄、乾燥させるには、内部に水を流しながら円筒状のワイヤーブラシを装着したドリルドライバー等を用いて、ブラシの回転によって汚れを洗い流すことが好ましい。次いで、乾燥は、空気除湿器を経て乾燥したコンプレッサー空気を内部に流すか、またはハンディドライヤーで内部を乾燥させる。その後、必要に応じて、上記のドリルドライバーまたはワイヤーブラシで研掃して錆を落とすが好適である。
【0012】
塗装は、例えば、耐磨耗性、耐衝撃性に優れ、長期の防食性を有するガラスフレーク入りビニルエステル樹脂塗料等を使用することができ、それを刷毛、またはブラシで中筒を含めた排水トラップ内部に塗布する。塗料は、主剤及び硬化剤、硬化促進剤を混合し、硬化時間が当該温度環境条件下で、短時間、例えば10分から20分程度で硬化するように調整したものを使用するのがよい。
【0013】
一方、前記型は、予め当該排水トラップの中筒の形状に合致した木型とすることができる。これは中筒の寸法、形状に合わせて製作し、この型に基づいて合成樹脂(硬質塩化ビニル等)製のカバーを作成し、これを中筒に被着する。
そして、カバーを中筒に被着した後、塗料硬化前に前記カバーと中筒の空隙に塗料を塗布する。
【0014】
また、前記中筒の損傷の程度によって、前記カバーを中筒に被着した後、中筒を補修用パテにより、少なくとも排水トラップの機能回復に必要な形状に修復することが好ましい。この場合、中筒の必要な高さはカバーによって補われるので、主に止水処理及び中筒の確実な固定を目的とした修復を行う。パテとしては、例えばエポキシ樹脂等を用いて中筒の形状を修復することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、欠損部分をパテや合成樹脂製の部分補修材によって補強するだけでなく、中筒の全体を、中筒にぴったりと接着されるカバーにより覆い、全体をほぼ元の形状
に近似した状態に復元可能であるので、排水トラップの機能を回復させることができる。
特に、中筒の上部が大きく損傷して所定の高さが失われている場合等であっても対応することができるので、交換が困難な排水トラップの修復工事において広汎に適用することができる。
【0016】
また、予め型によって中筒に被着するカバーを用意しておくことで、現場での作業は短時間で済み、浴室等の使用が長時間に渡って妨げられることがない。したがって、集合住宅等の排水管更正工事等の施工時に容易に実施が可能であり、実用性において優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明に係る補修方法にしたがって機能回復工事が施される排水トラップを図面に従って説明する
図1は、排水トラップの構造を示す断面図である。この排水トラップは、集合住宅の床面に設けられ、例えば図5に示すようにコンクリートスラブ表面にモルタルを積層した床面に埋め込まれている。
【0018】
排水トラップ1は、ここでは鋳物によって形成されている。上部に開口部12を設けた椀状のトラップ本体13の底部中央には、トラップ本体13の内側に突出するように立ち上がった円筒状の中筒2を備え、この中筒2の下端部には排水管14が連結される。排水トラップ1は中筒2に臭気止めの蓋である椀15が被せられ、この椀15と、中筒2の周囲の溝16に溜まる水とによって、悪臭や害虫が排水管14から室内に上がってくるのを防止する。この排水トラップ1は、長期間使用すると、錆が発生して欠損することがあり、封水や排水の機能が低下するおそれがある。
【0019】
このような場合、排水トラップ1の中筒2は欠損が生じやすい部位であり、また、この部分は床に埋め込まれた排水トラップ1の本体と一体であるので、交換は困難である。そこで、中筒2を含む排水トラップ1の全体を補修する場合は、最初に、補修しようとする排水トラップ1の目皿17及び椀15を取り外す。
【0020】
次に、中筒2を露出させた状態で内部に水を流しながら、円筒状のワイヤーブラシを装着したドリルドライバー等を用いて、ブラシの回転によって中筒2やその周辺の汚れを洗い流す。
次いで、空気除湿器を経て乾燥したコンプレッサー空気を排水トラップ1の内部に流すか、またはハンディドライヤーでその内部を乾燥させる。その後、上記のドリルドライバーまたはワイヤーブラシで研掃し、発生している錆を落とす。
【0021】
研掃後、乾燥空気又はハンディードライヤーで汚れを吹き飛ばし清掃した後、ガラスフレーク入りビニルエステル樹脂からなる塗料を、刷毛、またはブラシで中筒2を含めた排水トラップ1の内部に塗布して塗膜3を形成する。このガラスフレーク入りビニルエステル樹脂の塗料は、耐磨耗性、耐衝撃性に優れ、長期の防食性を有するので好適に使用することができるが、使用可能な塗料は、このようなものに限定されるものではない。
前記塗料は、主剤及び硬化剤、硬化促進剤を混合するタイプのものが好ましい。この場合は、工事を行う場所の温度等の条件が異なっても、塗料3の硬化時間を、例えば10分から20分程度に調整することができ、全体の作業時間をほぼ一定にすることができる。
上記塗装は2回実施することが好ましい。このようにすれば、ピンホールの発生及び塗り残しを確実に防止することができる。
【0022】
一方、予め当該排水トラップ1の中筒2の形状に合致した木型20(図3)を製作する。この木型20は、図2に示すような中筒2の寸法、形状を取得して、その寸法、形状に
合わせて製作される。木型20の加工は、節なしの無垢の木材を容易して、所定の大きさの円柱から旋盤加工により実施することができる。
【0023】
図3(a)に示すように、木型20は、先ず30A/60Aの台形20a、70Aの円柱20bを得て、70Aの円柱20bを旋盤加工により60A/65Aのテーパーを有する円柱状に成形される。次に、図3(b)に示すように、30A/60Aの台形20aと、60A/65Aのテーパーを有する円柱状物20bをボルト止めにより一体にして木型とした。なお、木型20の下端部には円柱状の基部20cを取り付けてある。
【0024】
他方、50Aの排水用の硬質塩化ビニル管(VU管)40を用い、カバー30を製作する。すなわち、前記木型に50Aの排水用の硬質塩化ビニル管40を加熱し、図4に示すように、これを木型20に押し込んでその外周面をテーパー状の木型20に合致した円筒管状に成形することで、カバー30が製作される。
【0025】
図2に示すように、トラップの中筒2は、例えばT5Bと称される規格においては、頭頂2aの外径が60mm、底部2bの外径が65mm、高さLが50mmのものが例示できる。そして、頭頂2aの外径よりも底部2bの外径がわずかに大きく、外周面2cはテーパー状に成形されているものが一般的である。これらの外径や高さはメーカーによって若干の差異があり、全て統一されているものではない。したがって、上記の方法によって補修しようとする排水トラップ1の中筒2に対応する木型20を個々に作成し、その木型20に基づいて必要な数のカバー30を予め製作しておき、これを現場で中筒2に被せるようにしてこれに装着する。ただし、同一メーカーの排水トラップについて複数の修復工事をする場合、中筒の損傷が大きくなければ、複数のカバー30を、一つの木型に基づいて予め作成しておいてもよい。
【0026】
次に、これを中筒に被着した後、塗膜3の硬化前にカバー30と中筒2の空隙に前記塗料を塗布する。
さらに、図6に示すように、前記中筒2の損傷が大きい場合は、塗装後にカバー30を中筒2の外側に被着し、さらにカバー30の内側において、中筒2をパテにより修復する。
【0027】
この補修に使用するのはエポキシ樹脂であり、中筒をパテにより必要な形状に修復することが好ましい。この場合、中筒2の必要な高さはカバー30によって補われるので、主に止水処理及び中筒の確実な固定を目的とし、中筒2の形状を修復することができる。この場合のエポキシ樹脂は、即硬化性の2液混合型のものを用いることが好ましい。このパテによって中筒2の形状を必要な程度まで修復することで、排水トラップ1の機能を満たせるようにする。
【0028】
上記のような作業によって補修作業は短時間で終了し、排水トラップの機能が回復し、その全体を交換することなく継続使用が可能となる。
なお、上記のような排水トラップの修復作業は、例えば排水管14の更正工事と併せて行うことができ、そのような場合は、図7に示すように、排水管14の内部に施されたガラスフレーク入りビニルエステル樹脂の塗膜4と排水トラップ1の内部の塗膜3を連続させ、排水が通過する部位を保護することができる。
【0029】
本実施の形態の修復方法によれば、次のような利点がある。
・床防水層を傷付けず、かつ、排水トラップ本体の封水、排水に係る初期性能、機能を回復させることができる。
・工期及び労力が少なくて済み、浴室等にあっては、即日の使用が可能である。
・トラップ本体の切り取り等、破壊工事を伴なわないので、騒音や修復発生屑材が発生す
ることがない。
・修復において使用する材料や工具が少ないので大掛りな工事にならず、全体として安価に補修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の修復方法によって修復される排水トラップ全体の断面図である。
【図2】排水トラップの中筒を示す斜視図である。
【図3】木型を示す斜視図であり、(a)は、木型を構成する30A/60Aの台形及び70Aの円柱の斜視図、(b)は完成した木型の全体斜視図である。
【図4】木型に、カバーとなる硬質塩化ビニル管を被せて、カバーを製作する状態を示す図である。
【図5】本発明の修復方法によって修復しようとする排水トラップを示し、目皿及び椀を取り外した状態を示す図である。
【図6】本発明の修復方法の工程を示し、排水トラップの内面に塗装を施した状態を示す図である。
【図7】カバーを中筒の外側に取付け、中筒の欠損部分を補修した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 排水トラップ
2 中筒
3、4 塗膜
13 目皿
14 排水管
15 椀
16 空隙
20 木型
30 カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面を貫通する上下開口の中筒を備え、上部が開口した有底の円筒状のトラップ本体と、このトラップ本体の上開口に載せ置かれる目皿の内面に取付けられ、中筒に隙間をもって外嵌する防臭用の下開口椀体を備えてなる排水トラップの補修方法であって、
補修しようとする排水トラップの目皿及び椀を取り外して、排水トラップ内の洗浄及び研掃を実施し、次に中筒を含む排水トラップの内部を塗料で塗装して、予め製作した前記中筒の型に基づいて、前記中筒の外側または内側に被着するのに適した寸法及び形状に成形した合成樹脂製のカバーを製作し、このカバーを前記中筒に被着することを特徴とする排水トラップの補修方法。
【請求項2】
前記中筒の損傷の程度によって、前記カバーを前記中筒に被着した後、前記中筒を補修用パテにより、少なくとも排水トラップの機能回復に必要な形状に修復することを特徴とする請求項1に記載の排水トラップの補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−68200(P2009−68200A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235594(P2007−235594)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(504316540)荏原テクノサーブ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】