説明

排泄支援車椅子

【課題】車椅子に座乗する被介護者やその介護者の心理的、肉体的な負担を軽減し、被介護者が容易に便座に移乗して、排泄する事が可能な排泄支援車椅子を提供する事を目的とする。
【解決手段】座席下部に洋式便器を嵌め込み可能な空間と、嵌め込んだ洋式便器の便座に着座可能な開口部を生成するように開閉する座席とを備える自走式車椅子であって、座席は、排泄支援車椅子の前方方向に移動して開口部を生成するように、順次連接される複数の座板で構成され、座板は、座板の略両端部において、排泄支援車椅子の座席支持体に移動可能なように係合される係合部を有する排泄支援車椅子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座乗車が容易に洋式便器の便座に移乗する事が可能な排泄支援車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
車椅子に乗って移動する事が必要な被介護者等は、移動する時のみならず排泄する際にも多大な困難を伴うことが知られている。例えば、被介護者等が自ら車椅子から便座に移乗できない場合には、介護者による支援を受けることになる。このため、被介護者と介護者とが、共同して被介護者の便座への移乗動作を行うのに必要十分な広いスペースを有する排泄設備を設置していた。
【0003】
また、被介護者が自ら車椅子から便座に移乗できる場合には、介護者による支援を受けなくてもよい場合がある。しかし被介護者が自ら便座に移乗できる場合でも、便器の周辺に車椅子の設置スペースが必要となる。また、被介護者が自力で便座への移乗が可能なように、複数の手摺りなどの移乗補助設備を便器周辺に設置する事が必要となる。このため、車椅子の設置スペースや移乗補助設備の設置スペースに十分対応できる広さを有する排泄設備を設置していた。
【0004】
また、いわゆる和式排泄設備では、一般に車椅子に乗って移動する被介護者の利用には不適な場合が多いとされている。従って、新たに排泄設備を設置する場合には洋式排泄設備(洋式トイレ)とするだけではなく、現状が和式排泄設備である場合には、被介護者が車椅子で利用できるように洋式排泄設備への改造を行っている。
【0005】
また、バリアフリーが展開されて被介護者の行動範囲が広がりつつある今日において、自宅のみならず外出先の病院や公衆トイレ等においても被介護者が排泄を行うことは、被介護者にとっては欠かせないものとなっている。
【0006】
また、車椅子を利用する被介護者にとって、駅の階段や歩道と車道との段差等も車椅子で移動する際、移動の困難を助長する障害となる。しかし、車椅子を利用する被介護者にとっては、排泄や入浴の際に被介護者が感じる精神的負担や精神的圧迫が、前述の段差等の困難にも増してさらに大きいものと言われている。
【0007】
特に、入浴に比して頻度が高くかつ予期せぬ不定期に訪れる場合も想定される排泄については、被介護者が最も精神的、肉体的な負担や圧迫を感じる行為の一つと考えられる。さらに、被介護者だけではなく介護者にとっても、本来極めて個人的な行為である被介護者の排泄行為に立ち会い補助する事は、精神的、肉体的な負担が大きいとされる。
【0008】
従来、排泄行為に対応できる排泄専用の車椅子も知られてはいるが、排泄可能な孔が座面に形成されており、座り心地が悪くて自走が不可能なだけではなく、一般の走行には強度的に不向きとされている。このため、一般に市販されている自走式車椅子の幾つかを改良して、車椅子に乗車したままの状態で座乗者が排泄行為を行うことができる車椅子が提案されている。
【0009】
このような排泄行為を行うことができる車椅子は、例えば下記特許文献1に開示されている。図18は、従来の排泄行為を行うことができる車椅子を例示する図である。図18において、車椅子180は、通常の車椅子と同様に走行するための車輪182を両サイドに備える。この車輪182の外側には、座乗者が手で車輪182を回転をさせるためのハンドリム183が設けられている。
【0010】
フレーム(支持体)181はグリップ194から下の車軸195や、アームレスト(肘置き部)186から前輪184及び座席189を支持する部分が溶接等により一体化されている。車輪182の前方には前輪184が二つ設けられており、二つの車輪182と、この二つの前輪184とで安定姿勢を保って、車椅子180を安全に走行させる事ができる構成となる。
【0011】
車椅子180の後方にはフレーム181に連結されたグリップ194が両サイドに設けられ、必要な時には介護者がこのグリップ194を持ってこの車椅子180を押したり、引いたりして操縦することとなる。また、通常の車椅子と同様にこの車椅子180を停止するためのブレーキ(制動装置)185が取付けられている。
【0012】
車輪182の間に設けられている座席189とバックレスト(背もたれ)188は、柔軟性のある材料ではなく、折り曲げることのできない板で構成されている。従ってこの車椅子は被介護者が乗った場合であっても、車輪182が『ハ』の字状にはならず、乗り心地が悪くはならない。尚、バックレスト188の表面をウレタン等のソフトな材料で構成されたもので覆い、座乗者の乗車感触を良くしている。
【0013】
この車椅子180の前方には、通常の車椅子と同じように二つのフットプレート(足置き部)193が設けられ、身体障害者が乗って足をここに掛けることで、足をブラブラさせることなく、安定してこの車椅子180の乗車姿勢を保つことができる。
【0014】
フットプレート193が取り付けられている左右両フレーム181には、内側に変形するのを防ぐために、補強部材192が取付けられている。以上のように構成された車椅子180において、排泄行為をするのに必要な広さの蓋190が座席189の一部として座席189のほぼ中央部に脱着可能に取り付けられ、必要時にはこの蓋190が排泄物の落下圏外に移動する。
【0015】
座席189の前端部には、蓋190を下に落として排泄行為をするのに必要な広さの空間を確保するための鍵ボタン197が設けられている。座席189の両サイドには、蓋190を排泄物の落下圏外に移動させるために、ガイドレール198が設けられたガイド板196が取り付けられている。蓋190の鍵ボタン197が解除されると、蓋190はガイド板196のガイドレール198に沿って、車椅子180の前方下方向へと落下する。
【0016】
また、グリップ194の近くにあるサポートシート187及び補強部材192の近くにあるサポートシート191は、座席189及びバックレスト188が両フレーム181に完全に固定されてはいないので、両フレーム181が離れないように固定接続するために設けられている。
【0017】
このような車椅子180においては、座乗者が排泄する際に蓋190を移動させて座席189に孔を生成し、座乗車は車椅子180に座乗したまま当該座席189の孔を介して排泄を行うものである。
【特許文献1】特開2000−140032
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、従来の排泄行為を行うことができる車椅子においては、被介護者が車椅子に座乗したまま排泄を行う必要があった。すなわち、排泄の際、臀部等の皮膚が直接車椅子の座席面に接触することとなっていた。また、便座の汚れに匹敵する程度の汚れが、車椅子の座席にも付着等して不衛生となる事が懸念された。
【0019】
さらに、衛生上の問題だけでなく介護者や被介護者の肉体的・精神的な観点からも、排泄行為時には通常どうり便座に移乗して排泄する事が好ましいとされていた。
【0020】
本発明は、上述のような問題点に鑑み為されたものであり、車椅子に座乗する被介護者や介護者の心理的、肉体的な負担を低減し、被介護者が便座に容易に移乗して、排泄する事が可能な排泄支援車椅子を実現する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この発明にかかる排泄支援車椅子は、座席下部に洋式便器を嵌め込み可能な空間と、嵌め込んだ洋式便器の便座に着座可能な開口部を生成するように開閉する座席とを備える事を特徴とする。
【0022】
また、この発明にかかる排泄支援車椅子は、好ましくは排泄支援車椅子が自走式車椅子であって、座席は、排泄支援車椅子の前方方向に移動して開口部を生成するように、順次連接される複数の座板で構成され、座板は、座板の略両端部において、排泄支援車椅子の座席支持体に移動可能なように係合される係合部を有する事を特徴とする。
【0023】
また、この発明にかかる排泄支援車椅子は、さらに好ましくは座板が、座席下部方向に座板の湾曲を抑制する板状凸部と、座板の略両端部に、排泄支援車椅子の座席支持体の上側と移動可動なように係合される係合部とを有し、さらに板状凸部は、係合部に座席支持体が嵌合する切り欠きを有し、座板は、座板の長手方向が排泄支援車椅子の左右方向になるような配置で順次連接される事を特徴とする。
【0024】
また、この発明にかかる排泄支援車椅子は、さらに好ましくは排泄支援車椅子の座席支持体の上側にはベアリングスライドレールが配設されるとともに、座板の係合部にはベアリングスライドレールに嵌合されるベアリングが配設される事を特徴とする。
【0025】
また、この発明にかかる排泄支援車椅子は、さらに好ましくは開口部が、少なくとも洋式便器の最前部が露出する開口部となるように、ベアリングスライドレールは、排泄支援車椅子の座席支持体の上側略水平部から上側前方傾斜部に渉って配設される事を特徴とする。
【0026】
また、この発明にかかる排泄支援車椅子は、さらに好ましくはベアリングスライドレールが、排泄支援車椅子の座席支持体の上側略水平部に設けられ、座席支持体の上側前方傾斜部に、座板が移動する際に摩擦抵抗を軽減するように座板を支持するキャスターが配設され、移動する座板の最後部の座板は、開口部が少なくとも洋式便器の最前部が露出する開口部となるように、排泄支援車椅子の前方方向に折り畳み可能である事を特徴とする。
【0027】
また、この発明にかかる排泄支援車椅子は、好ましくは排泄支援車椅子が、座席の後方を支軸として、座席面が排泄支援車椅子の背もたれ面に略接する程度に座席を上方に開く事で、開口部を生成する事を特徴とする。
【0028】
また、この発明にかかる排泄支援車椅子は、好ましくは複数の座板が折り畳み可能に連接された座席を備え、座席が後方に折り畳まれて開口部を生成する事を特徴とする。
【0029】
また、この発明にかかる排泄支援車椅子は、好ましくは排泄支援車椅子が、座席の後方に座席を巻き取り可能な巻き取り部を備え、座席を巻き取り部に巻き取る事で開口部を生成する事を特徴とする。
【0030】
また、この発明にかかる排泄支援車椅子は、好ましくは排泄支援車椅子が、開口部を生成する為に座席を開く際に、排泄支援車椅子の座乗者が一時的に体重移動して加重可能なように座乗者の上体の前方に展開可能であり、かつ座乗者が掴む握り部が展開収納可能に配設された肘置き部を備えることを特徴とする。
【0031】
また、この発明にかかる排泄支援車椅子は、好ましくは開口部を生成する為に座席を開く際に、排泄支援車椅子が前傾する事を防止する為に、排泄支援車椅子が位置する床面に対して排泄支援車椅子を支える前傾防止支持部が配設された足置き部を備える事を特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
車椅子に座乗する被介護者やその介護者の心理的、肉体的な負担を軽減し、被介護者が容易に便座に移乗して、排泄する事が可能な排泄支援車椅子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本実施形態で例示する排泄支援車椅子は、座席が開閉可能に取り付けられている自走式の車椅子である。この排泄支援車椅子は自走式であるので、排泄支援車椅子に座乗する被介護者は、自ら排泄支援車椅子を操縦して走行可能である。
【0034】
このため被介護者は、介護者の助力によらず、排泄支援車椅子に座乗したまま自ら排泄支援車椅子を走行させ排泄設備(トイレ)に入ることも可能である。また、被介護者は、排泄時以外には、排泄支援車椅子を通常の自走式車椅子と同様に利用し、外出等の移動手段として用いることができる。
【0035】
排泄支援車椅子を利用する被介護者は、排泄支援車椅子を操縦・走行させて排泄設備に入ると、排泄支援車椅子を、被介護者用トイレの洋式便器に、排泄支援車椅子の背面側から嵌合させる。このため、排泄支援車椅子は、座席下部が洋式便器が嵌る程度の空洞になっており、洋式便器の嵌め込みを阻害するような補強材(典型的にはクロスバー)を有しない。
【0036】
排泄支援車椅子を洋式便器に嵌合させた状態では、排泄支援車椅子の座席下部が、ちょうど洋式便器に位置するような配置となる。この際、洋式便器の蓋カバーは予め上げておき、排泄支援車椅子の座席直下部には、洋式便器の便座が配置されるようにする。
【0037】
排泄支援車椅子を利用する被介護者は、上述のように洋式便器と排泄支援車椅子とを嵌合させた後、排泄支援車椅子の座席を開放する。排泄支援車椅子の座席が開放されると、座席下部の便座が露出する。この際、排泄支援車椅子の座席は、座席面ほぼ全体が開放されるので、排泄支援車椅子の座乗車が便座に移乗し、便座に座乗するのに必要十分な程度の広大な開口部が生成される。
【0038】
排泄支援車椅子を利用する被介護者は、排泄支援車椅子の座席を開放して座席位置に上述した開口部を生成した後、ちょうど排泄支援車椅子の座席に再度腰掛ける程度の移乗動作をするだけで、洋式便器の便座に移乗可能となる。
【0039】
すなわち、上述した排泄支援車椅子と洋式便器との嵌合動作により、便座は、排泄支援車椅子の座席直下に位置しているので、座席を開放して座席面を実質的に消失させると、座席があった位置のほぼ直下に便座が出現することとなる。排泄支援車椅子を利用する被介護者は、座席を開放する間のみ、臀部をずらしたり浮かせたりする等の簡易な動作をすればよく、再び臀部を下ろして着座動作した際には、必然的に便座上に移乗している事となり、これにより洋式便器への移乗動作が完了することとなる。
【0040】
排泄支援車椅子を利用する被介護者は、排泄支援車椅子ごと排泄設備内へと移動できるだけでなく、排泄行為時には、洋式便器の通常の利用方法として予定されるように、便座に座乗した姿勢をとって排泄できる。このため、排泄支援車椅子を利用する被介護者は、心理的なストレスや衛生上のマイナス面を意識することなく、自らプライベートに排泄できることとなるので好ましい。
【0041】
また、上述するように簡易な動作のみで便座への移乗が可能な排泄支援車椅子であることから、排泄に際し介護者が補助する場合においても、介護者や被介護者双方の肉体的・精神的な負担を大幅に軽減できる。また、排泄支援車椅子を利用する被介護者は、通常の洋式便器利用方法と同様に便座に直接腰掛けて排泄できる。
【0042】
このため、排泄支援車椅子が位置する排泄設備内空間と便器内のいわゆる排泄空間(排泄物落下空間)とが、実質的に分離されており、排泄支援車椅子が汚物で汚染される懸念を低減し、衛生的に排泄できる。換言すれば、排泄支援車椅子は、排泄支援車椅子の座席下部空間に、排泄支援車椅子の部材を完全に排除した排泄空間を、一時的に生成する事を可能とする。
【0043】
また、排泄行為が完了すれば、排泄支援車椅子を利用する被介護者は、座席の開放動作と逆の動作を行えばよい。すなわち、排泄支援車椅子を利用する被介護者は、一時的に臀部を浮かせたりずらせたりする間に、排泄支援車椅子の座席を閉じて座席面を再度形成する。
【0044】
このような座席の開閉は、排泄支援車椅子を利用する被介護者が自力で(又は手動で)行ってもよいし、電動モータを搭載してスイッチ操作やレバー操作等により行えるようにしてもよい。被介護者が自力で行う場合には、手動で行う他、臀部と座席上面との間の摩擦力等を利用して、例えば臀部の移動等に伴って臀部から座席に開閉する力を付与する構成としてもよい。
【0045】
次に、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0046】
(第一の実施形態)
図1は、第一の実施形態にかかる排泄支援車椅子100の構造概要を示す斜視図である。図1に示すように排泄支援車椅子100は、座乗者の背面側にグリップ101を備え介護者が操縦支援できるように構成されている。また、大型の一対の車輪104にはハンドリム111が備えられており、主として排泄支援車椅子100に座乗する被介護者自らが運転可能な自走式車椅子として構成されている。
【0047】
また、排泄支援車椅子100は、排泄支援車椅子100に座乗する被介護者が腕や肘を置くことが可能な肘置き部103を備える。また、排泄支援車椅子100に座乗する被介護者は、ブレーキレバー106を操作する事で、車輪104を制動動作させ、排泄支援車椅子100を停止又は静止させることができる。排泄支援車椅子100は、二つの前輪105を備え、大型の二つの車輪104とともに四輪を構成して、車両の安定が保てるように構成されている。
【0048】
また、排泄支援車椅子100の背もたれ部には、排泄支援車椅子100の構造補強を兼ねる補強部材102が備えられる。また、排泄支援車椅子100の座乗者の足下付近には、排泄支援車椅子100の構造補強を兼ねる補強部材108が備えられる。排泄支援車椅子100の座席109の下部は、洋式便器を嵌合可能な程度の空間が確保されており、補強部材102や補強部材108で排泄支援車椅子100の構造を補強支持する事により、走行に必要な程度の強度保持が期待されるので好ましい。
【0049】
また、補強部材102は、座乗者が排泄する際に、排泄支援車椅子100の背もたれ部の背面側(後ろ側)に洋式便器の蓋が開いた状態でその蓋を配置できるように、支持部材112の前面側に配置されている。支持部材112の前面側に補強部材102を配置する事により、グリップ101直下の空間をより大きく確保することができる。これにより、排泄支援車椅子100と洋式便器とを嵌合させた際に、グリップ101直下の空間部分に洋式便器の蓋を開放した状態で仮収納することができるので、排泄支援車椅子100を十分後方に奥まで嵌め込むことが可能となり好ましい。
【0050】
また、補強部材108は、座乗者が座席109を前方にスライドさせたり後方にスライドさせたりして開閉する時に、座乗者が起立可能な足下空間を確保できるように、座席109の前端部から前方に突出しない程度に後方に設けられている。この構成により、排泄支援車椅子100の座乗車が、排泄準備の為に例えば介護者等の補助を受けてその場起立する場合に、足置き部107を横へ収納させることで、図1に示すように二つの前輪105と二つの足置き部107とで囲まれる空間に、広大な足場が出現するので好ましい。
【0051】
また、排泄支援車椅子100は、座席109を排泄支援車椅子100の前方に容易に移動可能なように、ベアリングスライドレール110を備える。ベアリングスライドレール110は、図1に示すように座席109を支持する座席支持体113の上面側(上側略水平部)から前面側(上側前方傾斜部)にかけて配置される。
【0052】
また、ベアリングスライドレール110には、不図示のベアリング板が移動可能に嵌め込まれている。ベアリング板は、座席109を構成する複数の座板109a,109b・・109hの最後部の座板109hに固定されている。
【0053】
従って、最後部の座板109hは、ベアリング板と共にベアリングスライドレール110上を容易にスライド移動することが可能である。また、複数の座板109a,109b・・109hは、相互に蝶番115で折り曲げ可能に連結されている。このため、座板109hがベアリングスライドレール110上をスライド移動すると、蝶番115で連結された他の座板109a,109b・・109gも、同方向にスライド移動する。
【0054】
座席109が最も前方にスライド移動した場合には、最後部の座板109hはベアリングスライドレール110の前端部分に位置する。このため、排泄支援車椅子100の座席位置には、座席109の座席面全体に対応する広大な開口部が生成される。また、ベアリングスライドレール110が座席支持体113の上側略水平部分だけでなく前方の上側前方傾斜部分にも設けられているので、座板109hが十分に前方にスライド移動することが可能である。
【0055】
この為、排泄支援車椅子100は、便器の前端部が露出するのに必要十分な広さの開口部を生成することができる。これにより、排泄支援車椅子100は、衛生的となるだけでなく、座乗車がさらに容易に便座に着座し着座姿勢を維持可能な開口部を生成可能となる。
【0056】
また、座板109hがベアリングスライドレール110の上側前方傾斜部の前端部分に位置する場合には、座板109hの床面からの高さは便座高さから突出しない程度の高さとなる。すなわち、座板109hがベアリングスライドレール110の上側前方傾斜部の前端部分に位置する場合には、座板109hの高さは便座高さ以下となるので、便座に着座した被介護者の足が引っかかることがなく、また便座に着座した被介護者が違和感を感じることがない。
【0057】
図2は、図1に示す排泄支援車椅子100の座席109近傍を詳細に示す斜視図である。図2に示すように、排泄支援車椅子100は、座席109を支持する座席支持体113の上面側(上側略水平部)から前面側(上側前方傾斜部)にかけてベアリングスライドレール110を備える。このため、肘置き部(アームレスト)103を支持する略垂直の一対の肘置き部支持体114は、座席109が前方にスライド移動可能な移動空間を確保し、またベアリングスライドレール110を配置する空間を確保できるように、座席支持体113の外側に配設固定する。
【0058】
また、座席109を構成する複数の座板109a,109b・・109g,109hは、排泄支援車椅子100の座乗車の体重加重に十分耐えうる程度の強度剛性を有する。また、座席109を構成する複数の座板109a,109b・・109g,109hは、可能な限り軽量である事が好ましいので、例えばアルミニウム合金等の部材で構成する事が好ましい。
【0059】
また、座乗者の体重加重により座席109が撓むのを防止する為に、各座板109a,109b・・109g,109hは、各々下面側(座席109の下方向側)に板状凸部21を備えることが好ましい。板状凸部21は、加重方向(上下鉛直方向)に対して相当程度の厚みを有する部材とするので、座乗車の加重に耐えて座板109a,109b・・109g,109hが撓むことを防止する。
【0060】
また、座席109を構成する複数の座板109a,109b・・109g,109hは、座乗者が座る上面側に、例えば発泡ウレタン等の断熱クッション材を配置してもよい。これにより、排泄支援車椅子100の振動や騒音を軽減して乗り心地を向上する事ができる。また、座乗者が座る上面側に、例えば発泡ウレタン等の断熱クッション材を配置する事で、座席109をスライド移動する場合に臀部等との摩擦力を確保してスムーズにスライド移動させると共に、適度な座席面抵抗を確保できるので臀部が不要に滑って着座姿勢が不安定となる事を抑制できる。
【0061】
また、図3は、排泄支援車椅子100の座席109が前方にスライド移動し、開口部を生成した状態を示す図である。図3に示すように、排泄支援車椅子100は、座席109の下部に、排泄支援車椅子100の後方から洋式便器30に嵌合可能な程度の空間を備えている。このため、座席109を支持する一対の座席支持体113は、洋式便器30の便座31の幅より大きな幅を有して配置されている。なお、図3においては、座席支持体113の上面略水平部から前面傾斜部にかけて配置される一対のベアリングスライドレール110が存在するので、その下の座席支持体113が図示されないものである。
【0062】
図3から明らかなように、座席109は、複数の座板109a,109b・・109g,109hから構成されており、各座板109a,109b・・109g,109hは、各々蝶番115で連接されているので、座席109は、蝶番115部分で折り曲げ可能である。このため、座席109のスライド移動に際し、下方に曲がるコーナー部分(前方傾斜部分)でも抵抗を低減したスムーズな移動を行うことができる。
【0063】
また、座板109hは、便座31に着座する被介護者が違和感を感じない程度に十分前方にスライド移動されており、好ましくは洋式便器30の前端部が完全に露出する程度に前方にスライド移動する。また、座板109hは、さらに好ましくは、便座31の高さよりも低い高さとなる程度にまで十分に座席支持体113の前方傾斜部分を下った位置に迄スライド移動する。このため、便座に着座した被介護者の大腿部等が、座板109hに持ち上げられたり突っかかる等の現象が生じないので、より快適に便座に着座し、着座姿勢を維持できることとなり好ましい。
【0064】
また、図4は、排泄支援車椅子100を洋式便器30に嵌合させた状態を例示する上面図である。図4に示すように、排泄支援車椅子100の座席109の直下に洋式便器30の便座31が配置される。このため、被介護者は、座席109を前方にスライド移動させる間のみ臀部を移動させていればよく、再び座席面と同じ位置に臀部を下ろせば、便座31に着座可能となるので容易に移乗できる。
【0065】
なお、座乗者は、臀部を座席109に押しつけるようにして臀部と座席109を前方へスライド移動させることで、座席109を開放させ開口部を生成してもよい。また、座乗者は、臀部を座席109に押しつけるようにして臀部と座席109を後方へスライド移動させることで、座席109を閉じて開口部を閉鎖してもよい。
【0066】
また、補強部材108は、好ましくは嵌合させた洋式便器30の前端部よりも前方に突出しないので、座乗者のふくらはぎ等と接触して座乗者の移乗動作等を妨害する事を低減できる。また、一対のベアリングスライドレール110は、洋式便器30を座席109の直下の空間に丸ごと内包できるように、便座31の幅よりも大きな間隔を有して略平行に配置される。
【0067】
図4に示すように排泄支援車椅子100を洋式便器30に嵌合配置させる為に、座乗者は、自ら車輪104のハンドリム111を操作する。そして、座乗者は、自走式の排泄支援車椅子100を走行させて嵌合配置させる事が可能である。この場合の手順として、座乗者は、排泄支援車椅子100を、一旦洋式便器30の前方に、洋式便器30を背面にして真っ直ぐに移動させ配置させる。そして、座乗者は、排泄支援車椅子100を、静かに真っ直ぐに後退させればよい。
【0068】
洋式便器30は、メーカや型式によって微妙に大きさが異なるが、排泄支援車椅子100は、ほぼ全ての種類や大きさの洋式便器30が嵌合可能な程度の空間を、座席109の直下部に有することが好ましい。例えば、排泄支援車椅子100は、座幅435mm程度、座高450mm程度の空間を有すれば、公衆トイレ等に用いられる主たる洋式便器30にほぼ対応可能となり、より汎用性の高い排泄支援車椅子100となる。
【0069】
次に、図5及び図6を用いて排泄支援車椅子100の座席109の構造と、前方へのスライド移動動作について詳細に説明する。図5は、座席109が最前部へスライド移動した場合の側面概念図を示すものである。また、図6は座席109を構成する複数の座板109a,109b・・109g,109hのうち、座板109aの座板構成例を例示するものである。
【0070】
図5及び図6において、座席109は、座席支持体113の略水平部上側から前方傾斜部上側にかけて連続して配置されるベアリングスライドレール110の上に、座板109a,109b・・109g,109hの両端の係合部61で支持される。また、各座板109a,109b・・109g,109hは、ベアリングスライドレール110の上をスライド移動する。排泄支援車椅子100のベアリングスライドレール110にはベアリング板51が嵌め込まれており、ベアリング板51には最後部の座板109hがネジ止め等により固定されている。
【0071】
他の座板109g,109f・・109b,109aは、ベアリングスライドレール110や座席支持体113と固着又は係止されておらず、各座板109g,109f・・109b,109aの自重により、ベアリングスライドレール110上や座席支持体113上に係合部61において載置されている。
【0072】
各座板109a,109b・・109g,109hに設けられる板状凸部21は、各座板109a,109b・・109g,109hの撓みを防止する機能を有する。また、板状凸部21は、ベアリングスライドレール110や座席支持体113と噛み合わされる係合部61に設けられる切り欠き部分を除き、連続的に板状に設けられている。また、係合部61は、各座板109a,109b・・109g,109hの排泄支援車椅子100の左右方向(図5の紙面垂直方向)への配置安定性を確保し、また座板がスライド移動する方向以外にズレることを防止するガイドとなる。
【0073】
上述する排泄支援車椅子100は、座乗者による臀部移動等により容易に座席をスライド移動する事が可能であり、これにより容易に便座に移乗できる自走式車椅子となる。このため、排泄設備での利用利便性が高いことはもちろん、一般走行にも用いることができる汎用性の高い車椅子とできる。また、介護者や被介護者の精神的・肉体的な負担を軽減したユーザフレンドリーな車椅子とできる。
【0074】
なお、排泄支援車椅子100の部材や構成は、第一の実施形態での例示に限られず自明な範囲で適宜変更して用いることができる。例えば、座板109a,109b・・109g,109hに設けられる板状凸部21の形状は、任意な形状としてもよい。また、例えば補強部材108や補強部材102に加えて、他の補強部材を付加してもよい。また、例えば排泄支援車椅子100では示さなかった介護者用のブレーキ(制動)レバーを、グリップ101に備えてもよい。
【0075】
次に、座席のスライド移動をさらにスムーズに行える排泄支援車椅子について、第二の実施形態で例示して説明する。
【0076】
(第二の実施形態)
図7は、第二の実施形態にかかる排泄支援車椅子700の構成概要を示す概念図である。第二の実施形態においては、排泄支援車椅子700について、第一の実施形態で示す排泄支援車椅子100の構成と異なる部分を中心に詳細に説明し、重複した説明を回避することとする。また、図7に示す排泄支援車椅子700は、排泄支援車椅子100と対応する部材については、同一の符号を付して説明する事とする。
【0077】
図7において、排泄支援車椅子700の座席109は、座席支持体113の上面に、キャスタ72が配置されるだけの高さ相当分嵩上げされて配置される。排泄支援車椅子700が備えるキャスタ72は、座席109がスライド移動する場合の摩擦抵抗を低減し、座席109がスムーズにスライド可能なようにするものである。
【0078】
このためキャスタ72の上面は、図7に示すように座席109の高さとほぼ同等高さになるように、座席支持体113の上面略水平部と前面傾斜部との境界コーナ部分付近に設ける。また、座席支持体113の上面にキャスタ72が配置されるだけの高さ相当分嵩上げする為に、嵩上げ部材71を座席支持体113とベアリングスライドレール110との間に、所望の嵩上げ高さで配置する。なお、嵩上げ部材71に代えて、ベアリングスライドレール110自体又は座席支持体113の厚みを適宜調整することで、嵩上げ対応させても良い。
【0079】
また、排泄支援車椅子700は、ベアリングスライドレール110を座席支持体113の略水平部分上面に備え、前面傾斜部分上面にはキャスタ72を備える構成としている。このため、ベアリング板51が係止された座板109hがベアリングスライドレール110の前端部までスライド移動したとしても、座板109hは、キャスタ72後方の座席支持体113の略水平部分前端部に留まる。
【0080】
ここで、排泄支援車椅子700のベアリングスライドレール110周辺部について、図8及び図10を用いてさらに詳述する。図8は、排泄支援車椅子700のベアリングスライドレール110とキャスタ72周辺部概要を示す斜視図である。また、図10は、排泄支援車椅子700のベアリングスライドレール110とキャスタ72周辺部概要を示す鳥瞰図である。
【0081】
図8において、座席支持体113の略水平部分上面には嵩上げ部材71が載置される。また、嵩上げ部材71の前端部には、キャスタ72が配置されておりキャスタ72の高さは、座席109の高さと略同じかやや低い高さとなっている。嵩上げ部材71の上面には、ベアリングスライドレール110が座席支持体113の略水平部分上面に対応して配設される。
【0082】
このキャスタ72により、座板109a,109b・・109g,109hは、座席支持体113の略水平部分前端部のコーナ部分において、大きな抵抗を受けることなくスムーズに移動し、キャスタ72を通過後、座席支持体113に沿って下前方に垂れ下がる事ができる。
【0083】
また、座席109を後方にスライド移動させて元の位置に戻す際には、座席支持体113のコーナ部近傍にキャスタ72が配置されているので、コーナ部分で大きな抵抗を受ける事が無く、スムーズに後方に座席109をスライド移動させる事が可能である。
【0084】
また、排泄支援車椅子700は、図9に示すように最後尾の座板109hが、蝶番115を折り目にして前方に折り曲げ展開可能となっている。図9は、洋式便器30に嵌め込まれた排泄支援車椅子700が、座席109を前方にスライド移動させて、かつ座板109hを座板109gの上に折り曲げ展開した状態を示す鳥瞰図である。
【0085】
最後尾の座板109hが、座板109g上に表裏に前方折り曲げ展開可能となることで、座乗者が便座31に移乗する際や便座に座乗している時に、最後尾の座板109hが座乗者の足に触れる等して座乗者が不快感を感じる事を低減できる。
【0086】
図11は、排泄支援車椅子700のキャスタ72が機能する様子を示す側面構成概要図である。キャスタ72は、座席109を構成する各座板109a,109b・・109g,109hの係合部61において、各座板109a,109b・・109g,109hと接触する。板状凸部21は、係合部61において切り欠かれているので、各座板109a,109b・・109g,109hは、順次キャスタ72と接触して、スムーズなスライド移動が可能となる。
【0087】
また、ベアリング板51と最後尾の座板109hとは、図示しない蝶番で接合されて、座板109hを座板109g上に表裏に展開可能となっている。ベアリング板51と座板109hとの間の蝶番は、ベアリング板51と座板109hの前端部において、座板109hを蝶番を境にして前方に裏返すように展開可能にネジ止めする。
【0088】
排泄支援車椅子700は、キャスタ72を設ける事によりスムーズで容易に座席109をスライド移動可能である。また、展開可能に係止された座板109hを前方に表裏に展開する事で、便座31への着座時に、座乗者へ不快感を与えない程度に座席109を便座31の前方下方に収める事が可能である。
【0089】
なお、排泄支援車椅子700においても、その構成と部材を自明な範囲で自由に変更して用いることができる。例えば、座席109を構成する座板枚数は、第二の実施形態で例示するものに限られず、任意に設計変更する事ができる。
【0090】
(第三の実施形態)
第三の実施形態にかかる排泄支援車椅子700のキャスタ72a周辺の側面図を図12に示す。図12(a)に示すように、第三の実施形態に示す排泄支援車椅子700は、キャスタ72aが、バネ等の弾性体で嵩上げ部材71に係止されている。
【0091】
このため、座板109hを前方に展開した時に、図12(b)に示すようにキャスタ72aが適度に下方に沈み込み、座板109hが座乗者の足に接触する圧力等を低減する。これにより、座乗者の便座着座時の快適性をさらに向上させる事が可能である。なお、図12においては、ベアリング板51と座板109hとの固着を詳細に示している。
【0092】
すなわち、ベアリング板51は、ベアリングスライドレール110に嵌め込まれており、ベアリング板51はベアリングスライドレール110上を前端部までスライド移動することができる。また、座板109hは、ベアリング板51の前端部で蝶番120によりネジ止め等されて固定されている。このため、蝶番120を基準として、座板109hを裏返すように前方に展開し、座板109g上に表裏に略重ね合わせることが可能となる。
【0093】
また、第三の実施形態に示す排泄支援車椅子700は、キャスタ72aが一定範囲で可動するように弾性材で嵩上げ部材71に据え付けされている。従って、キャスタ72aは、よりフレキシブルに座席109のスライド移動に対応可能である。なお、キャスタ72aを、嵩上げ部材71に据え付けする事に代えて、座席支持体113に弾性体で据え付けしてもよい。
【0094】
(第四の実施形態)
第四の実施形態として、図13にゴミペール方式を用いて座席109を後方に展開可能な排泄支援車椅子1300を例示する。図13(a)は、座席109を閉じた状態を示す図である。図13(b)は、座席109を半開した状態を示す図である。図13(c)は、座席109を全開した状態を示す図である。
【0095】
図13に示すように排泄支援車椅子1300は、足踏み式ペダル1301を備えている。介護者又は被介護者が足踏み式ペダル1301を踏み込むと、座席109は、座席の後部分を基準に背もたれ面と重なるように上方に開く。座席109が開く仕組みは、周知の足踏みゴミペール等と同じとできるので、ここでは説明を省略する。また、その他の構成は上術した排泄支援車椅子100と同じであるので、ここでは説明を省略する。
【0096】
排泄支援車椅子1300は、座席109を、座席面を折りたたむ等せずに保ったまま後ろ方向上面に開く事が可能なので、座席109を複数の座板で構成しなくてもよく一枚の座板で構成できる。また、排泄支援車椅子1300の座席109は、例えば所望の剛性のある枠体に布地を張ったものとしてもよい。
【0097】
また、排泄支援車椅子1300は、自明な範囲で自由にその構成を変更して用いることができる。例えば、足踏み式ペダル1301にロック機構や折り畳み収納機構を設けて、排泄時以外には収納し誤操作する事を防止する構成としてもよい。また、足踏み式ペダル1301に代えて、手動レバー等を設けて手動レバー操作により座席109がポップアップする構成としてもよい。排泄支援車椅子1300は、足踏み式ペダル1301により座席を開放させることが可能なので、介護者の開口部生成に伴う体力的な負担を軽減する事が可能であると共に、安全に座席開放動作を行える。
【0098】
(第五の実施形態)
第五の実施形態で示す排泄支援車椅子1400は、第四の実施形態で示す排泄支援車椅子1300が備える足踏み機構に代えて、座席109を上方へ跳ね上げる弾性材1401を座席109の後方に備える。これにより、被介護者が起立等して臀部を浮かせれば、弾性材1401の弾性力により座席109が上方へと跳ね上げられ、開口部を生成可能である。
【0099】
排泄支援車椅子1400は開口部の生成に際し、何ら追加の操作を必要としないので、さらにユーザフレンドリーで座乗者が容易に移乗できる排泄支援車椅子とできる。なお座席109を跳ね上げる機構については、例えばコンサートホールや映画館等の座席に広く用いられる座席上昇機構を用いることとできるので、ここでは詳述を避ける。
【0100】
また、なお座席109を跳ね上げる機構については、図14に示す他にも、自重や弾性材の力を利用するものを適用してもよい。例えば、座席109の後方部分に背もたれ部分との接続軸を設けて、座乗者が臀部を浮かせると、背もたれ部分の自重により座席109が接続軸部分で下方に押し下げられ、この力を利用して座席109の座面が背もたれ面と重ね合わさるように沈み込むように開放する構成としてもよい。また、座乗者が臀部を浮かせると、座席109の座面裏側が背もたれ面と重なるように、座席109が後方に持ち上がる構成としてもよい。
【0101】
図14は、排泄支援車椅子1400の座席109が跳ね上がる様子を、被介護者の動作に対応させて例示する図である。図14(a)は、被介護者が排泄支援車椅子1400に座乗している状態を示す。また、図14(b)は、被介護者が介護者の支援を受けて起立し、被介護者が起立する間に座席109が上方に跳ね上がる状況を示す図である。また、図14(c)は、跳ね上げた座席109を背にして、被介護者が便座31に着座する様子を示す図である。
【0102】
なお、排泄支援車椅子1400の構成は、自明な範囲で適宜変更して用いることとできる。また、排泄支援車椅子1300と排泄支援車椅子1400とは、座席109をスライド移動させないので、キャスタ72,72aやベアリングスライドレール110等を備えなくてもよい。
【0103】
また、排泄支援車椅子100,700,1300,1400は、被介護者が各々座席109に着座する際、座席109が予期せぬスライド移動動作や跳ね上げ動作等をして座席109が不安定とならないように、座席ホールド部材を設けてもよい。座席ホールド部材は、例えば留め金や鍵等を用いたロック機構としてもよい。ロックを解除すれば、容易に座席109を開放できる構成とできる。
【0104】
(第六の実施形態)
図15に例示するのは、第六の実施形態にかかる排泄支援車椅子1500の斜視図である。排泄支援車椅子1500は、座席109が第一の座板1501と第二の座板1502とから構成されている。第一の座板1501と第二の座板1502とは、複数の蝶番1504で連結されており、座席109は蝶番1504部分で分割するように折り曲げ可能となっている。
【0105】
また、排泄支援車椅子1500は、座席109を保持する座席受け部1503を座席支持体113の上面に有する。座席受け部1503は、所望の剛性を有する第一の座板1501と第二の座板1502とをその辺縁部で受けて保持する。第一の座板1501と第二の座板1502とは、所望の剛性を有する板状部材から構成してもよいし、フレーム部分のみ所望の剛性を有してフレームに布等を張った部材により構成してもよい。
【0106】
図15に示すように、排泄支援車椅子1500は、座席109を座席後方に折りたたんで開口部を生成することができる。これにより、座乗者は、容易に排泄支援車椅子1500に嵌合された洋式便器の便座に移乗する事ができる。なお、排泄支援車椅子1500は、自明な範囲でその構成を変更して用いることができる。
【0107】
また、排泄支援車椅子1500の座席109に上述したロック機構を設けたり、足踏みペダル座席開放方式を適用したり、電動による座席開放方式を採用したりして、組み合わせて用いてもよい。また、排泄支援車椅子1500の座席109を構成する座板は、任意の構成枚数とすることができる。
【0108】
(第七の実施形態)
図16に例示するのは、第七の実施形態にかかる排泄支援車椅子1600の座席109近傍を示す図である。排泄支援車椅子1600は、座席109の座面の大部分が座席109の後方に配置される巻き取り部1601に巻き取られる事で開口部を生成する。
【0109】
座席109を開閉する際には、座席109に設けられた持ち手部1603を持って、座席109を引っ張り出すか巻き取り部1601に巻き取らせて収納する。従って、座席109は、布等の柔軟性のある巻き取り引き出し可能な部材で構成する。巻き取り部1601には、バネ等の弾性材が組み込まれており、常に巻き取り部1601への巻き取り力が発生している。このため、被介護者は、座面から臀部を浮かせて持ち手部1603を引き上げ、マジックテープ(登録商標)等の仮止め部材1602から座席109を開放すれば、座席109が自然と巻き取り部1601に巻き取られる事となる。
【0110】
また、巻き取り部1601の巻き取り構成や巻き取り機構は、ウィンドウスクリーンやブラインドシャッター等と同様の構成としてもよい。また、排泄支援車椅子1600は、電動により巻き取る事ができるように、電動モータを備えたり、手動により巻き取る事ができるように不図示の巻き取りハンドル等を設けてもよい。
【0111】
(第八の実施形態)
図17は、排泄支援車椅子100の変形例にかかる第八の実施形態を例示する図である。図17に示す排泄支援車椅子100は、図1で示す排泄支援車椅子100の肘置き部分と足置き部分とに、被介護者がさらに移乗し易くなる為の配慮が施されている。
【0112】
図17に示すように排泄支援車椅子100の肘置き部103は、被介護者が便座へ移乗するに際し、被介護者の上体前方部分に伸縮引き出し可能な第二の肘置き部1702を備える。第二の肘置き部1702は、通常走行時には肘置き部103の内部に収納されている。そして、被介護者が便座へ移乗する際には、第二の肘置き部1702は肘置き部103から引き出し延伸され、被介護者が引き出された第二の肘置き部1702に体重移動して臀部を浮かせ易くなるように支援する。
【0113】
これにより、被介護者は、介護者の支援を受け無くても自力で臀部を浮かせ易くなる。これにより、被介護者は、排泄支援車椅子100の座席109を開放して開口部を生成する間、起立しなくてもよく、第二の肘置き部1702に肘を付いて前方に体重移動して臀部を浮かせるだけでよいので、さらに移乗動作が容易となる。
【0114】
また、この排泄支援車椅子100は、第二の肘置き部1702の前端部に握り部1703が設けられ、前述する前方への体重移動に際し、被介護者のバランスが崩れないようにしっかりと握り部1703を握って、被介護者自身の体を支えることができる構成としている。
【0115】
また、足置き部107には、被介護者が前方に体重移動した際に排泄支援車椅子100が前傾したり不安定となる事を防止する前傾防止支持部1701を備える。被介護者は、足置き部107を展開して足置き部107の上に足を載置して、前述した前方への体重移動により臀部を浮かせることができる。このため、床面よりも高い位置に被介護者の足場を安定して形成できるので、より幅広い被介護者の状況に対応可能な排泄支援車椅子とできる。
【0116】
その他の構成は、図1に示す排泄支援車椅子100と同じであるので、ここでは説明を省略する。以上、説明してきた各排泄支援車椅子の構成は、各実施形態での例示に限定される事はなく、自明な範囲で適宜その構成を変更し、追加し、改良して用いることができる。
【0117】
また、これらの実施形態で例示する排泄支援車椅子は、洋式便器に嵌合させて使用する事ができるので、排泄設備内に洋式便器とは別途に車椅子の車止め設備や設置スペースや移乗補助バー等を確保したり設置したりしなくても足りる。従来、排泄設備に備えられていたこれらの補助設備等は、実施形態で例示した排泄支援車椅子自体がその代替機能等を備えるからである。
【0118】
このため、排泄設備の設置スペースや設置費用が少なくて済み、通常の排泄設備により近い排泄設備でありながら車椅子で利用できる排泄設備とできるので好ましい事となる。典型的には、通常の洋式便器を用いる排泄トイレに対し、排泄支援車椅子が後退走行入室できる程度の広さと、洋式便器周りに車椅子を便器に嵌合可能なスペースとを有するトイレであれば足りることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】第一の実施形態にかかる排泄支援車椅子の構造概要を示す斜視図である。
【図2】第一の実施形態にかかる排泄支援車椅子の座席近傍を詳細に示す斜視図である。
【図3】第一の実施形態にかかる排泄支援車椅子の座席が前方にスライド移動し、開口部を生成した状態を示す図である。
【図4】排泄支援車椅子を洋式便器に嵌合させた状態を示す上面図である。
【図5】座席が最前部へスライド移動した場合の側面概念図である。
【図6】座席を構成する座板の構成例を示す図である。
【図7】第二の実施形態にかかる排泄支援車椅子の構成概要を示す概念図である。
【図8】排泄支援車椅子のベアリングスライドレールとキャスタ周辺部概要を示す斜視図である。
【図9】第二の実施形態の排泄支援車椅子の座席を前方にスライド移動させた状態を示す鳥瞰図である。
【図10】排泄支援車椅子のベアリングスライドレールとキャスタ周辺部概要を示す鳥瞰図である。
【図11】キャスタが機能する様子を示す側面構成概要図である。
【図12】第三の実施形態にかかる排泄支援車椅子のキャスタ周辺の側面図である。
【図13】ゴミペール方式を用いて座席を後方に展開可能な排泄支援車椅子の図である。
【図14】排泄支援車椅子の座席が跳ね上がる様子を被介護者の動作に対応させて例示する図である。
【図15】第六の実施形態にかかる排泄支援車椅子の斜視図である。
【図16】第七の実施形態にかかる排泄支援車椅子の座席近傍を示す図である。
【図17】排泄支援車椅子の変形例にかかる第八の実施形態を示す図である。
【図18】排泄行為を行うことができる従来の車椅子を示す図である。
【符号の説明】
【0120】
21・・板状凸部、30・・洋式便器、31・・便座、51・・ベアリング板、61・・係合部、71・・嵩上げ部材、72・・キャスタ、100・・排泄支援車椅子、101・・グリップ、102・・補強部材、103・・肘置き部、104・・車輪、105・・前輪、106・・ブレーキレバー、107・・足置き部、108・・補強部材、109・・座席、109a・・座板、110・・ベアリングスライドレール、111・・ハンドリム、112・・支持部材、113・・座席支持体、114・・肘置き部支持体、115・・蝶番、120・・蝶番、180・・車椅子、181・・フレーム、182・・車輪、183・・ハンドリム、184・・前輪、187・・サポートシート、188・・バックレスト、189・・座席、190・・蓋、191・・サポートシート、192・・補強部材、193・・フットプレート、194・・グリップ、195・・車軸、196・・ガイド板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座席下部に洋式便器を嵌め込み可能な空間と、
嵌め込んだ前記洋式便器の便座に着座可能な開口部を生成するように開閉する座席と、
を備えることを特徴とする排泄支援車椅子。
【請求項2】
請求項1に記載の排泄支援車椅子において、
前記排泄支援車椅子は自走式車椅子であって、
前記座席は、前記排泄支援車椅子の前方方向に移動して前記開口部を生成するように、順次連接される複数の座板で構成され、
前記座板は、前記座板の略両端部において、前記排泄支援車椅子の座席支持体に移動可能なように係合される係合部を有する、
ことを特徴とする排泄支援車椅子。
【請求項3】
請求項2に記載の排泄支援車椅子において、
前記座板は、前記座席下部方向に前記座板の湾曲を抑制する板状凸部と、
前記座板の略両端部に前記排泄支援車椅子の座席支持体の上側と移動可動なように係合される係合部と、を有し、さらに
前記板状凸部は、前記係合部に前記座席支持体が嵌合する切り欠きを有し、
前記座板は、前記座板の長手方向が前記排泄支援車椅子の左右方向になるような配置で順次連接される、
ことを特徴とする排泄支援車椅子。
【請求項4】
請求項3に記載の排泄支援車椅子において、
前記排泄支援車椅子の座席支持体の上側にはベアリングスライドレールが配設されるとともに、
前記座板の係合部には前記ベアリングスライドレールに嵌合されるベアリングが配設される、
ことを特徴とする排泄支援車椅子。
【請求項5】
請求項4に記載の排泄支援車椅子において、
前記開口部が、少なくとも前記洋式便器の最前部が露出する開口部となるように、
前記ベアリングスライドレールは、前記排泄支援車椅子の座席支持体の上側略水平部から上側前方傾斜部に渉って配設される
ことを特徴とする排泄支援車椅子。
【請求項6】
請求項4に記載の排泄支援車椅子において、
前記ベアリングスライドレールは、前記排泄支援車椅子の座席支持体の上側略水平部に設けられ、
前記座席支持体の上側前方傾斜部に、前記座板が移動する際に摩擦抵抗を軽減するように座板を支持するキャスターが配設され、
移動する前記座板の最後部の座板は、前記開口部が少なくとも前記洋式便器の最前部が露出する開口部となるように、前記排泄支援車椅子の前方方向に折り畳み可能である
ことを特徴とする排泄支援車椅子。
【請求項7】
請求項1に記載の排泄支援車椅子において、
前記排泄支援車椅子は、前記座席の後方を支軸として、前記座席面が前記排泄支援車椅子の背もたれ面に略接する程度に前記座席を上方に開く事で、前記開口部を生成する
ことを特徴とする排泄支援車椅子。
【請求項8】
請求項1に記載の排泄支援車椅子において、
前記排泄支援車椅子は、複数の座板が折り畳み可能に連接された座席を備え、前記座席が後方に折り畳まれて前記開口部を生成する
ことを特徴とする排泄支援車椅子。
【請求項9】
請求項1に記載の排泄支援車椅子において、
前記排泄支援車椅子は、前記座席の後方に前記座席を巻き取り可能な巻き取り部を備え、
前記座席を前記巻き取り部に巻き取る事で、前記開口部を生成する
ことを特徴とする排泄支援車椅子。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の排泄支援車椅子において、
前記排泄支援車椅子は、前記開口部を生成する為に前記座席を開く際に、前記排泄支援車椅子の座乗者が一時的に体重移動して加重可能なように前記座乗者の上体の前方に展開可能であり、かつ座乗者が掴む握り部が展開収納可能に配設された肘置き部を備える
ことを特徴とする排泄支援車椅子。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の排泄支援車椅子において、
前記排泄支援車椅子は、前記開口部を生成する為に前記座席を開く際に、前記排泄支援車椅子が前傾する事を防止する為に、前記排泄支援車椅子が位置する床面に対して前記排泄支援車椅子を支える前傾防止支持部が配設された足置き部を備える
ことを特徴とする排泄支援車椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−172108(P2009−172108A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13129(P2008−13129)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)